三溪園の活動 この一年

 三溪園の活動をお伝えしたい。三溪園の行事等をそのつど断片的には本ブログで取り上げてきたが、これは昨年度一年間の総括的な報告である。
 三溪園を運営するのは、公益財団法人三溪園保勝会である。法及び定款に従い、年度末3月の理事会及び評議員会で次年度の事業計画と収支予算を審議して承認、6月は前年度の事業報告と決算報告(及び理事・評議員・監事の選任)を審議して承認する。今年は6月10日に理事会、26日に評議員会を開催、昨年度の事業報告が承認されたので、それを抜粋する形で進めたい。
 吉川利一事業課長による事業報告(案)の説明は、冒頭に三溪園事業の基本理念を掲げる。「三溪園は、明治39(1906)年に実業家・原三溪が自然や文化財は共有財であるという考えに基づき、自邸を広く一般公開したことにはじまります。三溪が庭園、そして蒐集した歴史的建造物や美術品を公開したことにより、結果として三溪園は単に行楽の地にとどまらず、日本文化の保護や育成・啓蒙、そして新たな文化の醸成を生むことにもつながりました。」
 「本財団では、三溪の遺志、そして三溪園が果たしたこうした役割を受け継ぎ、定款に次のような目的を掲げ、事業を実施しています。<国民共有の文化遺産である重要文化財建造物等及び名勝庭園の保存・活用を通して、歴史及び文化の継承とその発展を図り、潤いある地域社会づくりに寄与するとともに、日本の文化を世界に発信する>(公益財団法人三溪園保勝会 定款 第3条)。<この法人は、前条の目的を達成するため、…公益目的事業を行う。…この法人は、公益目的事業の推進に資するため、…収益事業等を行う。>(同第4条)」
 上掲の定款第3条を箇条書きにして改めて反復すると、①歴史及び文化の継承とその発展、②潤いある地域社会づくり、③日本文化の世界への発信、となる。とりわけ目的③を堂々と高らかに掲げたことに瞠目すると同時に、その実現は容易ではないと日々痛感している。
 こうした基本理念に基づいて具体的な事業が行われる。定款第4条の通り、公益目的事業とその推進に資するための収益事業等の2本立てであるが、前者(公益目的事業)の7項目のうち以下の3項目に限って報告したい。
 公益目的事業の「1 庭園および歴史的建造物の公開と、それを活用した日本の伝統・文化の紹介」の(1)入園者の状況は、入園者総数422,476人、前年度比111.2%とある。東日本大震災後、どん底に落ち込んだ年に園長に就任した私には、この数字はなんとも嬉しい。内訳として外国人が前年度比116.2%増であるが、少子化の影響もあろう、こども(小学生)は100.8%の微増にとどまる。
 (2)催事の開催は「来園の動機を作り、また施設自体や日本の伝統文化、季節感に触れ、親しんでいただくことを目的として、年間を通して様々な催事を開催…本年度も、各種市民団体や周辺地域、ボランティア、作家、横浜市等と連携・協力し、三溪園単独では成しえない魅力の創出、誘客・集客効果を生むことができた」が、とりわけ全市内小学生への<夏休みこどもパスポート>配布や、ザリガニ釣り、初心者向け茶道講座、合掌造りペーパークラフト作り、瓦の拓本作りなど親しみやすい「体験型の企画」を夏休み期間に繰り返し足を運べるように用意し、将来の利用に向けて若い世代への周知に取り組んだ。
 公益目的事業の「2 庭園および歴史的建造物の維持管理」は、定款第3条の「国民共有の文化遺産である重要文化財建造物等及び名勝庭園の保存」に該当する。保存なくして活用はない。そのため専門家にお願いして「名勝三溪園整備委員会」を開催、その助言と指導のもと年次計画に沿って整備を進めている。
 具体的には(1) 17.5ヘクタールと広大な面積を誇る庭園の整備は、植栽の整備、崖面崩落対策工事、台風被害による園路復旧整備、日常的環境の整備ときわめて多方面にわたる。(2) 歴史的建造物の修理は、横浜市指定有形文化財・白雲邸倉の改修、横浜市指定有形文化財・鶴翔閣屋根の部分葺き替え、重要文化財 臨春閣2階勾欄の擬宝珠と雨戸の敷居、蓮華院の雨戸、その他の小破損を修理、害獣ハクビシンの侵入による被害の処理および防止対策の措置等に及ぶ。
 これらの経常的な措置は必要不可欠であるが、三溪園の有する重要文化財等の歴史的建造物は、30~40年周期の改修時期に当たるものが多く、その必要経費は通常の経常費等で賄いきれる額をはるかに超える。何らかの工夫がなされなければ、「庭園および歴史的建造物の維持管理」自体が立ち行かなくなる。
 ついで公益目的事業の「3 原三溪および三溪園に関する美術品、資料等の収集、保存および活用」のうち「(1)展覧会開催」としては、三溪自筆の書画やゆかりの作家作品から所蔵する作品を、その時どきのテーマに合わせて展示(常設展示、所蔵品展)するほか、企画展「エバレット・ブラウン湿板光画展―三溪園をめぐる」、「高円宮妃殿下写真展<鳥たちの煌き>」を開催した。
 (2)美術品、資料等の収集・保存、活用は、(ア)寄贈・寄託品の受入、(イ)所蔵品の貸出(三溪の故郷・岐阜市歴史博物館特別展へ約40件、松永記念館での松永耳庵旧蔵の三溪自筆書画里帰り展へ約20件等)、(ウ)三溪記念館の保守、所蔵品の保存・修理、(エ)所蔵品の保存・修理と多岐にわたる。
 評議員会の終了後、嬉しい報告があった。“tripadvisor”という旅行者による口コミを紹介するアメリカのサイトの運営会社から「エクセレンス認証 2015年受賞」の通知が届き、「利用者により業界で優良の施設の一つとみなされた」という。世界の旅行者が三溪園を高く評価している。
 たまたまこの日の晩、BS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」(山田五郎ほか)の三溪園特集が放映された。臨春閣、三重塔、合掌造り、旧東慶寺仏殿、三溪記念館、聴秋閣等を紹介、吉川事業課長と清水緑学芸員が案内役を見事に果たしてくれた。これでまた三溪園は人を呼ぶであろう。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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