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変わりつつある世界(11)

【生成AIで企業の7割時短 NECやAGC、人手不足で浸透 主要100社調査】
 8月3日の日経速報メールは次のように報じた。
 主要企業の7割が生成AI(人工知能)を使って労働時間の削減を計画していることが分かった。日本経済新聞の調査で明らかになった。最大で4割超の時短を見込む企業もある。NECは資料を作る時間が半分になり、AGCもソフトウエア作成の時間が6分の1になった。人手不足が深刻化するなか、AIの活用が企業の競争力を左右し始めた。
 国内の主要企業約110社に7月、生成AIの利用についての調査を実施した。94社から回答を得た。AIを使う予定のない企業は1社のみだった。
 AIを導入する狙いについて83%の企業が「労働時間の削減」(複数回答)と回答した。「生産性の向上による売り上げ増」が67%、「販管費や人件費など費用削減」が63%で続いた。83%の企業が全部署に導入するとしており、業務をAIで効率化し、社員の働く時間を製品開発や新規事業などより付加価値の高い分野に回したい考えだ。
 7割の企業が具体的な労働時間の削減を計画する。1割台の時短が22%、2割台が19%あり、4割台も2%あった。
 NECは5月から生成AIの利用を始め、グループ会社を含む国内全社員の4分の1にあたる約2万人が活用する。社内向け資料の作成では平均的な作業時間がこれまでの半分の15分ほどになった。1時間以上かかっていたオンライン会議の議事録をつくる作業も10分程度に短縮できた。
 NECは「生成AIの積極活用と安全性を両立する社内ルールを整備している。AIを徹底的に活用して生産性をあげる」と語る。
 AGCも6月に本体の全社員約7000人が利用できる体制を整えた。管理部門ではデータ分析用のソフト作成にかかっていた時間が3日から半日になる効果をあげた。AIが社内の研究データを読み込み、新素材を開発する際に課題を指摘し、実験方法の助言をするなどの利用も検討する。
 キリンホールディングスも飲料のレシピをAIに学習させることで、新商品の開発時間を短縮できるとみている。
 日本企業は海外企業に比べて生産性が低い。日本生産性本部によると、2021年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国の中で27位だった。デジタル化が遅れており、AIの活用が進まないと国際競争力が一段と低下しかねない。政府の有識者会議も5月、労働人口の減少を見据えて企業などにAIの導入を促した。
 社員への活用についても聞いた。23年末までに5割以上がAIを使えるようにする企業は31%あり、全社員を対象にするとした企業も14%あった。これが25年には66%と28%にそれぞれ倍増する。
 ファミリーマートは23年内に5割以上を対象とし、25年に全社員が使えるようにする方向だ。富士フイルムホールディングスも25年までに過半の社員に導入する。
 AIの導入には懸念もある。社内規定の整備などルール作りが欠かせない。
 懸念で最多だったのが「機密情報の漏洩」(複数回答)で73%、他社の「著作権や商標等の侵害」が66%だった。AIの情報の不確かさを懸念する企業の82%が「人間が精査・確認する」(同)を挙げ、「研修の徹底」が43%で続いた。利用時の社内規定を設けた企業は57%あり、26%が作成中だ。
 生成AIを事業化して収益につなげる企業も多い。AIを使った社外向けの製品やサービスを「開発している」「開発の予定がある」と回答した企業は計31%あった。(猪俣里美、AI量子エディター 生川暁)

■回答企業一覧
IHI/旭化成/アサヒグループジャパン/アシックス/味の素/伊藤忠商事/ANAホールディングス/AGC/NEC/NTT/NTTドコモ/MS&ADインシュアランスグループホールディングス/オムロン/花王/鹿島/川崎重工業/関西電力/京セラ/キリンホールディングス/クボタ/KDDI/コマツ/サントリーホールディングス/JR東日本/JFEスチール/JTB/J・フロントリテイリング/塩野義製薬/資生堂/清水建設/シャープ/商船三井/スズキ/住友化学/西武ホールディングス/積水化学工業/積水ハウス/セブン&アイ・ホールディングス/ソフトバンク/SOMPOホールディングス/第一三共/大日本印刷/大和証券グループ本社/大和ハウス工業/高島屋/帝人/電通グループ/東京エレクトロン/東京海上日動火災保険/東京ガス/東芝/東洋エンジニアリング/東洋紡/東レ/凸版印刷/日清製粉グループ本社/ニッスイ/NIPPON EXPRESSホールディングス/日本IBM/日本航空/日本製紙/日本製鉄/日本生命保険/日本たばこ産業/日本郵船/野村ホールディングス/パナソニックホールディングス/日立製作所/ファーストリテイリング/ファミリーマート/富士通/富士フイルムホールディングス/ブリヂストン/ホンダ/マツダ/丸紅/みずほフィナンシャルグループ/三井化学/三井住友フィナンシャルグループ/三井物産/三井不動産/三越伊勢丹ホールディングス/三菱ケミカルグループ/三菱地所/三菱商事/三菱電機/三菱マテリアル/三菱UFJ銀行/村田製作所/ヤマト運輸/楽天グループ/レゾナック/ローソン/ローム
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【高齢社員にジョブ型雇用 三菱UFJ信託、年収100万円増】
 同じ3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 三菱UFJ信託銀行は60歳以上の再雇用社員を対象に、職務内容を明確に定める「ジョブ型雇用」を導入した。市場部門などでの指導役や対外的に講師を担ったり、現場の営業に精通していたりする人材への適用を想定する。業務内容によって異なるが、年収は100万円ほど上昇する。再雇用社員の活躍の幅を広げる狙いがある。
 「シニアジョブコース」という名称でまず70人程度を対象に試験的に導入した。半年ごとに人数を増やして25年に正式導入し、26年までに200人規模に拡大する。最終的に再雇用社員の半分にまで認定をひろげる考えだ。
 新制度の適用にあたっては社員ごとに「職務定義書」を作成する。「シニアジョブ(SJ1」と「SJ2」の2種類の枠組みを設け、給与は職務の内容に応じて支払う。再雇用社員になると、給与が再雇用前からおよそ半減の水準になる例もある。新制度の適用を受ければ給与の減少を抑えられる。
 三菱UFJ信託には「パートナー嘱託」と呼ぶ再雇用社員が400人ほど在籍する。今後バブル期の大量採用社員が60歳を超え、30年には社員のおよそ10分の1に相当する800人程度まで増加する見通しとなっている。高齢社員が多様な業務に携われる環境づくりが急務になっていた。
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多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
竹内舞子経済産業研究所 コンサルティングフェロー、CCSIアジア太平洋 CEO別の視点
 こうした取り組みは企業内の再雇用制度改革という枠を超えて重要だと思います。このような制度が普及して定年後の働き方についても選択肢が広がり、見通しが立つようになればよいと思います。 内閣府の推計では10年もしないうちに65歳以降の人口が生産年齢人口(15~64歳)の半分を越えます。移民を入れないとすれば労働力の減少を補うのは女性と高齢者となります。今後現役世代の採用でもジョブ型が浸透すれば、キャリアを通じて特定の分野のスキルや人脈を構築し続ける人も増えるでしょうし、そうした人材を活用したいと考える企業も増えるでしょう。数十年後を見据えて、定年後の働き方の選択肢を増やすのは必要だと思います。

【上場企業、4?6月純利益25%増 値上げ・生産増・円安】
 4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・上場企業の4?6月期の純利益は2四半期連続の増益に
・売上高純利益率は8.6%と過去最高の21年を上回る
・トヨタ自動車は最高益。航空・鉄道も経済再開が追い風
 日本の上場企業の稼ぐ力が上向いている。3日時点で、2023年4?6月期の純利益は前年同期から25%増えた。値上げが進む中、供給網や人流の回復で需要が膨らみ、高単価でも売れる構図が鮮明だ。円安もあり、効率性を示す売上高純利益率は最高水準にある。中国景気の減速など懸念材料が残る中、増益の持続力が焦点になる。
 3日までに4?6月期決算を発表した東証プライム上場の3月期企業502社(親子上場の子会社や変則決算など除く)を集計した。社数で全体の4割にあたる。
 純利益は約8.3兆円と25%増え、2四半期連続の増益だ。製造業が26%増、非製造業が24%増だった。4?6月期の増益率としては、新型コロナウイルス禍から急回復した21年(2.8倍)を除けば6年ぶりの高水準にある。
 純利益率は8.6%と前年同期の4.8%から急伸し、過去最高の21年(7.6%)を上回って推移している。米S&P500種株価指数の構成企業(一部市場予想含む)の9.9%にも近付いてきた。
 背景には複数の好材料が重なっていることがある。値上げ浸透に加え、生産・販売の回復、経済再開、前年同期比で7円以上のドル高・円安だ。コロナ禍の合理化で収益体質も強固になっており、資源や市況高騰の一服による商社や海運の苦戦を補った。
 けん引するのは自動車だ。トヨタ自動車は23年4?6月期の連結純利益が1.3兆円超と最高になった。販売増や円安などに加え、車種改良に合わせた価格改定(2650億円の増益要因)も貢献した。日米で販売が伸び日産自動車は純利益が2倍強だった。コマツは同業の米キャタピラーに追随して実施した北米での値上げなどで最高益だ。
 非製造業では、東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランドが最高益だった。グッズ販売の好調や有料優先券の定着などで客単価が最高になった。東京電力ホールディングスは値上げで黒字化した。日本航空やANAホールディングスは国内線旅客数がコロナ禍前の9割前後に回復。JR東日本の深沢祐二社長は「今夏は多くの鉄道利用が期待できる」とみる。
 今後は増益の持続力が焦点になる。足元は中国経済の回復の遅れといった懸念材料がくすぶっている。実際、村田製作所は中国のスマホ需要の低迷が響き34%減益だった。中島規巨社長は「中国の顧客との面会では需要回復の強さを感じていない」と話す。ファナックも中国の設備投資が弱く、受注回復は「24年以降」と慎重だ。
 稼いだお金を成長投資や株主還元、人的資本に惜しみなく使うことも欠かせない。利益増・投資拡大・企業価値向上という好循環を続けることが中長期の投資マネーを呼び込むカギになる。

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【増える図書館、活性化の核に 高知の施設は100万人集客 データで読む地域再生】
 同じ4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 本の貸し出しが中心だった公立図書館の役割が変貌している。少子化と人口流出が進む地方で、地域活性化を担う施設と位置づけられ、施設数は全国で増加傾向だ。高知市中心部の図書館は年100万人超が訪れるテーマパーク級の集客力を誇り、高知県は人口あたりの貸出冊数を10年間で84%伸ばした。地域外からも人を呼び込もうと各地でアイデアを競っている。
 文部科学省の社会教育調査によると、全国の公立図書館(一般社団法人などの運営を含む)は2021年10月1日時点で3394施設と10年間で120施設増えた。多くの自治体が財政難から公共サービスを手掛ける施設の統廃合を進める中で、「00年代以降、図書館は地域の情報センターとしての機能を強化」(明治大学の青柳英治教授)し、幅広い層の住民の利用を促している。
 一方、書店の数は急速に減少が続く。出版文化産業振興財団(JPIC)の調査で、書店がない市町村は全国で26%(22年9月時点)にのぼる。公立図書館は「地域の知の拠点」としての役割が一段と増す状況だ。
 総事業費約146億円をかけて18年にオープンした高知県・市共同運営の図書館を核とする複合施設「オーテピア」(高知市)は、障害者向け図書館やプラネタリウムがある科学館を併設。県民の知的好奇心に応えようと、これまで利用しなかった層にアプローチし、19年度の来館者は100万人を突破した。蔵書は160万冊超と西日本トップクラスを誇る。
 きめ細かなサービスも特徴だ。司書が定期的に教育機関や企業を訪問し、蔵書やデータベースの利用方法を説明するなどして利用者の開拓を続ける。電子書籍の取り扱いも拡充したほか、市町村立図書館への配本の回数を拡大。施設から離れた住民でも県内の最寄り施設でオーテピアの本を読めるようにし、19年度の貸出冊数は106万冊と14年度比で2倍に拡大した。
 「雲の上の図書館」は建築家の隈研吾氏が設計を手掛け、観光施設として国内外から注目を集める(高知県梼原町)
 同県の山あいにある梼原町は観光客の呼び込みに生かす。町立「雲の上の図書館」は世界的な建築家の隈研吾氏が設計を手掛け、建設費約12億円で18年に開館した。地元産木材をふんだんに使った内外装が特徴。同館をコースに加えたツアーも人気で、週末は台湾の団体客らも目立つ。人口約3000人の同町唯一のホテルは22年の宿泊客が17年比4割以上増えた。
 鳥取県立図書館(鳥取市)は起業支援に力を入れる。中小企業診断士らによる創業勉強会を毎月開催し、起業や経営改善など相談内容に応じて適切な専門家らを紹介するサービスを拡充中だ。15年から図書館を活用して起業や商品開発に成功した事例を表彰している。小林隆志館長は「新たなビジネスを生むことで地域の役に立つ姿をみせたい」と意気込む。
 地域の特色を全国発信する拠点として活用する例も増える。江戸時代から続く鍛冶技術で知られる新潟県三条市で22年7月に開業した図書館を核とした複合施設「まちやま」は、本だけでなく地元企業が製造に関わった電動ドリルやかんななどを無料で貸し出す全国初のサービス「まちやま道具箱」を6月に始めた。利用者が地元産製品を購入してくれる効果も期待できる。
 1人あたりの貸出冊数が全国トップの滋賀県は、1980年ごろから利用を促進しようと選書などを担当する司書の採用・教育に注力してきた。地域それぞれの思いと工夫が詰まった図書館は、子どもから高齢者まで多様な世代を引きつけ、活性化の中核施設として存在感を増している。
(渡部泰成、上林由宇太、グラフィックス 貝瀬周平)

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 多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。広瀬陽子慶応義塾大学総合政策学部 教授
貴重な体験談
知のプラットフォームである図書館が様々な形で住民や他地域からの訪問者を集め、地域の活性化に貢献しているということは大変素晴らしい。 依頼を受けた講演が図書館で行われ、多くの住民の方がいらして下さることも増えた。 また、最近は駅ビルやショッピングモール内に図書館が併設されているケースを多くみる。それも、人々が気軽に図書館に立ち寄れる契機を作ってくれていると言えるだろう。 筆者は、かつて在外研究をしていたフィンランドの図書館に感銘を受けた。図書館機能のみならず、キッチンや音楽施設、工作施設など数多くの施設が併設されており、多くの文化行事や集いも行われていた。 図書館の多様化、実に望ましいと思う。

【福島県伊達市で40度、全国で今年初 気象庁】
 5日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本列島は5日、広い範囲で厳しい暑さとなった。気象庁によると、福島県伊達市で午後2時に40.0度を観測。今年、全国で初めて40度以上を記録した。福井県坂井市で39.5度、兵庫県豊岡市で39.4度、京都府舞鶴市で39.0度となり、それぞれ観測史上1位を更新した。
 午後8時時点で35度以上の猛暑日が274地点、30度以上の真夏日が695地点となった。気象庁と環境省は、東北から九州までの多くの都府県で熱中症警戒アラートを発表した。こまめな水分補給やエアコンの適切な使用など熱中症の予防が必要となる。
 なお東京の猛暑日は、この日、16日目となった。

【なでしこ8強、再びカウンターさく裂 ノルウェー破る】
 同じ5日の日経速報メールは次のように報じた。
 サッカーの女子ワールドカップ(W杯)は5日、ニュージーランドのウェリントンなどで決勝トーナメント1回戦が行われ、日本代表「なでしこジャパン」はノルウェー代表を3-1で下し、準々決勝進出を決めた。日本は準優勝した2015年大会以来、2大会ぶり4度目の8強入り。日本時間11日午後4時30分から予定される準々決勝で、米国―スウェーデンの勝者と対戦する。

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 8強入りを決定づけるカウンターが、鮮やかにノルウェー陣地を突き破った。1点リードの81分。FW植木理子(日テレ東京V)がおとりで右に流れて生まれた相手守備ラインのスペースに、後ろからMF藤野あおば(日テレ東京V)が縦パスを通す。左からMF宮沢ひなた(マイナビ仙台)が段違いのスピードで駆けつけた。強豪スペインを沈めたのと同じこの必殺技、「ジャパン・スペシャル」とでも称したくなる。
 ノルウェーはずいぶんと日本に敬意を払ってきたとみえる。冒頭から最終ラインを5人に増員し、まずは構えて日本の良さを消そうとしてきた。
 ラッキーな形で宮沢のクロスが相手ゴールへ吸い込まれて日本は15分に先制したはずが、5分後には追いつかれた。ノルウェーにやられるとしたらこのパターンしかない、という形で。手早く最終ラインの背後にボールを通され、クロスを頭でたたきこまれた。
 ノルウェーがなりふり構わずにこうした自分たちの強みに徹していたらどうだっただろうか。負傷から復帰途上のエース、FWヘーゲルベルクが交代で送り込まれた74分から、捨て身の圧力に日本はたじろいだ。ロングボールを放り込まれ、スクランブル状態をつくられ、冷や汗をかかされた。
 だが、日本はここで前半と同じ轍(てつ)は踏まなかった。「中盤がボールを受けに下がってしまっていたので、もう少し前にいっていい。そしてサイドを使っていこう」と池田監督はハーフタイムに修正を施していた。ボール保持者へ圧力をかけ直し、守備時の距離感を整える。勝負の分かれ目といえた残り20分ほどの時間帯に、日本は守備のハードワークから素早い攻撃という積み上げてきたサッカーで、相手から逃げ切るのではなく突き放した。
 「(ベスト16で敗退した)2019年大会は悔しい思いをしたので、一つ壁を破れた気持ち。チームはいい雰囲気で、全員が同じ方向を向いている」と2点目を決めた清水梨紗(ウェストハム)の笑みがはじける。右の大外にいるはずのその清水の、隙あらばゴール前まで突進してこれる走力。終了間際に1点もののヘディングシュートを片手一本でかき出したGK山下杏也加(INAC神戸)のセーブ力。全員のハードワークを下地に、チームは状況に応じてプレーを遂行し、戦況を切り抜けていく。
 相手がリスペクトしてくるのは、それだけ今の日本が充実しているからで、見かけ倒しでないことを日本はまたも示した。負ければ終わりのサドンデスの第1ラウンド、「なでしこ」は紛れもなく勝者だった。
【後記】準々決勝で日本はスウェーデンに破れ、8強にとどまった。21日の決勝戦はスペインがイングランドを破り、初優勝。

【製造業、主要国7割で不振 需要不足「リーマン時」並み】
 7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 世界的にモノの需要が落ち込んでいる。製造業の景気指数をみると主要29カ国・地域の7割で、企業活動が縮小した。運ぶモノの不足で供給網の需給バランスは崩れており、その度合いは2008年のリーマン・ショック時に匹敵する。消費の中心がモノからサービスに移行したことに加え、中国の内需低迷が響く。サービス業だけで雇用を支えきれるかが焦点となる。
 中国南部・広東省の珠江デルタ地区。「世界の工場」と呼ばれるメーカー集積地は新型コロナ禍での混乱を経て、ほぼ正常化した。例えば荷物の揚げ降ろし待ちで港湾に滞船していたコンテナ船。金融情報会社のリフィニティブによると22年3月のピーク時点で70隻超に膨らんだが、直近では20隻前後にとどまる。
 日本海事センターによると、アジアから米国向けの海上コンテナ輸送量は23年に入って一時、前年同月比2?3割の減少が続いた。業界内では「販売需要はあるものの、小売りの過剰在庫が解消されず、新たに生産を増やして輸送するほどの強さではない」(コンテナ船大手)との声があった。
 世界にインフレ圧力をもたらしたサプライチェーン(供給網)の制約はほぼ解消した。中国によるゼロコロナ政策解除で経済活動が正常化した効果は大きい。製造業にとっては部品の調達など生産工程の改善につながる。ところが足元では供給網正常化を生かし切れていない。実需が不足しているからだ。
 市場関係者はニューヨーク連銀が毎月公表する「グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)」に注目する。海上輸送の運賃や主要国の製造業購買担当者景気指数(PMI)の供給網関連項目などを基に算出する。ゼロを標準としてプラス圏では平時よりも供給網が混雑し、供給制約が発生している状況を示す。マイナス圏では需要減で運ぶモノが少なく、供給網の需給バランスが崩れている。
 4日公表になった7月のGSCPIはマイナス0.9となり、6カ月連続でゼロを下回った。5月にはリーマン危機後の08年11月につけた最低値(マイナス1.59)に次ぐ水準まで低下した。08?09年当時、米国が景気後退に陥ったほか、金融機関の融資余力が低下し、自動車など耐久消費財や資本財の需要が蒸発した。
 新型コロナ禍では巣ごもり消費でモノ需要が急増した。米調査会社S&Pグローバル・コモディティー・インサイツの海運分析・調査ディレクターのリー・デジン氏は足元の需要減退について、新型コロナ収束で「消費パターンがモノから旅行などのサービスへと変化したことが大きい」と指摘する。
 先進国中心による中央銀行の金融引き締め効果が作用しているとの指摘もある。コロナ禍で大規模な金融緩和を実施し、資産価格の高騰と過剰な消費を生んだ。加速度的な利上げで信用収縮が起き、需要縮小につながった。
 中国の内需も想定より弱い。6月の貿易統計によると輸入額(米ドル建て)は4カ月連続で前年同月を下回り、前月比でも2カ月ぶりに減少に転じた。仏化粧品大手ロレアルのニコラ・イエロニムス最高経営責任者(CEO)は7月の決算会見で中国販売について「コロナ前の水準に戻っていない」と話し、回復の遅れを認めた。
モノ需要の不足は世界的な製造業不振につながっている。
 米サプライマネジメント協会(ISM)が公表した7月の米製造業景況感指数は46.4と前月から小幅に改善したものの、好不況の分かれ目となる50を9カ月連続で下回った。同指数が連続して50を下回る期間は08年の金融危機に端を発した景気後退以来、最長記録だった。電子機器や化学製品で受注が低迷している。
 S&Pグローバルが算出した7月のグローバル製造業PMIをみると、11カ月連続で中立水準の50を下回った。50割れの期間はリーマン危機直後の景気後退期に次ぐ長さだ。地域別では主要29カ国・地域のうち7割で50を下回り、企業活動は縮小した。特に欧州の不振が目立ち、域内最大のドイツは38.8と中立水準を11.2ポイントも下回った。
 独化学大手BASFは23年4?6月期、自動車以外の主要顧客からの需要減に直面した。マーティン・ブルーダーミュラー会長は7月の決算説明会で「金融危機時に(大規模財政出動で)中国が世界を救ったようなことは、年後半に起きない」と話した。同社はこのほど23年通期の業績見通しを引き下げた。
 日本の7月の製造業PMIは49.6と2カ月連続で50を下回った。半導体不足解消で自動車生産が持ち直し、減速は比較的緩やかだ。現時点では総じて好調を維持している日本の上場企業も外需減少の影響は避けられない。住宅の配管などに使う塩化ビニール樹脂を手がける信越化学工業は24年3月期、3期ぶりの最終減益を見込む。
 新興国・途上国「グローバルサウス」の一角、インドは好調を維持している。内需に加え、バングラデシュなど周辺国の需要を取り込んでいる。メキシコは米国向け輸出企業の「脱中国」の恩恵を受けているようだ。
 世界経済や米国経済のけん引役は現在、サービス業だ。雇用も増やしており、すぐさま景気後退に陥るリスクは小さい。ただ需要不足と製造業の不振が長引いた場合、サービス業だけで実体経済を支えきれるのか。景気腰折れ懸念は残る。(コモディティーエディター 浜美佐、五味梨緒奈)

【ソフトバンクG、4~6月も最終赤字 投資事業は黒字転換】
 8日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ソフトバンクグループ(SBG)が8日発表した2023年4〜6月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が4776億円の赤字(前年同期は3兆1627億円の赤字)だった。最終赤字は3四半期連続。一方、人工知能(AI)関連の新興企業に投資するビジョン・ファンド事業は6四半期ぶりに黒字転換した。
 ビジョン・ファンド事業の4〜6月期の税引き前損益は610億円の黒字だった。世界的なハイテク株の上昇を背景に前年同期(2兆3307億円の赤字)から大幅に改善した。韓国のネット通販大手クーパンや東南アジア配車最大手のグラブ・ホールディングスなど保有する上場銘柄の株価上昇が貢献した。
 ビジョン・ファンド事業が黒字化した半面、SBGの連結業績の赤字が続いたのは、連結業績では英半導体設計のアームやスマートフォン決済のPayPayといった子会社への投資利益を消去する影響が大きい。SBGが円安に伴う為替差損として4646億円を計上したことも重荷となった。
 ビジョン・ファンドとSBGを合算した投資額は23年4〜6月期に18億ドル(約2600億円)となり、4四半期ぶりの規模となった。後藤芳光最高財務責任者(CFO)は8日の決算記者会見で「22年度は投資を事実上ストップしていたが、恐る恐る再開している」と話した。
 保有資産の売却など財務の守りを固めた結果、保有株式に対する純有利子負債の割合を示す負債カバー率(LTV)は3月末の11%から6月末で過去最低の8%まで下がり、平時で25%未満に抑える自社基準内に収まっている。後藤CFOは「財務政策において安全な範囲で、投資の反転攻勢を打ち出す」と述べた。
 SBGの孫正義会長兼社長も6月の株主総会で「守りは十分にできた。反転攻勢の時期が近づいている」と語っていた。ただし、反転攻勢は必ずしもビジョン・ファンドを通じた大々的な投資再開を意味しているわけではない。
 理由は2つある。一つ目は米利上げに伴う資金調達環境の変化だ。24年3月期から27年3月期までの4年間に償還期限を迎える社債は合計で約3兆5000億円。仮に金利が1%上昇し、全額を同じ商品性の社債で借り換えると、4年後には年間300億円超、利払い負担が増える計算になる。
 もっとも、後藤CFOは「償還時に外債の調達コストが高ければ円建てに切り替えている。一方、約6兆円ある現預金の8割を占める米ドルは運用利回りが相当高く、(受取利息の上昇で)相殺できる」と説明した。備えは進めているものの、低金利で調達した資金を投資に振り向ける従来のスタイルは構造的に変化を迫られている。
 もう一つは傘下の英アームの上場だ。孫氏はアームを核にAI、半導体、ロボティクスを融合した「AI革命」を主導することを目指している。
 孫氏は7月に東大で開いたシンポジウムで「(人間の知能を超える)汎用人工知能(AGI)の時代が来たら、水晶玉に未来を聞くかのごとく問題を解決してくれる。日本は一番ど真ん中の光り輝く水晶玉をつくっていかないといけない」と訴えた。
 6月末時点でファンド経由で投資したスタートアップ企業は約440社ある。
 SBGは昨年以降、ビジョン・ファンド部門の人員を減らしており、投資先の拡大を急ぐ段階から、これらの企業群とアームの連携で相乗効果や企業価値を高める段階に移行しつつある。

【英アーム、9月に米上場 Appleやサムスンが出資へ】
 同じ8日の日経速報メールは次のように報じた。
 ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計大手アームは9月に米ナスダック市場に上場する方針を固めた。上場と同時に米アップルや韓国サムスン電子など複数の事業会社がアームに投資する。上場時の時価総額は600億ドル(約8兆6000億円)超が見込まれており、2023年で世界最大の新規株式公開(IPO)案件になりそうだ。
 4月の準備申請に続き、今年8月中にも米証券取引委員会(SEC)に正式に申請する。その後、ナスダックから上場承認を得る方向だ。アップル、サムスン、米エヌビディア、米インテルなど世界の主要な半導体関連企業がアームの上場と同時期に出資する。
 上場は9月中下旬ごろを計画している。想定時価総額は600億ドル超になるとの見方が優勢だ。投資家の需要を探っており、価格のさらなる上振れも目指す。SBGが16年に240億ポンド(当時310億ドル)で買収してから企業価値は倍増している。
 20年に本格化した新型コロナウイルス禍を受け世界の中央銀行が金融緩和に動くと、IPOの市場環境は劇的に改善した。英調査会社リフィニティブによると世界のIPOによる資金調達額は21年に4162億ドルと前年比8割増え、00年以降で最大を記録した。
 だが22年のロシアによるウクライナ侵攻を機に世界でインフレ圧力が高まり、世界の中銀は急ピッチの利上げを進めてきた。急速な利上げで市場が動揺する局面が続くとIPOによる調達額は22年に前年の3分の1に沈んだが、足元で利上げのペースがやや緩み、投資家が成長企業を高く評価できる環境が戻ってきた。アームの大型上場は、下落が続いたハイテク株が復活してきた象徴といえる。
 アーム株は現在、SBGが75%、傘下で世界の人工知能(AI)関連企業に投資するソフトバンク・ビジョン・ファンドが25%を保有している。今回の上場でビジョン・ファンドが保有する株式のうち10〜15%を市場で売却する見通し。
 上場と同時にアップルやサムスン、エヌビディア、インテルなどの事業会社にも売却する株式の数%を割り当て、中長期の株主として迎え入れる。中長期で保有することを前提とした投資家を事前に確保し、新規上場時の株価を安定させる狙いがある。
 アームに対しては一度買収を提案したエヌビディアをはじめ、世界の半導体関係の事業会社にとっても重要なプレーヤーとの認識が強い。出資関係を保ってアームの経営動向を見極めたいほか、影響力を及ぼしたいとの思惑がある。
 アームは英国東部のケンブリッジに本拠を置き、英国の産学連携が生んだ「クラウンジュエル(王冠の宝石)」とも呼ばれる。1990年の創業以来、半導体の「設計図」となるIP(回路設計データ)を開発し、半導体メーカーはアームの設計図をもとに製品をつくる。
 アームの設計は電力効率の高さなどで強みを持ち、バッテリーを長持ちさせる必要があるスマートフォン向けでは世界シェアの9割超を握る。
 あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」の拡大を追い風に、アームの収益力は高まっている。アームの売上高は22年度に28億ドルと、SBGが買収した16年度から7割近く伸びた。半導体出荷数は累計2500億個を超えた。SBGの孫正義会長兼社長は6月の株主総会で「1兆個までいく」と急成長に期待を示した。
 SBGはアームを買収した直後にエンジニアを倍増させ、自動運転など車載向け、住居や工場のIoT機器、クラウドを支えるデータセンターに手を広げてきた。AIの開発で不可欠な画像処理半導体(GPU)など新技術の開発も強化した。エンジニアが社員の半分以上を占めており、上場で調達した資金はさらなる人材獲得に充てる。
 SBGは上場後もアーム株の大半の保有を継続し、AI戦略の中核に据える。SBGにとって積年の課題は創業直後から掲げる「群戦略」だ。3月末時点でファンドを通じて資本関係を結んだスタートアップ企業は約440社ある。この企業群を中核のアームと連携させれば、相乗効果で企業価値を高められる可能性がある。
 SBGは16年の買収以降、アームを主要グループ企業と位置づけてきた。20年にエヌビディアからの買収提案を受けて一時は400億ドル相当で売却・統合させることで合意した。その後各国規制当局の反発で断念してからは、単独での上場を目指してきた。SBGとアームは同社のIPOについて「コメントできない」としている。(四方雅之、ロンドン=山下晃)

【社債100万→1万円単位に デジタル化で投資しやすく 三菱UFJ信託など】
 9日の日経速報メールは次のように報じた。
 個人にとって社債投資が身近になる。三菱UFJ信託銀行とNTTデータは2023年度内に1万円単位で社債を売買できるインフラをつくる。ブロックチェーン(分散型台帳)技術で発行や管理にかかるコストを減らし、従来100万円単位の大口取引が主体だった社債に個人も投資しやすくする。個人の投資と企業の資金調達の手段の幅が広がりそうだ。
 三菱UFJ信託とNTTデータがつくるのは社債をデジタル化し、ブロックチェーン上で発行・管理するためのインフラだ。売買時の名義変更が自動化されるうえ、社債を販売する証券会社、販売後に社債を管理する銀行など関係者がすべて情報を共有できる。名義変更が増えても、証券会社と銀行の業務量は比例して増えず、名簿管理や発行額、元利金の確認といった照合作業はブロックチェーンで完結する。
 現在社債の名義を変更する場合、証券会社と銀行の双方が元利金の支払額など必要な情報を入力する必要がある。チェックを含めて人手がかかる作業が多い。販売を小口化して頻繁に名義変更が発生すると、発行企業が支払う事務コストが膨らみ、コスト倒れになりかねない。そのため、100万円単位の大口取引が主流になっている。
 新しいインフラではこうしたコストが削減するため、1万円単位での社債発行がしやすくなる。まず23年度内にインフラを整え、三菱UFJ銀行が利用する。その後、NTTデータの既存のシステムを使う金融機関180行にも導入を進める。社債を販売する証券会社にも、低コストで発行できる企業側の利点をアピールして利用を促す。
 小口での社債発行が増えれば、個人投資家の裾野が広がりそうだ。2022年度に国内で発行された社債は総額12兆8947億円。個人向け社債の発行額は約2兆円で過去最高だったが、全体の2割弱にとどまる。高い発行コストを懸念し、ソフトバンクグループなど上位5社で発行額の7割近くを占めている。10万円単位で購入できるのはZホールディングスなど一部に限られる。
 22年度の個人向け社債の発行件数は45件だった。「デジタル社債のインフラが整えば、発行件数が2〜3倍に増える可能性がある」(国内シンクタンク)。「個人投資家に手軽な運用を促しやすくなる」(国内証券)など、証券会社側の期待も大きい。
 発行企業が購入者にポイントなどの特典を付与するほか、元利払いに円などの法定通貨と価値が連動する「ステーブルコイン」を使い利払いを月単位にするなど、サービスも広げやすい。
 デジタル社債を含む「デジタル証券」の発行は2020年施行の改正金融商品取引法で制度としては解禁されていたが、実際に発行・管理するためのインフラが整っていなかった。そのため、国内の発行はSBI証券と丸井グループなど少なく、それぞれ数億円にとどまっていた。
 デジタル社債が普及して個人も投資しやすくなれば、企業にとっても資金調達の手段が広がることになる。個人向け債の募集では、全国に支店網をもち富裕層への接点が多い大手証券が中心的な役割を果たしてきた。今後若年層などに投資家の裾野が広がれば、ネット証券などが引き受けを増やすことも考えられる。企業はコストや販売チャネルなど、証券会社の特性に応じて引き受け先を選びやすくなることも期待できる。
 米国の20分の1程度にとどまる日本の社債市場の活性化につながる可能性がある。米国では現地のセキュリタイズ社が手掛けるデジタル証券の発行インフラが普及しつつある。ドイツでも法改正に伴って製造業大手のシーメンスなどデジタル証券の発行が相次いだ。ただ、本格的な普及まではまだ手探りの段階だ。
 三菱UFJ信託は約1000億円のデジタル証券市場の8割強のシェアをにぎる。NTTデータは社債発行を受託する金融機関向けのシステムで95%のシェアをもつ。

【米国、対中投資を厳しく制限 半導体・AIで大統領令 資金の流れ分断、軍事転用に歯止め】
 10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・米国企業や個人の対中投資を広範に制限へ
・半導体・量子・AI分野で軍事転用封じる狙い
・米国の対中規制一段と。資金の流れにも網
【ワシントン=飛田臨太郎】米政府は9日、米国の企業・個人による中国への投資を規制する新制度を導入すると発表した。先端半導体や人工知能(AI)、量子技術を対象にする。政府に届け出を義務付け、中国の軍事開発などに結びつく案件は禁じる。米国の対中規制がモノだけでなく、カネの流れにまで発展した。
• 【関連記事】米国の投資規制に中国反発、対抗措置検討も示唆
M&A(合併・買収)やプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、合弁事業などによる中国への新規投資を対象にする。米国内だけでなく、全世界の米国人に適用する。
市場への混乱を抑えるため、上場投資信託(ETF)や公募証券、米国の親会社から子会社への資金移動などは除外する方向で検討している。
半導体はスーパーコンピューターなどの高度技術の開発につながる先端分野は投資を禁じる。比較的、先端ではない分野でも届け出を義務付ける。先端半導体は2022年10月に人材も含めて輸出禁止措置を導入した。モノやヒトに加えて、カネの流れも制限する。
 量子技術は原則認めない見通しだ。AIは軍事技術やスパイ活動に使用されうる技術が届け出の対象になる。投資禁止も検討する。
 バイデン米大統領が大統領令に署名した。新制度は米財務省が米商務省と協議しながら運営する。財務省は調査する権限を持ち、違反した企業・個人に罰則を科す。45日間、産業界から意見を募った上で決定する。
 米政府には外国企業からの国内投資を審査する仕組みがある。省庁横断の対米外国投資委員会(CFIUS)が届け出を精査し、安全保障上の脅威とみなせば阻止する。
 対外投資では広範な分野を対象に規制する仕組みは初めて。中国の軍事関連の特定企業を対象に株式投資を禁じる措置はトランプ前政権から導入している。
 法律事務所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハワー・アンド・フェルドによると、当局が対外投資を審査する権限を持つのは台湾などにとどまる。世界最大の経済大国である米国が資本移動を規制するのは極めて異例だ。
 バイデン氏は連邦議会に書簡を出し「(中国は)無形の利益を含む米国からの対外投資を悪用している」と述べた。「軍事的優位性を獲得する目的で、世界の最先端技術を取得・転用し、民間部門と軍事部門の壁をなくしている」と指摘した。
 米国は主要7カ国(G7)などの同盟国に同様の措置を創設するよう求める。欧州連合(EU)は対中国を念頭に、先端技術に関する域内企業の対外投資規制を検討中だ。日本政府も判断が迫られる。
 駐米中国大使館の報道官は日本経済新聞に「繰り返し深い懸念を表明しているにもかかわらず、米国は新たな投資規制に踏み切った。中国は非常に失望している」と述べた。「中国は情勢を注視し、我々の権利と利益をしっかりと守っていく」と強調した。

【生成AI学習データ、事業者に開示指針 政府が骨子案】
 11日の日経特報メールは報じた。
 政府が年内にまとめる人工知能(AI)の事業者向け指針の骨子案が11日、分かった。開発から活用の5段階で企業が守るべきルールを示す。生成AIがどんなデータを学習したかの開示などを求める。産業競争力向上につながるAIの適切な利用に向け、ルールを設けて透明性を高める。
 急速に進化するAIを巡るルールづくりは国際的に検討が進む。欧州連合(EU)は開発者から利用者まで各主体が果たす責務を法律で厳しく定める方針だ。米国は米グーグルなどの開発企業7社が自主的な基準をつくる。
 日本はAIによる差別を防ぐといった基本的なルールを指針で定め、企業に順守を求める。AIの開発・利用を促し、生産性向上や競争力の強化をめざす。
 経済産業省と総務省が100人ほどの有識者と内容を詰める。幅広い分野で参照できるガイドラインを想定している。生成AIは技術の発展が速いため、政府や有識者は法律による厳格な規制をつくることに消極的だ。
 指針に法的拘束力はなく、罰則なども設けない。事業者が開発や利活用時に守る基準となる。指針に準拠しているかを認証する仕組みづくりや、政府が公共入札の条件とすることも将来的に想定される。
 骨子案は大きく2つの柱で構成する。
 一つ目は事業者が共通で守るルールだ。生成AIが生む誤情報や差別のリスクを知り、法制度を守って人権にも配慮したサービスづくりを原則にする。経営層が関与して企業内でリスク管理体制を整えることも提言する。
 もう一つは事業者の種類に応じた留意点だ。
 企業を①生成AI「基盤モデル」の開発者、②AIにデータを学習させる事業者、③システム開発者、④サービス提供者、⑤AIサービスを使う企業――の5つに分類する。
 開発や学習を担う事業者には透明性を確保してもらう。AIの機能や目的、リスクのほか、どのような学習データを読み込ませたのかなどのデータ収集方法を説明できるよう促す。
 企業は学習データの把握や開示に向けて、記録をとったり管理体制を構築したりすることが必要になる可能性がある。一方で、指針に沿った対応をすれば製品やサービスの信用力につながり、商機が広がることも考えられる。
 政府は透明性が保たれているかを外部監査によって確認する仕組みも検討する。
 生成AIの元となる基盤モデルは、インターネット上の公開データを学習しているとされる。ウィキペディアや公開された論文・特許文書、ブログなど多様なデータを対象にしているもようだ。
 学ぶデータに偏りがあれば生成AIが生み出すコンテンツにも反映され、人種差別など社会に深刻な悪影響を及ぼしかねない。偏りがなく正しいデータを使っているかは、サービス提供者らが採否を決める際の判断要素になり、問題が起きた時の検証材料にもなる。
 対話アプリなど生成AIを使ったサービスの開発者や利用者には安全性の確保を要求する。
 生成AIを組み込んだソフトが不適切なコンテンツを生んだり、差別的な判断をしたりしないかを事前に把握させる。犯罪への悪用の可能性や、機密情報などデータ管理体制が十分かもチェックさせる。
 顧客に説明責任を果たすため、米国とEUは生成AIが作成したコンテンツに「AI製」と明記するルールを検討する。日本の骨子案でも、製品・サービスやコンテンツに「AIを使っていること」を明記させる手法を議論すると盛り込んだ。(長尾里穂、デジタル政策エディター 八十島綾平、広沢まゆみ)

【年金世帯の消費シェア倍増、4割に デフレ脱却を左右】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・国内の消費支出は65歳以上の世帯が4割
・年金暮らし世帯がGDPの15%を左右
・高齢者の消費活性化がデフレ脱却と連動
 賃上げが30年ぶりの高水準となり、消費の押し上げ効果への期待が高まるなか、高齢化社会ならではの課題が浮かび上がってきた。国内の消費支出は65歳以上世帯が4割を占め、年金暮らしの世帯が国内総生産(GDP)の15%に影響する。物価高で賃上げが進んでも年金世帯は恩恵を受けにくい。高齢者の消費活性化がデフレ脱却を左右する。
 「将来を考えるとなかなか思い切ってお金を使えない」。横浜市の70代の男性はこう話す。孫へのプレゼントなどには財布のひもは緩むが、大きな買い物は控えがちだ。
 消費支出に占める高齢者の存在感は高まっている。世帯主が65歳以上の世帯の2022年の1カ月平均の支出は21万1780円だった。全体に占める割合は約39%になる。少子高齢化に伴い、20年前の約23%からほぼ倍になった。
団塊世代の65歳の到達が一巡したことなどから、10年代後半から頭打ち傾向にあるものの、団塊ジュニア世代が高齢者になる30年代からは伸びが再加速する可能性がある。
 持ち家を借家とみなした場合に想定される家賃を除いた消費額をもとに第一生命経済研究所の星野卓也氏が試算したところ、年金暮らしと考えられる平均年齢74.5歳の無職世帯の消費額は22年に33%を占めた。
日本の22年の名目GDPの実額は556兆円で、5割を個人消費が占める。GDP全体の15%程度を年金世帯の消費が担っていることになる。
 消費者物価指数は生鮮食品を除く総合の上昇率が6月まで10カ月連続で3%を超えた。今年の春季労使交渉の賃上げ率は連合の最終集計で3.58%と30年ぶりの水準だ。ただ賃上げの恩恵は年金世帯には及ばず、物価高で年金支給額は実質的に減る。
 22年の物価上昇などを受け、既に年金を受け取っている68歳以上の人は23年度の支給額が前年度比1.9%増と、3年ぶりに増える。物価の伸び以上に年金額が増えない仕組みになっており、2.5%の物価上昇率を加味すると実質的にマイナス圏に沈む。
 日本総合研究所の西岡慎一氏は今後、物価が2%伸びても給付を抑制する「マクロ経済スライド」の発動で受給済みの人の年金の伸びは1%程度にとどまると試算する。この場合、60歳以上で無職の世帯の消費は0.2ポイント押し下げられるという。
 一方で高齢世帯は金融資産が多い。日銀の資金循環統計によると23年3月末の家計の金融資産は2043兆円と、過去最高だった。19年の全国家計構造調査では、65歳以上の無職世帯の夫婦の金融資産は1915万円で、全世帯平均より636万円も多い。 
65歳以上世帯の金融資産の7割弱は現預金だ。物価高では現預金の価値が目減りする。今年は日経平均株価がバブル崩壊後最高値となるなど株高で「貯蓄から投資」の機運がある。多くの人が一定の知識を持って適切に資産形成できれば支えになりうる。
 問題は将来の不安からお金を使おうとする意欲がそがれていることだ。生きている間に必要になる生活費や医療費が見通しにくいと手元の資産を使って積極的に消費しようという気持ちになりにくい。
人口に占める65歳以上の比率は20年時点で日本が28.6%と突出する。ドイツが21.7%、米国16.6%、韓国15.8%だ。そもそも米国に比べ日本は消費意欲が弱い。
 適切に資産形成したり、ライフスタイルにあわせながら可能な範囲で働き続けたりと解はいくつもある。消費のボリュームゾーンとなった高齢者が過度に不安にならずに消費できる前向きな社会観をつくれるか。需要不足を脱しきれない日本がデフレに後戻りしないためのポイントの一つになる。(広瀬洋平、グラフィックス 佐藤綾香、映像 箕輪将人)

【外資の中国投資最少 4〜6月87%減、米との対立激化懸念】
 同じ12日の日経特報メールは報じた。
 【北京=川手伊織】外資による中国投資の減少が止まらない。4〜6月の対中直接投資は確認できる1998年以降で最少となった。ハイテク分野をめぐる米中対立への懸念に加え、中国の対外開放への疑念が背景にある。外資離れによるデカップリング(経済分断)が進めば、中国だけでなく世界の景気にも影を落としかねない。
中国国家外貨管理局によると、外国企業が4〜6月に中国で工場建設などに投じた対内直接投資は49億ドル(約7100億円)だった。前年同期と比べた減少率は87%と過去最大となった。
 中国への直接投資は2022年4〜6月以降、5割を超す大幅な落ち込みが続く。22年は上海のロックダウン(都市封鎖)などの「ゼロコロナ」政策で外資が先行き不透明感を強め、投資が伸び悩む一因となった。
 中国政府は23年1月にゼロコロナ政策を撤回。経済活動は正常化したが海外からの直接投資は減り続けた。中国商務省によると、外国企業が23年1〜6月に再投資を含めて実際に投じた資金(人民元建て)は前年同期より2.7%少なかった。
 米中対立の激化が企業の投資計画に影響を与えている。中国米国商会は22年秋、約320の会員企業に、中国市場における事業リスクを聞いた。最も多かった 回答が「米中関係の緊張」で、66%の企業が言及した。
 米国は友好国とサプライチェーン(供給網)を構築する「フレンドショアリング」を進める。米政府は9日、半導体や人工知能(AI)の分野で対中投資の規制強化を発表。合弁事業による新規投資も対象で、投資がさらに細る可能性がある。
 中国の対外開放姿勢への疑念も、対中投資に影響している。中国米国商会が「今後3年間、さらに対外開放が進むという確信があるか」と聞いたところ「ある」との 回答は34%だった。61%だった2年前から低下した。
 第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは「改正反スパイ法の影響で貿易や投資が制限されるとの懸念が強まっている」と指摘する。スパイ行為の摘発対象を広げた同法は7月に施行した。外資企業には「いつ自社の社員が標的になるか分からない」との疑心暗鬼が広がっている。
 ゼロコロナ政策後も中国経済は盛り上がりを欠く。成長をけん引してきた不動産市場が構造的な調整局面に入り、住宅など民間の資本形成は伸びにくい。労働力人口の減少も成長を下押しする。
 中国は半導体産業などで自前の供給網の構築を目指すが、必要な装置や部品の海外調達が滞っている。技術革新や生産性向上のペースが落ちれば、中国経済の停滞が想定以上に長引きかねない。世界第2位の経済大国の成長鈍化は、世界経済にとっても重荷になる。

【EV生産「脱中国」も難題 米供給網、環境・人権指標6割悪化 分断・供給網 悩める新秩序(上)】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 米中対立の激化を受けて世界のサプライチェーン(供給網)から中国を切り離す動きが進む。日米は友好国だけで原料や部品の調達を完結する新たな供給網の整備を急ぐが、製品のコストだけでなく、限られた資源の囲い込みによって環境や人権のリスクも高まることがわかった。脱中国が生む新秩序のひずみに備えはあるか。
【分断・供給網㊥㊦】
•日米友好国に中国の影 タイやメキシコ、牙城に揺らぎ
•世界でネット遮断常態化、損失3兆円 物流停止やEC破綻
 世界の自動車産業のものづくりを一変する可能性のある法律が4月、米国で導入された。
 電気自動車(EV)を北米で組み立て、電池部品の調達比率を50%以上などにすると1台あたり最大7500ドル(約100万円)の税額控除が受けられる。狙いは中国の排除だ。2029年には同100%にする必要がある。中国の部品を減らし、自国にEV産業を囲い込む。世界の分断を象徴する新法だ。
 「法律に対応して柔軟に供給網を変えられるか。自動車メーカーの生死を左右する」。日産自動車の幹部は身構える。
日本経済新聞は九州大学と共同で米国製EVの供給網について環境や人権に関する28項目を調査した。分析には同大発のスタートアップ、aiESG(アイエスジー、福岡市)の人工知能(AI)を活用したシステムを使った。新法の対応によって6割にあたる16項目の指標が22年より30年に悪化することがわかった。
 二酸化炭素(CO2)の排出量は14%減るものの、大気汚染につながる二酸化硫黄(SO2)は17%、粒子状物質「PM10」も2%それぞれ増える。人権関連では低賃金労働や児童労働のリスクなど10項目中、7項目が悪化する。
 調査では22年に5割弱とみられる中国からの電池関連の調達を新法に基づいて30年時点でゼロとし、メキシコなどからの比率を増やした。補助金を得るには電池に使うリチウムなどの鉱物も自由貿易協定(FTA)締結国と日本からの輸入に限る必要がある。リスクが高まる原因は供給網の川上に潜む。

南米は対策遅れ
 精製したリチウムの輸出で世界首位のチリ。シェアは21年時点で42%あり、2位の中国(37%)を引き離す。米とFTAを結んでおり、EV向け主要原料の供給地として脱中国のカギを握る。北米向けの輸出が急増する見込みだが、一部の環境への取り組みは中国よりも遅れている。
 米エール大学の調査でチリと中国の環境指標を比べると「大気汚染物質の排出」でチリは世界153位。中国の91位を大きく下回る。EVのモーターなどに使う銅で世界2位のペルーも135位だ。九州大学の関大吉特任助教は「中国は環境関連装置の投資を強化してきた。米国のFTA締結国の多い南米は設備の更新に向けた投資が遅れている」と指摘する。
 米ロードアイランド大学の調査では、児童労働など一部の人権関連の項目でメキシコやペルーなど中南米の対策は中国に比べて十分ではない。特にメキシコでは死亡事故など労働災害に課題がある。国際労働機関(ILO)によるとメキシコの労災リスクは世界5位だった。
 米国は世界2位の巨大車市場だ。一方でEVの要である電池は中国企業が世界シェアの6割を抑える。車大手は中国以外から電池や部品を確保するため、供給網の見直しを急ピッチで進める。トヨタ自動車は約59億ドル(約8200億円)を投じて米国に電池工場を設ける。
 世界貿易機関(WTO)によると、ブロック化による供給網の目詰まりで世界の生産額の5%にあたる5兆ドル弱が失われる。
原料調達まで可視化
 重荷はコストだけではない。環境や人権は利益や品質などとともに最重要の経営目標として企業が対策を競い合う。ブロック化でこの流れが逆回転しかねない。英シェルによれば分断でイノベーションが停滞し2100年の世界の平均気温が現在より2.2度上がる。主要国の目標より温暖化が進むと警鐘を鳴らす。
 ロシアのウクライナ侵攻は各国に経済安全保障の重要性を改めて認識させた。中国が覇権主義を強めるなか、友好国に供給網を再構築する動きは避けられない。企業は脱中国に向けて供給網の見直しに動くが、経済安保以外の課題も多い。供給網を末端まで把握し、人権や環境のリスクをまず確認する必要がある。
 ホンダや日産など世界約120社は電池の製造過程の情報を記録するデータベースづくりを進める。原料の産出地や人権への対応状況を可視化する動きだ。ブリヂストンもタイヤの原料のゴム農園の監査を始めた。
 原料の確保まで何重にも企業が連なる供給網の全容を把握することは容易ではない。取り組みは緒に就いたばかりだ。ブロック化のひずみに目をつぶらず、世界の新秩序の中で成長を目指す覚悟が企業に問われている。

調査の概要
 九州大学発のスタートアップ、aiESG(アイエスジー、福岡市)が開発したサプライチェーン(供給網)の分析システムを使って調査した。同社が人工知能(AI)を用いて製品ごとに環境・人権関連の影響度を推計した。主要国や国際機関、人権関連の非政府組織(NGO)など約200の統計を用いた。
 環境・人権関連で特に重要な28項目を2022年と30年で比較した。電池関連の調達比率はデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーの林力一氏の試算を基にした。環境では二酸化炭素(CO2)や大気汚染物質の排出量、工業用水の使用量を分析。人権では児童労働や強制労働、労働災害が起こる可能性のある時間を「リスクアワー」としてそれぞれ算出した。

【コンビニ大手出店数ピークの3割 22年度、賃料増も重荷】
 15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本経済新聞社が実施した2022年度のコンビニエンスストア調査で、セブン―イレブン・ジャパンなど大手3社の新規出店数は前の年度比21%減の1040店舗とピークの3割の水準だった。市場の伸びが鈍化する中、賃料などの費用も膨らみ、各社は1店舗あたりの収益向上を優先する姿勢を強めている。(詳細を16日付日経MJに)
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 大手3社の出店数はセブンイレブンが前の年度比6%減の625店舗、ファミリーマートが10%増の187店舗、ローソンが53%減の228店舗だった。ローソンは21年度にポプラなどから一部店舗を転換した反動が出たほか、「首都圏で賃料の水準が上がり、店舗の質と採算性を重視した」(同社)ことから出店数が大きく減った。
 不動産サービス大手のアットホームによると、22年度下期の50坪(1坪は3.3平方㍍)以下の貸店舗の1坪あたり募集賃料は、新宿など東京9エリアの1階部分で前年同期比1.7%増の2万5635円だった。名古屋・栄や大阪・梅田などと共に上昇傾向にある。
 3社合計の22年度の新規出店数はピークの13年度の3732店舗から約7割減り、比較可能な07年度以降で最低だった。国内のコンビニ店舗数は約6万店に達し、市場に飽和感が強まっていることに加えて、食品などを強化するドラッグストアとの競争も激化し、出店余地が狭まっている。
 一時期はそれぞれ年1000店超の出店を続けてきた3社の姿勢は変わっている。23年度の出店計画は、セブンイレブンが前年度比6%減の585店舗、ローソンが23%増の280店舗にとどまる。ファミマは回答しなかった。
 こうした中で各社が力を入れるのが1店舗あたりの収益向上だ。セブンイレブンは特定の地域にちなんだ商品を販売する「地域フェア」で高単価の商品を伸ばし、22年度の1店舗あたりの売上高(全店平均日販)は前の年度比3.7%増の67万円。ファミマは飲料や衣料品などプライベートブランド(PB)商品の拡充で日販を押し上げた。
 大手3社の22年度の全店売上高は11兆433億円だった。会計基準の違いを考慮せずに単純比較した場合、4%増だった。既存店のてこ入れ策が売上高を押し上げた。
 新型コロナウイルス禍からの経済正常化で人件費が上昇し、人手の確保も難しくなる中で各社は省人化投資も進めている。ファミマは24年度までに飲料を自動で陳列棚に補充するロボットを300店舗に導入する。店員の作業がほぼ不要となり、店舗での作業時間を1日あたり2割程度削減できるとみている。
 ローソンは23年度にもフランチャイズチェーン加盟店の商品発注を支援する人工知能(AI)システムを刷新し、全店に順次導入していく。発注量の分析に使う天候や顧客などのデータを増やし、店舗ごとの予測精度を上げて欠品や過剰発注などを減らす。
 大手3社にミニストップや山崎製パン(デイリーヤマザキ)などを加えたコンビニ主要8社の22年度末の店舗数は前の年度比微減の5万7770店舗と3年ぶりに前年度実績を下回った。一方、日本チェーンドラッグストア協会(東京・千代田)によると、ドラッグストアの店舗数は22年度末で前の年度末比2%増の2万2084店。5年前に比べ1割増えた。

【対中輸出8カ月連続マイナス 7月13.4%減、経済減速響く】
 17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 財務省が17日に発表した7月の貿易統計速報によると、中国への輸出額は1兆5433億円で前年同月比で13.4%の減少となった。減少は8カ月連続だ。日本にとって米国と並ぶ最大の輸出先である中国の景気が減速し、日本の貿易収支が黒字基調にならない一因となっている。今後、米中対立や半導体分野の輸出規制の影響が鮮明に出る懸念もある。
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 中国では不動産不況の長期化に伴い、実体経済にも悪影響がおよび始めている。中国国家統計局は2割超で高止まりする若年失業率の公表を一時停止すると発表した。工業生産の伸びも鈍化した。日本や世界の成長率を押し下げるリスクが強まっている。
7月の日本全体の貿易収支は787億円の赤字だった。赤字幅は94.5%減少したものの、黒字に転換した6月に続かず2カ月ぶりの赤字となった。
 資源高が一服し、輸入は13.5%減の8兆8036億円だった。輸出は0.3%減の8兆7249億円で、29カ月ぶりに前年同月比で減少した。半導体の不足が緩和した自動車の輸出が28.2%増と全体を押し上げたものの、中国向けの輸出が減って足を引っ張る構図となっている。
 中国向けの輸出額を品目別にみると、自動車や部品を含む輸送用機器は24.6%減の1388億円。半導体など電子部品は16.8%減の1140億円だった。プラスチックなど化学製品は8.7%減の2631億円。鉄鋼や非鉄金属も減少で、軒並み前年同月を割った。
中国との貿易をめぐっては米中対立に伴う不透明感も強い。米国は22年10月に半導体の先端技術・製造装置の輸出を禁じた。日本政府も23年7月に先端半導体の製造装置などを規制対象に加え、事実上足並みをそろえた。米政府は8月、米企業による中国投資を規制する新たな制度を導入することも発表した。
 こうした情勢が日本からの輸出の減少につながっているのか、これから表れるのかは、統計上はまだはっきりしない。7月の日本の半導体製造装置の中国への輸出額は前年同月比13.7%の増加だった。
 第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは中国への輸出額の減少について「米中対立を受け、中国に依存していたサプライチェーン(供給網)の多様化を進める企業活動の影響が出ている可能性がある」と指摘している。

【積水化学「曲がる太陽電池」30年までに量産 中国勢追う】
 同じ17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 積水化学工業は2030年までに次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産に乗り出す。軽くて折り曲げられる同電池では中国勢が量産で先行するが、積水化学は強みとされる耐久性を生かして屋外での需要を開拓し、中国勢を追い上げる。
ペロブスカイト電池は太陽光パネルで主流のシリコン製と比べ、重さは10分の1程度と軽く、折り曲げやすい。ただ、水分に弱く耐久性に課題があり、現在ではスマートフォン向けなど用途の広がりに欠ける。積水化学は液晶向け封止材などの技術を応用し、液体や気体が内部に入り込まないよう工夫。10年程度の耐久性を実現している。
 100億円以上を投じて製造設備を新設し、30年時点で年数十万平方メートルのペロブスカイト型太陽電池を生産する。発電量は数十メガワット。フィルムに結晶の膜を塗布しロール状に巻いて連続生産する。
 すでに30センチメートル幅のフィルムでエネルギー変換効率15%を達成した。シリコン型の20%以上に及ばないが、技術開発を進めて変換効率をさらに高めていく。より効率の良い1メートル幅での生産の準備を進めており、コスト競争力も高める。
 太陽光パネルの分野では、かつてシリコン型の開発・実用化でも日本勢が先行していたが、中国勢の攻勢で多くが撤退に追い込まれた。同様の事態を避けるため、日本政府は4月、ペロブスカイト型太陽電池の普及支援を打ち出し、公共施設で積極的に設置するなど需要を創出したり、量産技術の開発や生産体制の整備を支援したりする。
 ペロブスカイト型の技術支援はエネルギーの安定供給も背景にある。主な原料のヨウ素の世界シェアは日本が2位で国内で調達しやすく、供給網が寸断された場合に備えることもできる。積水化学は政府の支援策によっては生産量を増やす可能性もある。
 日本は山間部が多いなど、従来型太陽電池に適した立地が少なくペロブスカイト型の市場性は大きいと言われている。富士経済(東京・中央)によると、世界のペロブスカイト型の市場規模は35年に1兆円になる見通しだ。

【中国、再開できぬ建設現場 地方政府系の債券利回り上昇】
 18日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 中国で地方政府傘下のインフラ投資会社の資金繰りが悪化している。不動産市況の悪化で資金不足に陥り、建設工事の中断も目立ち始めた。地方政府傘下の投資会社が発行する債券残高は約13兆6000億元(約270兆円)に上り、一部は利回りが10〜20%上昇している。対処を誤れば金融リスクの引き金を引きかねない。
 中国内陸部にある貴州省第二の都市、遵義市。新市街地で開発する30階超のオフィスビルの建設現場を訪れると工事が止まっていた。「今年に入って1度しか給料をもらっていない」。現場でたった1人寝泊まりしながら働く警備員はこう嘆く。
 建設するのは遵義市傘下の遵義道橋建設集団。地方政府傘下で「融資平台」と呼ばれる投資会社の一つだ。インフラ開発を目的とした債券発行や銀行融資で資金調達し、遵義市郊外に巨大な国際会議場や高級ホテルを建設してきた。
 しかし、もともとの不採算プロジェクトに、不動産不況と新型コロナウイルスを抑え込む中国の「ゼロコロナ」政策が直撃し資金繰りが悪化。代金未払いなど多数の訴訟を抱えた。政府施設の新設や華美な内外装を規制してきた国務院(政府)も「不適切」と指摘する事態となった。
 巨額債務を抱えた遵義道橋建設集団は、2022年末に銀行融資の条件見直しを公表した。返済期限を20年としたうえで、金利を年3.0〜4.5%とする内容だった。従来の条件は明らかにしていないが、同社にとって大幅に有利な内容とみられる。
同社に融資する銀行が負担を求められたことで、中央・地方政府の支援姿勢に疑問符がついた。追加の資金調達は難しくなり、30階超のオフィスビルの工事再開は見通しが立たないままだ。
 遵義道橋建設集団のような融資平台が発行する債券は、中国で「城投債」と呼ばれる。中央政府は14年まで地方政府による地方債の発行を原則禁止してきた。城投債はそれでも資金を調達したい地方政府の抜け穴の一つとなってきた。
 中国の調査会社Windによると、城投債の発行残高は約13兆6000億元。5年で2倍超に膨らんだ。米シティグループの推計によると、城投債に銀行融資を加えた融資平台の有利子負債は22年末で約47兆元、国内総生産(GDP)の39%に達するという。
 ▼城投債 地方政府傘下のインフラ投資会社が発行する債券のこと。地方政府の支援を前提に、一般の民営企業や国営企業が発行する社債と区別される。22年の発行額は約4兆6000億元で、平均金利は4%弱だった。
 城投債は「暗黙の政府保証」があるという前提で、格付け会社は高い格付けを付与してきた。だが、地方財政を支えてきた土地使用権の売却収入は急減し、地方政府の支援余力は急激に低下している。城投債の購入者は国内の銀行やファンド、保険会社など。一部は外国人や個人も購入しており、デフォルトすれば影響は大きい。
 貴州省の西隣にある雲南省の省都、昆明市。空の玄関口として12年に全面開業した昆明長水国際空港では周辺開発が想定通りに進んでいない。空港周辺の経済開発区や住宅、道路開発などを担う昆明空港投資開発集団が資金繰り難に陥ったためだ。
中国の格付け会社、中誠信国際信用評級によると、昆明空港投資開発集団の22年の不動産開発収入はゼロ(21年は11億元)だった。新規事業としてトウモロコシやナツメなどの販売に乗り出したが、資金繰り対策には焼け石に水だ。
 昆明空港投資開発集団が発行した城投債はデフォルトを懸念する投資家の売り圧力で、流通市場での債券利回りが12%を超えた。市場関係者の一人は「(同社を含め)昆明市政府傘下の投資会社の大部分は市場での資金調達能力を失っている」と先行きを危惧する。
 外資系など有力企業の立地に乏しい雲南省や貴州省は、インフラ投資で成長を底上げしようとしてきた。観光業や不動産・建設業への依存度が高く、不動産不況やゼロコロナ政策の影響を強く受けた。こうした都市は中国各地に存在し、どこで 信用問題が表面化してもおかしくない状況だ。
 習近平(シー・ジンピン)総書記は足元の経済政策の重大課題として「不動産部門に起因するシステミックリスク、金融・地方債務リスクの防止と解消」などを挙げる。
 UBSグローバルウェルスマネジメントの胡一帆氏は、「約3年の新型コロナ流行で、地方政府の支出が増え、地方財政は一段と悪化した」と話す。膨らんだ債務のツケを誰がどう負担するのか、対処を誤れば社会不安を引き起こしかねない。(貴州省遵義市で、土居倫之)

【山口・上関町、中間貯蔵施設の調査受け入れ】
 同じ18日の日経速報メールは次のように報じた。
 中国電力と関西電力が山口県上関町に計画する使用済み核燃料の中間貯蔵施設について、西哲夫町長は18日、建設に向けた調査の受け入れを表明した。同日開いた臨時町議会後、西町長は「中国電力に対して調査受け入れを報告した」と述べた。
中国電と関電は中間貯蔵施設の建設が可能かどうか、半年ほどかけて掘削調査などを実施する見通しだ。
 町議会では冒頭、西町長が中国電の提案について説明し、「私としては受け入れる考えだ。町議の話を聞いて総合的に判断したい」と話した。町議がそれぞれの意見を述べたところ、賛成意見が過半数を占めた。採決は取らず、西町長が最終的に判断した。
 西町長は中国電に調査を受け入れる条件として、町民に対して丁寧に情報提供すること、具体的な計画が策定できれば住民説明会などを開くこと、周辺市町に対しても適切な情報提供を実施することなどを求めた。
 中国電は上関町内に原子力発電所の建設を計画しているが、2011年の東京電力福島第1原発事故後、着工は未定のままとなっている。西町長が町財源の確保につながる新たな地域振興策を求めたのに対し、中国電が中間貯蔵施設の建設計画を提示した。中国電単独での建設や運営は難しいことから、関電に共同開発を持ちかけた。
 国内の使用済み燃料はすでに貯蔵能力の約8割が埋まっている。青森県六ケ所村の再処理工場の稼働が遅れるなか、新たな中間貯蔵施設の確保が急務となっている。
 今後、調査開始まで「少なくとも1カ月はかかる」(中国電)。建設可能と判断すれば町に具体的な計画を提示することになる。
施設の規模などは未定だが、埋め立て地を含めて160万平方メートルに及ぶ町内の原発建設用地内に建設することを想定している。

【日米韓首脳、毎年会談で合意 経済安保も協力拡大】
 19日の日経速報メールは次のように報じた。
 【ワシントン=秋山裕之】日米韓3カ国の首脳は18日(日本時間19日午前)、米ワシントン近郊で会談した。年1回以上は首脳らが各レベルで会談すると申し合わせた。北朝鮮に加え、対中国を念頭に置いた幅広い協力に広げる。半導体などの強固なサプライチェーン(供給網)をつくる。
 バイデン米大統領が米首都ワシントン近郊の山荘「キャンプデービッド」に岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を招いた。
 会談後に共同記者会見に臨んだバイデン氏は3カ国の防衛協力について「前例のないレベルで協力し情報を共有する」と表明した。「台湾海峡で平和と安定を確保し(中国の)経済的な威圧と戦っていく」とも述べた。
 首相は「3カ国の戦略的連携の潜在性を開花させることは時代の要請だ。安全保障協力を新たな高みへ引き上げていく」と強調。尹氏は「3カ国共通の利益を脅かす域内の緊急な懸案が発生した場合、迅速に協議して対応するチャンネルを立ち上げることにした」と説明した。
 3首脳は「キャンプデービッドの精神」と題する共同声明をまとめた。首脳間を含め3カ国で有事や平時を問わずに円滑に意思疎通するメカニズムを明記。閣僚や国家安全保障会議(NSC)高官の定期協議や各分野での実務者による対話枠組みを設ける。
 日米韓の枠組みは伝統的に対北朝鮮への対応を主軸に置いてきたが、今回は対中国を意識した記述を拡充した。
 不法な海洋権益に関する中国の主張と行動に関し「インド太平洋地域の水域における一方的な現状変更の試みに強く反対する」と記した。台湾海峡の平和と安定が「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素」だと指摘した。
 経済安全保障は日米韓3カ国の協力の柱のひとつに位置づける。半導体や人工知能(AI)、蓄電池、重要鉱物などの特定物資に着目してサプライチェーンの情報を日米韓の各国大使館で情報交換する。
 局長級の「インド太平洋対話」を立ち上げる。中国が影響力を強める東南アジア諸国連合(ASEAN)や太平洋島しょ国などにインフラや気候変動対策などの開発支援で協力する。10月にも3カ国対話を予定する。
 自衛隊と米韓両軍は対潜水艦やミサイル防衛の定例共同演習をする。北朝鮮が発射したミサイルの探知情報をリアルタイムで共有する取り組みを年内に始めると合意しており、進捗状況を確かめた。サイバー防衛に関する実務者協力も発足させる。
 共同声明とは別に3カ国の中長期的な協力指針となる成果文書「キャンプデービッド原則」を発表した。共通の価値に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の推 進などをうたう。
 「会談では北朝鮮による日本人拉致問題についても意見を交わした。首相が「拉致問題は時間的な制約のある人道問題だ」との認識を示し、バイデン、尹両氏が早期解決を支持した。

【日米韓首脳の共同声明の要旨】
 日本政府が発表した日米韓の指針「キャンプデービッド原則」と3カ国首脳の共同声明「キャンプデービッドの精神」の要旨は次の通り。
【キャンプデービッド原則】
 日米韓3カ国は国際法の尊重、共通の価値に基づく自由で開かれたインド太平洋を推し進める。力または威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。
 日米韓3カ国の安全保障協力の目的は、地域全体の平和及び安定を促進し強化すること。
核兵器不拡散条約の締約国として、不拡散へのコミットメントを順守する。核兵器が二度と使用されないようあらゆる努力を尽くす。
【キャンプデービッドの精神】
 歴史的な機会にインド太平洋及びそれを越えた地域で、我々の協力を拡大する。大きな野心を新たな地平へと引き上げることにコミットする。
 日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる。首脳間を含め3カ国の定期的かつ適時の連絡が円滑になるよう、3カ国間の連絡メカニズムを改善させる。
 少なくとも年に1度、3カ国の首脳、外相、防衛相及び国家安全保障局長間でそれぞれ会合を開催する。3カ国の外交及び国防当局間でのおのおのの既存の日米韓会合を補完する。
 財務相間での初の日米韓会合を開催する。毎年開く新たな商務・産業大臣会合も立ち上げる。
 年1回の日米韓インド太平洋対話を立ち上げる。偽情報に対処するための取り組みで連携する方法についても議論する。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)及び太平洋島しょ国に対する地域的な能力構築の取り組みについて協調する。
 南シナ海における中国による危険かつ攻撃的な行動に関して、インド太平洋地域の水域におけるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。
 国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関する我々の基本的な立場に変更はなく、我々は両岸問題の平和的な解決を促す。
 北朝鮮に対し核・弾道ミサイル計画を放棄するよう強く求める。全ての国連加盟国に対し全ての関連する国連安全保障理事会決議を完全に履行することを求める。
 北朝鮮によるかつてない数の弾道ミサイル発射、並びに通常の軍事的活動を強く非難する。
 北朝鮮によるサイバー上の脅威と戦うため、協力を推進する新たな日米韓ワーキンググループを立ち上げる。
 日米韓は前提条件なしに北朝鮮との対話を再開することにコミットしている。北朝鮮における人権の尊重を促進するための協力を強化することにコミットする。拉致問題、抑留者問題、帰還していない捕虜の問題の即時解決への共通のコミットメントを再確認する。
 米国は、日本及び韓国の防衛に対する米国の拡大抑止のコミットメントは強固であり、米国のあらゆる種類の能力によって裏打ちされていることを明確に再確認する。
 日米韓3カ国は組織化された能力及び協力を強化するため、毎年名称を付した複数領域に及ぶ3カ国共同訓練を定期的に実施する。
 2023年末までに北朝鮮のミサイル警戒データのリアルタイムでの共有を運用開始する。
 3カ国はミサイル警戒データのリアルタイム共有のための技術的能力を試験する初期的措置を実施した。
 3カ国はグローバル・サプライチェーン(供給網)の混乱に関する政策連携を強化する。経済的威圧に対抗するための準備をする。 早期警戒システムの試験運用開始に向けて緊密に連携する。
 最先端技術が違法に海外に窃盗されることを防ぐため、技術保護の取り組みに関する協力を強化する。
 米国、日本及び韓国のカウンターパートとの間で、3カ国の執行機関間の情報共有及び連携を深化させるための第1回目の交流を実施する。
 軍事転用可能な能力のために我々の技術が流用されることを防ぐため、輸出管理に関する日米韓の協力を強化していく。
3カ国の国立研究所間の新たな協力を追求する。科学、技術、工学、数学分野での共同研究開発を含め、科学技術イノベーションを強化する。
 宇宙安全保障協力に関する対話、とりわけ宇宙領域での脅威、国家宇宙戦略及び宇宙の責任ある利用に関する対話の更なる強化を追求する。
 人工知能(AI)に関する国際的なガバナンスを形成し、安心で安全な信頼できるAIを確保するためのそれぞれの取り組みを確認する。
 我々はウクライナ支援において結束している。ウクライナへ支援を提供し、ロシアに対して協調した強力な制裁を科し、ロシアへの エネルギー依存の低減を加速させることにコミットする。

【日本、米国および韓国で協議するコミットメント】
 日米韓3カ国の首脳は、共通の利益および安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦、挑発および脅威に対する3カ国の対応を連携させるため、3カ国の政府が相互に迅速な形で協議することにコミットする。
 このコミットメントは、国際法や国内法上の権利または義務を生じさせることを意図するものではない。

【世界半導体投資、4年ぶり減 誘致競争で供給過剰懸念】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 半導体設備投資にブレーキがかかっている。世界主要10社の2023年度の投資額は前年度比16%減の1220億ドル(約17.5兆円)で4年ぶりに減少する見通し。将来の成長期待をにらんだ政府主導の投資誘致で工場の建設ラッシュが続いたが、中国景気の減速懸念もあり、各社は投資に慎重になっている。足元では価格に下押し圧力が働いている。
 米国・欧州・韓国・台湾・日本の半導体大手10社の設備投資計画をまとめた。前年度を下回るのは19年度以来で、過去10年間で最大の落ち込みだ。スマートフォンやパソコンに使うメモリー半導体への投資が前年度比44%減と落ち込み幅が大きく、パソコンやデータセンターの頭脳として使われる演算用半導体の投資も14%減少する。
 投資を減らすのは、米インテル、台湾積体電路製造(TSMC)、米グローバルファウンドリーズ、米マイクロン・テクノロジー、韓国のSKハイニックス、合弁で工場を運営する米ウエスタンデジタルとキオクシアホールディングスを1社換算で数えた計6社。
 過去10年で設備投資が最大の落ち込みとなるのは、米中の技術覇権争いから近年、振興策などで各国が競うように生産体制を強化し、投資需要を先食いしてきた影響が大きい。22年度の大手10社の投資総額は1461億ドルと過去最高の規模だったが、英調査会社オムディアの南川明氏は「回路線幅が10〜14ナノ(ナノは10億分の1)の製品などで供給過剰になる懸念がある」と指摘する。
 23年6月末時点で棚卸し資産(開示している9社合計)は前年同期比1割増の889億ドル。半導体不足が深刻化する前の20年に比べて7割増の水準に拡大した。過剰在庫を警戒してマイクロンは24年8月期に3割減産し、設備投資も4割削減する。SKハイニックスも減産幅をさらに5〜10%広げ、投資を前年度比で50%以上削減する。
 中国の景気減速も冷や水を浴びせる。インテルの23年度の投資額はアナリスト平均で3年ぶりに減少に転じる見込み。パトリック・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)は7月の決算会見で「中国は景気回復が遅れている」との見方を示した。パソコンの一大消費地である中国市場の先行きが不透明なたため、工場関連の投資を絞る。
 足元で半導体の取引価格は低迷。新型コロナウイルス禍で特需が続いていた半導体メモリーは昨年夏から供給過剰に転じ、価格は下落が続く。一時記憶用のDRAM、長期記憶用のNANDの8月の価格はいずれも前年同月比で4割超下がっている。日本総合研究所の立石宗一郎氏は「各社の減産幅が十分ではなく、価格に下押し圧力が働いている。需要が回復し、価格が本格的に上昇するのは来年になる」とみる。
 近年の工場建設ラッシュで必要な技術者を賄えない動きも出てきた。米国半導体工業会(SIA)によると、米国で半導体技術者(半導体業界で従事するコンピュータサイエンティストを含む)が30年までに6万7000人が不足すると予測。TSMCは技術者不足を理由に米アリゾナ州で建設中の工場の稼働時期が24年末から25年に遅れる。23年度の設備投資が5年ぶりに減少する見通しだ。
 もっとも、中長期で半導体需要は伸び続けるとの市場の見方は変わりない。米マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、世界の半導体市場規模は30年までに21年の約6000億ドルから約7割増えて1兆ドルに達する見通し。
 けん引役は電気自動車(EV)と人工知能(AI)に使う半導体の爆発的な需要増加だ。英オムディアによると、世界の半導体需要のうち、車載半導体は現状で約1割にとどまるが、EVの普及で車両機能を制御する半導体やパワー半導体の使用量が飛躍的に増える。車載半導体の市場規模は25年に830億㌦と22年から5割拡大と見込む。
 AI用半導体もEVとともに半導体需要増加をけん引する。AI半導体は生成AIサービス向けデータセンターに必要な部材で、独スタティスタによるとAI半導体の需要は25年には22年比3倍となり、30年には13倍に伸長する見通し。
 投資削減に踏み切った半導体大手の多くも「工場建屋だけ先に建てて、ベストなタイミングで量産ができるように備えている」(ボストン・コンサルティング・グループの小柴優一氏)という。在庫調整が一服すれば、各国・各地域が官民挙げて取り組む半導体供給網の構築への動きも再び活発になりそうだ。(向野崚)

【中国追加利下げ、伸びぬ融資に危機感 景気再浮揚に時間】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。
 中国人民銀行(中央銀行)は21日、2カ月ぶりの利下げに踏み切った。需要不足でデフレ懸念が強まり、銀行融資が落ち込んでいることに危機感を抱く。ただ下げ幅は市場予想より小さかった。金融緩和で潤沢なマネーを市場に供給しても消費や投資が増えない「流動性のワナ」に陥りつつあるとの見方もある。政府は大規模な財政拡張に慎重で、景気の再浮揚には時間がかかりそうだ。
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 事実上の政策金利である最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)のうち、優良企業向け貸出金利の参考となる1年物を年3.45%とし、0.1%下げた。住宅ローン金利の目安となる期間5年超の金利は年4.20%で据え置いた。
 人民銀行は15日、LPR計算の基礎となる市中銀行向けの1年物金利を0.15%下げた。これに対し、LPR1年物の下げ幅は0.1%と小さかった。
 銀行が利ざやを確保しやすいよう小幅な下げにとどめた可能性がある。さらに期間5年超の金利を据え置いたのは、住宅ローン金利の低下を一律ではなく銀行の体力に応じて促すためとみられる。ドルとの金利差が広がり、一段の人民元安につながることを警戒した可能性もある。
 丸紅中国の鈴木貴元経済研究総監は「利下げ余地を温存したというより、金融政策に手詰まり感が出ている」と指摘した。
追加利下げに踏み切ったのは、景気の減速で企業や家計の資金需要が弱いためだ。7月の人民元建て新規融資(返済分を差し引いた純増額)は前年同月比50%減の3459億元(約6兆9000億円)だった。2009年11月以来13年8カ月ぶりの低い水準となった。
 このうち住宅ローンなど家計向けは3カ月ぶりにマイナスとなった。新規融資より返済が多かった。雇用など将来不安から住宅販売が落ち込み、新規の住宅ローンが増えなかった。一方、金利の低下などで預金や投資で稼ぐ収益が減った家計が借金を前倒し で返済する動きが広がった。
 家計は耐久財を含めた大型消費に及び腰で、民間企業も新たな投資を控える。内需不足で7月の消費者物価指数(CPI)は2年5カ月ぶりに前年同月比で下落。デフレ懸念が強まっている。
 人民銀行と国家金融監督管理総局、証券監督管理委員会は18日、金融機関幹部らを集めたテレビ会議を開催した。融資を増やすとともに、貸出額が大幅に増減するのは避けなければならないと指摘し、企業や家計の資金調達コストを下げるよう指示した。
景気の下振れ懸念が強まった08年のリーマン・ショック直後、中国は4兆元に及ぶ景気対策で需要を創出した。15年ごろは「チャイナ・ショック」と呼ばれ景気が減速していたが、力強い消費を背景に住宅市場の活性化などで息を吹き返した。
 最近の景気減速をめぐり、共産党が7月に開いた中央政治局会議は「最たる問題は内需不足」との認識を示した。だが早期に需要を生み出す効果がある財政出動には距離を置く。
 第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「08年の対策が過剰債務の元凶となったため二の足を踏んでいる」と分析する。新たな財政刺激策が地方財政難に拍車をかける恐れもある。
 財政が動かない分、金融政策にしわ寄せがいく。それを見透かした市場では追加金融緩和の予想が広がる。
 中国の証券会社、中信証券は「年内の追加利下げもありうる」とみる。銀行の資金調達コストを下げて融資を促すため、人民銀行が市中銀行から強制的に預かるお金の比率を示す預金準備率を下げるとの予測もある。
 ただ金融緩和の効果を疑問視する声も少なくない。相次ぐ利下げをうけ、中国の住宅ローン金利は22年後半から過去最低を更新 するが、住宅販売は落ち込みが続く。
 「設備投資の計画などない。まず生き残らないと話にならない」。南部の広東省東莞市で従業員40人超のアパレル向けボタン取り付け機の工場を経営する劉さんは打ち明ける。
 ここ数年は海外からの注文が落ち込んだままで、国内でも価格競争が激しくなっているという。「生産を拡張するどころか、規模を縮小している同業他社もある」と資金の借り入れや投資拡大には否定的だ。
 広東省の国有企業で働く30代男性の趙さんは「いま不動産に投資しようとは思わない。かつてのように値上がりするとは限らないからだ」と話す。
 中国の格付け機関、東方金誠の王青チーフマクロアナリストは「個人ローンは金利に敏感なため、金利低下局面で借り入れを様子見する動きが出やすい」と指摘する。西浜氏は「マネーが高い金利を求めて海外に向かおうとしても当局の資本規制が阻み、資金が国内の銀行などに滞留してしまう」と流動性のワナに陥るリスクを指摘する。(川手伊織、広州=川上尚志)


 この間、下記の録画を視聴することができた。 (1)BS6報道1930「岸田政権へ向かう怒り…「サラリーマン増税」か? 超難題マイナカードは、自民党女性局フランス研修の“軽率”、内閣改造 人で問われること」8月3日。 (2)ETV特集「ミッドワエー海戦3418人の命を悼む 第二部 残された者たちの戦後、日米の戦死者調査の末に作家・澤地久枝さんは何をおもいのか」5日。 (3)NHKスペシャル「いのち眠る海~最新調査で明かす太平洋戦争~戦争中海で失われた35万の命、沈みゆく船で助けをもとめ命つきた兵士、死を覚悟しながら最後まで生きようとしたパイロット、最新技術で迫る「海の死」の実相」5日。 (4)NHK総合こころの時代「見えない痛みを託されたフォトジャーナリスト豊崎博光。米国の核実験が行われたマーシャル諸島で被爆した人々を撮影してきて「伝えてほしい」と託された見えない被爆の痛みとは?」6日。 (5)BS世界のドキュメンタリー「プーチンと5人の米大統領 プーチンが権力を握って以来、アメリカでは5人の大統領が入れ替わった、バイデンはどう対抗するのか」6日。 (6)NHKスペシャル「原子爆弾・秘録~謎の商人とウラン争奪戦~原爆の原料となったウランをひそかにアメリカに運び込んだ”謎の商人“の未公開資料が見つかった。それに託された真実とは」6日。 (7)BS1 欲望の時代の哲学2023「マルクス・ガブリエル ニッポンへの問い。東京滞在中のドキュメント、いま日本に必要なものとは?」6日。 (8)NHKドキュメント「伝承の期限どうつなぐ? ヒロシマの記憶」7日。 (9)BS6報道1930「サウジが狙うウクライナ和平の仲介役とは?」7日。 (10)BS6報道1930「ウ軍「ミサイル改造」ロシアへ届く長距離化」8日。 (11)BS6報道1930「”核抑止“があったからプーチン氏侵攻?原爆の日に考える”核廃絶“」9日。 (12)NHK総合歴史探訪「消えた原爆ニュース。広島と長崎に投下された原子爆弾、被害の実態を報じることが禁止された時代があった。真相はなぜ隠され、どのように明かされたのか? 原爆報道を巡る知られざる物語」9日。 (13)BS6報道1930「安いニッポンを脱却か。決断した企業の舞台裏 本物なのか賃上げ株高」10日。 (14)
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辻達也さんを偲んで

 この「辻達也さんを偲んで」は、横浜市立大学日本史専攻卒業生の会『会報』第8号 特集 辻達也先生を偲んで に寄せた拙稿である。
 『会報』は、その第1号が遠山茂樹教授の退官を記念して44年前の1979年に創刊され、今に至る(第8号の編集後記による、記・對馬労)。世話人(第8号では10人の卒業生)による息の永い集団作業を通じて継承してきた。頭が下がる。
 世話人の一人で、編集・発行を担う大庭邦彦さんから執筆依頼を受けたのが今年5月だったか。私自身は日本史専攻ではなく東洋史専攻として1973年に横浜市立大学に着任した。
 本稿に記したように私は研究範囲をじょじょに拡げていた。1842年の天保薪水令(アヘン戦争の南京条約締結の1日前)公布により、幕府は対外関係の基本を<交渉>に置き、<戦争>を回避する政策を採用した。その延長上に1853年のペリー来航と翌54 年の日米和親条約の締結(=日本の開国)がある。
 幕末の対外関係に関する日本側の研究蓄積と基本的な文献をご教授くださったのが、ほかでもない辻達也さんであった。さまざまに受けた<学恩>の一部を書いたのが、本稿「辻達也さんを偲んで」である。
 このあたりを見抜いていたと思われる大庭邦彦さんの執筆依頼にうかうかと乗ってしまったが、後の祭りである。彼とのご縁や上掲の『会報』世話人たち、そして予定されている「偲ぶ会」の様子など続報を期待されたい。


 横浜市立大学(以下、市大と略称)には、日本近世史の辻達也さん(1926~2022年)、日本近代史の遠山茂樹さん(1914~2011年)、日本政治史の今井清一さん(1924~2020年)、東洋史(中国近代史)の小島晋治さん(1928~ 2017年)、国際関係史の山極晃(1929~)さんなど、著名な先輩たちがそろっていた。
 なかでも遠山茂樹、藤原彰、今井清一の共著として岩波新書の形で1955年に発刊された『昭和史』は当時の一大ベストセラーとなり、初版2万5千部は即日品切れ、増刷は11万3千部に上ったという。読者カードから見る限り、読者には30代もいたが、20代の若者が圧倒的に多かった。
 こうした時代の潮流を表す代表的発言として、銘建工業株式会社の中島浩一郎代表取締役社長が次のように回顧している。「歴史学者で日本近代史の専門だった遠山茂樹先生の著書に感銘を受け、『大学で遠山先生に教わりたい』との思いでYCU(横浜市立大学)に入学しました。……当時は日本近世史の辻達也教授、中国近代史の小島晋治助教授など錚々たる顔ぶれの歴史学の先生が教鞭をとっていました」。
 1973年の『学生便覧』によると、市大の文理学部は文科と理科に別れ、文科には外国語課程、国際関係課程、人文課程、社会課程の4課程があったものの、教員の所属課程にかかわらず、学生たちは課程の枠を越え、かなり自由に科目を履修することができた。
 やがて小島晋治さんが東京大学教養学部へ移籍、その後任として1973年、私が赴任することになった。1936年生まれの私には、最年少の山極さんが7歳、ついで小島さんが8歳、辻さんが10歳、今井さんが12歳年長の兄貴分で、遠山さんは22歳年長、若い父親ほど離れていた。
 種々の要因が重なる転職であったが、新しい職場で先輩方から学問の面でも、生き方の面でも、また意図的な論争を介する面でも、多大な影響を受けた。
 なお、そのころの大学では1学年上の先輩から指導教授までを「さん」付けで呼び、同学年以下を呼びつけとしていたため、本稿も表題をふくめ「さん付け」で進めたい。

【20年前の記録から】
 かなり昔のことであり、あいまいな記憶から生じる誤りを少しでも避けるため、私の市大退職時(2002年)に書いた「史観と体験をめぐって」(『横浜市立大学論叢』第54巻、加藤祐三教授退官記念号 人文科学系列 第1・2・3合併号 2003年、37~88ページ)から、その「はじめに」の一部を引こう。本稿には、略歴(1ページ)、著作目録(2~35ページ)も付してある。
「平成14(2002)年4月末、学長任期を終え、横浜市立大学を退職した。 市大に職を得たのが1973年であるから、在職期間は29年と1ヶ月。
 大学教員としての生活は、7年間の東京大学東洋文化研究所の助手時代を含めて、約36年になる。大学教員の仕事は、教育、研究、社会貢献(学内運営への参加等)の3つが主であり、これは大学教員の誰もが同じだが、その自覚の程度や比重の置き方は、各人により、また年齢や役職などにより異なるであろう。
 私の場合、大学教員前半の約20年間は、授業をこなし、研究論文を書き、学会活動に参加することで役割は果せると思っていた。研究成果を、その着想・調べ・表現の過程を含めて学生に伝えることが教育であり、学内運営は自分とは縁遠いことだと考えていた。いわば個人営業に近い意識で、「己の欲するままに」、「矩を超えて」いた。
 大学の役割を踏まえて、教育、研究、社会貢献の3つにどうかかわるべきかを自覚しはじめたのは、後半の10数年、教授になった(1982年)ころからである。個々の教員からすれば、「己の欲するままに」個人営業の意識で仕事ができ、大学という組織に問題が起きなければ、それにこしたことはない。十二分に自己満足できる制度である。
 しかし、そのような虫の良い話はない。入試にせよ、各種の委員会にせよ、大学運営の多くが組織的な活動である。担当コマの授業をこなし、それに必要な研究を進める「個人営業」だけでは、大学は動かない。とくに激動期においては、明確な将来像を持つ必要があり、そのためには大学の組織全体にまで視野を拡げなければならない。
 「個人営業」の幻想にしがみつくことは、他人に負担を転嫁し、自分の狭いエゴを主張するに過ぎない。この点に気づいてから、私も遅ればせながら大学教員の役割を少し広い観点から再考するようになった。
 学内での議論の場は、学科会議、学部教授会、全学の将来構想委員会、評議会などであった。そして最初にして最大のテーマが、先行設置した理系大学院の総合理学研究科(修士課程は1990年開設)に続いて、国際文化研究科の設置(修士課程は1993年開設)、そして永年の懸案であった文理学部を改組して国際文化学部と理学部を設置する作業(1995年開設)である。
 この作業にかかわるなかで、予算とは「カネではなく政策である」と幹部職員から初めて教えらるなど、いろいろなことを学んだ。教員と職員との意識の断絶も痛感した。大学は教員・職員・学生の3者が息を合わせて動く組織である。既得権益を守るだけの反対論者が、最終バスが出るとなれば見事に豹変し、人を押しのけてまで乗り込むのも見た。世間離れしていると言われる「象牙の塔」の内側は、とても人間くさい小社会であることも分かった。 
 自分の関心に沿って、アジア近代史を主体とする教育・研究に没頭してきたことを誤りとは思わない。だが、分野の違う同僚たちと議論するなかで、自身の研究分野が学問全体のなかで占める位置を考え抜くうち、独りよがりの個人営業ではやっていけないことが分かった。
 学部単位の改革を進めた後は、全学的な問題である。市大の個性や独自性はどこにあるのか。日本の大学全体のなかに市大を位置づけると、市大は中規模総合大学で、分野のバランスも決して悪くはない。総合大学の総合たる所以は、多様な学問分野を擁し、それぞれが有機的に連動することである。たんに多様な学問分野が網羅されているだけでは「生ける屍」である。総合大学として活力を発揮し、学生や社会にとって魅力ある大学に変えるにはどうすれば良いか。
 市大の個性とは、他大学との比較優位である。既に700大学もの規模となった全国の国公私立大学、さらには広く世界の大学にも注目せざるを得ない。公立大学の特性を国立大学や私学との関係のなかで、どう位置づけるか。……
 その一方で、溜まった「筆債」を返すために、歴史書の執筆も再開した。書きたいテーマは山積しており、まず『黒船と開国』(仮題)を第1に選んだ。開国150周年(1854年3月の日米和親条約締結から)が1年半後に迫っている。日米和親条約はその4年後の修好通商条約の前提となり、これによって横浜が開港した(1859年)。横浜の都市化の起源は開港にあり、その前提に開国があり、それはまた近代日本の起源でもある。開国150周年……これは横浜から発信すべき課題である。
 この問題をめぐってはまだ誤解がかなり多い。誤解の構造は、①無能無策の幕府に、②アメリカの強大な軍事的圧力が加わり、結果として③極端な不平等条約となった、とするものである。歴史的事実に基づいて、こうした誤解を解きたい。
 2つの条約はいずれも戦争を伴わない「交渉条約」である。これは基本的に重要な点であり、その諸要因を国内的・国際的な側面から再確認したい。それは同時多発テロ以降の世界の「戦争と外交」を展望することにもつながるはずである。
 そこで平板なことを承知のうえで、「横浜市立大学時代の思い出」と題するエッセーを書こうと試みた。
 歴史家はたんなる書斎人からは生まれないと思っている。偉大な歴史家である司馬遷やイブンハルドゥーンの例を引くのは躊躇するが、少なくともある程度の社会体験が必要である。一方、社会体験に埋没していても歴史家にはなれない。市大に在職していなかったとすれば、教育も研究も行えず、学内運営などに参加する社会体験もなく、傍観者として歴史を眺めるだけであったかもしれない。私にとって、かけがえのない貴重な体験を、市大が与えてくれたという意味で、この題名は真実を突いている。
 ところが、少し書き始めて、大きな齟齬が生じた。市大に在職の機会を得たのが37歳である。この年齢以降の社会体験はきわめて貴重には違いないが、若い頃の体験、あるいは幼少期の体験などの方が、後に及ぼす影響はさらに強烈かもしれない。
 そこでもう少し一般化できないかと考え、本エッセーの題名を「史観と体験をめぐって」とした。「史観」の定義は難しいが、歴史学は客観性と主観的個性の両者を必要とすると考えている私には、どうしても避けて通れない。ここではとりあえず、史観とは「個々の歴史家にとって本質的な基盤」としておこう。また体験には受動的なものも能動的なものもある。両者の区別も難しい。体験が史観にどう影響するのか。気にしてはいたが、目先のことに紛れ、本格的な論述にも出会わなかった。
 歴史学の対象は、大げさに言えば「古今東西 森羅万象」である。自分の歴史学として、いかなる課題を設定するか、その最初の課題設定から資料収集の仕方、叙述における重点の置き方などすべてが個々の歴史家に任されている。したがって、歴史家に  とって史観は、それなくしては課題設定そのものさえ不可能なほど重要である。
 哲学・歴史・文学など人文科学と呼ばれる分野は、個性記述型という本来的な属性を持っているばかりか、個々の作品自体が個性的であり、特異な才能の産物という面が強い。その根底にあるのが、歴史学の場合は、史観である。しかし、史観は個性的であると同時に、普遍性を持たなければならない。
 個性記述型の学問方法にたいして、法則定立型の学問がある。自然科学や社会科学の属性だと考えられており、反論に耐えられる論理(反論不能性)が求められ、ひとたび認知された法則は誰が使おうと普遍的に共通(反復可能性)で、例外があってはならない。社会科学の法則(理論)は主に実務面で証明され、自然科学のそれは主に実験によって証明される。
 歴史学界という同業者の団体内においては、論文を発表する場合、一定の共通ルールを守りさえすれば、筆者がいかなる史観を有しているかは不問に付されがちである。
 言い換えれば、技術的な共通ルールさえ踏み外さないかぎり、史観に言及せず、それを与件として本論に入ることができる。そのほうが良い論文であるとの評価さえ受けやすい。ここで言う技術的な共通ルールとは、先行研究のなかでの自分の課題設定を明示し、実証性、論旨展開の論理性(起承転結)、事実と意見の区別など、一定要件を満たすことである。
 この限りでは、きわめて正当な評価基準であり、とくに若手の学界参入の基準としては申し分ない。しかし登竜門としての「入口」評価基準を通過してからも、依然として同じ基準に依拠するならば、これは大問題である。
 共通ルールは重要な要件であるが、それ以上でも以下でもない。その技術を駆使して、歴史の何を語ろうとするか。この問題は、 最近の歴史学界では対象になりにくい。
 この点で歴史家は作家や芸術家と共通する面がある。作家や芸術家は自分の感性に依拠して作品を創る。それが創造力の源泉であり、作品の質を分ける基準である。但し、歴史家が作家や芸術家と決定的に異なるのは、資料のないことを想像によって描くことができない点である。これは「歴史家が守るべき第一法則」である。この制約にもどかしさを感じることがあるが、それを直視しつつ、その制約の中で史観を確立するのが歴史家である。制約を逸脱する時は、自覚的に「二足の草鞋を履く」ことが大切だと思う。
 では、史観はどのように作られ、何を史観形成の源泉とするのか。この問題に関しても一義的な回答は困難である。これまでの歴史学の歴史、つまり史学史から学ぶ方法が1つある。また尊敬する歴史家の個別事例を探る方法がある。それに加えて、自分の体験を客観化し、その体験と自分の史観を付き合わせる方法があるはずである。
 史観と体験をつきあわせる方法は、「両刃の剣」で危険性を包含している。その人だけが知る実証性の乏しい世界を語るため、安易な自己証明に陥りかねない。史観の源泉を自分の体験に求めるのは、1つの方法、1つの作業過程に過ぎない。このことを念頭において、エッセー風に本稿を進めていきたい。エッセーに注は不要だが、別掲の著作目録と関連させて、A2とかB18など、注らしきものを幾つか入れた。
 繰り返しになるが、歴史学は、最初の課題設定、膨大な量の資料収集、その取捨選択の仕方、叙述における重点の置き方など、すべてが個々の歴史家に任されている。歴史家は客観性と主観的個性の両者を併せ持つため、その主観的個性を支える史観を絶えず問いつづける責務がある。
 そのための1つの過程として、私にとってきわめて大切な発想の原点が、どのような体験を基盤として生まれたか、現段階で思い出せるものに限って挙げてみたい。便宜上、2期に大別する。第1期を横浜市立大学就職以前(37歳まで)とし、第2期を市大に在職した約30年間とする。」

【研究テーマの拡大】
 長々と再録したが、以上が「史観と体験をめぐって」の「はじめに」の一部である。このエッセーの「横浜市立大学時代」の部に次のようにある。
 「…今の文科系研究棟の少し南にあった研究棟は木造2階建てで、以前の将校兵舎、無垢の一枚板を使ったムクノキの廊下は歩くと軋んだ。天井が高く、広めの研究室だったが、冬の隙間風はさすがにこたえた。その近くの俗称「カマボコ兵舎」ではソバやラーメンなどの軽食を食べることができた。なお『学生便覧』(1973年)の255ページにある「横浜市立大学校舎配置図」を参照。
 全共闘運動の継続を主張し、「大学封鎖」を叫ぶ学生たちがいて、その多くが私の東洋史の所属で、自主ゼミと称して一緒に中国語文献や歴史哲学(本稿で言う史観)などを読んだ。
 その頃、私の研究テーマは多岐に拡大していた。37歳という年齢にふさわしいというべきか、それとも、青二才の無謀というべきか。収拾がつかなくなる危惧よりも、情熱が先を走った。
 第1が中国農村史の延長上に時代を遡って中国農業史をまとめること
 第2が中国近代史の通史を書くこと
 第3が中国にとどまらず日本をふくめたアジア近代史を書くこと、そのためには近代が世界史の時代である以上、地域に限定しては歴史が描けないと考え、
 第4に近代世界史を書くこと
 第5に歴史の本質とは何か、歴史哲学あるいは本稿でいう史観や歴史学方法論を書くことへと拡がっていた。
いま思えば、このうちの何分の1も実現していない。わずかに第1テーマがB11、12などになり、第2テーマがA7、A11などに結実、第3テーマはA2、A15、A16などに発展しつつあり、第4テーマがA2、A6、A16などに結実、第5テーマをB4、B36などで展開してはいる。
 とても満足できるものとは言えない。もともと過大な夢を抱いたのだから、実現できないのは当然だと言う自分がいる。しかし自身が抱いた夢である。行き続けてみようと思う。…」

【中国農業史から「19世紀東アジアにおけるイギリスの役割」へテーマ拡大】
 ここに「私の研究テーマは多岐に拡大…していた」とあるように、あまり具体的な形ではなく、多方面に拡大していた。それが一定の形を取り始めるのは、しばらくしてからである。
 教員の業績は上掲のとおり、A=著書、B=論文、Ç=その他、の3つに分類して学部改組や大学院開設のさいに提出し、評価を受ける。前出の『紀行随想 東洋の近代』(朝日新聞社 1977年)は、『中国の土地改革と農村社会』(アジア経済出版会 1972年)に次ぐ著作である。
 ついで私の主な著書を掲げたい。書名から読み取れるように、「19世紀東アジアにおけるイギリスの役割」をテーマに井上一学部長の英断により、在外
研究でイギリスへ行くこととなり、研究範囲が拡大していったことが分かる。
 『イギリスとアジア-近代史の原画』(1980 年 岩波新書)、『黒船前後の世界』(1985年 岩波書店)、『東アジアの近代』(ビジュアル版『世界の歴史』第17巻 1985年 講談社)、『黒船異変-ぺりーの挑戦』(1988年 岩波新書)、加藤祐三編 Yokohama Past and Present 1990 横浜市立大学、『地球文明の場へ』(『日本文明史』第7巻 角川書店 1992年)、『世界繁盛の三都』(1993年 NHKブックス)、『アジアと欧米世界』(川北稔と共著 1998年 中央公論社『世界の歴史』第25巻)。
次は市大退任後の著作。『幕末外交と開国』(2004年 ちくま新書)、『開国史話』(2008年 神奈川新聞社)、『幕末外交と開国』(増補版 2012年 講談社学術文庫)
 あまりにも目まぐるしく展開しているようで一定の整理が必要と考え、下記のブログに「我が歴史研究の歩み」と題して38回にわたり連載した。
加藤祐三Blog(ツキイチコテン)  http://katoyuzo.blog.fc2.com/
 2015年6月30日掲載の【1】連載「新たな回顧」、【5】「初めてのアジア」(2015年10月31日掲載)、【6】「キューバ危機」(2015年11月16日掲載)、【7】「アウシュビッツ到着」、【11】「専門書の出版」(2016年4月11日掲載)、【12】「2度目のアジア旅行」(2016年5月16日掲載)、【14】「研究課題の拡がり」(2016年7月11日掲載)、【15】「東南アジア紀行」(2016年8月10日掲載)、【17】「横浜市大での新生活」(2016年12月5日掲載)、【18】「イギリス在外研究」(2016年12月20日掲載)、【19】「文字史料と図像史料」(2017年1月13日掲載)、【20】「中国紅茶の呪縛」(2017年2月7日掲載)、【21】「紅茶からアヘンへ」(2017年2月23日掲載)、【23】「インド産アヘン」(2017年4月21日掲載)、【24】「19世紀アジア三角貿易」(2017年5月24日掲載)、【25】「イギリスとアジア」(2017年6月21日掲載)、【27】「植民地インドのアヘン専売制」(2017年7月28日掲載)、【29】「黒船前後の世界」(2017年8月21日掲載)、【30】(一)ペリー艦隊の来航」(2017年9月8日掲載)等を経て、【38】連載(完)「日米和親条約への道」(2020年8月12日掲載)まで5年余を費やし、あわせて38回にのぼる。それぞれに私なりの論の展開に根拠のあることを述べようと試みている。

【辻達也さんから教えられたこと】
 辻 達也(つじ たつや、1926年7月3日 - 2022年9月20日)さんは日本の歴史学者、横浜市立大学名誉教授。専門は日本近世史。幕府政治史を中心に研究した。
 辻善之助の次男として東京に誕生。東京大学国史学科卒。1962年「享保改革の研究」で東大文学博士。横浜市立大助教授を経て1968年教授。1986年定年退官、名誉教授。専修大学教授、1997年退任。
 なお、主な著書と主な校訂・共編については別掲の通りである。として
• 『徳川吉宗 人物叢書』吉川弘文館 1958、新装版1985
• 『享保改革の研究』創文社 1963
• 『大岡越前守 名奉行の虚像と実像』 中公新書 1964
• 『日本の歴史 16 江戸開府』中央公論社 1966、中公文庫 1974 改版2005
• 『江戸時代を考える 徳川三百年の遺産』 中公新書 1988 
• 『近世史話 人と政治』悠思社 1991
• 『江戸幕府政治史研究』続群書類従完成会 1996
 また主な校訂・共編として
• 『撰要類集』第1-3 校訂 続群書類従完成会 1967-79
• 『新稿一橋徳川家記』編 徳川宗敬 1983
• 『大岡政談』全2巻 編 平凡社東洋文庫 1984、ワイド版2005
• 『享保通鑑』校訂 日本史料選書:近藤出版社 1984
• 荻生徂徠『政談』校注 岩波文庫 1987
• 『辻善之助 江戸時代史論』悠思社 1991。講演録の編著
• 『日本の近世』全18巻、朝尾直弘共編 中央公論社 1991-1994
『2 天皇と将軍』、『10 近代への胎動』 1991-1993 を担当
• 『徳川吉宗とその時代 NHK文化セミナー・歴史に学ぶ』 日本放送出版協会 1995。放送テキスト
• 『一橋徳川家文書 摘録考註百選』編著 続群書類従完成会 2006
 
 私の研究が『黒船前後の世界』(1985年 岩波書店)、『東アジアの近代』(1985年 講談社)、『黒船異変-ぺりーの挑戦』(1988年 岩波新書)と、幕末日本に近づくにつれ、辻さんのご専門の幕府政治史に頼らざるを得ない。
 『学生便覧』(1973年版)の、辻さんの担当する文化史Ⅲの解説に、「荻生徂徠の「政談」を購読しつつ江戸時代を中心とする、日本の思想、文化、制度等の諸問題を考察する演習」との説明がある。演習とはいえ学生にも本気を求める高度な内容である。なお「文化史Ⅱ」(辻達也、遠山茂樹)は「卒業論文を日本史で作成しようとする第4年次生のみを対象とする演習」と記されている。
辻さんから紹介していただいた著作のうち今も記憶に残るのが、田保橋潔『近代日本外国関係史』(刀江書院 1930年 原書房 1976年)、井野辺茂雄『幕末史の研究』(雄山閣 1927年)、石井孝『日本開国史』(吉川弘文館 1972年)等の基本的な先行研究であった。
 一次史料は、東京大学史料編纂所編『大日本古文書』シリーズ内の『幕末外交関係文書』にあり、1853年のペリー来航から翌年の日米和親条約の締結に関係する文書は、その一から五まで(1910~14年刊)に収められ、附録(1913年~刊行) にも本編の補遺に当たる貴重な史料がふくまれている。ペリー艦隊来航以前の異国船到来については、『通航一覧』や『通航一覧続輯』 等に詳細な記録がある。
 辻さんにとっては何でもない、日常茶飯事であったに違いないが、私にとっては青天の霹靂に近いものがあった。
これらの研究に導かれ、関連資料を読むうちに、私自身の見方が徐々に形成されていった。『思想』誌連載の題名を考えているとき、黒船来航前後で変わる日本史を象徴的に語る服部之総『黒船前後』(1933年)からヒントを得て、私は「黒船前後の世界」と着想し、それに決めた。
 それにはアメリカ議会文書(上院と下院)が不可欠である。そう思っていた矢先、偶然にもその全文書が東京国会図書館で公開された。
 「日本の外交」という視点に留まらず、「世界政治のなかの日本外交」の大切さを明らかにしたい。
 前掲の在外研究でのイギリス行きの成果の一つ、『イギリスとアジア-近代史の原画』(1980 年)で明らかにした「19世紀アジア三角貿易」(中国からイギリスへの紅茶、英植民地インドから中国へのアヘン、イギリスからインドへの機械製綿布の3商品で構成)の延長上に、第1次アヘン戦争(1839~42年)と第2次アヘン戦争(1856~60年)が展開されていた。
 その戦争情報を入手・分析することを通じて、幕府は天保薪水令(南京条約締結の1日前、1842年8月28日発布)に切り替え、<避戦>を貫き通した。その12年後の1854年にペリーと日米和親条約を結び、さらに17年後の1959年に横浜開港が実現する。
 こうした天保薪水令(1842年)、日本開国(1854年の日米和親条約締結)、横浜開港(1859年)に至る過程が、第1次アヘン戦争(1839~42年)、第2次アヘン戦争(1856~60年)と同時並走していた厳然たる事実が明らかになった。


【敗戦条約と交渉条約の比較一覧】
 遠山さんが市大を退職されて横浜開港資料館館長であったころ、私は「幕末開国考-とくに安政条約のアヘン禁輸条項を中心として」(『横浜開港資料館紀要』第1号 1982年)を書いた。
 本論文は題名にある通り、日本史ではあまり取り上げられることのない日米修好通商条約(1858年)のアヘン禁輸条項を主題とし、ほぼ同時期のアロー号戦争に始まる第2次アヘン戦争(1856~60年)と対比しつつ論じている。従来の基本的研究、石井孝『日本開国史』(吉川弘文館 1972年)を補うものである。
 遠山さんは本誌創刊によせて「…横浜という地域の考察にとどまらず …世界近代史と日本近代史との相互影響・ 相互対立の接触面を代表し…館外研究者の成果も本誌に反映させたい…」と述べ、拙稿がこの創刊号の巻頭論文となった。
 石井孝『日本開国史』は、同じ1858年に結ばれた安政条約(日米)と天津条約(中英)の比較のなかで、①内地旅行権、②関税行政への外国人の介入の有無等を挙げている。
 これに対して私は、天津条約が第2次アヘン戦争の中途で結ばれたもので、この戦争の最終条約である北京条約(1860年)と一体のものと考えるべきとしたうえで、さらに
ア)賠償金の有無
イ)アヘン条項の有無
ウ)開港場における外国人側の自治権の有無等を追加し、なかでもアヘン条項の重要性を論じた。
うちア)賠償金の有無とは、「敗戦条約」には敗者が勝者へ支払いが義務づけられるが、「交渉条約」にはそもそも賠償金の概念はなく、両者は基本的に違う。
 安政条約締結の直前、ハリス米総領事(のち公使)は、米国と通商条約を結べば多くの利点があるとする演説「日本の重大事件に就いて」(1857年12月12 日)を江戸城で行い、その一つとしてアヘン禁輸を強調した。
 「条約一覧」に示した通り、米シャム条約(1833年)、米中望廈条約(1844年)以来の米国外交のアヘン禁輸策を踏襲した主張である。アヘン問題をめぐって、アメリカとイギリスは決定的に対立していた。
条約一覧-とくにアヘン条項をめぐって
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 出典:拙著『黒船前後の世界』(増補版 ちくま学芸文庫 1994年)411ページ。
 左から「合法化」、「記載なし」、「禁輸」、「備考」と並べ、イギリス植民地ペナンでの合法化(1784年)と米=シャム条約(1833年)の「禁輸」、ついで英清南京条約(1842年)の「記載なし」と米清望厦条約(1844年)の「禁輸」へとかわる、複雑な過程を一覧表にまとめた。
 最終的には第2次アヘン戦争の最中の英清天津条約(1858年6月26日)において「洋薬」と名前を変え、アヘン貿易は「合法化」された。一方、日米修好通商条約(1858年7月29日)ではアヘン「禁輸」が明示される。
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【結びにかえて】
 約20年前に書いた「史観と体験をめぐって」に、「……溜まった「筆債」を返すために歴史書の執筆を再開した。書きたいテーマは幾つもあったが、まず『黒船と開国』(仮題)を第1に選んだ。開国150周年(1854年3月の日米和親条約締結から)が1年半後に迫っている」と述べた。
 その私なりの一つの回答が拙著『幕末外交と開国』(ちくま新書 2004年)であり、その増補版が『幕末外交と開国』(講談社学術文庫 2012年)に他ならない。しかし本書は1854年締結の日米和親条約で終わっている。
都市横浜の起源となる横浜開港は、日米和親条約の締結からさらに5年後の1859年6月2日である。戸数100戸(人口約500人)の横浜村(日米和親条約の交渉・調印の地)が横浜町となり、30年後の1889年に横浜市となった。
いま横浜市は人口337万を数える日本最大の都市(政令市)である。その成長の過程、要因、条件等々を描く仕事が眼前にある。それを成し遂げるまで、しばらく目を離すことができない。

変わりつつある世界(10)

 7月17日、ロシアとクリミヤ半島をつなぐクリミヤ橋が2度目の爆破を受けたとの報道が入る。

【ロシア、ウクライナ入港の全船舶を「軍事物資の運搬船とみなす」…穀物倉庫への攻撃も相次ぐ】
 20日の読売新聞は次のように報じた。
 ロシアが黒海を経由したウクライナ産の穀物輸出合意から離脱したことを巡り、露国防省は19日、黒海沿岸のウクライナの港を利用する全ての船舶について、軍事物資の運搬船とみなすと表明した。ウクライナに入港する船舶が軍事的な標的になり得ると示唆し、警告を一段と強めた格好だ。
 露国防省は声明で、20日午前0時(日本時間20日午前6時)から、こうした措置を始めると明らかにした。さらに、その船の船籍国(旗国)についても、ウクライナ政府を支援する国と判断すると警告した。
 露政府は、18日に「黒海が危険区域になった」と宣言したばかり。さらなる威嚇は、ウクライナによる穀物輸出の継続を阻む狙いのほか、露産穀物・肥料の輸出拡大で譲歩を引き出すため、米欧に揺さぶりをかける意図もあるとみられる。
 プーチン露大統領は19日、閣僚との会合で、「我々は奇跡的な忍耐と寛容性をもって合意を何度も延長してきた」と発言。露産穀物の輸出が米欧の経済制裁で阻まれてきたとして、合意離脱を正当化した。露産穀物・肥料に関する経済制裁の解除や、国際決済網への復帰などの条件が満たされれば、「即座に合意に復帰する」とも主張した。
 要積み出し港がある南部オデーサ州で3日連続となる攻撃を行った。ウクライナ大統領府によると、19日には穀物倉庫が被害を受け、中国向けの穀物約6万トンの損害が発生した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日のアイルランド首相との会談で、「穀物輸出のための港湾施設を狙った攻撃は、ウクライナだけでなく世界の安定を脅かす」と非難した。

【1?6月の訪日客1071万人 消費単価はコロナ前超え】
 19日の日経速報メールは次のように報じた。
 訪日客数が緩やかに回復している。6月は新型コロナウイルス禍前の水準の7割を初めて超え207万人だった。1人当たり旅行支出は2019年を上回り、4?6月期の消費総額はコロナ前の95%まで回復した。日本の観光業界は人手不足が続いており、今後の急激な客数増に対応できるかは見通せない。消費単価の向上が重要になる。
 日本政府観光局(JNTO)が19日に発表した訪日客数によると、23年1?6月は1071万2000人だった。1000万人の大台に乗せ、コロナ前の19年同期(約1663万人)比の約6割の規模に戻った。
 6月はコロナが急拡大した20年2月以降、初めて200万人を超え、207万3300人。国・地域別では韓国が54.5万人と最多だ。19年6月比で10.9%減った。次いで台湾が38.9万人(15.6%減)、米国が22.6万人(29.2%増)だった。
 22年10月に水際措置が緩和されて以降、23年3月からは単月での訪日客は、コロナ前の60%台後半で推移していた。まだコロナ前の水準に届かないのは、航空便の回復の遅れや、中国人の訪日団体旅行の規制がある。
 全日本空輸(ANA)の6月末時点の国際線全体の運航便数はコロナ前の6割強の水準で北米はほぼ復調した。一方で中国路線は3割強にとどまる。ウクライナ侵攻の影響でロシア上空を飛行できずに迂回を強いられる欧州路線も5割強の水準だ。
 ANAの井上慎一社長は中国や欧州の遅れを念頭に「国際路線全体は23年度中にはコロナ前の100%に戻らないだろう」とみる。
 中国政府は日本への団体旅行の規制を続けている。6月の中国本土からの訪日客は20.8万人で個人旅行が支えている。中国でビザ発給数が最も多い上海の日本総領事館によると、6月の発給数は19年平均の約8割に達した。大半が短期滞在ビザで、個人旅行では回復の兆しが見える。
 訪日客の数ではコロナ前に届いていないが、経済活性化に欠かせない観光客の消費額では「コロナ前超え」が見えてきた。
 観光庁が19日に発表した23年4?6月の訪日外国人の旅行消費額は1兆2052億円で、19年の同時期の95.1%まで戻った。訪日客1人あたりでみた旅行支出は20万5000円(速報値)で19年同期比32%増えた。
 1人あたり消費額が増えたことで、韓国や台湾、フィリピンは訪日数はコロナ前に比べて減ったものの、全体の消費額ではプラスだった。
 大きな要因は円安にある。外国為替市場ではコロナ禍前の19年1月は1ドル=108円台前後で足元では139円台。国外とのインフレ差も日本の割安感に拍車をかけた。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストによると、長らく日本に来られなかった観光客が、訪日時に通常よりも購入品を増やしたり、単価が高いホテルに泊まったりするぺントアップ(先送り)需要が強いという。
 今後の課題は中国人観光客がさらに戻ってきた場合に、受け入れ体制が整っているかどうかだ。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は23年の日本の旅行・観光部門の雇用は560万人と分析する。19年比で30万人少ない。コロナ危機下に観光部門が低迷し、離職者が相次いだ穴を埋め切れていない状況だ。
 受け入れ体制が整う前に訪日客数の増加をいたずらに追い求めると、観光地やリゾート地に混乱を生む可能性もある。訪日客一人ひとりの消費額を増やせれば、数を追わずにコロナ前のインバウンド消費の水準を取り戻せる。
 多くの人が観光地を訪れることで、騒音などのオーバーツーリズム(観光公害)も問題になっている。木内氏は「単に観光客の数を追い求めるだけなく、地域経済活性化の観点から地方への誘致や消費単価を増やす観光商品を拡充すべきだ」と、持続可能な観光産業の形を模索するよう呼びかける。

【ライオンなど10社が連合、荷下ろし4割短縮 24年問題で】
 同じ19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ユニ・チャームやライオンなど日用品メーカーと卸の合計10社が年内に共同の物流システム基盤の運用を始める。数時間を要した荷下ろし作業時間を4割短くする。10社連合は共同運送も視野に入れ、運転手不足で物流が滞る懸念がある「2024年問題」に備える。トラック運転手の長時間労働を前提としていた物流の見直しが大規模な合従連衡につながってきた。
 24年問題はトラック輸送に頼る企業間物流で大きな影響が予想される。これまで企業側も鉄道や船を活用するなどしてトラック輸送への依存を軽減してきたが、長時間労働の要因である配送の荷下ろしや待ち時間といった長年の課題について抜本的な解決を迫られている。
 共同の物流システム基盤を運用する10社は、国内の日用品シェア(販売金額ベース)で5割を超える大型物流連合となる。輸送手段にとどまらず、業務全体をつかさどるシステム段階からの物流の効率化に踏み込む。規模の利点も生かし、運用コストを減らす。
ユニ・チャームやライオンなどが参画
 日用品メーカーはエステー、ユニリーバ・ジャパン(東京・目黒)、小林製薬などの9社、卸からはPALTACの計10社が参画する。日用品卸のあらたも参加を検討中で、各社はP&Gジャパン(神戸市)にも参加を呼びかける方向で検討する。
 まず各社は商品の受発注システムを運用するプラネットが開発した物流基盤システムを採用する。メーカーが商品を発送する際に各トラックが運ぶ商品や荷物量のデータが事前に卸に共有される。卸の倉庫で段ボールを1箱ずつ納品伝票と突き合わせて商品を確認する細かな検品作業が不要になる。
 トラック運転手の荷下ろしや待機時間を長くしていた要因の一つは、荷物の検品作業だった。これまではメーカーと卸の間で商品の出荷情報が事前に共有されていなかったため、細かな検品作業が必要だった。
 プラネットとライオン、PALTACの実証実験では、荷下ろしの作業時間を4割短くできた。効果が確認できたことから本格的に年内にも運用を始める。
 物流を巡る企業間の協業は多いが、これほど大規模にトラック運転手の負担軽減を目的にしてシステム共有まで踏み込んで取り組む例はない。
 国土交通省の推計では現在、待機時間と荷物の積み下ろしで平均3時間を要する。国はこれを1時間以上短くすることを荷主企業に求めている。6月に政府がまとめた物流問題対策でも検品作業の効率化を挙げた。
 生活用品業界の競合同士が大同団結するのもこうした政府の方針に沿った動きとなる。
日用品連合、共同配送も視野
 日用品は商品の種類が多いうえ、配送頻度も高い。全日本トラック協会によると、トラック貨物量の4.5%(20年度)を日用品が占める。
 トラックの荷下ろし作業が長引くと、別のトラックは倉庫周辺で待機せざるを得ない。長い場合は半日単位で待ち時間が発生することもある。運転手の長時間労働の要因の一つとなっている。
 日用品連合は今後、メーカー各社の共同配送も視野に入れる。各社の拠点を最短ルートで回り効率よく卸の倉庫に届け、配送スケジュールを自動で算出する仕組みも検討する。
 物流連合に参加しない最大手の花王は自前の卸網を持つため、独自に物流効率化の取り組みを進める。3月に愛知県に開設した倉庫では事前にトラックの荷受け作業を予約できるようにした。2?3時間かかっていた作業が数十分に短くできた。
 24年4月からトラック運転手の時間外労働に年間960時間の上限が課せられる。物流会社は運転手を増やさなければ、同じ量の貨物を運べなくなる。野村総合研究所によると、30年に全国で35%の荷物が運べなくなる恐れがある。
「物流側が運ぶものを選ぶ時代になる」
 幅広い業界で運転手の負担減の取り組みが喫緊の課題となっている。食品業界では日清食品とサッポログループ物流が効率輸送で協業する。三菱ケミカルと三井化学は22年度から一部地域で化学品の共同輸送を始めた。
 20年にかけてインターネット通販の急増を背景に、物流業界では運送会社から消費者に渡す配送で遅れが頻発し、配達員が疲弊する「宅配クライシス」に見舞われた。通販会社が独自配送網を構築したり置き配や宅配ボックスを普及させて再配達を減らしたりし、一定程度落ち着いている。
 ライオンで物流を担当する南川圭執行役員は「荷主が物流会社を選ぶ時代が長く続いたが、今後は立場が逆転する。物流側が運ぶものを選ぶ時代になる」と話し、「業界全体で協調しないと、日用品を運ぶ事業者が少なくなる懸念もある」と危機感を募らせる。「物流クライシス」を未然に防ぐため、物流業界の構造的な問題への取り組みが、官民全体で求められている。

【メタがThreads (スレッズ)を発売】
 旧フェイスブックのメタが7月6日から、新しいSNSとしてThreads (スレッズ)を提供している。ウェブニュースの数や注目度が最も高く、Twitterの代わりになり得る可能性がある。国別では最大がインドの顧客が最多である。

【理系拡充へ大学など111校支援 3000億円基金、裾野広く】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府が設けた3000億円の基金で大学の理工農系学部新設などを支援する事業が動き出す。文部科学省が21日、初回の支援候補として111校を選定した。申請校の9割が権利を得た。デジタル人材などが不足するなか、育成の場を増やすことを優先する国の姿勢が鮮明になった。
【関連記事】
* ・デジタル時代、大学教育に変革迫る 公私立大理系拡充へ
* ・大学10兆円ファンド認定候補、東大・京大・東北大に絞る
 今回は基金から助成する大学と高等専門学校を選ぶ第1段階の位置づけだ。実際に最大40億円の助成を受けるには学部設立などの認可を得る必要がある。資金のバラマキで大学の安易な延命につながらないよう、厳格な審査が求められる。
 事業は①デジタルや脱炭素に関する学部の新設などをする公私立大に最大20億円を助成、②高度なデジタル人材を育成するため大学院の定員増などをする国公私立大・高専に10億円を助成――の2つある。②では質が高い提案に最大10億円を上乗せする「ハイレベル枠」も設けた。これらを併用することも可能だ。
 事業は独立行政法人「大学改革支援・学位授与機構」が実施主体で、公募は最長で32年度まで行われ、①は約250大学、②は約60校を選定する方針だ。初めてとなる今回は5月に公募が締め切られ、学生確保などの計画を機構の外部有識者からなる選定委員会が審査した。
 申請は延べ123校で、全大学・高専の7分の1に上った。学部新設などは申請した全67大学が選ばれた。新設予定の学部・学科はデジタル系が6割、環境系が2割、農業系が1割程度。共愛学園前橋国際大や大阪経済法科大など、初めて理系学部を設置するとした大学が全体の3割を占めた。
 大学院の定員増などは申請の9割にあたる51校(うち高専5校)が採択された。ハイレベル枠は国立7大学が名を連ね、北海道大は海外トップ大の教員を配置して高度デジタル人材を輩出する計画を示した。
 政府による大学への巨額支援は相次ぐ。代表例が10兆円規模の「大学ファンド」で、世界トップ級の研究大学の育成に主眼を置く。一方で3000億円基金は理系人材の厚みを増すために広く大学を支援することを目的とする。
 3000億円基金の支援対象の公募は来年以降も行う。申請の9割が助成金を得る権利を得た今回の結果は、理系の人材育成を急ぐ同省の姿勢を映したものだ。同省幹部は「求める要件を満たせば、まず支援して大学側に動いてもらうのが基金の趣旨だ」と語る。
 実現の可否は教員の確保にかかっている。学部新設などの認可を得るには教員数などの審査をクリアしなければならないためだ。
 20年に東京大などを中心に構成するコンソーシアムが国公私364大学に尋ねたところ、数理教育は5割、データサイエンス・人工知能(AI)は6割が「担当できる教員が不足している」と答えた。
 デジタル人材などは民間や大学間での争奪戦が激しい。基金の支援候補となった私大担当者は「教員を公募中だが、確実に確保できるかは分からない」と漏らす。教員をそろえても質が伴わなければ優れた学生は育たず、助成金が無駄になりかねない。
 文科省は22年にカリキュラム編成などの学務の中核を担う教員が複数大学で兼任できる制度を導入した。各校も教育の質を高める工夫が求められる。
 大学経営に詳しい日本開発構想研究所高等教育研究部の長島弥史郎主任研究員は「国は各大学が教員の質や量を確保できるのか厳しく審査することで、グローバルでも活躍できる理系人材を輩出できる土壌を整えてほしい」と話した。
 政府は理系人材を増やすため様々な対策に取り組んでいる。
 文科省は24年度から東京23区内の大学の定員規制を理工分野のデジタル系学部・学科に限って緩和する。東京工業大が同年度から情報理工学院の定員を40人増やすと届け出た。
 日本の大卒者のうち、理工農を含む自然科学分野の学位取得者の割合は35%で、英国(45%)やドイツ(42%)、韓国(42%)と比べて低い。
 政府はデジタル人材が30年に約79万人不足すると推定する。政府の教育未来創造会議も理系を専攻する学生を5割程度にする目標を掲げる。(大元裕行)

【米政府「AI製」明示で合意 GoogleやOpenAIなど7社と】
 同じ21日の日経速報メールは次のように報じた。
 米政府は21日、オープンAIやグーグルなど生成AI(人工知能)の開発を手掛ける米主要7社と、AIの安全性を確保するルールの導入で合意したと発表した。AIによって作られたコンテンツに「AI製」と明示させるシステム開発などが柱となる。
* 【関連記事】AI規制、数週間以内に大統領令 バイデン氏が表明
 「Chat(チャット)GPT」など高度な生成AIが急速に普及するなか、適正な利用や悪用の防止を巡る法整備では欧州連合(EU)が先行する。米国の場合、現状では法的拘束力のない自主的な取り組みと位置づけており、実効性が課題になる。
 米政府によると、オープンAIとグーグルに加え、マイクロソフト、メタ、アマゾン・ドット・コム、生成AIスタートアップのアンソロピック、インフレクションAIの計7社と合意した。
 新ルールはAIの透明性を高め、詐欺や偽情報の拡散を防ぐのが狙いになる。各社のAIシステムから作成した文章や映像、音声などのコンテンツには「AI製」と分かるようにする。電子的な透かしを表示する。各社は関連システムの導入を受け入れた。
 AIサービスを発売する前に、差別や偏見を助長する危険性がないか評価する。サイバー攻撃への安全性が担保されているかもチェックする。各社はリスク管理の状況を政府や学会、国民と共有する。
 企業による自主的なコミットメント(約束)で、罰則などはない。一定の実効性を担保するため、独立した専門家がルールの順守状況をチェックする仕組みを取り入れる。
 バイデン米大統領は21日、各社のトップとホワイトハウスで会談し、正式に確認する。米政府は声明で「責任あるAI開発の重要な一歩となる」と強調した。今春以降、企業側との意見の擦り合わせを進めていた。
 米政府は今後、法的拘束力を持たせるために大統領令を準備する。米連邦議会も与党・民主党を中心にAI関連法案の検討を進めている。こうした行政措置や立法までのつなぎとして、政府と企業の約束を先んじて公表した。7社以外のスタートアップなどにも参加を求めていく。
 米政府の取り組みは従来、差別や偏見が拡大しないよう注意を促す指針にとどまっていた。生成AIを中心に加速度的に新しいサービスの開発が進んでおり、まずは企業の自主規制から始める。
 AIの法整備を巡る動きではEUが先行している。欧州議会は6月にAI法案を採択し、AIのリスクに応じた規制を打ち出した。
* 【関連記事】AI製のコンテンツ、明示を EUが規制案を採択
 重要インフラや雇用・教育などに関わるAIをハイリスクと位置づけ、企業に内部監査や安全性評価を求める。禁止事項への違反があれば巨額の罰金が科される。
 どの国・地域のルールが先行モデルとなるかは今後のAI覇権を占う。米政府は安全性の確保を急ぐ一方で、規制が技術革新を過度に阻害しないようバランスに目配りする。日本政府も現時点では米国に近い立場で、厳しい規制をいきなり導入することには消極的だ。
 日米欧ともに誤情報対策や透明性確保などを重視する姿勢は変わらない。ただ規制の厳しさでは今後違いが出る可能性もある。
 ホワイトハウスは同盟国や友好国と国際的な枠組みについて協議すると明らかにした。日本やインド、オーストラリアなどと意見を交わしている。主要7カ国(G7)がルールについて話し合う枠組み「広島AIプロセス」にも、米国の取り組みを反映していく方針だ。
 中国は生成AIの規制を8月に施行する予定だ。生成AIの活用を推奨しつつも、国家転覆や社会主義の否定につながる内容を禁じている。(ワシントン=飛田臨太郎、デジタル政策エディター 八十島綾平)

【中国、動静不明の秦剛外相を解任 王毅氏が兼務】
 25日の日経速報メール【北京=田島如生】によると、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会は25日、中国外交担当トップの王毅(ワン・イー)共産党政治局員に外相を兼務させる人事を決めた。公式な動静が1カ月間不明になっていた秦剛氏を解任した。
 中国国営新華社が伝えた。習近平(シー・ジンピン)国家主席が主席令に署名した。王氏は2013年3月からおよそ10年間、外相を務めた。退任後に再び外相に就くのは極めて異例だ。
 全人代常務委は外相解任の理由を明らかにしていない。秦氏が外相と兼ねてきた国務委員(副首相級)の職務がどうなるかも触れていない。
 香港メディアや台湾メディアは秦氏の動静不明について、新型コロナウイルスの感染や女性問題の可能性を報じていた。いずれも真偽は定かではない。
 中国外務省のホームページでは、秦氏は6月25日にベトナムやスリランカの外相らと会談したのを最後に動静が更新されなかった。外交政策の要となる外相の動きが1カ月も公にされないのは珍しい。
 秦氏は11?14日にインドネシアで開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議を欠席した。中国外務省は「健康上の理由」と説明し、代理として格上の王氏が参加した。
 王氏は外務省の日本語研修組で04年から07年まで駐日大使を務めた。13年に外相に就任し、22年10月の党大会で党序列24位以内の政治局員に昇格した。
 25日の全人代常務委では中国人民銀行(中央銀行)総裁に前副総裁の潘功勝氏を充てる人事も決めた。

【ビッグモーター兼重社長が辞任 後任に和泉専務】
 同じ25日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 中古車販売大手のビッグモーター(東京・港)は25日、兼重宏行社長が26日付で辞任すると発表した。後任には和泉伸二専務が就く。損害保険会社に対して不適切な保険金請求行為があったことから、経営責任を明確にする。
* 【関連記事】兼重社長「天地神明に誓って知りませんでした」
 同日、都内で開いた記者会見に出席した兼重氏は「不適切な保険金請求をしていたお客様には返金を含めた対応を進める。社内調査を継続し、早期の全容解明に努める」と話した。そのうえで「企業風土を一新するには、新社長のもと全社一丸となって取り組むことが近道と判断し、社長を辞任する」とした。
 ビッグモーターを巡っては、ゴルフボールを入れた靴下で顧客から預かった自動車をたたいたり、ボディーに故意に傷を付けたりと、保険金を過大に請求するための悪質な行為が明らかになっている。同社のガバナンス不全に加え、同社に対して損害保険ジャパンが2011年から延べ37人の出向者を出していたことがわかり、損保会社の責任を問う声が強まる可能性もある。
 ビッグモーターの兼重氏は1951年生まれ。1976年に前身の兼重オートセンターを創業し、78年に株式会社化すると社長に就いた。

【日本人、全都道府県で初の減少 外国人299万人が底支え】
 26日のニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・日本人の人口は80万人減り、減少幅は調査開始以来最大に
・東京は2年連続で減少、沖縄県も初めて減った
・外国人は全都道府県で増加、経済や社会の担い手に
 人口減が進む日本で外国人の重みが増している。2023年1月1日時点の日本人人口は1973年の調査以降初めて全都道府県で前年より減った。出生率が高い沖縄も初めて減少に転じた。外国人の人口は過去最多の299万人に増え、経済や社会の担い手として日本を底支えしている。
 総務省が26日付で住民基本台帳に基づく人口動態調査を発表した。日本人は1億2242万3038人で前年から80万523人減った。減少幅は1968年の調査開始以来最大となった。
 首都圏の日本人は2年続けて減った。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県では前年比0.2%減の3553万7661人だった。
 住民票を持つ外国人は全国で28万9498人増の299万3839人だった。新型コロナウイルス禍で滞っていた人の往来が再開し、3年ぶりにプラスに転じた。増加幅は13年に調査を始めてから最大となった。
 外国人は全都道府県で増えた。人口数、増加数ともに最も多いのは東京だ。前年より6万3231人多い58万1112人だった。東京の日本人数は2年続けて減ったが、外国人を含めると総人口数は前年を上回る。
 東京に次ぐ外国人の増加数は大阪(2万4963人)、愛知(1万9326人)と続く。市区町村別では1747のうち85.8%の1499で増えた。
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、2067年には日本の総人口の10.2%が外国人になる。都市部だけでなく地方でも外国人が社会に浸透する時代が迫っている。
 経済・社会を動かし成長を続けるには、日本で能力を発揮したいと望む外国人との共生が欠かせない。国際協力機構(JICA)は、政府の目指す成長シナリオを40年に達成するのに必要な外国人労働者は20年の4倍近い674万人になると推計した。
 日本人全体に占める15?64歳の生産年齢人口の割合は59.03%だった。1994年に調査を始めて以来初めて増えたものの、6割に満たない。15歳未満の人口が先細り将来の働き手の確保が急務である状況は変わらない。
 日本人の人口は09年の1億2707万6183人をピークに14年連続で減少した。死者数から出生者数を差し引いた「自然減」は79万3324人だった。
 転入者が転出者を上回る「社会増」は東京、神奈川、埼玉、千葉、福岡、大阪、茨城、宮城、滋賀の9都府県だった。人口流入が都市部に偏る傾向が続く。

【中国外相、異例の更迭 「習近平は独裁者」絡む米中政治劇 編集委員 中沢克二】
 26日のニュースメールは次のように報じた。
 「日本は悪人の手先になるな」。4月の日中外相会談で、日本は米国という「悪人」の手先となるべきではないと強く警告した中国外相(当時)の秦剛が、表舞台から姿を消してから1カ月。驚くべきことに、その後任として、前任者で共産党政治局委員の王毅(ワン・イー)の復帰が25日夜、発表された。前代未聞の異常事態である。
 英外相のクレバリーは7月下旬とされた中国訪問を中止。新興国でつくるBRICSが8月、南アフリカで開く首脳会議を前にした外相級の現地会合やオンライン特別会議は、王毅と外務次官の馬朝旭がそれぞれ代行していた。
 歯切れが悪かった。北京駐在の外国メディア記者が繰り出す鋭い質問への受け答えに窮して何も言えない場面が目立ち、右往左往している印象だった。
 中国共産党内で重要人物が消え去る時、様々な理由がつく。今回は当初、強調されたのが秦剛の「体調」「身体上の問題」だった。だが、こうした説明は問題の本質とさほど関係ない例も多い。案の定、25日の外相交代発表でも健康問題との指摘は一切なかった。
 しかも共産党総書記で国家主席の習近平(シー・ジンピン)が人事の主席令に署名したと公表した。人事の最終決着の責任が習にあることを明確にしているのは、注目に値する。つまり、秦剛にバツを付けたのは、習その人なのだ。
 共産党内で要人更迭に至る事件の大半は、中国共産党内の「政治問題」である。最近の特殊な政治状況下では、その大部分が、習の考え方ひとつで最終的な扱いが決まる。
 自らの権限では触れるのが不可能な「政治問題」であるからこそ、当の中国外務省は、国際社会に何ら意味のある説明ができなかった。一部外部メディアは「女性問題」の可能性を指摘していた。しかし、これも本質を全て表していないかもしれない。
 秦剛は2022年秋の共産党大会の後の年末、実力ある先輩らを抑え、当時56歳という若さで外相に抜てきされた。しかも、今年3月には副首相級の国務委員にも昇格していた。
 共産党の人事システムでは、昇格の際、厳格な事前の「身体検査」がある。国家安全系統が実施する調査は、日本の組閣で閣僚候補者らが通過しなければならない「身体検査」とは比べものにならないほど念入りだ。秦剛の場合、赴任国の現場にも裏の調査が入っているはずだ。
 もし秦剛に腐敗、汚職、女性問題があれば、とっくの昔に上層部へ報告されている。つまり、22年の段階では上層部が問題にするような案件がなかったということになる。
 「(外相交代に至った)今回の問題の焦点は、対米関係のコントロールと、(秦剛)自身の実力だろう」。これは最近の米中関係をよく知る関係者の鋭い分析である。秦剛自ら「悪人」と断じた米国との困難な関係のコントロールが、今回の謎の失踪と絡んでいるという見立ては興味深い。
 確かに秦剛が姿を消す直前には、大きな出来事が起きていた。悪化する米中関係と、それが中国の内政に及ぼす影響は多大だった。それは、米大統領のバイデンが、自らの演説で、習近平を「独裁者」と表現したことだ。6月20日、西部カリフォルニア州での選挙イベントでの出来事である。
 問題はバイデン発言のタイミングだ。「(共産党と習にとって)本当に最悪だった。(内政上、トップの)体面を大きく傷付けてしまった」。別の識者も、似た見方を披露する。
 秦剛が姿を消す1週間ほど前だった6月19日、習は北京の人民大会堂で米国務長官のブリンケンと会談していた。だが、その際の席の配置が異例だった。習はコの字に並ぶ机の議長席の位置にひとり着席。ブリンケンら米国側と、王毅、秦剛ら中国側がそれぞれ向かい合って習の講話を聞く形になった。
 これは中国では2部門の部下らが上司に報告するスタイルだ。ブリンケンは習の部下の位置に座る屈辱を味わった。かつての「冊封体制」の下での朝貢国の扱いである。誇り高き米国にとって本来、受け入れがたい仕打ちである。
 しかし、ブリンケンは中国の「非礼」に、席を蹴って立ち去るようなことはしなかった。不思議である。この中国の仕打ちと、ブリンケンの冷静すぎる反応は当時、在北京の外交関係者の間で大きな話題になった。
意外に効果的だったバイデン発言
 とはいえ、ここから太平洋をまたいだ壮大な「政治活劇」が始まる。当然だが、米側も黙ってはいなかった。「太平洋の向こうからバイデン自らがすぐに『(習は)独裁者』と叫ぶことで反撃したのだろう」。事実関係がどうであれ、中国側では、バイデン発言は意図的だったという受け止め方が多い。
 習と、その側近集団は、ブリンケンを事実上、習にひざまずかせることで、世界に響きわたる習の絶大な権威を一般国民に示したかった。だからこそ、中国国営中央テレビは、夜のメインニュースで習がブリンケンに「訓話」をたれる様子を流している。
 これにより、期待される習の次期訪米は、中国から頭を下げに行くのではなく、米側からのたっての要請だという雰囲気を醸し出したかった。この中国側シナリオは、中国内の報道からも透けて見える。
 共産党機関紙、人民日報の国際情報紙「環球時報」は6月19日、1週間後に消える秦剛と、ブリンケンの会談の「大成功」を1面トップで報じた。そして翌20日、国営通信新華社の情報紙「参考消息」が、習とブリンケンの握手を1面トップで扱った。つまり、ここまでは秦剛の「習近平対米外交」への多大な貢献をたたえていたのだ。
 習の次期訪米とは、11月に米国カリフォルニアで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のための旅だ。そこで世界が注目する米中首脳会談をするのが、真剣に検討中のシナリオである。一見、これは成功しそうだった。
 ところが、バイデンが、習を独裁者呼ばわりしたとなると、話が違ってくる。中国の内政上のシナリオが崩れかねない。しかも、悪いことに、バイデン発言が飛び出したまさにそのころ、ブリンケンは中国を離れたばかりだった。
 もし、ここで北京から激烈に反応すれば、せっかく習がブリンケンを事実上、ひざまずかせ、「朝貢」の雰囲気さえ醸し出した成功が無に帰す。中国国民に、苦心の演出の舞台裏がばれてしまうのである。
 秦剛をトップとする中国外務省は、「ブリンケン訪中は失敗」という評価になることを極度に恐れていた。そのため当初、北京からの直接の反応が極めて鈍かった。在米中国大使館は6月22日、駐米大使の謝鋒が同21日にホワイトハウスと米国務省の高官に強く抗議したと明らかにしているが、抑制的だった。しかも後手に回った印象が強い。
 中国上層部には「トップの権威があれほど傷付けられたのに、担当部門(中国外務省)は有効な反撃をできなかった」という不満がたまっていったという。これは、半ば「八つ当たり」だ。しかし、現在の中国政治ではよくある構図だ。
 かたやバイデンは余裕しゃくしゃくだった。自身の「独裁者発言」について、記者から米中関係への悪影響を問われると「中国との関係が損なわれていると考えるのは過剰反応だ」と受け流している。
異例の大抜てき、そして劇的な更迭
 自身の独裁者発言が、米国で受け止められている以上に、中国指導部内で大問題となっていたのをバイデン自身は十分に認識していなかったかもしれない。習の絶対的な権威は、たとえ米大統領であろうと侵してはならない聖域になりつつある。それが昨今の「習近平新時代」の雰囲気だ。
 このタイミングでバイデンに「習は独裁者」と言わせてしまったことに代表される「不始末」は、いったい誰の責任なのか。そして、対米関係をコントロールできないのは誰のせいなのか。本来、誰のせいでもない。
 だが、中国のヒエラルキーの中では誰かが責めを負うことになりかねない。「その代表が、彼(秦剛)だったという可能性は十分ある」。そんな指摘が内部から間接的に漏れ伝わってくる。
 少なくても1カ月以上、姿を消した秦剛が、再び姿を現して復帰しても今後、ずっと長期不在の理由を推測される。中国内と世界から中国外交を仕切る要だとみなされることはないだろう。これでは、とても外相の職務に集中できない。本人にとっても針のむしろだ。交代は当然だった。
 22年時点で中国外務省には、王毅の後任外相としてふさわしい有力候補が数多くいた。その中で、秦剛の下馬評は高いとはいえなかった。そもそも中国外相にとって今、最大の仕事は対米関係だ。だが、秦剛はもともと対米外交の専門家ではない。
 確かに直前、ワシントンに派遣された駐米大使という素晴らしい経歴がある。とはいえ、折からの米中関係の悪化で新たな政治的なパイプを構築することなど夢のまた夢だった。「米国に知己が少なかった秦剛が、業績を残すのは、もともと無理な話だった」。米中関係に詳しいアジアの外交筋の指摘である。
 では、対米関係の細かいコントロールなどとても無理な秦剛が、なぜ外相に抜てきされたのか。そもそも、そこに今回の謎の交代劇の根本原因がある。そして今、秦剛抜てきを最終的に承認した習自身が、混乱の収拾のため王毅を再度、登用する決断を下した。
 とはいえ今後4、5年、政治局委員の王毅が外相にとどまるとは考えにくい。必ず、再び後任人事が焦点になる。大国、中国の外交的な混乱が当面続くことは間違いない。(敬称略)
中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

【ビッグモーター社長を聴取 国交省、実態解明が本格化】
 同じ26日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 中古車販売大手ビッグモーター(東京・港)の保険金不正請求問題で、国土交通省は26日午後、同社の和泉伸二社長らからの事実関係の聴取を始めた。不正行為の悪質性や組織性の実態解明がポイントで、内容次第で立ち入り検査にも踏み切る構えだ。
 聴取は国交省内で午後1時すぎから始まり、会社側は26日付で就任した和泉社長と、石橋光国副社長らが出席した。和泉社長は聴取の冒頭、「このたびは大変お騒がせしており、誠に申し訳ございません」と謝罪した。
 ビッグモーターの特別調査委員会がまとめた報告書によると、同社社員らは修理の依頼を受けた車体に無かった傷を作り出し、損害保険会社側に保険金を過大請求していた。ヒアリングではこうした行為が道路運送車両法に違反しているか見極める。
 根拠規定は「依頼されない点検・整備を不当に行い料金を請求しないこと」と定める同法施行規則62条になる。国交省は不正の事実関係や会社側の認識を尋ねる。
 斉藤鉄夫国交相は21日の閣議後会見で「道路運送車両法に違反する疑いがある場合には立ち入り検査も含め、適切に対応していきたい」と述べた。ヒアリングを通じて同法違反の疑いがあると判断すれば、同省は立ち入り検査に踏み切る方針だ。
 最終的に違反が認定された場合、国は整備工場ごとに行政処分を検討する。処分は重い順に①民間車検場の指定や工場の認証取り消し②一定期間の業務停止――の2つがある。仮に指定や認証が取り消されれば2年間は再取得できない。
 ビッグモーターの整備工場は2022年9月期で30カ所あり、すべての工場で認証や指定が取り消される事態になれば経営面への影響も小さくない。
 ビッグモーター創業者の兼重宏行前社長(26日付で辞任)は25日に開いた記者会見で、一連の不正行為について「組織的ではない」と話し、経営陣の関与を否定した。不正が相次いだ原因として従業員への過剰なノルマを挙げ「不合理な目標設定がノルマとなり、板金・塗装事業の元本部長が重圧をかけていた」と説明した。
 ビッグモーターの場合、今回の不正行為は刑事責任も問われかねない。特別調査委の報告書は「刑法の器物損壊罪にも当たり得る非常に悪質な行為」と言及した。
 交通事故の処理に詳しい西村学弁護士は「わざと傷を付けて水増し請求したのであれば、器物損壊罪だけでなく詐欺罪に当たる可能性もある」と話す。水増し請求によって過大な保険金を支払うこととなった損保会社が被害者となる構図だ。「だまされていた」ことが要件となるため、損保会社側に不正についての認識がないことが前提になる。

【株式報酬で人材確保 ソニーG3000人、ルネサス2万人】
 同じ26日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 人材確保のため従業員に株式で報酬を渡す企業が増えている。ソニーグループは約3000人、ルネサスエレクトロニクスは約2万人に譲渡期間に制限が付いた株式報酬を付与する。国内企業で約500社が導入し、過去5年で約10倍に伸びている。半導体や人工知能(AI)など専門人材は世界で不足するなか、株式報酬で働きがい(エンゲージメント)を高めて人材つなぎとめを狙う。
 ソニーGは今後数年間で約3000人の社員に現金による報酬に加えて株式報酬を与える方針だ。すでに一部で導入を始めていて、能力に応じて付与する株数は変わるが、1人あたり平均で約2000万円が株式報酬で支払われる見通し。
 ソニーGは映画やゲームや半導体、モビリティーなど幅広い分野の競争に勝つため、人材確保に力を入れる。これまで株式報酬を渡すのは取締役や執行役員など経営層にとどめていたが、高い能力を持つ専門人材にも広げる。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなどGAFAと呼ばれる巨大IT企業も株式報酬を導入しており、これに対抗する。優秀な働き手を集めて、中長期の経営参画への意欲も高めてもらう。
 ルネサスは国内、海外合わせた2万人が対象。半導体技術者が世界的に不足するなか、従業員の成果に報いたり、中途人材の採用時に割り当てたりと、株式報酬を積極的に活用する。
 日本国内の従業員の場合は1回に100万?数100万円程度に相当する株式を渡す。新卒採用した20代半ばの従業員でも、株式を加味した年収相当額が1000万円を超えるケースもある。23年をめどに米国勤務の社員向けにも従業員持ち株制度を導入する。海外拠点にも広げて社員全体の意欲を高め、人材流出を防ぐ。
 企業は株式報酬を使って成果を分かち合うことで、経営層と従業員が企業価値向上に一緒に取り組むことを狙う。
 ユニ・チャームは20年から中長期の企業価値向上を目指して、社員の関心を高めるため株式報酬を付与している。オムロンも22年に従業員持ち株会に加入する管理職の社員に株式報酬を付与し、23年には一般社員、新入社員まで対象を広げた。
 株式報酬を導入する企業は賃金や賞与などに上乗せして支給し、従業員が株高の恩恵を享受できる。一定期間勤めた後に自社株を割り当てる形式や、あらかじめ従業員に自社株を割り当て3?5年以上の売却制限を設ける形式などの種類がある。野村証券の調査では、売却時期などに制限を設ける株式報酬の導入企業は6月末で464社と5年前の約10倍になった。
 株式報酬の導入が増える背景には、企業経営者に株価を意識した経営が広がっていることもある。東京証券取引所が3月に株主価値を損なう「株価純資産倍率(PBR)1倍割れ」の是正を企業に促した。企業は一斉に自社株買いに乗り出し、23年の自社株買い額は過去最高となる見通しだ。企業は資産の割に低い株価や収益力の引き上げを迫られている。
 企業経営者は積み上がった自社株の活用策に株式報酬を選び、社員にも業績改善や株価上昇への協力を求めるようになった。セコムは2?5月に約250億円分の自社株を取得した。保有する自社株の一部をグループの社員約2万3000人に付与し、経営参画への意識を醸成する。
 企業には節税メリットもある。従業員に支払う給与として税務上の費用とみなされるため法人税の負担も軽減できる。
 一方、海外と比べると日本の従業員向け株式報酬制度の導入割合は低い。外資系コンサルのWTW(ウイリス・タワーズワトソン)が世界9カ国・地域の5000社超を対象にした調査では、日本企業で本部長相当の役職に導入したのは22年に約1割と最も少ない。欧米やシンガポールはおよそ5割だ。グローバルでの人材獲得競争に負けないためにも導入加速が急務になる。(古川慶一、本脇賢尚、向野崚)

【メタ増益、Threads収益化焦点 ネット広告底入れの兆し】
 27日の日経ニュースメール【シリコンバレー=奥平和行】によれば、インターネット広告に底入れの兆しが出てきた。26日までに2023年4?6月期決算を発表した米アルファベット(米グーグル持ち株会社)と米メタの2強はそろって増益を確保した。景況感の改善が追い風だが、回復力は限定的だ。人工知能(AI)の進化が競争の構図を変えるとの見方もある。

【関連記事】
* ・メタ4?6月、7四半期ぶり最終増益 広告に復調の兆し
* ・アルファベット、6四半期ぶり最終増益 ネット広告復調
 「ウクライナ戦争やロシア事業を中止した影響が軽くなったほか、広告に対する需要が増えて効率が高まった」。メタが26日に開いた決算説明会で、スーザン・リー最高財務責任者(CFO)はこう総括した。4?6月期は売上高が6四半期ぶりに2ケタ増となり、純利益も増加に転じた。
 この前日に4?6月期決算を発表したアルファベットも主力のネット広告事業の売上高が3四半期ぶりにプラスに転じ、最終増益を確保した。フィリップ・シンドラー最高事業責任者によると、小売りなどの分野の広告が堅調。景気後退への懸念が和らぎ、企業が広告への支出を増やしつつある。
米企業の広告予算が回復
 米資産運用大手のウィリアム・ブレアが7月上旬までに実施した調査によると、回答企業の57%が4?6月期の景気は前の四半期よりも改善したと回答し、このうち76%が広告予算を増やしたと説明した。電通グループも5月末、23年の世界のデジタル広告の売上高予想を前年比7.2%増から7.8%増へと引き上げた。
 ただ市況回復はまだら模様だ。アルファベットと同日に4?6月期決算を発表した米スナップは2四半期連続の減収となり、苦戦が続いている。26日の米株式市場で同社の株価は前日比14%下落し、6%上昇したアルファベットと明暗を分けた。
 背景にあるのは、企業が広告の「費用対効果」に厳しい視線を注いでいるという事情だ。アルファベットは4?6月期に主力の検索連動型広告の売上高が前年同期比5%増だった一方、他社サイトへの広告配信は5%減だった。効果が分かりやすい検索連動型への支持が高いことが分かる。
新サービスの収益化に力
 利用者や広告を出す企業のニーズに合ったサービスをつくれるかどうかも、違いを生んでいる。中国発の動画アプリ、TikTok(ティックトック)の人気が高まったことを受け、アルファベットとメタは対抗サービスを投入した。こうしたショート動画サービスも利用者の獲得が進み、収益化の段階に入りつつある。
 アルファベットは25日、21年に初めたユーチューブ・ショートの月間登録利用者が1年で約3割増えて20億人を超えたと説明した。シンドラー最高事業責任者は「収益化の面でも正しい方向へ進んでいる」と説明し、化粧品メーカーがマーケティング活動に利用した事例などを紹介した。
 メタもショート動画サービス、リールズの収益化に力を入れる。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は26日、AIを活用したコンテンツの推薦システムの活用などにより1日の再生回数が2000億回を超えたと説明し、「年間100億ドル規模の広告収入が見込める段階になった」と自信を示した。
AI活用、波乱含み
 アルファベットとメタはデータセンターなどAI関連への投資を増やし、成果の一部は広告分野に応用して収益確保を急ぐ考えだ。ただ、この分野では米新興企業のオープンAIと組む米マイクロソフトが活用に積極的で、ネット検索サービスのBing(ビング)などに生成AIを組み込んで2強を追う構えを見せている。
 アルファベットのスンダー・ピチャイCEOは「生成AIの普及で検索の進化を加速できる」との見方を示している。だが、必要な情報を生成AIですぐに得られるようになれば同社の「金城湯池」であるネット検索の利用が減るとの見方もあり、強力な新技術が波乱を呼ぶ可能性がある。

価格競争激化も
 消費者向けの新サービスではメタがツイッターに対抗してThreads(スレッズ)を開発し、利用の定着や収益化が焦点だ。登録は5日間で1億人を超えたが、足元では利用者が減っているとの指摘がある。ザッカーバーグ氏は26日、「毎日の利用は想定を上回っている。また、利用者のつなぎとめを優先し、収益化はそれからだ」と説明した。
 米起業家のイーロン・マスク氏が率いるツイッターも負けじと、広告の価格を大幅に引き下げて企業のつなぎとめに動いているとの見方が浮上してきた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは26日までに一部サービスの価格を5割引きにしたと報じている。価格競争の激化は2強の収益計画に影響を与える可能性がある。
【関連記事】
* ・メタのThreads、利用最多はインド Twitter代替争い激化
* ・ネット広告、生成AIで勢力図変化も 伸びるBingアクセス

【日銀、金利操作を修正 長期金利0.5%超え容認】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 日銀は28日に開いた金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を決めた。長期金利の上限は0.5%を「めど」としたうえで、市場動向に応じて0.5%を一定程度超えることを容認する。国債の大量購入で金利を抑え込む政策運営を柔軟化し、市場のゆがみを和らげる狙いがある。
 マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)買い入れといった措置は現状通り維持した。植田和男総裁は28日午後に記者会見し、決定内容を説明する。
 修正措置は28日から運用する。10年物国債を0.5%の利回りで無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りを1%に引き上げる措置も決めた。長期金利が上限の0.5%を緩やかに突破するといったケースは容認しつつも、1%超えを目指すような急激な金利上昇は指し値オペなどで抑え込む意図とみられる。
 日銀は2022年12月に市場機能の改善を目的に、長期金利の上限を従来の0.25%程度から0.5%程度に拡大した。もともと上限の0.5%を超える前に国債を大量に買い入れて金利を抑え込んでいたが、新たな案は市場動向によっては0.5%を超えることを認め、国債購入が過度に膨らまないようにする。
 運用を柔軟化すれば金利が日銀の想定を超えて上昇し、結果として大量の国債買い入れを迫られるリスクは残る。決定会合では修正案に「企業の稼ぐ力が高まったことを確認したうえで行う方が望ましい」として中村豊明審議委員が反対票を投じた。
 日銀が修正に踏み切った背景には長期化する物価高がある。6月の消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI)は前年同月比3.3%上昇した。上昇率は1年以上にわたって政府・日銀が目標とする2%を上回っている。
 円安は物価高を助長している側面もある。27日まで外国為替市場では1㌦=140円台の円安が続いていた。円安は輸入物価の上昇を通じて、物価高を長引かせる要因となっており、政府内では「140円台の円安は行き過ぎだ」との声も出ていた。
 同日公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、日銀は23年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI)の前年度比上昇率の見通しを2.5%に上方修正した。24年度は1.9%、25年度が1.6%で、数値上は政府・日銀が物価安定の目標とする2%付近が続く見込み。企業がコスト高を価格に転嫁する動きが続く。
 日銀の想定以上に物価の上昇が長期化すれば、出口を見据えた投資家の日本国債売りが激しさを増し、市場のゆがみが拡大する懸念がある。物価の継続的な上昇に確信が持てるまで現状の緩和の枠組みを維持するには、一定程度YCCを柔軟にする必要があると判断したもようだ。
 日銀は公表文で物価2%目標の「持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っておらず、粘り強く金融緩和を継続する必要がある」とし、「経済・物価を巡る不確実性が極めて高い」と記載した。今回もマイナス金利といった大規模緩和の大枠は維持しており、引き続き賃上げや経済・物価の動向を見極めた上で金融政策の出口のタイミングを探る考えだ。

【トヨタ、KDDI株を一部売却 保有の2割2500億円】
 同じ28日の日経速報メールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は28日、保有するKDDI株の一部を売却すると発表した。保有分の5分の1にあたる2500億円分を売却する。トヨタはKDDIの大株主で、KDDI前身のひとつの日本移動通信(IDO)などに出資していた。資産効率の低い政策保有株を売却し、電気自動車(EV)など電動化シフトに資金を充てる。
 KDDIは同日、31日から自社株TOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。TOB価格は1株3900円と28日終値(4271円)を9%下回り、トヨタが応募する。トヨタがKDDI株を売却するのは初めてとみられる。残りの保有株については「現時点では所有を継続する」としている。
 トヨタは京セラに次ぐKDDIの実質第2位の株主。2023年3月末時点で約15%を保有する。1984年に日本高速通信(TWJ)の立ち上げに参画。TWJは98年に国際電信電話(KDD)と統合し、KDDの大株主になった。IDOの大株主でもあり、00年には京セラ系の第二電電(DDI)とKDD、IDOが合併してKDDIとなった経緯がある。
 トヨタとKDDIは「コネクテッドカー(つながる車)」と呼ばれる次世代自動車の通信基盤の開発やスマートシティー分野などで提携している。20年にはKDDIが保有する自社株を引き受ける形で、約1%分(約522億円)の追加出資を決めた。
 トヨタは約3兆円(3月末時点)の政策保有株を保有しており、KDDI株は約1.3兆円(同)と3分の1超を占める。資本効率を高める一環で、政策保有株の売却を進めている。22年3月期に富士フイルムホールディングスや大和証券グループ本社の保有全株を売却した。23年3月期にも関西ペイントや野村ホールディングスを全株売却している。
 KDDIについても事業面での連携は続けるが、現状の出資比率を維持する必要はないと判断したもようだ。KDDIの高橋誠社長は同日開催した決算説明会で「トヨタとの協業は両社にとって重要なものであり、本件によって関係が希薄になることはない」と話した。
 トヨタはEVの世界販売を26年に年間150万台、30年には350万台まで高める計画を掲げるが、22年の実績は約2万4000台にとどまっている。EV向け電池を含めて生産能力の増強を進めるため、30年までにEV関連へ5兆円を投資する計画だ。
 KDDIの手元資金は3月末時点で約4800億円。株主還元の面から定期的に自社株買いをしており、5月にも今後1年間で最大3000億円の自社株買いをする方針を打ち出している。今回のトヨタの売却分も自社株買いで買い取り、株式の需給悪化を防ぐ。

【金融庁、損保大手4社に報告命令へ ビッグモーター不正】
 同じ28日の日経速報メールは次のように報じた。
 金融庁は中古車販売大手ビッグモーター(東京・港)による保険金の不正請求問題で、損害保険ジャパンなど大手4社を含む損保各社に保険業法に基づく報告徴求命令を出す方針を固めた。ビッグモーターとの取引実態や保険契約者への対応について報告を求め、契約者保護で問題がなかったか詳しく調べる。
 これまで監督当局として任意で事情を聞いてきたが、法律に基づき、より詳しい報告を求める必要があると判断した。
 週明けにも報告命令を出すのは、ビッグモーターと保険代理店契約を結ぶ損保各社。損保ジャパンのほか東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社に加えて複数の中堅損保も対象になる可能性がある。
 ビッグモーターに事故車を紹介し、見返りに自動車保険の契約を獲得するといった取引実態や代理店に対する管理体制、契約者保護の観点から対応に問題がないか詳しく調べる。ビッグモーターに社員を出向させていた大手3社には、出向者の役割や不正に気付いていたかなどの報告も求める。
 損保ジャパンは2011年から延べ37人をビッグモーターに出しており、三井住友海上は17年度から、東京海上は20年度から、それぞれ計3人を出向させていた。出向者が突出して多かった損保ジャパンには、不正関与の有無を含めて業務実態について詳しい報告を求める。同社は26日、調査委員会を設置した。
 金融庁は28日、ビッグモーターに対しても保険代理店としての実態を把握するため任意の聞き取り調査を実施した。同日、ビッグモーターの役員が関東財務局を訪れた。
 ビッグモーターの調査報告書では、コンプライアンス(法令順守)担当の役員がいないなど内部統制が機能していない状況が浮き彫りになった。金融庁は保険代理店として問題がなかったか確認する。聞き取りの結果次第では、ビッグモーターに対しても報告徴求命令を出す。

【国民・領土・主権を守る 自衛隊トップの危機感 吉田圭秀統合幕僚長】 
 29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・現時点の防衛力では日本の安全を守れる状況にない
・先端技術をつかむため、先行するスタートアップとも関係築く
・AIや無人化装備、民間の力で補う組織の構造に変革を
 日本を取り巻く安全保障環境が激変している。ウクライナを侵略したロシアは核をふりかざし、中国は台湾統一の野心を隠さない。北朝鮮は弾道ミサイルの発射を続けており、東アジアは緊張を高める。いまの防衛力で日本を守りきれるのか。自衛隊トップの吉田圭秀統合幕僚長に聞いた。
 政府は2022年末に国家安全保障戦略など安保関連3文書を決定した。反撃能力の保有、サイバーや宇宙など新領域への対応に加え防衛費を大幅に増やす方針を盛り込んだ。
――いまの自衛隊の防衛力で日本を守ることができるのか。
「現時点の防衛力では日本の安全を保てる状況にない。だから安保関連3文書で防衛費を国内総生産(GDP)比2%まで増やし、防衛力を抜本強化すると決めた」
弱く見られてはならない
――日本の何を守るのか。
 「国家を守る。国家の三要素である国民、領土、主権を守る。主権が危うい状況になったウクライナのような事態で三要素をいかに守り抜くかということだ」
 「国家安保戦略は国益を明確に定めた。国家の平和と安全とさらなる繁栄、普遍的価値と国際法に基づく国際秩序の維持だ。国益論は戦争と結びついた戦前の経緯からタブー視された部分があったが、今はフラットに語れる環境になってきた」
――防衛政策への世論の支持や理解は十分でない。
 「日本が置かれている戦略環境を認識してほしい。国際社会は力による現状変更を許さず、法の支配に基づく国際秩序を維持できるか否かの分水嶺にある。インド太平洋地域で最前線に立っているのが日本だ」
 「国民の自衛隊に対する考え方は大きく変化しつつある。ロシアのウクライナ侵略は対岸の火事ではない。国民が北朝鮮や中国の示威行動を肌で感じ取った結果、防衛への意識は高まった。世論調査でも防衛費の増額や反撃能力の保持を多くの人が支持した」
――ウクライナの教訓をどうとらえているか。
 「ロシアはウクライナ軍の能力や国民の抵抗意思を過小評価した。ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)の外にあったのも要因だ。ウクライナのような深刻な事態が日本周辺で起きる可能性を排除できず、強い危機感を持っている」
 「教訓を踏まえ日本がなすべきことは2つある。1つは自身の防衛力を過小評価されないよう抜本強化すること。そして米国の核を含む戦略で同盟国を守る拡大抑止をしっかり担保することだ」
――北朝鮮の核・ミサイル技術が向上している。ミサイル防衛で国を守ることができるとは思わない。
 「ミサイル防衛能力を強化するだけでは国民の生命、財産を守れない。北朝鮮の能力が著しく高度かつ複雑になった。変則軌道で飛び、迎撃するのが難しくなっている」
 「3つの分野を強めないといけない。ミサイルで目標をたたく反撃能力を保有し、迎撃能力を進化させる。ミサイル落下時の被害を最小限にする地下の避難用シェルターを増やして国民保護の態勢を整える」
――反撃能力をどう運用するか説明が足りないという指摘がある。
 「国民との対話のキャッチボールはまだ足りない。我々も丁寧に説明をしていく。一方で手の内は相手に知らせないのが肝だ。運用に関わることを明かせば、相手に攻撃を思いとどまらせる力が低下する」
――米国は有事で日本を守ってくれるか。
 「米国の核の傘で日本を守る策を話し合う『拡大抑止協議』を2010年から濃密にやってきた。6月下旬の協議では情報の共有や演習の質の向上、ミサイル対処力を強めると確認した。外務・防衛担当の閣僚レベルでも踏み込んだ議論をしている」

6月、沖縄県・石垣島に展開する航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)=共同
米インド太平洋軍の前司令官は21年の米議会公聴会で、中国が27年までに台湾を侵攻する可能性を指摘した。米本土の部隊が駆けつけるのに3週間を要すると発言した。
米国に頼りすぎはリスク
――冷戦時代の自衛隊は2週間の継戦能力が必要だと言われた。今は3週間を耐え抜かないといけない。
「自衛隊が独力でどの程度頑張れるかは作戦運用に関わるのでコメントは控える。日本への侵攻について相手国が費用対便益を計算し、侵攻を思いとどまらせるようにできる態勢を速やかにつくる」
「国家安保戦略は27年度までに日本が主たる責任を持って日本への侵攻を阻止できるようにする目標を立てた」
――世界の力学の変化で日米同盟も変質した。
「これまではいざとなれば傍らにいる米軍の抑止力に頼れた。米国への依存が大きすぎると、米国内で費用対効果を問う声が出る。日本が自立的にできる部分を増やすことで同盟の対処力を強める」
――日本が自国でできることもある。
「平時の自衛隊は警戒監視や情報収集で力を発揮することが重要だ。人工知能(AI)や量子暗号など先進技術の優位性も維持しなくてはならない」
「日米豪、日米豪印などパートナーシップを広げる。インド太平洋地域や欧州の現状を守る勢力としっかり結束していくべきだ」

防衛力の強化を下支えするのは強い経済力だ。日本の防衛産業は企業の撤退が相次ぎ、防衛力を裏付ける基盤が揺らいでいる。 
スタートアップとも関係築く
――民間企業の協力が欠かせない。
「防衛装備の研究開発や実装をより早くする。今までは新しい装備をつくるのに10年以上かかった。原型が出てきたらすぐに部隊に入れて戦力化し、研究開発と並行して能力を強化する」
――日本企業は防衛への関与を前面に掲げてこなかった。
「先進技術は今までの防衛産業だけではつかみ切れない。先行するスタートアップとの関係を築き上げていく。民生技術を防衛に転用する仕組みをつくり、官民を挙げて防衛装備の輸出も推進する」
「産業界だけではなく、アカデミア(学術界)とも連携を深める。アカデミアは長らく軍事にあまり触らない風潮が強かった。直接的な対話を始め、今の安全保障を理解していただくよう努力する。まずは距離を詰めていきたい」
――陸上自衛官の候補生が6月に小銃で3人を死傷させた。国民の安保への理解に水を差した。
「武器を扱うことを国家から許されている組織としてあってはならない。大変重く受け止めている」
――自衛官の志願者が減っている。
「人材の確保と育成は大きな問題だ。女性の比率を現行の7?8%から50年までに14%へ引き上げる。出産や育児で退職しないような働きやすい環境をつくり、定着率を上げる。AIや無人化装備、民間の力で補う組織の構造に変えなければいけない」
「サイバーや情報、兵たんのスペシャリストを育て、上にも横にもとんがった人材を増やす。調整型のジェネラリストばかりだと現状維持思考のマネジメント能力にたけた人が増える。今は将来の方向性を示す現状変革型のリーダーシップこそ求められる」
よしだ・よしひで 1962年東京生まれ。筑波大付属駒場高から東大工学部に進学し、86年に陸上自衛隊入隊。2015年から国家安全保障局で総合的な安全保障戦略の立案に携わる。23年に陸海空の自衛隊を束ねる統合幕僚長に。防大以外の卒業者が統幕長に就くのは初めて。

経済や外交含む総合力を
 インタビューで印象に残った言葉に「一服の清涼剤」がある。防衛省・自衛隊は防大出身者以外を「一般大」と呼ぶ。東大出身の吉田氏は陸上自衛隊に入隊したばかりのころ、一般大の隊員同士で「われわれは自衛隊の『一服の清涼剤』になろう」と声を掛け合った。
 防大出身者が多数の自衛隊の同質性は強みであり、弱みである。同質性は時に組織の維持、発展、深化の妨げになるからだ。 吉田氏の起用そのものが激変する安全保障環境に対応するための自衛隊の深化への決意ととらえられる。
 防衛力を強化して何を守るのか。国民の生命・身体・財産という死活的な国益をはじめとする平和と安定だ。経済成長を通じたさらなる繁栄、そして自由、民主主義、基本的な人権の尊重、法の支配といった普遍的な価値である。これらを国民の共通認識にする作業が防衛力強化への理解につながる。
 防衛力強化は経済力と表裏の関係であり、経済成長が前提となる。東大在学中の吉田氏は大平正芳内閣が提唱した「総合安全保障」の考え方に影響を受けた。安保とは経済や外交を含む総合力である。「極めて重要な分野になる」という当時の確信が原点にある。(吉野直也、竹内悠介)

多様な観点からニュースを考える
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ひとこと解説
昨年末の安保関連三文書の策定により日本の防衛政策は大きく変わった。重要なことは岸田内閣が防衛費の拡大とともに、日本が反撃能力を保持する方針を明記したことである。反撃能力についてはミサイル防衛が注目される。このインタビューでは取り上げられていないが、同様に重要なのは「我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して脅威圏の外から対処する」スタンドオフ能力をミサイルを中心に確保する方針を決めたことである。吉田氏は手の内を明かさないと語る。しかし、この能力は日本が侵攻される場合以外に台湾有事などにも使用可能と想像できる。スタンドオフ能力を今後どのように整備、配備していくのか注目したい。

【なでしこ、3戦全勝1位でW杯決勝Tへ スペインに4-0 サッカー】
 30日の日経速報メールは次のように報じた。
 サッカーの女子ワールドカップ(W杯)第12日は31日、ニュージーランドのウェリントンなどで1次リーグの4試合が行われ、C組最終戦で日本代表「なでしこジャパン」はスペインを4-0で破り、3戦全勝で同組1位となった。8月5日午後8時(日本時間同5時)からの決勝トーナメント1回戦で、A組2位のノルウェーと対戦する。
【関連記事】
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・サッカー女子W杯へ「奪え、走れ」 大野忍さんに聞く
ともに2勝で決勝トーナメント進出を既に決めていた一戦。日本は前半に速攻で好機をつくり、宮沢(マイナビ仙台)が2ゴール、今大会初先発の植木(日テレ東京V)も1得点した。後半も国際サッカー連盟(FIFA)ランキング6位と格上の相手に同11位の日本は粘り強く守り、途中出場の田中美(INAC神戸)が追加点を挙げた。

【中国軍、進む台湾包囲シナリオ ペロシ氏訪台1年】
 8月1日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・中国軍機や艦艇、台湾東部の西太平洋で活動を活発化
・計画中の4隻目の空母就役なら「台湾封鎖」に現実味
・砂浜への上陸や台北港、桃園空港の急襲を台湾は警戒
米国のペロシ前下院議長が台湾を訪問してから2日で1年がたつ。中国は当時、大規模な軍事演習で反発し、台湾有事への危機感は一気に高まった。その後、中国はどう動き、台湾統一は今どこまで現実味を帯びているのか。台湾各地でのドローン映像や専門家の意見を通じた情勢分析からは、中国の着実な侵攻手順が見えてきた。
日本経済新聞は5〜7月にかけ、台湾の専門家への取材などをもとに、台湾有事の「要衝」となるポイントを抜き出し、現地取材を行った。
 まず見えてきたのは、中国軍による活動範囲が、この1年間で明らかに変化したことだった。具体的には「台湾東部」の西太平洋(フィリピン海)で活動が活発化した。
ペロシ氏訪台前は、中国軍機や艦艇が中国大陸を出発し、台湾の「東部」にまで回り込む動きをみせることはまれだった。以前は台湾の「南西部」での動きが中心。中国大陸に近い場所での活動で、台湾の背後(東部)にまで回り込むのは「かなり大胆な動き」(専門家)とされてきた。
だが状況は変わった。
 中国軍は4月5日から下旬にかけ、初の国産空母「山東」を台湾東部の沖合に位置する西太平洋に初めて送り込み、軍機の発着訓練を行った。
昨年12月にも、別の空母「遼寧」を台湾東部に展開し、軍事演習を行った。明らかに「東部」を意識した海洋進出が相次ぐ。
さらに4月28日には、中国大陸から来た偵察・攻撃型ドローン「TB001」が、台湾東部に回り込み、台湾本島をぐるりと周回して大陸側に戻る飛行経路が確認されている。台湾国防部(国防省)によると、こうした経路を取るのは極めて異例で初めて。5月3日にも偵察型ドローン「BZK005」が台湾東部で周回飛行を取ったことが再び確認された。
 過去1年間でみても、中国軍機による台湾東部を狙った飛行は3月以降に急増していることが分かった。昨夏のペロシ氏訪台から今年2月までは、東部を狙う動きは1カ月間で0〜3日にとどまっていたが、徐々にエスカレートし、4月は10日、5月は12日、6月は6日、7月は12日と、10日を度々超えるようになった。
 その東部ではロシア軍の活動も目立つ。5月にはフリゲート艦2隻が現れ、1カ月以上も活動を続けた。台湾国防部傘下にある国防安全研究院の王尊彦・副研究員は「ウクライナ危機後の中ロ関係の変化を背景に、ロシア軍が中国に同調する形で台湾周辺での動きを活発化させている」と分析する。
 こうした一連の中国軍による台湾「東部」での動きは何を意味するのか。専門家は近い将来の「台湾封鎖」に向けた、最終仕上げの段階に入ったとみる。
 台湾の有力シンクタンク・国策研究院の郭育仁執行長は「中国はこれまで東シナ海、南シナ海への海洋進出を順番に成功させてきた。最後に、あと台湾東側の『西太平洋(フィリピン海)』を押さえれば、台湾を3方向から完全に『封鎖』できる。中国は長年にわたって、まさにそれを狙ってきた」と指摘する。
 習近平(シー・ジンピン)指導部が発足した2012年以降、中国は実際、この台湾封鎖を視野に、台湾周辺の「3つの海」への進出を着々と進めてきた。
 最初のターゲットは東シナ海だった。日本が12年に沖縄県の尖閣諸島を国有化したことなどを背景に、中国は公船による日本の領海侵入を常態化させ、影響力を強めた。直近の4月も過去最長となる連続80時間超の領海侵入が確認されている。
 続く南シナ海では、中国は13年ごろから瞬く間に7つの人工島を軍事拠点化し 、実効支配を強めた。最近もフィリピンが領有権を主張する海域で自国の船団を大量に集結させるなど、強硬姿勢をみせる。
 そして今、最終ターゲットにするのが台湾東部。台湾の国防部も21年の報告書で「25年以降、中国の台湾周辺の封鎖能力はさらに完全なものになる」と指摘。懸念は少しずつ現実のものとなりつつある。
 3つの海を制するためには、空母も欠かせない。中国は3隻目となる空母「福建」(中国製)を来年にも就役させる見通しで、4隻目も計画中。「空母が4隻体制となれば、台湾周辺を囲む3つの海を制する可能性が上がり、『台湾封鎖』は現実味を帯びる」と、国策研究院の郭氏は指摘する。
 この1年間の変化では、台湾周辺で活動する中国軍機の数の「大規模化」も進んだ。直近では30機を超える日が少なくない。さらに台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」をめぐる動きも顕著だ。ペロシ氏訪台前、中国軍機が中間線を越えて台湾側に侵入することは珍しかった。
 だが、訪台後の22年8月に24日間連続で「中間線越え」が確認されたのを機に急増し、直近の7月も計12日間の侵入が確認された。長く中台の事実上の停戦ラインとされた機能は、形骸化したといえる。
 こうしたエスカレートする中国軍の活動の先に、台湾有事があると専門家はみる。
 特に国策研究院の郭氏は「中国軍機の最近の活動の『大規模化』は既に、いざとなればいつでも侵攻作戦に移れる『動員』の域に入ったことを意味する」と警鐘を鳴らす。「中国軍機の日々の台湾周辺での活動は一見、『威嚇』や『訓練』に見えるが、実は既に一部で『動員』作戦に移っている」とも指摘し、危機感を強める。
 中国の台湾に対する周到な準備は、軍改革という形でも既に16年から始まっており、従来の「7軍区」が、作戦遂行を重視する形の「5戦区」に再編された。習氏が主導した目玉の軍改革で、実際、台湾周辺では今、兵種や地域をまたいだ実戦的な訓練が増え、郭氏は「当時の軍改革が成功してきている」とみる。
 こうした中国の動きに、台湾はどう守るのか。中国軍の力が限られたかつては、金門島(台湾が実効支配)など、中国大陸に近い離島が中台衝突の最前線だった。
 だが、電子戦や兵器の能力などが格段に上がった現在、状況は変わった。台湾統一を狙う中国にとって、最も有力な侵攻シナリオは「台湾軍に反撃の隙を与えず、米軍の介入も許さない『台北陥落』に向けてのスピードが最も重要」と、台湾の専門家らは口をそろえる。
 いま台湾が警戒すべき一つは、中国が台湾周囲の3つの海を封鎖したうえで、総統府のある台北まで一気に上陸を仕掛ける作戦だ。
 そのため台湾軍は特に今年に入り、沿岸の砂浜中心に、上陸阻止訓練を繰り返している。
 台湾は急峻(きゅうしゅん)な地形が特徴で、上陸作戦に適した場所は、実は非常に少ない。北部や南部の一部に限られる。米有力シンクタンク「プロジェクト2049研究所」のイアン・イーストン氏は17年の著書「The Chinese Invasion Threat」で、台北市近郊など14カ所の砂浜を、中国軍による上陸警戒ポイントに挙げた。
 特に危険度が高いのは、台北市中心部から北西に約20キロと近い「台北港」だ。市の中心部を流れる「淡水河」の河口に近く、有事の際には中国軍が川をさかのぼるようにして、総統府などを急襲することなどが想定されるという。
 こうした事態を防ぐため、軍は総統府に近い北部から中部にかけ、レーダー網を集中配備している。台北から南西約70キロの「楽山」の山頂(標高2620メートル)付近には、米国から導入して12年に運用を始めた重要レーダー基地がある。約3000キロメートル先の中国内陸部までを偵察範囲に収めるという。
 台北郊外に位置し、総統府を見下ろす「陽明山」も目を光らせる。山頂付近のレーダー基地は、年間約2000機の中国軍機を捉えた実績を持つ。中国軍もこれらレーダー網の把握に動くが「台湾軍は、偵察機の接近に合わせ、システムを一時停止するなど探知を防ぎ、全容をつかむには至っていない」(国策研究院の郭氏)とされる。
 総統府から西へ約30キロにある桃園市の砂浜も、警戒ポイントだ。近くには1日約10万人が利用する台湾最大の民間空港「桃園空港」がある。ロシアによるウクライナ侵攻の初期段階では、ロシア軍はウクライナの首都キーウ攻略に向けた兵員や物資の輸送拠点とするため、郊外の空港をまず制圧した。
 警戒する台湾でも、中国軍の桃園空港への軍事侵攻を想定し、7月の大規模軍事演習「漢光演習」(年1回定例演習)では初めて、同空港を使った防衛訓練を実施した。
 中国への対抗には、台湾周辺で米国と同盟関係にある日本、フィリピン、韓国などが、実際どこまで「台湾有事」に関わるのかも焦点になる。
 日本は対中国を見据え、南西諸島の防衛強化を進める。陸上自衛隊は23年度、台湾に最も近い沖縄県与那国島に相手の通信を妨害する「電子戦」部隊を配備。こうした動きを、国防安全研究院の王氏は「『台湾東部』から台北を狙う中国軍を、日本が後ろからけん制する役目になる」と期待する。
 フィリピンと米国の動きも慌ただしい。フィリピン政府は2月、米軍の巡回駐留を認める拠点を従来の5カ所から9カ所に増やすことで米国側と合意。台湾有事の際、フィリピンは米国の重要な軍事拠点になると想定され、4月には過去最大規模の合同軍事演習を実施した。
 王氏はさらに「中国に台湾有事を起こさせないようにするには、在韓米軍を抱える、韓国の存在が極めて重要だ」と強調する。北部から台湾を狙う中国に対し、常に背後からけん制し、首都・北京にもにらみを利かせられる好位置にあるためだ。
 ペロシ氏訪台後の1年間で、肝心の米台協力も進んだ。昨年末に成立した23会計年度の米国防権限法には、5年間で最大100億ドル(約1兆4000億円)の台湾への軍事支援を盛り込んだ。例えば、台湾が封鎖され、米国が台湾への武器補給が難しくなることを想定し、あらかじめ台湾に米国の弾薬を備蓄する方向で協議が進む。
 人材交流も水面下で進む。台湾軍は23年中にも陸軍の「第542旅団」「第333旅団」による合同大隊を米国に派遣し、共同作戦を見据えた「交流」を実施する見通しだ。一方、米軍も台湾に駐留する人数を、従来比3倍の100人規模とし、1979年の米台断交以降、過去最多とした。
 こうしたペロシ氏訪台後1年間の変化について、台湾・成功大学の蒙志成副教授は「蔡政権のもと、米台関係は過去最高に良好なものとなった」と評する。
 だが課題も浮かぶ。ウクライナ危機で注目された地対空ミサイル「スティンガー」をはじめ、米国製武器の台湾への納入遅れが相次ぐ。ウクライナへの供与が優先されたことが背景にあるとみられる。実際、台湾国防部は5月、米国製の主力戦闘機「F16V」について、第1段階の出荷が1年弱遅れ、24年7〜9月期にずれ込む見通しを明らかにした。
 ペロシ氏訪台から1年。日本では、防衛省が7月28日、2023年版の防衛白書を公表し、中国やロシアによる軍事的脅威を念頭に「国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」と表現した。さらに中台の軍事バランスは「中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している」とも記した。果たして世界はこの先、中国の台湾統一をどう受け止めていくのか。台湾を巡る水面下の攻防は、激しさを増す。(台北=中村裕、龍元秀明、東京=高野壮一、大須賀亮)

【企業契約書の審査、AI活用を容認 法務省が指針公表 不備・リスクを確認】
 8月1日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 法務省は1日、企業間で交わす契約書を人工知能(AI)で審査するサービスの指針を公表した。法的に争いのない取引契約などを「適法」とした。法律に抵触しない目安を示すのは初めて。法的に曖昧な部分を整理し、企業法務の現場でAIサービスを活用しやすくした。
 AI審査は法律に関係する業務をIT(情報技術)で効率化するリーガルテックのひとつで、複数のスタートアップがサービスを提供している。企業の法務担当者などが締結前の契約書をチェックして不利な内容や紛争のリスクを摘み取る作業に利用する。
企業間で日常的に結ばれる定型的な契約書はAIによるチェックになじみやすい。人間だけで作業する場合に比べて審査や修正にかかる時間を3割程度減らせたというデータもある。
 斎藤健法相は1日の記者会見で「企業の法務機能の向上を通じ、国際競争力の強化に資する」と話した。
 弁護士法は弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱う行為を禁じている。指針はAI審査を手掛ける事業者のサービスが同法に照らして適法だと見なせる目安を示した。
 取引内容に法的な争いがない企業間の一般的な取引契約の場合は適法となる。例として親子会社間の取引や、企業間の継続的な取引を挙げた。
 AIが契約内容について言語的に不適切な箇所を指摘したり、一般的な解説を表示したりするのは適法だ。企業内弁護士が使う場合や、無料のAI審査サービスを利用するのも問題とならない。
 他方、契約内容の法的リスクを判断して提案する場合は「弁護士法に抵触し得る」と指摘した。弁護士ではない事業者が係争案件についてこのような提案をし報酬を受け取れば弁護士法違反となる。
 法務省は2022年6月に、AI審査のサービスが「違法の可能性がある」との見解を示した。利用企業の間で不安が広がり、指針の作成を求める声が強まった。
 政府内ではAIの活用を巡る指針の策定や見直し作業が進む。政府の「AI戦略会議」は総務省や経済産業省が作成した開発事業者や提供事業者向けのガイドラインを年内に統合する計画だ。
 法的に不透明な部分が解消できれば、新たなビジネスの普及を後押しできる。AI戦略会議で座長を務める松尾豊東大教授は「適法の範囲が定まることで競争が生まれ、サービスの質も高まる」と話す。
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・弁護士ドットコム、AI契約書審査に参入 新興リセと提携
・「リーガルテック」サービス続々、現行法と摩擦も

【損保、石油や鉄鋼でも価格調整 企業保険で不透明取引】
 同じ8月1日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・損保各社による保険の価格調整が横行していた可能性
・疑われる取引は複数の損保で少なくとも数十件以上か
・カルテルの疑いがあり公正取引委員会の対応が焦点に
 損害保険会社の企業向け保険をめぐり、石油元売りや鉄鋼会社に対しても保険料を事前に調整していた疑いがあることが1日、複数の関係者への取材で分かった。東急向けの火災保険で東京海上日動火災保険など4社が非公式に調整していたことが明らかになっている。損保業界で不透明な取引が横行していた可能性が高まってきた。
 東京海上のほかに損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社は、東急向け企業保険料を事前に調整していた問題で金融庁から報告徴求命令を受けている。各社が進めている調査のなかで複数の問題案件が浮上したという。損保各社は7月31日までに金融庁に一部の案件について報告したもようだ。
 複数の関係者によると、保険料の事前調整で新たに疑惑が浮上したのはENEOSなど石油元売り、成田国際空港会社、JR東日本、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)などとの取引だ。鉄鋼業界との契約でも疑いのある案件があるという。
 調査の結果、事前調整が疑われる取引が複数の損保で少なくとも数十件以上あるもようで、事前調整通り企業側へ保険料を提示した例も少なくないという。商品の価格を共同で取り決めるカルテルの疑いがあり、独占禁止法に抵触する可能性が指摘されている。公正取引委員会の対応が今後の焦点となる。
 設備を多く抱える製造業やインフラ事業者などの場合、火災や地震など自然災害で損傷すれば支払保険金は巨額におよぶ。リスクを大手損保が分散して引き受ける共同保険契約にすることが多く、各社の営業担当者が情報交換しやすい環境にあった。電話やメールを使って、提示する保険料の水準について情報を得ていた疑いがある。
 複数の関係者によると、顧客企業に示す保険料の見積額をあらかじめ共有する慣習が長年続いている業界もある。なかには引き継ぎ資料にこうした慣習が明記され、配置転換で担当者が代わっても調整行為が継続している場合もあるという。
 共同保険では契約企業が任意にシェアを配分できるため、保険料を下げようとする競争原理が十分に働かないことがある。結果として企業が割高な保険料で契約を結んでいた可能性がある。業種や条件によって異なるが、1年あたりの保険料は100億円を超える場合もある。
 今回の疑惑が表面化するきっかけになった東急とは、東京海上など損保4社が契約更改前に3年間の総額で20億円の保険契約を結んでいた。更改を控えた各社は新たに3年間で30億円の保険料を横並びで提示し、違和感を覚えた東急側の指摘で今回の調整行為が発覚した。各社は最終的に1年契約で5億〜6億円の保険料で妥結した。
 損保の調整行為をめぐっては、1994年に公正取引委員会から警告を受けたことがある。業界団体が自動車の整備業者に支払う修理費の工賃を設定し、各社がほぼ一律で適用していた。
 損保を取り巻く事業環境は厳しさが増す。損保は企業から引き受けたリスクの一部を再保険会社に転嫁することでリスクの軽減をはかるが、世界的な自然災害の多発で火災や水災の被害に対する保険金支払いが増えている。収益改善に向けたプレッシャーが働きやすい環境にある。

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【トランプ氏、3度目起訴 20年大統領選の結果覆す企て】
 8月2日の日経速報メール【ワシントン=坂口幸裕】によれば、米連邦大陪審は1日、2021年1月6日の連邦議会占拠事件にかかわった疑いでトランプ前大統領を起訴した。敗北した20年大統領選の結果を覆そうと連邦議会の承認手続きを妨害しようとしたと判断した。米大統領経験者として初めて起訴された3月以降、3件目になる。
 司法省が任命したジャック・スミス特別検察官は1日、声明を発表し「米国の民主主義の中枢に対する前代未聞の攻撃だった。それは嘘によってあおられた」と指摘。「被告による嘘は米国政府の基本的機能である大統領選の結果を集計し、証明するという国家のプロセスの妨害が目的だった」と強調した。
 前大統領は起訴後に声明を発表し「なぜ2年半も待って、24年の勝利に向けた選挙キャンペーンのさなかにでたらめな起訴をしたのか。答えは選挙妨害だ」と反発した。出馬表明している24年大統領選を妨害する思惑だと改めて主張した。
 起訴を逆手にとり、与党・民主党のバイデン政権のもとで検察当局が司法を政治利用していると決めつけて野党・共和党の支持層に結束を促す狙いがある。
 声明では「トランプ前大統領とその支持者に対する迫害という無法さは1930年代のナチス・ドイツや旧ソ連など権威主義的な独裁政権をほうふつとさせる」と表明。「こうした魔女狩りは失敗するだろう。(24年大統領選で)再選し、かつてないレベルの虐待、無能、腐敗から我が国を救うことができる」と訴えた。
 議会占拠事件はバイデン大統領が20年11月大統領選で勝利したと認定する手続きの最中に起きた。事件にかかわったのは選挙結果に不満を持つ前大統領の支持者が中心で、複数の死傷者が出た。米議会が攻撃を受けるのは米英戦争のさなかの1814年以来だった。
 起訴状によると①選挙結果を覆そうとした「米国搾取への共謀」②結果を確定させる議会手続きの妨害③妨害の共謀④憲法などが定める公民権の侵害――の4つの罪状で起訴された。米メディアは前大統領が3日に首都ワシントンの連邦裁判所に出廷するよう求められたと報じた。
 前大統領は7月18日、連邦検察から21年の議会占拠事件の捜査対象になっていると同16日に通知を受けたと明かしていた。受け取った「ターゲットレター」と呼ばれる書簡は起訴に先立ち検察当局が犯罪につながる証拠を集めたと捜査対象者に知らせるために使用される。
 疑惑を巡っては米司法省が捜査の独立性を高めるため22年11月に特別検察官に任命したスミス氏らが捜査にあたってきた。大統領や閣僚らが不正に関与した疑いがある場合に充てるポストで、政権と利益相反が起きないよう通常の検察官の指揮命令系統とは独立した立場にある。
 前大統領は3月に不倫相手への口止め料支払いを巡る記録改ざんなどの疑いで、6月には政府の機密文書を不適切に扱った疑惑でそれぞれ起訴された。機密文書に関して7月27日に追起訴された。捜査を妨害する目的で南部フロリダ州の邸宅の監視カメラの映像を削除するよう従業員に求めたとされる。

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【金融庁、損保大手に追加報告命令へ 企業保険価格調整で】
 同じ2日の日経速報メールは次のように報じた。
 大手損害保険会社が企業向け保険で事前に価格調整していた問題で、金融庁は近く、損害保険ジャパンなど損保大手に対して保険業法に基づく追加の報告徴求命令を出す方針を固めた。すでに発覚している東急向けのほか、石油元売り向けなどでも疑いが浮上。価格調整が横行していた可能性が高まったため、報告を求める範囲を広げる。
【関連記事】損保、石油や鉄鋼でも価格調整 企業保険で不透明取引
 金融庁は東急向け保険で、5月から6月にかけて東京海上日動火災保険、損保ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社に報告命令を出した。各社が調査を進める中で複数の問題案件が出てきたため、全容解明に向け、より詳しい報告を求める必要があると判断した。
 1度目の報告命令を受けた各社の調査では、複数の損保で保険料の事前調整が疑われる取引が少なくとも数十件以上、見つかったもようだ。ENEOSなど石油元売り、成田国際空港会社、JR東日本、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)などで価格を事前調整していた疑いが浮上している。
 独占禁止法は価格や生産量、営業地域などを事業者間で取り決めるカルテルや、事前に受注事業者や受注価格などを決める入札談合を「不当な取引制限」として禁止している。各社間の「合意」により、企業の事業活動を拘束し、その分野の競争を制限した場合に違反が認定される。公正取引委員会の対応も今後の焦点となる。
 中古車販売大手ビッグモーター(東京・港)の保険金不正請求問題をめぐっても、金融庁は自動車保険の販売をビッグモーターに委託していた大手4社と、共栄火災海上保険、AIG損害保険、日新火災海上保険の中堅3社に報告徴求命令を出している。同時期に複数の報告命令が重なる異例の事態になっている。

・企業保険の価格調整問題
 東京海上日動火災保険などの大手損害保険会社が企業向け保険料を事前に調整し、金融庁が報告徴求命令を出していたことが判明。関与を認めた案件以外にも事前調整の疑いが浮上し、業界内で不適切な取引が広がっていた可能性があります。
•金融庁、損保大手に追加報告命令へ 企業保険価格調整で(14:04)
•損保、石油や鉄鋼でも価格調整 企業保険で不透明取引

 この間、下記の録画を視聴することができた。(1)BS6報道1930「袴田さん無罪の公算も再審で主張へ動く検察の論理と精神とは」7月19日。 (2)BS6報道1930「問題続出マイナンバー 原因は人為ミスだけ? 医療現場が懐く懸念は?」20日。 (3)BS6報道1930「タゲスタン訪問したプーチン氏は影武者? 米先端科学が「耳」を解析」21日。 (4)BSプレミアム4Kプレミアムカフェ(1)虫の画像(2004年放映)、(2)昆虫学者(2009年放映)、探検昆虫学者 西田賢司コスタリ
カ」22日。 (5)BS1超進化論編集「生物多様性の脅威~生き物のつながりが進化を加速した~」22日。 (6)BS6報道1930「IT大国ウクライナの戦争~サイバー戦闘に1900万人参加の裏側は、戦時下のマイナンバーとは スマホの中の国家の実態」24日。 (7)BS6報道1930「猛烈熱波の本当の怖さ、地球は元に戻れない? 気候崩壊の限界点とは」25日。 (8)BS6報道1930「世界3億人を穀物不
足に? プーチン氏「人類人質」作戦って何? ワグネル金脈と武器を追う 「怒れるアフリカの矛先は」26日。 (9)BS6報道1930「北朝鮮とロシアの親密、火星18も裏で支援? 軍事パレード北の狙いは 日朝は水面下? 突破か? プリゴジンの乱のあと「プーチンは死に体」 暗躍する2人の側近 砲弾の雨の中「地雷撤去」恐怖の告白」28日。 (11)BS5「長嶋一茂のミライアカデミア~これから生き抜くための特別授業 長嶋一茂×各界の専門家が激論! 人類永遠の課題・環境問題を「エネルギー」と「水」から考える! 31日。 (12)BS6報道1930「2度のクリミヤ橋攻撃 「探知困難?半潜水ドローン」その実像は? 最新IT組織が生む世界初「ウクライナ軍無人艦隊」って? 陸でも加熱? ロシアがドローン大量投入?」31日。 (13)BS6報道1930「プーチン体制の弱体化を狙う独立派、東京結集、亡命政府 首相の目論見は 国民が見限るロシア…700万人流出の実態とは」8月1日。 
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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