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タケの開花(その5)

 今年も三溪園のオロシマササが咲いた。4月4日の朝、驚きの朗報が庭園担当の羽田雄一郎主事から入る。

 今春の陽気は例年と異なるようだ。ソメイヨシノの開花と満開が例年より10日も早く、3月下旬には散ってしまった。4月4日には最高気温26℃と夏日を記録する一方、北海道では雪が降った。異常気象が三溪園の植物にも影響するだろうとは思っていたが、それが「タケの開花」とは。もとより、これが異常気象のせいとは言い切れないが。

 確認のため本ブログの昨年分を調べる。三溪園のオロシマササとタイミンチクの開花の第一報は5月5日、坂智広(ばん ともひろ、横浜市立大学木原生物学研究所教授)さんから来た。つづけて彼の5月14日、18日付けメールには花が大幅に増えたとあり、25日には岡山から駆け付けた村松幹夫岡山大学名誉教授、木原生物学研究所の木原ゆり子さん、坂さんとともに花を観た。村松さんは日本育種学会(3月29日)で坂さんに「タケの花」の不思議を語った方で、坂さんの旧木原生物学研究所(京都時代)の大先輩である。

 6月1日掲載のブログ「タケの開花」(その2)」に、坂さんの観察記録を引用した。
「…タイミンチクの花は、すっと伸びた花穂の先端に雌しべが包まれ、それを取り囲むように雄しべ(その葯は数ミリ)3個が垂れ下がっている。開花は、同じ株の各所に、そして他の株へと確実に拡がっていたが、村松さんによれば、これが<一斉開花>の前兆なのか、それとも<部分開花>なのかを確定するには、さらに2~3週間の観察を待つ必要があるとのことである。…タケの開花は60年、90年、120年と長い周期で1度だけ起きるとされるが事例報告は多くなく、周期の年限をめぐっても確実なデータはごく少なく…現象を的確に観察して記録に残すことが重要である。」

 ついで6月8日掲載のブログ(その3)では「一斉開花」と「部分開花」の区別、タケ(学術用語でbamboo表記)とササ(学術用語でsasaと表記)の区別等に触れ、23日のブログ(その4)では長い周期で1回咲き、開花後は死滅するか否かの議論等を紹介した。

 この開花は、5月31日の毎日新聞、6月3日の朝日新聞、7日の神奈川新聞、そしてテレビでも取り上げられ、話題となった。

 そして今春、ふたたびの開花。しかも一ヵ月も早い。すぐにメールで坂さんに現場観察を依頼する。さっそく4月5日の昼、坂さんが状況を知らせてくれた。管理事務所前のオロシマササについては、「数カ所で部分的に稈が伸びて出穂開花…、また垣根の後ろには昨年よりも数は少ないが、昨年同様に地下茎で伸びた新枝が地面か出ており、10cmくらいの高さで穂をつけて開花…」
また三重塔のある丘の上のタイミンチクは、「昨年開花していた多くの株の付近で、10箇所ほど出穂開花を認め、…今日出穂開花を認めた稈も、古い稈の節から分枝して出穂しているものか、地下茎をたどった先端で新梢として株立ちしているものが出穂している状況です。イメージとしては、オロシマササと同じように、昨年の咲き残りの稈が出穂開花している状況…」とある。

 4月9日、現場で坂さんから花の生育段階や開花の場所、花を持つ部位等の説明を聞く。花は若緑色の鞘に黄色い3つの雄しべを付け、ひっそりと咲いていた。先折れした2年目の稈の直下の節や、地下茎の先端から地面に顔を出した新梢に穂がついているのも見た。

 この貴重な情報を分かち合いたい。まず三溪園のホームページで羽田さんが公表することにする。翌10日号の「三溪園だより」欄に「今年も咲きました」の標題で、2枚の可憐な花の写真と解説文が載った。

 「昨年の5~6月頃、約90年ぶりの開花といわれる話題で沸いた三溪園の竹の花が今年も開花しました。2月上旬ころから開花し始め、3月下旬ころより花数が増えてきました。画像1枚目がタイミンチクの花、2枚目がオロシマササの花です。4月9日17時頃撮影」。

 11日には坂さんから「三溪園の竹の花 観察記録(1)」と題する論考が届いた。その一部を引用する。「…イネ科タケ亜科メダケ属(Pleioblastus)に分類される、オロシマチクとタイミンチクが、どれくらいの開花周期で、開花後にどうなるのか?は全く分かっていません。これまでにしっかり観察した人が、世界のどこにもいないからです。…三渓園の歴史とともに謎をとく、科学的に大変貴重なフィールド実験です。…植物が花をつけるのは、一生のうちで最も大きなイベントです。…初めは見つけるのが難しいかもしれません。…雄しべの数が何本なのか?雌しべがどんな形なのか?花粉はどうやって飛んでいくのか?などなど、みなさんも新しい凄い発見を楽しんでください」。

 この坂さんの論考の要約を付して、「今年も咲いた“竹の花”」と題する記者発表資料を作成し、12日午後、吉川利一事業課長名で公表した。これから新聞・テレビ等の報道がつづくと見られる。

 生涯に一度、出会えるかどうかというタケの花を見に来園する方が、今年はさらに増えるのではないか。

 本ブログでも適宜、この稀有な花の推移を追っていきたい。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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