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人文知による情報と知の体系化

 人間文化研究機構と情報・システム研究機構の合同シンポジウム「人文知による情報と知の体系化-異分野融合で何をつくるか」が2008年2月26日(月曜)午後1時半から、一橋大学一橋講堂(学術総合センター内)で開かれた。難しそうなテーマだが、前々からきわめて重要なテーマだと思っていた。

 主催団体の人間文化研究機構(6つの研究所・博物館等を持つ)と情報・システム研究機構(4つの研究所と1つの基盤施設を持つ)とは、国立大学法人法の設置する大学共同利用機関法人に属し、国公私立の大学が利用できる。全部で4つの機構から成り、上掲の2つに加え、自然科学研究機構(国立天文台と4つの研究所)、高エネルギー加速器研究機構(2つの研究所)がある。

 大学は教育・研究・社会貢献の3つの役割を持つ(本ブログのリンク「都留文科大学学長ブログ」の009「大学の役割」2011年5月9日を参照、以下の引用では「学長ブログ」と略称)。これに対して、これら4つの機構は、名前が示すように研究を本務とし、データベース等を作成して公開する社会貢献を行うと定義して良かろう。教育は総合研究大学院大学(博士課程のみ)であり、若い学部生と日常的に接する機会は少なく、ゼミ学生もいない。

 今回の案内には、「二つの機構による共同研究に基づき、本年度は連携・協力推進にかんする協定を締結、さらに新たな知の創造、異分野融合の促進、新領域の創出を推進していく」とあり、このシンポジウムの開催趣旨を「…文と理にまたがる多様な分野で、興味深い、先進的な研究に取り組んでいることを実感していただきたい」と述べる。

 最初が立本成文(人間文化研究機構機構長)の基調講演「人文知から見た文理融合」である。この3月に退任される立本さん(1940年~)の「最終講義」とも言える。わずか40分間のなかにエッセンスを込め、聴き手に分かるよう、最初に「三大話」と言いつつ、3章9節の目次をスクリーンに映し出して話を進めた。私のメモに基づき一覧したのが下記、ここに主張の強調点が見られる。

 1章「文と理」は、(1)「文理とサイエンス」、(2)「文理は分離できない、百学連環」、(3)「二つの文化論と二元論的発想」

 2章「人文知-二項対立から融合へ」は、(1)「客観的知識と主観的知識」、(2)「科学革命(19世紀後半)で失われたもの、いのち(からだ・こころ・ことばのはたらき)、(3)「総合性の復権」。

 3章「文理融合の方法」は、(1)「総合的に捉まえる最近の考え方(ITによるビッグデータの統合等)」、(2)人間文化研究機構のビジョン、(3)「実事求是(事実判断と価値判断)と科学者の道義的責任、人間らしさの復権」。

 いくつも共感できる点があるが、なかでも1章(2)の西周の「百学連環」と2章(2)の「科学革命で失われた、いのち(からだ・こころ・ことばのはたらき)」が心に残る。まとめの段階で、ゲージ理論の草分け、数学・物理・哲学等に通暁、深い思索を展開したH・ワイル(1885~1955年)「プリンストン大学創立200周年記念講演(1946年)」(岡村浩訳『精神と自然』(1946年、ちくま学芸文庫、2014年所収)を引き、科学における人間らしさの復権を結びとした。

 立本さんとは、6年前に山梨県富士吉田市で開かれたセミナー「第2 回の地球研地域連携セミナー「分かち合う豊かさ 地域のなかのコモンズ」で初めてお会いした(「学長ブログ」067「2つの研究セミナー」2012年10月19日号)。当時、立本さんは総合地球環境学研究所(略称が地球研)所長であり、私は都留文科大学長として地域の縁から出席、その後もお会いする機会を得た。

 立本さんは京都大学文学部哲学科を卒業、大学院で社会学を専攻、京都大学東南アジア研究センターで長らく研究に携わった。『東南アジアの組織原理』(勁草書房、1989年、旧姓の前田成文)、『共生のシステムを求めて』(弘文堂、2001年)等の名著で知られる。
 研究者にとどまらず、1998~2002年、京都大学東南アジア研究センター所長、2007年より総合地球環境学研究所所長、2014年から人間文化研究機構長として、人文知の推進・発展のための組織的牽引役を果たした。その一つが3章(2)、組織の将来ビジョンを描いたものである。

 つづいて3つの事例紹介があった。
 事例紹介1 斎藤成也(国立遺伝学研究所教授)「ヒトゲノム情報の革命がもたらした日本列島人史研究の新展開」。『ゲノム進化学入門』(共立出版 2007年)等のほか、一般書・啓蒙書も多い。『DNAから見た日本人』(ちくま新書 2005年)、『日本列島人の歴史』(岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ) 2015年)等に見られるように、ゲノム分析と日本列島人の歴史を結合し、新しい世界を切り開く。

 事例紹介2 木部暢子(国立国語学研究所教授)「言語調査における連携・協力~八丈島・岡崎市・鶴岡市などの調査から~」。『そうだったんだ日本語 じゃっで方言なおもしとか』(岩波書店 2013年)、『方言学入門』(共著 三省堂 2013年)に見られるように、日本語の方言研究、なかでもアクセントや音韻に特色のある九州西南部の方言を中心に研究しており、統計数理研究所との共同研究は不可欠と言う。

 事例紹介3 片岡龍峰(国立極地研究所准教授)「オーロラと人間社会の過去・現在・未来」。『オーロラ!』 (岩波科学ライブラリー、2015年)、『宇宙災害-太陽と共に生きるということ』 (DOJIN選書 2016年) 等を基盤として、オーロラ研究と古記録、『明月記』等の文学を結合して研究を進めている。100年~1000年単位で起きる大規模オーロラと磁気嵐を調べる楽しさはもとより、今後のオーロラ災害(誘導電流による停電等)への対処にも役立つ、と結ぶ。

 パネルディスカッションは、藤井良一(情報・システム研究機構機構長)と上掲3名の事例報告者の計4名、司会は佐藤洋一郎(人間文化研究機構理事)。司会の巧みな誘導で、パネラーの幼少期の経験がどう現在の問題発展につながったかも聞けた。異分野の共同研究に関心を持つ人はまだ少ないと若手が発言すると、藤井機構長が未来志向のプログラムを提案してほしいと述べる。

 5時過ぎまで「知の弾丸を楽しく浴び」、豊かな気持ちで会場を後にした。基調講演、3つの事例報告、パネルディスカッションと、すべてが定刻に始まり定刻に終わった。組織的に動く登壇者と裏方に驚かされる。なお各位の報告に関する主要項目や図、関係文献等、短いペーパーがあれば、さらに有難い。

 このシンポジウムの次の企画と新人の登場を心より期待したい。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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