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大学教員の仕事

 長く大学勤めをしてきた。1966年に東京大学東洋文化研究所の助手になり、横浜市立大学を定年退職する2002年までが36年、それに都留文科大学学長の4年間(2011~2015年)を加えると、大学勤務は40年になる。

 75歳になったとき、大学教員の仕事を一般化して整理したことがある。本ブログ右欄のリンクにある「(都留文科大学)学長ブログ 2011~2015」の18「大学教員の4つの仕事」(2011年8月18日)で、大学教員の仕事は大別すると、<教育>、<研究>、<社会貢献>、<学務>の4つであると述べた。

 それから7年、大学の行く末を想いつつ、改めて整理しておきたい。大学関係者以外の方に大学教員の仕事を知っていただきたいという思いがあると同時に、大学は教員・職員・学生の3者で構成される組織であるため、職員や学生にも知って欲しい。そして何よりも全国18万人の大学専任教員の、さらなる深化の一助になればと願っている。

 大学教員の4つの仕事とは、<教育>が知(知識+知恵)の<継承>にあたり、<研究>が知の<創造>、<社会貢献>が知の<普及>である。これら3つの仕事を遂行する役割が<学務>にほかならない。具体的には、それぞれに5項目、合計して20項目になる。

 第一の<教育>には、①入試(出題・採点等)、②授業(講義)、③少人数のゼミ、④4年生向けの卒業論文指導、そして⑤大学院生に対する修士論文と博士論文の指導があり、通常はゼミ形式を採ることが多いが、個別指導が別途必要になることもある。例えば「○年日記」のような形式を使うと、年ごとの更新過程を明らかにでき、改善に資するであろう。

 第二の<研究>は、自分の専門領域の課題を煮つめる作業である。私の専門の歴史学の場合は、①過去の研究の精査、②自分の課題の設定、それに伴う③史料収集、これらに圧倒的な時間をかける。ついで④論考執筆に入り、⑤推敲を重ねて発表にいたる。論文は400字×40枚~60枚=16,000字~24,000字(日本語)程度のものが多いが、著書の場合は400字×200枚=8万字(新書クラスの平均)から400字×700枚=28万字程度までが一般的であろう。

 ちなみに実験を必須とする分野では、グループで長時間の実験・観察を行う。それ自体が教員の<研究>であると同時に、分担を決めて実験を進めることが学生にたいする<教育>でもある。

 初等・中等教育とは異なり、大学の<教育>は<研究>(先行研究)を踏まえつつ、あくまでも自己の<研究>に基き、その責任において実施される。この自覚は不可欠である。

 <社会貢献>とは、ここでは<地域貢献>や附属病院の医療行為を含む、自己の<研究>成果を広く学外へ伝える行為である。①各種の講演、②研究成果の公刊や新聞・雑誌への執筆、③テレビ・ラジオの出演、④学会の委員や政府・自治体等の審議会委員、⑤医師・看護師・薬剤師等による医療行為。

 そして<学務>とは、大学内にある①各種委員会(入試・教務・学生・人権・紀要・将来構想・計画等の各委員会)、②学科会議、③学部の教授会、④大学院の研究科委員会、⑤全学の委員会や学生の部活の部長・顧問等の活動である。大学が自治組織である以上、それを構成する各単位は運営のために将来構想・計画・点検を含め、自ら絶えず点検練磨しなければならない。

 多くの委員会はルーティンをこなすものであるが、そのルーティンは時代の要請に応えて絶えず見直す必要がある。そのための委員会が学部ごとの将来計画委員会であり、全学の将来構想委員会である(名称は各大学で異なる)。組織の将来像を描くのは難しいとはいえ、これなくして前進はない。大学改革の大きな波は、これまで十年ないし数十年の単位で押し寄せ、その度に、これらの委員会が大きな役割を担った。

 今後も大波はやってくる。現在、760余の日本の大学の多くが、さまざまな面で危機状態にあると言わざるを得ない。<教育>、<研究>、<社会貢献>が十分に機能するには、新たな大学改革が必要であり、そのとき<学務>に大きな役割が求められる。

 これら大学教員の4つの仕事は、必ずしも勤務時間や大学という場所に制約されないものも含む。資料を求めて学外の図書館・文書館へ通い、フィールドワークに出かけ、講演に赴き、あるいは在宅勤務(自宅研修)に勤しむ。外からはかなり暇な職業と思われることもある。最近になって「裁量労働制」という勤務形態が知られるようになり、世間の理解は進んでいるようだが、なお多くの課題が山積している。

 私自身の経験では、学部教授会や将来構想委員会等を通じて、多くの優れた教員と知り合う機会に恵まれた。東洋近代史の私が日本史・西洋史・国際関係史の教員から多くを学び、それは文学・哲学・法学・経済学等の教員、さらに理系の物理・化学・生物や医学系の臨床・基礎の教員へと拡がり、望外の学問的刺激を受けた。これは大学教員の特権である。大学だからこそ多分野の発想に出会えた。今につづく深い人間関係もあり、感謝は尽きない。

 その一方で、上掲の総計20項目にわたる仕事は、相当の重労働であり、すべてを同時平行で行うことはほとんど不可能である。個々の教員で事情は異なるが、組織(学部・学科等)の一員として役割分担や協調も必要となる。前掲「大学教員の4つの仕事」のなかで、次の提案をした。

 …外国研究には外国訪問が不可欠となる。…研究の着想は必ずしも机上では生まれない。電車や風呂のなかでひらめくこともあり、対話や散歩の過程で解き明かすこともある。ひとたび研究活動に入れば徹夜に及ぶこともしばしばで、この点では不定期の24時間勤務であり、季節変動も無視できない。
 多忙な日々に追われ、教員たちが自身の将来計画を見失っては大変である。現在もさまざまな工夫がこらされているが、これを一歩すすめて、各教員が2 年単位で6~7年先まで(研究専念期間をふくむ)を見越した4つの仕事の配分計画を作り、平均すると4 分の1 ずつの比重を時には変更し、例えば教育の比重を高める傾斜配分案(7:1:1:1)や学務に重点を置く配分案(1:1:1:7)等を作った上で、同僚たちと調整するのも一案であろう。メリハリがつくように思う。

 学科長、学部長、研究科長等に就くと、<学務>の比率が一挙に拡大する。学科間の調整や各種委員会との調整が不可避で、多分野の教員や、大学の仕組み、運営の妙を知る好機となるものの、そのために長い時間と労力を要する。

 さらに学長・副学長であれば、全学の実態を把握し、大学の進むべき方向に指導力を発揮する必要がある。それにとどまらず、学外との折衝(議会や役所の関係部局等)や、学外への独自性のアピールも必要となる。たとえば公立大学協会(公立大学長で構成する団体)における役割や国公私立大学共通の審査委員会委員、大学間交流協定(海外を含む)の代表等である。そこで生じる疲労や苛立ちに挫けてはならない。自己管理が勝敗を分ける。

 こうした任務の遂行には大切な舞台裏があり、表舞台の活動は舞台裏いかんで決まるとも言える。家族等の強い支え、堅固なロジスティックスなくして責務は完遂できない。個々の教員により多様で一般化はできないが、多くの助力を得てという点では、誰にも共通するのではないか。

 限られた経験に基づいて大学教員の4つの仕事について述べてきたが、もとよりこれは一つの事例にすぎない。大学と日本の将来に希望を託し、現在の大学が抱える問題点とその是正の必要性を3点に限り挙げておきたい。
(1) 若手教員任期制を廃止し、彼らの中長期にわたる研究計画の評価制度を確立すること。
(2) 批判を回避するため小さくまとめようとする論文作成の傾向を改め、中長期の展望に立つ思考の重要性を示すこと。
(3) 教員個々人の領域に引きこもらず、分野・職種・年齢等の異なる大学構成員(教員・職員・学生)との自由闊達な意見交換により、大学本来の役割である知(知識+知恵)の創造・継承・普及に寄与すること。

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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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