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天保薪水供与令へ

 1842年8月28日、幕府(老中は水野忠邦)は、唐風説記(とうふうせつがき、中国語のニュース)と和蘭(オランダ)別段風説書(オランダべつだんふうせつがき、それまでのオランダ風説書に対してアヘン戦争に特化した風説書を<別段風説書>と名づけた)の2系統の海外ニュースを通じてアヘン戦争の情報を収集・分析、それまでの異国船無二念打払令(1825年発令、渡来する異国船を有無を言わずに打払う対応。元号を使い文政令ともいう)を撤回し、天保薪水供与令(渡来する異国船に薪水を供与して送還する穏便な政策)に切り替えた。
 その過程については、2022年9月24日(土曜)、青山学院大学総合研究所シンポジウム「オランダ別段風説書にみるグローバリゼーション-19世紀の世界と日本-」の第一部 特別講演 加藤祐三 「アヘン戦争と日本の開国」を行い、その概要を約2週間後の本ブログ10月4日掲載の「アヘン戦争と日本の開国」で述べた。
 このときの講演レジメが下記のものである。
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 鎖国下で外国へ取材に行くことなど不可能な時代、長崎に入る2種のアヘン戦争情報、すなわち「唐風説記(とうふうせつがき)」と「和蘭(オランダ)別段風説書(オランダべつだんふうせつがき)」を収集・分析することを通じて、幕府が従来の対外政策を改め、天保薪水(供与)令を決めるまでの過程を明らかにしたい。
 そのうえでイギリスのアヘン政策(ベンガル・アヘンの専売制、イギリス国内のアヘン野放しの状況等々)や清朝中国とのアヘン戦争(第一次アヘン戦争 1839~42年)やアロー号事件に始まる第二次アヘン戦争(1858~60年)等について言及したい。

【連載「黒船前後の世界」(『思想』誌)】
 前著『イギリスとアジア』 (岩波新書 1980年)で書き残した幕末日本のアヘン問題を、もう少し踏み込もうと思った。19世紀アジア三角貿易から幕末日本のアヘン問題へ、そして開国・開港をめぐる条約交渉へ、さらに外交と戦争の国際政治へと関心が拡がるにつれて、これらを統合した歴史を描くことに思いが向かった。
 幕末の開国・開港を描いた日本史の先行研究で主に参照したのは、石井孝『日本開国史』 (1972年)である。条約の日中比較を具体的に論じる時にも大いに活用した。しかし日本史の側からだけでは、使う史料の制約から、どうしても欠落する視点が出てくる。
 日本の開国・開港の最初の相手国はアメリカである。国際法上の<最恵国待遇>の原理により、最初の条約国が後続の国より優位に立つ。その解明には日米双方の史料を対等に使うと同時に、「日本史のなかの開国・開港」を超えて、「世界史のなかの日本の開国・開港」に分け入らなければならない。
アジア諸国に先行したのはイギリスであり、アヘン戦争(1839~42年)や、その後も戦争を軸に進んだ中英関係を知る必要がある。それにはイギリス側や中国側の史料も必要となる。
幕府の対外政策や日本人の世界観も、アヘン戦争を機に大きく変わっている。
 そのころ『思想』誌(岩波書店)の編集長・合庭淳さんが雑誌連載を勧めてくれた。有り難い話だが、連載を始めるには全体像を持ち、ある程度の書き溜めが要る。模索する中で、題名が決まった。ヒントは日本史家・服部之総の『黒船前後』(1933 年)である。本書は黒船到来によって大きく変わる日本を描いている。それなら私は黒船前後に大きく変わる「世界」を描こうと思い、「黒船前後の世界」とした。その瞬間、全体のイメージが浮かんだ。
 連載の第1回は「ペリー艦隊の来航」とした。1853年7月8日、浦賀沖に姿を現した4隻のペリー艦隊との緊迫した初の接触、さまざまな要因が凝縮するこの時を、歴史の大きな転換点と考えたからである。
 日本側の動向を示す先行研究には田保橋潔『近代日本外国関係史』(1930年、増補版 1943年)等がある。一次史料は、東京大学史料編纂所編『大日本古文書』シリーズ内の『幕末外交関係文書』にあり、1853年のペリー来航から翌年の日米和親条約の締結に関係する文書は、その一から五まで(1910~14年刊)に収められ、附録(1913年~刊行) にも本編の補遺に当たる貴重な史料がふくまれる。
 ペリー艦隊来航以前の異国船到来については、幕府の『通航一覧』や『通航一覧続輯』 等に詳細な記録がある。<異国船>とは、長崎への定期的な往来を認めたオランダ商船と中国商船以外の国の船を指す。異国船対応令(対外令)は、上掲の講演概要「アヘン戦争と日本開国」左欄の略年表(の左欄「日本」)に見られる通り、4回発令されており、ペリー来航時は4回目の穏健な天保薪水令(1842年)下にあった。

【アメリカ議会文書】
 一方、ペリー艦隊の浦賀沖の動きを知るには、『ペリー提督日本遠征記 上 下』(アメリカ議会上院文書、1856年)がある(角川ソフィア文庫、2014年版が得やすい)。その解説を私が書いている。ところが、その背後の、ペリー派遣に至る諸事情については本書だけでは十分でない。通常は国務省所管の条約締結を、なぜ海軍省所管のペリー東インド艦隊司令長官に担わせたのか、また太平洋横断の航路を取らず、大西洋から喜望峰を回り、インド洋、中国海域を経るという最長の航路を取ったのはなぜか、等々も明らかにしておきたい。
 アメリカ側のいちばんの基本史料は、膨大な量のアメリカ議会文書(上院と下院)である。『遠征記』以外の議会文書は、まだ日本の図書館に入っていなかった。さらに国務省や海軍省等の文書類は、ワシントンDCの国立公文書館に所蔵されている。
 膨大な資料を見るにはアメリカへ行くしかない、と決めかけた頃、先輩の太田勝洪さん(国会図書館勤務、のち法政大学教授)から朗報が入った。国会図書館がアメリカ議会文書を一括購入し、閲覧に供するという。何という幸運か。膨大な資料を検索するための CIS という索引(単行本)もアメリカでは刊行されていた。
 こうして国会図書館通いが始まった。史料を読み進めるうちに新たな世界が拡がる。大規模艦隊を組むはずの船が揃わず苛立つペリー、発砲厳禁の重い大統領命令、中国海域に到着後に起きる海軍省管轄下のペリーと国務省管轄下のマーシャル弁務官との確執等、ペリー艦隊の行動を縛る諸事情も浮かび上がってきた。
 これらの新しいアメリカ側史料で、「(一) ペリー艦隊の来航」、「(二)ペリー派遣の背景」、「(三)ペリー周辺の人びと」と書き進め、アヘン戦争以降の東アジア情勢はイギリス側史料と中国側史料をつきあわせて「(四)香港植民地の形成」、「(五)上海居留地の成長」と展開、そして翌1854年の幕府とペリーとの交渉、その先に「日本開国」……ここまでの見通しをつけて「黒船前後の世界」の『思想』誌連載に踏み出した。

【連載(七)「経験と風説-モリソン号事件とアヘン戦争情報」】
 連載「黒船前後の世界」の(七)「経験と風説-モリソン号事件とアヘン戦争情報」 が「日本開国」に関する最初の論考である。冒頭に結論めいた一文を置く。
 「幕府は長崎で収集したオランダ商船と中国商船が伝えるアヘン戦争情報(風説書)を読み解き、これにモリソン号打払い事件(1837年)という<経験>を結びつけた。 それにより強硬な文政令(異国船無二念打払令)から穏健な天保薪水令(供与令)に政策変更する経緯を解明した。」と。
 この政策変更は老中・水野忠邦ら幕閣のトップレベルの措置であり、江戸では泰平の世さながらに朝顔づくりが流行し、俗謡の都々逸が武士や町人を魅了、貸本屋の「読本」(よみほん)が争うように読まれていた。
 連載(七)の1節は、英中双方の史料を用い、アヘン戦争の発端となる地域的軍事衝突(1839年 9月4日)から南京条約締結(1842年8月29日)までの概要をまとめた。
 2節は、イギリス派遣軍のカントン沖集結を皮切りにアヘン戦争の経過を次の4期に分けて概観する。
(1)1840年6月~11月、イギリス軍の北方沿海部の攪乱と華中の長江下流域の封鎖
(2)1840年11月~41年8月の広東戦争
(3)1841年8月~42年5月、華中の寧波、鎮海、定海を中心とする攻防
(4)1842年5月~8月、イギリス軍の長江遡航、大運河と交差する鎮江=揚州を越えて食糧運搬の水運を封鎖、南京(明代の首都)に迫り、南京条約締結に到る。
 つづく3節ではイギリス派遣軍の具体的な作戦展開を述べる。
 4節と5節は、アヘン戦争の展開を、幕府は、いつ、どのように収集したかがテーマである。小西四郎、森睦彦、片桐一男等の先行研究と、民間に流布した写本(『阿片類集』、 『阿芙蓉彙聞』等)を整理し、中国商船がもたらす唐風説書(唐①等と表記、和解(和訳)のみも含む)とオランダ商船のもたらす情報(蘭①等と表記する和蘭風説書と和蘭別段風説書)を一覧した。
 すなわち(1)最初の情報である1839年8月入手の蘭①と1840年7月入手の蘭 ②、 (2)1840年夏のほぼ同時に入手した唐①と蘭③の情報、(3)唯一の情報源となった唐②(1840年秋までの状況)と唐⑦(1841年末までの状況)の情報、これら3期の情報から幕閣が把握した戦況を検討した。
 鎖国により海外渡航はできず、風説書だけを頼りに、周到かつ多角的に検討し、情勢判断に努める幕閣の動きが窺える。加藤周一のいう<命題論理学>の手法を使い、同じ事件に関するある命題(情報)と他の命題(情報)を比べて、論理矛盾のないもの(あるいは少ないもの)を<より正しい>とする手法である。
 上掲(1)で蘭①はアヘン厳禁という清朝政府の政策に理があるとしたが、翌年の蘭②はイギリスが「仇を報んがため」に出兵したと述べる。戦争の正義・正統性が大きく転換され、幕閣はイギリス側に出兵理由があるのかと驚く。
 6節は上掲(2)1840年夏に入手した唐①と蘭③の比較検討に充てる。中国船情報は戦場での目撃情報に官報の一部等を含む。オランダ船情報の情報源はカントン、シンガポールなどの英字紙誌であり、これらをバタビア(オランダ総督府の置かれた植民地インドネシアの首都)で編集、オランダ語に翻訳したものである。
 うち1831年創刊の月刊誌”Chinese Repository”はとくに信頼性が高い。とりわけ編集に当たったイギリス人宣教師R・モリソン、アメリカ人宣教師E・C・ブリッジマンやS・W・ウィリアムズが重要である。モリソンは1807年にカントンに渡って中国語・中国情勢の研究に励み、” A Dictionary of the Chinese Language”(1815~1822)を上梓した。ブリッジマンは米清望厦条約(1844年)の通訳を担い、またウィリアムズは後にペリーに随行して来日する。

【戦況を冷徹に語るオランダ語情報(和蘭別段風説書)】
 これら英文紙誌の編集・蘭訳は、アヘン禍問題やアヘン戦争の「正義」の所在には深入りせず、戦況情報を優先する。第1の交戦事件(1839年9月4日、英艦ボラージュ号の中国船への発砲)、第2の交戦事件(1839年9月12日、清朝砲台からスペイン船をアヘン貯蔵船と誤認・発砲)、第3の交戦事件(1839年11月3日、英艦ロイヤルサクソン号がカントン湾を遡航して清朝官船へ発砲)を列挙、「唐人敗北したり」や「…1艘は空虚に打ちとばされ…」等でイギリス側の圧倒的優位を伝える。
 これらの艦船はイギリス派遣軍到着前の、イギリス貿易監督官付きの軍艦であり、つづく大部隊のイギリス派遣軍到着後の和蘭別段風説書を解読する前提となる。
 7節は、これらの情報が幕閣に与えた影響について述べる。唐①はアヘンについて、当初、イギリスが紅茶等の対価として中国へ輸出、貴賤を問わず服用者が増大、諸外国の商人でアヘン貿易にかかわらない者はおらず、「現在は金銀をもって公然と売買し、怪しむべきことにただ口腹の利益をむさぼるのみで、生命を害するの恐るべきことを顧みない。アヘンを用いる者は徐々に憔悴し、ついにその生命をそこなう…」と伝える。
 そして銀流出に伴う財政危機論とアヘン害毒論の2点をめぐり、アヘン厳禁派の林則徐の上奏(1833年)、黄爵滋の上奏(1835年)、さらにアヘン弛禁派の許乃済の上奏 (1836年)、黄爵滋の上奏(1838年)を経て、林則徐のアヘン没収(2万箱余、一箱あたり銀3600両)に到る経緯を伝える。
 これを読んだ幕閣は、正義は清朝側にあるものの、軍事力では中国側に勝ち目があるとは言えないと判断した可能性が高い。

【制海権を握ったイギリス海軍】
 8節は、1840年秋までを扱う唐②と、一年後の1841年末までを扱う唐⑥から幕閣が戦況をどう読みとったかの解析である。この間、和蘭別段風説書の舶来はなく、唐風説書が唯一の情報源であった。
 イギリス派遣軍が植民地インドのセポイ(イギリス東インド会社のインド人傭兵)を率いてカントン沖に到着する1840年6月からの戦争情報は、3段階に分けられる。
第一段階ではカントン到着後のイギリス派遣軍が間を置かず北上して華中の定海と華北の白河入口を占領(1840年6月~11月)
第二段階は1840年11月から41年8月にかけてカントン近辺に戦力を集中
第三段階は1841年8月から翌1842年8月まで戦場を華中へと展開し、長江(揚子江) と大運河の交差する水運の要所を抑え、南京条約の締結に追い込む。
  第一段階の唐②は、1840年7月5日の交戦に触れ、寧波沖に「尹夷(イギリス)船七十八艘到来」、交戦のすえ「舟山定海県の総兵官(指揮官)は戦死、知県(県知事)は驚愕極まり入水自死、居民は四散逃亡…」と述べる。
 第二段階の唐④は、「…いまにいたるも定海県は港をふさがれ、その地の人民はともに貿易の便路を失い、次第に離散…」と、イギリス艦隊による封鎖を明らかにし、「広東には新たにイギリス軍百余艘の噂…」とも記す。
 9節では、1840年秋から41年春までの戦況を伝える唐⑤と、1842年2月に入手した唐⑦が伝える第三段階の情報に触れ、「…イギリスは軍艦を広東外洋の香港等に移して停泊、あるいは鎮海、寧波、定海等の一帯、二、三百里の洋面を遊弋…」と記す点に注目した。
 制海権をイギリス艦隊が掌握との情報に、海外書生と名乗る日本人が清朝官僚に成り代わって、「平夷説」、「平夷論」の2編の上奏文を発表した(『阿芙蓉彙聞』所収)。清国の敗因は「陸地の砲台からの応戦にすぎなかったことにあり、それも命中率がきわめて悪く、海戦はすべて小舟によるもの。戦艦をつくり兵士をきたえ、外洋に出て戦うことをしなかった」と分析し、今後、中国の6大港に110人乗りの大型戦艦140隻編成の大軍団を作るべしと展開する。裏を返せば、幕府の鎖国政策への批判でもある。

【モリソン号事件と<蛮社の獄>】
 10節は、幕府の対外令が1791年の寛政令(薪水供与)、1806年の文化令(薪水供与の枠の拡大)、1825年の文政令(異国船無二念打払令)と変化してきたことを整理し、その上で1837年に浦賀来航のアメリカ船モリソン号(船名をイギリス人モリソンと結びつけイギリス船と誤解した)を文政令に従って打払った事件、および翌年モリソン号の目的は日本人漂流民の送還にあったと述べるオランダ風説書を契機に、高野長英、渡辺崋山などが幕政を批判し投獄・処罰された、天保10年(1839年)の言論弾圧事件<蛮社の獄>の経緯を述べる。

【江戸湾の封鎖を想定し、天保薪水供与令へ】
 11節と12節では、第一にモリソン号事件と<蛮社の獄>を追いかけるように届いたアヘン戦争情報により、イギリス脅威論がどのように増幅されたか、第二に鎖国以来の幕府の対外政策にどのような修正を迫ったかについて、田保橋潔や井野辺茂雄等の先行研究を整理する。
 老中水野の諮問に対して、評定所答申は打払令の継続であった。一方、林大学頭の答申は穏健な文化令への復帰であり、両者は対立する。
 13節は、イギリスが日本と中国等をどのように見ているかという点から水戸の徳川斉昭の臣下の上書を取り上げた。すなわち清国は大国で、朝鮮・琉球等は小国ゆえ、イギリスは第一に日本を狙うはずであり、邪教・蘭学を禁じ、さらには日本も大型船の製造禁止を解いて海難を避け、蝦夷地の開拓に本腰を入れるべしと主張する。対外強硬派が、鎖国の柱である大型船製造の解禁に言及している点に注目したい。
 水野はアヘン戦争情報の分析から、強大なイギリス艦隊にとって江戸湾の封鎖、物流の阻止はごく容易であろうと考えた。加えて、非武装のモリソン号の来航目的を知った以上、文政令(異国船無二念打払令)の継続は無策と判断、隣国のアヘン戦争を「自国之戒」 として穏健な文化令(薪水供与令)に復した。これが天保薪水令であり、南京条約締結(1842年8月29日)の1日前であった。

【アヘンはどこから来たか】
 この問題を語るには、まず
① 19世紀アジア三角貿易
② 英植民地インドのアヘン生産と輸出の140年
を明らかにしなければならない。
いまもなおイギリス人を魅惑する紅茶の中国からの輸入統計のグラフ作成から始めた。貿易統計を集計するうちに品種別の推移が分かってきた。一方、紅茶の淹れ方は、煮沸した湯を注ぎ、ポットに布をかけて蒸らす。産業革命で工場近くに集住した労働者にとって、汚染した水の煮沸は必然であった。
 そのうえで「19世紀のアジア三角貿易-統計による序論」(『横浜市立大学論叢』30巻、遠山茂樹教授退官記念号)を発表した。統計分析を主とし、紅茶、アヘン、綿製品の3章に分けて論じた。末尾に掲げた以下の3表は、いまでも貴重なデータである。
 第1表「紅茶・アヘン・綿製品 1815~1898年」
 第2表「インドの主要輸出-アヘン・原綿・綿糸 1815~1899年」
 第3表「中国の主要輸出入 1860~1900年」
 本稿を読み直すと、第1表で紅茶・アヘン・綿製品の3大商品をまとめ、第2表でインド産アヘンの輸出統計の詳細を載せ(以上はイギリス議会文書から)、第3表では中国側の海関統計を基に上海を主とする開港場の輸出入合計を明らかにしている。
 『道』誌連載の第5回(1979年5月号)に「アジア三角貿易」(1880年)の概念図を掲載したが、このころ紅茶・アヘン・綿製品の3大商品による、イギリス・インド・中国を結ぶ「19世紀アジア三角貿易」の統計を正確に把握できていた。

【英植民地インドのアヘン生産と輸出の140年】
アヘン問題の重要性に気づいたのは、「19世紀東アジアにおけるイギリスの役割」を総合テーマとする在外研究でイギリスへ渡ってリーズ市に拠点を置き、しばらく経った1978年ころである(「史観と体験をめぐって」&「著作目録」。横浜市立大学論叢人文科学系列第54号「加藤祐三教授退官記念号」2003年所収)。
リーズ大学図書館における基礎作業のおかげで、①19世紀アジア三角貿易に次いで、次第に植民地インドで専売制によりつくられるアヘンの実態と年次変化がわかってきた。その成果物が拙著『イギリスとアジアー近代史の原画』(1980年 岩波新書)所収の「図12 インド産アヘンの140年」(同書136~137ページ)である。この一部を冒頭の講演レジメの右欄下に再掲した。
 
【アヘンとは?】
 そもそもアヘンはどのように作るのか。
 ケシの成長した子房がまだ青いうちに表面に傷をつける。滲み出した白濁色の液が太陽光で茶褐色に固まると、ピンセットのような道具で集めて、子供の頭ほどの大きさに丸め、陰干しする。この状態をクロと呼び、水に入れて煮沸したのち底に残るものをシロと呼んだ。
 アヘンの摂取法は3通りあった。アルコールに溶かし、薬剤として売る。イギリスではゴッドフレイ・コーディアル(強心剤)という商品が有名で、制止する法律がなかったため、猛烈に売れた。これが<飲む>方法である。中国では煙にしてパイプで<吸う>方法が流行した。そして主要産地のインドのベンガル地方では、生産したクロを丸めて飲みこんだ。
 アヘンの主成分であるモルヒネは最強の鎮痛剤であり、医療には不可欠であるが、売れれば売れるほど良いとして野放しにすれば麻薬となる。社会的管理が必要な物質である。
 そのために右下に図12「インド産アヘンの140年」を掲げた。これだけでは分かりにくいが、140年間にわたるインド産アヘンの輸出額等を線グラフで図示したもの。輸出先は中国にとどまらず、シンガポール(英植民地)やインドネシア(オランダ植民地)等を含む。これらのアヘンは植民地政府が独占的に輸入し、国内のアヘン業者に高く売り、その差額を財政収入の一つとした。
 アヘン戦争はアヘンを排斥しようとする清朝政府とアヘンを売り込もうとするイギリスとの戦争である。アヘン戦争は歴史用語として広く知られるが、その原因となったアヘンや戦争の結果として結ばれた南京条約の具体的内容に関しては意外に知られていない。
 清朝中国がアヘン戦争に敗北し、<敗戦条約>の南京条約は、南京近くの長江上に停泊したイギリス海軍戦列艦コーンウォリス艦上で、イギリス全権代表ポッティンジャーと清国全権代表の欽差大臣、耆英によって締結された。その主な内容は、①香港島割譲、②賠償金2,100万$を四年分割での支払い、③広州、福州、廈門、寧波、上海の5港開港、④公行の廃止による貿易完全自由化である。なおアヘン貿易についての言及はなく、「公然の密輸」状態となった。
 
【インド産アヘンの中国への輸出】
 インド産アヘンを中国等へ運搬する大砲を備えた快速船が活躍。その先の中国沿海部にアヘン貯蔵船を係留し、運び入れる。そこからは小舟で陸揚げした。
 実線がインド産アヘンの中国への輸出額(約64キロ入りの箱数)である。1839年の林則徐によるアヘ没収・焼却措置により急落するが、アヘン戦争中に増え始め、1858年の天津条約によるアヘン貿易合法化を契機に急上昇する。ピークに達するのが1880(明治13)年で、それ以降、減少はするものの、なお20世紀に至るまでつづき、終了するのが国際アヘン会議(1909~1914年)の決議による1914(大正3)年である。
 これだけ長期にわたって大規模に進められたインド産アヘンの東方への輸出が、なぜ日本へは及ばなかったのか? 日本は圏外にあったのか? では、なぜか?
 この疑問に答えるには、日本の開国に取り組む以外に手はないと思った。

【イギリスで野放しのアヘン】
 アヘン貿易の史料探しに頭を痛め、”The Times” 紙索引で「アヘン」を検索していると、19世紀のイギリス国内でアヘン・チンキ(アルコールに溶かした飲用アヘン)の服用が異常に流行し、その薬害を指摘する記事がしばしば出てくる。ゴッドフリー強心剤という商品がよく売れ、泣く子に飲ませる記事(1844年頃)もある。
 さらに『嵐が丘』の筆者エミリー・ブロンテの弟もアヘン中毒患者で、姉妹と弟を描いた絵から弟の姿が消されていたのを、ブロンテ記念館で見た。
 ロマン派の作家ド・キンシーに『アヘン常用者の告白』(1821年発表)という著名な作品がある。イギリス国内でこれほどアヘンが野放しであるとは、予想外の驚きであった。もともとは風土病の痛みに対する鎮痛剤として主に農村地方で使われたという。イギリスの風土はケシ栽培に適していないはずで、輸入統計を調べると、イラン産とトルコ産が大量に輸入されていた。
 
【インド産アヘンの統計と、19世紀アジア三角貿易】
 イギリス国内での「アヘン・チンキ」流行は分かったが、植民地インドで生産されるアヘンとその輸出統計が見つからない。議会文書(BPP)の辺りを歩き回って目録を引き 直しているうちに、やっと” Statement showing the Number of Chests of Opium exported from India to China, Bengal and Malwa. 1798/99-1859/60.”等の史料のあることを発見した。
 初期の議会文書ではなく、1880年代に議会に提出されている。この時期、アヘン貿易反対論が議会内外で強まり、それに押されて提出されたことが後に分かった。これによると、19世紀初頭、植民地インドから中国・東南アジア等へ、アヘンと綿花の輸出が増え始める。両者がほぼ同じ割合で、合わせて紅茶輸入の約7割(価格)にあたる。時代が下るにつれてアヘン輸出の比率が高まることが、この新しい史料で分かった。バラバラに見えた二国間貿易を三国・地域間貿易として把握すると、まったく新たな構造になる。
 中国産紅茶、インド産アヘン、イギリス製綿製品の三大商品による三国・地域間(インドはイギリス植民地であり、慣例では 「地域」とすべき)の貿易、すなわち「三角貿易」に発展し、これによりイギリスの貿易赤字が急減する。この構造を私は「19世紀アジア三角貿易」と命名した。

【『イギリスとアジア-近代史の原画』の発刊】
 イギリスから自宅へ送った大量の史料コピーは、べニア板張りの大型紅茶箱で7箱はあり、開けてみると史料的価値の高さが改めて分かった。これらの史料とメモを駆使すれば新たな歴史書ができる、と胸が高鳴った。
 ワープロやパソコンが普及する以前で、強い筆圧から来る腱鞘炎に悩まされ、鉛筆を4Bに変えて、表面の滑らかなA4サイズの縦書き原稿用紙に向かう。1979年の夏休みは執筆に専念した。能率を上げるため早朝2時に起床してすぐ執筆、11時頃までつづけると休憩を入れても8時間は確保できる。昼食後、1時間半の仮眠。午後2時に再開して夜10時まで8時間、合わせて16時間の作業がでた。
 雑誌連載に加えて新たな書き下ろしを組み入れ、『イギリスとアジア-近代史の原画』(岩波新書 1980年1月)を刊行した。黄表紙版の108番。
 本書は序章「点描」と「おわりに」を除くと、3部9章の構成である。
 Ⅰ 「イギリス近代の風景」には、「第1章 村の生活-1790年」、「第2章 人と交通と情報」、「第3章 都市化の波」の3章が並ぶ。第1章はイングランドを中心として旅を重ねた成果を取り入れ、近代の幕開けに村の生活が変わる状況を、文書館所蔵の家計簿等から示し、第2章で交通網(道路と運河)の展開が情報を広く運ぶ状況を招来したと述べ、第3章では急激な都市化(とくに産業革命都市)による下水道整備等の及ばない過渡期の姿を描いた。
 Ⅱ 「19世紀のアジア三角貿易」には、「第4章 紅茶と綿布」、「第5章 アヘン貿易」、「第6章 アヘン生産」の3章が入る、本書の核心的部分である。貿易統計を活用して、第4章では薄手のインド産綿布と厚手の中国産綿布のイギリスへの輸入から反転して産業革命の工場製綿布のインドへの輸出に代わる状況を示し、第5章では植民地インドから中国・東南アジアへのアヘンの輸出を明らかにし、イギリス・インド・中国を結ぶ19世紀アジア三角貿易の実態を明らかにした。第6章にはケシ栽培・アヘン生産の科学的実験例等を加えた。
 Ⅲ 「イギリスとアジア」は、「第7章 イギリス国内のアヘン」、「第8章 パブと禁酒運動の産物=レジャー」、「第9章 イギリスとアジア」の3章が入る。第7章ではイギリス国内のアヘン消費(主にアヘンをアルコールに溶かしたアヘン・チンキの流行)の状況を述べ、第8章は近代化初期のイギリス国内の諸相(酒税歳入が40%を占める等々)と近代スポーツの誕生等を描き、第9章でイギリスのアジアとの関係やアジアに及ぼした影響に触れ、イギリスは清朝中国と戦争による激烈な出会いをしたが、日本とは「おだやかな出会い」をしたと述べる。
 「あとがき」(1979年10月付け)では、中国近代史からイギリス史を見ることを中断し、イギリス近代史からアジアとの関係を考える発想の転換に至った経緯を述べ、また副題「近代史の原画」に触れて、「本書に描いた近代の姿は世界史の教科書にないものが多く、これはコピーではなくオリジナル(原画)ではあるがデッサン(原画)にとどまっているかもしれない」とも述べた。
 また新書にしては長めの6ページの参考文献を付け、本文に省略形で入れた注と対応させる方式をとった。本書は広い読者を対象とする一般書として、何よりも読みやすさを心がけたが、従来の常識とかなり違う内容を含んでいるため、学術書と同様に史料の出典を示し、史料の表記に工夫をこらした。読み進めるための障害を少なくする一方、根拠を知りたい読者には参考文献に到達できる工夫である。新書にこの方式を採用したのは、本書が初めてではないかと思う。

【戦争の原因となったアヘンの生産と流通】
 アヘン戦争(1839~42年)を知らない人は少なくないが、戦争の原因となったアヘンの生産と流通に関しては、中国史学界はもとより欧米でも十分な研究がなかったため、本書が初めて明らかにした事実も少なくない。毎日新聞は「私の仕事」欄(1980 年2月18日)で「イギリス国内のアヘン需要は第一次大戦中までつづき、近代日本のお手本のイギリスは大正時代に”アヘン漬けになっていた“」と驚きを表明、主題とした「19世紀アジア三角貿易」とは違う側面に注目していた。
 学術誌では『史学雑誌』(1981年1月号)の新刊紹介で石井寛治さん(東京大学経済学部)は「…本書の面白さは、最近とみに豊かになったイギリス社会史の研究成果を取り込みながら、さらにオリジナルな史料に当たってゆくさいの、東洋史家たる著者の眼のつけどころである…」とし、それぞれの中心課題をⅠ部では「中国産紅茶に呪縛されたイギリス社会の構造」、Ⅱ部では「インドから中国へのアヘン輸出のピークが1880(明治13)年であること」、第Ⅲ部では「アヘン中毒とアルコール漬けの19世紀イギリスから公園とレジャーに象徴される今日のイギリス社会がいかに生まれたかの説明」と述べている。

【コンフェレンス「世界市場と幕末開港」】
 前著『イギリスとアジア』のとりわけ第9章「日本のアヘン問題」で書き残した課題が最大の関心事であったが、研究を進めるにつれて、課題はさらに拡大した。1981年12月、コンファレンス「世界市場と幕末開港」が3日間にわたり開かれ、東京大学経済学部の経済史学者が中心となり企画したもので、部外者の私も招かれた。その報告書が石井寛治・関口尚志編『世界市場と幕末開港』 (東京大学出版会 1982年)であり、6本の報告とそれぞれのコメント・討論を収める。
 すなわち関口尚志「問題提起-開港の世界経済史」、毛利健三「報告一 ギリス資本 主義と日本開国-1850、60年代におけるイギリス産業資本のアジア展開」、楠井敏朗 「報告二 アメリカ資本主義と日本開港」、権上康男「報告三 フランス資本主義と日本開港」、加藤祐三「報告四 中国の開港と日本の開港」、石井寛治「報告五 幕末開港と外国資本」、芝原拓自「報告六 日本の開港=対応の世界史的意義」である。
 このコンファレンスは10年前の1971年5月に開かれたシンポジウム「世界資本主義と開港」(この書名で1972年に学生社から刊行)やその後の著書等を受けて、「いま必要なのは単なるアイディアの開陳ではなく、実証研究の推進に裏づけられた新たな問題点の指摘…」と狙いを定めている。
 私の「報告四 中国の開港と日本の開港」 (193~223ページ)は原朗氏の司会で、加納啓良氏と竹内幹敏氏によるコメントと討論(~244ページ)がつく。報告内容は、①問題の所在、②アジア三角貿易にかんする従来の研究、③統計資料について、④インド財政とアヘン収入、⑤貿易統計、⑥日本開港時の東アジア市場の6項に、コメントで⑦アヘンの持つ意味、⑧通商条約への諸段階、⑨アジア三角貿易の諸相を補足して、計9点である。
 うち②は研究史の整理だが、とくに同時代人のK・マルクスが1858年に『ニューヨー ク・デイリー・トリビューン』紙に書いた4つの論文について、正確な現状分析であると同時に多くの事実誤認を含むと指摘、それを正すためには何よりも統計を正確に把握することが不可欠として、③、④.⑤によりインドのアヘン生産・貿易とアジア三角貿易を詳論した。
 とくに表1「インド産アヘン-輸出量とそれに伴う植民地政府の財政収入」が行論に深く関連する。報告要旨を事前に渡してコメントを得たため、加納氏からは、植民地インドネシア政府がベンガル・アヘンを独占的に輸入して、特定の請負商人に売却、それがライセンス収入を含め税収の19%と高い比率を占め (1860年の事例)、その一部は本国へ送金されていた等の新しい知見を得ることができた。なお本書には4点の書評が出て、関心の高さが伺えた。

【「幕末開国考」(『横浜開港資料館紀要』第1号 1983年)】
 このころ書いたもう1つの論考が、「幕末開国考-とくに安政条約のアヘン禁輸問題を中心とし て」(『横浜開港資料館紀要』第1号 1983年)である。遠山茂樹館長(横浜市立大学名誉教授)は、本誌創刊によせて「…横浜という地域の考察にとどまらず …世界近代史と日本近代史との相互影響・ 相互対立の接触面を代表し…館外研究者の成果も本誌に反映させたい…」と述べる。拙稿がこの創刊号の巻頭論文となった。
 本稿は論点の中心をアジア三角貿易から政治・外交史へと拡大し、日本史の領域に本格的に踏み込んだ私の初の論考である。すなわちペリーとの日米和親条約(1854年)から1858年7月29日(安政五年六月十九日)の日米修好通商条約(「安政条約」と略称)に到る外交の経緯を整理したうえで、同時代にアジア諸国が結んだ各種の条約(とくに中国が1858年に結んだ天津条約と1860年の北京条約)と比較し、安政条約のもつ不平等性は「ゆるやかで限定的」として、とくにアヘン禁輸問題に焦点を当てた。
 これまで学界で話題に上らず、したがって先行論文が皆無の、幕末日本におけるアヘン問題である。モルヒネを含有するアヘンは最強の鎮痛剤であり、同時に麻薬である。鎖国中の日本では三都(江戸・京都・大坂)の漢方医が前年の使用実績を長崎奉行に報告し、会所貿易により唐船(中国商船)と蘭船(オランダ商船)に発注するという、厳しいアヘン統制を敷いていた。

【略年表の世界の欄】
 冒頭に再掲した講演レジメ「アヘン戦争と日本開国」の左欄・略年表は、左が日本、右が世界である。右の世界から主な事項を幾つか抜粋し、当時の世界情勢を概観したい。
 1773 英がインド植民地化、アヘン生産を開始
   76 アメリカ合衆国建国(独立)
 1819 英がシンガポールを植民地
   39~42 アヘン戦争
   42・8・29 英清南京条約⇒①香港島割譲、②賠償金2,100万$を四年分割での支払い、③広州、福州、  廈門、寧波、上海の5港開港、④公行の廃止による貿易完全自由化。なおアヘン貿易については言及せず。
   44 米清望厦条約⇒米が提案してアヘン禁輸を明示。 
 46~48 米墨戦争(メキシコ戦争)⇒アメリカがメキシコの領土を奪った戦争。これによりカリフォルニア、ニューメキシコなどを獲得し、アメリカ合衆国の領土が太平洋岸に達した。
  53~56 英露のクリミア戦争
       54・3・31 日米和親条約の締結⇒発砲交戦を伴わない<交渉条約>の背景とその意義
   56~60 第二次アヘン戦争
   57・5 セポイ大反乱(インド)
   58・6・26 英清天津条約⇒アヘン貿易を合法化(自由化)。
       58・7・29 日米修好通商条約のアヘン禁輸条項
   60 北京条約(第二次アヘン戦争終結)
  
【今後の2つの課題】
 以上の略年表からの抜き書きだけでは分かりにくいに違いない。
主な論点は2つある。
 第1が戦争の有無とその勝者が獲得する排他的権利とその反対側の敗者の<敗戦条約>である。そうした中で、1854・3・31 日米和親条約の締結が発砲交戦を伴わない<交渉条約>として成立した。その背景と意義を、しっかりと明らかにしていきたい。
 第2が条約上のアヘン貿易の取り扱いである。アヘン貿易について英米は決定的に対立していた。すなわち生産基地インドを持つイギリスの、第2次アヘン戦争を通じたアヘン貿易合法化(自由化)=1858・6・26 英清天津条約⇒アヘン貿易を合法化(自由化)が一方にあり、その約一月後の1858・7・29 日米修好通商条約のアヘン禁輸条項がある。なぜこれほどの対照的な結果が生じたのか? 複雑な事情があるに違いない。
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変わりつつある世界(13)

 前回の(12)で述べたように、ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会第3日は10日、南西部のトゥールーズで1次リーグD組が行われ、初戦に臨んだ日本はチリを42-12で下し、白星発進した。
 9月8日の【ラグビーW杯8日開幕 「競技誕生200年目」に新風の予感】によれば次のとおりである。【パリ=谷口誠】ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会が8日に開幕する。「競技誕生の年」から200年の節目に行われる祭典。ラグビー自体が変革期にある中、新風と波乱の予感が漂う。
 「ラグビーの200周年を祝うのにこれほどふさわしい場所はない」。国際統括団体ワールドラグビー(WR)のビル・ボーモント会長は4日の記者会見で喜んだ。フランスは旧英連邦以外で最も競技が広がった国であり、ブーイングを辞さない熱いファンのいる場所でもある。
 国外からは過去最多の60万人の来場が見込まれる。スポンサーの権利がWRから一部譲渡されたこともあり、大会組織委員会の収入は2019年日本大会の約680億円を大きく超える8億ユーロ(約1260億円)に膨らむ見通しだ。
 ラグビーは今、過渡期にある。頭のケガへの懸念は高まり、WRが十分な対策を採らなかったとして元選手が訴える事態に。頭部へのタックルは厳しく取り締まられるようになった。出場20チームのこの夏のテストマッチは、カードが出ない試合の方が少なかった。
 今大会では、危険なタックルをした選手をまず一時退場にし、映像で確認して悪質なものは退場処分に変える新制度が導入される。安全対策を強めるWRは、若年層では胸骨より上へのタックルも反則とするよう各国に推奨済みだ。安心して楽しめる競技に変わる過程で迎える大会。勝利のカギを握るのは選手の対応力だ。日本代表のリーチ・マイケル(BL東京)は「最初から高い姿勢で頭に当たるとレッドカード。最悪イエローにしないと」と気を引き締める。
 多様性というラグビーの価値観をより訴えかける大会にもなる。組織委は期間中にLGBTQ(性的少数者)をテーマにしたシンポジウムを開催。パリで開かれる車いすラグビーの国際大会運営も支援する。先進国共通のスポーツ離れに対し、フィールド外の社会的な価値が重要になるとにらむ。
 大会に吹く新風の象徴になりそうなのがフランス代表だ。そのスタイルは異色。FW8人を3〜4グループに分けてフィールド上に配置する主流のシステムから離れ、ほとんどの選手が中央付近に立ち、それぞれの判断で動く。
 組織より個が優位に立つのはこの国の伝統だが、今のチームはその典型。11年大会の決勝で開催国ニュージーランドを1点差に追い詰めた時の主将、ティエリ・デュソトワール氏は強調する。「フランスは相手の組織を潰す思いがけないプレーが長所だが、チームがまとまりにくい短所もある。今回はまさにそう。あらゆるものが存在していて何が出るか分からないし、動きが読めない。時には危険に見える場合もある」
 各チームの力関係はかつてないほど接近している。自由自在、多士済々のフランスが初の戴冠を果たすのか。「目標は優勝」と公言する日本のさらなる快進撃はなるか。
 1823年が競技の創世となったのは有名な逸話があるからだ。英ラグビー校のウェブ・エリス少年がルールを破り、ボールを抱えて走り出したのがこの年。競技が持つ自由や進取の精神の象徴といわれてきた。
 しかし、実際はフットボールのルールを統一する際、ラグビー校中心の一派とサッカーに分かれたのが史実とされる。人の心をつかむ「伝説」も積極的に取り込みながら発展してきたラグビー。ウェブ・エリス杯を巡る51日間の祭典が、次の時代を照らし出す。

【これからの長丁場】
 今後の日本の対戦予定は、9月17日(日本時間18日)にイングランド、28日(同29日)にサモア、10月8日にアルゼンチンと続く。20チームが4組に分かれ、各組上位2チームが準々決勝に進む、51日間の長丁場である。

【リーマン15年、彷徨う亡霊 潜む危機生かす血気あるか】
 9月11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 世界の投資家の「リスクオフ」が後退した。3月以来の混乱は収束したのか。2008年9月のリーマン・ショックから15年。歴史的衝撃の教訓や余波は、今も世界を彷徨(さまよ)っている。
 「恐怖指数」の異名を持ち、米株式市場の心理が冷え込むほど上昇するVIX指数。米シリコンバレーバンクが破綻した3月に一時30を超えたが、ここにきて10台に落ち着いた。景気後退への懸念が和らぎ、心理が持ち直した。
 歴史が裏切らなければ、米国が金融を引き締めた後に世界のどこかで危機が起きる。米連邦準備理事会(FRB)は昨年3月以来、通常の2倍速、3倍速で利上げを続けた。今回は大丈夫か。
独不動産はリスクの縮図
 08年8月18日、世界の投資家に配られたリポートがある。「最悪期は終わった。真夏の息抜きを楽しもう」。筆者はリーマン・ブラザーズのストラテジストだ。
 同年春以降、大手証券ベアー・スターンズや住宅公社の危機が噴出した。政府やFRBが対処、市場も落ち着きヘンリー・ポールソン財務長官は8月に北京五輪を観戦した。表向き静かな夏を終えた9月15日、リーマンは破綻して世界経済を崖っぷちに追い込んだ。
 混乱をいったん封じれば、市場に楽観が広がる。だが問題を根治しなければやがて露呈し、パニックが広がって傷は深くなる――これがリーマン危機の教訓だ。
 だからこそ、今も疑いの目で世界を見る意味がある。少なくとも欧州経済の中心、ドイツの不動産業界は危機のさなかだ。
 「資産売却から説明します」。ドイツの不動産最大手、ボノビアが8月に開いた4〜6月期決算説明会。ロルフ・ブーフ最高経営責任者(CEO)は業績の説明を後回しにした。市場の関心が資金繰りに集まっていたからだ。
 同社の株価は昨年来で半値以下と、ドイツ株価指数(DAX)を大きく下回る。会計疑惑が浮上した同業大手のアドラー・グループは、株価の95%を失った。
 同国の不動産は、世界のリスクの縮図だ。インフレと金利上昇で個人も企業も購買力が落ちた。近くのウクライナで長引く戦争は、外国マネーの投資意欲をそいだ。
 新たなリスクも加わった、ドイツが最大の貿易相手と頼る中国の景気悪化だ。源流は、リーマン危機対策で政府が踏み切った巨額の景気刺激にある。過剰な住宅開発や債務が経済に今のしかかる。
PBRで盛り上がった決算
 リーマン危機は、米国の金融機関や家計が背負った債務バブルの崩壊で始まった。危機対策で政府債務を膨らませた欧州では3年後に債務危機が火を噴き、その後に中国の債務問題が市場で取り沙汰され始めた。債務危機が長期的に世界をめぐる「スーパーサイクル」説が再び頭をもたげている。
 軟着陸への期待が広がる米国にもマグマは潜んでいる。20年に0.5%だった長期金利は4%を超えた。債務者の利払い負担は借り換えと共に膨らむ。存続の瀬戸際に追い込まれたシェアオフィス大手のウィーワーク、顧客のクレジットカード払いの延滞ぺースが会社の予想を超えた百貨店大手のメーシーズ……。8月のニュースに胸がざわついた人も多いはずだ。
 日本は耐えられるのか。6月以降もたついた日経平均株価が今月、一時3万3000円台を回復した。株高の持続は企業が自らの価値を高め、回復した株価を正当化できるかにかかっている。それは結果として、世界から押し寄せる逆風をはねのける力になる。
 8月、前向きな現象が起きた。企業の4〜6月期の決算発表で、PBR(株価純資産倍率)を高める戦略をトップが続々と表明した。東京証券取引所が事実上の改善要請を出したのが今年3月。ここまでPBRで盛り上がった決算発表はかつてなかった。
 例えばPBRが0.6倍に沈むENEOSホールディングス。斉藤猛社長は1倍割れを、自己資本利益率(ROE)から資本コストを引いたエクイティスプレッドがマイナスになっているからなどと分析。プラス化に「とことんこだわる」と成長策を訴えた。ビデオメッセージとはいえ、第1四半期の発表に社長が初めて臨んだ。
 キリンホールディングスは1.6倍だが、磯崎功典社長は「満足できない」と言い切った。少子高齢化で市場拡大に限界がある酒類や清涼飲料から、医薬などへの構造転換を進めると強調した。
真っ暗の中にもいた勝者
 「失った30年」を脱した企業の特徴は、株式市場にもまれたことだ。ソニーグループも日立製作所も業績不安を抱えたまま増資せざるをえず、投資家を納得させるために成長戦略を鍛えた。PBRテコ入れ策の投資家への売り込みに見るアニマルスピリッツ(血気)も、成長の一歩になり得る。
 最後は行動だ。「ボノビアにもアドラーにも世界のマネーが群がるだろう。うちも狙っている」。ドイツの大手投資会社のCEOは明かす。不動産会社の逆境は、資金繰りのために投げ売りされる物件を拾う願ってもない機会だ。
 真っ暗だった15年前にも勝者はいた。破綻寸前のゼネラル・エレクトリック(GE)やゴールドマン・サックスへの投資で大もうけしたウォーレン・バフェット氏も、モルガン・スタンレーへの出資でグローバル化を一気に進めた三菱UFJフィナンシャル・グループもそうだ。
 「危機という成長のチャンスが控えている」。こう身震いする経営者が今どれだけいるか。良くも悪くも一息つく局面ではない。

【米KKRとSBIが新会社 プロ向け投信、24年にも個人販売】
 同じ11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 海外の大手投資ファンドが日本の個人運用資産を開拓している。米KKRはSBIホールディングス(HD)と新会社をつくり、プロ向けの投資信託を日本の個人に提供する。米ブラックストーンも海外の不動産ファンドの販売を始めた。約2000兆円の日本の個人金融資産に照準を定めている。
 KKRとSBIHDは2023年度中をめどに共同出資会社をつくる。KKRが海外の富裕層向けに販売するファンドをもとに、日本向けに投資信託を組成して売り出す。新会社の出資比率は未定だが、SBIHDが過半となるもようだ。
 KKRはプライベートエクイティ(PE=未公開株)や不動産などへの投資を手がける世界大手だ。こうした分野はオルタナティブ投資と呼ばれ、一般に上場株や債券などよりも高い利回りが期待できる。最低購入額が数億〜十数億円など制限が多いため、年金基金など機関投資家に限定されていた。
 第1弾はプライベートデットと呼ぶ、企業に融資したり、債券を購入したりするファンドになるようだ。変動金利商品のため、金利上昇局面でも価値が下がりにくいとされる。24年度上半期までの販売開始をめざす。
 最低投資額は300万〜500万円程度に抑え、購入後は四半期や月単位で現金化できるようにする方向だ。購入・解約の手続きは日本語で対応する。
 SBIHDは傘下の証券会社や銀行を通じ、富裕層を中心とする個人にファンドを販売する。提携関係にある地方銀行など、規模の小さい機関投資家にも提供する。運用資産残高は3年間で1000億円程度をめざす。
 海外ファンドにとって、日本の潤沢な個人金融資産は魅力的に映る。仏コンサルティング会社キャップジェミニの22年の調査では、日本の富裕層資産の現預金比率は34%。世界平均の24%を上回る。日本の個人金融資産は約2000兆円で、約半分が現預金だ。
 米ブラックストーンは22年、野村証券と組んで海外不動産ファンドを公募投資信託の形で販売し始めた。23年には大和証券とプライベートデットファンドの提供を始めた。
 米アポロ・グローバル・マネジメントは22年に三井住友トラスト・ホールディングスと提携し、国内個人向けの商品開発を検討する。米ゴールドマン・サックスも日本の個人向けファンド販売を準備中だ。KKRは個人開拓のため、SBI以外にも提携先を広げる考えだ。
 政府は資産運用立国を掲げており、海外の投資会社も日本での事業拡大に関心を強めている。ブラックストーンは3月、KKRは7月にそれぞれ首脳が首相官邸を訪ね、岸田文雄首相と面会した。政府は海外ファンドの参入を促すための規制緩和を検討している。
 国内運用会社がオルタナティブ投資を広げ、個人に提供する動きは乏しい。国内勢にとっては海外ファンドに身近な潜在顧客を奪われる形となる。海外勢の取り組みは国内運用会社の機能の高度化という課題も突き付けている。(和田大蔵、日高大)

【日産、化学物質の制限品目4年で2倍 法規制上回る対応】
 同じ12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日産自動車が2023年度までに、使用を制限する化学物質などを7600品目と過去4年で2倍に増やしたことが分かった。欧州で規制が強まるPFAS(有機フッ素化合物)も14年度から段階的に禁止した。資本提携する仏ルノーと自主規制を進めており、国によっては法規制より厳格にした。
 PFAS規制が強まる欧州などでの対応を見据える。世界的に環境や人体に有害な物質の制限対象が広がる中、自動車の供給網全体で対応が迫られている。
 日産は科学的に環境負荷などのリスクが高いと考えられる物質について、独自の使用方針を決め、制限している。車に使う原材料や部品などすべてが対象で、22年度末時点で使用を制限している物質は7593品目ある。18年度時点では4043品目にとどまっていた。制限している物質のうち、PFASは2500品目と22年度末時点で全体の3割を占めている。
 日本や各国が法規などで使用を禁止・制限している品目に加え、17年度以降、ルノーと自主規制の対象を広げたことが大きい。ルノーの主力市場である欧州では消費者が商品を選別する目が厳しく、使用する素材の環境負荷が消費者の信頼や売れ行きを左右することもある。
 米国化学工業協会が、自動車業界で国際的に禁止したり、使用に申告が必要だとリスト化したりしている物質は現在、約6000品目ある。日産の規制対象はこれを上回る。
 各国の法令以上のレベルで見直し、1カ国でも禁止物質が設定された場合、その物質を世界で使用禁止とした。日産は「多くの国や地域で、法規よりも厳しい自主基準にした。コストは上がる可能性もあるが、将来的に生産や販売できなくなるリスクを考えて対象にしている」としている。
 化学物質の使用制限は、欧州で先行して進む。欧州では自動車部品や半導体材料にも使われるPFASへの規制に対する議論が進んでおり、国内素材メーカーの間でも規制を見据えた対応が進む。
 PFASは4700種類以上にのぼるとされ、規制が広がればフッ素樹脂などが影響を受ける。日本企業は足元の旺盛なフッ素関連の需要をにらんで原料や製品を供給する一方、PFASへの対応にも迫られている。
 自動車に使う素材は電動化や軽量化への対応で多様化しており、半導体や電池材料の使用が今後増える。部品メーカーを含めた供給網全体で使用制限が広がる可能性がある。(川上梓)

【内閣改造、上川外相・武見厚労相 松野官房長官は続投 政調会長に萩生田氏続投】
 同じ12日の日経速報メールは次のように報じた。
 岸田文雄首相(自民党総裁)は13日、内閣改造・党役員人事に踏み切る。茂木敏充幹事長の続投に加え、松野博一官房長官を留任させ「政権の骨格」を維持する。主要閣僚は外相に上川陽子氏、厚生労働相に武見敬三氏を充てる。半数以上を交代させ内閣を刷新する。
 自民党は13日午前に開く臨時総務会で新たな役員人事を了承する。首相はその後、首相官邸に組閣本部を設置して新閣僚を呼び込む。皇居での認証式を経て、第2次岸田再改造内閣が発足する。
 党四役などの布陣は2024年秋の総裁選で再選を確実にする態勢を意識した。茂木幹事長と萩生田光一政調会長の続投を内定し、総務会長に森山裕選挙対策委員長を横滑りさせる。森山氏の後任には小渕優子組織運動本部長を起用する。
 党内基盤を安定させるため第2派閥と第3派閥を率いる麻生太郎副総裁、茂木氏を政権の中枢に残した。第4派閥の岸田派を加えた「三頭政治」を維持する。最大派閥の安倍派からは引き続き萩生田、松野両氏を要のポストに充てる。
 選対委員長に就く小渕氏は所属する茂木派内で、将来の総裁候補に期待する声がある。党四役のうち2つのポストを同派に割り当てたのは、「ポスト岸田」をうかがう茂木氏の影響力をそぐ意味合いもある。
 政権の要である官房長官は松野氏が留任する一方、首相側近の木原誠二官房副長官は退任し後任に村井英樹首相補佐官が就く。木原氏は政権の重要政策に関与しており、意思決定に影響を及ぼす可能性がある。
 外相は主要7カ国(G7)で議長国を担うなかでの交代となる。上川氏は首相が率いる岸田派に所属し、これまで法相などの要職を歴任してきた。女性の外相は小泉純一郎政権の川口順子氏以来となる。
 林芳正外相は9日にロシアによる侵攻後初めて日本の外相としてウクライナを訪問したばかりで、月内にG7外相会合を取り仕切る予定だった。
 防衛相は初入閣の木原稔氏を充てる。木原氏は菅義偉政権で安全保障担当の首相補佐官を務めた。
 厚生労働相には厚生労働副大臣などを経験し、医療行政に詳しい武見氏を登用する。年末に診療報酬改定などを控えており、専門性を重視した。経済財政・再生相は新藤義孝氏を内定した。
 ポスト岸田の有力候補である高市早苗経済安全保障相と河野太郎デジタル相は留任させる。両氏は21年の党総裁選で首相と争った。ライバルの2人を再び閣内に取り込む。
 首相は12日、連立を組む公明党の山口那津男代表と会談した。山口氏は公明党の斉藤鉄夫氏が務める国土交通相ポストの継続を求めた。第2次安倍政権が発足した12年以降、国交相ポストは公明党議員が独占してきた。
 女性閣僚は現内閣の2人から増員となる。加藤鮎子氏、自見英子氏の初入閣も固まった。

【プーチン氏と金正恩氏が会談 北朝鮮の衛星開発支援表明】
 同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
 ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で会談した。両首脳の会談は2019年4月以来、およそ4年半ぶり。武器取引など軍事技術協力の拡大を協議した可能性がある。
ロシアメディアが報じた。プーチン氏は会談前に「(金正恩氏は)ロケット技術に大きな関心を示し、宇宙開発も進めようとしている」と述べ、北朝鮮の人工衛星開発を支援する意向を示した。
 金正恩氏は会談冒頭で「朝ロ関係を最重視して発展させる」と述べ、ロシアとの連携強化を表明した。「プーチン大統領とロシア政府のとるすべての措置を全面的に支持する」とも話し、ウクライナ侵攻への支持を改めて表明した。
 プーチン氏は「我々は経済協力、人道問題、地域情勢について協議する必要がある」と述べた。
会談では軍事面での協力などが議題にあがったとみられる。プーチン氏は会談後、国営メディアに軍事協力を協議したかを問われ、「一定の制約があるが、考えられることは確かにある」と否定しなかった。会談前には「我々は急ぐことなく、すべての問題を話し合う」と述べていた。
 米メディアは北朝鮮が弾薬などをロシアに提供する一方、ロシアから人工衛星や原子力潜水艦に関する技術を受け取ると報じた。2国間の軍事連携を強化するとの見方もでている。
 米国はロシアと北朝鮮の接近に懸念を示している。米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は4日、「ロシアと北朝鮮の武器交渉が活発に進んでいる」と指摘、ロシアとの武器交渉を停止するよう北朝鮮に求めていた。
 今回の会談ではロシアと北朝鮮との力関係の変化が見えた。プーチン氏は先に宇宙基地に入り金正恩氏を出迎えた。施設の案内に付き添い、会談と夕食会をあわせて、5時間以上をともにするなど厚遇ぶりが目立った。
 かつては北朝鮮がロシアに支援を頼む関係だった。北朝鮮が17年に核実験をした際は、ロシアが制裁決議案で賛成に回った。ウクライナ侵攻の長期化でロシアは弾薬などが不足しているとみられる。ロシアが北朝鮮に武器供給などの支援に頼らざるを得ない立場となった。

【ニデック、TAKISAWA買収で合意 「事前同意なし」で突破】
 同じ13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ニデック(旧日本電産)が工作機械のTAKISAWA(旧滝沢鉄工所)を買収する見通しとなった。TAKISAWAが13日、ニデックから受けていたTOB(株式公開買い付け)の提案を受け入れると発表した。TAKISAWAは株主にTOBへの応募も推奨した。ニデックは自動車部品加工に強いTAKISAWAの旋盤を取得し、工作機械事業の「穴」を埋める。
TOBは1株あたり2600円で14日から始める。上限を設けておらず、成立すればTAKISAWAはニデックの子会社となり上場廃止になる可能性が高い。
【関連記事】ニデックが買収のTAKISAWA「雇用継続、社名残したい」
 TAKISAWAの原田一八社長は13日、本社のある岡山市内で記者会見を開き、ニデックの傘下に入ることが「当社にとってプラス」と述べた。工作機械業界の厳しい経営環境に触れ、「(単独で生き残りを図るより、工作機械でニデックが目標に掲げる)世界一を目指すほうが従業員も取引先も幸せ」と説明した。
 同時にニデックとは別の1社から対抗提案を出す初期的な意向表明書を受け取ったものの、正式な提案には至らなかったと明らかにした。原田社長は秘密保持契約を理由に「詳しい話はできない」とした。
 ニデックは工作機械事業の強化のため、M&A(合併・買収)を相次ぎ手掛けている。2022年1~3月にはTAKISAWAへ資本提携を持ちかけていた。その際、TAKISAWA側が協議を中断した経緯もあり、23年7月にTAKISAWAの経営陣の事前同意を得ないままTOBの提案に踏み切った。
 TAKISAWAを傘下に収め、課題だった工作機械の主要品目の一つ「旋盤」を取得する。ニデックは工作機械の世界市場の機種別の内訳で約3割(ニデック調べ)を占める旋盤を製品に持っていなかった。同社の西本達也副社長は「他の工作機械と旋盤を顧客にまとめて売れる」と話し、営業面や収益面での相乗効果を見込む。
 ニデックは21年、電気自動車(EV)部品の内製化などを視野に三菱重工業から子会社を取得し工作機械事業に参入した。22年にはOKK(現ニデックオーケーケー)を買収し、工作機械を注力事業と定めた。23年にイタリア企業も買収。TAKISAWAが傘下に入れば同事業で4社目となる。
 TOB価格の2600円は提案1カ月前の株価の約2倍の水準にあたる。一般にTOB価格は、買収候補企業の直近1カ月や3カ月間の平均株価に3割程度の上乗せ幅(プレミアム)をつけることが多い。今回、ニデックは10割程度のプレミアムをのせた。
当時のTAKISAWAの株価はPBR(株価純資産倍率)が0.5倍前後と割安だったため、ニデックはプレミアムを上乗せしやすい状態だった。TAKISAWAの株主が納得しやすいTOB価格が、TAKISAWAの取締役会の判断に影響したとみられる。
ニデックはTAKISAWAがTOBに反対し「同意なきままのTOB」になることも覚悟しての買収提案だった。M&A巧者のニデックが「同意なき」を辞さない姿勢をみせたことで、今後、日本で同様のケースが増えることが予想される。
 海外では事前に賛同を得ないTOBは珍しくない。経済産業省の資料によれば、12~21年に日本で実施されたTOBは476件で、米国は584件。このうち「同意なきTOB」の比率は米国の17%に対し、日本は4%にとどまる。
 長島・大野・常松法律事務所の玉井裕子弁護士は「米国の経営者は『同意なき買収』をされるかもしれないと、普段から高い緊張感をもっている」と指摘する。その上で経営者の緊張感が「企業価値の向上策の活発な検討につながっている可能性がある」と話す。
 経産省は8月末にまとめた新たな企業買収における行動指針で、企業価値向上に資する買収提案は真摯に検討するよう求めた。東京証券取引所も今春、PBR1倍割れ企業に改善を要請した。こうした経緯を踏まえれば、TAKISAWAに対するTOB計画は、低水準のPBRを放置する日本の上場企業経営者への「警告」の側面がある。
 ニデックの永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「相手の了解を得て実際に買収が完了するまで平均4〜5年かかる」と強調する。「M&Aの滞りが日本の新興企業の成長が遅い理由の一つだ」と語り、M&A市場の活性化が必要と説く。(大平祐嗣、奥貴史、藤井太郎)

【健保組合の4割が赤字、高齢者医療費負担重く 22年度】
 同じ13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 全国におよそ1380ある健康保険組合の4割で2022年度の収支が赤字となったことがわかった。21年度の53%を下回ったものの、 医療費の増加が想定を上回り、厳しい財政状況は続いている。赤字が続けば保険料率の引き上げにつながる。
全国の健保組合が加盟する健康保険組合連合会が近く発表する。
 22年度の全体の決算は1400億円弱の黒字となったようだ。新型コロナウイルス禍で多くの国民が受診を控えたため、健保組合があらかじめ支払った高齢者医療向け拠出金のうち、約1400億円の余剰が生じた。
22年度は特殊要因による黒字決算だった。健保連は23年度は3600億円の赤字になると推計する。人口が多い団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療費が増えることが主因だ。高齢者医療への拠出金は毎年増加し、さらなる財政悪化が見込まれる。
 健保組合の加入者1人当たりの保険料は22年度におよそ51万円と過去最高だった。後期高齢者医療制度ができた08年度から12万円増加した。介護保険料は5万円ほど増え11万7000円だ。
 平均保険料率でみても9.3%弱と過去最高だった。08年度比で2ポイント弱上昇した。現役世代の負担は膨らみ続け、給付と負担のバランスを是正する必要性が増している。
 物価の上昇が続くなど経済の先行きは見通しにくい。先細りする現役世代で高齢者を支える今の仕組みでは現役世代へのしわ寄せが大きくなる。世代間の負担を公平にしながら社会保障給付費を抑える改革が求められる。
 厚生労働省によると、22年度の医療費の概算は46兆円で過去最高を更新した。75歳以上の医療費は18兆円でこれも過去最高だ。医療費増の勢いは一段と強まっている。
 一方で個別の健保の運営も難しさを増している。とりわけコロナ禍で影響を受けた小売業や宿泊業・飲食サービス業の保険料率は10%を超えた。
 背景にはこれらの業種で賃金の回復が鈍いことがある。保険料率の算定に使う「標準報酬月額」は、宿泊業で新型コロナ禍前の19年度と比べてマイナス2.6%、飲食業でマイナス0.2%となっている。全産業平均では1.3%増だった。
 賃金が低ければ、健保の運営を維持するために、保険料率を引き上げざるを得ない。とはいえ、10%の保険料率は主に中小企業が加盟する全国健康保険協会(協会けんぽ)の平均料率だ。
 協会けんぽには公費も投入されており、10%を上回れば健保組合を維持するよりも協会けんぽに移行した方が労使の負担は軽くなる。「解散ライン」ともいわれる。
 22年度に健保連に加盟する組合数は5組合減少した。単独で組合を維持することが困難などの理由で6組合が合併し2組合が解散した。新たに3組合が新設された。

【上場企業の配当、最高の15兆円 郵船など43社が上方修正】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 上場企業が株主還元を拡大している。2023年4〜6月期決算を受けて24年3月期の配当予想を上方修正した企業は43社と金融危機後で3番目に多く、全体の3割が前期比で増配を予定する。配当総額は15兆円と過去最高の見通しだ。手元資金が積み上がっていることに加え、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の向上を求めていることが背景にある。
 3月期決算企業(変則決算など除く)約2360社を日本経済新聞が集計した。増配や減配などは株式の分割や併合の影響を考慮した実質ベースで判定した。配当総額は予想1株配当に発行済み株式数を乗じて算出した。配当予想が未開示の企業は市場予想の平均(QUICKコンセンサス)を使った。
 4〜6月期決算を受けて年間の配当予想を上方修正したのは43社。この時期に配当予想を上方修正した社数が直近で最多だったのは、新型コロナウイルス禍から急回復した21年4〜6月期の98社。当時は業績を上方修正した企業も全体の20%と多かった。今年は上方修正した社数は8%にとどまったが、PBR対策に加え、6月末の上場企業(金融など除く)の手元資金が100兆円近くと潤沢なことから株主還元に積極的だ。
 配当予想を据え置いた企業を含め、前期比で増配を予定する企業は全体の3割にあたる約740社にのぼる。配当総額は前期比1%増の約15兆3000億円で過去最高となる。上場企業の株式の約2割は個人が保有している。単純計算で約3兆円が家計に入り、消費を後押しする効果も期待できそうだ。
 経済活動の正常化や供給制約の解消で業績の先行きに自信を持つ企業で上方修正が目立つ。サンリオはテーマパークの入園者数が回復し、キャラクター商品の売れ行きも好調で24年3月期の業績予想を上方修正。年間の1株配当は期初予想から10円増やし45円(前期は35円)とする。
 デンソーは自動車の挽回生産や通期の想定為替レートを7円弱円安方向に見直したことで24年3月期の純利益を期初予想から610億円引き上げた。年間の1株配当(10月1日の株式分割前ベース)は200円(前期は185円)と期初予想から10円増やす。
 前期比で減益を見込むものの、期初の想定ほどは落ち込まず配当予想を小幅に引き上げた企業もある。日本郵船は8月上旬、年間配当を期初予想から10円引き上げた。コンテナ船運賃の下落などで減益の見込みだが、為替の円安効果や自動車輸送船事業などが堅調で、24年3月期の純利益を前期比78%減の2200億円と、期初予想から200億円上方修正した。
 日本製鉄も24年3月期の純利益見通しを前期比42%減の4000億円と期初予想から300億円上方修正。年間の1株配当も従来予想から10円増やした。
 コスモエネルギーホールディングスは株主還元の方針見直しに伴い、配当予想を上方修正した。同社は8月上旬に年間配当の下限を200円から250円に引き上げると発表。24年3月期の純利益は前期比19%減の見込みだが、新方針にあわせて年間の1株配当を期初予想比50円増の1株250円(前期は150円)とする。
 背景にあるのはPBR対策だ。コスモHDは1倍に届かず、改善に向けた取り組みとして配当と自社株買いを純利益で割った総還元性向(在庫評価を除く)の目標を50%から60%以上にすると3月に表明した。植松孝之専務執行役員は決算会見で「年間配当250円でも総還元性向60%には足りない」と述べ、さらなる株主還元も視野に入れる。
 株主還元を拡充する動きは今後も続きそうだ。東証プライム上場企業(親子上場の子会社など除く)の24年3月期の純利益は前期比6%増の見込みで最高益を更新する。6月末時点の手元資金も高水準で還元の余地は大きい。
 東証が求めるPBR1倍割れの解消も積極還元を促す。PBRは株価が上がれば高くなる。理論上の株価を求める方法として、将来にわたり支払われる配当の現在価値の合計とする考え方があり、一般的に増配は株価にプラス材料だ。大和証券の阿部健児チーフストラテジストは「配当は23年度、24年度と増加が続き、23年4〜9月期決算発表では低PBR企業の株主還元が増える可能性がある」と指摘している。

【阪神が18年ぶりリーグ優勝 「アレ」合言葉に首位独走】
 同じ14日の日経速報メールは次のように報じた。
 プロ野球のセ・リーグは14日、優勝マジックを1としていた阪神が2005年以来18年ぶり6度目の優勝を決めた。同日に本拠地の甲子園球場で行われた巨人戦に4-3で勝った。
 05年の前回優勝を率い、今季から復帰した岡田彰布監督の下、強力な投手力を前面に出して守り勝つ野球を展開した。開幕から4連勝で滑り出し、5月に9連勝、8月には10連勝と着実に白星を積み上げた。
 六回、2ランを放った阪神の佐藤(8番)。本拠地の甲子園で18年ぶりの優勝を決めた。
 7月28日以降は一度も首位を譲らず、9月も負けなしの11連勝と、終盤に勢いをさらに加速させた。セ・リーグの全球団に勝ち越すなど、シーズンを通して安定した戦いぶりが光った。
 先発投手では、昨季までプロ未勝利だった村上頌樹とソフトバンクから移籍してきた大竹耕太郎が新戦力として台頭。3年目左腕の伊藤将司を含めた3人が10勝に到達し、優勝への大きな力となった。
 クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージに出場する。レギュラーシーズン2位と3位が争うCSファーストステージの勝者と6試合制(優勝チームに1勝のアドバンテージ)で戦い、レギュラーシーズン2位から勝ち上がって進出した2014年以来の日本シリーズ出場を目指す。
岡田監督「今日でアレは封印」
 ――6回宙を舞ってどんな気持ちか。
 「明日から広島(マツダスタジアム)に行くので、甲子園でたくさんのファンの前で絶対に決めようと、みんながその気持ちでいた」
――9回の最後の瞬間は。
 「難しい局面は分かっていたが、1点でも勝ち。岩崎が一番分かっているので、安心して見ていた」
―最後は11連勝で決めた。
 「勝負は9月と言い続けた。まさか9月にこんなに強くなるとは思っていなかった。勝ち過ぎた。これは選手のおかげと思う」
――監督から見たここまでの道のりは。
 「あまり苦しい時期もなかった。5月にすごい勢いで連勝があったので。その結果が8月、9月の成績だと思う。まだまだ個々の選手は若いし、伸びると思うので、来年からも楽しみです」
――「アレ」と言い続けたことが実現した。
 「まさかここまでみんなに浸透するとは思わなかった。今日でアレは一応封印して、みんなで優勝を分かち合いたい」
――選手やスタッフにはどんな言葉を掛けたいか。
 「ちょうど去年の9月、監督就任要請を受けた。18年も優勝から遠ざかっていたので、まさかこんなに早くこの日を迎えられると思っていなかった。これはフロントも含めてみんなの力が結集した結果。強いタイガースをつくって、みなさんと喜びを分かち合えたら最高だと思う」
――日本一に向けて。
 「アレ(優勝)は達成したけど、次のステージ。クライマックスシリーズもあるけど、そこも乗り切って。当然みんな分かっていると思うけど、1位で通過したので負けられないし、日本で一番最後まで試合できるように頑張りたい」

【内閣支持率42%、横ばい 改造「評価せず」49% 日経世論調査】
 同じ14日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本経済新聞社とテレビ東京は13、14日に第2次岸田再改造内閣の発足や自民党の役員人事を受けて緊急世論調査をした。 内閣支持率は42%で、8月の前回調査から変わらず横ばいだった。内閣を「支持しない」は1ポイント上昇し51%となった。
 過去の調査結果をみると、内閣改造の直後に支持率は上がることが多かった。支持率は6月の調査で39%まで下がった。今月の調査までに3ポイント戻した。
 新しい閣僚と党執行部の顔ぶれについて「評価しない」との回答は49%で「評価する」の28%を上回った。
 評価しない理由の首位は「派閥の意向にとらわれていた」(27%)だった。次いで「若手の登用が進んでいない」(15%)が目立った。
 評価する理由は「女性の登用が進んだ」(35%)が最多となった。「安定感がある」(17%)が続いた。
内閣を支持する理由のトップは「自民党中心の内閣だから」で31%が回答した。支持しない理由の1位は「政策が悪い」で45%が答えた。
 政党支持率は自民党が38%で、8月調査から変わらなかった。日本維新の会は11%で、立憲民主党の6%より高かった。支持政党のない無党派層は24%にのぼった。8月調査は維新10%、立民5%、無党派層33%だった。
 日経リサーチが13、14日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で調査し、749件の回答を得た。回答率は39.2%。
 
【アームが米上場、初値56.10ドル 売り出し価格10%上回る】
 15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ニューヨーク=竹内弘文】ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計アームは14日、米証券取引所ナスダックに新規上場した。初値は56.10ドルとなり、売り出し価格51ドルを10%上回った。アームが設計する半導体の需要増に対する期待の強さを映した。
 米東部時間14日正午すぎ(日本時間15日午前1時すぎ)に初値を付けた。初値を基にする時価総額は約575億ドル(約8兆4500億円)となった。時価総額の規模で2023年最大の新規株式公開(IPO)となった。アーム株は初値を付けた後に上昇に弾みがつき、60ドルを突破する場面があった。
 9月上旬に実施した機関投資家向けロードショーでは47〜51ドルの仮条件で投資家の需要を調査し、13日に売り出し価格を仮条件の上限51ドルで決定していた。上場にあたりSBGは約10%のアーム株を売り出したが、事前の申し込みは売り出し株数の10倍を超えた。
 SBGの孫正義会長兼社長は14日、米CNBCのインタビューで「人工知能(AI)が人類よりも賢くなりつつある」と述べ、アームが「AI革命」による恩恵を大いに受けると指摘した。アームの開示資料によると、米国のアップルやエヌビディア、グーグルなどがアームに出資する方針だ。
 アームはスマートフォン向けの半導体で圧倒的なシェアを持つ。近年は車載半導体やデータセンター向けなどほかの分野でもシェアを拡大している。アームのレネ・ハース最高経営責任者(CEO)はロードショーで、CPU(中央演算処理装置)の出荷数拡大にくわえて各CPUが搭載するコア数の増加といったトレンドを背景にした成長ストーリーを投資家に訴えていた。

【中国の新築住宅価格、74%の都市で下落 8月】
 同じ15日の日経速報メールは次のように報じた。
 【北京=川手伊織】中国国家統計局が15日発表した2023年8月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、前月比で価格が下落したのは全体の74%にあたる52都市だった。7月から3都市増えた。家計が雇用など将来不安を抱えるなか、マンション販売は低迷から抜け出せず値下がりが広がっている。
 3カ月連続で半数を上回る都市で値下がりした。前月比で上昇したのは17都市で、7月から3都市減った。横ばいの都市は1都市だった。
 都市の規模別で8月の価格変化率の平均をみると、北京、上海、広州、深圳の「1級都市」は前月比0.2%下落した。7月は前月比横ばいだった。省都クラスの「2級都市」も0.2%低く、それより小さい「3級都市」は0.4%下がった。
 取引価格が比較的自由で市場の需給を反映しやすい中古物件では、94%にあたる66都市で値下がりした。都市数は7月から3都市増えた。4カ月連続で値下がり都市が過半を占めた。住み替え目的で家を売り出す人が多く、価格下落圧力がかかりやすくなっている。

【NTTデータ、日本の防災システム輸出 まずインドネシア】
 15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 NTTデータが日本式の防災システム「Lアラート(災害情報共有システム)」を輸出する。官民が発信する災害情報を一元化してスマートフォンやテレビに一斉配信するのが特徴で、2024年夏にインドネシアで稼働を始める。東南アジアの他地域での展開も検討する。災害の多い日本で培ったデジタル技術が新たな輸出産業になる。
 インドネシアの情報通信省とシステム納入契約を交わした。総額約18億円で政府開発援助(ODA)を活用する。同省はシステム運営で現地企業の参加も検討している。
 NTTデータはLアラートを基にインドネシア向けのシステムを構築する。Lアラートは日本では11年に稼働し、現在はNTTデータが総務省の外郭団体の委託を受けて運営している。災害時に気象庁や消防庁、自治体など公共機関のほか、電力やガスなど民間企業からもデータを集約し、放送局や携帯電話事業者に一斉配信する。住民は気象警報や避難、停電、通信障害などの関連情報を一元的に把握できる。
 インドネシアに納入する防災システムには文字や地図情報の配信機能も組み込む。避難勧告や避難指示のレベルを地域別に色分けして表示するなど、災害の危険度を住民に分かりやすく伝えられる。さらに自動車の通行情報や気象衛星画像も取り込めるようにするなど機能を強化していく。
 海外の防災システムは米IBM、フィンランドのノキアなどが主に手がけ、フィリピンではIBMがシステムを開発した。ただ、地震検知や洪水予測などのシステムや、自治体向けの防災無線が主流だ。Lアラートのように官民から幅広い情報を集めて放送や通信で一斉配信するシステムは世界でも珍しく、自然災害が多い日本のノウハウが蓄積されている。
 自然災害は世界で増加傾向にある。国連防災機関(UNDRR)によると、00年から19年に発生した大規模な自然災害は7348件と、1980〜99年の20年間に比べて74%増えた。防災システムの需要も世界的に拡大しており、調査会社のパノラマデータインサイトによると市場規模は30年に298億ドル(約4.3兆円)と20年の約2倍になる見通し。
 NTTデータは6月から独自に防災ビッグデータ基盤の運用を日本で始めた。Lアラートの情報集約の仕組みに、個人が発信するSNS(交流サイト)の情報などを加え、防災情報の精度を上げているのが特徴だ。システムを東南アジア各国に売り込む。政府もデジタル防災技術を新たな輸出産業と位置づけるほか、ODAでも継続的な事業拡大が見込めるデジタル分野に力を入れている。
 NTTデータは11〜12年度に総務省がインドネシアで実施したLアラートの実証実験にも参画した。こうした実績を今回の受注につなげた。

【新興企業、仮想通貨で資金調達可能に VC投資呼びやすく】
 同じ15日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府はスタートアップ企業の資金調達に関する規制を緩和する。スタートアップが投資ファンドから出資を受ける際に、株式などの代わりに暗号資産(仮想通貨)を渡せるようにする。デジタル資産の取り扱いで日本は国際的に遅れている。国内スタートアップの資金調達手段を多様化する。
 新制度の対象となるのは投資事業有限責任組合(LPS)と呼ばれるファンドだ。スタートアップが発行する有価証券への投資を目的に複数のベンチャーキャピタル(VC)などが資金を出し合ってつくる。
 出資額を超えるリスクをとる必要がないため、VCなどはLPSの形態でスタートアップへ投資するのが一般的だ。
 現行制度はLPSによる投資対象を株式やストックオプション(株式購入権)に限っている。デジタル資産では金融商品取引法で規定するセキュリティートークン(デジタル証券)に投資できる。
 新ルールではこの対象に暗号資産やトークン(電子証票)を加える。政府は2024年にもLPS法の改正案を国会に提出する。
 トークンはブロックチェーン(分散型台帳)技術を基盤に発行する。株式と違い、証券会社などの仲介者を挟まずに短期間で準備できる。
 これまで日本では仮想通貨やトークンに出資する環境が十分に整っていなかった。今回の規制緩和が実現すれば、仮想通貨で資金調達するスタートアップがVCなどに有償でトークンを渡せる。
 個人投資家に加えてVCの資金も呼び込みやすくなり、より大きな資金調達が可能になる。
 仮想通貨やトークンによる資金調達は次世代インターネット「Web3(3.0)」関連の新興企業が主に活用する。
米調査会社CBインサイツによると、世界のWeb3企業の22年の資金調達額は151億ドル(およそ2兆円)で18年の15倍だった。
 22年後半は仮想通貨交換業大手のFTXトレーディングの破綻などを受けて調達額は落ち込んだものの、23年1〜3月期以降は下げ止まったようだ。
 日本でもブロックチェーン事業を手がけるハッシュパレット(東京・港)など数社がトークンでそれぞれ10億円規模の資金を調達した。
 だがLPSがトークンに投資できないことから、こうした出資に日本国内のVCや機関投資家は参加しておらず、Web3企業などの成長の恩恵を受けられていない。
 新興企業はシンガポールやドバイなどでトークンを発行することが多い。VC側でもスカイランドベンチャーズがシンガポールの現地法人を通じて海外企業のトークンに投資している。
 政府は24年度以降の税制改正で仮想通貨やトークンを時価評価の対象から外すことも検討する。投資をためらう一因になっているとの声があるためだ。
 VCには「LPS法の改正は悲願の一つだが、それだけで仮想通貨による資金調達が急増するとは考えにくい」(ビーダッシュベンチャーズ)と税制改革を求める声も強い。
 LPSの海外投資に関する規制も緩める。海外企業への出資比率を50%未満とする現行の上限を撤廃する。VCやファンドが投資機会の拡大により得た収益を、国内のスタートアップ投資に充てる好循環をつくる。

【農家が8割減る日 主食はイモ、国産ホウレンソウ消滅? 1億人の未来図】
 17日の日経速報メールは次のように報じた。
 食卓から国産の農作物が消えていく。民間の推計では2050年、国内の農業人口が現状より8割も減る。生産は激減、必要なカロリーを賄うためにイモが主食の時代がやってくるかもしれない。世界で人口が増える中、輸入頼みを続けられるか。飽食の意識を変える必要がある。
 山形県飯豊町の舩山文利さん(76)は22年秋の収穫を最後に離農した。約300年にわたってコメ作りをしてきた家系。約3.5ヘクタールの田を耕してきた。
 体力に限界を感じていた同年8月、東北や北陸などを豪雨が襲う。収穫量は減り、農作機械も故障した。「続けていく気力も奪われた」。娘は別の職に就いており、跡継ぎはいない。田の大半を放置していたが、近隣で借り手が何とか見つかった。
 国内の農家数は農業法人も含め23年2月で92万9千戸。高齢化は著しい。農林水産省によると、自営での農業従事者の平均年齢は22年時点で68.4歳で、86%を65歳以上が占める。
 このままでは離農が急速に進む。三菱総合研究所は農家数が50年に17万7千戸になると推計する。現在に比べて実に81%も減る。その間の人口は16%減の見込み。「胃袋」に比べ、農家の減少は急激だ。
 食卓を彩る国産農作物が減ってしまうかもしれない。16〜21年の収穫量の減少がそのまま続くと仮定すると、ホウレンソウは49年には生産がゼロに、ダイコンは50年に半減する。果物ではサクランボや日本ナシが生産できない。
 主食のコメはどうか。三菱総研によると、50年には291万トンに。22年比で56%減少し、需要に対して約100万トンも下回るという。
 日本は現状も食料を輸入に依存している。直近の食料自給率はカロリーベースで38%。米国は110%、ドイツは80%をそれぞれ超えるなど、日本は主要7カ国(G7)で最も低い。
 ウクライナ危機で穀物は値上がりし、世界の争奪戦は激しい。円安も重なり調達コストも上がった。その中でさらに輸入に頼れるかは分からない。ほぼ100%を輸入に頼る肥料の原料も確保が難しくなっている。
 どうすれば胃袋を満たせるのだろう。農水省は1人当たり1日2168キロカロリーの摂取が必要と推定する。8月公表の試算では、現在のコメや小麦中心の作付けで可能な限り生産量を増やしても、1720キロカロリーしか得られないとした。
 一方、イモ類中心の作付けなら国内生産のみで2368キロカロリーになると試算。輸入に頼らずとも賄える。イモは生育に比較的手がかからないとされ、カロリーも高い。戦中・戦後の食糧難の時代は貴重な栄養源だった。
 同省が想定する献立を試してみた。朝食は焼きイモ2本と食パン1枚、サラダ2皿と果物。かなり満腹だ。昼食は焼きイモ2本と粉ふきイモ1皿、野菜いため2皿。空腹を感じてなかったものの完食できた。夕食はごはん一杯に粉ふきイモ1皿と漬物、焼き魚。どうにもイモには箸がのびない。
 この献立は3日目の昼食までが限界だった。必要なカロリーを満たすための献立で、農水省も「あくまでも極端な仮定」と説明する。確かにおなかは満たされるのだが……。
 政府は将来的に食料を確保できるよう、農政の基本理念や政策の方向性を示す食料・農業・農村基本法の見直しを進めている。5月に公表した中間とりまとめでは効率的な農業経営の推進や、農家が持続的に作物を生産できる価格への引き上げなどを掲げた。
 効率化へ期待されるのが農業技術の進展だ。クボタは24年1月に人工知能(AI)付きのカメラなどを搭載したコンバインを発売する。障害物を検知すると自動で停止し、作物の高さなども学習して自動で収穫ルートを最適化する。
 ベンチャー企業のスプレッド(京都市)は同年、中部電力などと静岡県袋井市で1日10トンを生産する世界最大規模のレタス工場を稼働させる計画だ。人工光などを使って栽培工程のほとんどを自動化する。
 これら技術の進展だけで間に合うか。日本国内では、まだ食べられるのに廃棄される食品が年間523万トン発生する。1人当たりに換算すると、茶わん約1杯分の食べ物が毎日捨てられていることになる。
 飽食の時代は終わりが近づいている。食の未来を守るには食材の無駄をなくし、農業が存続できる価格への理解を深めるなど、身近な行動の積み重ねも必要となる。(筒井恒、グラフィックス 茂木麻美、映像 大須賀亮)

「半農」増やし、みんなで農業 鈴木宣弘・東京大教授(農業経済学)
 世界の人口は増えていき、食料不足が大きな課題となっている。中国は14億人を1年半食べさせるだけの備蓄を確保しようと、世界中から食料を買い集めている。対する日本は1カ月半の備蓄しかない。
 政府は2030年度に食料自給率を45%に高める目標を掲げるが、今のままでは下がっていく。これまでも5年ごとに目標値を設定しているが、工程表すらつくったことがない。農家の平均年齢は70歳近くになっており、あと10年もすれば多くの農村は崩壊する。
 これまで日本は、農業の将来にあまり目を向けずに工業化を推進してきた。その結果、食料は海外に依存するようになってしまった。
 今回の食料・農業・農村基本法の改正では、農家が減って輸入も難しくなるため、食料安全保障の確保へ抜本的な策を打ち出すと思った。だが、自給率をこれまでよりも軽視しているような内容にみえる。
 改正案で示した農業法人のさらなる効率的な生産などは必要かもしれない。だが米国やオーストラリアのような広大な農地は少なく、効率化は現実的ではない。例えば、他の仕事をしながら農業にも携わるような「半農」の形態を増やすということも必要だろう。
 極端に言えば、自分たちで食材を作るしかない。農家が地域住民に農作業を教え、耕作放棄地も使って身近な地域で生産から消費までの循環型の仕組みをつくりあげる。そうした意識を国民が持つ必要がある。

【プレゴジン氏の「亡霊」、SNSに広がる混乱の火種】
 17日の日経速報メールは次のように報じた。
 8月下旬、6月に反乱を起こしたロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が不慮の墜落死を遂げた。SNSを政治闘争の舞台とする同氏の手法は、長期化するウクライナ侵攻の中で確立された。ネット上には混乱の火種が広がり、ロシア政府の言論統制の足かせとなっている。
 過去に米大統領選へのネット情報工作に関与したプリゴジン氏は、ウクライナ侵攻においてもSNS「テレグラム」を戦略的に使った。政敵に不都合な情報を動画などで次々と発信し、世論を味方につけて発言力を高めた。
 プリゴジン氏の勢いを後押ししていたのはテレグラム上の「軍事ブログ」だ。メディア統制が進むロシアにおいて、政府やテレビが伝えないウクライナ侵攻の前線などの情報を伝達する。ワグネル関連のアカウントは軍事ブログネットワークの一部となり、お互いの投稿を拡散し合うことで影響力を強めていった。 
 軍事ブログの登録者が10倍に
 軍や政権を批判したことのある主な軍事ブログを日本経済新聞が分析したところ、登録者数がウクライナ侵攻前の10倍になっていることがわかった。ワグネル関連と、米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が報告書で言及した計37アカウントの平均登録者数は約50万人。影響力の指標となる1投稿あたりの平均累計閲覧数は7月に30万件を超え、過去最高の水準となった。
軍事ブログに関する主な動き
 進攻当初、前線情報の発信で人気が高まる。
 3カ月後、戦況悪化が隠せなくなり政権批判が目立ち始める。
 日経の22年の調査で分析したワグネル系軍事ブログなども、侵攻当初は政府のプロパガンダに沿う偽情報を拡散していたが、次第に政権批判につながる発信を増やしていった。
「嘘が繰り返され、皆死んでいっている」
22年9月の部分動員令では兵士が訓練なしに前線へ送り込まれていると、軍事ブログから批判が続出。
 23年春、プリゴジン氏が国防省の腐敗や戦場での失策を大々的に非難。
 「ショイグ!ゲラシモフ!弾薬はどこだ!こいつらは誰かの父親であり、誰かの息子だ。志願兵として来たのに、お前たちのために死んでいった」
 23年5月、プリゴジン氏はロシア軍幹部2人をやり玉にあげ、横たわる遺体の前で弾薬不足の惨状を批判する動画を投稿した。
 プリゴジン氏関連のテレグラムアカウントは反乱の前後からフォロワー数が急増し、その後も高い発信力を維持している。
 一方、大統領府(クレムリン)もテレグラムでの発信を強化している。ワグネルの反乱を受け、6月24、26日には公式アカウントで大統領演説を繰り返し流し、一つは600万近い閲覧数に達した。ただ、全体としての影響力は軍事ブログに劣る。7月の公式アカウントの1投稿あたりの平均閲覧数は20万件前後で、軍事ブログ平均の6割程度にとどまっている。
 テレグラムにおいて、軍事ブログの影響力がクレムリン公式を上回る状況は、8月23日の飛行機事故でプリゴジン氏が死亡した後も変わらない。8月中旬の平均閲覧数は25万件前後で推移し、追悼式の後は35万件を超えた。一方、同時期、クレムリンは12万件前後だった。

軍事ブログは批判拡散の主役
 次に、戦争研究所の報告書を基に、ロシア軍や政権を批判した主なテレグラムの投稿をリスト化し、軍事ブログなど、どのアカウントを経由して批判情報が拡散していたかを分析した。
 政権批判の投稿をシェアするなどして、平均10万以上の閲覧につながる主な「供給元」になっていたアカウントは113。このうち、軍事ブログ(黄色)が32と約3割を占めた。
 中でも、11 の軍事ブログは平均して100万以上の閲覧につながる主要な流通経路となっていた。
 テレグラムで登録者100万人を超えるロシアの政治関連アカウントは6つのみ。平均100万を超えて投稿を拡散するアカウントは社会的な注目度が高い存在といえる。
 軍事ブログの他には、アクセス獲得狙いのニュースアカウント群(水色)も拡散に貢献。
 反体制メディア「メドゥーザ」(赤)やBBCなどの欧米メディア(オレンジ)のロシア語版も批判の拡散に寄与していた。
「軍事ブログ」とは
米シンクタンク、大西洋評議会 ルスラン・トラッド客員研究員
 国内の宗教右派・愛国主義者など幅広い大衆を読者に持ち、時に政策への影響力を持つ。シリアでの従軍記者や軍人などを源流とし、政府機関の出身者も多いが一枚岩ではない。国防省や情報機関が後ろにいる場合が多い。
 ここまで辛辣に軍・政府を批判するのは前例がない。プロパガンダ拡散に貢献してきたがゆえに批判も見逃されてきたが、最近は締め付けが厳しくなる兆候がある。
政府はけん制
 侵攻当初、軍事ブログはロシア政府の思惑に沿った投稿をしていた。
 だが、戦況悪化で批判的な投稿が増え、国防省は「西側諸国を利する否定的な情報は公表しないように」と検閲を導入する動きをみせた。これに一部の軍事ブログが反発。侵攻が長期化する中でプリゴジン氏らが先鋭化し「政権を厳しく批判するかつてない状況」(トラッド氏)へと発展した。
 「みなさんはプロフェッショナル。飛び交う銃弾をくぐりぬけてきた」
 プーチン大統領は23年6月、有力な軍事ブロガーらを大統領府に呼んでそう語りかけた。政府は、7月に辛辣な批判を続けた元軍人ブロガーのイーゴリ・ギルキン氏、8月末にギルキン氏と主張が近い別の軍事ブロガーを逮捕するなど、世論統制に躍起だ。
 政府の取り締まりに加え、プリゴジン氏の反乱に同調する勢力がいなかったこともあり、直接的に政権を批判するブログの投稿は減少した。ただ、ロシア政府が完全にSNS空間を抑え込んだわけではない。登録者数や閲覧数は減っておらず、発言の拡散が容易な状態は続く。

テレグラムは主要メディアの1つに
 テレグラムは侵攻後、欧米大手のSNSが22年3月に遮断された結果ロシア都市部の若者の主要メディアになった。独調査会社スタティスタによれば、全世界の月間アクティブユーザー数は7億にのぼる。サイトアクセス解析サービスのシミラーウェブによれば、デスクトップ経由アクセスの4分の1が人口約1億4千万人のロシアからという。
 開発はロシアで始まったが、規制を逃れて拠点やインフラを国外に分散させており、ロシア政府も強権を行使しにくい。
 慶応大SFC研究所の小宮山功一朗上席所員は「ロシア政府は2018年にもテレグラムを遮断しようとしたが、技術的な面でうまくいかなかった。政府もテレグラムを通した情報の流れを完全に止められないことは分かっている」と指摘する。
 新たな混乱の引き金にも
 8月24日、政府の拘束下にあるギルキン氏はテレグラムに、弁護士経由で「プリゴジン氏の死はロシアの混乱がさらに深まっていることを示す。(ソ連崩壊前後の混迷した)90年代が戻ってきた」 と投稿した。ギルキン氏の支持者らは同氏を代表とする新たな政治組織を立ち上げた。
 ロシア独立系調査機関のレバダセンターによると、プーチン大統領の支持率は約80%と高い水準で推移する。一部のSNS世論の広がりが24年3月の大統領選挙に与える影響は今のところ、微小とみられる。
 テレグラムの言論空間を容易に締め付けることができないことは、プリゴジン氏が明らかにしたロシアの実態と言える。今後、大衆の不安が高まる局面で、新たな混乱の引き金となる可能性がある。
 調査の概要
 テレグラムの過去のデータは「テレグラムアナリティクス」の分析ツールを使い、2020年から23年7月20日までの期間について取得した。その後、プリゴジン氏の死を受け、死の前後1カ月のデータも追加取得し検証した。登録数や閲覧数の分析に使った37の軍事ブログは、米シンクタンク、戦争研究所の報告書で軍・政権を批判する投稿発信が指摘されていたもの(分析ツールにデータが存在しなかったものは除く)とワグネル関連のもの。軍や政権を批判する主な投稿の拡散経路調査でも、戦争研究所の報告書から分析対象とする投稿を抽出した。経路の分析対象としたアカウントはロシア語・ロシア登録のものに絞った。各データの解釈については、防衛研究所の山添博史・米欧ロシア研究室長から助言を受けた。

【ラグビー日本代表、18日イングランド戦 堅守攻略なるか】
 17日の日経ニュースメールは次のように報じた。試合開始の約8時間前のもの。
 【ニース(フランス)=谷口誠】ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会で日本代表は17日午後9時(日本時間18日午前4時)から1次リーグ第2戦のイングランド戦に臨む。優勝経験を持つ大国との対戦は、2大会連続の8強入りの行方を左右する大一番となる。
 前回大会以降、この格の相手に勝てていない日本にとっては全てが必要となる試合だ。まずは相手の重いFWへの対策。13-52と完敗した昨年の対戦のようにスクラムで崩されては話にならない。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは「経験が重要になる」と37歳のフッカー堀江翔太(埼玉)を先発に起用。老練なスクラムのかじ取りに期待する。
 長谷川慎スクラムコーチは「やられる前にやることがすごく大事」。重さをまともに受けないよう、「立ち合い前」の駆け引きで相手を窮屈な姿勢にさせることができるか。この局面が得意な相手プロップのエリス・ゲンジは後半から出場しそうで、正面に入る選手の対応力もカギになる。流れの中でのFWの突進も脅威で、日本は今年磨いてきた体の芯を当てるタックルで断ち切りたい。
 アルゼンチンとの初戦でイングランドはパス回数の半分以上ものキックを使うという、極端だが伝統的な戦い方で完勝した。今回もハイボールを上げ、再確保できても良し、ノックオンでスクラムになっても良しという戦術を採るはず。迎え撃つFBセミシ・マシレワ(花園)は「高さや(空中での)衝突で勝ちたい」と話す。
 相手の強みを絶った上で、日本の生命線である攻撃をどう機能させるか。現在のチームは相手によって多彩な戦術を使い分ける。目安となるのがパスとキックの比率。チリ戦では比較的多くのキックを使ったが、前回大会でアイルランド、スコットランドという強豪を破ったときはボールをつないで攻めた。
 CTBにディラン・ライリー(埼玉)ではなく、巧みなランで狭いスペースを攻略できる長田智希(同)を抜てきしたのは、パスを主体に戦う決意の表れかもしれない。無論、イングランドも警戒している。WTBジョニー・メイは「日本ほど多くのパスをするチームは世界中、他にない」と話す。
 逆にイングランドほど速い守備ラインを持つ国も他にない。凡庸なパス回しではタックルの餌食となるか重圧を感じてミスをしてしまう。まして率いるのは15年W杯で日本のコーチを務めたスティーブ・ボースウィック監督。「全ての平地にラグビー場があり選手が猛練習していた。初めての光景だった」。15日の記者会見では合宿の「聖地」、長野県菅平の思い出を披露。熟知する古巣の攻撃を絶つため策を巡らしているだろう。
 両チームの強みがぶつかり合うこの局面。焦点は大外でラックができた後、SHからFWの4人組がパスを受ける場面だ。攻撃の方向が中央に限定されるので守備側にとっては的を絞りやすい。リーチ・マイケル(BL東京)は「工夫をして細かいパスを多くし、SHから少しでも前に出れば自分たちのアタックができる」。鬼門を突破すれば日本の攻めは加速し、3大会連続の「格上撃破」へと近づく。

【日本、イングランドに敗れる ラグビーワールドカップ】
 18日早朝の日経速報メールは次のように報じた。
 【ニース(フランス)=谷口誠】ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会第7日の1次リーグD組は17日(日本時間18日)、ニースで行われ、日本は前回準優勝のイングランドに12-34で敗れて1勝1敗となった。イングランドとの対戦成績は11戦全敗。
 初戦でチリに勝った日本は前半、SO松田力也(埼玉)がPGを3本成功させ9-13の僅差で折り返したが、後半はイングランドに3トライを決められ突き放された。1勝1敗で勝ち点は5のまま。4トライを奪ったイングランドは2連勝で勝ち点9とした。
 2大会連続の決勝トーナメント進出を目指す日本は28日(同29日)にサモア、10月8日にアルゼンチンと対戦する。

【日本 前半競るも後半突き放される】
 NHKは次のように報じた。
 世界ランキング14位で前回大会を上回るベスト4以上を目指す日本は初戦でチリに勝ち、17日、ニースで前回大会準優勝で世界6位のイングランドと対戦しました。
 日本は初戦から先発メンバーを4人入れ替え、ふくらはぎのけがで初戦を欠場したキャプテンの姫野和樹選手やチーム最年長37歳のフッカー、堀江翔太選手などが先発出場しました。
 日本は試合開始早々、ペナルティーゴールで3点を先制されましたが、スタンドオフの松田力也選手が2つのペナルティーゴールを決めて6対3と逆転しました。
 そのあと前半24分にラインアウトからのミスをきっかけにイングランドにトライを奪われ6対10と再びリードされました。32分に松田選手がペナルティーゴールを決めて1点差に迫りましたが、前半終了間際にイングランドにペナルティーゴールを決められ9対13で前半を終えました。
 日本は後半14分、松田選手がこの試合4本目のペナルティーゴールを決めて再び1点差に迫りましたが、その2分後にイングランドにトライを奪われました。
 このあと日本は松島幸太朗選手や途中出場のディラン・ライリー選手がスピードをいかした攻撃で大きく前進しましたが、トライを奪うことはできませんでした。
 その後は、イングランドのボールを展開する攻撃に防戦一方となり、終盤、2つのトライで突き放され、12対34で敗れました。日本の1次リーグの成績は1勝1敗となり、勝ち点は5のままです。
 日本は今月28日、日本時間の29日に1次リーグの第3戦で世界11位のサモアと対戦します。
番狂わせはならずも1次リーグ突破の可能性は十分残る
 去年11月のテストマッチで13対52の大敗を喫した日本。雪辱を果たそうと挑み、最後まで粘りましたが再びイングランドの壁に跳ね返されました。この試合、過去1度も勝ったことのない相手に日本は「歴史を変えたい」と臨みました。
試合前、スタッフや選手たちは「相手は何をやってくるかわかっている」と口をそろえ、対策は十分だと話していました。ただ、スクラムは善戦したものの警戒していたキックで攻め込まれ、フィジカルが強い相手に徐々に押し込まれることが増えていきました。前々回、前回とワールドカップで格上に勝利してきた日本ですが、この試合は番狂わせとはなりませんでした。
 ただ次のサモア戦、その次のアルゼンチン戦、そしてライバルチームの結果次第で1次リーグ突破の可能性は十分残されています。強豪イングランドとの対戦で出た課題を修正し、まずは7月のテストマッチで2点差で敗れたサモアに確実に勝利することが求められます。史上初のベスト4以上を目標に掲げる日本の戦いはこれからも続きます。

【米中、対話維持で首脳会談探る 外交トップ12時間協議】
 同じ18日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ワシントン=坂口幸裕、北京=田島如生】米中の外交担当トップは16〜17日、地中海のマルタで会談した。米政府高官は17日、協議が計12時間ほどにおよび「建設的だった」と述べた。関係安定へ対話を維持し、11月に米国で開く国際会議に合わせた米中首脳会談を探る。
 米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相が2日間にわたり話し合った。両氏の会談は5月にオーストリアの首都ウィーンで実施して以来になる。
 米ホワイトハウスは17日の声明で「今後数カ月、さらなるハイレベルの関与と協議を追求すると約束した」と記した。
 米政府は11月中旬に米西部カリフォルニア州のサンフランシスコで予定するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会に、バイデン米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による対面会談の実現をめざす。
 バイデン氏は今秋の習氏との会談に繰り返し意欲を示してきた。米高官は16〜17日の協議を踏まえた首脳会談の可能性を問われても言及を避けた。
 米国務省は17日、ブリンケン国務長官が18日にニューヨークで中国の韓正(ハン・ジョン)国家副主席と会談すると発表した。韓氏は23日まで訪米し、国連総会の一般討論に参加する。
 米中はブリンケン氏が6月に訪中したのを機に、閣僚を含む高官対話が拡大している。イエレン米財務長官やレモンド米商務長官らも7〜8月に首都・北京を訪れた。台湾や人権など幅広い分野で対立する両国が軍事衝突に発展しないようパイプを維持し、関係を安定させる狙いがある。
 米高官は17日、記者団に2日間の協議で①アジア太平洋の政治・安全保障、②海洋問題、③軍備管理――などに関する話し合いを近く始めることで合意したと明かした。核軍縮を含む軍備管理は中国が米国による対話の呼びかけを拒否してきた分野になる。
 米政府によると、マルタの協議では滞ってきた軍同士の対話再開について「(中国側が)関心を示す僅かな兆し」があった。中国は6月に米国が求めた国防相会談を拒むなど軍高官の意思疎通に後ろ向きだったが、8月にフィジーで米インド太平洋軍のアキリーノ司令官が中国の軍当局者と協議した。
 一方、突如交代した秦剛前外相や2週間以上動静が伝えられていない中国の李尚福国防相について中国側から説明はなく、米国からも提起しなかった。
 サリバン氏は台湾海峡の平和と安定の重要性を重ねて強調した。中国外務省によると、王氏は台湾問題に言及し「越えてはならないレッドラインだ。台湾独立を支持しないという約束を履行しなければならない」と訴えた。
 ウクライナ情勢も話し合った。王氏が18日にロシアの首都モスクワでラブロフ外相と会談するのを前に、サリバン氏は中国による対ロ支援に改めて懸念を伝えた。殺傷力のある武器供与に踏み切らないようクギを刺す思惑があったとみられる。
 ロシアは侵攻の長期化や米欧などに科された制裁で自国での武器生産に必要な部品や原材料を賄えず、軍事物資が枯渇する。北朝鮮やイランに接近し、軍事協力の拡大を志向する。
 王氏は17日にマルタのベッラ大統領と会い、同国がサリバン氏との対話の場を仲介したことに謝意を伝えた。同氏との会談について「包括的で深く有益だった」と振り返った。

【半導体、経済安保の主戦場 産業と防衛のコメを囲い込む】
 18日の日経速報メールは次のように報じた。
 半導体が産業だけでなく、経済安全保障の主戦場になっている。各国・地域は経済安保の観点から半導体をできるだけ自国内で製造できるよう、工場の誘致合戦を繰り広げる。先端技術や素材を囲い込む動きも活発で、米中が対立する地政学が浮かび上がる。
 世界で半導体工場の建設が相次いでいる。半導体業界の国際団体SEMIによると2022〜24年に着工する工場数は世界で71棟と、直近の3年間(19〜21年)に比べ25%増える。大きく伸びた国・地域は米国や日本、欧州・中東で、着工数は2〜3倍に伸びた。一方、中国や台湾は工場着工のペースが鈍っている。
 背景にあるのは米欧中の半導体確保に向けた危機感だ。半導体は産業に加え、防衛にも欠かせない「コメ」のような存在になっている。米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と米国半導体工業会(SIA)のまとめでは、2000年には世界のわずか2%しかなかった中国の半導体製造能力が30年には24%にまで伸びる見通しだ。
 中国は国策により、自前であらゆる半導体を作れる体制を急速に築きつつある。一方、西側諸国は台湾有事のリスクも念頭に、世界最大の半導体製造国・地域である台湾と中国に半導体供給を依存する状況を避けようと、自国に工場を増やし始めている。
 半導体の工場には巨額の投資が必要だ。各国・地域は「異次元の支援策」(経済産業省)で、製造基盤を呼び込む。米国では22年にCHIPS法が成立し、5年間で390億ドルを投じる。欧州の半導体法案では30年までに430億ユーロ(467億ドル)規模の官民投資を計画する。
 日本も2兆円を投じ、世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を熊本県に誘致したり、先端半導体の量産を目指すラピダスの北海道工場建設を進めたりしている。
 Q1  半導体をたくさん作って、何に使うの?
身の回りには半導体を使う製品があふれている。スマートフォンやパソコンといった通信機器のほか、エアコンやテレビなどの家電、自動車も半導体がなければ動かない。ロボットや高速通信規格「5G」の通信網、発電所など、幅広い産業にも欠かせない。ミサイルや戦闘機など軍事兵器にも使われるため、半導体の輸出規制の根拠にもなっている。
Q2 いつから対立始まったの?
米トランプ政権下での米中摩擦が発端になった。中国に対して米国製半導体の取引や技術の提供を禁じ、同盟国にも同調を求めた。新型コロナウイルス禍で起きた世界的な半導体不足も拍車をかけた。半導体の供給網を自国で確保しなければ経済活動が止まるとの危機感で各国政府が海外調達への依存を減らそうと動いている。
Q3 競争の焦点は何だろう?
製造能力だけでなく、より先端の半導体を作る技術力も各国・地域が競う。半導体は電子回路を細かく描くほど性能が上がる。ずばぬけた計算能力を持つ量子コンピューターや、大量のデータを演算・蓄積できるデータセンターには高性能の半導体が必要だ。先端半導体を作れる台湾、韓国、米国のメーカーは、工場進出の決定時も主導権を握りやすい。

【バス運転手、2030年度に3.6万人不足 24年問題も影響】
 同じ18日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・バスの運転手が不足し、都市部でも減便が広がる
・残業規制が適用される2024年問題が大きく影響
・大阪や福岡では自動運転導入に向けた実験も進む
 全国でバス運転手不足が深刻になっている。地方だけでなく都市部でも減便が相次ぐ。業界団体は2030年度に全国で約3割の運転手が不足すると試算する。東急バス(東京・目黒)と神奈川中央交通が定員2倍の「連節バス」を24年度から横浜市で運行するなど各社は運転手減少を前提とした対策を急いでいる。
 バス会社でつくる日本バス協会(東京・千代田)は30年度時点のバス運転手が9万3000人と、約3万6000人足りないと試算する。乗り合いバスと貸し切りバスの合計で、現在の路線網を維持して貸し切り需要も続くとの前提で、車両10台以上を保有する全国約800のバス会社への調査をもとにまとめた。試算結果を近く発表する。
 厚生労働省によるとバス運転手の平均年齢は22年時点で53歳。今後大量退職が見込まれ、新規採用では補えない。24年4月に運転手に残業規制が適用される「2024年問題」もあり、路線網の維持に必要な人員も約8000人増える。
 影響は各地で出ている。大阪府富田林市など4市町村でバスを運行する金剛自動車(富田林市)は11日、乗務員不足と利用者減などを理由に12月20日でバス事業を廃止すると発表した。広島市中心部では広島電鉄や広島バス(広島市)など7社が4月のダイヤを改正し、6%減便した。
 各社は対応に追われる。神奈川中央交通と東急バスは輸送人員を約2倍に増やした113人乗りの「連節バス」12台を、24年度から横浜市内の主要路線で運行する。「3年間で運転手が300人以上減っており、運行本数を抑えつつ輸送力は維持する」(神奈川中央交通)。連節バスは西日本鉄道や新潟交通なども導入している。
 広島市では広島市とバス8社が「共同運営システム」を導入する予定。広島市が共用の車庫や休憩所を整備して経営を支援。各社は互いの重複路線を見直す。
 自動運転の導入に向けた動きも進む。大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)は25年の国際博覧会(大阪・関西万博)での導入を目指し、自動運転バスの実験を進めている。
 厚労省の調査ではバス運転手の22年の年間所得は399万円と全産業平均より98万円低い。一部企業は待遇改善を進めるが、同じ「24年問題」を抱えるトラック業界の待遇改善が先行し、トラックに人手が流れているという指摘もある。
 日本バス協会の清水一郎会長は「国と連携して外国人運転手の活用可能性についての検討も進めたい」と話す。国土交通省は在留資格の特定技能の対象にバス運転手を含む自動車運送業を23年度中にも追加する方向で調整を進めている。(高垣祐郷)

【「地域限定保育士」全国に拡大へ 法改正で人手不足緩和】
 同じ18日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は特定の地域に限って勤務を認める「地域限定保育士」を全国に拡大する。現在の対象は国家戦略特区の指定を受ける自治体に限定している。2024年にも児童福祉法を改正し、全国で生じる保育士不足の緩和につなげる。
 地域限定保育士は登録して最初の3年間は試験を受験した特区の地域でのみ働ける仕組みで、通常の保育士とは異なる。4年目以降は全国での勤務が可能になる。業務内容は変わらない。
 保育士不足の自治体が対応を求めて実現した。15年度から特区法に基づき国家戦略特区で実施している。現在は神奈川県と大阪府などが導入している。22年度は神奈川で371人、大阪で417人、沖縄県で92人が合格した。
 通常の保育士試験と異なり、受験が必須となっている実技試験を講習で代替できる。通常の実技試験ではピアノ伴奏などの「音楽」、絵を描く「造形」、童話などを聞かせる「言語」の3分野から2つ選び、限られた時間で課題に取り組み合否をつける。
 実技講習は3つの分野について講師による講義やグループワークなどを設けている。保育現場の見学実習などを含めて5日間程度実施する。合否を決めずに講習の修了認定を受ける。
 受験者にとって実技講習は通常の試験よりも心理的な負担が軽い。一発で合否が決まる試験では緊張して実力を発揮できない受験者もいるという。22年度の保育士試験全体の合格率が3割程度で、地域限定保育士の合格率は大阪府と沖縄県で3割を超えた。
 政府は国家戦略特区での適用を経て制度を全国に展開できると判断した。実技内容の違いで地域限定保育士と通常の保育士に差が生じることはなかった。4年目以降に他県で働いた場合でも問題なく勤務できている状況を確かめた。
 保育士不足の緩和には待遇面を改めるのも欠かせない。給与増などで保育士の働く意欲を高める必要がある。
 保育士は全国で不足している。厚生労働省の調査によると、22年度の保育士の有効求人倍率は2.46倍だった。22年度平均(1.31倍)を大きく上回った。
 政府は6月にまとめたこども未来戦略方針で保育士の配置基準を改めると明記した。保育士1人当たりの業務負担を軽くするのが目的で保育士全体の需要は高まる。
 保育所などを希望しても入所できない「待機児童」は減っている。4月1日時点で過去最少の2680人となった。5年連続で過去最少を更新した。
 その一方で特定の園を希望したなどの理由で入所できなかった「隠れ待機児童」は4月時点で6万6168人と前年から4885人増えた。共働き世帯も増加していて保育士の需要は高まっている。

【政府、資産運用業の海外勢参入促進 首相がNYで表明へ】
 19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は日本の資産運用業の強化へ海外からの参入を促進する。世界から有力なファンドマネジャーらを呼び込み、競争を活性化する。少額投資非課税制度(NISA)の抜本拡充・恒久化に続き、日本を投資する国・される国に変える第2弾と位置づける。
 岸田文雄首相はニューヨーク訪問中の21日午後(日本時間22日未明)に投資家ら向けの講演を予定する。資産運用業について「構造改革を断行する」と表明し、参入を呼びかける。
 大手の銀行や証券、保険のグループ会社といった資産運用会社のほか年金基金などの改革を想定する。日本から魅力的な運用商品を打ち出し、個人の選択肢を広げる。
 政府は6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で資産運用立国の実現を掲げ、参入支援や競争の促進に取り組むと記載した。運用業界への参入障壁となる慣習への対応が課題になる。
 例えば金融庁が8月に発表した金融行政方針は投信の基準価格を算出する際、運用会社と信託銀行がそれぞれ計算して毎日照合する慣行があると紹介した。欧米では二重計算せず信託銀行などが価格を算出しており、非効率だとの意見がある。
 海外からファンドマネジャーらを招く必要もある。高度な能力を持つ外国人材の呼び込みにはかねて語学の障壁や住居探しなど各種手続きの煩雑さといった難点が指摘されてきた。
 首相は2022年5月のロンドンの金融街シティー、同年9月にニューヨーク証券取引所で講演している。今回の講演はニューヨーク経済クラブ主催で「この1年の日本の成果と今後の決意」として説明する。
 日本の名目国内総生産(GDP)成長率や国内投資、賃金の伸び、株価などの経済指標に触れ「30年前以来のパフォーマンス」と売り込む。「日本に投資いただくことを強く求めたい」とのメッセージを出す。
 日本の資産運用セクターが運用する資金は800兆円で、3年間で1.5倍に急増しており「このパフォーマンスの向上を狙い、運用の高度化を進める」と訴える。国民の貴重な資産の運用強化は国民の生活を守る上で重要との認識を示す。
 NISAの拡充や恒久化に続き「今後増加する投資ファンドを運用することになる資産運用業とアセットオーナーの改革を行う」と言明する。
 日本は運用の専門家の層が薄く、国内の資産運用会社は米欧のファンドに運用を一任するケースが多い。首相は日本の取り組みが遅れていると認めた上で「構造改革を断行していく(we will decisively carry out structural reforms)」と訴える。
 年金基金などのアセットオーナーにも運用に精通した人材が不足し、十分な収益が上げられない課題がある。
首相は投資先に関してもコーポレートガバナンス(企業統治)の改革の実効性を高めると明言する。PBR(株価純資産倍率)などを意識した経営と計画の策定・開示・実行を促進する。
 講演では秋に「構造的な賃上げ」と「持続可能性強化のための官民投資」の2つに重点を置いた経済対策を打ち出す考えも明らかにする。
 労働市場改革を前に進めることに高い優先度を置く。「リスキリング(学び直し)」「日本型職務給の導入」「成長分野への円滑な労働移動」の3つを挙げ、三位一体の改革として推進すると強調する。女性や外国人材が活躍できる環境整備にも意欲を示す。
 官民投資は環境や人工知能(AI)、半導体、バイオ、核融合エネルギーなど先端分野を列挙する。予算・税制・規制のあらゆる面で世界と競争できる「投資支援パッケージ」をつくり実行する構想を打ち出す。

【地方へ回復の波、4割超で地価上昇 訪日客や投資追い風】
 同じ19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 地価回復の波が地方に広がってきた。国土交通省が19日発表した2023年の基準地価は全用途の土地の上昇割合が全国の44.7%に上り、新型コロナウイルス禍で沈んだ20年から倍増した。国内投資と訪日客、再開発の3つが主な要因だ。海外から人やカネを呼び込めるかが持続性を占う。
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上昇の起点となったのは景気を映しやすい都市部だ。三大都市圏で上昇した地点の割合は、新型コロナの影響が出た20年時点の33.5%から23年は80.8%に高まった。
 住宅需要はなお強い。三大都市圏の住宅地の前年比上昇率は19年の0.9%から2.2%に拡大した。大和ハウス工業のマンション事業本部・角田卓也部長は「再開発などで将来の資産性が期待できる物件で高収入層を中心に安定的な購入が続いている」と明かす。
 不動産経済研究所によると、首都圏の新築分譲マンションの1戸当たり平均価格は9940万円で7月として過去最高だった。1億円に迫る過熱ぶりだ。
沸く「新城下町」
勢いは地方にも波及している。象徴的なのが大型投資で沸く北海道千歳市だ。
「1年前と比べて住宅市場に出回っている物件数は半減した」。北海道の不動産仲介大手、常口アトム(札幌市)の大橋一弘・千歳支店長はこう話す。千歳市は2月に次世代半導体製造のラピダスの工場の建設が決まった。早くも建設関係者などの住宅需要が高まる。
同市内の住宅地は全国の上昇率ランキングの上位3位を独占した。伸び率が最も高かったのはJR千歳駅近くの地点で、1年間の上昇率は3割を超える。オフィス需要や中長期的な人口増を見据え、千歳市は商業地の上昇率でも全国の2〜4位を占める。
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が工場建設を進める熊本県菊陽町周辺も好調だ。住宅地や商業地で20〜30%の上昇が相次ぎ、関連企業の進出によって工業地も足りなくなっている。
コロナ対応の水際措置の緩和で急回復したインバウンド(訪日外国人)の影響も大きい。
インバウンド回帰
人気観光地の飛騨高山がある岐阜県高山市の商業地は前年のマイナス2.4%からプラス2.4%に転じた。国指定史跡「高山陣屋」の周辺など観光客が集まる3地点でいずれも上昇し、10%近く上がった地点もあった。
観光客が増えれば、新規投資につながる。JR高山駅周辺では22年12月に高級ホテル「メルキュール飛驒高山」が開業。24年には星野リゾート(長野県軽井沢町)が奥飛驒温泉郷で温泉旅館を開く。
不動産鑑定士の小池育生氏は旺盛なホテル需要も背景に「観光地は全面的な回復が続く」とみる。
再開発でオフィス需要
再開発が進む地区でも上昇が目立った。福岡市は商業地が11.2%上昇した。同市はビルの高さや容積率の規制を緩和する「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」で建て替えを促す。新たなにぎわいを期待して店舗やオフィスを求める動きを呼び寄せた。
今後の焦点となるのは、コロナ下で地価相場の一定の支えとなった海外マネーの動向だ。日本の低金利環境では、ドルを元手に円を調達して不動産に投じれば利益を上げやすい。
 不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)によると日本の不動産投資額は23年1〜6月で2兆1473億円と前年同期から52%と大幅に伸びた。海外投資家の購入額は足元で5130億円ですでに22年通年の6割に達した。
大東雄人・リサーチ事業部シニアディレクターは「日本は先進国の中でも数少ない不動産の投資リターンが見込める市場だ」と分析する。
一方で、世界的な物価高騰を受けた各国中央銀行の金融引き締めによって金利が上がり、投資環境は一変した。日本の超低金利がいつまで続くかは見通せない。
三井住友トラスト基礎研究所の坂本雅昭・投資調査部門長は「米国の投資家による日本の不動産への投資意欲はやや弱まっている」と話す。
中国の不動産不況といった新たなリスクも生じている。坂本氏は「中国の不動産市場が悪化した場合、日本市場を支えるアジアの投資家の投資姿勢にも影響が出る恐れがある」と指摘する。

【薬の価格引き下げへ 診療報酬改定、財源の使途巡り議論】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 厚生労働省は医療の対価として医療機関が受け取る診療報酬を2024年度に改定し、薬の公定価格(薬価)を引き下げる。患者負担を軽減するとともに医療費を圧縮する。浮いた財源を少子化対策や医療従事者の賃上げに回すなどどう使うかが焦点となる。
日本医師会は物価高などに対応するため医師の技術料を上げるよう要求を強めている。ただ医療費への切り込みが甘くなれば少子化対策に回すお金が不十分になる恐れがある。
 厚労省は20日、2年に1度の診療報酬の改定内容を決める中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)の会合を開き、本格的な議論に入る。
 診療報酬は健康保険証を使う医療費の総額を表す。処方や投薬などで使われる医薬品や医療機器の公定価格を定める薬価部分と、検査・手術・入院など医療の技術やサービスの対価にあたる本体部分に分かれる。
 厚労省は24年度の報酬改定で薬価部分を引き下げる方針だ。病院や薬局への卸売価格は卸業者間の競争によって薬価より安くなる。厚労省は薬ごとに価格差がどの程度生じているかを調査し、差を縮めるため毎年度、薬価を引き下げている。
 12月までに薬価調査を終え、結果をもとに値下げする薬の対象範囲や値下げによる医療費の抑制効果をまとめる。24年4月に引き下げる。23年度は3000億円規模、22年度は6000億円規模で医療費の伸びを抑えた。
 医療費の4分の1は国費で賄うため薬価を下げれば国費が浮く。厚労省は本体部分の引き上げに活用する考えだ。一方、財務省は24年度予算案で計上する社会保障費の圧縮や少子化対策の拡充にあてることをめざす。
 財務省は23年度の医療費は48兆円と推計する。診療報酬を1%プラスに改定すると高齢化による伸びに加えて医療費が4800億円膨らむ。14年度以降の過去5回の改定では薬価の引き下げで薬価部分は1%台のマイナス、本体部分は0%台のプラス、全体でマイナス改定という構図が続く。
 改定率は24年度の予算編成の論点の一つになる。厚労省と財務省で協議し年末に決める。今回は数十年ぶりとも言われる物価高・賃上げの局面で、医療界からは本体部分のプラス改定を求める声が強い。
 医療費の予算は少子化対策にも影響する。政府は24年度以降の少子化対策の拡充に向け、社会保障分野の歳出改革で財源を捻出する。社会保険料に上乗せして徴収する支援金制度も創設する。支援金は改革で保険料の伸びを抑えた範囲内で導入する。
 診療報酬以外の制度改正として、厚労省は主に中小企業の社員や家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)への国庫補助の減額を24年4月に予定する。
 会社員が払う保険料のうち、65〜74歳の高齢者の医療費に回る部分を給与水準に応じて増減させる仕組みを導入する。主に大企業がつくる健康保険組合の負担が増え、協会けんぽの負担は減る。これに伴って協会けんぽへの国の補助も減る。1290億円の国費を削れると試算する。
 武見敬三厚労相は診療報酬や少子化対策などの財源として税収の上振れ分も活用する考えを示したが、税収は経済動向に左右される。歳出改革を徹底しないことには社会保障制度の持続性も高められず、少子化対策の財源確保もままならない。

【ゼレンスキー氏「侵略者倒すため団結を」 国連で演説】
 20日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・国連総会で各国首脳による一般討論演説始まる
・ゼレンスキー氏は侵攻後初めて対面で演説した
・ロシアに対抗するため団結と支援継続を求めた
【ニューヨーク=佐藤璃子、朝田賢治】国連総会で19日、各国首脳による一般討論演説が始まった。ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによる侵攻開始以降、初めて登壇した。「ロシアはあらゆる物を武器として利用している」として、新興国などを苦しめる食料高騰や気候変動対策の遅れの元凶はロシアにあると指摘。「侵略者を倒すため団結を」と呼びかけた。
【関連記事】「団結は戦争を防ぐ」 ゼレンスキー大統領の演説全文
 「団結すれば、戦争を防ぐことができる」。世界の首脳を前に、ゼレンスキー氏はこう切り出し、ロシアに対抗するための団結と、侵攻によっていかに世界が影響を受けているかを訴えた。
侵攻から1年半がたち、各国には支援への疲れも目立つ。再び世界の目をウクライナに向け、ロシアへの包囲網を固め直す意思を示した。
 「ロシアは食料価格を武器として利用している。アフリカから東南アジアに至るまで影響を被っている」「他国の発電所を攻撃することで、汚い爆弾に変えている」「政府の下で子どもの大量誘拐をしている。これは明らかに大量虐殺だ」――。ゼレンスキー氏は食料やエネルギー、原子力発電所、組織的な子どもの誘拐がロシアによって武器として使われていると非難した。

支援疲れに警戒感
 昨年のビデオ演説では、ロシアによる犯罪の告発と処罰を求めるメッセージから始めた。今回はそれと異なり、2国間の戦いではなく世界各国とロシアとの戦いだと強調し、支援継続を求めた。
 背景にあるのは国際社会の間で広がる厭戦(えんせん)ムードへの警戒感だ。新興国や発展途上国の間では、長引く侵攻の影響で食料やエネルギー価格が上昇して自国の経済環境も苦しく、早期の和平を望む声も少なくない。
こうした見方に対し、ゼレンスキー氏は自身が提唱するロシア軍撤退などを盛り込んだ和平案「平和の公式」について、140以上の国や機関が全面的か部分的に支持していると主張。20日に開く安全保障理事会に出席し、国連憲章の下での和平案を探る方針を示した。
 各国の賛同を得やすい環境問題も引き合いに出した。「人類が気候変動政策の目標を達成できていないにもかかわらず、モスクワが大規模な戦争を始め、数万の人々を殺害した」とも述べた。モロッコでの地震やリビアでの洪水を念頭に、気候変動や災害への対応がロシアによって遅延しかねないと批判した。
 ゼレンスキー氏は約15分間にわたって演説した
 一方的に支援を要求しているとの見方を払拭し、ウクライナへの支援が各国の利益につながるとの印象を広げようとの狙いも垣間見える。黒海穀物合意に参加した国々の指導者への感謝の言葉を述べた場面では、出席者らからの拍手に包まれた。

昨年の熱狂乏しく
 演説の間、ロシアはポリャンスキー国連次席大使が着席していたが、下を向いて携帯電話をのぞくシーンが目に付いた。米国はトーマスグリーンフィールド国連大使が聴いた。約15分間の演説終了後は拍手が起こったが、昨年のように出席者が総立ちとなって敬意を表する場面はみられなかった。
 19日の総会初日は、国王や大統領など各国元首が登壇した。自身の演説のタイミングに合わせて会場入りする首脳も多いなか、ゼレンスキー氏は開会時間の午前9時前に着席し、各国の演説に傾聴した。
 一般討論演説のトップバッターとなったブラジルのルラ大統領は、安保理の機能不全を指摘し「ウクライナへの侵攻は、我々が集団として無能であることを露呈した」と批判を強めた。

西側と新興国で温度差
 ウクライナ侵攻を巡っては、支援強化を求める西側諸国と、食料・エネルギー危機で不満が高まる新興国との間で温度差が広がっている。「対話に基づかない解決策は長続きしない」と改めて和平への貢献を求める姿勢を示した。
 ブラジルのルラ大統領に次ぎ2番手で登壇したバイデン米大統領は「この総会は、2年連続でロシアが隣国ウクライナに対して仕掛けた違法な戦争の影に覆われている」と発言。「ロシアだけが平和を妨害している。ウクライナの屈服、領土、子どもたちを、平和の代償として要求している」とロシアを痛烈に批判した。
 「米国は世界中の同盟国やパートナーとともに、主権と領土、そして自由を守る勇敢なウクライナの人々とともに立ち向かい続ける」。こうしたバイデン氏の発言に、各国の首脳からは拍手が沸き起こった。一方で、武器供与などの具体的な支援継続を求める発言はなかった。

【北戴河にいた軍長老の名 曽慶紅隣席で習氏に無言の圧力】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 「この夏、あの『海辺』にいたのは、力のある選(え)りすぐりの長老だ。ほんの数人だけである」「そのうちの一人は、(中国人民解放)軍の長老だ」「問題の(長老らとの)会合後、トップ(中国共産党総書記の習近平=シー・ジンピン)は、自らの側近を前に感情をあらわにした」
 中国の内情をうかがい知ることができる複数の人物の証言である。海辺とは河北省の海浜にある保養地、北戴河を指す。そこは毎夏、長老と習ら現役指導部メンバーが重要事項について意見交換する場だ。
 ところが今夏は、奇妙なことに、いわゆる意見交換の場ではなかった。現役の最高指導部メンバーは、出席した数少ない長老らの代表者一人だけが口にした彼らの「総意」にじっと耳を傾けるだけだったのだ。
 どういうことなのか。代表者は先々週、このコラムで詳しく紹介した元国家副主席の曽慶紅(84)である。だが、もう一人、極めて重みのある人物がいた。長年、軍の重要ポストを務めた威厳ある長老だ。
 その名は、遅浩田。この夏、94歳になった。「習近平時代」の中国の若い人々は、名さえ知らない人物だろう。しかし、1980年代から中国に関わる人々にとっては、忘れられない名だ。多くの有名軍人を輩出してきた山東省の出身である。
 「改革・開放」政策にカジを切った鄧小平(故人)は、最高実力者として軍の掌握と、軍近代化に努めていた。1980年代、軍政畑の長い遅浩田を要の総参謀長に抜てき。遅浩田はその後、10年にわたり国防相を務めた。
 一部、重なる形で制服組トップ級の中央軍事委員会副主席と、国務委員(副首相級)も歴任した。非の打ちどころのない輝かしい軍歴だ。軍のご意見番として尊敬を集めてきたのは当然だった。
 恒例の旧正月を前にした現指導部による長老への「挨拶回り」を紹介する中国の発表文でも遅浩田の名は、生粋の軍出身者として最も前にある。これは序列の高さを意味する。遅浩田は鄧小平生誕100周年の際も軍を代表して記念文を寄せた。
 1990年代、北京に駐在していた筆者は、その威厳ある軍人、遅浩田の現役国防相当時の声を現場で直接、耳にした。1998年3月26日のことだ。日中防衛交流で訪中した当時の陸幕長、藤縄祐爾と北京で会談した際だった。
  「(日中)防衛交流で信頼が増し、地域の安全保障にも貢献できる」。遅浩田は藤縄に告げた。上の写真は当時、北京で撮影したものだ。今の秘密主義と違って、軍もオープンだった。会談前の時間、控室で遅浩田はリラックスしていた。我々、日本人記者が写真撮影を頼むと気軽に応じていたのである。

軍長老・遅浩田氏は沈黙し一言も発せず
 それから25年。この夏、遅浩田は、曽慶紅とともに北戴河入りし、隣席にどんと構えた。ところが、その場で軍長老は一言も発しなかった。基本的に沈黙を保ったままだったという。興味深い。
 習が中央軍事委トップの主席に就いた後、新たに打ち出したスローガンは「(共産)党の指揮(命令)を聞き、それに従う軍隊」だ。これを軍内の隅々に浸透させるため軍施設に掲げられる全看板まで入れ替えた。それまでは、前々任の中央軍事委主席、江沢民(故人、ジアン・ズォーミン)の時代から続く彼の言葉が掲げられていた。
 おかしい。習の打ち出した標語を素直に聞けば、従来は共産党の指揮に従わない軍隊だった、ということになる。人民解放軍は、そもそも共産党を守る軍隊として設立された。軍は初期の共産党そのものである。だからこそ、1989年には、共産党独裁体制を守るため、学生らの真摯な民主化要求運動を武力弾圧し、多くの死者まで出した。
 まさに、ここが肝だ。今から振り返れば、習は「党の指揮を聞き、それに従う」というスローガンで、実質的に自らへの絶対の忠誠を求めたといってよい。今や中央軍事委メンバーで共産党中央を代表する「文民」は、習ただ一人である。
 習は、鄧小平と、その息がかかった江沢民に近い軍内勢力の一掃に動く。そして自らへの絶対忠誠を確立するため、引退していた徐才厚ら制服組の元トップクラス(元中央軍事委副主席)の元老に対しても「腐敗問題」で厳しい調査を始めた。
そして多くに無期懲役という厳しい処断が下された。拘束された徐才厚は、ストレスもあってか、膀胱(ぼうこう)がんが悪化して全身に転移し、2015年3月、入院中のまま死亡した。
 その後も軍要人の失脚は続く。中央軍事委政治工作部のトップだった張陽は、重大な規律違反の疑いによる軟禁中、自宅で首つり自殺した。第19回共産党大会が閉幕した後の2017年11月のことだ。旧勢力一掃の厳しい追及は今も続く。
 一方、今年、軍内でここまで大事件が起きても軍の規律は絶対である。現役組は共産党を守る軍人としての矜持(きょうじ)もあって、どんなに不満があっても、それを口にできない。代わりに軍長老が、軍内の真の危うい雰囲気を北戴河会議などを通じて現役指導部に伝える。それが軍長老の役割でもある。
 ただし、今や習は共産党中央の別格の指導者だ。90代の軍長老、遅浩田でも、習を前に直接、批判的な発言をするのは「ご法度」。だからこそ代表者、曽慶紅を前面に立て、自らは発言しなかった。
 それでも習は居心地が悪かっただろう。いまだ軍内ににらみを利かせる長老が隣に座っているからこそ、曽慶紅の厳しい諫言(かんげん)を無視できないのだ。実力組織である軍の長老による無言の圧力は大きい。

長老の独自会合は半ば公
 そもそも今回、長老らは北戴河に先立ち、北京郊外とみられる場所で、じっくりと意見交換していた。これまで習は、長老らが個別に会ったり、集まって勝手に意見交換したりするのを非常に嫌っていた。
 そこで出るであろう「習批判」が人口に膾炙(かいしゃ)すれば、権力基盤に響きかねない。そこで習は、様々な「お触れ」を出し、長老が独自会合を開くのをけん制してきた。自分の側近らをフル活用し、監視の目も光らせてきた。
 ところが、今夏の長老らの事前協議の集まりは「(いわゆる)秘密会合ではなかった」とささやかれている。習指導部も半ば公認した会合。認めざるをえなかったともいえる。
 中国の政治、経済、社会が相当な苦境にあることは、習も認識している。かつてなく高い失業率もあって、若者らは既に動き出している。昨年末の「白紙運動」の広がりは、共産党幹部には衝撃だった。「この状態下で共産党体制の行方を真摯に心配する老人の声まで全て封殺するのは得策ではない」。そういう判断のようだ。
 長老らの核は、習と同様、革命期から共産党で要職を務めた幹部の子弟である「紅二代」「太子党」だ。曽慶紅もそうである。混乱回避には、彼らの声も一定の範囲内で聞く必要があった。ただ、習とすれば、これは単なる「ガス抜き」という認識だっただろう。
しかし、長老らの総意に基づいて曽慶紅が口にした習指導部への諫言は、極めて厳しい内容だった。もはや、単なるガス抜きではなくなった。この雰囲気は、1カ月近くかけて各地の共産党内にも伝播(でんぱ)し、内部で微妙に波紋を広げている。
 消息不明である国防相の李尚福(65)の現状については、なお公式発表がない。だが既に失脚に追い込まれたという情報が世界を駆け巡っている。これには駐日米大使のエマニュエルまで言及した。李尚福は、外相から解任された秦剛と同様、副首相級の国務委員を兼任している重要人物だ。

相次ぐロケット軍幹部失脚、習氏が進める大粛清の意図
 この異常な軍への措置は、何らかの政治的な意図を持つ習が、十分に準備した後、主導的に措置をとった「軍内粛清」なのか。それとも、追い込まれる形で行動に出ざるをえなかったのか。それは謎のままだ。
 ただ、ひとつだけ、はっきりしているのは、軍がある種の混乱の中にあるという事実だ。それは当然だった。8月の北戴河会議と、その前の長老らの会合があったとみられる頃、軍には大きな異変があった。
 まず8月1日、核・ミサイルを運用するロケット軍の司令員の拘束が明らかになる。司令員と政治委員というトップ2人は前日の人事発表で、既に更迭されていたことが判明していた。さらにロケット軍の元副司令員が7月初めに死亡していた事実も判明。自殺という見方が出ている。混乱の裏には「機密情報の漏洩」という重大事件があるとの情報も中国内で出回りつつある。
 核・ミサイルに関わる専門軍種であるロケット軍の新たなトップ2に抜てきされたのは、何と海軍の出身者と、空軍の出身者だった。急に部外者がきても専門的運用が要るロケット軍をうまく動かせるはずがない。現場に強い不満があることは、想像に難くない。
 続いて軍の事務、対外関係を一手に担う国防相の李尚福まで理由不明のまま解任される場合、組織内がさらに混乱しないはずはない。しかも、李尚福は比較的、高齢にもかかわらず、習自身があえて抜てきした人材とみられていたからだ。
 異常な軍内粛清の動き、国防を担う現場の混乱、そこにくすぶる様々な形の不満……。これらが、北戴河会議に、軍内ににらみを利かせる真の長老、遅浩田が現れたことに関係していることだけは間違いない。(敬称略)

【マクドナルド、店舗への配送頻度2割減 2024年問題対応】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本マクドナルドは物流倉庫から店舗への食材・資材の配送頻度を10月から2割減らす。2024年から始まるトラック運転手などの残業時間の年間上限の規制に対応する。輸送トラックの走行距離を短くする効果があり、二酸化炭素(CO2)排出の削減にもつなげる。
 小売業界ではコンビニエンスストアが店舗への配送回数の見直しで先行していた。外食にも物流効率化の動きが広がってきた。
マクドナルドの全国約3000店のうち、約1100店が配送見直しの対象となる。店舗網の約4割に相当する規模だ。
 配送回数は週6回から週5回に減らすのを標準とする見通し。見直し後の配送回数は店舗によって異なる。配送回数を減らしても売り上げが下がるのを防ぐため、配送1回あたりの荷物を増やせる時間を割り出し、商機を逃さないように積載量を最適にする。
輸送トラックの運行時間は、一定のエリアごとに効率良く周回して配送できるようにシフトを改める。
 配送方法も一部店舗で見直し、運転手の負荷も減らす。運転手が担っていた店内への物品の運び入れを店の従業員に代える。
 配送頻度の削減は、約3000店の店舗運営データ分析に基づいた。配送頻度を減らしつつ、食材の鮮度を落とさないようにした。店舗別の売り上げをはじめ、週間の納品量と保管できる在庫量などのデータを踏まえて導き出した。
 日本マクドナルドの児島健治サプライチェーン本部上席部長は「店舗の売り上げが増えた一方で、保管できる在庫量は変わらないため配送頻度が増える傾向にあった」と話す。24年問題を見据えてトラック台数や走行距離の削減に全店ベースで取り組む必要があった。
 外食は相次ぎ24年問題対応に動く。ファミレスチェーン「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングスは10月、運営する天丼チェーン「てんや」の物流センターを埼玉県内に新設する。ここから運ぶ食材・資材は、他の外食企業との混載便で届けて配送効率を高める。
 小売業界ではセブンーイレブン・ジャパンが順次、店舗への加工食品や菓子の即日配送を取りやめており、24年2月までに全国に広げる。ローソンも24年3月までに弁当や総菜の店舗への配送を1日3回から2回に減らす。
 野村総合研究所は24年問題が影響し、30年には全国で想定される荷物の総需要のうち約35%が運べなくなる可能性があると予測する。配送頻度の多い外食や小売り産業は、運転手を長時間拘束しがちで、効率化の取り組みが急務となっていた。

【東芝へのTOB成立へ、国内連合が3分の2以上取得見通し】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 東芝は20日、日本産業パートナーズ(JIP)と国内連合によるTOB(株式公開買い付け)が成立したようだと発表した。応募が成立に必要だった3分の2を上回った。株主総会などの手続きを経て、年内にも上場廃止となる見通し。
 不正会計や巨額損失をきっかけにした株主との対立などを経て、ファンド傘下で再建を急ぐ。TOBは1株4620円で8月8日から開始し9月20日まで30営業日をかけて実施していた。応募数などは21日に公表する。
 TOBには、筆頭株主で9.89%の株式を保有するエフィッシモ・キャピタル・マネージメントなどアクティビスト(物言う株主)も応募した。東芝は11月下旬に臨時株主総会を開き、全株を取得するためのスクイーズアウト(強制買い取り)の手続きに移る。総会で承認された後、所定の手続きを踏み、東芝は12月中にも上場廃止となる。
 東芝は2015年4月に不正会計が発覚し、16年末には米原発子会社の巨額損失が明らかになった。2年連続の債務超過を回避するため17年に6000億円の公募増資を実施し、複数の物言う株主が引受先となった。
 東芝は23年3月にJIP陣営によるTOBを受諾していた。JIP陣営は約2兆円の資金を投じることになる。ロームやオリックスなど複数企業が資金を拠出し、三井住友銀行やみずほ銀行などの主力行が融資する。

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【中高年をデジタル人材に 厚労省、企業で長期インターン】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 中高年をデジタル人材にする取り組みが官民で拡大する。厚生労働省はデジタル分野の職業訓練を受ける中高年層向けに、最長6カ月のインターンシップのような形で、企業への派遣制度を新設する。全日本空輸(ANA)なども独自制度を通じ、成長分野で活躍できる人材を増やす。
 経済産業省によると、若年層の人口減少などに伴いIT(情報技術)人材は2030年時点で最大80万人ほど不足する。少子化で労働力人口そのものの減少も避けられない。
 新たなインターン制度にはIT人材の不足を緩和しながら、中高年層の成長産業への移動を後押しして生産性を底上げする狙いがある。中高年層は若手に比べて、未経験業種で就職しにくい問題がある。
 新制度は24年度から2年間の試行の後、本格導入を目指す。委託する人材サービス会社が労働者と雇用契約を結び、給与を支払う。派遣先は60社程度を想定し、各社に指導役の「メンター」を置いてもらう。
 人材サービス会社は4社をめどに23年度中に選定する。委託費は雇用保険から支出し、雇い入れ費用の一部に充ててもらう。厚労省は24年度予算の概算要求でリスキリングなど「人への投資」関連費用として2000億円を盛り込んでおり、その一部を使う。
試行段階の2年間では35歳以上の2400人の利用を見込み、40〜50代など幅広い年齢層の参加を想定する。他業種から新たにソフトウエアのエンジニアやプログラマーなどを目指す人で、関連する職業訓練を受けた人を対象にする。
 給与が得られることで転職を急ぐ離職者にもニーズがあるとみる。派遣中の経験を就職活動に生かしてもらうほか、派遣先企業でそのまま採用することも視野に入れる。
 既存の職業訓練にも企業実習はあるが、2週間から1カ月程度と短い。給与はなく、企業側も具体的な業務を担わせることは多くないという。新たな派遣制度を通じて、身につけたスキルをキャリアにつなげやすくする。
 終身雇用や年功制といった雇用慣例が崩れ、将来不安を背景に中高年の転職希望者は増えている。総務省の労働力調査によると、45〜64歳の転職等希望者は22年に平均346万人と4年間で27%増えた。他の世代より増加幅が大きく、キャリアアップへの意識は高まっている。
 岸田文雄政権はデジタル分野を経済成長の柱に据え、人への投資を拡充している。厚労省は資格学習の費用を助成する「教育訓練給付」の補助率を引き上げて、人工知能(AI)などデジタル人材を増やす。経産省はリスキリングを経て再就職できた場合に、講座の受講費用など最大56万円の支援を受けられる制度を導入した。
 民間企業でもデジタル人材の育成が進む。ANAは5月、50〜58歳の社員にリスキリングプログラムを導入した。デジタルスキルの習得や会計士などの資格取得を後押しする。サッポロホールディングスは22年から「全社員DX人財化」を掲げ、これまでにグループ会社も含めて国内約6000人にデジタル分野の学び直しを実施した。
 中高年を含む全社員向けのリスキリングで先行してきた日立製作所の中畑英信執行役専務は「リスキリングは学習機会を提供しただけでは進まず、従業員の意識改革が必要だ」と話す。
 中高年のリスキリングは長年の課題だったが、デジタル人材にする取り組みはまだ始まったばかり。80万人の人材不足を解消するにはスピード感をもって規模を拡大する必要がある。

【東芝へのTOB成立、約79%が応募 年内に上場廃止へ】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。
 東芝は21日、日本産業パートナーズ(JIP)など国内連合によるTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。株主による応募比率は78.65%となり、成立に必要な66.7%を上回った。株主総会などの手続きを経て、年内にも上場廃止となる見通し。不正会計や巨額損失に加えて、物言う株主(アクティビスト)との対立など経営混乱が長引いていた。JIP陣営の傘下で再生を目指す。
TOBは1株4620円で8月8日から9月20日まで30営業日をかけて実施した。
 TOBには、筆頭株主で9.89%の株式を保有するエフィッシモ・キャピタル・マネージメントなどアクティビストも応募した。アクティビストは東芝株の3割を保有しているとみられる。東芝は11月下旬をめどに臨時株主総会を開き、全株を取得するためのスクイーズアウト(強制買い取り)の手続きに移る。
東芝は12月中にも上場廃止となり、74年間の上場の歴史に幕を下ろす。
 東芝は2015年4月に不正会計が発覚し、16年末には米原子力発電子会社の巨額損失が明らかになり、経営危機に陥った。2年連続の債務超過を回避するため17年に6000億円の公募増資を実施し、複数のアクティビストが引受先となった。
 20年ごろからは株主還元を重視し短期的な価値向上を重視するアクティビストと、成長投資などで中長期の価値向上を考える経営陣の間での対立が鮮明になった。20年末にはファラロン・キャピタル・マネジメントが「会社の戦略が株主総会で否決された場合、営業キャッシュフローの全てを還元する」ことを求める株主提案をした。
 20年7月の定時株主総会には企業統治不全を理由に、エフィッシモや3Dインベストメント・パートナーズが独自の取締役選任を要求した。株主に東芝経営陣への不信が募り、21年6月の定時株主総会では取締役会議長の再任案が否決される事態となった。
 東芝は23年3月にJIP陣営によるTOBへの賛同を表明していた。JIP陣営はTOBを通じて、東芝買収に総額約2兆円の資金を投じる。ロームやオリックスなど国内企業が資金を拠出し、三井住友銀行やみずほ銀行などの主力行も融資する。東芝はJIP陣営に株主構成が一本化されるが、再成長へのシナリオをどう描くのか。収益力回復への道筋は不透明だ。(大西綾)

【FRB、遠のく利下げ転換 インフレ懸念で高金利長期化へ】
 同じ21日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)による利下げ転換時期が遠のいている。米経済が想定以上に強くインフレ懸念がなお拭えないためだ。20日に公表した経済見通しは利上げ終了後も高金利が続く慎重な内容になった。引き締めの長期化が景気を冷やすリスクにも配慮した両にらみの政策運営を迫られる。
 20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は金融引き締めに積極的な「タカ派」色の強い内容と受け止められた。22年ぶりの高水準となった5.25〜5.50%の政策金利を2会合ぶりに据え置いたのは事前予想通り。市場関係者を驚かせたのは同時に公表した2024年末の政策金利の見通しだった。
 中央値は5.1%で、23年末の5.6%からわずか2回分の利下げ幅にとどまった。前回見通しの4回分から一気に縮小した。政策金利がピークを付けた後、24年に利下げに転じるシナリオは従来通りだが、その時期がこれまでより後ズレすることを示唆した。
利上げの到達点は予想がほぼ二択に絞られた。経済見通しではFOMCメンバー19人中7人がすでに利上げが終わったと予想。残り12人は23年内にあと1回の追加利上げを想定している。なかには24年末にかけて6.0〜6.25%まで利上げを継続する「第3のシナリオ」を示した参加者も一人いた。
 パウエル議長はFOMC後の記者会見で、政策金利予想の修正について「経済活動が予想よりも堅調だったことを反映している」と説明した。アトランタ連銀が経済指標から自動計算する7〜9月期の実質経済成長率は4.9%と、経済の地力を示す潜在成長率(1.8%)を大幅に上回る。
 なぜ利上げを1年半続けても米景気は強いのか。パウエル氏は背景に個人消費の強さがあるとして、政府の現金給付などで家計や企業のバランスシートが想定外に強固だった可能性に言及した。半面、「政策金利が引き締め的な水準に入るまでの期間が長かっただけかもしれない」とも述べるなど、なお見極め切れていないことをにじませた。
 FRBは22年3月のゼロ金利解除以降、80年代以降で最速となるペースで利上げを続けてきた。40年ぶりの高インフレを前に、まずは金融を引き締めることを優先してきた。
 ただ利上げの終盤は到達点を見極める必要があるため、より慎重な判断が求められる。時間差で広がる政策効果が読みにくく「引き締めをやり過ぎるリスクと足りないリスクがより等しくなる」(パウエル氏)ためだ。
 FRBは政策判断に時間をかけるため23年2月に利上げ幅を通常の0.25%に戻し、3月以降は1会合おきに利上げを見送ってきた。近年ではもっとも緩やかだった前回の利上げ(15年12月〜18年12月)の幕引きとほぼ同じペースだ。
 それでも現時点では経済と物価の先行きを見極めきれない。「利下げは来年3月から。景気後退でインフレが鈍化し、労働市場が悪化する」(PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ)。市場では強い経済を前に引き締め姿勢を強めるFRBへの警戒感が強まっている。



 この間、下記の録画を視聴することができた。(1)Eテレ サイエンスZERO「究極の謎!? ”動物の睡眠“徹底分析SP 生き物はなぜ眠るのか。近年、脳を持たない生物までもが眠ることが明らかに、睡眠と「食事」、「老廃物除去」などとの関係も。睡眠の役割、生物の進化の過程にも迫る」9月9日。 (2)BS世界のドキュメンタリー「ラグビーが起こした奇跡、歴史を変えた南ア代表チーム。マンデラ大統領が白人の競技だったラグビーを人種間の和解と団結のシンボルに変え、がて2019年に黒人の主将率いる代表がW杯で優勝するまでを描く感動の記録」10日。 (3)BS1スペシャル「ボクと自由と国安法と香港 600時間の映像記録 香港人のカメラマンから託された秘蔵映像。4年前はデモの叫びに包まれていた香港が静寂の街へ変貌、市民目線の克明な記録」10日。 (4)BS6報道1930「”新冷戦“加速? 金正恩氏・プーチン「軍事連合」に中国の策略は? ロシアが原潜、北朝鮮がミサイル相互供与…その脅威は?」11日。 (5)NHK国際報道2023「いま残るベトナムの地雷 ベトナム戦争から米軍が撤退して今年で50周年を迎える。今もベトナムの地雷や不発弾は国土の18%に広がり、年平均で1000人の死者が出ている」11日。 (6)BS6報道1930「政治改革30年後の懺悔 河野洋平×細川護照」12日。 (7)NHK国際報道2023「パレスチナとイスラエルの歴史的オスロ合意から30年、しかし暴力の応酬は止んでいない」13日。 (8)NHK総合アナザーストーリーズ「世紀の番狂わせ~そして彼らはヒーローになった~2015年9月19日、ラグビー日本代表が強豪・南アフリカを撃破!」12日。 (9)BS6報道1930「金正恩氏・プーチン氏急接近で現実化? 中国有事で3正面作戦、中国の巻き込みに躍起?」13日。 (10)BS7居間からサービス「ノーベル賞有力候補 結晶スポンジとは? 東大卓越教授・蒔田誠氏」13日。 (11)BS6報道1930「南部戦線で10月決戦か?クリミヤ攻撃を強化」14日。 (12)BS6報道1930「ロ軍に「蟻の一穴」? 「新兵器見本市」と化すウ軍が戦況変える? 「攻撃解析用地震計」に「手りゅう弾型」進化系ドローン?」18日。 (13)NNNドキュメント23「米兵が撮ったナガサキ 孫がたどる戦争の記憶。元兵士の祖父を持つアメリカ人、トレバー・スレビン氏、2017年に来日して以降、17枚の写真の撮影地点を調べている中に芽生えた平和への思いとは」18日。 (14)BS6報道1930「<別班>の真実に迫る。世界のスパイの現実…暴走止める文民統制とは」19日。 

変わりつつある世界(12)

【エーザイ認知症薬「レカネマブ」承認へ 厚労省部会了承】 
 8月21日晩の日経速報メールは次のように報じた。
 厚生労働省の専門部会は21日、エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の承認を了承した。アルツハイマー病の進行を緩やかにする効果を証明した薬として国内初となり、これまで対症療法に限られていた認知症治療の大きな一歩となる。
 専門部会の了承を受けて、厚労相が近日中に正式に承認する。エーザイは1月、レカネマブの製造販売について医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請し、厚労省から審査期間を短くする「優先審査品目」に指定されていた。
 仮に8月中に厚労相が承認した場合、実際に日本の医療現場で使えるようになるのは早くて10月、遅くとも11月になる見通しだ。
 承認後に実際の医療現場で使用するには、薬価を決める必要がある。健康保険などの公的医療保険の適用対象とするためだ。算定議論は製造販売承認より原則60日から90日ほどかかる。
 7月上旬に承認された米国の薬価は年2万6500ドル(約390万円)で、今後は国内の薬価算定に注目が集まる。
 レカネマブは病気の根治につながる薬ではない。投与の対象は、日常生活に支障がない「早期段階」の比較的症状の軽い患者に限られる。
 アルツハイマー病は脳に「アミロイドベータ」というたんぱく質がたまり、正常な神経細胞が壊れて脳萎縮がおこる。レカネマブはこの「アミロイドベータ」を除去することで病気の進行を遅らせる。臨床試験(治験)では、病気の進行速度を27%緩やかにする効果が確認された。
 アルツハイマー病の主な症状は、記憶喪失や、適切な言葉が見つからない、人の話を理解できないといったものだ。国内では認知症患者のうちアルツハイマー病患者が最も多く、全体の6割以上を占める。
 長寿化に伴い、アルツハイマー病の患者数は世界で急増している。国際アルツハイマー病協会によると、現在5000万人とされる患者数は、2050年に1億5000万人まで増えるといい、新薬への期待は高い。
 認知症は患者や家族に物心両面で重い負担をかける。新薬への期待が高まる一方、患者の薬剤費負担をどう軽減するかが今後の課題となりそうだ。
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【ソフトバンクG、英アームが上場申請 米ナスダックに】
 22日の日経速報メールは次のように報じた。
 ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計大手アーム・ホールディングスは米ナスダック市場に上場申請した。21日に米証券取引委員会(SEC)に提出した資料で明らかになった。上場予定日は未定だが、9月中とみられる。2023年で最大の新規株式公開(IPO)案件になる見通しだ。
* 【関連記事】ソフトバンクGの「虎の子」、アリババから上場アームに
 21日の開示資料では公開価格は公表していない。機関投資家の需要動向を基に決定するが、想定時価総額は600億ドル(約8兆7000億円)を超えるとみられている。米アップルや韓国のサムスン電子、米エヌビディア、米インテルなど世界の主要な半導体関連企業がアーム上場と同時期に出資する方針だ。
 アームは開示資料のなかで、SBGが8月にビジョン・ファンドの保有するアーム株25%を161億ドルで取得したことを明らかにした。SBGがアームの時価総額を640億ドル相当とみていることを示唆する。アームは「取引価格の期待を示すものではなく、反映することを意図したものではない」と説明した。
 SBGは20年に米半導体大手エヌビディアへの売却を決めた。売却額は4兆円超で、買収価格である3兆円超を大きく上回っていた。だが、半導体メーカーや当局が反発。エヌビディアがアームの技術を抱え込めば、他のメーカーに大きな影響が出ることが予想されたためだ。SBGは22年にアームの売却を断念し、再上場を目指していた。
 アームは半導体の「設計図」となるIP(回路設計データ)を開発し、半導体メーカーはアームの設計図をもとに製品をつくる。アームの設計は電力効率が高く、スマートフォン向けで世界シェアの9割超を握る。SBGの買収後、自動運転など車載向けや、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の機器などへ多角化を加速している。
 アームの売上高(国際会計基準)は22年度に28億ドルと、SBGが買収した16年度から7割近く伸びた。半導体出荷数は累計2500億個を超えた。SBGの孫正義会長兼社長は6月の株主総会で「1兆個までいく」と急成長に期待を示している。
 アームはエンジニアが社員の半分以上を占めており、上場を機に人材獲得を強化する。上場に当たっては米国会計基準を採用する。
 日本の証券コードに相当するティッカーシンボルは「ARM」となる。昨年以降、米国のIPO市場は冷え込んでいたが、アームの大型上場を受けて再び活発になるかどうかに関心が集まる。(四方雅之、ロンドン=山下晃、ニューヨーク=竹内弘文)
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【高校野球、慶応が107年ぶり優勝 決勝で仙台育英破る】
 23日の日経速報メールは次のように報じた。
 全国高校野球選手権大会最終日は23日、甲子園球場で決勝が行われ、慶応(神奈川)が仙台育英(宮城)を8-2で破り、1916年の第2回大会以来107年ぶり2度目の日本一を果たした。仙台育英は2004、05年の駒大苫小牧(北海道)以来、史上7校目の大会連覇に挑んだが、及ばなかった。
103年ぶり3度目の決勝に臨んだ慶応は 一回、先頭打者の1番丸田のソロなどで2点を先取。五回に2死から福井の適時二塁打などで一挙5点をあげ、突き放した。
仙台育英は二、三回に暴投などで1点ずつかえしたが、その後は打線が沈黙した。

【プリゴジン氏死亡か ロシアで自家用ジェット機墜落】
 24日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ロンドン=江渕智弘】ロシア非常事態省は23日、小型ジェット機がモスクワ北西のトベリ州内で墜落し、乗客乗員10人全員が死亡したとみられると発表した。航空当局は、6月に反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏(62)の名前が搭乗名簿にあると明らかにした。
ワグネル関係者が管理しているとみられる通信アプリ、テレグラムの「プリゴジン2023」は、プリゴジン氏が同機に乗っており遺体が確認されたと投稿した。
 ロシアメディアによると、墜落は午後6時40分ごろ。ジェット機はモスクワからロシア北部のサンクトペテルブルクに向けて飛行していた。
 乗員3人を含む搭乗者全員が死亡したという。墜落現場で8人の遺体が発見された。自家用ジェット機は爆破されたとの見方が出ている。
 米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は23日の声明で「報道を認識している。(事実だと)確認されても誰も驚かないはずだ」と指摘した。
自家用ジェット機は2020年にワグネルのグループ会社が購入した機体とみられ、モスクワとサンクトペテルブルクの間を定期的に運航していた。
ワグネルは6月23〜24日にロシアで武装蜂起した。ワグネルの部隊は首都モスクワまで一時200キロメートルほどの地点に迫ったが、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介で進軍をやめた。ワグネルの戦闘員の多くは受け入れ先のベラルーシに移動していた。
プリゴジン氏は反乱鎮圧後、ロシア国外を拠点に活動しているとみられていた。同氏は8月21日、ワグネルに近いとされる通信アプリのチャンネルに動画メッセージを投稿し、ワグネルの主要活動拠点の一つであるアフリカで活動していることを明かしていた。
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【北朝鮮「偵察衛星打ち上げ失敗」 10月に3回目発射表明】
 同じ24日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ソウル=甲原潤之介】北朝鮮の朝鮮中央通信は24日、北朝鮮の国家宇宙開発局が「軍事偵察衛星」の打ち上げに失敗したと報じた。衛星運搬ロケットの1段目と2段目は正常飛行したが、3段目の飛行中に事故が発生したとしている。10月に3回目の発射を断行すると表明した。
同通信によると、24日未明に北西部の平安北道にある西海衛星発射場から偵察衛星「万里鏡1号」を新型運搬ロケット「千里馬1」型に搭載して発射した。国家宇宙開発局は「事故の原因がシステム上大きな問題でなく、原因を徹底的に究明する」と説明した。
北朝鮮は8月24日午前0時〜31日午前0時に人工衛星を打ち上げると事前通告していた。
5月31日に「万里鏡1号」を搭載したロケットを発射し、1段目を分離後に推進力を失い黄海に落下した。エンジンの問題などを修正し、3カ月たらずでの再発射に踏み切った。
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【原発処理水の海洋放出開始 初回、17日間で7800トン】
 同じ24日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 東京電力ホールディングス(HD)は24日、午後1時ごろから福島第1原子力発電所の敷地内にたまる処理水の海洋放出を始めた。海水で薄めた処理水に含まれるトリチウム濃度が安全基準内に収まった。初回は17日間かけて7800トンを流す。廃炉に向けて大きく前進し、今後は風評被害への対応も本格化させる。
同日朝までに1トンの処理水を1200トンの海水で希釈し、1リットル当たりのトリチウムの濃度は43〜63ベクレルだった。国が定めた安全基準の40分の1に当たる同1500ベクレル未満が条件になっており、連続で流しても安全に放出できると判断した。
記者会見した松本純一執行役員は「一段と緊張感を持って対処したい。科学的根拠に基づいて迅速な情報発信をする」と語った。
 午後1時ごろに原発敷地内のポンプなどを起動し、処理水と海水が海沿いにある貯留槽へ向かった。処理水は放水トンネル内を毎秒1メートルと人が歩くほどの速さで流れ、原発の約1キロメートル沖合から放出された。24日は200トン程度を流す予定で、順調に進むと9月中旬までに初回の放出が終わる。
23年度は計4回の放出を予定する。流される処理水の総量は保管量の2.3%に当たる3万1200トンになる。問題がなければ1日あたりの放出量を最大500トンまで引き上げ、放出のペースを速くする。
処理水の放出を巡っては約10年にわたって国で議論してきており、廃炉に向けた大きなステップを踏み出した。
 岸田文雄首相は22日の関係閣僚会議で「現時点で準備できる万全の安全確保、風評対策を講じることを確認した」と語り、「処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組んでいく」と強調した。
周辺の海域では、環境省と原子力規制委員会、福島県と東電が個別に海水や魚類などをモニタリングし、トリチウムなどの濃度が基準内に収まっているかを確かめる。
東電では放出から約1カ月間は、放出口近くでの監視を通常の週1回から毎日に増やす。同社は25日夕方から放出後のデータの公表を始める予定だ。
放出途中で放射線量や放出量が基準を超えると、自動で遮断弁が作動する。海洋で基準を超えるトリチウムなどが検出された場合もすぐに放出をやめる。東電はホームページ上で今の放出状況や様々な測定の結果を公開し、国内外に発信していく。
 香港やマカオでは24日から福島や東京など10都県の水産物の輸入を禁じた。中国政府も放出に反発しており、対抗措置の発動を示唆する。漁業関係者ら事業者への影響を抑えるための支援が欠かせない。
政府は21年度の補正予算で300億円を計上し、処理水の放出に関連して海産物の売り上げや需要が減った場合に支援する基金を設けている。22年度には漁場の開拓などを支える500億円の別基金も追加した。
東電も放出後に生じた風評被害を賠償する制度を設ける。漁業や農業だけでなく、卸売業や観光業も想定し、他の業種に被害が及んだ場合も対応する。諸外国の禁輸措置で影響が出た場合も賠償の対象とする。放出前に生じた被害は個別に対応する。
東電が国や市場の統計データや個別の聞き取りで被害の有無を確かめ、事前に定めた算定式に基づき損害額を割り出す。10月2日から被害の申告を受け付ける。東電では専任の担当者を400人規模まで増やして対応する。
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【中国、日本産の水産物を全面禁輸 処理水放出に反発】
 同じ24日の日経速報メールは次のように報じた。
 【北京=田島如生】中国税関総署は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した。東京電力福島第1原子力発電所の処理水の放出開始に反発した形だ。日本の水産業者や、中国で日本産品を扱う小売・外食店にとって打撃になる。
これまでは福島や東京など10都県の水産物が禁輸対象だった。税関総署は今回、中国の消費者保護や輸入食品の安全確保のために全面禁輸に踏み切ったと主張した。今後は日本の状況に注意を払いつつ「関連する規制措置を適宜調整する」と説明した。
中国外務省の報道官は24日の記者会見で「日本政府は国際社会の強い疑問と反対を無視し、福島原発事故汚染水の海洋放出を強行した」と批判した。「中国政府は食の安全と中国人民の健康を守るため、あらゆる必要な措置をとる」と言明した。
 香港では24日から日本の10都県産の水産物について輸入禁止措置を発動し、外食店などでの提供も禁止した。違反者には最大10万香港ドル(約180万円)の罰金や12カ月の禁錮刑が科される。
 在中国日本大使館は24日、ホームページやメールで在留邦人向けの注意喚起を出した。「海洋放出に起因して日本人が何らかのトラブルに巻き込まれた事例は確認されていないが、不測の事態が発生する可能性は排除できない」と注意を促した。
中国税関総署は7月7日、日本からの水産物に対し輸入時に「100%検査を実施する」と公表した。水産物が検査のため税関で留め置かれる事例が増え、鮮魚などの日本からの輸出は実質的に止まっていた。
 同署の統計によると、7月に日本から輸入した生鮮魚は2263万元(およそ4億5000万円)と前月から53%減った。一定期間の保存ができる冷凍魚は同13%減の3677万元だった。
 中国は原発事故を理由に福島、宮城、東京など10都県については水産物を含むほぼ全ての食品の輸入を禁止していた。処理水を「核汚染水」と呼び、放出計画の撤回を要求してきた。
 中国の生態環境省は24日、放出開始に先立ち「日本政府による核汚染水の放出強行は無責任だ」と批判する談話を発出した。中国が管轄する海域で放射性物質を検査するモニタリングを強化し「国家の利益と国民の健康を守る」と表明した。
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【中国の全面禁輸「想定外」 政治問題化する処理水放出…不信募る日本】
 同じ24日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受け、中国が切ったカードは日本産水産物の全面禁輸だった。日本からは「想定外」「異常な対応」との声が上がるが、今後の経済的な影響は小さくない。両国関係が上向かず、政治的解決の糸口も見えない状況だ。
• 【速報】原発処理水の放出開始 水7800トンを希釈し、約17日間かけ海へ
• 【解説】処理水放出、モニタリングの体制は? 海水に魚…東電や国が測定強化
 24日までの2日間、上海では「国際漁業博覧会」が開かれた。オーストラリア産マグロの解体ショーなどで盛り上がりを見せた会場には、約30カ国から4千社超が出展。だが、日本企業はわずか数社程度だった。
 そのさなか、日本産の水産物の全面禁輸が発表され、関係者には衝撃が走った。「冷凍は在庫があるけれど、今後取引先がどう反応するかわからない」。日本の冷凍マグロを扱う業者の担当者は顔を曇らせた。
 農林水産省によると、昨年の中国への水産物の輸出額は、国・地域別で最も多い871億円。このうち467億円と品目別最多で、刺し身などが人気なのがホタテだ。日本の冷凍ホタテの卸業者は肩を落とす。「放出前ですら取引のある数十店からやめたいと言われている。今後が怖い」
 ALPS処理水を「汚染水」と呼び、放出に反対し続けてきた中国。中国政府と国営メディアの論調は、「危険」「無責任」一色のため、市民の間では不安が高まっている。これまでは様子見の市民も多かったが、スーパーやネットショッピングで塩が品薄になるなど、過剰ともいえる反応まで出ている。
 中国は海洋放出が近いとみられた6月から批判の度合いを強め、「(海洋放出は)コストの安さを見込んだ方法だ」として見直しを求めてきた。
 計画が「国際的基準に合致する」とした国際原子力機関(IAEA)の調査報告書が出た直後の7月には、2011年の原発事故から禁止されてきた10都県以外の水産物などへの放射能の検査を強めると発表。通関に2週間~1カ月程度かかるようになり、鮮度が保てないため冷蔵(チルド)の鮮魚は事実上、輸入が止まっていた。
 今回の全面禁輸は全国が対象で、冷蔵や冷凍を問わず、魚類や貝類、甲殻類、海藻なども幅広く適用されるとみられる。
 中国にとって、水産物輸入額(20年)トップ10に日本は入っておらず、経済的損失は大きくないとの判断もあったとみられる。香港も24日から10都県を対象に水産物の輸入を停止した。昨年の輸出額は755億円で中国に次ぐ2位。日本にとっては影響は小さくない。
 外交上のはたらきかけも目立った。

【ジャクソンホール会議開幕 市場動かす日米欧の中銀集結】
 同じ25日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・中長期的な成長や金融政策の行方を議論
・パウエルFRB議長の講演が最大の焦点
・日銀の植田総裁の「次の一手」にも関心
【ジャクソンホール(米ワイオミング州)=斉藤雄太】世界の中央銀行関係者や経済学者が集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が24日夜(日本時間25日午前)、開幕した。「世界経済の構造転換」をテーマに中長期的な成長や岐路にある金融政策の行方を議論する。日米欧中銀トップの発言で金融市場は大きく動きそうだ。
昨年のパウエル発言、世界株安招く
米カンザスシティー連銀が主催し、ロッキー山脈の麓の山荘を舞台に26日まで開く。新型コロナウイルス禍によるオンライン形式を経て、今年は昨年に続き対面型で開催する。注目は主要中銀トップの発言で、最大の焦点は25日午前8時(日本時間午後11時)すぎに講演する米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が何を語るかだ。
 パウエル氏は米消費者物価指数(CPI)の上昇率が8%を超え、直前の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の3倍の0.75%の利上げを実施して臨んだ昨年の同会議で「FRBはインフレ抑制をやり遂げるまで(引き締めを)やり続けなければならない」と強調。景気への配慮よりもインフレ退治に重きを置く姿勢を打ち出した。
この発言で、米景気や物価の先行きを楽観していた市場は冷や水を浴び、世界的な株価の急落や円安・ドル高につながった。実際、FRBは今年7月まで累計5.25%の利上げを実施し、政策金利は22年ぶりの高水準に達した。
 米CPIの上昇率は足元で3%台まで下がり、FRBも利上げペースを段階的に落としている。利上げが最終局面に差し掛かるなか、市場の関心はFRBが年内にあと1回利上げするかどうかに加え、利上げ終了後にどれだけ長く政策金利を維持するかに向かう。
昨春以降の急速かつ大幅な利上げにもかかわらず、米景気は底堅さを保っており、物価上昇率2%の目標達成にはなお時間がかかるとの見方が多い。米国では景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」が切り上がり、金融引き締めによる物価の抑制効果が従来より弱まっているとの声もある。
日銀・植田総裁も初参加
市場ではインフレ鈍化への期待と再燃への警戒が交錯している。パウエル氏が追加利上げの必要性や、利下げ転換までの時間軸についてどのような見解を示すか。利上げの「ラストワンマイル」の道筋をどう表現するかで、市場は再び大きく振れそうだ。
 ジャクソンホール会議に初参加の日銀の植田和男総裁は26日午前10時25分(日本時間27日未明)から「グローバリゼーションの変曲点」と題したパネル討論会に登壇する。英イングランド銀行のブロードベント副総裁や世界貿易機関(WTO)のオコンジョイウェアラ事務局長と議論を交わす。
日銀は7月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を修正し、長期金利の誘導幅の上限を事実上1%に引き上げた。物価高と円安傾向が続くなか、日銀は日米欧の主要中銀で唯一、金融緩和を続けている。植田総裁が討論会で語る内容は「次の一手」を探るヒントになりうる。
対ドルの円相場は8月に一時、9カ月ぶりの円安・ドル高水準となる1ドル=146円台まで下落した。日銀は政策修正を「緩和縮小ではない」と強調し、市場では日銀がマイナス金利政策の解除など金融正常化に動くには時間がかかるとの見方も根強い。
物価高も日銀の当初の想定を超えて長引いている。日本の7月のCPIは生鮮食品も含む全体の指数が前年同月比3.3%のプラスで同月の米国(3.2%)を上回った。円安は輸入物価の上昇を通じて物価高を助長する。
 昨年のジャクソンホール会議ではFRBのパウエル氏が利上げ継続方針を強調し、緩和を続ける日銀との違いが改めて意識されて円安が進んだ。日銀が政策修正する前の7月の円相場は植田氏ら日銀幹部の発言が伝わるたびに大きく振れた。「金利ある世界」に一歩踏み出した日銀総裁の発言は、従来以上に関心を集めそうだ。
25日午後(日本時間26日未明)には欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も講演する。テーマは「欧州と世界経済」。欧州ではインフレ率が高止まりする一方、底堅さを保つ米国経済と比べて景気減速の懸念が強まっている。
ECBは次回9月の理事会で「データ次第」で利上げの是非を慎重に判断する構えだ。ラガルド氏は「利上げするかもしれないし据え置くかもしれない」と利上げ見送りの可能性にも言及し、一部の理事会メンバーは打ち止めも視野に入れ始めている。
物価と景気の安定両立へ金融引き締めのかじ取りが一段と難しくなるなか、今後の政策運営をめぐり具体的なヒントを示すか市場の関心は高い。
ジャクソンホール会議には著名な大学教授らも参加し、中長期的な経済成長や経済政策について意見を交わす。25日は「金融市場の構造変化と金融政策の実施」について米スタンフォード大のダレル・ダフィー教授と米ハーバード大のジェレミー・スタイン教授が議論する。
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【地方議員の女性比率、46都道府県で増 香川が伸び最大】
 同じ24日の日経速報メールは次のように報じた。
 地方議会で女性議員比率が高まっている。4月の統一地方選では41道府県議選の合計で女性の当選が最多だった。香川県は県議と市・町議で女性比率が前回統一選後の2019年末より4.9ポイント上昇と全国で最も伸びた。全国の比率は17%と欧米よりなお低く、幅広い視点を行政に生かすにはさらに上積みが求められる。
総務省がまとめた23年の統一地方選の結果から都道府県議会と市区町村議会での女性議員比率を都道府県ごとに算出し、19年末と比べた。23年中に統一地方選以外の日程で実施された選挙の結果は未反映。福井県を除く46都道府県で割合は上昇し、増加幅は静岡県も4.9ポイント、佐賀県が4.7ポイントと高かった。
香川県議会では2人だった女性議員が9人と大幅に増えた。定数41に占める割合は22%と都道府県で最も多い東京都議会の3割強に次ぐ水準。定数40の高松市議会も2人増えて10人となった。
香川県男女共同参画審議会の委員でもある高松大学経営学部の高塚順子教授は「女性の社会進出を後押しする雰囲気が醸成されて女性候補が擁立され、投票する有権者も増えた」と分析する。
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 女性の政治参画に詳しい上智大学の三浦まり教授は「民間ネットワークも影響した」とみる。同県内で女性の政治参加を促す地元組織の一つは現職の女性議員らとの討論会や交流の催し、選挙制度を巡る勉強会を重ねた。
 佐賀県でも党派を超えて活動しやすい環境を整えようと19年に「佐賀県女性議員ネットワーク」が発足。女性候補者掘り起こしへNPO法人「女性参画研究会・さが」は22年から政治塾を開く。
 地方議会の多くは議員のなり手不足が深刻だ。三浦教授は各地で活発になる連携組織の動きについて「高齢の議員が世代交代する際に候補者の供給源となる。今回の県議選で女性比率を伸ばした鹿児島や岡山、熊本にも同様のネットワークがあり成果が出たのではないか」と指摘する。
 東京都の杉並区議会では区議の半数が女性となった。無所属で初当選した倉本美香議員は「女性議員が増えるには挑戦できる環境も必要だ」と強調する。同区役所では議員が望めば会議室を託児スペースにできる。21年には区議が出産や育児、介護などで欠席する際の規定を設けた。
 地方議会に女性が増えることで子育てや福祉などの政策充実が期待される。内閣府が20〜21年に地方議員に実施した調査によると、力を入れる分野で女性議員は「出産・子育て、少子化対策」が56%と最も多く、「介護・福祉」が次いで53%だった。男性議員はいずれも27%だった。
 子育て支援の認定NPO法人フローレンス(東京・千代田)が開く勉強会は女性議員の参加率が高い。駒崎弘樹会長は「都で双子ベビーカーを畳まずバスへ乗車できるようになった例では多くの女性議員の協力があった」と語る。
 千葉県白井市議会は女性議員が10人で定数の56%と全国最高。
市町村議会では、定数18のうち女性が10人で全国最高の56%となった千葉県白井市議会など過半数を実現する例も出てきた。しかし、女性が全体で30%を超すのは東京都のみで、神奈川県など6府県が20%台。200を超す地方議会で女性がゼロという。
欧州では女性の地方議員が半数に迫る国もある。日本では国政でも女性議員が衆参合わせて16%。「候補者男女均等法」が施行されて5年だが、政治の世界における男女差の是正は道半ばだ。
多様な民意を反映して地域を変える上でも暮らしに直結した地方議会で女性議員が活躍の場を広げる必要がある。(増田聖弘、亀井慶一、グラフィックス 藤沢愛)

【旭化成、CO2と水から樹脂原料 石油使わず電気で生成】
 25日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 旭化成は二酸化炭素(CO2)と水からつくる樹脂原料の製造技術を実用化する。電気分解で生成する技術で、2026年に国内でまず小型設備を入れる。再生可能エネルギー由来の電力でつくれば樹脂製造時のCO2排出量が大きく減る。脱炭素に欠かせない新技術になる。
電気分解でCO2と水から車や家電に使う樹脂原料となる「エチレン」をつくる。分離膜や電極のある装置の中に気体のCO2と電解液をいれ、電気を通すことで化学反応させ、エチレンを回収する仕組みだ。
旭化成は反応に必要な分離膜で、水素製造や食塩電解技術で培ったノウハウがある。化学反応を促す触媒技術も強みだ。このほど、エチレンを生成する反応を促す最適な触媒にめどをつけた。
 まず26年に数十キロワットの電力を使う小規模な試験生産設備を国内に設け、30年をめどに1万キロワット級のシステムによる大規模な設備での生産を計画する。電力は再生可能エネルギー由来のものを使う想定だ。
 エチレンの製造量は年間数千トン規模で生産を目指す。45リットルのごみ袋換算で100万世帯以上が1年に使う量に相当する。35年までに量産技術を開発し、自社製造か外部への生産技術提供も含めて検討する。年間1万トン規模を超えるエチレン生産能力を視野に入れる。旭化成グループの年間のエチレン生産能力の2%に相当する。
CO2と水素を反応させてエチレンの原料をつくる手法が技術的には先行しているが、旭化成の手法は反応の工程が少なくてすむ特徴がある。
 石油代替につながり環境負荷が小さいうえに、樹脂原料の国産化も可能になる。再エネ電力が豊富な複数の地域で生産できれば供給網の分断リスクにも備えられる。旭化成は一定の需要があると見て技術開発を急ぐ。
課題はコスト。1キロワット時あたり数円という安価な電力を使っても、現在主流の石油由来の樹脂原料よりは製造コストは数割高くなってしまう可能性がある。
 石油を使わないエチレンの生産方法には植物由来もある。ブラジル化学大手ブラスケムはサトウキビの搾りかすからエタノールをつくり、プラスチックの原料となるエチレンをつくる独自技術を実用化している。一方で植物から生産できる樹脂原料には限りがあり、太陽光や風力など多様な再エネを使える手法も重要になっていた。
 日本の産業部門のCO2排出量のうち約1割を化学分野が占め、鉄鋼分野についで多い。CO2排出の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」に向け、旭化成の技術は重要な技術の一つになる。(沖永翔也)

【トリチウム、魚類から検出されず 福島第1周辺で水産庁】
 26日の日経特報メールは次のように報じた。
 水産庁は26日、東京電力福島第1原子力発電所の周辺海域で採取した魚類に含まれる放射性物質のトリチウムの濃度が、検出下限値を下回っていたと発表した。24日の原発処理水の海洋放出後では初めての検査で、これから1カ月程度は毎日結果を公表する。風評被害の抑制を狙う。
 今回の検体はヒラメとホウボウで、福島第1原発から4〜5キロメートルほど離れた地点に網を設置し、25日の早朝に採取した。半径10キロ以内の海域は操業を自粛しているため、これらの水産物は食用ではない。
福島県沖では9月1日に底引き網漁が始まる。
 水産庁は処理水の放出後から1カ月程度は毎日、2検体前後でトリチウムの濃度を分析し、翌々日までに公表する「迅速分析」を実施する方針だ。放出前後のデータを比較できるようにするため、同分析は8月9日から結果を公表している。
結果は水産庁のホームページで日本語と英語で公開している。25日までの公表分では、採取したヒラメ、ホウボウ、マダイ、マゴチの4魚種、計14検体でいずれもトリチウムの濃度は検出限界値を下回っている。
 水産庁は並行して「精密分析」と呼ぶ手法もとり入れており、北海道から千葉県沖の水産物を調査している。この分析は1カ月半程度の時間を要するため、迅速分析を導入した。
 東京電力ホールディングス(HD)も26日、海水調査の結果を発表した。福島第1原発の処理水放出を始めた翌25日に原発の周辺3キロ以内の10地点で採取した海水を分析し、トリチウムの濃度が24日分に続いて全地点で検出下限値を下回った。「有意な変動は確認されていない」と説明している。

【水産物に追加支援策、政府調整 中国禁輸でホタテなど】
 同じ25日の日経特報メールは報じた。
 政府は東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関連し、中国による日本産水産物の全面禁輸の影響を受けた漁業者らへの追加支援策を設ける調整に入った。中国への最大の輸出品であるホタテなどで国内加工や販路開拓を後押しする。
農林水産省によると、2022年の加工品を除いたホタテの輸出額は910億円で、中国向けが467億円と過半を占めた。中国への農林水産品・食品の輸出額は2782億円で、ホタテは2割ほどに上る。ホタテは日本にとって有力な輸出品目となっている。
ホタテは殻がついたまま中国にいったん送り、殻をとるなど加工した上で、米国などに輸出するケースが多い。日本国内は加工設備や人員に乏しく、こうした体制整備に向けた財政支援を想定する。販路の多様化も後押しする。
 野村哲郎農相は25日の閣議後の記者会見で「国内での加工体制を強化し、新たな輸出先を開拓していかなければいけない。農水省だけでなく政府一体となって対応したい」と述べた。
政府は原発処理水の海洋放出に関連して海産物の売り上げや需要が減った場合に支援する300億円の基金を設けている。これとは別に、漁場の開拓などを支える500億円の基金も用意した。これらの基金は加工業者への支援を想定しておらず、新たな施策が求められていた。
 鈴木俊一財務相は同日の会見で、中国による水産物の輸入停止に関して「水産関係者にとっては大きな影響だろう。どのような救済措置がとれるかを真剣に考えるべきだ」と強調し、経済産業省や農水省に対応策を議論するよう求めた。

【古川聡さん搭乗、米宇宙船打ち上げ成功 2度目のISSへ】
 26日の日経特報メールは報じた。
 米宇宙開発企業のスペースXは26日、日本の古川聡さん(59)や米欧ロの計4人の飛行士が搭乗する宇宙船「クルードラゴン」を米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げた。宇宙船は予定の軌道に入り、打ち上げは成功した。4人の飛行士は約1日後に国際宇宙ステーション(ISS)に到着し、長期滞在を始める。
古川さんは打ち上げ後、「日本の皆さん、国際宇宙ステーションへ再び出張して、着実に仕事をしてきます」と宇宙船から日本語で語った。
古川さんの宇宙飛行は2011年以来2回目だ。宇宙で貴重な水を再利用する新技術の実証や、将来の月や火星での滞在を見据えた研究などに取り組む。日本企業が開発した、洗濯しなくても清潔に着用できる衣服などの生活用品も宇宙空間で試す。
22年秋、古川さんが過去に責任者を務めた医学研究でデータの改ざんや捏造(ねつぞう)などの不適切行為があったと発覚した。直接の関与はなかったものの管理責任を問われ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から戒告の処分を受けた。JAXAはその後、訓練内容の評価などを通じて宇宙飛行に問題はないと判断した。
古川さんが搭乗するクルードラゴンは米起業家イーロン・マスク氏率いるスペースXが開発した宇宙船だ。企業主体で開発した宇宙船として20年に世界で初めてISSに宇宙飛行士を届けた。その後は宇宙飛行士のほか、JAXAや米航空宇宙局(NASA)などの国家機関に所属しない民間人も含めて飛行実績を重ねている。
古川さんの11年の初の宇宙飛行の際にはロシアの「ソユーズ」を使った。日本人の宇宙飛行士がクルードラゴンに搭乗するのは20年の野口聡一さんから4年連続だ。

【世界の防衛大手、アジア統括機能を日本移転 英BAEなど】
 27日の日経特報メールは次のように報じた。
 世界の防衛大手がアジア事業の重心を日本に移す。英BAEシステムズは年内にアジアの統括機能を日本へ移転し、米もこのほど同様の対応を終えた。東アジアの安全保障環境の悪化を踏まえ、防衛費を大幅に増やす日本が関連企業を呼び込む。
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航空・防衛大手のBAEシステムズは年内にアジアの統括機能をマレーシアから、2022年に設立した日本法人に移管する。地域責任者を置き、アジア全体の戦略を管理する。日本の政府や防衛大手企業に売り込んだり協業を探ったりするほか、調達先を広げる。
BAEは日本と英国、イタリアの3カ国が進める次期戦闘機の共同開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」の中核企業だ。参画する三菱重工業などと連携を深める。日本法人の従業員も増やす。
ロッキードはアジアを統括する機能をシンガポールから日本に移した。従来は紛争が頻発していた東南アジア諸国を重点的にカバーしていた。
北朝鮮のミサイル発射や台湾有事のリスクなど北東アジアの緊張の高まりに対応した。日本は地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)やステルス戦闘機「F35」の納入などで関係が深い。日本の拠点から韓国や台湾も管轄する。
 防衛大手が日本に軸足を移すのは、アジアの防衛市場で日本が最も重要な位置を占めるとみているからだ。
背景に政策の転換がある。日本政府は23〜27年度の防衛費総額を43兆円とこれまでの1.5倍に増やす。反撃能力に使う長射程のミサイルに5兆円、老朽化した部品の交換など維持整備に2倍超の9兆円をあてる。
ストックホルム国際平和研究所によると、22年の日本の防衛費は世界10位で全体の2%だった。
 防衛費の増額に伴い、日本事業を強化する欧米企業は多い。米L3ハリス・テクノロジーズは22年6月、日本法人を設立した。ダニエル・ズート社長は「無人機や電子戦といった新しい需要に対応する」と述べ、防衛省と議論しているという。
機雷探知機などで三菱重工と連携する仏タレスは採用強化に力を入れる方針だ。シニア・エグゼクティブ・バイスプレジデントのパスカル・スーリス氏は「積極的に提携先を探しており、まずは既存のパートナー企業との関係を強化している」と説明する。
トルコの軍事企業STMは自爆型ドローンなどを売り込む。3月に千葉市で開催した防衛装備品の国際展示会「DSEI JAPAN」に初出展した。秋に防衛省が主催する展示会の参加も検討する。
政府は年内にも防衛装備移転三原則の運用指針を緩和する方針だ。他国と共同開発した装備品の第三国への輸出を認める。日英伊の次期戦闘機を出せるようにする。殺傷能力のある武器を搭載した装備品も目的が救難、輸送、警戒、監視、掃海なら容認する。
日本が防衛費を増やすことで日本勢にも商機が広がる。これまでは薄利で市場が広がらず、直近20年で100社超が防衛事業から撤退していた。
大手は戦闘機や艦船などを手掛ける。三菱重工の小沢寿人最高財務責任者は8月4日の会見で、防衛予算の増加に関して「単純にビジネスとしてみれば(予算が)多い方が良い」と言及した。
国内の防衛関連企業は戦闘機で約1100社、戦車は約1300社、護衛艦は約8300社と裾野が広い。中堅企業幹部は「日本政府に積極的に売り込んでもらえることはプラスだ」と述べ、海外大手の日本事業拡大による受注増に期待する。
スタートアップにも追い風になる。無人ヘリなどを手掛けるプロドローン(名古屋市)は港湾の警備需要を開拓する。AironWorks(アイロンワークス、東京・港)は企業にサイバー攻撃に対応する訓練を提供している。(ロンドン=湯前宗太郎、江渕智弘、ヒューストン=花房良祐、イスタンブール=木寺もも子、パリ=北松円香、竹内悠介、太田明広)

【新興13社、信託型ストックオプションで税返還訴訟を検討】
 同じ27日の特報メールは次のように報じた。
 信託型と呼ばれるストックオプション(株式購入権)の税務処理を巡り、上場新興企業13社が源泉所得税の返還を求める訴訟を検討していることが日本経済新聞社の取材で分かった。国税庁は5月、信託型の権利行使で得た利益に対して給与として課税する見解を示した。導入企業に追加の税負担などが生じるため不満が広がっている。
信託型を導入済みの上場85社を対象に聞き取り取材と書面調査を実施した。人工知能(AI)コンサルのJDSCや教育関連事業を手掛けるプログリット、アプリ開発支援のヤプリなど計13社が国を相手に「訴訟を検討している」と答えた。
信託型は民間の弁護士やコンサル会社が2014年に開発した。未上場・上場を合わせて約800社の新興企業が導入している。導入企業は役員や従業員が権利行使で株式を獲得した後、それを各自が売却した際に利益の20%を納税する想定だった。
 だが、国税庁が示した給与課税では権利行使の段階で、株式の購入額と時価の差額に対して最大55%の税金がかかる。会社側に源泉徴収義務も生じる。国税庁は権利行使が済んだ分について過去5年間に遡って納税を求めた。
源泉徴収分を会社が従業員に求償して従業員が納税できない場合などは会社が負担する。AI開発のPKSHA Technologyが税負担の肩代わりで特別損失14億円を計上したと14日に発表するなど、企業業績への影響も広がっている。
各社は延滞税や加算税が発生するのを防ぐなどの理由で、いったん源泉徴収分の納税額を自主的に計算して納める方向だ。そのうえで給与所得としての課税を不服として税務署に還付を求める。請求が認められなければ、その判断は誤っているとして裁判所へ提訴することを検討している。
 「長い時間をかけて多くの上場企業で導入されてきたなか、過去に遡及して修正を求められるのは受け入れづらい」(JDSC)、「複数の企業が連携した訴訟が提起された際は当社も参加する可能性を含めてしっかり検討したい」(ヤプリ)との声がある。一方で状況や費用に応じて最終的に訴訟を見送る企業が出る可能性も残る。
国税庁は「信託型は以前から給与課税と説明している」とする。導入企業による訴訟検討の動きについては「コメントできる立場にない」としている。
信託型は経営資源が十分でない新興企業が人材獲得に使うインセンティブとして使われてきた。混乱が長引けば、政府が重点施策に掲げるスタートアップの育成に影を落とす可能性がある。(新興・中小企業エディター 鈴木健二朗、山下美菜子、細田琢朗)

【内閣支持率42%、横ばい 原発処理水放出「理解」67%】
 同じ27日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本経済新聞社とテレビ東京は25〜27日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は42%で、7月の前回調査から2ポイント上がりほぼ横ばいとなった。内閣を「支持しない」と答えた割合は50%で1ポイント下がった。
 東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出について、政府判断を「理解できる」は67%で「理解できない」の25%を上回った。
 政府は22日の関係閣僚会議で24日からの処理水の放出を決定した。政府の判断を受け、東電が放出を始めた。同様の質問をした7月の前回調査と比べると、処理水の放出に肯定的な回答は9ポイント上昇した。
首相は18日の日米韓首脳会談で、安全保障や経済の面での日米韓の協力強化を確認した。会談の結果を「評価する」との回答は55%だった。
 マイナンバーカードを巡って他人の健康保険証の情報や公的給付金の受取口座を誤って登録するトラブルが相次ぐ。政府は11月末までに関連データを総点検する。
総点検が事態の改善に「つながると思わない」が57%で「つながると思う」は34%だった。
内閣を支持する理由は「自民党中心の内閣だから」(31%)が首位で、「人柄が信頼できる」(26%)、「安定感がある」(20%)が多かった。支持しない理由のトップは「政策が悪い」(47%)となった。
優先的に処理してほしい政策課題を複数回答で聞く質問で最多は「物価対策」(38%)で、2位が「子育て・教育・少子化対策」(35%)、3位が「経済全般」(33%)が目立った。
政党支持率のトップは自民党の38%で2ポイント上がった。2位は日本維新の会で10%、3位は立憲民主党が5%で続いた。支持政党がない「無党派層」は33%。7月は自民党36%、維新10%、立民6%、無党派層27%だった。
調査は日経リサーチが25〜27日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し847件の回答を得た。回答率は37.6%。

【生成AIで教員働き方改革 残業「OECD最長」脱却へ】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 文部科学省は生成AI(人工知能)を使い、教員の長時間労働の一因である事務作業を減らす実証事業を9月に始める。授業時数が国の標準を大幅に超える場合は見直し、学校行事も簡素化する。経済協力開発機構(OECD)加盟国で最長の労働時間を減らして「ブラック職場」のイメージを変え、学校に優れた人材を呼び込む狙いがある。
 中央教育審議会(文科相の諮問機関)の特別部会は28日、教員の働き方改革に関する緊急提言をまとめた。行事や保護者対応の削減などとともに生成AIの校務への活用推進を盛り込んだ。同省は提言を受け教員の労働環境の改善を急ぐ。
2021年度実施の公立小教員の採用試験倍率が過去最低の2.5倍になるなど深刻な教職離れに歯止めをかけたい考えだ。
生成AIの実証事業は公立中学高校を中心に、個人情報漏洩対策などができている数十校を選ぶ。23年度内に生成AIを使って業務を効率化した実践例をまとめ、多くの学校が取り入れられるようにする。
練習問題やテストの作成時に生成AIに「たたき台」を作らせたり、模擬授業の相手として準備に使ったりすることを想定する。学校運営では教員研修資料の作成や授業時数の調整、挨拶文や式辞の原稿作りなどで補助的に使う。
校外学習の行程作成や、部活の大会や遠征にかかる経費を概算するなど、学校行事や部活動での利用も可能だ。保護者向けの文書や、外国人保護者向けの翻訳作業で原案をつくる際も利点が大きいとみている。
すでに活用を進める学校もある。東明館中学・高校(佐賀県)は教員全員が生成AIを利用できるようにし、学校見学のアンケート結果を分析させるなどしている。
文科省は7月、学校現場での生成AIの活用に関する初の指針を公表し、教員の業務効率化や質の向上に使うことを提案した。
課題は個人情報や機密情報の流出防止対策だ。学校が教員の利用をどこまで把握するかは校長らの裁量に委ねられており、使用状況を適切に管理して情報漏洩を起こさないようにする体制づくりが欠かせない。
公立学校教員を対象とした22年度の勤務実態調査では、過労死リスクが高まるとされる月80時間を超す水準の残業をする教員比率は16年度調査に比べて減った。一方同省が定める上限基準(月45時間)に達した教員は小中で6〜7割に上る。
OECDが18年に実施した国際教員指導環境調査によると、1週間あたりの仕事時間は小学校(54.4時間)、中学校(56時間)ともに調査対象の国・地域で最長だった。
特別部会の緊急提言は全ての学校で授業時数を点検し、標準を大幅に上回る場合には見直すよう要請。長時間労働の解消に向け、行事などの削減も促す。
登校時も教員が勤務時間の1時間ほど前から出勤して門を開けて対応するケースがある。登校時間の直前に門を開けるなどの対応策を考えてもらう。授業などをサポートする「教員業務支援員」の全小・中学校への配置も掲げた。
保護者や地域住民の過剰な要求、苦情への対応も教員の負担になっている。教員だけで対応せず、教育委員会の支援や行政との連携を強める必要性も強調した。
特別部会は今後、待遇改善の議論を本格化する。公立校教員に残業代を支払う代わりに給与に上乗せする「教職調整額」の増額などを検討しており、来春に一定の方向性を示す。(三浦日向)

【Google、訪問「1000億回」が変えた世界 AIは福音か Google25 テック覇者の未来(上)】
 29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・米グーグルは9月、会社設立から25年を迎える
・検索や広告の経済効果は米国だけで約100兆円に
・生成AIの礎を築き、テック産業の成長の壁を打破
 米グーグルが9月、会社設立から25年を迎える。世界シェアの9割超を握ったインターネット検索サービスを軸に事業領域を拡大し、四半世紀で社会や経済に対する影響力を飛躍的に高めた。世界を変えたグーグルの光と影を追う。
【「Google25 テック覇者の未来」記事一覧】
• (中)Google出身の起業2000社 革新生む「回転扉」にきしみも
• (下)Googleが築くネット「大動脈」 世界分断、戦略修正迫る
• 【動画配信 NIKKEI LIVE】
• ・Google25年、ネットの巨人の未来を読む 9月7日生配信
インド東部ビハール州。長年にわたって深刻な洪水に見舞われてきた貧困州で6月、住民に警戒を呼びかける新たなシステムの利用が始まった。人工知能(AI)を活用して1週間先までの被害を予測し、対話アプリや街頭のスピーカーを通じて知らせる。
 新システムを支えるのがグーグルだ。「地域ごとの被害状況や予測を精緻に把握できるようになる」。システムの運用を担うNPOのラジェッシュ・サルマ研究員は期待を寄せる。グーグルは検索を通じた過去の情報の提供だけでなく、未来の予測にも踏み出した。
グーグルは社の使命として「世界の情報を整理し誰もがアクセスして使えるようにする」と掲げる。米スタンフォード大学で学ぶラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は1998年、全てのサイトを分析し、相互関係から重要なサイトを見つける手法を開発した。2人はグーグルを設立し相前後して中国では騰訊控股(テンセント)が誕生。現在に続く世界のテクノロジー産業の枠組みができた。
米経済効果100兆円
米シスコシステムズによると98年から2022年までにネットの情報量は3万倍に増えた。グーグルは検索技術を進化させて対応し、白地で簡素な検索画面も「毎日、何らかの改良を施した」(元副社長のマリッサ・メイヤー氏)。
グーグルは民家のガレージで産声を上げた(米カリフォルニア州メンロパーク市)
検索サイトの訪問回数は調査会社によると7月に1000億回に迫る。フェイスブックの8倍だ。検索結果に関連する広告を示す事業を拡大し売上高は40兆円を超えた。検索や広告を通じて生み出された経済効果は米国だけで推定7000億ドル(約100兆円)に達する。
独占・寡占、各国は警戒強化
時に世論をも動かす。心理学者のロバート・エプスタイン氏らは15年に検索の結果が選挙を左右すると指摘した。「トランプ氏の落選はグーグルのせいだ」――。5年後の米大統領選挙では共和党支持者がグーグルの検索が選挙結果に影響を及ぼしたと指摘した。
光が強いほど影も濃くなる。検索や広告市場の独占・寡占に加え、租税回避で各国の警戒も強まった。米司法省は20年、グーグルを反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴。これを機に世界的な影響力を高めたプラットフォーム企業に批判が集中した。
10年代後半はネット広告の成熟化などにより成長率も鈍化した。新型コロナウイルス禍の反動で22年は業績が落ち込んだ。21年末に1兆8000億ドルに迫ったグーグルの持ち株会社の時価総額は1年で40%減った。アップルなどを含む米大手4社の合計も約4割減少しテック産業全体が成長の壁にぶつかったとの見方もあった。
AIで再成長
だが、今年に入り時価総額は半年で5割超増加。生成AIへの期待からだ。その種まきをしたのはグーグルだった。
グーグルとスタンフォード大は12年、人間の脳を模したコンピューターに1000万枚の画像を読み込ませ、自力で「猫」を識別するようになったと発表して世界を驚かせた。ネット上に急増した情報を活用し、コンピューターに細かい情報を与えなくても自ら学ぶ深層学習を発達させ、生成AIの礎を築いた。
一方、生成AIがネット空間を汚染するとの懸念も浮上する。英オックスフォード大学などの研究チームは5月、誤った情報で学習したAIは社会に不正確な情報をまき散らすだけでなく、さらにAIがそれを取り込むことで誤情報が一段と増えると指摘した。
スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は「情報を誰もが使いやすくするという使命の実現をAIでさらに加速できる」と強調するが、AIはもろ刃の剣だ。次の25年を見据えてどのようなデジタル社会を築くのか。グーグルの戦略は人々の暮らしも左右する。

【日本、欧米より弱い値上げ力 育たぬ「スター企業」】
 同じ29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は29日に公表した2023年の経済財政白書で、企業が値上げする力にあたる「価格支配力」の向上をデフレ脱却の課題に挙げた。コストに対する販売価格の比率にあたる「マークアップ率」に着目し、市場を席巻する「スター企業」の少なさが日本の特徴と分析した。
この指標は製造コストの何倍でモノやサービスを販売できているかを示す。人件費はコストに含まない。他社との競争が厳しく、企業に価格設定の力がなければ1となり、製品の差別化などで有利な価格設定ができる場合は1から上昇する。
白書は経済産業省の企業活動基本調査のデータでマークアップ率を推計した。日本のマークアップ率は01年度以降の20年間で大きく変化していない。全産業でみると01〜05年度は1.13倍、16〜20年度は1.09倍と小幅に低下した。
 一方で世界では上昇している。国際通貨基金(IMF)による27カ国のデータを対象にした19年の分析では、00〜15年でマークアップ率が6%伸びた。特に上位の1割の企業は15年間で1.3倍と大きく上昇した。
IT(情報技術)大手や金融など一部の巨大企業が市場を席巻し、価格支配力を持つ構図といえる。
白書の分析によると、日本では上位の1割の企業でもマークアップ率の上昇はみられなかった。「我が国では『スーパースター企業』と呼ばれるようなグローバル市場における価格支配力の強い企業が少ない」と指摘した。
 IMFの19年の分析は、マークアップ率の上昇は一部企業の独占や寡占を示し、イノベーションの停滞や、投資・賃金の低迷が懸念されると評した。今回の白書ではこうした世界のトレンドとは異なり、日本企業のマークアップ率の低位安定を問題視した。
日本ではマークアップ率が高いと、利益率や賃金水準が高まる傾向があることが背景にある。白書は価格支配力の改善により「生産性・収益性向上と賃金上昇の好循環が期待される」と結論づけた。
価格支配力の伸び悩みの原因はデフレと低成長にあるとも指摘し、適切な価格転嫁と生産効率の改善が必要と言及した。
価格支配力の向上には卓越した商品やサービスの開発力も重要になる。特に非製造業の研究開発投資がマークアップ率と連動するとみている。
低価格競争の消耗戦を脱する企業行動の変化が実現すれば、日本経済はデフレに戻らず、より力強い成長を見込める。(マクロ経済エディター 松尾洋平)
業界再編、M&A「値上げ力」向上促す
 国内で過当競争を脱し価格支配力を高めているのが半導体業界だ。
 ルネサスエレクトロニクスはかつて赤字続きだったが、時価総額が4兆円超の優良企業に転換した。製品絞り込みとM&A(合併・買収)が奏功している。
 2010年に日立製作所とNEC、三菱電機の半導体部門が再編統合して発足したルネサスは旧親会社3社の流れをくむ半導体製品を多く抱え、仕様が違う重複製品が乱立。製造工場も全国に散らばり、固定費が重荷となっていた。
 13年のINCJ(旧産業革新機構)出資後、親3社のしがらみを断ち切り、工場と製品の余剰を減らした。10年4月に22カ所あった生産拠点は半減した。浮き沈みが大きいゲームや液晶分野などから撤退し、中長期で稼げる産業用途を強化した。世界シェア首位の制御用演算半導体「マイコン」の顧客を海外にも広げて、長期契約や単価アップなど取引条件も好転した。
 17年に米インターシル、19年に米IDT、21年には英ダイアログ・セミコンダクターなど約1兆7000億円を投じて海外企業を買収した。買収によって音や光、温度など物理現象をデジタル機器で扱えるように変換する「アナログ半導体」を製品領域に加えた。19年からマイコンとアナログを組み合わせた競合が少ない高単価のセット製品の提供を始め、業績拡大のけん引役となっている。
 素材業界では価格支配力で明暗が分かれる。
 2003年時点で国内に5社あった高炉メーカーは現在3社に集約された。かつての住友金属工業と日新製鋼を取り込んだ現在の日本製鉄は、主要設備の高炉の休止を進め、19年度時点で15基あった高炉は11基に減った。業界再編で過剰設備の集約が進み、値上げを進めやすい体質になり、23年3月期まで連結純利益で2期連続の過去最高を更新した。
 競合の旧川崎製鉄と旧NKKが統合したJFEホールディングスも値上げを進めており、少ない鋼材生産でも利益をあげられる体質への転換が進む。JFEは9月に全8基ある高炉のうちさらに1基を休止する予定で、「量から質」の経営姿勢をさらに強める。
 一方、石油化学業界は国内需要が振るわず、市況が悪化している。背景にあるのが進まない業界再編だ。03年の住友化学と三井化学の合併破談以降、石化事業を持つ大手化学メーカーは、旭化成、住友化学、東ソー、三井化学、三菱ケミカルグループ、レゾナック・ホールディングスの6社で変わらない。
 プレーヤーが多く、一部で海外移管なども進むが、設備自体の集約がなかなか進まない。顧客に対する価格競争力も高まりにくい。大手6社の22年度連結最終損益は半導体関連にシフトして黒字転換したレゾナック以外は、1社が赤字で4社が減益だった。足元では三菱ケミカルグループが再編の必要性を説き、石化事業を切り離す方針を掲げている。
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。白井さゆり慶應義塾大学総合政策学部 教授
ひとこと解説
マークアップ率で明確にはなりましたが、そのデータを使わなくても日本の価格転嫁が弱いことは以前から明確になっているかと思います。米国は2021年からコモディティ価格や物流価格が高騰したときから、幅広い品目で価格が上昇しました。現在はコモディティ価格高騰によるコストプッシュインフレはおわり、需要の強さや好調な労働市場の強さを反映したインフレが中心になっています。日本は基本的にコストプッシュインフレですが、消費者の大きな負担にならないようにゆっくり転嫁をすすめています。日本の場合需要の弱さが背景にあるため、価格転嫁力が今後高まるのかは議論の余地があるかと思います。

【1~6月出生数、3.6%減の37万人 過去最低更新ペース】
 同じ29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 厚生労働省が29日発表した人口動態統計によると、2023年1~6月の出生数は前年同期比3.6%減の37万1052人(外国人を含む速報値)だった。2年連続の40万人割れで、00年以降で最少を更新した。出生数の先行指標となる婚姻数は足元で過去最低水準で反転は見込みにくい情勢だ。
死亡数は2.6%増えて79万7716人で、出生数から死亡数を引いた自然増減はマイナス42万6664人だった。減少幅は前年同期から3万4393人拡大した。婚姻数は24万6332組で7.3%減った。
 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が4月に公表した将来推計人口では、23年の出生数は76万2000人(外国人含む)と予測する。23年上期の減少率が下期も継続すれば通年でおよそ77万人になり、ほぼ推計通りになる。10年前の106万人からは27%減ることになる。
政府推計では、出生数は23年で底を打ち、24年以降は一定程度持ち直す。24年には77万9000人、25年には77万4000人になるという。70万人を下回るのはおよそ20年後の43年だ。
推計通りになるかは疑わしい。背景には婚姻数の減少がある。23年上期の婚姻数は近年では20年同期の14.7%減に次ぐマイナス幅となった。18年同期のおよそ30万組から18%減った。
22年通年の婚姻数は3年ぶりに増加したが、23年には再び減少に転じそうだ。新型コロナウイルス禍で出会いが減ったのが主な要因とみられる。
 日本では婚姻関係にある夫婦の嫡出子が出生数全体の98%程度を占めるため、婚姻減は出生減に直結する。日本総合研究所の藤波匠氏は「結婚してから出産するまでの時間もかかるため、1年半〜2年半後の25年ごろも出生減は止まっていないのではないか」とみる。
出生数の反転が生じず、減少率が23年上期の3.6%のまま推移すれば外国人を含む出生数は26年に70万人割れとなる計算だ。外国人を除いた日本人のみの出生数はさらに3〜4%程度少なくなる。
将来推計人口の悲観的なシナリオを示す「低位推計」では30年の外国人を含む出生数を66万1000人と予測する。婚姻減が続けば中位推計にある反転が起きずに、少子化が急激に進む低位推計に近づく可能性がある。
低位推計での50年の出生数は48万9000人だ。生産年齢人口は5378万7000人と20年のおよそ7割となる。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合を示す高齢化率は1割上昇して38.4%になる。
急速な現役世代の縮小で年金・医療などの社会保障や経済社会の基盤も揺らぐ。建設や小売りをはじめとして、あらゆる分野における深刻な人手不足が生じる。
政府が6月にまとめたこども未来戦略方針は、児童手当の拡充や保育所の利用者拡大など出産後の現金・現物の給付策に重点を置いた。少子化で人口減少が進む日本で社会機能を維持するため、働きながら子どもを育てる「共働き・共育て」に向けた対策のシフトが急務となっている。

【トヨタ、30日に国内全14工場を順次再開】
 29日の日経速報メールは次のように報じた。
トヨタ自動車は29日夜、30日から国内全14工場の稼働を順次再開すると発表した。12工場は朝から通常稼働し、残る2工場は午後以降に稼働する。部品を発注処理するシステムの不具合の影響で29日朝から工場稼働を停止し全14工場へ広げていた。
トヨタでは2022年3月に部品メーカーの小島プレス工業がサイバー攻撃を受け、国内全工場の稼働が停止した。今回のシステム不具合の詳しい原因は調査中だが、「サイバー攻撃によるものではないと認識している」(トヨタ)としている。
システムの不具合は28日の日中に発生した。29日朝から12工場の25ラインの稼働を停止し、その後、対象を広げた。同日夕方から、宮田工場(福岡県宮若市)の2ライン、トヨタ車を生産するダイハツ工業の京都工場(京都府大山崎町)の1ラインも加え、国内全14工場にある計28の生産ラインを停止した。
日野自は同日、トヨタ受託車や小型トラックなどの車両を組み立てる羽村工場(東京都羽村市)の生産を停止した。エンジン生産の新田工場(群馬県太田市)の一部ラインの稼働も止まった。部品の取引先にも影響が広がり、豊田自動織機もエンジン生産の碧南工場(愛知県碧南市)と東知多工場(同県半田市)の操業を一部停止した。
トヨタは暫定的にシステムを立ち上げ、元町工場(愛知県豊田市)や高岡工場(同)は30日朝から稼働する。宮田工場(福岡県宮若市)とトヨタ車を生産するダイハツ工業の京都工場(京都府大山崎町)は午後の稼働再開になる見込みだ。30日中に通常の生産規模に復旧できる見通しという。
日野自は30日、羽村工場と新田工場の稼働を再開する一方で、システム不具合の影響で部品の供給が遅れ、新たに中大型トラックを生産する古河工場(茨城県古河市)の操業を停止する。豊田自動織機の2工場は30日朝から稼働を再開する見通し。

【セブン&アイ、そごう・西武を9月1日に売却 31日に決議】
 30日の日経速報メールは次のように報じた。
 セブン&アイ・ホールディングスは30日、百貨店子会社のそごう・西武を9月1日付で米ファンドに売却する方針を固めた。当初は2月に売却完了する予定だったが、旗艦店の改装案などで調整が難航していた。そごう・西武は赤字が続いている。セブン&アイはコンビニエンスストア事業に経営資源を集中し、そごう・西武はファンド傘下で構造改革に取り組む。
8月31日に臨時の取締役会を開く。そごう・西武の労働組合は売却後の売り場構成や雇用確保などで反発しており、9月1日付での売却となれば8月31日にストライキをする構えを示している。セブン&アイの方針を受けて、労組はストを実施するかを最終判断する。
セブン&アイは2022年11月、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループとそごう・西武の売却で基本合意した。フォートレスは当時、2500億円を軸に買収額を算出するとしていたが、そごう・西武の今後の事業計画などを踏まえ300億円ほど減額したもようだ。またセブン&アイはそごう・西武に対する貸付金約1600億円のうち1000億円程度を放棄する見通し。
フォートレスは家電量販大手のヨドバシホールディングス(HD)と連携している。ヨドバシは西武池袋本店(東京・豊島)などへの出店を検討しているが、売り場構成などでそごう・西武の労組などと調整が難航。売却の実行日をこれまでに2度延期していた。
売却交渉が長期化するなか、セブン&アイの井阪隆一社長は「関係者全員100%の合意を得るのは難しいかもしれないが、最大公約数の納得を得られるように進めていく」方針を示していた。ヨドバシの出店場所に懸念を示す東京都豊島区や地権者の(HD)などに対し、ヨドバシHDが西武池袋本店の1階と地下1階への出店を一部断念した内容を盛り込んだ改装案を示すなど関係者間で協議を進めていた。
そごう・西武は23年2月期に4期連続の最終赤字となり、有利子負債も約3000億円に達している。セブン&アイは中核のコンビニ事業を成長戦略の中心として事業ポートフォリオの見直しを図るなか、今後もそごう・西武に経営資源を投下し続けることは難しいと判断。セブン&アイのグループ会社による債権放棄を含む一定の損失計上を前提に、そごう・西武が再成長できる相手としてフォートレスを選んだ。
依然としてそごう・西武労組の理解は十分には得られていないものの、8月から複数回にわたってセブン&アイ首脳が労組幹部と会談し雇用維持や百貨店事業の継続などについて説明。これまでに実施した会合や説明を背景にセブン&アイとしては最低限の手順を踏み、関係者の間で一定の理解が得られたと判断したもようだ。

【そごう・西武労組、ストライキ実施 31日に池袋本店休業】
 同じ29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 セブン&アイ・ホールディングスの百貨店子会社、そごう・西武の労働組合は30日、31日にストライキをする方針を決めた。そごう・西武は31日に西武池袋本店(東京・豊島)を全館休業とすると発表した。そごう・西武の売却を決めているセブン&アイに対し労組は、9月1日付での売却を先送りするよう求めていた。セブン&アイが同日付での売却を決めたことで、ストライキに踏み切る。
大手百貨店でのストライキは約60年ぶり。そごう・西武を巡る売却劇は小売業では異例の労働争議に発展する。
西武池袋本店で働く約900人の組合員が対象となる。ストが実施されれば、食品や衣料品などそごう・西武が自ら運営する売り場の営業に影響が出る。売り場の混乱を回避するため全館休業になる。ストはほかの店舗では実施しない。
そごう・西武の会社側は「不十分な人員体制での運営によりお客様にご迷惑をおかけすることを回避する」と西武池袋本店の31日終日閉館についてコメントを発表した。また、「株主の交代に伴う雇用維持と事業継続については引き続き親会社のセブン&アイと新株主と協議を重ねていく」としている。
百貨店は自社運営のほか、テナント運営、取引先が派遣する社員で運営される「消化仕入れ」と呼ぶ売り場に分かれる。自社運営の売り場は多くはないが、そごう・西武労組の寺岡泰博中央執行委員長は28日の記者会見で「取引先が運営する売り場もレジ業務などは(そごう・西武の社員が管理し)オペレーションの問題は出る。全ての機能が終日営業できるとは思わない」などと話していた。
セブン&アイは2022年11月、米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループとそごう・西武の売却で基本合意した。売り場構成などでそごう・西武の労組や東京都豊島区などと調整が難航。同社の元社員が裁判を起こしたこともあり、セブン&アイは売却完了の実行日をこれまで2度延期していた。
セブン&アイは30日、31日に臨時取締役会を開いて9月1日に売却を完了させる方針を固めた。寺岡氏は米ファンドへの売却後の雇用維持などについて「納得感を得られている状態になっていない」とし、「セブン&アイが9月1日に売却を完了しないことが確認されればストは見送る」と述べていた。
百貨店でのストは1962年の阪神百貨店労働組合が最後とみられ、実施されれば約60年ぶりとなる。

【SBI証券と楽天証券、日本株の売買手数料ゼロに 9月以降】
 同じ30日の日経速報メールは次のように報じた。
 ネット証券最大手のSBI証券と同2位の楽天証券が9月以降、相次いで日本株の売買手数料を無料にする。無料は国内証券会社で初めて。2024年に新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まるのを前に、個人の投資を呼び込む。米国のネット証券で主流の株取引手数料ゼロが日本でも広がる可能性がある。
SBI証券はオンライン取引を対象に、9月30日の注文分から日本株の現物取引と信用取引両方の売買手数料をゼロにする。現在の現物株取引では、一部取引を除いて1注文あたり55〜1070円かかっている。
楽天証券もSBIと同じく、日本株の売買手数料をゼロにする。開始時期は未定だが、9月以降になる見込み。現在はSBIと同じく1注文あたり55〜1070円かかる。
SBI証券の親会社であるSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は19年に売買手数料を将来、完全無料化する方針を掲げた。21年から25歳以下の若年層を対象に日本株の売買手数料をゼロにしてきたが、すべての投資家に広げる。SBIの完全無料化に伴い、楽天証券も追随する。
足元の証券口座数は最大手のSBI証券が約1000万、2位の楽天証券が約900万で、3位のマネックス証券(約200万)に大きく差をつけている。手数料の低さやネット取引の手軽さから若年層を中心に支持を得ている。完全無料を前面に出してさらなる囲い込みを狙う。
SBIでは日本株取引の手数料収入は年200億円程度で、営業収益の1割程度を占める。手数料無料化の影響は外国為替証拠金(FX)取引や暗号資産(仮想通貨)取引、法人営業などでカバーする方針とみられる。
今後、他のネット証券や、野村ホールディングスはじめ大手総合証券が追随するかが焦点になる。
米国では19年にネット証券大手チャールズ・シュワブが株式などの売買手数料を無料にしたのをきっかけに競合他社も相次ぎ無料化し、業界全体で無料が定着した。米国のネット証券各社は信用取引の金利収入などを主な収益源としている。

【トヨタ23年世界生産、初の1000万台超え 部品不足緩和】
 同じ30日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は2023年の「トヨタ・レクサス」ブランドの世界生産を約1020万台とする計画を固めた。22年から1割増え、19年の過去最高(905万台)を大幅に更新する。車載半導体などの部品不足が緩和しているほか、国内外でハイブリッド車(HV)の販売が好調なことから増産体制を整える。
30日までに主要な部品企業に通知した。トヨタは23年の生産計画を約950万〜1060万台と1月に公表していた。トヨタは生産計画を「基準」や「目安」と呼ぶ。今回、部品企業に23年の計画を1020万台規模と明示したことで、トヨタ・レクサスブランドの暦年生産としては初の1000万台超えが視野に入る。傘下のダイハツ工業、日野自動車を含めれば、13年に初めて1000万台を超えていた。
 内訳は国内が約340万台、海外が約680万台。22年比でそれぞれ3割、1割弱増える。国内生産はトヨタが日本のものづくりの技術と雇用維持のために必要と考える「300万台」の節目を4年ぶりに超えそうだ。
23年1〜7月の生産実績は前年同期比12%増の570万台だった。8〜12月は平均で月産90万台とペースを加速させる方針だ。
中期の計画は24年が約1070万台、25年が1100万台規模を見込んでいる。うち国内は25年に350万台強と数万台ずつ増える。
増産の最大の要因は車載半導体をはじめとした部品不足の緩和だ。トヨタの生産は新型コロナウイルスが流行し始めた20年に790万台まで減り、その後もコロナ禍で部品不足が長引いた。22年は902万台まで回復したものの、過去最高の19年には3万台弱届かなかった。
HVの好調も貢献する。トヨタはHVの世界シェアで推定6割と圧倒的な地位を築く。調査会社のグローバルデータによると、HVの世界需要は25年に806万台と22年比で85%(370万台)増える見通しだ。
トヨタは「カローラ」などのHVの販売が好調
地域別でみると、特にアジア太平洋は25年に22年比で9割増の431万台と大きな伸びしろがあるとみられている。30年にはさらに6割増の686万台に達する。北米も25年に189万台と3年で2倍に増える。
トヨタは直近のHVなら例えば国内で「プリウス」、米国で「レクサスRX」、中国でミニバン「シエナ」の売れ行きが好調だ。世界戦略車の「カローラ」も含め、競争力の高いHVを幅広い車種で取りそろえる。
一方で市場環境には不透明感もある。最大のリスクは中国だ。比亜迪(BYD)をはじめ現地の電気自動車(EV)メーカーが台頭し、トヨタの23年7月の中国販売は前年同月比で15%減った。トヨタ幹部も「思っていた以上に競争環境が厳しくなっている」と話す。
EVの開発も課題だ。トヨタは26年までにEV販売を「年150万台」と掲げるが、23年1〜7月は5万台にとどまる。達成するには26年までの急ピッチな増産体制の構築が欠かせない。
ただし長年の原価低減により、トヨタのHVの台あたり利益はガソリン車並みに高まっている。HVの生産や販売が増えるほどEV戦略を強化するための原資となる。
29日にはシステムの不具合で、国内全14工場の生産ラインが停止した。部品会社の中には生産計画について「実質的な『上限』と捉えた方が良い」と指摘する役員もいる。計算外の供給網の乱れや競争激化による下振れリスクを考慮した上でのかじ取りが必要となりそうだ。

【セブン&アイ、そごう・西武の売却発表 米ファンドに】
 31日の日経速報メールは次のように報じた。
 セブン&アイ・ホールディングスは31日、百貨店子会社のそごう・西武を米投資ファンドに9月1日付で売却すると発表した。そごう・西武に対する貸付金(7月末時点)1659億円のうち916億円を放棄する方針も決めた。債権放棄を通じて売却後の経営再建を後押しする。セブンは不採算事業を売却し、中核のコンビニエンスストア事業に経営資源を集中する。
31日に開いた臨時取締役会で決議した。2022年11月に米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループと、そごう・西武の売却で基本合意した際は企業価値が約2500億円だったが、そごう・西武の今後の事業計画などを踏まえ300億円程度減らした。
売却でそごう・西武はフォートレスの完全子会社となる。そごう・西武子会社のロフトは引き続きセブン傘下にとどまる。セブンとフォートレスは現時点で、そごう・西武の全国10店は百貨店として事業を継続するとしている。
売却の決議を受け、セブン&アイは「成長ドライバーであるコンビニエンスストア事業に経営資源の集中的な配分を図る」と強調。食を中心とした世界トップクラスのリテールグループを目指す考えを改めて示した。またそごう・西武労組が懸念している売却後の雇用維持についても「今後とも適切な範囲で支援・協力していく」と述べた。
フォートレスも31日、セブンと同様の内容を発表した。西武池袋本店など複数店舗に改装やそれ以外の設備投資向けに200億円以上を投じると表明した。フォートレスは「そごう・西武の事業継続を実現することに尽力し、最大限の雇用維持に向けセブンとそごう・西武の経営陣を支援する」とコメントした。
フォートレスは家電量販大手のヨドバシホールディングスと連携し、百貨店の再建を進める。そごう・西武の労組はセブン&アイによる早期売却に反発し、31日に西武池袋本店(東京・豊島)を全館臨時休業させたが、ストライキ翌日の9月1日からはオーナーがフォートレス・ヨドバシ連合に移る。
そごう・西武の売却を巡ってはセブン&アイによる利害関係者への根回し不足のほか、売却後の売り場構成や雇用確保などについてそごう・西武労組などと調整が難航。売却の実行日をこれまでに2度延期するなど売却交渉が長期化していた。

【ヨドバシHD、西武池袋店などの土地取得 3000億円弱で】
 同じ31日の日経速報メールは次のように報じた。
 家電量販店大手のヨドバシホールディングス(HD)が、そごう・西武が持つ西武池袋本店(東京・豊島)の土地などを3000億円弱で取得することが8月31日、わかった。9月1日付でそごう・西武の親会社となる米ファンドから取得する。
ヨドバシHDはそごう・西武の主力3店舗に出店する方針。そごう・西武の再建にヨドバシHDが強く関与することになる。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は31日、そごう・西武を米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに9月1日付で売却すると発表した。そごう・西武子会社の雑貨店「ロフト」は引き続きセブン傘下にとどまる。
2022年11月に基本合意した際のそごう・西武の企業価値は約2500億円だったが、今後の事業計画などを踏まえ300億円程度を減らした。セブン&アイはそごう・西武に対する貸付金(7月末時点)1659億円のうち916億円を放棄する方針も決めた。
フォートレスは買収資金として、三井住友銀行とみずほ銀行、三菱UFJ銀行の3メガバンクから計2300億円弱をブリッジローン(つなぎ融資)で借り入れる。
フォートレスは西武池袋本店やそごう千葉店(千葉市)、西武渋谷店(東京・渋谷)の土地や建物の一部、そごう・西武子会社の株式などをヨドバシに3000億円弱で売却し、銀行への返済資金に充てる計画だ。
フォートレスは銀行から借り入れた2300億円弱のうち、約200億円をセブン・フィナンシャルサービスが51%を出資するセブンCSカードサービスの株式買い取り資金にする。セブンCSカードサービスは西武百貨店の「クラブ・オンカード」、そごうの「ミレニアムカード」を発行している。残る49%は、これまでに引き続いてクレディセゾンが保有する。
セブンとフォートレスは現時点で、そごう・西武の全国10店は百貨店として事業を継続するとしている。そごう・西武労組が懸念している売却後の雇用維持についてセブンは「今後とも適切な範囲で支援・協力していく」とコメントした。
フォートレスも31日、セブンと同様の内容を発表した。西武池袋本店など複数店舗の改装やそれ以外の設備投資向けに200億円以上を投じると表明した。フォートレスは「そごう・西武の事業継続を実現することに尽力し、最大限の雇用維持に向けセブンとそごう・西武の経営陣を支援する」と述べた。
【金融庁・日銀、企業向け融資を常時把握 危機の芽に先手】
 9月1日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・当局が閲覧する仕組みを導入する
・監視の網の目を細かくする
・危機の芽の早期発見につなげる
金融庁と日銀は年内にも銀行の企業向け融資の詳細なデータを常に把握できるようにする。これまでは検査や考査のたびに個別に提出を求めてきたが、共通のインフラをつくって当局が閲覧する仕組みを導入する。監視の網の目を細かくすることで、危機の芽を早期にみつけて先手を打ちやすくする。
金融庁と日銀が共同で集めるのは個別の企業向け融資の残高や金利水準、担保の状況、格付けなど「高粒度」と呼ぶきめ細かなデータだ。まず3メガバンクなど主要行と地方銀行の約70行を対象に始めて、将来的に第二地銀や規模の小さい地域金融機関にも広げる。
金融庁と日銀はこれまでも欧米での金利上昇時に債券の保有状況を調べたり、不動産価格が上がっている際には保有する担保の情報を確認したりするなど、検査や考査以外のタイミングでも銀行からデータを集めてきた。
 ただ、調査のたびに銀行にデータの提出を求めるため分析までにタイムラグがあった。融資データを受け取る形式を統一し、共通のインフラ(プラットフォーム)で常に閲覧できるようにすることで、実態をつぶさに把握できるようにする。
当局が銀行と同じ情報を持てば、特定の企業や業種への融資の偏りや設定している担保価値の目減りといった変化に早く気づけるようになる。金利や不動産価格、産業構造の変化でしわ寄せを受けやすい銀行やリスクの芽を特定し、効率的な監督や迅速な対応につなげる狙いがある。
金融庁と日銀は金融機関側の負担軽減を狙い、それぞれ担っている検査と考査の一体運用を進めてきた。データの収集でも金融庁と日銀が相乗りする共通のインフラを導入することで効率化する。
海外では米連邦準備理事会(FRB)が企業向け貸出債権は四半期ごと、クレジットカードや住宅ローン債権は毎月、詳細なデータを吸い上げている。大手銀行に対しては当局の監督官が各行内に常駐し、取締役会に参加したり経営陣らと日常的にやりとりしたりしながらリスクを洗い出している。
欧州中央銀行(ECB)も毎月、企業向け貸出債権のデータを集めているほか、イタリアやカナダも中央銀行内に設けた共通インフラに金融機関がデータを送り、当局が閲覧する仕組みを整えている。
米欧の急速な利上げを背景に世界の金融システムへの負荷は高まっている。世界の金融当局は画一的な規制強化より金融機関の経営実態の監督や緻密なモニタリングの強化に力点を置いている。緩和下で合理的だった行動がリスクに転じかねない局面に入っているためだ。
日銀は「日本の金融システムは健全で頑健」との評価を崩していないものの、より詳細なデータを当局がタイムリーに把握・分析することで、新たな危機の未然防止に役立てる。
米地銀が相次いで破綻した今年春の金融不安では、1日で預金総額の4分の1にあたる5兆円超が流出し破綻したシリコンバレーバンク(SVB)を筆頭に、デジタル時代の金融監督の難しさも浮き彫りにした。今回の措置は従来型の不良債権リスクには効果があるものの、SVB型の危機への対応は引き続き課題として残る。(三島大地)

【大学10兆円ファンド、東北大学が支援第1号に 文科省】
 同じ9月1日の日経速報メールは次のように報じた。
 世界最高水準の研究大学をつくるために政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで文部科学省は1日、東北大を最初の支援対象候補に選んだと発表した。研究や組織改革の戦略を総合的に評価した。運用益を確保して2024年度の助成開始をめざす。
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大学ファンドは資産を株式や債券で運用し、利益を数校の「国際卓越研究大学」に分配して研究力の向上を図る制度だ。支援額の上限は全体で年3000億円となり、最長25年間受け取れる。
初回となる今年の公募には10校が名乗りを上げた。審査を担う同省の有識者会議は「体制強化計画の磨き上げなど一定の条件を満たした場合に認定する」との留保付きで東北大を選んだ。正式な認定は24年度中の見通しだ。
東北大の大野英男学長は「変革への意思や体制強化計画が評価され、大変光栄に思う。世界をリードする研究大学を目指し、最終的な認定に向けて全学一丸となって引き続き力を尽くす」とのコメントを出した。
東北大とともに有識者会議の現地視察の対象になった東京大と京都大は選ばれなかった。有識者会議は東大について「既存組織の変革に向けたスケール感やスピード感は十分ではない」、京大は「スタートアップや国際化の取り組みで実社会の変化への対応の必要性が感じられた」と指摘した。
同省は24年度も卓越大を公募する。23年度の審査で選ばれなかった大学も申請できる。支援対象は段階的に数校に増える見込みだ。
永岡桂子文科相は1日の閣議後記者会見で「選ばれなかった大学も意欲的な提案がなされた。研究力強化に向けて各大学と対話を継続し、改革の取り組みをしっかりと後押ししたい」と述べた。
 ファンドの22年度の運用成績は604億円の赤字だった。株式の配当や確定した損益を合算した損益計算書上の当期利益は742億円で、ここから21年度の繰越欠損金を引いた680億円が助成の原資となる。
文科省は24年度は東北大に100億円程度を助成できるとみる。ただ、担当者は「運用益の範囲内での助成になる」としており、成果が出なければ支援は困難になる。
東北大は同省に提出した計画で、世界トップ級の研究者で作る「研究戦略ボード」を設けるとした。工業製品の材料を研究して新たな機能の材料を開発する材料科学や災害科学などで「世界十指に入る研究拠点を形成する」という。
仙台市のキャンパスに整備する次世代放射光施設「ナノテラス」を核に、産学官で半導体や量子などの成長分野の研究にも力を入れる。
大学院生に給与を支給するなど経済支援を拡充し、博士課程の学生数を現在の約2700人から25年後に6000人に増やす計画も盛り込んだ。国際化を推進するため外国人研究者比率を9%から30%に、学部の留学生比率も2%から20%に引き上げる。
ガバナンス(統治)強化策では「総合戦略会議」を創設し、学長の選任や解任、大学運営の重要事項を決定する権限を持たせる。同会議の委員の過半数は学外から招く。
一方、民間企業などからの研究資金の受け入れ額を10倍以上にする目標について、有識者会議は「野心的だが、従来の成長モデルの延長線上では達成は困難」と指摘。戦略の深掘りや見直しが必要だとした。
東北大は取り組みの状況を毎年文科省に報告する。事業規模を年平均で3%成長させることが求められ、6〜10年ごとに評価して助成に見合う成果がなければ支援は打ち切られる。
政府は大学が独自の基金を設けることで助成終了後も自律的に財務運営ができる環境づくりを促す。大学ファンドの支援額の一部は独自基金に積み立てることができる。東北大は25年後に1.3兆円規模の基金にすることを目指す。
ファンドの初回の公募期限の23年3月末までに申請したのは国立が東京科学大(東京工業大と東京医科歯科大が24年度中をめどに統合)、名古屋大、京大、東大、筑波大、九州大、東北大、大阪大の8校、私立は早稲田大と東京理科大の2校だった。
審査を担う有識者会議は国内外の有識者10人で構成し、7月に東北大、東大、京大の3校を視察した。

【トヨタが鋼板価格据え置き 部品会社向け、日鉄と妥結で】
 同じ1日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は2023年度下期(10月〜24年3月)に部品メーカーに供給する鋼板の価格を上期(23年4〜9月)から据え置くことを決めた。1日までに主要な仕入れ先に通知した。鋼板価格が据え置きとなるのは2半期連続となる。21〜22年度にかけて大きく上昇した鋼材の値動きは落ち着きを取り戻しつつある。
日本製鉄と半期ごとにしている価格交渉がこのほどまとまった。トヨタは国内企業で最も鋼材を購入するため、日鉄との交渉結果は他業種の調達価格にも影響を与える。
トヨタは鉄鋼メーカーから、部品メーカー向けの鋼材も合わせて一括購入する商慣習がある。トヨタは鉄鋼側と交渉して決まった卸値をもとに、部品会社に供給する価格を決める。 
21年度下期〜22年度上期はともに1トンあたり約2万円値上がりした。22年度下期は同4万円上昇した。この間に2倍近くに値上がりしたとみられる。
部品メーカーはトヨタから購入した鋼材を加工し、鋼材分は同じ値段でトヨタに買い取ってもらう。仕入れ先は中期でみれば原材料費の変動リスクを負わないが、卸値と供給価格などは市況の適用時期のずれが発生する場合もあり、必ずしも一致しない。
鋼板価格は原料の鉄鉱石や原料炭の価格や為替レート、事業環境などの要因を考慮して決める。この半年でみると鉄鉱石の価格は横ばい圏で、原料炭は値下がりした。
ただし円安が進行し、鉄鋼メーカーは脱炭素に向けた投資もかさんでいる。こうした要因を考慮し、今回のトヨタと日鉄の交渉は小幅以内の価格変動でとどまったようだ。
トヨタは鉄鋼メーカーにとって国内最大の顧客だ
トヨタは24年3月期(23年度)の連結営業利益見通しを前期比10%増の3兆円としている。車の生産増や機能向上に伴う値上げなどが貢献する。ただし高騰している燃料費を仕入れ先の分も負担するため、原材料高は利益を5100億円下押しすると見込む。
トヨタの原材料高による負担が大幅に増すリスクは昨年に比べて和らいできた。自動車は鋼材以外にアルミや樹脂なども使う。アルミや樹脂はこの1年でみると値下がりしている点もトヨタの費用増のリスク軽減になりそうだ。

【そごう・西武、米ファンドから代表取締役】
 同じ1日の日経速報メールは次のように報じた。
 そごう・西武が1日付で代表取締役に米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループ日本法人の劉勁氏を就任させたことが分かった。フォートレスは同日付でそごう・西武の買収を完了した。田口広人社長は代表権のない取締役執行役員社長となった。フォートレスは幹部をそごう・西武に送り込んで再建を加速する。
劉勁氏のほか、フォートレス日本法人代表の山下明男氏も取締役に就任した。新橋政則氏らそごう・西武生え抜きの4人の取締役は執行役員となったとみられる。経営と執行を分離し、百貨店事業の立て直しに向けて機動性を高める。
そごう・西武を売却したセブン&アイ・ホールディングス(HD)の役員との兼務者である山口公義・取締役副社長や石井信也取締役らは退任した。
そごう・西武の売却を巡ってはセブンが2022年11月、フォートレスに売却することで基本合意した。当初は売却完了日を23年2月1日としていたが、関係者との調整に時間がかかり売却交渉が長期化していた。
8月31日にセブンがフォートレスへの9月1日付での売却を決議し、同日からそごう・西武はフォートレスの完全子会社になっている。フォートレスは家電量販大手のヨドバシホールディングスと連携し、百貨店の再建を進める方針だ。

【賃上げ減税を延長へ 政府、中小企業向けに新制度 首相「学び直し補助拡充」】
 同じ1日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は中小企業に適用する賃上げ促進税制の期限を延長する調整に入る。賃金の引き上げや従業員の学び直し(リスキリング)への取り組みを促し、消費と設備投資の拡大につなげる狙い。岸田文雄首相が近く政府・与党に検討を指示する経済対策の柱の1つとする。
首相は1日、働く人が新しいスキルを学ぶ重要性を考えるシンポジウム「日経リスキリングサミット2023」(日本経済新聞社主催)に出席。企業トップや有識者らとの座談会に臨んだ。
9月中にもとりまとめる経済対策について「賃上げの機運を継続することが経済の好循環を実現する上で重要だ。賃上げや投資を持続させられる対策を用意する」と表明した。2023年度補正予算案に計上する措置や、年末にかけての税制改正論議で取り上げる内容を盛り込むとみられる。
首相は地方の中小企業を中心に投資やリスキリング、非正規社員の正規化を促す策を講じると説明した。大企業と比べてノウハウや経営体力の不足する中小企業の後押しは経済全体の底上げにつながる。
中小企業の賃上げを促す税制には、従業員への給与支給総額を前年度から1.5%以上増やした場合に給与増加額の15%を法人税から差し引く仕組みがある。教育訓練費を前年度から10%以上増やせば10%の控除率を上乗せする。
この措置は23年度末に期限が切れる。経済産業省は賃上げやリスキリングへの取り組みを継続させる狙いから24年度の税制改正要望に延長を盛り込んだ。6年間延ばす案があり、政府・与党内で調整する。
繰越控除も検討する。賃上げを実施した決算期が赤字などによって税額控除の恩恵を受けられない場合、控除しきれない分の繰り越しを認める制度を中堅・中小企業向けに導入する案がある。
 中小企業のうち所得金額がゼロまたはマイナスとなった社は21年度で6割程度あった。賃上げ率が1.5%未満の企業を対象に経産省がアンケート調査を実施したところ3割程度が「繰越控除があれば1.5%以上引き上げた」と答えた。
賃上げに積極的な中小企業には設備投資への補助金も手厚くする。税制と補助金の両輪で賃上げが持続する環境を整える。
現在は大企業と中小企業(資本金1億円以下)で条件を分けている。中間規模の企業が税制優遇を適用しやすくなるよう資本金が1億円超から10億円までの「中堅企業」の枠を新たに設ける方向だ。
経産省によると12年度から21年度にかけて中堅企業の従業員数の伸びは大企業を上回った。中堅企業が49万8000人、大企業は49万人だった。雇用を支える役割の大きい中堅企業の賃上げを後押しする。
首相は座談会で個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる政府の方針を説明し、中小企業による活用を期待した。副業や兼業の人材を受け入れる企業や送り出す企業を支援すると述べた。
「働き手の主体的なリスキリングを促すため5年以内をめどに過半が個人経由で給付される改革に着手する」と強調した。賃金や雇用の拡大余地が大きい観光、物流、IT(情報技術)などの分野で補助率や補助の上限を広げる方針を示した。

【AI活用は人類の利益、進化を止めるな 世界的権威の訴え アンドリュー・ング 米スタンフォード大学兼任教授】
 2日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 人間に勝る賢さを獲得しつつある人工知能(AI)。「Chat(チャット)GPT」をはじめとする生成AIの登場で、新たな進化の段階を迎えている。10年前に大量のデータに潜む特徴を自力で見つけだす「深層学習」の研究で革新的な成果をあげた世界的権威の目にAIの未来はどう映るのか。米スタンフォード大学のアンドリュー・ング兼任教授に聞いた。
米グーグル創業者のラリー・ペイジ氏にかけ合って同社のAI研究部隊を創設し、2012年に深層学習を用いて大量の画像からネコを識別するAIを開発して世界を驚かせた。チャットGPTを生んだ米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は教え子の一人だ。
――AIの進化の速度はすさまじい。現在の革新を予測していたか。
「10年前の深層学習の技術は画像認識を得意としていた。その上に手に入れたのがAIの応用を広げる現在の生成AIだ。チャットGPTなどのイノベーションは、私が携わったグーグルのチームが17年に発表した『トランスフォーマー』と呼ぶ深層学習技術の論文から生まれた。正確に何が起こるかを見通せていたわけではないが、数年前から専門家は変化の胎動を感じていた」
――オープンAIはなぜチャットGPTを生み出せたのか。なぜこれほど人をひき付けたのか。
「サムは大規模なチームを少数のプロジェクトに集中させる手法で成功した。チャットGPTの優れた点は『AIの大衆化』を実感させたことだ。技術的に高度なだけでなく、利用者にとっての親しみやすさ、使いやすさで多くの人の想像力をかき立てた」
アンドリュー・ング氏はAIが人間の役割全てを担えるわけではないと説く
――生成AIは本当に暮らしや仕事を変えるような技術なのか。
「AIの特徴の一つが汎用技術であることだ。つまり、ひとつだけでなくさまざまな用途で役に立つ。多くの人はチャットGPTを消費者向けの『質問ができるツール』としてとらえているが、それは過小評価だ」
「生成AIは優れた開発者用ツールであり、顧客サービスや情報収集、電子メールの作成などに応用できる。AIはすでにインターネット広告から医療の画像診断まで広く役立っている。汎用技術として広範に恩恵をもたらした100年前の電気と同じだ」
「チャットGPTによってプログラミング作業の障壁は低くなり、エキサイティングな変化が起きようとしている。大企業から中小企業、高校生まで誰もがデータを持つ時代だ。チャットGPTのようなツールを使えば、独自のAIシステムをつくる垣根は下がる」
人はより価値のある仕事を
――AIは医師や弁護士の試験に合格する知的水準に達している。すでに人間をしのぐ賢さを手に入れつつあるのでは。
 「電卓の計算力は昔から人間より優れていた。チャットGPTも特定の作業では人間を上回る。ただ、仮に医師の試験に合格できても、訓練された人間の医師をしのぐわけではない。AIは人間の役割全ては担えない」
――AIが雇用を脅かす恐れはないのか。
 「生成AIに左右される仕事はあるだろう。従来の自動化は低賃金の労働者に影響を与えてきたが、生成AIはホワイトカラーや高賃金労働者により大きく関係する。AIに生活を脅かされる人々への配慮は必要だ。リスキリング(学び直し)に投資し、誰もがAIが生む巨大な価値を享受できるようにすることが社会としての責任だ」
――人間は何をすべきか。
「AIには無理でも人間にできることはたくさんある。AIが自動化するのは仕事そのものではなく一部の作業だ。多くの職業でその比率は20〜40%になるだろう。問題はその人が余った能力を使い、より価値のある仕事ができるかどうかだ」
 人間の生存を脅かすAIの出現を「火星が人口過密になることを心配するようなもの」と発言したことも。急速な進化に対する不安の高まりをどう受け止めるか。
――AIはリスクももたらす。人類を絶滅危機に追い込む可能性さえ指摘されている。
 「まず言いたいのはAIは社会に大きな価値をもたらすということだ。いくつかのリスクを真剣に受け止める必要があるのは確かだ。AIは偏った、あるいは不正確な出力をすることがある。有害なコンテンツを生み、偽情報の拡散を助長することもあるだろう」
「AIで絶滅危機」は誇張に過ぎず
 「一定の弊害はあるとしても、利益の方がはるかに上回る。AIが絶滅危機をもたらすという意見は誇張しすぎだ。人類に有益な存在となるようかじ取りできる。次のパンデミック(感染症の大流行)や気候変動、小惑星の衝突など人類に襲いかかる危機を解決する重要な鍵になるはずだ」
――AIが制御不能になる恐れはないか。高度なAIの開発の一時停止を求める声もある。
 「人類や人間社会を1000年先まで存続させ、繁栄させたいのであれば、AIの進化を減速させるのではなく、可能な限り速くすべきだ。AI開発を停止するという提案はひどい考えだ。仮に政府が一時停止を法制化すれば、イノベーションや競争を阻害する」
AIの過度な規制には懸念を示す
――欧州連合(EU)などでAIへの規制が導入されようとしている。
「多くの国の規制当局はAIについて十分な知識を持たず、適切な規制ができないと感じている。欧州に関していえば、規制プロセスの透明性をより高めてほしい」
「米国では政府がAIを学んでいる段階だ。今は『AIを用いた広告が選挙にどの程度影響してきたか』といった基本的な問いの答えもわかっていない。何が起きているかを理解しないまま規制を導入することを懸念している。このままでは弊害を減らす目的を達成できず、AIの発展も遅らせる事態になる」
「テック企業の事業が不透明で、規制当局は実態を知るすべがない。規制当局は20人や50人の専門家らと話して理解したつもりになっているが、そんなことはない」
生成AIの革新は米国が主導してきた。人口減に直面する日本にとって、AIは生産性や成長力を高める鍵となる可能性がある。
――米国では優秀な人材が集うスタートアップが続々と生まれている。
「とりわけシリコンバレーに才能ある生成AIの人材が集中している。グーグルとオープンAIの2社が数年前から取り組んできたことが大きい。両社を去った人も周辺ビジネスの立ち上げに携わってきた。毎週のように生成AIに関わる人々が出会い、会話を通じて互いを高め、最先端を維持している」
――日本にチャンスはあるのか。
「日本は多くの国民がロボットや自動化、AIに好意的だ。AIが雇用を奪うことへの抵抗が少なく、導入を迅速に実行しやすい独自の強みがある。AIは複雑な技術だが、多くの人に基本的な理解を広め、具体的な利用法を見いだす力を持たせることが必要だ」
「私はとAIを用いて船舶の航路を最適化し、燃料費を削減する取り組みを進めてきた。AIの専門家とさまざまな業界の専門家が組んで、活用の新たなアイデアを生むことが極めて重要だ。1、2年前には不可能だったことを実現できるチャンスは無数にある。AIと日本の得意な産業を組み合わせて、新たなスタートアップやビジネスが生まれることを期待している」
Andrew Ng 米カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。世界的なAIブームの火付け役の一人で、米グーグルや中国の百度(バイドゥ)の研究を主導した。オンライン教育の米コーセラを創業するなど起業家としても活躍。AIを対象にしたファンド運営にも携わる。
真価引き出す「賢さ」を(インタビュアーから)
この10年でAIは驚くべき進化を遂げた。人間側がそのスピードに追いつくのが難しくなっているほどだ。ング氏と共にAI研究の大家として知られるトロント大学(カナダ)のジェフリー・ヒントン氏らは、AIが核戦争と同様に人類を絶滅させる恐れがあるとの声明に署名した。
 その話題を振るとング氏はさみしげな表情を浮かべた。「そんなリスクがどうやって生じるのかわからない」と語り、AIの利点を繰り返し強調した。第一線を走ってきた専門家の間でもAIが生む光と影に対する見方は割れる。
 強い力をもつテクノロジーには危惧や警戒もつきまとう。インターネットやSNSは多大な価値をもたらす一方、社会に深刻な分断を生じさせてきた。AIとの共存が当たり前になる時代に問われるのは、負の側面を制御し、真価を引き出す人類の「賢さ」だ。(AI量子エディター 生川暁、大越優樹)

【国民民主党、代表に玉木氏再選 与党と協力路線を継続】
 2日の日経速報メールは次のように報じた。
 野党第3党の国民民主党の代表選が2日投開票され、玉木雄一郎代表が前原誠司代表代行を破って再選した。政府・与党とも政策本位で協力する路線が継続する。玉木氏は自公連立政権への参加について「いまはない」と否定した。
 代表選は玉木氏の任期満了に伴う。玉木氏は計111ポイントのうち80ポイントを獲得した。野党結集を訴えた前原氏は31ポイントだった。民間の産業別労働組合出身の国会議員の多くが玉木氏を推したことが大差につながった。代表任期は2026年9月までの3年間となる。
 玉木氏は代表再選後の記者会見で「政策の実現へ与野党を超えて連携する」と主張した。次期衆院選での野党間の選挙協力は議席減につながるおそれがあるため難しいと語った。
自公政権に加わる可能性を問われ「全く打診はない」と打ち消した。連立入りの条件として①政策の一致、②選挙区調整――を挙げた上で、これを満たしていないと指摘した。岸田文雄首相が9月に予定する内閣改造を念頭に「私は入閣しない」とも言明した。
国民民主は20年に政策不一致を理由に旧立憲民主党との合流に加わらなかった議員で結成した。玉木氏は旧国民民主の時代から5年以上にわたって代表を務めた。
玉木氏の党運営は政府・与党と対峙して政権交代をめざす従来の野党の手法とは違う。与野党問わず政策本位で手を組むことで実利を得るやり方だ。今年の通常国会は改正マイナンバー法などで政府案に賛成してきた。
代表選の最大のテーマは「与党寄り」ともいわれる玉木氏の路線の是非だった。前原氏は「非自民・非共産」を掲げ、選挙戦では玉木氏の自民党に好意的とも取れる対応をたびたび批判した。
自民党は次期衆院選をにらみ国民民主を支援する民間労組票の取り込みへの期待がある。22年末には自公連立政権への参加構想が浮上した。自民党内で「首相は国民民主の代表選の結果も踏まえて内閣改造をする」との観測もある。
 国民民主が代表選を経て一枚岩になるかは見通せない。党の路線そのものが争点になったため党分裂の懸念もくすぶる。
前原氏は日本維新の会幹部と地方分権を巡って勉強会を開くなど同党と太いパイプをもつ。立民や維新との連携に意欲を示す。
玉木氏は代表選後の記者会見で、維新とは憲法改正への考え方などで一致する政策がある一方で、選挙では戦うと強調した。
 前原氏との関係は「ノーサイド」と話したものの、新体制での処遇は「未定」と述べた。人事は榛葉賀津也幹事長の続投だけ決めた。前原氏は代表選後、記者団に「野党分断や与党を利することのないようにしてほしい」と答えた。党に残って活動する考えを示した。

【バスケ日本男子、パリ五輪出場決定 48年ぶり自力で切符】
 同じ2日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本、フィリピン、インドネシアが共催するバスケットボール男子ワールドカップ(W杯)は2日、沖縄市の沖縄アリーナなどで行われ、順位決定リーグのO組最終戦で世界ランキング36位の日本は同64位のカボベルデに80-71で勝利し、アジア勢6チームの最上位となってパリ五輪出場権を獲得した。開催国枠での出場を除き、自力で五輪に出場するのは1976年モントリオール大会以来。
• 【関連記事】バスケ日本、ラスト10分の試練乗り越える パリ五輪決定
日本は第1クオーターで17-19とリードを許したが、河村勇輝(横浜BC)が得点を重ねるなど第2クオーターで反攻。リードを奪うと、富永啓生(ネブラスカ大)の3点シュートなどで点差を広げた。後半、第4クオーターに追い上げられたものの逃げ切った。
8月30日までの1次リーグでアジア勢は日本が唯一1勝を挙げたが、全6チームが2次リーグ進出を逃した。アジア最上位を巡って争った順位決定リーグで日本はベネズエラに逆転勝ちし、カボベルデにも勝利して通算3勝2敗で終えた。

【世界シェア、中国勢18品目で拡大 電池・素材で攻勢 世界シェア調査】
 4日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・世界のハイテク分野で中国企業がシェア拡大
・先端素材、EV関連強く、22年は18品目で上昇
・供給網の脱中国依存は難しさ増す
世界のハイテク分野で中国企業の存在感が一段と高まっている。日本経済新聞が主要な製品・サービスの2022年の世界シェアを調べたところ、先端素材や電気自動車(EV)など18品目で中国勢がシェアを高めた。世界経済の4割を占める米中は経済安全保障の観点から保護主義を鮮明にしているが、EVを中心にサプライチェーン(供給網)の脱中国依存はより難しさを増している。
• 【関連記事】日本勢、首位6品目 成長市場の競争力強化が課題
世界の経済活動で重要な最終製品やサービス、中核部品、素材の63品目を対象に、22年の「主要商品・サービスシェア調査」を実施した。米中が激しいつばぜり合いを繰り広げる半導体関連や、産業構造の変革が進むEV分野などが含まれる。
各品目のシェア上位5社を調べたところ、EVや電池向け素材、液晶パネルなどの18品目で中国勢のシェアが拡大していた。全体のうち中国のシェアが3割を超えた品目は13にのぼった。
バイデン米政権はインフレ抑制法(IRA)を22年8月に成立させ、エネルギー安全保障や気候変動に約3690億ドル(約53兆円)を支出すると決めた。EVやリチウムイオン電池の自国生産に税制優遇を設け、中国を含む特定国からの供給排除に熱をあげる。
中国企業の台頭が目立つのはEV関連だ。EV本体は上位の中国3社の合計シェアが27.7%と、首位を走る米テスラ(18.9%)を逆転した。同社のシェアは3.4ポイント下落したほか、比亜迪(BYD)が6.9%から11.5%と2位に浮上した。
EVにも使われる重要材料のリチウム電池向け絶縁体は、上位5社中4社が中国勢で63%を占める。2位の中材科技のシェアは11%と、圏外だった21年から急上昇した。
BYDは車載用リチウムイオン電池でもシェアを7.7%から14.4%に拡大させ、同社を含む中国勢が6割超のシェアを占めた。EV供給では上流から下流まで中国勢が押さえる構図が鮮明だ。BYDが8月28日に発表した23年1〜6月期決算は純利益が前年同期比3倍の109億元と足元でも好調で、7月にはブラジルでEVなどの工場を建設すると発表。中国4位の国軒高科(Gotion)はドイツの工場を2023年中に稼働する方針を明らかにしているなど、EV関連で脱中国依存は難しくなっている。
 もっとも中国と対立を深める米国の経済界も対応は一様ではない。米アップルなどで供給網を中国からインドに分散させる動きがあるほか、米ベンチャーキャピタル(VC)大手のセコイア・キャピタルが6月、中国部門を切り離して米中のファンドをそれぞれ独立して運営すると決めた。
一方で、23年5月に訪中したテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は中国高官と会談し、「デカップリング(分断)に反対し、中国事業を拡大する」と伝えたとされる。
半導体分野では23年に新規株式公開(IPO)をした中国企業は7月1日時点で14社にのぼり、調達額は1兆円を超えた。米マイクロン・テクノロジーは中国に43億元(約860億円)投資して半導体工場に新たに高性能なパッケージ・検査機器などを導入する。米中間のビジネスは活発な動きもある。
通信インフラの要となる携帯通信インフラ(基地局)では、米国の制裁を受ける華為技術(ファーウェイ)のシェアが低下した。首位は守ったものの、34%から31%に落ち込んだ。
ただ中国は16品目でシェアを減らしたが、下げ幅は最大でも4%程度だった。うちスマートフォンや家庭用エアコンのシェアは依然として3割を超えた。
世界首位の品目数は米国が22で、中国が16と続いた。日本は21年から1つ減らし6品目にとどまった。
経済安全保障や地政学リスクに詳しいPwCジャパンのピヴェット久美子シニアマネージャーは、「リスク分散のために供給地域ごとでサプライチェーンを多様化させることが重要だ」と話す。「中国国外への生産移転を検討する動きも出てきており、軍事力や国力につながる先端技術分野では中国勢のシェアが今後低下する可能性もある」と指摘する。

【NISA投信、過去10年は好成績 指数連動型は年2ケタ収益】
 4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 新しい少額投資非課税制度(NISA)の開始まで4カ月を切った。「成長投資枠」で購入できる対象投資信託の過去10年の運用成績を分析したところ、日経平均株価など株価指数に連動する投信は年10%強の収益率だった。指数を上回る成績の商品も3割あった。長期運用が世界の成長を取り込んでいる実態が浮かび上がった。
24年1月からNISA口座では「つみたて投資」と「成長投資」の2つの枠が併用できる。つみたて投資枠で安定収益を確保し、成長投資枠では自分の運用方針に応じて、幅広い投信や個別株から選ぶ、といった使い分けが可能だ。
1日までに公表済みの成長投資枠向け投信1616本について、QUICK資産運用研究所の協力を得て調査した。対象投信を資産別に分けたところ、長期の資産形成で重要な役割を果たす株式型が1017本(63%)で最も多い。
 投資で大きな失敗をしない原則として①長期、②分散、③低コストが挙げられる。3点を満たす投資商品として、幅広い個別企業を組み入れた株価指数連動型の投信(インデックスファンド)の購入が有力な選択肢になる。市場平均を目指す運用だ。投資初心者に低コストの指数連動型の積み立てを勧める専門家は多い。
日本を代表する225社を組み込んだ日経平均連動型投信の場合、過去10年間の累積収益を年率換算すると平均10.8%だった。日本を除く海外先進国の企業約1270社にまとめて投資する「MSCIコクサイ」連動型投信は年13%台だった。将来の運用収益は今後の経済・相場環境に左右されるが、過去10年でみれば2桁の運用収益を確保した。
より高いリターンを求める場合、株価指数を上回る運用成績を目指すアクティブ型投信の購入が選択肢となる。アクティブ型は運用者の手腕や相場環境で成績が大きく左右されやすく、購入には慎重な見極めが必要になる。そこで10年以上の運用実績がある株式投信すべてを対象に分析した。
 日本株投信と海外株投信について過去3年、5年、10年の運用成績を主要な指数と比較した。3年でみると日本株・海外株の単純合算では4割が株価指数を上回った。5年では23%、10年では32%だった。アクティブ型投信が長期間、株価指数を上回り続けるのは難しい。だが、約3割は10年ならしても株価指数を上回る成績を収めた。
海外株投信の過去10年運用収益首位は「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」。年換算の収益率は25.8%だった。分配金を再投資にまわす運用では、資産が10年で10倍近くに拡大した。過去10年でみれば、アップルやテスラなど大型テック企業の成長をうまく取り込めた運用者が勝ち組だった。
 過去10年でみた日本株投信の運用成績上位には中小型株に投資する商品が目立った。首位のアセットマネジメントOneの「DIAM新興市場日本株ファンド」は年換算の収益率は20%を超える。同4位にはSBIアセットマネジメントの「SBI中小型成長株ファンドジェイネクスト」が入った。
 直近3年でみれば、日本株投信の健闘が目立った。リターンで日経平均を上回った商品は6割に達した。「好配当」をうたう国内株投信の成績が比較的良い。商社株や銀行株の上昇が寄与した面がある。

【JFE、公募増資・転換社債で2000億円 脱炭素へ成長投資】
 5日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・JFEHDは公募増資と転換社債を組み合わせて2000億円規模の資金を調達
・高性能鋼材「電磁鋼板」の生産増強や電炉の導入など脱炭素関連に投資
・資本調達を含めた調達手段の多様化で成長投資を加速させる動きが広がる
JFEホールディングス(HD)は、公募増資と新株予約権付社債(転換社債=CB)を組み合わせて2000億円規模の資金を調達する方針を固めた。温暖化ガス排出の少ない電炉や、電気自動車(EV)普及をにらみ、大規模な脱炭素関連の投資に充てる。資本効率を高めるため、負債の活用を重視してきた日本企業が資本調達で成長投資に動く転機となる。
 同社の公募増資は2002年の旧川崎製鉄と旧NKKが経営統合してJFEHDが発足して以降で初めて。CB発行は1000億円を調達した04年以来19年ぶり。鉄鋼業界では日本製鉄が21年9月、脱炭素関連の投資に充てるため3000億円規模のCBを発行した。
 JFEの今回の資金調達では、増資が1000億〜1200億円規模になる見通しで、発行済み株式の1割弱に相当する。CBは5年債で、発行額は900億円。払込日は9月中に予定し時価を上回る転換価額を設定する。いずれも割り当ては海外投資家に限定する。
 増資で得る資金は、短期的に利益貢献が見込まれる高性能鋼材「電磁鋼板」の生産増強投資に使う。傘下のJFEスチールの西日本製鉄所(岡山県倉敷市)、出資先のインドのJSWスチールとの合弁会社の生産設備に充てる。同鋼板はEVモーターのエネルギー損失を抑えられ、EVの航続距離の延長につながる。
 海外で円建てで調達するCBはJFEが東日本製鉄所千葉地区(千葉市)で進めるステンレス製造向けの電炉の導入費用などに充てる。石炭を使わない電炉は高炉に比べて二酸化炭素(CO2)排出量を抑えられる。一部工程を電炉に置き換えることで、供給網全体で脱炭素を求められている需要家の要望に応える。
 日本の鉄鋼業界は国内全体の約1割相当の温暖化ガスを排出し、脱炭素で10兆円規模の投資が必要とされる。JFEは30年度に13年度比でCO2排出量を3割以上削減する計画で、一連の脱炭素投資は1兆円規模になる。22年に使途を脱炭素関連に限定する「トランジションボンド(移行債)」を発行した。
 ニッセイ基礎研究所が東証プライム上場企業の増資による調達額(公募増資とCBの合計)を集計したところ、10年代半ばから調達額は低調だった。21年は新型コロナウイルス禍で財務の傷んだ企業の増資が目立ったが、低金利が続いた日本では自己資本利益率(ROE)重視の流れもあり、負債調達の範囲で投資をする動きが目立った。
 一方で欧米では急ピッチな利上げが進み、日本でも足元で金融政策の正常化に向けた動きが活発化している。ニッセイ基礎研の森下千鶴氏は日本企業でも「株式など資金の調達方法が多様化する可能性がある」とみる。

【アーム7兆円上場 孫氏のAI戦略、テック10社の出資吸引】
 6日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・英アームの米国上場、時価総額最大7.7兆円に
・AppleやNVIDIAなどテック10社が少額を出資
・ソフトバンクGの孫社長、各社とAIで連携模索
 ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計大手アームは5日、米ナスダック市場への上場に向けて詳細を公表した。SBGが売り出す株式は最大約10%にとどめる。米アップルやエヌビディアなど半導体やテック関連の10社が少額出資する。SBGは主要企業を巻き込みながら人工知能(AI)の新たな戦略を描く。
 アーム株は従来、SBGが75%、傘下で世界のAI関連企業に投資するソフトバンク・ビジョン・ファンドが25%保有していた。SBGは正式な上場申請の直前にアーム全体の評価額を640億ドルとしてビジョン・ファンドの保有分を買い取った。上場後はソフトバンクGがアームの米国預託株式を90%前後保有する。
 アームの上場時の時価総額は当初、600億ドルを超える水準で検討を進めていた。今回、やや低めの仮条件を示したが、実際の上場時にはレンジを上回る水準を狙っている。今後、投資家の需要を本格的に調査して公開価格を決める。
 SECへの開示資料では、上場と同時にアップルやエヌビディア、米グーグル、インテル、韓国サムスン電子、半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)も少額出資を検討していることが明らかになった。最大7億3500万ドルを出資する可能性がある。
 半導体の製造や需要家まで幅広い企業が興味を示した。半導体の設計を自動化するソフトを手がける米シノプシスや米ケイデンス・デザイン・システムズも出資を検討している。先端半導体の開発支援で主導権を狙う。
 SBGの孫正義会長兼社長はアームをAI戦略の中核に据えている。アームを上場させても、できるだけ持ち分を維持したい意向があった。毎回登壇していた決算会見は22年11月を最後にするとして「今後数年はアームの爆発的な成長に没頭する」と述べていた。
 今回、アップルなどの投資を呼び込んだのも孫氏の戦略とみられる。米系証券のテクノロジーバンカーは「孫氏は設計から製造まで半導体産業の主要プレーヤーを丸ごと引き込み、連携を強める狙いでは」と話す。
 アームはSBG傘下となった16年以来、7年ぶりの上場となる。当時はロンドン証券取引所に上場していたが、今回は米ナスダックに決めた。
 アームは近年、自動運転など車載向けや住居・工場の自動化機器、データセンター関連などに半導体開発の対象を広げてきた。アームは社員の半分以上をエンジニアが占めており、上場を機に人材獲得を強化する。
 上場申請時の資料では22年に同社の技術を搭載した半導体の総額は約989億ドルだったとの推計を示した。市場シェアは20年の約42.3%から48.9%に高まったという。
 アーム上場は米国IPOの復調を象徴する。米連邦準備理事会(FRB)の積極的な利上げにより米国のIPOは1年半以上、低調だった。食品宅配サービス「インスタカート」運営会社、米メープルベアなどもナスダックに上場申請し、9月中の上場が見込まれている。
 久々の半導体銘柄の大型上場に株式市場の関心は高い。米国の金融引き締めや世界景気の減速懸念といった逆風下にあっても、AI関連の需要急拡大が見込める半導体関連の銘柄は株式相場全体をけん引してきたためだ。
 筆頭は時価総額が昨年末比3倍以上に膨らみ、1兆ドルの大台に乗せたエヌビディアだ。同社の株価は1株利益(直近1年間、QUICK・ファクトセット集計の市場予想平均)の117倍に相当し、今後の急成長を市場が織り込んでいることを示す。
 アームの開示資料によると同社の23年3月期通期の1株利益は0.51ドル。仮条件の上限51ドルはこの100倍に相当する水準だ。期間が異なるため単純比較しにくいが、エヌビディアに迫る高いバリュエーション(投資尺度)には割高感もにじむ。投資家の需要調査では、成長シナリオをいかに説得力あるかたちで示せるかが焦点となる。(ロンドン=山下晃、シリコンバレー=渡辺直樹、ニューヨーク=竹内弘文)
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。南川明インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクタ
分析・考察
これまでもARMはインテルのプロセッサーと比較して低消費電力を売りにしてきたため、携帯電話のプロセッサーのコアとして普及してきました。バッテリー駆動の電子機器の多くがARMコアを使っていますが、今後はデータセンターの消費電力削減を狙ってARMを使って独自のプロセッサーを設計する会社が増えています。 インテルやエヌビデアと同じくらいの価値がある企業だと思います。

【原油減産緩めぬサウジ、米と距離 ロシア協調で90ドルに】
 同じ6日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 サウジアラビアとロシアは5日、原油の生産や輸出の自主削減の延長を決めた。市場では需給の引き締まりが意識され、国際的な原油価格の指標は軒並み10カ月ぶりの高値をつけた。減産幅は合計で日量130万バレルと世界需要の1%超にあたり、価格を引き上げ自国の財政を下支えする狙いがある。米国の意向を無視したサウジの行動は、両国関係の冷え込みを映す。
• 【関連記事】サウジ、原油の自主減産を年末まで延長 10カ月ぶり高値
 「石油市場の安定と均衡を維持する」。サウジは5日、7月から実施している日量100万バレルの原油の自主減産を12月まで3カ月延長すると決めた。サウジ国営通信が伝えた。ロシアのノバク副首相も同日、現行の日量30万バレルの輸出削減を12月末まで実施すると発表した。
 主要産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジと、世界第3位の原油生産量を持つロシアが足並みをそろえた形だ。両国の減産延長方針が伝わると原油価格は急騰した。
 欧州指標の北海ブレント原油の先物価格は5日、一時前日比2%上昇し約10カ月ぶりに1バレル90ドルを回復。米指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物も同3%高の88ドル台と10カ月ぶりの高値をつけた。
 市場では「サプライズ」との受け止めが多い。8月下旬から9月初旬にかけては、サウジが10月も減産を実施するとの見方が広まり、ロシアのノバク副首相も先週、減産方針について「OPECプラスと合意し、内容は今週発表する」としていた。
 しかしこれまでもサウジやロシアは1カ月ごとに減産延長を重ねてきたため「今回も10月までの1カ月延長だろうとの見立てが多かった」(日本総合研究所の松田健太郎副主任研究員)。
 両国がサプライズを演出したのは、原油価格の一段の上昇による国家財政の改善を狙ったためだ。
 OPECプラスは22年11月、世界的な利上げを受けた景気の冷え込みによる原油需要の低迷を懸念して協調減産を開始。当初の減産量は日量200万バレルだったが原油価格は伸び悩み、しびれを切らしたサウジやロシアを含む一部の加盟国は4月に同166万バレルの追加減産を決定した。
 サウジやロシアはさらに独自の減産も進めた。OPECプラスの加盟国による減産量は8月時点で同560万バレル強と、世界需要の5〜6%にのぼる。
 7月以降はこうした減産による供給減や、米連邦準備理事会(FRB)による積極利上げが米景気を冷え込ませるとの懸念が遠のいたことによる堅調な需要期待が市場に浸透。WTIやブレントは8月まで3カ月連続で上昇するなど、原油価格は上向いてきた。
 さらなる減産で価格下支えを狙うサウジには、減産の手を緩めたと見られることで相場が弱含むことへの根強い警戒感がある。
 国際通貨基金(IMF)によると、サウジの今年の財政収支を均衡させる原油価格は1バレル80.9ドル。足元の原油価格はこの水準を上回るものの、6月から7月にかけては積極減産にもかかわらず70ドル台と低迷してきた。国営石油会社サウジアラムコの2023年4〜6月期決算は純利益が前年同期比38%減少した。
 米国とOPECプラス産油国との間にすきま風が吹き、減産をしやすくなっているとの指摘もある。OPECは米国の増産要請を重ねて拒み、協調減産で原油相場の下支えを優先してきた。主要加盟国のサウジとアラブ首長国連邦(UAE)は伝統的に親米だが、ともにブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国でつくるBRICSに加盟するなどパートナーの多角化を進めている。
 減産延長決定はバイデン米政権の神経を逆なでするものだ。原油価格の上昇はガソリン高につながり、24年に大統領選を控えるバイデン氏の支持率に響きかねない。野党・共和党に攻撃材料を与えることにもなる。
 ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は5日の記者会見でこの問題に言及、サウジ側に働きかけを続けていると述べたうえで、「消費者のためにガソリン価格を下げられるよう」あらゆる手段をとると話した。
 ロシアにとっても、西側諸国による制裁で資源収入が減り国家財政が厳しい状況が続いていることへの危機感が強い。1〜7月のロシアの財政赤字は2兆8100億ルーブル(約4兆2000億円)。年間の赤字想定額(約2兆9000億ルーブル)にすでに迫る。
 日米欧の主要7カ国(G7)は22年12月、ロシアが戦費に充てる原油収入を減らす狙いで、ロシア産原油の輸入制限を始めた。輸入価格が60ドルを超えた取引には海上輸送に欠かせない保険の契約をできなくするものだ。制裁の影響でロシアの1〜7月の石油・ガス収入は前年同期比41%減。一方でウクライナ侵攻の長期化に伴う戦費の拡大が重荷となり、歳出は同14%増えた。
 こうした状況の中でロシアは原油の減産で供給を抑制し、価格の下支えにつなげる方針だ。プーチン大統領は5月、ロシアの減産などの取り組みにより、世界の原油価格が「極めて安定している」と言及した。
 制裁に加わらない中国やインドなどへの輸出は増え続けているなか、減産延長には「西側の制裁に対応する用意があることを示す狙い」(ロシアのエネルギー問題の専門家)など、政治的な理由を指摘する声もある。(古賀雄大、フランクフルト=久門武史)

【NEC、金融助言会社を買収 会社員の資産形成支援】
 同じ6日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 NECは資産運用を助言するフィンテック企業を買収し、会社員の資産形成を支援する。低金利環境の長期化に物価高が加わり、預貯金に偏在する資産の目減りリスクが高まってきたためだ。人工知能(AI)を組み合わせたサービスを開発。会社員が資産形成に取り組みやすい環境をつくり、事業として育てる。
 資産運用立国を掲げる岸田文雄政権は企業による資産形成の支援強化を促しており、同様の動きが広がる可能性がある。
 NECは独立系金融助言事業を手がけるフィンテック企業ジャパン・アセット・マネジメント(JAM、東京・渋谷)の50.1%の株式を取得し、連結子会社にした。同社は2018年創業で、取得額は数億円とみられる。8月に個人向け金融専門の子会社を立ち上げて、JAMをその傘下に入れた。
 NECはJAMを通じて個人に資産運用を助言する独立系金融アドバイザー(IFA)事業への参入をめざす。まずNEC本体の社員2万人を対象にサービス内容を開発・検証したうえでNEC以外の企業にも売り込む。
 企業型確定拠出年金(DC)に加入者掛け金を上乗せできるマッチング拠出や社内持ち株会など福利厚生制度と絡めて資産運用メニューをそろえることができる見通し。
 NECが社員の資産形成支援に力を入れるのは「物価は上がらない」という前提が変わり始めてきたためだ。2%を超える物価上昇率が続くなか、年0.001%といった超低金利にとどまる預貯金は目減りリスクにさらされる。日本では資産形成層にたまっている金融資産の5割強が預貯金に偏在している。
 日銀の資金循環統計などによれば、23年3月末の家計の金融資産は米国が114兆ドルで00年末比3倍強に膨らんだ一方、日本は2043兆円で同期間で4割増にとどまった。株式や投資信託の比率が大きい米国に対して、日本は5割強の資金が超低金利の現預金に偏在しているためだ。
 22年11月に政府の新しい資本主義実現会議が決定した資産所得倍増プランで柱のひとつに掲げたのが雇用者に対する資産形成の強化だ。実際、富士通やAGCなどDCの初期設定商品を預貯金からバランス型投信に切り替える企業も増えてきた。
 職場での金融教育も活発になっている。ミンカブ・ジ・インフォノイドは23年、企業や官公庁向けに金融教育を受託し始めた。第1号として大手信託銀行と契約。投資セミナーや市場情報のコンテンツ配信のほか、従業員の運用状況をデータ分析し、自分の運用が成功しているかどうかを把握しやすくする。
 投資学習アプリを提供するグリーンモンスター(東京・渋谷)も1月、資産形成セミナーを実施するFPコンサルティング(大阪市)を買収した。聴講や動画視聴が中心だった研修に学習アプリを導入し、家で気軽に学習できるプランをつくる。費用は企業または労働組合が負担する。小川亮社長は「資産形成に一歩踏み出しやすい環境をつくりたい」と話す。(フィンテックエディター 関口慶太)

【秋本議員、逮捕へ 6千万円の受託収賄容疑 洋上風力めぐり東京地検】
 7日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
 秋本真利衆院議員(48)=比例南関東、自民党を離党=が洋上風力発電事業をめぐって「日本風力開発」(東京)の前社長から多額の資金を受け取ったとされる事件で、東京地検特捜部は7日にも、秋本氏を総額約6千万円の受託収賄容疑で逮捕する方針を固めた。競走馬の馬主組合の経費として受領した約3千万円に加え、中央競馬の個人馬主に登録する際に借りた約3千万円も賄賂と判断した。関係者への取材でわかった。
 適用する罪名は、同社の事業参入に有利な国会質問をしてほしいという依頼(請託)と、質問の見返りに受領した謝礼の趣旨が明確になったとして、8月の家宅捜索時の単純収賄から、法定刑が重い受託収賄に切り替える方針だ。同社の塚脇正幸前社長(64)については、在宅のまま贈賄容疑で調べる。

【都心オフィス空室率10年ぶり高水準、賃料3年で3割低下も】
 同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・東京都心5区のオフィス空室率は7月時点で6.46%
・在宅と出社の両立を目指し、オフィス集約を進める動きが背景に
・空室率の上昇が続けば、賃料の下落が進む予測もある
 東京都心のオフィスビルの需要が鈍っている。大型ビルの開業が相次ぐなか、在宅勤務の定着や外資系企業の事業見直しなどで空室率は6%超と10年ぶりの高水準に迫っている。賃料が3年前より約3割下がった地域も出てきた。
 オフィス仲介の三鬼商事(東京・中央)によると東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は7月時点で6.46%。供給過剰の目安とされる5%を30カ月連続で上回った。大阪は4.6%、名古屋は5.5%と、他地域もコロナ前水準を超えて推移する。
 ある不動産会社幹部は、3月に開業した三井不動産の「東京ミッドタウン八重洲」(東京・中央)について語る。2023年は森ビルの「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(同・港)と「麻布台ヒルズ」(同)など大型ビルのオフィスが大量供給される上、需要が弱含んでおり、テナント獲得に苦戦が予想されているからだ。
 森トラストの調査によると、23区内で延べ床面積1万平方メートル以上のオフィスビル供給は面積ベースで23年に前年比2.7倍の130万平方メートルと3年ぶりの高水準に達する見通し。25年はさらに141万平方メートルの供給が予定される。
 「22年と比べて企業がオフィスを探す勢いが弱まっている」。不動産サービス大手のコリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京・千代田)の川井康平リサーチディレクター&ヘッドは需要の弱さを指摘する。
 背景に在宅勤務の一定程度の定着がある。東京都調査によると、都内企業のテレワーク実施率は7月で45%を超える。6割を超えたピーク時よりは下がったが、コロナ拡大前の20年3月(24%)を大きく上回る。
 大手企業は出社と在宅を両立できるようにオフィス集約を進めている。
 住設機器大手のLIXILも22年11月に本社を移転。席を固定しないフリーアドレス制を採用して、オフィス面積を9割弱減らした。NTTは22年7月、社員の勤務場所を自宅を原則とし、テレワーク拡大にあわせて都市部を中心にオフィスの集約を進めてきた。
 都心のオフィス需要を支えてきた外資系企業の勢いも鈍い。デロイトトーマツグループは21年にオフィスを縮小。米IT大手は米国内外で人員削減を相次ぎ進める。「日本でも入居予定を見直したりオフィス規模を縮小したりしている」(三幸エステートの今関豊和チーフアナリスト)
 需要が構造的に変化する中、不動産大手は入居企業集めに知恵を絞る。
 森ビルは麻布台ヒルズでインターナショナルスクールや予防医療施設を入れることで、外資系や弁護士・会計士事務所、コンサルティングの呼び込みに成功した。
 三菱地所と三井不動産はフロアを小規模に区分けし、短期契約を可能にした。家具や設備を用意して入退去をしやすくし、スタートアップや大企業の新規事業の担当部門を誘致する。
 大手不動産による大規模オフィスの新規供給で中小ビルの需要が奪われている側面もある。コリアーズ・インターナショナル・ジャパンによると、中小オフィスの多い品川・港南エリアの4〜6月の平均賃料は1坪(3.3平方メートル)あたり2万4800円と3年前に比べて1万円ほど下落した。テナント確保のために値下げも続いている。業界関係者は「都心部でも駅から徒歩10分程度で中小のオフィスビルは入居企業の減少が進む」と指摘する。
 一方で賃料低下に伴い、これまで都心部にオフィスを構えにくかったスタートアップにとっては、都心部に移転するきっかけにもなる。
 東京商工リサーチによると不動産業は6月まで8カ月連続で倒産件数が前年同月を上回って推移した。三鬼商事と日本不動産研究所は、27年に都心5区空室率は7.2%まで悪化すると予測する。今後も空室率の上昇と賃料の下落が進めば、中小を中心に淘汰が進む可能性がある。淘汰が進めば、体力に勝る大手に優良な物件とテナントが集中することになる。
 空室率が日本より高い米国ではオフィスを住居にする動きも起きている。日本でもさらに空室率が上昇すると同様の動きがでる可能性がある。(橋本剛志、山口和輝)

【H2Aロケット打ち上げ成功 日本の宇宙開発再開へ】
 同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
 三菱重工業は7日午前、大型ロケット「H2A」47号機の打ち上げに成功した。国産ロケットの打ち上げは次世代機「H3」初号機の失敗で、一時止まっていた。今回の成功は日本の宇宙開発を再開する一歩となる。
 H2Aは7日午前8時42分、種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から定刻通りに打ち上げられた。ロケットは所定の軌道まで上昇し、搭載していた天文衛星「XRISM(クリズム)」と月面着陸を目指す小型探査機「SLIM(スリム)」の分離に成功した。
 H2Aは大型ロケット「H2」の後継機として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工が共同開発した。2001年から運用され、07年に打ち上げ業務をJAXAから三菱重工に移管した。打ち上げ成功率は世界最高水準の約98%で、23年1月には46号機も成功していた。
 ただ、47号機の打ち上げは、当初計画の5月から延期していた。原因はJAXAが22年10月に小型ロケット「イプシロン」6号機、23年3月にH3初号機の打ち上げにそれぞれ失敗したためだ。特にH3とH2Aは共通する部品が多く、H3の失敗原因を絞り込み、H2Aに追加の安全対策をした。
 打ち上げ日は8月26日に設定していたが、天候を理由に3度延期した。気象条件を慎重に判断し、万全を期して打ち上げた。
 今回、宇宙空間に運んだスリムは24年1〜2月ごろ、月面着陸に挑む。成功すれば日本初となる。従来の探査機の着陸誤差は数キロメートルレベルだったが、これを100メートル以内に抑えた「ピンポイント着陸」に挑戦する。
  クリズムは地球を周回しながら、銀河やブラックホールから放たれるX線を観測する。宇宙空間の高温ガスをみることで、宇宙の構造が形成された過程や、物質が宇宙に広がる仕組みを明らかにする。
 通信衛星の利用の拡大や安全保障上の観点などから、ロケットの打ち上げ需要は高まっている。22年の世界の打ち上げ回数は過去最高の178回となり、21年比で約3割増えた。
 日本はH3の失敗以降、自前の宇宙輸送手段を確保できていない状況だった。今回の成功で日本の宇宙開発は再開するが、H2Aの打ち上げは残り3機で終了する。国際的な競争力を向上するには、低コスト化を目指すH3の打ち上げを早期に成功させる必要がある。

【ジャニーズ新社長に東山紀之氏 事務所、性加害を謝罪】
 同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
 ジャニーズ事務所は7日、東京都内で記者会見を開き、故ジャニー喜多川元社長による元所属タレントらへの性加害を事務所として初めて認めた。新社長に就いた所属俳優の東山紀之氏は謝罪し、被害者補償に取り組むと表明した。
藤島ジュリー景子氏は5日付で社長を引責辞任したが、代表取締役にとどまり、100%保有する株式も当面維持する。信頼回復に向け、自浄作用を発揮して組織のガバナンス(統治)を立て直せるかが今後問われる。
一連の問題でジャニーズ事務所が会見を開くのは初めて。藤島氏は「被害者やファンの皆様に心からおわびする」と陳謝した。代表取締役にとどまる理由に被害者への補償に携わることを挙げた。株式については「同族経営の弊害は認識している。今後、新体制で協議したい」と述べるにとどめた。
 社名について、東山氏は「名前を変えて再出発したほうが正しいのかもしれないが、ファンの支えもある。イメージを払拭できるようがんばりたい」と当面維持する意向を述べた。一方で、今後の変更の可能性には含みを持たせた。
事務所が設置した「再発防止特別チーム」(座長・林真琴前検事総長)は8月末に調査報告書を公表。喜多川氏が1950年代以降、事務所では70年代前半から2010年代半ばまで多数のジャニーズJr.に性加害を繰り返していたと認定し、藤島氏の社長辞任を含む「解体的出直し」を求めた。
経営トップは交代したが、課題はなお少なくない。
まずガバナンスの構築だ。報告書は取締役会を開催しないなどガバナンス不全の原因に同族経営の弊害を挙げた。同社は10月から新体制を発足させ、外部から「チーフ・コンプライアンス・オフィサー」を招く方針。藤島氏の影響力が残るとみられる中、経営体制をどう刷新できるかが最大の焦点となる。
顧客離れも懸念される。パリ五輪の出場権をかけて日本で9月に開幕する「ワールドカップバレー」は、ジャニーズのタレントが毎回務めていたスペシャルサポーターの起用を今年は取りやめた。性加害を問題視する海外の反応に配慮したとされる。
ジャニーズのタレントはテレビ番組やCMなどに多数出演している。レピュテーション(評判)リスクが大きく、ガバナンスが機能していないと判断されれば同社タレントの起用を控える動きが企業に広がる可能性がある。
ジャニーズ事務所は売上高や利益などの経営情報を公開していないが、日本のエンターテインメント業界で絶大な存在感と影響力を持つ。
ぴあ総研の22年の音楽ポップス興行規模調査で上位10位中6グループをジャニーズが占め、興行規模は計408万人に上った。一連の問題が同社の経営にどこまで影響するかが注目される。
ガバナンスに詳しい青山学院大の八田進二名誉教授は「名称を変えずにタレント事務所の業務を続けようとする時点で認識が甘く、タレント離脱やスポンサー離れを招きかねない」と指摘。新たな経営体制についても「コンプライアンスの専門家を組織に入れ、トップにもガバナンスにたけた人物を置くべきだ。現状では解体的な出直しとは感じられない」と批判した。
 
【築地再開発案にスタジアム、事業費9000億円 三井不連合】
同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
 東京都が募集した築地市場跡地(東京・中央)の再開発事業について、三井不動産を中心とする企業連合が提出した案の概要が分かった。多目的スタジアムの建設が含まれ、読売新聞グループ本社が参加する。総事業費は8000億〜9000億円を想定する。
三井不連合が提出した事業案では、事業の主体となる特別目的会社(SPC)に三井不のほか、読売新聞、トヨタ不動産、鹿島、大成建設、清水建設、竹中工務店が出資する。トヨタ自動車や、朝日新聞社も再開発事業に加わる。2030年代前半の開業をめざす。
対象となる再開発エリアは約20ヘクタール。三井不などの計画案ではスタジアムのほか、ホテル、オフィス、住居棟などを建設する。
東京都が8月末に築地再開発事業案の募集を締め切った。小池百合子知事は1日の定例記者会見で「複数のグループから提案を受け付けた」と明らかにしている。三井不連合も含め、都は入札企業名を明らかにしていない。専門家らによる委員会で事業者からの提案を審査したうえで、2024年3月にも都が事業者を決める。
三井不は21年に読売新聞と共同で東京ドームを買収した。ドームは1988年の開業から30年以上がたち老朽化が進んでいる。三井不連合案が東京都の事業に選ばれた場合、読売巨人軍を傘下に持つ読売新聞の動向が焦点となる。
東京都は再開発事業のコンセプトとして「水と緑に囲まれ、世界中から多様な人々を出迎え、交流により、新しい文化を創造・発信する拠点」を掲げていた。募集に際し、ホテルや国際会議場、最低1万人規模を収容できる大規模集客施設を備えた「国際的な交流拠点」の整備などを条件に挙げた。
築地市場跡地は、18年に市場機能が豊洲に移転した後、長く空き地だった。東京・明治神宮外苑の再開発事業と並んで、21年に開いた東京五輪・パラリンピック後の大型再開発プロジェクトとして、その内容が注目されていた。

【損保ジャパン、白川社長が辞任へ ビッグモーター問題で】
8日の日経速報メールは次のように報じた。
損害保険ジャパンの白川儀一社長(53)が辞任する意向を固めたことが8日分かった。中古車販売大手のビッグモーター(東京・港)による保険金不正請求問題で不適切な対応を取ったことへの責任を取る。複数の関係者によると、8日に開くSOMPOホールディングス(HD)の指名委員会に諮り、正式に決める。
SOMPOホールディングスと損害保険ジャパンは8日午後3時半から記者会見を開く。会見にはSOMPOHDの桜田謙悟会長も出席し、これまでに把握できた事実関係について説明する。損保ジャパンは不正の可能性を認識しながら取引を一時再開した経緯があり、問題視されていた。
ビッグモーターとの取引を再開するか協議した2022年7月の損保ジャパンの役員会議で、白川社長は「事実関係としては『クロ』が推測される」と不正の疑惑が濃厚だとの認識を示しつつも、取引再開を主導していた。
ビッグモーターは不正疑惑について自主調査を実施し、原因について「作業ミス」などとする調査結果を損保各社に報告していた。損保ジャパンの白川社長は「ビッグモーターの社長を信じるしかない」との考えを示し、「取引は再来週ごろ再開してはどうか」と提案。役員会議の約20日後、事故車の紹介を再開した。
白川社長は22年4月、損保ジャパン社長に就任した。就任当時は51歳。大手金融機関では最年少のトップとして話題になった。
金融庁も損保ジャパンの対応を注視している。ビッグモーターと損害保険ジャパンに対して立ち入り検査の実施を通知した。鈴木俊一金融相は5日の閣議後会見で「(両社の)経営管理体制や内部管理体制に踏み込んで調査する必要がある」と述べていた。

【山積みの履歴書、秒単位で仕分け 「帝国」築いたジャニー氏の表と裏】
 8日の朝日新聞デジタルは報じた。
 きらびやかな照明にせり上がるステージ、水を使った目を引く演出……。7月、京セラドーム(大阪市)のステージで、少年たちが歌い、踊り、走り回った。
 東西のジャニーズJr.が一堂に会したコンサート。出演者はみな、デビューを目指しながら、デビュー組のバックで踊る、いわば「訓練生」だ。にもかかわらず、会場は超満員。色とりどりのペンライトが曲に合わせて揺れ、何度も大歓声が上がった。公演は8月にも東京ドームでも開かれ、計4日間で20万人を動員したとされる。
 10代の少年たちに熱狂する――。そんなアイドル文化を生み、日本に定着させたのが、ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏だった。
 1931年、米国生まれ。事務所が設置した再発防止特別チームの報告書などによると、日本にきて当時2歳のときに母親が死去し、4歳上の姉のメリー氏が母親代わりとなった。戦時中は和歌山に疎開し、戦後にきょうだいで渡米した。
 その後に米国で、現地を訪れた美空ひばりらの通訳をし、ショービジネスの基礎を学んだ。日本に戻ると、コーチをしていた少年野球チーム「ジャニーズ」からメンバーをスカウト。62年に同名グループのマネジメントのためジャニーズ事務所を設立した。
 アイドルを夢見る少年を集め、芸能界に送り出す。その受け皿が、ジャニーズJr.だった。国民的アイドルグループも最初はここからスタートし、階段を上った。
 ジャニー氏を知る民放幹部は言う。「スターの原石を発掘し、育てるディレクション能力が優れていた。彼の天才的な選び抜く目が、ファンの一歩先を行っていた」
 エンターテインメント業界で一時代を築き、「ジャニーズ帝国」とも言われた芸能事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏の性加害が事実と認定されました。これほど長期間、多数の少年への加害はなぜ放置されたのか。…

【中国、iPhone使用制限 地方・国有企業に拡大】
8日の日経速報メールは【広州=多部田俊輔】を通うじて中国の政府や国有企業でiPhoneなど海外メーカーの電子機器の使用制限が拡大していると報じた。中国は2020年ごろから中央省庁の公務での海外ブランド製品の使用を制限した。政府職員など複数の関係者によると、今年8月ごろから地方政府や国有企業にも制限がかかった。ハイテク分野における米中対立の先鋭化の影響がスマートフォンなど民生品にも広く及び始めた。
「10月1日から企業秘密にかかわる部門は海外ブランドの電子機器の使用を禁止し、来年3月1日から全社員に対象を広げる」。北京市の国有企業に勤める女性社員は9月初め、社外秘でこんな通知を受け取った。
同社は3年ほど前から「推奨」という形でiPhoneの使用を制限し、大半の社員は仕事で使っていない。私用で使う社員は多いが、今回の通知は腕時計型端末「アップルウオッチ」やワイヤレスイヤホン「AirPods(エアポッズ)」なども対象に含み、職場への持ち込みも禁止するという。
中国外務省の毛寧副報道局長は8日の記者会見で、iPhoneの使用制限について、米国を念頭に「一部の国が乱用している安全を名目とした中国企業の封じ込めとは質的に異なる」と主張した。「どの国の製品・サービスでも中国の法律法規を順守していれば中国市場への参入を歓迎する」と述べた。
中国政府は18年ごろから、パソコンなどのIT(情報技術)機器について「信創目録」と呼ぶ推奨企業・製品リストを作成し、中国企業に調達先を絞るようになった。半導体などハイテク分野の米中対立の先鋭化を受けて、中央省庁が使うパソコンも米HPから中国国有企業製への置き換えが進む。
スマートフォンでも同様の動きが広がる。「多くの同僚が仕事用を華為技術(ファーウェイ)製品、私用をiPhoneの2台持ちになった」(中央省庁職員)。中国共産党系メディア、環球時報の総編集長だった胡錫進氏も19年にiPhoneからファーウェイ製品に乗り換えた。
中国国家統計局によると、中国の中央・地方政府の職員や国有企業の従業員は21年時点で5633万人。中国のIT製品に詳しいアナリストは「公務員の多くはすでにiPhoneと中国ブランド製品の2台持ちとなっているが、党の指導で民営企業や個人にも広がれば販売への影響は避けられない」と指摘する。
 アップルにとって中国は最重要市場の一つだ。23年4〜6月期の売上高のうち中国や台湾、香港を含む「中華圏」は約2割を占めた。iPhoneの組み立ても中国の工場が中心となっている。利用制限を巡る報道を受けて米アップルの株価は6〜7日の2日で6.4%下落し、時価総額が約1900億ドル(約28兆円)減少した。
中国政府は10年ごろから米グーグルや米フェイスブックなどの中国大陸での利用を制限し、国内のネット大手の育成を図った。米国もファーウェイや中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用を制限した。経済安全保障を理由とした米中の覇権争いの影響が企業活動に広がる。

【外国の経済的威圧に対応、年内に経済安保指針 中国念頭】
 8日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は年内にまとめる経済安全保障の対処指針に、外国による貿易の制限や技術移転の要求といった「経済的威圧」への対応を盛り込む調整に入った。巨大市場を背景にした経済力を武器に、他国や企業に圧力をかける中国が念頭にある。各国や産業界と連携し一方的な圧力に対処する。
 貿易制限や外資排除、中国の威圧行為は世界で130件。中国が貿易や投資分野で他国に圧力をかける経済的な威圧行為はこの10年ほどで目立ってきた。
日本経済新聞が入手した独シンクタンクのメルカトル中国研究所のデータによると、2010年から23年6月までに確認できた中国の威圧行為は世界で130件程度に上る。
新型コロナウイルスの発生源について調査を求めたオーストラリアには木材や石炭、ワインなどに関税引き上げなどの措置をとった。「一つの中国」に反発する台湾の水産物などの輸入を禁じる強硬措置もあった。
直近では東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出を理由に日本産水産物の輸入を停止した。海洋放出を受け、SNS上では資生堂や花王といった日本企業の「不買リスト」も拡散された。
自由貿易を推進する世界貿易機関(WTO)には中国も加盟する。自由貿易の恩恵を受けて成長した国が自国の利益優先で他国に圧力をかければ世界の分断は深くなる。
経済安保と産業政策で指針案、威圧行為を未然防止
一方的な威圧には抑止や是正が必要になる。
政府は経済安保と産業政策に関する指針案をまとめる。経済的威圧への対応では①威圧行為を未然に防ぐための国際連携、②威圧を受けた他国への支援、③関税引き上げといった貿易制限――などの措置が想定される。
強制的な技術移転を求める行為への対処も盛り込む。政府が資金を投じて企業と開発している重点技術や産業基盤を巡り、他国の脅威から守る姿勢を対外的に明示する。日本が優位性を持つ技術を特定し、産業界と連携して流出対策を講じる。
 ドイツでは複数の自動車メーカーが連携し「海外に出す技術と出さない技術」の線引きを共有する。自国の技術的な強みが安易に盗まれるのを防ぐ狙いがある。こうした海外の先行事例も参考にするとみられる。
中国では当局が日本企業などの外資を当初は優遇するが、その企業の技術を使った製品を自国で量産できるようになると対応を「格下げ」して冷遇する事例が目立つ。外資の技術を入手して国産化する狙いがある。
EUは今秋にも対抗策を施行、米国も法案検討中
地方政府は域内の病院に医療機器を国産に限る通知を出し、外国製品の締め出しに動いた。オフィス用の複合機は日本企業などの外資に技術移転を迫った。反発を受け、撤回した経緯がある。
技術流出のリスクなどから中国生産から撤退した企業もある。OKIは複合機やプリンターの中国生産をやめた。富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)も24年半ばに上海の複合機工場の閉鎖を予定する。
日本が対抗措置をとるには国際社会の理解を得ながら経済的威圧であると訴える必要がある。今は明確な定義はなく、関係省庁でどのような基準で認定するかを協議することが欠かせない。
欧州連合(EU)は経済的威圧に対抗する規則案に政治合意し、今秋にも施行する。米議会も中国を念頭に経済的な圧力への対抗措置を盛り込んだ法案を検討中だ。
通商政策に詳しいオウルズコンサルティンググループの菅原淳一プリンシパルは「国際ルールの正当性を保ちながら迅速な対応ができる仕組みを構築する必要がある」と指摘する。
関税引き上げや輸出制限、目立ってきた経済的威圧
ある国が他国に対し、貿易や投資を通じた措置や脅しにより、影響を及ぼそうと圧力をかける行為のこと。輸入産品への関税引き上げや通関拒否、重要物資の輸出制限、強制的な技術移転などの手段がある。主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)は主権的選択が脅かされる場合と定義する。
 政府による公式な手続きに基づかない措置もあるとみられ、実態がつかみにくい。輸出制限でサプライチェーン(供給網)が分断されれば企業の生産活動にも大きく影響する。特に重要鉱物など特定の国からの供給に頼る物資の途絶リスクは大きい。威圧行為を未然に防ぐための国際連携や、威圧を受けた国への支援などが重要となっている。
 5月のG7首脳会議(広島サミット)では、経済安全保障についての共同文書をまとめ、対中国を念頭に「経済的威圧を抑止し対抗する」と明記した。対応を強化するために「調整プラットフォーム」を立ち上げて連携し、G7以外のパートナーと協力していく方針を示した。

【林外相がウクライナ訪問、楽天・三木谷氏ら同行】
 9日の日経速報メールは次のように報じた。
 林芳正外相は9日、ウクライナを訪問した。3月に電撃訪問した岸田文雄首相に続き、主要7カ国(G7)の議長国としてウクライナ支援を継続すると表明する。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長ら企業関係者も同行した。復興に向けた民間支援のニーズを聞き取る。
外務省が同日発表した。ロシアがウクライナを侵攻した後、日本の外相がウクライナを訪れるのは初めて。
林氏は3〜10日の日程でエジプトやポーランドを回る予定だった。9日にポーランドからウクライナに移動した。首都キーウ(キエフ)近郊で多くの民間人が殺害されたブチャを視察し、犠牲者を追悼して献花する。
9日午後に同国のクレバ外相と会談し、共同記者会見に臨む。
外相会談で林氏はG7議長国としてロシアへの制裁を維持、強化する考えを伝える。年内開催を調整するG7外相会合を念頭に、ロシアによる侵攻が長期化するウクライナを同志国が結束して支援する姿勢を示す。
政府は2024年初めにウクライナの経済復興に関する会議を日本で開く計画だ。戦争が続くウクライナの復旧・復興には多額の資金が必要で、日本は官民を挙げて協力する方針を打ち出す。
ディー・エヌ・エー傘下の医療系スタートアップ、アルム(東京・渋谷)、経団連からも参加した。民間企業にも直接現場を見てもらい、ウクライナ側の意見を聞くことで支援策に生かす。
大規模なミサイル攻撃を受けてインフラが損傷するウクライナはロシアによる侵攻後、2回目の冬を迎える。林氏は外相会談で厳しい冬に備えた生活支援策を説明する。

【「ジュリー氏宅のインターホン押したら…」 BBC記者が語る問題点】
 9日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
 ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子氏らが7日、東京都内で記者会見を開き、故ジャニー喜多川氏による性加害を初めて認め、謝罪しました。この性加害が大きな社会問題になったきっかけの一つは、英公共放送BBCによる3月のドキュメンタリー番組です。制作に携わったモビーン・アザー記者が7日の会見直後、ロンドンのBBC本社で朝日新聞の取材に応じました。やりとりを2回に分けてお伝えします。
• 「帝国」築いたジャニー氏の表と裏
 ――番組の放送から半年が経ち、事務所が初めて性加害を認めました。
 多くの意味で、一歩前進したと思います。虐待があったと認めたこと自体が進展であり、また、ようやく本当の意味での謝罪をしたからです。
 前回の(事務所が5月に出した)声明は、人びとがどのように感じたかについての謝罪であり、虐待を認めてはいませんでした。
 ただ、なぜ、このような事態に至ってしまったのか、事務所が答えるべき大きな問題がまだいくつも残っています。これまで事務所側は何が起きたのかを自分たちから率先して解明し、真実に迫るというよりも、ただ単にその場しのぎの対応をしてきたように思えます。
 また、藤島氏の社長辞任は当然として、彼女は100%株主のままです。それは、タレントたちの成功の主な経済的な受益者が、喜多川氏の家族の一員であり続けることを意味します。
 さらに、会見では同族経営をやめる意向を示しながら、後任の東山紀之氏は藤島氏と長年、時間をともにしてきたし、事務所のカルチャー(企業文化)に染まっている人物です。なぜ外部の人間を後任にしないのか。私には、そちらの方がずっとバランスが取れているように感じます。
 (被害者への)補償についても言及がありましたね。進展であり、良いことです。
 ただ、どのような補償であり、どのような方法で補償をするのか、サバイバー(性的虐待の被害者たち)はどのように(事務所に)連絡を取ればいいのか、もっと具体的に知りたかったです。
 事務所にとっては、まだまだ長い道のりがあると思います。
認定、謝罪、補償だけでは「不十分」
 ――性加害を認め、謝罪し、補償を申し出るという三つだけでは不十分だということですか。
 まったくもって不十分です。まず必要なことは、企業としてのカルチャーの完全なオーバーホール(全面的な立て直し)です。…

【G20首脳宣言を採択 世界経済「成長と安定に逆風」】
 同じ9日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ニューデリー=秋山裕之、飛田臨太郎】20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は9日、インドの首都ニューデリーで開幕し、成果文書となる首脳宣言を採択した。世界経済について食料やエネルギー価格の高騰などを挙げ「成長と安定に逆風は続いている」と指摘した。
 中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は欠席した。中ロと米欧など民主主義国との対立が鮮明になるなか、首脳宣言のとりまとめが危ぶまれていた。
 首脳宣言はウクライナ情勢について「すべての国は領土獲得を目的とした武力による威嚇や使用は慎まなければならない」と明記した。
 ロシアによるウクライナ侵攻を「戦争」と表現し「核兵器の使用や威嚇は許されない」と強調した。食料やエネルギーの安全保障などに負の影響を与えていることも指摘した。
 気候変動問題は、2030年を念頭に再生可能エネルギーの能力を世界全体で3倍にするよう努める方針を書き込んだ。米政府によるとG20で初めて一致した。
 首脳会議はアフリカ連合(AU)を正式なメンバーに加えることで合意した。グローバルサウスと呼ぶ新興・途上国の声を取り入れる。
 AUはアフリカの55の国・地域が加盟する地域機関だ。議長国インドのモディ首相が「包摂的な気持ちを持ってAUに恒久的な参加を認めるべきだ」と提起し、各国から賛同を得た。
 世界はロシアによるウクライナ侵攻に伴い食料危機や不安定なエネルギー市場に直面した。特に新興国や途上国への影響は大きい。
 岸田文雄首相は9日、ウクライナを侵攻するロシアに部隊の撤退を求めた。食料危機を巡りG20で対処する必要を指摘した。法の支配に基づく開かれた国際秩序の重要性を説き「核による威嚇は断じて受け入れられない」と言明した。
 主要7カ国(G7)議長として5月に開いた広島サミットの成果のG20への反映をめざす。脱炭素では各国のエネルギー事情などの条件に応じた「多様な道筋」を提起した。欧米や途上国・中東などで意見対立しやすい分野で共通項を探る。
 東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出について日本の立場を説明した。中国による日本産水産物の輸入停止を念頭に「一部の国が突出した行動をとっている」と批判した。
 G20首脳会議は10日までの2日間。日米独など主要7カ国(G7)に加え新興国など20カ国・地域が参加する。国内総生産(GDP)の合計は世界の8割に上る。
 バイデン米大統領は9日、インド、ブラジル、南アフリカの首脳と会談した。インドと24年以降に議長国を務める3カ国として「国際経済協力の最重要フォーラムとしてのG20に対し、共通の責務を再確認した」との共同声明を公表した。

【ラグビーW杯【速報】日本快勝、リーチマイケルらが6トライ…松田力也は全キック成功】
 10日の読売新聞オンラインは次のように報じた。
 ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会は10日(日本時間、同日夜10時過ぎ、1次リーグD組の日本代表がチリとの今大会初戦に臨み、42―12(21-7、21―5)で快勝した。W杯初出場のチリの世界ランキングは22位。14位の日本は、D組で唯一、格下相手となるこの試合で力の差を見せつけて6トライ。勝利による勝ち点4に加え、4トライ以上で得られるボーナスポイント(BP)1点も獲得した。
 


 この間、下記の録画を視聴することができた。なお前回の(11)で書き残したものから始める。(1)NHK総合スペシャル選「新ドキュメント 太平洋戦争 1942 大日本帝国の分岐点(前編) 市民と国の指導者、兵士が記した日記や手記などのエゴドキュメントをもとに、個人の視点から太平洋戦争を追体験するシリーズ」8月12日。 (2)NHK総合スペシャル選「新ドキュメント 太平洋戦争 1942 大日本帝国の分岐点(後編)、1942年は戦局が大きく転換し、さまざまな戦争の矛盾が噴き出す様を見つめる」12日。 (3)NHK総合スペシャル選(3)「日本人はなぜ戦争へと向かったのか、“熱狂”はこうして作られた。新聞やラジオなどのメディアが果たした役割が明らかになってきた。政策の決定に大きな影響を与えた熱狂した“世論”の実体に迫る」14日。 (4)NHK総合スペシャル選(4 最終)「日本人はなぜ戦争へと向かったのか、開戦・リーダーたちの迷走。リーダーたちは膨大な国力差のある対米戦争をしてはならないことを熟知していた。それがなぜ開戦決定に至ったのか。当事者の証言テープから驚くべき事実が浮かび上がる」14日。 (4)NHK総合スペシャル選(4 最終)「日本人はなぜ戦争へと向かったのか、開戦・リーダーたちの迷走」14日。 (5)BS1プレミアム「紫電改 最後の戦闘機。太平洋末期に活躍した“幻の戦闘機”と言われた紫電改が四国の海中で見つかった。引き上げを機に過酷な戦場散っていった紫電改とパイロットたちの運命をたどる」14日。 (6)NHK総合スペシャル「アナウンサ-たちの戦争」14日。 (7)BS1「軍人スポークスマンの戦争~大本営発表の真実」14日。 (8)EテレNHKアカデミア「戸高一成「太平洋戦争から学ぶ。 海軍史研究家で大和ミュージアム館長、戸高さんと考える戦争とは何か。戦争末期に沈没した戦艦大和の資料、旧日本海軍の将校たちの肉声テープを大公」15日。 (9)NHKスペシャル「Z世代と”戦争”。戦後78年となる終戦の日、Z世代の若者がスタジオに集まり、ゲストや専門家と本音で議論。戦争はなぜ起きるのか、もし自分が当事者になったら?」15日。 (10)BS8プライムニュース「ウ軍の攻撃拒む露軍のカベ、主力部隊と航空戦力を分析」18日。 (11)BS1スペシャル「空の証言者~カメラが見た太平洋戦争の真実~。米軍が撮影し膨大な映像。その分析からアジア各地を狙った空襲の実態が明らかに。台湾では日本上陸作戦を見据えた実験的兵器も使用。知られざる「アジアの空襲」に迫る」18日。 (12)映像の世紀バタフライエフェクト「GHQの6年8カ月 マッカーサーの野望と挫折」21日。 (13)BS6報道1930「プリゴジン氏はなぜアフリカに?」23日。 (14)NHKペシャル混迷の世紀「台頭する“第三極“トルコ”全方位外交“の光と影」26日。 (15)ETV特集「”玉砕“の島を生きて(2)~サイパン島 語られなかった真実~」26日。 (16)ドキュメントJ「世界で奮闘! 仕事人ワタナベさん~国際体操連盟会長・渡辺守成。”非エリート“から体操界のトップへ駆けあがった渡辺さん。ある行動に出る」27日。 (17)EテレNHKアカデミア「戸高一成(後編) 戦争のない未来は築けるか?」27日。 (18)BS6報道1930「プリゴジン氏”死亡“裏で何が起きているのか。プーチン氏が抱く不安。ロシアは政治の季節へ」29日。 (19)BS世界のドキュメンタリー「中国商魂 ”新市場“アフガニスタンに挑む。タリバンのアフガニスタンを新市場あととらえホテルや鉱山開発、映像メディアなどでビジネスチャンスを見出す中国起業家たち、成功するのか」29日。 (20)BS世界のドキュメンタリー「広がる”持続可能な交通“~都市変革の最前線~バルセロナ・ベルリン・パリなど革新的な5都市から都市の未来を考察する」30日。 (21)BS6報道1930「「ユーの代わりはいくらでも」 ジャニーズ性加害認定・救済どうなる?」30日。 (22)BS世界のドキュメンタリー「インサイド・ロシア、国民の”声“はいま。ロシア人ジャーナリストが危険を冒して撮影した貴重なルポ」30日。 (23)NHKBS1国際報道2023「米大統領選 共和党候補者 ”全米で中絶規制“が争点に。中国不動産大手9800億円の赤字ほか」31日。 (24)BS6報道1930「中国”嫌がらせ“外交、猛反発に隠された本音、原発処理の安全とは」31日。 (25)NHK国際報道2023「”ロシア発フェイク情報“ 標的はドイツ」9月1日。 (26)NHKスペシャル「映像記録「関東大震災 帝都壊滅の三日間(前編)、同時多発の火災の恐怖のなか」2日。 (27)BS1スペシャル「プーチン 知られざるガス戦略~徹底検証 20年の攻防で」2日。 (28)BS1スペシャル「トルコ大統領選 あぶり出された少数派の声」3日。 (29)NHKクローズアップ現代「私たちが闘う”理由“ 中国言論統制と若者たち。祖国を離れ海外から中国を変UAえようとする”白紙世代“と呼ばれるたちを長期密着、身の危険を感じながら声をあげつづける「理由」とは」4日。 (30)映像の世紀バタフライエフェクト「関東大震災 復興から太平洋戦争への18年」4日。 (31)BS世界のドキュメンタリー「ロシア疑惑のゴールドラッシュ。ウクライナ侵攻で経済制裁を受けるロシア。しかしアフリカで軍事協力と
態を調査する」5日。 (32)BS1国際報道「韓国で「キラー問題」排除表明で混乱ほか」5日。 (33)BS6報道1930「進撃のウ軍が奪還を狙う要衝トクマク攻略法、ロ軍は精鋭部隊展開か、大規模な追加動員か? プーチン氏の計略とは」7日。 (34)BS6報道1930「処理水偽情報で国民を欺く?中国習政権が隠したい経済終焉の危機。ASEAN・G2「異例の欠席」の意味は?」8日。 (35)Eテレ サイエンスZERO「究極の謎!? ”動物の睡眠”徹底分析。生き物はなぜ眠るのか。脳を持たない生物まで眠ることが明らかに。睡眠と食事、老廃物などとの関係も。」9日。 (36)BS世界のドキュメンタリー「ラグビーが起こした奇跡、歴史を変えた南ア代表チーム。マンデラ大統領が白人の競技だったラグビーを人種間の和解と団結のシンボルに変え、やがて2019年に黒人の主将率いる代表がW杯で優勝するまでを描く記録。

朋あり遠方より来る

 ふっと「朋(とも)有(あ)り遠方(えんぽう)より来(きた)る」が念頭に浮かんだ。正しくは「子曰、学而時習レ之、不二亦説一乎。有レ朋自二遠方一来、不二亦楽一乎。…〔子(し)曰(いわ)く、学びて時にこれを習う、亦(ま)た説(よろこ)ばしからずや。朋(とも)有(あ)り遠方より来(きた)る、亦た楽しからずや。…〕
 孔子『論語』の冒頭のことば。正確には2つ目に出てくる。初めの「学びて時にこれを習う」は独りの行為なのに対し、二番目の「朋(とも)有(あ)り遠方より来(きた)る」とは、相手が必要で、久しぶりに朋(友)と会える喜びと感動を語っている。

【遠方からの友】
 ここで2023年7月8日のメール交換を引こう。
2023年7月8日 10:05
加藤先生へ、
近藤です。6月に大学教育質保証・評価センターの代表理事に就任し、8月に理事仕事で福島大学で開催される「高等教育質保証学会」で話をすることになりました。その折虎ノ門事務局へ出かける予定です。少し先の話ですが先生の都合がつけば何とかその折に時間を作りお会いしたいと思います。センター発足の折には「設立記念シンポジウム」(2019年10/11)が開催されました。その前日(10/10)夕刻二人で飲みながら私の発表プレゼンを聞いていただいたこと思い出しています。シンポジウムのあらましは、加藤ブログに留めていただき感謝もしています。日程等具体的になりましたらまたメール連絡します。
今日は晴耕なしの雨読です。浅田次郎「流人道中記」です。ではまた。

2023年7月8日 10:59
近藤さん
6月に大学教育質保証・評価センターの代表理事に就任されたよし、世の中は逸材を忘れませんね。8月の福島大学での講演が予定され、その折に公大協事務局へ顔を出されるよし、その具体的な時間が決まり次第、お知らせください。
加藤祐三

2023年7月8日(土) 11:24
加藤先生へ、
近藤です。8月、東京での行動予定をお知らせします。8/27(日)福島での学会セッション終了後、夕刻から東京です。予定では、東京駅15:24着(以後フリー)、その日は東京泊です(田町:ホテルグレースリー田町)。先生の予定が可能ならば8/27夕刻お会いできればと思いますがいかがでしょうか? ご検討ください。翌8/28(月)は午前中虎ノ門事務局で打合せ、夕刻羽田より福岡へ戻ります。猛暑の東京、御身大切にお過ごしください。暑中のお見舞いです。

2023年7月8日(土) 12;39
加藤先生へ、
近藤です。返信メールありがとうございます。8/27(日)ホテルチェックイン後としたいので、時刻は午後4時半―5時あたりで、東京不慣れな私としてはJR田町駅のどこかでしょうか? 東口(芝浦口)のペデストリアンデッキ(改札口フロアー)あたりでしょうか。いかがでしょう。

 この近藤さんとは、近藤倫明(みちあき)さん、前北九州市立大学長。1952(昭和27)年生まれで、1936(昭和11)年生まれの私とは16歳も違う。専門は心理学。本ブログ(http://katoyuzo.blog.fc2.com/)に何度か登場している。

【本ブログに合計380回掲載】
 本ブログの右欄にカテゴリの欄があり、本日の段階で、歴史研究(130)、大学問題(14)、三溪園(120)、我が歴史研究の歩み(43)、交遊録(39)、未分類(34)とあり、合わせて380回を掲載してきたことが分かる。ネーミングは自由で、複数の分野に跨るときは比重の重い方に入れる。
 近藤さんとの出会いは交遊録にあるに違いないと思い、ここをクリックすると回を追って本文が出てくる。故人を偲ぶ記事、いまも年2回つづけている清談会の報告、中学の同期会の記事などがつづくが、近藤さんの記事がないと思っていた矢先、やっと1本(1回分)を発見した。
ここに次のようにある。

【2016年10月13日掲載の「江戸散策」】
 北九州市立大学長の近藤倫明さんと初めてお会いしたのは、10年ほど前であったか、その頃は同大学の副学長で、「若きプリンス」の趣があった。学長に就任したのは2011年、今年度で6年の任期を満了する。
 公立大学協会(全公立大学長が会員、以下、公大協)の5月総会や秋の学長会議では、冗談を交えてよく歓談した。私は横浜市立大学長(1998~2002年)の後に、公大協相談役、また都留文科大学長(2010~2014年)を経て、再び相談役に復帰し、毎回出席している。
 今年10月の学長会議は北九州市立大学で開催と決まり、再会を期していたが、急の所用で出席できなくなった。私の欠席は初めてで、お詫びもしたいと思い、「…貴学へ伺えない代わりに、大兄が東京に来られるさい、数時間、江戸をご案内します。…」とメールすると、二つ返事で「…江戸へのご招待ありがたくお受けしたく…」とあった。
 近藤さんとは親子ほどの年齢差がある【すこし大げさか?】が、どこか波長が合う。心理学(認知科学、視知覚の研究)の研究者で、歴史学の私とは同じ人文科学という共通項もある。
 台風18号が沖縄(とくに久米島)を襲い、五島列島あたりを北上して速度を上げるという。飛行機が飛ばなければ断念するしかない。幸い直撃はなく、10月6日(木曜)の昼過ぎ、会議を終えた近藤さんと文部科学省東館の玄関前で会うことができた。
 10月というのに真夏日。太陽が照りつけ、案内先の変更も考えないではなかったが、「昼食は店が空く1時過ぎとし、まず江戸でいちばん高い場所へ」と、愛宕山(標高25.7メートル)の急階段を一気に登った。ここから江戸湾に入る舟が一望できる。舟はこれを航路の目印とした。1925年、電波を送る適地として東京放送(NHKの前身)が陣取る。
 愛宕山から西新橋へ向かい、かつて公大協が初代の事務所を置いた吉荒ビルを案内し、内堀通りの裏側の小路を抜けて、行きつけだった蕎麦屋をめざすが、再開発のため休業の張り紙。やむなく表通りに戻りステーキ屋を発見、これからの強行軍に備えて筋肉に栄養を補給した。
 暑さを避けて、再建なったイイノビル敷地内にある緑地帯のベンチに座り、水を噴霧する空冷装置の下で、CD-ROM『江戸東京重ね地図』(菁映社 2001年刊)のコピー6通分12枚を開く。これは高校時代の友人・今西久雄が大の池波正太郎ファンで、それが嵩じ通産省(当時)の助成事業を活用して作った勝れ物である。安政3(1856)年の江戸切り絵図と現在の地図を照合できる。
 中央省庁街の南端に文部科学省、ここは幕末には内藤能登守政義日南延岡藩七万石の所領(坪数も記載)、その東側に真田信濃守幸教十万石、北の外務省は筑前福岡藩松平美濃守(黒田)五二万石、新丸ビル一帯は老中備後福山藩阿部伊勢守正弘十一万石(以上はいずれも上屋敷)等と、一目瞭然である。
 これからの行程を確認すると、話題は<オートファジー>でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さんに及ぶ。生命活動の基本を解明した自食作用の理論の背後に「人間も自然や生命体の一つで、それに生かされている」という大隅さんの思いがある。近藤さんは「…140億個の脳細胞と60兆個もある全身の細胞数のうち、(心理学や認知科学)は140億個に重点を置きすぎ、60兆を忘れていたのではないか」と言う。
 日比谷公園野外音楽堂の脇を通り、図書館と日比谷公会堂を右手に松本楼の脇を抜け、私の一番好きな場所のテニスコートへ。このあたりも広い大名屋敷の跡で、長門萩藩松平大膳大夫(毛利)三十七万石と肥前佐賀藩松平肥前守直正(鍋島)三十五万石等の領地。そして公園を出てからは桜田門や警視庁を左手にして進む。右側には、よく手入れされた松林(皇居前広場)の先に、日比谷-丸の内-東京駅前-大手町とつづく高層ビル群が聳える。
 二重橋前を抜け、いよいよ大手門から皇居東御苑に入る。ここが江戸城の本丸である。両側に樹木、中央に芝生の広場。この大奥一帯の奥(北)に天守閣があったが、明暦の大火(1657年)で焼け落ち、わずか19年間の生命を終えた。その天守台が巨大な石組に支えられて現存する。
 明暦の大火の火元は本郷丸山(文京区)の本妙寺等の説があるが、冬の北風にあおられて炎は江戸城や深川の芭蕉庵あたりまで及び、3万とも10万とも言われる多数の死者を出した。だが、その復興過程で江戸は急膨張、全国から人々が流入し、人口はやがて100万人を数え(1800年頃)、ロンドン・北京と並ぶ「世界繁盛の三都」の1つとなった。
 歴史認識は時空を超えても、「世代差は超えられない?」。18歳で入学する学生と教職員との年齢差(最長で約50歳)・体験差による価値観の相違、教職員間の同じ問題に大学は追いついていないのではと言うと、近藤さんは現役学長らしく、「それを新しい社会人大学(学部)の構想として煮詰めているところです。…<多世代共学>による新たな<知の展開>…」と心強い答えが返ってきた。
 北桔橋門から出て右折すると、いつものように皇居周走(1周5キロ)のランナーたちに出会う。桜田門近くの広場を出発し、反時計回りで走る。そのいくつかの理由から、近藤さんの一説。対象を見る時、眼球は左下から右上へ動く(グランスカーブ)ため、反時計周りでは常に堀や城が見え、逆だと流れる車列しか目に入らない、と。なるほど!
 神保町の古書店街を回り、ウィンドーの奥に掛かる大きな古地図で、江戸が「の」の字を描く(時計回り)ように造られた街であることを再確認。居酒屋で乾いた喉を潤し、尽きぬ議論を次に残して解散した。スマホの歩数計には15000余とあり、距離にして14キロほど、7時間の楽しい道行であった。

【近藤さんの目の付け所】
 この日は「10月というのに真夏日」だったらしい。そのなかを15000歩、14キロも歩き通した。7年前だから、私が79歳、近藤さんが64歳である。
近藤さんらしい目の付け所の鋭さを示すものを3つ再掲したい。
1 「…140億個の脳細胞と60兆個もある全身の細胞数のうち、(心理学や認知科学)は140億個に重点を置きすぎ、60兆を忘れていたのではないか」
 2 「対象を見る時、眼球は左下から右上へ動く(グランスカーブ)ため、反時計周りでは常に堀や城が見え、逆だと流れる車列しか目に入らない」
 3 「それを新しい社会人大学(学部)の構想として煮詰めているところです。…<多世代共学>による新たな<知の展開>…」

【余話】
 「江戸散策」についで「横浜散策」を2回、2019年6月4日と8月2日、本ブログに掲載している。カテゴリが<歴史研究>となっているのは、横浜を散策しながら、近藤さんのスコットランド留学の経験を踏まえ、彼の認知科学の理論展開を私の歴史研究に活かせないかと考えたためだと思う。
 今回は詳述を避けるが、いずれまた触れることがあると思う。

【2019年10月18日掲載の「新たな大学評価機関」】
 本ブログの掲載380回のうち、カテゴリ別にもっとも少ないのが大学問題(14)である。少ない理由はないでもない。私のブログはこれが2回目であり、第1回は2011年3月11日の東日本大震災の翌日から始めた『(都留文科大学)学長ブログ 2011~2014』である。
 学長退任にともない、本ブログを2014年4月から開始したため、大学問題には手が回らなかった。
 ところが近3年に及ぶコロナ禍のなかでデジタル化が一挙に進み、ついで1年半にわたるロシアのウクライナ侵攻で戦争と兵器面でもデジタル化が急速に進行している。その波は政治経済文化の全域に波及。教育面では幼児から初等・中等・高等教育の全域に及んでいる。無関心ではいられない。
 少ない大学問題のなかに、2019年10月18日掲載の「新たな大学評価機関」という記事がある。その冒頭に次のように記されている。
 「一般社団法人大学教育質保証・評価センター(以下、本センターとする)は、公立大学長を会員とする一般社団法人公立大学協会(以下、公大協とする)により設立されたもので、既存の公益財団法人大学基準協会(2004年認証)、独立行政法人大学評価・学位授与機構(2005年認証、現在は大学改革支援・学位授与機構)、公益財団法人日本高等教育評価機構(2005年認証)につぐ、第4の大学評価機関として、実に14年ぶりに誕生した。…」
 なお「本センターは公大協により設立された機関であるが、公立大学のみならず国立・私立の大学に広く門戸を開いており、制度本来の趣旨である「多元的に評価を受けられる」1つの旗艦として位置づけられる。…」
 「本センターの役員は、奥野武俊代表理事(元大阪府立大学長)、近藤倫明理事・認証評価委員会委員長(前北九州市立大学長)ほか6氏」とあり、今回、奥野氏の退任にともない近藤氏が代表理事を担うこととなったのも理にかなっている。

【近藤さんから事前に講演の私的覚書を送ってもらう】
 頼みの綱は、今回もまた近藤さんである。
 福島大学で開かれる今年の第12回大会での彼の講演の私的覚書を送ってもらい、会議の狙いを事前に把握、それを踏まえて講演後に東京の三田で会う時の参考にしようと、無理を承知で頼んだ。
 さっそくメールで送ってくれたのが、8月8日つけの「講演の私的覚書き」である。そこには次のように記されていた。その要旨を私の言葉で抜粋する。
1 今回参加する「高等教育質保証学会」は、「高等教育質保証」の研究領域の確立、研究者の育成、専門職員の養成などを目的として2010年に設立した学会。
2 今年の第12回大会のメインテーマは、『データサイエンス・AI時代の高等教育の質保証―データとの対話』。
3 この中で「認証評価セッション:4巡目に向けた認証評価の現状と課題」にパネリストとして招待されている。このセッションの発表者は5人で、機関別認証評価機関(日本に5ある機関別認証評価機関)から参加している。
・松阪顕範(大学基準協会)
・土屋俊(大学改革支援・学位授与機構)
・志賀啓一(大学・短期大学基準協会)
・小林澄子(日本高等教育評価機構)
・近藤倫明(大学教育質保証・評価センター)
4 今回本センターは学会より招待を受け初めての参加。そこで講演目的の一つは(テーマに沿った内容もさることながら)本センターの紹介。
5 センターの設立シンポで基調講演をお願いした小林雅之氏(桜美林大学)は、学会でも初日に基調講演を行う。その司会は工藤潤氏(大学基準協会)、彼もシンポに来賓として参加していた。シンポで来賓挨拶をされた長谷川寿一氏(学位授与機構)は、開会挨拶と司会を担当。同じセッションで発表される小林澄子氏も、センターシンポに参加していた。 
6 私が6月にセンターの代表理事をお引き受けするときに明言したことです。本センターの人事・予算は事務局長に任せる。私の仕事は2つ、SD(staff development)とセンターのプレゼンスの向上。SDは 事務職員の皆さんの成長です。センターは新しい組織なので職員の育成が急務。…他の認証機関の多くが2004,2005年の設立ですので層の厚み経験が違う。本センター職員は委縮しがちで、自信をつけるために実力をつける必要がある。日々の会話の中で少しでも実力をつけるよう接している。
7 同時にセンター職員の誇りの醸成を考えている。…代表理事として外部団体との交流に積極的に参加しプレゼンスの向上を目指し、プレゼンスの向上によって職員の皆さんにセンターへの誇りを持ってほしい。今回の学会発表もこの一環。
8 講演のポイントは、他の認証機関とは違う点、異なる点、独自な特色をアピールすること。本センターは4年前、3巡目の途中からの業務開始ですから、既存の機関と異なる点を強調したい。
9 特色は2点。既存の機関は受審大学より提出された自己評価書の内容を機関が定める大学評価基準に照らして評価する。センターでは自己評価書を簡素化した「点検評価ポートフォリオ」を受審大学に求め、自己評価書をまとめたものを記載する形式です。これが1つ目の特色です。既存の機関の自己評価書だとゆうに100頁を越えるが、センターの場合は52頁ほどに収まる。大学評価基準はシンプルに基準1,2,3と3つです。但し内容はいい加減なものではありません。既存の評価機関が基準として挙げている内容を全て基準1に含んでいます。これが法令順守のチェックです。センターでは基盤評価と呼んでいます。最低限の認証評価はこれをクリアすれば法的には十分です。
10 センターはさらに基準2で、内部質保証の具体例(学習成果など)を求めます。文部科学省により2巡目、3巡目で強調されている視点です。
11 さらに基準3(特色評価)は大学の設置理念に沿った特色の進展を評価する目的で設定している。大学が自らをアピールする積極的な基準でもあり、この基準3に関連して新たな評価のあり方を「評価審査会」という実地調査における評価の形で導入している。この新たな評価の形が2つ目の特色です。
12 これら2つの特色に関して過去3年間の実績を通して自己点検するためにアンケートを取っている。それに対してポジティブな評価を頂いたと自負している。  
13 最後にこのセッションのテーマについての本センターの見解をまとめている
14 今回の学会で掲げられているセッションテーマは、参考文献の3つ目に挙げている中教審の審議まとめ(令和4年3月)に基づくもの。基本的見解は、すでに4巡目への対応ができるように、本センターの現行評価の中に内在化しているとうのが主張です。(少し言い過ぎかもしれませんが)

【東京三田での会食】 
会場の福島から新幹線で東京駅まで来て、JR線田町駅近くのホテルにチェックインした近藤さんをJR田町駅の改札ちかくで出迎えた。ここで落ち会うのも初めてではない。そして思い出深い慶応通りへ繰り出す。
前述したとおり、近3年に及ぶコロナ禍のなかでデジタル化が一挙に進み、ついで1年半に渡るロシアのウクライナ侵攻で戦争と兵器面でもデジタル化が急展開している。今回の学会のメインテーマがまさに『データサイエンス・AI時代の高等教育の質保証-データとの対話』である。
 そろそろ店も開く頃かと移動し、青森県産の馬肉屋<馬並み屋>に落ち着いた。近藤さんは自ら魚を選び、さばくほど、料理に強い関心を持っているという。
互いに自慢の料理の腕をひとしきり披露しあった。
 すると近藤さんが「一日三食となったのは江戸時代から?」と鋭い質問、私は「江戸中期ころではなかろうか」と苦し紛れの返答をした。根拠は都市化の進行と胃袋の縮小である。
 それでは<衣食住>と言い始めたのは何時ころから?と私が質問。食いしん坊で料理好きの二人には、重要度で並べると<食衣住>ではないか。
しばらくして<衣食住>は、いろは順、かつ五十音順に並べたのではないかと気づいた。確かに落ち着きが良い。しかし確証はない。ご存じの方は教えてほしい。

【朝トレ】
 そこに「いまも朝トレをやっておられますか?」と近藤さん。
 朝トレとは私が還暦を機に始めたトレーニングのことで、床の上で上向きになって5つのポーズ、ついでうつ伏せになって6つのポーズ、また上向きに戻り7つのポーズ、主に体幹を鍛える運動である。全部を終えると1時間を越える。
 この特技を私は誰にでも披露する訳ではない。近藤さんなら受取ってくれるかもしれないと思い、お伝えした。その話題が冒頭から出てくるとは!?
 「私もやっています。朝だけではなく夕方も…それから家内と一緒に散歩に出ます。朝トレより夕トレの方が多いかもしれない…」
 「朝に拘らず夕トレという手もあるのか!!」 近藤さんの柔軟な対応に驚かされた。
 26年間、欠かさずやってきた。体調が悪い日は回数を減らすが、やらない朝はない。この間に目が覚め、次々とアイディアが湧いてくる。バカの一つ覚えである。朝と夕に分ける手を知って愕然とした。「近藤さん、ありがとう!」

【コロナ禍を通して】
 コロナ禍で世界が変わった。良くも悪くも大きく変わりつつあり、その行く先が見えない。私個人の経験で特筆すべき変化は、家内の提案にそって自転車を処分し、二足直立歩行に戻った点である。散歩というかウォーキングというか。
スマホの記録を見ると、今年8月の平均歩数が一日あたり7515歩と出た。所要時間は1時間半から2時間半。ついでの買い物や書店等の見物、ウィンドーショッピングも含めての時間である。うち家内と同道の時間が夕方の約半分を占める。
 こうして肉体を駆使する時間が増えた。その分だけ睡眠時間が長く必要となり、ますます知的営為に使える時間が減少する。困ったと思うが、アチラ立てればコチラ立たずである。朝トレや夕トレの間に「次々とアイディアが湧いてくる」ことの効用に期待するしかない。

【初動の大切さ、<違和感>を大切に!】
 対面の雑談を通して、「朋(とも)有(あ)り遠方より来(きた)る、亦た楽しからずや」を実感する。遠回りした末に、やっと今回の学会のメインテーマ『データサイエンス・AI時代の高等教育の質保証-データとの対話』に戻った。
 個別の内容に踏み込むには二人の立場があまりにも異なる。講演を行った近藤さんに比べて、私は会議そのものに参加しておらず、どのような意見が出たかも知らない。そこで少し異なる話題に移した。初動の重要性についてである。
 「変だぞ!」という<違和感>。<違和感>は、永い経験を持つ年長者の方が敏感ではないのか。その<違和感>を表明することに年長者の存在意義があるのではないか。若い人たちの勢いを尊重しつつも、彼らの暴走に注意を喚起し、あるときは歯止めをかけるのが大切ではないか。
 もっとも年長者には個体差が大きい。若い人の場合、平均値に集中しやすい傾向があるのに比べ、年長者は極端に個体差が出がちである。機に応じて、強い<違和感>を発信する存在でありたい。これが二人の今日のまとめである。
 次回にまた続きを語ろうと約束した。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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