三溪園の環境整備

 7月14日(火曜)、梅雨の晴れ間というより、一挙に夏が来たような熱波が襲来。三溪園の正門を入るや眼に飛び込んでくる三重塔は、まぶしい青空を背に悠然と立つ。右手の蓮池には今を盛りの原始蓮。見守るようにカツラ、エノキ、名残りの花を留めるネムノキ。芝刈り機の音が響く。剪定を終えたばかりのクロマツや藤棚は、すっきりした姿で本格的な夏を待つ。
 この日本庭園の美しい風景は、科学的・合理的な庭園整備計画に基づく、日々のたゆまぬ作業の賜物である。気を抜くと、たちまち荒れ果てる。荒れるのは植生ばかりでない。そのために、古建築・橋梁の維持や、崖の崩落、地滑り、火災等への対策と予防に万全の体制を組む。
 三溪園は、重要文化財の古建築10棟と横浜市指定有形文化財の古建築3棟を持つ。さらに2007(平成19)年、17ヘクタール余の広大な敷地全体が国指定名勝に指定された(特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準 名勝1(庭園)に依拠)。
 その理由として「近世以前の象徴主義から脱却した近代の自然主義に基づく風景式庭園として傑出した規模・構造・意匠を持ち、保存状態も良好で、学術上・芸術上・観賞上の価値はきわめて高い。また、当初の原富太郎(三溪)の構想どおり広く公開され、多数の来訪者に活用されている点も高く評価できる」とある(『月刊文化財』平成19年2月号)。
 「近代の自然主義に基づく風景式庭園」の規模・構造・意匠が傑出し、保存状況が良好、この「名勝三溪園を文化財として良好に維持・管理するための庭園整備計画および活用、その他必要な事項について審議を行う」ため、公益財団法人三溪園保勝会に2004(平成21)年、有識者等で構成される「名勝三溪園整備委員会」を置いた。
 委員構成は庭園2名、建築1名、植生1名、地盤工学1名、歴史1名、行政1名の計7名、今年度の委員は(敬称略)、庭園が尼﨑博正(京都造形芸術大学教授)と龍居竹之介(龍居庭園研究所長)、建築が大野敏(横浜国立大学教授、逝去された西和夫さんの後任)、植生が鈴木伸一(東京農業大学教授)、地盤工学が規矩大義(関東学院大学長)、歴史が高村直助(東京大学名誉教授)、行政が猪俣宏幸(横浜市文化観光局観光MICE振興部長)である。
 年2~3回の会議を開き、国・県・市の関係部署からオブザーバーが参加、同時に園内の現地確認を行っている。三溪園事務局は事業課の羽田雄一郎主事が担当、また事務局受託者として(株)環境事業計画研究所の吉村龍二所長、白雲邸倉保存修理の山手総合計画研究所の菅孝能代表取締役ほか、事業関係者が協力している。
 本年度の第1回整備委員会が、この日の午前、園内の鶴翔閣で開かれた。園長挨拶で、1200年の古都京都に対して、開港以来わずか160年弱の都市横浜、その成長を先導した生糸売込商の原家が作った三溪園の、「保存と活用」に資する指針を示していただきたい、とお願いした。
 互選により再任された尼﨑委員長は、挨拶で次のように述べた。
名勝とは、建築、庭園、美術工芸、その他を含む「総合(造形)芸術」である。一つ一つが強い個性を持っているなかで、三溪園は規模・構造・意匠・保存状況等で群を抜く。その価値ゆえに、横浜市の重要な観光資源である。その保存と公開活用には英知を集めて当たらなければならず、本委員会の力量が試される。委員各位の忌憚ない意見を頂戴したい。
 ついで保存整備事業資料(30ページ)に基づき(説明は主に羽田雄一郎主事)、 (1)平成26年度の事業報告、(2)平成27年度の事業計画・年次計画、(3)「名勝三溪園保存整備事業報告書」(別添の資料17ページ)の中間報告の3点をめぐり、報告と審議がなされた。
 平成26年度の事業報告は、①植栽整備工事、②大池中ノ島木橋整備、③南門崖面崩落対策、④白雲邸(横浜市指定有形文化財)の倉の保存工事、⑤三重塔北側火災報知器の移設、⑥文化財庭園保存技術者協議会の開催等である。①には大池北面のクロマツ林の剪定・除伐(本年3月)、白雲邸西側(山林部)・内庭の支障木の剪定・除伐、大池中ノ島の剪定が含まれる。
 審議後の現地確認では、①のうち大池北面のクロマツ林の剪定・除伐、ついで②の大池中ノ島木橋整備(完了)を確認し、最後に④白雲邸倉の保存工事(続行中)の細かい作業状況を確認、また尼﨑委員長から補修工事前の状態を一部残すこと(歴史の保存)の重要性等が指摘された。
 (2)平成27年度の事業計画・年次計画には、①植栽整備工事、②「名勝三溪園保存整備事業報告書」の完成、③春草廬(重文)保存修理、④耐震診断に伴う地盤調査、⑤重文10件の保存修理計画の策定が含まれる。
 (3)「名勝三溪園保存整備事業報告書」は着手2年目に入り、3年計画の中間年の報告がなされた。第3章「保存管理計画」のうち第6節「想定される課題」と第7節「保存管理方針と現状変更等の取扱い」に関する部分である。関連して、委員会資料等の文書記録保存の重要性が指摘された。
 多方面にわたり報告と熱心な審議がなされた。司令塔たる本整備委員会の審議結果を執行に移して、はじめて「名勝三溪園を文化財として良好に維持・管理するための庭園整備計画および活用」が実現を見る。
 外からは見えにくいが、名勝三溪園の保存と活用にかける委員と三溪園職員の熱意、それに相互の協働と強い信頼関係をご理解いただければ幸いである。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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