中国語訳『東亜近代史』

 刷り上がったばかりの加藤祐三著・蒋豊訳『東亜近代史』(東方出版社、北京、2015年7月、226ページ)が届いた。同社の<学而>叢書の1冊である(<学而>は論語の学而時習之=学びて時にこれを習う=からとる)。同社総編集の許剣秋さんと責任編集の袁園さん、それに『日本月刊』社社長の呉暁楽さん達のご尽力の賜物である。
 表紙に重厚な墨筆で「東亜近代史」とあり、江戸時代初期の絵師・羽川藤永による「日本橋を通る朝鮮通信使」の図を配している。
 帯には、「歴史学者加藤祐三は言う。近代は抗争と競争が支配した荒々しい時代である。日本は時間差を利用し、列強に翻弄された中国の道を回避して自ら軍事帝国の一員となった。日本は中国の優れた文化を学ぶと同時に、中国の失敗から教訓をくみ取った。日本の聡明さはここにある」とある。
 同じ蒋豊訳で『東亜的近代』(『加藤祐三史学著作選之二』)が中国社会科学出版社(北京)から出たのは1992年である。出版社、訳書名、装丁を一新し、再版されたのが本書である。
 裏表紙の一文に次のようにある。
 「近代という時代は、富も人口も一挙に増加した、激しい変革の時代である。時間のテンポも速まり、世界各地で戦争と革命が起こり、<弱肉強食>の抗争と競争が支配した。列強が東アジアに侵入した時期、なぜ日本は実力を蓄え、中国は虐げられたのか。本書は歴史過程を客観的に叙述しつつ、日本の動きを直視し、多くの歴史の疑問に答えてくれる」。
 本書の原版は『東アジアの近代』(講談社 1985年12月)である。「ビジュアル版世界の歴史」シリーズ全20巻の中の第17巻で、ビジュアル版と銘打つ通り、多数の歴史図像を掲載する日本初の歴史シリーズであった。
 また「世界の歴史」シリーズと「日本の歴史」シリーズは別物とされる日本の出版界の常識のなかで、本書は「東アジアの近代」とし、東アジア(日本・中国・朝鮮)の各国近代史と相互の関係並びに欧米諸国との関係を重視した。
 構成は、第1章「世界商品と交通革命」、第2章「外圧と抵抗」、第3章「富強と独立の模索」、第4章「戦争と革命」、第5章「民族解放と共存」の5章で、それぞれの主題と時代の特性を掲げ、時間を追って叙述している。
 思い返せば、図像資料の収集が前例のない大仕事で、最大の難事であった。約800点を集め、うち約500点を使った。本訳書では、カラーグラビアと不鮮明なものを除き、図像類は各ページの上部に配している。
 今回の再版にあたって、蒋さんが「再版序言」を、私が「再版后記」を書いた。これは同社刊の1冊目の再版、加藤祐三著・蒋豊訳『黒船異変-日本開国小史』(2014年12月、191ページ)と同じ形式である。
 蒋さんは押しも押されもしない知日派のジャーナリストで、「日本新華僑報」(中国語版)と「人民日報海外版<日本月刊>(日本語版)」の編集長、また中国中央テレビ等の特約評論員を兼ね、2013年から北京大学客員教授も務める。彼との出会い等については、本ブログの「『日本月刊』創刊3周年祝賀会」(2014年12月2日)等を参照されたい。
 蒋さんは「再版序言」で自身の略歴を語り、1990年に私と出会ったこと、そして拙著を4冊、中国語に訳出・出版したこと等の思い出を記し、最後に現役のジャーナリストらしく、<アジアの世紀>の到来を予測し、5つの論点を挙げて見解を述べる。
 一方、私の「再版后記」は、本書に収録した図像類の解説を主とした。木版画には彩色物もあり、なかでも日本の浮世絵は抜群の芸術性を誇る。事件の報道を意図したものではないが、時代の一断面を切り取り、報道写真に並ぶ時代性を合わせ持つ。幕末にはモノクロの瓦版が登場するが、不定期の号外のようなものである。
 定期刊行の報道図像に木版画や銅版画が登場するのは、1842年5月14日創刊の”Illustrated London News”紙(『絵入りロンドンニュース』)。創刊号は全12ページで、32枚の版画を掲載、外電関係の映像も含む。
 アヘン戦争の終盤(南京条約締結は1842年8月29日)にかけては、イギリス派遣軍の主力となるセポイ(植民地インド軍の主力となるインド人兵士)の風俗や衣装、中国各港の要塞や海戦の様子等も掲載している。従軍カメラマンならぬ従軍画家(絵師)が描き、本社で版画にして掲載したため、事件と掲載日には約1か月半の時差があった。
 ついでアメリカの”Harpers’Monthly Magazine”誌(1850年6月創刊)が誕生、最盛期を迎えたアメリカ捕鯨業の実態を、版画等を多用して伝えた。ちなみに捕鯨業の保護は、ペリー派遣の1つの重要な要因である。
 近代は新聞・雑誌類に掲載される図像資料が生まれる時期にあり、本書には「見えない歴史が見える」とする「ビジュアル版」の特徴を示す、多様な図像類を収載することができた。
 原著は絶版となったが、訳書が中国で再版された。感無量である。
 
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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