タケの開花(その2)

 三溪園のタイミンチク開花報告の続き(その2)である。前回報告から1週間後の5月25日、村松幹夫さん(岡山大学名誉教授)が、木原ゆり子さん(木原生物学研究所創設の木原均博士の三女)、坂智広さんと一緒に来園された。ちょうど「蛍の夕べ」(5月22日~6月2日)や記念館内で所蔵品展「五月雨る―さみだる」「水の色」(5月25日~7月4日)など特別行事の開催中である。
 移動しつつ遠来の客に三溪園の歴史や魅力をお伝えした。横浜が若い都市で、1854年に幕府が日米和親条約交渉地とした横浜村を1859年の横浜開港場としたことに起源すると話したところで、管理事務所前に着く。ここでオロシマササ(福岡県於呂島の原産と言われる)の生垣の開花状況を観察していただく。坂さんが先週より花が格段に増えたと説明する。
 ついで村松さんは横浜開港の1859年について「この年こそ進化論の古典的名著、ダーヴィン『種の起源』の刊行年です…進化論は生物の歴史を説くもの、文系の歴史学と同じ発想により展開する学問です。分析のための素材や手法は異なりますが…」と言う。偶然にも1859年は、生物の謎を解く学問の起源と、都市横浜の起源とが重なる記念の年であることを、初めて意識した。

 本題の「タケの開花」の理解を深めるために、前回に一部のみを紹介した坂さんの5月14日の観察報告をもう少し詳しく見たい。
…花穂の形状が、少し変わったものも認められます。…今回は開花株の範囲が広がっていました。まだ、株全体や山全体が開花するのか?という雰囲気ではないようです。しかしこの10日間でかなり開花が進んだのは確かです。
 タケ・ササの種によって、また集団によって、全面開花~部分開花、その移行型を示すことが多く、いろいろな場合を見てきています。三渓園のこのリュウキュウ節(タイミンチク)はどうだろうか、ということも興味を持っております。
 三重塔をから松風閣のあたりの遊歩道沿い、また外苑に降りていく辺りのタイミンチク、特に小株がよく咲いています。駐車場辺りのタケはまだ新梢が出ていないようなものもあり、かなり場所によってばらつきがあるのでしょうか?集団が遺伝的にバラついているのか、松風閣あたりの集団がF1のような集団なのでしょうか?さらに不思議さが深まってきます。…
 一斉開花は、どのような様相だったのか、古い分けつの節からも花穂がたくさん出て株全体の枝先に花がつくのでしょうか?あるいは、今回のように株元の新梢に花穂がたくさんつくような形になるのでしょうか?…観察で注意したり、見落としてはいけない点をご指導いただけますと幸いです。 坂 智広

 これに対して翌5月16日、村松さんからのメールが来た。
 …メールにて三渓園のタケ・ササ開花の状況をありがとうございます。写真やご報告を読んで、一斉開花に向かっているかと期待を大きくしています。基部根際から出ている小稈にも花穂が形成されていますのでその感じを強くしています。もし一斉的としますと、藪全体がどのようになっているのかが、ポイントと思います。…一斉開花や部分開花について、いろいろな報告がありますが…視点や目線にはとても大きい違い~振れがあります。私は、タケの研究者との会話で、用語を含めて話しの「ずれ」をしばしば感じています。…私は、まだまだ現象論を追求する必要があると思っています。 村松幹夫

 タケの開花は60年、90年、120年と長い周期で1度だけ起きるとされるが、事例報告は多くなく、周期の年限をめぐっても確実なデータはごく少ない。村松さんが「現象論を追求する必要がある」とするのは、現象を的確に観察して記録に残すことの重要性を指しているのではないか。
 また開花の理由についても、タケ・ササはふだん地下茎から伸びてくるクローンにより世代交代を行うが、それが限界に来たとき開花・交配して種をつくり次世代を生むとする仮説があるが、これも不稔の場合には通用しない。また開花を引き起こす情報伝達と物質(ホルモン等)が何かも気になる。

 上記の村松メールに対する坂メールは次のようにある。
 薮全体がどうなっていくか、大変興味あります。…三渓園のタイミンチク開花株周辺の竹薮は、新枝?の伸びに勢いがあって他の場所と違った雰囲気を醸しだしているようにも感じます。…竹薮の奥の方が気にかかっています。
 またタケの開花を誘導する遺伝子が基本的にはシロイヌナズナやイネと同じく植物に広く保存されているFTとTFL1遺伝子が関与していることを報告した論文を見かけました(アドレス付き)。…いくつかの歯車が組み合わさって数十年のサイクルになっているであろうところが興味深いですね。地際からの若い稈に花が多いのは、葉で作られたフロリゲンが成長点に十分量届いていると言うことなのでしょうね。  坂 智広
 
 そして我々は三重塔方面へ坂道を登り、いよいよタイミンチクの開花観察に向かった。米寿(88歳)を超えた村松さんは、周囲の植物に目を配りつつ、足取り軽く歩く。タイミンチクの花は、すっと伸びた花穂の先端に雌しべが包まれ、それを取り囲むように雄しべ(その葯は数ミリ)3個が垂れ下がっている。
 開花は、同じ株の各所に、そして他の株へと確実に拡がっていた。だが村松さんによれば、これが「一斉開花」の前兆なのか、それとも「部分開花」なのかを確定するには、さらに2~3週間の観察を待つ必要があるとのことである。
 この話の延長上に「竹酔日」(ちくすいじつ)という言葉が村松さんから出た。この日にタケを植えるとよく育つという中国の言い伝えで、陰暦5月13日、新暦で6月23日頃を指す。この頃がタケの個体更新や世代交代の最適期なのか。まずは竹酔日までの変化をしっかり観察していきたい。(続く)
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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