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変わりつつある世界(15)

 2023年10月7日朝に掲載した「変わりつつある世界(14)」の後、次々と新しいニュースが入ってきた。

【米国「国境の壁」建設再開 バイデン大統領、公約を撤回】
 10月7日、日経速報メールは次のように報じた。
 米国が再び「国境の壁」建設に動き出した。バイデン大統領は政権発足当初の公約を撤回し、メキシコとの国境に最長20マイル(約32キロメートル)の新たな侵入防止柵を設けると発表した。トランプ前政権と打って変わって寛容な移民政策を掲げたバイデン政権だが、想定を超えて不法越境が広がっているためだ。影響はメキシコとの外交関係や再選を狙う2024年の大統領選挙に跳ね返りかねない。
「バイデン氏はこれまで壁を建設しなかった唯一の米大統領だった」。米政府の決定を受け、メキシコのロペスオブラドール大統領は5日の記者会見で強い不満を見せた。
米国土安全保障省は5日の公示で、壁建設を再開する方針を示した。折しも同省のマヨルカス長官やブリンケン米国務長官がそろってメキシコを訪れているさなかのことだ。米側との会談を前に、ロペスオブラドール氏は「問題の解決にならない。後退だ」と切り捨てた。
 20年の大統領選でバイデン氏はトランプ前政権の看板政策だった「国境の壁」を否定し、就任初日に建設中止を宣言していた。今回はその方針を覆し、メキシコと国境を接する南部テキサス州のリオグランデバレー地域に新たな壁をつくる。
 バイデン氏は5日、記者団に対し、国境の壁の予算を他の目的に回すよう議会に要請したが拒否されたため、やむを得なかったと釈明した。国境の壁は不法越境の阻止に効果があると思うかとの質問には「ノー」と答えて政策転換を否定したものの、対応は後手に回る。
 背景にはバイデン政権が寛容策を打ち出したことで「米国に入りやすくなった」との期待が過度に広がった経緯がある。
米政府は5月中旬には、不法越境者の難民申請を原則認めない規則を取り入れ、一段の移民流入を防ごうとした。しかし不法入国の動きは止まらず、米移民局は9月だけで米メキシコ国境を不法に越えた20万人以上の対応に追われた。

拘束者2年連続で200万人超
 米税関・国境取締局(CBP)によると、米南西部国境での拘束者数は2022年から2年連続で200万人を超えた。ロペスオブラドール氏は9月「毎日1万人の移民が北部国境に到達している」として中南米10カ国に外相会議の開催を呼びかけていた。メキシコ側で滞留する移民を狙った誘拐や暴行、恐喝などの犯罪が多発している。
 ベネズエラやキューバをはじめ、中南米諸国から移民が押し寄せる要因には、長引くインフレや通貨安で米国との経済格差が拡大している現状もある。
 世界銀行によると、中米のホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの1人当たり国内総生産(GDP)は3000〜5000ドル程度にとどまる。7万6000ドルを超える米国とは大差がある。ベネズエラは世界有数の産油国だが、反米左派政権の失政で治安悪化や食糧難に直面してきた。国外に逃れた人々は700万人超に達している。
 足元で米国への移民が急増している一因として、犯罪カルテルの策動を指摘する声もある。米メディアによると、中南米各地では「入国審査予約アプリを持っていれば誰でも米国に亡命できる」といった偽情報が目立つようになった。米国側の国境審査や警備に負荷をかけ、麻薬を運びやすくする狙いがあるという。

「聖域」も限界迫る
 バイデン政権は5日、ベネズエラからの不法移民の本国送還を再開すると発表した。合法滞在の資格がないと判断した不法移民が対象で、数日中に航空機による送り返しを始める。厳しい姿勢を示すことで米国への不法入国を抑止するのが目的だ。
 大量の移民らを受け入れてきたリベラル州や大都市の限界も迫る。移民に寛容な「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」として知られる東部ニューヨーク市には、22年4月以降、約12万人が殺到した。
 市内の宿泊施設や配給食も逼迫する。アダムズ市長は「この問題はニューヨーク市を破壊するだろう」と危機感を強める。同市は必要な個人にシェルターを提供することを法律で義務付けているが、3日にはこの措置を一時的に停止するよう裁判所に申し立てた。
 共和党が多数派を占める南部の各州では、移民対策で後手に回る連邦政府への不満が渦巻く。バイデン政権が新たに壁をつくるテキサス州の国境地帯は不法移民の増加で住民らが反発を強めており、移民対策の強化を掲げる共和党の支持率が伸びている。

身内・民主からもノー
 バイデン政権は同日、新たな壁を早急につくるため、周辺地に対して大気や水、絶滅危惧種などを守る26の連邦法の適用を免除すると発表した。国土安全保障省のマヨルカス長官は「不法入国を防ぐため、国境付近に物理的な障壁と道を建設する緊急かつ即時の必要性がある」と説明するが、環境を重視してきたバイデン氏の政策のブレは際立つ。
 増え続ける不法越境に対し、バイデン政権は手詰まり感が否めない。身内である民主党内からも疑問の声が上がる。
 米メディアによると、国境付近を選挙区とする民主党のクエラー下院議員は声明で「国境の壁は21世紀の問題に対する14世紀の解決策だ」と政権の方針転換を批判した。国境の壁は効果がないと断じたうえで「税金の無駄遣いに引き続き反対する」と述べた。

トランプ氏も「敵失」に利用
 このまま民主・共和双方の批判が強まれば、大統領選の結果にも響きかねない。今回の決定を「敵失」として生かす動きも出始めた。
 「私が正しかったことを証明するために、いかさまジョー・バイデンがあらゆる環境法を破るのを見るのは面白い」。トランプ前大統領は自ら立ち上げたSNS(交流サイト)「トゥルース・ソーシャル」で攻撃し、こう結んだ。「(壁建設を)前進させるのにこんなに時間がかかったことを、バイデンは私と米国に謝罪するのか」(メキシコシティ=市原朋大、ワシントン=芦塚智子、サンパウロ=宮本英威、ヒューストン=花房良祐、ニューヨーク=弓真名)

【ふるさと納税、稼ぎ頭は人口400人の和歌山・北山村 データで読む地域再生】
 同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
 ふるさと納税による全国の自治体への寄付額が2022年度は9654億円と3年連続で過去最高を更新した。都市部では税金の流出が膨らみ、返礼品競争にも批判はあるが、財政基盤の弱い自治体には貴重な財源だ。各市区町村の住民1人当たりの収支をみると「稼ぎ頭」は人口約400人の和歌山県北山村だった。
 総務省の「ふるさと納税に関する現況調査」から22年度の市区町村ごとの実質収支を算出した。受け入れた寄付額から他の自治体に寄付として流出した控除額と、寄付を得るのにかかった経費を差し引いた。人口1人当たり1万円以上の「黒字」だった自治体数は449で経費を把握できる16年度の約3倍。うち9割が人口5万人以下だった。
 黒字が最も大きかったのは和歌山県北山村で122万2838円に達した。紀伊半島の山あいにあり、同県とは接さず奈良県と三重県に囲まれた全国唯一の飛び地の村。人口は全国有数の少なさで過疎が進む。ふるさと納税の収益を高めた背景には村に自生する絶滅寸前のかんきつ類「じゃばら」の復活劇があった。

【企業の失敗、野性喪失から 「失敗の本質」の著者説く 野中郁次郎一橋大名誉教授】
 同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本企業は今なお「失われた30年」から抜け切れずにいる。画期的な技術や米「GAFA」のような革新的組織を生めず、世界から注目される経営者も現れなくなったままだ。何をどう間違えたのか。「失敗の本質」などの著書がある経営学の泰斗、一橋大学の野中郁次郎名誉教授に「失われた時代の本質」と処方せんを聞いた。
 バブル崩壊後の日本では雇用、設備、債務の3つの過剰が企業を苦しめたとされた。だが企業を本当に縛ったのは、全く異なる3つの「オーバー(過剰)」だったとみる。
――企業にとって「失われた30年」の真因はどこにあったのか。
「雇用や設備、債務もその通りだ。しかしより本質をいうならプラン(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つがオーバーだった」
「数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損なう。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが、社会学者の佐藤郁哉氏は最近、『PdCa』になったといっている。Pの計画とCの評価ばかり偏重され、dの実行とaの改善に手が回らないということ。同感だ」
 「行動が軽視され、本質をつかんでやりぬく『野性味』がそがれてしまった。野性味とは我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化する」
都心のオフィスの通称「ナレッジルーム」には3000冊以上の本が並ぶ
――計画や数値目標なしに経営は成り立たないのでは。
「それらは現状維持の経営には役立つかもしれないが、改革はできない。欧米の科学的管理手法から発展したやり方は、感情などの人間的要素を排除しがちだ。計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり、創意工夫をしなくなる」
「計画や手順が完璧であることが前提だけに、環境の変化や想定外の事態に直面すると、思考も停止する。高度成長期には躍動の原動力だったとしても、今では成長を阻害する要因だ」
計画偏重では革新起きず
――著書「知識創造企業」は28年前の出版時、まず米国で注目された。「暗黙知」と「形式知」という概念で日本企業の革新性を解き明かしたが、今はどうか。
「バランスが大事だということだ。技術革新は個人の行動や価値観に深く根差す暗黙知と、数値や文字で表せる形式知の相互作用で生まれる。2つの知は相互に高め合わないといけないが、計画や評価の繰り返しで革新は起こらない」
「過去の成功体験があまりにも大きかったのが影響しているのかもしれない。刻々と変化する現実への対応を誤る傾向がこの30年、続いた」
――成功体験への固執という点では日本のバブルが絶頂に向かう時期に「失敗の本質」を出した。その後の企業のつまずきを予言したのか。
「当時はそんなことを意識しなかった。組織というものは本来、変化に適応できるかどうかが絶えず問われる。本で挙げたのは、旧日本陸軍の戦略のあいまいさ、短期志向、集団主義、縦割り、異質性の排除という点だ。今思えば過去30年の日本も、底流にある問題は当時の日本軍と変わらなかった可能性がある」
――コンプライアンスも過剰なのか。
「誤解を恐れずにいえば、事なかれ主義やリスク回避、忖度(そんたく)の文化が生まれやすい。『様子をみながら慎重に』などと悠長にやっていられない時もある。過剰反応は危うい」
――DX(デジタルトランスフォーメーション)、ジョブ型雇用、人的資本についても厳しい指摘をしている。
「人的資本経営といえば聞こえはいい。しかしヒューマンキャピタルという英語は、人とモノである資本を同列に扱っているように感じられる。資本を作り出す主体が人間だ。人的資本のようなスローガンには形から入っている印象が否めない」
計画や数値に偏重した経営が失敗を招いたとしたら、何が成功のカギを握るのか。企業の失敗や成功をつぶさに見てきた野中氏は、共感と知の獲得にヒントを見いだす。
――では、成功の本質とはどんなものか。
「過去の組織、戦略、構造、文化を変える。そして我々はなぜここにいるかを確信できる価値と意味を問い直す。モノマネでは元も子もない。だから私は『考える前に感じろ』と訴えている」
「ソニーグループを再生した平井一夫氏(前会長)が、改革には『IQ(知性)よりEQ(感性)だ』と話していたのが興味深い。『感動』というパーパスで自信を失いかけた社員のマインドセットを変えたのだが、重視したのは共感だった。6年で70回以上もタウンホールミーティングをしつこくやったという」
――感性だけで経営できるのか。
「そこで重要になるのが、個人に眠る暗黙知を集団で共有するプロセスだ。さらに徹底した対話を経て、暗黙知を言葉や論理による形式知に変換する。最終的には集団で獲得した知の実践を通じ、個人の暗黙知をもう一段高める。こうした流れを私は英語の頭文字をとって『SECI(セキ)モデル』と定式化した」
「このモデルは計画や数値ではなく、現実を生で感じて全身全霊で共感し、暗黙知を獲得するところから始まる。そして『知的コンバット(戦闘)』も欠かせない」
「ホンダは経営や商品開発について現場の社員が徹底的に討論する『ワイガヤ』を重んじてきた。これは対話を通じて集合的に本質を直観する場だ。お互いの理解を超えて関係性をつくるのはしんどいし、つらいプロセスだ。でも逃げずにやりきれば、新しい地平に至ることができる」
共感を重んじ知を磨け
――サラリーマン経営者にやり抜けるか。
「確かに、創業家出身がトップの方が組織の変革はやりやすいところもある。エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は初めて知識創造理論を採用した経営者だ。もう30年近く前になる。研究所に泊まり込み、研究員一人ひとりと膝詰めで『何のために新製品開発が必要か』を対話した。何十年もあきらめなかった結果が認知症治療薬『レカネマブ』を生んだともいえるだろう」
――かつての日本的経営に代わる成功パターンはみえてきたか。
「ここ数年、『ヒューマナイジング・ストラテジー』を提唱している。論理や分析が過多になった現代日本への警鐘をこめた。本来は人の営みである経営戦略に人間を取り戻そうということだ」
――日本にGAFAのような企業群がなかなか生まれない。
「知の体系の差といえる。われわれはなぜ存在するのか。存在目的を果たすのにどんな知の体系が必要かを、米国のイノベーティブな経営者たちは深く考え、構想できている。日本企業にも培ってきた研究や技術は多いが、それらを生かす構想力が必要だ。それがあれば何をやって何をやらないかの意思決定も速い」
――新型コロナウイルス禍やDX、マイナンバーで政治の世界も混乱した。国家運営での失敗の本質とは。
「時代が要求する方向でなく、取りまとめる人々が好む方向に進んでしまう傾向がコロナ対応などでみられた。失敗の本質で描いた日本軍の姿と重なる」
「ベトナム戦争の当時、米国防長官を務めたロバート・マクナマラはデータ分析を駆使したが、数値にあらわれないベトナム人の愛国心や強さを洞察することができなかった。独善的に戦略を立て、甚大な被害を出した。そのような戦略的ナルシシズムの誤りを犯さないことが国家のリーダーには求められる」
のなか・いくじろう 経営学者で専門は知識経営論。旧日本軍が判断を誤り続けた要因を解明した1984年の共著「失敗の本質」は今も読み継がれる。日本企業の革新性の源泉を読み解いた「知識創造企業」(1995年、共著)は米欧の研究者にも影響を与えた。最近も著作多数。88歳。
「まず形から」への重い警鐘 インタビュアーから
都心のオフィスには著書「知識創造企業」にちなんで「ナレッジルーム」の名がつき、3千冊以上の蔵書が並ぶ。アリストテレス、E・フッサール……。経済や哲学書が大半だが、軟らかい本も時折交じるところに野中氏の本質をみた。
 理論には常にあらゆる角度から磨きと補強を加えている。そしてとにかく人と会う。最近は運動界に関心を持ち、ラグビーの持つ規律の本を書いた。組織運営の本質が眠ると考えた。
 大手企業の機関誌に寄せた連載「成功の本質」が100回以上続いて終了した。企業の革新事例は膨大だが、調査の結果はあえて体系化していない。また企業人に形から入る口実を与えてしまうからだろう。
 日本企業が復活する秘策を尋ねたつもりだが、「人に聞くより自分で考えよ」と突き返された気がする。経営や技術の革新に手抜きは許されない。(本社コメンテーター 中山淳史)

【ハマスがロケット弾数千発 イスラエル首相「戦争状態」】
 同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
 【イスタンブール=木寺もも子】パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは7日朝(日本時間同日正午ごろ)、イスラエルに対して多数のロケット弾を発射し、戦闘員を侵入させた。同国軍はガザへの空爆など報復に着手、ネタニヤフ首相は「戦争状態にあり、勝利する」と述べた。
 イスラエルメディアによると、南部や中部の約20カ所で戦闘が続いている。7日夕方までに100人以上が死亡、900人以上が負傷した。ハマスの司令官は声明で、作戦開始からの20分間で5000発のロケット弾を打ち込んだと主張した。イスラエル側は2000発以上としている。中部テルアビブなど広い範囲が標的となった。
 戦闘員の侵入、ロケット弾発射の規模ともに異例の事態。イスラエル当局によると、戦闘員は陸・海・空から侵入した。SNSでは戦闘員がパラグライダーで飛ぶ様子や、ろ獲されたイスラエル軍戦車の動画などが拡散されている。
 イスラエル軍は、市民らが人質としてガザに連れ去られたと認めた。ハマス幹部は中東の衛星放送局アルジャズィーラに対し、人質にはイスラエル軍上級将校も含まれると主張した。
 パレスチナ側によると、イスラエルの反撃でガザでは198人が死亡、1600人以上が負傷した。
 イスラエルは臨戦態勢を宣言し、予備役の招集を決めた。ネタニヤフ氏は動画メッセージを公開し「敵はこれまで知らなかったような代償を支払うことになる」と報復姿勢を強調した。
 ガラント国防相はハマスの行動について「重大な過ちを犯した。イスラエル軍は全ての侵入地点で敵と戦っている」と説明した。イスラエルでは7日はユダヤ教の連休中だった。奇襲を許したことで、情報機関など政府の責任論も浮上しそうだ。
 イスラエルは近年、パレスチナ問題を巡って対立していた周辺アラブ諸国との関係改善を進めていた。2020年にアラブ首長国連邦(UAE)などと国交を正常化し、地域大国サウジアラビアとも交渉している。パレスチナ側には取り残されているとの焦りがある。
 ハマスの司令官は声明で、エルサレムのイスラム教聖地にある「アルアクサ・モスク」をイスラエルの入植者が「冒瀆(ぼうとく)した」と非難した。10月に入り、イスラエル側の延べ数千人がモスクに侵入したと報じられている。同モスクのある「神殿の丘」はユダヤ教の聖地でもあり、たびたび争いになっている。
 「銃を取れ。今がその時だ」などとも述べ、アラブ人やイスラム教徒に呼びかけた。イスラエルと対立する過激派「イスラム聖戦」はハマスとの共闘を表明した。
 在日イスラエル大使館は7日、同国のバルカト経済産業相が予定していた来日を取りやめたと明らかにした。
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表はX(旧ツイッター)で「ハマスの攻撃を明確に非難する。恐ろしい暴力を直ちに止めなければならない」と強調した。
 米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は「イスラエルの市民に対するハマスの攻撃を非難する」とした。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がイスラエルの国家安全保障顧問と連絡を取っていることも明らかにした。

ハマスとは
 1987年、パレスチナ住民の反イスラエル闘争(インティファーダ)が広がった際に結成されたイスラム武装組織。イスラエルとの和平に反対し、同国に対する武力攻撃を繰り返している。欧米ではテロ組織に認定されている。
 2006年にはパレスチナ評議会選で勝利し、その後ガザを武力制圧。実効支配している。ガザはイスラエルが設置した壁やフェンスに囲まれており、移動の自由がないことから「天井のない監獄」と呼ばれている。福岡市をやや上回る程度の広さに約200万人が暮らしている。

【マンション修繕積立金、引き上げ幅抑制 国交省が指針】
 8日の日経速報メールは次のように報じた。
 国土交通省はマンションの修繕積立金を巡り、積み立て途中での過度な引き上げにつながらないよう目安を設ける。負担金の増額幅が大きすぎて支払いが困難になるケースが生じているため、引き上げ幅に一定の制限をかける。管理組合に計画的な積み立てを促す。
 管理組合が修繕計画をつくる際に参考にする国交省の指針を改める。マンションの規模ごとに積立額の基準を示すガイドラインなどにも負担金の目安を盛り込む方針だ。
国交省によると、指針に強制力はないものの、ほとんどの管理組合は指針をもとに計画を立てているという。
 一般的なマンションは築年数の経過に伴い、壁面や柱などを大規模に修繕工事する。現在、多くのマンションで修繕のための積立金の増額幅が大きすぎて住民合意ができないトラブルが相次ぐ。
 2001年に竣工したあるマンションでは計画当初に比べ、最終段階で積立金が5.3倍になる徴収計画をたてた。13年に管理組合の総会で値上げを決めようとしたところ、一部から強い反対を受けて断念。資金不足で修繕工事は延期された。
国交省によると、修繕計画の当初から最終年までの増額幅は平均3.6倍で、10倍を超える事例もある。
国交省が5年に1度実施するマンション総合調査では、18年度に修繕計画に対して積立金が不足するマンションは34.8%に上った。前回調査の13年度の16%から倍増した。足元では資材費や人件費の上昇でさらに増えている可能性がある。
 古いマンションほど管理費と修繕積立金の滞納割合が高い。1969年以前に竣工したマンションのうち42.9%で滞納があった。2015年以降のマンションよりも27.5ポイント高い。計画通り集金できなければ、修繕工事の遅延などが相次ぐ恐れがある。
こうした問題を受け、国交省は積立金の引き上げ幅の目安を示す必要があると判断した。上げ幅について管理組合の決議が成立した範囲などを調査し、妥当な水準を検討する。
マンション管理に地方自治体がお墨付きを与える制度の基準も見直す。負担金の上げ幅を適正に抑えているかを認定の審査項目にする案がある。
 政府は22年4月、修繕計画や積立金の状況を自治体が確認する仕組みを設けた。認定を受けた築20年以上の建物は居住者の固定資産税が減税対象となる。計画的な積み立てに向けて新築物件を対象に加えることも視野に入れる。
国交省は10月末にも有識者による作業部会を設置し、24年夏までにこうした対策をまとめる方針だ。
 積立金が不足するのは積立金の徴収方法に要因がある。徴収法は修繕計画に基づいて毎月同じ額を徴収する「均等積立」と、段階的に額を増やす「段階増額積立」の2つが主流だ。国交省は管理組合の決議がいらない均等積立を推奨してきた。
 これに反して10年以降に完成した築年数が浅い物件では67.8%が増額積立だった。デベロッパーなどが分譲時に安く売り出すため、当面の経費が少なく見える増額積立が採用されやすく、大規模修繕が滞るリスクを高めている。
 建物の老朽化が相次げば影響は深刻だ。外壁の剝落や鉄筋の腐食などが進むと居住環境を維持できなくなり、建物周辺の安全も保てなくなる。42年末には全国で築40年以上のマンションがおよそ445万戸まで膨らむとの試算もある。

【ラグビーW杯【速報中】日本、アルゼンチンに敗れる…2大会連続の決勝トーナメント進出を逃す】
 テレビ中継が終わるや、新聞のなかで読売新聞が8日の22時ころ一番乗りで日本敗退を報じた。書きかけのような文面が、却って臨場感を持つ。
 ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会で日本代表(世界ランキング12位)は日本時間8日午後8時から、アルゼンチン(同9位)との1次リーグ最終戦に臨む。勝てば2大会連続の準々決勝進出、負ければ敗退の大一番だ。
ラグビーW杯【速報中】日本がアルゼンチンにトライを許し、8点差に広がる…負ければ敗退
 アルゼンチンは、アグレッシブな攻撃を持ち味としている。個々の体の強さを生かし、ボールを持てば果敢に守備ラインをこじ開けようとしてくる。
 特に日本が警戒すべきなのは「オフロードパス」だ。タックルされながら味方につなぐプレーのことで、相手の守備陣形が整う前に次の攻撃を仕掛けられる。前回の日本大会でも、「ジャッカル」などの言葉とともに流行した。アルゼンチンはオフロードパスを巧みに使える選手が多く、たたみかけるように前へ前へと進んでくる。ここまでの3試合ではいずれも、相手よりオフロードパスの数が多かった。
 守備での対策としては、相手1人に対して2人がかりで止める「ダブルタックル」がある。主に1人目が低く突き刺さって相手を倒しにいき、2人目は上半身を抱えて、ボールをつながせないようにする。
 ただ、気をつけたいのが「ハイタックル」の反則だ。相手の肩より高い位置に当たるタックルは、危険なプレーと判断される。オフロードパスを阻止するためのタックルは相手の上半身を狙うため、少しずれただけで反則になるリスクがある。近年はハイタックルに厳しい判定が下されることが多く、今大会も審判が注意深く見ている。

【50年前のエネルギー転換、日本は何を学ぶか エネルギー選択の時 石油危機50年①】
 9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・エネルギー転換を迫られた1973年は現在の相似形
・太陽光発電など脱炭素の主力技術は中国が握る
・日本は省エネ大国になったが原発事故で振り出しに
 1973年の第1次石油危機から50年となった。第4次中東戦争にあわせて産油国が発動した石油戦略は消費国にエネルギー転換を迫るきっかけになった。ロシアのウクライナ侵攻とパレスチナの衝突再燃、加速する脱炭素の潮流に直面する今日の世界は、50年前から何を学ぶべきだろうか。
 オランダ・ロッテルダム港の突端、北海に面した一角で工事の準備が始まった。国際石油資本(メジャー)の英シェルが計画する、欧州最大級のグリーン水素の製造工場の予定地だ。洋上風力発電を使い、2025年にも生産を開始する。
 関連企業の集まりである水素協議会によれば、23年5月時点で計画中の水素プロジェクトは1千件超にのぼる。1年前と比べ5割増えた。30年までに3200億ドル(約47兆円)の投資が見込まれる。
 ロシアのウクライナ侵攻後、欧州を起点に広がったエネルギー危機と脱炭素のうねりは世界に構造転換を迫る。変革の奔流から見えてくるのは、技術で先行し、市場で優位に立つ国家と企業の大競争だ。
 脱炭素競争、主力技術は中国の手中に
 別の数字がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、太陽光発電パネルの生産シェアは中国が世界の8割超を占める。風力発電機は中期的に6〜8割を握る。電気自動車(EV)向け電池の4分の3は中国企業が生産する。
 脱炭素の主力技術はすでに中国の手中にある。供給網を確保する経済安全保障や資源外交の重要性は、深まる分断の下で、石油の世紀と変わらないどころか、むしろ重みが増す。
 安価で大量の水素が手に入らなければ製鉄業は日本に残れない。電池を安定確保する道が閉ざされれば自動車産業は窮地に陥る。脱炭素時代のエネルギー覇権をかけたせめぎ合いが過熱するなかで、日本も国の存亡をかけて立ち位置をみつけなければならない。
 そこに至る道筋をどう描くのか。そのためには50年前を振り返ってみることだ。エネルギー転換の決断を迫られた73年は、23年の相似形とも言えるからだ。
 今年4月、大阪・千里中央駅前のスーパーが、入居する商業施設の老朽化に伴い閉店した。石油危機の際に起きた、トイレットペーパーの買い占め騒動はこのスーパーで始まった。
 千里丘陵は大阪のベッドタウンとして戦後の高度経済成長の下で開発が進んだ。70年の大阪万博の会場も近い。石油危機のパニックがニュータウンから始まった意味は小さくない。
 石油危機は高度経済成長に終わりを告げた。田中角栄首相の秘書官として危機対策にあたった小長啓一元通商産業(現経済産業)次官は「石油危機は中東産の安い石油を臨海部のコンビナートに運ぶことで成し遂げた重化学工業主導の高度成長の転換点だった」と証言する。
変わらぬ化石燃料・中東依存
 石油危機後、政府は石油の調達先を中東以外に広げる脱中東、エネルギー利用を石油以外に広げる脱石油、そして徹底した省エネルギーに着手した。
 これらは成果をあげた。国の政策に基づいて電力会社が原子力発電所を建設する「国策民営」の下で、原発が次々と稼働した。単位あたりのエネルギー消費を示す、製造業のエネルギー消費原単位は90年までに73年比でほぼ半減し、世界屈指の省エネ大国になった。
 ところが原発事故で振り出しに戻った。石油の中東依存度は22年度に95%と、石油危機時の78%を上回る。11年の東京電力福島第1原発の事故で原発は信頼を失い、化石燃料依存度は9割近くに達した。73年の教訓は成果を誇るのではなく、その後の失速の原因と対策を知ることだ。これが脱炭素時代のエネルギー選択に欠かせない。

【ノーベル賞にゴールディン氏 男女の賃金格差、要因解明】
 同じ9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2023年のノーベル経済学賞を米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授(77)に授与すると発表した。労働市場で女性が果たしてきた役割に関する歴史や、男女の賃金格差の要因解明などの研究が評価された。
 経済学賞の女性受賞者は3人目で、単独での受賞は初となる。

【関連記事】ノーベル賞ゴールディン氏「日本女性の労働参加増驚き」
 経済史や労働経済学に通じるゴールディン氏は、米国の過去200年間の歴史統計などを精査し、女性の就業率がどう変化してきたかを正確に突き止めた。従来の研究では経済発展に伴い女性の就業率は上がると単純に考えられていたが、ゴールディン氏の発見で常識は覆った。
 19世紀に工業化が進む以前、農業が主流だった時代の女性の就業率は高かった。しかし工業化に伴い在宅での勤務が難しくなると、仕事と家事を両立できなくなり就業率は低下した。女性の就業率が再び上昇するのは20世紀に経済のサービス化が進んでからで、こうした推移を「U字型」として定式化したのがゴールディン氏の発見だ。女性の就業率の推移がU字型をたどる過程は多くの先進国でみられるという。
 さらにゴールディン氏は、女性の労働参加が進まない理由についても詳しく研究した。たとえば20世紀前半には、既婚女性が教師や事務職として働き続けることを難しくする法律が女性の就業を妨げたことを明らかにした。逆に女性が避妊薬(ピル)の普及によって結婚や出産の機会を遅らせ、職業選択や教育の機会を広げたことも発見した。 
 賃金の男女間格差についての研究も有名だ。企業などの雇用主が、結婚によって離職する可能性のある女性よりも長期間の就業が可能な男性の従業員を優遇する傾向があることなどを明らかにした。
 明治学院大学の児玉直美教授は「従来のジェンダー格差に関する研究は主義や主張を前面に出すものが多かったが、ゴールディン氏は事実を突き止めることで主張に科学的基盤を与えた」と評価する。
 各国の政策に与えた影響も大きい。出産に伴い女性の収入が減る「チャイルドペナルティー」が先進国で共通する現象であることを明らかにしたのも、ゴールディン氏らによる研究だ。日本でも男性中心の長時間労働を是正したり、育児休暇を付与したりする政策を導入する根拠の一つとなっている。
 ゴールディン氏は近著で、チームで代替がしやすい仕事ほど女性も担いやすく、男女の賃金格差が小さくなる傾向を明らかにした。早稲田大学の大湾秀雄教授は「仕事に必要なスキルを標準化する『ジョブ型雇用』を推進すべき根拠にもなっており、政策現場に与える示唆は大きい」と指摘する。

【死者1500人超に イスラエル、地上戦にらみ10万人配置】
 同じ9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【イスタンブール=木寺もも子】イスラエル軍は9日、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの地上作戦に向け、境界に10万人を待機させていると明らかにした。イスラエル側での戦闘は続き、死者は900人を超えた。イスラエル軍のガザ空爆では600人超が犠牲となり、双方の合計死者数は1500人を超えた。

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 イスラエル軍は9日、過去最大規模の予備役30万人を招集したと発表した。同国政府は8日、正式に戦争状態に入ったと明らかにした。ただ、多くの人質を取られており、ガザ侵攻を早期に実行するかは不透明な面もある。イスラエルメディアが伝えた。
 ネタニヤフ首相は南部の自治体首長らに対し、ハマスへの報復戦を通じて「中東を変える」と述べた。首相府が9日、声明で伝えた。
 現地報道によると、兵士、民間人を含む犠牲者の数は900人を超えたうえ、さらに膨らむ恐れがある。ガザとの境界に近いイスラエル中部や南部では9日午前までに大部分の集落を奪還した。ただ、9日夜時点でもイスラエル領内の戦闘は続いているという。
 ハマスによる7日朝の奇襲以降、イスラエル側に侵入したハマス戦闘員は800〜1000人程度に上るとみられ、8〜9日にも新たに数十人の侵入があった。侵入経路の一つとみられるトンネルも見つかったという。
 イスラエル南部で攻撃が始まった7日朝まで夜通し開かれていた野外音楽イベントの会場では260人以上の遺体が見つかった。一部の人は人質に取られているとみられる。
 現地からの報道によると、ガザ地区からのロケット弾攻撃も続き、9日にはテルアビブ近郊のベングリオン国際空港の近くにも着弾した。運航に障害はないという。欧米やアジア系の一部航空会社は同空港への運航を停止している。
 イスラエルのコーヘン外相は9日、ハマスに捕らわれた人質が外国人を含む100人以上に上ると明らかにした。ハマスは人質の中にイスラエル軍高官が含まれるとしている。ハマスとの共闘を表明した過激派「イスラム聖戦」も30人以上を捕らえていると主張している。
 イスラエル軍は8日夜から9日未明にかけてもガザへの空爆を続け、500カ所以上を攻撃した。パレスチナ側の当局によると、これまでに680人以上が死亡、約3700人が負傷した。難民キャンプが攻撃を受けたとの報道もある。
 激しい空爆は9日夜も続いた。国連によると、8日夜時点で12万人以上のガザ住民が避難を余儀なくされている。
 イスラエルのガラント国防相は9日、ガザ地区を「完全包囲」すると表明した。電気や水、食料の供給を止めるとしている。ガザ地区には約200万人が住んでおり、人道状況が懸念される。
 ハマスは9日、イスラエルの空爆によって人質4人が死亡したと主張した。
 ロイター通信は9日、イスラエルで収監されているパレスチナ人と人質の交換に向け、カタールがハマスとの間で仲介交渉を行っていると報じた。イスラエルメディアによると、同国側は否定した。

【全銀ネット障害、140万件超に影響 完全復旧めど立たず】
 10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は10日、銀行間送金システムで同日発生した障害で少なくとも140万件の送金に遅延などの影響が出たと明らかにした。各金融機関と同システムを結ぶコンピューターの更新作業に伴う不具合が原因で、完全復旧のメドは立っていない。
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 140万件はシステムの不具合が起きた三菱UFJ銀行やりそな銀行など11金融機関から他行宛ての振り込み(仕向け)の件数。11金融機関は他の金融機関からの振り込み(被仕向け)も受けられなくなったため、こうした件数も含めると全体の影響は300万件超にのぼる公算が大きい。
 障害が起きたのは1000以上の金融機関が接続し、企業や個人間の送金インフラである全国銀行データ通信システム(全銀システム)。7〜9日の3連休中に14金融機関で同システムと各金融機関のシステムを接続する「中継コンピューター」を更新し、うち11金融機関で銀行間手数料をチェックする機能で不具合が発生した。
 全銀ネットは「バックアップ手段」を使って100万件の送金を処理したが、40万件については処理が11日までかかる可能性があるとしている。11金融機関では銀行間の振り込みだけでなく、証券口座への出入金にも影響が出ている。
 システムの不具合が発生したのは三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、もみじ銀行、日本カストディ銀行、JPモルガン・チェース銀行、商工組合中央金庫の11金融機関。他行宛ての振り込みや他行からの着金ができなくなっていた。
 全銀システムは平日午前8時半から午後3時半まで稼働する「コアタイムシステム」と、それ以外の時間に対応する「モアタイムシステム」で構成される。不具合が発生した銀行によれば、今回の障害で影響が出たのはコアタイムのみだという。三菱UFJ銀やりそな銀などでは、モアタイムの時間帯に送金できるようになった。
 10日は他の日に比べ事業会社の決済が集中する「5・10日(ごとおび)」にあたり、決済件数は通常の2〜3倍におよぶともされる。同日中に入金できなければ、代金の支払いなど企業間の商取引に大きな影響が出る可能性があった。
 企業や個人同士の決済の根幹となる全銀システムで顧客取引に影響が出る障害が起きたのは1973年の稼働以来初めて。

【ヨドバシ宅配拠点4倍に 当日配送拡大、EC競争激しく】
 同じ10日の日経速報メールは次のように報じた。
 ヨドバシホールディングス傘下のヨドバシカメラは2028年までに、電子商取引(EC)の配送拠点を現在の4倍の100カ所に増やす。200億円弱を投じ当日配送できる地域を全国で広げる。一部店舗を取得したそごう・西武の商品も順次扱う計画だ。迅速な配送を武器に顧客を奪い合うネット通販間の競争が熱を帯びてきた。
 ヨドバシは消費者の自宅などの配送先に届ける中継地点の役割を担う配送拠点を大阪や福岡、札幌や仙台など主要な大都市部で増設する。現在の当日配送エリアは東京23区のほかは、横浜や大阪など大都市でも一部地域にとどまるが、配送拠点の増設で23区外や大都市郊外などにも広がる見通しだ。
 ECサイトの「ヨドバシ・ドット・コム」で注文を受けた商品は川崎市など全国5カ所に構える物流センターから出荷する。荷物をさらに配達地域別に集約し、顧客宅に近い配送拠点から届けるようにする。
 現在、1日に配達可能な荷物数に上限を設けており、それを超えると翌日の配送しか受け付けない仕組みがある。今回の投資でそうした当日配送のボトルネックも大幅に解消する見通しだ。
 ヨドバシはそごう・西武の一部店舗を取得し百貨店に出店する計画を持つ。そごう・西武は、百貨店の商品をヨドバシのECでも取り扱う計画で拡販を狙う。そごう・西武のECサイト「e.デパート」では衣料品や食料品のほかアート作品や高級ブランド食器など約3万点を取り扱う。
 日本経済新聞社が実施した「小売業調査」によると、ヨドバシの22年度の通信販売売上高は2099億円と、アマゾンジャパンとジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)に次ぐ3位。
 ヨドバシは家電以外に食料品や書籍、スポーツ用品など幅広い分野の商品を約800万点以上扱う。商品点数の多さと一部店舗で24時間受け取りができる実店舗との連携が強みだ。全体の売上高に占める通信販売の比率は約3割だが、26年までに同5割まで高める目標を掲げる。
 ECは当日配送など速達性が顧客満足度に直結する。アマゾンジャパンも23年中に宅配仕分けを担う拠点を増やすなど、翌日の配送が可能な地域を拡大する。
 ヨドバシはトラック運転手不足といった物流の「2024年問題」にも対応する。人手確保の対応策が正社員化だ。アマゾンが個人事業主と直接契約して配送業務を委託しているのに対し、ヨドバシは全て同社の社員が物流を担っている。
 正社員として安定雇用し、月20万5000円以上の基本給に加えて年2回の賞与や社会保険、退職金などの福利厚生を提供する。勤務時間を柔軟に選べるようにするなどの施策で「必要な人手は確保できている」(ヨドバシ)という。
 速達性以外の強みも打ち出せるようにする。ヨドバシカメラの藤沢和則社長は「ネットのチャット上での人工知能(AI)を活用した接客など、IT(情報技術)を駆使した新しい買い物体験を提供し競合と差異化したい」としている。(坂本佳乃子)

【中東、高まる地政学リスク ガザ完全封鎖で地上戦の恐れ】
 11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ウィーン=田中孝幸、ドバイ=福冨隼太郎】イスラエルは10日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに対する本格的な報復攻撃に乗り出した。ハマスの拠点など1300カ所以上を空爆し、ガザの完全封鎖を宣言した。中東和平の実現がさらに遠のき、地域の融和に向けた動きが逆戻りしかねない。
 「ハマスが経験することは困難でひどいものになるだろう。我々は中東を変えるつもりだ」。ネタニヤフ首相は9日、ハマスの奇襲攻撃を受けた同国南部の市長たちに強調した。
 同国政府は7日夜の治安閣議で「ハマスの軍事力、統治力を破壊する」と決定した。史上最大の30万人の予備役を動員し、ガザへの水や食料、電気、燃料の供給を断つ「完全封鎖」を狙う。イスラエル軍はガザとの境界に10万人規模の部隊を配備したことを明らかにした。
 戦闘による双方の死者数は10日までに1700人を超え、少なくとも11人の米国人の死亡も確認された。イタリアやウクライナも自国民が犠牲になったと発表した。イスラエル軍は同日、ハマスの戦闘員が侵入した同国南部のガザとの境界一帯を制圧下に置いたと発表したが、一部で衝突が続いているとみられる。
 今後はイスラエル軍がガザへの地上侵攻に踏み切るかが焦点となる。
 米メディアのアクシオスはネタニヤフ氏がバイデン米大統領に地上部隊の投入以外に選択肢はないと伝えたと報じた。ガザで大規模な地上戦に発展すれば兵員の犠牲が拡大し、一般市民や外国人を含む人質の生命も危ぶまれる事態になる。親パレスチナのアラブ諸国の反発も避けられない。
 ハマスがイスラエルに奇襲をしかけた7日はユダヤ教の連休中だった。世界有数の情報機関「モサド」を抱える同国政府は攻撃を事前に予見できず、900人を超える犠牲者を出し100人超の人質をとられた。
 ハマスによる攻撃の背景には、米国の仲介でサウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けた交渉が進むことへの焦りがあったとみられる。パレスチナ奪還を掲げるハマスは、両国が関係改善に向かうことでパレスチナ問題が棚上げされることに危機感を強める。
 イスラエルでは22年12月、対パレスチナ強硬派の極右政党を含むネタニヤフ政権が発足した。テロ組織討伐を名目にパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に大規模攻撃を行うなどパレスチナとの関係が悪化していた。
 ブリンケン米国務長官はハマスによるイスラエル攻撃について、同国とサウジとの関係正常化交渉を妨害する狙いがあったとの見方を示した。「正常化に反対しているのはハマス、ヒズボラ、イランだ」と指摘した。
 地上戦の有無に加え、今回のハマスの攻撃や今後の情勢へのイランの関与も焦点になる。イランはハマスに武器や資金を供与し活動を支援してきた。イスラエルとサウジの接近を避けたい思惑もハマスと一致する。
 イラン国営通信によると、同国の最高指導者ハメネイ師は10日の演説で「シオニスト(イスラエル)は自らの行動によってこの厄災をもたらした」と強調した。ハマスの攻撃を「勇敢な行動」とも指摘した。ライシ大統領はハマスの指導者ハニヤ氏と電話し「イランは常にパレスチナの人々の側に立つ」と伝えた。
 米政府高官は9日、イランの関与について「決定的な証拠はまだ見つかっていない」と記者団に説明した。攻撃にイランが関わったとすれば米国の同盟国であるイスラエルとの対立は決定的になる。中東情勢の緊迫度は格段に上がり、米軍のさらなる増派も想定される。
 ロイター通信によると米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長は9日、「我々は(紛争が)拡大することを望んでいないという強いメッセージを送りたい」と述べ、イランに情勢への関与を控えるように求めた。
 米国防総省は8日、原子力空母ジェラルド・フォードを東地中海に向かわせると発表した。隣国レバノンの親イラン武装勢力ヒズボラが戦闘に参加するのを抑止するため、地域の戦闘機部隊を増強する。米メディアによると、空母打撃群は現地時間10日に東地中海に到着する見通しだ。
 中東では近年、イスラエルとアラブ諸国以外にも、中国の仲介によるサウジとイランの外交正常化など和解に向けた動きが続いてきた。イスラエルとハマスの衝突によって融和ムードが後退し、地域全体の対立が再燃する恐れも出てきている。

【サムスン営業利益78%減 7~9月、半導体苦境は底打ちか】
 同じ11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ソウル=細川幸太郎】韓国サムスン電子が11日発表した2023年7〜9月期の連結決算速報値で、営業利益は2兆4000億ウォン(約2650億円)と前年同期と比べて78%減だった。主力の半導体メモリーの価格が下げ止まったことで前四半期比では3.6倍の増益となり、業績は底打ちしたもようだ。
 売上高は前年同期比13%減の67兆ウォンだった。前四半期比では12%増と、売上高も回復に転じた。全社の純利益や事業部門別の収益は10月末に発表予定の決算確報値で公表する。
 サムスンはメモリー市況の急落に伴って23年1〜3月期、4〜6月期ともに営業利益が前年同期比95%減だった。利益水準は1兆ウォンを下回り、14年ぶりの低収益に落ち込んだ。7〜9月期は2兆4000億ウォンまで回復しており、今回の半導体不況での赤字転落は免れた。
 事業別に見ると、半導体部門の赤字をスマートフォンやディスプレーなど他部門の黒字で補う構図は変わらない。
 韓国ハナ証券の推定では、7〜9月期の半導体部門の営業損益は4兆ウォンの赤字(前年同期は5兆1200億ウォンの黒字)だった。4〜6月期(4兆4000億ウォンの赤字)よりは改善したものの苦境は続いている。
 韓国SK証券によると、サムスンは代表的なメモリー製品のDRAMを22年比で30%、NAND型フラッシュメモリーを40%、それぞれ減産しているという。韓国SKハイニックスと米マイクロン・テクノロジーを合わせた大手3社の大幅減産によって市場在庫も減少して販売価格は底打ちした。
 ただ、スマホやパソコンなどの需要は依然低調なため、半導体市況のV字回復を見込む証券アナリストは少ない。人工知能(AI)用半導体など一部で好調分野はあるものの、サムスンの半導体部門が四半期だけで1兆円規模の利益をあげていた22年上半期の水準に回復するのは時間がかかる見通しだ。
 スマホやディスプレー、家電の各部門の業績はほぼ前年同期並みで、全社業績をけん引するほどの収益力はない。サムスンの主要4部門はいずれも中国企業との競争にさらされており、長期的な収益低下傾向が続いている。

【日本版vsガラパゴスの行方 「良いモノ高く」待ったなし】
 同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
 利用頻度の高い気になる言葉がある。「日本版」だ。海外の雑誌が上陸した際などに使われてきたが、最近では制度作りで目立つ。代表例が米疾病対策センター(CDC)の「日本版CDC」法で、新型コロナウイルスの感染拡大で対応遅れとの教訓から成立した。
 さらに性犯罪歴の確認のための「日本版DBS」、大学スポーツの改革を目指す「日本版NCAA」など引きも切らない。どれも重要なテーマだが、海外モデルにならおうとする姿は、自立性が低下している日本の現実を象徴しているようだ。
 歴史を振り返れば、遣隋使や遣唐使、明治の岩倉使節団など先進国・地域の文化や舶来の制度を取り入れることを続けてきた。スポーツやビジネス、ライフスタイルまで「日本版」として発展させてきたわけだから、「いまさらそこを突っ込んでどうする」と逆に突っ込まれるかもしれない。
 産業界では1980年代まで自動車にしても家電製品にしても、改善と改良を重ねた日本版モデルが世界の先頭を突き進んだ。それが今では海外の家電量販店に日本製品は少なく、ある在米日本人によると「日本はまだ電気自動車(EV)を造っていないのか」と真面目に質問される始末だそうだ。GAFAや米テスラが覇権を握り、後手に回る日本の姿が日本版の乱立に重なってしまう。
卵サンドやファミマソックスが脚光
 実際にスイスの国際経営開発研究所(IMD)がまとめた2023年の世界競争力ランキングで、日本は35位とさえない。こう見ると厳しい現実が立ちはだかるが、最近は日本の経済・社会を巡る価値が再評価される動きも出ている。インバウンド(訪日外国人)の増加を背景とした日本のモノ・サービス・コンテンツの活躍だ。
 例えばコンビニでは、ふわふわした食感の「卵サンド」が大人気に。海外にこうした食品はあまりなく、ローソンでは前年比5.3倍の売れ行きで既存売上高を下支えする。
 意外に人気なのがファミリーマートの靴下「ファミマソックス」で、店舗カラーの緑などをあしらっている。監修したのは世界的に活躍するデザイナーの落合宏理氏だ。「ファミマの店舗カラーは世界的に知られている。そこを狙い、デザインを手がけた」。国内中心だったコンビニもじわりと世界で知名度がアップし、独自の靴下が「国際商品」になったわけだ。
 インバウンドを魅了するのは食にとどまらない。例えば祭りだ。全国の祭りを支援するオマツリジャパン(東京・練馬)によると「日本では大小含めて年間30万件の祭りが開催され、世界的にも圧倒的な数」という。森羅万象に「神」を見いだすからか、祭り好きの国民性であることは間違いない。ローカリズムの極致とはいえ、世界に類を見ない「奇祭」も多い。デジタル化やグローバル化で情報が行き渡る世界で、レアなイベントとして価値が高まっている。
「出島モデル」が鍛えたエンタメ
 グローバル化しつつも地域性・多様性が強く、内向きの巨大なガラパゴス経済圏を育む日本。娯楽産業でも顕著だ。「エンタメビジネス全史」(日経BP)によると、多くの国・地域で米国映画のシェアは8〜9割あるが、日本は6割が国産。しかも海外作品に対する規制がほぼないのに「草の根のようにクリエーティブな制作陣が育ち、消費者の嗜好性が育まれている」と著者の中山淳雄氏は話す。
 同書によると、音楽も世界市場はワーナー、ユニバーサル、ソニーの3社が7割を占めるが、日本では3割ほどにとどまる。邦楽シェアが圧倒的で、大小のレーベルがひしめきあっている。CD市場のシェアも約4割の1800億円が日本という。
 ネット配信が遅れている事情もある一方、日本の音楽市場ではアイドルビジネスの存在が大きい。CDは音楽を聴くと同時に、趣向を凝らしたジャケットという「装飾品」であり、コンサートやファンイベントの予約券を入手する別の価値を持つ。
 日本のマンガやアニメの存在感は世界的にも大きい。「外のコンテンツを取り入れつつ、自国の独自性を守る『出島モデル』が日本では機能している」(中山氏)。普段は真面目なのに祭りやマンガなど遊びの経済が発達している。これは仮説だが、日常の規律が厳しいからこそ「ハレとケ」の違いが生まれ、独自のエンタメ文化を強くしてきたのかもしれない。
 日本発のプレミアム・ガラパゴスを
 海外モデルを追いかける日本版の広がりと、ガラパゴス経済圏が併存する日本。ピーター・F・ドラッカー経営大学院(米カリフォルニア州)の山脇秀樹教授は「日本の産業界の地位は間違いなく低下したが、文化・風土に根ざしたきめの細かい領域は世界的に誇れる」と話す。中でも「課題解決型の発想」を評価する。例えば公共トイレの壁にある荷物用フック、整列して手に取りやすい傘置き場、効率よく収容する立体駐車場のターンテーブルなどだ。
 問題は独自の発想がありながら、国際競争の場で生かせていない点だ。「良いモノを安く」との考えが根付いたまま、新たな付加価値を発揮できていない。山脇氏は「グローバルな人々の交流がこれだけ広がると、あっという間にマネされてしまう。(エンタメや課題解決の着眼点など)無形資産を守るために『良いモノは高く』という発想への転換が不可欠」と指摘する。日本版で満足せず、日本発のプレミアム・ガラパゴスを伸ばしていく時期だ。


【旧統一教会の解散請求、12日決定へ 司法判断へ最終局面】
 同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡り、文化庁は11日、宗教法人審議会(文部科学相の諮問機関)を12日に開くと発表した。教団に対する解散命令請求について盛山正仁文科相が説明し、委員らの意見を聞く方針。
 同庁は委員の了承を得た上で請求を正式決定し、13日にも請求の手続きを進める方向で調整している。11カ月に及んだ教団に対する調査は最終局面を迎える。
 宗教法人法は「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合、裁判所が解散を命令できると定める。安倍晋三元首相銃撃事件後、教団の霊感商法や高額献金の問題が改めて注目され、同庁は解散命令の要件に該当する疑いがあるとして2022年11月に調査を始めた。
 宗教法人法に基づく質問権の行使は23年7月まで計7回にわたり、組織運営や財産などに関する資料の提供や質問への回答を求めた。並行して高額献金被害者らへの聞き取りを続けた文化庁は、解散命令の要件に該当すると判断。請求に当たって同法は宗教法人審議会への諮問を求めていないが、宗教関係者や専門家の委員らの意見を聞いて慎重に手続きを進める狙いがある。
 審議会の意見を踏まえて解散命令が請求されると、東京地裁が非訟事件手続法に基づいて非公開で審理する。地裁の決定内容に不服があれば、高裁や最高裁で争われる。
 仮に請求が認められ、教団から法人格が剝奪された場合、清算人が選定され、法人の財産を整理する。教団への税制上の優遇はなくなるものの、任意団体としての活動は続けられる。
 教団の広報担当者は取材に「(09年のコンプライアンス宣言以降は)社会的、法的に問題がある行動をしないよう指導を徹底しており、解散命令を請求されるような活動は教団としておこなっていない」とコメントしている。教団側は解散命令が請求されれば争う姿勢を示すとみられる。
 教団への調査を巡っては文化庁が9月、質問権の行使に対して教団が回答を拒否したとして、行政罰の過料を科すよう東京地裁に通知した。同庁によると、重複を除く500項目のうち100項目以上の回答がなかった。教団は10月6日、「質問権行使自体が違法」などと反論する陳述書を東京地裁に送付し、過料を巡っても全面的に対立する構図となっている。

【エクソン、米シェール大手を8.8兆円で買収合意】 
 同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ヒューストン=花房良祐】石油メジャーの米エクソンモービルは11日、米シェール大手のパイオニア・ナチュラル・リソーシズを買収すると発表した。買収額は約595億ドル(約8兆8000億円)。新型コロナウイルス禍からの経済再開後、化石燃料の収益力が高まっており、シェールの事業基盤を再構築する。
 エクソンは株式交換でパイオニア株をすべて取得し、24年前半の買収完了を目指す。パイオニアの株主は1株あたり約2.3株のエクソン株を受け取る。1999年にエクソンとモービルが合併して以来、同社にとって最大の買収となる。
 パイオニアはスコット・シェフィールド氏が1997年に創業し、米国のシェール革命をリードしてきた。テキサス州西部のシェール鉱区「パーミアン盆地」で有数の生産量を誇り、日量60万バレル(原油換算)以上の石油・天然ガスを生産する。
 買収によりエクソンの石油・天然ガスの生産量は2割程度多い日量約450万バレル(原油換算)となる。パーミアンは米国のなかでもシェール生産が好調な地域で、生産コストは低い。シェブロンなど他の石油メジャーも生産を増やしている。
 世界最大の民間石油会社のエクソンは、欧州の石油メジャーに比べて太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへの投資に慎重で、米国のシェールや南米の海底油田、世界各地の液化天然ガス(LNG)プロジェクトに積極的に投資してきた。再生エネより収益率が高い化石燃料への投資を当面続ける方針だ。
 22年のロシアのウクライナ侵攻を契機に、世界各地でエネルギー安全保障の重要性が再認識されている。加えて新型コロナ禍からの経済回復で、原油相場に上昇圧力がかかりやすくなり、各社の化石燃料の上流事業は大きな収益をあげている。
 このため、再生エネに積極的だった欧州の石油メジャーの間では事業戦略を見直す動きが浮上している。英シェルは再生エネの投資拡大にブレーキをかけて、LNGの生産を強化する方針を掲げた。

【藤井聡太八冠が誕生、史上初の独占 将棋王座戦を制す】
 同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
 第71期将棋王座戦(日本経済新聞社主催、東海東京証券特別協賛)の五番勝負第4局が11日、京都市のウェスティン都ホテル京都で指され、午後8時59分、138手で後手の挑戦者、藤井聡太七冠(21)が永瀬拓矢王座(31)を破り、3勝1敗で王座のタイトルを奪取した。藤井新王座は将棋界に8つあるタイトル全て(八冠)を同時に制覇する史上初の偉業を成し遂げた。
 対局を終えた藤井八冠は記者会見で「このような結果を出せるとは自分でも思っていなかった。そのことはうれしくおもう」と話した。1996年、当時の全冠に当たる七冠を独占した羽生善治九段(53)以来の全冠制覇となったことを問われると、「羽生先生の場合はその後もずっとトップとして活躍しておられる。私自身も、これからも長く活躍していきたい」と今後の抱負を語った。
 将棋のタイトルはほかに竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖があり、藤井八冠は今回の王座戦を含め登場した18回のタイトル戦全てを制している。21歳2カ月での王座獲得は最年少記録。4連覇中だった永瀬前王座は、5連覇が条件の永世称号「名誉王座」の獲得を目指したが、成らなかった。
 将棋界で三冠以上の全冠制覇を達成するのは升田幸三実力制第四代名人、大山康晴十五世名人、羽生九段に次いで4人目。藤井八冠はプロデビューから7年で羽生九段を超える金字塔を打ち立てた。
 詰め将棋で鍛えた終盤力を武器に早くから逸材の呼び声が高く、読みの速さ、深さはトッププロの中でも群を抜く。プロ入り前から将棋AI(人工知能)を研究に取り入れ、最先端の戦型にも詳しい。
 藤井八冠は2002年愛知県瀬戸市生まれ。16年、史上最年少14歳2カ月で四段昇段を決めプロ入り。デビューから連勝を続け、17年には歴代最多の29連勝を記録。「藤井フィーバー」を巻き起こした。
 8割を超える高い勝率を維持し、20年の棋聖戦では史上最年少の17歳11カ月で初タイトルを獲得した。21年にはタイトル通算3期の規定により最高段位の九段に昇段。23年6月には20歳10カ月で名人を獲得し、最年少名人の記録を約40年ぶりに塗り替えている。
 藤井八冠の活躍はファンの裾野を広げ、将棋界に新たなスポンサーを招き入れている。不二家は叡王戦を主催し、東海東京証券(王座戦)の他、伊藤園(王位戦)、綜合警備保障(ALSOK、王将戦)、コナミグループ(棋王戦)などが特別協賛社としてタイトル戦を支援する。
 サントリー食品インターナショナルが主催する準公式戦「オールスター東西対抗戦」、立飛ホールディングスが特別協賛する公式戦「達人戦」といった新棋戦も生まれた。藤井八冠個人とは不二家、サントリー食品インターナショナル、日本AMDがスポンサー契約を結ぶ。
 個人スポンサーの契約金は公表されていないが、22年に藤井八冠が獲得した賞金・対局料は1億2205万円だった。23年は、羽生九段が1995年に獲得した史上最高額1億6597万円を上回るとみられる。
日本将棋連盟会長・羽生善治九段の話
 継続した努力、卓越したセンス、モチベーション、体力、時の運、すべてが合致した前人未到の金字塔だと思います。今後も将棋の更なる高みを目指して前進を続けられることを期待します。
藤井八冠、辛抱実り大逆転
 藤井聡太七冠が八冠を達成した王座戦五番勝負第4局の将棋は、両者得意の戦型である「角換わり」で始まった。序盤早々、永瀬拓矢王座が23手目で▲4五桂と動き出した。事前に想定した展開になったとみられ、永瀬王座は時間をほとんど使わずに指し進めた。一方の藤井七冠は長考を繰り返し、一時は消費時間に3時間の差がついた。
 その後、永瀬王座が2時間超の長考の末に指した▲7四歩(43手目)から、局面が大きく動き始めた。主導権を握った永瀬王座は、長期戦辞さずの戦い方で若干のリードを保つ。しかし藤井七冠も辛抱を重ねて守り続け、じりじりと形勢が接近して一進一退の攻防に入った。
 終盤は二転三転、手に汗を握る展開となった。藤井七冠が先に5時間の持ち時間を使い切って1手1分以内に指さなければならない1分将棋に突入したところで、それまでの辛抱が実って逆転に成功。ところが明快な決め手を逃し、今度は永瀬玉が寄らなくなって再逆転となった。
 ついで持ち時間を使い切った永瀬王座だが、着実に攻めて藤井玉をあと一歩まで追い詰めた。藤井七冠の投了間近と控室の見方が一致した最終盤、永瀬王座の▲5三馬(123手目)が痛恨の落手。逆に自玉が安全になった藤井七冠が、永瀬玉を確実に仕留めた。
 解説の村田顕弘六段は「序盤、永瀬王座が前例のない新手を出した。藤井七冠も正確に対応して、難所を乗り切ったように見えたが、永瀬王座の研究が深くペースを握った。苦しくなった藤井七冠は時間を惜しまずに辛抱。それが実り、永瀬王座も焦る展開になった。終盤も激戦が続き、二転三転する大熱戦だった」と講評した。

【イスラエル、挙国一致政権を樹立へ 地上侵攻に備え】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【イスタンブール=木寺もも子】イスラエルのネタニヤフ首相は11日、中道右派野党を率いるガンツ前国防相と挙国一致政権をつくることで合意した。同国メディアが伝えた。司法改革などの争点を棚上げし、イスラム組織ハマスとの本格的な地上戦に備える。
 両氏の共同声明によると、挙国一致政権を樹立するほか、通常の内閣とは別にネタニヤフ氏、ガラント国防相、ガンツ氏で構成する小規模な「戦争管理内閣」をつくる。同内閣には元国軍トップら専門家もオブザーバーとして加わる。
 両氏はハマスとの戦闘が続く間、議会で無関係の法案審議を進めないことや政令を出さないことでも合意した。政府はハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を辞さない構えを示している。
 イスラエルの内政は直近まで混乱していた。裁判所の権限をそぐ司法制度改革は激しい反発を受け、大規模なデモが続いた。さらにハマスによる攻撃を事前にエジプトから伝えられながら、十分に取り合わなかったとの報道もある。
 主要野党との協力で政権を揺るがすこうした対立にいったん蓋をしたうえ、大規模な軍事行動に向けて政権の正統性を高める。
 ただ、全ての野党が挙国一致政権に加わるわけではない。中道政党を率いるラピド前首相はネタニヤフ政権に極右政党が加わっていることを理由に難色を示す。ネタニヤフ氏らは「戦争管理内閣」にラピド氏を迎える用意もあるとしている。
 7日にハマスがイスラエルに大規模攻撃をしかけて以降、イスラエル側の死者は11日までに1200人を超えた。一方、ガザ地区への報復の空爆では1100人以上が死亡し、国連によると職員9人も犠牲になった。イスラエルによる封鎖で、ガザ地区では水や電気も乏しくなっている。
 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11日、ガザで暮らす200万人以上の民間人について「避難路が開かれることを望む」と述べた。イスラエル、エジプトと協議していると明らかにした。
 11日、エジプトの首都カイロで緊急の外相会合を開いたアラブ連盟は声明で、イスラエルによるガザ地区攻撃の即時停止を求めたうえ、全ての当事者に自制を呼びかけた。

【藤井聡太八冠の脳内はどうなってる? 強みは「直観」】
 11日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
 将棋界初の8タイトル独占を果たした藤井聡太八冠(21)=名人・竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖。快挙を達成した21歳の若者の頭の中はどうなっているのだろうか。棋士の脳内を研究する理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター特別顧問の田中啓治氏は偉業をたたえつつ、「プロだけに働く脳の回路で、集中力を省力化している可能性がある」と分析する。
 プロ棋士は、脳内に将棋盤を描き、数十手先まで予測して、あらゆる思考を働かせて指す。そう思っている人も少なくない。だが、田中氏は「プロ棋士は1秒で最良の手にたどり着く。これは本人も意識していない『直観』」という。

【全銀ネット復旧、三菱UFJ銀行などで振り込み可能に】
 12日の日経速報メールは次のように報じた。
 銀行間送金システムで10日から続いていた障害は12日朝に解消し、通常どおり利用できるようになった。他の金融機関への送金に遅延が出ていた三菱UFJ銀行などから他行向けに通常通り送金できるようになった。遅延していた送金取引は順次処理されるという。障害発生から丸2日を経て、送金インフラは正常化に向かう。
 システムを運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が12日朝に午前8時半の稼働以降、午前9時時点で通常どおり振り込みできる状況になっていると発表した。三菱UFJ銀も正常稼働を確認したと公表した。りそな銀行や商工組合中央金庫なども通常通り送金できるようになったと周知している。
 全銀ネットが運営する「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」では10日以降、三菱UFJ銀やりそな銀行などで他の金融機関に送金ができなくなる障害が発生していた。障害が起きた10金融機関からの送金の未処理分は11日夜時点で計90万件程度にのぼっていた。
 10日から11日までの2日間で計255万件の送金取引に遅延などが生じた。児童手当や給料の振り込みといった個人への送金のほか、約束手形など企業間の決済などに幅広く影響した。障害が起きた同システムと各金融機関を結ぶ「中継コンピューター(RC)」のソフトウエアを改修した。
 全銀システムの障害解消後は再発防止策の策定が課題となる。同システムの顧客に影響が出る障害は1973年の稼働以降、初めて。システムの不具合が発生していたのは三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、もみじ銀行、日本カストディ銀行、商工組合中央金庫。

【トヨタと出光、全固体電池を27年度に生産 国内に設備】
 同じ12日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタと出光興産は12日、電気自動車(EV)向けの次世代電池「全固体電池」で提携すると発表した。2027年度に両社は国内で生産ラインを稼働させ、27〜28年に発売するEVに搭載して商品化する。トヨタは電池材料の製造技術に知見のある出光と連携し、全固体電池の量産で世界に先駆ける。
 次世代電池の本命とされる全固体電池は、充電時間を短くし、航続距離も伸ばせる。トヨタは6月、10分以下の充電で、現行EVの航続距離の2.4倍となる約1200キロメートルを走れる全固体電池の開発状況を説明した。
【関連記事】
・トヨタ、EV挽回へ「本命」電池 出光と量産で陣営作り
・トヨタと出光、「全固体電池量産、まず数十人のチーム」
 全固体電池はリチウムイオン電池の一種で、耐久性が課題だった。リチウムイオンが正極と負極の間を行き来し充放電する。電解質に液体ではなく固体を用いるため、リチウムイオンは高速で移動するものの、亀裂などが起こると性能が損なわれる。
 提携の対象は全固体電池の基幹部材だ。両社は課題解決に向けて協力する。出光は軟らかく、他の材料を密着させやすい利点がある硫化物系の電解質の開発・生産を得意とする。トヨタの強みである電池組み立て技術と組み合わせて量産を確実にする。
 出光は27年度に千葉県に小型の量産設備を設け、EVで年間数万台分の規模に相当する固体電解質の出荷に備える。
 トヨタは27〜28年の搭載車投入に向け、本社(愛知県豊田市)地区に全固体電池の生産ラインを置く方針だ。全固体電池を搭載したEVの数量は30年以降に本格的に増えていく見通しを示した。
 同日、東京都内で記者会見したトヨタの佐藤恒治社長は「ここからはものづくりのフェーズ。鍵を握るのが自動車産業とエネルギー産業の連携だ」と強調した。出光の木藤俊一社長は「今問われているのはポテンシャルや夢ではなく実現力。出光は材料である固体電解質の量産を通じ技術力で支えていく」と述べた。
 トヨタはEVの世界販売台数を26年に150万台、30年に350万台まで伸ばす計画を掲げている。ただ全固体電池は実用化した後も当面は一部の高価な車種への搭載に限られるとみられ、安価なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の開発も進めている。電池でも多くのラインアップを用意し、幅広い需要を取り込む。

【なぜハマスの攻撃を許したのか 勝ち組イスラエルの失態】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 イスラエルはなぜ、パレスチナのイスラム組織ハマスの大規模な攻撃を許したのか。イスラエルをとりまく3つの外部変化をたどると、中東最強の情報収集力の緩みともいえる失態が浮かび上がってくる。キーワードは「アラブ政治の重心移動」「シーア派の三日月地帯」「米国の脱中東戦略」だ。
「30年間、何も変わらない」
 この夏、イスラエルを訪れる機会があった。最大都市テルアビブのベングリオン空港にアラブ首長国連邦(UAE)ドバイのエミレーツ航空機が駐機する様を見て、アラブとイスラエルの関係改善を実感した。
 UAEは2020年8月、イスラエルと国交樹立で合意し、バーレーンやモロッコも続いた。あれから3年がたち、アラブとイスラエルの距離は着実に縮まった。
 今夏の訪問では、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸の町にも足を運んだ。案内を頼んだタクシーの運転手が「あれを見ろ」と指さした方角には、谷をはさんでユダヤ人入植地が迫る。「30年間何も変わらない」。運転手はまくしたてた。
 町からエルサレムに戻る路線バスはチェックポイントで完全武装のイスラエル軍兵士が乗り込み、パレスチナ人をバスから下ろして調べる。ハマスの無差別テロは断じて許されない。だがエルサレムから30分の距離に占領の実態があることもまた事実だ。
 思い起こすのは93年9月、米ホワイトハウスでパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)が調印された時だ。パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長が差し出した手をイスラエルのラビン首相はゆっくり受けとめた。
 歴史的な握手を衛星放送で見た世界中の人々は「きっと良い未来がくる」と信じた。それから30年。イスラエルと、独立したパレスチナ国家による2国家共存の理想はかすみ、取り残される危機感を強めたハマスが行動に出た。
地中海からペルシャ湾に移った「重心」
 奇襲作戦をなぜイスラエルは事前につかめなかったのか―。世界中が感じた疑問だ。なによりイスラエル自身が、問い続けることになるだろう。ただ、答えにたどりつく手がかりは、イスラエルを取り巻く中東地政学の変化にあるかもしれない。
 イスラエルは紛れもない中東の勝ち組だ。この10年あまり、混乱する中東にあってイスラエルは平均4%を超える安定した経済成長を続けた。研究開発費やベンチャー投資額など、スタートアップ大国としての実績を裏付ける数字は事欠かない。
 イノベーション大国の評価はマネーを呼び込む。日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、22年に海外からイスラエルへの直接投資額は278億6900万ドル(約4兆1200億円)と前年比3割増えた。
 ただ、経済成長と並行するように中東の地図を塗り替える3つの変化が進んだ。
 まず、民主化要求運動「アラブの春」だ。10年末のチュニジアを起点とするうねりはエジプトやイエメン、リビアなどの長期独裁政権を次々と倒した。シリアでは米国やロシアを巻き込む長い内戦へと発展した。
 この過程でアラブの盟主の座が政治・軍事大国エジプトから、混乱の波及をなんとか防いだ産油国サウジアラビアに代わり、アラブ政治の重心は地中海世界からペルシャ湾に移った。
 1948年のイスラエル独立以来、繰り返されたイスラエルとの戦争の先頭に立ったエジプトの凋落(ちょうらく)は、アラブのまとまりを弱め、結束の軸としての「パレスチナの大義」は失われていった。
 むしろアラブ政治の中心はパレスチナから遠いペルシャ湾岸へ移り、パレスチナ離れともいえる独自の外交・安全保障を探る土壌が醸成された。
 一方、和平交渉が停滞するなかで、パレスチナ人の間でPLOの流れをくむ自治政府への信頼も失われた。イスラム色の濃いハマスが台頭し、07年にはガザを制圧した。
仮想敵イランの「三日月地帯」
 2つめの注目点は非アラブの地域大国、イランの台頭だ。米国は03年にイラクのフセイン政権を武力で打倒し、同国に民主主義を定着させる理想を掲げた。ところが民族や宗派の対立が表面化するなかで、人口比で勝るイスラム教シーア派勢力が台頭し、同じシーア派を奉じるイランの影響力が拡大した。
 イランはシリアやレバノンでも混乱に乗じて足場を確保し、ペルシャ湾から地中海までひと続きの「シーア派の三日月地帯」とも呼ぶ勢力圏が出現した。
 イスラエルにとってイランは最大の仮想敵だ。勢力圏の出現で、安保の注意はイランに向けられた。シリアやレバノンに拠点を置く親イラン勢力への空爆を続ける一方、シリアの内戦には介入せず、同国の弱体化を待つことでイスラエルへの脅威を軽減させた。
過信が生んだ膨大な負担
 3つ目のポイントは、アラブの凋落とイランの台頭を招いた米国の脱中東戦略だ。米国の失策や撤収に伴って地域一帯が混乱し、相対的に安定するイスラエルの存在が際立つ皮肉を生んだ。
 イスラエルはガザの周囲に壁を築き、パレスチナ人を封じ込めてきた。イスラエルが成長し、アラブとの和解が進むほど、取り残されるパレスチナの焦燥感は募る。ネタニヤフ政権は歴代で最も右寄りとされる。極右と組んだ強引な手法は国内の分断を生んだ。暴発に至るガザの不満を見抜けなかったネタニヤフ氏に、勝ち組の過信はなかったか。
 今後、イスラエルが大規模な報復を続ければ、犠牲者の数は増えるばかりだろう。ハマスが期待する、パレスチナの大義にアラブが再び結束するうねりは望み薄だ。
 ただし、パレスチナ問題を解決しない限り、イスラエルは膨大な安保面の負担を抱え続け、成長の障害になることが改めてはっきりとしたことは確かである。

【旧統一教会解散命令、13日にも請求 文科相「損害甚大」】
 同じ12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は12日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を13日にも東京地裁に請求することを決めた。かねて問題視されていた高額寄付を教団による組織的な違法行為と結論付けた。刑事事件を起こしていない宗教法人の解散が司法の場で審理されるのは初めて。教団側は全面的に争う姿勢で、結論までは長期化が予想される。
 2022年7月に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件後、寄付の被害が注目された教団の存続を巡る議論は最大の節目を迎える。政府は民事の違法行為でも「組織性、悪質性、継続性」の3要件を満たせば厳格に対応する姿勢を明確にした。
 政府は11カ月に及んだ調査で、高額寄付の被害が宗教法人の業務として行われ、全国約1550人(約204億円)の被害が1980年以降、最近まで及んでいたことを確認。5000点の証拠を積み上げ、行為が3要件を満たすと判断した。
 盛山正仁文部科学相は記者会見し「財産目的で多くの人に多額の損害を生じさせた。宗教法人の目的を著しく逸脱する」と請求の理由を説明した。刑事事件が確認されない宗教法人も、同様の法令違反行為があれば手続きを踏んだ上で請求の対象となる可能性がある。
 宗教法人法は「法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」などがあった場合、裁判所が解散を命令できると定める。過去、法令違反を理由に解散命令が出たオウム真理教など2例は、いずれも幹部らの刑事手続きが進んでいた。
 旧統一教会は刑事事件がない中で、政府が先行して宗教法人を調査し、解散命令の是非を司法判断に委ねる初のケースとなる。
 政府は2022年10月、旧統一教会を念頭に、民法上の不法行為も3要件を満たせば解散命令請求できるとの新たな解釈を示した。それに基づき、所管する文化庁宗務課は同11月、宗教法人法上の「質問権」を初めて行使。並行して170人超の被害者らに聞き取りを進めた。
 日本経済新聞社が22年10月に実施した世論調査で「請求すべきだ」と答えた人は78%に上ったが、政府は「法律に照らして判断した上で手続きを進めていく」(岸田文雄首相)と慎重な立場を維持してきた。
 宗教関係者らの意見を聞くなど手続きの正当性も担保。12日も請求に必須でない宗教法人審議会(文科相の諮問機関)を開き、全会一致で請求が相当との意見を得た。
 今後の審理は東京地裁が非公開で進める。地裁の決定内容に不服があれば高裁や最高裁で争われる。過去2件は最高裁まで争われ、オウム真理教は解散請求から確定まで7カ月、幹部が詐欺事件を起こした明覚寺(和歌山県)は3年を要した。旧統一教会を巡る判断も年単位で時間がかかるとの見方がある。
 裁判所の解散命令が確定すれば、教団の法人格は剝奪され、活動は大きく制限される。選任された清算人が清算手続きを進め、税制上の優遇措置もなくなるが、任意団体としては活動できる。オウム真理教は解散命令確定後、後継の「アレフ」などが任意団体として活動を続けている。
 政府は調査と並行し、いわゆる「霊感商法」や高額寄付に関する被害救済を急いだ。信者を親に持つ「宗教2世」の存在を念頭に、23年1月に不当寄付勧誘防止法を施行。同法は法人や団体による寄付勧誘を禁止したが、自ら信じて寄付した場合は対象にならないなど予防や救済の実効性がなお課題とされている。
旧統一教会「極めて残念」、争う構え
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は12日、政府が示した解散命令請求の方針について「極めて残念で遺憾。偏った情報に基づいて政府がこのような重大な決断を下したことは痛恨の極み」とコメントを発表した。
 「今後は裁判において法的な主張を行っていく」として司法の場で争う構えを示した。
 「2009年のコンプライアンス宣言以降、改革に積極的に取り組んできた」と活動の正当性を強調。「解散命令を受けるような教団ではないと確信している」と主張した。

【LINEヤフー、ソフト開発に生成AI 作業1日2時間効率化】
 12日の日経速報メールは次のように報じた。
 LINEヤフーは10月中旬からソフトウエア開発に生成AI(人工知能)を全面的に導入する。社内のエンジニア約7000人全員が使えるようにする。作業時間を平均で1日当たり約2時間減らし、空いた時間を新サービスの考案など付加価値が高い業務にあてる。
エンジニア数が国内最大級のLINEヤフーが書類作成やリサーチなどの事務業務ではなく、本業で使う。生成AIの本格活用が広がり始めた。
米マイクロソフト子会社、米ギットハブのソフト開発支援サービス「ギットハブ・コパイロット(GitHub Copilot)」を導入する。同サービスは米新興企業のオープンAIの生成AIを基にし、ソフトの設計図となるコードを自動生成できる。
エンジニアが実現したい機能や動作などを入力すると必要なコードを作成する。入力した情報がギットハブなど外部に渡らない仕組みのため、LINEヤフーは初期開発から改良まで幅広い業務での利用を認める。これまで生成AIを使う企業は増えているが資料や議事録の作成が多かった。
AIに任せられるコードの作成などに費やす時間を減らす。空いた時間は人間にしかできない新サービスの創出や構想などの創造的な仕事の時間に充てる。
 LINEヤフーが抱えるソフトウエアのエンジニア数は国内最大規模とみられる。同社は全面導入に先立ち、6月末から2カ月間、約550人のエンジニアに導入して効果を実証してきた。
エンジニアごとに主な業務は企画や開発など多岐にわたるが、コード作成に費やす時間を平均で1日当たり2時間程度減らせたという。開発中心のエンジニアでは3〜4時間縮められた事例も多かったとしている。
2021年度のヤフーの全社員の勤務時間は1日平均で約8時間だった。LINEヤフーが生成AI導入で減らせると見込む作業時間は、この2割強に相当する。
スマートフォンのアプリなどを用いたサービスの競争は激しい。アプリ分析のフラー(新潟市)によると、日本人が持つスマホアプリは約103個あったが、実際に使うのは39個弱だった。
LINEヤフーの事業は停滞している。国内で最も利用者の多いアプリのLINEを抱えるが、SNSでは中国発のショート動画アプリ「TikTok(ティックトック)」が若者を中心にシェアを急速に広げる。
フラーが分析した22年の月別の利用者数の伸び率を見ると、LINEは前年割れがほとんどだった。TikTokは月によっては6割増になるなど勢いの違いは鮮明だ。
23年4〜6月期のヤフーやLINEなどの広告事業の売上収益は前年同期比0.3%減にとどまり、プラットフォームとしての競争力が低下している。競争力のある新サービスの開発がLINEヤフーの喫緊の課題となっている。
 LINEヤフーは10月にZホールディングスとヤフー、LINEが合併して発足した。生成AIの利用には機密情報の取り扱いなど社内でのルール作りが必要で、これまでは事業会社のヤフーとLINEがそれぞれ別々に対応してきた。
合併により一連のルールも一本化することで「生成AIの活用が一段と進む可能性が高い」(LINEヤフー)という。
LINEヤフーは傘下のサービスでも生成AIの導入を積極的に進めている。ギットハブ・コパイロットは、ファッションEC(電子商取引)大手のZOZOなどが導入している。
ほかにフリマアプリ「PayPayフリマ」でも出品時の説明文を生成AIが作成する機能を始めたほか、飲食店予約サービスやLINEのアプリ内でも生成AIを活用したサービスを提供している。(松田直樹)

【電気・水遮断のガザ窮状 逃げ場ない市民、深まる危機】
 13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ロンドン=江渕智弘】イスラエル軍の攻撃を受け、電気や水が遮断されたパレスチナ自治区ガザの窮状が深まっている。イスラエル軍が地上侵攻の準備を進めるなか、逃げ場のないガザの人々は不安を募らせる。
英公共放送BBCの現地特派員は12日、自動車を走らせながら撮影した空爆後の町の映像をX(旧ツイッター)に投稿した。みるかぎり無傷の建物はなく、あたり一面がれきの山。逆さにひっくり返って大破した車なども映っていた。
 「電気も水もない。わずかな食料は電気がないから腐る」。BBCが同日伝えたガザ中部に住む、スコットランド行政府首相の義母の映像。4人の孫と一緒だという義母は爆発音が響くなか「パレスチナ人を助けてください」と涙声で訴えた。
 英スカイニュースは12日、英スカイニュースは12日、ガザ在住の別の女性の証言を伝えた。「この3日間はとても大変だった。家を出て走ったことしか覚えていない。家を失い、すべてを失った」と語った。
 イスラエルはハマスの攻撃への報復としてガザに空爆を重ね、電気や水、食料、燃料の供給を止める「完全包囲」に踏み切った。11日に唯一の発電所が燃料不足で稼働を停止した。
 イスラエルのカッツ・エネルギー相は12日、人質の解放までガザの民間人への人道支援を認めない考えを示した。カッツ氏はXに「イスラエル人の人質が戻るまで電気がつくことも水道から水が出ることも燃料トラックが入ることもない」と投稿した。
 多数の死傷者が出ているが、病院が攻撃を受けたり物資が足りなかったりして治療できない。パレスチナ自治政府のマリキ外相は「占領者(イスラエル)は必需品の供給遮断で無防備な市民への犯罪を実行している。醜悪な集団懲罰だ」と非難している。
 スカイニュースによると、ガザ最大の医療施設であるシファ病院は負傷者が廊下に横たわる。乳児の生命を維持するための酸素供 給装置の燃料はあと4日分しか残っていない。
 赤十字国際委員会は12日の声明で「電気がなければ病院は遺体安置所と化す危険性がある」と警鐘を鳴らした。
 ガザの当局によると子ども500人を含む1537人が死亡した。負傷者は6612人にのぼる。国連によると33万8000人を超える避難民が出ている。
 日本の外務省によると、ガザ地区は福岡市よりやや広い365平方キロメートルに約222万人が暮らす。人口が密集するガザへの爆撃や地上侵攻は多数の民間人の犠牲を伴う。
 ブリンケン米国務長官は12日、イスラエルのネタニヤフ首相との会談後の記者会見で「民間人の被害を避けるため、あらゆる予防措置を講じることは非常に重要だ」と強調した。物資の調達や市民の退避手段となる人道回廊の設置など、対策が急務になっている。

【ガザ北部から24時間以内退避を イスラエルが国連に通知】
 同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
 ロイター通信は13日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ北部のすべてのパレスチナ人に対し、ガザの南部へ24時間以内に退避するよう国連に通知したと報じた。イスラエルはガザへの空爆を続けており、近く地上侵攻に着手する恐れがある。
 対象となる住民は約110万人。国連の報道官は声明を出し「壊滅的な人道危機を招く」と表明し、撤回を強く求めた。
ガザを巡っては同地区を実効支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに向けてロケット弾を数千発発射し、戦闘員を侵入させた。イスラエルは空爆による報復を続けている。
 双方の応酬により死者数は12日までにイスラエル側が1300人、ガザ側が1400人に達した。イスラエルが地上作戦に踏み切ればガザの民間人の犠牲者はさらに増える恐れがある。
 12日にイスラエルを訪問したブリンケン米国務長官は、イスラエルのネタニヤフ首相と会談し「民間人の被害を避けるため、あらゆる予防措置を講じることが重要だ」と強調。市民の退避手段を確保するためガザに人道回廊を設ける交渉を進める姿勢を示した。
【関連記事】イスラエル邦人退避へチャーター機、日本政府14日手配

【Microsoft、米ゲーム大手アクティビジョン買収 10兆円】
 同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
 【シリコンバレー=渡辺直樹】米マイクロソフトは13日、米ライブサービスゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードの買収が完了したと発表した。最後の関門となっていた英競争・市場庁(CMA)が同日、買収を承認していた。買収額は2022年の発表当時で約690億ドル(約10兆3000億円)。中国の騰訊控股(テンセント)やソニーグループとならぶ巨大ゲーム企業が誕生する。
 独占禁止の観点から一度は買収を不承認としたCMAが、マイクロソフトの買収スキーム見直しを受け承認に転じた。22年1月に買収で合意してから、1年半以上続いてきた世界各地の規制当局の承認を終えたことになる。
 マイクロソフトの買収の認可をめぐっては米国でも連邦取引委員会(FTC)が反発した。一時裁判所に買収差し止めを求めて争う事態に発展したが、司法側は最終的に差し止めを却下した。
 米巨大IT(情報技術)企業が大型買収で拡大する戦略を米欧の当局は懸念する。FTCは巨大ITの買収戦略の歯止めに動くが、米メタによる仮想現実(VR)企業買収の差し止めにも失敗するなど敗北が続く。当局による強硬な差し止め一辺倒は限界を迎えている。
 ライブサービスゲームはネットを介してシナリオやコンテンツを後から追加して継続的に楽しめる。ゲーム業界で最も勢いのある楽しみ方だ。アクティビジョンはライブサービスゲームで有力ソフトを抱える。戦場を舞台にしたアクションゲーム「コール・オブ・デューティ」やパズルゲーム「キャンディークラッシュ」といった人気ソフトを手掛ける。
 これまでソニーグループの「プレイステーション」やマイクロソフトの「Xbox」といったゲーム機だけでなく、スマートフォンにもゲームを提供してきた。プレーヤー数は190カ国、月4億人に上り、22年の売上高は約75億ドルだった。
 オランダの調査会社ニューズーによると、ゲームを手掛ける企業の22年の売上高ランキングで、マイクロソフトはテンセント、ソニーG、米アップルに次ぐ4位だった。8位のアクティビジョン買収により、単純計算でソニーGを抜き2位に浮上することになる。
 マイクロソフトにとっては16年にビジネスSNSのリンクトインを262億ドルで買収して以来、過去最大のM&A(合併・買収)となる。インターネットを通じてゲームを配信するサブスクリプション(定額課金)事業を強化する。ハードのXboxに加え、買収で有力ソフトをいち早く取りそろえることで、ゲーム事業全体の底上げにつなげる。
 マイクロソフトは8月、アクティビジョンの人気ゲームのネットを通じた配信を15年間、ゲーム大手の仏ユービーアイソフトに譲渡すると発表した。買収スキームを見直すことで独占の批判をかわし、英国の規制当局から承認を引き出した形だ。

【キオクシア、WD半導体部門と統合で最終調整 日米再編】
 同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
 米ウエスタンデジタル(WD)が半導体メモリー事業を分離し、旧東芝メモリのキオクシアホールディングスと経営統合する方向で最終調整していることが13日、わかった。メモリー市況が悪化するなか、規模を拡大して投資競争に備える。日米として半導体の安定供給を確保する。
 20日までに金融機関と融資条件などを詰める。またキオクシアに間接出資する韓国のSKハイニックスは反発している。月内の基本合意を目指しているが、流動的な面も残っている。
 キオクシアは半導体フラッシュメモリーで世界3位、WDは4位。統合で首位の韓国サムスン電子に並ぶ規模となる。合意後に世界各国での競争法審査に入る。中国での承認が得られるかは不透明な部分もある。
 
 持ち株会社の下にWDのメモリー事業とキオクシアが入る形となる。企業価値ベースでの統合比率はキオクシア側が63%、WD側が37%。資本調整を経て、持ち株会社への最終的な出資比率はWD側株主が50.1%、キオクシア側が49.9%となる。キオクシアの早坂伸夫社長が新会社の社長となり、取締役会もキオクシア側が過半を握る。
 登記上の本社は米国で、本社所在地は日本となる。米ナスダック市場に上場し、東京証券取引所への上場も目指す。統合にあたり3メガ銀行と日本政策投資銀行などが1兆5000億〜1兆9000億円程度の融資を検討している。
 キオクシアとWDが手がけるNAND型フラッシュメモリーは長期にデータを保存する役割を担う半導体。パソコンやスマートフォン、データセンターなどに使われている。キオクシアとWDはこれまで三重県や岩手県などにある製造拠点への巨額投資を折半してきた。英調査会社オムディアによるとサムスンのシェアは2022年時点で34%。統合2社は単純合計で32%となる。
 キオクシアは18年、米投資ファンドのベインキャピタルなどが約6割を出資する形で東芝から独立した。新規株式公開(IPO)を目指し、20年には上場承認を受けたが、華為技術(ファーウェイ)への米政府の規制など米中貿易摩擦の悪化で直前で延期していた。
 ハードディスク駆動装置(HDD)大手のWDは16年にサンディスクを買収してNAND型フラッシュメモリーに参入した。物言う株主として知られる米ファンドのエリオット・マネジメントなどがメモリー事業の分離を提案。WDは再編案の検討に入っていた。
 足元ではスマートフォンなどの不振で半導体メモリー市況が急速に悪化している。台湾調査会社トレンドフォースによると、23年4〜6月期のNANDフラッシュの単価は1〜3月期から10〜15%低下した。採算悪化を受けて、キオクシアとWDはともに22年10〜12月期から3四半期連続で最終赤字となっている。
 一方で長期的には、人工知能(AI)や高速通信「5G」の普及などで需要拡大が見込まれる。キオクシアとWDは三重県四日市市と岩手県北上市の工場で連携している。
 メモリー工場は1棟当たり1兆円規模の巨額投資が必要となる。キオクシアの純有利子負債は20年6月末時点で約1兆3000億円だった。資金力で勝るサムスンに対抗するためには、規模拡大が必要だった。
 世界に生産や開発拠点が広がる半導体は有事の際に供給が分断されるリスクがある。米国は中国抜きの供給網を確立し、有事でも経済への影響を最小限に抑える戦略をとる。米国に同調する日本も、脱炭素やデジタル化に欠かせない半導体を経済安全保障の観点から、国内生産に向けて企業誘致を進めている。
 日米の半導体連携の中でキオクシアとWDの統合は21年ごろから浮上していた。当時はWD本体との統合で交渉が進んでいたが、本社所在地や上場市場などの課題があり中断していた。その後WDがメモリー部分を分離してキオクシアと統合する形で交渉が再開した。
 統合が実現するには世界の独禁当局の審査が必要となる。米中間の対立が深まるなか、中国政府は米企業との経営統合案件について、独占禁止法を厳格に適用しており承認が得られるかは不透明な面もある。米国が中国向けの半導体輸出規制を強化する中で、キオクシアの主要顧客である中国企業に対して製品を輸出しにくくなるといった点も懸念される。
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【イスラエル・ハマス衝突、世界に飛び火 米欧揺さぶる】
 15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの衝突が、世界に波紋を広げている。ロシアや中国はパレスチナを支援し、欧米を揺さぶる構えをみせる。中東の融和の期待はしぼみ、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化は遠のくとの観測が強い。
 国連安全保障理事会は13日、ハマスとイスラエルの衝突を巡り非公開で協議したが、具体的な支援策の結論を出せなかった。ロシアが示した決議案はハマスを明確に非難する文言を含まず、即時停戦を主張したとみられる。米英仏などは、民間人を襲い人質に取ったハマスの「テロ」を強く批判しイスラエル支持を鮮明にしており、ロシア案に賛成する見込みは乏しい。
 ロシアのネベンジャ国連大使は記者会見で、欧米が国連で中東情勢について公開での会合を要請してこなかったと指摘した。「一方でウクライナ情勢を議論する会合はあらゆる口実を用いて開こうとする」と批判した。
 ウクライナ侵攻でただでさえ深刻な安保理の亀裂が深まりかねない。ロイター通信によると、議長国ブラジルはハマスのテロ攻撃への非難を明記した決議案を配布した。
 パレスチナ問題をはじめ中東の複雑な情勢は米中ロなど域外の主要国も注視し、影響力を行使してきた。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は13日、国連を通じてガザに緊急援助を提供する意向を示した。王氏は14日、ブリンケン米国務長官と電話協議し、ガザ衝突について議論した。
中国は3月、中東の覇を競う地域大国のサウジとイランの関係正常化を仲介し、米国の不意を突いて中東での存在感を誇示した。バイデン米政権が仲介努力を加速させてきたのが、イスラエルとアラブの「盟主」を自任するサウジとの国交正常化交渉だ。9月には両国の首脳が、正常化は近づいているとの認識を示していた。
 ロイター通信は13日、サウジがその交渉を凍結していると報じた。サウジは国交正常化の前提としてパレスチナ問題の解決を掲げていた。今回のハマスとイスラエルの大規模衝突で、アラブ社会はパレスチナに同情的な見方を示している。サウジはパレスチナ人を攻撃するイスラエルとの関係改善を進めることは難しいと判断している可能性がある。
 ブリンケン氏は14日、サウジでファイサル外相と会談した。米国務省の声明によると、紛争拡大防止や民間人保護を巡り協議した。イスラエルとサウジの国交正常化も議題になった可能性があるが、声明では触れなかった。
 イスラム教の集団礼拝日にあたる金曜日の13日、ハマスの指導者は「怒りの日」と呼んでイスラム教徒らに行動を呼びかけた。ハマスが7日にイスラエルに大規模な越境攻撃をかけてから最初の金曜日だった。
 ハマスとイスラエルの衝突は、遠く離れた欧米でも火種になる恐れがある。多民族社会の米国では13日、親パレスチナと親イスラエルの両派が各地でそれぞれ集会や抗議活動を繰り広げ、一部では暴力事件にも発展した。警察は警備を強化している。
 フランス政府は13日、北部アラスの高校で発生した教師刺殺事件を受け、テロに対する警戒態勢を最高水準に引き上げた。ダル マナン内相は事件とイスラエル・パレスチナ情勢の緊迫には「おそらくつながりがある」との見方を示した。
 仏政府は対立が国内に波及するリスクに神経をとがらせている。ユダヤ系の学校や宗教施設の警備を強化する一方、パレスチナ支持のデモを禁止した。パリのルーヴル美術館は14日、「安全上の理由」で閉館すると発表した。(久門武史)

【谷村新司さんが死去 74歳 アリス「冬の稲妻」「昴」など】
 16日の日経速報メールは次のように報じた。
 「昴(すばる)」「冬の稲妻」など多数のヒット曲を手がけたシンガーソングライターの谷村新司(たにむら・しんじ)さんが10月8日、死去した。74歳だった。16日に所属事務所が明らかにした。告別式は近親者で行った。後日、偲ぶ会を開く予定という。
今年3月に腸炎のため手術を受け、闘病を続けていた。
 1948年大阪府生まれ。71年に堀内孝雄さんとフォークグループ「アリス」を結成し、矢沢透さんが参加した72年にデビューした。「チャンピオン」「帰らざる日々」などのヒット曲を生み出した。
 81年にアリスが活動を休止しソロ活動を本格的に始めた。山口百恵さんが歌った「いい日旅立ち」、加山雄三さんとの「サライ」など数々の名曲も手がけた。
 2022年にアリスの活動50年を記念するライブを開催。23年に予定した全国ツアー公演は谷村さんの闘病で延期となっていた。15年、紫綬褒章を受章。
 谷村さんの訃報に、アリスの堀内さんは「突然の別れに驚きを隠せません。50年来の親友であり、良きライバルでした」とコメントを発表した。矢沢さんも「悲しいというより悔しい。どうか谷村を忘れないで下さい」と惜しんだ。

【2028年ロス五輪に野球・ソフトボールなど5競技追加】
 16日の日経速報メールは次のように報じた。
  【ムンバイ=共同】国際オリンピック委員会(IOC)は16日、インドのムンバイで総会を開き、2028年ロサンゼルス五輪の追加競技として大会組織委員会から提案された野球・ソフトボール、フラッグフットボール、クリケット、ラクロス、スカッシュの5競技を一括承認した。
 21年東京五輪で日本がともに金メダルを獲得した野球とソフトボールは、2大会ぶりの復帰となる。
 【関連記事】28年ロス五輪5競技追加 2大会ぶり野球「最強目指す」
 IOCのバッハ会長は「追加5競技の選択は米国のスポーツ文化に沿ったものだ。ロス五輪をユニークなものにしてくれる」と期待した。
 世界野球ソフトボール連盟(WBSC)のフラッカリ会長は大リーグがトップ選手参加に合意していると強調し、シーズン中断の判断も注目される。
 インドなど英連邦諸国で人気が高いクリケットは128年ぶり、北米発祥のラクロスは120年ぶりの復帰。米国で人気の高いアメリカンフットボールから接触プレーをなくしたフラッグフットボール、スカッシュは初実施となる。
 IOCによると、夏季五輪の上限とする選手1万500人の総枠は超えるという。追加競技は742人の枠があり、既存競技の選手数を削減して人数調整をする見込み。
追加候補に残っていたブレイキン(ブレイクダンス)や空手などは組織委の提案から漏れた。
 馬術を除外して障害物レースを採用した近代五種と重量挙げはともに保留扱いとなっていたが、実施競技入りが決まった。IOCが承認した統括団体のないボクシングは引き続き保留となるが、選手保護の観点で今後競技入りが決まる見通し。

【住友不動産、インドで不動産開発5000億円 新興国シフト】
 同じ16日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 住友不動産はインド・ムンバイ中心部で大型再開発に動く。総事業費5000億円を投じ、オフィスビルやホテル、商業施設を備えた複合型の不動産開発を進める。同社のインドの不動産投資は累計7000億円規模に拡大する。新興国の経済成長を取り込み、将来の収益につなげる。米欧が軸だった日本の不動産大手のオフィスビル開発が新興国に広がってきた。
 日本勢の新興国での開発は、これまで住宅などが多かった。大手各社がオフィスビル開発に力を入れてきた米国はテレワーク浸透で市場の鈍化が指摘され、人口が減少する日本も中長期で高い成長は期待できない。インドは2027年にも日本を抜き世界3位の経済大国になる見通しで、住友不の計画は新興国で大型オフィス開発が本格化する転機となる。
 調査会社モードーインテリジェンスによると、インドのオフィス市場は28年に約910億ドル(約13兆5900億円)と、23年の3.5倍に拡大する見込みだ。
 モディ政権による税制改革などでビジネス環境が改善され、製造業中心に企業進出が増えた。オフィス需要が拡大し、外資の不動産開発が活発になっている。不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)によると、22年のインドでの不動産投資額は前年比32%増の78億ドルに達した。
 住友不の今回の計画は外資単独でのインドの不動産開発で過去最大級だ。同社はムンバイ中心部の「ワーリー地区」で、現地財閥のワディア・グループから約8万平方メートルの紡績工場跡地を467億ルピー(約800億円)で取得する契約を結んだ。30年代前半の完成を目指し、同地でビル複数棟を建設する。ビルの延べ床面積は合計100万平方メートル規模を想定する。
 住友不はすでにムンバイの別の地区の2カ所において、延べ床面積が合計26万平方メートルのビル開発に計2000億円弱を投じている。今回の新たな計画で、住友不のインドの不動産開発の規模は日本企業で最大となる。
 住友不は30年代にインドの賃貸オフィス事業を賃貸利益(営業利益の減価償却前に相当)ベースで600億円規模に育てる。国内の賃貸オフィス事業の賃貸利益は3000億円程度を見込む。
 ほかの不動産大手もインドで投資を拡大している。三菱地所がシンガポールの不動産大手が組成したファンドに投資する形で、24年に第4の都市チェンナイでオフィスビルを完成させる計画を持つ。三井不動産はベンガルールでオフィスビルを完成させ、現在2期目の計画を進める。
 三井不が22年に米ニューヨークで総事業費6000億円規模のオフィスビル「50ハドソンヤード」を完成させるなど、不動産大手の海外でのオフィス開発は米欧が軸だった。22年度末の海外資産残高は三井不で2兆3000億円、三菱地所で1兆3000億円と5年前に比べていずれも2倍前後に伸びた。今後は両社もインドなど新興国での開発を活発化させる。

【バイデン大統領、18日にイスラエル訪問 国務長官が発表】
 17日の日経速報メールは次のように報じた。
 ワシントン=坂口幸裕】ブリンケン米国務長官は16日、バイデン米大統領が18日にイスラム組織ハマスと交戦するイスラエルを訪れると発表した。招請した同国のネタニヤフ首相らとテルアビブで会談し、米国が同盟国であるイスラエルを支援する姿勢を明確にする。
18日にヨルダンの首都アンマンも訪れ、パレスチナ自治政府のアッバス議長、ヨルダンのアブドラ国王、エジプトのシシ大統領に会う。
 米ホワイトハウスは16日の声明でバイデン氏のイスラエル訪問について「ハマスの残忍なテロ攻撃に直面する同国への揺るぎない支持を示し、次のステップについて協議する」と記した。
 アッバス氏との会談を巡っては「ハマスがパレスチナ人の尊厳と自決権を守る立場にないと改めて表明し、パレスチナ自治区ガザ市民の人道的ニーズについて話し合う」と強調した。
ブリンケン氏は記者団に、イスラエルと人道支援計画の策定で合意したと明かした。「一刻も早くガザへの援助を始めるのが重要だ」と語った。
 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は16日、記者団に「バイデン氏はイスラエルとの結束を示す」と説明。「イスラエルの戦略と軍事作戦に関する最新状況や自衛に必要なものを聞き取り、米議会とそのニーズを満たせるように取り組んでいく」と述べた。
 パレスチナの民間人への被害を回避するため「イスラエルを含む地域のパートナーと協力して人道支援と安全な退避方法を提供する考えを明らかにする」とも強調。「人道支援が可能なかぎり早く始まると期待している。この外遊の大きな議論のテーマだ」と話した。
 バイデン氏はハマスに攻撃を受けたイスラエルの報復を容認し、迎撃ミサイルや弾薬を供与するなど軍事支援の強化にも乗り出した。一方、標的をハマスに絞り、民間人への被害を回避する対策を講じるようイスラエルに促す。
ブリンケン氏は16日、12日に続きイスラエルを再訪した。ヨルダンやサウジアラビア、エジプトなど中東の主要国訪問を踏まえ、ネタニヤフ首相らと会談した。
 米国務省は声明で、ブリンケン氏がイスラエルのヘルツォグ大統領との会談で「ハマスのテロから自国を防衛するイスラエルの権利への支持を改めて表明した」と記した。ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区の民間人の安全や保護を確保する取り組みなども話し合った。
 バイデン氏のイスラエル訪問にはリスクも伴う。米国が連帯を示せば敵対するイランやレバノンの親イラン武装組織ヒズボラだけでなく、パレスチナ人に共感を示す他のアラブ諸国の反発を招くおそれもある。
 
【キオクシア統合案、SK同意せず ソフトバンクGに連携打診】
 18日の日経速報メールは次のように報じた。
 旧東芝メモリのキオクシアホールディングスと米ウエスタンデジタル(WD)の半導体部門との統合交渉について、キオクシアに間接出資する韓国のSKハイニックスが難色を示している。合意に必要なSKの同意が得られていない。SKは統合交渉が不調に終わった場合に備え、ソフトバンクグループ(SBG)に対し連携を打診した。
 現時点でSBGはキオクシアとWDの統合交渉には関与していない。キオクシアとWDは統合に向けて、週内にも金融機関から融資を確約してもらうよう最終調整をしている。SKの同意が得られないことなどが、金融機関との交渉に影響を与える可能性もある。
キオクシアとWDの統合案は、持ち株会社を作ってWDのメモリー事業とキオクシアが入る形。企業価値ベースでの統合比率はキオクシア側が63%、WD側が37%で、資本調整後に持ち株会社にWD側株主が50.1%、キオクシア側が49.9%出資する形となる。
 登記上の本社は米国で、本社所在地は日本となる。米ナスダック市場に上場し、東京証券取引所への上場も目指す。キオクシアの早坂伸夫社長が新会社の社長となり、取締役会もキオクシア側が過半を握る。
 NAND型フラッシュメモリーの世界シェアでSKは韓国サムスン電子に次ぐ2位。3位のキオクシアと4位のWDが統合するとサムスンに並ぶ規模となる。統合後、両陣営と差がある3位となるSKの危機感は大きい。さらに将来の提携を模索していたキオクシアが他社と統合することへの拒否感もある。
 キオクシアとWDが統合を断念した場合に向けて、SKはキオクシアに新たな案を提示するため、SBGに協力を打診した。SBGは傘下に英半導体設計大手アームを抱えるなど人工知能(AI)を事業の中核に据えている。
 SKはチップを積層して高速・大容量のデータ処理を可能にする超高速DRAM「HBM」を手がける。キオクシアの工場の転用などを想定しているようで、SBGにとってSKと組んでキオクシアと協業することはデータセンター事業に必要な半導体メモリーの確保につながるとみられる。
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【スズキ、インドをEV輸出拠点に 25年にも日本で販売 日本メーカーの輸出モデル転機に】
 同じ18日の日経速報メールは次のように報じた。
 スズキはインドを電気自動車(EV)の輸出拠点に位置づけ、環境車の世界展開を加速する。2025年にも日本に輸出し、欧州向けでは資本提携するトヨタ自動車への供給を検討する。インドは市場の成長余地が大きく、製造コストも日本より安い。EVは供給網や各国の産業政策のあり方を一変させ、日本の輸出モデルも変容を迫られている。
 スズキのEV自社生産はインドが初めて。日本の自動車大手は研究開発や人材などの経営資源が豊富な国内工場で技術を確立し、生産モデルを海外に移転するのが一般的だった。トヨタや日産自動車は国内から始めていた。スズキはEVの中核工場をインドに位置づける格好で異例だ。
 インドから25年にも日本に輸出・販売するのは、価格が300万〜400万円程度の小型多目的スポーツ車(SUV)タイプのEVだ。西部グジャラート州の工場に新生産ラインを設け、24年秋から生産する。生産はインド子会社のマルチ・スズキが担う。
EVのほかガソリン車も生産し、生産能力は年25万台を想定する。日本では26年に軽自動車のEV生産を静岡県で始める計画で、インドでの生産の知見を日本に生かす。
 EV需要が大きい欧州にも輸出する。小型タイプのSUVの販売に加え、資本提携するトヨタにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給する検討に入った。トヨタも欧州でEVのラインアップの拡充を急いでいた。
 スズキはインドの乗用車市場でシェア4割を占める最大手で、現地で低コスト生産のノウハウを蓄積している。手ごろな価格を武器に世界でEVシェアを伸ばす中国勢に対抗できる開発スピードやコスト競争力をインドで磨く。日本は円安の影響で輸出競争力が高まっているものの、スズキはインドが最適なEV輸出拠点とみている。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、インドの製造業全般で原価は日本に比べて2割安く日本生産に比べて有利となる。スズキ幹部は「(輸出先の)欧州などで中国産EVとの価格競争は激しくなる」と話す。
 インドはEV市場としても有望だ。インドのEV販売台数は23年1〜6月に1万5000台とシェアは1%以下と小さいながらも前年同期比で6倍と勢いが出ている。インド政府は30年に新車販売の30%をEVにする目標を掲げる。
 英調査会社グローバルデータによると、インドでのEV販売シェアの23年予測は、タタ自動車が70%で突出。続く2位も地場マヒンドラ・アンド・マヒンドラ(11%)で3位は中国・上海汽車集団系のMGモーター(10%)だ。EV未発売のスズキは巻き返しが急務だった。
 世界のEV市場では規模を拡大した中国が急速に存在感を高めている。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のEV輸出に占める中国の比率は5年間で8倍に膨らんだ。スズキはガソリン車では既にインドからアフリカに輸出を増やし中国勢などに対抗してきた。EVでも同様にインドから世界へ輸出する。
 日本自動車工業会によると、日本の乗用車輸出は22年に332万台と1975年に比べ1.8倍に膨らんだが、ピークの2008年に比べ44%減少している。長らく輸出の主力として国内経済を支えてきたが、世界市場の拡大などを背景に海外生産を増やしてきた側面がある。
 自動車市場全体に占める割合は限定的だが、EV市場の立ち上がりは海外で早く、スズキのように「地産地消」の観点からトヨタやホンダは米国など海外でのEV生産計画を進めている。日本の自動車の輸出が伸び悩み、将来的に日本の貿易収支にも影響が出る可能性がある。

【三菱電機、豪と防衛装備開発 日本企業初の海外直接契約】
 19日の日経速報メールは伝えた。
 三菱電機は19日、オーストラリア国防省と防衛装備品の共同開発事業の契約を結んだと発表した。日本企業が防衛分野で外国政府と直接契約を結ぶのは初めて。国内の防衛産業はこれまで、顧客が防衛省に基本的に限られていた。海外市場を開拓し、防衛産業の底上げにつなげる。
 双方のレーザー技術を組み合わせて周囲に脅威がいないかを警戒・監視する装備品を試作する。豪軍の戦闘機や車両などに搭載することを想定する。開発期間や金額規模などは非公表とした。
 日本の防衛装備品メーカーは従来、外国政府の防衛装備品開発では防衛省を通じ参画してきた。
 日本の防衛産業は技術水準を保つために設備や人材の維持に費用がかさむ一方で、顧客が国内に限られている。2023年の防衛白書は日本の防衛産業について「撤退する事業者が相次ぎ、国内の製造体制が弱体化している」と指摘した。
海外政府と直接契約する事例が増えると、企業は納入先を広げられ、投資回収がしやすくなる利点がある。
 三菱電機は1960年代から防衛関連事業を手掛け、レーザーや誘導弾などが主力だ。国の防衛予算の増額に合わせて防衛関連事業の体制を強化している。5月には防衛・宇宙事業で配置転換を含めて1000人規模を増やす方針を示した。
 防衛省は19日にコメントを出し「企業と連携しながら、官民一体となって防衛装備移転を推進する」と強調した。今回の契約について「両国の防衛装備・技術協力にとって象徴的な事例となり、更なる協力の深化に資するものだ」と評価した。
 防衛装備品の海外との共同開発の強化に向け、日本政府は機密情報を取り扱う人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度の創設に向け検討を進めている。日本は主要7カ国(G7)で唯一仕組みが未整備だ。
 外国政府に関係する案件でこれまで同制度がないため、海外展開が進まなかった日本企業もある。実現すれば高度な技術の共同開発がしやすくなり、防衛装備品の輸出拡大への期待が高まる。
 豪州にとっても日本との安全保障での連携強化には利点がある。中国抑止を念頭にした国防力の向上を図っているが自国のみでは限界がある。
 2022年に中国がソロモン諸島と安全保障協定を締結するなど、豪州と歴史的に関係の深い太平洋島しょ国で中国の影響力が高まっている。
 8月には自衛隊と豪軍の往来手続きを簡素にする「円滑化協定(RAA)」が発効した。同月に豪州で実施した共同訓練で初めて適用した。
 木原稔防衛相と豪州のマールズ副首相兼国防相は19日、防衛省で会談し、日豪の防衛装備・技術協力が重要だとの認識で一致した。両氏は三菱電機と豪国防省の契約締結公表を歓迎した。
 軍装備や軍事力の近代化を急ぐには、同盟国の米国や価値観を共有する同志国との連携強化がカギとなる。豪州は3月には米英との安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じた原子力潜水艦配備を発表した。
 豪政府が4月にまとめた中長期的な国防戦略の方針で「豪州は日本やインドを含む重要な大国との関係と実務的な協力を拡大する必要がある」と指摘していた。
 豪州の防衛産業を巡っては、日本は16年に三菱重工業や川崎重工業が建造する新型潜水艦「そうりゅう」の売り込みを図るも、フランス企業に敗れた経緯がある。雇用の拡大を狙った当時のターンブル政権が現地生産と技術移転を重視し、好条件を提示できなかった。
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【トヨタ、米EV充電でテスラ規格採用 日産・ホンダに続き】
20日の日経速報メールは次のように報じた。
【ニューヨーク=堀田隆文】トヨタ自動車は19日、北米の電気自動車(EV)の急速充電規格を巡り、米テスラの「NACS」方式を2025年から採用すると発表した。日本車メーカーでは、日産自動車、ホンダに続く採用になる。北米の充電網はテスラ規格が主流になる見通しで、トヨタも採用に踏み切り、自社EVの顧客の利便性を高める。
 北米の現地法人がテスラとの間で19日までにNACS採用で合意した。25年から投入する多目的スポーツ車(SUV)など、トヨタ、レクサスブランドのEVの一部についてテスラ規格を採用する。北米に1万2000基以上あるテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」でトヨタのEVを充電できることになった。
 トヨタは北米でNACSとは別の「コンボ(CCS)」規格を採用してきた。この規格を標準とするEVについては、25年以降、NACSに対応するアダプターを用意してテスラ式で充電できるようにする。
 テスラの急速充電器は北米で全体の6割のシェアを握っている。今回、トヨタが採用を決めたことで、北米の充電規格はテスラ方式が主流になる公算がさらに大きくなった。
 北米で、テスラ規格が優勢になったのは23年春以降だ。まず、CCS陣営だった米フォード・モーターが同年5月に採用に踏み切ると、直後に米ゼネラル・モーターズ(GM)も追随した。米国の大手2社の動きをうけて、独メルセデス・ベンツグループや日産、ホンダも採用を表明した。
 さらに、直近では、韓国の現代自動車グループも採用を決めた。独フォルクスワーゲン(VW)や欧州ステランティスも検討しているとの観測があるなか、残る有力メーカーであるトヨタの動向に注目が集まっていた。
充電規格を巡る争いがなくなり、規格が統一されれば、消費者の利便性は大きく高まる。一方、テスラにとっては、自社規格が標準となるメリットは大きい。
 一つはデータだ。テスラは、自社充電網を利用した他社EVの充電データや車の走行情報などを取得できる見通しだ。これらはEVや関連サービスの開発に向け、貴重な資源になる。
 充電網からの課金収入も増える。テスラにとってこの収入の規模はまだ大きくないが、ライバルのEVがこぞってテスラのネットワークを活用し始める25年以降は、大幅に増加する可能性がある。

【第一三共、米メルクとがん治療薬で提携 契約金6000億円】
 同じ20日の日経速報メールは次のように報じた。
 第一三共は20日、米製薬大手メルクとがん治療薬の開発と販売で提携したと発表した。第一三共が持つがん治療薬候補の開発にメルクが加わり、第一三共は契約一時金としてまず40億ドル(約6000億円)を受け取る。販売実績に応じ第一三共はロイヤルティーを受領する。同社が受け取る金額は最大220億ドルになる可能性があるという。
 提携の対象はがん細胞を狙い撃ちにする技術「抗体薬物複合体(ADC)」を使う3製品。日本を除く世界での臨床試験(治験)と販売をメルクと共同で手掛ける。製造と供給は第一三共が担う。
 第一三共は3製品について単独で開発してきたが、世界各地に拠点を持つメルクと提携したほうがリスク分散や販売拡大につながると判断した。
 第一三共は共同開発に伴う対価として23年に30億ドルを、24年と25年にそれぞれ7億5000万ドルずつ受け取る。そのうち肺がん向け候補の一つは23年度下期に米国で承認申請を予定しており、3製品の合計の売上高は2030年代半ばに数十億ドルに達する可能性があるとしている。
 第一三共はADC技術に強みを持ち、乳がんや肺がんなどの治療に使う「エンハーツ」が足元の業績をけん引している。エンハーツの他にもADC技術を使った複数の候補品を開発しており、26年3月期のがん領域の売上収益を9000億円以上とする目標を掲げていた。
 20日の東京株式市場で第一三共株は一時前日終値比18%(631円)高い4210円をつけた。
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【ガザへ人道支援物資の搬入始まる ラファ検問所が再開】
 21日の日経速報メールは伝えた。
 ガザを実効支配するハマスが7日にイスラエルに大規模な越境攻撃をかけたのを受け、イスラエルはガザの「完全包囲」を宣言した。電気や水、食料、燃料の供給が遮断され、ガザ住民の窮状が深刻になっている。
 国連はガザの人口約220万人のうち140万人が避難生活を送っていると推計する。1日あたりトラック100台分の物資が必要とみる。物資搬入を継続し、供給量を増やせるかが課題だ。
 イスラエルはガザへの空爆を続け、周辺に地上部隊を集結させている。近く本格的な地上侵攻が始まるとの見方がある。
 ハマスは20日、拘束している人質のうち米国籍の母と娘の2人を解放したと発表した。「カタールの努力に応え、人道的理由から解放した」と声明を出した。7日の戦闘開始以来、人質の解放は初めて。
イスラエル軍はハマスが203人の人質をとっていると公表していた。

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【日揮HD、曲がる太陽電池で「発電所」 ビルや店の壁に】
 21日の日経速報メールは報じた。
 日揮ホールディングス(HD)は2026年をメドに、次世代太陽電池の本命とされる「ペロブスカイト型太陽電池」で電力事業を始める。曲げることができ、従来のシリコン製では不可能だった壁面や耐久性の弱い屋根にも置ける。工場や物流倉庫、店舗などを活用した「どこでも発電所」の新市場を切りひらく。
 12年に始まった国の固定価格買い取り制度(FIT)で太陽光発電が普及し、大規模開発の適地が少なくなってきている。設置場所を増やせる次世代の太陽電池の用途拡大は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた後押しとなる。
 出資先の京大発スタートアップ、エネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)が開発するペロブスカイト型太陽電池を使う。
日揮が他社の物流倉庫や工場などの屋根や壁を間借りして太陽電池の設備を導入し、電力供給を提案する。生み出した電気は長期間にわたり固定価格で売る。工場や倉庫で自家消費したり、他の拠点に送電したりすることを想定する。
 太陽電池を設置する工場や物流倉庫以外に、送電線を通じて電気を届けることも検討する。その場合、電力小売事業者として経済産業省への登録申請が必要となる。
 まずは24年に北海道苫小牧市の物流倉庫を用いて発電効率や耐久性などを実証実験する。26年をメドに大規模発電に乗り出す。30年に数百億円規模の売上高を目指す。
ペ ロブスカイト型太陽電池は「曲がる太陽電池」と呼ばれている。従来のシリコン製に比べて重さが10分の1程度と軽く、折り曲げやすい。
 化学工場にあるタンクの曲面や、ビルや商業施設の壁面、ドーム型の建物の屋根にも置けるため、太陽光発電のゲームチェンジャーとして期待されている。
 発電コストは従来のシリコン製よりも大幅に高いのが課題となっている。大量発注して調達コストを下げるほか、プラント建設のノウハウを生かして壁面などに簡単に取り付けられる工法を開発し、28年までに発電コストを既存の太陽電池を下回る水準にする。
日本の電源構成に占める太陽光発電の比率は21年度で8%と、10年前の20倍近くに増えた。曲がる太陽電池で設置場所が大きく増えれば、再生エネの普及がさらに加速する。日揮は30年までに発電能力を数十万キロワットに増やし、電力事業を主力事業の一つに育てる。
 ペロブスカイト型太陽電池は中国企業が量産化に先行している。日本でも積水化学工業やカネカが25年以降の量産を計画し、東芝やパナソニックホールディングスも開発を急いでいる。
 太陽電池は中国からの輸入に頼っているが、日本企業がペロブスカイト型で巻き返せば、エネルギーの安全保障にもつながる。(梅国典)

【コロナ禍とは何だったのか?】
 この数日間、立てつづけに3つの会合があった。(1)10月19日(木)に「附属中学の三期会」、(2)21日(土)に「辻達也先生を偲ぶ会」、そして(3)22日〈日〉に「首都圏都留市会」である。
 (1)の「附属中学の三期会」は、東京第三師範(1943年(昭和18年設置)附属大泉中学、後に東京学芸大学附属大泉中学となる中学校の同期の集まりで、コロナ禍の行動規制が緩和され4年ぶりに西武池袋線の江古田駅近くのイタリアンカフェで開かれた。同期だからみな同年の昭和11(1936)年4月から翌年3月末までの生まれ、参加者の顔と名前が一致する人が大部分であり、75年ほど時間を一挙に遡り、久闊を叙した。
 (2)の「辻達也先生を偲ぶ会」は横浜市立大学に永く勤められた日本近世史がご専門の辻達也さん(1949~1986年の37年間)が2022年9月20日に逝去され(享年96)、これを偲んで「日本史専攻卒業生の会」(大庭邦彦責任編集)が『会報』第8号「特集 辻達也先生を偲んで」(2023.8)を刊行、私も一文を草した。「辻達也さんを偲んで」(64~77ページ)で、これに注を付して本ブログ2023年8月3日「辻達也さんを偲んで」を掲載した。
 10月21日(土)、『会報』第8号の刊行に合わせて「辻達也先生を偲ぶ会」が開かれた。希望者だけが金澤八景にある市大の瀬戸キャンパスをめぐり、ついでシーサイドラインに乗って市大医学部の2駅先の産業振興センター下車、テクノタワー18階の宴会場グランシャリオが会場である。辻達也さんのご令嬢(長女)とその長男を含め、約30人の卒業生が参集、辻先生の学恩を語り、古文書合宿で見せた辻さんの素顔等を偲んだ。
 (3)の「首都圏都留市会」は山梨県「都留市で生まれ育った者及び都留市ゆかりの者並びに本会の目的に賛同する個人及び法人をもって構成」(会則第2条 会員)、「会員相互の親睦と交流を図り…郷土の発展に寄与する…」(会則第3条 目的)団体である。名誉会長が西室陽一(元)都留文科大学理事長)、会長が白洲慶子(女優)である。
 コロナ禍で休会していたが、5年ぶりに開かれた。場所は東京グリーンパレス(千代田区二番町)、参加者は約100名。私は2011年から2014年前まで都留文科大学の学長を勤めたので、そのときの教職員や都留市職員と旧交を温めることができた。
 2019年暮れに中国から流出した新型コロナウィルスが日本のみならず世界を席巻、その社会的・経済的・政治的な現象が世界中に及び、その救済策としてカタリン・カリコ氏が開発したmRNAにノーベル生理学・医学賞が与えられた(10月2日の日経新聞特報メール)。本ブログ10月6日掲載の「かわりつつある世界(14)」を参照されたい。
 近親者にコロナで死去した者、あるいは後遺症で苦しむ者がいない私にとって、今になってみるとコロナ禍とは何だったのか、7回にわたるワクチン接種とは何だったのかと、フッと疑問がわく。いずれにせよ、ふだん通りに会えるのは嬉しい。

【来春大卒内定者伸び、リーマン後最大7.4%増 日経調査】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本経済新聞社が22日まとめた2024年度の採用状況調査で、主要企業の大卒内定者(24年春入社)は23年春の入社数に比べ7.4%増となった。新型コロナウイルス禍からの経済回復で2年連続のプラスとなり、伸び率はリーマン・ショックの影響を受けた09年度以降で最大だった。学生の売り手市場で、内々定の辞退も多い。人手不足の中で企業による奪い合いとなっている。
 【関連記事】学生の売り手市場とは 求人倍率、コロナ前水準に
 主要企業1083社を対象に10月2日時点の内定者数を聞き、比較可能な938社を集計した。大卒者には大学院修了も含む。
大卒内定者数は23年春に実際に入社した数に比べ7.4%増の12万1934人。新型コロナ禍で採用を手控えていた反動に加え、レジャーなどの需要回復を受けて内定を増やす動きが広がった。
 新型コロナ禍で落ち込んだ経済が回復する中で、様々な業種での人手不足が鮮明だ。企業は内定を増やしているが、計画には追い付かない。採用計画に対する内定充足率は91.8%だった。09年度の調査以降で最低だった23年度から1.6ポイント改善したものの、依然として低水準だ。
 内定者の増減を業種でみると、非製造業は8.2%増と2年連続でプラス。前年度(4%増)を上回る伸び幅で全体を押し上げた。新型コロナの5類移行やインバウンド再開を受け、空運(89.6%増)や鉄道・バス(35.5%増)、ホテル・旅行(2.2倍)などが積極的に採用した。23業種中17業種が増やした。
 全日本空輸(ANA)の井上慎一社長は「新型コロナ後の飛躍に向けて一緒にスクラムを組める若い力が必要だ」と話す。藤田観光は「業績回復やホテルの新規開業で人手不足が顕在化している」とし、2.2倍の46人を採用する。
 銀行(21.1%増)は店舗統廃合が一巡し、デジタル人材確保にかじを切る。31.6%増の500人が内定したみずほフィナンシャルグループは初任給の引き上げや募集コースの再編を実施。35.8%増の三井住友銀行もコース別採用を細分化し、専門性の高い学生のニーズに応えた。10%増の三菱UFJ銀行は「銀行の将来の不透明感が払拭され、想定以上にレベルの高い応募者が増えた」とする。
 製造業は5.5%増と3年連続のプラス。自動車・部品(6.9%増)や機械(7.2%増)など19業種中で17業種が増やした。三菱自動車は12.4%増の200人を採用した。自動車産業で電動化など事業環境が激変する中、開発や営業を担う若手人材を確保する狙いだ。国内で半導体の新工場建設が進む中、関連する人材への需要も高まっている。
 人手不足の中で学生に有利な売り手市場となっており、内々定を辞退する学生も多い。内々定を辞退した学生が「5割以上」と回答した企業の割合は28.5%と前年度より1.7ポイント上昇した。3年前は10.1%にとどまっていた。辞退が増えたことで、企業がより多くの内定を出すようになっている面もある。
 若手社員の転職が幅広い業種で増えていることも、新卒採用が増える一因となっている。日本総合研究所の山田久客員研究員は欧米の金融引き締めなどによる世界的な景気減速への不安は強まるものの、「製造拠点の国内回帰の影響で、企業の採用意欲は当面旺盛な状況が続く」とみている。

【衆参2補選、自民1勝1敗 長崎4区は金子氏当選 参院徳島・高知は野党系広田氏】
 22日の日経速報メールは次のように報じた。
 衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の衆参2つの補欠選挙が22日投開票された。衆院長崎4区は自民党新人の金子容三氏が制した。参院徳島・高知は野党系の広田一氏が当選した。自民は1勝1敗となった。
 補選は9月の内閣改造・自民党役員人事後初めての国政選挙だった。10月中に衆院議員は任期4年の折り返しを迎える。衆院解散も取り沙汰されており与野党は総力戦で臨んだ。
 岸田政権の評価のほか物価高対策が争点となり論戦が交わされた。
 衆院長崎4区は自民の北村誠吾元地方創生相の死去による補選だ。立憲民主党元職の末次精一氏と自民新人の金子氏が立候補した。
 金子氏の父と祖父はいずれも自民の宏池会(現岸田派)に所属していた。「宏池会の選挙」の意味合いも帯びた。金子氏は組織戦を展開し自民、公明の支持層を固めた。末次氏は政府の物価高対策や金子氏の世襲を批判したが届かなかった。投票率は42.19%と過去最低だった。
 参院徳島・高知補選は元秘書への暴行が発覚した高野光二郎氏(自民を離党)の議員辞職に伴う。野党系の無所属元職の広田氏と、自民新人の西内健氏の争いとなった。立民や共産党などが広田氏を支援し、公明が西内氏を推薦した。
 広田氏は知名度を生かし序盤から有利な戦いを進めた。日本維新の会や共産が独自候補の擁立を見送ったため広田氏に一本化された。無党派層にも浸透した。合区の投票率は32.16%だった。徳島県は23.92%、高知県は40.75%で両県とも過去最低を記録した。

【浮体式洋上風力、デンマークと量産技術 世界標準狙う】
 23日の日経速報メールは報じた。
 政府は再生可能エネルギーの切り札とされる浮体式洋上風力について、デンマーク政府と新たに技術協力の枠組みを設ける。風力発電で世界トップのメーカーと運営企業を擁するデンマークと、浮体式のノウハウを持つ日本の技術で世界市場を席巻するデファクトスタンダード(事実上の標準)を目指す。
 両政府が24日に協力枠組みの立ち上げで合意する見通し。デンマークは洋上風力の先進国で、風車世界大手のベスタスと運営世界首位のオーステッドを抱える。
 両国の産学官が共同で、開発技術のコスト低減に向けて調査や研究開発を始める。日本からは大手電力や造船、大学などが入る見通し。具体的な参加団体は今後調整する。両国は他国にも参加を呼びかけ、大型化や大量生産可能な低コストの製造技術を開発する。
 浮体式では風車の技術だけでなく、設備を海に浮かべる造船の技術なども組み合わせる必要がある。量産技術は世界で確立していない。
 日本ではジャパンマリンユナイテッドや三井海洋開発、日立造船などが浮体式のノウハウを持つ。デンマークが日本と組むのは、日本が浮体式に欠かせない造船技術を持ち、大規模な導入が期待できる市場と見込んでいるためだとみられる。
 洋上風力は導入エリアをどこまで拡大できるかが課題となる。浮体式洋上風力は海に浮かべた風車で発電する仕組みで、海底に固定された「着床式」より深い海域まで広く設置できる。
 浮体式は日本の再エネ普及に欠かせない。政府は洋上風力に関して、2030年に1000万キロワット、40年までに3000万〜4500万キロワット分の発電設備の事業者決定を目指している。40年までに洋上風力では浮体式が主流になる見通しだ。
 欧米などで普及が進んだ着床式の技術は風車メーカー単体で完結するため、日本勢はシェア獲得で後れをとった。浮体式は大規模な商用化の事例がまだなく、日本は洋上風力の技術競争で巻き返しを狙う。
 国際団体の世界風力会議(GWEC)によると、2020年の導入量が1.7万キロワットだった浮体式洋上風力は30年に1090万キロワットに急拡大する。普及が進む欧米は洋上風力のさらなる適地を求め、浮体式の技術開発を急いでいる。
 日本の産業界は40年までに洋上風力の発電設備で国内調達比率を60%にする自主目標も掲げる。浮体式の成否は脱炭素への転換だけでなく、日本のエネルギー安全保障にも関わる。
【関連記事】
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・風力発電の本命「浮体式」 革新再び、大規模開発競う

【補助金支給、日米欧で共通基準づくり EVや半導体念頭】
 24日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は電気自動車(EV)や半導体などへの補助金について米欧と共通の基準づくりを目指す。脱炭素や経済安全保障の観点から各国で補助金競争が過熱し、自国優先のルールづくりが相次ぎかねない状況に対応する。新たな枠組みの創設を視野に年内にも日米欧で議論を始める。
 西村康稔経済産業相が日本経済新聞の単独インタビューで明らかにした。日本が米欧の間に立ち、自由貿易に基づいた公正な競争環境を確保する狙いがある。
 岸田文雄首相は23日の所信表明演説で半導体や脱炭素に関わる物資で供給力強化を打ち出した。日米欧連携もこれに対応する動きだ。
 補助金への対応では日米間の外務・経済閣僚協議「経済版2プラス2」や、日欧ハイレベル経済対話を活用する。西村氏は作業部会の設置を念頭に「補助金執行の協調に向け、具体化を進める」と述べた。
 作業部会では日米欧がそれぞれ導入を検討している補助金や政府調達の要件などを日米欧ですり合わせる。
 対象としてEV補助金のほか、政府が10年間で20兆円を投じるグリーントランスフォーメーション(GX)投資や重要物資の安定確保に関する支援などを想定する。EV補助金ならEVの環境性能といった項目を補助金の要件に盛り込む見通しだ。
 大規模な政府補助の協調を通じ、有志国同士による供給網の連携強化を進める狙いもある。西村氏は「有志国の中で連携し、保護主義にならないように供給・調達する仕組みを構築する」と語った。
 EV補助金を巡っては各国が独自に支援基準を設け、自国への投資や立地を促す傾向が強まっている。米国は2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)で購入時の税優遇の条件として、電池部品の5割を北米で製造することなどを定めた。
 米国はタイ通商代表部(USTR)代表が「(自由貿易が)国を脆弱にした」と発言。労働者重視の姿勢や経済安保への関心の高まりに伴って、世界貿易機関(WTO)など既存の自由貿易体制と距離を置きつつある。
 欧州も例外でない。フランスは補助金の適用条件に製造・輸送時に排出する二酸化炭素(CO2)の量を考慮する仕組みを導入し、 中国製EVの事実上の排除を狙う。イタリアも同様の措置を検討している。
 各国が保護主義的な産業支援に傾く背景に、脱炭素や経済安保に関わる重要物資で安価な中国産製品に過度に依存してきたことへの危機感がある。こうした物資の供給網では労働者の人権侵害や環境上の問題なども指摘される。
 脱炭素分野で太陽光パネルの設置に補助金を支給しても、パネルが中国製なら結果的に補助金が中国に流れる。先端技術の流出防止を中心とした供給網のデリスキング(リスク低減)と相まって補助金の要件が自国優先の厳格なものになってきた。
 日本としてはWTOの協定など客観的な国際ルールを踏まえつつ、日米欧で共有できる範囲で補助金の基準づくりを進める。日米欧で決める共通基準は、それぞれの政権が変わっても引き継がれる必要がある。
 「グローバルサウス」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米などの新興国・途上国への投資拡大も明言した。経産省の案件だけで今後5年間で2兆円の官民投資を目指し、23年度補正予算案で数千億円の確保を見込む。

【米自動車スト、ビッグ3への打撃あらわ 泥沼化の懸念】
 25日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・全米自動車労組(UAW)のスト、収束見通せず
・GMは損失週300億円、通期の業績見通しを撤回
・コストの増加避けられず、EVシフトに懸念
【ニューヨーク=堀田隆文】米自動車大手の「ビッグ3」で、全米自動車労組(UAW)によるストライキの打撃が大きくなっている。米ゼネラル・モーターズ(GM)は24日、どこまで収益が目減りするか読めないとして、2023年12月通期の業績見通しを撤回した。UAWは各社が収益源とする主力工場をスト対象に加え始めている。労使のどちらかが譲らなければ、事態は一段の泥沼化が必至だ。
【関連記事】
・米GM、スト損失は週300億円 通期の業績見通しを撤回
・米自動車労組、GMの主力工場で追加スト 5000人参加
 GMは24日に23年7〜9月期決算を発表し、通期業績の見通しを撤回した。これまで、23年12月期に純利益が93億ドル(約1兆4000億円)から107億ドルになると見積もっていた。
 「ストの期間や程度は推測できず、不確実だ」。24日開いた決算説明会でGMのポール・ジェイコブソン最高財務責任者(CFO)は撤回の理由を述べた。ストによる工場停止の影響で、足元は1週間あたり2億ドルの生産損失を被っているとも明かした。
 業績だけではない。GMは24年半ばまでに累計40万台をつくるとしていた電気自動車(EV)の生産目標も取り下げた。米EV市場の需要が想定を下回っているためと説明したが、ストの影響でコストが膨らみ、事業の進捗が遅れている可能性がある。
 GM首脳陣は決算発表の場で、UAWの要求を飲むのは難しいという姿勢を崩さなかった。メアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「会社の将来や従業員の雇用を危険にさらす(水準の)労働協約は結べない」と何度も強調した。
 会社が一丸となって進めるEVシフトが停滞する懸念も示し「EV競争を勝ち抜ける(内容の)協約にしなければならない」とクギを刺した。
 GMを巡っては、同社が仮にUAWの求める賃上げなどをそのまま飲めば、人件費増加がEBIT(利払い・税引き前損益)ベースで年 13億ドルの減益要因になるとの試算がある。これは年間EBITの約1割の規模だ。今後4年間、毎年コストが1割上がる事態になりかねない。GMが簡単に労組要求にうなずけない理由だ。
 一方、GMの決算発表をうけたUAWは24日、さらに強硬な姿勢をみせた。決算説明会が終了した直後に、同社のテキサス州アーリントンの工場で約5000人の組合員が新たにストに入ったと公表した。
 GMが24日発表した収益水準を考慮すると「もっと努力できることは明らかだ」として、組合員間の賃金格差の是正やインフレ率と連動した生活費調整(COLA)制度、確定給付年金を巡る条件の改善を訴えた。労組も譲る姿勢をみせない。
 UAWが今回スト入りしたアーリントン工場はGMの収益源となっている工場だ。主力の多目的スポーツ車(SUV)を年30万台の規模で生産している。UAWは23日には欧州ステランティスのミシガン州のピックアップトラック工場でもストを始めており、やはり稼ぎ頭が狙われた。
 ストで会社を揺さぶるなか、UAWは最も強力なカードを切ってきている。会社に要求を飲ませるため、畳みかけるタイミングがきたと判断している可能性がある。それだけに、ここで会社側が折れなければ、交渉は泥沼化する恐れがある。
 GMに続き、26日にはフォード・モーターも23年7〜9月期決算を発表する予定だ。同社はGMよりもストで生産停止した生産拠点の数が多く、累積の経済損失がより膨らんでいる可能性がある。

【所得税3万円・住民税1万円、政府の減税案骨格判明】
 25日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府が税収増の還元策として検討する4万円の減税策で、1人あたりで所得税3万円、住民税1万円それぞれ定額で減税する案が明らかになった。扶養する親族がいれば人数分の減税も受けられるようにする。所得が少なく減税策の恩恵をすべて受けられない「隙間」の所得層は900万人程度と推計し、給付などの支援策で補う。
【関連記事】所得減税4万円、非課税世帯7万円給付 還元策で政府案
 政府案の骨格が判明した。岸田文雄首相は26日に政府与党政策懇談会を開き、具体策の検討を指示する。減税の方法や金額、対象は与党の税制調査会が議論し、詳細を年末に固める。政府は2024年の通常国会に税制改正法案の提出をめざす。減税は早ければ24年6月ごろをめどに実施する。
 納税者が家族2人を扶養している3人世帯の場合は計12万円の減税となる。政府の試算では4万円分の減税を受けられるのは扶養親族も含めて8600万人程度になる。
 所得が低く、住民税も所得税も課税されていないおよそ1500万世帯には7万円を給付する。すでに3月に決めた物価対策で3万円を給付して、合算すると1世帯あたり10万円を支援することになる。
 7万円を給付するための必要額は1兆円超とみられ、23年度補正予算案に盛り込む。成立後速やかに給付する。
還元策の最大の課題は、4万円の減税を受けきれず、住民税非課税世帯への給付の対象でもない「隙間」の所得層900万人をどう支援するかだ。夫婦で子ども2人がいる世帯の場合、給与所得が年250万〜300万円程度の場合に該当する可能性がある。
 政府案では住民税は課税、所得税は非課税の500万人程度には、住民税非課税世帯への1世帯あたり10万円と同水準の給付を用意する。
 住民税も所得税も課税されているが納税額が4万円より少ない層は400万人程度とみる。減税だけでは4万円分の効果が得られないため自治体を通じた給付などで補う案を検討している。ただ制度設計が複雑で給付に時間がかかる恐れがある。
所得税が非課税の子育て世帯には別の給付も設ける。隙間への支援策の内容は年末に固める。還元策全体では5兆円規模に及ぶ。


 この間、以下の録画を視聴することができた。(1)ETV特集「世界を変える大発見はこうして生まれた カリコ氏×山中伸弥 新型コロナワクチン開発の立役者のカタリン・カリコ博士が今年のノーベル生理学・医学賞に選べれた。2021年放送のカリコ博士と山中伸弥教授の対談を緊急アンコール」10月7日。  (2)BS1スペシャル「市民が見たコロナショック 2023年10月。パンデミックで体と心に傷を負った子供たちの厳しい現実。コロナ後遺症に苦しむフランスの中学生など4組の未来は?」8日。 (3)BS6報道1930「イスラエルとハマスが大規模戦闘。ロシア軍が併合4ヵ村で初の撤兵へ。市民が反転攻勢に参加か? 要衝メルトポリ奪還の秘策」9日。 (4)BS6報道1930「中国包囲網の“失敗”。制裁突破が新型スマホ。米中分断の逆効果。抜け道は韓国?台湾? “甘い規制”に透ける米の本音は」10日。 (5)BS6報道1930「“空爆なら人質処刑″…地上作戦はどうなる。ハマス奇襲なぜできた? ガザ地区は人道危機か?イスラエルが完全包囲」11日。 (6)映像の世紀バタフライエフェクト「タケのカーテンの向こう側、外国人記者が見た中国。大躍進政策、文化大革命、天安門事件、巨大国家との攻防の記録」11日。 (7)BS6報道1930「イスラエルの報復激化。二正面作戦を強いられる米国の誤算と支援の行方。」12日。 (8)BS6報道1930「プーチン氏イスラエル情勢をどう見る? ロシアがハマスに武器供与?」13日。 (9)BS6報道1930「ガザへ地上作戦発動か?人質出と住民避難は? 世界が直面する2つの戦争、ウクライナが抱く不安」16日。 (10)Eテレ「世界サブカルチャー史3「日本逆説の60~90年代。90年代の第1回(再) 日本社会の可能性を考える異色の現代史」17日。 (11) BS6報道1930「イスラエル軍準備完了、地上部隊の侵入開始か。中東緊迫、中国好機? 習近平氏の本音と誤算。プーチン氏訪中の意味とは」17日。 (12) BS6報道1930「”ハマスは負けない “、”黒幕”イランが介入?」18日。 (13) BS6報道1930「侵攻迫るガザに危機感 賭けに出たバイデン大統領。外交の失敗が生む悲劇」18日。 (14) BS6報道1930「10月決戦重要局面? 「ロ軍がもう眠れない」、ウ軍が渡河作戦成功?」20日。 (15) BS6報道1930「浸食されるロシア…中国極東の港を”奪還”? 北極圏で狙う「氷上シルクロード」の現実味。ガザ地上作戦間近か?」23日。 (16) BS6報道1930「<解散>で終わらない旧統一教会問題の行方、資産流出? 緊迫イスラエル・ガザ最新情勢」24日。
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米捕鯨船マンハッタン号の浦賀来航-日米交渉①

2022年9月24日、青山学院大学において「青山学院大学総合研究所シンポジウム「オランダ別段風説書にみるグローバリゼーション-19世紀の世界と日本-」が開かれ、要請を受けた私が特別講演「アヘン戦争と日本の開国」を行った。
 その講演内容の概略は、本ブログ2022年10月4日掲載の「アヘン戦争と日本の開国(上)」、2022年12月26日掲載の「アヘン戦争と日本の開国(中)」ならびに2022年12月28日掲載の「アヘン戦争と日本の開国(下)」の3回に分けて書いた。

【1825年文政令(異国船無二念打払令)の撤回と1842年の天保薪水供与令】
 1842年の天保薪水令から12年目に実現する日米和親条約(1854年)、16年目の日米修好通商条約(1858年)、そして17年目に実現する1859 年 7月 1 日=安政六年六月二日)の横浜開港について述べるには、まずその発端となる1842年8月28日の天保薪水令(薪水供与令)から始めなければならない。
 幕府は長崎で収集したオランダ商船と中国商船が伝えるアヘン戦争情報(風説書)を読み解き、イギリス海軍の圧倒的な力を冷静に掌握、これにモリソン号打払い事件(1837年)という過去の<経験>を結びつけ、強硬な文政令(異国船無二念打払令)から穏健な天保薪水(供与)令に政策変更した。アヘン戦争終結を示す南京条約の1日前、すなわち1842年8月28日である。
これ以降、幕府は<避戦>に徹っした。すなわち<戦争>の敗北による悲惨さと、<交渉>による意見交換の有効性との決定的な相違を認識し、それに沿った行動を取った。これについては、2023年9月26日の本ブログに掲載した「天保薪水供与令へ」をご覧いただきたい。
  
【浦賀奉行所の2度の経験】
 浦賀奉行所には、これまで異国船来航の記憶と応接の経験が2回あった。日米双方の公的使節同士の接触ではないものの、両国関係者相互の接触であるため、「日米交渉①」と付した。いわば民間交流の事例である。
 第1回が、アメリカ捕鯨船マンハッタン号のクーパー船長が日本人漂流民を救出、彼らをとどけるために浦賀に来たこと(1845年(弘化二年)春)。漂流民の受け取りは長崎に限るとする前例を撤回して、幕府は浦賀での引き取りを決断し、その実務を浦賀奉行所に任せた。
 奉行所の与力・同心たちは知恵を絞り、懸命に働くなかで、22名もの日本人漂流民を救助し、その送還のために来航したクーパー船長と実際に折衝する過程で、クーパー船長の無私の行動に奉行所の役人も浦賀の庶民も痛く共感した。
また、クーパーに対して日本に戻ってこないようにとも告げた。4月21日、300隻の日本船が、マンハッタン号を沖合20マイルまで曳航した。
クーパーはこのとき、日本人漂流民が使用していた海図を持ち帰り、1846年10月14日の帰国後に米国政府に提出した。この地図はマシュー・ペリーの1853年の日本来航の際に利用されたと言われている。

【アメリカ東インド艦隊ビッドル提督の軍艦2隻が浦賀来航】
 第2回が翌1846年7月20日(弘化三年閏五月二十七日)、アメリカ東インド艦隊ジェームス・ビッドル(James Biddle,1783-1848)提督の率いるアメリカ軍艦二隻の浦賀への初来航である。
 日本側は、水、コメ20俵、麦2表、小麦粉1箱、さつまいも11俵、鶏50羽、木材、大根、お茶10ポンドを無料で供給し、その他漆器などのおみやげを渡し、漂流民の送還に感謝した。
 この件は別稿で詳しく述べる予定である。

【平尾信子『黒船前夜の出会い-米捕鯨船長クーパーの来航』】
 マンハッタン号の浦賀来航については平尾信子『黒船前夜の出会い-米捕鯨船長クーパーの来航』(NHKブックス 706 1994年7月25日)が信頼でき、かつ読みやすい唯一の専著である。
 本書の「はじめに」(1994年6月)で平尾さんは、ご主人の勤務に伴い、クーパー船長の曽孫マーケーター・ケンドリックさん(当時80歳代)と知り合い、貴重なモノの資料と文書類を得て書き溜め、日本放送出版協会創立60周年記念「ノンフィクション賞」に応募し、佳作に入選したものを大幅に再構成して書き下ろしたものが本書である、と記している。
 本書の構成は、第一章「捕鯨船長マーケーター・クーパー」、第二章「日本訪問」とクーパー船長の動きを追い、第三章「マンハッタン号受け入れの背景」で日本側との接触に言及、そのⅢ「阿部正弘の英断」において述べ、第四章「マンハッタン号の波紋」、終章「クーパー船長の残したもの」で、焦点をクーパー船長の行動におく。

【拙著『世界繁盛の三都 ロンドン・北京・江戸』】
本書の広告欄に前年に刊行した加藤祐三『世界繁盛の三都 ロンドン・北京・江戸』(NHKブックス 1993年)が載っており思い出した。こちらは18世紀後半から19世紀前半の、人口100万人を数える世界3大首都を描いている。
その執筆動機は漂流後にアメリカ捕鯨船に救われ、鎖国の最中に強硬帰国、最新のアメリカ情報を知らせた中浜万次郎の思いの一つ「…アメリカ人は江戸を見物したがっている。…」を伝えようとする点にあった。言い換えれば、アメリカの日本に対する<平和的な意図>を示したいと思った。

【「古文書を楽しむ」シリーズ 全63回について】
 平尾信子の専著(1994年)から約10年後に、大船庵「常設講座 古文書を楽しむ」(デジタル版)が始まった。2005年10月14日掲載の「0 古文書のはじめに 解説文の形式について」から、2022年7月9日掲載の「62 江戸城探訪 一般参観コース記録」に至る全63回で構成される。
 取り上げるテーマは時代順ではなく、対外関係や国内問題を問わない。「5 暦の話」や「9 駿河土産」等もある。うち幕末期の事件としては、2005年10月24日掲載の「2 ペリー再来日誌 添田日誌解読及び関連資料」、2007年9月25日掲載の「14 捕鯨船が取持つ日米最初の出会い」、2007年12月17日掲載の「15 ハリス来日と日本の開国1 下田条約締結とハリスの参府」、2010年5月16日掲載の「32 オランダ風説書2 別段風説書に見る世界情勢」、2010年9月7日掲載の「34 開国へ陰のスーパースター ジョン・万次郎」等がある。
 そのなかから「14 捕鯨船が取持つ日米最初の出会い」を取り上げる。引用にあたっては表記に必要な修正を加え、また重要と思われる資料については原文(候文)と現代語訳を引用し、現代語については必要な修正を加えた。
       
14 捕鯨船が取持つ日米最初の出会い
-浦賀奉行、幕府内保守派を打破ー

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   弘化2年(1845年)江戸に荷物を運ぶ二組の日本の廻船が仙台沖と紀州沖で夫々遭難した。 幸いにして八丈島と小笠原諸島の中間位でアメリカの捕鯨船に助けられ、一人の犠牲者も出さずに合計22人全員無事に浦賀に送り届けられた。
 厳しい鎖国体制の中で例外的に交易を許されていた中国・オランダ船でさへ長崎のみと入港が制限されていた時代に、江戸の入口である浦賀に入港しての漂流民引渡しは当時としては画期的な事だった。
 これは助けた捕鯨船の船長の人柄、漂流民の知恵もさることながら、管轄である浦賀奉行の人道主義と世界を見た大局的な進言が幕府内保守派を抑え幕府中枢を動かした事による。

弘化雑記第三冊(内閣文庫所蔵)にはこの時の各種記録が長短四十本余収録されており、関係諸大名及び家来の報告書、浦賀奉行の意見書、評定所意見、老中指示、漂流民の聞書、浦賀与力の聞取り調査風聞などである。
 上の画像は国立公文書館所蔵本による

1.米国捕鯨業の当時の状況
 19世紀後半に石油が照明ランプに使われるようになるまでは、欧米では鯨油が照明のランプや蝋燭、機械の潤滑油としても使われ、鯨は重要資源だった。
 初めは北大西洋の鯨を捕っていたが資源が枯渇、その後北太平洋の日本近海が良質な油の採れるマッコウ鯨の生息海域として発見され、1820年代からイギリス・米国の進出が始り、1840-50年は北太平用の捕鯨業はピークに達する。中継基地となるハワイには年300-400艘の捕鯨船が寄港した。又1830年頃には無人の小笠原諸島にもハワイからの移住民20-25名の男女がイギリスの船で渡り、捕鯨船への薪水供給を生業としたという。
 小笠原諸島で22人の日本人を救助したマンハッタン号もその近海にいる平均的な米国の捕鯨船のひとつであり、前後して漂流し後に有名となったジョン万次郎やジョセフ・ヒコなども小笠原近辺で米国捕鯨船や商船に救助されている。
 後に米国政府が日本に対してペリーを通じて要求した内容は、通商もさる事ながら、緊急課題として米国捕鯨船に対する薪水の供給と米国捕鯨船が日本に漂着した場合の乗組員保護であった。 

2.漂流・救助の経緯
  阿波徳島の松平阿波守(蜂須賀家)の持船幸宝丸(1200石積)は江戸に米など物資を運ぶため11人が乗組み、弘化元年12月26日快晴の徳島を出帆した。 ところが同日紀州沖で天候が急変、烈しい北風で沖へ流され遭難し、大晦日、元旦と漂流中に年を越し、船も壊れる寸前に1月13日小さな島(鳥島)に流れ着く。 伝馬船に食料など積み上陸したが鳥しか住まない無人島で水も岩場に溜まる雨水位しかなく、持ち込んだ食料と魚や貝を食べ色々工夫して命を繋ぐ。
 その後強風で伝馬船まで失い落胆している中、2月8日朝この島に山かと思う様な大船(クーパー船長の捕鯨船マンハッタン号、440トン)が停泊した。艀で異国人が上陸してきたので言葉は通じないが、とにかく助けて呉れと拝んだら分ったようで、残りの食料を携えこの船に乗せて貰う。
 浦賀の通行証を見せたので日本人である事も分ったようであり、クーパー船長は浦賀に送り届けるべく行動を開始する。
 翌日2月9日航海中、ふたたび沈みかけている日本船を発見したので阿波の水夫達はあの船も助けて欲しい、とクーパー船長に手真似で頼み、これも艀を下ろし救助する。船は銚子の船で南部藩に雇われ江戸に物資を運ぶため、釜石を1月10日11人乗組みで出帆したが風向きが悪く、1月13日仙台付近で風待ちをして1月18日に再出帆したが、21日から25日迄強い北風に煽られ、八丈島の南方海上を漂流、楫も壊れ浸水していた所であり九死に一生を得た。

3.房総に接近、日本の異国船厳戒態勢
漂流民22人は船内では親切な対応を受けたが、言葉が通じないので本当に日本に送り届けてくれるのだろうかという不安を抱き続けた。2月17日朝、見慣れた房総の山々を見て漂流民達は歓喜する。ただし海岸では早くも異国船発見の狼煙が上り大騒ぎになっている様子である。
 漂流民達もこのまま異国船が浦賀に行けば追い返されるのではないかと危惧して、この異国船には救助された日本人22名が乗っている事を何とか報せなければと、阿波船から由蔵、銚子船から太郎兵衛の水夫を上陸させる事にする。
 本船から昼頃、艀を下ろし近くにいた漁船を追いかけ、無理やり2名が乗移り事情を話して上陸を頼む。しかし関りあいを恐れた漁船は二人を人気のない場所(守谷村納戸浦、外房和田付近)に下ろし立ち去る。二人は苦労して何とか土地の村役人に出頭し、その日の内に村役人付添で由蔵は夜通し房総を横切り、翌18日朝警備の忍藩の船で対岸の浦賀奉行所(大久保因幡守)へ出頭する。
 なお二人が上陸した場所は御三卿の清水家の領分だったので、太郎兵衛は江戸の清水家に送られ、家老の尋問後、江戸詰の浦賀奉行、土岐丹波守頼旨に引渡された。
 二人が漂流の経緯、異国船に救われ親切に扱われた事、船は22名乗組みの捕鯨船であり食料、水が不足している事、仲間が上陸を待ちわびている事など一部始終訴えた事は言うまでもない。
 同17日夕方、クーパー船長はさらに2名を惣戸村(千倉付近)に上陸させた。こちらは房総警備担当である忍(おし)藩(松平下総守)の管轄地域であったため、其のまま翌朝、忍藩の警備船で浦賀奉行へ差し出された。
 出頭の漂流民達の報告でマンハッタン号が浦賀に入ろうとしているので、付近は厳戒態勢が敷かれたが、2月20-21日頃房総半島先端は烈風が吹き波も高く、浦賀奉行の番船も近づけない状態の中、マンハッタン号も警備の視界から突然見えなくなり、遭難したのではないかとの噂も流れる。 

4.浦賀奉行の異国船浦賀受入れ進言、幕府内部の反対派と論戦
 幕府の方針として房総先端の洲崎と三浦半島先端の城ヶ島と結んだ線の外で異国船を留めて詮議する事を原則としているが、先行上陸の日本人水夫達を取調べた結果、浦賀奉行大久保因幡守はマンハッタン号に関しては疑わしい点はないので、浦賀湊に受け入れた上で取り調べをしたいむね、老中筆頭阿部正弘に伺書を提出する。
 また当時、漂流民送届けを名目に交易を迫る例があったため、幕府は天保14年(1843)国交の無い国からの漂流人受取りは禁止しており、受取る場合は長崎で、しかも国交のある中国・オランダ経由のみと触れていた。
 これに対して江戸詰めの浦賀奉行土岐丹波守は太郎兵衛を取り調べた結果、今回は異国で生活していた漂流民を届けた訳ではなく、漂流中の船を助けたものであり、しかも本業である捕鯨を中断してまで送り届けたのであるから、触れの例外であると判断した。浦賀目前にして長崎へ回航させる事は漂流民の健康の面、更に捕鯨船の業務を妨げる事になり、また長崎迄の異国船の護送は警備上困難であり、恩を仇で返す事にも成りかねない、此度は漂流民を浦賀で受取り、薪水・食料供与等相応の謝礼をしたい、と老中に進言した。
 これに対して幕府内部で勘定奉行を中心とする評定所から大久保、土岐に対して猛烈な反対が起こり、薪水及び相応の食料を与えるのは良いとしても、漂流民受取りはあくまで規則通り長崎で唐オランダ経由と主張するが、最後は老中筆頭阿部伊勢守の英断で一時的処置として浦賀奉行の方針を認める。

5.マンハッタン号の浦賀入港と漂流民の上陸
  浦賀奉行と幕府保守派が烈しく論議している間、マンハッタン号は強風を避けるため九十九里方面に避難していたが、3月10日、ふたたび房総先端の洲崎付近に現れる。
 早速警備の忍藩、浦賀奉行与力、川越藩などが次々乗り込み浦賀に入港させようとするも風向きが悪く、多数の引船により3月11日に入港する。その時の状況が弘化雑記の中、「無人島漂流記聞」の一節で次の様に表現されている。
 「浦賀湊へ数百艘の御用船・役船にて引き込ませ、その船の廻りを浦賀御備え船をはじめ、御用船ハ勿論そのほか房総の御固め船・大津陣屋(川越藩松平大和守)よりの御備え船、そのほか浦々の固め役船にて十重、二十重に取巻き、兵糧運送船の外は更に異船へ近づけず、その厳重なる事夥し。
 夜は州々(諸藩)の固め提灯数を知らず、かつ篝火を海中に煌きさながら白昼の如く異船見物の人は海岸山野に満々たり。漂流の水主中(乗組員)疲れぬらんと厚き思召しにて兵糧方へ仰付けられ、粥を下され、夫より一両日過ぎて飯・魚類等迄下されけり、粥と汁を食せし時の好味なる事喩える物なし、殊に御恵の程有り難し。夫より皆々上陸致し御礼ありける」

6.浦賀奉行の通達とマンハッタン号の離日
 3月14日には土岐丹波守が浦賀に急行し、幕府の正式な通達と漂流民送り届けの謝意をクーパー船長に伝え、薪水・食料・その他を与えるが二度と渡来しない様にと付け加える。
 なおマンハッタン号の乗組員の上陸は許されず、奉行側が同号を訪問している。
 また異国船についての報告は風聞を含め断片的に弘化雑記に多数掲載されているが、洲崎から乗り込んだ浦賀与力の報告と思われる「亜米利加船雑事」が最も正確で且つクーパー船長の人柄や船員達の実像が良く表現されている。
 マンハッタン号は予定通り漂流民を引渡し薪水・食料を貰い3月15日早朝、浦賀湊を出帆するが、風向きが悪く再び洲崎まで多数の引船で引き出しの後、日本を去る。
 幕府では本件処理が行届いていたと云う事で浦賀奉行を表彰しており、土岐丹波守は大目付に昇進した。マンハッタン号は平和裡に浦賀に入港した初めてのアメリカ船となり、その翌年(1846年)アメリカ東印度艦隊のビッドル提督、さらに七年後ペリー提督(1853年)の渡来と続く。

弘化雑記解読文及び現代語訳 1.由蔵の村役人護送届書  2.松平下総守の由蔵届け書  3.清水家の太郎兵衛差出届   4.土岐丹波守太郎兵衛取調聞書  5.大久保因幡守伺書   6.土岐丹波守進言7.評定所一座の異見           8.幕府指示書 覚  9.通詞差出の書付10.亜米利加船雑事    11.浦賀奉行の表彰

【中筆頭阿部伊勢守の指示書】
 以下に阿部正弘の指示書を引く。最初が原文(「候文」)で、後段にその読み下し文(表記に必要な補正を加えた)を掲げる。
土岐丹波守への通達阿部伊勢守殿御渡  土岐丹波守え相達候覚
外国え之漂民共請取形之義ニ付、去々卯年相触候趣も有之候得共、此度渡来之異国人共右之趣未相弁不申義ニも可有之候間此度は全く一時之権道を以、漂流人於浦賀表請取、去々卯年相触候通、向後仮令漂流人連越候共請取間敷と通詞を以申諭、食事・薪水等相与へ其外万端之取計方、何れニも図を不失後患を不残様厚く相心得取計候儀可被致候事右之通相達候ニ付ては、明十三日浦賀表へ出立致し異国船早々帰帆候様取計可被申候、帰帆相済候ハヽ委細之始末相尋候義も可有之候間、少しも早々一ト先帰府致候様可被心得候事三月十二日阿部伊勢守殿御渡 
 
土岐丹波守への通達控。
 外国に対して漂流民の受取方に付いて、一昨卯年に触れた趣旨もありますが、此度渡来した異国人はこの趣旨を知らなかったようなので、此度は全く一時の仮処置として漂流人を浦賀で受取り、一昨卯年に触れた通り、以後はたとえ漂流人を連れて来ても受取らないと通訳に説得させ、食料・薪水等は与へ、その外万端を尽くし各方面に対し機会を失わず、後の患いを残さぬ様に厚く心得て処理される事。
この通達実行に付いては明日十三日浦賀へ出張し異国船に早々帰帆するよう伝え、帰帆が済めば委細の始末に付き尋ねる事も有るので、少しも早くひとまず帰京される事三月十二日。
注 去々卯年の触: 天保14年8月(1843年)の幕府令で勘定奉行宛に外国からの漂流民受取り方を指示しており、オランダ商館長(カピタン)を通じて諸外国に通達した事になっている。
マンハッタン号は当時すでに捕鯨に出ている(1843年11月)ので通達を聞いていないのであろうと解釈し、土岐丹波守が云う触れの例外処理とは云っていないものの、結果は同じとなる。

浦賀奉行の表彰
弘化二巳年三月廿九日            御書院番頭格             
浦賀奉行                大久保因幡守   金五枚ツヽ    
大目付   時服三ツヽ      土岐 丹波守               
此度浦賀表え異国船渡来之節取計方行届骨折候ニ付被下之(これをくださる)右於芙蓉之間老中列座下野守申渡之(これをもうしわたす)
注: 土岐丹波守: 大目付に昇進下野守: 老中青山下野守芙蓉間:
老中、大目付、勘定奉行、町奉行など三千石以上の旗本が詰める江戸城内の部屋

【マンハッタン号とクーパー船長 (全ページを書き直した)】
 のちにマンハッタン号とクーパー船長について、(全ページを書き直した)と注を付した文章が出たので、以下に掲げる。研究が進んだ証拠である。

クーパー船長が乗組んだマンハッタン号。
Image credit: Courtesy of 「The Southampton Magazine」,
Spring Number 1912
 マーケイター・クーパー船長指揮のマンハッタン号は、ニューヨーク州ロングアイランドのサグ・ハーバーを母港とする捕鯨船である。当時1840年代から1850年代は、アメリカの捕鯨船が活発に太平洋にまで乗り出し、鯨油を採るため捕鯨を行った。鯨油は機械用の潤滑油として、またローソクの原料として重要な資源だった。また鯨のヒゲは女性のスカートに入れて丸みを強調するファッション材料にもなった。1803年生まれのクーパー船長は、日本に来た当時は42才の熟練船長であった。この1843年から1846年までの航海で、鯨油3,500樽を収穫している。

♦ クーパー船長の航海記録から、日本人救助と浦賀入港まで
(典拠:「The Southampton Magazine」, Spring Number 1912, Edited by Charles A. Jaggar, Ph D., Published by The Southampton Press, Southampton N. Y., Volume 1, No.1, P-3-23)
1843年11月8日サグ・ハーバーを出航したマンハッタン号は南米の先端のケープ・ホーンを回り太平洋に出て、1年以上も鯨を追いかけた後、1845年2月12日に小笠原群島の父島に到着した。ここで1ヵ月かけ船の修理をし、薪や水、野菜や豚を補給した(筆者注:当時アメリカでは、小笠原群島をボニン諸島、父島をピール島と呼び、二見港はポート・ロイドと呼んだ。後の1853年ペリー提督がここに石炭置き場を購入した)。3月12日に父島を出航後、塩漬け肉しか食べていない船員のために新鮮なウミガメの肉を手に入れようと、八丈島の南南東に約300km、父島の北北西に約420kmの太平洋の真中にある伊豆諸島の鳥島(筆者注:当時アメリカでは、セント・ピーターズ島と呼んだ)に立ち寄った。現在この鳥島全体が天然記念物に指定され、許可なしに立ち入ることは出来ないが、周囲7kmほどの火山島は当時も無人島だった。
1845年3月15日早朝マンハッタン号は鳥島に近づき錨を入れ、クーパー船長達は上陸した。ウミガメを探して海岸を回ると支那のジャンクに似た小さい難破船を見つけ、内陸に向かうと人の気配がし、変わった衣服を着た11人もの数ヵ月前に漂着したと見受ける日本人にめぐり合った。11人は充分な量のコメを持っていたが、水はなく岩に溜まったものを飲んでいたようだった。クーパー船長たちは目的のウミガメを捕ったかどうか、マンハッタン号の航海記録には記述が無い。

 クーパー船長が救助した、船尾が壊れ沈没しかけた漂流船から救出された乗組員がマンハッタン号に持ち込んだ日本沿海図。(2004年6月21日、New Bedford Whaling Museum特別展で、管理職員の許可の元に筆者自身が撮影した。)
Image credit & © : Courtesy of New Bedford Whaling Museum
( https://www.whalingmuseum.org/ )

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鳥島で11人の漂着者を救助したマンハッタン号は日本に向け針路をとったが、翌16日の昼頃また日本人が11人も乗った船尾が壊れ沈没しかけた漂流船に出会った。この船は大きい立派な塩サケを積んだ船だったが、いくらかの積荷や米や船具と共にこの11人も救助した。この難破船から持ち込んだ積荷や乗組員の持ち物の中に、非常に立派で精密な子午線も入れた日本沿海図と日本製の小さいコンパスがあった。後にこの地図とコンパスはマンハッタン号と共にアメリカに渡る事になるが、下の「サグ・ハーバーの現地新聞報道」の最後に述べる、ハワイ、マウイ島・ラハイノナの医者・ウィンスロー博士のオアフ島ホノルルの現地紙「フレンド」に掲載された記述によれば、浦賀に上陸した日本人漂流者達がクーパー船長の捕鯨船の内部に忘れていった物であると言う。

 伊能忠敬が苦心の末に実測し「大日本沿海輿地全図」を完成させたのが文政4年即ち1821年であるが、それから24年後の当時、またシーボルト事件から17年後の当時は、既に縮小された精密な日本沿海図が一般の廻船で普通に使われていたのであろうか。左の写真がその漂流者がマンハッタン号に持ち込んだ実物で、現在マサチューセッツ州のニュー・ベッドフォード捕鯨博物館に収蔵されている。筆者の目測で、寸法はおよそ1m x7 0cm程であった。この日本沿海図は捕鯨船にある地図より遥かに精密で、房総半島辺りから浦賀にかけて、クーパー船長の観測と完全に合致したという。

 この捕鯨博物館所蔵の地図について最近(2021年)読者の群馬県在住のS氏からご指摘を受け、『鎖国時代、海を渡った日本図、大阪大学出版会』を確認し、捕鯨博物館所蔵版のイメージと比較たところ、一部を除き虫食いや汚れ、摩耗があまり見えずほゞ良好な状態から見て、長久保赤水作製による「改正日本輿地路程全図」の天保11(1841)年改訂版かそれに近い物のようである。寛政3(1791)年改訂版は最下段左隅に発行時期と鐫字者及び発行者の名前を入れた囲みがあるが、この捕鯨博物館所蔵の地図には最下段左隅の囲みが見えない。然しこの捕鯨博物館所蔵の地図は、長久保赤水製作の日本輿地路程全図の系列である事はほぼ確実に見える。伊能忠敬の「大日本沿海輿地全図」の一般利用が始まったのは、明治になってからであると言う(『海を渡った日本図』)。当時、伊能図以外の、この様にかなり正確な、しかも緯線も経線も入った地図がコンパスと共に日本の船乗りの間で使われていた事は驚きである。京都中心の京都御所紫宸殿の位置は北緯35度1分27秒、東経135度45分44秒であるが、この捕鯨博物館所蔵の地図の北緯35度の緯線はほぼその辺りを通り、度数が入っていない経線も京都を通っている。当時は勿論「本初子午線」の国際規定などは無く、京都の三条改暦所(北緯35度0分35秒、東経135度44分14秒近辺)を通る子午線を経度の基準(=0度)としたと言う。
 1851年にクーパー船長が、日本に行く前のペリー提督宛ての手紙でこの日本沿海図を持っている事を示唆したが、筆者の知る限りペリー提督は反応しなかった。ペリーの認識は、日本には子午線を入れた地図などはないと帰国後の報告書「ペリー提督日本遠征記」の中の Chapter XVIII, P-326 に書いている。
 少し横道にそれたが、こうして救助した22人もの日本人を何とか日本に送り届けようと考えたクーパー船長は、日本に向け針路をとった。しかしその航海の途中では、7日間にわたり嵐に翻弄され強い潮流に流されたが、3月23日の夜に日本と思われる明かりを認めた。終に24日朝10時頃房総半島に近づき、陸と並走しながら近辺の様子を観察した。周りには多くの漁船が居て、陸地は良く耕されているようで、小ぎれいな村々が見えた。緯度を「35.09」と記入しているから現在の千葉県勝浦市勝浦の辺りである。翌日の3月25日午後1時頃、周りに数艘の漁船が居るのを見てボートを降し、先ず2人をその中の1艘に託し、江戸に行き、救助した船員たちを受け取ってくれる許可を得る事を期待し上陸させた。これは現在の千葉県勝浦市興津辺り(筆者注:日本側史料で、上総国夷隅郡守谷村)である。更に少し南下し夕方5時頃また2人を江戸に向け上陸させた。多くの漁船が周りに集まり見物したが誰も乗船してくる気配は無かった。航海記録には緯度を「35.00」としているから、現在の千葉県南房総市千倉町辺り(筆者注:日本側史料で、安房国朝夷郡南朝夷村)である。これは鎖国に基づき遭難した日本人さえ容易に受け入れない徳川幕府の方針を知っていたクーパー船長の作戦で、あらかじめ人道的に漂流民を江戸湾内にまで送り届ける意図を役人に知らせる目的であった。
 翌3月26日朝9時頃まで陸地近くを操船していたが、霧が立ちこめて来たので安全のため陸地から離れた。その後天気が崩れ、嵐や豪雨に見舞われ、早い潮流に流され、勝浦の南東方向へ400~450㎞程の距離を22日間もさまよった。その間に伊豆大島の噴火なども観測している。
 ついに4月16日の早朝6時、再度陸地を認めたが、10時ころには日本の船が来て、江戸湾に行き停泊すべく伝えて来た。翌17日の早朝5時ころ再度大型の日本船が来て、オランダ語通詞を連れた役人が江戸に向かう様に指示を出したので、午後5時頃江戸湾入り口の東側に来て錨を入れ停泊した。恐らく洲崎(すのさき、千葉県館山市)の北側辺りであったろうか。4月18日の午後3時頃風がやみ凪になったので、夫々に約15人が乗組んだ凡そ300艘もの小舟が集まり、マンハッタン号を時速3ノット(筆者注:約5.5㎞/時)のスピードで牽引し、午後6時半ころ江戸より下手の湾(筆者注:浦賀)に引き込んだ。そしてマンハッタン号の廻りを小舟で三重に取り囲み、約3千人の男たちが警備体制を組んだ。クーパー船長は通詞から、誰も上陸は許されないと告げられた。役人が、出帆時に返すべくマンハッタン号の全ての武器を預かり、また上級役人が数人乗船し捕鯨船の中を見分したが、彼らは非常に友好的な態度だった。

 翌19日には多くの役人が船を見に来たが、午後には船首三角帆の下桁用と3組の自動操舵帆の下桁用に使う丸木材を運んで来てくれた。嵐の最中に折れてしまい交換の必要があったが、クーパー船長が日本の役人に手配を頼んだのだろう。クーパー船長の航海記録によれば、4月20日には日本側から水を運び入れ、20袋のコメ、2袋のムギ(筆者注:20袋の誤り)、1箱の小麦粉、11袋のサツマイモ、鶏50羽、2束の薪、大量の大根、10ポンドのお茶等をくれた。大量の30cm以上もある大根には、乗組員の皆がビックリした。日本側の提供した全ての補給品は無料だった。そして救助した残りの18人の日本人全員が上陸したが、役人が来て漂流者を救助し送り届けてくれた事を感謝した。4月20日の航海記録には、「皇帝も私に挨拶状を与え、私の日本人救助と送還への感謝の言葉を述べたが、ここにはもう来るなと言う言葉も一緒だった」と記録している。
 4月21日の朝錨を揚げ、300艘の日本のボートが牽引して湾の外に出て、マンハッタン号を開放した。その後クーパー船長は北上し、カムチャッカ半島近辺で捕鯨を続け、多くの成果があった。

♦ クーパー船長の帰港を報ずる、サグ・ハーバーの現地新聞報道
(典拠:「The Corrector」, November 21, 1846, Page 2)
マンハッタン号の母港・サグ・ハーバーの現地紙「コレクター(The Corrector)」は、1846年11月26日付けの第2面の紙上で、「先般本港に帰港したM・クーパー船長は本紙に次の如く語った」との書き出しで、その帰国と体験談を伝えた。いわく、
1844年4月18日、南緯5度20分・東経126度40分の海上で3m 位の小舟に乗ったマレー人の男を救助した。彼は10日間も陸地の見えない海上を漂流し、船にはココナツのかけらとトウモロコシの皮があっただけである。4月20日、我々はボロ―島に停泊し、彼が故郷に帰るべく上陸させた。1844年7月13日の午後3時、霧が晴れると、今まで見たどんな海図にも載っていない島を見つけた。我々は島から10から15マイル離れた、北緯48度30分・東経157度50分近辺に居ると判断した。その島は中くらいの高さで、平ではなかった。微風の中を接近する途中で霧が立ち込め進路を変えざるを得なくなったが、それ以降、他の船にも確認された。
さらに続けて、1845年3月15日にセント・ピーターズ島、即ち鳥島に至り、日本人を救助し浦賀で日本側に引き渡したと上述の通りの出来事を語り、そこに4日間停泊し、皇帝から多くの薪水食料を無料で贈られたと語った。続けていわく、
我々の停泊中に非常に多くの役人が船を訪れたが、奉行も何回も訪れて来た。彼らは大変友好的で、あらゆる情報を収集し、絵師を連れて来て目に留まるあらゆるものをスケッチさせた。彼らはとくに念を入れて船の寸法を計り、モリを計り、目にするあらゆるものを計った。
さらに最後の出帆時も多くのボートに引かれ湾外に出た事を述べ、出帆に当たり日本の皇帝から渡された「諭書」の翻訳を載せている。このしっかりした達筆のオランダ語で書かれた日本の諭書は、クーパー船長や乗組員には読めなかった。そこで翌年の帰国に当たり、鯨油を売るためオランダのアムステルダムに寄港し、オランダ語を英語に翻訳してもらっている。これが引き続きコレクター紙に載ったものである。いわく、
遭難者を通じ口伝えに耳に届いたが、我が国の遭難者がこの船で届けられ、船上では親切に待遇されたという事である。支那とオランダを除き、遭難者は如何なる外国を経由しても受取らない事が我が国の法である。しかし、恐らくこの法を知らないため遭難者を送って来たと思われる事から、今回だけは受取る。従って次からは絶対に受け取らず、何時送って来ても厳罰を以て罰する。良くこれを知り、他国にも知らすべし。
 長い航海において船の食料、薪、水が底をついたと聞く事から、これらを与える。
この諭書の命により、船は早速出帆し、近海にとどまらず、まっすぐに帰国すべき事。
この記事から分かる通り、およそ3ヵ年にも渡り太平洋やその他の海で捕鯨をやったマンハッタン号に乗るクーパー船長は、2組の日本人以外にもマレー人の漂流者も救助するという善行もあった。
1842年当時、捕鯨船の停泊するラハイナの町
Image credit: © Courtesy of the Old Lahaina Courthouse,
Lahaina, Maui, Hawaii
なお、このクーパー船長が日本人遭難者を救助し江戸近くまで送った話は、ハワイのマウイ島・ラハイノナの町の医者・ウィンスロー博士が、その後ラハイノナ港に寄港したクーパー船長から直接詳細を聞き、1846年2月2日付けのオアフ島ホノルルの現地紙・「フレンド(The Friend)」にその内容が掲載された。マウイ島の西岸にあるラハイナは、北のモロカイ島、西のラナイ島、南のカホオラウェ島に囲まれ波が静かで、太平洋の真ん中にあり、右側の絵の様に、当時多くの捕鯨船が集まる重要な補給基地の一つであった。
 また、このフレンド紙からの転載が、広東で発行されていた「チャイニーズ・リポジトリー」誌・15巻・1846年1月-12月(The Chinese Repository)にも載った。従って当時の識者の間では、良く知られたニュースだったようである。

♦ 日本側記録による、漂流者の受け取り
 鳥島で日本人22人を救助したマンハッタン号が、4人の日本人を先づ上陸させたのち嵐にあって流されたのは、上陸させた漂流者が役人に報告し幕府が検討し許可を出す時間を確保でき、結果的に非常に良かった。

 安房国朝夷郡南朝夷村(現、南房総市千倉町)へ上陸した2人の漂流民と上総国夷隅郡守谷村(現、勝浦市興津)へ上陸した2人の合計4人が役人の調べに応じ申し立てた記録がある。鳥島で救助されたのは阿波国板野郡撫養(むや)四軒家町天野屋兵吉船に乗り組んだ主水・芳蔵と幸助であり、海上で救助されたのは下総国銚子幸太郎船に乗り組んだ主水・太郎兵衛と留吉であった。この4人の申し立ていわく、
 鳥島で救助された11人乗り組みの阿波国板野郡撫養・兵吉船(幸宝丸)は弘化元(1945)年12月26日に国許を出帆し、紀州田辺沖で嵐に遭って吹き流され、積荷を投棄し帆柱を切断し漂流したが、1月13日、ある島に漂着した。本船を保持できなくなり小舟に粮米15俵、鍋釜、衣類等を積み入れ、島へ上陸した。そこは無人島で、大木は無く草木もなかったが、アホウドリが沢山生息していた。そこで沢山自生していた篠笹を岩と岩の間にかけ渡し、その下で露をしのいだ。2月8日になり異国船が近づいて来たので最初は殺されはしないかと警戒し隠れていたが、島に12人が上陸して来たので仕方なく姿を現し、手まねで救助を頼んだ。異人も状況が分かり、国に送り返すので船に乗るよう手まねで応じた。そこで粮米や身の回り品を船に運び乗り込んだ。
 島を出帆した翌日の9日、また難船し漂流中の日本船に出合い、ボートを2艘降ろし乗組みの漂流者を救助した。話を聞くと下総国銚子幸太郎船(仙寿丸)で11人が乗っていた。この船は弘化2(1945)年1月11日に南部を出帆したが嵐に遭い、荷物を捨て帆柱を切り漂流し、浸水して沈没しそうな水舟になったが、2月9日救助された。粮米10俵、鍋や衣料などを異船に積み込んだが、乗り移ってみると阿州撫養(むや)の船の乗組員も救助されていて一緒になった。
 弘化2年2月17日朝、即ち1845年3月24日朝、東房州の山が見え、段々陸地が近づいてきたので上陸させて欲しいと手まねで頼んだが、外海のため上陸が困難で船の破損を恐れている様子で、上陸のためには内海へ入る必要があると手まねで答えた。異船が内海へ乗り入れれば問題が起きるので相談の上、先ず浦賀へ注進のため太郎兵衛と芳蔵が漁船に頼んで守谷村に上陸した。その後、守谷村から浦賀迄20里もあり、その日の内に異船が浦賀に着くと異船の方が先になり問題が出るという話になり、そこで再度幸助と留吉が漁船で南朝夷村へ上陸した。
 異国船の大きさは16、7間あり、乗組員の頭分は常にラシャ製の服を着て、みな背が高く、眼の色は夫々で、頭髪は長くしていた。船内には3挺の鉄砲と鯨を取るモリが16本ばかりあった。乗組み22人の中には、大工、鍛冶、桶職が乗り組んで居た。日本人を慰めるためか毎晩、三味線風の楽器を鳴らし踊りを踊ったが、拍子も良くおもしろかった。段々心安くなり、自分達も伊勢おんどを踊ったところ異国人も大いに笑っていた。世界地図を見せ色々言っていたが意味が分からなかった。異人の乗組員の中に4人の黒人が居て、顔色のうす黒い人は2人だった。
 海上で救助された銚子船には船頭の11歳になる「勝」という名の息子も居て、直ぐ異国船員と親しくなった。
 浦賀では警戒を強めたが、先に上陸した4人の情報で軍船ではなく、異船内にまだ日本人が居るというので、浦賀に入港させる話になった。しかし異船は行方不明になってしまい、浦賀の防衛に恐れをなして消えてしまった可能性があるので、浦賀から船を出し、異国船を入港させる手配をした。
 報告を受けた江戸詰めの浦賀奉行・土岐丹波守は、「いずれの国の船ともわからないが、とにかく鯨漁船であり、蛮国の漁民が他国の人を助けようと自分の仕事を止めてまで誠意をもって送って来たのに、浦賀で受け取らないのは、自国の人民を捨てるも同様であります」と、漂流民を浦賀で受け取るべく何度も幕閣に意見を述べた。
当時の幕府の中心人物は、弘化2年2月22日即ち1845年3月29日、老中首座になったばかりの阿部伊勢守だったが、この伊勢守さえも漂流人の処置を即刻判断したのではなく、勘定奉行たちの評定所一座の評議に廻し、大目付や目付の評議に廻し、長々と時間をかけた末の決定だった。

 当時の幕府規則は、天保13(1842)年に出された「薪水給与令」で、翌年オランダを通じ諸外国に伝えられ、漂流者は長崎のみでの受取りが許されていた。従って評定所一座や大目付や目付の評議は、新しい薪水給与令に基づき漂流者は浦賀では「受取らず、長崎に回すべし」という結論だったが、最後に阿部伊勢守は諸事情を考慮し、土岐丹波守に直接指示をし、浦賀での受取りを認めた。
 この時、弘化2年3月12日(1845年4月18日)に出された阿部伊勢守から江戸詰め浦賀奉行・土岐丹波守に出された「土岐丹波守へ相達し候覚」という指示は次の様なものである。いわく、
 外国への漂民ども取受け方の義につき、去々卯年相触れ候趣もこれあり候へども、このたび渡来の異国人ども、右の趣いまだ相弁じ申さざる義にもこれあるべく候間、このたびは全く一時の権道を以て、漂流人浦賀表に於て受取り、去々卯年相触れ候通り、向後たとへ漂流人連れ越し候とも受取るまじき旨通弁を以て申し諭し、食料、薪水等相与へ、そのほか万端の取計ひ方、いづれにも図を失せず、後患を残さざる様、厚く相心得、取計らひ候様いたさるべく候こと。
 一、右の通り相達し候。つきては明十三日浦賀表へ出立いたし、異国船早々帰帆し候様取計らひ申さるべく候。帰帆相済み候はば、委細の始末相尋ね候義もこれあるべく候間、少しも早くひとまづ帰府いたし候様心得らるべく候こと。
  三月十二日

クーパー船長が幕府から贈られた漆器。
(2004年6月21日、New Bedford Whaling Museum
特別展で、管理職員の許可の元に筆者自身が撮影した。)
Image credit: © Courtesy of New Bedford Whaling Museum
https://www.whalingmuseum.org/
 このような経緯で弘化2年3月12日、即ち1845年4月18日、浦賀に着いたマンハッタン号のクーパー船長は残りの18人の漂流者を役人に引き渡し、幕府からおおいに感謝され、充分な薪水や食料を与えられ、色々な贈り物も貰った。日本側の記録「史料稿本」によれば、上記のクーパー船長の航海記録に出て来る日本からの贈り物以外の細かい記録がある。いわく、
白米-20俵、小麦粉-2斗、ニンジン-200本、鶏-50羽、中皿-20人前、金入切子-品々、薩摩芋-1俵、大平目-2枚、水-300荷、上搗麦(つきむぎ)-20俵、大根-千本、松真木-200本、上吸物椀-10人前、茶漬茶碗-21人前、茶-5斤、大蛸-1杯、杉材木-4本、から藁(わら)-10把、
こうしてクーパー船長は、弘化2年3月15日、即ち1845年4月21日、浦賀を後にした。170年後の今でもアメリカのマサチューセッツ州ニュー・ベッドフォード市にある捕鯨博物館には、クーパー船長が幕府から贈られた漆器や、救助した日本人が持っていたコンパスや、日本製の子午線まで入った精密な日本沿海図が保存されている。
 このクーパー船長の浦賀入港から9年後、江戸幕府と日米和親條約を締結する事になるペリー提督は、その日本遠征の出発に先立って、浦賀に行ったクーパー船長から日本情報を得ている。その時クーパー船長はペリー提督に書簡を送り、捕鯨の観点からもぜひ日本の開国が必要だと意見を述べている。

変わりつつある世界(14)

 前稿(13)を掲載した後の夕方、非上場化を決めた東芝は、新たな経営範囲の検討を始めたと伝えた。
【東芝、主力4事業の再統合検討 発電・鉄道など】
 2023年9月21日の日経メールは次のように伝えた。
東芝は発電や鉄道など主力4事業子会社の再統合を検討する。経営再建の過程で2017年に分社化したが、営業や開発など機能が重複し弊害が目立っていた。21日に投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)と国内連合によるTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表。東芝本体への統合で効率化し、非上場後の成長戦略を加速する。
発電・原発などエネルギー、鉄道・水処理などのインフラ、ハードディスクドライブ(HDD)やパワー半導体のデバイス、IT(情報技術)システムの主力部門を束ねる子会社が統合の対象となる。2〜3年後をめどに吸収合併する協議を社内で始めており、上場廃止後にJIPとの協議を本格化する。
 4事業子会社を東芝本体に取り込み、バラバラだった人事や財務などの間接部門を集約・統合する。東芝は17年に成長を目指して分社化に踏み切ったが、事業ごとに縦割り意識が強くなり、グループ横断のデジタル化が進まないなど非効率になっていた。
 東芝は15年に不正会計、16年には米原発子会社の巨額損失が発覚するなど、経営陣の不正や判断ミスが重なり経営危機に陥った。家電や医療機器、半導体メモリーなど主力事業を相次ぎ売却し、財務の立て直しに向けた資金を捻出した。
 東芝の23年3月期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は2264億円で、競合に当たる日立製作所の1兆3734億円の6分の1、独シーメンスの107億ユーロ(約1兆7000億円、22年9月期)の8分の1にとどまっている。
 発電・原発などエネルギー、鉄道・水処理などのインフラ、HDDとパワー半導体のデバイス、ITシステムの4事業が現在の主力となった。東芝関係者によると「株式非公開化から約5年で再生にめどをつける。株式市場への再上場をゴールとして考えている」という。まずは縦割りの弊害が目立つ4事業の壁を壊し、営業や開発、生産などあらゆる領域で横串を通して効率化を進めていく。(広井洋一郎、大西綾)

【日本テレビ、スタジオジブリを子会社化 社長を派遣】
 同じ21日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本テレビホールディングス(HD)は21日、アニメ映画制作のスタジオジブリ(東京都小金井市)を連結子会社の日本テレビ放送網が子会社化すると発表した。議決権ベースで42.3%のジブリの株式を10月6日付で取得する。同社の社長には日本テレビ放送網の福田博之取締役専務執行役員が就く見通し。
日テレHDによると、取得金額は明らかにしていないが、開示可能となった時点で公表するとしている。日テレの動画配信サービス「Hulu」でジブリ作品を配信するかどうかについて、新社長に就く福田氏は「今のところ現状と何も変わっていない。何かあればこれから考えたい」と答えた。
 同日の会見に出席したジブリの鈴木敏夫社長は「1人の人間が背負うにはジブリは大きな存在になりすぎた。個人ではなく、大きな会社の力を借りないとうまくいかないのではないかと考えた」と語った。日テレHDの杉山美邦会長は「ジブリは日本を代表するトップクラスのアニメ会社。今の制作体制を最大限尊重したい」と強調した。
 ジブリの新体制の取締役は8人となる。創業者の宮崎駿氏は取締役名誉会長、鈴木氏は代表取締役議長、宮崎氏の長男の宮崎吾朗氏は常務取締役に就く。新社長の福田氏を含め日テレ側からは3人の取締役と監査役1人を送り込む。10月30日に開催予定の臨時株主総会で正式に決議する。
 日テレHDは「風の谷のナウシカ」を1985年にテレビで初めて放送して以降、ジブリの映画制作にも出資してきたほか、2001年にオープンした「三鷹の森ジブリ美術館」の設立にも携わった。今後は日テレがジブリの経営面をサポートし、ジブリは作品の製作に専念するとしている。
 両社によると宮崎駿氏は82歳、鈴木氏は75歳となり、長らく後継者について議論してきた。長男の吾朗氏が何度か後継者として候補に上がっていたが、「1人でジブリを背負うことは難しい。会社の将来は他に任せた方が良い」と固辞していた。経営を任せる様々な候補を検討したが、関係の深い日テレHDに白羽の矢がたったという。
 ジブリの買収を受けて日テレHD株は私設取引システム(PTS)で上昇した。一時21日終値(1375円)より22%高い1675円で取引された。

【米メディア王マードック氏引退 長男にバトン、11月に】
 同じ21日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ニューヨーク=清水石珠実】米「メディア王」ルパート・マードック氏が経営の最前線から退くことが分かった。フォックス・コーポレーションとニューズ・コーポレーションが21日、社員向けの書簡で同氏が11月に会長職を退任し、それぞれの名誉会長に退くと発表した。
 長男のラクラン・マードック氏が単独で会長を務めることになる。
 ルパート氏は92歳。父親から引き継いだオーストラリアの新聞事業を基盤に、一代で世界を代表するメディア企業を育てた。だが高齢のため、最近は経営手腕への不安がささやかれていた。
 例えば、2020年の米大統領選を巡る報道で、フォックス傘下のケーブル報道局「FOXニュース」が複数の名誉毀損訴訟を抱えた。今年4月、原告の投票機メーカーの1つと和解にこぎつけたが、和解額は7億8750万ドル(当時の為替レートで約1090億円)と米国の名誉毀損訴訟としては最高水準の損失を出し、投資家の批判を浴びた。
 この騒動を巡って流出した資料で、FOXニュース内の経営が混乱している様子も白日の下にさらされた。また、22年後半にはフォックスとニューズの合併を模索したが、最終的には有力株主の賛成を得られずに23年1月に計画撤回に追い込まれた。
ルパート氏は、プライベートでもドタバタが目立っていた。22年、約6年連れ添った4人目の妻ジェリー・ホール氏と突然離婚。23年3 月には保守系のラジオパーソナリティーの女性と婚約したことを明かしたが、2週間後には婚約破棄を発表した。
 書簡のなかでルパート氏は「自らは極めて健康だ」と述べた。名誉会長に退いたのちも、「フォックスやニューズが提供するコンテンツには毎日目を通して、意見交換に参加したい」と述べた。
 また、「(フォックスとニューズの)経営は健全だ」とも記した。インターネットの台頭などで事業環境は変化しているものの「(両社の)成長の可能性はこうした逆風よりも大きい」と続けた。

【岸田首相「資産運用特区を創設」 海外勢の参入促す】
 22日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 この記事のポイント
・岸田首相がニューヨークで投資家向けに講演
・資産運用特区を創設して慣行や障壁を見直し
・英語で行政対応を完結できるように環境整備

【ニューヨーク=藤田祐樹】訪米中の岸田文雄首相は21日午後(日本時間22日未明)、ニューヨークで投資家向けに講演した。日本の資産運用業の強化へ海外勢の参入を促すための「資産運用特区」を設けると表明した。英語で行政対応を完結できるようにするなど外国人を呼び込む環境を整える。
首相が講演する「ニューヨーク経済クラブ」は1907年に設立された会員制組織で、米国経済界のリーダー層が集う。日本の首相がこの場で話をするのは初めてとなる。
 首相は政府が掲げる「資産運用立国」の実現に向けた策を語った。2000兆円を超える日本の個人金融資産を生かした資産運用ビジネスの発展をめざす姿勢を訴えた。
関連記事
・岸田文雄首相 ニューヨーク経済クラブでの講演 全文
・岸田文雄首相 ニューヨーク経済クラブの講演 英文全文
 資産運用業について「取り組みが遅れていると指摘されてきた構造改革を断行する」と強調。「日本の資産運用セクターが運用する資金は800兆円で、足元3年間で1.5倍に急増した」と説明し、日本独自のビジネス慣行や参入障壁を改める意向を示した。
柱は資産運用特区の創設だ。海外から優秀なファンドマネジャーを招くうえで日本語の壁の高さが指摘されてきた。「英語のみで行政対応が完結できるよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める」と改善策を説いた。
 資産運用会社が本業に専念できるよう「バックオフィス業務のアウトソーシングを可能とする規制緩和を実施する」とも述べた。
 米国やフランスなどの例を参考に「運用資金獲得支援プログラム(EMP)」を整備して新規参入の運用会社を支援する方針だ。投資家の意見を政策に反映させるため、日米を主体とした「資産運用フォーラム」を立ち上げる。
 首相は日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)について「改革の実効性を高める」と言及した。米欧に比べて低いと言われてきた日本のPBR(株価純資産倍率)を意識して計画の策定や実行を促す。
 政府は年末までに一連の規制緩和策などを詰め、2024年の通常国会に必要な法案を提出する段取りを描く。
 首相は22日に帰国した後、週明けに経済対策の柱立てを閣僚に指示する予定だ。
 講演では「構造的な賃上げ」と「持続可能性強化のための官民投資」の2点に重きを置いた対策をまとめると指摘。投資家に向けて「日本経済の底力と将来の計画をよく見てもらい、日本への投資を強く求めたい」と要請した。
 講演後は出席者の質問に答えた。ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授をはじめ金融界の経営者ら200人ほどが参加した。
 日本に投資を呼び込むため、首相は22年にもロンドンの金融街シティーやニューヨーク証券取引所で演説し少額投資非課税制度(NISA)の抜本拡充や恒久化を打ち出した。
 
【日銀、追加の緩和修正見送り 金融政策の現状維持を決定】
 22日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日銀は22日に開いた金融政策決定会合で金融緩和策の現状維持を全会一致で決めた。長期金利の事実上の上限を1%とする  長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)や、マイナス金利政策、上場投資信託(ETF)の買い入れなどの現行の緩和策を続ける。当面は物価や賃金の動向を慎重に見極めながら金融緩和策で経済を下支えする。
植田和男総裁が22日午後3時半に記者会見し、決定内容を説明する。
 日銀は公表文で、足元の物価高について政府の経済対策などでピーク時よりプラス幅を縮小しているものの「予想物価上昇率は再び上昇の動きがみられている」とした。
 総務省が同日発表した8月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く)は前年同月比で3.1%の上昇だった。日銀は上昇率が一時的に縮小した後、企業の賃金・価格設定行動の変化などを背景に「再びプラス幅を緩やかに拡大していく」とみている。
 国内景気は企業収益が全体として高水準で推移するもとで、設備投資や個人消費が増加しているとの見方を示した。雇用・所得環境も緩やかに改善しているという。先行きは海外経済の回復ペースの鈍化で下押し圧力を受ける一方、ペントアップ(先送り)需要の顕在化などに支えられ、緩やかに回復していくとみる。
 今後のリスク要因については「海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い」とした。経済・物価・金融情勢に機動的に対応しながら粘り強く金融緩和を続け、賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指すとしている。
 米連邦準備理事会(FRB)は20日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を2会合ぶりに据え置いた。同時に公表した参加者による経済見通しでは19人中12人が年内の追加利上げを予想している。欧州中央銀行(ECB)は14日、初の10会合連続の利上げを決めた。
 大規模緩和を続ける日銀と金融引き締め局面にある欧米中銀との違いが改めて意識され、外国為替市場で一段と円安が進む可能性がある。日銀の政策維持を受けて円は対ドルで売りが強まり、一時1ドル=148円台を付けた。日銀の発表直前には147円台後半で推移していた。

【ゼレンスキー氏「支援なければ敗北」 米共和幹部に直訴 ウクライナ支援に議会の壁 歳出増に反発、迫る政府閉鎖】
 同じ22日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ワシントン=坂口幸裕】米国によるウクライナ支援の先行きが見通せなくなっている。米政府が連邦議会に要請した同国への追加予算に、歳出増に難色を示す野党・共和党の一部議員が反発しているためだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、「支援を得られなければ戦争に負ける」と議会内で与野党議員に直訴した。
 21日午前、米首都ワシントンの連邦議会議事堂。ゼレンスキー氏を出迎える場に下院共和トップのマッカーシー議長の姿はなかった。下院の与野党議員が待つ部屋まで案内したのは、下院民主党トップのジェフリーズ院内総務のみ。超党派でウクライナを支えてきた米議会の変化を象徴する。
 米議会は2022年11月の中間選挙を踏まえ、上院は与党・民主党が多数派を維持した。一方で下院で共和が過半数を握る「ねじれ議会」になった。
 米政府は22年2月にロシアがウクライナ侵攻を始めて以降、430億ドル(およそ6兆3600億円)以上の軍事支援を約束。8月にはさらに240億ドル規模の追加予算を連邦議会に要請した。
 足元では22年末に議会で承認された対ウクライナ予算が近く底をつく事態が現実味を帯びる。それでも、支持層を意識する共和の保守強硬派には「他国に白紙の小切手を送る前に、米国民の面倒をみる必要がある」(スコット・ペリー下院議員)との声が上がっている。
 ゼレンスキー氏は与野党議員との会談後、X(旧ツイッター)で戦況や防空システムなど自国防衛に必要な武器について協議したと説明。「ウクライナの勝利がロシアや他のいかなる独裁国家も、自由世界を再び不安定化させないことを保証すると強調した」と投稿した。
 「勝利のためには我々全員が団結し、協力しなければならない」とも訴えた。
マッカーシー氏は会談後にウクライナ支援を改めて表明し、追加予算も「喜んで検討する」と述べた。ただ一枚岩でない共和内のとりまとめは難航している。
 1月に下院議長に選出された際、マッカーシー氏は就任に反対してきた保守強硬派が求めた解任動議を提出できる条件の緩和を受け入れた。党内で反発が強まれば、自身の立場が揺らぎかねない。
 米メディアによると、マッカーシー氏は上下両院合同会議での演説を希望したゼレンスキー氏の打診を拒否した。保守強硬派への配慮が透ける。
 上院では民主・共和ともにウクライナ支援継続を支持する議員が大勢だ。上院共和トップのマコネル院内総務は会談後の声明で「ロシアの軍事力を低下させることは戦略的な敵である中国の抑止に役立つ」と強調した。
 追加予算の承認への道筋がみえない要因はもう一つある。米議会では9月末の会計期末を前に、成立のめどが立たない「つなぎ予算」だ。
 こちらも共和強硬派の反対が続き、政府機関が閉鎖に追い込まれるリスクが高まっている。閉鎖されれば直接的な国内総生産(GDP)成長率の下押しに加え、経済統計の公表停止で政策判断に支障を来す懸念もある。
 共和執行部が、「つなぎ予算」と240億ドルの対ウクライナ追加予算を同時に成立させようとした場合、下院強硬派が強く抵抗する公算が大きい。21日には歳出削減を求める強硬派が、ウクライナ支援などを盛り込んだことを理由に国防予算の関連法案を阻んだ。
 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は20日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、政府機関の閉鎖が米国経済のリスク要因の一つだと指摘。「不確実性は高い」と述べた。
歴代米政権にとって政策遂行の障害になってきた「ねじれ議会」は、米国だけでなく世界経済の波乱要因になっている。

【私大再編へ撤退後押し 文科省、自主的縮小で補助金増】
 同じ22日の日経速報メールは次のように報じた。
 文部科学省は経営が困難な私立大学の撤退支援策を拡充する。2040年までに大学入学者は2割減る見通しで、600を超す私大は淘汰が避けられない。自主的に規模を縮小した大学への補助金増や再編支援を通じ、大学教育全体の質向上につなげる。
 25日に開く中央教育審議会(文科相の諮問機関)で40年以降の高等教育の将来像について諮問し、規模の適正化に向けた具体案の検討を求める。24年度中に答申を受け、政策に反映する。
 1990年代に500校余りだった大学は規制緩和を受けて急増し、現在約800校に上る。このうち私大は約620校で学生数は約210万人と7割を占める。一方で今春の入学者が定員を下回った私大の割合は53.3%と5割を超えた。赤字も3割に達する。
大学の経営が悪化すれば人材育成機能が衰える。人材の質と量は国際的な競争力に直結する。中教審は2018年の答申で「適正な規模にする必要がある」としたものの、5年を経ても撤退や再編は大きく進んでいない。
 文科省は経営難の私大に改善計画を作成させるなどしてきた。しかし7月、大学入学者数が40年に51万人、50年で49万人と22年比で13万人程度減り、現状の入学定員を維持すると2割分が埋まらなくなるとの推計がまとまった。
同省は再編や統合、撤退の議論は避けられず、より踏み込んだ対応が必要と判断した。
 焦点の一つは年間3千億円に及ぶ私学助成の配分方法の変更だ。現在は学生数などに応じて額が決まる。自主的に規模を縮小した大学への助成を厚くして教育の質向上に充ててもらう案などを検討するとみられる。
24年度には、私大が学部を廃止したり定員を減らしたりすることを決めた場合でも在学生が卒業するまで教育の質を落とさずに済むよう補助金を出す事業を始める。
 再編支援では、私大が連携や統合の相手を見つけるためのマッチングシステムの開発に同年度中に着手する。日本私立学校振興・共済事業団が持つ各大学の経営情報を活用する。これらは同年度予算の概算要求に盛り込んだ。
 新規参入や短大・専門学校からの転換も厳格に審査する。25年度以降に開設予定の公私立の大学、学部・学科については、競合校の状況や18歳人口の動向の分析を踏まえて学生を確実に集められる場合に限って認可する。
 日本以上に少子化が進む韓国は、国が大学の教育研究の成果や定員充足率をランク付けして評価が低い大学への財政支援を削るなどし、15〜22年で入学定員の9%にあたる約5万8千人を減らした。
 日本は大学の自主性を尊重し、国が一方的に統廃合を進めることは避けてきた。しかし「少子化は予想以上のスピードで進む可能性もある」(文科省幹部)。定員割れが著しい大学は補助金の削減幅を大きくするよう求める声が強まる可能性もある。
 中教審は国公立大を含めた各大学の役割の明確化や、都市部に比べて経営が厳しい地方の大学のあり方、オンライン教育の活用拡大なども議論する見通しだ。研究力強化に向けた大学や学生への支援方策についても検討する。
 生成AI(人工知能)に代表される科学技術の急速な発展やデジタル化、国際化への対応策も喫緊の課題となる。
 海外では授業は全てオンラインにしつつ学生は7都市を転々として学ぶ米ミネルバ大のように大胆な教育方法を取り入れる大学が登場している。オンライン教育に関する規制の緩和などによって新たな大学像を描くことも求められる。
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【半導体・蓄電池など生産、長期で税優遇 政府経済対策 国内投資促す】
 同じ23日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は10月にまとめる経済対策で重要物資の供給力の強化を盛り込む調整に入った。半導体や蓄電池、バイオ関連などを対象に初期投資に限らず5〜10年の単位で企業の生産コストの負担を軽減する税制を検討する。民間の参入リスクが高い分野で政府が支援する。
 岸田文雄首相は25日にも経済対策の柱を表明し、26日に閣僚へ策定を指示する。政府は「構造的賃上げと投資拡大の流れの強化」を柱の一つにする。
 脱炭素やデジタル化、経済安全保障といった観点で重要な物資の生産・販売量に応じた法人税などの税額控除を設ける。
首相は「初期投資コストやランニングコストが高い分野を集中的に支援する税制を検討したい」と語る。詳細は年末に向け与党の税制調査会で議論する。
 一般的に企業の投資減税は製造設備や工場の整備など初期費用が対象になる。企業が新分野に参入する場合は安定した納入先を確保し経営を軌道に乗せるまで期間が要る。政府は中長期的な減税で経営リスクを減らし参入の障壁を下げる。
 税優遇は5〜10年単位といった適用期間を設定するとともに、当面は赤字でも恩恵を得られるように税額控除を翌年度以降の黒字時に繰り越すしくみを検討する。
 米国で2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)を参考にする。蓄電池や水素など重要物資について①設備投資にかかる費用の3割を法人税から差し引く措置、②稼働後10年間は毎年の生産に応じた一定額を控除―を選べるようにした。
 大規模で長期の包括的な重要物資の生産支援で自国内へ企業立地や投資を促すのは世界の潮流になりつつある。欧州やカナダ、韓国も税制・予算を通じた投資促進策を予定し、各国で競争が激しくなってきた。
 日本でも半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の呼び込みに成功した九州で経済への波及効果が期待される。地方に工場の立地を促し、地域の雇用確保や周辺産業を含めた賃上げにつなげる。
 重要物資の供給網(サプライチェーン)で環境負荷や労働、人権などの国際基準を満たす物資の購入を対象にした補助金も取り入れる。中国製品は事実上対象外になるとみられる。
 国内で生産したモーターなどの競争力を高め結果的に国内投資を促す効果を生み出す。
 首相は21日のニューヨークでの講演で「予算・税制・規制のあらゆる面で世界に伍して競争できる投資支援パッケージをつくり、実行する」と表明した。為替相場は円安が続き、日本国内で投資しやすい環境が整う。
 内閣府の推計で「需給ギャップ」は4〜6月期にプラスに転じ需要不足は解消した。政府の経済政策は潜在成長力を高めるメニューに軸足を移す。物価高を上回る賃上げへ新たな産業を生み出して投資を加速させる。

【三菱ケミカル、半導体材料の国内工場 TSMC進出で商機】
 24日の日経速報メールは次のように報じた。
 三菱ケミカルグループは半導体材料の国内新工場を建設して2025年3月期の稼働を目指す。半導体受託製造の世界最大手、 台湾積体電路製造(TSMC)の日本進出などを機に素材や装置産業で国内供給網の再構築が広がっている。
 フッ化アルゴン用のフォトレジスト(感光材)向け高分子素材の新工場を建設する。既存拠点と合わせて生産能力が2倍に増える見通し。感光材は光に反応する樹脂で、微細な半導体回路をつくるのに欠かせない。三菱ケミカルは不純物の少ない高品質な製 品を安定して生産する技術に強みがある。
 従来は鶴見工場(横浜市)の1拠点のみで製造してきた。新工場の投資額は数十億円規模とみられ、物価高で鶴見工場の建設時より増える見通しだが、将来の市場拡大に備える。生産場所は今後詰めるが、福岡県内の事業所などが候補地となる。
 三菱ケミカルは、同材料で世界で数割程度のシェアを握るとみられる。販売先の感光材メーカーは日本勢が世界シェア9割を占める。今回の増産は材料の擦り合わせを強みとしてきた国内サプライチェーン(供給網)の強化につながる。
 TSMCが熊本で工場を設けることなどを機に関連企業が投資する事例が相次いでいる。感光材大手の東京応化工業は福島県や熊本県で増産投資を決めた。感光材は最終的にTSMCや米インテルといったメーカーが製造工程に使う。拠点分散は自然災害時などの事業継続計画(BCP)にもつながる。
 国際業界団体SEMIによると、4〜6月のシリコンウエハー世界出荷面積は前年同期比10%減で、1〜3月並みの下げ幅が続いている。足元の需要は減少しているが半導体は幅広い産業の基盤であり、24年からは需要が戻ってくるとの市場の見方がある。
 三菱ケミカルグループは半導体素材を含む「スペシャリティマテリアルズ」について、キャッシュベースの本業のもうけを示すEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を、26年3月期に23年3月期比2倍の2230億円に増やす目標を掲げる。石油化学事業の再編を進める一方、成長が見込める市場で高機能品の販売量を伸ばす。

【日産、2030年に欧州の全新車販売をEVに CEO表明】
 25日の日経速報メールは次のように報じた。
【ロンドン=湯前宗太郎】日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は25日、2030年に欧州での新車販売をすべて電気 自動車(EV)にすると表明した。今後、投入する新型車も原則EVのみとする方針で、脱炭素規制の厳しい欧州でEVシフトを前面に打ち出す。
 欧州連合(EU)は35年にエンジン搭載車を一部を除き販売禁止する方針を掲げる。合成燃料(e-fuel)や水素を燃料とするエンジン車は、35年以降も販売できると認めた。日産はEU規制に前倒しで対応する。
 同日に英国ロンドンにあるデザインセンターで開いた式典で、「欧州では30年に完全にEV化する」と内田氏は強調した。
 日産は英北部サンダーランド工場でEV「リーフ」などを生産している。21年には10億ポンド(約1800億円)を投じ、車載電池工場の建設などを進める計画を公表した。26年度までに、欧州では新車の98%を電動車にする目標を掲げていた。
 これまでの目標にある電動車には独自のハイブリッド車(HV)技術「eパワー」も含んでいた。欧州で内燃機関車に厳しい規制がかかるなか、今後は既存モデルの刷新を除き、投入する新モデルはすべてEVとする考えだ。
 欧州では電動化を巡り、厳しい規制が打ち出されてきた。ただ足元では、内容を修正する動きも出始めている。
 英政府は20日、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁じる時期を、従来の30年から35年に延期することを表明した。欧州連合(EU)も3月末、エンジン搭載車を35年に全廃するとしてきた方針を変更している。
 トヨタ自動車が西欧で30年までに新車販売におけるEV比率を50%にし、35年には新車をすべてEVや燃料電池車(FCV)など二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車(ZEV)にする方針だ。ホンダは40年に欧州も含め、すべての新車をEVかFCVにする計画を進める。
 日産は7月、仏ルノーとの間で資本関係の見直しで最終契約を結んだ。ルノーの日産に対する出資比率を43%から15%まで引き下げ、相互に15%ずつ出資する形にする。
 資本関係の見直しとともに、ルノーが設立予定のEV新会社「アンペア」に日産が最大で6億ユーロ(約950億円)を出資する方針も決めた。今後、ルノーのEV新会社への出資を通じ、欧州での電動化戦略のスピードを高め、EVシフトで先行したい方針だ。

【エーザイ認知症薬、正式承認 年内にも医療現場へ】
 同じ25日の日経速報メールは次のように報じた。
 武見敬三厚生労働相は25日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を正式に承認した。進行を遅らせる効果を証明した国内初の薬となる。薬の公定価格である薬価の決定を経て、年内にも医療現場で使えるようになる見込みだ。
 レカネマブはアルツハイマー病患者の脳内に蓄積する「アミロイドベータ」というたんぱく質を除去するように設計されている。臨床試験(治験)では、病気の進行速度を27%緩やかにする効果が確認されている。
 これまでの治療薬が「対症療法」だったのとは異なり、病気の原因に働きかけることで症状の進行を抑える点が特徴だ。
 患者や家族の負担軽減につながる新薬だが、根治できる薬ではない。投与の対象者も軽度の患者に限られる。価格は高額で7月に正式承認された米国では年2万6500ドル(約390万円)だった。国内での薬価に注目が集まる。
 アルツハイマー病患者の増加は顕著だ。厚労省によると、日本国内における認知症患者数は2020年で600万人程度と推計されており、2060年には最大約1150万人にまで増える見込みだ。アルツハイマー病は2060年時点で800万人にのぼるとみられており、認知症全体の7割程度を占める。
 エーザイは1月にレカネマブの製造販売について医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請し、8月21日に厚労省の専門部会で承認が了承されている。

【IEA「30年に再エネ3倍必要」提言 脱化石燃料を加速】
 26日の日経メールは伝えた。
 国際エネルギー機関(IEA)は26日、気候変動対策の報告書を公表した。気温上昇を抑えるために再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍に拡大するよう提言した。再生エネのコストは大きく低下し、化石燃料からの脱却は世界で進む。普及が遅れる日本も対応を迫られる。

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 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、地球の気温上昇を産業革命以前から1.5度以内に抑える目標の実現に必要な再生エネの容量をIEAが試算した。この目標は世界が50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることとおおむね整合する。
 報告書によると、再生エネの設備容量を23年から30年に3倍にすると110億キロワットになる。これは21年時点の化石燃料の発電容量の2倍強になる。実現すれば、30年の再生エネの発電(容量ベース)に占めるシェアは7割前後になる見通しだ。
 再生エネの普及が大幅に進めば、化石燃料の需要は30年までに25%減るという。必要な投資額は30年代初頭には年4.5兆ドルと23年の2.5倍になる。
 IEAによると、23年から30年の間に約70億トンの二酸化炭素(CO2)排出を回避できる。中国の電力部門から排出されているCO2総量に匹敵する削減幅になるという。
 技術が成熟し、普及が進んだことで、太陽光と風力の導入期間は短くなり、コストも大幅に下がっている。IEAは今後の課題は新興国や途上国での導入拡大だとして、先進国による支援拡大を求めた。東南アジアや中東、アフリカなどでは拡大の余地が大きい。
 一方、報告書は1.5度目標の達成には化石燃料への新規投資は必要ないと説明した。
 日本は再生エネの導入量で欧州や中国に後れをとり、普及が大きく進んでいるとは言えない。推進するための政策の遅れに加え、規制緩和などが進んでいないのが主な要因だ。
 世界で主流となっている風力発電は22年に中国は約3700万キロワット、米国は約860万キロワットそれぞれ増やした。日本はわずか23万キロワットだ。インドやトルコ、台湾も先を行く。
 日本は工業団地や耕作放棄地などの再生エネの可能性が大きい土地の活用が十分ではない。加えて世界で急拡大する洋上風力発電が大規模に立ち上がるのが30年前後と遅い。
 現状のエネルギー基本計画で掲げる30年度に再生エネを最大38%とする目標を達成しても21年度実績比で1.7倍にとどまる。
 世界の主要国は再生エネの普及に力を入れる一方、太陽光パネルの生産など供給網(サプライチェーン)の確立に力を注ぐ。大きなシェアを持つ中国などは自国の製品を世界に売り込んでいる。
 日本も自国の導入を加速するなどして風力発電を整備し、産業として早期に育成しなければ、アジアなど世界の脱炭素に貢献できず、影響力の低下につながりかねない。(気候変動エディター 塙和也、ブリュッセル=辻隆史)

【洋上風力汚職、秋本議員を受託収賄罪で起訴 東京地検】
 27日の日経速報メールは次のように報じた。
 洋上風力発電事業を巡る汚職事件で、東京地検特捜部は27日、衆院議員の秋本真利容疑者(48)=比例南関東、自民党を離党=を受託収賄罪で起訴し、日本風力開発(東京・千代田)の塚脇正幸前社長(64)を贈賄罪で在宅起訴した。特捜部は秋本議員が 新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして詐欺罪でも起訴した。
 秋本議員は特捜部の取り調べに対し、受託収賄と詐欺いずれの容疑も否認していた。再生可能エネルギーの切り札とされる事業を巡る汚職事件の全容解明は法廷に移り、賄賂の授受などに関して検察側と秋本議員側が全面対立する構図になるとみられる。
 起訴状によると、秋本議員は塚脇前社長から国会質問の請託(依頼)を数回受け、見返りとして2019年3月〜23年6月ごろ、計約7200万円相当の賄賂を受け取ったとされる。特捜部は逮捕時に賄賂とした総額約6100万円に加え、現金500万円や馬1頭の持ち分100万円相当などの提供を新たに賄賂に当たると判断した。
 持続化給付金を巡っては20年9月ごろ、給付要件をみたすかのように装って申請し200万円をだまし取ったとされる。
 秋本議員は7日の逮捕後、「依頼されて日本風力開発の利益を図るために、国会質問をしたということは断じてない。私は潔白」とするコメントを出した。塚脇前社長は贈賄を認めているとされる。
 刑法の収賄罪は公務員が職務に関して賄賂を受け取る場合に成立する。職務に関し一定の行為をするよう請託を受けた場合は受託収賄罪が適用される。同罪の法定刑は7年以下の懲役で、単純収賄罪の法定刑(5年以下の懲役)より重く規定されている。
 秋本議員は12年衆院選の千葉9区に自民党から出馬し初当選した。現在は4期目。事件発覚後の8月4日に外務政務官を辞任し、同5日に同党を離党した。
 政府は洋上風力発電を推進している。19年4月施行の再エネ海域利用法は事業者が一般海域を最大30年間占有できる環境を整えた。矢野経済研究所(東京・中野)によると、国内の洋上風力発電の市場規模(予測)は20年度の20億円から25年度には3970億円まで膨らむ。30年度には9200億円とほぼ1兆円の巨大市場へ発展するとにらむ。

【長崎・対馬市長、核ごみ処分場の文献調査「受け入れず」】
 同じ27日の日経速報メールは次のように報じた。
 長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は27日、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定の前提となる「文献調査」について、調査を受け入れない考えを表明した。比田勝市長は同日午前10時に開会した市議会本会議で、現段階では「安全であるという市民の理解を得るのは難しい」と述べた。
 同市議会は12日の本会議で、文献調査を受け入れるよう求めた市民からの請願について賛成10、反対8で採択していた。比田勝市長は市議会の決定と異なる判断を下した理由について、①市民の合意形成が不十分だ、②風評被害が懸念される――などを挙げた。
 文献調査は最終処分場の選定作業の第1段階にあたる。2年間で最大20億円の交付金が国から出る。地質図や学術論文などの文献・データを調べ、対象の自治体が適地かどうか机上で探る。これまで北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村の2自治体が原子力発電環境整備機構(NUMO)による文献調査を受け入れている。
 市議会に対してはこれまで、調査受け入れを促す請願だけでなく、水産業者や市民団体からは反対の請願が多数出ていた。これらは市議会では採択されなかったものの、8月以降、市内で受け入れ反対の声が急速に高まっていた。
 9月初旬に比田勝市長に文献調査を受け入れないよう求める要望書を提出した「対馬市漁業協同組合長会」は、反対の理由として風評被害による魚価下落などの影響を強調した。観光関連事業者からも、観光客の減少を懸念する声が高まっている。市長は市議会と対立することがあっても、受け入れにより深刻化が懸念される市民の分断の回避を重視した。

【水俣病救済巡る訴訟、国側に賠償命じる 大阪地裁判決】
 同じ27日の日経速報メールは次のように報じた。
 2009年施行の水俣病特別措置法に基づく救済対象から外れた未認定患者らが国などに損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(達野ゆき裁判長)は27日、原告の請求を認め、国などに1人あたり275万円の賠償を命じた。原告128人全員の水俣病罹患(りかん)を認定した。
 同種訴訟は熊本、東京、新潟の各地裁でも争われており、今回が初の判決。対象地域や居住期間、年齢などの基準を設けていた特措法による救済枠組みの不備を指摘した。今後、上級審などで同様の判断が続けば、国は対応を迫られる可能性がある。
主な争点は、原告らの症状が水俣病と認められるかどうかだった。
 達野裁判長は、特措法が救済対象とする地域や年代から外れた人でも、不知火海で取れた魚介類を継続的に多食した場合は水俣病を発症する可能性があると指摘。メチル水銀の暴露から長期間が過ぎた後に発症する遅発性水俣病の存在も認めた。
判決は原告122人に対し、国や熊本県、原因企業チッソが連帯して1人あたり慰謝料250万円などを支払うよう命じた。残る6人にはチッソのみが責任を負うとした。請求額は1人あたり450万円だった。
 判決を受け、環境省特殊疾病対策室は「判決内容を精査し、対応を検討する」とのコメントを出した。
 ▼水俣病と救済策 熊本県水俣市のチッソ水俣工場が八代海(不知火海)に排出したメチル水銀に汚染された魚介類を食べた住民らに発症した中毒性の神経系疾患。国は1956年に被害を公式確認し、68年に公害病と認定した。
 74年施行の公害健康被害補償法に基づき患者として認定されたのはこれまでに約3千人。95年の政治決着で約1万1千人が救済対象となった。その後も未認定患者らの提訴が相次ぎ、新たな救済策として特別措置法が2009年に施行された。

【三菱自動車、中国生産撤退へ EV出遅れで販売不振】
 同じ27日の日経速報メールは次のように報じた。
 三菱自動車は中国の自動車生産から撤退する方針を固めた。現地の合弁相手である中国自動車大手の広州汽車集団と最終調整に入った。中国では電気自動車(EV)の普及や地場企業のブランド力向上で三菱自の販売は低迷する。ガソリン車に強い日欧米などの自動車ブランドは全般的に苦戦しており、戦略の見直しが広がる可能性がある。
 三菱自と広汽集団の合弁会社「広汽三菱汽車」が運営する湖南省の長沙工場での生産から撤退する。三菱自にとって唯一の中国での新車工場で、販売低迷を受けて3月から新車生産を停止していた。販売の回復が見込めないため再開を断念する。
 中国事業の経営合理化に向けて、広汽三菱は5月に人員整理の方針を決めていた。工場は今後、広州汽車グループのEV生産拠点として活用する見通しだ。広汽三菱には広汽集団が5割、三菱自が3割、三菱商事が2割を出資する。合弁会社は存続するが、三菱自と三菱商事は出資分を引き揚げる見込みだ。
 三菱自は1970年代に商用車の中国向け輸出を始め、06年から21年に東南汽車との合弁事業を手がけた。広汽三菱は12年の設立で、最盛期の18年には14万台を販売した。
 近年は地場ブランドがEVで攻勢をかけ、三菱自の22年の中国販売は前年比6割減の3万8550台と低迷している。てこ入れへ22年秋に中国向け新型車の「アウトランダー」をハイブリッド車仕様で投入したが、売れ行きは計画を大幅に下回っていた。中国撤退を受け、連結売上高の3分の1を占める東南アジアやオセアニアに経営資源を集中する。
 中国汽車工業協会によると、22年の電気自動車(EV)販売は前年比8割増の536万台で、新車販売に占めるEV比率は2割にのぼる。三菱自も中国でEV「エアトレック」を販売するが広汽グループから供給を受けており、中国向けの独自車種を持たない。
 三菱自動車が22年秋に中国で投入したハイブリッド車仕様の「アウトランダー」の売れ行きは計画を大幅に下回った。
中国ではEVシフトを進める地場メーカーの存在感が高まっている。マークラインズによると、22年の中国での乗用車販売台数は2356万台。比亜迪汽車(BYD)や長安汽車が伸び、地場企業のシェアは前年より5.2ポイント高い50.7%に達した。
 対照的に日系のシェアは18.3%と2.8ポイント低下した。日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は中国事業について「値引きが非常に激しく利益を出せる水準にない。中国合弁の在り方など戦略見直しを含め検討している」と話している。
 日本車メーカーの中国事業を巡ってはスズキが中国の自動車大手、重慶長安汽車との合弁事業を18年に解消した。トヨタ自動車と広汽集団の合弁会社「広汽トヨタ」は7月、従業員約1000人について満了前に契約を終了した。削減規模は6月時点の従業員数の約5%にあたる。
 一方、マツダは現地で販売網を再編するなど中国事業の立て直しに注力している。

【藤井聡太七冠、初の八冠独占に王手 将棋王座戦2勝目】
 同じ27日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 27日朝から名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで指されていた第71期将棋王座戦(日本経済新聞社主催、東海東京証券特別協賛)五番勝負の第3局は、午後8時32分、81手で先手の挑戦者、藤井聡太七冠(21)が永瀬拓矢王座(31)を破った。藤井七冠は対戦成績を2勝1敗とし、史上初の八冠独占に王手をかけた。
 終局後、藤井七冠は「本局は結果は幸いしたが、内容は押されていた。(次局は八冠制覇がかかるが)意識せずに集中して臨みたい」と話した。藤井七冠は6月に最年少で名人を獲得し、羽生善治九段(53)に続く七冠を達成。残すタイトルを王座のみとしている。八冠制覇がかかる第4局は10月11日、京都市のウェスティン都ホテル京都で指される。
 この日の対局は、劣勢の藤井七冠が終盤で形勢をひっくり返した。「終盤は負けの形だと思っていた。▲5六角(71手目)と相手の金を取って、自玉が寄りづらい形になった」という。
 序盤は後手の永瀬王座が「雁木(がんぎ)」と呼ばれる戦型を採用、9筋の位をとる工夫を見せた。藤井七冠は「(その構想は)考えたことがなくて、序盤は失敗した。その後もうまく指されたので、もっと工夫の余地があった」と反省する。
 途中、後手の永瀬王座が9筋の端歩を突いて仕掛けたのが機敏で、優位に立った。終盤も寄せに出て、そのまま押し切れば会心譜となったが、5時間の持ち時間を使い切り、秒読みの中で指した受けの一手が落手。藤井七冠が放った攻防手で逆転した。永瀬王座は終局後、「次局まで時間はあるので、精いっぱい準備して臨みたい」と話した。
 解説の北浜健介八段は「序盤から永瀬王座が主導権をにぎり徐々にリードを広げた。終盤も正確な寄せを見せていたが、簡単な勝ちではなかった。終盤、永瀬王座のわずかなミスを藤井七冠が見逃さず、流れを引き戻した」と語った。

【企業保険、100社超で事前調整か 損保4社が当局に報告へ】
 28日の日経速報メールは報じた。
【この記事のポイント】
・各社で分担する「共同保険」で保険料水準を事前に調整
・交通インフラだけでなく幅広い業種・企業で不適切案件
・保険業法上の業務改善命令や独禁法上の排除措置命令も
 損害保険大手4社が企業向け保険料を事前調整していた問題で、独占禁止法の趣旨に反する不適切な行為があった取引先の数が少なくとも計100社超にのぼることが27日、分かった。特定の業種や企業にとどまらず、不適切な取引が広範囲に及んでいた実態が明らかになった。4社は29日までに金融庁に報告書を提出する。
 金融庁から保険業法に基づく報告徴求命令を受けたのは東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社。問題が表面化するきっかけとなった東急グループなど交通インフラ企業に加え、全業種を対象に各社が調査を進めるなかで不適切な案件が数多く浮上した。
 問題視されているのは保険契約を各社が分担して引き受ける共同保険だ。支払う保険金が巨額になるリスクがある場合、事前に決められたシェアに応じて複数の損保が分担して保険を引き受けている。
 損害保険事業の売上高に当たる正味収入保険料で4社は8割超のシェアを握っており、企業向け保険に限ると9割を超えて寡占化が進んでいた。
 これまで保険料の事前調整を含めて4社が不適切な行為をしていた疑いがある対象企業では、ENEOSなどの石油元売りや成田国際空港会社、JR東日本などが浮上している。関係者によると、調査の進展にともなって案件数が増え、業界全体で少なくとも計100社超となったようだ。
 小売りや製造業など「幅広い業種で見つかっている」(関係者)という。東京都が実施した保険契約の入札でも事前調整した疑いがある。
 東急との保険契約では、見積額として提示する保険料の水準を各社の営業担当者が事前に申し合わせていた。契約更新前のシェアを維持したり、保険料率が下げられるのを防いだりするために、調整行為に走った可能性がある。
 保険金の支払い実績が多いなどの理由で保険契約を引き受けたくない場合も、他社の担当者らから入札前に保険料を聞き出し、あえて他社の保険料よりも高い水準を提示する事例があるという。特段の理由もなく、顧客企業に示す保険料の見積額をあらかじめ共有する慣習が長年続いていたケースもあったようだ。
 共同保険の引き受けでは事務連絡の必要性もあり、各社の担当者は互いに連絡を取り合う関係にある。「微妙なやり取りは多い。『クロ』に近い『グレー』から『シロ』に近い『グレー』までさまざまある」(関係者)といい、不適切案件の中でも悪質性には濃淡がある。
 各社は金融庁に提出する報告書のなかで、こうした事前調整が常態化していた背景や再発防止策を説明することにしている。他の損保の営業担当者と接触した際には上司への報告を徹底するといった再発防止策が盛り込まれる見通しだ。
 金融庁は各社から受け取った報告書の内容を精査し、保険料の事前調整にいたった動機や原因を解明する。保険業法が目的とする保険募集の公正性と保険契約者保護の観点から法令違反が見つかれば、業務改善命令などの行政処分も検討する。
 公正取引委員会も調査に乗り出している。カルテルといった不当な取引制限など、独禁法に違反する行為を認めれば損保会社側に再発防止に向けた排除措置命令を出し、違反による売り上げが確認されれば課徴金納付を命じる。

【防衛力強化へ空港・港湾拡充 33施設、自衛隊利用を想定】
 同じ28日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は防衛力強化の目的で拡充する公共インフラの候補として10道県の33空港・港湾を選定した。滑走路の延伸や岸壁の増築に取り組むため管理する地方自治体と近く協議を始める。東アジアの緊張に備えて自衛隊と海上保安庁が住民避難や部隊展開に使いやすくする。
 政府は2022年末に改定した国家安全保障戦略で有事に備えて空港や港湾を整備する方針を盛り込んだ。必要性が高い施設を「特定重要拠点(仮称)」に指定し、必要経費を24年度予算案の公共事業費に計上することをめざす。
政府が8月に非公式に作成した文書によると14空港と19港湾が対象となった。このうち少なくとも16空港・港湾は南西諸島と九州、四国に立地する。軍備増強を強める中国や、武力衝突が起きる懸念がある台湾に近い地域を重視した。
空港は沖縄県の与那国空港や新石垣空港、宮古空港、那覇空港のほか鹿児島空港や宮崎空港、高知空港などをリストに入れた。
 いずれも台湾有事の場合に自衛隊が部隊を展開したり燃料・食糧を補給したりする拠点として使える場所にある。自民党で外交部会長などを務めてきた佐藤正久氏は「有事に米軍が部隊派遣できるようにする意味もある」と説明する。
 与那国、新石垣、宮古の3空港は滑走路が2000メートルで100人以上を乗せられる輸送機C-2などの離着陸が難しい。住民の避難などに備えて滑走路を延ばすなどの改修を検討する。
 その他の空港でも駐機場や誘導路、格納庫を新設するなどして自衛隊機や海保機が運用しやすい環境を整える。自衛隊幹部は「防衛用途で使いやすい2500メートル以上の民間用滑走路は日本にとって安全保障上の資産だ」と話す。
 港湾では与那国島に護衛艦や巡視船が接岸可能な新港をつくる計画だ。沖縄県の石垣港や平良港、那覇港、熊本県の熊本港や福岡県の博多港の岸壁も改修を調整する。
 ウクライナへの侵攻を続けるロシアと向かい合う北海道や、北朝鮮の不審船などへ対処する日本海側も対象とした。拡充するインフラの候補リストは非公表とし、情勢の変化によって追加する可能性がある。
 公共インフラ施設を防衛目的で活用するには地元自治体の理解が欠かせない。現行法は平時に自衛隊や海保がインフラを優先して使う規定がないためだ。利用する場合は管理する都道府県などに申請しなければならない。
 防衛省によると「空いている岸壁がない」「人員不足で対応できない」といった理由で自治体から難色を示されることがある。米軍も日米地位協定などに基づいて日本国内の施設を使用することは可能だが、自治体の状況によっては利用しにくい。
 実際、北朝鮮の「人工衛星」発射に備えて自衛隊が4月に迎撃部隊を沖縄へ派遣した際は地元の調整に手間取り予定していた輸送方法を変更した。
 政府は整備するインフラ施設を平時に観光や物流につかえば産業振興につながると説明し、自治体に協力を求める。訓練や警戒監視のために平時でも自衛隊が円滑に利用できる仕組みを設けることも働きかける。
 木原稔防衛相は15日の記者会見で「輸送手段が船舶や航空機に限られる南西諸島などでは部隊の運用性が高い空港や港湾の整備が必要だ」と述べた。「多様な空港や港湾を平素から円滑に利用できるよう自治体に丁寧に説明する」と話した。

【日本、サモア下し2勝1敗 ラグビーワールドカップ】
 29日早朝の5時に起床し、後半戦を観戦した。前半では17-8とリード、後半にはサモアに追いつかれ、結果は28-22の僅差で日本が勝利した。サモアがワントライ・ワンゴールを決めれば僅差の逆転負けである。
 29日早朝の日経速報メールは次のように報じた。
 【トゥールーズ(フランス)=谷口誠】ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会は28日、トゥールーズで1次リーグD組の1試合が行われ、日本がサモアを28-22で下した。2勝1敗で勝ち点を9に伸ばした。サモアは1勝2敗で勝ち点6。
 日本は前半、フランカーのラブスカフニ(東京ベイ)のトライで先制。3点を返された後、SO松田(埼玉)のPGやフランカーのリーチ(BL東京)のトライで点差を広げ、17-8で折り返した。
 後半はナンバー8姫野(トヨタ)のトライや松田のPGで得点。サモアに2トライを返されたが逃げ切った。
 当初先発メンバーに登録されていたSH流(東京SG)は欠場した。コンディション調整を理由に、27日にトゥールーズで行われた前日練習には参加していなかった。SHは控えで登録されていた斎藤(東京SG)が今大会初先発した。

 2大会連続の決勝トーナメント進出を目指す日本は10月8日に1次リーグ最終のアルゼンチン戦に臨む。

【米中二者択一迫るな グローバルサウス小国の叫び ラモス・ホルタ 東ティモール大統領】
 30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国が国際社会で発言力を増している。インドやブラジルなどの地域大国に焦点が当たる一方、米中の覇権争いに翻弄され、成長から取り残された小国が大半を占める。小国は世界に何を訴えるのか。東南アジア、東ティモールの大統領でノーベル平和賞受賞者のラモス・ホルタ氏に聞いた。
 ロシアのウクライナ侵攻は食料やエネルギー価格の高騰を招いた。地理的に距離があるグローバルサウスの国々に特にしわ寄せが及んでいる。
――隣国インドネシアの支配からの独立から20年あまり。天然資源以外の産業が育たず、東ティモールの発展は遅れている。そこに新型コロナウイルスやウクライナの危機が訪れた。
 「イエメン、シリア、リビア、マリで続いている争いも含め、現在世界が直面している危機はリーダーシップの欠如と関係する。国連安全保障理事会は、紛争を予防し、調停し、解決をもたらす主要な国際メカニズムだ。米英仏中ロの5常任理事国は(拒否権の)特権があり義務があるが、果たしていない。責めを負うべきだ」
 「ウクライナでの戦争については、米国は超大国で、北大西洋条約機構(NATO)のリーダーでもあり、部分的に責任がある。しかし、米国は欧州諸国とともにウクライナの支援に深く関与し、もはや調停者になることはできない。戦術核の使用という非常に危険なところまでエスカレートするかもしれない」
中国敵視には「もっと落ち着いて」
――国際政治は米国と中国の対立の構図が強まっている。
 「いまの米国の中国への非常に敵対的な態度には同意しない。トランプ前大統領は新型コロナの起源は中国だと責めた。感染症の世界的な流行は政治問題化させてはならない。同情と理解を示し、科学者と資金を結集させ、世界保健機関(WHO)のリーダーシップのもとで取り組むべきだった」
 「人々は『中国は脅威』だと言い続けている。私はそうは思わない。中国を敵視する人たちには『もっと落ち着いて』と助言したい。世界に戦略的なライバルがいるのは何も不思議ではない。外交の秘訣は、敵対者と対話しパートナーシップを築くことだ」
 「米国が対中関係でリーダーシップを発揮する最善の方法は、中国を鞭(むち)打つために台湾や人権を利用するのをやめることだ。人権問題を抱える他の国々への米国の態度は、対中国とは異なる。東南アジア諸国連合(ASEAN)や日本、韓国などアジアの国の指導者は中国に適応する方法を見つけている」
 ――グローバルサウスは、西側諸国とも、中国やロシアなど覇権主義国とも一定の距離を置き、国際社会で存在を強めている。どのような役割に期待するか。
 「素晴らしい学術的表現で、ロマンチックに語られるが、内情は非常に分断されている。インドとパキスタンの関係を見てほしい。アフリカは国境内外でなお亀裂が生じている。対立する中国とインドを含むBRICSの構成を見ていると、主要7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)より成果を出せるか疑問に思う」
 「BRICSについて言えば、持続可能な開発や再生可能エネルギーの普及に向けた資金提供をG7や国連機関、世界銀行に比べて迅速かつ寛大な方法で実現できるなら、人気と尊敬を得るだろう。単なる口だけのおしゃべり屋なら信頼を失うことになる」
 「中国とインド、日本と中国と韓国の3カ国は、アジアや他の地域、世界を真に豊かで平和な場所に劇的に変える可能性がある。日中韓が協力してインドを加えて世界を豊かにすることを願っている。そうすれば、21世紀はアジアの世紀であると言える」
 東ティモールは歳入の9割を石油・ガスに依存する。その収入による基金は今のままでは2035年に枯渇するとされる。新産業の確立へ、外国からの支援が欠かせない。
――6月のシンガポールのアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で、なぜ新興・途上国が外交の優先順位を中国に移しているか説明した。
 「私が出会ったソマリアの外交官の例を挙げた。冷戦時代、西側諸国は人権についてソマリア政府を説教し支援を拒み続けた。彼は支援を求めにモスクワに行くだけだった。ソ連崩壊後、近代化した中国が取って代わった。今なら彼は北京に行くだろう」
 「つまり中国は米国の支配に代わる代替案なのだ。この現状は何もおかしくなく、十分に理解できる。米国や欧州、日本は民主主義の運営に関するルールが原因で、意思決定が複雑になる。中国には独自のルールがあり、意思決定が迅速だ」
――中国がインフラを中心に東ティモールへの支援を進めている。
 「中国の支援はコストが低い。中国の商業融資は年利4%なのに対し、西側は7〜8%だ。中国政府の融資なら1%しかない。中国には補助金付き融資もある。米欧にも補助金はあるが、その規模はいつも小さい」
 「米議会・政府の援助枠組みを通じ4億ドル(約600億円)超の資金を得ることで合意をしたが、約20年かかった。その間私は離婚し、孫もできた。中国の援助は決定まで長くても1年だ」
 「欧州の政府開発援助(ODA)も案件を決定するまで長くて3〜4年かかる。西側は関連するコンサルタントや専門家、報告書に費用を費やし、これにも時間がかかる。新興・途上国がいら立ち、支援を求めて中国に群がる理由だ」
 東ティモールはASEANへの加盟が内定した。フィリピンやベトナムなど一部の加盟国は中国と南シナ海で領有権争いを抱えている。
国際法なしには大国のいけにえに
――中国の南シナ海での主張は国連海洋法条約に基づく16年の仲裁裁判所の判断で退けられた。
 「中国は大国である一方、米国のように太平洋と大西洋に面していない。中国の海として領有したいとの思いはわかるが、慎重に考え直したほうがいい。正当な主張をする東南アジア諸国に逆らうことはできない」
 「当事者はこの海域に関わるあらゆる国に自由な使用を認める方法を見つけるべきだ。何の障害もなく移動できる環境をつくる必要がある。ある日事故が起こって誤算が生じる可能性があり、その場合の制御は非常に困難になる」
 「国際法がなかったら、東ティモールに今日の自由はなかっただろう。ティモール海の紛争に関してオーストラリアと合意に達しなかったと思う。国際法や国際機構なしには、東ティモールのような貧しい国は大国のいけにえにされてしまう」
――東ティモールは独立後20年で民主主義を確立した。米人権団体フリーダムハウスの調査では、東南アジアで最も自由度が高い。
 「我々は民主主義、さまざまな原則、その実践、透明性のある政府を約束している。それが国民、社会、議会によってチェックされる。自然なこととして受け入れられ、機能している。我々にとって最良の政治システムと言えるし誇りに思う」
 「ただ、西側の複数政党制が最高だとも思わない。シンガポールをみてほしい。初代首相は共産主義を排除し、国を安定させるため、厳しいリーダーシップで国を発展させた。これが独裁的な統治システムだとは感じない。自由でオープンだ」
 ジョゼ・ラモス・ホルタ(Jose Ramos-Horta)1949年生まれ、73歳。シャナナ・グスマン氏(現首相)らとインドネシアからの独立運動を指導。スポークスマンとして各国に支援を呼びかけた。96年にノーベル平和賞受賞。首相などの要職を歴任し、2022年に2度目の大統領職に就任。

民主主義のコストを乗り越えよ(インタビュアーから)
 ラモス・ホルタ氏は中国に理解を示す発言に終始した。中国の覇権主義的な動きを警戒する西側諸国に身を置く立場からすれば、一見ナイーブにも思える。 これが東南アジアで屈指の民主主義を確立した国のトップが発した言葉であるという点が重要だ。政治体制では相いれない国でも、自国を存続させるためには支援を受け入れざるを得ない。多くのグローバルサウスの国々の現実と言える。 人口増を支える経済成長や気候変動への対応は途上国にとって一分一秒を争う課題だ。東ティモールは道路や港湾などインフラの不足が足かせとなり、西側の民間企業は進出しにくい。官民一体の中国がその隙を利用してインフラを開発し、影響力を強めていく。 過去の植民地支配や地球温暖化の原因を考えれば西側は新興・途上国を支援する責任を負う。スピード感ある行動に向けて一致して知恵を絞るべきだ。(ディリで、地曳航也)
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
詫摩佳代フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)訪問研究員 / 東京都立大学教授
分析・考察
 グローバルサウスと呼ばれる国々が必ずしも一枚岩ではないこと、また、いずれの国も覇権主義国あるいは西側諸国のどちらかに与するという単純な構図ではないところが今の国際政治の特徴だと思います。これらの国は、複雑な経済的相互依存関係の中で重要な位置を占めてお(あるいは占めつつあ)り、その地位を活用しながら発言力を高め、戦略的な外交を展開しています。昨今の国際環境の中で、西側が守りたいもの、取り返したいものはたくさん見えますが、その中で最も守られるべきものは何かを的確に冷静に見定め、そのために新興国とうまく連携できるよう、こちらにも戦略的な外交が問われています。

【ジャニーズ、被害者補償と経営分離 新会社社名は公募へ】
 同じ30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ジャニーズ事務所が会社を再編する方針を固めたことが30日、わかった。新会社を立ち上げ、所属タレントのマネジメントなどの業務を移管する。現在のジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川元社長による性加害の被害者への補償に専念する。新会社の社名はファンから公募で決める方向で検討しているもようだ。
 新会社にはジャニーズ事務所前社長の藤島ジュリー景子氏は出資せず、業務にも携わらないとみられる。現在のジャニーズ事務所の社名の変更も検討している。
 民放各社から「補償とマネジメントを行う組織の分離を検討すべきだ」との声が上がっていた。芸能事務所としての業務と補償を明確に分離する。
 ジャニーズ事務所は9月7日に会見を開き、喜多川氏による元所属タレントらへの性加害を事務所として初めて認めた。被害者には法的な枠組みにとらわれず補償する意向も示した。
 引責辞任した藤島氏は代表取締役にとどまり、藤島氏が全株式を保有する株主構成やジャニーズという社名も当面維持するとした。
 これらの対応について、所属するタレントを広告などに用いるスポンサー企業の間では人権尊重の視点やガバナンス(企業統治)が不十分だとして批判が相次いだ。CM放映の中止など起用を見直す動きが広がった。
 事態を打開しようと、同事務所は今後1年間、所属タレントの広告や番組出演で得た出演料について受け取らず、タレント本人に支払う方針を示した。
 ただ、契約見直しの動きは止まらなかった。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズの所属タレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる32社が起用方針を見直した。
 経団連の十倉雅和会長は9月19日の定例記者会見で「日々研さんしているタレントの活躍の機会を奪うのは少し違うのではないか」と述べ、所属タレントの救済策を検討すべきだと指摘した。日本商工会議所の小林健会頭も社名について「継続しないほうがいい」と述べた。
 ジャニーズ事務所は2日、今後の経営方針について会見を開く。被害者への補償の具体策とあわせて再編案についても説明する見通し。

【米政府閉鎖、土壇場で回避 11月までのつなぎ予算成立】
 10月1日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ワシントン=高見浩輔】米国の政府閉鎖が9月30日夜(日本時間10月1日午前)、土壇場で回避された。連邦議会の上下両院は同日、予算執行を11月中旬まで継続できるつなぎ予算案を超党派で可決した。バイデン大統領が署名して成立した。
 成立した予算は下院で野党・共和党を率いるマッカーシー議長が主導した。新たな会計年度に入る10月1日から11月17日までの予算執行を可能にする内容だ。
 共和内に反対が多いウクライナ支援を除外する一方、バイデン政権が求めていた災害支援の強化策として160億ドル(約2兆4000億円)を盛り込んだ。共和の強硬派が強く求めていた国境の警備強化策は含まれなかった。
 下院は賛成335票に対して反対91票、上院は賛成88票に反対9票だった。上院の可決は午後9時ごろで、閉鎖まで3時間に迫っていた。ホワイトハウスが大統領の署名を公表したのは残り1時間を切った夜中だった。
 政府の支出が止まり、米経済が下押しされる事態は回避される。
 バイデン大統領は同日夜の声明で「何百万人もの勤勉なアメリカ国民に無用な痛みを強いることになる不必要な危機を防いだ」と評価した。一方で6月に超党派で合意した歳出計画を覆そうとした共和の動きに不快感を示した。
 国境警備の強化など様々な要望を掲げて予算案に反対してきた下院共和の強硬派は採決で反対票を投じたが、民主が賛成に転じたため可決を阻止できなかった。
 下院民主トップのジェフリーズ院内総務は同日の記者会見で「アメリカ国民の勝利であり、年間を通して議会を乗っ取ろうとした右翼過激派による完全かつ全面的な降伏だ」と胸を張った。
 今回の法案は11月17日に期限を迎える。10月1日から1年間の2024会計年度について正式な予算案は成立しておらず、11月に再び政府閉鎖の懸念が高まる可能性はある。
 もし政府閉鎖になれば、その期間中は連邦政府の職員に給与が支払われなくなる。一部の職員は一時帰休し、国立公園などが閉鎖になる可能性がある。長期化すれば低所得層向けの食料支援や山火事被害対策の基金が枯渇すると見込まれている。
 米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは9月25日、政府閉鎖が米国債の信用力にマイナスになるとの見解を示した。経済指標の公表が遅れ、金融政策の判断にも影響が出る恐れがあった。
 過去最長の政府閉鎖は18年12月〜19年1月の5週間。この際はトランプ大統領が「国境の壁」の建設費を含めた予算を求め、民主と対立した。中南米からメキシコを通って流入する不法移民を壁で阻止する計画だった。
 国境警備の強化を求める保守強硬派が中心になった点では前回と似ているが、今回は大きな争点がないという点で異なる。今回は上院や下院の指導部も閉鎖回避を求めていたが一部の強硬派議員の意向だけで、政府閉鎖の危機に陥った。今後も繰り返される懸念が強いという点では前回より深刻といえる。
 強硬派は党内では少数グループだが、マッカーシー氏は配慮せざるを得ない立場にある。22年11月の中間選挙を経た議会では共和が221議席、民主が212議席と拮抗する。共和内の5人が造反するだけで多数派を維持できなくなる。
 強硬派は議長が1月に就任する際にも反対し、議長選が10回以上も繰り返される164年ぶりの事態になった。議長はこの際、党内の1人でも解任動議を出せるルール変更をのまされている。今後は議長職を巡る党内の攻防も焦点になりそうだ。

【企業年金の運用成績公開へ 政府検討、予定利率上げ促す】
 2日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・企業年金の運用成績を一般公開、他社と比較可能に
・米英は開示義務付け、予定利回りは日本より高く
・新しい資本主義実現会議、運用改善へ議論開始
 政府は企業が運営する年金の改革に着手する。まず運用成績を一般に公開することで、運用目標である予定利率の引き上げを促す。専門性の高い人材を登用し高度な運用を目指すほか、運用効率の低い中小企業による年金の共同運用化も検討する。賃上げと80兆円にのぼる年金資産の運用高度化を両輪に生涯賃金の引き上げにつなげる。
 首相官邸が主催し、各省庁が参加する「新しい資本主義実現会議」の下に「資産運用立国分科会」を設置し、4日から議論をスタート。年末までにまとめる資産運用立国プランに結論を盛り込む。
 企業年金は国民年金(基礎年金)や会社員が加入する厚生年金に上乗せする私的年金だ。制度が複雑でわかりにくい面もあり、受取額を把握していない加入者も多い。制度を運営する企業側は財政状態を維持するため安全志向が強く、運用成績に対する加入者の意識も乏しい。
 米国、英国は企業年金に運用成績の開示を義務づけている。米国は有価証券報告書のような法定開示書類で当局に提出し、母体企業が投資家に公開しているほか、労働省のホームページを見れば企業年金の決算情報を閲覧できる。開示ルールも定まっており、年金間で開示内容を比較しやすい環境が整っている。英国では年金監督庁の監督下で企業年金が自ら運用成績を開示している。
 日本ではあらかじめ企業が給付額を約束して運用する確定給付型年金(DB)については厚労省への報告義務があるものの一般には公開していない。
 確定拠出型年金(DC)も運用成績を比べることは難しい。一般に公開することで他社と比較できるようにし、低い運用成績を放置しにくくする効果を狙う。
 企業年金は運用益で資産を膨らませて給付を充実させるしくみだ。資産運用会社に運用を委託し、企業統治(ガバナンス)に問題があったり業績が長期低迷したりしている企業に注文をつける機関投資家の一翼を担っている。
 ただ、投資先との建設的な対話を促す原則「スチュワードシップ・コード」を導入する年金基金は60程度にとどまっているのが実態だ。
 背景には人材難がある。企業年金は人事や労務出身者が担うことが多く、金融や運用の知識・経験が豊富なプロ人材をあてている企業は少ない。総幹事と呼ばれる金融機関任せで極度にリスクを回避する安全志向が強い。「企業のデフレマインドを払拭する環境整備が不可欠で高度な運用を目指すガバナンス改革が必要だ」(金融庁幹部)
 中小規模の年金基金の場合、採算を考えると外部から助言を受けるのは現実的に難しい。事務の統合や運用の共同化など効率化が欠かせない。企業年金連合会に運用を委託できるものの広がっていないのは高度な運用を意識するガバナンスが構築できていないためだ。
 新しい資本主義実現会議ではこうした業務運営のあり方にもメスを入れて議論する。
 DCは個人が運用戦略を考えて運用商品を選ぶ。それぞれ成績は異なるものの、DB以上に実態把握が難しい。企業年金連合会が今年3月、非公式に実施した2021年度決算調査によると、預金など元本確保型商品の割合は44.8%にのぼった。
 岸田文雄首相は今年6月、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、「資産運用業等の抜本的な改革」を打ち出し、9月に開かれたニューヨークでの講演でも「アセットオーナー(資金の出し手)の改革を行っていく」と表明していた。(金融エディター 玉木淳、中川竹美)

【大谷翔平が大リーグ本塁打王 44発、日本人初】
 同じ2日の日経速報メールは次のように報じた。
 米大リーグは1日、ア・リーグのレギュラーシーズン全日程が終了し、大谷翔平(エンゼルス)がリーグトップの44本塁打でタイトル獲得が確定、日本人初の本塁打王の偉業を成し遂げた。
今季は4月2日のアスレチックス戦で第1号を放ち、6月には月間15発と量産。8月23日に44号を放った。投手としても出場した同日の試合後に右肘靱帯損傷が判明、右脇腹の負傷もあり9月3日の出場が最後となった。
 2021年の自己最多の46本塁打には及ばなかったが、同年より23試合少ない135試合で44本とハイペースの量産ぶり。投手では10勝をマークし、ともに史上初となる「10勝、40本塁打」「2年連続2桁勝利、2桁本塁打」の快挙を達成し、21年以来2度目の最優秀選手(MVP)受賞が有力視される。
 大谷は9月19日、18年以来2度目の右肘手術を受けた。24年は打者のみで出場し、投手での復帰は25年になるとみられている。

【日経平均一時500円超高 売り手が慌てた米政府閉鎖回避】
 同じ2日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 2日の東京株式市場で日経平均株価が急反発し、上げ幅が一時500円を超えた。年度下半期の幕開けとなったこの日、米政府機関の閉鎖回避、日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)、需給悪化要因のあく抜けという3つの好材料が重なり、投資家心理が大きく改善した。日本株の底堅さが改めて鮮明になっている 
 「投資家にとって大きなポジティブ・サプライズ」(楽天証券経済研究所の香川睦チーフグローバルストラテジスト)となったのが、米政府機関の閉鎖回避だ。米連邦議会の上下両院は9月30日夜(日本時間10月1日午前)、予算執行を11月中旬まで継続できるつなぎ予算案を超党派で可決し、政府機関の閉鎖を土壇場で回避した。
 直前までは政府機関の閉鎖が確実視されており、米国景気の下押しにつながるとの不安が世界的に投資家心理を冷え込ませていた。香川氏は「リスクオフのムードから日経平均先物を売り込んでいた海外投資家が慌てて一気にショートカバー(売り方の買い戻し)に動いた可能性がある」と指摘する。
 そこに今朝発表された日銀短観が追い風となった。大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の6月調査から4ポイント改善してプラス9だった。QUICKが集計した民間予想の中心値(プラス6)を3ポイント上回った。23年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比13.0%増と上方修正された。
 ファナックやトヨタ自動車、ダイキン工業など幅広い製造業銘柄が上昇したのに加え、地銀を含む銀行株が特に上げた。西日本フィナンシャルホールディングスが一時7%高、いよぎんホールディングス、しずおかフィナンシャルグループが一時4%高となった。
 設備投資に向けて企業が借り入れを増やし、銀行の融資が拡大すると連想された。景況感の改善が日銀によるマイナス金利政策の解除につながるとの見方もある。
 株式需給の改善も一因だ。2日からの日経平均の構成銘柄見直しでは値がさ株のレーザーテックなどが新たに加わった一方、三井E&Sなどが外れた。大和アセットマネジメントの富樫賢介チーフ・ストラテジストは「パッシブ運用のインデックス・ファンドなどが銘柄入れ替えに際して値がさのレーザーテック株を買うのに株価水準が低い三井E&S株などの売却では金額が足りず、先週末まで他の構成銘柄も薄く広く売りを出していた」と指摘する。
 週が明け、こうした需給悪化のあくが抜けたのも500円超高につながった。政府と金融界は6日まで海外の投資家や資産運用会社を集中的に日本に招く、「Japan Weeks(ジャパンウィークス=日本週間)」を開催している。週明けに鮮明になった日本株の底堅さは訪れた海外投資家に一段の日本株買いを誘いそうだ。(桝田大暉)

【ジャニーズ、補償後に廃業 新会社は知的財産を承継へ】
 同じ2日の日経速報メールは次のように報じた。
 ジャニーズ事務所は2日、性加害問題からの立て直し策を発表した。所属タレントのマネジメント業務を手掛ける新会社を設立、同事務所は被害者救済に専念し終了後に廃業する。新会社はタレント業務に必要な知的財産を引き継ぎ、創業家一族は経営に関与しない。新会社の資本構成は明らかになっておらず、ガバナンス(企業統治)が機能するかなお不透明だ。
 ジャニーズ事務所は17日付で社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更し、被害者への補償手続きを順次進める。法令順守に向けて、チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)に企業のリスク管理などに詳しい弁護士の山田将之氏が就任。全ての事業活動で子どもの保護と安全を確保するグループの人権方針も策定した。
 創業者の故ジャニー喜多川氏から性加害を受け、補償を要求した人は9月30日時点で325人いる。2日に記者会見した東山紀之社長は「自分たちでジャニーズ事務所を解体する」と述べた。
 同事務所は9月の会見で、引責辞任した創業家出身で前社長の藤島ジュリー景子氏が代表権を持ったまま、全株式を持つ株主構成を見直さず、「ジャニーズ」という社名も当面維持するとしていた。所属タレントを広告に起用するスポンサー企業から人権尊重の視点やガバナンスが不十分との指摘が相次いでいた。
 前回の会見から1カ月足らずでの方針転換となった経緯について、東山社長は「内向きだったと批判されても当然。喜多川氏と完全に決別する」と述べた。ジャニーズの名称を使ったグループについても変更する。藤島氏は関連会社を含めて代表取締役を退任する。
 新会社は1カ月以内に立ち上げる。藤島氏は出資せず、取締役にも就任しない。資本金は検討中で役員や従業員が出資する。社長は東山氏が兼任し、社名はファンクラブの公募で決める。社外取締役の起用も検討する。
 新会社は所属する個人のタレントやグループが会社と個別に契約を結ぶ「エージェント会社」とする。エージェント会社はタレントと契約を結び、仕事獲得などを請け負う形をとる。ハリウッドなどでは一般的な契約方法で、国内では吉本興業ホールディングスが、所属タレントが反社会的勢力の会合に参加した「闇営業」問題などを受けて19年に導入した。
 同事務所が再建に向けて選んだのは「第二会社方式」と呼ばれる手法だ。水俣病の原因企業のチッソは水俣病特別措置法に基づき、11年に事業部門を100%子会社のJNC(東京・千代田)に分社し、チッソは補償業務に特化した。同事務所は広告起用の見直しが相次ぐ所属タレントの活動継続と、被害者の救済を両立する狙いがある。
 外部の専門家チームは8月末に公表した報告書で、喜多川氏による性加害は半世紀以上に及び、被害者は数百人に及ぶとした。今後は補償額がどの程度まで膨らむか、その原資が焦点となる。
 非上場企業のジャニーズ事務所は、主要な経営指標を公表していないが、民間調査会社によると売上高は800億円程度。稼ぎ頭はファンクラブ収入だ。「嵐」や「Snow Man」など15グループだけで会員数は累計1100万人超になる。年会費は4000円で、総額500億円前後に上る計算だ。このほか東京都内の所有ビルなどの資産価値は計1000億円程度とみられる。
 企業の人権侵害を巡る視線の厳しさが増す中、「ジャニーズ離れ」に歯止めがかかるかは不透明だ。帝国データバンクによると、テレビCMなどにジャニーズ所属のタレントを起用した上場企業65社のうち、半数にあたる33社が起用方針を見直した(9月30日時点)。
 所属タレントを起用した広告や販促物の展開を停止している日産自動車は2日、「事務所が発表した改革や再発防止の取り組みを注視しながら、適切な対応を取っていく」と述べるにとどめた。
 スポンサー企業は過去との決別の是非について資本構成で判断するとされるが、新会社の構成は明らかになっていない。企業のガバナンス問題に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は「現状ではスポンサー離れを食い止めることはできない」との見方を示す。
 日本リスクマネジメント学会理事長で関西大学の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「新会社の経営陣に喜多川氏が築いたシステムで育ったタレントが就くのは問題がある。スポンサー離れが続く可能性がある」と指摘する。

【ノーベル賞にカリコ氏ら mRNA医薬、コロナ実用化導く】
 同じ2日の日経速報メールは次のように報じた。
 スウェーデンのカロリンスカ研究所は2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ非常勤教授(68)と同大のドリュー・ワイスマン教授(64)に授与すると発表した。遺伝情報を伝える物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」を使うワクチンに欠かせない基盤技術を開発した。新型コロナウイルスワクチンを実用化に導いた業績が評価された。
 授賞理由は「新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの基盤技術開発」。
• 【関連記事】ノーベル賞受賞のカリコ氏「失敗する力を学んでほしい」
 mRNAは細胞内で遺伝情報をもとにたんぱく質を作る際に伝令役となる物質だ。新型コロナウイルスに対しては、米ファイザーと独ビオンテック、米モデルナがそれぞれ20年1〜3月ごろから本格的に開発を始め、同年12月にそれぞれ米国などで緊急承認を受けた。「ワクチン開発には少なくとも数年かかる」といわれた常識を覆した。
 感染や発症、重症化を防ぐ効果は従来型のワクチンより高い。ファイザーとビオンテックのワクチンは、日本や米国など約180カ国・地域で承認された。
 ノーベル生理学・医学賞の選考委員会は2日、「ワクチンが非常に早く開発され、パンデミック(世界的流行)の初期段階において、命を救うという点で非常に重要だった」と評価した。
メッセンジャーRNA(mRNA)
細胞内でDNAの遺伝情報をもとにたんぱく質を作る際に伝令役となる物質。伝える遺伝情報に合わせて人工合成できる。新型コロナワクチンではウイルスのたんぱく質を作るmRNAを体内に投与する。ウイルスのたんぱく質ができ、それを免疫が記憶することで、ウイルスが実際に侵入したときに感染防御などに役立つ。
mRNAを感染症の予防や病気の治療のために体内に投与するアイデアは1980年代からあり、研究開発は90年代から本格的に始まった。しかし、mRNAは壊れやすく、体内の免疫反応を過剰に起こす問題があり、うまくいかなかった。
カリコ氏らは2005年、mRNAの一部の物質を変えるだけで、免疫反応が回避できることを示した。RNAをもとに作られるたんぱく質の量が数倍多くなることも見つけた。これらの発見がmRNAワクチンの基盤技術になった。
ただ、発表当時は大学や製薬業界の評価は高くはなかった。大学側はカリコ氏らの研究成果の特許を企業に売却した。カリコ氏は13年にビオンテックに入って、ワクチンの実用化に貢献した。
米ボストン・コンサルティング・グループは、mRNAワクチンの市場規模は21年に500億ドル(約7兆5000億円)以上にのぼったと推計している。
カリコ氏らが開発した技術はさまざまな病気の予防や治療に使う「mRNA医薬」の普及につながると期待されている。エイズウイルス(HIV)、ジカウイルス、インフルエンザウイルスといった他の感染症でもワクチンとしての臨床試験(治験)が進む。がんや希少疾患の治療薬を目指した治験も進む。
授賞式は12月10日にスウェーデンのストックホルムで開く。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億5000万円)で、2氏で分ける。
カタリン・カリコ(Katalin Kariko) 1955年ハンガリー生まれ、82年セゲド大で博士号取得。85年に米国に移住後、米ペンシルベニア大助教授などを経て2013年に独ビオンテック副社長。21年に同大非常勤教授、セゲド大教授。22年からは同社の外部コンサルタントを務める。
ドリュー・ワイスマン(Drew Weissman) 1959年米国生まれ、87年米ボストン大で博士号取得。米ペンシルベニア大助教授などを経て2013年教授。21年よりペンシルベニア大RNAイノベーション研究所所長。カリコ氏とともに米ラスカー賞など受賞多数。

【植田日銀、2%へ揺るがぬ信念 確信なら「一気に動く」 植田日銀半年 近づく出口】
 3日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・植田和男氏が日銀総裁に就任して9日で半年に
・「ある程度適切に政策対応できた」との自己評価
・金融緩和の出口など真価が問われるのはこれから
 日銀の総裁に植田和男氏が就任して9日で半年となる。7月には長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用を柔軟化し、黒田東彦前総裁が口をつぐんできた金融緩和の出口にも言及し始めた。四半世紀続いたデフレとの戦いの総仕上げをどう進めるのか。半年の軌跡から読み解く。
 「経済物価情勢の動きは半年前に予想していたものとはやや違った動きをしているが、それを捉えたうえで、ある程度適切に金融政策対応ができた」。9月22日、金融政策決定会合後の記者会見で、植田氏は就任からの半年を振り返った。
就任直後、官邸からけん制球
 日銀は7月の会合でYCCを修正し、長期金利の上限をこれまでの0.5%から事実上1%に引き上げた。長期金利は自由度をある程度取り戻し、2016年から続いたYCCは形骸化が進んだ。
国債の大量購入で長期金利を抑え込んできた日銀にとって、YCCを柔軟化し「金利のある世界」に足を踏み入れたのは大きな変化だ。ある日銀関係者は「YCC修正を市場の混乱を招かずに成功させた中央銀行はほかにない」と力を込める。ただ、マイナス金利の撤廃などの金融政策の正常化はこれからが本番であることも確かだ。
 道のりがいかに険しいか、植田氏は4月の就任直後にある洗礼を受けたとされる。関係者によると、首相官邸を訪れた植田氏に岸田文雄首相はこんな趣旨のけん制を繰り出した。 当面は金融政策の転換と受け止められる動きは避けるように――。
異次元緩和を進めた黒田氏から植田氏に総裁が代わり、金融市場では政策転換への期待が高まっていた。だが、実際に政策が大きく変われば、黒田氏の後ろ盾だった故安倍晋三元首相に近い議員と官邸とで溝が生じかねない。
2000年のゼロ金利解除の失敗を日銀審議委員として経験した植田氏も、日銀が早く動きすぎるリスクは十分すぎるほど理解していた。就任当初は慎重な発言に終始し、物価の基調の強さを確かめつつ、世論や政治の変化を待っていた節がある。
内田副総裁が上げたのろし
実際、円安が長引き、日銀の金融緩和が物価高を招いているとの声が強まった。岸田首相が6月に通常国会中の解散総選挙の見送りを決めたこともあって、7月の政策修正への道は整えられていった。
 のろしを上げたのは、日銀の生え抜きトップの内田真一副総裁だった。日本経済新聞との7月上旬のインタビューで「(YCCが)市場機能に影響を与えていることは強く認識している」と発言。「強く」という言葉をわざわざ差し挟むことで、政策修正近しとの観測を高めた。
 日銀関係者は「慎重姿勢を強調してきた内田氏の発言だったからこそ、政策修正がありうるとの地ならしにつながった」と明かす。学者出身の植田氏の政策運営には懸念の声もあったが、内田氏が実務を押さえて時には露払いの役割を果たし、植田氏が幅広い意見に目配りしながら総合判断するという二人三脚が機能している。
 財務省幹部は「これまでの金融政策運営はうまくいっている。日銀も自信を深めているのではないか」と植田体制のスタートを評価する。一方で、今後想定されるマイナス金利解除などの金融緩和の出口については「これまでとレベルの違う政策の変更だ」とし、真価が問われるのはこれからとの考えをにじませる。

発言にブレはないか
 課題もある。強い言葉で政策の方向性を示す黒田氏と違って、協調型のリーダーである植田氏の発言は慎重で、時にぶれているような印象を与える。
 政策修正があった7月会合の前には「全体のストーリーは不変」と発言し、一部の市場参加者が「修正見送り」と受け止めた。9月9日の読売新聞のインタビューでは「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と述べ、市場でマイナス金利の年内解除の織り込みが進んだ。
 日銀内では「どちらともとれる発言をしているだけ。政策への考えは一貫している」との声があがる。この先の金融政策を縛るような発言は極力抑えているため、発言は総花的になりがちで、ワンフレーズにだけ注目すると真意を捉え損ねてしまう。

賃上げへの強いこだわり
 信念に欠けるわけではない。ある日銀関係者は「優柔不断ではない。過去に政策変更で経済を冷やした経緯もあり、判断に時間をかけているだけだ」と説明。「目標達成を確信すれば一気に動く」という。
 「確信」は得られるのか。日本経済の供給力と需要の差を表す「需給ギャップ」は足元プラス圏に浮上し、政府が掲げるデフレ脱却の条件は形式上、満たされた。最後のピースになるのが、企業の賃上げだ。
 植田氏は「賃金と物価が好循環を続けるという姿が確認できることが必要」との発言を繰り返してきた。植田氏の東大時代の教え子である金融関係者は「賃上げが物価上昇に追いつく前に金融引き締めに転ずるのは問題だと(就任前に)たびたび吐露していた」と話す。
 賃金は持続的に上がっていくのか。焦点は来年の春季労使交渉だ。さらなる政策修正の判断時期を「来年1〜3月頃」(田村直樹審議委員)とする意見がある。
異例の金融緩和を延々と続けることは望ましくないが、日本経済がデフレに逆戻りするリスクは冒せない。確信を持てれば前進し、そうでなければ踏みとどまる。「到底、決め打ちできない」という言葉にこそ、植田氏の信念がにじむ。

【楽天、プラチナバンド割り当て申請 品質改善の切り札に】
 同じ3日の日経速報メールは次のように報じた。
 楽天グループ傘下の楽天モバイルが強く希望する「プラチナバンド」の獲得に一歩近づいた。電波がつながりやすく、サービス品質改善の切り札となるプラチナバンドの割り当てについて総務省は3日、同社から割り当ての申請があったと発表した。狙い通りに契約数の増加につなげるには財務体質が悪化する中でいかに素早く設備投資を実行できるかが問われる。
 鈴木淳司総務相は3日の閣議後の記者会見で「電波監理審議会の諮問をめざして割り当て手続きを進める」と述べた。申請は1社のみだったため、総務省は最低限の要件を満たしているかを確認する「絶対審査」を行う。総務相の諮問機関による答申を経て、早ければ23日に割り当てが決まる。決定後、楽天モバイルによる利用は早くても年明けになるとみられる。
 ラチナバンド 700〜900メガヘルツ(MHz)の周波数帯の電波で、建物内などでもつながりやすい。700MHz帯の周波数帯は地上デジタル放送向けと携帯電話向けの電波が隣接しており、干渉しないよう未利用帯域を設けている。2022年11月にNTTドコモが3MHz幅の2カ所を携帯電話向けに割り当てることを提案していた。
 プラチナバンドの獲得は楽天にとって悲願だ。使い勝手がいいにもかかわらず大手携帯電話4社のうち、後発の楽天モバイルだけが持っていなかったためだ。
 その影響は苦戦する楽天の携帯事業にも表れている。楽天モバイルを巡っては基地局建設など累計1兆円を超える設備投資の負担が重く、23年1〜6月期連結決算(国際会計基準)の携帯事業の営業赤字は1850億円(前年同期は2538億円)だった。
携帯事業の赤字は四半期ベースでは22年1〜3月をピークに縮小しているものの、グループ全体では12四半期連続で赤字だ。契約数が伸び悩んでいるためで、その一因はつながりにくさにあった。
 そこで楽天は6月、KDDIから回線を借りる「ローミング」(相互乗り入れ)利用によるデータ利用量の上限をなくす新プランを始め、つながりやすさに課題があった東名阪などの繁華街でもKDDI回線を使えるようにした。プラチナバンドなら通信品質をさらに改善できると獲得に力を入れていた。
 もっとも新たな帯域を使うサービスを始められても、先行きには不透明感もある。
 楽天モバイルは8月の決算説明会でEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベースの単月黒字化に必要な契約数は800万〜1000万との見通しを示した。8月28日に500万を突破し、7月から約9万増えた。このペースでの増加が続いても800万に到達するのは約3年かかる計算だ。
 財務も懸念材料だ。設備投資などにあてた社債償還の期限が迫っている。23年に780億円(うち680億円はハイブリッド債)の償還予定額は24年には3000億円、25年には4000億円と跳ね上がる。
 悪化した財務を改善するために楽天は5月、公募増資と三木谷浩史会長兼社長の資産管理会社などへの第三者割当増資で3000億円規模の資金調達を実施した。さらにKDDIとの新ローミング契約を利用することで23〜25年の3年間で約3000億円の設備投資費の削減を目指すとする。
 それでもプラチナバンドを利用するには一定程度の追加の設備投資は避けられない。UBS証券の福山健司氏は「試算ベースだが東名阪での利用には今後2年間で500億〜1000億円程度の投資が必要」とみる。楽天全体の22年12月期の営業キャッシュフロー(金融事業除く)は3153億円の赤字のため、投資のインパクトは小さくない。
 楽天が期待するのがアンテナ以外の大半の設備をクラウド上のソフトウエアに置き換える同社の「仮想化」技術だ。この技術を使えば既存の基地局を活用し、設備投資の大幅な増加を避けながら、プラチナバンドを展開することができるとしている。
 3日の楽天グループ株は前日終値比で2%安の565円90銭で引け、5月に実施した公募増資の発行価格(566円)近辺で推移している。株価を反転させるには、効率的な設備投資を実施しながら、ユーザーにプラチナバンドなどによる通信品質改善をどれだけ体感してもらえるかが鍵となる。(西城彰子)

【半導体工場の立地規制を緩和 政府、農地・森林にも誘致】
 同じ3日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は12月にも半導体など重要物資の生産工場の誘致に向け土地規制を緩和する。農地や森林など開発に制限がある市街化調整区域で自治体が建設を許可できるようにする。大型工業用地の不足に対応する。税制や予算とあわせて規制改革で国内投資を促す。
 経済安全保障の観点から半導体や蓄電池、バイオ関連といった分野が対象となる。岸田文雄首相が4日、民間企業や閣僚を集めて首相官邸で開くフォーラムで円滑な土地利用に向けた規制改革に取り組むと表明する。10月末にまとめる経済対策の柱となる国内投資の促進策として税制・予算と合わせて打ち出す。
 経済産業省によると全国の分譲可能な産業用地面積は2022年時点でおよそ1万ヘクタールある。11年の3分の2ほどに減った。新たに土地を確保するにも用途指定を変更する手続きなどに時間がかかる問題点が指摘されてきた。
 市街化調整区域の開発は、地域特性を生かした事業を展開する企業を支援する「地域未来投資促進法」の規定を使って例外的な活用を認める。
 いまは食品関連の物流施設やデータセンター、植物工場などに限り、政府が自治体に開発許可を認めている。関係各省の省令や告示を改正し、これに重要な戦略物資の工場を加える。自治体が地域活性化や環境の観点で問題ないと判断すればより柔軟に工場を誘致できるようになる。
 手続きに時間がかかる農地の場合は、通常なら1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮する。
 農地の転用には地元の農業委員会などの許可が要るなど規制が複数の省にまたがるケースが少なくない。このため国土交通、農林水産、経産の3省が連携して開発許可の手続きを同時並行で進める。
 半導体の工場にはまとまった土地と良質な水などが欠かせない。円安や安定したサプライチェーン(供給網)のため生産拠点を国内に回帰させる動きがある一方、条件に合う工業用地の供給は限られる。
 半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出し、周辺の自治体からは土地規制の是正を求める声が上がっていた。
 九州経済連合会は国や県の権限で農地を速やかに産業用地に転用できるような規制緩和策を政府に要請した。企業が土地を確保できず進出を断念したケースもこれまでにあったという。
 TSMC新工場の周辺は半導体関連のサプライヤー企業の集積が相次ぐ。工業用水の確保や道路など物流網の構築は待ったなしの状況にある。熊本県の蒲島郁夫知事は8月、官邸で首相に社会資本整備に関する「緊急要望」を手渡した。
 政府は機動的なインフラ整備に向けて関係府省が横断で複数年にわたり支援する枠組みを創設する。23年度補正予算案への費用計上に向け調整する。
 為替相場は円安が続き、日本国内で投資しやすい環境が整う。地方に工場の立地を促し、地域の雇用確保や周辺産業を含めた賃上げにつなげる。

【米下院、マッカーシー議長の解任動議を可決 米国史上初】
 4日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ワシントン=坂口幸裕】米連邦議会下院は3日、野党・共和党トップのマッカーシー議長の解任動議を与野党の賛成多数で可決した。下院議長の解任動議が可決するのは米国で初めて。与党・民主党の議員に加え、政府閉鎖を回避したつなぎ予算を巡る対応を問題視した共和の保守強硬派らが賛成に回った。
 共和のマット・ゲーツ下院議員は2日、マッカーシー氏の議長解任動議を提出した。つなぎ予算を巡り要求した歳出削減などを受け入れず、民主と協力したことを問題視した。これまで解任動議を提出された下院議長はマッカーシー氏で3人目で、可決された初のケースになる。
 下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職だ。マッカーシー氏の解任動議を巡る採決は賛成が216、反対が210、欠席が7だった。米メディアによると、8人の共和議員が賛成した。
 米メディアによると、下院は次期下院議長を選ぶための採決を11日にも実施する方向で調整している。マッカーシー氏は3日の記者会見で、議長選には出馬しないと表明した。後任には下院共和ナンバー2、スカリス院内総務やナンバー3のエマー院内幹事らの名が挙がっている。
 現在の下院(定数435)の構成は多数派を握る共和が221議席で、民主が212議席をもつ。ゲーツ氏を含む20人ほどが所属する共和の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」は少数派ながら、与野党の拮抗をテコに下院で影響力を行使できる構図にある。
 9月30日に成立したつなぎ予算に強硬派が強く求めていた国境の警備強化策は盛り込まれず、民主が賛成に転じたため可決を阻止できなかった。ウクライナ支援の継続に前向きだったマッカーシー氏の後任議長次第では、バイデン政権が急ぐ対ウクライナの追加予算の成立が一段と難しくなる可能性がある。
 ゲーツ氏は1日、反対する追加のウクライナ支援を巡り「マッカーシーが与党・民主党と密約を交わした」と明かしていた。つなぎ予算から除外されたウクライナ支援の予算案を実現させる代わりに、マッカーシー氏が議長職にとどまるよう民主と協力する交渉をしている可能性を示唆した。
 下院民主トップのジェフリーズ院内総務は3日、党所属議員に送った書簡でマッカーシー氏の解任動議に賛成する方針を伝えた。「下院共和の内紛を終わらせるのは、今や共和議員の責任だ」と記した。
 ゲーツ氏らはマッカーシー氏が1月に議長に就任する際も反対した。15回目の議長選で当選した時、マッカーシー氏は反対派を取り込むため譲歩案を提示。1人でも解任動議を採決できるように条件を大幅に緩和した経緯がある。

【為替介入巡り神経戦 深夜の円急騰、疑心暗鬼で増幅】
 同じ4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 外国為替市場で、為替介入を巡る市場と政府の神経戦が激しくなっている。3日深夜には対ドルの円相場が1ドル=150円台から147円台まで急騰する場面があり、市場では為替介入の観測も流れた。政府は為替介入にはコメントしない方針で、介入の有無を巡り投資家の疑心暗鬼は当面続きそうだ。
 それは一瞬の出来事だった。日本時間の午後11時ごろ、円が1年ぶりに150円の大台まで下落した。しかしそれもつかの間、午後11時12分ごろに予兆もなく円が強含み、1分以内に147円30銭前後まで円高・ドル安が進んだ。
通常であれば、1分以内に3円近くも円相場が動くことはない。このため政府・日銀が円買いの為替介入に踏み切ったのではないかという噂が英ロンドンや米ニューヨークなどで駆け巡った。結局11時半ごろには149円台まで再び円安が進み、介入の観測は急速にしぼんだ。
複数の市場関係者の解説を総合すると、この値動きの背景はこうだ。
150円の大台まで円が下落したことにより、値上がりしたドルを売って利益を確定する動きが相次いだ。それにアルゴリズム取引が反応し、円高方向への大きな値動きが発生した。もともと介入への警戒が強かったことから、円を買い戻す動きが相乗的に強まったという。
 神田真人財務官は4日朝、為替介入については「コメントしない」として介入の有無を明らかにしない従来の方針を踏襲した。市場関係者が介入の有無を探るために着目するのが、昨年の介入時との値動きの差だ。
昨年10月21日の為替介入では午後11時40分ごろから円が急伸し、151円台半ばだった円相場がわずか1時間強で144円台まで円高が進んだ。それと比べると「円高の勢いや持続性が明らかに低く、介入と考える合理的な理由はない」(外資系銀行)との見方もある。
も っとも公式には介入の有無が明らかにされていないことで「投資家は150円をいちおうの介入ラインとして意識せざるを得ない」(野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジスト)との声がある。
 神田財務官は4日、介入の条件について「過度な変動に対してはこれまで通りの方針で臨んでいる。一方向に一方的な動きが積み重なって一定期間に非常に大きな動きがあった場合は過度な変動にあたりうる」とした。
その上で、一定期間の考え方について「1日の場合もあれば2週間ほど、1カ月ぐらいの場合もある。年初からだとドル円は20円以上の値幅がある。そういったことも一つの要素だ」と説明した。
 市場ではかねて政府は1日の円相場の変動を重視しているとの見方があった。この日の神田財務官の発言からは市場の想定よりも介入の条件を広く捉えている様子がうかがえた。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司シニア・アドバイザーは「投機筋へのけん制としてはかなり効果的」とみる。
 米長期金利の上昇は止まらず、当面は円相場への下落圧力は続く公算が大きい。神田財務官が指揮した昨年の為替介入は結果的に大きく円相場を押し上げることに成功した。市場関係者の脳裏にはその記憶が刻み込まれており、介入を巡る駆け引きは今後も続きそうだ。(佐藤俊簡、犬嶋瑛、南泰葉)

【沖縄県、辺野古の承認指示応じず 国が代執行提訴へ】
 同じ4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 沖縄県の玉城デニー知事は4日、米軍普天間基地(宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事を巡り、防衛省による設計変更申請を同日までに承認するよう求めた斉藤鉄夫国土交通相の指示に応じない方針を明らかにした。県庁で記者団に「期限までの承認は困難だと回答した」と語った。
 岸田文雄首相は4日夜、首相官邸で記者団に「国交相が今後適切に対応していく」と述べた。「世界で最も危険であると言われている普天間基地を一日も早く移転させる。これからも努力を続けていかなければならない」と強調した。
 国交省は「知事が期限までに承認を行わなかったことは遺憾だ」(水政課)とコメントした。同省は地方自治法に基づき、県に代わり国が承認する「代執行」に向けた訴訟を5日にも福岡高裁那覇支部に提起する。
 国が勝訴すれば、高裁は県に一定期間以内に承認するよう命じる判決を出す。それでも県が従わない場合は、国が代執行できる。
 設計変更を巡っては9月4日の最高裁判決で県の敗訴が確定し、承認する法的義務が生じた。判決後も県は明確な態度を示さず、国が承認を勧告しても応じなかった。国は勧告を指示に切り替え、改めて承認を求めていた。
 玉城氏は指示に応じない理由として「最高裁判決の精査」「県民や行政法学者らから寄せられた意見の分析」がさらに必要だと説明した。国に対し「県との対話に応じるよう粘り強く求めていきたい」と述べた。
 承認の判断を巡っては、県庁内に「法治国家として最高裁判決は受け入れざるを得ない」として承認すべきとの声もあった。知事を支える県議らは2日、国の指示に応じないよう求める要請書を玉城氏に提出するなど反対姿勢を崩していない。
 辺野古移設は2006年に日米で最終合意し、13年に当時の仲井真弘多知事が国による埋め立て申請を承認した。
 その後で軟弱地盤の存在が明らかとなり、防衛省沖縄防衛局が20年に工事の設計変更を県に申請した。県が調査が不十分などとして承認しなかったのに対し、国は認めるよう是正指示を県に出した。県は国の対応が違法だとして提訴していた。
 防衛省は軟弱地盤の改良を伴う埋め立て工事の開始から移設完了まで12年ほどかかるとみている。13年時点の計画では最短で22年度の移設完了を明記していたが、現時点で30年代半ば以降にずれ込む見込みだ。

【みずほ、楽天証券と24年春に新会社 ネット顧客取り込み】
 同じ4日の日経速報メールは次のように報じた。
 みずほ証券は楽天証券と金融仲介の新会社をつくり、2024年春にサービスを始める。楽天証券のネット取引を利用する顧客に対し、営業担当者が対面で資産運用に関する相談に応じる。みずほフィナンシャルグループの幅広い商品やサービスを楽天証券の顧客に紹介し、顧客の拡大を目指す。
 新会社は楽天証券の顧客のうち、退職金の運用や相続など複雑な悩みに関して、対面で相談したい人を対象とする。顧客は楽天証券の口座を使い続けるが、必要に応じてみずほ証券でも口座を開設する。みずほ銀行やみずほ信託銀行など、グループの商品やサービスも紹介する。
 楽天証券は手数料の低さやネットの利便性を武器に、若年層を取り込んできた。楽天証券の口座数は900万超。大部分が若年層だが、60歳代以上も1割強にのぼる。みずほ証券と組むことで、老後や相続を含めた長期の資産運用ニーズに応えられるようにし、顧客の囲い込みを狙う。
 みずほ証券は2022年、楽天証券に約2割出資した。富裕層への対面営業に軸足を置くみずほ証券にとって、楽天証券の顧客基盤を取り込むのが狙い。
•【関連記事】みずほ、楽天証券に2割出資へ ネットが金融の主戦場に
 月内にも新会社を設立し、みずほ証券が95%、楽天証券が5%出資する。金融商品仲介業への登録などを経て、24年春の営業開始をめざす。社名は今後詰める。営業担当者は主にみずほ証券から出向させる。
 ネット証券を巡っては9月末以降、最大手のSBI証券が日本株の売買手数料をゼロにし、楽天証券も追随するなど、競争が厳しくなっている。4日午後にはNTTドコモとマネックスグループが資本提携を発表した。今後、対面証券や異業種との連携や業界再編が一段と進む可能性がある。

【SBI・楽天が迫った再編 「寄らばドコモ」のマネックス】
 5日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・マネックス証券はライバルとの手数料競争で劣勢
・金融の経済圏で遅れたドコモはうってつけの相手
・異業種を交えた証券再編が日本で起こりつつある
 ネット証券3位のマネックス証券が4日、NTTドコモの子会社になると発表した。ネット証券業界の草分け的存在だったが、近年は業界2強のSBI証券と楽天証券が仕掛ける激しい手数料競争で劣勢に立たされていた。9000万人超のユーザーを抱える巨人・ドコモと組んで再起をめざすが、業界を見回しても「通信と証券の融合」は成果に乏しい。もくろみ通り成長できるかは不透明だ。
「ドコモという巨人と、起業家精神あふれる個人の集合体であるマネックスが手を握り、オールジャパンのサービスを提供する」。マネックスグループの松本大会長は4日の記者会見でドコモとの資本提携の狙いをこう語った。
 2024年に新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まるなど、貯蓄から資産形成の流れが本格化するなか、ドコモと組んで「広く個人が安心して利用できる、便利で良質な資産形成サービス」(松本会長)の構築をめざす。ドコモとはもともとポイント交換サービスなどで連携していたことがきっかけになったという。
 資本提携に基づき、マネックスGは事実上、傘下のマネックス証券の株式の半分をドコモに売却する。マネックス証券はドコモの連結子会社となり、マネックスGにとって持ち分法適用会社の位置付けになる。同社はほかにも暗号資産(仮想通貨)のコインチェックや米国ネット証券会社、資産運用会社など複数の事業を持つが、祖業の国内証券を手放す形となる。
 マネックスGの創業は1999年。米金融大手ゴールドマン・サックスで最年少パートナー(共同経営者)に就いた松本氏が、当時黎明(れいめい)期にあったインターネットを通じた金融サービスを構想したのが始まりだ。折しもゴールドマンは新規株式公開(IPO)を控えていたが、同氏はIPOで得られたはずの財産を捨ててまで、新たなビジネスへの挑戦を選んだ。
 99年はちょうど投資家が証券会社に対して支払う株式売買委託手数料が完全自由化された年だ。創業間もないマネックスは手数料を業界最安値水準に設定し、松本氏は業界の「風雲児」として脚光を浴びた。2000年代半ばには時価総額が4000億円超に膨らんだが、09年のリーマン・ショック後は業績・株価ともに低迷していた。
 マネックスが苦戦した理由は主に2つある。1つがネット証券業界における激しい顧客獲得競争だ。最大手SBI証券や2位の楽天証券が近年、手数料の引き下げやポイント優遇で顧客数を着実に伸ばしてきた半面、マネックスは出遅れた。
同社は代わりに投資信託の銘柄選びのサポートやロボットアドバイザー(ロボアド)など手数料以外で付加価値を高め、顧客にアピールする作戦をとったが、コスト意識が根強い個人投資家には響かなかった。
 苦戦の理由のもう1つが不安定な株主構成だ。マネックスGは創業以来、大株主が何度も交代している。05年の上場当時は旧日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)系だったが、10年にはオリックスが大株主となり、14年以降は静岡銀行(現しずおかフィナンシャルグループ)が約2割出資している。経営方針を変更するには大株主の意向をうかがう必要があり、なかなか大胆な戦略をとりにくかったというのが実態だ。
 今回のドコモとの提携では、こうした2つの課題を一気に解決できる可能性はある。ドコモは言わずと知れた携帯キャリア最大手だが、グループ内に証券会社や銀行がなく、金融を軸にした経済圏づくりでは出遅れている。マネックスはまさに組む相手としてうってつけだったといえる。
 もっとも、通信と証券の融合を巡っては目を見張るような成果が出ていないのが実情だ。auカブコム証券は2019年からKDDIとポイントや株主優待などで連携するが、収益面でも口座数でも、SBI証券や楽天証券との差を縮められずにいる。LINEは19年に野村ホールディングスと組んでスマートフォンを軸とした証券サービスを始めたが、一度も黒字化できないまま23年に事実上の撤退を決めた。
 大手キャリアとの連携を協議したことがあるネット証券関係者は「経営の目線を合わせるのが難しい」と明かす。互いに強い規制業種で自由に連携しにくい。通信が設備投資から資金回収まで10年単位で構えるのに対し、証券は日々の相場で収益が大きく振れるため、経営の時間軸もおのずと異なる。
 マネックスGの松本会長は4日夜に開催した証券アナリスト向け説明会で、株売却で得た約500億円を株主還元や運用会社のM&A(合併・買収)に充てる方針を示した。大手証券幹部は「競争が厳しい国内証券を高値で売りつけ、得た資金で拡大余地のある運用分野に振り向ける狙いだったとすれば、ナイスディールと認めざるを得ない」と話す。
 9月末以降、SBI証券と楽天証券は日本株の売買手数料を相次ぎゼロにした。今後、証券各社に手数料の下げ圧力がかかるのは必至だ。マネックスとドコモが提携を発表した同じ日に、楽天証券がみずほ証券と対面営業を軸とする新会社を設立することも明らかになった。
 米国では19年にネット証券大手のチャールズ・シュワブが手数料無料化を発表すると、競合他社もすぐさま追随した。その後は同業のTDアメリトレード・ホールディングがシュワブに、イー・トレードはモルガン・スタンレーにそれぞれ買収されるという大型再編が起きた。国内でもネットと対面、さらに異業種を交えた証券業界の再編が起こりつつある。(和田大蔵、日高大、森川美咲)

【イオン・セブン、金融サービス再編で描く「個客」開拓 編集委員 鈴木哲也】
 5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 イオンやセブン&アイ・ホールディングスが金融事業をテコ入れし、「個客」に向き合うビジネスモデルへ動き出した。従来は圧倒的なリアルの店舗網を生かして買い物客に利便性を提供してきたが、キャッシュレス化と購買データを駆使するネット企業の台頭で、金融サービスを巡る競争の土俵は様変わりしている。人口減少と店舗飽和の時代に、日本の小売り2強が描くのは「マス商売」から脱却して稼ぐ未来だ。

ネットスーパーを金融事業のテコに
 「あなたのオンラインマーケット グリーンビーンズ」。こんな言葉を掲げた緑色のトラックが街を走り始めた。イオンがデジタルシフト戦略の中核として社運をかけるネットスーパーだ。専業の英オカドと提携し、まず今夏から千葉県と都内の一部地域の家庭へ配送し始めた。
 クレジットカードやイオン銀行を軸にした金融事業を担うイオンフィナンシャルサービスにとっても重要な転機となる。ショッピングセンターやスーパーといった店をベースにしてきた金融ビジネスを進化させるカギを握るからだ。
リアル店舗との大きな違いは、ネット宅配を通じて顧客ごとの詳細な購買行動やニーズを把握できること。こうしたデータを活用して「将来のOne To Oneマーケティングにつなげていく」(イオンの吉田昭夫社長)のがデジタル戦略の肝だ。「フィナンシャルサービスを紹介するなど、イオングループの様々なサービスを提供するチャネル」に育てる考えで、ローンや保険との相乗効果を期待する。
 イオンが発表したネット宅配サービス「Green Beans(グリーンビーンズ)」(4月、東京都港区)

事業会社の統合に踏み込む
 大手小売企業でも、店に訪れる大勢の顧客が売り場で何を求めてどのように動いているか、一人ひとりを深く理解できてはいない。マスマーケティングではなく「One To One」で顧客が欲しい商品を個々にオススメするビジネスモデルは「アマゾンや楽天グループなどネット企業に大きく差をつけられている」(小売りアナリスト)。
 イオンのグリーンビーンズ事業立ち上げには、金融部門も積極的に協力し、イオンカードの利用客に大幅なポイント還元を期間限定で実施した。PR活動にも金融部門の多くの社員が参加し、9月中旬にはイオン銀行の住宅ローン契約者向けの買い物割引にグリーンビーンズを加えた。
 イオンの金融事業は国内クレジットカードのキャッシング残高減少など新型コロナウイルス禍の影響が大きく、2023年2月期の営業利益は588億円と前の期比で微増だったものの、コロナ前の20年2月期の650億円には届かなかった。
 イオンカードをはじめ、グループの金融サービスの厚みを打ち出している
デジタル金融サービスの核となるアプリ「イオンウォレット」もこのほど刷新した。5月末時点で836万人の利用者がいるスマートフォン決済「イオンペイ」を使いやすくし、将来的には総合金融アプリへとさらに進化させ、住宅ローンや保険といった多岐にわたるサービスを提供する。組織改革としてイオンフィナンシャルサービスと傘下のイオンクレジットサービスを6月に統合させ、運営効率化にも踏み込んだ。

ATMの役割を再定義
 ライバルのセブン&アイ・ホールディンスも金融事業の刷新を急ぐ。「ATMはあらゆる手続きや認証の窓口となる。コンビニで様々なサービスを受けるためのプラットフォームにしていきたい」――。セブン銀行の松橋正明社長は9月、新サービス「プラスコネクト」の発表会で強調した。
 全国のセブンイレブンを中心に国内2万7000台に広げた同行のATMだが、キャッシュレス時代に手を打た ないと一気に負の遺産に転じかねない。現金出し入れ以外の役割を広げる戦略のひとつが、24年度の完了を目指す新型ATMへの切り替えだ。「第4世代ATM」として顔認証機能などが付く。
 プラスコネクトはこれを生かし、9月26日からセブン銀行のほか群馬銀行や東日本銀行の顧客向けに住所変更などをATMでできるようにした。今後、口座開設など窓口業務の効率化が求められる各地の地方銀行のデジタル化を支えつつ、顧客の利便性も高める。今後は金融機関にとどまらず、ホテルのチェックインや中古品売買などでも本人確認や認証の窓口を担う方針だ。

「みんなに反対された」銀行参入
 セブン&アイ(当時はイトーヨーカ堂グループ)が大手小売業として初めて銀行業に参入したのが2001年。当時の経営トップ鈴木敏文氏が「みんなに反対された」と語るように、提携銀行から得るATM手数料を柱とする異例のビジネスモデルだった。消費者が支持し、金融界の常識をくつがえす成功を収めたが、ここ数年でコンビニの出店ペースが著しく減速し、グループ外や海外でのATM設置を急ぐものの、成長のハードルは高くなった。
 セブン銀行の経常利益は19年3月期と20年3月期は400億円前後あったが、23年3月期は289億円だった。時価総額は現在3500億円程度で、15年から半減している。
 ネット専業銀行は大きな脅威だ。4月に上場した楽天銀行はネット通販などを軸にした「楽天経済圏」を駆使し、3月末時点の口座数は1400万弱、預金残高は9兆1000億円とネット銀行の国内首位に立つ。
 日々の買い物と連動して、手軽に金融サービスを利用してもらい、生活の中に浸透していく――。かつて小売業が道を切り開いた新たな金融ビジネスは、人々の購買行動が「店舗からネット」へシフトする中、もう一段のイノベーションが求められる。

集客生かす広告事業も
 セブン&アイも7月に金融事業の組織を見直しており、やはり顧客データを活用していかに「個客」を深掘りしていけるかが重要なテーマとなる。クレジットカードや電子マネー「nanaco(ナナコ)」を手がけるセブン・カードサービスを、セブン銀行の傘下に置いた。グループ共通の会員基盤「7iD」は7月に3000万人を超え、nanacoの会員数も3月末で7900万人に上る。ただ、これほど膨大な顧客資産があるにもかかわらず、ATMを柱とする金融事業との相乗効果は十分に出せていなかった。「宝の持ち腐れ」にならないよう、顧客データにもとづく保険やローンなど多様な金融サービスを成長させていく考えだ。
 セブン&アイは、金融サービスの強化と連動しながら「リテールメディア」事業の拡大も狙っている。集客力のある店舗やアプリを通じて広告事業を展開するもので、米ウォルマートなどが重要な収益源として育成する。小売業が「One To One 」の個客対応によって成長の壁を乗り越えるための選択肢として世界的に注目が集まっている。
 セブン&アイは19年にスマホ決済「セブンペイ」が不正利用事件でサービス停止に追い込まれた苦い経験から、金融事業の遅れにつながった面がある。グループ事業を巡って物言う株主からコンビニ事業への集中を求められてきた経緯もあり、金融事業の再構築で早く成果を出す必要もありそうだ。

BaaSなど止まらない変化の波
 小売りの金融事業で最近目立つのは自ら銀行を立ち上げる代わりに、銀行代理業として若い世代などに向けた新たなサービスを生み出すケースだ。デジタル技術の進化が可能にしたBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)と呼ばれる仕組みで、家電量販のヤマダホールディングスや百貨店の高島屋が住信SBIネット銀行と組んで立ち上げている。高島屋は以前からある「友の会」の仕組みを、アプリ上で「スゴ積み」として展開したところ、利用者の平均年齢が20歳近く低下するなど、新たな顧客開拓に成果を上げている。
 高島屋では積み立てサービス「スゴ積み」などが使える金融アプリを始めている
海外に目を転じると、リテール金融には大きな変化の波が押し寄せている。アップルが23年春、米国で始めた預金サービスは高金利もあって大きな話題を集めた。人々に親しまれるブランド力に加えて、スマートフォンという生活に不可欠のツールをベースにしているだけに、個客に深く入り込む力は圧倒的だ。
 欧州では1990年代後半に、小売り大手の英テスコなどが銀行業に参入し、小売店舗と連動した金融サービスの広がりが注目されてきた。だが欧州でもネットの金融サービスの台頭などで、小売業による銀行は転機を迎えている。
 イオンやセブン&アイの金融事業は、消費者の生活に寄り添う発想と便利さの追求で、旧来の金融業界の常識を塗り替えてきた。だが、いまや小売り、金融ともにデジタル化の荒波によって優位性は揺らぎつつある。イノベーションのジレンマを打ち破れる企業かどうか、金融ビジネスが試金石になる。

【機密資格を米欧並みに厳しく、情報漏洩に罰則 政府原案 民間企業「機密の範囲明確に」】
 同じ5日の日経速報メールは次のように報じた。
 安全保障の機密情報を扱う人を認定する政府の制度案が判明した。機密情報を重要度に応じて2段階に分け、情報漏洩に罰則を設ける。米欧主要国と基準をそろえ、先端技術を扱う日本企業が国際競争力を維持できる環境を整える。
「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」は政府職員や民間人らに情報へのアクセス資格を付与する制度。政府が個人の身辺や民間企業の情報管理体制などを審査し適格性を評価する。
 政府は経済安全保障推進法の改正案を2024年の通常国会に提出する。経済界や法律の専門家らでつくる政府の有識者会議を近く再開させ、制度の詳細な設計に入る。
 主要7カ国(G7)では日本だけが未整備だ。制度導入により企業は海外企業と衛星や人工知能(AI)など機微を含む次世代技術の共同開発に参加しやすくなったり資格保持を条件にした公共調達の入札に参加できるようになるなどの利点がある。
 防衛産業や先端技術を扱う企業には追い風だ。NECの森田隆之社長はかねて「米国との協調には日本でも米国と同レベルの制度が求められるが、個々の企業では不可能。国として整えることで、国際的な共同開発を進めるベースができる」と問題提起していた。
 改正案の原案によると、安保に関する機密情報の範囲を「我が国の安全保障に著しい支障を与える情報」と「我が国の安保に支障を及ぼす情報」の2種類に分ける。保全すべき対象として経済制裁に関する分析情報や、宇宙・サイバー分野の重要技術などを想定する。
 米国は機密情報の重要度をトップ・シークレット(機密)、シークレット(極秘)、コンフィデンシャル(秘)の3つにランクを分ける。その上でそれぞれにアクセスできる人を審査し資格を与える。
日本政府は米国の3つのランクに対応できるよう、情報を区分する仕組みづくりを進める。他の主要国とも情報共有が可能になるよう調整する。
 丸紅経済研究所の今村卓所長は「民間由来の情報を幅広く規制対象にすると、ビジネスに支障が出るおそれがある。政府には何が対象となるのか複数の階層できちんと分けてほしい」と指摘する。防衛事業を扱う企業幹部は「重要情報の幅が焦点になる」と話す。
 資格の認定には対象者の身辺調査が必要になる。政府案は身辺調査について「本人が同意した場合のみ実施する」と定め、審査を断った場合に仕事の上で不利な扱いを受けないよう担保すると記した。特定秘密保護法の規定に準じた。
 特定秘密の適性評価はスパイ活動との関連や犯罪歴のほか配偶者の国籍なども調査対象となり、プライバシーの侵害を懸念する声が根強い。連合は8月にまとめたセキュリティー・クリアランス導入に関する基本的な考え方で「本人の真の同意と調査に同意しない権利の担保を大前提」とするよう求めていた。
 一つの機関が調査を一元的に実施できる仕組みを構築する。高市早苗経済安全保障相は「民間人を幅広く対象にするので、重要な個人情報を責任を持って管理できる組織が必要だ」との認識を示している。
 情報の漏洩や不正に取得した場合の罰則に関しては「10年以下の懲役」を軸に検討する。特定秘密保護法や不正競争防止法の規定を参考にした。
 制度が整う米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国は機密情報を共有する枠組み「ファイブ・アイズ」を構成する。日本政府は制度導入によって、これらの国とサイバーセキュリティーなどで連携を深められると期待する。 

 この間、下記の録画を視聴することができた。 (1)日テレNNNドキュメント「米兵が撮ったナガサキ 孫がたどる戦争の記憶。元兵士を祖父に持つ(大分県玖珠町で英語助手の)トレバー・スレバン氏が祖父の残した原爆投下直後の写真について調べるなかで芽生えた平和への思いとは」9月18日。 (2)BS6報道1930「百年守られた森の行方―神宮外苑再開発を検証。風致地区になぜ高層。ユネスコの諮問機関が計画撤回を求めるわけ」21日。 (3)BS6報道1930「ロシア黒海艦隊“壊滅”か?ウクライナ軍特殊部隊クリミア奪還作戦内幕証言。「一度も撃墜されず」…ウクライナ国産ドロン開発の最前線」27日。 (4)NHKイーテレ「ディープフェイクの衝撃~生成AIの光と影。生成AIの登場で、よりリアルに誰でもフェイク動画・画像がつくれる時代、私たちはどのように真実を見極めていけばいいのか。落合陽一さんとともに考える」28日。 (5)BS1スペシャル 「デジタルアイ 北朝鮮 独裁国家の隠された“リアル” OSINT(オシント)と呼ばれるデジタル調査で世界の真相に迫る第2弾。ミサイル発射を繰り返し、孤立を深める北朝鮮。ベールに包まれた独裁国家の実像は?」10月1日。 (6)BS6報道1930「救済は可能? ジャニーズ新体制発表。「沈黙」を問われたテレビは? 元メンバーが告白「止まらぬ誹謗中傷」の今とは?」2日。 (7)Eテレ「世界サブカルチャー史3「(6)日本 逆説の60-90s 80年代 第2回」3日。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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