公立大学協会総会(平成28年度)

 2016(平成28)年5月24日(火曜)、東京の学士会館で公立大学協会(以下、公大協)の定時総会が開かれた。公大協は戦後1949年に発足した大学団体で、現在、すべての公立大学学長を会員とする一般社団法人である。会員数は、今年度2校増えて88大学(長)となり、国立大学(法人)の86校を凌駕した。

 清原正義会長(兵庫県立大学長)は開会挨拶の冒頭で熊本地震の犠牲者への追悼を表し、5年前の東日本大震災以来、学生と協働する公大協の復興支援を進めるとした上で、「公立大学の質をいっそう高めることにより、国立・公立・私立からなる日本の高等教育及び世界の高等教育に貢献したい」と述べた。
 
 ついで常盤豊文部科学省高等教育局長、澤田史朗総務省自治財政局財務調査課長、黒岩祐治全国公立大学設置団体協議会会長(神奈川県知事、代読)から挨拶があり、昨年度の活動成果等を紹介、また国会の議論で高等教育に関する質問が多く出たのは知的基盤社会に向けての期待が大きいためとした。
 
 休憩後、2つの講演があった。
 
 塩見みづ枝文部科学省高等教育局大学振興課長「公立大学を巡る高等教育政策について」は、その冒頭でAI(人工知能)の発達により将来の職業(雇用)の形が大幅に変わる(多くの職業がなくなっていく)とする諸分析を引用し、大学教育の重点をどこに置くべきか、文科省の設置する諸委員会の答申と審議事項等を紹介した。主な3点を抄録する。

 第1が大学で身に着けるべき「学力の3要素」である。①既存の知識・技能の習得にとどまらず(その多くはAIで代替される)、②それを活用して課題を発見、解決に向けて探求し、その成果を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力、③主体性を持って多様な人々と協働する学習態度とされる。これは理想型であり、その実現に教職員と学生には時間が必要であろう。

 第2に、この大学教育の大転換を段階的に進めるため、各大学において3つのポリシーを策定し学生に明示することを義務づけたこと。カタカナ表記が気になるが、①アドミッション・ポリシー(入学者受入方針)、②カリキュラム・ポリシー(カリキュラムの編成・実施の方針)、③ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)である。これは学校教育法施行規則165条に追加され、一 卒業の認定に関する方針、二 教育課程の編成及び実施に関する方針、三 入学者の受入れに関する方針、とある(順番は逆)が、これの方が分かりやすい。

 第3が高大接続システム改革。新しい知的基盤社会を担う若者の教育は初等中等教育の段階から始める必要があるとし、高大接続(高校と大学の接続)が審議されている。具体的方策として、高等学校教育改革、大学教育改革、大学入学者選抜改革(入試制度改革)の3つ、その推進本部を率いるのが安西祐一郎さんで、当ブログ「ありがたき耳学問」(2016年5月24日)で触れた。

 講演の2つ目は、3年前に公大協に設置された「公立大学政策・評価研究センター」に関する浅田尚紀センター長による事業総括と提案である。事業総括は(1)公立大学の質保証をめぐる諸課題について外部評価の枠組みで行う大学評価ワークショップを計5大学で実施、(2)「先導的大学改革推進委託事業(文科省)」による調査研究の実施、(3)公立大学の質保証を担う教職員の「連携研究員」制度を創設、58大学の参加を得たとした上で、本年度から「政策」を委員会事項として切り離し、「改革支援」と「評価研究」の2つを行う「公立大学改革支援・評価研究センター」に改める提案を行った(のち事業計画として承認)。
 
 休憩をはさみ、新任学長13名と新任事務局長35名の紹介があった。学長任期は最長で6年、88大学長のうち13名が新任というのは平均値である。一方、事務局長は任期が短いため、新任が35名となるが、これも例年通りと言える。
 
 定時総会のため審議事項があり、重要なものとして次の5つが挙げられた。第1号:新会員入会、第2号:平成27年度事業報告及び決算、第3号:定款の改正、第4号:平成28年度事業計画及び収支予算、第5号:理事の選任。

 第1号の今年度新会員は、福知山公立大学(井口和起学長)と公立大学法人 山陽小野田市立 山口東京理科大学(森田廣学長)の2大学、拍手で迎えられた。これで公立大学は88校となった。
 第2号の「平成27年度 事業報告書」はA4×102ページにのぼる精緻かつ明快な編集で、(1)重点事業報告(8項目)、(2)実施事業一覧(日付順)、(3)実施事業等の結果(10項目)、(4)意見表明・要望活動等、(5)名簿等の事業報告と財務諸表による会計報告からなる。

 公大協活動を示す(1)と(3)、公大協の対外的活動を示す(4)、それらの活動を担う公立大学一覧、公大協の役員構成、第1~第3委員会等の構成が有機的に組み合わされており、事務局の努力の成果を示す。これにより次年度へ向けての事業計画(第4号)はいっそう明確になる。

 8項目の重点事業報告のうち、次の3つを特記したい。(1)「公立大学の力を活かした地域活性化研究会」(総務省、文部科学省、全国公立大学設置団体協議会、公大協)が2カ年にわたり行われ、平成28年1月に報告書がまとめられたこと、(2)東日本大震災の翌年に発足した学生ネットワークはLINKtoposとして発展、公大協として継続して支援にあたったこと、(3)平成23年度から始まった公大協主催「高等教育改革フォーラム」の今年のテーマ「公立大学の教育改革~先進的事例の報告」が好評を得たこと。

 本年度に入り、4月に熊本地震に対応する連絡チーム(近藤副会長が主査)を設置したこと、また5月に国公立大学振興議員連盟(河村建夫会長)が発足し、近藤倫明副会長が説明を行ったことの報告があった。

 審議事項の第3号:定款の改正は、一般社団法人公立大学協会の定款のうち①第10条を改正して理事数を13名から15名に増やし、②第11条を改正しての学長以外の理事を置くことを可能とし、③第41条を改正して業務執行理事を運営会議に加えることの3点である。主に下記「事業計画」の(1)に当たる。

 審議事項第4号「事業計画」では、次の3つを基本方針として掲げた。(1)公立大学政策の確立を目指して関係府省等に対し積極的に働きかける。(2)「公立大学改革支援・評価研究センター」により会員校の改革、質保証等を支援する。(3)公立大学協会の組織強化を図る。

 これら審議事項の5点がすべて承認された後、(定款上の規定に従い)総会を中断して理事会を開催、新たに業務執行に当たる専務理事に奥野武俊さん(前公大協会長、前大阪府立大学長)を選定、再開した総会で紹介された。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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