タケの開花(その1)

 三溪園の三重塔と松風閣(現在の展望台)あたりに、細めのタケ(ササ?)が密集している。タイミンチク(大明竹)と呼ばれ、根元の太さは直径1~3センチほどだが、丈は高いもので大人の背の4~5倍もあろうか。左右から伸びる枝がたわんで、一部はトンネル状になっている。

 周りの太湖石(中国は蘇州近く太湖周辺の丘陵から切り出される穴の多い複雑な形の奇石)と合わせて異国風の印象を与えるが、これは横浜居留地の生糸売込商・原善三郎(1827~1899年)が1890年頃に建てた別荘・松風閣の中国風庭園の跡である。

 今年の3月29日、思いがけないメールが入った。発信者は旧知の坂智広(ばん ともひろ 横浜市立大学木原生物学研究所教授)さん、コムギ研究の第一線で活躍すると同時にテニス仲間でもあり、左腕で豪速球を打つ。本ブログのなかにも「コムギの里帰り」(2015年12月23日掲載)や「金沢八景と泥亀」(2016年7月25日掲載)に登場する。このメールは言う。

 今週は、日本育種学会で名古屋大学に来ております。昨日、岡山大学名誉教授の村松幹夫先生から「三渓園の蓬莱竹の仲間の竹の開花」の話を伺いました。

 村松先生は、木原均先生の元で学ばれ、木原生物学研究所が京都大学の物集女にあった時代からコムギの研究で世界を牽引されてこられた方で、私もコムギの近縁野生種の植物を見る目をご指導いただいております。日本のタケ・ササ類に関する研究で、現在も日本中の竹林を見守っておられます。

 タケは60年?あるいは100年単位の周期で一斉に花を咲かせ、そのまま枯れて新たな竹林が形成されると言われています。同じ仲間でも開花期があわないと交雑せず、ま花が合えば新たな雑種を作って進化する可能性も示唆されています。人知を超えた時間の流れと歴史を染色体に刻んだ、自然の教科書です。

 村松先生のお話ですと、「1928年に三渓園の竹が開花した」という記録があり、今年また花を咲かせそうだと情報を得られたそうです。それが90年ぶりの開花なのか?
 
 この蓬莱竹は稈状の繊維を火縄の材料にするため日本に渡来、九州の南の島から中部地方以西に植栽されているとも言われます。…村松先生はこの歴史的なイベントに、花が咲いた時に観察をし、花粉を採集して、可能な交配実験を考えておられます。
 
 最近は花を咲かせるタンパク質のフロリゲン遺伝子が研究されていることもあり、タケが90年の時計をどのように数えているのか?私も遺伝子の中に記された記録に大変興味があります。…そこで、三渓園の管理されていられる方のお力も借りながら、わたしが定期的に三渓園に伺い、開花に向けて観察をさせていただけないかと考えております。 坂 智広
 
 タケやササは100年に一度、花を咲かせるという話を子どもの頃に聞いた記憶があり、そのときの不思議が蘇る。すぐに坂さんに返信した。

 貴重な情報を拝受しました。多謝!
 
 タイミンチクは確かに三重塔近くの旧庭園(原善三郎が造った中国風庭園)の周囲に繁茂しています。…大兄が「定期的に三渓園で開花を観察」してくださるなら大歓迎です。 加藤祐三
 
 4月13日の坂さん第2信メールには、11日に三溪園へ行ったが開花の兆候は見られないとあり、写真が付されている。この報告について村松幹夫さんから坂さん宛の返信メールが私宛に転送されてきた。以下はその概要である。

 (冠省)三渓園でのタイミンチクの観察ご報告と写真拝見しました。…写真では、タイミンチクも、冬から殆ど目覚めていないと感じです。…

 写真の5枚目に昨年度の部分開花の花穂の小穂があり、また止め葉らしい枝先が見られる写真もありますが、もう少し気温が上がる下旬から5月の連休明け頃まで待つ必要があるかと思います。

 と言ってもメダケ属のメダケ節やネザサ節の一斉開花集団では、前年度秋に側枝部分に花穂の兆候が見られます。今までの観察で、蓬莱竹は熱帯系(南方原産)ですが、一斉開花の最初の年には、晩春に入った頃になってから一斉に花穂が現れます。

 メダケ属でもリュウキュウ節の種は南方系です。どのようであるかは、もう少し経過を見なければ、と思います。

 タケ・ササは栽培に取り込まれていても、姿・様相は全く野生なので、また木本性(竹本性)なので、どうか長期の視点で観察なさって下さい。 村松幹夫
 
 ついで5月5日付けの坂さん第3信には、「山上あたりの日当たりが良さげなところの15株くらいで、下の方に開花を認めました。開花している株では2~3花穂が見られます」とある。私も一帯を回ったが(坂さんとは会えず単独行)、素人の悲しさで、まったく気づかなかった。
 
 さらに5月14日の坂さんの第4信によれば、「地際から出ている新しい稈(おそらく昨年?あるいは今年?地下茎から出芽したもの?)は多くの花をつけています。
 
 胸高あたりの節や、頭上の節から花穂を出して開花している株もあります」としたうえで、「この10日間でかなり開花が進んだのは確かです」と述べる。<風雲急を告げる>予感がする。

 5月18日夕刻、急な雨の中、坂さんの教示であちこちに花を見ることができた。小さな、つつましい花である。この4日間で大幅に増えたという。<歴史的瞬間>の急展開があるかもしれない。

 来週の5月25日、岡山から来られる村松さんを坂さんとともに迎え、現場を観察していただく。大きな進展があるに違いない。とり急ぎ、これまでの経過を公開し、これからの観察記録の準備としたい。(続く)
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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