東日本大震災から5年

 私がブログを始めたのは5年前の3月12日、大震災の翌日、これが「都留文科大学学長ブログ」の第1号である。その前書きに、「この年、大学ホームページに<学長ブログ>欄が開設され、…原稿の準備をしているところに、未曾有の大震災が起きた。テーマも字数も未定、定期的な掲載がどうかも未定のまま始めた」とある。本文はごく短い。
 「3 月11 日午後2 時半すぎ、学長室が揺れ始め、次第に大きくなり、立っていられないほどになった。外では多数の教職員や学生たちが、揺れのつづく建物を不安げに見ている。高田副学長が小型のラジオを持ってきた。震源地は東北地方の太平洋沖、マグニチュード8(8・5 と言ったか。のち9 と修正)、巨大地震と聞こえる。
 構内では建物の倒壊などはなさそうだ。そこに相川総務課長が飛んできて、災対本部と臨時避難所を図書館に置きたいと言う。すぐに毛布や寝袋、懐中電灯や石油ストーブ、水や非常食など必要物資を各所から集めにかかった。春休みのため学生は多くなく、中期日程入試の採点に当たる教員をふくめ、最大時には約150 人が図書館に集まり、第二避難所(体育館等を想定)を置く必要はなかった。
 翌朝早く電気が復旧し、テレビをつける。巨大津波による廃墟の映像にただ息を飲む。日本列島地図の東海岸が割れるような映像にくぎ付けとなった。原子力発電所は大丈夫かとの思いが脳裏をかすめる。まさに古今未曾有の大災害である。」
 
 都留文大は全国から学生が集まり、山梨県内・都留市内の出身者は約1割に満たない。卒業後は郷里で小中高校の教員になる人の比率が他大学より高く、教え子たちに母校都留文大の良さを語り、その生徒たちが入学してくる伝統があり、東北3県の出身者が少なくない。
 学生たちは無事か、その家族や卒業生たちは無事か。非常時に大学は彼らを結ぶネットワークの中核になれないか。まず被災した東北3県の学生と家族の安否確認に着手、3月14日づけで大学ホームページに「学生のみなさんへ」を掲載(ブログにも転載)、また3月25日予定の「卒業式の中止」と彼らへの励ましの一文を載せると、すぐに卒業生から反応があった。
 「学生の安否確認」(4月4日掲載)では、18日に学生435人の無事を確認、石巻市の女子学生も22日に無事が確認された。陸前高田市の男子学生の消息は分からずと述べたが、のちに死亡が確認された。ついで被災した学生・保護者への学費支援の施策、大学からの情報提供、教職員の役割の明確化、現状の紹介等、そのつど、できる限りの手を尽くした。

 あれから5年、多くの新聞・雑誌・テレビ等が東日本大震災に関する特集を組んでいる。そのなかで「被災地に弁当宅配、投資家が支える」、「利益だけじゃない」の見出し(日本経済新聞 2016年2月29日朝刊)が目に入った。「愛さんさん宅食」(宮城県塩釜市)配達員の56歳女性と、弁当を受けとる多賀城市の83歳男性の、笑顔の写真がある。
 戦時中、国民学校(小学校)3年生であった私は、親元を離れた集団疎開で寂しさと空腹に耐え、戦後も食糧難を痛いほど味わった。そのため、生きる最後の砦は支えられる食事にあるという思いがある。
 弁当宅配会社(従業員50名)を立ち上げたのは若い小尾勝吉さん(37歳)。ボランティアとして訪れ、被災地の高齢者に弁当を届けたいと考えた。同時に、生きがいと収入が両立する「雇用」をいかに創出するかに腐心した。3年を経て「採算ラインに乗ってきた」という。
 活動を支えるのが堀義人さん(53歳)のファンドで、そのディレクター山中礼二さん(42歳)は「社会に与える前向きなインパクトと事業収益の両方を満たせると考えた」という。利益のみを追うベンチャー投資とも、見返りを求めない寄付金(で運営されるNPO等)とも違う、「社会的インパクト投資」である。
 この記事は「新産業創世記 難題に挑む」として、従来型とは異なる「新産業創生」を紹介する。日本にはまだなじみが薄いが、この「社会的インパクト投資」は2013年頃から世界で急速に拡大し、いま7兆円規模、3年後には57兆円と予測され、平均収益率はなんと年6.9%に達するという。「愛さんさん宅食」にも、さらなる成果をあげてほしい。
 政府や自治体が対処できる範囲には限りがあり、地元の要望とのギャップも少なくない。「社会的インパクト投資」は、ピンポイントで需要に対応する「革新的な方法」と言える。
 これが実効性を発揮するには、小口の個人投資家の参入が鍵である。それには新しい制度と、運営する人たちへの信頼の醸成が、なによりも重要であろう。 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
カテゴリ
QRコード
QR