変わりつつある世界(9)
2023年7月4日の午後に掲載した前稿「変わりつつある世界(8)」の後、夕方のニュースメールは次のように報じた。
【処理水の海洋放出「国際安全基準に合致」 IAEA報告書】
【ウィーン=田中孝幸】国際原子力機関(IAEA)は4日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海洋に放出する日本の計画について「IAEAの安全基準に合致している」とする安全審査の結果を公表した。来日中のグロッシ事務局長は同日に首相官邸で岸田文雄首相と会い、審査結果をまとめた包括的な報告書を提出した。
IAEAがホームページで報告書を公表した。グロッシ氏は報告書の序文で「日本の処理水の放出のアプローチと活動が関連する国際安全基準と合致していると結論づけた」と表明した。
「IAEAは処理水の制御された段階的な海洋放出が人々と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどごくわずかだと指摘している」とも述べたうえで、日本の要請に基づき放水前後の一連のプロセスにIAEAとして関与する方針を示した。
日本政府は安全性の確認のためIAEAに第三者の専門家の立場での検証を依頼していた。グロッシ氏は4日から7日までの日程で来日しており、福島第1原発の視察も予定している。その後、韓国にも向かい、今回の報告書について同国政府に説明する。
【IAEA事務局長、処理水放出「数十年にわたり評価続ける」】
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、都内で記者会見し、日本が計画する東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出について「今後数十年にわたって監視や評価を続ける」と 述べた。IAEAが日本に常設拠点を立ち上げ、海洋放出の影響について検証を続ける方針を示した。
都内の日本記者クラブで記者会見した。グロッシ氏は日本が計画通り処理水の海洋放出を実施したとしても「水や魚など環境に大きな影響はない」と強調した。
汚染水から放射性物質の大部分を取り除く技術について「新しいことではなく、既に産業界に存在するものだ」と指摘した。「一定量の放射性物質を含む水の放出は中国や韓国、米国、フランスなど多くの国で実際に行われている」と語った。
中国や韓国、太平洋島しょ国などは処理水の海洋放出に強い懸念を示している。グロッシ氏は「懸念があることは承知している」とした上で「私の責任はいつでも疑問に対応することだ。今回の報告書は十分に科学的な答えを出している」と説いた。
ウクライナ南部でロシア軍の制圧下にあるザポロジエ原発については「極めて危険な状況だ」と強い危機感を示した。連日報告を受けて状況を注視していると述べ「原子力発電所は絶対に攻撃してはいけない」と警告した。
グロッシ氏は会見に先立ち、日本の原発処理水の放出計画が国際的な安全基準に合致していると結論づける包括的な報告書を岸田文雄首相に提出した。5日に福島第1原発を視察し、7日まで日本に滞在する。その後に韓国、ニュージーランド、クック諸島の3カ国を訪問する予定だ。
▼原発処理水 東京電力福島第1原子力発電所からは2011年の東日本大震災に伴う事故の影響で、放射性物質を含む汚染水が出る。この汚染水から浄化処理で大半の放射性物質を取り除いた水を処理水という。地下水や雨水などが建物内の放射性物質に触れたり、事故で溶け落ちた核燃料を水で冷却したりするため、高濃度の放射性物質を含む汚染水が1日平均で130トン程度発生している。原発処理水は敷地内の1000基を超えるタンクで保管され、廃炉作業の妨げとなっている。
【ゼレンスキー氏、プーチン氏の対応は「弱かった」…「権力構造が崩壊しつつある」との見方】
5日付けの読売新聞は次のように報じた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米CNNが3日に放映したインタビューで、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱へのプーチン露大統領の対応が「弱かった」と評した。
ゼレンスキー氏は、露側がワグネル部隊の進軍や一部拠点の制圧を容易に許したことから、プーチン氏が「全ては制御できていない」とし「かつて有した権力構造が崩壊しつつある」との見方を示した。米中央情報局(CIA)との間に「秘密はない」とし、CIAのウィリアム・バーンズ長官との会談で大規模な反転攻勢とその後の青写真について説明したことを認めた。
反攻でロシアが併合した南部クリミアまで迫った上で、ロシアと年内の停戦交渉開始を計画しているとの米紙ワシントン・ポストの報道に関しては、「クリミアの占領が続く限り、終戦はあり得ない」と原則的な立場を述べるにとどめた。
インタビューはウクライナ南部オデーサで2日に行われた。
一方、プリゴジン氏は3日、ロシアの軍事SNSに音声メッセージを投稿し、「近い将来、我々の次の勝利が前線で見られることを確信している」と述べ、活動継続に意欲を示した。反乱は「裏切り者と戦い、社会を動かすのが目的だった」と正当化した。メッセージ公表は6月26日以来。発信場所は明らかにしていない。
【原発処理水放出設備の検査、7日に合格へ 原子力規制委】
5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
原子力規制委員会は5日、政府が8月にも開始する東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、放出前の設備検査の「合格」に相当する終了証を7日に東電に交付する方針を明らかにした。海洋放出に向けた政府側の安全性の評価作業はすべて終わり、放出に向けた準備が整う。
規制委の事務局である原子力規制庁が5日午前、規制委に対し6月28日から3日間の日程で実施した検査結果で特段の問題がなかったと報告した。事務手続きを経て、7日に終了証を交付する方針も示した。委員側から異論は出ず、規制委が事実上「合格」の方針を認めた。
東電は6月26日、処理水を海洋放出するための海底トンネルを含む設備を完成させた。規制委は同月28日から緊急時に備える遮断弁や、処理水を海水と混ぜて希釈する設備などを現地で確認した。
7月4日に公表した報告書で国際原子力機関(IAEA)は「処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどわずか」と指摘した。さらに終了証の交付により、放出前の設備面での準備はすべて整った。だが現地の漁業関係者や中国など一部の国の反対姿勢は変わっていない。
松野博一官房長官は5日の記者会見で中国による海洋放出への批判を受け「事実に反する内容を発信している」と反論した。漁業関係者に対しては「意思疎通を密にして丁寧な説明と意見交換を重ねていきたい」と強調した。
韓国政府は5日、処理水の海洋放出をめぐり「IAEAの発表を尊重する」とする立場を表明した。IAEAの4日の報告書をよく分析すると説明した。首相の補佐機関「国務調整室」の幹部が5日の記者会見で明らかにした。
【ヤマダ会長「EVで流通変革」 三菱自動車以外も取り扱い】
同じ5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
家電量販店最大手のヤマダホールディングス(HD)が三菱自動車と提携し、電気自動車(EV)販売に再度乗り出す。山田昇会長兼社長が日本経済新聞の取材に応じ、「将来的には複数メーカーのEVを取り扱う」と明らかにした。従来のディーラー経由での販売より車両価格や関連費用などを抑えて総合的に安く提供する。かつて家電でメーカー側から店頭価格の主導権を握ったように、世界的なEVシフトを契機に車でも流通変革に取り組む。
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・ヤマダ会長「車業界は既得権益の構造、品ぞろえで変革」
今回の三菱自との提携では、まず法人向け販売から始めて、個人向けも順次拡大する計画だ。法人向けの営業や店頭での販売をヤマダの従業員が担うほか、修理や車検などEV整備もヤマダのグループ内で請け負う。
山田氏は「家電量販店の最大のニーズは品ぞろえだ」と強調。「家電商品と同じように一つの店にいろんなメーカーの車種が並び、消費者が比較できるような体制をつくっていきたい」とした。
EV、将来は直営店3分の1で取り扱いも
三菱自のEV販売店舗については23年秋までに神奈川や埼玉などの首都圏の家電店「ヤマダデンキ」の11店舗で取り扱う計画だ。山田氏は今後、販売が好調に推移して取り扱う車種が増えれば「全国約1000店の直営店のうち、3分の1程度となる300店超まで増やしていく」と述べた。
EVの価格面では、メーカー側からのリベート(販売奨励金)などを原資に値引きすることに加えて、独自の保証サービスやローン、自動車保険などを展開することでEV販売にかかる費用を従来のメーカー系列の販売店より抑えて、顧客の法人や消費者にトータルで安く売っていく方針だ。
現在の自動車業界、既得権益多く
山田会長は「既存の自動車業界は既得権益と国に守られている」と指摘した。「(EVシフトをきっかけにした)この提携が成功すれば、物流をはじめとする現在の自動車流通の仕組みやサプライチェーン(供給網)が変わるだろう」と強調した。
現在のEV新車販売は、車メーカー系列の販売店が大半を占める。「ヤマダのEV販売がうまくいけば他の家電量販にも波及する」と述べた。全国に売り場面積の大きい店舗を多く持つ家電量販店にとって、「EV取り扱いのハードルは低い」とみている。
家電販売でもメーカー保証よりも期間を5年など長くした保証をヤマダが独自に提供することで、メーカー系列の販売店との差別化を図ってきた過去がある。EV販売でも同様に、ヤマダならではの価値を付加した販売方法を探っていく。
EV販売を見据え、アフターサービスの体制も整えた。ヤマダは日本自動車車体補修協会(JARWA)と21年3月に業務提携し「ヤマダ車検」と銘打ったサービスを始めた。
独立系整備会社300社と提携
メーカー系列ではなく独立系の自動車整備会社約300社が、ヤマダが販売したEVの保守整備を請け負う体制を構築する。ヤマダが販売する三菱自のEVについても、原則JARWAの提携工場が担当する。メーカーとは異なる独自のネットワークを整えることで、ヤマダグループ内でEVの販売からメンテナンスまでを完結できるようにする。
販売面ではヤマダがすでに手掛けている住宅販売やリフォーム事業との組み合わせを検討する。太陽光で発電した電力を充電に使ったり、家電に電力を供給したりすることができるEVは電化住宅との相性がよい。
今後はEVから電力を供給して家電をネットでつなげる「スマートハウス」をパッケージ商品として、「例えば、住宅を買ってもらうと車も付ける。太陽光とセットの商品も開発する。そうしたヤマダの強みを生かした提案をしていく」ことも明らかにした。「年間1万戸の住宅を作っており、(家とのセット販売などで)1000〜2000台売れればいい」とも話した。
顧客企業や消費者への打ち出しが重要になる。EVという高額な商品を、自動車の専門ではない家電量販店で購入することへの心理的なハードルを下げていくことが求められる。
ヤマダが2011年に住宅メーカーのエス・バイ・エル(当時)を買収して住宅販売事業に参入した際、家電店での安売りの印象が強かったことから、高額な住宅をヤマダで購入することへの抵抗感を拭えず、事業の赤字が続いた経緯がある。
足元ではM&A(合併・買収)の効果などもあり、住建事業の収益は順調に推移している。国内外で普及期に入ったEVも当初は同様のマイナス影響が考えられる。自動車への「安心・安全」ニーズに対応し、ヤマダの本気度をいかに顧客企業や消費者に訴えられるかが大きな課題となる。(坂本佳乃子)
EV流通、異業種が揺らす 安全性に「覚悟」必要
ヤマダホールディングス(HD)のEV販売への2度目の挑戦は、既存の自動車業界にとって台風の目となるかもしれない。スーパーや家電量販店など小売り業界はメーカー側と商品価格の主導権を巡って闘争を繰り広げてきた。1964年に始まる「ダイエー・松下戦争」はその象徴の一つだ。
トヨタ自動車をはじめとする車メーカー側も、製販両面でEV対応を急いではいる。EVが主流になれば商品だけでなく、販売や整備の現場も変わる。整備士不足やトヨタ系など販売店で相次いだ車検不正への対応も重なり、販売改革は待ったなしだ。ただ、諸外国と比べてEVシフトに向けた改革スピードは遅いように見える。
ヤマダは家電価格に徹底的にこだわってきた。ダイキン工業のエアコンやロボット掃除機「ルンバ」など条件に合わなければヤマダ店頭には並ばない。EVでは新興メーカーやIT(情報技術)などの異業種参入が変革の旗手になった。国内の車流通もヤマダ再参入を起爆剤に主導権がメーカー側から移ることで価格が下がり、関連サービスの担い手のすそ野も広がるかもしれない。
一方、ヤマダがEV販売への関与を深めるほど、車メーカーと同様に高い安全性へのコミットと責任が求められる。車の不具合や事故は家電以上に利用者の生命身体への影響が大きい面もある。販売者としての覚悟が求められる。
【ごみ分別せずプラ再生 荏原が新技術、回収・処理効率化】
同じ5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
荏原はプラスチックなどが混ざった混合ごみからプラ原料を取り出す技術を2030年にも実用化
する。ごみを細かく分別しなくても、プラスチックをリサイクルすることができる。ごみの回収や処理などの仕組みが変わる可能性もある。
プラなどが混ざったごみは現状では焼却処理される場合が多い。資源としてリサイクルする場合も、生ごみなどとの分別が必要だ。「ポリエチレンテレフタレート」を使うペットボトルは分別回収されることが多いが、汚れが目立つ場合はリサイクルできない。
荏原の開発した再生プラスチック技術はごみを分別せずに炉に投入できる。炉の内部には砂などを敷き詰めており、空気や蒸気を吹き込んでごみと混ぜる。400〜950度の温度帯で処理することで、ごみ成分を分子レベルにまで分解してガス化させる。
反応温度を制御すると、基礎化学品「エチレン」や「プロピレン」などのガス成分が取り出しやすくなる。車や家電、日用品など幅広い樹脂の原料になる物質だ。
木材やタイヤ、汚泥、生ごみ、紙類、衣類なども含む雑多な混合ごみでも処理できる技術開発にめどをつけた。ごみなどから回収したプラを原料にリサイクルする同様の施設では、化学的に分解する場合も材質によってある程度は選別する必要があった。荏原の新手法は細かい分別をしなくてもよい。
実用化では年10万トン規模の処理量を念頭に置く。ごみ投入総量に対して、3〜4割の化学品成分を取り出せる水準まで技術を高める。取り出したガスを化学品にするために化学メーカーなどとの連携を想定する。自治体などからのごみ処理施設の発注額は従来型では200億〜400億円の規模。新手法でも設置コストは同等に抑えたい考えだ。
22年施行のプラスチック資源循環促進法でハンガーなどを含むプラごみの分別回収は自治体の努力義務となっている。荏原の新手法は可燃ごみと資源ごみを一緒に回収できる。分別をなくせると、曜日別の回収といった手間が減り自治体の運営コストが安くなりそうだ。
荏原は今後、全国にあるごみ処理施設の更新時の置き換えといった新規受注などを狙う。
経済協力開発機構(OECD)によれば、19年時点で世界のプラ生産量のうちリサイクルされている割合は1割に過ぎない。海洋プラごみを減らすために欧米企業も原料にまで戻すリサイクルの取り組みを本格化させ始めている。荏原など日本勢も技術開発を一段と進めれば、海外でも商機を一段と取り込める可能性がある。
【Amazon、翌日配送を拡大 国内に宅配11拠点新設】
6日の日経速報メールは次のように報じた。
アマゾンジャパン(東京・目黒)は6日、宅配の仕分けなどを担う拠点を2023年中に11カ所増やすと発表した。拠点数は全国で50以上となり、現状から約3割増える。栃木や群馬、奈良など7県には初めて拠点を置く。宅配の速さを重視し、地方を含め翌日配送できる地域を拡大する。
新設する宅配拠点「デリバリーステーション(DS)」は、大型物流施設から出荷した荷物を地域別に集約し、配送先に届ける中継地点の役割を担う。新設する11拠点のうち、栃木県、群馬県、富山県、山梨県、静岡県、奈良県、岡山県の7拠点は、それぞれの県で初のDSとなる。
自社配送網を拡大することで、注文から配送先に荷物が届くまでの時間を短縮。拠点を新設する地域では、翌日配送が可能なエリアが広がる。
アマゾンはここ数年、自社配送を強化してきた。人手不足が強まる中、個人事業主のドライバーと直接契約する仕組みを導入するなど運び手の確保にも力を入れている。
【ロシア反乱、中国の悪夢 習氏が恐れるプーチン氏の末路】
7日の日経速報メールは次のように報じた。
マキャベリは約500年前に「君主論」を著し、指導者は愛されるよりも、恐れられるほうが望ましいと説いた。プーチン・ロシア大統領は、この古典の信奉者とされる。
だが、彼が熟読すべきなのは、同書の次の教えだ。「傭兵(ようへい)は役に立たず、危険だ。団結力がなく、権力に飢え、規律がなく、不誠実である」
ロシアの軍事会社ワグネルによる反乱は、いったん鎮まった。だが、これは正常化への一歩ではなく、混乱の序曲だろう。
プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響は大きい。とりわけ注目に値するのが、中国にもたらす意味合いだ。
反乱が起きた当初、中国が動揺したことは明らかだ。ワグネルを率いるプリゴジン氏が決起を宣言した6月23日以降、ひたすら沈黙を貫いた。中国外務省がようやく談話を出し、ロシア安定への支持を表明したのは同25日夜。プリゴジン氏が、モスクワ進軍をあきらめた後になってからだ。
ロシアにどう対応するか、習近平(シー・ジンピン)政権内で、その後も真剣な検討が続いたとみられる。そして彼らが出した結論は、今後もロシアとの軍事協力を深めるというものだった。
李尚福・国務委員兼国防相は7月3日、北京を訪れたロシア海軍のエフメノフ総司令官に、こう伝えた。「あらゆるレベルで意思疎通を強め、共同の訓練、パトロール、図上演習を定期開催するのが望ましい」
ウクライナで誤算を続け、国内の反乱を招いたプーチン政権は、中国にとって失望続きだろう。それでもロシアを支える以外、有力な選択肢がないのが実情だ。
中国は連帯の見返りに、プーチン氏から外交上の譲歩も引き出しはじめている。6月以降、国内取引の中継地としてロシア極東のウラジオストク港を使う権利を、ロシアから取りつけた。
ウラジオストクを含む沿海州は1860年の北京条約で、ロシアに割譲された。中国からみれば、約160年ぶりに同港へのアクセスを得たという演出にもなる。
ロシアが裏庭とみなす中央アジアの囲い込みにも、中国は動く。習国家主席は5月18〜19日、中央アジア5カ国との首脳会議を初めて開いた。中国の外交専門家は「プーチン氏に遠慮して、中国は中央アジアと首脳会議を開くのを控えてきた。だが、もはや気兼ねする必要が薄れた」と語る。
インド太平洋戦略に狂い
しかし、プーチン政権の求心力が衰えれば、習政権にはプラスよりマイナスが大きい。少なくとも2つの影響が考えられる。
第1に、ロシア内の安定が揺らげば、インド太平洋への中国の戦略に狂いが生じる。中国と旧ソ連は1960年代末、武力衝突した。だが、90年代に入って中ロは国境の画定交渉を急ぎ、2008年に決着させた。
これにより北方の火種が減り、中国は安心して東・南シナ海や南太平洋に進出できた。中国の軍事戦略に詳しい米戦略予算評価センター(CSBA)のトシ・ヨシハラ上級研究員は指摘する。
「中国がアジアとその先の海洋に(戦略の)重点を移せたのは、北部の国境地帯が安定していることが前提の一つだ。ロシアが不安定の火種になれば、中国はインド太平洋における優先課題を犠牲にしてでも、大陸側に注意を向けざるを得なくなるだろう」
第2に、ロシア内の混乱は中国の対米戦略にも影を落とす。習政権は米国主導秩序を塗り替え、50年までに世界の最強国になる目標を掲げる。
米国への対抗上、ロシアは唯一の大国パートナーだ。ロシアの国力が衰えたからといって、国連安全保障理事会の常任理事国や核大国の地位が消えるわけではないが、外交力は下がってしまう。習氏にとって最悪な筋書きは、プーチン氏が失脚することだ。
中国の内情に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は話す。「習氏がいちばん見たくないのが、プーチン政権が倒れることだ。その後に親中的な政権が生まれる保証はなく、ロシアが崩壊したり、西側寄りの政権が誕生したりする恐れもある」
侮れない心理的な圧力
こうしたなか、世界にとって重要なのは、ロシアの苦境から習氏がどのような教訓を引き出すのかだ。明確な目算がないままプーチン氏がウクライナに侵略し、ロシア軍の死傷者が増え続けていることが反乱を誘発した。
これを中国に当てはめれば、よほど短期で圧勝できる自信がない限り、台湾侵攻に踏み切るべきではないという教訓になる。むろん、共産党の一党支配下にあり、国中に監視システムを張り巡らす中国で、ロシアのような反乱が起きることは想像しづらい。
ただ、プーチン政権が内戦寸前の危機にさらされたことが、習氏に与える心理的な圧力は侮れないだろう。トシ・ヨシハラ氏も次のように分析する。「共産党指導部は中国軍を厳しく統制しており、ワグネルのような反乱は起きそうにない。ただ、ロシアの反乱を受け、台湾をめぐる戦争がうまくいかず長期化すれば、政権転覆の動き が出かねない、と習氏が受け止めた可能性がある」
10年代初め、中東では「アラブの春」が広がり、長期の独裁政権が次々と倒れた。強権政権は盤石なようで、崩れる時はあっという間だ。西側諸国も「もろいロシア」への対策を急ぐときである。
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【米国で正式承認、エーザイ認知症新薬の効果は?】
同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発した認知症治療薬「レカネマブ」を正式承認した。レカネマブはどんな薬でライバルとなる薬はあるのか。3つのポイントから解説する。
【関連記事】
・エーザイの認知症薬、米国で正式承認 保険適用で普及へ
・どんな治療効果があるの?
・競合薬はあるの?
・迅速承認と正式承認の違いは?
(1)どんな治療効果があるの?
アルツハイマー病患者の脳内には「アミロイドベータ」というたんぱく質が長い年月をかけて蓄積していくことが知られている。一定以上、蓄積すると神経細胞が徐々に破壊され、認知機能に異常が起きる。レカネマブはアミロイドを除去するように設計された医薬品で、アルツハイマー病の進行スピードを27%緩やかにする効果が臨床試験(治験)で確認された。推計では症状の進行を7カ月半遅らせる効果を見込んでいる。
レカネマブが使えるのは軽度認知障害(MCI)もしくは軽度認知症(早期AD)と診断された人だ。2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する。治験では脳の出血や腫れといった副作用も報告されており、注意も必要となる。
症状がより進んだ「中等度」、住所や電話番号などの情報が思い出せないなど日常生活に支障がでている「重度」の患者は投与の対象外となる。米国ではアルツハイマー病患者が600万人以上いるとされるが、米独立機関の米臨床経済評価研究所(ICER)はレカネマブの投与対象が140万人と推計している。
金沢大学の小野賢二郎教授らの研究チームはレカネマブが神経細胞内でどのように働くのかを特殊な顕微鏡「原子間力顕微鏡」を使って観察することに世界で初めて成功した。細胞の中ではアミロイドが徐々に凝集して繊維状の形になっていく。レカネマブはその過程で周囲を取り囲むように結合した。
レカネマブがあらゆる場所にくっつくと、アミロイドが大きな塊を作れないようになり細胞の毒性も減少していたという。臨床効果の仕組みの一端を明らかにしたとして、国際的な科学誌にも研究成果が掲載された。
(2)競合薬はあるの?
エーザイは世界で最初にアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」を開発して以降、治療薬の開発を続けてきたが開発は困難を極め失敗の連続だった。相次ぐ治験の失敗で、多くの製薬会社が撤退するなか、試行錯誤を続けた成果が実った格好だ。その意味でエーザイと同じくアルツハイマー病治療薬の開発を続けてきた米イーライ・リリーが最大のライバルだ。
イーライ・リリーが開発する「ドナネマブ」はレカネマブと同じくアミロイドに結合するバイオ医薬品で、認知症の進行スピードを35%低下させるという治験の結果を公表している。脳の出血や腫れといった副作用はレカネマブより高い確率で発生しているが、有効性はレカネマブの27%を大きく上回っている。
世界では140以上の治験が進行中で、うち半数以上が新薬としての承認を前提とした製薬会社による治験だ。アミロイドとは別のたんぱく質「タウ」を標的とした治療薬の開発も進んでいる。エーザイとバイオジェンのほか、イーライ・リリーやスイスのロシュ、米ヤンセン・ファーマシューティカルズといった製薬大手が手掛けている。シンガポールや韓国、中国のスタートアップも開発に力を入れる。
(3)迅速承認と正式承認の違いは?
FDAは23年1月にまずレカネマブを迅速承認した。迅速承認とは患者数が少ない希少疾患や何年も待っている余裕のない難病に対して、開発中の新薬を速やかに届けるために米国で1992年から始まった制度だ。通常は治験で有効性や効果を何年にもわたって評価する必要がある。迅速承認制度を使えば治験の結果がすべて出そろう前でも、有効性を予測できる代替のデータで評価・承認できるのが最大の特徴だ。
もっとも引き続き医薬品の評価を確かめる検証試験を続けることが条件となっている。その後の検証で臨床的な有効性を示せなかった場合は、迅速承認は取り消される。迅速承認はいわば「仮免許」の状態だ。
一方で完全な治験データがそろい、臨床的な利点が確認できた場合は、正式承認に切り替える。新薬の有効性や副作用を政府が評価した結果「お墨付き」を与える意味合いがある。特に米国の正式承認は日本や欧州など世界の規制当局の判断の重要な指針にもなっている。(先端医療エディター 高田倫志)
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多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
ひとこと解説
一口にアミロイドといっても、その繊維化までのメカニズムは複雑であり、過去に様々な分子標的薬の開発が失敗してきたポイントはここにあります。アミロイドβと呼ばれるペプチドは非常に小さな物質であり、それが可溶性(水に溶ける)が凝集体(プロトフィブリル)を作り、その凝集体を起点に繊維化して不要化し、神経毒性を持つと考えられています。今回のレカネマブは繊維化の元となる可溶性の凝集体(プロトフィブリル)という非常に捉えるのが難しいターゲットに作用する抗体で、効果が示され、アミロイドβ仮説が一定証明された、ということになります。今後はリリーのドナネマブの他、複数品がパイプラインで開発されており、注目です。
【規制委、東電の原発処理水設備に「合格」 放出準備整う】
同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
原子力規制委員会は7日、政府が8月にも始める東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、関連設備の使用前検査の「合格」を示す終了証を東電に交付した。政府は放出に向けた安全性の評価作業を 全て終えた。
具体的な放出日程の調整を進める。福島県など地元の漁業関係者らの理解を求める作業は続ける。
規制委の事務局である原子力規制庁の職員が7日午後、都内で東電の処理水対策の責任者に終了証を手渡した。規制委は6月28〜30日に処理水の移送・希釈・放出設備の最終検査を実施した。トラブル時に備える緊急遮断弁などの性能も現地で確認した。
これで放出に必要な設備面の条件は整った。処理水を測定する設備の検査はすでに3月に合格。東電も6月に放出用の海底トンネルを含む工事を完了させた。
国際原子力機関(IAEA)は7月4日の報告書で「処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどわずか」と評 価した。
西村康稔経済産業相は7日の記者会見で、放出時期について「安全性の確保、風評対策の取り組みの状況を政府全体で確認して判断する」と述べた。
地元の漁業関係者は反対姿勢を変えていない。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は5日、経産省主催の意見交換会で改めて反対する考えを強調した。
中国など一部の国からも批判がある。ロシア外務省のザハロワ情報局長は6日、中国と連携して透明性を求めていく意向を示した。韓国政府は7日に独自の検証結果を公表した。
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・原発処理水、8月放出へ条件整う 7日に設備合格認定
・廃炉への一歩にすぎない 福島第1原発の処理水放出
・[社説]処理水放出へIAEAの支援をいかせ
▼原発処理水 東京電力福島第1原子力発電所からは2011年の東日本大震災に伴う事故の影響で、放射性物質を含む汚染水が出る。この汚染水から浄化処理で大半の放射性物質を取り除いた水を処理水という。地下水や雨水などが建物内の放射性物質に触れたり、事故で溶け落ちた核燃料を水で冷却したりするため、高濃度の放射性物質を含む汚染水が1日平均で130トン程度発生している。原発処理水は敷地内の1000基を超えるタンクで保管され、廃炉作業の妨げとなっている。(2022年5月19日掲載)。
【米国で正式承認、エーザイ認知症新薬の効果は?】
同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発した認知症治療薬「レカネマブ」を正式承認した。レカネマブはどんな薬でライバルとなる薬はあるのか。3つのポイントから解説する。
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・競合薬はあるの?
・迅速承認と正式承認の違いは?
(1)どんな治療効果があるの?
アルツハイマー病患者の脳内には「アミロイドベータ」というたんぱく質が長い年月をかけて蓄積していくことが知られている。一定以上、蓄積すると神経細胞が徐々に破壊され、認知機能に異常が起きる。レカネマブはアミロイドを除去するように設計された医薬品で、アルツハイマー病の進行スピードを27%緩やかにする効果が臨床試験(治験)で確認された。推計では症状の進行を7カ月半遅らせる効果を見込んでいる。
レカネマブが使えるのは軽度認知障害(MCI)もしくは軽度認知症(早期AD)と診断された人だ。2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する。治験では脳の出血や腫れといった副作用も報告されており、注意も必要となる。
症状がより進んだ「中等度」、住所や電話番号などの情報が思い出せないなど日常生活に支障がでている「重度」の患者は投与の対象外となる。米国ではアルツハイマー病患者が600万人以上いるとされるが、米独立機関の米臨床経済評価研究所(ICER)はレネマブの投与対象が140万人と推計している。
金沢大学の小野賢二郎教授らの研究チームはレカネマブが神経細胞内でどのように働くのかを特殊な顕微鏡「原子間力顕微鏡」を使って観察することに世界で初めて成功した。細胞の中ではアミロイドが徐々に凝集して繊維状の形になっていく。レカネマブはその過程で周囲を取り囲むように結合した。
レカネマブがあらゆる場所にくっつくと、アミロイドが大きな塊を作れないようになり細胞の毒性も減少していたという。臨床効果の仕組みの一端を明らかにしたとして、国際的な科学誌にも研究成果が掲載された。
(2)競合薬はあるの?
エーザイは世界で最初にアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」を開発して以降、治療薬の開発を続けてきたが開発は困難を極め失敗の連続だった。相次ぐ治験の失敗で、多くの製薬会社が撤退するなか、試行錯誤を続けた成果が実った格好だ。その意味でエーザイと同じくアルツハイマー病治療薬の開発を続けてきた米イーライ・リリーが最大のライバルだ。
イーライ・リリーが開発する「ドナネマブ」はレカネマブと同じくアミロイドに結合するバイオ医薬品で、認知症の進行スピードを35%低下させるという治験の結果を公表している。脳の出血や腫れといった副作用はレカネマブより高い確率で発生しているが、有効性はレカネマブの27%を大きく上回っている。
世界では140以上の治験が進行中で、うち半数以上が新薬としての承認を前提とした製薬会社による治験だ。アミロイドとは別のたんぱく質「タウ」を標的とした治療薬の開発も進んでいる。エーザイとバイオジェンのほか、イーライ・リリーやスイスのロシュ、米ヤンセン・ファーマシューティカルズといった製薬大手が手掛けている。シンガポールや韓国、中国のスタートアップも開発に力を入れる。
(3)迅速承認と正式承認の違いは?
FDAは23年1月にまずレカネマブを迅速承認した。迅速承認とは患者数が少ない希少疾患や何年も待っている余裕のない難病に対して、開発中の新薬を速やかに届けるために米国で1992年から始まった制度だ。通常は治験で有効性や効果を何年にもわたって評価する必要がある。迅速承認制度を使えば治験の結果がすべて出そろう前でも、有効性を予測できる代替のデータで評価・承認できるのが最大の特徴だ。
もっとも引き続き医薬品の評価を確かめる検証試験を続けることが条件となっている。その後の検証で臨床的な有効性を示せなかった場合は、迅速承認は取り消される。迅速承認はいわば「仮免許」の状態だ。
一方で完全な治験データがそろい、臨床的な利点が確認できた場合は、正式承認に切り替える。新薬の有効性や副作用を政府が評価した結果「お墨付き」を与える意味合いがある。特に米国の正式承認は日本や欧州など世界の規制当局の判断の重要な指針にもなっている。(先端医療エディター 高田倫志)
【ロシア反乱、中国の悪夢 習氏が恐れるプーチン氏の末路 本社コメンテーター 秋田浩之】
同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
マキャベリは約500年前に「君主論」を著し、指導者は愛されるよりも、恐れられるほうが望ましいと説いた。プーチン・ロシア大統領は、この古典の信奉者とされる。
だが、彼が熟読すべきなのは、同書の次の教えだ。「傭兵(ようへい)は役に立たず、危険だ。団結力がなく、権力に飢え、規律がなく、不誠実である」
ロシアの軍事会社ワグネルによる反乱は、いったん鎮まった。だが、これは正常化への一歩ではなく、混乱の序曲だろう。
有力な選択肢ないのが実情
プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響は大きい。とりわけ注目に値するのが、中国にもたらす意味合いだ。
反乱が起きた当初、中国が動揺したことは明らかだ。ワグネルを率いるプリゴジン氏が決起を宣言した6月23日以降、ひたすら沈黙を貫いた。中国外務省がようやく談話を出し、ロシア安定への支持を表明したのは同25日夜。プリゴジン氏が、モスクワ進軍をあきらめた後になってからだ。
ロシアにどう対応するか、習近平(シー・ジンピン)政権内で、その後も真剣な検討が続いたとみられる。そして彼らが出した結論は、今後もロシアとの軍事協力を深めるというものだった。
李尚福・国務委員兼国防相は7月3日、北京を訪れたロシア海軍のエフメノフ総司令官に、こう伝えた。「あらゆるレベルで意思疎通を強め、共同の訓練、パトロール、図上演習を定期開催するのが望ましい」
ウクライナで誤算を続け、国内の反乱を招いたプーチン政権は、中国にとって失望続きだろう。それでもロシアを支える以外、有力な選択肢がないのが実情だ。
中国は連帯の見返りに、プーチン氏から外交上の譲歩も引き出しはじめている。6月以降、国内取引の中継地としてロシア極東のウラジオストク港を使う権利を、ロシアから取りつけた。
ウラジオストクを含む沿海州は1860年の北京条約で、ロシアに割譲された。中国からみれば、約160年ぶりに同港へのアクセスを得たという演出にもなる。
ロシアが裏庭とみなす中央アジアの囲い込みにも、中国は動く。習国家主席は5月18〜19日、中央アジア5カ国との首脳会議を初めて開いた。中国の外交専門家は「プーチン氏に遠慮して、中国は中央アジアと首脳会議を開くのを控えてきた。だが、もはや気兼ねする必要が薄れた」と語る。
インド太平洋戦略に狂い
しかし、プーチン政権の求心力が衰えれば、習政権にはプラスよりマイナスが大きい。少なくとも2つの影響が考えられる。
第1に、ロシア内の安定が揺らげば、インド太平洋への中国の戦略に狂いが生じる。中国と旧ソ連は1960年代末、武力衝突した。だが、90年代に入って中ロは国境の画定交渉を急ぎ、2008年に決着させた。
これにより北方の火種が減り、中国は安心して東・南シナ海や南太平洋に進出できた。中国の軍事戦略に詳しい米戦略予算評価センター(CSBA)のトシ・ヨシハラ上級研究員は指摘する。
「中国がアジアとその先の海洋に(戦略の)重点を移せたのは、北部の国境地帯が安定していることが前提の一つだ。ロシアが不安定の火種になれば、中国はインド太平洋における優先課題を犠牲にしてでも、大陸側に注意を向けざるを得なくなるだろう」
第2に、ロシア内の混乱は中国の対米戦略にも影を落とす。習政権は米国主導秩序を塗り替え、50年までに世界の最強国になる目標を掲げる。
米国への対抗上、ロシアは唯一の大国パートナーだ。ロシアの国力が衰えたからといって、国連安全保障理事会の常任理事国や核大国の地位が消えるわけではないが、外交力は下がってしまう。習氏にとって最悪な筋書きは、プーチン氏が失脚することだ。
中国の内情に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は話す。「習氏がいちばん見たくないのが、プーチン政権が倒れることだ。その後に親中的な政権が生まれる保証はなく、ロシアが崩壊したり、西側寄りの政権が誕生したりする恐れもある」
侮れない心理的な圧力
こうしたなか、世界にとって重要なのは、ロシアの苦境から習氏がどのような教訓を引き出すのかだ。明確な目算がないままプーチン氏がウクライナに侵略し、ロシア軍の死傷者が増え続けていることが反乱を誘発した。
これを中国に当てはめれば、よほど短期で圧勝できる自信がない限り、台湾侵攻に踏み切るべきではないという教訓になる。むろん、共産党の一党支配下にあり、国中に監視システムを張り巡らす中国で、ロシアのような反乱が起きることは想像しづらい。
ただ、プーチン政権が内戦寸前の危機にさらされたことが、習氏に与える心理的な圧力は侮れないだろう。トシ・ヨシハラ氏も次のように分析する。「共産党指導部は中国軍を厳しく統制しており、ワグネルのような反乱は起きそうにない。ただ、ロシアの反乱を受け、台湾をめぐる戦争がうまくいかず長期化すれば、政権転覆の動きが出かねない、と習氏が受け止めた可能性がある」
10年代初め、中東では「アラブの春」が広がり、長期の独裁政権が次々と倒れた。強権政権は盤石なようで、崩れる時はあっという間だ。西側諸国も「もろいロシア」への対策を急ぐときである。
【「おじさん企業」投資家はNO 女性活躍企業にマネー】
9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・女性活躍企業は株価や業績が伸びるケースが目立つ
・多様性に富むと強じん性・回復力への注目が増す
・男性中心では市場から見放されるとの危機感が必要
政府は6月、2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標などを柱にした「女性版骨太の方針」を決定した。企業による女性活躍の取り組み加速への期待も高まるが、めざとい投資家はすでに「女性活躍」をキーワードに企業を評価・選別し始めている。女性活躍企業と株価や業績との関係を探った。
「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取り組みを推進する」。岸田文雄首相は6月中旬、「女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)2023」取りまとめの会議で力強く宣言した。
ここで浮かんでくる疑問がある。企業が女性役員や従業員の比率を高めたり、女性の働きがいや働きやすさに配慮すれば、本当に株価や業績は上昇するのか――。
東証株価指数(TOPIX)500と女性役員比率の高い50の「女性活躍銘柄」の株価を比較したJPモルガン証券の分析を見てみよう。注目すべき変化が起きたのは2020年。20年3月にともに急落した後、女性活躍 銘柄の株価の戻りはTOPIXを大きく上回った。
この時期、新型コロナウイルスの感染拡大で経営環境が急激に悪化した。西原里江チーフ株式ストラテジストは「危機時には経営改革や斬新な視点が求められるため、多様性に富んでいる企業のレジリエンス(強じん性・回復力)への注目が増す」と指摘する。
個別企業の事例も見てみよう。「リーマン・ショックの頃とは違い、女性活躍をはじめダイバーシティ(多様性)を高めてきたことで危機に強い会社になった」。プライム上場でデジタルマーケティング支援のメンバーズの高野明彦社長は感慨深げに話す。08年3月期には過去最大の赤字を計上するなど「会社存続の危機」(高野社長)だった。
当時の同社は典型的な「ブラック企業」。そこで着手したのが人事制度の改革だ。計測すらしていなかった残業時間を月15時間までに抑えた。育休から復帰した社員は総務や経理といったバックオフィスに配属することが多かったが、本人の意向も踏まえつつ、原則元の職場に復帰できるようにした。
取り組みの成果は数字にも表れている。女性管理職比率は32%と3割を超え、同業他社では20%を超えることもある離職率は8%程度。女性役員比率も29%とすでに政府目標とほぼ同水準に到達し、業績や株価も好調だ。高野社長は「人材獲得競争が厳しいIT業界だが、働きがいや働きやすさを感じた優秀な社員が活躍し続けてくれている」と話す。
人材紹介を手掛けるジェイエイシーリクルートメントも女性活躍に積極的な企業のひとつだ。02年に新卒採用を始めたことで、20代半ばで出産を機に辞める女性社員が増加。「会社の損失」と見て保育所に預ける費用などの補助を実施し、今は産休・育休からの復帰率は100%だという。
22年からは女性リーダー候補者を選抜する試みも始めた。田崎ひろみ会長兼社長は「画一性の高い取締役会では経営課題を多角的に捉えられない」と強調。「数年内に執行役員に占める女性を3〜4割まで増やしたい」と意気込む。
「海外投資家からの問い合わせがここ2〜3年で増えている」。そう話すのは電線中堅のSWCC(旧・昭和電線ホールディングス)の山口太常務執行役員だ。18年には同社初の女性社長に長谷川隆代氏が就任。事務職から総合職にキャリアアップできる公募制度など「女性活躍推進プロジェクト」を立ち上げた。女性管理職比率こそまだ6%にとどまるが、多様性への関心の高い海外投資家からの注目も高まっている。
運用会社が自主的に企業に女性活躍を促す動きも活発になっている。野村アセットマネジメントなど運用大手は23年の株主総会から、女性取締役が一人もいない企業の会長や社長の取締役再任に反対するようにした。
ノルウェー政府年金基金や米議決権助言会社グラスルイスも同様の働きかけを進めている。インベスコ・アセット・マネジメントの 古布薫ヘッド・オブ・ESGは「企業が女性活躍を進める中で、対話や議決権行使など投資家の役割は大きい」と指摘する。
フューチャーの神宮由紀取締役は「女性活躍推進という言葉がなくなる時が来ればいい」と話す。女性活躍に注目が集まるのは今なお女性の労働環境が整っておらず、課題として企業や社会の前に立ちはだかっていることの裏返しだからだ。男性中心の「おじさん企業」のままでは、市場からも見放されるという危機感が必要だ。
<Review 記者から>脱・見せかけ、仏作って魂入れよ
女性活躍がなぜ重要なのか。それは女性活躍をはじめとした人的資本の拡充が「ヒト・カネ・モノ」を呼び込むための重要なツールであるからだ。
「ヒト=人材」では、日本の労働力人口が減るなか、すでに「人材争奪戦」の様相を呈している。リクルートホールディングスの傘下企業が22年に米国で実施した調査によると、18〜34歳の労働者の72%が「上司などがDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、多様性・公平性と包括性)を支持していないと思えば、退職や内定辞退を検討する」と回答した。
優秀な人材が集まらないと当然、企業業績も悪化し投資家や金融機関からもそっぽを向かれ「カネ=資金」も集まらなくなる。女性の人権や不平等といった問題を放置している会社と見られれば、「モノ=取引先との商品や製品のやりとり」も細ってしまう構図だ。
政府の掲げる「女性役員30%」という数値に合わせるだけでは「仏作って魂入れず」となりかねない。21年の企業統治指針の改訂では社外取締役の目標比率が示されたが、「形式は整えたが内実が伴っていない企業が少なくない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト)ためだ。
20年以上にわたって女性活躍の重要性を唱えてきたキャシー松井氏は「多様性の重視を企業の成長にどうつなげるのか、きちんと経営戦略に落とし込み、ストーリー立てて社内外に説明することが重要だ」と話す。
(ESGエディター 古賀雄大)
女性版骨太の方針
正式名称は「女性活躍・男女共同参画の重点方針」。政府が6月に決定した。東証プライム市場に上場する全企業を対象に、2025年をめどに女性役員を1人以上選任し、30年までに女性役員比率を30%以上にする目標を設定し、数値目標の設定や行動計画の策定を促す。いずれも努力義務で罰則は設けない。
日本の女性活躍は世界に見劣りしてきた。経済協力開発機構(OECD)によると、東証上場企業の女性役員の比率は13%と主要7カ国(G7)で最低。女性役員が1人もいない企業は東証プライム上場企業で344社と全体の19%にものぼる。世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数も23年で146カ国のうち125位となっている。
【「アジャイル」な半導体とEV トヨタも追う俊敏な経営】
10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
政府系投資ファンドが約1兆円を投資して、株式を非公開化する半導体材料大手のJSR。6月29日付の本紙でエリック・ジョンソン社長が今後の課題と目標について「10%を優に超える自己資本利益率(ROE)を」と語っていたのが印象的だった。
特別珍しい指標ではないが、「純利益÷自己資本×100」で求めるROEとはつまるところ、企業が分母(自己資本)も、分子(純利益)も「複利」で成長しているかをみる指標だ。復興をめざす日本の半導体産業には大事な話をしていた可能性がある。
「利益を再投資」で描く成長カーブ
試算してみよう。わかりやすくJSRの自己資本(元手)を1千億円、ROEを10%だと仮定すると、100億円の純利益(アウトプット)をあげることになる。半分を配当に回し、残りを自己資本に足すと1050億円だ。
その後も同じ資本生産性を保てるなら、2年目の自己資本は1102億円、3年目は1157億円に増える。10年間続けられれば、1628億円で、スタート地点の約1.6倍になる。
あくまで元手が基準の「単利」だとこうは成長できない。複利とは「アウトプットも元手に組み込んで再投資する」ことを意味し、グラフにしたら直線でなく指数関数曲線になる。時間がたつほどに利益→再投資の循環が太くなっていき、20年後なら自己資本が約2.7倍、30年後は4.5倍と勢いを増す。ROEが向上すれば、伸び方はさらに加速する。
もちろん、ROEだけが重要だということではない。成長速度の尺度は様々あり、例えば日本政府は停滞する半導体産業の総売上高を5.3兆円(2022年)から30年までに15兆円に引き上げる目標を打ち出している。15兆円を実現するには、年率13.8%もの複利で今後8年間、売上高を増やし続けないといけない。
政府は最先端半導体の国内生産をめざすラピダスの設立や、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本誘致にも関わった。だが、投じる資金はあくまで民間投資を誘発する「最初の一滴」の位置づけであり、企業側に戦略、とりわけ複利で成長できる経営力がなければ、半導体再興も絵に描いた餅だ。
開発サイクルを短く、早く
東芝で半導体開発に携わったこともある東京大学大学院の黒田忠広教授が面白い話をしていた。日本の半導体産業にとって重要なのは「利率とサイクル(周期)とコスト。とりわけサイクルだ」という。どういうことか。
複利の成長は前出の総売上高を含め、「y=a(1+r)のn乗」という数式で表せる。株式投資や定期預金などでみかける複利計算式と同じだ。yはアウトプット、aは元手、rは利率、nは運用サイクルを指す。
アウトプットを増やすなら、利率rを大きくしようとするのが基本だ。ただし、それは運用サイクル(通常は1年)が一定の場合で、サイクルのnを大きくできるのなら、アウトプットの成長はもっと加速させることが可能だ。
つまり同じ制限時間の中で他者よりサイクルを短く、速く回す。半導体に置き換えれば、短い開発期間で何度も改善と改良を繰り返してチップの性能を高め、顧客に提供し続けるということになる。
「小刻みな開発」で優位な日本勢
最先端技術から遠ざかっていた日本にとって、TSMCや韓国・サムスン電子と同じペース、やり方で競っても勝ち目はない。一方で、日本には高集積化や省電力化につながるパッケージ(チップを並べる)技術や積層(チップを重ねる)技術で優位性がある。製造装置や材料分野で競争力のあるメーカーも多い。開発サイクルの「小刻み化」は日本勢に合理的で、面白い試みかもしれない。
日本勢が追いつく例を考えてみよう。海外の有力半導体メーカーがあり、売上高1兆円で開発サイクルは年1回のペースとする。一方、ラピダスのような新興の日本企業が売上高1000億円だとする。売上高で10倍の差があるが、日本企業はパッケージや積層の技術で工夫を重ね、開発サイクルを年3回に短くできた。
そうすると複利の成長効果が時間とともに表れる。開発サイクルに伴う増収率を仮に同じ10%とすると、日本企業は短いサイクルで増収を達成できるため、12年を過ぎたころに売上高で追いつく計算になる。やや極端な例だが、「複利の経営」を徹底すれば勝つことができるわけだ。
トヨタの生産改革が示す「n」の時代
改善や改良、新しいアイデアを短い周期で実現し、実装する手法は近年、「アジャイル(機敏)開発」と呼ばれ、米「GAFAM」などIT(情報技術)企業の間で一般的になりつつある。だが、これからは産業を超えてアジャイルは重要になっていくだろう。
例えば、トヨタ自動車が電気自動車(EV)の製造に「ギガキャスト」と呼ばれる一体成型技術を導入し、工程数と投資額を半減させる計画を打ち出した。
車の全面改良はこれまで5年前後をかけるものだったが、開発から製造までをデジタルツインで管理したり、ソフトウエアで機能を更新させたりすることも踏まえ、数カ月から1年でのモデルチェンジが可能になるという。まさに「y=a(1+r)のn乗」のnを増やす、アジャイル化である。
ただし、米テスラや中国・比亜迪(BYD)はアジャイル開発で先行しており、トヨタはどちらかというと追う側だ。EVも半導体も「nを極めないと競争に勝てない」。そういう時代に入った。
【関連記事】
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・リコーやKDDIが「アジャイル」導入 組織はどう変わる
ひとこと解説
EVの開発・製造には内燃機関で経験したことのないスピートを目指すことになるでしょう。誤解を恐れずにいえば、EVの成功要因とは内燃機関の成功要因の先に連続的に起こることはないからです。BYD、テスラは、内燃機関をコアとして固まったプラットフォーム、それをベースにした水平分業型開発、生準リードタイムなどを破壊しています。追いつくための新しい取り組みが伝統的OEMには不可欠でしょう。ギガキャストは部品点数・工程削減が目的のようにいわれますが、究極的に開発・生準のリードタイム短縮がゴールです。
【インド、「スタートアップ大国」へ野心 海外勢とも連携】
同じ10日のニュースメールは次のように報じた。
インドが「スタートアップ大国」として、国際的な存在感を高めようとしている。20カ国・地域(G20)の議長国として新興企業の活性化をテーマにした会合を新設し、このほど1兆ドル(約140兆円)の共同投資などを中心とする共同声明をまとめた。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の盟主として注目を集めるなか、有力な新興企業を多く抱える大国としても影響力の拡大をめざす。
G20で新興企業について話し合う会議「スタートアップ20」は3日、提言をまとめた共同声明を発表した。「スタートアップは世界経済の成長に欠かせない存在となっている。しかし、新興企業の定義や支援策のあり方については、各国間でほとんど調和がとれていない」との問題意識を掲げた。G20各国での新興企業の定義の統一や、総額1兆ドルの共同投資などの提言を盛り込んだ。
スタートアップ20は民間企業などを中心に構成される「エンゲージメントグループ」と呼ばれる部会のひとつで、インドが議長国を務める今回のG20のもとで初めて設置された。1月の南部ハイデラバードでの会合を皮切りに、インド政府とも連携しながら各国代表による議論を数カ月にわたって続けてきた。延べ500人以上の代表が参加したという。日本では日本貿易振興機構(ジェトロ)が代表として議論に加わり、日本企業との窓口にもなった。
生体情報と連携した個人番号制度を整備
今回の提言内容がどこまで各国の具体的な政策に反映されるかは不透明だが、スタートアップ20の枠組みは次回のG20の議長国であるブラジルにも引き継がれる見通しだ。
日系ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズでインドでの事業開発を担当するシャー・マユール氏は、「G20の枠組みでスタートアップについて議論された意義は大きい」と評価する。ただちにG20全体の政策協調には至らなくても「2国間の取り組みなど、できることから国際的な取り組みが始まっていくのではないか」と期待する。
「これはインドのアイデアだ」。3日、首都ニューデリー近郊で開かれたスタートアップ20会合での記者会見で、インド政府関係者は同国が果たしてきた主導的な役割を強調した。
インドは22年12月にインドネシアからG20議長国を引き継いだ。インドが議長国としてスタートアップに注目する背景には、デジタル分野を中心とした同国の躍進がある。インドは中国などと比べると製造業の誘致などで後れをとってきた一方で、理系人材の層が厚くIT(情報技術)産業が発展してきた。
インド政府はデジタル公共インフラ「インディア・スタック」を推進し、生体情報と連携した個人番号制度「アーダール」やモバイルの基盤になる電子送金システム「統合決済インターフェース(UPI)」などの仕組みが整備された点も、ITを活用した新興企業の台頭につながった。モバイル決済「ペイティーエム」を手がけるワン97コミュニケーションズは、日本の決済サービス「PayPay」に技術支援をしている。
IT規制を強めた中国に代わる投資先として、インドのスタートアップが注目されたことも追い風となった。スタートアップ20の開催には、多数のユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)を生み出しているインドの自信も透けて見える。
ただ、足元で新興企業の資金調達環境は悪化している。新型コロナウイルス禍で低金利を維持していた各国が、米連邦準備理事会(FRB)を追うように利上げ路線に転じた。米国など海外からの投資マネー流入が目立っていたインドを巡っても環境が一変した。
印ソフトウエア・サービス企業協会(NASSCOM)などのまとめによると、21年に新たにユニコーンとなったインド企業は20年比で3.5倍の42社だった。一方で22年は23社と半分ほどにとどまった。英調査会社のグローバルデータによると、1〜5月のVCによるインド投資額は前年同期比で7割ほど減少している。オンライン教育のアンアカデミーやベダントゥなど、22年は社員を削減する動きも目立った。
日本に対する期待も
世界的に逆風が吹くなかで、日本とインドのスタートアップ分野での連携を探る動きも出てきている。
6月下旬、東京都中央区。インドから起業家を招いて同国の企業を日本の企業・投資家に紹介するイベントが開かれた。「インドと日本の友好関係は深まると強く感じている。国境を越えたM&A(合併・買収)が活発になり、様々な機会が生まれるだろう」。主催者のひとりでインドで起業家支援を手がけるGSFのラジェシュ・サハニ氏は熱弁を振るった。
人口が多くデジタルに強い人材が豊富なインドは、少子高齢化で国内市場の縮小を懸念する日本企業にとって魅力的に映る。参加した日本の関係者からはインドについて、人口の多さに加えて「スマートフォンを持ってい る人が多く、テクノロジーにとても精通している」点などへの期待の声があがっていた。
シンガポールなどを拠点にインド企業などに投資するVCであるリブライトパートナーズのブリッジ・バシン氏は、日本勢について「ひとたび企業や製品を気に入ると長期間にわたって投資を持続する」と指摘する。
リブライトも4月に都内で、出資先のインド企業と日本の関係者をつなぐイベントを開催した。オンライン診療や健康診断のネット予約サービスなどを運営するメディバディのサティシュ・カナン最高経営責任者(CEO)は「米国の投資家が基本的に純粋な投資ファンドであるのに対し、日本はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が多い。米国からは垂直立ち上がり的な成長を求められるが、日本は長期でみてくれる」と話す。その一方でイベントでは「日本の投資家には意思決定のスピードアップを期待したい」との声もあった。
インドが海外に目を向けるなか、日本との連携拡大にもつながるのか。インドだけでなく日本勢の姿勢も問われている。(ムンバイ=花田亮輔、小林拓海、藤村広平)
【クリミア橋爆破、ウクライナ当局者が関与を示唆】
10日の日経特報メールは次のように報じた。
(CNN) ウクライナのマリャル国防次官が、昨年10月に起きたロシアとクリミア半島を結ぶ橋で起きた爆発について、ウクライナ軍による関与をこれまでで最も明確に示唆した。クリミア半島は、ロシアが2014年に「併合」して以降、ロシアの支配下にある。
マリャル氏はSNSへの投稿で、500日前にロシアによるウクライナ侵攻が始まってからウクライナが達成した成果を12件提示した。
マリャル氏はそのなかで、ウクライナが273日前にロシアの兵站(へいたん)を破壊するためクリミア橋に最初の攻撃を行ったと述べた。
その他の成果としては、451日前のロシア軍の軍艦「モスクワ」の沈没や、373日前のスネーク島の解放などを挙げた。
橋への攻撃によって、ロシアとクリミア半島を結ぶ主要な交通網が破壊された。橋への攻撃は、ウクライナにおけるロシア軍の軍事的対応に打撃を与えただけではなく、ウクライナ政府にとっては宣伝戦略での勝利となった。
ウクライナ当局者は当時、橋の爆破を称賛したものの、関与については明言しなかった。
【三井住友、ユニコーン育成に300億円 上場前に重点投資】
同じ10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)は国内の未上場成長企業「ユニコーン」の育成を目指す新ファンドを立ち上げる。投資総額は300億円になる見通しで、同種のファンドでは国内最大級とみられる。日本では成長後期のスタートアップを支える資金の出し手が少なく、事業基盤が弱いまま上場に至る事例が目立つ。リスクマネーの厚みが増せば、世界で戦える新興企業は生まれやすくなる。
三井住友FGと国内の有力ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレインがファンドを近く立ち上げる。資金の大半を三井住友FGが拠出し、実際の投資ではグローバル・ブレインの目利き力を生かす。同社はフリマアプリ運営のメルカリを創業時代から支え、 日本初のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未公開企業)に育てた実績がある。
政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にもスタートアップが成長できる環境の整備が盛り込まれた。スタートアップ企業の資金調達は通常、成長段階によって投資家が異なる。創業期から起業家を支援する「シード(種子)」や「アーリー(初期)」段階の投資家は、日本でもVCを中心に厚みが増してきた。
一方、成長途上の「レイター(後期)」段階になると資金の出し手が少なくなる。スタートアップ企業は事業モデルの確立後、量産投資や製品・サービスのシェア拡大に資金を十分振り向けられず、成長が鈍化しがちだ。「GAFA」のような世界で大きく飛躍する新興企業が生まれない一因とされてきた。
三井住友FGの新ファンドは成長後期の投資に特化し、事業拡大を後押しする。新ファンドの運用期間は7年で、1社に対する投資額は数十億円規模。企業価値が100億円を超える新興企業を中心に投資し、500億〜1000億円規模に成長させてから数年以内に売却や株式の上場をめざす。
日本取引所グループ(JPX)の山道裕己・最高経営責任者(CEO)は「日本でユニコーンが少ないのはレイターステージ(成長後期段階)でリスクをとる出資者が少ないためだ」と指摘する。内閣府の資料によると、VC投資全体に占める「成長後期型」の割合は米中が約7〜9割。日本は4割弱にとどまる。
日本は成長後期の投資家が少ないことから、新興企業は経営基盤が弱い段階で早期の株式公開を迫られていた。東京証券取引所などによれば、東証グロース市場に新興企業が新規株式公開(IPO)する際の株式時価総額は22年の平均で101億円。米国の19億2000万ドル(約2700億円)との差は大きい。
上場時の企業価値が小さければ、調達額も少なくなりがちだ。1社あたりの調達額(21年)は米国の450億円超に対し、日本の旧東証マザーズは14億円だった。上場後に積極的な研究開発や設備投資をしづらくなっていることが一段の成長を促すうえで支障となっている。
日本の新興市場は個人投資家中心で、長期目線の機関投資家が少ない。株価が不安定になりがちで、経営が短期目線になるといった課題も指摘されている。上場後の追加の資金調達も難しかった。未上場のままで成長資金を確保できるようになれば、こうした問題の解決につながる。
一般財団法人のベンチャーエンタープライズセンターによると、22年の日本のVC投資額は3403億円と31兆円を超える米国、2兆5000億円の欧州に大きく水をあけられている。政府が昨年11月にまとめた「スタートアップ育成5カ年計画」では、スタートアップへの投資額を10兆円規模にまで増やす目標を掲げる。
スタートアップへの投融資に慎重だった銀行も近年は支援策を拡充させている。みずほFGが22年に成長後期向けのファンドを100億円規模で立ち上げたほか、三菱UFJフィナンシャル・グループも海外で培った人工知能(AI)の活用による融資を国内でも始める計画だ。
ゆうちょ銀行もスタートアップ投資に本格的に乗り出すと表明した。巨額のゆうちょマネーの一部を成長分野に振り向ける。国内の大手金融機関が投融資に乗り出せば、国内外から新たなリスクマネーを呼び込む効果も期待できる。
【スウェーデンのNATO加盟、トルコが容認 実現へ前進】
11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・スウェーデンとの首脳会談でトルコが反対姿勢を転換
・トルコなどの議会承認を経て加盟実現へ
・NATOの北方防衛強まる。ロシアとの緊張高まるリスク
【ビリニュス=辻隆史、イスタンブール=木寺もも子】北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は10日、トルコがスウェーデンのNATO加盟に同意したと明らかにした。これまで反対していたトルコの方針転換により、加盟実現に大きく前進する。NATOの北方防衛強化につながるが、ロシアとの緊張がさらに高まるリスクもある。
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トルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相が10日、11日から始まるNATO首脳会議に先立ち、リトアニアの首都ビリニュスで協議した。協議後、NATOのストルテンベルグ氏が発表した。
ストルテンベルグ氏は記者会見で「この重要な時期に全加盟国の安全保障に恩恵をもたらす歴史的な一歩だ」と述べた。「私たち全員をより強く、より安全にする」とも語った。
バイデン米大統領は10日の声明でトルコの方針転換に関し「歓迎する」と強調した。「欧州における防衛力や抑止力の強化に向けてエルドアン大統領やトルコと協力して取り組む用意がある」とも言及した。
トルコは非合法組織のクルド労働者党(PKK)支持者らを「テロリスト」とみなしており、加盟条件としてテロ対策の強化を求めた。スウェーデンが6月に新たな対テロ対策法を施行した後もなお取り締まりが不十分だとしていたが、NATOによると両国は10日の首脳会談で今後も対策を強化していくことで合意した。
ストルテンベルグ氏はNATO首脳会議までの交渉決着をめざしていた。承認には加盟国の全会一致が必要だ。残るのはトルコ、ハンガリー両国議会での承認手続きだ。トルコ議会はエルドアン氏の与党連合が過半数を占めており、エルドアン氏が合意すれば近く批准手続きを行うとみられる。ハンガリーはトルコが容認に転じれば自国も手続きを進めるとしている。
スウェーデンはロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOによる集団的安全保障が必要だと判断した。2022年5月、ロシアと国境を接する隣国のフィンランドとともにNATOへの加盟を申請した。両国ともロシアのウクライナ侵攻を機に、長年の中立政策を改めた。フィンランドは既に4月に正式加盟している。加盟が実現すれば、32カ国目となる。
バイデン氏は9日、エルドアン氏との電話協議で、スウェーデンが早期に加盟を実現できるよう要望していた。欧米にとっては、スウェーデン加盟の可否が安全保障政策の大きな焦点の一つとなっている。
【世界で熱波・水害拡大 経済損失は420兆円、29年まで】
同じ11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
世界を襲う熱波が波及し、干ばつや水害などの異常気象が増えている。世界の平均気温は過去最高を更新し、南米ペルー沖の海水温が上がる「エルニーニョ現象」で今夏は気温がさらに高まる可能性がある。専門家はエルニーニョによる経済損失は2029年までに最大3兆ドル(約420兆円)にのぼると見積もる。
世界気象機関(WMO)は10日、今月7日に記録した世界平均気温は17.24度で、過去最高だった16年8月16日の16.94度を上回ったと発表した。また先月は観測史上最も暑い6月となり、7月第1週も最も暑い1週間となったとみられると明らかにした。
20年の平均気温は1850〜1900年の平均気温に比べ1.1度高い。欧州では2012〜21年の間に陸地の平均気温が1.9度も上がった。欧州の研究チームは22年5月末からの3カ月ほどで6万1000人超が熱波で亡くなったとみる。
人類による温暖化ガスの排出増などで既に気温が上昇している中で、今年は4年ぶりの発生となるエルニーニョ現象がさらに温度を高める可能性がある。
「エルニーニョの発生が猛暑を引き起こす可能性を大幅に高めるだろう」。WMOのターラス事務局長は7月4日の声明で警戒を呼びかけた。
米国ダートマス大学は、エルニーニョによる経済損失は29年までに最大3兆ドルになると見積もる。大雨や干ばつが起これば農業や漁業を中心に世界中で被害が生じ、その影響は数年後まで続く。
豪雨は45年間で3.8倍
気温が上昇すれば大気中の水蒸気が増え、大雨のリスクも高まるとみられている。日本の気象庁によると、国内で7月に降った「3時間雨量が130ミリ以上」の豪雨は1976年から20年までの45年間で約3.8倍に増えた。
高温や乾燥した気候によりカナダでは毎年のように山火事が発生している。今年春にはカナダ東部で大規模な森林火災が発生。米国立気象局によるとその煙はカナダに近い米北部から中西部にも広がった。
大気汚染の警報が発令され、およそ1億人の米国民に屋外活動を控えるように求めた。呼吸器系の疾患を持つ人は必要に応じてマスクを着用するよう呼びかけた。6月には山火事の煙が大西洋を越えてスペインにまで達した。
カナダでは近年、40度を超える酷暑が頻発している。「気候変動の影響で、カナダでは世界平均の2倍ほどのスピードで温暖化が進む。毎年山火事で焼失する面積も明らかに増えた」。カナダ環境・気候変動省のギレット研究員はこう分析する。
バイデン米大統領も6月8日の声明で「カナダの山火事は気候変動の影響を明確に示す事例だ」と指摘。
メキシコで6月末に49度記録
カナダだけではない。スペイン南部では6月下旬に最高気温が44度に達した。今年初めから深刻な干ばつが続き、貯水池の容量は平均で30%しか残っていない。場所によっては6%のところもある。
メキシコ北西部でも6月末に49度を記録した。同国政府は6月に異常な暑さが原因で死亡した市民が104人にのぼったと発表した。米南部テキサス州でも厳しい熱波で死者が相次いだほか、中国やインド各地も猛暑や熱波に見舞われている。
米国では保険の引き受けを停止する保険会社も出てきた。カリフォルニア州の大手保険会社、ステートファーム社は今年に入り、山火事など災害リスクが増えていることを理由に、カリフォルニア州での住宅所有者保険の受け付けをやめた。
独ミュンヘン再保険によると、22年の世界の自然災害の被害額は2700億ドル(およそ38兆円)に膨れあがった。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、海洋を含む世界の平均気温が20年以内に産業革命前より1.5度上昇すると予測する。
「世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える」。21年に英国で開いた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で採択したグラスゴー気候合意で掲げた長期目標と比べ、現状はほど遠い。国連によると、各国の温暖化ガスの削減目標を合わせても2度以上、上昇するという。
こうした状況で、11月にはアラブ首長国連邦(UAE)で第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が開かれる。議長国、UAEのスルターン・アル・ジャーベル産業・先端技術相は「1.5度目標は揺るがない」と強調している。各国はさらに厳しい具体的な対応を迫られる。
【性同一性障害職員の女性トイレ使用制限、最高裁認めず】
同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
性同一性障害の経済産業省職員に対する女性用トイレの使用制限を巡り、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は11日、国の対応は違法として、使用制限を認めない判断を示した。性的少数者の職場環境を巡る上告審判決は初めて。職員の逆転勝訴が確定した。
夫婦別姓や同性婚など社会の意識の変化を踏まえた司法判断は近年増え、6月には性的少数者の理解増進法も施行された。従業員の性自認に即した働き方が重視される中、判決は公的機関や民間企業の対応に影響を与えそうだ。
原告は経産省の50代職員。男性として生まれ、入省後に性同一性障害と診断された。ホルモン治療を受けて女性として暮らし、2010年から女性の身なりで勤務することや女性用休憩室の使用が認められた。
女性用トイレについては、健康上の理由から性別適合手術を受けず戸籍上の性別変更もしていないことを理由に、使用を執務室から2階以上離れたフロアに制限。処遇の改善勧告を人事院に求めたが、認められなかった。
同小法廷は判決理由で、人事院判定について「具体的な事情を踏まえることなく同僚に対する配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視した」として「裁量権を逸脱したもので違法」と結論付けた。裁判官5人全員一致の結論。
判決は職場という特定の空間における判断で、不特定多数が使用する施設のトイレや公衆浴場などには直接影響しないが、国の違法を認めたことで経産省は対応の見直しを迫られる。
社会の変容に対応した判決は近年相次いでいる。夫婦別姓を認めない民法などの規定の違法性が争われた訴訟で、最高裁大法廷が15年と21年に「合憲」とする一方、15年は裁判官15人中5人が、21年は4人が「違憲」の反対意見を付した。
最高裁は性同一性障害の人についても19年、戸籍上の性別変更に当たり生殖能力をなくす法規定を「現時点では合憲」としながら「継続的な検討が必要」と指摘。同性婚を認めない制度の違憲性が5地裁で争われた訴訟では4地裁が「違憲」「違憲状態」とした。
性的少数者の就業環境の整備は6月23日施行の理解増進法も事業者に求めている。
訴訟は職員が15年、トイレの使用制限を是認した人事院判定の取り消しなどを求めて国を提訴。19年12月の東京地裁判決は「自認する性別に即した生活を送るという重要な法的利益の制約」として判定を取り消すなどした。東京高裁は21年5月、経産省が全職員に適切な職場環境をつくる責任を負っていたとして適法と判断していた。
【北朝鮮ミサイルはICBM級、過去最長の74分飛行 防衛省】
12日の日経速報メールは伝えた。
防衛省は12日、北朝鮮が午前9時59分ごろに北朝鮮の首都・平壌近郊から東方向に1発の弾道ミサイルを発射したと発表した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)級で、74分ほど飛行し午前11時13分ごろに落下した。
ミサイルは北海道の奥尻島の西およそ250キロに位置する日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落ちた。飛行距離は1000キロ程度で、最高高度は6000キロを超えたと推定した。飛行時間は北朝鮮が2022年3月に発射したICBMの71分を超えて過去最長となった。
韓国軍合同参謀本部も北朝鮮が日本海へ長距離弾道ミサイルを撃ったと明らかにした。北朝鮮による弾道ミサイル発射は6月15日以来となる。
松野博一官房長官は12日の記者会見でミサイルは「ロフテッド軌道で発射されたものと考えている」と明かした。北朝鮮が発射を予定する軍事偵察衛星とは異なるとの認識を示した。「現時点で被害情報などの報告は確認されていない」と語った。北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に厳重に抗議したと説明した。
リトアニアを訪問中の岸田文雄首相は記者団に「一連の北朝鮮の行動は日本や地域、国際社会の平和と安全を脅かすもので断じて容認できない。強く非難する」と述べた。「日米、日米韓などでの緊密な連携を図り、平和と安全の確保に万全を期していきたい」と強調した。
政府はミサイル発射を受けて国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開いた。首相官邸の危機管理センターに設置している官邸対策室に、関係省庁の担当者でつくる緊急参集チームを招集した。情報の収集や分析にあたった。海上保安庁は航行中の船舶に関連情報に注意するよう呼びかけた。
外務省は12日、日米韓3カ国の北朝鮮担当高官が電話で協議したと公表した。北朝鮮による長射程の弾道ミサイル発射を非難した。「地域の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威で、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦だ」と確認した。抑止力・対処力の強化へ緊密に連携するとも確かめた。日本の船越健裕アジア大洋州局長、米国のソン・キム北朝鮮担当特別代表、韓国外務省の金健(キム・ゴン)朝鮮半島平和交渉本部長が参加。
【巨大ITにデジタル課税「25年発効」 米への税収集中是正】
12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日米欧や中国、インドなどを含む138カ国・地域は12日、国際課税のルールを改める多国間条約の大枠をまとめた。国内に事業拠点を持たない巨大IT(情報技術)企業などにも各国が課税できるようにする。年末までに署名し、2025年の発効を目指す。
交渉事務局を務めた経済協力開発機構(OECD)が成果文書を発表した。
巨大IT企業が多い米国に税収が集中するのを防ぎ、各国に公平に行き渡るようにする。米企業などが各国で手掛ける事業を通じて収益を得ているにもかかわらず、自国を中心に税を納め、サービスを提供する国で納税しない問題を是正する。
デジタル課税は自国に支店や工場など物理的な拠点を持たない企業に課税できるようにする仕組みだ。「恒久的施設なくして課税なし」という税の原則をおよそ1世紀ぶりに変え、進展するデジタル経済に対応する。
対象は売上高200億ユーロ(約3.1兆円)超で税引き前の利益率が10%を超える企業を想定する。金融や資源採掘は対象から除き、世界で該当するのは100社程度になる見込みだ。売上高比で10%の利益を超える利潤の25%に課税する権利をサービスの利用者がいる国・地域に配分する。
OECDはデジタル課税の対象となる多国籍企業の利益は年2000億ドル(約28兆円)になると試算する。税収増は130億〜360億ドルになる。特に低所得や中所得国が恩恵を受ける。
対象はIT企業だけではないが、原材料費などがかさむ製造業の利益率は10%を超えにくい。グーグルやメタ(旧フェイスブック)などGAFAと呼ばれる米巨大IT企業が対象になりやすい。
財務省によると対象となる日本企業は数社程度。22年度の売上高が200億ユーロ以上、税引き前利益率が10%以上の日本企業をQUICK・ファクトセットのデータから抽出すると11社でNTTやKDDIが該当する。
詳細は条約が発効する過程で決まるとみられ、こうした企業が対象になるかは明確ではない。11社に3メガ銀行も含まれるが金融業のため除外されるとみられる。
デジタル課税導入は21年10月に法人税の最低税率を15%とするルールと合わせて決まった。デジタル課税は当初は23年の導入を目指したが、その後24年に延期していた。
日本も巨大IT企業への適正課税を進めてきた。09年には東京国税局が米アマゾン・ドット・コム関連会社に、千葉県の物流センターが課税根拠となる「恒久的施設」にあたるとして03〜05年度で計約140億円の追徴課税処分に踏み切ったことが分かった。
アマゾン側は反発し、日米当局が協議したが、利益の大半は米国法人に帰属すると判断され、ほとんど納税につながらなかった。発効すれば課税が容易になる可能性がある。
発効要件は明確になっていない。30カ国・地域以上が同意した上で対象となる約100の企業の60%以上が同意国・地域に本拠を置いていることを要件とする見通しだ。
巨大IT企業を多く抱える米国が批准しない場合は事実上、発効できない条件と言える。米国の条約批准には上院の3分の2の賛成が必要だが、与野党の勢力は拮抗する。米国が批准しなければ世界を巻き込んだ「100年に1度」の税制改革は漂流しかねない。(パリ=北松円香、ワシントン=高見浩輔、藤岡昂、村上徒紀郎)
【G7、ウクライナ安全を長期保証 新枠組みへ共同宣言】
同じ12日の日経ニュースメール【ビリニュス=辻隆史、ロンドン=江渕智弘】によれば、主要7カ国(G7)は12日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの安全を長期的に保証する枠組みを創設すると発表した。将来にわたり領土の主権を守れるよう、各国がウクライナと安全に関する2国間の協定などを結ぶ。防衛装備の供与やサイバーセキュリティーの強化などで協力し、ロシアへの抑止力を高める。
リトアニアの首都ビリニュスで開催中の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、12日にG7が共同宣言を公表した。現在のウクライナの自衛力を高めると同時に、将来のロシアによる再侵攻を抑止するため各国が長期的に支援する。
各国はウクライナと2国間の取り決めをし、それぞれで軍事的、経済的支援のあり方を定める。宣言では各国が直ちに議論を始めると明記した。
具体的には防衛装備の提供などのほか、ウクライナに対する訓練プログラムや軍事演習の拡大、同国の産業基盤の発展に向けた取り組みを想定する。参加国は自国の憲法や法律が認める範囲内で対応する。
バイデン米大統領は12日に「同盟国はウクライナの未来はNATOにあることに同意した。G7は我々の支援が将来にわたって続くと明確にした」と強調した。「陸・空・海で強力な防衛力を構築するのを支援し、あらゆる脅威への抑止力を確保できるようにする」と訴えた。
ウクライナは支援の見返りとして、国内の汚職対策や文民統制の強化といった改革を進める。ゼレンスキー大統領は同日、長期保証の枠組みについて「NATO加盟に向かっているという重要なシグナルとなる」と評価した。
日本が他国の安全を長期的に保証する枠組みに参加するのは極めて異例となる。日本もウクライナと2国間の文書をつくる。時期や協定にするかなど細部は今後詰める。
G7ではない他国であっても、いつでも宣言の取り組みに参加できるとも記した。岸田文雄首相は「多くの国々がこの宣言に参加することを期待する」と述べた。
NATOも首脳会議で複数年のウクライナ支援策で合意した。G7、欧州連合(EU)など多国間の枠組みで有志国が協調し、ウクライナの反攻を支える。
G7のうち日本を除く6カ国はNATOに加盟している。ウクライナはNATOへの加盟が実現するまで、安全を保証するよう求めていた。11日に公表したNATO首脳会議の共同声明には「加盟国が同意し、条件が整えばウクライナに参加を呼びかける」と記したものの、加盟時期のめどは盛り込まなかった。
【台湾IT産業、過去10年で最大の落ち込み 6月は2割減収】
12日の日経ニュースメール【台北=中村裕】によれば、台湾経済が厳しい局面を迎えている。世界的なIT(情報技術)関連需要の減少で、基幹産業の半導体や電子部品の企業業績を直撃している。台湾積体電路製造(TSMC)や鴻海(ホンハイ)精密工業など主要IT企業19社の6月の売上高を調べたところ、合計額は前年同月比19.8%減だった。2013年の統計開始以来、過去10年間で最大の落ち込みとなった。
台湾を代表する半導体大手、TSMCの6月の売上高は前年同月比11.1%減の1564億台湾ドル(約7000億円)だった。4カ月連続の減収で、不振が長期化しつつある。
主要顧客である米アップルや米大手ITの設備投資が依然として鈍い。サーバーや新型コロナウイルス禍で膨らんだパソコン、スマートフォンの需要も反動減などを受けて中国を中心に低迷している。
米エヌビディアなどが力を入れる生成AI関連も、現状では半導体の大きな需要増には結びついていない状況だ。
台湾を代表する大手企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の不振も深刻だ。アップルのスマホ「iPhone」生産などを主力とするが、6月の売上高は19.7%減の4227億台湾ドル。5カ月連続で減収となり、厳しい状況が続く。
日本経済新聞が台湾に上場する主要企業の6月の売上高を調べたところ、全19社の合計額は約4兆9000億円で2割の減収となった。19社のうち14社が2ケタの減収に落ち込んだ。
IT産業は台湾経済の屋台骨で、その不振から2023年1〜3月期の実質域内総生産(GDP)も、前年同期比2.87%減だった。約7年ぶりのマイナス成長となった22年10〜12月期に続き、2四半期連続の前年割れだ。
世界的な需要減で、6月の輸出額も23.4%減と、下げ幅はリーマン・ショック後の09年以来の落ち込みとなった。
財政部(財政省)の蔡美娜・統計処長は7日の記者会見で、今後の経済見通しについて「(長期低迷する)輸出が前年比でプラスに転じる可能性があるのは11月ごろだろう」と予測した。
【ファストリ営業最高益3700億円 今期、販売増で上方修正】
同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
ファーストリテイリングは13日、2023年8月期の連結営業利益(国際会計基準)が前期比24%増の3700億円になりそうだと発表した。21%増の3600億円を見込んでいた従来予想から100億円上方修正し、最高益を見込む。新型コロナウイルス禍後に外出需要が増え、国内で「エアリズム」などの機能性衣料や外出着の販売が好調に推移する。東南アジアや中国を中心に海外事業も伸長する。
売上高にあたる売上収益は19%増の2兆7300億円を計画する。従来予想から500億円上方修正した。秋冬商品に続いて春夏商品の一部を値上げし、客単価が上昇している。「ゼロコロナ」政策の転換で中国事業も復調する。純利益は5%減の2600億円。従来予想から200億円上方修正した。
【ハリウッド俳優組合、43年ぶりスト 日本の配信にも余波】
13日の日経速報メール【シリコンバレー=中藤玲】によると、俳優ら16万人が加入する俳優組合は13日、映画やテレビ出演に対して43年ぶりにストライキに入ると決めた。待遇改善や人工知能(AI)の規制を巡り、経営側との交渉が決裂。映画や配信番組の製作が止まってコンテンツ流通が停滞するほか、ハリウッドスターの来日イベントにも影響が出そうだ。
既に米ハリウッドでは5月から、1万人以上の脚本家がストライキに突入している。映画やドラマの製作が全面的に中断した結果、テレビの深夜番組は再放送に切り替わり、米ウォルト・ディズニーや米ネットフリックスの新作映画や配信ドラマは相次ぎ延期が決まった。脚本家と俳優の組合が同時にストを決行するのは63年ぶりで、日本での映画公開やドラマ配信も含め影響が広がる。
映画俳優組合―米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)が同日、米ロサンゼルス市で記者会見を開き、14日からストライキに踏み切ると宣言した。フラン・ドレシャー会長は「経営側は我々の貢献を軽視している。動画配信やAIはビジネスモデルを変え、今行動を起こさないと業界が危うくなる」と話した。会見場は満席だった。
同組合にはベテラン俳優のメリル・ストリープさんなどのハリウッドスターから司会者まで幅広い16万人が加入する。今回のストライキは音楽やCMなどは除き、主に映画やドラマの契約で働く組合員が対象。別契約の昼ドラだけは製作が続行される見通しだ。
組合は米ネットフリックスや米ウォルト・ディズニー、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントなど大手企業が加盟する全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)と6月から交渉し、7月12日には米連邦調停和解局(FMCS)も仲裁に入ったが、合意に至らなかった。
動画配信の報酬とAI規制めぐり対立
脚本家と俳優の同時ストは1960年が最後だった。当時は映画がテレビで再放送される際の二次利用料などを巡り、映画俳優だった故ロナルド・レーガン元米大統領が交渉を主導した。
それから63年。今回組合が訴えているのは、動画配信の報酬改善とAIが職務を代替しないことなどだ。テレビ番組では再放送や海外放送のたびに二次利用料が受け取れていたが、配信番組では数年にわたる権利を企業が独占することが多い。脚本家や俳優は、視聴回数などに応じた報酬還元の仕組みなどを求めている。
文章や画像を自動でつくる生成AIの台頭で、人工音声が声優の仕事を奪うといった危機感もある。許可なく肖像をAIの学習に使われることにも懸念を抱き、経営側にAI規制などを訴えた。
AMPTPは日本経済新聞の取材に「我々は大幅な賃上げやデジタル肖像権の保護などAIについても画期的な提案をした。交渉離脱は誠に遺憾だ。業界の何千もの人に経済的苦痛を強いることになる」とコメントした。組合は「1日分のギャラで俳優の肖像権を会社が所有して永遠に使用できる案は、画期的ではない」と反発している。
既に脚本家のストライキでハリウッドのスタジオは約8割が閉鎖されており、今回演者が加わることで、製作中断は年末まで続くという見立てもある。ハリウッドがあるロサンゼルスだけでなく、世界の各撮影地の経済にも影響を与えそうだ。同組合に所属していれば、日本人俳優もスト中は活動できない。
さらに、完成済みの映画やドラマの宣伝もストップする。あるスタジオ幹部は「新型コロナウイルスが収束し、やっと興業が期待できる夏が来たのに」と肩を落とす。12日には米テレビ界の優秀作品に贈られるエミー賞のノミネートが発表されたが、9月の授賞式には参加できない異例の事態となりそうだ。
13日朝、テクノロジー業界の大物が集う「サンバレー会議」に姿を見せたディズニーのボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)は「俳優陣の期待は現実的ではないし、(ストライキは)業界への追い打ちになる」と非難した。労使の溝は深いが、このまま収束できなければ、映画産業の国としての地位が揺らぎかねない。企業の業績悪化も避けられず、双方が深い傷を負うことになる。
【エーザイ認知症薬、自宅で注射可能に 米国で23年度申請】
14日の日経速報メールは次のように報じた。
エーザイは米国で正式承認されたアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の点滴薬に加えて、自宅で患者が注射できる薬剤を新たに開発する。まず2023年度中に米国で承認申請を目指す。実用化すれば、医療機関を訪れず、投与にかかる時間も1分以下に抑えられ、患者や介助者の負担軽減につながる。
新たに開発する薬剤はペン型の注入器で皮下組織に注射する。注射する回数や用量は検討中だ。患者や家族がおなかや太ももなどの脂肪のある場所に注射することを想定している。注入器はテルモと共同開発する。
6日に米食品医薬品局(FDA)で正式承認されたレカネマブは、医療機関で2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する仕組みだ。エーザイは30年に世界で250万人が投与対象になるとみている。糖尿病のインスリンのように自宅で注射できるようになれば、患者へのメリットは大きい。23年度中にFDAに承認申請する計画だ。
点滴薬は日本では9月末にも承認の可否が判断される見通し。欧州や中国などでも承認される公算が大きい。エーザイは皮下注射の薬剤についても新薬承認が得られたところから各国・地域で順次、申請していく考えだ。承認にあたっては皮下注射の薬剤についても有効性と安全性を改めて評価する必要がある。
日本では「皮下注射などの医療行為」は医師法に基づき、医師が行うのが原則だが、一定の条件を満たせば、患者の自己注射が可能になっている。インスリンやホルモン製剤、関節リウマチ治療薬などの自己注射(皮下注射)が許可されている。
レカネマブの副作用では脳の腫れや出血が報告されている。エーザイによると、皮下注射は点滴より副作用を抑えられる可能性があるという。点滴が薬剤を静脈に直接届けるのに対して、皮下注射は緩やかに薬剤が血液に吸収され、最大血中濃度が抑えられるためだ。一方、投与回数が想定より増えてしまう恐れがあるという。
【国会議員は3割減らせる 大阪知事が唱える国政改革 吉村洋文・日本維新の会共同代表】
15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・政治家が身分を守っていては痛みを伴う改革はできない
・自分は首相を目指さないし、なんでなりたいのかと思う
・現時点で公明に求めるものはない。政策や理念が異なる
関西を地盤とする日本維新の会が勢力を全国に広げている。4月の統一地方選で躍進し、次期衆院選は野党第1党を目標に全ての小選挙区に候補者を擁立すると宣言している。政権与党などへの不満の受け皿となり得る。維新の戦略と展望を吉村洋文共同代表(大阪府知事)に聞いた。
大阪府議会は過去10年間で109の定数を79まで削減した。大阪市議会も2027年に予定する市議選から定数を現行の81から70へと減らす。賛否は分かれるものの「身を切る改革」を掲げる維新が推進した。
「維新は大阪府議会の定数を3割近く削減した。人口がどんどん減って改革すべき時に政治家が自分たちの身分を守っていては、痛みを伴う改革などできない。改革への本気度を示すリトマス試験紙になる」
「『大阪の街は変わった』という実感のもとで、維新は自民党よりは信頼できると一定の評価を得たと思う。自民に任せていたらまずいよな、ということを多くの国民が意識し始めているのではないか」
――議員を減らして何か変わるのか。
「新興勢力が入ってくるのを嫌がり、自分の議席を守るのに必死な政治家の集団では生産性は向上しない。政治家自身も新陳代謝していかなくてはならない。国会も議員の定数や報酬の削減から始めるべきだ。維新が自民に取って代われば直ちに定数の3割削減を実行する」
自民党は「昭和型の政治」
――過去の自民政権も「改革」を掲げたが。
「スピードが遅すぎる。中国や欧米などの成長する国々と比べて日本ほど改革が遅い国はない。日本は30年間、経済成長せず賃金が上がっていない。社会に閉塞感がある」
――閉塞感を生み出した要因は何か。
「金融政策と財政政策、成長戦略という安倍晋三元首相の『3本の矢』のうち、ほとんど進まなかったのが成長戦略だ。規制改革の会議で自治体が提案しても自民の族議員がいて、省庁が自分たちの権益を一生懸命守ろうとする」
「改革は既得権との戦いだ。自民は医師会や各種の業界団体と完全にべったりだ。世襲政治もそうだ。団体の利益を保護し、様々なモノを一律に大量生産する『昭和型』の政治では成長できない。成長に向けた解を自民は持っていない」
――岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を打ち出した。
「官僚が描いた『絵』の域を出ていない。少子化対策は全く『異次元』とは言えない。児童手当の拡充で少子化は解消できない。この国を導こうとする強い意思や情熱をあまり感じない」
――国を改革するなら首相を目指せばいい。
「いや、目指しません。なんでなりたいのかな、と逆に思う。知事や市長は選挙で直接選ばれるから、腹をくくれば公約を実行できる。首相は国会議員に選ばれるから、派閥などに配慮しないといけない。僕自身は向いているとは思わない。性格上、まとめられない」
「首相が国会議員の顔色をうかがう仕組みで、リーダーシップを発揮できるのだろうか。スピードと決定力が圧倒的に欠ける。国民が直接選ぶ首相公選制になれば、ちょっと気が変わるかもしれない」
――維新なら何をどう改革できるのか。
「自民はすぐ『増税』や『国債発行』と言うが、その前に歳出削減につながる様々な施策を打ち出すべきだろう。新しい産業や経済が生まれるよう既得権に切り込む必要がある」
「例えばマイナンバーカードと保険証機能を一体化したマイナ保険証を使った改革だ。匿名の医療情報を国が集めてビッグデータとして解析すれば、病気になりやすい人の特徴を割り出せるかもしれない。医療費は40兆円で1割減らすだけで4兆円になる」
公明党との選挙協力考えず
維新は公明党と「大阪都構想」で協力し、公明現職のいる衆院小選挙区では候補者を擁立してこなかった。次期衆院選では方針を変え、関西や東京などで対抗馬を立てる。
「党是でもある大阪都構想を進めるためには公明との協力が必要だった。原則として候補者を立てて有権者に選択肢は示すべきだと思う」
「現時点で公明に求めるものはない。個々の政策は是々非々だが選挙協力をお願いするほどの事案は大阪都構想を除けばない。維新とは政策の方向性や理念が大きく異なる」
――政治は数を増やすことも重要だ。議席を増やすため東京で公明と協力しようという議論はなかったのか。
「それは最終的に数が増えることにはつながらない。維新の足腰が弱まる。公明の票は魅力的だが一度力を借りてしまうとずっと借り続けなければいけない議員を生んでしまう。そういう議員は誕生させない方がいい。自分の力で上がってこい、と」
大阪万博の準備に遅れ
維新が実現へ奔走した25年の国際博覧会(大阪・関西万博)まで2年を切った。カジノを含む統合型リゾート(IR)と合わせ地域発展にかける大阪の期待は大きい。
――巨額の公費を使って万博のような大型イベントを開く意義があるのか。
「万博では水素をはじめとする新エネルギーや再生医療など世界の英知が大阪に結集する。6カ月間のイベントで終わらせず、レガシー(遺産)を万博後に残すことが重要だ。投資の価値は十分にある」
――民間企業などが出展する国内パビリオンのうち、建設に必要な申請を済ませたのは現時点で3割程度にとどまる。海外館はさらに遅れが目立ち、申請はまだ1件も大阪市に出ていない。完成が開幕に間に合わないのではとの懸念がある。
「スケジュールがタイトなのは事実だ。ただ、大阪・関西万博をすばらしいものとする上で、個性的なパビリオンの存在は非常に重要だ」
「政府や運営主体、大阪府・市が協力し、参加国・地域への助言や働きかけを強めていく。建設申請が出た場合に速やかに審査する体制を整え、開幕までに必ず間に合うようにしたい」
大阪・関西万博は2025年4月13日から人工島の夢洲(ゆめしま)で半年間開かれる
――大阪IRには何を期待するか。
「初期投資が約1兆円、年間の経済波及効果も約1兆円だ。カジノだけでなく国際的なビジネス会議や展示会も開かれるようになる。米国のラスベガスを見てもらえれば分かるだろう」
――5月29日に首相官邸で岸田首相と面会した。万博やIRのほかに主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の話もしたと聞く。
「僕はバリバリの大阪人だが、母親が広島で生まれ育った。司法修習の実務研修先も広島だ。サミットは核保有国の首脳が広島平和記念資料館に集まっただけでも成果だ。そういう話を岸田さんにした」
「岸田さんは僕が広島に由来があると全く知らず『色々なところでつながるものですね』と意気投合した」
――大阪都構想の賛否を問う住民投票は2度否決された。
「看板は下ろしていない。大阪府と大阪市がばらばらでは強い大阪はつくれない。行政の司令塔を一本化して迅速に意思決定するには都制が一番いい」
――3度目を目指す考えはないのか。
「政治の世界はどうなるか分からない」
よしむら・ひろふみ 1975年大阪府河内長野市生まれ。九大法を卒業後、弁護士登録。2011年の大阪市議選で初当選。衆院議員、大阪市長を経て19年から大阪府知事に。ロックバンド「エレファントカシマシ」の「今宵の月のように」が好きで、ランニング中によく聞くという。
全国政党へ地方政策語れ(インタビュアーから)
通常国会の最終盤、自民党と立憲民主党はともに「維新の候補者が全国で浸透する前に」と衆院解散論に浮足立った。東京や北海道の議会でも議席を得た維新の勢いに脅威を覚えたからだ。
ここ十数年の大阪での維新の得票数からは、もはや無党派層の受け皿とは言えない「組織票」が見て取れる。700人を超えた全国の地方議員に、吉村氏は地域の街頭演説や戸別訪問の徹底を指示しているという。
維新は地方で何を訴えるのか。規制緩和などの公約は具体性に欠く。吉村氏は「都市部に親和性の高い政策で改革と成長戦略を実行し、単独で生き残れない地方に分配していく」と答えた。
大阪都構想が実現していれば周辺自治体の住民の生活はどう変わっただろうか。地方政策は全国政党を目指す吉村氏に託された課題だ。(大場俊介、上林由宇太)
【東芝、洋上風力で国内100社と供給網 産業基盤を復活】
同じ15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
東芝は米ゼネラル・エレクトリック(GE)と共同で、洋上風力向け基幹装置の国内サプライチェーン(供給網)を構築する。秋田など洋上風力の促進地域を中心に中小企業約100社を募り、部品の開発から製造を一括で支援する。国内勢の撤退で失われた風力関連の産業基盤を復活させ、普及が進む再生可能エネルギーの需要を取り込む。
東芝は2026年の国内生産を目指し、「ナセル」と呼ばれる風力発電の駆動装置の供給網の整備を目指す。ナセルは風を受けて羽根が回転する力を増幅させて発電する重要な役割を担う。大きさは3階建てのビルに相当し、増速機やブレーキ、発電機などを搭載しており、必要な部品点数は数千規模にのぼる。
国が洋上風力の促進地域に指定する秋田県や新潟県などで説明会を開き、ナセルに必要な部品を供給できる企業を選定し、25年度から調達を始める。連携する中小企業はおよそ100社を見込んでおり、受注が軌道に乗ればさらに拡大する。部品の国産化を進めて、40年をメドに部材や部品などの国内調達率を金額ベースで6割とする。
東芝は取引先となる部品メーカーの試作業務や、共通の規格を満たしているかチェックするなど品質維持などで支援する。洋上風力の近くに部品倉庫を設けて予備品の管理体制を整え、保守点検に携わる人材を取引先企業と共に育成する。風車は1基当たりの稼働年数が20年と長く、部品の摩耗や故障時など保守・修繕の対応力を高める。
東芝はGEと発電システムで長い協力関係にあり、11年にはガスタービンを活用した発電システムの販売で協業した。21年にGEと提携し、洋上風力製造に参入した。
ナセルの組み立ては京浜事業所(横浜市)で予定し、年間組み立て能力は80台程度。三菱商事などの企業連合が28年にも秋田県で稼働する洋上風力発電などに納入する。三菱商事はGEに大型風車を一括発注している。東芝はGEとの協業を生かして販売先を広げる。
洋上風力では国内市場が育たず、三菱重工業や日立製作所が風車製造から撤退してきた。日本政府は40年までに洋上風力発電を3000万キロワット〜4500万キロワットの導入を目指す。製造や建設などに関連する投資に占める国内事業者の割合を6割にする目標も掲げる。
国際エネルギー機関(IEA)によると、風力発電の発電容量は2040年に5億6200万キロワットと、18年の24倍に拡大する。風力発電は欧州を中心に広がり、中国や台湾、韓国などアジアでの市場拡大も見込まれる。
欧州や中国では多数の洋上風力メーカーがひしめく。欧州ではデンマークのベスタス、スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーが2強。中国では上海電気集団、明陽智慧能源集団(明陽智能)などがしのぎを削っている。
各社は基幹装置も内製化しており、コスト競争力は海外勢が優位とみられる。だが、安全保障の観点では、国内で保守点検も含めて安定した供給網を整えることで、部品納入事業者の選定で優位に立てる可能性がある。
洋上風力を巡る国内勢の動きでは、JFEホールディングス傘下のJFEエンジニアリングが1本の大型の杭を地盤に打ち込み風車を支える「モノパイル」の工場建設に着手。24年4月からの生産開始に向け準備を進める。東洋建設と商船三井は、洋上風力発電関連のエンジニアリングや施工を手がける共同出資会社を6月末に設立した。
【夏のボーナス過去最高89.4万円 鉄道や百貨店がけん引 2年連続プラスも伸び率鈍化 本社調査】
17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日本経済新聞社がまとめた2023年夏のボーナス調査最終集計(6月30日時点)は、全産業の平均支給額が前年比2.60%増の89万4285円だった。2年連続で過去最高を更新したが、伸び率は鈍化した。物価高が長引いて実質賃金のマイナスは続く見込みで、消費回復には不透明感もある。
非製造業、コロナ禍から回復鮮明
上場企業を中心に比較可能な406社を対象に集計した。9.96%増と過去最高の増加率だった非製造業が全体をけん引した。夏季賞与は、業績連動方式をとっている企業が4割を占める。非製造業は新型コロナウイルス禍からの業績回復が鮮明だ。上場している非製造業の23年3月期の純利益は前の期比11%増だった。
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全体の伸び率は前年の11.29%から大幅に縮んだ。組合員数で全体の7割超を占める製造業が0.82%増にとどまったことが響いた。製造業の3割が、今後のボーナスに原材料価格の上昇が影響すると答えており、先行きに影を落としている。
鉄道・バスの伸び率最大
非製造業は11業種中9業種でプラスだった。鉄道・バスの伸び率が最も大きく26.81%増だった。JR東日本が18.04%増の89万8700円。前年の15.06%に続き、2年連続で2ケタ増となった。コロナ対策の行動制限の解除で純利益は3期ぶりに最終黒字を確保しており、「従業員の尽力や物価上昇を勘案した」(担当者)という。インバウンド(訪日外国人)需要の拡大が見込める空運も好調。全日本空輸が増加率2位で100%、日本航空も36.23%増で9位だった。
情報・ソフト(12.24%増)が続き、大塚商会が14.40%増の154万4876円だった。業績に加え「22年夏にベアを実施した」ことも底上げにつながった。不動産・住宅は8.93%増。前年の12.91%増から鈍化したものの夏・冬を通じて大幅増が続いている。積水ハウスは米国での住宅受注などで業績が好調なことを反映し、8.79%増の178万2000円だった。
訪日客に期待、百貨店好調
訪日客拡大への期待感や新型コロナの「5類」移行による経済活動正常化への期待感から百貨店・スーパーも6.30%増だった。高島屋は前年比9%増の77万6976円。訪日客の回復で業績が好調だったことに加え、物価高に対する従業員の生活不安払拭、従業員のエンゲージメント(働きがい)向上の狙いがある。大丸松坂屋百貨店も21.59%増と大きく伸ばした。
交渉時期が遅かった企業は支給額が伸び悩んだ傾向もみられた。23年の春季労使交渉までに夏ボーナスの支給額が決まった企業群で伸び率が3.58%増だったのに対し、直前に決定した企業群では同0.2%にとどまった。春季労使交渉時は物価上昇率が足元より高く、生活防衛のための賃上げ機運が高まっていた。
物価高で実質賃金はマイナス
数%の上昇では物価高をカバーしきれない。厚生労働省が公表した5月の実質賃金は前年同月比で1.2%減で14カ月連続のマイナスだった。23年の春季労使交渉は連合の最終集計で賃上げ率3.58%と30年ぶりの伸び率を実現したが、それでも実質賃金はマイナスのままだ。
みずほリサーチ&テクノロジーズは実質賃金は24年度までマイナスが続くとみる。酒井才介主席エコノミストは「夏ボーナスの伸び率2.60%を受けても実質賃金のマイナスは続く。旅行など一部サービス分野は回復が期待できるものの全体としては夏のボーナス商戦の大幅な回復は期待しにくい」と話している。
【ウクライナ穀物合意、ロシアが停止表明 小麦価格が上昇】
同じ17日の日経速報メール【イスタンブール=木寺もも子】によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は17日、同日が期限だったウクライナなどとの黒海穀物合意について「停止する」と述べ、延長に応じない考えを示した。合意を仲介したトルコ、国連にも18日からの停止を通告した。
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2022年7月に成立した穀物合意は、ロシアが封鎖した黒海で穀物船は例外的にウクライナの港を出入りできるようにする仕組み。17日のシカゴ市場の小麦先物価格は一時、4%を超えて上昇した。
ペスコフ氏はロシアが求める「条件」が満たされればただちに再開するとも付け加えた。条件の詳細は明らかにしなかったが、欧米による金融制裁の緩和を求めているとみられる。ロシアは自国の銀行が国際決済網から締め出されていることや保険の制限が自国産の食料・肥料輸出を妨げていると主張している。
国連やトルコはロシアの説得を続ける。ロシアは22年10月にも黒海艦隊への攻撃を理由に一時、合意を一方的に離脱した。復帰後も合意の有効期限を4カ月から2カ月に短縮するなどして揺さぶりをかけてきた。
トルコのエルドアン大統領は17日の記者会見で「我が友のプーチン大統領も穀物合意の継続を望んでいると信じる」と述べ、近くプーチン氏と電話で協議する考えを示した。
ロシア大統領府は関連を否定したが、17日未明に起きたクリミア橋の爆発がロシアの態度硬化に影響している可能性がある。ロシアのセルゲイ・ミロノフ議員は爆発がウクライナのしわざだと主張し「穀物合意(の更新)はあり得ない」と訴えた。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)などによると、欧州連合(EU)はロシアの農業銀行の子会社を国際決済網に接続させる妥協案を検討している。ただ、ロシアはこの案にも肯定的な反応を示していなかった。
ロシアによる全面侵攻前、ウクライナは小麦やトウモロコシの輸出で世界シェアの約1割を占めていた。国連によると22年8月以降、合意を通じて輸出された穀物は計約3300万トンに上る。最大の輸出先は中国で、スペイン、トルコが次ぐ。約2割は中・低所得国に輸出されている。
南アフリカのラマポーザ大統領は15日、プーチン氏との電話で穀物合意の延長について協議した。穀物価格の上昇で大きな打撃を受けるアフリカの立場を説明したとみられる。ロシアによる揺さぶりを受け、ウクライナはドナウ川などの輸送経路を拡大してきたが、黒海を完全に代替できるかは不透明だ。
【TPP、英加盟を承認 発効後初拡大 12カ国・14兆ドル経済圏に】
同じ17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日本やオーストラリアなど環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟11カ国は16日、ニュージーランド・オークランドで開いた閣僚会合で英国の加入を正式承認した。2018年12月の協定発効後で初の新規参加国となる。TPPの経済圏はアジア太平洋から欧州に拡大する。
TPPは自由貿易協定(FTA)のひとつで相互に関税をなくし、投資のルールを透明にして経済活性化を狙う。参加各国の国内手続きを経て、1年以内の発効をめざす。中国や台湾なども加盟申請しており、拡大交渉開始の是非が焦点となる。
日本からはTPP担当の後藤茂之経済財政・再生相が出席。英国の加盟で日本からの輸出ではコメなどで恩恵を期待できる。既存の日英経済連携協定(EPA)で関税引き下げの対象外の精米は、英国に輸出する際にかかっている1キロあたり20円ほどの関税がTPPを通じて撤廃される。
英国の参加でTPP加盟国の国内総生産(GDP)の合計額は11.7兆ドル(約1600兆円)から14.8兆ドルに増える。世界全体のGDPに占める割合は12%から15%に拡大する。貿易総額は6.6兆ドルから7.8兆ドルに増加し、総人口は5億1000万人から5億8000万人ほどになる。
英国は20年1月に欧州連合(EU)を離脱して以降、TPPを通商政策の柱にすえる。自由貿易の枠組みを広げたい現加盟国と利害が一致した。
【太陽光発電2割に土砂災害リスク 審査・監視追いつかず】
18日の日経ニュースメールは次のように報じた。
全国の太陽光発電設備(500キロワット以上)の2割が土砂災害リスクの高いエリアに立地していることが分かった。適切な管理がされていない開発は土地の保水力を低下させ、崩壊を招く恐れが増す。持続可能性を高めるには事業者による点検・管理、行政の監視強化など、防災対策が欠かせない。
埼玉県西部に位置する横瀬町。土砂災害特別警戒区域を含む山林の急斜面を一般家庭用換算でおよそ200世帯分に相当する大きさのソーラーパネル(1088キロワット)が覆う。下方には民家が立ち並び、国道が走る。
同発電所を巡っては2015年の建設時、計画区域以外の無届け伐採などが発覚。事業者が計1145本の植林と排水設備の設置を明記した是正計画を町に提出していた。
設備の不備 ドローンで発見
日本経済新聞は2月、町への情報公開請求で得た是正計画図面を基に上空へドローンを飛ばし現況を調べた。パネル周囲には樹木がほとんど確認できず山肌が露出し、排水設備も十分に整備されていなかった。計画未履行の疑いを町に指摘。町は2回にわたり現場を検証し、植林、排水設備計画が履行されていないことを視認した。
3月、町は森林法に基づき、山肌が露出している部分に植林を実施するよう指導した。事業者は「メンテナンスが行き届いていなかったことを反省している」として植林を実施した。排水設備計画についても「詳細を確認中」(町振興課)としている。
農林水産省などによると、太陽光発電設備は開発時の樹木伐採による山の保水力低下やパネルからの雨滴や支柱を伝わって浸透する水により地表の浸食を招きやすい。地域防災が専門の山梨大学の鈴木猛康名誉教授は「明らかに土砂災害の脅威が増す」と指摘する。
リスクの高いエリアに設置された太陽光発電設備は全国に点在する。国立環境研究所が公開した500キロワット以上の9250件のデータ(20年時点)を分析したところ、18%にあたる1658カ所が国、都道府県の指定した土砂災害(特別)警戒区域、土砂災害危険箇所、急傾斜地崩壊危険区域、地すべり防止区域のいずれかに設置されていた。
内訳は土砂災害(特別)警戒区域881カ所、土砂災害危険箇所1278カ所、急傾斜地崩壊危険区域7カ所、地すべり防止区域27カ所。地域別では九州・沖縄が354カ所で最も多かった。
背景にあるのは急激な需要の高まりだ。11年の東日本大震災以後、政府は電源不足を補うため、固定価格買い取り制度 (FIT)で太陽光発電の普及を促した。国土の3分の2が森林の日本で開発の波は傾斜地へと及び、日本の導入量は22年時点で7883万キロワットと12年比約12倍となった。国土面積あたりでは17年以降、主要国最大となっている。
一方で気候変動の影響で災害そのもののリスクは上昇傾向にある。1時間降水量が100ミリメートル以上の豪雨は年4.4回(10年平均)と、80年代に比べ5割増。人命が失われる土砂災害が静岡県熱海市や長野県岡谷市など、各地で発生している。太陽光開発に絡み林地で発生した事故は、12年のFIT開始後10年で少なくとも230件。15年には群馬県で施工不良により、のり面が崩壊し、人家に土砂が流入した。
日本の電源構成は環境負荷の大きい化石燃料に依存する構造が続く。無秩序な開発で信頼が揺らげば、50年のカーボンニュートラル達成はおぼつかない。
開発実態、届け出とズレ
太陽光発電設備に起因する災害を防ぐには自治体による審査・監視が不可欠となるが、急増する開発に体制が追いついていない。林地の開発実態を把握しうる職員は過去10年で2%減少した。脆弱な体制は開発時の届け出面積と実態のズレを見逃す要因となり、規制の実効性を低下させている。
全国の民有林の6割超は水源や環境の保全、災害防止などを目的に森林法で計画的に整備している。こうした土地で5000平方メートル超(3月末までは1万平方メートル超)の太陽光開発を進めるには、事業者が排水設備など防災に関する整備計画を都道府県に提出し、開発許可を得る必要がある。逆に5000平方メートル以下(同1万平方メートル以下)であれば、立地市町村への簡易な届け出だけで済む。
日本経済新聞は3月、土砂災害危険箇所にある岡山県井原市の太陽光発電設備(1822キロワット)の開発面積が届け出の9700平方メートルを超え、当時の基準で許可取得が必要な面積以上の森林を伐採していた疑いがあることを突き止めた。開発図面と衛星画像の比較では、伐採面積が計画の1.5倍程度に広がっていた。
所管する井原市は日経の指摘で過剰伐採の事実を把握。5月末、森林法に基づき事業者側に植林を実施するよう指導したという。事業者は「現在、事実関係を確認中」としている。
計画を超える伐採が行われていたことを把握できなかったことについて市農林課は「担当は1人で農地に関する業務も抱える。現場に出向いて確認するには人手が足りない」と説明。開発許可を担当する県治山課は「面積が確定するまで市が対応する」と回答した。
土砂災害危険箇所にある群馬県藤岡市の太陽光発電設備(750キロワット)でも森林法違反があった。日経の指摘に県は1月、事業者に正確な測量を指示。結果、2万平方メートル以上の森林が無許可で開発されていた。事業者は改めて林地開発許可の手続きをとる見通し。事業者は「県の指導に従い設備を改善していきたい」と答えた。
市森林課は「開発面積の広さから県の管轄だと認識していた」と説明。県森林保全課は「山の奥地は確認が行き届いていなかった」と話した。
開発許可取得には防災設備整備費に加え、数カ月程度の審査期間も必要となり、事業者負担は大きい。名古屋大の丸山康司教授は「開発面積によって対応費用に大きな差が出る仕組みは事業者の『規制逃れ』を誘発しやすい。開発の急増ペースが自治体の対応能力を超えている」と指摘する。
林野庁への情報公開請求で取得した過去の森林法違反数をみると、過去9年(13~21年度)、岡山県、群馬県の報告はゼロ。林野庁治山課は「自治体によって監視が行き届いていない可能性はある」と話す。
災害リスクの高い地域へのパネル設置や頻発した無許可開発を受け、許認可プロセスを厳格化する動きも相次ぐ。国は森林法施行令を改正し、4月から太陽光向け林地開発で許可取得が必要な条件を厳しくした。埼玉県越生町や神戸市、熊本県南関町などの地方自治体も条例で土砂災害リスクの高いエリアでの開発を禁止した。宮城県では4日、森林開発を伴う再生可能エネルギー発電設備の所有者に税金を課す全国初の条例が成立。大規模な森林開発を抑制し適地に誘導するのが狙いで、24年4月までの施行を目指す。
人員不足 衛星画像で補う
横浜国立大学の板垣勝彦教授は「地方自治体は慢性的な財政、人手不足にある」と話した上で「監視体制に隙間を生まないため県と市など行政間の連係を強めることに加え、少ない人員でも監視を強化できる体制をつくるべきだ」と指摘する。
総務省によると、林地の監視などを担当する自治体職員数は22年時点で全国1万1048人。林業の衰退に伴い微減傾向が続く。こうした中で監視の実効性を高めるには、新たな技術の活用が欠かせない。
森林総合研究所は22年に衛星画像から検知した全国の森林伐採状況データ(1985〜2019年)の無償提供を始めた。林野庁も伐採状況の検知ツールを開発した。現時点で茨城県や大分県日田市、岩手県住田町などが活用するほか、導入を検討する自治体も広がりつつある。
京都大学の安田陽特任教授は「監視強化と並行する形で、事業者による主体的な安全管理の取り組みを後押しする制度も模索していく必要がある」と指摘。設備認証制度や格付け取得と連動し、安全性の高低で損害保険料を変動させるなどの仕組みづくりを提言している。(兼松雄一郎、高橋耕平、岡田江美、宗像藍子、ドローン撮影 浦田晃之介、グラフィックス 貝瀬周平)
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この間、下記の録画を視聴することができた。(1)BS6報道1930「ワグネル部隊受け入れ、狙いはアフリカ利権? ルカシェンコ氏 思惑は 移民に紛れ込まえいる? 東欧は部隊越境を警戒」7月4日。 (2)BS6報道1930「旧統一教会の内部音声を独自入手「岸田に教育を」5日。 (3)BS6報道1930「反転攻勢本格化から1か月「ウクライナ軍の戦果」を徹底検証」10日。 (4)映像の世紀 バタフライエフェクト「JFKをつくった3人のケネデイ」10日。 (5)BS6報道「ロシア兵18万人東部に…ウクライナ軍が警戒するカウンター反転攻勢」11日。 (6)BS6報道1930「NATOサミット詳報 NATO元幹部やポーランド軍現役トップが語る」12日。 (7)BS6報道1930「“殺傷兵器”輸出も? 目的はウクライナ支援、本音は防衛産業育成か。 (8)BS6報道1930「拘束理由が分からない中国スパイ法の闇、登山・釣りが危険行為?」14日。 (9)NHKスペシャル「混迷の世紀 第10回 台頭する“第三極”インドの衝撃を追う」16日。 (10)BS6報道1930「ロシアとウクライナの背後で動く“戦争管理者” 米CIAの思惑と誤算」17日。
【処理水の海洋放出「国際安全基準に合致」 IAEA報告書】
【ウィーン=田中孝幸】国際原子力機関(IAEA)は4日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海洋に放出する日本の計画について「IAEAの安全基準に合致している」とする安全審査の結果を公表した。来日中のグロッシ事務局長は同日に首相官邸で岸田文雄首相と会い、審査結果をまとめた包括的な報告書を提出した。
IAEAがホームページで報告書を公表した。グロッシ氏は報告書の序文で「日本の処理水の放出のアプローチと活動が関連する国際安全基準と合致していると結論づけた」と表明した。
「IAEAは処理水の制御された段階的な海洋放出が人々と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどごくわずかだと指摘している」とも述べたうえで、日本の要請に基づき放水前後の一連のプロセスにIAEAとして関与する方針を示した。
日本政府は安全性の確認のためIAEAに第三者の専門家の立場での検証を依頼していた。グロッシ氏は4日から7日までの日程で来日しており、福島第1原発の視察も予定している。その後、韓国にも向かい、今回の報告書について同国政府に説明する。
【IAEA事務局長、処理水放出「数十年にわたり評価続ける」】
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、都内で記者会見し、日本が計画する東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出について「今後数十年にわたって監視や評価を続ける」と 述べた。IAEAが日本に常設拠点を立ち上げ、海洋放出の影響について検証を続ける方針を示した。
都内の日本記者クラブで記者会見した。グロッシ氏は日本が計画通り処理水の海洋放出を実施したとしても「水や魚など環境に大きな影響はない」と強調した。
汚染水から放射性物質の大部分を取り除く技術について「新しいことではなく、既に産業界に存在するものだ」と指摘した。「一定量の放射性物質を含む水の放出は中国や韓国、米国、フランスなど多くの国で実際に行われている」と語った。
中国や韓国、太平洋島しょ国などは処理水の海洋放出に強い懸念を示している。グロッシ氏は「懸念があることは承知している」とした上で「私の責任はいつでも疑問に対応することだ。今回の報告書は十分に科学的な答えを出している」と説いた。
ウクライナ南部でロシア軍の制圧下にあるザポロジエ原発については「極めて危険な状況だ」と強い危機感を示した。連日報告を受けて状況を注視していると述べ「原子力発電所は絶対に攻撃してはいけない」と警告した。
グロッシ氏は会見に先立ち、日本の原発処理水の放出計画が国際的な安全基準に合致していると結論づける包括的な報告書を岸田文雄首相に提出した。5日に福島第1原発を視察し、7日まで日本に滞在する。その後に韓国、ニュージーランド、クック諸島の3カ国を訪問する予定だ。
▼原発処理水 東京電力福島第1原子力発電所からは2011年の東日本大震災に伴う事故の影響で、放射性物質を含む汚染水が出る。この汚染水から浄化処理で大半の放射性物質を取り除いた水を処理水という。地下水や雨水などが建物内の放射性物質に触れたり、事故で溶け落ちた核燃料を水で冷却したりするため、高濃度の放射性物質を含む汚染水が1日平均で130トン程度発生している。原発処理水は敷地内の1000基を超えるタンクで保管され、廃炉作業の妨げとなっている。
【ゼレンスキー氏、プーチン氏の対応は「弱かった」…「権力構造が崩壊しつつある」との見方】
5日付けの読売新聞は次のように報じた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米CNNが3日に放映したインタビューで、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱へのプーチン露大統領の対応が「弱かった」と評した。
ゼレンスキー氏は、露側がワグネル部隊の進軍や一部拠点の制圧を容易に許したことから、プーチン氏が「全ては制御できていない」とし「かつて有した権力構造が崩壊しつつある」との見方を示した。米中央情報局(CIA)との間に「秘密はない」とし、CIAのウィリアム・バーンズ長官との会談で大規模な反転攻勢とその後の青写真について説明したことを認めた。
反攻でロシアが併合した南部クリミアまで迫った上で、ロシアと年内の停戦交渉開始を計画しているとの米紙ワシントン・ポストの報道に関しては、「クリミアの占領が続く限り、終戦はあり得ない」と原則的な立場を述べるにとどめた。
インタビューはウクライナ南部オデーサで2日に行われた。
一方、プリゴジン氏は3日、ロシアの軍事SNSに音声メッセージを投稿し、「近い将来、我々の次の勝利が前線で見られることを確信している」と述べ、活動継続に意欲を示した。反乱は「裏切り者と戦い、社会を動かすのが目的だった」と正当化した。メッセージ公表は6月26日以来。発信場所は明らかにしていない。
【原発処理水放出設備の検査、7日に合格へ 原子力規制委】
5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
原子力規制委員会は5日、政府が8月にも開始する東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、放出前の設備検査の「合格」に相当する終了証を7日に東電に交付する方針を明らかにした。海洋放出に向けた政府側の安全性の評価作業はすべて終わり、放出に向けた準備が整う。
規制委の事務局である原子力規制庁が5日午前、規制委に対し6月28日から3日間の日程で実施した検査結果で特段の問題がなかったと報告した。事務手続きを経て、7日に終了証を交付する方針も示した。委員側から異論は出ず、規制委が事実上「合格」の方針を認めた。
東電は6月26日、処理水を海洋放出するための海底トンネルを含む設備を完成させた。規制委は同月28日から緊急時に備える遮断弁や、処理水を海水と混ぜて希釈する設備などを現地で確認した。
7月4日に公表した報告書で国際原子力機関(IAEA)は「処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどわずか」と指摘した。さらに終了証の交付により、放出前の設備面での準備はすべて整った。だが現地の漁業関係者や中国など一部の国の反対姿勢は変わっていない。
松野博一官房長官は5日の記者会見で中国による海洋放出への批判を受け「事実に反する内容を発信している」と反論した。漁業関係者に対しては「意思疎通を密にして丁寧な説明と意見交換を重ねていきたい」と強調した。
韓国政府は5日、処理水の海洋放出をめぐり「IAEAの発表を尊重する」とする立場を表明した。IAEAの4日の報告書をよく分析すると説明した。首相の補佐機関「国務調整室」の幹部が5日の記者会見で明らかにした。
【ヤマダ会長「EVで流通変革」 三菱自動車以外も取り扱い】
同じ5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
家電量販店最大手のヤマダホールディングス(HD)が三菱自動車と提携し、電気自動車(EV)販売に再度乗り出す。山田昇会長兼社長が日本経済新聞の取材に応じ、「将来的には複数メーカーのEVを取り扱う」と明らかにした。従来のディーラー経由での販売より車両価格や関連費用などを抑えて総合的に安く提供する。かつて家電でメーカー側から店頭価格の主導権を握ったように、世界的なEVシフトを契機に車でも流通変革に取り組む。
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今回の三菱自との提携では、まず法人向け販売から始めて、個人向けも順次拡大する計画だ。法人向けの営業や店頭での販売をヤマダの従業員が担うほか、修理や車検などEV整備もヤマダのグループ内で請け負う。
山田氏は「家電量販店の最大のニーズは品ぞろえだ」と強調。「家電商品と同じように一つの店にいろんなメーカーの車種が並び、消費者が比較できるような体制をつくっていきたい」とした。
EV、将来は直営店3分の1で取り扱いも
三菱自のEV販売店舗については23年秋までに神奈川や埼玉などの首都圏の家電店「ヤマダデンキ」の11店舗で取り扱う計画だ。山田氏は今後、販売が好調に推移して取り扱う車種が増えれば「全国約1000店の直営店のうち、3分の1程度となる300店超まで増やしていく」と述べた。
EVの価格面では、メーカー側からのリベート(販売奨励金)などを原資に値引きすることに加えて、独自の保証サービスやローン、自動車保険などを展開することでEV販売にかかる費用を従来のメーカー系列の販売店より抑えて、顧客の法人や消費者にトータルで安く売っていく方針だ。
現在の自動車業界、既得権益多く
山田会長は「既存の自動車業界は既得権益と国に守られている」と指摘した。「(EVシフトをきっかけにした)この提携が成功すれば、物流をはじめとする現在の自動車流通の仕組みやサプライチェーン(供給網)が変わるだろう」と強調した。
現在のEV新車販売は、車メーカー系列の販売店が大半を占める。「ヤマダのEV販売がうまくいけば他の家電量販にも波及する」と述べた。全国に売り場面積の大きい店舗を多く持つ家電量販店にとって、「EV取り扱いのハードルは低い」とみている。
家電販売でもメーカー保証よりも期間を5年など長くした保証をヤマダが独自に提供することで、メーカー系列の販売店との差別化を図ってきた過去がある。EV販売でも同様に、ヤマダならではの価値を付加した販売方法を探っていく。
EV販売を見据え、アフターサービスの体制も整えた。ヤマダは日本自動車車体補修協会(JARWA)と21年3月に業務提携し「ヤマダ車検」と銘打ったサービスを始めた。
独立系整備会社300社と提携
メーカー系列ではなく独立系の自動車整備会社約300社が、ヤマダが販売したEVの保守整備を請け負う体制を構築する。ヤマダが販売する三菱自のEVについても、原則JARWAの提携工場が担当する。メーカーとは異なる独自のネットワークを整えることで、ヤマダグループ内でEVの販売からメンテナンスまでを完結できるようにする。
販売面ではヤマダがすでに手掛けている住宅販売やリフォーム事業との組み合わせを検討する。太陽光で発電した電力を充電に使ったり、家電に電力を供給したりすることができるEVは電化住宅との相性がよい。
今後はEVから電力を供給して家電をネットでつなげる「スマートハウス」をパッケージ商品として、「例えば、住宅を買ってもらうと車も付ける。太陽光とセットの商品も開発する。そうしたヤマダの強みを生かした提案をしていく」ことも明らかにした。「年間1万戸の住宅を作っており、(家とのセット販売などで)1000〜2000台売れればいい」とも話した。
顧客企業や消費者への打ち出しが重要になる。EVという高額な商品を、自動車の専門ではない家電量販店で購入することへの心理的なハードルを下げていくことが求められる。
ヤマダが2011年に住宅メーカーのエス・バイ・エル(当時)を買収して住宅販売事業に参入した際、家電店での安売りの印象が強かったことから、高額な住宅をヤマダで購入することへの抵抗感を拭えず、事業の赤字が続いた経緯がある。
足元ではM&A(合併・買収)の効果などもあり、住建事業の収益は順調に推移している。国内外で普及期に入ったEVも当初は同様のマイナス影響が考えられる。自動車への「安心・安全」ニーズに対応し、ヤマダの本気度をいかに顧客企業や消費者に訴えられるかが大きな課題となる。(坂本佳乃子)
EV流通、異業種が揺らす 安全性に「覚悟」必要
ヤマダホールディングス(HD)のEV販売への2度目の挑戦は、既存の自動車業界にとって台風の目となるかもしれない。スーパーや家電量販店など小売り業界はメーカー側と商品価格の主導権を巡って闘争を繰り広げてきた。1964年に始まる「ダイエー・松下戦争」はその象徴の一つだ。
トヨタ自動車をはじめとする車メーカー側も、製販両面でEV対応を急いではいる。EVが主流になれば商品だけでなく、販売や整備の現場も変わる。整備士不足やトヨタ系など販売店で相次いだ車検不正への対応も重なり、販売改革は待ったなしだ。ただ、諸外国と比べてEVシフトに向けた改革スピードは遅いように見える。
ヤマダは家電価格に徹底的にこだわってきた。ダイキン工業のエアコンやロボット掃除機「ルンバ」など条件に合わなければヤマダ店頭には並ばない。EVでは新興メーカーやIT(情報技術)などの異業種参入が変革の旗手になった。国内の車流通もヤマダ再参入を起爆剤に主導権がメーカー側から移ることで価格が下がり、関連サービスの担い手のすそ野も広がるかもしれない。
一方、ヤマダがEV販売への関与を深めるほど、車メーカーと同様に高い安全性へのコミットと責任が求められる。車の不具合や事故は家電以上に利用者の生命身体への影響が大きい面もある。販売者としての覚悟が求められる。
【ごみ分別せずプラ再生 荏原が新技術、回収・処理効率化】
同じ5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
荏原はプラスチックなどが混ざった混合ごみからプラ原料を取り出す技術を2030年にも実用化
する。ごみを細かく分別しなくても、プラスチックをリサイクルすることができる。ごみの回収や処理などの仕組みが変わる可能性もある。
プラなどが混ざったごみは現状では焼却処理される場合が多い。資源としてリサイクルする場合も、生ごみなどとの分別が必要だ。「ポリエチレンテレフタレート」を使うペットボトルは分別回収されることが多いが、汚れが目立つ場合はリサイクルできない。
荏原の開発した再生プラスチック技術はごみを分別せずに炉に投入できる。炉の内部には砂などを敷き詰めており、空気や蒸気を吹き込んでごみと混ぜる。400〜950度の温度帯で処理することで、ごみ成分を分子レベルにまで分解してガス化させる。
反応温度を制御すると、基礎化学品「エチレン」や「プロピレン」などのガス成分が取り出しやすくなる。車や家電、日用品など幅広い樹脂の原料になる物質だ。
木材やタイヤ、汚泥、生ごみ、紙類、衣類なども含む雑多な混合ごみでも処理できる技術開発にめどをつけた。ごみなどから回収したプラを原料にリサイクルする同様の施設では、化学的に分解する場合も材質によってある程度は選別する必要があった。荏原の新手法は細かい分別をしなくてもよい。
実用化では年10万トン規模の処理量を念頭に置く。ごみ投入総量に対して、3〜4割の化学品成分を取り出せる水準まで技術を高める。取り出したガスを化学品にするために化学メーカーなどとの連携を想定する。自治体などからのごみ処理施設の発注額は従来型では200億〜400億円の規模。新手法でも設置コストは同等に抑えたい考えだ。
22年施行のプラスチック資源循環促進法でハンガーなどを含むプラごみの分別回収は自治体の努力義務となっている。荏原の新手法は可燃ごみと資源ごみを一緒に回収できる。分別をなくせると、曜日別の回収といった手間が減り自治体の運営コストが安くなりそうだ。
荏原は今後、全国にあるごみ処理施設の更新時の置き換えといった新規受注などを狙う。
経済協力開発機構(OECD)によれば、19年時点で世界のプラ生産量のうちリサイクルされている割合は1割に過ぎない。海洋プラごみを減らすために欧米企業も原料にまで戻すリサイクルの取り組みを本格化させ始めている。荏原など日本勢も技術開発を一段と進めれば、海外でも商機を一段と取り込める可能性がある。
【Amazon、翌日配送を拡大 国内に宅配11拠点新設】
6日の日経速報メールは次のように報じた。
アマゾンジャパン(東京・目黒)は6日、宅配の仕分けなどを担う拠点を2023年中に11カ所増やすと発表した。拠点数は全国で50以上となり、現状から約3割増える。栃木や群馬、奈良など7県には初めて拠点を置く。宅配の速さを重視し、地方を含め翌日配送できる地域を拡大する。
新設する宅配拠点「デリバリーステーション(DS)」は、大型物流施設から出荷した荷物を地域別に集約し、配送先に届ける中継地点の役割を担う。新設する11拠点のうち、栃木県、群馬県、富山県、山梨県、静岡県、奈良県、岡山県の7拠点は、それぞれの県で初のDSとなる。
自社配送網を拡大することで、注文から配送先に荷物が届くまでの時間を短縮。拠点を新設する地域では、翌日配送が可能なエリアが広がる。
アマゾンはここ数年、自社配送を強化してきた。人手不足が強まる中、個人事業主のドライバーと直接契約する仕組みを導入するなど運び手の確保にも力を入れている。
【ロシア反乱、中国の悪夢 習氏が恐れるプーチン氏の末路】
7日の日経速報メールは次のように報じた。
マキャベリは約500年前に「君主論」を著し、指導者は愛されるよりも、恐れられるほうが望ましいと説いた。プーチン・ロシア大統領は、この古典の信奉者とされる。
だが、彼が熟読すべきなのは、同書の次の教えだ。「傭兵(ようへい)は役に立たず、危険だ。団結力がなく、権力に飢え、規律がなく、不誠実である」
ロシアの軍事会社ワグネルによる反乱は、いったん鎮まった。だが、これは正常化への一歩ではなく、混乱の序曲だろう。
プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響は大きい。とりわけ注目に値するのが、中国にもたらす意味合いだ。
反乱が起きた当初、中国が動揺したことは明らかだ。ワグネルを率いるプリゴジン氏が決起を宣言した6月23日以降、ひたすら沈黙を貫いた。中国外務省がようやく談話を出し、ロシア安定への支持を表明したのは同25日夜。プリゴジン氏が、モスクワ進軍をあきらめた後になってからだ。
ロシアにどう対応するか、習近平(シー・ジンピン)政権内で、その後も真剣な検討が続いたとみられる。そして彼らが出した結論は、今後もロシアとの軍事協力を深めるというものだった。
李尚福・国務委員兼国防相は7月3日、北京を訪れたロシア海軍のエフメノフ総司令官に、こう伝えた。「あらゆるレベルで意思疎通を強め、共同の訓練、パトロール、図上演習を定期開催するのが望ましい」
ウクライナで誤算を続け、国内の反乱を招いたプーチン政権は、中国にとって失望続きだろう。それでもロシアを支える以外、有力な選択肢がないのが実情だ。
中国は連帯の見返りに、プーチン氏から外交上の譲歩も引き出しはじめている。6月以降、国内取引の中継地としてロシア極東のウラジオストク港を使う権利を、ロシアから取りつけた。
ウラジオストクを含む沿海州は1860年の北京条約で、ロシアに割譲された。中国からみれば、約160年ぶりに同港へのアクセスを得たという演出にもなる。
ロシアが裏庭とみなす中央アジアの囲い込みにも、中国は動く。習国家主席は5月18〜19日、中央アジア5カ国との首脳会議を初めて開いた。中国の外交専門家は「プーチン氏に遠慮して、中国は中央アジアと首脳会議を開くのを控えてきた。だが、もはや気兼ねする必要が薄れた」と語る。
インド太平洋戦略に狂い
しかし、プーチン政権の求心力が衰えれば、習政権にはプラスよりマイナスが大きい。少なくとも2つの影響が考えられる。
第1に、ロシア内の安定が揺らげば、インド太平洋への中国の戦略に狂いが生じる。中国と旧ソ連は1960年代末、武力衝突した。だが、90年代に入って中ロは国境の画定交渉を急ぎ、2008年に決着させた。
これにより北方の火種が減り、中国は安心して東・南シナ海や南太平洋に進出できた。中国の軍事戦略に詳しい米戦略予算評価センター(CSBA)のトシ・ヨシハラ上級研究員は指摘する。
「中国がアジアとその先の海洋に(戦略の)重点を移せたのは、北部の国境地帯が安定していることが前提の一つだ。ロシアが不安定の火種になれば、中国はインド太平洋における優先課題を犠牲にしてでも、大陸側に注意を向けざるを得なくなるだろう」
第2に、ロシア内の混乱は中国の対米戦略にも影を落とす。習政権は米国主導秩序を塗り替え、50年までに世界の最強国になる目標を掲げる。
米国への対抗上、ロシアは唯一の大国パートナーだ。ロシアの国力が衰えたからといって、国連安全保障理事会の常任理事国や核大国の地位が消えるわけではないが、外交力は下がってしまう。習氏にとって最悪な筋書きは、プーチン氏が失脚することだ。
中国の内情に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は話す。「習氏がいちばん見たくないのが、プーチン政権が倒れることだ。その後に親中的な政権が生まれる保証はなく、ロシアが崩壊したり、西側寄りの政権が誕生したりする恐れもある」
侮れない心理的な圧力
こうしたなか、世界にとって重要なのは、ロシアの苦境から習氏がどのような教訓を引き出すのかだ。明確な目算がないままプーチン氏がウクライナに侵略し、ロシア軍の死傷者が増え続けていることが反乱を誘発した。
これを中国に当てはめれば、よほど短期で圧勝できる自信がない限り、台湾侵攻に踏み切るべきではないという教訓になる。むろん、共産党の一党支配下にあり、国中に監視システムを張り巡らす中国で、ロシアのような反乱が起きることは想像しづらい。
ただ、プーチン政権が内戦寸前の危機にさらされたことが、習氏に与える心理的な圧力は侮れないだろう。トシ・ヨシハラ氏も次のように分析する。「共産党指導部は中国軍を厳しく統制しており、ワグネルのような反乱は起きそうにない。ただ、ロシアの反乱を受け、台湾をめぐる戦争がうまくいかず長期化すれば、政権転覆の動き が出かねない、と習氏が受け止めた可能性がある」
10年代初め、中東では「アラブの春」が広がり、長期の独裁政権が次々と倒れた。強権政権は盤石なようで、崩れる時はあっという間だ。西側諸国も「もろいロシア」への対策を急ぐときである。
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【米国で正式承認、エーザイ認知症新薬の効果は?】
同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発した認知症治療薬「レカネマブ」を正式承認した。レカネマブはどんな薬でライバルとなる薬はあるのか。3つのポイントから解説する。
【関連記事】
・エーザイの認知症薬、米国で正式承認 保険適用で普及へ
・どんな治療効果があるの?
・競合薬はあるの?
・迅速承認と正式承認の違いは?
(1)どんな治療効果があるの?
アルツハイマー病患者の脳内には「アミロイドベータ」というたんぱく質が長い年月をかけて蓄積していくことが知られている。一定以上、蓄積すると神経細胞が徐々に破壊され、認知機能に異常が起きる。レカネマブはアミロイドを除去するように設計された医薬品で、アルツハイマー病の進行スピードを27%緩やかにする効果が臨床試験(治験)で確認された。推計では症状の進行を7カ月半遅らせる効果を見込んでいる。
レカネマブが使えるのは軽度認知障害(MCI)もしくは軽度認知症(早期AD)と診断された人だ。2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する。治験では脳の出血や腫れといった副作用も報告されており、注意も必要となる。
症状がより進んだ「中等度」、住所や電話番号などの情報が思い出せないなど日常生活に支障がでている「重度」の患者は投与の対象外となる。米国ではアルツハイマー病患者が600万人以上いるとされるが、米独立機関の米臨床経済評価研究所(ICER)はレカネマブの投与対象が140万人と推計している。
金沢大学の小野賢二郎教授らの研究チームはレカネマブが神経細胞内でどのように働くのかを特殊な顕微鏡「原子間力顕微鏡」を使って観察することに世界で初めて成功した。細胞の中ではアミロイドが徐々に凝集して繊維状の形になっていく。レカネマブはその過程で周囲を取り囲むように結合した。
レカネマブがあらゆる場所にくっつくと、アミロイドが大きな塊を作れないようになり細胞の毒性も減少していたという。臨床効果の仕組みの一端を明らかにしたとして、国際的な科学誌にも研究成果が掲載された。
(2)競合薬はあるの?
エーザイは世界で最初にアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」を開発して以降、治療薬の開発を続けてきたが開発は困難を極め失敗の連続だった。相次ぐ治験の失敗で、多くの製薬会社が撤退するなか、試行錯誤を続けた成果が実った格好だ。その意味でエーザイと同じくアルツハイマー病治療薬の開発を続けてきた米イーライ・リリーが最大のライバルだ。
イーライ・リリーが開発する「ドナネマブ」はレカネマブと同じくアミロイドに結合するバイオ医薬品で、認知症の進行スピードを35%低下させるという治験の結果を公表している。脳の出血や腫れといった副作用はレカネマブより高い確率で発生しているが、有効性はレカネマブの27%を大きく上回っている。
世界では140以上の治験が進行中で、うち半数以上が新薬としての承認を前提とした製薬会社による治験だ。アミロイドとは別のたんぱく質「タウ」を標的とした治療薬の開発も進んでいる。エーザイとバイオジェンのほか、イーライ・リリーやスイスのロシュ、米ヤンセン・ファーマシューティカルズといった製薬大手が手掛けている。シンガポールや韓国、中国のスタートアップも開発に力を入れる。
(3)迅速承認と正式承認の違いは?
FDAは23年1月にまずレカネマブを迅速承認した。迅速承認とは患者数が少ない希少疾患や何年も待っている余裕のない難病に対して、開発中の新薬を速やかに届けるために米国で1992年から始まった制度だ。通常は治験で有効性や効果を何年にもわたって評価する必要がある。迅速承認制度を使えば治験の結果がすべて出そろう前でも、有効性を予測できる代替のデータで評価・承認できるのが最大の特徴だ。
もっとも引き続き医薬品の評価を確かめる検証試験を続けることが条件となっている。その後の検証で臨床的な有効性を示せなかった場合は、迅速承認は取り消される。迅速承認はいわば「仮免許」の状態だ。
一方で完全な治験データがそろい、臨床的な利点が確認できた場合は、正式承認に切り替える。新薬の有効性や副作用を政府が評価した結果「お墨付き」を与える意味合いがある。特に米国の正式承認は日本や欧州など世界の規制当局の判断の重要な指針にもなっている。(先端医療エディター 高田倫志)
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多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
ひとこと解説
一口にアミロイドといっても、その繊維化までのメカニズムは複雑であり、過去に様々な分子標的薬の開発が失敗してきたポイントはここにあります。アミロイドβと呼ばれるペプチドは非常に小さな物質であり、それが可溶性(水に溶ける)が凝集体(プロトフィブリル)を作り、その凝集体を起点に繊維化して不要化し、神経毒性を持つと考えられています。今回のレカネマブは繊維化の元となる可溶性の凝集体(プロトフィブリル)という非常に捉えるのが難しいターゲットに作用する抗体で、効果が示され、アミロイドβ仮説が一定証明された、ということになります。今後はリリーのドナネマブの他、複数品がパイプラインで開発されており、注目です。
【規制委、東電の原発処理水設備に「合格」 放出準備整う】
同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。
原子力規制委員会は7日、政府が8月にも始める東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、関連設備の使用前検査の「合格」を示す終了証を東電に交付した。政府は放出に向けた安全性の評価作業を 全て終えた。
具体的な放出日程の調整を進める。福島県など地元の漁業関係者らの理解を求める作業は続ける。
規制委の事務局である原子力規制庁の職員が7日午後、都内で東電の処理水対策の責任者に終了証を手渡した。規制委は6月28〜30日に処理水の移送・希釈・放出設備の最終検査を実施した。トラブル時に備える緊急遮断弁などの性能も現地で確認した。
これで放出に必要な設備面の条件は整った。処理水を測定する設備の検査はすでに3月に合格。東電も6月に放出用の海底トンネルを含む工事を完了させた。
国際原子力機関(IAEA)は7月4日の報告書で「処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどわずか」と評 価した。
西村康稔経済産業相は7日の記者会見で、放出時期について「安全性の確保、風評対策の取り組みの状況を政府全体で確認して判断する」と述べた。
地元の漁業関係者は反対姿勢を変えていない。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は5日、経産省主催の意見交換会で改めて反対する考えを強調した。
中国など一部の国からも批判がある。ロシア外務省のザハロワ情報局長は6日、中国と連携して透明性を求めていく意向を示した。韓国政府は7日に独自の検証結果を公表した。
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▼原発処理水 東京電力福島第1原子力発電所からは2011年の東日本大震災に伴う事故の影響で、放射性物質を含む汚染水が出る。この汚染水から浄化処理で大半の放射性物質を取り除いた水を処理水という。地下水や雨水などが建物内の放射性物質に触れたり、事故で溶け落ちた核燃料を水で冷却したりするため、高濃度の放射性物質を含む汚染水が1日平均で130トン程度発生している。原発処理水は敷地内の1000基を超えるタンクで保管され、廃炉作業の妨げとなっている。(2022年5月19日掲載)。
【米国で正式承認、エーザイ認知症新薬の効果は?】
同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発した認知症治療薬「レカネマブ」を正式承認した。レカネマブはどんな薬でライバルとなる薬はあるのか。3つのポイントから解説する。
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・どんな治療効果があるの?
・競合薬はあるの?
・迅速承認と正式承認の違いは?
(1)どんな治療効果があるの?
アルツハイマー病患者の脳内には「アミロイドベータ」というたんぱく質が長い年月をかけて蓄積していくことが知られている。一定以上、蓄積すると神経細胞が徐々に破壊され、認知機能に異常が起きる。レカネマブはアミロイドを除去するように設計された医薬品で、アルツハイマー病の進行スピードを27%緩やかにする効果が臨床試験(治験)で確認された。推計では症状の進行を7カ月半遅らせる効果を見込んでいる。
レカネマブが使えるのは軽度認知障害(MCI)もしくは軽度認知症(早期AD)と診断された人だ。2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する。治験では脳の出血や腫れといった副作用も報告されており、注意も必要となる。
症状がより進んだ「中等度」、住所や電話番号などの情報が思い出せないなど日常生活に支障がでている「重度」の患者は投与の対象外となる。米国ではアルツハイマー病患者が600万人以上いるとされるが、米独立機関の米臨床経済評価研究所(ICER)はレネマブの投与対象が140万人と推計している。
金沢大学の小野賢二郎教授らの研究チームはレカネマブが神経細胞内でどのように働くのかを特殊な顕微鏡「原子間力顕微鏡」を使って観察することに世界で初めて成功した。細胞の中ではアミロイドが徐々に凝集して繊維状の形になっていく。レカネマブはその過程で周囲を取り囲むように結合した。
レカネマブがあらゆる場所にくっつくと、アミロイドが大きな塊を作れないようになり細胞の毒性も減少していたという。臨床効果の仕組みの一端を明らかにしたとして、国際的な科学誌にも研究成果が掲載された。
(2)競合薬はあるの?
エーザイは世界で最初にアルツハイマー病の治療薬「アリセプト」を開発して以降、治療薬の開発を続けてきたが開発は困難を極め失敗の連続だった。相次ぐ治験の失敗で、多くの製薬会社が撤退するなか、試行錯誤を続けた成果が実った格好だ。その意味でエーザイと同じくアルツハイマー病治療薬の開発を続けてきた米イーライ・リリーが最大のライバルだ。
イーライ・リリーが開発する「ドナネマブ」はレカネマブと同じくアミロイドに結合するバイオ医薬品で、認知症の進行スピードを35%低下させるという治験の結果を公表している。脳の出血や腫れといった副作用はレカネマブより高い確率で発生しているが、有効性はレカネマブの27%を大きく上回っている。
世界では140以上の治験が進行中で、うち半数以上が新薬としての承認を前提とした製薬会社による治験だ。アミロイドとは別のたんぱく質「タウ」を標的とした治療薬の開発も進んでいる。エーザイとバイオジェンのほか、イーライ・リリーやスイスのロシュ、米ヤンセン・ファーマシューティカルズといった製薬大手が手掛けている。シンガポールや韓国、中国のスタートアップも開発に力を入れる。
(3)迅速承認と正式承認の違いは?
FDAは23年1月にまずレカネマブを迅速承認した。迅速承認とは患者数が少ない希少疾患や何年も待っている余裕のない難病に対して、開発中の新薬を速やかに届けるために米国で1992年から始まった制度だ。通常は治験で有効性や効果を何年にもわたって評価する必要がある。迅速承認制度を使えば治験の結果がすべて出そろう前でも、有効性を予測できる代替のデータで評価・承認できるのが最大の特徴だ。
もっとも引き続き医薬品の評価を確かめる検証試験を続けることが条件となっている。その後の検証で臨床的な有効性を示せなかった場合は、迅速承認は取り消される。迅速承認はいわば「仮免許」の状態だ。
一方で完全な治験データがそろい、臨床的な利点が確認できた場合は、正式承認に切り替える。新薬の有効性や副作用を政府が評価した結果「お墨付き」を与える意味合いがある。特に米国の正式承認は日本や欧州など世界の規制当局の判断の重要な指針にもなっている。(先端医療エディター 高田倫志)
【ロシア反乱、中国の悪夢 習氏が恐れるプーチン氏の末路 本社コメンテーター 秋田浩之】
同じ7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
マキャベリは約500年前に「君主論」を著し、指導者は愛されるよりも、恐れられるほうが望ましいと説いた。プーチン・ロシア大統領は、この古典の信奉者とされる。
だが、彼が熟読すべきなのは、同書の次の教えだ。「傭兵(ようへい)は役に立たず、危険だ。団結力がなく、権力に飢え、規律がなく、不誠実である」
ロシアの軍事会社ワグネルによる反乱は、いったん鎮まった。だが、これは正常化への一歩ではなく、混乱の序曲だろう。
有力な選択肢ないのが実情
プーチン政権が揺らげば、良くも悪くも国際政治への影響は大きい。とりわけ注目に値するのが、中国にもたらす意味合いだ。
反乱が起きた当初、中国が動揺したことは明らかだ。ワグネルを率いるプリゴジン氏が決起を宣言した6月23日以降、ひたすら沈黙を貫いた。中国外務省がようやく談話を出し、ロシア安定への支持を表明したのは同25日夜。プリゴジン氏が、モスクワ進軍をあきらめた後になってからだ。
ロシアにどう対応するか、習近平(シー・ジンピン)政権内で、その後も真剣な検討が続いたとみられる。そして彼らが出した結論は、今後もロシアとの軍事協力を深めるというものだった。
李尚福・国務委員兼国防相は7月3日、北京を訪れたロシア海軍のエフメノフ総司令官に、こう伝えた。「あらゆるレベルで意思疎通を強め、共同の訓練、パトロール、図上演習を定期開催するのが望ましい」
ウクライナで誤算を続け、国内の反乱を招いたプーチン政権は、中国にとって失望続きだろう。それでもロシアを支える以外、有力な選択肢がないのが実情だ。
中国は連帯の見返りに、プーチン氏から外交上の譲歩も引き出しはじめている。6月以降、国内取引の中継地としてロシア極東のウラジオストク港を使う権利を、ロシアから取りつけた。
ウラジオストクを含む沿海州は1860年の北京条約で、ロシアに割譲された。中国からみれば、約160年ぶりに同港へのアクセスを得たという演出にもなる。
ロシアが裏庭とみなす中央アジアの囲い込みにも、中国は動く。習国家主席は5月18〜19日、中央アジア5カ国との首脳会議を初めて開いた。中国の外交専門家は「プーチン氏に遠慮して、中国は中央アジアと首脳会議を開くのを控えてきた。だが、もはや気兼ねする必要が薄れた」と語る。
インド太平洋戦略に狂い
しかし、プーチン政権の求心力が衰えれば、習政権にはプラスよりマイナスが大きい。少なくとも2つの影響が考えられる。
第1に、ロシア内の安定が揺らげば、インド太平洋への中国の戦略に狂いが生じる。中国と旧ソ連は1960年代末、武力衝突した。だが、90年代に入って中ロは国境の画定交渉を急ぎ、2008年に決着させた。
これにより北方の火種が減り、中国は安心して東・南シナ海や南太平洋に進出できた。中国の軍事戦略に詳しい米戦略予算評価センター(CSBA)のトシ・ヨシハラ上級研究員は指摘する。
「中国がアジアとその先の海洋に(戦略の)重点を移せたのは、北部の国境地帯が安定していることが前提の一つだ。ロシアが不安定の火種になれば、中国はインド太平洋における優先課題を犠牲にしてでも、大陸側に注意を向けざるを得なくなるだろう」
第2に、ロシア内の混乱は中国の対米戦略にも影を落とす。習政権は米国主導秩序を塗り替え、50年までに世界の最強国になる目標を掲げる。
米国への対抗上、ロシアは唯一の大国パートナーだ。ロシアの国力が衰えたからといって、国連安全保障理事会の常任理事国や核大国の地位が消えるわけではないが、外交力は下がってしまう。習氏にとって最悪な筋書きは、プーチン氏が失脚することだ。
中国の内情に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は話す。「習氏がいちばん見たくないのが、プーチン政権が倒れることだ。その後に親中的な政権が生まれる保証はなく、ロシアが崩壊したり、西側寄りの政権が誕生したりする恐れもある」
侮れない心理的な圧力
こうしたなか、世界にとって重要なのは、ロシアの苦境から習氏がどのような教訓を引き出すのかだ。明確な目算がないままプーチン氏がウクライナに侵略し、ロシア軍の死傷者が増え続けていることが反乱を誘発した。
これを中国に当てはめれば、よほど短期で圧勝できる自信がない限り、台湾侵攻に踏み切るべきではないという教訓になる。むろん、共産党の一党支配下にあり、国中に監視システムを張り巡らす中国で、ロシアのような反乱が起きることは想像しづらい。
ただ、プーチン政権が内戦寸前の危機にさらされたことが、習氏に与える心理的な圧力は侮れないだろう。トシ・ヨシハラ氏も次のように分析する。「共産党指導部は中国軍を厳しく統制しており、ワグネルのような反乱は起きそうにない。ただ、ロシアの反乱を受け、台湾をめぐる戦争がうまくいかず長期化すれば、政権転覆の動きが出かねない、と習氏が受け止めた可能性がある」
10年代初め、中東では「アラブの春」が広がり、長期の独裁政権が次々と倒れた。強権政権は盤石なようで、崩れる時はあっという間だ。西側諸国も「もろいロシア」への対策を急ぐときである。
【「おじさん企業」投資家はNO 女性活躍企業にマネー】
9日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・女性活躍企業は株価や業績が伸びるケースが目立つ
・多様性に富むと強じん性・回復力への注目が増す
・男性中心では市場から見放されるとの危機感が必要
政府は6月、2030年までに東証プライム上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標などを柱にした「女性版骨太の方針」を決定した。企業による女性活躍の取り組み加速への期待も高まるが、めざとい投資家はすでに「女性活躍」をキーワードに企業を評価・選別し始めている。女性活躍企業と株価や業績との関係を探った。
「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取り組みを推進する」。岸田文雄首相は6月中旬、「女性活躍・男女共同参画の重点方針(女性版骨太の方針)2023」取りまとめの会議で力強く宣言した。
ここで浮かんでくる疑問がある。企業が女性役員や従業員の比率を高めたり、女性の働きがいや働きやすさに配慮すれば、本当に株価や業績は上昇するのか――。
東証株価指数(TOPIX)500と女性役員比率の高い50の「女性活躍銘柄」の株価を比較したJPモルガン証券の分析を見てみよう。注目すべき変化が起きたのは2020年。20年3月にともに急落した後、女性活躍 銘柄の株価の戻りはTOPIXを大きく上回った。
この時期、新型コロナウイルスの感染拡大で経営環境が急激に悪化した。西原里江チーフ株式ストラテジストは「危機時には経営改革や斬新な視点が求められるため、多様性に富んでいる企業のレジリエンス(強じん性・回復力)への注目が増す」と指摘する。
個別企業の事例も見てみよう。「リーマン・ショックの頃とは違い、女性活躍をはじめダイバーシティ(多様性)を高めてきたことで危機に強い会社になった」。プライム上場でデジタルマーケティング支援のメンバーズの高野明彦社長は感慨深げに話す。08年3月期には過去最大の赤字を計上するなど「会社存続の危機」(高野社長)だった。
当時の同社は典型的な「ブラック企業」。そこで着手したのが人事制度の改革だ。計測すらしていなかった残業時間を月15時間までに抑えた。育休から復帰した社員は総務や経理といったバックオフィスに配属することが多かったが、本人の意向も踏まえつつ、原則元の職場に復帰できるようにした。
取り組みの成果は数字にも表れている。女性管理職比率は32%と3割を超え、同業他社では20%を超えることもある離職率は8%程度。女性役員比率も29%とすでに政府目標とほぼ同水準に到達し、業績や株価も好調だ。高野社長は「人材獲得競争が厳しいIT業界だが、働きがいや働きやすさを感じた優秀な社員が活躍し続けてくれている」と話す。
人材紹介を手掛けるジェイエイシーリクルートメントも女性活躍に積極的な企業のひとつだ。02年に新卒採用を始めたことで、20代半ばで出産を機に辞める女性社員が増加。「会社の損失」と見て保育所に預ける費用などの補助を実施し、今は産休・育休からの復帰率は100%だという。
22年からは女性リーダー候補者を選抜する試みも始めた。田崎ひろみ会長兼社長は「画一性の高い取締役会では経営課題を多角的に捉えられない」と強調。「数年内に執行役員に占める女性を3〜4割まで増やしたい」と意気込む。
「海外投資家からの問い合わせがここ2〜3年で増えている」。そう話すのは電線中堅のSWCC(旧・昭和電線ホールディングス)の山口太常務執行役員だ。18年には同社初の女性社長に長谷川隆代氏が就任。事務職から総合職にキャリアアップできる公募制度など「女性活躍推進プロジェクト」を立ち上げた。女性管理職比率こそまだ6%にとどまるが、多様性への関心の高い海外投資家からの注目も高まっている。
運用会社が自主的に企業に女性活躍を促す動きも活発になっている。野村アセットマネジメントなど運用大手は23年の株主総会から、女性取締役が一人もいない企業の会長や社長の取締役再任に反対するようにした。
ノルウェー政府年金基金や米議決権助言会社グラスルイスも同様の働きかけを進めている。インベスコ・アセット・マネジメントの 古布薫ヘッド・オブ・ESGは「企業が女性活躍を進める中で、対話や議決権行使など投資家の役割は大きい」と指摘する。
フューチャーの神宮由紀取締役は「女性活躍推進という言葉がなくなる時が来ればいい」と話す。女性活躍に注目が集まるのは今なお女性の労働環境が整っておらず、課題として企業や社会の前に立ちはだかっていることの裏返しだからだ。男性中心の「おじさん企業」のままでは、市場からも見放されるという危機感が必要だ。
<Review 記者から>脱・見せかけ、仏作って魂入れよ
女性活躍がなぜ重要なのか。それは女性活躍をはじめとした人的資本の拡充が「ヒト・カネ・モノ」を呼び込むための重要なツールであるからだ。
「ヒト=人材」では、日本の労働力人口が減るなか、すでに「人材争奪戦」の様相を呈している。リクルートホールディングスの傘下企業が22年に米国で実施した調査によると、18〜34歳の労働者の72%が「上司などがDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、多様性・公平性と包括性)を支持していないと思えば、退職や内定辞退を検討する」と回答した。
優秀な人材が集まらないと当然、企業業績も悪化し投資家や金融機関からもそっぽを向かれ「カネ=資金」も集まらなくなる。女性の人権や不平等といった問題を放置している会社と見られれば、「モノ=取引先との商品や製品のやりとり」も細ってしまう構図だ。
政府の掲げる「女性役員30%」という数値に合わせるだけでは「仏作って魂入れず」となりかねない。21年の企業統治指針の改訂では社外取締役の目標比率が示されたが、「形式は整えたが内実が伴っていない企業が少なくない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジスト)ためだ。
20年以上にわたって女性活躍の重要性を唱えてきたキャシー松井氏は「多様性の重視を企業の成長にどうつなげるのか、きちんと経営戦略に落とし込み、ストーリー立てて社内外に説明することが重要だ」と話す。
(ESGエディター 古賀雄大)
女性版骨太の方針
正式名称は「女性活躍・男女共同参画の重点方針」。政府が6月に決定した。東証プライム市場に上場する全企業を対象に、2025年をめどに女性役員を1人以上選任し、30年までに女性役員比率を30%以上にする目標を設定し、数値目標の設定や行動計画の策定を促す。いずれも努力義務で罰則は設けない。
日本の女性活躍は世界に見劣りしてきた。経済協力開発機構(OECD)によると、東証上場企業の女性役員の比率は13%と主要7カ国(G7)で最低。女性役員が1人もいない企業は東証プライム上場企業で344社と全体の19%にものぼる。世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数も23年で146カ国のうち125位となっている。
【「アジャイル」な半導体とEV トヨタも追う俊敏な経営】
10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
政府系投資ファンドが約1兆円を投資して、株式を非公開化する半導体材料大手のJSR。6月29日付の本紙でエリック・ジョンソン社長が今後の課題と目標について「10%を優に超える自己資本利益率(ROE)を」と語っていたのが印象的だった。
特別珍しい指標ではないが、「純利益÷自己資本×100」で求めるROEとはつまるところ、企業が分母(自己資本)も、分子(純利益)も「複利」で成長しているかをみる指標だ。復興をめざす日本の半導体産業には大事な話をしていた可能性がある。
「利益を再投資」で描く成長カーブ
試算してみよう。わかりやすくJSRの自己資本(元手)を1千億円、ROEを10%だと仮定すると、100億円の純利益(アウトプット)をあげることになる。半分を配当に回し、残りを自己資本に足すと1050億円だ。
その後も同じ資本生産性を保てるなら、2年目の自己資本は1102億円、3年目は1157億円に増える。10年間続けられれば、1628億円で、スタート地点の約1.6倍になる。
あくまで元手が基準の「単利」だとこうは成長できない。複利とは「アウトプットも元手に組み込んで再投資する」ことを意味し、グラフにしたら直線でなく指数関数曲線になる。時間がたつほどに利益→再投資の循環が太くなっていき、20年後なら自己資本が約2.7倍、30年後は4.5倍と勢いを増す。ROEが向上すれば、伸び方はさらに加速する。
もちろん、ROEだけが重要だということではない。成長速度の尺度は様々あり、例えば日本政府は停滞する半導体産業の総売上高を5.3兆円(2022年)から30年までに15兆円に引き上げる目標を打ち出している。15兆円を実現するには、年率13.8%もの複利で今後8年間、売上高を増やし続けないといけない。
政府は最先端半導体の国内生産をめざすラピダスの設立や、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本誘致にも関わった。だが、投じる資金はあくまで民間投資を誘発する「最初の一滴」の位置づけであり、企業側に戦略、とりわけ複利で成長できる経営力がなければ、半導体再興も絵に描いた餅だ。
開発サイクルを短く、早く
東芝で半導体開発に携わったこともある東京大学大学院の黒田忠広教授が面白い話をしていた。日本の半導体産業にとって重要なのは「利率とサイクル(周期)とコスト。とりわけサイクルだ」という。どういうことか。
複利の成長は前出の総売上高を含め、「y=a(1+r)のn乗」という数式で表せる。株式投資や定期預金などでみかける複利計算式と同じだ。yはアウトプット、aは元手、rは利率、nは運用サイクルを指す。
アウトプットを増やすなら、利率rを大きくしようとするのが基本だ。ただし、それは運用サイクル(通常は1年)が一定の場合で、サイクルのnを大きくできるのなら、アウトプットの成長はもっと加速させることが可能だ。
つまり同じ制限時間の中で他者よりサイクルを短く、速く回す。半導体に置き換えれば、短い開発期間で何度も改善と改良を繰り返してチップの性能を高め、顧客に提供し続けるということになる。
「小刻みな開発」で優位な日本勢
最先端技術から遠ざかっていた日本にとって、TSMCや韓国・サムスン電子と同じペース、やり方で競っても勝ち目はない。一方で、日本には高集積化や省電力化につながるパッケージ(チップを並べる)技術や積層(チップを重ねる)技術で優位性がある。製造装置や材料分野で競争力のあるメーカーも多い。開発サイクルの「小刻み化」は日本勢に合理的で、面白い試みかもしれない。
日本勢が追いつく例を考えてみよう。海外の有力半導体メーカーがあり、売上高1兆円で開発サイクルは年1回のペースとする。一方、ラピダスのような新興の日本企業が売上高1000億円だとする。売上高で10倍の差があるが、日本企業はパッケージや積層の技術で工夫を重ね、開発サイクルを年3回に短くできた。
そうすると複利の成長効果が時間とともに表れる。開発サイクルに伴う増収率を仮に同じ10%とすると、日本企業は短いサイクルで増収を達成できるため、12年を過ぎたころに売上高で追いつく計算になる。やや極端な例だが、「複利の経営」を徹底すれば勝つことができるわけだ。
トヨタの生産改革が示す「n」の時代
改善や改良、新しいアイデアを短い周期で実現し、実装する手法は近年、「アジャイル(機敏)開発」と呼ばれ、米「GAFAM」などIT(情報技術)企業の間で一般的になりつつある。だが、これからは産業を超えてアジャイルは重要になっていくだろう。
例えば、トヨタ自動車が電気自動車(EV)の製造に「ギガキャスト」と呼ばれる一体成型技術を導入し、工程数と投資額を半減させる計画を打ち出した。
車の全面改良はこれまで5年前後をかけるものだったが、開発から製造までをデジタルツインで管理したり、ソフトウエアで機能を更新させたりすることも踏まえ、数カ月から1年でのモデルチェンジが可能になるという。まさに「y=a(1+r)のn乗」のnを増やす、アジャイル化である。
ただし、米テスラや中国・比亜迪(BYD)はアジャイル開発で先行しており、トヨタはどちらかというと追う側だ。EVも半導体も「nを極めないと競争に勝てない」。そういう時代に入った。
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ひとこと解説
EVの開発・製造には内燃機関で経験したことのないスピートを目指すことになるでしょう。誤解を恐れずにいえば、EVの成功要因とは内燃機関の成功要因の先に連続的に起こることはないからです。BYD、テスラは、内燃機関をコアとして固まったプラットフォーム、それをベースにした水平分業型開発、生準リードタイムなどを破壊しています。追いつくための新しい取り組みが伝統的OEMには不可欠でしょう。ギガキャストは部品点数・工程削減が目的のようにいわれますが、究極的に開発・生準のリードタイム短縮がゴールです。
【インド、「スタートアップ大国」へ野心 海外勢とも連携】
同じ10日のニュースメールは次のように報じた。
インドが「スタートアップ大国」として、国際的な存在感を高めようとしている。20カ国・地域(G20)の議長国として新興企業の活性化をテーマにした会合を新設し、このほど1兆ドル(約140兆円)の共同投資などを中心とする共同声明をまとめた。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の盟主として注目を集めるなか、有力な新興企業を多く抱える大国としても影響力の拡大をめざす。
G20で新興企業について話し合う会議「スタートアップ20」は3日、提言をまとめた共同声明を発表した。「スタートアップは世界経済の成長に欠かせない存在となっている。しかし、新興企業の定義や支援策のあり方については、各国間でほとんど調和がとれていない」との問題意識を掲げた。G20各国での新興企業の定義の統一や、総額1兆ドルの共同投資などの提言を盛り込んだ。
スタートアップ20は民間企業などを中心に構成される「エンゲージメントグループ」と呼ばれる部会のひとつで、インドが議長国を務める今回のG20のもとで初めて設置された。1月の南部ハイデラバードでの会合を皮切りに、インド政府とも連携しながら各国代表による議論を数カ月にわたって続けてきた。延べ500人以上の代表が参加したという。日本では日本貿易振興機構(ジェトロ)が代表として議論に加わり、日本企業との窓口にもなった。
生体情報と連携した個人番号制度を整備
今回の提言内容がどこまで各国の具体的な政策に反映されるかは不透明だが、スタートアップ20の枠組みは次回のG20の議長国であるブラジルにも引き継がれる見通しだ。
日系ベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズでインドでの事業開発を担当するシャー・マユール氏は、「G20の枠組みでスタートアップについて議論された意義は大きい」と評価する。ただちにG20全体の政策協調には至らなくても「2国間の取り組みなど、できることから国際的な取り組みが始まっていくのではないか」と期待する。
「これはインドのアイデアだ」。3日、首都ニューデリー近郊で開かれたスタートアップ20会合での記者会見で、インド政府関係者は同国が果たしてきた主導的な役割を強調した。
インドは22年12月にインドネシアからG20議長国を引き継いだ。インドが議長国としてスタートアップに注目する背景には、デジタル分野を中心とした同国の躍進がある。インドは中国などと比べると製造業の誘致などで後れをとってきた一方で、理系人材の層が厚くIT(情報技術)産業が発展してきた。
インド政府はデジタル公共インフラ「インディア・スタック」を推進し、生体情報と連携した個人番号制度「アーダール」やモバイルの基盤になる電子送金システム「統合決済インターフェース(UPI)」などの仕組みが整備された点も、ITを活用した新興企業の台頭につながった。モバイル決済「ペイティーエム」を手がけるワン97コミュニケーションズは、日本の決済サービス「PayPay」に技術支援をしている。
IT規制を強めた中国に代わる投資先として、インドのスタートアップが注目されたことも追い風となった。スタートアップ20の開催には、多数のユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場企業)を生み出しているインドの自信も透けて見える。
ただ、足元で新興企業の資金調達環境は悪化している。新型コロナウイルス禍で低金利を維持していた各国が、米連邦準備理事会(FRB)を追うように利上げ路線に転じた。米国など海外からの投資マネー流入が目立っていたインドを巡っても環境が一変した。
印ソフトウエア・サービス企業協会(NASSCOM)などのまとめによると、21年に新たにユニコーンとなったインド企業は20年比で3.5倍の42社だった。一方で22年は23社と半分ほどにとどまった。英調査会社のグローバルデータによると、1〜5月のVCによるインド投資額は前年同期比で7割ほど減少している。オンライン教育のアンアカデミーやベダントゥなど、22年は社員を削減する動きも目立った。
日本に対する期待も
世界的に逆風が吹くなかで、日本とインドのスタートアップ分野での連携を探る動きも出てきている。
6月下旬、東京都中央区。インドから起業家を招いて同国の企業を日本の企業・投資家に紹介するイベントが開かれた。「インドと日本の友好関係は深まると強く感じている。国境を越えたM&A(合併・買収)が活発になり、様々な機会が生まれるだろう」。主催者のひとりでインドで起業家支援を手がけるGSFのラジェシュ・サハニ氏は熱弁を振るった。
人口が多くデジタルに強い人材が豊富なインドは、少子高齢化で国内市場の縮小を懸念する日本企業にとって魅力的に映る。参加した日本の関係者からはインドについて、人口の多さに加えて「スマートフォンを持ってい る人が多く、テクノロジーにとても精通している」点などへの期待の声があがっていた。
シンガポールなどを拠点にインド企業などに投資するVCであるリブライトパートナーズのブリッジ・バシン氏は、日本勢について「ひとたび企業や製品を気に入ると長期間にわたって投資を持続する」と指摘する。
リブライトも4月に都内で、出資先のインド企業と日本の関係者をつなぐイベントを開催した。オンライン診療や健康診断のネット予約サービスなどを運営するメディバディのサティシュ・カナン最高経営責任者(CEO)は「米国の投資家が基本的に純粋な投資ファンドであるのに対し、日本はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が多い。米国からは垂直立ち上がり的な成長を求められるが、日本は長期でみてくれる」と話す。その一方でイベントでは「日本の投資家には意思決定のスピードアップを期待したい」との声もあった。
インドが海外に目を向けるなか、日本との連携拡大にもつながるのか。インドだけでなく日本勢の姿勢も問われている。(ムンバイ=花田亮輔、小林拓海、藤村広平)
【クリミア橋爆破、ウクライナ当局者が関与を示唆】
10日の日経特報メールは次のように報じた。
(CNN) ウクライナのマリャル国防次官が、昨年10月に起きたロシアとクリミア半島を結ぶ橋で起きた爆発について、ウクライナ軍による関与をこれまでで最も明確に示唆した。クリミア半島は、ロシアが2014年に「併合」して以降、ロシアの支配下にある。
マリャル氏はSNSへの投稿で、500日前にロシアによるウクライナ侵攻が始まってからウクライナが達成した成果を12件提示した。
マリャル氏はそのなかで、ウクライナが273日前にロシアの兵站(へいたん)を破壊するためクリミア橋に最初の攻撃を行ったと述べた。
その他の成果としては、451日前のロシア軍の軍艦「モスクワ」の沈没や、373日前のスネーク島の解放などを挙げた。
橋への攻撃によって、ロシアとクリミア半島を結ぶ主要な交通網が破壊された。橋への攻撃は、ウクライナにおけるロシア軍の軍事的対応に打撃を与えただけではなく、ウクライナ政府にとっては宣伝戦略での勝利となった。
ウクライナ当局者は当時、橋の爆破を称賛したものの、関与については明言しなかった。
【三井住友、ユニコーン育成に300億円 上場前に重点投資】
同じ10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)は国内の未上場成長企業「ユニコーン」の育成を目指す新ファンドを立ち上げる。投資総額は300億円になる見通しで、同種のファンドでは国内最大級とみられる。日本では成長後期のスタートアップを支える資金の出し手が少なく、事業基盤が弱いまま上場に至る事例が目立つ。リスクマネーの厚みが増せば、世界で戦える新興企業は生まれやすくなる。
三井住友FGと国内の有力ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレインがファンドを近く立ち上げる。資金の大半を三井住友FGが拠出し、実際の投資ではグローバル・ブレインの目利き力を生かす。同社はフリマアプリ運営のメルカリを創業時代から支え、 日本初のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未公開企業)に育てた実績がある。
政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にもスタートアップが成長できる環境の整備が盛り込まれた。スタートアップ企業の資金調達は通常、成長段階によって投資家が異なる。創業期から起業家を支援する「シード(種子)」や「アーリー(初期)」段階の投資家は、日本でもVCを中心に厚みが増してきた。
一方、成長途上の「レイター(後期)」段階になると資金の出し手が少なくなる。スタートアップ企業は事業モデルの確立後、量産投資や製品・サービスのシェア拡大に資金を十分振り向けられず、成長が鈍化しがちだ。「GAFA」のような世界で大きく飛躍する新興企業が生まれない一因とされてきた。
三井住友FGの新ファンドは成長後期の投資に特化し、事業拡大を後押しする。新ファンドの運用期間は7年で、1社に対する投資額は数十億円規模。企業価値が100億円を超える新興企業を中心に投資し、500億〜1000億円規模に成長させてから数年以内に売却や株式の上場をめざす。
日本取引所グループ(JPX)の山道裕己・最高経営責任者(CEO)は「日本でユニコーンが少ないのはレイターステージ(成長後期段階)でリスクをとる出資者が少ないためだ」と指摘する。内閣府の資料によると、VC投資全体に占める「成長後期型」の割合は米中が約7〜9割。日本は4割弱にとどまる。
日本は成長後期の投資家が少ないことから、新興企業は経営基盤が弱い段階で早期の株式公開を迫られていた。東京証券取引所などによれば、東証グロース市場に新興企業が新規株式公開(IPO)する際の株式時価総額は22年の平均で101億円。米国の19億2000万ドル(約2700億円)との差は大きい。
上場時の企業価値が小さければ、調達額も少なくなりがちだ。1社あたりの調達額(21年)は米国の450億円超に対し、日本の旧東証マザーズは14億円だった。上場後に積極的な研究開発や設備投資をしづらくなっていることが一段の成長を促すうえで支障となっている。
日本の新興市場は個人投資家中心で、長期目線の機関投資家が少ない。株価が不安定になりがちで、経営が短期目線になるといった課題も指摘されている。上場後の追加の資金調達も難しかった。未上場のままで成長資金を確保できるようになれば、こうした問題の解決につながる。
一般財団法人のベンチャーエンタープライズセンターによると、22年の日本のVC投資額は3403億円と31兆円を超える米国、2兆5000億円の欧州に大きく水をあけられている。政府が昨年11月にまとめた「スタートアップ育成5カ年計画」では、スタートアップへの投資額を10兆円規模にまで増やす目標を掲げる。
スタートアップへの投融資に慎重だった銀行も近年は支援策を拡充させている。みずほFGが22年に成長後期向けのファンドを100億円規模で立ち上げたほか、三菱UFJフィナンシャル・グループも海外で培った人工知能(AI)の活用による融資を国内でも始める計画だ。
ゆうちょ銀行もスタートアップ投資に本格的に乗り出すと表明した。巨額のゆうちょマネーの一部を成長分野に振り向ける。国内の大手金融機関が投融資に乗り出せば、国内外から新たなリスクマネーを呼び込む効果も期待できる。
【スウェーデンのNATO加盟、トルコが容認 実現へ前進】
11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・スウェーデンとの首脳会談でトルコが反対姿勢を転換
・トルコなどの議会承認を経て加盟実現へ
・NATOの北方防衛強まる。ロシアとの緊張高まるリスク
【ビリニュス=辻隆史、イスタンブール=木寺もも子】北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は10日、トルコがスウェーデンのNATO加盟に同意したと明らかにした。これまで反対していたトルコの方針転換により、加盟実現に大きく前進する。NATOの北方防衛強化につながるが、ロシアとの緊張がさらに高まるリスクもある。
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トルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相が10日、11日から始まるNATO首脳会議に先立ち、リトアニアの首都ビリニュスで協議した。協議後、NATOのストルテンベルグ氏が発表した。
ストルテンベルグ氏は記者会見で「この重要な時期に全加盟国の安全保障に恩恵をもたらす歴史的な一歩だ」と述べた。「私たち全員をより強く、より安全にする」とも語った。
バイデン米大統領は10日の声明でトルコの方針転換に関し「歓迎する」と強調した。「欧州における防衛力や抑止力の強化に向けてエルドアン大統領やトルコと協力して取り組む用意がある」とも言及した。
トルコは非合法組織のクルド労働者党(PKK)支持者らを「テロリスト」とみなしており、加盟条件としてテロ対策の強化を求めた。スウェーデンが6月に新たな対テロ対策法を施行した後もなお取り締まりが不十分だとしていたが、NATOによると両国は10日の首脳会談で今後も対策を強化していくことで合意した。
ストルテンベルグ氏はNATO首脳会議までの交渉決着をめざしていた。承認には加盟国の全会一致が必要だ。残るのはトルコ、ハンガリー両国議会での承認手続きだ。トルコ議会はエルドアン氏の与党連合が過半数を占めており、エルドアン氏が合意すれば近く批准手続きを行うとみられる。ハンガリーはトルコが容認に転じれば自国も手続きを進めるとしている。
スウェーデンはロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOによる集団的安全保障が必要だと判断した。2022年5月、ロシアと国境を接する隣国のフィンランドとともにNATOへの加盟を申請した。両国ともロシアのウクライナ侵攻を機に、長年の中立政策を改めた。フィンランドは既に4月に正式加盟している。加盟が実現すれば、32カ国目となる。
バイデン氏は9日、エルドアン氏との電話協議で、スウェーデンが早期に加盟を実現できるよう要望していた。欧米にとっては、スウェーデン加盟の可否が安全保障政策の大きな焦点の一つとなっている。
【世界で熱波・水害拡大 経済損失は420兆円、29年まで】
同じ11日の日経ニュースメールは次のように報じた。
世界を襲う熱波が波及し、干ばつや水害などの異常気象が増えている。世界の平均気温は過去最高を更新し、南米ペルー沖の海水温が上がる「エルニーニョ現象」で今夏は気温がさらに高まる可能性がある。専門家はエルニーニョによる経済損失は2029年までに最大3兆ドル(約420兆円)にのぼると見積もる。
世界気象機関(WMO)は10日、今月7日に記録した世界平均気温は17.24度で、過去最高だった16年8月16日の16.94度を上回ったと発表した。また先月は観測史上最も暑い6月となり、7月第1週も最も暑い1週間となったとみられると明らかにした。
20年の平均気温は1850〜1900年の平均気温に比べ1.1度高い。欧州では2012〜21年の間に陸地の平均気温が1.9度も上がった。欧州の研究チームは22年5月末からの3カ月ほどで6万1000人超が熱波で亡くなったとみる。
人類による温暖化ガスの排出増などで既に気温が上昇している中で、今年は4年ぶりの発生となるエルニーニョ現象がさらに温度を高める可能性がある。
「エルニーニョの発生が猛暑を引き起こす可能性を大幅に高めるだろう」。WMOのターラス事務局長は7月4日の声明で警戒を呼びかけた。
米国ダートマス大学は、エルニーニョによる経済損失は29年までに最大3兆ドルになると見積もる。大雨や干ばつが起これば農業や漁業を中心に世界中で被害が生じ、その影響は数年後まで続く。
豪雨は45年間で3.8倍
気温が上昇すれば大気中の水蒸気が増え、大雨のリスクも高まるとみられている。日本の気象庁によると、国内で7月に降った「3時間雨量が130ミリ以上」の豪雨は1976年から20年までの45年間で約3.8倍に増えた。
高温や乾燥した気候によりカナダでは毎年のように山火事が発生している。今年春にはカナダ東部で大規模な森林火災が発生。米国立気象局によるとその煙はカナダに近い米北部から中西部にも広がった。
大気汚染の警報が発令され、およそ1億人の米国民に屋外活動を控えるように求めた。呼吸器系の疾患を持つ人は必要に応じてマスクを着用するよう呼びかけた。6月には山火事の煙が大西洋を越えてスペインにまで達した。
カナダでは近年、40度を超える酷暑が頻発している。「気候変動の影響で、カナダでは世界平均の2倍ほどのスピードで温暖化が進む。毎年山火事で焼失する面積も明らかに増えた」。カナダ環境・気候変動省のギレット研究員はこう分析する。
バイデン米大統領も6月8日の声明で「カナダの山火事は気候変動の影響を明確に示す事例だ」と指摘。
メキシコで6月末に49度記録
カナダだけではない。スペイン南部では6月下旬に最高気温が44度に達した。今年初めから深刻な干ばつが続き、貯水池の容量は平均で30%しか残っていない。場所によっては6%のところもある。
メキシコ北西部でも6月末に49度を記録した。同国政府は6月に異常な暑さが原因で死亡した市民が104人にのぼったと発表した。米南部テキサス州でも厳しい熱波で死者が相次いだほか、中国やインド各地も猛暑や熱波に見舞われている。
米国では保険の引き受けを停止する保険会社も出てきた。カリフォルニア州の大手保険会社、ステートファーム社は今年に入り、山火事など災害リスクが増えていることを理由に、カリフォルニア州での住宅所有者保険の受け付けをやめた。
独ミュンヘン再保険によると、22年の世界の自然災害の被害額は2700億ドル(およそ38兆円)に膨れあがった。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、海洋を含む世界の平均気温が20年以内に産業革命前より1.5度上昇すると予測する。
「世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える」。21年に英国で開いた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で採択したグラスゴー気候合意で掲げた長期目標と比べ、現状はほど遠い。国連によると、各国の温暖化ガスの削減目標を合わせても2度以上、上昇するという。
こうした状況で、11月にはアラブ首長国連邦(UAE)で第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が開かれる。議長国、UAEのスルターン・アル・ジャーベル産業・先端技術相は「1.5度目標は揺るがない」と強調している。各国はさらに厳しい具体的な対応を迫られる。
【性同一性障害職員の女性トイレ使用制限、最高裁認めず】
同じ11日の日経速報メールは次のように報じた。
性同一性障害の経済産業省職員に対する女性用トイレの使用制限を巡り、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は11日、国の対応は違法として、使用制限を認めない判断を示した。性的少数者の職場環境を巡る上告審判決は初めて。職員の逆転勝訴が確定した。
夫婦別姓や同性婚など社会の意識の変化を踏まえた司法判断は近年増え、6月には性的少数者の理解増進法も施行された。従業員の性自認に即した働き方が重視される中、判決は公的機関や民間企業の対応に影響を与えそうだ。
原告は経産省の50代職員。男性として生まれ、入省後に性同一性障害と診断された。ホルモン治療を受けて女性として暮らし、2010年から女性の身なりで勤務することや女性用休憩室の使用が認められた。
女性用トイレについては、健康上の理由から性別適合手術を受けず戸籍上の性別変更もしていないことを理由に、使用を執務室から2階以上離れたフロアに制限。処遇の改善勧告を人事院に求めたが、認められなかった。
同小法廷は判決理由で、人事院判定について「具体的な事情を踏まえることなく同僚に対する配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視した」として「裁量権を逸脱したもので違法」と結論付けた。裁判官5人全員一致の結論。
判決は職場という特定の空間における判断で、不特定多数が使用する施設のトイレや公衆浴場などには直接影響しないが、国の違法を認めたことで経産省は対応の見直しを迫られる。
社会の変容に対応した判決は近年相次いでいる。夫婦別姓を認めない民法などの規定の違法性が争われた訴訟で、最高裁大法廷が15年と21年に「合憲」とする一方、15年は裁判官15人中5人が、21年は4人が「違憲」の反対意見を付した。
最高裁は性同一性障害の人についても19年、戸籍上の性別変更に当たり生殖能力をなくす法規定を「現時点では合憲」としながら「継続的な検討が必要」と指摘。同性婚を認めない制度の違憲性が5地裁で争われた訴訟では4地裁が「違憲」「違憲状態」とした。
性的少数者の就業環境の整備は6月23日施行の理解増進法も事業者に求めている。
訴訟は職員が15年、トイレの使用制限を是認した人事院判定の取り消しなどを求めて国を提訴。19年12月の東京地裁判決は「自認する性別に即した生活を送るという重要な法的利益の制約」として判定を取り消すなどした。東京高裁は21年5月、経産省が全職員に適切な職場環境をつくる責任を負っていたとして適法と判断していた。
【北朝鮮ミサイルはICBM級、過去最長の74分飛行 防衛省】
12日の日経速報メールは伝えた。
防衛省は12日、北朝鮮が午前9時59分ごろに北朝鮮の首都・平壌近郊から東方向に1発の弾道ミサイルを発射したと発表した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)級で、74分ほど飛行し午前11時13分ごろに落下した。
ミサイルは北海道の奥尻島の西およそ250キロに位置する日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落ちた。飛行距離は1000キロ程度で、最高高度は6000キロを超えたと推定した。飛行時間は北朝鮮が2022年3月に発射したICBMの71分を超えて過去最長となった。
韓国軍合同参謀本部も北朝鮮が日本海へ長距離弾道ミサイルを撃ったと明らかにした。北朝鮮による弾道ミサイル発射は6月15日以来となる。
松野博一官房長官は12日の記者会見でミサイルは「ロフテッド軌道で発射されたものと考えている」と明かした。北朝鮮が発射を予定する軍事偵察衛星とは異なるとの認識を示した。「現時点で被害情報などの報告は確認されていない」と語った。北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に厳重に抗議したと説明した。
リトアニアを訪問中の岸田文雄首相は記者団に「一連の北朝鮮の行動は日本や地域、国際社会の平和と安全を脅かすもので断じて容認できない。強く非難する」と述べた。「日米、日米韓などでの緊密な連携を図り、平和と安全の確保に万全を期していきたい」と強調した。
政府はミサイル発射を受けて国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開いた。首相官邸の危機管理センターに設置している官邸対策室に、関係省庁の担当者でつくる緊急参集チームを招集した。情報の収集や分析にあたった。海上保安庁は航行中の船舶に関連情報に注意するよう呼びかけた。
外務省は12日、日米韓3カ国の北朝鮮担当高官が電話で協議したと公表した。北朝鮮による長射程の弾道ミサイル発射を非難した。「地域の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威で、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦だ」と確認した。抑止力・対処力の強化へ緊密に連携するとも確かめた。日本の船越健裕アジア大洋州局長、米国のソン・キム北朝鮮担当特別代表、韓国外務省の金健(キム・ゴン)朝鮮半島平和交渉本部長が参加。
【巨大ITにデジタル課税「25年発効」 米への税収集中是正】
12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日米欧や中国、インドなどを含む138カ国・地域は12日、国際課税のルールを改める多国間条約の大枠をまとめた。国内に事業拠点を持たない巨大IT(情報技術)企業などにも各国が課税できるようにする。年末までに署名し、2025年の発効を目指す。
交渉事務局を務めた経済協力開発機構(OECD)が成果文書を発表した。
巨大IT企業が多い米国に税収が集中するのを防ぎ、各国に公平に行き渡るようにする。米企業などが各国で手掛ける事業を通じて収益を得ているにもかかわらず、自国を中心に税を納め、サービスを提供する国で納税しない問題を是正する。
デジタル課税は自国に支店や工場など物理的な拠点を持たない企業に課税できるようにする仕組みだ。「恒久的施設なくして課税なし」という税の原則をおよそ1世紀ぶりに変え、進展するデジタル経済に対応する。
対象は売上高200億ユーロ(約3.1兆円)超で税引き前の利益率が10%を超える企業を想定する。金融や資源採掘は対象から除き、世界で該当するのは100社程度になる見込みだ。売上高比で10%の利益を超える利潤の25%に課税する権利をサービスの利用者がいる国・地域に配分する。
OECDはデジタル課税の対象となる多国籍企業の利益は年2000億ドル(約28兆円)になると試算する。税収増は130億〜360億ドルになる。特に低所得や中所得国が恩恵を受ける。
対象はIT企業だけではないが、原材料費などがかさむ製造業の利益率は10%を超えにくい。グーグルやメタ(旧フェイスブック)などGAFAと呼ばれる米巨大IT企業が対象になりやすい。
財務省によると対象となる日本企業は数社程度。22年度の売上高が200億ユーロ以上、税引き前利益率が10%以上の日本企業をQUICK・ファクトセットのデータから抽出すると11社でNTTやKDDIが該当する。
詳細は条約が発効する過程で決まるとみられ、こうした企業が対象になるかは明確ではない。11社に3メガ銀行も含まれるが金融業のため除外されるとみられる。
デジタル課税導入は21年10月に法人税の最低税率を15%とするルールと合わせて決まった。デジタル課税は当初は23年の導入を目指したが、その後24年に延期していた。
日本も巨大IT企業への適正課税を進めてきた。09年には東京国税局が米アマゾン・ドット・コム関連会社に、千葉県の物流センターが課税根拠となる「恒久的施設」にあたるとして03〜05年度で計約140億円の追徴課税処分に踏み切ったことが分かった。
アマゾン側は反発し、日米当局が協議したが、利益の大半は米国法人に帰属すると判断され、ほとんど納税につながらなかった。発効すれば課税が容易になる可能性がある。
発効要件は明確になっていない。30カ国・地域以上が同意した上で対象となる約100の企業の60%以上が同意国・地域に本拠を置いていることを要件とする見通しだ。
巨大IT企業を多く抱える米国が批准しない場合は事実上、発効できない条件と言える。米国の条約批准には上院の3分の2の賛成が必要だが、与野党の勢力は拮抗する。米国が批准しなければ世界を巻き込んだ「100年に1度」の税制改革は漂流しかねない。(パリ=北松円香、ワシントン=高見浩輔、藤岡昂、村上徒紀郎)
【G7、ウクライナ安全を長期保証 新枠組みへ共同宣言】
同じ12日の日経ニュースメール【ビリニュス=辻隆史、ロンドン=江渕智弘】によれば、主要7カ国(G7)は12日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの安全を長期的に保証する枠組みを創設すると発表した。将来にわたり領土の主権を守れるよう、各国がウクライナと安全に関する2国間の協定などを結ぶ。防衛装備の供与やサイバーセキュリティーの強化などで協力し、ロシアへの抑止力を高める。
リトアニアの首都ビリニュスで開催中の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、12日にG7が共同宣言を公表した。現在のウクライナの自衛力を高めると同時に、将来のロシアによる再侵攻を抑止するため各国が長期的に支援する。
各国はウクライナと2国間の取り決めをし、それぞれで軍事的、経済的支援のあり方を定める。宣言では各国が直ちに議論を始めると明記した。
具体的には防衛装備の提供などのほか、ウクライナに対する訓練プログラムや軍事演習の拡大、同国の産業基盤の発展に向けた取り組みを想定する。参加国は自国の憲法や法律が認める範囲内で対応する。
バイデン米大統領は12日に「同盟国はウクライナの未来はNATOにあることに同意した。G7は我々の支援が将来にわたって続くと明確にした」と強調した。「陸・空・海で強力な防衛力を構築するのを支援し、あらゆる脅威への抑止力を確保できるようにする」と訴えた。
ウクライナは支援の見返りとして、国内の汚職対策や文民統制の強化といった改革を進める。ゼレンスキー大統領は同日、長期保証の枠組みについて「NATO加盟に向かっているという重要なシグナルとなる」と評価した。
日本が他国の安全を長期的に保証する枠組みに参加するのは極めて異例となる。日本もウクライナと2国間の文書をつくる。時期や協定にするかなど細部は今後詰める。
G7ではない他国であっても、いつでも宣言の取り組みに参加できるとも記した。岸田文雄首相は「多くの国々がこの宣言に参加することを期待する」と述べた。
NATOも首脳会議で複数年のウクライナ支援策で合意した。G7、欧州連合(EU)など多国間の枠組みで有志国が協調し、ウクライナの反攻を支える。
G7のうち日本を除く6カ国はNATOに加盟している。ウクライナはNATOへの加盟が実現するまで、安全を保証するよう求めていた。11日に公表したNATO首脳会議の共同声明には「加盟国が同意し、条件が整えばウクライナに参加を呼びかける」と記したものの、加盟時期のめどは盛り込まなかった。
【台湾IT産業、過去10年で最大の落ち込み 6月は2割減収】
12日の日経ニュースメール【台北=中村裕】によれば、台湾経済が厳しい局面を迎えている。世界的なIT(情報技術)関連需要の減少で、基幹産業の半導体や電子部品の企業業績を直撃している。台湾積体電路製造(TSMC)や鴻海(ホンハイ)精密工業など主要IT企業19社の6月の売上高を調べたところ、合計額は前年同月比19.8%減だった。2013年の統計開始以来、過去10年間で最大の落ち込みとなった。
台湾を代表する半導体大手、TSMCの6月の売上高は前年同月比11.1%減の1564億台湾ドル(約7000億円)だった。4カ月連続の減収で、不振が長期化しつつある。
主要顧客である米アップルや米大手ITの設備投資が依然として鈍い。サーバーや新型コロナウイルス禍で膨らんだパソコン、スマートフォンの需要も反動減などを受けて中国を中心に低迷している。
米エヌビディアなどが力を入れる生成AI関連も、現状では半導体の大きな需要増には結びついていない状況だ。
台湾を代表する大手企業、鴻海(ホンハイ)精密工業の不振も深刻だ。アップルのスマホ「iPhone」生産などを主力とするが、6月の売上高は19.7%減の4227億台湾ドル。5カ月連続で減収となり、厳しい状況が続く。
日本経済新聞が台湾に上場する主要企業の6月の売上高を調べたところ、全19社の合計額は約4兆9000億円で2割の減収となった。19社のうち14社が2ケタの減収に落ち込んだ。
IT産業は台湾経済の屋台骨で、その不振から2023年1〜3月期の実質域内総生産(GDP)も、前年同期比2.87%減だった。約7年ぶりのマイナス成長となった22年10〜12月期に続き、2四半期連続の前年割れだ。
世界的な需要減で、6月の輸出額も23.4%減と、下げ幅はリーマン・ショック後の09年以来の落ち込みとなった。
財政部(財政省)の蔡美娜・統計処長は7日の記者会見で、今後の経済見通しについて「(長期低迷する)輸出が前年比でプラスに転じる可能性があるのは11月ごろだろう」と予測した。
【ファストリ営業最高益3700億円 今期、販売増で上方修正】
同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
ファーストリテイリングは13日、2023年8月期の連結営業利益(国際会計基準)が前期比24%増の3700億円になりそうだと発表した。21%増の3600億円を見込んでいた従来予想から100億円上方修正し、最高益を見込む。新型コロナウイルス禍後に外出需要が増え、国内で「エアリズム」などの機能性衣料や外出着の販売が好調に推移する。東南アジアや中国を中心に海外事業も伸長する。
売上高にあたる売上収益は19%増の2兆7300億円を計画する。従来予想から500億円上方修正した。秋冬商品に続いて春夏商品の一部を値上げし、客単価が上昇している。「ゼロコロナ」政策の転換で中国事業も復調する。純利益は5%減の2600億円。従来予想から200億円上方修正した。
【ハリウッド俳優組合、43年ぶりスト 日本の配信にも余波】
13日の日経速報メール【シリコンバレー=中藤玲】によると、俳優ら16万人が加入する俳優組合は13日、映画やテレビ出演に対して43年ぶりにストライキに入ると決めた。待遇改善や人工知能(AI)の規制を巡り、経営側との交渉が決裂。映画や配信番組の製作が止まってコンテンツ流通が停滞するほか、ハリウッドスターの来日イベントにも影響が出そうだ。
既に米ハリウッドでは5月から、1万人以上の脚本家がストライキに突入している。映画やドラマの製作が全面的に中断した結果、テレビの深夜番組は再放送に切り替わり、米ウォルト・ディズニーや米ネットフリックスの新作映画や配信ドラマは相次ぎ延期が決まった。脚本家と俳優の組合が同時にストを決行するのは63年ぶりで、日本での映画公開やドラマ配信も含め影響が広がる。
映画俳優組合―米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)が同日、米ロサンゼルス市で記者会見を開き、14日からストライキに踏み切ると宣言した。フラン・ドレシャー会長は「経営側は我々の貢献を軽視している。動画配信やAIはビジネスモデルを変え、今行動を起こさないと業界が危うくなる」と話した。会見場は満席だった。
同組合にはベテラン俳優のメリル・ストリープさんなどのハリウッドスターから司会者まで幅広い16万人が加入する。今回のストライキは音楽やCMなどは除き、主に映画やドラマの契約で働く組合員が対象。別契約の昼ドラだけは製作が続行される見通しだ。
組合は米ネットフリックスや米ウォルト・ディズニー、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントなど大手企業が加盟する全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)と6月から交渉し、7月12日には米連邦調停和解局(FMCS)も仲裁に入ったが、合意に至らなかった。
動画配信の報酬とAI規制めぐり対立
脚本家と俳優の同時ストは1960年が最後だった。当時は映画がテレビで再放送される際の二次利用料などを巡り、映画俳優だった故ロナルド・レーガン元米大統領が交渉を主導した。
それから63年。今回組合が訴えているのは、動画配信の報酬改善とAIが職務を代替しないことなどだ。テレビ番組では再放送や海外放送のたびに二次利用料が受け取れていたが、配信番組では数年にわたる権利を企業が独占することが多い。脚本家や俳優は、視聴回数などに応じた報酬還元の仕組みなどを求めている。
文章や画像を自動でつくる生成AIの台頭で、人工音声が声優の仕事を奪うといった危機感もある。許可なく肖像をAIの学習に使われることにも懸念を抱き、経営側にAI規制などを訴えた。
AMPTPは日本経済新聞の取材に「我々は大幅な賃上げやデジタル肖像権の保護などAIについても画期的な提案をした。交渉離脱は誠に遺憾だ。業界の何千もの人に経済的苦痛を強いることになる」とコメントした。組合は「1日分のギャラで俳優の肖像権を会社が所有して永遠に使用できる案は、画期的ではない」と反発している。
既に脚本家のストライキでハリウッドのスタジオは約8割が閉鎖されており、今回演者が加わることで、製作中断は年末まで続くという見立てもある。ハリウッドがあるロサンゼルスだけでなく、世界の各撮影地の経済にも影響を与えそうだ。同組合に所属していれば、日本人俳優もスト中は活動できない。
さらに、完成済みの映画やドラマの宣伝もストップする。あるスタジオ幹部は「新型コロナウイルスが収束し、やっと興業が期待できる夏が来たのに」と肩を落とす。12日には米テレビ界の優秀作品に贈られるエミー賞のノミネートが発表されたが、9月の授賞式には参加できない異例の事態となりそうだ。
13日朝、テクノロジー業界の大物が集う「サンバレー会議」に姿を見せたディズニーのボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)は「俳優陣の期待は現実的ではないし、(ストライキは)業界への追い打ちになる」と非難した。労使の溝は深いが、このまま収束できなければ、映画産業の国としての地位が揺らぎかねない。企業の業績悪化も避けられず、双方が深い傷を負うことになる。
【エーザイ認知症薬、自宅で注射可能に 米国で23年度申請】
14日の日経速報メールは次のように報じた。
エーザイは米国で正式承認されたアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の点滴薬に加えて、自宅で患者が注射できる薬剤を新たに開発する。まず2023年度中に米国で承認申請を目指す。実用化すれば、医療機関を訪れず、投与にかかる時間も1分以下に抑えられ、患者や介助者の負担軽減につながる。
新たに開発する薬剤はペン型の注入器で皮下組織に注射する。注射する回数や用量は検討中だ。患者や家族がおなかや太ももなどの脂肪のある場所に注射することを想定している。注入器はテルモと共同開発する。
6日に米食品医薬品局(FDA)で正式承認されたレカネマブは、医療機関で2週間に1度、1時間程度かけて点滴で投与する仕組みだ。エーザイは30年に世界で250万人が投与対象になるとみている。糖尿病のインスリンのように自宅で注射できるようになれば、患者へのメリットは大きい。23年度中にFDAに承認申請する計画だ。
点滴薬は日本では9月末にも承認の可否が判断される見通し。欧州や中国などでも承認される公算が大きい。エーザイは皮下注射の薬剤についても新薬承認が得られたところから各国・地域で順次、申請していく考えだ。承認にあたっては皮下注射の薬剤についても有効性と安全性を改めて評価する必要がある。
日本では「皮下注射などの医療行為」は医師法に基づき、医師が行うのが原則だが、一定の条件を満たせば、患者の自己注射が可能になっている。インスリンやホルモン製剤、関節リウマチ治療薬などの自己注射(皮下注射)が許可されている。
レカネマブの副作用では脳の腫れや出血が報告されている。エーザイによると、皮下注射は点滴より副作用を抑えられる可能性があるという。点滴が薬剤を静脈に直接届けるのに対して、皮下注射は緩やかに薬剤が血液に吸収され、最大血中濃度が抑えられるためだ。一方、投与回数が想定より増えてしまう恐れがあるという。
【国会議員は3割減らせる 大阪知事が唱える国政改革 吉村洋文・日本維新の会共同代表】
15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・政治家が身分を守っていては痛みを伴う改革はできない
・自分は首相を目指さないし、なんでなりたいのかと思う
・現時点で公明に求めるものはない。政策や理念が異なる
関西を地盤とする日本維新の会が勢力を全国に広げている。4月の統一地方選で躍進し、次期衆院選は野党第1党を目標に全ての小選挙区に候補者を擁立すると宣言している。政権与党などへの不満の受け皿となり得る。維新の戦略と展望を吉村洋文共同代表(大阪府知事)に聞いた。
大阪府議会は過去10年間で109の定数を79まで削減した。大阪市議会も2027年に予定する市議選から定数を現行の81から70へと減らす。賛否は分かれるものの「身を切る改革」を掲げる維新が推進した。
「維新は大阪府議会の定数を3割近く削減した。人口がどんどん減って改革すべき時に政治家が自分たちの身分を守っていては、痛みを伴う改革などできない。改革への本気度を示すリトマス試験紙になる」
「『大阪の街は変わった』という実感のもとで、維新は自民党よりは信頼できると一定の評価を得たと思う。自民に任せていたらまずいよな、ということを多くの国民が意識し始めているのではないか」
――議員を減らして何か変わるのか。
「新興勢力が入ってくるのを嫌がり、自分の議席を守るのに必死な政治家の集団では生産性は向上しない。政治家自身も新陳代謝していかなくてはならない。国会も議員の定数や報酬の削減から始めるべきだ。維新が自民に取って代われば直ちに定数の3割削減を実行する」
自民党は「昭和型の政治」
――過去の自民政権も「改革」を掲げたが。
「スピードが遅すぎる。中国や欧米などの成長する国々と比べて日本ほど改革が遅い国はない。日本は30年間、経済成長せず賃金が上がっていない。社会に閉塞感がある」
――閉塞感を生み出した要因は何か。
「金融政策と財政政策、成長戦略という安倍晋三元首相の『3本の矢』のうち、ほとんど進まなかったのが成長戦略だ。規制改革の会議で自治体が提案しても自民の族議員がいて、省庁が自分たちの権益を一生懸命守ろうとする」
「改革は既得権との戦いだ。自民は医師会や各種の業界団体と完全にべったりだ。世襲政治もそうだ。団体の利益を保護し、様々なモノを一律に大量生産する『昭和型』の政治では成長できない。成長に向けた解を自民は持っていない」
――岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を打ち出した。
「官僚が描いた『絵』の域を出ていない。少子化対策は全く『異次元』とは言えない。児童手当の拡充で少子化は解消できない。この国を導こうとする強い意思や情熱をあまり感じない」
――国を改革するなら首相を目指せばいい。
「いや、目指しません。なんでなりたいのかな、と逆に思う。知事や市長は選挙で直接選ばれるから、腹をくくれば公約を実行できる。首相は国会議員に選ばれるから、派閥などに配慮しないといけない。僕自身は向いているとは思わない。性格上、まとめられない」
「首相が国会議員の顔色をうかがう仕組みで、リーダーシップを発揮できるのだろうか。スピードと決定力が圧倒的に欠ける。国民が直接選ぶ首相公選制になれば、ちょっと気が変わるかもしれない」
――維新なら何をどう改革できるのか。
「自民はすぐ『増税』や『国債発行』と言うが、その前に歳出削減につながる様々な施策を打ち出すべきだろう。新しい産業や経済が生まれるよう既得権に切り込む必要がある」
「例えばマイナンバーカードと保険証機能を一体化したマイナ保険証を使った改革だ。匿名の医療情報を国が集めてビッグデータとして解析すれば、病気になりやすい人の特徴を割り出せるかもしれない。医療費は40兆円で1割減らすだけで4兆円になる」
公明党との選挙協力考えず
維新は公明党と「大阪都構想」で協力し、公明現職のいる衆院小選挙区では候補者を擁立してこなかった。次期衆院選では方針を変え、関西や東京などで対抗馬を立てる。
「党是でもある大阪都構想を進めるためには公明との協力が必要だった。原則として候補者を立てて有権者に選択肢は示すべきだと思う」
「現時点で公明に求めるものはない。個々の政策は是々非々だが選挙協力をお願いするほどの事案は大阪都構想を除けばない。維新とは政策の方向性や理念が大きく異なる」
――政治は数を増やすことも重要だ。議席を増やすため東京で公明と協力しようという議論はなかったのか。
「それは最終的に数が増えることにはつながらない。維新の足腰が弱まる。公明の票は魅力的だが一度力を借りてしまうとずっと借り続けなければいけない議員を生んでしまう。そういう議員は誕生させない方がいい。自分の力で上がってこい、と」
大阪万博の準備に遅れ
維新が実現へ奔走した25年の国際博覧会(大阪・関西万博)まで2年を切った。カジノを含む統合型リゾート(IR)と合わせ地域発展にかける大阪の期待は大きい。
――巨額の公費を使って万博のような大型イベントを開く意義があるのか。
「万博では水素をはじめとする新エネルギーや再生医療など世界の英知が大阪に結集する。6カ月間のイベントで終わらせず、レガシー(遺産)を万博後に残すことが重要だ。投資の価値は十分にある」
――民間企業などが出展する国内パビリオンのうち、建設に必要な申請を済ませたのは現時点で3割程度にとどまる。海外館はさらに遅れが目立ち、申請はまだ1件も大阪市に出ていない。完成が開幕に間に合わないのではとの懸念がある。
「スケジュールがタイトなのは事実だ。ただ、大阪・関西万博をすばらしいものとする上で、個性的なパビリオンの存在は非常に重要だ」
「政府や運営主体、大阪府・市が協力し、参加国・地域への助言や働きかけを強めていく。建設申請が出た場合に速やかに審査する体制を整え、開幕までに必ず間に合うようにしたい」
大阪・関西万博は2025年4月13日から人工島の夢洲(ゆめしま)で半年間開かれる
――大阪IRには何を期待するか。
「初期投資が約1兆円、年間の経済波及効果も約1兆円だ。カジノだけでなく国際的なビジネス会議や展示会も開かれるようになる。米国のラスベガスを見てもらえれば分かるだろう」
――5月29日に首相官邸で岸田首相と面会した。万博やIRのほかに主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の話もしたと聞く。
「僕はバリバリの大阪人だが、母親が広島で生まれ育った。司法修習の実務研修先も広島だ。サミットは核保有国の首脳が広島平和記念資料館に集まっただけでも成果だ。そういう話を岸田さんにした」
「岸田さんは僕が広島に由来があると全く知らず『色々なところでつながるものですね』と意気投合した」
――大阪都構想の賛否を問う住民投票は2度否決された。
「看板は下ろしていない。大阪府と大阪市がばらばらでは強い大阪はつくれない。行政の司令塔を一本化して迅速に意思決定するには都制が一番いい」
――3度目を目指す考えはないのか。
「政治の世界はどうなるか分からない」
よしむら・ひろふみ 1975年大阪府河内長野市生まれ。九大法を卒業後、弁護士登録。2011年の大阪市議選で初当選。衆院議員、大阪市長を経て19年から大阪府知事に。ロックバンド「エレファントカシマシ」の「今宵の月のように」が好きで、ランニング中によく聞くという。
全国政党へ地方政策語れ(インタビュアーから)
通常国会の最終盤、自民党と立憲民主党はともに「維新の候補者が全国で浸透する前に」と衆院解散論に浮足立った。東京や北海道の議会でも議席を得た維新の勢いに脅威を覚えたからだ。
ここ十数年の大阪での維新の得票数からは、もはや無党派層の受け皿とは言えない「組織票」が見て取れる。700人を超えた全国の地方議員に、吉村氏は地域の街頭演説や戸別訪問の徹底を指示しているという。
維新は地方で何を訴えるのか。規制緩和などの公約は具体性に欠く。吉村氏は「都市部に親和性の高い政策で改革と成長戦略を実行し、単独で生き残れない地方に分配していく」と答えた。
大阪都構想が実現していれば周辺自治体の住民の生活はどう変わっただろうか。地方政策は全国政党を目指す吉村氏に託された課題だ。(大場俊介、上林由宇太)
【東芝、洋上風力で国内100社と供給網 産業基盤を復活】
同じ15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
東芝は米ゼネラル・エレクトリック(GE)と共同で、洋上風力向け基幹装置の国内サプライチェーン(供給網)を構築する。秋田など洋上風力の促進地域を中心に中小企業約100社を募り、部品の開発から製造を一括で支援する。国内勢の撤退で失われた風力関連の産業基盤を復活させ、普及が進む再生可能エネルギーの需要を取り込む。
東芝は2026年の国内生産を目指し、「ナセル」と呼ばれる風力発電の駆動装置の供給網の整備を目指す。ナセルは風を受けて羽根が回転する力を増幅させて発電する重要な役割を担う。大きさは3階建てのビルに相当し、増速機やブレーキ、発電機などを搭載しており、必要な部品点数は数千規模にのぼる。
国が洋上風力の促進地域に指定する秋田県や新潟県などで説明会を開き、ナセルに必要な部品を供給できる企業を選定し、25年度から調達を始める。連携する中小企業はおよそ100社を見込んでおり、受注が軌道に乗ればさらに拡大する。部品の国産化を進めて、40年をメドに部材や部品などの国内調達率を金額ベースで6割とする。
東芝は取引先となる部品メーカーの試作業務や、共通の規格を満たしているかチェックするなど品質維持などで支援する。洋上風力の近くに部品倉庫を設けて予備品の管理体制を整え、保守点検に携わる人材を取引先企業と共に育成する。風車は1基当たりの稼働年数が20年と長く、部品の摩耗や故障時など保守・修繕の対応力を高める。
東芝はGEと発電システムで長い協力関係にあり、11年にはガスタービンを活用した発電システムの販売で協業した。21年にGEと提携し、洋上風力製造に参入した。
ナセルの組み立ては京浜事業所(横浜市)で予定し、年間組み立て能力は80台程度。三菱商事などの企業連合が28年にも秋田県で稼働する洋上風力発電などに納入する。三菱商事はGEに大型風車を一括発注している。東芝はGEとの協業を生かして販売先を広げる。
洋上風力では国内市場が育たず、三菱重工業や日立製作所が風車製造から撤退してきた。日本政府は40年までに洋上風力発電を3000万キロワット〜4500万キロワットの導入を目指す。製造や建設などに関連する投資に占める国内事業者の割合を6割にする目標も掲げる。
国際エネルギー機関(IEA)によると、風力発電の発電容量は2040年に5億6200万キロワットと、18年の24倍に拡大する。風力発電は欧州を中心に広がり、中国や台湾、韓国などアジアでの市場拡大も見込まれる。
欧州や中国では多数の洋上風力メーカーがひしめく。欧州ではデンマークのベスタス、スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーが2強。中国では上海電気集団、明陽智慧能源集団(明陽智能)などがしのぎを削っている。
各社は基幹装置も内製化しており、コスト競争力は海外勢が優位とみられる。だが、安全保障の観点では、国内で保守点検も含めて安定した供給網を整えることで、部品納入事業者の選定で優位に立てる可能性がある。
洋上風力を巡る国内勢の動きでは、JFEホールディングス傘下のJFEエンジニアリングが1本の大型の杭を地盤に打ち込み風車を支える「モノパイル」の工場建設に着手。24年4月からの生産開始に向け準備を進める。東洋建設と商船三井は、洋上風力発電関連のエンジニアリングや施工を手がける共同出資会社を6月末に設立した。
【夏のボーナス過去最高89.4万円 鉄道や百貨店がけん引 2年連続プラスも伸び率鈍化 本社調査】
17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日本経済新聞社がまとめた2023年夏のボーナス調査最終集計(6月30日時点)は、全産業の平均支給額が前年比2.60%増の89万4285円だった。2年連続で過去最高を更新したが、伸び率は鈍化した。物価高が長引いて実質賃金のマイナスは続く見込みで、消費回復には不透明感もある。
非製造業、コロナ禍から回復鮮明
上場企業を中心に比較可能な406社を対象に集計した。9.96%増と過去最高の増加率だった非製造業が全体をけん引した。夏季賞与は、業績連動方式をとっている企業が4割を占める。非製造業は新型コロナウイルス禍からの業績回復が鮮明だ。上場している非製造業の23年3月期の純利益は前の期比11%増だった。
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全体の伸び率は前年の11.29%から大幅に縮んだ。組合員数で全体の7割超を占める製造業が0.82%増にとどまったことが響いた。製造業の3割が、今後のボーナスに原材料価格の上昇が影響すると答えており、先行きに影を落としている。
鉄道・バスの伸び率最大
非製造業は11業種中9業種でプラスだった。鉄道・バスの伸び率が最も大きく26.81%増だった。JR東日本が18.04%増の89万8700円。前年の15.06%に続き、2年連続で2ケタ増となった。コロナ対策の行動制限の解除で純利益は3期ぶりに最終黒字を確保しており、「従業員の尽力や物価上昇を勘案した」(担当者)という。インバウンド(訪日外国人)需要の拡大が見込める空運も好調。全日本空輸が増加率2位で100%、日本航空も36.23%増で9位だった。
情報・ソフト(12.24%増)が続き、大塚商会が14.40%増の154万4876円だった。業績に加え「22年夏にベアを実施した」ことも底上げにつながった。不動産・住宅は8.93%増。前年の12.91%増から鈍化したものの夏・冬を通じて大幅増が続いている。積水ハウスは米国での住宅受注などで業績が好調なことを反映し、8.79%増の178万2000円だった。
訪日客に期待、百貨店好調
訪日客拡大への期待感や新型コロナの「5類」移行による経済活動正常化への期待感から百貨店・スーパーも6.30%増だった。高島屋は前年比9%増の77万6976円。訪日客の回復で業績が好調だったことに加え、物価高に対する従業員の生活不安払拭、従業員のエンゲージメント(働きがい)向上の狙いがある。大丸松坂屋百貨店も21.59%増と大きく伸ばした。
交渉時期が遅かった企業は支給額が伸び悩んだ傾向もみられた。23年の春季労使交渉までに夏ボーナスの支給額が決まった企業群で伸び率が3.58%増だったのに対し、直前に決定した企業群では同0.2%にとどまった。春季労使交渉時は物価上昇率が足元より高く、生活防衛のための賃上げ機運が高まっていた。
物価高で実質賃金はマイナス
数%の上昇では物価高をカバーしきれない。厚生労働省が公表した5月の実質賃金は前年同月比で1.2%減で14カ月連続のマイナスだった。23年の春季労使交渉は連合の最終集計で賃上げ率3.58%と30年ぶりの伸び率を実現したが、それでも実質賃金はマイナスのままだ。
みずほリサーチ&テクノロジーズは実質賃金は24年度までマイナスが続くとみる。酒井才介主席エコノミストは「夏ボーナスの伸び率2.60%を受けても実質賃金のマイナスは続く。旅行など一部サービス分野は回復が期待できるものの全体としては夏のボーナス商戦の大幅な回復は期待しにくい」と話している。
【ウクライナ穀物合意、ロシアが停止表明 小麦価格が上昇】
同じ17日の日経速報メール【イスタンブール=木寺もも子】によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は17日、同日が期限だったウクライナなどとの黒海穀物合意について「停止する」と述べ、延長に応じない考えを示した。合意を仲介したトルコ、国連にも18日からの停止を通告した。
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2022年7月に成立した穀物合意は、ロシアが封鎖した黒海で穀物船は例外的にウクライナの港を出入りできるようにする仕組み。17日のシカゴ市場の小麦先物価格は一時、4%を超えて上昇した。
ペスコフ氏はロシアが求める「条件」が満たされればただちに再開するとも付け加えた。条件の詳細は明らかにしなかったが、欧米による金融制裁の緩和を求めているとみられる。ロシアは自国の銀行が国際決済網から締め出されていることや保険の制限が自国産の食料・肥料輸出を妨げていると主張している。
国連やトルコはロシアの説得を続ける。ロシアは22年10月にも黒海艦隊への攻撃を理由に一時、合意を一方的に離脱した。復帰後も合意の有効期限を4カ月から2カ月に短縮するなどして揺さぶりをかけてきた。
トルコのエルドアン大統領は17日の記者会見で「我が友のプーチン大統領も穀物合意の継続を望んでいると信じる」と述べ、近くプーチン氏と電話で協議する考えを示した。
ロシア大統領府は関連を否定したが、17日未明に起きたクリミア橋の爆発がロシアの態度硬化に影響している可能性がある。ロシアのセルゲイ・ミロノフ議員は爆発がウクライナのしわざだと主張し「穀物合意(の更新)はあり得ない」と訴えた。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)などによると、欧州連合(EU)はロシアの農業銀行の子会社を国際決済網に接続させる妥協案を検討している。ただ、ロシアはこの案にも肯定的な反応を示していなかった。
ロシアによる全面侵攻前、ウクライナは小麦やトウモロコシの輸出で世界シェアの約1割を占めていた。国連によると22年8月以降、合意を通じて輸出された穀物は計約3300万トンに上る。最大の輸出先は中国で、スペイン、トルコが次ぐ。約2割は中・低所得国に輸出されている。
南アフリカのラマポーザ大統領は15日、プーチン氏との電話で穀物合意の延長について協議した。穀物価格の上昇で大きな打撃を受けるアフリカの立場を説明したとみられる。ロシアによる揺さぶりを受け、ウクライナはドナウ川などの輸送経路を拡大してきたが、黒海を完全に代替できるかは不透明だ。
【TPP、英加盟を承認 発効後初拡大 12カ国・14兆ドル経済圏に】
同じ17日の日経ニュースメールは次のように報じた。
日本やオーストラリアなど環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟11カ国は16日、ニュージーランド・オークランドで開いた閣僚会合で英国の加入を正式承認した。2018年12月の協定発効後で初の新規参加国となる。TPPの経済圏はアジア太平洋から欧州に拡大する。
TPPは自由貿易協定(FTA)のひとつで相互に関税をなくし、投資のルールを透明にして経済活性化を狙う。参加各国の国内手続きを経て、1年以内の発効をめざす。中国や台湾なども加盟申請しており、拡大交渉開始の是非が焦点となる。
日本からはTPP担当の後藤茂之経済財政・再生相が出席。英国の加盟で日本からの輸出ではコメなどで恩恵を期待できる。既存の日英経済連携協定(EPA)で関税引き下げの対象外の精米は、英国に輸出する際にかかっている1キロあたり20円ほどの関税がTPPを通じて撤廃される。
英国の参加でTPP加盟国の国内総生産(GDP)の合計額は11.7兆ドル(約1600兆円)から14.8兆ドルに増える。世界全体のGDPに占める割合は12%から15%に拡大する。貿易総額は6.6兆ドルから7.8兆ドルに増加し、総人口は5億1000万人から5億8000万人ほどになる。
英国は20年1月に欧州連合(EU)を離脱して以降、TPPを通商政策の柱にすえる。自由貿易の枠組みを広げたい現加盟国と利害が一致した。
【太陽光発電2割に土砂災害リスク 審査・監視追いつかず】
18日の日経ニュースメールは次のように報じた。
全国の太陽光発電設備(500キロワット以上)の2割が土砂災害リスクの高いエリアに立地していることが分かった。適切な管理がされていない開発は土地の保水力を低下させ、崩壊を招く恐れが増す。持続可能性を高めるには事業者による点検・管理、行政の監視強化など、防災対策が欠かせない。
埼玉県西部に位置する横瀬町。土砂災害特別警戒区域を含む山林の急斜面を一般家庭用換算でおよそ200世帯分に相当する大きさのソーラーパネル(1088キロワット)が覆う。下方には民家が立ち並び、国道が走る。
同発電所を巡っては2015年の建設時、計画区域以外の無届け伐採などが発覚。事業者が計1145本の植林と排水設備の設置を明記した是正計画を町に提出していた。
設備の不備 ドローンで発見
日本経済新聞は2月、町への情報公開請求で得た是正計画図面を基に上空へドローンを飛ばし現況を調べた。パネル周囲には樹木がほとんど確認できず山肌が露出し、排水設備も十分に整備されていなかった。計画未履行の疑いを町に指摘。町は2回にわたり現場を検証し、植林、排水設備計画が履行されていないことを視認した。
3月、町は森林法に基づき、山肌が露出している部分に植林を実施するよう指導した。事業者は「メンテナンスが行き届いていなかったことを反省している」として植林を実施した。排水設備計画についても「詳細を確認中」(町振興課)としている。
農林水産省などによると、太陽光発電設備は開発時の樹木伐採による山の保水力低下やパネルからの雨滴や支柱を伝わって浸透する水により地表の浸食を招きやすい。地域防災が専門の山梨大学の鈴木猛康名誉教授は「明らかに土砂災害の脅威が増す」と指摘する。
リスクの高いエリアに設置された太陽光発電設備は全国に点在する。国立環境研究所が公開した500キロワット以上の9250件のデータ(20年時点)を分析したところ、18%にあたる1658カ所が国、都道府県の指定した土砂災害(特別)警戒区域、土砂災害危険箇所、急傾斜地崩壊危険区域、地すべり防止区域のいずれかに設置されていた。
内訳は土砂災害(特別)警戒区域881カ所、土砂災害危険箇所1278カ所、急傾斜地崩壊危険区域7カ所、地すべり防止区域27カ所。地域別では九州・沖縄が354カ所で最も多かった。
背景にあるのは急激な需要の高まりだ。11年の東日本大震災以後、政府は電源不足を補うため、固定価格買い取り制度 (FIT)で太陽光発電の普及を促した。国土の3分の2が森林の日本で開発の波は傾斜地へと及び、日本の導入量は22年時点で7883万キロワットと12年比約12倍となった。国土面積あたりでは17年以降、主要国最大となっている。
一方で気候変動の影響で災害そのもののリスクは上昇傾向にある。1時間降水量が100ミリメートル以上の豪雨は年4.4回(10年平均)と、80年代に比べ5割増。人命が失われる土砂災害が静岡県熱海市や長野県岡谷市など、各地で発生している。太陽光開発に絡み林地で発生した事故は、12年のFIT開始後10年で少なくとも230件。15年には群馬県で施工不良により、のり面が崩壊し、人家に土砂が流入した。
日本の電源構成は環境負荷の大きい化石燃料に依存する構造が続く。無秩序な開発で信頼が揺らげば、50年のカーボンニュートラル達成はおぼつかない。
開発実態、届け出とズレ
太陽光発電設備に起因する災害を防ぐには自治体による審査・監視が不可欠となるが、急増する開発に体制が追いついていない。林地の開発実態を把握しうる職員は過去10年で2%減少した。脆弱な体制は開発時の届け出面積と実態のズレを見逃す要因となり、規制の実効性を低下させている。
全国の民有林の6割超は水源や環境の保全、災害防止などを目的に森林法で計画的に整備している。こうした土地で5000平方メートル超(3月末までは1万平方メートル超)の太陽光開発を進めるには、事業者が排水設備など防災に関する整備計画を都道府県に提出し、開発許可を得る必要がある。逆に5000平方メートル以下(同1万平方メートル以下)であれば、立地市町村への簡易な届け出だけで済む。
日本経済新聞は3月、土砂災害危険箇所にある岡山県井原市の太陽光発電設備(1822キロワット)の開発面積が届け出の9700平方メートルを超え、当時の基準で許可取得が必要な面積以上の森林を伐採していた疑いがあることを突き止めた。開発図面と衛星画像の比較では、伐採面積が計画の1.5倍程度に広がっていた。
所管する井原市は日経の指摘で過剰伐採の事実を把握。5月末、森林法に基づき事業者側に植林を実施するよう指導したという。事業者は「現在、事実関係を確認中」としている。
計画を超える伐採が行われていたことを把握できなかったことについて市農林課は「担当は1人で農地に関する業務も抱える。現場に出向いて確認するには人手が足りない」と説明。開発許可を担当する県治山課は「面積が確定するまで市が対応する」と回答した。
土砂災害危険箇所にある群馬県藤岡市の太陽光発電設備(750キロワット)でも森林法違反があった。日経の指摘に県は1月、事業者に正確な測量を指示。結果、2万平方メートル以上の森林が無許可で開発されていた。事業者は改めて林地開発許可の手続きをとる見通し。事業者は「県の指導に従い設備を改善していきたい」と答えた。
市森林課は「開発面積の広さから県の管轄だと認識していた」と説明。県森林保全課は「山の奥地は確認が行き届いていなかった」と話した。
開発許可取得には防災設備整備費に加え、数カ月程度の審査期間も必要となり、事業者負担は大きい。名古屋大の丸山康司教授は「開発面積によって対応費用に大きな差が出る仕組みは事業者の『規制逃れ』を誘発しやすい。開発の急増ペースが自治体の対応能力を超えている」と指摘する。
林野庁への情報公開請求で取得した過去の森林法違反数をみると、過去9年(13~21年度)、岡山県、群馬県の報告はゼロ。林野庁治山課は「自治体によって監視が行き届いていない可能性はある」と話す。
災害リスクの高い地域へのパネル設置や頻発した無許可開発を受け、許認可プロセスを厳格化する動きも相次ぐ。国は森林法施行令を改正し、4月から太陽光向け林地開発で許可取得が必要な条件を厳しくした。埼玉県越生町や神戸市、熊本県南関町などの地方自治体も条例で土砂災害リスクの高いエリアでの開発を禁止した。宮城県では4日、森林開発を伴う再生可能エネルギー発電設備の所有者に税金を課す全国初の条例が成立。大規模な森林開発を抑制し適地に誘導するのが狙いで、24年4月までの施行を目指す。
人員不足 衛星画像で補う
横浜国立大学の板垣勝彦教授は「地方自治体は慢性的な財政、人手不足にある」と話した上で「監視体制に隙間を生まないため県と市など行政間の連係を強めることに加え、少ない人員でも監視を強化できる体制をつくるべきだ」と指摘する。
総務省によると、林地の監視などを担当する自治体職員数は22年時点で全国1万1048人。林業の衰退に伴い微減傾向が続く。こうした中で監視の実効性を高めるには、新たな技術の活用が欠かせない。
森林総合研究所は22年に衛星画像から検知した全国の森林伐採状況データ(1985〜2019年)の無償提供を始めた。林野庁も伐採状況の検知ツールを開発した。現時点で茨城県や大分県日田市、岩手県住田町などが活用するほか、導入を検討する自治体も広がりつつある。
京都大学の安田陽特任教授は「監視強化と並行する形で、事業者による主体的な安全管理の取り組みを後押しする制度も模索していく必要がある」と指摘。設備認証制度や格付け取得と連動し、安全性の高低で損害保険料を変動させるなどの仕組みづくりを提言している。(兼松雄一郎、高橋耕平、岡田江美、宗像藍子、ドローン撮影 浦田晃之介、グラフィックス 貝瀬周平)
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この間、下記の録画を視聴することができた。(1)BS6報道1930「ワグネル部隊受け入れ、狙いはアフリカ利権? ルカシェンコ氏 思惑は 移民に紛れ込まえいる? 東欧は部隊越境を警戒」7月4日。 (2)BS6報道1930「旧統一教会の内部音声を独自入手「岸田に教育を」5日。 (3)BS6報道1930「反転攻勢本格化から1か月「ウクライナ軍の戦果」を徹底検証」10日。 (4)映像の世紀 バタフライエフェクト「JFKをつくった3人のケネデイ」10日。 (5)BS6報道「ロシア兵18万人東部に…ウクライナ軍が警戒するカウンター反転攻勢」11日。 (6)BS6報道1930「NATOサミット詳報 NATO元幹部やポーランド軍現役トップが語る」12日。 (7)BS6報道1930「“殺傷兵器”輸出も? 目的はウクライナ支援、本音は防衛産業育成か。 (8)BS6報道1930「拘束理由が分からない中国スパイ法の闇、登山・釣りが危険行為?」14日。 (9)NHKスペシャル「混迷の世紀 第10回 台頭する“第三極”インドの衝撃を追う」16日。 (10)BS6報道1930「ロシアとウクライナの背後で動く“戦争管理者” 米CIAの思惑と誤算」17日。
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