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変わりつつある世界(16)

 【性別変更の合意形成なお途上 最高裁、社会の変化を考慮】
 10月25日、日経速報メールは報じた。
 最高裁が25日、性同一性障害特例法の生殖機能をなくす手術要件を違憲と判断した。4年前の合憲判断を見直した背景に性同一性障害の人を取り巻く国内外の社会情勢の変化がある。あくまで「性別適合手術」に関する判断で、社会の合意をどのように形作っていくかが問われる。
•【関連記事】性別変更、生殖不能の手術要件は「違憲」 最高裁決定

 「手術が必要ではない当事者にも過酷な二者択一を迫るものだ」。大法廷は生殖腺の手術を求める性同一性障害特例法の規定について「個人の尊重」を定めた憲法13条に反すると判断した。
望まない手術を強いる同規定に「意思に反して身体の侵襲を受けない自由の制約」があることは、2019年の第2小法廷決定も認めていた。
 当時の決定は①変更前の生殖機能に基づいて子どもが生まれれば親子関係など社会の混乱が生じる②長年生物学的に男女が区別されてきた中で急激な変化を避ける――といった規定の趣旨を重視。こうした配慮の必要性は社会の変化によって変わると述べた上で「現時点では合憲」と結論付けた。
大法廷は今回、2つの点に着目した。
 まず医学の進展だ。大法廷は医療技術や知見が進展し、手術以外にも選択肢が出てきたことで「性同一性障害の人が必要な治療を受けたかは手術を受けたか否かで決まるものではなくなった」と指摘。規定があることで、手術しなければ「性自認に従った法律上の性別の取り扱いを受ける重要な法的利益」を受けられなくなっているとした。
次に、性同一性障害の人に対する理解の広がりだ。司法統計によると、22年までに特例法に基づき家裁で性別変更を認められた人は1万1千人を超える。
 大法廷は制度が根付く中で「性同一性障害の人が社会生活を送る上での問題を解消する取り組みが社会の様々な領域で行われている」と言及。同規定をなくすことで「急激な変化」は生じないとの結論を導いた。
 大法廷の違憲判断により、同規定は事実上無効化された。全国の家裁で今後は生殖腺手術に関する規定がないことを前提に審理される形となる。性別変更を巡る家裁の審理は年単位で時間がかかることがあり、国会はこの間に規定の改正や見直しなどの立法措置を迫られる。
 身体に重い負担を強いる生殖腺手術を巡る司法判断は確定した一方で、手術を受けないまま性別変更が認められれば変更前の性別の生殖機能に基づいて子どもが生まれる可能性は残る。
決定は「こうした事態が生じることは極めてまれ」としたが、「父」や「母」の概念が揺らぎ、民法などの法的秩序の混乱を招くと懸念する声は根強い。
 最高裁に規定の合憲判断を求めていた「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」は決定前に「手術なしに内面の性自認に基づいて性別変更が可能になれば、女性の安心安全が脅かされる」との懸念を示していた。
生殖腺手術を受けて男性から女性に性別変更した当事者の中には「手術を受けた体だからこそ女性の中で信用される面もある。手術要件はむしろ私たちの立場を守ってくれるルール」と捉える人もいる。
 家事審判では変更後の性別の性器に近い外観を備えるとする別の規定も争われたが、大法廷は妥当性や解釈の判断に踏み込まなかった。「外観要件」とも言われる同規定は、公衆浴場やトイレなどの安全性が脅かされるとして見直しに反対の声はさらに大きく、社会全体でどう議論を進め、合意を形成できるかが課題となる。
手術なしでも性別変更、欧州などで主流に
 性別変更の際に生殖能力を失わせる手術を求める規定について、海外では撤廃の動きが主流となっている。
2013年にはスウェーデンとオランダで生殖不能の手術を求めた規定が廃止された。ドイツでは11年に連邦憲法裁判所が同種規定を「違憲」と判断し、23年8月には医師の診断がなくても自己申告で法的な性別を変えられる法律が閣議決定された。
 当事者団体などのまとめによると、性別変更に関する法令がある欧州や中央アジアの約50カ国のうち40カ国余りが生殖不能の手術を要件としていない。
 14年には世界保健機関(WHO)が、性別変更のために望まない生殖能力をなくす手術を要件とするのは人権侵害との声明を出した。大法廷の今回の違憲判断はこうした世界の潮流に沿ったものといえる。
「外観要件」も3判事が「違憲」
 25日の大法廷決定は、15人の裁判官の全員一致で、生殖不能の手術要件を違憲とした。変更後の性別に沿った外観を求める「外観要件」については判断しなかったが、3人の裁判官は同要件の規定も「違憲」とする反対意見を付けた。
 三浦守裁判官(検察官出身)は「外科的治療は身体への強度な侵襲」として、生殖不能の手術要件と同じ制約があると指摘した。
 公衆浴場などの施設で混乱を避けるとする規定の目的について、事業者が適切に施設管理していることなどを背景に「(同要件がなくても)混乱が生じることは極めてまれ」との見解を示した。
草野耕一裁判官(弁護士出身)は性同一性障害の人が人口に占める割合が低いことなども引き合いに「自己の意思に反して羞恥心や恐怖心、嫌悪感を抱かされない利益が損なわれる可能性は低い」とした。
 外観要件についても「過酷な二者択一を迫るもの」と位置付けた宇賀克也裁判官(学者出身)は三浦、草野両裁判官の意見を踏まえて「過酷な選択を正当化するほどのものとまでいえない」と強調した。(嶋崎雄太、秦明日香)
• 【関連記事】性別変更手術要件、戦後12例目の違憲判断 社会情勢映す

【世界の中銀、利上げ転機 政策金利7%で物価上昇と逆転】
 26日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・ECBは26日の理事会で利上げの見送りを議論
・FRBは月末からの会合で金利据え置きを決める公算
・インフレ抑止の兆しがみえてきたのが背景
 世界の中央銀行による利上げが転機を迎えている。欧州中央銀行(ECB)は26日の理事会で11会合ぶりとなる利上げ見送りを議論する。今月末に会合が始まる米連邦準備理事会(FRB)も据え置きを決める公算が大きい。昨年からの急ピッチな利上げで世界の平均政策金利は7%を超え、物価上昇率を逆転した。インフレ抑止の兆しが見えてきている。
 日銀は先進国の主要中銀で唯一、大規模な金融緩和を続けている。世界の金融政策が次の局面に入るなか、日銀の政策判断に注目が集まる。
 ECBは26日にアテネのギリシャ中銀で金融政策を話し合う理事会を開く。市場は利上げの見送りを完全に織り込んでおり、政策金利を据え置けば2022年7月の利上げ開始から初めてで11会合ぶりになる。
 今回の理事会はイスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まってから主要中銀による初の政策決定だ。ラガルド総裁がインフレ再燃や追加利上げを巡るリスク認識をどう語るかが注目になる。日本時間の午後9時15分に決定内容を公表し、ラガルド氏の記者会見は同9時45分から予定する。
 世界では利上げを休止する中銀が相次ぐ。英イングランド銀行が9月に15会合ぶりに政策金利の維持を決めたほか、オーストラリアやカナダ、スイスも同様に利上げを見送ってきた。ブラジルやチリなどの中南米では利下げに転換しており、インフレ抑制から景気下支えの局面に入った。
 各国の中銀が利上げ休止に傾くのは、金融環境が引き締まってきたためだ。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストの試算によると、世界の政策金利は24日時点で7.4%と物価上昇率の5.9%を上回った。高金利が物価上昇率を上回り、経済を冷やし始めたことを示す。
 FRBは10月31日〜11月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送る公算が大きい。政策金利は5.25〜5.50%と22年ぶりの高水準で、物価上昇率は3.7%まで鈍化してきた。
 ECBは政策金利の一つである中銀預金金利が4.0%と、通貨ユーロが誕生した1999年以降で最高水準だ。マイナス金利政策を解除してから累計の利上げ幅は4.5%と過去最速ペース。ユーロ圏の物価上昇率は4.3%で、このままま鈍化基調が続けば同政策金利と逆転する見込みだ。
 利上げの効果は出始めている。ユーロ圏では銀行の企業向け融資の伸び率が9月に前年同月比0.2%増と、直近ピークだった22年10月の8.9%増から大幅に鈍化した。金利の上昇で企業融資や住宅ローンの需要が減り、融資申請を拒否する銀行も目立つ。
中央銀行は企業や家計の需要を抑えてインフレ圧力を和らげようと、銀行融資を通じた金融引き締めの度合いを重視してきた。
米国では商業銀行の商工業向け融資が2.7兆ドル(約400兆円)と、米国経済が堅調にもかかわらず年初から500億ドル減った。大手企業に融資する際の最優遇貸出金利は8.5%と22年ぶりの高水準だ。
 残る焦点は日銀の政策判断だ。23年7月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化し、長期金利の上限を0.5%から事実上1%に引き上げた。
 日銀は政策修正は「緩和をうまく継続するため」で、金利操作やマイナス金利撤廃といった出口には「距離がある」としているが外堀は埋まりつつある。金利抑制に向けた大量の国債買い入れの結果、6月末時点で市場全体に占める日銀の国債の保有割合(国庫短期証券を除く時価ベース)は53.2%と過半を超えた。
 米金利上昇を背景に国内の長期金利も上昇し、25日は一時0.865%と13年7月以来の高水準をつけた。上限の1%に迫る中、10月末に金融政策決定会合を控えた日銀内では金利操作の再修正論が浮上している。
 世界の中銀が目先、最も警戒するのは資源高の再燃だ。10月に入ってから中東情勢の混迷で原油価格が一時急騰し、ECBの想定より1割ほど上振れた。資源高による企業のコスト転嫁が広がれば、インフレ圧力が再び強まりかねない。
米モルガン・スタンレーは国際指標の北海ブレント原油先物が10ドル上昇すれば、物価上昇率をただちに0.25%、1年後にさらに0.1〜0.15%押し上げると試算する。モルガンのチーフ欧州エコノミストのイェンス・アイゼンシュミット氏は「24年以降に大幅な上振れリスクになりうる」と指摘する。
 第2次石油危機に伴う高インフレに見舞われた1980年代は、主要7カ国(G7)の物価上昇率が2%台に戻るまで5年以上かかった。多くの中銀は追加利上げの可能性を排除しないが、景気と物価の見通しに確証を持てないことにほかならない。世界の中銀が参加する国際決済銀行(BIS)は「最後の1マイルを進むのが難しい」と警告する。(アテネ=南毅郎、小野沢健一)

【全国1000校超「DXハイスクール」に デジタル教育拠点】
 同じ26日の日経速報メールは次のように報じた。
 文部科学省は全国の高校の2〜3割にあたる1000校超をデジタル教育の拠点校となる「DXハイスクール」に指定する方針を固めた。デジタル社会を担う人材を育てる裾野を広げ、トップ層の増加につなげる。全小中学生に配った学習用端末の更新費を含め、小中高のデジタル環境整備に約5年で6千億〜8千億円を投じる方針だ。
 政府が経済対策に合わせて策定する2023年度補正予算案に関連経費を盛る。複数年にわたって使える基金にする案もあり、調整を進める。
 DXハイスクールはデジタル人材の育成と文理横断型の探究学習に取り組む拠点と位置づける。同省は各校が高性能パソコンや3Dプリンターを配備したり、民間企業や大学から高度人材を招いた特別講義を開いたりする費用を補助する。
 指定は24年にも始める。全国の高校約4800校のうち1000〜1500校程度を指定する考えで、自治体を通じて公募する案がある。指導者を確保できる見通しが立っているかなどが選定基準になるとみられる。
 小中学生向けでも「デジタルものづくりラボ」と呼ぶ拠点を各地に整備する。高度なプログラミングやデジタル技術に触れる機会を広げ、デジタル分野の才能を伸ばせるようにする。
 政府は30年にはデジタル人材が最大約79万人不足すると推定する。文科省は理数教育強化のため02年度から一部高校をスーパーサイエンスハイスクールに指定し、23年度時点で218校あるが全国の高校の5%以下にとどまる。DXハイスクールの指定などでデジタル人材の裾野を広げる。
 施策の実効性を高めるには最新設備を使いこなせる指導者が欠かせない。外部人材を活用するなど教員だけに依存しない仕組みが求められる。
 同省は全国の小中学生に配った端末の更新費を賄う方針も明確にする。予備機の配備や通信ネットワークの整備も含め、端末を安定的に使える環境をつくる。
 政府が「GIGAスクール構想」で21年度までに配った端末は今後、バッテリーの耐用年数(4〜5年)や故障機の増加から更新が必要になる。24年度予算の概算要求で文科省は同年度に更新を迎える分の費用148億円を計上したが自治体から安定性を懸念する声が出ていた。
 日本の大卒者のうち、理工農を含む自然科学分野の学位取得者の割合は35%で、英国(45%)やドイツ(42%)、韓国(42%)と比べて低い。日本は小中高のデジタル教育の強化などにより、理系を専攻する学生を5割程度にすることを目指している。
【関連記事】
・理系拡充へ大学など111校支援 3000億円基金、裾野広く
・23区大学定員規制の緩和、24年度から DX人材育成狙う
・全国学力テスト、データ活用力に課題 結果公表
・GIGAスクール構想3年目 1人1台端末で変わる授業風景

【介護事業、デジタル申請に統一 負担軽減へDX推進】
 同じ26日の日経速報メールは次のように報じた。
 厚生労働省は介護サービスを提供するために事業者が地方自治体に届け出る方法を2024年度からデジタル申請に統一する。自治体ごとにバラバラだった書式も共通にする。介護分野に根強く残る紙文化を改め、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速につなげる。
24年4月に介護保険法の改正省令を施行する。一部自治体で電子申請のシステム利用を順次始めており、25年度末までに全国で切り替えを終えるよう促す。現状では特別養護老人ホームの更新手続きに100枚以上の書類を求める自治体もある。行政デジタル化で事業者の事務負担を軽減し、人手不足の緩和も図る。
 事業者が介護保険法に基づいて介護サービスを提供して報酬を得るには、事業所ごとに市区町村や都道府県から指定を受ける必要がある。事業所の住所や代表者名、利用者の人数、従業員の体制などを記して申請する。変更があった場合も届け出る。
 今後は電子申請が原則となり、提出する情報も共通になる。事業者は複数の自治体に一斉に提出することができ、業務を大幅に効率化できる見込みだ。
 介護サービスの種類によっては約6割の自治体が独自の様式で提出を求めている。9月までに国の電子システムの利用を始めるとしたのは7月調査時点で7%に過ぎない。介護保険は市区町村による運営が主体で一定の裁量が認められ、ローカルルールを生みやすい。
 事業者は自治体ごとに書類を作成する必要があり、対面提出を求められることもある。必要な情報量もまちまちで、厚労省の調査では特養老人ホームの更新手続きに必要な書類は2枚から149枚と幅があった。
複数自治体で介護サービスを行う大手企業は社長交代などがあれば各地で一斉に変更を届け出る必要がある。申請手続きを専門で担う部署を設ける大手もある。
 事業者側からは手続きの効率化を訴える声が強まっていた。政府の規制改革推進会議の答申でも、国が定めた統一的な様式で手続きできるよう求めていた。
 厚労省は今後はネットで申請できるため、小規模な事業者も対応できるとみている。デジタル化の遅れなどを考慮して特例として郵送など紙ベースの申請を受けるかなどは自治体が判断する。
 同省の別の調査では21年4月〜22年9月に更新手続きした介護サービスのおよそ1100事業所について、書類作成の負担が「大きい」または「どちらかと言えば大きい」と回答した割合は全体の7割に達していた。
 ニッセイ基礎研究所の三原岳上席研究員は「電子化後も自治体が独自に補足文書を求める可能性はある」と話す。ローカルルールを全廃するのは難しく、ルールの細部まで法令で定める案も検討に値すると指摘する。
 介護分野の就業者数は21年度に215万人だった。高齢化で40年度には280万人が必要になるとの予測がある。人材確保は容易ではなく、業務の効率化は欠かせない。
 介護分野での自治体の独自ルールは申請書類以外でも目立つ。
 厚労省は一部の介護サービス拠点の管理者は管理業務に支障がなければ、同一敷地内や隣接・近接する別の介護事業所で兼務できると示している。この解釈を巡って自治体の対応は割れる。
 厚労省の21年度の調査で、同一敷地内に加えて隣接や近接を含めて兼務可能と判断した自治体は全体の半数ほどだった。同一敷地内のみにしか兼務を認めない自治体は2〜4割にのぼった。企業にとっては非効率な要因となる。
 人力でやっている業務を介護ロボットや見守りセンサーなどICT機器で代替するのは効率化につながる。ケアマネジャーが介護サービスの利用計画をファクスなどを通じて連絡する現状も、電子データでのやりとりに改める必要がある。

【全国1000校超「DXハイスクール」に デジタル教育拠点】
 同じ26日の日経速報メールは次のように報じた。
 文部科学省は全国の高校の2〜3割にあたる1000校超をデジタル教育の拠点校となる「DXハイスクール」に指定する方針を固めた。デジタル社会を担う人材を育てる裾野を広げ、トップ層の増加につなげる。全小中学生に配った学習用端末の更新費を含め、小中高のデジタル環境整備に約5年で6千億〜8千億円を投じる方針だ。
 政府が経済対策に合わせて策定する2023年度補正予算案に関連経費を盛る。複数年にわたって使える基金にする案もあり、調整を進める。
 DXハイスクールはデジタル人材の育成と文理横断型の探究学習に取り組む拠点と位置づける。同省は各校が高性能パソコンや3Dプリンターを配備したり、民間企業や大学から高度人材を招いた特別講義を開いたりする費用を補助する。
 指定は24年にも始める。全国の高校約4800校のうち1000〜1500校程度を指定する考えで、自治体を通じて公募する案がある。指導者を確保できる見通しが立っているかなどが選定基準になるとみられる。
 小中学生向けでも「デジタルものづくりラボ」と呼ぶ拠点を各地に整備する。高度なプログラミングやデジタル技術に触れる機会を広げ、デジタル分野の才能を伸ばせるようにする。
 政府は30年にはデジタル人材が最大約79万人不足すると推定する。文科省は理数教育強化のため02年度から一部高校をスーパーサイエンスハイスクールに指定し、23年度時点で218校あるが全国の高校の5%以下にとどまる。DXハイスクールの指定などでデジタル人材の裾野を広げる。
 施策の実効性を高めるには最新設備を使いこなせる指導者が欠かせない。外部人材を活用するなど教員だけに依存しない仕組みが求められる。
 同省は全国の小中学生に配った端末の更新費を賄う方針も明確にする。予備機の配備や通信ネットワークの整備も含め、端末を安定的に使える環境をつくる。
 政府が「GIGAスクール構想」で21年度までに配った端末は今後、バッテリーの耐用年数(4〜5年)や故障機の増加から更新が必要になる。24年度予算の概算要求で文科省は同年度に更新を迎える分の費用148億円を計上したが自治体から安定性を懸念する声が出ていた。
 日本の大卒者のうち、理工農を含む自然科学分野の学位取得者の割合は35%で、英国(45%)やドイツ(42%)、韓国(42%)と比べて低い。日本は小中高のデジタル教育の強化などにより、理系を専攻する学生を5割程度にすることを目指している。
【関連記事】
・理系拡充へ大学など111校支援 3000億円基金、裾野広く
・23区大学定員規制の緩和、24年度から DX人材育成狙う
・全国学力テスト、データ活用力に課題 結果公表
・GIGAスクール構想3年目 1人1台端末で変わる授業風景
藤元健太郎D4DR 社長

今後の展望
 今後の教育や学習を巡る環境を考えると個人で低コストで知識を学べる状況になるため,今のように高校でたら大学という考え方は止め,高校でたら就職や起業などを増やし,その後自分が身に付けるべき専門的なスキルをしっかり見定めた上で大学に進学するようなロールモデルも意識した人材育成を意識するべきでだろう。またデジタルの知識も大事だが未来の洞察力やプロデュース能力,マーケティングセンスなどもデジタル人材が力を発揮するためには大事なスキルになるため,そうしたスキルも若い段階から身に付ける機会を提供していくことが重要になるだろう。

【米GDP、7〜9月4.9%増に加速 利上げでも消費衰えず】
 同じ26日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ワシントン=高見浩輔】米商務省が26日発表した7〜9月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は前期比の年率換算で4.9%増だった。4〜6月期の2.1%増から大幅に加速した。利上げでも衰えない個人消費が強い米経済をけん引している。
• 【関連記事】米経済「誤算」の高成長持続 好調消費には不安材料
 GDPの7割を占める個人消費は4.0%増だった。飲食や夏場のレジャー消費が好調で、伸びは4〜6月期の0.8%増から拡大した。金利上昇で住宅などローンの利払いは重くなっているものの、消費全体の勢いは衰えていない。
 企業の設備投資は4〜6月期の7.4%増から0.1%減と2年ぶりにマイナスに転じた。住宅投資は2.2%の減少から3.9%の増加に転じた。住宅は新型コロナウイルス禍の影響で2桁のマイナスに陥ったが2年半続いた減少傾向が反転した。
 輸出は9.3%の減少から6.2%の増加に転じた。輸入も7.6%の減少から5.7%の増加となった。輸入を差し引いた純輸出はわずかに成長率を押し下げた。
 7〜9月期の成長率は米連邦準備理事会(FRB)などが米経済の巡航速度と見積もる2%弱を大きく上回っている。市場の事前予想は4.7%だった。
 エコノミストらは1年ほど前には米経済が2023年内にも景気後退に入ると予想していた。実際には22年3月のゼロ金利解除から1年半が経過しても勢いが弱まらなかった。
 FRBはインフレ抑制のために景気がある程度冷え込む必要があるとみている。米経済は10〜12月期以降に減速するとの予想が多い。

【中国・李克強前首相が死去 68歳、休養中に心臓発作】
 27日の日経速報メールは次のように報じた。
 【北京=田島如生】中国の李克強(リー・クォーチャン)前首相が27日、上海で死去した。68歳。死因は心臓発作だった。習近平(シー・ジンピン)指導部で2013年から首相を2期10年間務め、経済を高度成長から安定成長へと転換を進めようとした。今年3月に首相を退いたばかりだった。
• 【関連記事】李克強氏死去、後ろ盾失った共青団 習氏冷遇で勢力減退
 中国国営中央テレビ(CCTV)によると、李氏は最近、上海で休養していた。心臓発作のため26日に容体が急変し「救命に全力を尽くした」が、27日午前0時(日本時間同1時)すぎに亡くなった。8月末には世界遺産がある甘粛省敦煌市を訪れる姿が確認されていた。
 李氏は中国東部の安徽省出身で、名門の北京大を卒業した。共産党のエリート青年組織、共産主義青年団(共青団)で中央書記局第1書記などを務め、頭角を現した。
 同じ共青団出身の胡錦濤(フー・ジンタオ)前党総書記の信頼が厚かった。胡氏が総書記時代の07年には最高指導部の党政治局常務委員に就任。胡氏の後継者の有力候補とみなされた時期もあった。
 12年に発足した習指導部では国務院(政府)トップの首相に就き、主に経済政策を担った。15年に中国株の下落が世界経済に波及した「チャイナ・ショック」や、鉄鋼などの供給過剰問題といった高度成長期に生まれたひずみに対処した。
 当初は「リコノミクス(李経済学)」ともてはやされた。李氏が重視したとされる銀行融資残高、鉄道貨物輸送量、電力消費量を合わせた「李克強指数」は、海外投資家らが中国経済を推し量る材料にもなった。
 ただ習国家主席が16年ごろから経済政策への関与を強めると、影響力は徐々に薄まった。
【関連記事】
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・李克強氏が最後の政府活動報告 発信力低下、苦闘の10年
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
滝田洋一日本経済新聞社 特任編集委員
ひとこと解説
①現役の外相と国防相の失脚(国防相は現在空席)に続いて、李克強前首相の死去。そして誰もいなくなった、の展開です。死因をめぐる詮索は置くとして、これで習近平氏を遮るものはなくなりました。 ②李克強氏のリコノミクスは経済改革路線でした。それを退け、高成長にこだわった結果が、不動産バブルと地方政府の隠れ借金の膨張です。共同富裕の名の下に民間企業への国家統制を強めたことと相まって、今日の経済苦境の主因でしょう。 ③思えば1年前。習氏の3期目入りに際しての共産党大会。胡錦濤前国家主席が閉会式を途中退席する一部始終、つまり習氏への抗議のそぶりが想起されます。個人崇拝を強める現体制の行方が危ぶまれます。

【先発薬の自己負担引き上げ 厚労省、後発薬への移行促す】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 厚生労働省がすでに後発薬のある薬の自己負担を引き上げる見通しとなった。薬の値段の1〜3割にあたる患者負担分に後発薬との差額の一部を上乗せする案を軸にする。患者に先発薬からの移行を促し、高齢化で膨れ上がる医療費の伸び抑制につなげる。
 薬の種類や上乗せする割合によって異なるが、おおむね数円から数百円ほどの負担増となる見通しだ。
 社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会が年内にも案をまとめ、2024年以降の実施を目指す。
 医療費を抑えて捻出した予算は開発力の低下が懸念される国内の製薬産業の競争力強化策の財源にも充てる。革新的な医薬品の薬価を引き上げるなどし企業が研究開発に資金を投じやすくする。
 後発品が出ている薬は「長期収載品」と呼ばれ一般的に価格は後発薬の2倍ほどとされる。たとえばアステラス製薬の免疫抑制剤「プログラフカプセル(5mg)」の薬価は1705円ほどだが、後発薬だと600〜1000円台に下がる。
 長期収載品はおよそ10兆円の薬剤費のうち1.9兆円と全体の2割ほどにあたる。患者に後発薬の使用を促すことで100億円規模の財源を捻出できる可能性がある。
 問題は長期収載品に収益を依存してきた製薬企業だ。長期収載品の売上比率が全体の50%以上を占める企業はおよそ2割あり、安価な後発品への置き換えが進まない一因との指摘がある。
 厚労省は浮いた財源を薬価などを通じて企業の研究開発の支援に充て、長期収載品に依存しすぎない収益体制への変化を促す。
 具体的な引き上げ幅はこれから詰める。保険が適用される費用とは別に患者の希望で自己負担して追加サービスを受ける「選定療養」の仕組みを活用するため、法改正などは不要だ。
 足元では後発薬を中心に医薬品の供給不足が続く。後発薬メーカーの不正をきっかけに新規受注を止める動きが生じた。10月には沢井製薬の品質試験に関する不正も明らかになった。
 日本製薬団体連合会の9月調査では後発薬の2割超が限定出荷や供給停止となっている。厚労省は安定供給策の検討も迫られる。
 9月の医療保険部会では薬剤の自己負担の引き上げ策として計4案が示されていた。幅広い薬に一律で一定額の負担を上乗せする案や薬剤によって自己負担割合を変える案などがあった。厚労省は後発薬のある薬の自己負担を引き上げる案なら法改正を伴わずにできると判断した。

【外国人の起業誘致へ要件緩和 出資金なしで2年滞在可能】
 29日(日曜)の日経速報メールは次のように報じた。
 日本が海外の起業家に選ばれるための環境づくりが進み始めた。起業が伸び悩む背景の一つに在留資格を取得する要件の厳しさがあるとみられており、政府は起業を志す外国人が事業所や出資金なしでも全国で2年間滞在できるようにする。行政手続きのデジタル化や言語の壁への対応など取り組むべき課題はなお多い。
 外国人の起業家が増えることで海外の最先端の技術や、外国人ならではの発想を取り込むことができる。新しい産業の芽が広がり地方の活性化にもつながる。米国にはグーグルやテスラなど海外から来た経営者が次世代の産業を生み出した例がある。
 現行の制度で外国人が在留資格を取得するには通常①事業所の確保、②2人以上の常勤職員または500万円以上の出資―の要件を満たさなくてはならない。
 大学内の研究所に拠点を構えることができれば、外国人留学生が在学中に起業しやすくなる。
 創業間もない新興企業は売り上げや利益が少なく、500万円以上の出資金集めはハードルが高い。2年間の猶予期間に事業成長への投資に資金を回せるようになる。
 政府は事業所などの要件を緩和し、起業の促進に向けた環境を整備する。出入国在留管理庁が2024年度中にも在留資格の「経営・管理」に関する省令などを改正する。
 国家戦略特区と経済産業省に分かれている2つの事業を統合する。事業計画が認められれば全国で2年間滞在できる。
 外国人の起業を支援する特区の制度は15年に始まり、23年4月までに計380人余りが認定を受けた。大半は13カ所ある特区のうち東京都や福岡市に集中し、地方都市の実績は振るわない。
 入管庁によると経営者などに与える「経営・管理」の資格で在留する外国人は23年6月末時点でおよそ3万5000人。15年に比べて2倍近くに増えたものの、創業のハードルは依然高いとの判断が政府内にもある。
 経済協力開発機構(OECD)によると、起業家の魅力度評価で日本は多国籍企業の数、税制、国籍の取りやすさなど30項目以上の分析をした結果24カ国中21位にとどまった。
 起業家支援のデロイトトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬社長は「日本の大企業の投資意欲は落ちておらず、新興企業は資金集めで期待できる」と話す。
 日本企業の海外展開を支援するResorzの児嶋裕貴社長は、海外の起業家には銀行口座の作りづらさや日本独特の商習慣がハードルになるとの見方を示す。
 人工知能(AI)による特許検索サービスを手がけ主に日本で事業展開する米アンプリファイド・エーアイのサムエル・デイビス最高経営責任者(CEO)は「日本は欧米に比べてベンチャー業界が成熟しておらず支援する人材も足りない」と指摘する。
 中国・上海出身で電子商取引(EC)アプリを手掛けるカウシェの門奈剣平代表取締役は「最大の難関は言語だ。日本語が話せないと、法人設立の手続きもできない」と語る。
 アジアの各国はより柔軟な受け入れ体制を整える。韓国はビザ取得の際に決まった条件をすべて満たすのではなく、特許の保有や学歴など複数の選択肢からあてはまる項目を選んで申請ができる。タイは60万バーツ(約250万円)以上の預金などがあれば最長2年間滞在でき、家族も同期間滞在することが可能だ。

【さよならスマホ、2050年に普及率0% 眼球に情報端末 1億人の未来図】
 同じ29の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本の人口が1億人を切る2050年代には、世界でスマートフォンが姿を消して目に情報端末を装着しているかもしれない。触覚もデジタルで再現され、メタバース(仮想空間)で現実のようにスポーツを楽しむことも。国内人口の半数を占める見通しのデジタル世代が新しいライフスタイルを生む。
Zとα世代が新しい世界けん引
 「2050年にスマートフォンとパソコンの普及率は0%」。みずほ銀行が昨年4月にまとめた50年までのIT(情報通信)など主要産業を展望する調査報告書。生活必需品といえるスマホの世界の普及率は30年に現在の65%から60%に低下し、50年に0%と予測する。
 スマホが影も形もなくなったとしても、生活のデジタル化は止まらない。同報告書は、眼鏡型の「スマートグラス」や裸眼に装着する「スマートコンタクト」などの次世代の情報端末が、スマホの代わりに生活に溶け込んでいくと指摘する。
 スマートコンタクトの普及率は50年に70%と予測するが、情報端末を目の中に入れることに抵抗感を持つ現役世代は少なくない。みずほ銀産業調査部の山口意参事役は「(2010年代以降に生まれた)α世代や(1990年代半ば以降に生まれた)Z世代が新しい世界のけん引役となる」と語る。同報告書によると、2050年にはZ世代とα世代以降が総人口の半数を占める見通しだ。
 生まれた時にはスマホが存在し、デジタル上のコミュニケーションが当たり前のα世代。現在は10代以下の彼ら彼女らが大人になるとともに、スマホも「ガラケー」のように時代遅れの存在となっていく。次世代端末を駆使してメタバースなどで交流する時間が増していくのは必至だ。
 独調査会社のスタティスタは、世界のメタバース市場が30年に約4900億ドルと22年から11倍に拡大すると予想する。
出会いは仮想空間、アバターで会話
 すでにZ世代の間では、現実と仮想空間が融合したコミュニケーションが浸透しつつある。
 今年4月にサービス開始し、恋愛メタバースをうたう「Memoria(メモリア)」。参加者は30種類以上の中からアバターを選び、人工知能(AI)の導きで出会った異性のアバターと一対一で会話を楽しむ。20〜30代の若者を中心に週50件以上の出会いが生まれ、カップルが約30組成立した。結婚したカップルも2組いるという。
 「(分身キャラクターの)アバターであれば、現実の見た目や経歴を気にせずに自然体で相手と向き合える」。同サービスを運営する佐藤航智氏は、メタバースの利点を説く。佐藤氏自身も米国発のメタバースを通じて現在の妻と出会った。
 現実の景色とコンピューターで合成した画像などを重ね合わせる複合現実(MR)の利用も広がろうとしている。
 クボタは24年度から、米マイクロソフトのMR端末「ホロレンズ2」を使った水処理施設の点検を始める。端末の画面上に点検の手順や項目が表示され、新米社員でもベテランのように作業することができる。
現実とデジタル融合、触覚を再現
 テクノロジーの進展で現実との融合が加速し、仮想空間上の生活や仕事が主流となる可能性もある。50年には触覚をデジタルで再現する「ハプティクス」も当たり前の技術となりそうだ。
 ソニーは8月に「重心可変デバイス」と呼ぶ新技術を発表した。仮想現実(VR)ゴーグルを装着した状態で可変式の棒状デバイスを手に持つ。ゴーグル内の映像と同期して弓矢や銃を使う動きを取ると、手元のデバイスを通じて本物のような力の感覚が伝わってくる。実用化されれば、デジタル空間で現実のようにテニスなどのスポーツを楽しむことができそうだ。
 同社はハプティクスを活用し、足踏みすると氷雪や砂の上を歩いている感触を覚える技術も開発している。
 スマホも携帯電話もなかった時代には手軽に連絡することも難しく、待つことが当たり前だった。携帯電話などを経て、いつでもどこでも連絡できたり、情報を得られたりするスマホの普及は、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する生活につながった。これからはタイパを優先して現地には足を運ばず、夏休みの旅行や帰省などをメタバースの中で満足する人が増えそうだ。
 テクノロジーの力で身体や空間の制約から解放される未来。スマホで自分自身を撮影する「自撮り」はなくなり、旅先の写真で笑っているのは自分のアバターかもしれない。(DXエディター 杜師康佑、遠藤邦生、グラフィックス 佐藤季司、映像 森田英幸)
テック習熟、世代間で格差も 玉城絵美・琉球大学工学部教授 
 人間には視覚や聴覚といった五感以外にも、実はより多くの感覚が備わっている。30以上の感覚があると指摘する研究者もいる。
 重量覚や抵抗覚、位置覚に代表される「固有感覚」は、現在のテクノロジーでは他者と分かち合うことが十分にできていない。私自身も研究している「ボディーシェアリング」というテクノロジーは、固有感覚を通じて他者と体験を共有するために必要になっていく。
 ボディーシェアリングは、自分以外の他者やロボット、アバター(分身)が感じた固有感覚を同じように感じられるようにする。この点が、遠隔地にあるロボットを操作するといった従来の技術と大きく異なる。
 ボディーシェアリングを通じて3人分の人生を体験することができれば、50歳の人が3倍の150年分生きていることになる。生成AI(人工知能)などを組み合わせることで数人分の仕事が可能となれば、労働生産性もさらに高まるだろう。
 一方、2050年までに高齢化がさらに進んでいくことを考慮すると、テクノロジーを使える人と、使いこなせない人で実感できる体験や生産性の格差が広がっていく懸念がある。
 テクノロジー習熟の格差を生まないためにも、情報技術教育を充実させる必要がある。一部のエンジニアや研究者のみがテクノロジーを扱えるのではなく、誰でも使える技術にしていくことが、イノベーションを担う人材に課せられた使命だ。

【内閣支持33%、発足後最低 所得減税「適切でない」65% 日経世論調査】
 同じ29日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本経済新聞社とテレビ東京は27〜29日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は33%で2021年10月の政権発足後、最低となった。9月の前回調査からは9ポイント低下した。内閣を「支持しない」は8ポイント上昇し59%となった。
 岸田内閣の支持率はこれまで22年12月に35%と最も低かった。33%の内閣支持率は12年の自民党の政権復帰後でみても最低だ。
 内閣を支持しない理由のトップは「政策が悪い」(52%)で、「指導力がない」(34%)が2位となった。支持する理由は「自民党中心の内閣だから」(34%)が首位で、2位は「人柄が信頼できる」(26%)が続いた。
 首相が表明した物価高対策としての所得税減税を「適切だとは思わない」は65%だった。「適切だと思う」の24%を上回った。
 政府は1人当たり所得税3万円、住民税1万円の計4万円を減税する案を検討している。首相が26日の政府与党政策懇談会で自民・公明両党の税制調査会長へ所得税減税に向けた具体策を指示した。低所得世帯向けには給付措置をする。
 首相に優先的に処理してほしい政策課題は9月調査に引き続き「物価対策」が最も多かった。「経済全般」、「子育て・教育・少子化対策」が続いた。
 政府は物価高対策を柱として11月2日にまとめる経済対策でガソリンや電気・ガス料金の価格上昇を抑える補助を24年4月末まで延長すると明記する。電気・ガスは、24年5月以降「激変緩和の幅を縮小する」とも打ち出す。
 自民党の政党支持率も同党の政権奪還後で最も低い32%となった。2位は日本維新の会と立憲民主党が同率で9%だった。支持政党がない「無党派層」は30%。9月はそれぞれ38%、11%、6%、24%だった。
 調査は日経リサーチが27〜29日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し852件の回答を得た。回答率は38.1%。

【米大統領令、生成AIを初規制 公開前に安全評価義務づけ】
 30日(月曜)の日経速報メールは次のように報じた。
 バイデン米大統領は30日、人工知能(AI)の安全性の確保や技術革新を図るための大統領令を発令した。開発企業はサービス提供や利用開始前に、政府による安全性の評価を受けるよう義務付ける。法的拘束力を持つAI規制を米国で初めて導入する。
 米オープンAIの対話型AI「Chat(チャット)GPT」などの生成AIの登場によりAIの利便性に注目が集まる一方、偽情報の拡散や偏見の助長への懸念が高まっている。規制により事前に問題点がないかを検証し、野放図なサービス開発競争に歯止めをかける。
 米国立標準技術研究所(NIST)が公開前のAIシステムの安全性を評価する仕組みを作る。企業はシステム開発を連邦政府に通知し、テスト結果を政府と共有する。
 サイバー攻撃への耐性や差別や偏見を助長する危険性がないかを検証する。国防に必要な事業に関して、大統領の権限で国内産業を統制できる「国防生産法」に基づく法的措置と位置づける。
 米政府は今夏、オープンAIなどIT関連の主要15社と安全性確保のための自主規制に合意した。大統領令によって民間全体に一定の強制力を持つルールに変える。
 偽情報の拡散防止にはコンテンツが「AI製」かを識別できる仕組みを設ける。商務省がコンテンツ認証や電子的な透かしを表示する指針を作り、企業に順守を求める。すでに主要15社は関連システムの導入を受け入れた。
 生成AIの技術革新も後押しする。海外のAI関連の人材にビザ発給を緩和し、受け入れを拡大する。米国での就学や就労、滞在をしやすくするための支援を強化する。
 スタートアップ企業や研究者向けに国のAI関連データの利用を容易にし、助成金を増額する。生成AIの開発で先行する大手企業が新規参入による競争環境を妨げないよう米連邦取引委員会(FTC)が監視する。
 政府高官は記者団に「安全で信頼できる技術を開発する点で米国がリーダーシップを発揮している」と強調した。米国の方針を多国間のルールづくりに反映するよう関係各国に働きかける。
 サイバー攻撃対策ではAI企業と協力して攻撃の察知や対処など先進技術の開発に取り組む。サイバーセキュリティーにおいて「AIがゲームチェンジャー的な能力を持つ」(米政府)とみて官民で防衛力の底上げを図る。
 医療分野ではAIが関わりうる危険な医療行為の事例を収集し、安全性の指針を作る。教育分野ではAIを活用した個別指導などのプログラム開発に乗り出す。AIがもたらす労働市場への影響も調査し、連邦政府が労働者の支援強化策を策定する。
AIルール巡る主導権争い 米国は企業配慮、欧州は罰則
 人工知能(AI)の開発・利用に関する規制では米国と欧州が国際標準となるルールづくりで主導権を競う。
 米政府が導入した大統領令では企業への罰則が見送られた。提供企業に罰則を科す案を協議している欧州連合(EU)に比べて企業活動に配慮した内容だ。
 どの国・地域の規制をモデルに国際ルールが成り立つかは今後のAI産業の覇権争いにも関わる。バイデン米政権は連邦議会の承認が不要な大統領令で欧州に先んじて国内規制を導入した。
 大統領令は米主要15社と合意した自主ルールの項目が中心だ。米企業が制度設計に加わり、現時点で企業側が対応可能な項目を積み上げた内容といえる。9月には巨大テック企業のトップが連邦議会に集まり規制導入に賛同した。米企業がAI分野で覇権を握り続けるために、官民で連携する戦略が鮮明になった。
 一方、EUは包括的なAI規制案を準備している。6月に立法機関の欧州議会が採択し、現在は執行機関の欧州委員会と加盟国の閣僚理事会との詰めの協議を進める。EU主要機関で年内の合意を目指す。
 EUの規制案はAIのリスクを①容認できない②高い③限定的④最小限――の4段階に分け、それぞれ提供企業などの義務を定める。例えば潜在意識の操作や、子どもの搾取といった用途に使うAIは容認できないとして禁じる方向だ。
 規則に違反した場合、最大で「4000万ユーロ(約63億円)」か「全世界売上高の7%」の高いほうを制裁金として科す案がある。
EUは世界に先駆けて厳しいルール案を公表し、他国への波及効果を狙う戦略をとる。グローバル企業が欧州ルールに対応しようとすることで、各国の規制議論に影響が及ぶためだ。
 規制の方向性は米欧とも似通う。安全性を事前に評価し、偽情報の拡散に対応するといった柱は同じだ。労働者保護の観点から厳しい規制を課すべきだとの議論もある。米国では「AIに仕事が奪われる」として映画脚本家らの大規模なストライキが起きた。
米連邦議会は超党派議員が中心となり数カ月以内にAI規制法案の策定を進める。第1弾の大統領令による規制に続き、法整備が第2段階となる。米世論の流れによっては規制の度合いが欧州に近づく可能性もある。(ワシントン=飛田臨太郎、ブリュッセル=辻隆史)

【企業の身代金ウイルス被害、業務停止2週間 1億円超3割】
 10月31日(火曜)の日経速報メールは次のように報じた。
ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受け被害が判明した企業で平均2週間、一部業務停止に陥ったことが民間セキュリティー会社などの調査で分かった。大量のデータを暗号化する攻撃の影響は大きく、被害企業の3割で1億円超の損失が発生した。
•【関連記事】サイバー攻撃に身代金払わず 米欧日50カ国・地域が合意
サイバー攻撃全体の被害状況と比べると、業務停止期間は2倍以上長く、損失額は4割多かった。事業に必要なデータが暗号化されるランサム攻撃は業務への影響が大きく、調査で被害の深刻さが鮮明になった。早期の復旧には訓練やバックアップといった備えが重要になる。
 調査は6月にトレンドマイクロとNPO法人「CIO Lounge」(大阪市)が実施した。従業員500人以上の企業でセキュリティー業務に携わり、3年以内にサイバー攻撃に遭ったことがある部長職以上305人にアンケートした。
 全体の13.1%がランサム攻撃により一部の業務を停止した経験があった。うち業務停止に陥った期間は「1日超〜10日」が42.5%で最も多く、「12〜24時間」が35.0%で続いた。平均は国内拠点で13.0日、海外拠点で15.1日だった。
 全体の約2割で復旧時の人件費や再発防止費、身代金の支払いといった損失も出た。損失額は「1千万円未満」が34.5%だった一方、「1億円以上」が31.0%を占め、「10億円以上」の例もあった。平均は1億7689万円だった。
 2022年2月にトヨタ自動車の取引先メーカーがランサム攻撃を受けた際には、トヨタが国内の全工場の稼働を1日停止した。同年10月に攻撃があった大阪急性期・総合医療センター(大阪市)では新規外来受け入れへの影響が約2カ月続いた。
警察庁によると、23年1〜6月に全国の警察が把握した企業などのランサムウエア被害は103件に上り、3半期連続で100件を超えた。攻撃集団の摘発に向け各国の警察・捜査当局が共同捜査を進めているが、被害に歯止めがかかっていない。
 ランサム攻撃にどう備えるか。トレンドマイクロの岡本勝之セキュリティエバンジェリストは「攻撃を含め、サイバーインシデント(事故につながりかねない事態)が発生した場合の事業継続計画(BCP)を作るなど復旧対策の強化が急務だ」と話す。
 取り組みが広がっているとはいえない。デロイトトーマツグループが22年に476社に実施した調査によると、ランサムウエアに対して「バックアップなどを整備している」と答えたのは34%、「サイバーインシデントの対応訓練をしている」のは25%にとどまった。
ヤンマーホールディングスで情報セキュリティー責任者を務めたCIO Loungeの四本英夫氏は「予算や人員の配分を判断できるサイバーセキュリティー人材が足りず、企業が抜本的な対策に乗り出せない要因になっている」とみる。
 総務省は人材育成に向け、重要インフラ事業者のセキュリティー担当者などを対象として攻撃への対応を学べる訓練を実施している。IPA(情報処理推進機構)も18年から、経営層の補佐を行う部門責任者らを対象に防御策についてのセミナーを実施している。
 四本氏は「攻撃による事業への影響を最低限に抑えるにはどのシステムを優先して復旧させるかという判断も重要になる。外部の教育プログラムも活用しつつ、自社のシステムにも詳しい専門人材を育成する必要がある」と指摘した。(小林伶)

ランサムウエアとは
 企業などが保有する機密や重要データを暗号化し、システムを使えなくしたうえで、復元と引き換えに金銭を要求するコンピューターウイルス。身代金(Ransom)とソフトウエア(Software)を組み合わせた造語で、1990年ごろに海外で登場した。
 2017年に世界で拡散した「ワナクライ」などで広く知られるようになった。近年は暗号化前に情報を窃取しておき、支払いがなければ暴露する「二重脅迫」など手口が巧妙化している。
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【トヨタ、米国のEV電池工場に1.2兆円追加投資】
 同じ31日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は10月31日、米ノースカロライナ州で建設中の車載電池工場に約80億ドル(約1兆2000億円)を追加投資すると発表した。同工場の累計投資額は約139億ドルとなる。自前の工場の生産体制を強化し、北米で必要な電池の確保を急ぐ。
電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)用の生産ラインを新たに8本立ち上げ、2030年までに計10本にする。ハイブリッド車(HV)用も4本設ける予定だ。
年間生産能力は30ギガワット時以上で、3列シートを備えた多目的スポーツ車(SUV)のEVなどに搭載する。現行のEV換算では40万台分程度に相当する。
電池工場は25年に稼働を始める計画。工場に10%を出資している豊田通商は1日、今回の追加投資約80億ドルのうち、約3億7000万ドルを負担すると発表した。追加投資で新たに3000人を雇用し、5000人超が勤務する工場とする。
 トヨタはEVの世界販売台数を26年に150万台、30年に350万台まで引き上げる計画を掲げている。22年の販売実績は2万4000台で、今後4年で60倍以上に増やさなければならない。
10月には韓国のLGエネルギーソリューション(LGES)とリチウムイオン電池の供給契約を結んだ。LGESが約30億ドルを投じ、米ミシガン州にある同社工場にトヨタ専用の電池生産ラインを新設する。
LGESの工場を合わせれば、26年時点で北米で必要なEV電池はほぼ確保できたとみられる。
日本ではパナソニックホールディングスと共同出資する電池会社プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)などでの生産を強化する。

【トヨタ純利益過去最高の3.9兆円 24年3月、6割増に修正】
 同じ31日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は1日、2024年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比61%増の3兆9500億円になりそうだと発表した。従来予想(2兆5800億円)に比べ1兆3700億円の上方修正で、22年3月期の2兆8501億円を超え2年ぶりの最高益となる。生産の好調や為替の円安効果が利益を押し上げる。車両の機能向上に伴う値上げも貢献する。
日本企業の純利益で歴代の最高は、ソフトバンクグループが21年3月期に記録した4兆9879億円だった。トヨタは2位に入る。
 売上高見通しは16%増の43兆円、営業利益見通しは65%増の4兆5000億円とそれぞれ5兆円、1兆5000億円引き上げた。営業利益予想は従来予想の段階で日本企業で初の3兆円台としていたが、達成すれば初の4兆円超えとなる。
記者会見した宮崎洋一副社長は、「当社の収益構造は着実に改善している」と手応えを示した。
 営業利益見通しの増減要因は、前期比で生産台数の増加や車種構成の改善、値上げ効果といった点が1兆7300億円のプラスとなった。トヨタ・レクサスの生産台数は期初予想(前期比11%増の1010万台)を据え置いた。ただし車載半導体の不足が緩和したため、好採算な「レクサス」や「アルファード」といった高級車がつくれている。
通期の想定為替レートを1ドル=141円と、16円円安に見直した点も大きい。為替の円安効果は期初予想から1兆1800億円増え、前期比でも3050億円の増益見通しとなった。原価低減も進め、原材料やエネルギー代の高騰、人件費などのコスト増を補った。
 あわせて発表した23年4〜9月期の決算は、売上高が前年同期比24%増の21兆9816億円、純利益が2.2倍の2兆5894億円だった。営業利益も2.2倍の2兆5592億円で、アナリスト予想の平均(QUICKコンセンサス、2兆2241億円)を約3300億円上回った。純利益、営業利益とも過去最高を更新した。
4〜9月のトヨタ・レクサスの世界販売は前年同期比9%増の517万台で過去最高を更新した。ただ電気自動車(EV)の販売は約5万9000台と伸び悩んだ。
好調な業績を株式市場は好感し、トヨタ株は午後1時55分の決算発表直後に前日比6%高まで上昇し、午前から一段高となる場面があった。
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【日本製鉄、トヨタと三井物産への特許訴訟を放棄】
 11月2日(木曜)の日経速報メールは次のように報じた。
 日本製鉄は2日、電磁鋼板で特許が侵害されたとしてトヨタ自動車と三井物産を訴えていた損害賠償請求を放棄し終了させたと発表した。取引関係にある日本を代表する企業同士の異例の訴訟は約2年で終結した。同じく訴えていた鉄鋼世界最大手の中国宝武鋼鉄集団の子会社、宝山鋼鉄とは引き続き訴訟を続けるとしている。
日鉄は2021年10月、ハイブリッド車(HV)など電動車のモーター材料となる鉄鋼製品「無方向性電磁鋼板」で自社の特許権を侵害されたとしてトヨタと宝山を東京地裁に提訴した。両社に損害賠償を求め、トヨタには対象となる電動車の製造・販売差し止めの仮処分を申し立てた。日鉄は同年12月に取引に関わったとみられる三井物産も提訴した。
日鉄は今回の請求放棄について、提訴後にカーボンニュートラルに向けて各国での競争が激しくなり自動車と鉄鋼の両業界が強固に協力していくことが必要になったと環境の変化を指摘。その上で「係争の継続は日本の産業競争力の強化にとって好ましいものでない」とした。
和解ではなく訴訟を放棄した判断に関し、日鉄関係者は「和解だと数年かかる場合もあり、対立より早く終わらせて協力するのが望ましいと判断した」と話す。
 日鉄が特許侵害の対象としたのが高級機能鋼材の無方向性電磁鋼板だ。電動車のモーターに使い、回転率を左右する。日鉄は鋼板の成分や厚みなど自社が持つ特許に抵触する電磁鋼板を宝山が製造しトヨタに供給し、それを使ったモーターをトヨタが電動車に搭載し販売したと訴えた。日鉄はトヨタと宝山にそれぞれ200億円の損害賠償を求めた。
 双方の主張が対立するなか、法廷での正式な口頭弁論などは開かれず、裁判所と当事者で水面下の協議が続いた。関係者によると、トヨタに対する3つの訴訟の1つが10月初旬に結審した。判決は24年2月29日に予定されていた。
 日鉄は宝山に対して「素材メーカーとして自らの知的財産を守る」として訴訟を継続していくとした。
 今回の提訴後に特許訴訟のリスクを警戒し、日本の自動車大手の中には電磁鋼板の一部を中国製から日本製に切り替えたメーカーもあるという。日鉄は今後トヨタとの関係改善を図り、脱炭素の取り組みなどで協力を求めていくとみられる。
 日鉄の訴訟の放棄について、トヨタは「業界を超えて未来に向けた取り組みを進める」とコメントした。三井物産は「今後も良き事業パートナーでありたい」と述べた。

【米長官「戦闘の一時停止」要請 イスラエル首相は難色】
 11月3日(金曜、文化の日)、日経ニュースメールは次のように報じた。
この記事のポイント
・ブリンケン米国務長官がイスラエルを再訪問
・人道支援のため、攻撃の一時停止を働きかけ
・ネタニヤフ氏は「人質解放が先」と停戦拒む
【イスタンブール=木寺もも子】ブリンケン米国務長官は3日、イスラエルを再訪問した。イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの中心都市を包囲する中、人質解放などのため、攻撃の一時停止を働きかけた。中東訪問は10月に続き約2週間ぶりだが、今回はガザの人道状況への懸念を強くにじませた。
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「パレスチナ人を守るためにさらなる措置が必要だ」。ブリンケン氏は、イスラエルのネタニヤフ首相やヘルツォグ大統領と会談した後の記者会見で、同国の自衛権を改めて支持した。そのうえでイスラム組織ハマスが実効支配するガザの民間人被害を、最小化する必要性を強調した。
 イスラエル側との会談では、一時的な戦闘の停止も協議したという。ブリンケン氏は、短期間の停戦はガザに必要な人道支援の拡大や人質の解放交渉に役立つと訴えた。
 イスラエル側は強硬な姿勢を崩していないようだ。同国メディアによると、ネタニヤフ氏は会談後、「全ての人質が解放されない限り、一時的な停戦は受けいれない」と演説した。米国が求めたガザへの燃料搬入についても否定した。
米国は以前から、イスラエルによるハマスとの戦いを支持する姿勢を変えていない。だが、ガザの被害拡大を受け、発言のトーンを微妙に変化させている。バイデン大統領は1日、イスラエルとハマスの衝突には「一時停止が必要だ」と述べた。
イスラエル軍は2日、ガザの中心都市ガザ市の包囲を完了したと明らかにした。大規模な市街戦はいつ始まってもおかしくない。
 ハマスとの大規模な衝突以降、イスラエルは周辺国に拠点を置く親イラン組織などとも交戦している。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者、ナスララ師は3日に初めて演説し「我々はあらゆる可能性に対して備えがある」とイスラエルに警告した。
 一方で、ハマスによる10月7日の奇襲について「パレスチナ人だけの決定、実行だった」として関与を否定した。8日以降、イスラエルとの戦いに参戦したと明言したが、「敵(イスラエル)がレバノン侵攻を始めるなら、大きな過ちだ」などと述べるにとどめ、積極的な対イスラエルの戦線拡大には踏み込まなかった。
ブリンケン氏はイスラエルに続いてヨルダンを訪問するほか、トルコ外交筋によると、11月5日には同国を訪れる計画もある。
周辺国の訪問には、パレスチナ危機の収拾に向け、中東の友好国と協力関係を再確認する意味がある。ブリンケン氏は前回の中東訪問では、イスラエルのほかヨルダン、サウジアラビア、カタールなどアラブの6カ国を回り、紛争が地域に飛び火しないよう協議した。
 ただ、ブリンケン氏が10月にイスラエルを訪れた際、自らの出自に触れ「私もユダヤ人だ」と述べ、強固な連帯を示したことに対し、中東諸国の間では反発も広がった。ガザの被害拡大で、地域の反イスラエル感情はさらに強まっている。
ブリンケン氏の前回訪問に続くはずだったバイデン大統領の10月18日のヨルダン訪問は直前に中止となった。前夜に起きたガザの病院爆発を受け、アラブ側が態度を硬化させたためだ。同国のアブドラ国王やパレスチナ自治政府のアッバス議長、エジプトのシシ大統領との首脳会談は実現しなかった。
 ヨルダンのサファディ外相は今月2日の声明で、ブリンケン氏との会談で「ガザでのイスラエルの戦争を直ちに止める必要性を訴える」と述べた。
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・米大統領、人質解放へ「攻撃一時停止を」 イスラエルに
・ブリンケン氏、中国にイランへ働きかけ要請 ガザ衝突
・米無人機、ガザ上空で情報収集 人質救出を支援
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。池上彰ジャーナリスト・東京工業大学特命教授
ひとこと解説
ブリンケン国務長官の中東訪問は、バイデン大統領の再選戦略に関わってきます。バイデン大統領は、共和党がイスラエル支持で強硬な態度を取っている以上、自らも親イスラエルの態度にならざるをえません。その一方で、民主党の支持層は多様です。親パレスチナの人たちもいますし、どちらの陣営でなくても人道的な立場からパレスチナの一般市民の惨状に心を痛め、アメリカ政府に「イスラエルに即時停戦の圧力をかけろ」と要求する人たちもいます。両方を意識すると、結果的にバイデン政権の方針は曖昧なものになり、双方からの不満が高まります。中東問題は米国内の政治問題であり、ひいては日本にも関わってくる重大な国際問題なのです。

【中国、外資の直接投資が初のマイナスに 7〜9月】
 同じ3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【北京=川手伊織】外資企業の中国投資が一段と細っている。7〜9月は初めて、工場新設など新規投資分が撤退や事業縮小に伴う資本の回収分を下回った。先端半導体を巡る米中対立や中国でのスパイ摘発強化への懸念から、投資の抑制が広がる。外資離れは中国の技術革新のペースを鈍らせ、中長期の経済成長に影を落としかねない。
中国国家外貨管理局が3日公表した7〜9月の国際収支で明らかになった。
外資が工場建設などに投じた直接投資は118億ドル(約1兆7700億円)のマイナスだった。お金が中国から海外に流出し、新たな投資より撤退や事業縮小の方が多かったことを示す。マイナスとなるのは統計を遡れる1998年以降で初めてだ。
 外資の直接投資は上海のロックダウン(都市封鎖)で経済が混乱した2022年4〜6月から大幅な落ち込みが続いていた。中国日本商会が9月に会員企業向けに実施した調査では、23年は「投資しない」または「22年より減らす」との回答が5割近くを占めた。
新規投資を控える一因が米中対立の激化だ。中国米国商会が昨秋実施した調査では、66%の会員企業が「米中関係の緊張」を中国市場における事業リスクとして挙げた。
米国は8月、半導体や人工知能(AI)の分野で対中投資の規制強化を発表した。11月の首脳会談実現に向けて中国と調整を重ねるが、経済安全保障の観点からハイテク規制は続ける姿勢だ。米国企業などの対中投資はさらに細る可能性がある。
半導体分野では、すでに中国離れの傾向が鮮明になっている。米調査会社ロジウム・グループが調べた同分野の直接投資先をみると、2018年に48%だった中国のシェアは22年に1%まで下がった。
対照的に、米国は同じ期間に0%から37%に上がった。またインド、シンガポール、マレーシアの合計シェアも10%から38%に上昇した。
 米中対立のほか、中国で7月に施行した改正反スパイ法も進出企業の警戒を強めた。スパイ行為の対象が広がり、摘発リスクが高まったとの受け止めが広がる。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員は「中国の法規制は透明性に欠けており、中国での事業継続への懸念を高める要因になっている」と語る。
中国企業の競争力向上などを背景に、中国からの撤退を選択する動きもある。電気自動車(EV)対応が遅れた三菱自動車は10月、中国の生産から撤退すると発表した。
外資の中国離れをうけ、中国は製造業の外資規制緩和などさらなる対外開放の方針も打ち出している。三浦氏は「外資は当局の安全保障を重視する姿勢に懸念を強めており、中国への慎重姿勢はすぐには変わりづらい」とみる。
米中対立の長期化をにらみ、中国は半導体産業における自前のサプライチェーン(供給網)構築を急ぐ。ただ必要な装置や部品の海外調達が滞っている。技術革新や生産性向上のペースが落ちれば、中国の経済成長を下押ししかねない。世界第2の経済大国とのデカップリング(分断)は世界経済の成長にも影を落とす。

【サイバー特許、トップ10に中国勢6社 ファーウェイなど】
 11月4日(土曜)、日経速報メールは報じた。
 先端技術やウェブサービスに欠かせないサイバーセキュリティー技術で中国の存在感が増している。2023年時点の世界の特許保有件数は上位10社のうち6社を華為技術(ファーウェイ)などの中国企業が占めた。専門家は米中対立を契機に中国勢が独自技術の育成に力を入れ、経済安全保障を左右する技術分野でも一定の成果を収めつつあるとの見方を示す。
ランキングは日本経済新聞が米大手知財情報サービスのレクシスネクシスと協力して作成した。日本や米国、中国、欧州連合(EU)など世界95の国・地域の当局に登録された各企業の保有特許を対象に、国際的な特許分類「IPC」などに基づきサイバーセキュリティー分野について抽出した。
複数の国に出願した同一特許を1件と数える「特許ファミリー件数」を企業ごとに調べたところ、23年8月時点の保有件数のトップは米IBMの6363件だった。2位はファーウェイの5735件、3位は騰訊控股(テンセント)の4803件だった。
6位には中国の金融会社アント・グループ(3922件)、7位には中国国有送電大手ステートグリッド(国家電網、3696件)が入った。アリババ集団(3122件)や政府系ファンドの中国投資(CIC、3042件)もトップ10に名を連ねた。
中国企業の特許出願件数は米国が中国のハイテク企業への輸出規制を本格化した18年ごろから増えている。10年前と比べた特許保有件数の伸び率はIBMが1.5倍だったのに対し、ファーウェイは2.3倍、テンセントは13倍だった。
レクシスネクシス日本法人知財部門の大坂裕子アジアマーケティング責任者は「特に18年以降、中国企業全般で出願が急激に増えている」と指摘する。
18年はトランプ米政権(当時)が中国の先端技術製品に対して追加関税措置を課すなど、米中摩擦が始まったとされる年だ。大坂氏は「先端技術やデータを巡る覇権争いで知財保護の重要性が再認識され、中国企業の旺盛な出願をもたらした可能性がある」とみる。
分野別の内訳を分析したところ、ファーウェイは無線などの通信技術に関連するサイバー特許を多く保有していた。テンセントは電子メールや本人確認などの認証技術、アント・グループはデータベースの処理要求に使うクエリ言語に関連する保有特許が多く、各社の事業にひもづく分野に力を入れている。
ファーウェイは自動車関連の技術に強みを持つ。最も価値の高い技術は、ネットワークを用途に応じて仮想的に分割する「ネットワークスライシング」関連だ。高速通信規格「5G」やクラウドコンピューティングなどで応用可能で、コネクテッドカー(つながる車)や通信機器など幅広い業種に影響する。
 同社によると独BMWや仏ルノー、SUBARU(スバル)など各国大手と特許ライセンス契約を締結する。世界350社超がファーウェイのライセンスを取得し、2022年のライセンス収入は5億6000万ドル(約840億円)に上る。
新しい特許を出願する際、既存の特許の技術が基になっている場合には「引用元」として明示する必要がある。多くの引用がされる特許は技術的な価値が高いといえる。
こうした観点から各企業の特つ特許の引用数や、特許を有する地域の市場の強さを反映させて特許の価値を指数化したところ、ファーウェイが1位、アント・グループが2位となり、特許保有件数で首位だったIBMを上回った。直近5〜6年で出願した最新技術の割合がIBMなどより多く、他社から活発に引用されているため指数が高くなった。
先端技術の知的財産に詳しい大坂雅浩弁理士は、「中国勢がサイバー特許を数多く保有しておくことは、他国の企業による通信機器やソフトウエアなどの製品開発・販売へのけん制となる」と話す。企業が類似の技術の製品販売や特許出願を行う場合、既存の特許の侵害調査や技術文献などとの類似性を全て検証しなければならないためだ。
中国の製品・サービスが他国の市場から排除されたとしても、標準規格を満たすために欠かせない「標準必須特許」を握っておけば「参入障壁を崩すため、多額のコストを投じて一つ一つの特許の無効を主張するか、諦めてライセンス料を中国企業に支払うかのどちらかを迫られる」(大坂弁理士)という。
特許保有件数は新規出願によって増える一方、出願から20年で失効したり、登録料の支払いを止めたりすることで減少する。2000年末時点の世界ランキングで首位だったNECの23年の順位は10位に後退した。2000年末時点で2位だったNTTは23年には10位圏外になった。
23年時点の保有件数のランキングで上位30位以内に名を連ねた日本企業は5社だった。通信やウェブサービス分野における競争力の確保や経済安全保障上の観点からも、日本企業には積極的な技術革新の取り組みと知財保護の姿勢が求められている。(サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信)

【岸田文雄首相の偽動画拡散 生成AIか、日テレロゴも】
 4日夕方、日経速報メールは報じた。
 岸田文雄首相の声や画像を使い、性的な発言をしたように見せかけた偽の動画がSNS(交流サイト)上で拡散していることが4日、分かった。首相の声を生成AI(人工知能)に学習させて作られたとみられ、日本テレビのニュース番組のロゴが使われていた。
同社は「日本テレビの放送、番組ロゴをこのようなフェイク動画に悪用されたことは、到底許すことはできない」として、しかるべき対応を取るとしている。
偽動画では、スーツ姿の岸田首相が口元を動かしているような様子で、カメラに向かって発言する姿が写っている。動画は画面の端に「日テレNEWS24」のロゴが使われており、X(旧ツイッター)などで拡散された。〔共同〕

【動植物と昆虫、年4万種絶滅】
 4日の日本経済新聞(朝刊)の11面、「くらし探検隊」は次のように報じた。
 地球上で名前がある生物は約175種、年4万種がいかに急速な多様性の喪失かがわがる。この数字は保全生物学者のノーマン・マイヤーズ氏の著作「沈みゆく箱舟」にでており、多くの文献にも引用されている。種とは生物を分類する最小単位。例えばライオンは哺乳類、ネコ科、ヒョウ属で種がライオンだ。
 恐竜時代はほとんど絶滅する種はいなかったが、人間の活動が広がった17世紀以降に徐々に増え始めた。同氏は1900年以降は年1種、1975年には年1000種を超え、それ以降は年4万種が絶滅していると推計している。
 理由を知るために環境省希少種保全推進室の係長、皆藤琢磨さんを訪ねた。彼が挙げる理由は、以下の通り(加藤による整理)。
 (1)「種よって理由は様々だが、狩猟など直接的な理由が多かった」。かつて多く日本に分布していたが、1905年を最後に姿を消したニホンオオカミは害獣として退治されたことが絶滅の主因とされる。
 (2)現在は「水田や草原など人と自然が共生する里山の環境が失われ、生息地が減っている影響が大」
 (3)脅威のひとつは農薬でネオニコチノイドの散布によるミツバチの大量死。
 (4)米マイクロソフトの創業者で感染症対策に尽力するビル・ゲイツさんはひとを殺す生物のランキングを2014年に公表、1位は蚊、年間72万人の命を奪っているが、蚊の幼虫のボウフラがいなくなれば相当数の水辺の生物が絶滅る。
 (5)2003年10月10日、日本産最後のトキが絶滅。1999年に中国から贈られたつがいのトキの繁殖に成功。
 (6)鳥は人間以外にほぼ敵がいない生態系ピラミッドの頂点に位置するが、鳥の絶滅は生態系が崩れていることを象徴する。
 (7)森林や河川を守り、巣箱を設置するなど近30年の取組が実ってきた。「環境を守る意識が子どもたちにも広がり、生息域の拡大も期待できる」。

【阪神が日本一、38年ぶり2度目 オリックスに4勝3敗】
 11月5日の日経速報メールは報じた。
 プロ野球のSMBC日本シリーズ2023は5日、京セラドーム大阪で第7戦が行われ、阪神がオリックスに7-1で快勝し、対戦成績を4勝3敗として1985年以来38年ぶり2度目の日本一に輝いた。
【関連記事】
• ・阪神のノイジー、38年ぶり日本一呼び込む先制3ラン
• ・オリックス、連覇ならず 先発・宮城大弥「実力不足」
 阪神は四回にノイジーの2戦連続本塁打となる3ランで先制。五回に森下と大山、ノイジーの3連続適時打で3点を加えた。先発の青柳が五回途中まで無失点と好投し、救援陣も反撃を1点に抑えた。オリックスは先発宮城が五回途中5失点で降板し、2年連続日本一を逃した。
シリーズ最高殊勲選手(MVP)には阪神の近本が選ばれた。
阪神・青柳、「元エース」が反骨の投球
 阪神の先発・青柳は今シリーズ初登板。2022年は最多勝(13勝)など投手3冠に輝いたが、今季は8勝にとどまった。かつての信頼は薄れ、シリーズ第7戦まで出番が巡ってこなかった元エースが反骨の投球を見せられるかどうかが、この日の焦点といえた。
 はたして、マウンドに上がった青柳は往時の大黒柱の姿だった。一回、2番・宗に初安打を打たれた後、紅林は体に当たりそうな軌道から内角にスライダーを決めて見逃し三振。森も打ち取り上々の滑り出しとした。
 カーブにツーシームと変化球がよく切れたが、何よりも直球に威力があった。最速149キロをコーナーに決め、相手の中軸を無安打に封じた。
 意地の熱投に感化された打線の火付け役はノイジー。四回に左翼へ先制3ランを放った。五回は連打などでオリックスの先発・宮城を降板に追い込み、代わった比嘉から森下、大山、ノイジーが3連続適時打。前日、山本に1得点のみに抑えられた鬱憤を晴らすように打線がつながった。
 青柳は責任投球回を間近にした五回2死一、二塁で降板。ただ、味方の打線を奮い立たせ、試合の流れをつくった点で十分に責任は果たした。「とにかくいい緊張感だった。長いイニングを投げるとかは考えず、目の前の一人ひとりを抑えることに集中して投げた。きょうできる自分の仕事はできたと思う」
 岡田監督は六回から伊藤将を投入した。先発の軸をつぎ込む日本シリーズならではの起用も奏功し、38年ぶり2度目の日本一を達成。監督復帰1年目でチームを球界の頂点に導き、球団史に新たな一ページを刻んだ。(合六謙二)

【空飛ぶ車、離陸近づく 新興30社が軽量化・航続距離競う】
 6日の日経速報メールは報じた。
 【この記事のポイント】
・「空飛ぶクルマ」の世界市場は、2032年に357億ドルに拡大
・スタートアップを中心に、世界で28社が開発に取り組む
・実用化に向け、輸送力や安全性などが課題に
 「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動垂直離着陸機の実用化が近づいてきた。滑走路が不要で騒音が少なく、大都市の渋滞対策の切り札になると見込まれている。国内外で約30のスタートアップが立ち上がり、軽量化や航続距離などの課題解決に挑んでいる。
スカイドライブ、トヨタ出身者らが創業
 日本勢で開発をリードするのが、2018年設立のスカイドライブ(愛知県豊田市)だ。トヨタ自動車出身で創業メンバーの福沢知浩最高経営責任者(CEO)は「移動革命を起こす」と意気込む。
 社名を冠した初の商用機「SKYDRIVE」は3人乗りで、自動車の車検に相当する耐空証明を25年に取得する目標を掲げる。生産面ではスズキと提携し、同社の工場を活用して最大年間100機の製造能力を計画する。
 スカイドライブが追求するのは機体の軽さだ。航空機にも使われる炭素繊維複合材を採用し、最大離陸重量は1.4トンと中型ヘリコプターの半分程度に抑えた。一般的なビルの屋上で離着陸することを想定している。
 12基のローター(回転翼)を同一平面上ではなく、ドーム状の曲面の上に配置したのもスカイドライブの機体の特徴だ。前進時に機体後方のローターに負荷が集中するのを防ぎ、電力効率を最適化できる。ローターを支えるフレームの形状については100種類近い候補から選び抜き、特許も申請した。
 現在、都市内の空の移動はヘリコプターが担っているが、離着陸の拠点となるヘリポートに関する規制は多い。エンジンで大型のローターを回すため騒音も大きい。国内の航空法ではビルの谷間での飛行は原則禁じられている。
 電動垂直離着陸機は英文の頭文字をとって「eVTOL(イーブイトール)」とも呼ばれる。一般に複数の小型プロペラを使って飛行するため騒音が小さく、細かな姿勢制御も容易になる。これまで活用が進んでいなかった低高度の空域を移動のための空間に変える可能性がある。
 スカイドライブの福沢氏は「軽量化によって様々なビルの屋上に離着陸できることは、(人口密度が高い)アジア市場で強みになる」と強調する。商業運航に必要な型式証明の取得は26年となる見込みだが、すでにベトナムや米国、韓国で航空機リース大手などから購入予約を獲得した。
ボーイング系、自律飛行で運賃低く
 米SMGコンサルティングによると世界では現在、スタートアップを中心に28社が電動垂直離着陸機の開発に取り組む。課題は輸送力だ。各社が開発中の機体は3〜4人乗りであることがほとんど。パイロットが座る操縦席を除いた旅客用の座席は2〜3席となるため、運航コストは割高になるおそれがある。
 自律飛行機能によってこうした短所の克服を目指すのが米ボーイング子会社の米ウィスク・エアロだ。22年に開発を表明した4人乗りの新型機では民間航空機の管制技術を応用した。操縦席をなくすとともに、地上からの制御も少なくした。
 ウィスクの技術陣は操縦士の人件費を浮かせることで乗客1人分の運航コストを「1マイル(約1.6キロメートル)当たり3ドル(約450円)に下げられる」と試算する。これは米ニューヨークのタクシー料金とほぼ同じ水準だ。
 電気自動車(EV)と同様に、電動垂直離着陸機は一定の間隔で充電が必要になる。航続距離を伸ばすために搭載する電池の容量を増やすと、機体が重くなって電力消費が増えてしまうジレンマを抱える。現在の技術で達成できる航続距離は数十キロメートル程度とされ、用途は都市内の交通に限られていた。
 仏アセンダンス・フライト・テクノロジーズの新型機「ATEA」はモーターとエンジンを併用するハイブリッドの駆動方式を採用した。製品担当者は「都市間の飛行も可能だ」といい、東京―大阪間に相当する400キロメートルの航続距離達成を目指している。
 今後の商用化レースの台風の目となりそうなのが、中国勢だ。イーハンは10月、自動操縦機能を持つ新型機「EH216-S」について中国当局から商業運航に必要な型式証明を取得したと発表した。自律飛行型が型式証明の認可を受けたのは世界初としている。
 イーハンは21年に型式証明の取得を申請し、4万回を超える試験飛行を通じて安全性などを検証した。電動垂直離着陸機という全く新しい分野で「スピード承認」を受けられた背景には、国際競争で主導権を握りたいという中国政府の思惑があるとの見方もある。
 大手自動車メーカーの間でも、空の移動サービスに挑む動きが相次いでいる。5日まで都内で開かれた「ジャパンモビリティショー2023」(旧東京モーターショー)ではSUBARU(スバル)が電動垂直離着陸機のコンセプトを発表した。ホンダや独フォルクスワーゲンも開発に乗り出すなど、「100年に1度」とされる移動革命に出遅れまいとする動きが広がっている。
東レ、炭素繊維で部品開発
 電動垂直離着陸機の主要部品であるモーターや機体の素材は航空機や自動車産業で培った技術が生かせる。機体の開発はスタートアップが主導する一方で、サプライチェーン(供給網)の構築では大手メーカーが存在感を高めつつある。
 「今回の採用は、当社にとって重要な一歩だ」。デンソーは電動航空機向けに開発したモーターがドイツの新興リリウムが開発中の機体で初めて採用された際の声明で、「空飛ぶクルマ」分野にかける意気込みをこう表現した。
 米重電大手ハネウェルと共同開発したモーターの主要部品は重さ約4キログラムながら、普通乗用車のガソリンエンジン並みの100キロワット(136馬力)の出力がある。主要部品に熱伝導性の高い樹脂材料を使って冷却性能を高め、軽量化につなげた。重量1キログラム当たりの出力は従来のモーターの数十倍に達する。
 リリウムが開発中の7人乗りの新型機「リリウムジェット」はダクトの中のプロペラがジェットエンジンのように空気を噴射して推進力を得る。30のダクトに一つずつ高出力モーターを配置することで、250キロメートル以上の航続距離の実現を目指している。
 航空機エンジン大手の英ロールス・ロイスはモーターと内燃機関の両方を動力源とするハイブリッド方式の機体向けに、小型エンジンの開発を進めている。飛行中の機体で発電機を回し、その電気でローター(回転翼)を動かす仕組みだ。
 24年に試験提供を始める新型エンジンの発電能力は最大1200キロワット。電動垂直離着陸機だけでなく、最大19人乗りの小型電気飛行機に求められる電力もまかなえる。一般的な航空燃料のケロシンに加えて、再生航空燃料(SAF)や水素にも対応するなど環境に配慮した。
 炭素繊維の世界シェア首位で、航空機分野を得意とする東レグループは空飛ぶクルマの領域でも着々と先手を打っている。トヨタ自動車の出資を受けて機体開発を進める米ジョビー・アビエーションなどと相次いで素材の供給契約を結んだ。日本のスカイドライブとは炭素繊維複合材を使う構造部品の共同開発にも着手している。
 電動垂直離着陸機を使った空のモビリティーサービスを始めるには、乗客が乗り降りするインフラの整備も必要になる。兼松はドローン(小型無人機)を使った物流などで実績のある英スカイポーツに出資し、充電設備などを備える離着陸施設の設置と運営に参入する計画を表明している。
安全運航へ官民で制度整備
 カナダの調査会社プレシデンス・リサーチによると、ドローン(小型無人機)を含む「空飛ぶクルマ」の世界市場は2032年に357億ドル(約5兆3000億円)になり、22年の3.2倍に拡大する見通し。同時に淘汰も進んでおり、競争の行方は混沌としている。
 16年に「空のライドシェアサービス」の開発部門を立ち上げた米ウーバーテクノロジーズにとっては、新型コロナウイルスの感染拡大が誤算となった。米国で23年の商用化を目指していたが、行動制限によって人々の移動需要が急減した20年に撤退を決定。関連する知的財産や人材を米ジョビー・アビエーションに譲渡した。
 米グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジ氏の支援で空飛ぶクルマの開発を進めていた米キティホークも22年に事業を休止した。1人乗りの「フライヤー」の試験飛行などを重ねてきたが、経営陣の対立などが報じられていた。
 製造元や運航事業者の異なる多数の機体が市街地の上空を安全に飛行するには、運航ルールや操縦士免許などの制度整備が欠かせない。飛行地域の住民らの理解を得る取り組みも必要となる。企業の力だけでは実現が難しく、官民一体の取り組みが動き出している。
 国内で電動垂直離着陸機が商業飛行する最初の舞台となりそうなのが、25年の国際博覧会(大阪・関西万博)だ。大阪府・市や関西経済連合会などは国の特区制度を使い、大胆な規制緩和によって国内の他地域に先駆ける計画を示している。
 航空輸送ではなにより安全性が重視されるだけに、各種の規制に適合してサービスを始めるまでには時間がかかる。今後は資金難に陥ったスタートアップを自動車や航空機大手が買収する展開も予想される。新たな空のモビリティー市場の勝者はまだ見通せない。(茂野新太)

【中国に狙われた工作機械 核開発の供給網に抜け穴】
 7日の日経速報メールは報じた。なお写真や図像が多い記事であるが、本ブログでは図像類の掲載に制限があるため削除してある。関心のある方は直接にアクセスして欲しい。ここではヒントとなる図像類の解説のみを掲げる。
  2018年公開国中央人民放送局(CNR)のネット記事「央広網」から引用
  習近平は「強国建設の推進」を強調する(2022年10月、北京の人民大会堂にて)「国防と軍隊の現代化を全面的に推し進める。国家の主権、安全、発展を守る鋼鉄の中国工程物理研究院では多くの研究者が核開発に携わっている(CAEPが2018年にウィーチャットで公開した設立60周年記念の動画から引用)
 中国工程物理研究院が拠点とする四川省綿陽市の中心部に設置された核を模したモニュメント(出所は中国核学会)、背景の衛星画像の出所は© Planet Labs
(出所)包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)
(出所)米軍備管理協会
米核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル「DF(東風)41号」は米国のほぼ全域を射程に収める(ロイター)核兵器の開発を支える先
 中国工程物理研究院の入札情報サイトから海外製品の調達ルートを調査した
(注)連続で多種類の加工ができる高性能な工作機械「マシニングセンター」(HSコード: 8457)(出所)国連統計
 「5軸加工中心(5軸マシニングセンター)」と題した入札公告の文書から引用
具有良好的动态品质」―高効率、高精度、高信頼性の実現を要求する。
……先進的な技術およびシステムを採用し、高品質を保証すること(日本語訳)
 「采购合同(調達契約)」と題した同公告の契約文書から引用
 「五軸数控加工中心技術協議(5軸CNCマシニングセンターの技術協定)」と題した文書から引用
同じ文書から引用
 「中小型零件車削自動化単元技術協議(中小型部品用自動旋盤セルの技術協定)」と題した文書から引用
 「数控電火花机床技術協議(CNC放電加工機の技術協定)」と題した文書から引用
 中国工程物理研究院が公開する契約書に基づく、ファナックの中国関連会社は北京哈徳曼自動化設備から製品をCAEPに販売しないとの回答を得た。
 契約書と取材に基づく、流通した工作機械は規制の対象外
 入札契約文書のスペック表に記載された企業名をもとに日経が作成
 契約書と取材に基づく、上海滝沢科技とTAKISAWAの間に資本関係はない
 拓殖大教授の佐藤丙午は輸出管理の難しさを指摘する
 (出所) 原子力供給国グループ、ワッセナー合意応の違いは、中国での事業機会をうかがう各国の温度差を映す。
 米エヌビディアは中国向けのダウングレード品を開発し、新規制を回避しようとした(ロイター)

【中国CATL董事「全固体電池に注力、世界のリーダーに」 日経フォーラム第25回世界経営者会議 潘健氏】
 8日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 車載電池の世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)で董事を務める潘健氏は8日、日経フォーラム第25回世界経営者会議で講演した。エネルギー密度と安全性を高められる全固体電池について「研究開発と大量生産に注力し、世界のリーダーになっていく」と強調した。
 CATLは車載電池の世界シェアで首位に立つ。今後は電池の高密度化に取り組み、電気自動車(EV)の航続距離を伸ばすだけでなく、「船舶や航空機の電動化にも取り組んでいく」と説明した。ナトリウムイオン電池などコストを抑えた電池の開発も進めていき「近距離EVなどの用途も開拓していく」と語った。
 素材を通じて電池のエネルギー密度を高める技術に加え、構造の改良にも取り組む。2025年には電池やモーター、管理システムなどを一体化した「CIIC(CATL・インテグレーテッド・インテリジェント・シャシー)」というスケートボード型のシャシーを提供する。EVの製造コストを大きく引き下げ、車室空間も広く取ることが可能になる。
 EVが消費者に受け入れられるには航続距離の延長やコストの抑制のほか、「充電時間の短縮が重要だ」と強調。6年前には電池容量の8割を充電するのに8時間を要したが、最新の電池では10分に短縮。近い将来は「ガソリン給油と同程度の時間でEVを充電できる時代が来る」との見通しを示した。
 各国が2050年ごろのカーボンニュートラル実現を目標として掲げる中、「風力や太陽光による発電が普及していくのは間違いない」とした。車載用だけでなく再エネ発電と送電網をつなぐ用途でも電池の重要性を訴えた。
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【大成建設、三菱系ゼネコン買収 人手不足でM&A活発化】 
 9日(木曜)の日経ニュースメールは次のように報じた。
 大成建設は9日、中堅ゼネコンのピーエス三菱を買収する方針を固めた。TOB(株式公開買い付け)を通じて、株式の過半を取得し子会社化する。買収額は200億円規模となるもようだ。建設業界は残業規制が適用される「2024年問題」もあり人手不足が深刻化している。人手不足の解消を目的としたM&A(合併・買収)が動き始めた。
ピーエス三菱株33.46%を持つUBE三菱セメントはTOBに応じるもようだ。
ピーエス三菱はともに三菱グループだった中堅ゼネコンの三菱建設とピー・エスが合併して2002年に発足した。23年3月期の連結売上高は1093億円、純利益は37億円。橋梁施工で使う耐久性の高い「プレストレストコンクリート(PC)」に強みを持つ。高速道路会社などから老朽化したインフラの補修工事の発注が高水準に推移しており、大成建設は買収を通じて技術者を確保し受注拡大につなげる。
建設業では都心再開発や製造業の設備投資、国土強靱(きょうじん)化に伴う土木需要などが堅調で、22年度の国内建設受注額は過去20年で最も多い16兆2609億円だった。
ピーエス三菱は高速道路各社が発注したリニューアル工事を多数手がける。大成建設はピーエス三菱の橋梁技術を取り込んで土木工事の受注拡大を目指す。
大成建設は21年にM&A(合併・買収)やアライアンスの戦略立案を担当する部署を新設した。中期経営計画では21年3月期に1兆4801億円だった連結売上高を31年3月期までに2兆5000億円に増やすため、M&Aを積極的に進める方針を示していた。
ゼネコン業界では現場監督や技術者、下請け業者の職人の数が減少している。総務省によると22年の建設業の就業者数は479万人と、ピークだった97年の685万人から3割減少した。買収により技術者を中心に建設従事者を確保する狙いもある。

【みずほ、楽天証券に追加出資を発表 上場申請は取り下げ】
 9日の日経速報メールは次のように報じた。
 みずほフィナンシャルグループは9日、傘下のみずほ証券を通じて楽天証券に追加出資すると発表した。金額は約870億円で、出資比率を現在の20%から49%まで高める。楽天証券の持ち株会社は年内にも東京証券取引所へ上場する計画だったが、10月に始めた日本株売買手数料の無料化で収益構造の変化は避けられない。提携強化を契機にひとたび上場の申請を取り下げた。
みずほは2022年に楽天証券の株式20%程度を約800億円で取得した。関係当局の承認を前提に、今年12月半ばに追加で29%分の株式を取得する。みずほにとって持ち分法適用会社の位置付けは変わらない。
今回の追加出資を機に、みずほ銀行の預金口座と楽天証券の口座を連携させるなど提携関係を強化する。9日に記者会見した楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は「対面とリアルで非常に強いみずほグループとさらに強いパートナーシップをつくっていく」と話した。
楽天グループは携帯電話事業の設備投資で財務内容が悪化し、22年12月期まで4期連続で最終赤字を計上した。9日に公表した23年1〜9月期も2084億円の最終赤字で、5期連続の赤字となる可能性が強まっている。
24〜25年にかけ、8000億円規模の社債償還も控える。楽天証券ホールディングスの上場で1000億円規模の資金調達をめざしていたが、新たな調達策としてみずほの追加出資を仰ぐことになった。みずほは今回の追加出資で約870億円を拠出する。上場の方針そのものは今後も維持し、再申請の時機を探るという。

【世界の製造業9%減益、中国減速で電機など不振 7〜9月 イブニングスクープ】
 9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 中国景気の減速で世界の製造業の業績が悪化している。2023年7〜9月期の純利益は前年同期より9%減り、4四半期連続で減益だった。スマートフォンや半導体が不振で、設備投資需要も低調だった。金利上昇で利ざやが改善した金融や生産が正常化した自動車が支えて、全体は3%の増益だった。米中景気の先行きが懸念され、増益基調が続くかは不透明だ。
QUICK・ファクトセットのデータを使い、日米欧中などの主な上場企業約1万3000社(未発表の場合は市場予想、8日時点)の業績を集計した。株式の時価総額ベースで全体の約9割を占める。
7〜9月期の純利益の合計は1兆981億ドル(約160兆円)。主要な16業種のうち化学(43%減)や電機(12%減)など製造業を中心に9業種が減益だった。機械(10%減)は5四半期ぶりに減益となった。非製造業の利益は16%増えた。
 中国景気の変調が製造業の業績の悪化につながっている。QUICK・ファクトセットによると、全体の売上高に占める中国比率(推計値)が30%以上の非中国企業約240社の純利益は、3割減った。中国比率が10%以上〜30%未満(1%減)、10%未満(7%増)と比べ苦境が際立つ。
「世界の工場」と呼ばれる中国でスマホの生産や自動化設備などの需要低迷が幅広い業種を直撃した。
米半導体大手テキサス・インスツルメンツ、台湾積体電路製造(TSMC)はいずれも2割超の減益だ。TSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は「マクロ経済全体が弱含みで推移し、中国の需要回復が遅れて顧客は在庫管理に慎重な姿勢を崩していない」と話す。
 米化学大手のダウは59%の減益、デュポンは13%の減益だった。中国の設備投資が鈍り、工作機械の頭脳の数値制御(NC)装置といったファクトリーオートメーション(FA)機器も落ち込んだ。ファナックは20%の減益となった。業績の先行指標になる受注高は中国で35%減っている。
中国政府の景気刺激策への期待はあるものの、現地では足元の消費も低迷し始めている。米化粧品大手エスティ・ローダーは稼ぎ頭の中国市場の不振が響き、9割を超える減益となった。
製造業の業績が低迷するなか、金融が下支えした。増益額は全業種トップだ。米銀大手の純利益は商業銀行業務が中心のウェルズ・ファーゴが61%増、JPモルガン・チェースが35%増と好調だ。
夏以降に米金利の上昇に弾みがつくなか、融資で稼ぐ金利と、預金をはじめとする調達金利の差である利ざやが広がった。
米巨大テックは復調してきた。アップル、マイクロソフトなど6社の利益は41%増えた。人員削減などコスト圧縮を進めたほか、景気減速の影響を受けていたネット広告などが回復した。トヨタ自動車をはじめとした自動車も好調で、55%の増益だった。
 23年10〜12月期の先行きはQUICK・ファクトセットの市場予想を集計すると、製造業は7%の増益で、全体で21%の増益だ。
 中国経済への不安のほか、金融引き締めの長期化で、米国の景気減速への懸念は根強い。高金利環境は融資の需要減退や焦げ付きを招き、好調な金融の逆風になる。不良債権処理費用を積み増す動きもあり、ウェルズのチャールズ・シャーフCEOは「与信の絞り込みを続けている」と語る。
底堅かった米景気には減速感が漂う。米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した10月の非製造業景況感指数は5カ月ぶり低水準で、個人消費に変調の兆しがある。企業業績を支えてきた米景気が崩れれば、幅広い業種に影響が及ぶ可能性がある。

【イスラエルが戦闘休止、人道目的で1日4時間 米高官】
 11月10日未明、日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ワシントン=坂口幸裕】米政府高官は9日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ北部で人道支援を目的に同日から1日4時間程度の戦闘休止を始めると明らかにした。「イスラエルはガザ北部で(戦闘の)一時休止を開始し、その間は軍事作戦を実施しないと聞いている。このプロセスは今日から開始される」と語った。
 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が9日、記者団に「イスラエルがガザ北部で毎日4時間の一時停止を始めると理解している」と話した。米政府はイスラエルにイスラム組織ハマスが実効支配するガザでの戦闘を一時休止するよう求めてきた。人質解放や戦闘地域からの市民の退去などにつなげる狙いがある。
 バイデン米大統領は9日、イスラエルによる一時的な戦闘休止について「期待していたより少し時間がかかっている」と言及。首都ワシントン近郊で記者団の質問に答えた。イスラエルには3日間の攻撃休止を要請していたのかと問われ「3日以上の休止を求めた。さらに長い休止を要請した」と明言した。
 カービー氏は戦闘を休止する3時間前に事前通告されると説明した。「これは重要な一歩だ。必要な限り続けてほしい」と述べた。一方、いつまで継続するかについては言及を避けた。物資搬入や戦闘地域からの退去を可能にするため、数日前にイスラエルがガザ北部に2つの人道回廊を開設したとも表明した。
 これまでイスラエル側は一時的な戦闘休止に慎重な姿勢を示してきた。同国のネタニヤフ首相は6日、米ABCテレビのインタビューで「人質の解放なくして、ガザでの停戦はありえない」と表明。一方、人道物資の搬入や人質解放を可能にするため、過去に複数の場所で局所的に1時間のみ「戦術的な休止」に踏み切ったケースに触れていた。
 米政府はかねてアラブ諸国などが要求する「即時停戦」を否定しつつ、人道目的での戦闘の一時停止(pause)が必要との立場を取ってきた。人道物資の搬入や人質脱出を可能にするため攻撃休止の期間や対象地域は限定的にすべきだと唱え、当事者間の対話につながるガザ全域での戦闘中断を想定した「停戦(cease-fire)」と区別する。
 カービー氏は「現時点で停戦が適切だとは考えていない。10月7日にイスラエルを奇襲攻撃したハマスの行動を正当化することになる」と重ねて主張した。同国が戦闘休止を容認した要因を巡り「実現へ多くの議論を重ねた結果だ」と発言した。
 バイデン氏やブリンケン米国務長官はネタニヤフ氏に人道目的の戦闘休止を受け入れるよう直接働きかけてきた。背景にはハマスへの過剰な報復に伴う犠牲者拡大に反発するアラブ諸国を含む国際社会への配慮がある。
 イスラエルによるガザ攻撃に伴うパレスチナ側の民間人死者は1万人を超え「この戦争が自衛であるとは認めない」(ヨルダンのサファディ外相)などと非難の声が強まる。米国はイスラエル支持一辺倒では、中東地域で同国が孤立すると懸念する。
 24年11月の大統領選まで1年を切り、国内世論も意識する。米CBSテレビなどが10月30日から11月3日に実施した世論調査によると、バイデン氏の地盤である民主支持層の意見は割れる。イスラエルとパレスチナそれぞれに同情するとの回答が8割で拮抗する。
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【日本・韓国、水素とアンモニア共同供給網 両首脳表明へ】
 10日の日経速報メールは報じた。
 日本と韓国は脱炭素燃料の水素やアンモニアの供給網を創設する。両国による共同調達で価格交渉力を高め、安定確保につなげる狙いがある。量子技術でも新たな枠組みを打ち出し、日韓で経済安全保障の協力を広げる。
 岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が訪米中の17日に構想を表明する。
 水素・アンモニアの生産に関して中東や米国など第三国での事業に日韓の企業が共同出資する際、政府系金融機関が資金調達を支援する。日本は国際協力銀行(JBIC)が担う。2030年までに世界各地から海上輸送する供給網を整備する。
 日韓両首脳はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のため訪米し、17日にカリフォルニア州のスタンフォード大をそろって訪れる。この場で供給網構想「水素・アンモニア・グローバルバリューチェーン」を提唱する。
 日韓にはともに鉄鋼や化学などエネルギー使用量が多い産業が集まる。燃料を外国からの輸入に依存する共通点もある。
 水素やアンモニアは大半が天然ガスを原料に生産している。ガス産出国などでの事業に出資し安定供給を受ける体制を整える。価格を抑えるメリットにも期待する。
 三菱商事と韓国のロッテケミカルは、ドイツのエネルギー大手RWEとともに米国で年1000万トンの燃料アンモニアを生産し、29年に調達を開始する。製造時に発生した二酸化炭素(CO2)を地下に貯留するなどして相殺した「ブルーアンモニア」をつくる。
 三井物産や韓国のGSエナジーはアラブ首長国連邦(UAE)でアブダビ国営石油会社(ADNOC)の計画に参画する。年100万トンを生産する見込みで、26年からの調達をめざす。
 日韓の企業が第三国で生産して調達する計画を中東やインド、南米などほかのエリアにも広げていく。両国はこうした事例を今回打ち出す枠組みの対象として想定する。
 水素やアンモニアは燃焼時にCO2が出ない。新たな燃料として活用を進めれば国や企業のCO2排出量を削減できるものの、供給元の確保が課題になってきた。
 日本は30年に水素換算で300万トン、50年に2000万トンの水素やアンモニアの導入目標を掲げる。経済産業省によると19年時点の世界のアンモニア生産は年間2億トンほどで、貿易量はこのうち1割ほどにとどまる。
 首相は尹氏とともにスタンフォード大でスタートアップ企業との意見交換、学生らを前にした討論会に臨む。「日韓は鉄鋼・化学など脱炭素の難しい産業が強く、水素・アンモニアの利活用を推進する」と訴える見通しだ。
 韓国との量子技術の連携にも言及する。国立研究所である産業技術総合研究所と韓国標準科学研究院(KRISS)による覚書締結を表明する。東大やソウル大、米シカゴ大の連携強化策も発表する。
 コンピューター能力向上のために半導体技術の開発で日米韓が連携する方針も示す。韓国の半導体メーカーが日本企業と最先端技術を開発したり、日本に投資したりする動きを歓迎する。
 日韓両首脳は3月に相互に訪問し合うシャトル外交の再開を申し合わせた。歴史問題でぎくしゃくしてきた両国の関係は改善に向かう。
 今年8月にはワシントン近郊のキャンプデービッドで、バイデン米大統領とともに3首脳で会談した。日米韓によるミサイル情報の即時共有のほか、中国をにらんだインド太平洋地域での安全保障の協力を確かめた。
 供給網や科学技術といった分野で日韓が協力を広げる背景には、政権が交代しても後戻りしない未来志向の関係につなげる狙いもある。

【米中首脳が15日会談 軍事対話再開へ協議、関係安定探る】
 同じ10日、日経速報メールは報じた。
 【ワシントン=坂口幸裕、北京=田島如生】米政府は10日、バイデン大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が15日に米西部カリフォルニア州で会談すると発表した。両首脳が会うのは1年ぶり。米政府高官によると、途絶えている軍事対話の再開に向けて協議する。偶発的な衝突を回避し、両国関係の安定をめざす。
•【関連記事】習近平氏が6年半ぶり訪米 14〜17日、バイデン氏と会談
 15日に同州サンフランシスコで開幕するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて会談する。両首脳は2022年11月にインドネシアのバリ島で会談して以降、会っていない。
 中国外務省も10日、習氏が14〜17日にサンフランシスコを訪れ、米中首脳会談やAPEC首脳会議に臨むと発表した。
 米政府高官は記者団に「競争を管理し、紛争リスクが高まるのを防ぎ、意思疎通チャネルを確実に開いておくことが目標だ」と話した。
 焦点になるのが、米政府が働きかけてきた軍高官による対話の再開だ。米中の国防対話は22年8月に当時のペロシ米下院議長が台湾を訪れたのを境に途絶えている。
 別の米高官は「バイデン氏は米中間で不可欠な軍事面での意思疎通を復活させるために必要な措置を取る決意だ」と明言。習氏との会談で米中の軍当局同士の関与について提起するとの見通しを示した。
 会談では中東情勢も主要議題になる。米国はイスラエルとイスラム組織ハマスによる衝突が周辺地域に拡大しないよう協力を促す。衝突以降、親イラン勢力はシリアやイラクの米軍拠点への攻撃を続けている。イランと友好関係にある中国を通じ、挑発行為をやめるよう働きかけるとみられる。
 ロシアが侵攻を続けるウクライナ情勢でも意見を交わす。バイデン氏はロシアと取引する中国企業への対処を要請する。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮についても話し合う。バイデン氏は習氏に朝鮮半島の非核化へ中国が影響力を行使するよう求める。
 24年1月の台湾総統選で中国が選挙介入しないよう警告する見通しだ。台湾海峡の平和と安定を維持する重要性を改めて伝達する。中国が10月に南シナ海で領有権を争うフィリピンの船に中国船を衝突させた事態を踏まえ、フィリピンを防衛する方針を伝える。
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【田淵義久氏死去 野村証券元社長、91歳】
 11日の日経速報メールは報じた。
 野村証券(現野村ホールディングス)で社長を務めた田淵義久(たぶち・よしひさ)氏が11月8日、肺炎のため死去した。91歳だった。
 1956年早大卒業後、野村証券に入社。貯蓄商品としてヒットした中期国債ファンドの旗振り役となるなど営業畑で頭角を現した。
 同じ岡山県出身だが血縁関係はない田淵節也氏の後を継いで85年に社長就任。87年9月期にトヨタ自動車を上回る4937億円の経常利益を上げ、「ガリバー」と呼ばれるほどの証券界での突出した野村の地位を不動のものにした。
 91年、大口顧客への損失補填などの証券不祥事の責任をとり社長を辞任。相談役に退いた後、95年に取締役に復帰。97年、総会屋への利益供与事件を受け、他の経営陣とともに辞任した。

【竜王戦で完敗の伊藤匠七段「藤井聡太竜王の強さ、勉強に」】
 11日の毎日新聞は報じた。
 第36期竜王戦七番勝負で同学年の藤井聡太竜王(21)に挑んだ伊藤匠七段(21)は初めてのタイトル戦を終えて、「力不足が顕著になった。藤井竜王の強さを非常に感じ勉強になるシリーズで、これを糧に今後も精進していきたい」と再起を期した。終局直後の報道陣との一問一答の主な内容は以下の通り。【丸山進】
 ――第4局を振り返って。
 ◆1日目から終盤戦になったんですけど、先手玉への迫り方を間違えてしまった。もうちょっと前の段階で、読みを入れておくべきだったかなと思います。
 ――封じ手あたりの形勢判断はどうだったか。
 ◆後手としては仕方ないかなと思っていたんですけど、その後の先手玉への迫り方が難しかったです。
 ――シリーズ全体を振り返って。
 ◆力不足が顕著になったシリーズだったと思います。
 ――初めてのタイトル戦だった。
 ◆もう少しシリーズを盛り上げたかったんですけど、非常に貴重な経験ができて、また成長してこういった舞台に出られればと思っています。
 ――同学年の藤井竜王とは今後も長い戦いが続くが、経験をどう生かすか。
 ◆藤井竜王の強さを非常に感じるシリーズだったので、非常に勉強になるシリーズでした。これを糧に今後も精進していきたいと思います。

【略奪でくすむ「黄金の街」 荒廃するサンフランシスコ】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・サンフランシスコで略奪が急増し店舗は続々閉鎖
・警察の消極姿勢に略奪犯がつけこんで街が荒廃
・空洞化で税収が減り治安が悪化する負のサイクル
 米国を代表するリベラルな気風の都市、西部カリフォルニア州サンフランシスコ市が苦境に陥っている。新型コロナウイルスの感染収束後も街に人が戻らず、小売店が相次ぎ閉店するなど空洞化が進む。950ドル(約14万円)以下の窃盗や略奪を「軽犯罪」扱いとして取り締まりに消極的な警察の方針もあり、体感治安が悪化し街全体が荒廃している。
 1日、同市中心部のパウエル・ストリート駅。坂道を走るケーブルカーが発着する観光名所だが、人影はまばらだ。
 駅前には9階建ての重厚な建物がある。高級百貨店ノードストロームのランドマーク的な店舗だったが、8月に35年の歴史に幕を閉じた。道には注射針や空き缶が転がり、麻薬使用者とみられる人が奇声を上げていた。
観光名所の百貨店ノードストロームも8月に閉店した(1日、米カリフォルニア州サンフランシスコ市)
 ノードストロームだけではない。4月には食品スーパー、ホールフーズ・マーケットの旗艦店が開業から1年で閉店。10月下旬にもディスカウントストア大手のターゲットや米スターバックス7店舗が一斉閉店した。金融街のスタバ跡地を訪れたメーガン・クナイツさんは「ここも潰れたなんて。もう街中に何もない」と嘆く。
 10月下旬に閉店した米スターバックスの店舗は、5月に破綻した地銀やリモートワークを進めるオフィスの近くだった(1日、米カリフォルニア州サンフランシスコ市)
 なぜ新型コロナの感染収束後も閉店が相次ぐのか。ホールフーズは「従業員の安全確保」を理由に挙げる。合成麻薬や覚醒剤を過剰摂取した男性が店内のトイレで死亡していたこともあるという。
 ターゲットのブライアン・コーネル最高経営責任者(CEO)が「残念ながら悪化している」と指摘するのは、暴力や脅迫を伴う盗難による深刻な損失だ。
 白昼堂々と大きなカバンに陳列品を詰め込み走り去る――。そんな動画が相次いでSNSで拡散された。サンフランシスコ警察のタダオ・ヤマグチ氏は「ネットで転売する組織的な略奪が2〜3年で急増している」と指摘する。
 非営利団体ベイエリアカウンシルの調査では、2022年に移住を考えた人の5人に1人が犯罪を理由に挙げた。警察統計では22年の窃盗件数は前年比14%増の約3.7万件。新型コロナ禍前(19年は4.2万件)より少ないが、警察関係者は「実際の被害は統計よりずっと多い」と明かす。
 そこにはサンフランシスコ特有の問題も浮かぶ。1つは950ドル以下の窃盗や特定薬物の所持などは軽犯罪扱いとする州法「プロポジション47」の存在だ。薬局大手ウォルグリーンの女性店員は「警察がまともに捜査しなくなり通報を諦めている」と肩を落とす。
 厳罰よりも再犯防止を重視するという風潮があり、警察関連予算の削減も狙いだ。さらに20年に黒人男性が白人警察官に拘束されて亡くなり、リベラル都市を中心に「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」運動が過熱した。刑事司法改革が加速して警察の人手不足、士気低下を招き、略奪犯がつけこんだ形だ。
 2つ目は街の空洞化だ。民泊仲介のエアビーアンドビー、配車アプリのウーバーテクノロジーズ、旧ツイッターのX……。サンフランシスコは多くのテクノロジー企業が本社機能を構えるが、リモートワークやレイオフ(一時解雇)で従業員が街から姿を消した。
 不動産サービス大手CBREによると、9月末時点で市内のオフィス空室率は過去最高の34%。ニューヨーク(15.4%)やシカゴ(21.1%)より大幅に高い。「さらに上昇が続くだろう」(同社担当者)とみる。
 犯罪学には「割れ窓理論」がある。割れた窓ガラスを放置するとさらにガラスが割られて街全体が荒廃し、犯罪が増えるという考え方だ。サンフランシスコも空洞化で税収が減り、治安悪化が加速する負のサイクルに陥った。
 市内でも特に治安が悪いとされるテンダーロイン地域(10月、米カリフォルニア州サンフランシスコ市)
 「まるで1980年代後半〜90年代初めの米国をみているようだ」。上智大学の前嶋和弘教授は振り返る。再びホームレスが増えてドラッグがまん延するのは「ひとえに景気が悪いから」。当時は景気回復とともに状況は改善したが「今はもっと複雑だ」と話す。
 94〜2001年にニューヨーク市長だったルドルフ・ジュリアーニ氏は落書きなどの取り締まりを強化し、凶悪犯罪を激減させた。「警察改革とセーフティーネットの両輪が重要だ」(前嶋教授)
 変化の兆しもある。生成AI(人工知能)Chat(チャット)GPTを手がける米オープンAIのサム・アルトマンCEOは「サンフランシスコはテック業界に重要。ここで成長を続ける」と出社を重視し、市内のオフィス面積を3.5倍以上に増やす。米グーグルが出資する米アンソロピックも同様だ。19世紀のゴールドラッシュで皆が目指した黄金の街が、AIの磁力で輝きを取り戻せるか。
〈Review 記者から〉「リベラル都市」が論争に
 サンフランシスコの治安は、保守とリベラルが対立する米国の「文化戦争」の最前線だ。多様な住民が集まる都市部では民主党候補が首長に選ばれやすい。このため都市の犯罪対策は、保守層の格好の攻撃対象になっている。
 「街はもう活気がなく、左翼政策のせいで崩壊してしまった」。南部フロリダ州のデサンティス知事(共和党)は6月、ゴミが散乱するサンフランシスコの路上で話す動画をXに投稿した。
 ブリード市長は直後、講演会でデサンティス氏の動画を流しながら「空きオフィスは住宅に転換し、百貨店跡地はサッカースタジアムにできる。発想の転換で市は生まれ変われる」と反論した。
 同じくやり玉に挙がるのは「全米一住みやすい街」だった西部オレゴン州ポートランド市だ。民主党市長のもとで犯罪が増え、人口減に転じたと批判される。だが10月末に足を運ぶと、薬物問題はあるがダウンタウンはにぎわい、以前と変わらない街並みに見えた。
 「危険な地域は全米どの都市にもある。SNSやメディアは一面を切り取り、街全体の間違った印象を与えている」。同市に20年住むキャリーさんは語る。サンフランシスコの飲食店主も「『ゴーストタウン』は誇張表現で、我々の生活は変わらない」と憤る。
 24年大統領選に向けて、共和党は保守対リベラルの対立構図を前面に押し出して有権者の取り込みを図る。治安を巡る舌戦が続くのは間違いない。(シリコンバレー=中藤玲)
プロポジション47とは
 2014年にカリフォルニア州の住民投票で承認された州法。950ドル(約14万円)以下の窃盗や特定薬物の所持などは「軽犯罪」扱いとなり、注意や罰金などですむ。主な目的は、生活苦が原因の犯罪者を刑務所に入れずに更生の機会を与えることや、過密状態だった刑務所の環境を改善することだった。
 捕から収容までの手続きや長期収監にまつわるコストを削減する狙いもある。同法の支持団体は、16〜22年度に約6億ドルの州予算を削減でき、再犯防止事業に回せたと主張。一方で被害店が通報を諦めたり、生活苦ではなく組織的な犯罪が増加したりする影響も出た。22年の950ドル未満の窃盗は19年比24%増えたという調査もある。
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• ・米国でもチップ不要論 「最低20%」に高騰で重荷




 この間、下記の録画を視聴することができた。 (1)BS世界のドキュメンタリー「イラクの失われた時代 ISの子どもたちは今」 イラクがISに占領された地域を奪還して以降、元ISメンバーの家族は迫害され、とくに若者や子どもたちは過酷な状況に置かれている。」10月26日。 (2)BS6報道1930「ガザ攻撃の衛星画像を分析…何が戦略目標なのか。イスラエル軍の地上作戦のシナリオとは。ウクライナの渡河作戦、1万人が集結か?反攻の新局面」26日。 (3)BS1スペシャル「市民が見たウクライナ侵攻の2023「市民が自撮りした映像で戦時下の過酷な日常を伝えるシリーズ」26日。 (4)BS6報道1930「<ハマス解体新書>組織構造や資金源は? イスラエルとの協調が目的? インテリか富豪か? ハマス指導者の実像」27日。 (5)報道1930「イスラエル軍作戦拡大、戦争終結に日本は何ができる? 林芳正前外相に問う」30日。 (7)BS6報道1930「ガザ攻撃第2段階詳報「作戦拡大で人質解放は?」31日。 (8)BS6報道1930「ポリクライシス複合危機。貧困・環境破壊・極右…戦争は終わりの始まり?」11月1日。 (9)BS6報道1930「ガザ攻撃激化で決断を迫られるイランの葛藤。 米世論の分断」2日。 (10)BS6報道1930「<新世界基準の台頭>グローバル・サウス、ユダヤ系の指示が離れていく…バイデン氏は孤立化?」3日。 (11)NHKスペシャル新シリーズ
「調査報道新世紀 下「中国”経済失速”の真実、不動産不況の渦中にあり、経済の
長期的低迷への警戒が高まる中国。実態はどうなのか?」5日。 (12)BS6報道1930「天才が育つ教室~常識を打ち破る先端教育~いま教育は「生徒が自ら考え、自ら解決する」学びに変わっている。そんな先端教育で注目を集めるアメリカと日本の学び舎を訪ねる」5日。 (13)BS6報道1930「ガザ侵攻で揺れる欧州。歴史を背負う独の葛藤、親パレスチナが共感するアイルランド」6日。 (14)NHK映像の世紀バタフライエフェクト「地球破壊 人類百年の罪と罰。百年前、名探偵ホームズを悩ませたのはロンドンの「黒い霧」、人類がはじめて直面した環境破壊と言われる。繰り返される自然からの警告になぜ目を背けてきたのか」6日。 (15)BS6報道1930「中国の原潜がひそむ海…南シナ海緊迫…習氏が米国に仕掛ける罠とは。日英豪も動く“海上外交”」7日。 (16)BS6報道1930「ウクライナ政府と軍に不協和音…反転攻勢膠着でゼレンスキー氏窮地か、主導権はロシア側に? プーチン氏再選へ始動」8日。 (17)BS世界のドキュメンタリー「狙われる少年たち、イスラエルの抑止的治安対策」8日。 (18)BS1シリーズ アジアに生きる「挑戦し続ける者たち。ナット・ブラザー社会的芸術家。芸術で現代中国が抱える問題を訴えてきた異色のアーティストの記録」8日。 (19)NHKスペシャル選「ドキュメント・エルサレム ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地。長年さまざまな衝突の震源地となってきた。紛争がどのように始まったのか、貴重な記録映像で検証する。2004年放送、前編・後編2回シリーズ」9日。 (20)BS6報道1930「共感呼ばない岸田減税、加速的物価上昇…いま国民が求める対策とは」9日。 (21)BS6報道1930「<インド世界戦略>なぜ真っ先にイスラエル支持?狙いは中国抑止?」10日。 (22)NHkこころの時代「ガザに暮らして(1)」(ガザに“根”を張るイスラエルの地上侵攻が行われた2014年、番組は人権弁護士ラジ・スラーニに話を聞いた。現在のラジさんの声とともに番組をアンコール放送)」11日。 (23)NHkこころの時代「ガザに暮らして」(2)紛争の地から声を届けて パレスチナに暮らし、人びとの声を届けてきたイスラエル人新聞記者アミラ・ハス(女性)の行動と思想を伝える(初回放送2017年12月3日)」12日。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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