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文庭協 第60回総会の講演「横浜開港と三溪園」

 2023年6月22日(木)、横浜ベイタワーホールにて、文庭協(文化財指定庭園保護協議会の略称)の第60回総会と講演会が開かれ、下記の3つの講演があった。
 〇「横浜開港と三溪園」
   元・横浜市立大学学長、前三溪園園長  加藤 祐三
 〇「三溪園における古建築の保存・継承について」
   横浜国立大学都市科学部建築学科 教授  大野 敏氏
 〇「文化財庭園をめぐる近年の動向」
   文化庁文化財第二課 文化財調査官 青木 達司氏
 本稿は、このうち加藤祐三「横浜開港と三溪園」をまとめたものである。
なお文庭協は、令和5年5月31日現在、141会員(正会員 114会員 賛助会員 27会員)を擁し、114正会員の地方別内訳は、東北地方13、関東地方15、中部地方16、近畿地方39、中国地方16、四国地方3、九州地方6、沖縄地方2である(『会報』第58号による)。
現在の文庭協会長は亀山章氏(東京農工大学 名誉教授)である。

 私の講演「横浜開港と三溪園」では、略年表「横浜開港と三溪園」のA3拡大版を配り、それについて若干の説明を加えた後、パワーポイント41コマの図像等を放映しつつ説明を加えた。
A3横組みで3段に分けた「略年表 横浜開港と三溪園」は、そのままでは本稿に収まらないため、3段をA,B,Cごとに分解して以下に収録する。

【文庭協のメンバー】
 文庭協のホームページに次のようにある。
 文化財指定庭園とは、一般に、文化財として価値のある庭園を、文化財保護の法律や条例にもとづいて指定し、保護しているものです。庭園は通常は文化財の分野のなかの名勝に指定され、その歴史的価値を合わせた史跡と重複して指定されることもあります。
 日本庭園の歴史的様式は、日本の風土において育まれた国土の多様な自然風景美を象徴的に意識し、限られた庭園のなかに導入することによって発展してきたものです。そのため、名勝の庭園は、風景の文化財ということができます。
 文化財指定庭園保護協議会は、国の文化財保護法で名勝に指定された庭園の所有者および管理者を会員とする団体であり、近年では国の名勝分野の登録記念物にされた庭園も会員になっています。これらの庭園は、わが国を代表する「名園」と呼ぶことができます。
 庭園を文化財として保護する制度は、大正8(1919)年に制定された史蹟名勝天然紀念物保存法がはじまりです。この法律では、史蹟と名勝と天然紀念物の3つを記念物として扱っています。その後、昭和25(1950)年に文化財保護行政を強化するために、史蹟名勝天然紀念物保存法は国宝保存法などと統合されて文化財保護法として生まれ変わります。
昭和26(1951)年の文化財保護委員会告示によれば、名勝は、「わが国のすぐれた国土美として欠くことのできないもので、(庭園や公園などの)人文的なものにおいては、芸術的あるいは学術的価値の高いもの」とされています。また、「名勝のうち価値が特に高いもの」を特別名勝とする、とされています。
 文化財保護法で指定された国指定の名勝は、令和4(2022)年3月1日現在で庭園は234件(内、特別名勝24件)、公園は10件です。
 さらに、平成8(1996)年に創設された登録文化財制度では、有形文化財のうちの建造物等に限られていましたが、平成16(2004)年の法改正で、建造物等以外の有形の文化財(有形文化財のうちの美術工芸品、有形民俗文化財、記念物)に拡大されました。名勝地関係の登録記念物は、令和4(2022)年3月1日現在で105件登録されています。そのうち、庭園77件、公園13件となっており、主に庭園が登録されています。

【平安時代~近代に創建の各種庭園を含む234件の文化財指定庭園】
 文庭協の会員には、創建の時代がさまざまな各種庭園がある。私が訪れたものだけでも、古いものでは西暦850年(嘉祥3年)、慈覚大師が東北巡遊のおり、一人の白髪の老人が現われ、この地に堂宇を建立して霊場にせよと告げたことに起源する岩手県平泉の毛越寺(モウツウジ)がある。
 鎌倉時代創建の庭園では、鎌倉幕府の将軍補佐・北条時頼が建長5年(1253)に開基、中国から渡来した僧・蘭溪道隆(らんけい どうりゅう)が開山。臨済宗建長派の大本山等がある。
 江戸時代創建のものには、江戸時代初期の小石川後楽園や、7年の歳月をかけて元禄15年(1702年)に完成した柳沢 吉保(やなぎさわ よしやす)の「回遊式築山泉水庭園」の六義園(りくぎえん)等がある。
 明治以降の近代に創建されたものに、東京都北区西ケ原にある、1919年(大正8年)に古河財閥の古河虎之助男爵の邸宅として現在の形(洋館、西洋庭園、日本庭園)に整えられた旧古河庭園などがある。
 これに対して三溪園は、20世紀初頭になっての創建である。創建の時代が大きく異なるメンバーを相手にした講演で、「横浜開港と三溪園」と題したこと自体に違和感を感じられるのではないかと気づいたが、あとの祭りである。

【講演で注意を払ったこと】
 20世紀になって創建された三溪園の成長とその特徴を語るには、幾つかの要素を予め明示する工夫が必要となろう。国際関係、人口増、都市の巨大化、科学技術の急展開等も欠かせない。そしてキーパーソンがつなぐ「赤い糸」を注意深く引き出すことも不可欠である。
そこでお配りしたA3の略年表「横浜開港と三溪園」に、まず何か所かに印を付していただきたいとお願いした。以下の赤字の箇所である。

A都市横浜の歩み【+世界史】
〇誕生以前 
 1842年8月28日(南京条約締結1日前)、長崎に入る2系統の【アヘン戦争1839~1842年】情報を分析、天保薪水令(薪水供与令)を公布。←1825年の文政令(異国船無二念打払令)撤回と<避戦>の徹底。
1854 年 日米和親条約(久良岐郡横浜村で調印)←12年目。
1858 年 日米修好通商条約(五港開港、アヘン禁輸…)←16年目。
○誕生
1859 年 7月 1 日(安政六年六月二日)横浜開港←17年目。
【1856~60年の第2次アヘン戦争。天津条約でアヘン合法化

○成長期(1859~1923 年)
1859 年 武蔵国久良岐郡横浜町(5ヵ町)
1872年 横浜=新橋間の鉄道開通
1879 年 横浜正金銀行設立
1889 年 横浜市(市政公布、市会議長に善三郎)、市域5.4㎢ 人口 12 万人 
  【1894~95年 日清戦争】
1901 年 本牧ほか6ヵ村を横浜市に編入(第1次市域拡張)⇒24 ㎢、30 万人
【1904~05年 日露戦争】
1909 年 横浜開港50周年祝賀会 市歌等を制定 

○受難期(1923~1965 年)
1923 年 9 月 関東大震災①~五重苦の始まり
1927年~ 中区等の区制化。市域 133 ㎢、53万人
1930年~ 昭和初期の経済恐慌②
1939 年 市域拡張で 400 ㎢、87 万人
1941 年~【第二次世界大戦】 空襲③、東京が国際貿易港に
1945 年~ 連合軍による占領と接収④
1959 年 横浜開港100周年、マリンタワー建設
1960年~ 郊外部のベッドタウン化による人口爆発⑤。
 1969 年 417 ㎢、人口 210 万

○再興期(1965~
1965 年 横浜六大事業(都心臨海部強化、港北ニュータウン、金沢地区埋め立て、地下鉄建設、高速道路網等)
1989 年 横浜博覧会とみなとみらい地区開発
市政公布 100 周年 開港 130 周年

○成熟期 人口377万、日本最大の政令市
 
          横浜開港と三溪園
   2023年6月22日  元・横浜市立大学学長、前三溪園園長 加藤祐三
B 青木富太郎(原三溪)と三溪園
1861 生糸売込商・原善三郎が横浜居留地に出店
1863年 岡倉天心生誕(石川屋=現開港記念会館)~1913年
1868年 青木富太郎(原三溪)生誕(10月9日)
1868年(明治初年)ころ善三郎が現在の三溪園一帯を購入

1885年 富太郎が上京、東京専門学校(現早稲田大学)入学。政治・経済を学び、跡見女学校で漢詩・漢文・歴史を教える。
1889年 天心らが『国華』誌を創刊。「夫れ美術は国の精華ナリ」
1892年 富太郎が善三郎の孫娘・屋寿(やす)と結婚、原家に入る
1897年 古社寺保存法(文化財保護)の制定


1899年 善三郎没、富太郎が承継、原商店を原合名に改組。また跡見女学校の筆頭理事を承継、生涯にわたり務める。
1902年 富太郎が本牧三之谷に転居(鶴翔閣)、この頃から三溪の号を使う。
富岡製糸場を経営(1902~1938 年)
1906年 三溪園外苑を公開、<遊覧ご随意>

1907年 東慶寺仏殿を移築
1909年 生糸輸出量で日本が世界一となる
1913年 三溪が下村観山(代表作=弱法師1915年)を本牧和田山に招く。
1914 年 三重塔の移築、外苑の完成
1917 年 臨春閣の移築。
1920 年 白雲邸(隠居所)へ移る
1922年 聴秋閣の移築により三溪園完成
1923 年4月 三溪園で大師会茶会開催、三溪園のお披露目
1923年 9 月 1 日、関東大震災、私財を投じて震災復興に尽力。
横浜市復興会会長。
1937 年 三溪の長男・善一郎が急逝(46 歳)
1939 年8月16日 三溪没

1953 年 財団法人三溪園保勝会設立
2007 年 国指定名勝となる
2012年 公益財団法人三溪園保勝会となる
その定款第3条 「この法人は、国民共有の文化遺産である重要文化財建造物等及び名勝庭園の保存・活用を通して、歴史及び文化の継承とその発展を図り、潤いある地域社会づくりに寄与するとともに、日本の文化を世界に発信することを目的とする。」(下線は加藤)

2019年末~ 新型コロナウィルス感染症による打撃

C 注と参考文献
1827、原善三郎(~1899 年)が武蔵国渡瀬(埼玉県児玉郡神川町)に誕生。1868 年10月8日、青木久衛と琴の長男・富太郎が誕生(岐阜市柳津町佐波)~1839年。
主な参考文献:拙著『幕末外交と開国』(2012年 講談社学術文庫)に主な史料35点、主な研究書84点を収めた。ほかに『三溪園 戦後あるばむ』2003、『三溪園 100周年』2006、『三溪園』リーフレット、横浜中区史、藤本実也『原三溪翁伝』、齋藤清『原三溪-偉大な茶人』、『横浜もののはじめ考』、『名勝三溪園保存整備事業報告書(中間) 平成 28 年度』。『跡見花蹊日記』。ホークス編・宮崎寿子監訳『ペリー提督日本遠征記 上下』(2014年 角川ソフィア文庫)、S・W・ウィリアムズ/洞富雄訳『ペリー日本遠征随行記』(2022年 講談社学術文庫)。

加藤祐三の主な著書:『幕末外交と開国』(2012年 講談社学術文庫)、『開国史話』(2008年 神奈川新聞社)、『世界繁盛の三都』(1993年 NHKブックス)、『地球文明の場へ』(『日本文明史』第7巻 角川書店 1992年)、加藤編 Yokohama Past and Present 1990 横浜市立大学、『黒船異変-ぺりーの挑戦』(1988年 岩波新書)、『黒船前後の世界』(1985年 岩波書店)、『東アジアの近代』(1985年 講談社)、『イギリスとアジア』(1980 年 岩波新書)

加藤祐三ブログ http://katoyuzo.blog.fc2.com/
ブログの下記数点(掲載日の頭の20は省略) 140414 花めぐり。141022 原三溪の故郷。 151123 白雲邸。160503 原時代の富岡製糸場。 160609 開港記念日と横浜市歌。 161003 三溪と横浜-その活動の舞台。 161121 原三溪と本牧のまちづくり。 171120 三溪園と本牧のまちづくり。 180312 女性駐日大使ご一行の三溪園案内。 180608 IUC 学生の卒業発表会。181101 三溪園の大師会茶会。 190315 臨春閣の屋根葺き替え工事。 190619 IUC 学生の卒業発表会。 190909 展示「もっと知ろう! 原三溪」。 191025 ラグビーW杯2019。191016 IUC 学生の三溪園印象記(2019年)。 210125 新年の書画。211119 「日仏文化交流-CHAUMET 特別公開によせて」。 220226 春が来る。 221004 アヘン戦争と日本の開国(上)。 221111 富岡製糸場創業150周年記念式典。 221225 アヘン戦争と日本の開国(中)。 221228 アヘン戦争と日本の開国(下)。 230131 Yokohama Past and Present。 230403 三溪園園長の退任にあたって。 230508 横浜開港と三溪園 その1。 同ブログの右欄リンク内にある、「横浜の夜明け」(『横濱』誌連載)。
国指定名勝(2007年)認定⇒「…(近世以前の象徴主義から脱却した)近代の自然主義に基づく風景式庭園で、学術上・芸術上・鑑賞上の価値はきわめて高い。内苑の移築建物の配置やそれらの建物とよく調和した周辺の修景もまた三溪の構想によるもので、数寄者としての三溪の美意識が窺える。…」(下線は加藤)

【略年表「横浜開港と三溪園」について】
 お手元にある略年表「横浜開港と三溪園」に、これから私が言う何か所かに下線を引くなり、〇印をつけてください、とお願いしたのは、上記の赤字で記した箇所である。

A 都市横浜の歩み【+世界史】
 1842年8月28日(南京条約締結1日前)、長崎に入る2系統の【アヘン戦争1839~1842年】情報を分析して天保薪水令(薪水供与令)を公布、それ以来、<避戦>の徹底を図った。
1854 年 日米和親条約(久良岐郡横浜村で調印)
1858 年 日米修好通商条約(五港開港、アヘン禁輸…)
同じころ中国では【1856~60年の第2次アヘン戦争の最中、天津条約(1858年)でアヘン合法化】を強いられた。
戦争を伴わず、賠償金支払いも免れ、順調に開国した日本は、1872年 横浜=新橋間の鉄道開通を見て、横浜開港30年後の1889 年 横浜市(市政公布、市会議長に善三郎)が就任する。善三郎とはB 欄の「1861 生糸売込商・原善三郎が横浜居留地に出店」とある、その人である。

B 青木富太郎(原三溪)と三溪園
 1868年(明治初年)ころ善三郎が現在の三溪園一帯を購入したとあるのは、明治政府の神仏分離令に伴う廃仏毀釈が激化したため、仏教寺院が維持できず、生糸売込商・原善三郎がこれを買い入れ、別荘の松風閣を建てた。
 1892年 富太郎が善三郎の孫娘・屋寿(やす)と結婚、原家に入るに至る秘話が残る。跡見女学校で教鞭を取っていた富太郎が新橋駅で草履の鼻緒が切れて困惑する屋寿を見かけ、腰につけた手ぬぐいで修理してやったことがきっかけと言われる。
 富太郎が名勝三溪園を創建しようと決意したのは、岡倉天心の文部官僚としての大仕事、1897年の古社寺保存法(文化財保護)の制定であると私は考えている。神仏分離令に伴う廃仏毀釈が全国的に激化し、救助を求める古社寺が跡を絶たなかった。富太郎の脳裏には故郷の岐阜県佐波や母の故郷の神戸町(ごうどちょう)の三重塔の姿などが渦巻いていたのではなかろうか。
 のちに岡倉天心の東京美術学校(現在の東京芸術大学美術学部)の教え子、下村観山、横山大観、今村紫紅、荒井寛方、清水御舟たちを支援し、かつ収蔵の名画を前に議論しつつ学ぶ、画家としての富太郎の嬉々とした姿につながる。
 富太郎が三溪園の地形の特徴を活かし古社寺の移築を考えたのは何時ごろからか? まだ分からないが、「1914 年 三重塔の移築、外苑の完成」ころには明らかに意識していたと思われる。国指定名勝(2007年)認定に記される「…(近世以前の象徴主義から脱却した)近代の自然主義に基づく風景式庭園で、学術上・芸術上・鑑賞上の価値はきわめて高い。内苑の移築建物の配置やそれらの建物とよく調和した周辺の修景もまた三溪の構想によるもので、数寄者としての三溪の美意識が窺える。…」(下線は加藤)である。

C 注と参考文献
今回の講演を準備する中で、3冊の拙著を手元において考えた。最新の作品が『幕末外交と開国』(201年 講談社学術文庫)であり、多くの史実と解釈を同書から取っている。
そして43年もの昔の作品『イギリスとアジア-近代史の原画』(1980 年 岩波新書)は「19世紀東アジアにおけるイギリスの存在」をテーマに得た文部省の「在外研究」の成果をまとめたもの。「イギリス植民地インドにおけるアヘン生産の140年」と「19世紀アジア三角貿易」(紅茶・アヘン・綿布からなる)を主なテーマとしている。
3冊目の拙著が『黒船異変-ペリーの挑戦』(岩波新書 1988年)である。当時はもちろん今なお誤解が多い論点、すなわち①無能無策の幕府に、②ペリー艦隊の強大な軍事的圧力が加わり、③極端な不平等条約となった、とする誤解を、歴史的事実に基づいて解きたいと考えた。
ペリー艦隊のミシシッピー号(1692トン)とサスケハナ号(2450トン)の2隻は、超大国イギリスさえ持っていなかった世界最大・最先端の蒸気軍艦である。ついでポーハタン号(2415トン)が合流し、合わせて蒸気軍艦は3隻になる。当時、アメリカ海軍が所有・就航していた超大型蒸気軍艦は、わずか5隻であり、そのうちの3隻を日本に投入したことになる。

【幕府の対外政策】
 スライド2の左欄に拙著『幕末外交と開国』(201年 講談社学術文庫)の35ページ所収の「略年表」を再録した。ペリー来航時の幕府の対外政策は、1842年に公布された穏健策の天保薪水令であった。1825年公布の強硬な「異国船無二念打払令」(年号をとって文政令と略称)を撤回し、1806年の文化令に復す形式で採用した穏健策である。
アヘン戦争(1839〜42年)の軍事衝突に幕府は強い衝撃を受けた。幕府の対外政策を簡単に概観すると、キリシタン禁制を内容とする「鎖国」が完成した1641年から、およそ150年を経た18世紀末以降、鎖国政策の持つ役割は大きく変わり、主に次の3点となっていた。
①キリシタン国以外の外国船(異国船)への対処
 ②日本人の海外渡航禁止
 ③大型外洋船の所有・建造の禁止
 18世紀末になると、異国船が日本近海に出没する事件が多発、旧来のままの鎖国政策維持は次第に困難になった。政策変更にはヒト・カネ・モノを包含する対外情報を把握しなければならない。鎖国の最中、幕府はどのように情報を入手し、それをいかなる論理で分析し、政策に生かしたのか。
 幕府は4回にわたり異国船対処の方針を打ち出し、沿岸部に領地を持つ諸大名に周知させた。これらの対外政策は、長崎在住のオランダ商館長から外国にも伝えられた。
①1791年の寛政令
 ②1806年の文化令
 ③1825年の文政令
 ④1842年の天保薪水令
 寛政令と文化令は、北方からのロシア船にたいするもので、食料と水・薪など必要な物資を与えて帰帆させる穏健策である。
 これにたいして第③の文政令は、外国船が沿岸に姿を現せば、ためらうことなく大砲を打てとする強硬策であり、「無二念打払令」といわれた。「なにがなんでも打ち払え」である。強行策を採用した遠因をたどると、1808年、イギリス軍艦フェートン号が長崎に来航し、奉行の制止を聞かずに上陸、牛などを食用に奪った事件に行き着く。
 フェートン号の来航はナポレオン戦争の余波であり、長崎のオランダ商館のオランダ国旗をひき下ろすのが目的で、日本攻撃のためではなかった。しかし、奉行の制止を聞かない行動は「国権侵害」ととらえられ、長崎奉行は責任をとって自害。この事件以降、官民を問わず反英論が根強くなる。
 ついで1837年、強硬策の文政令下にモリソン号事件が起きた。浦賀沖に来航した一隻の異国船に向け、浦賀砲台から大砲を打った。甲板に命中はしたが、破壊力は弱く、船はそのまま帰帆。鹿児島沖でもふたたび打ち払いに遭う。船籍は不明であった。
 翌年、長崎にオランダ風説書が入る。そこには「日本人漂流民の送還を目的に、マカオ出航時に意図して大砲をはずした非武装船にたいし、有無を言わさぬ発砲は、きわめて遺憾である」とあった。この風説書には幾つかの誤報も含まれており、最大の誤報はモリソン号をイギリス軍艦としている点である。モリソン号はイギリス軍艦ではなくアメリカ商船であったが、このオランダ風説書を修正する情報が後にも入らず、そのまま信じられた。
 日本国内では早くも1838年9月付けで、次のような上申書を出した人物がいた。「清国はなんと言っても大国であり、夷狄も容易に手を出さないでありましょう。朝鮮琉球等は貧弱の小国であるため目にかけず、したがってイギリスは第一に日本をねらい、次に清国を切り従える手順となりましょうから、実に憂うべく憎むべき事でございます」。
 イギリス側にこの意図はなかったが、日本国内に強い反英・脅威論が浸透した。これを追うように翌1839年、オランダ風説書と唐風説書が新しいニュースを伝えた。清朝とイギリスのアヘン密輸をめぐる対立、林則徐による外国人貿易商の手持ちアヘン没収、清英間の軍事衝突、交戦、イギリスの大勝という内容である。

【幕府の<避戦論>とペリーの思惑が一致】
 アメリカ側の記録『ペリー提督 日本遠征記』によれば、1853年7月、ペリー艦隊の旗艦サスケハナ号に番船で近づいた二人の役人が、「“I can speak Dutch !”(自分はオランダ語が話せる)」と英語で叫んだ。
この出会いは、きわめて象徴的である。最初の対話で発砲交戦を避けることができた。それには日米双方の事情があった。見えざる糸が「戦争」を回避させ、「交渉」へと導いた。やがて接触を重ねるうちに、双方ともに「交渉」の重要性を認識し、それに伴う行動を優先させていく。
鎖国の最中で海軍を持たない幕府は、彼我の戦力を冷静に分析し、戦争を回避する大方針、すなわち「避戦論」を基軸にすえた。そのうえで外交に最大の力点を置き、情報を収集し、分析し、それを政策に活かしてきた。
 第1、アヘン戦争(1839〜42年)での中国敗戦の情報を「自国の戒」ととらえ、強硬策の文政令を撤回して穏健な天保薪水令(1842年)に切り替えていた。
 第2、ペリー艦隊来航の予告情報を前年のうちに長崎出島のオランダ商館長から入手し、対応を準備してきた。
 第3、ペリー来航の地を長崎か浦賀のいずれかと想定して、長崎を中心としていたオランダ通詞の配置を変え、浦賀奉行所の態勢を強化した。

 一方、ペリー艦隊はどうか。
 第1に、巨大な蒸気軍艦の石炭や1000人近い乗組員の食料などに必要な、独自の補給線を持っておらず、アジアに強力な補給線を持つ「超大国」イギリスに頼らざるをえなかった。建国から77年目の「新興国」アメリカは、旧宗主国イギリスとの関係を強く意識していた。
日本と交戦状態になれば、イギリスの「中立宣言」は必至である。その結果、国際法の規定により、イギリス支配下のアジア諸港に寄港できなくなり、物資補給が断たれる。
第2に、ペリーは「発砲厳禁」の大統領命令を背負っていた。アメリカ憲法では宣戦布告権を持つのは大統領ではなく、議会である。議会の多数派は民主党であった。副大統領から選挙を経ずに昇任したホイッグ党(共和党の前身)のフィルモア大統領が、ペリーに与えた「発砲厳禁」命令(US Congress(S)751-No.34、国務長官より海軍長官あて)は、重大な政治的意味を含んでいた。
「大統領は宣戦布告の権限を有さない。使節は必然的に平和的な性格のものであることをペリー提督は留意し、貴下指揮下の艦船及び乗員を保護するための自衛及び提督自身もしくは乗員に加えられる暴力への報復以外は、軍事力に訴えてはならない」
 こうした政治的・軍事的な状況下では、ペリーにとっても交戦は何としても避けるべき大前提であった。戦争を伴わない「交渉条約」、これは基本的に重要な点であり、その諸要因を国内的・国際的な側面から再確認したい。それは同時多発テロ以降の世界やロシアのウクライナ侵略に伴う「戦争と外交」を展望することにもつながるはずである。

【反英論が強まり、親米論が支配的に】
 ついで1844年、オランダ国王から書簡が来た。天保薪水令への切り換えだけでは不十分で、いずれは開国・開港を求めて外国船が来る、対外政策を変更すべきという趣旨である。
 この頃からアメリカ船の来航が急増する。1845年、漂流日本人を救出・送還するために、浦賀にアメリカ捕鯨船マンハッタン号が来た。ついで1846年、浦賀沖に米国東インド艦隊(帆船2隻)のビッドル提督が来航、これがアメリカ最初の公的使節である。
 ついで1849年、アメリカ漂流民救出を目的としてグリン艦長(帆船プレブル号)が長崎に来航した。これらの問題はいずれも円満に解決し、親米論が支配的になった。
 幕府の対外観は、上記のような経験から導き出したものであり、また当時の国際政治をよく見すえた判断でもあった。超大国イギリスは世界の覇権を担い、戦争を仕かけ、各地に植民地を獲得、その一環として日本を視野に入れていた。
それにたいして、アメリカとロシアは「新興国」であり、まだ体系的な世界戦略を確立していなかった。幕府にとって組みしやすいのは、友好的な「新興国」である。さらに幕府は、国際法の論理を、ほぼ正確に理解していた。それは最初の条約が有利であれば後続条約にも有利性が継承され、不利であれば不利性が継承される、という「最恵国待遇」の論理である。
したがって、最初の条約国の選択は決定的に重要であった。
 なぜアメリカはこの時期に、世界最大の蒸気軍艦を建造したのか、それをなぜ日本へ投入したのか。

【明白な宿命】
 ここで大まかにアメリカ政治の大状況を見ておきたい。
 1840年代後半のアメリカ合衆国は、民主党のJ・K・ポーク大統領(1845〜49年)のもと拡張主義・膨張主義が旺盛な時代である。アメリカの国土拡大は神より与えられた「明白な宿命」であるとする主張が強く支持され、1845年にテキサス共和国を合衆国に併合し、また西北のオレゴンは1846年にイギリスと協定を結び、その南半分をアメリカ領とした。
 そして1846〜48年の米墨戦争である。このメキシコとの戦争は「アメリカ史上もっとも不正な戦争」との批判もあったが、1848年2月に大勝、太平洋に面する広大な西海岸カリフォルニア(日本の国土面積とほぼ同じ)をメキシコから割譲させ、その彼方にあるアジアを視野に入れた。のちに隣接するニューメキシコも1500万ドルで買収した。
 この米墨戦争勃発の前年の1845年から、ペリーはメキシコ湾艦隊司令長官コナーの下で副司令長官を務め、47年から司令長官となった。その副司令長官がオーリックである。1848年、ペリーは郵船長官に転任、その主な職務は蒸気船による郵船網をアメリカ沿岸に構築することであった。
 同じ年の1月には、サンフランシスコの東、サクラメント渓谷で金鉱が発見され、年末からゴールドラッシュが始まる。陸から海から人々が押しよせた。拡張主義の「明白な宿命」に好況の夢が加わり、奴隷制の存否をめぐる政治的対立は消え、人々は熱に浮かれ始めた。
 1849年、民主党のポーク大統領に代わり、ホイッグ党のZ・テイラー(Z. Taylor)が第12代大統領に就任した。ホイッグ党は共和党(1854年結成)の前身である。テイラーは生粋の軍人で、米墨戦争でもその戦端を開き、常勝将軍の名を高め、その人気をバックに大統領選に勝利した。テイラー大統領の副大統領がM・フィルモア(M. Fillmore)である。テイラーが翌1850年7月に病死すると、憲法の規定にもとづき、フィルモアが大統領(第13代)に昇任した。

【東インド艦隊とは】
 東インド艦隊は、1822年、太平洋艦隊を改称したものである。日本との条約交渉を指示したのは1851年5月、最初に任命された東インド艦隊司令長官はオーリックである。
 オーリックは、サスケハナ号に搭乗、赴任の途上でトラブルをおこし、51年11月に更迭、中国まで来たところで引き返し(帰国)、日本までは来ていない。代わって任命されたのがペリーである。メキシコ湾艦隊ではペリーの部下であったオーリックが先に任命された人事のねじれが、二人の間に複雑な葛藤を生みだした。
 内示を受けたペリーは、しばらく回答を留保、任命は翌1852年3月である。そしてペリーがミシシッピー号に搭乗して軍港ノーフォークを出港したのが、1852年11月であった。1851年5月のオーリック派遣決定から、後任者ペリーの出発まで、約1年半の歳月が流れていた。

【蒸気軍艦の建造年】
 ミシシッピー号は1839年の建造である。サスケハナ号は1850年に就航した最新鋭であり、翌年に合流したポーハタン号の建造年はさらに新しく、1852年に完成したばかりである。
 サスケハナ号、ポーハタン号、これら最新鋭艦は、日本派遣を決めた1851年5月の後に建造に着手したとは考えられない。海軍予算で新造艦を発注して、この規模の最新鋭艦の完成まで、少なくとも3年間は必要である。では新造艦の建設に着手した要因は何か。
 両艦ともに、建造を決定したのは1846年であった。その目的は、米墨戦争における戦力増強にあった。当時のアメリカ海軍は世界に6艦隊を有していたが、メキシコ湾艦隊が米墨戦争の主役となる。蒸気軍艦を投入しなければ、この戦争に勝利できない、そう海軍は主張して戦時体制下の予算を獲得、すぐに発注した。
 新造艦が完成する前の1848年に米墨戦争が終わった。だが、発注を取り消すわけにはいかない。建造は着々と進み、完成を見たのが1850年と1852年である。そのときメキシコ湾は、アメリカにとってすでに「平和の海」となっていた。戦時体制を維持する必要が薄れ、最新鋭の艦隊を擁する必要も失われた。過剰装備は不要との声に、海軍省として、どう対処するか。

【太平洋横断の郵船航路構想】
 完成したばかりの巨大な蒸気軍艦の配備先と、その理由が必要となった。ひとつが郵船航路である。アメリカ東海岸からメキシコ湾、そしてメキシコ半島を陸路つなぎ、西海岸の諸港を結ぶ郵便と人を運ぶ計画である。商品も運ぶことができる。大陸横断鉄道の整備と並行して、郵船網は緊急に樹立すべき通信・交通網であった。
 この国内用の郵船網の延長上に、太平洋横断の郵船航路構想が持ち上がっていた。すでにイギリスがP&O社を開設し、母国からスエズを陸路通過してインド、シンガポール、香港、上海、そしてシンガポールから南下するオーストラリア航路を持っていた。香港までの航路開通が1845年、上海支線の開設は1849年である。その延長上にイギリスは太平洋横断航路を構想していた。
 太平洋横断航路をイギリスに先取りされてはならない。この判断がアメリカ側にあった。そこで新しい蒸気軍艦の配備先として浮上したのが東インド艦隊である。「東インド」(East India)という呼び方は、イギリス海軍のそれを踏襲したものである。イギリスにとって東インドは「インド以東(East of India)」ともいわれ、地理的な意味を持つ伝統的な用語だが、アメリカにとっての東インドは、西部の先の、太平洋のさらに西の彼方である。東インドではいかにも分かりにくいが、アメリカ海軍でもこの名称が長く使われてきた。
 では、東インド艦隊に巨大艦隊を配備する理由はなにか。アメリカにとって「最遠の海域」に配備するには、まだ十分な補給線もなく、戦争目的を掲げるわけにはいかない。戦争を必要とする事態もなかった。そこでアメリカ人漂流民を保護するという「人道目的」が浮上した。

【捕鯨業の黄金時代】
 当時のアメリカ政府と議会の資料には、難破したアメリカ捕鯨船員の漂流とその救出問題が頻繁に出てくる。アメリカ捕鯨船がケープホーンを回って太平洋へ出漁したのは1791年、その後、1814~15年のウィーン会議から1860年頃までが太平洋におけるアメリカ捕鯨業の黄金時代で、1840年代後半が最盛期にあたる。
 1846年の統計によれば、アメリカの出漁捕鯨船数は延べで736隻、総トン数は23万トン、投下資本は7000万ドル、従業員数は7万人である。年間にマッコウクジラとセミクジラをあわせて1万4000頭を捕獲する乱獲時代を迎えた。日本近海で操業するアメリカ捕鯨船は約300隻にのぼり、難破する捕鯨船も増えた。
 捕鯨の主目的は、照明用のランプ油として使う鯨油の確保であった。欧米諸国で工場がフル操業するようになると需要が伸び、アメリカ国内はもとよりヨーロッパにも輸出された。鯨のヒゲや骨も装飾品などに加工された。ちなみにカリフォルニアで最初に油田が見つかったのが1847年、しばらくは灯油として鯨油と石油の併用時代がつづく。石油に取って代わられ、捕鯨業が衰退する直前、鯨油需要のピークがこの時期にあたる。

【漂流民の保護】
 アメリカ捕鯨船の難破・漂流ルートは、主漁場であった北太平洋に始まる。暴風に遭い、マストが折れると、海流に流されてしまう。日本側から東へと流れる北太平洋海流はアメリカ大陸近くで北転し、さらに西へ方向を変え、千島海流と合流する。その後は南下して北海道(蝦夷地と呼ばれた)に至る。
 アメリカ捕鯨船が北海道に漂着した主な事件は、1846年のローレンス号、1848年のラゴダ号とプリマス号などである。ちょうど米墨戦争の開戦と終戦の年にあたる。1848年6月、ラゴダ号には捕鯨船員15名が、プリマス号にはマクドナルドという青年が乗っていた。マクドナルドは日本人に初めて英語を教えた人物。彼はイギリス人を父にアメリカ先住民を母にもつハーフで、先住民と日本人が共通の祖先を持つと考え、母の故国を見たいと日本潜入を試みた。
 アメリカ人漂着民は、救出されると松前藩に移送され、その後、取調べのために長崎に移される。彼らは少年の頃に捕鯨船員となり、英語しか分からない。一方、北海道にも長崎にも英語が分かる日本人がいない。長崎奉行は、出島在住のオランダ商館長レフィソーンに立会い兼通訳を依頼した。「日本語⇄オランダ語⇄英語」の二重通訳である。オランダ商館員もさほど英語が堪能ではなかったようだが、簡単な意思疎通はできた。
 長崎奉行は一定の取調べの後に、帰帆するオランダ船で彼らを母国へ送還する方針である。鎖国政策下の日本には外洋船がなく、送還方法は他に考えられなかった。だが、取調べ終了前にオランダ船の帰帆時期が来た。季節風を利用しての航海であるため、オランダ船は急ぎ帰途についた。
 オランダ商館長は帰帆する船にいつも書簡を託す。ある種の業務報告である。アメリカ人漂流民についても言及した。このニュースはバタビア(現在のインドネシアのジャカルタ、オランダ植民地政庁の総督が駐在)のオランダ総督から香港駐在のオランダ領事へ、そして香港駐在のアメリカ弁務官へ、最後にアメリカ東インド艦隊へと次々に転送された。

【グリンが救出目的で長崎へ】
 知らせを受けたアメリカ東インド艦隊は、直ちに軍艦プレブル号の艦長グリンを日本に派遣した。ゲイジンガー司令長官がグリンに与えた指示は、「協調的かつ断固とした態度を取り、長崎で解決しなければ江戸に行って直接に交渉すること、わが国の利益と名誉を守ること、琉球・上海に寄る時間をふくめ、約3ヵ月で任務を完了すること」などである。
 さらに派遣の背景には国益がかかっているとして、ゲイジンガーは次のように言う。「われわれの価値ある捕鯨船団の保護、捕鯨業の奨励に、わが政府は深い関心を持っている。捕鯨業を助長・促進し、わが国の通商および利益にたいして、万全の保護を与えるよう努めること」。
 ここでも捕鯨業と捕鯨船団の保護を強調し、通商保護を海軍の使命として掲げている。照明用の鯨油は、勃興しつつあったアメリカ産業革命と米欧貿易の生命線でもあった。捕鯨船員の生命と捕鯨業の財産とはアメリカ国民の生命と財産であり、これが国外で危機に直面した場合、保護する任務が海軍に与えられていた。それを外交法権ないし外交的保護(diplomatic protection)と呼び、有事における海戦と並び、平時における海軍の最大任務にほかならなかった。
 これには財政的な裏づけもあった。アメリカ連邦政府の歳入のうち、平均して約8割が関税収入である。貿易の重要性が高く、それだけ貿易活動や貿易資源の創出業務には手厚い保護が必要であった。海外でのアメリカ人の活動を妨げる行為にたいしては、海軍が外交法権を発動する。その海軍には、それ相応の財政支出があるという仕組みである。
 北海道に漂着したアメリカ人捕鯨船員は、約1年間に1名が病死したが、他の15名は松前から長崎に移送され、屋敷牢でかなり自由な生活を送っていた。
 プレブル号の入港にたいして、長崎奉行は丁重に応対した。すでに天保薪水令の下にあり、1845年の捕鯨船マンハッタン号(日本人漂流民の送還)の浦賀来航、1846年のビッドルの浦賀来航の経験を持っていた。
アメリカ人漂流民を送還したいと長崎奉行がグリンに伝えたが、グリンは信用せず、「私自身が直接に調書を取る」と主張した。アメリカ海軍省が議会に提出した記録(尋問調書)には、漂流民の語る抑留生活が描かれている。「捕鯨船内より、長崎の半年間のほうが待遇ははるかに良かった。食べ物は十分にあり、衣類も冬物と夏物の両方を貰い、屋敷牢はかなり自由で、運動も十分にできた。船内よりはるかに快適である」。
 長崎奉行の言と漂流民の言が一致しており、グリンは挙げた拳の振り下ろす先がなかった。勢い込んで自国民の「救出」に来たものの、長崎奉行の下で漂流民は、いわば「保護」されていたのである。そのうえ、奉行はグリンに要請した。「われわれは送り帰す外洋船を持っていない。貴官みずからの船で送還されたい」。
 この事件は、グリン来航らわずか9日で解決した。グリンは、その経験をもとに、任務終了後に帰国した1851年、日本と条約を結ぶよう大統領に提案している。毎回の「救出」に経費をかけて危険を冒すより、条約締結により恒常的な関係を樹立するほうが得策だという趣旨である。

【ペリー派遣の目的】
 久里浜で幕府が受けとったフィルモア大統領の日本皇帝宛国書(1852年11月13日つけ)に書かれているペリー派遣の目的の主な内容は次の点である。
①日本諸島沿海において座礁・破損もしくは台風のためやむなく避泊する合衆国船舶乗員の生命・財産の保護に関し、日本国政府と永久的な取決めを行うこと。
②_合衆国船舶の薪水・食糧の補給、また海難時の航海継続に必要な修理のため、日本国内の1港または数港に入る許可を得ること。加えて日本国の一港、もしくは少なくとも日本近海に散在する無人島の1つに、貯炭所を設置する許可を得ること。
③合衆国船舶たその積荷を売却もしくは交換(バーター)する目的のために、日本国の1港もしくは数港に入る許可を得ること。
 いかにも穏やかな要求ではないか。このために、アメリカ海軍が所有・就航していた超大型蒸気軍艦5隻のうちの3隻を日本に投入したのか。もう少し背景を探る必要がある。

【外交法権】 
 アメリカ政府の意図・目的のうちで、実現可能性を考えたうえで、何がもっとも重要であったのか。ここでは次の3点を考えたい。
 第1に「外交法権」
 第2にアメリカ海軍の内部事情
 第3にペリーが国務省派遣ではなく、海軍省管轄下の東インド艦隊司令長官に任命され、日本と条約を締結せよとの指示下に派遣されたこと、言い換えればペリー派遣の形式について。
 第1の「外交法権」(diplomatic protection)は、当時のアメリカでは重要な理念であった。法律の違う外国でアメリカ人が逮捕・抑留されたとき、「自国民を保護すること」である。今の「人権外交」に当たるものと見てよい。とくに英領アメリカ(現在のカナダ)やメキシコなど中米諸国とは陸地や沿海でつながっており、事件が多発していた。
 自国民の保護の交渉と「救出」に当たるのが海軍である。アメリカはまだ外交網を世界に広く巡らせてはおらず、太平洋横断は技術的に困難で、そしてアジアは遠い彼方にあった。国務省アジア担当課はわずか5名の組織であり、在外公館の多くが商人領事(貿易商が領事を兼務)であった。このような当時の交通・通信手段や貧弱な外交網を考えれば、海軍以外に「外交法権」を担う組織は存在しない。
 他国との交渉にも海軍は不可欠であった。海軍が交渉そのものを担うか、海軍が外交官を任地に送り届けるかの相違はあっても、他国と往来する手段を持つのは海軍だけであった。

【海軍省の<省益>問題】
 ペリー、そして前任者オーリックの場合、アメリカは海軍提督に交渉権を与える方式を採用し、1844年の米清望厦条約のときのように外交官を派遣することはなかった。アメリカ東インド艦隊による「外交法権」発動、すなわちグリンの行動については、すでに述べたとおりである。そのほかにアメリカ海軍省の「省益」問題と、アメリカ国内の政治的関係があった。
 まずアメリカ海軍省の「省益」問題である。アメリカ海軍は世界に6つの艦隊を有しており、艦船をどう配備するかは、海軍費削減とからんで緊急問題であった。平時における海軍の主要任務は「外交法権」の発動であるが、有事(戦時)においては、言うまでもなく海戦である。
 前述のように、1848年に米墨戦争が終わると、メキシコ湾艦隊はもはや多数の艦船を擁する必要がなくなった。別の配備先がなければ、海軍費は大幅に削減される。1847年からメキシコ湾艦隊司令長官であったペリーは、翌年に郵船長官に転任、その任務は通商網の確立と郵船定期航路の開発であり、東海岸からメキシコ湾を通って西海岸まで、郵船航路が設置された。
 西海岸の彼方には日本や中国がある。その年、太平洋横断汽船航路の開設計画に関する意見書が議会に出された。中国とは1844年に条約を結んだが、日本とは国交がない。巨大な汽走軍艦の配置先は、これらの地域を含む東インド艦隊であるべしとし、その具体的な理由として、太平洋を結ぶ航路の確立、そのための石炭の確保、捕鯨船の保護、日本の開国等を列挙する。

【ブログのうち、ぜひお目通しいただきたいもの】
 270余本のブログ記事のうち、「141022 原三溪の故郷」は東京専門学校へ来るまでを知るために、ぜひご一読ねがいたい。「160609 開港記念日と横浜市歌」は1909年の開港50周年記念日の逸話、「181101 三溪園の大師会茶会」は1923年4月に行われた、園内に茶席14を展開する盛大な大師会茶会の模様を描き、9月の関東大震災で壊滅的打撃を受けた横浜につなげる。
 「230131 Yokohama Past and Present」は横浜市立大学で1990年に刊行した英文の横浜文化史で、302ページからなる大きな版、私が編集責任者をつとめた。

【1825年の文政令(異国船無二念打払令)を撤回、1842年、天保薪水供与令を公布】
天保薪水令から17年目に実現する1859 年 7月 1 日(安政六年六月二日)の横浜開港について述べるには、まずその発端である1842年8月28日の天保薪水令(薪水供与令)の公布から始めなければならない。
幕府は中国におけるアヘン戦争の展開を情報収集して分析、イギリス海軍の圧倒的な力を冷静に掌握、1825年の文政令(異国船無二念打払令)を撤回し<避戦>に徹っした。すなわち<戦争>の敗北による悲惨さと、<交渉>による意見交換の有効性、この両者の決定的な相違を認識し、それに沿った行動を取る。
1842年8月28日の天保薪水令(薪水供与令)の決定にいたる過程を私が初めて述べたのが『思想』誌(岩波書店)1984年5月号掲載の「我が歴史研究の歩み【37】「連載 黒船前後の世界」(七)「経験と風説-モリソン号事件とアヘン戦争情報」で、日本開国の導入として位置づけた。
幕府は長崎で収集したオランダ商船と中国商船が伝えるアヘン戦争情報(風説書)を読み解き、これにモリソン号打払い事件(1837年)という過去の<経験>を結びつけた。それにより強引な文政令(異国船無二念打払令)から穏健な天保薪水(供与)令に政策変更した。

【パワーポイントで41コマの図像を放映、日米和親条約(1854年)の意義を語る】
 ここから、パワーポイントで用意した34コマの図像を放映する。重点を日米和親条約(1854年)の意義に置いた。「最初が肝心」と言うとおり、日米間の最初の条約が日米和親条約(1854年)である。パワーポイントの縮小コピーをめいめいに配布してあったので、説明が楽である。なお本ブログには図像類の収納に上限があるため、ここでは文字資料のみを掲載する。
最初のスライド1が「はじめに 日本の都市3類型と都市年齢」
①天皇創建の都市(奈良1300年前、京都1200年前)、②武家創建の都市(鎌倉800年前、江戸400年前)、③条約起源の都市(開港5港)
  京都を80歳とすると、江戸東京は27歳、横浜は10歳
1 開港都市横浜の起源⇒2つの日米条約
2 居留地貿易と生糸輸出
3 三溪園の誕生
 
 ついでスライド2の「2つの日米条約」において下記の項目を述べる。
1 19世紀の世界
2 ペリー来航と日米和親条約(1854年)
  ①ペリー派遣の目的、②2回目の来航と横浜村応接 
   林大学頭vsペリー提督の論戦と日米和親条約(1854年)
3 通商条約から横浜開港(1859年)へ
  ①総領事ハリスと日米修好通商条約(1858年)
  ②開港場建設と居留地貿易
  ③幕末維新期の日本を支えた開港横浜

 スライド3が、上掲の略年表「横浜開港と三溪園」である。

 スライド4が、「19世紀アジア三角貿易」の概念図で、インド産アヘンの中国等への輸出増が目立つ。なおインド産アヘンの経年的変化については、拙著『イギリスとアジア-近代史の原画』(岩波新書 1980年)所収の「インド産アヘンの140年」に詳しい。

 スライド5は、いずれも植物起源の主要商品である。桑の葉のみを食べて成長する蚕(カイコ)の病気が発生、生糸輸出が激減したのに対して、日本では蚕に種々の品種改良を重ねた結果、生糸輸出が急増する。主な生糸の産地が群馬県等、関東に集中していた。

スライド6がアヘン精製工場、スライド7がアヘン運搬船、イギリスが先導したアジアへの進出過程を示している。

 スライド8で、ペリーが搭乗するミシシッピー号がアメリカ東部の軍港を出発、大西洋を横断し、江戸湾まで7ヵ月余を要した事実を描いた地図の説明。石炭や食料・水等はイギリスの蒸気郵船会社P&0社のデポに依存。嫌がらせを受けつつ、セイロンでは香港にて返却することを条件に石炭を補給することができた。

【浦賀沖の出会い】
 スライド9が天保薪水令を発布した老中・水野忠邦の肖像画。以下では拙著『開国史話』(2008年 神奈川新聞社)の滝とも子さんによる挿絵を使う。
 1853年7月8日(嘉永六年六月三日)、浦賀沖に巨大な船団が現れた。暑い真夏の昼下がり、黒煙をあげて進む蒸気船2隻に帆船2隻。ペリー(M. C. Perry)司令長官が率いるアメリカ東インド艦隊である〔以下すべて陽暦を使う〕。
 少ない石炭を節約するため、外洋では帆走につとめたペリー艦隊は、2日前に蒸気走に切り換え、伊豆沖で全艦に臨戦態勢を敷いた。大砲、小銃、ピストル、短剣など、あらゆる武器を動員した。艦隊の大砲は、10インチ砲が2門、8インチ砲が19門、32ポンド砲が42門。巨大な破壊力の合計は63門である。
 幕府側の砲台は、いずれも沈黙していた。穏健策の天保薪水令(1842年公布)を敷いていたからである。江戸湾沿いに備えた大砲のうち、ペリー艦隊規模のものはわずかに20門ほどである。命中率や破壊力、移動可能性などを総合すれば、日本側の軍備はペリー艦隊の10分の1にも満たなかったと推定される。
 アメリカ側の記録(帰国後に刊行されたF.L.ホークス編纂、宮崎寿子監訳『ペリー提督 日本遠征記』 角川ソフィア文庫 上下)には、遠くに富士山を望み、陸へ2マイルまで接近したとき、「その数10隻もの大きな舟が艦隊めがけて漕ぎ寄せてきた」とある。
 艦隊を取り巻く船をかきわけ、浦賀奉行所の役人2人が小さな番船で近づいた。巨大な4隻の艦隊の、どの船に呼びかけるべきか。幕府は「ウィンブルという旗を掲げた船が旗艦(司令長官が乗船している船)であることはよく知っていた」と記録している。
 アメリカ側の記録『ペリー提督 日本遠征記』によれば、旗艦サスケハナ号に近寄ってきた二人の役人が、「“I can speak Dutch !”(自分はオランダ語が話せる)」と英語で叫んだとある。
第一声の主はオランダ通詞(通訳)の堀達之助、もう一人は与力の中島三郎助であった。甲板に立つ水兵には英語しか通じないだろうと、敢えて英語を使った。あらぬ誤解や小競り合いを避けるためである。
 ペリー艦隊は、たった一人のオランダ語通訳ポートマンを応対に出した。ポートマンが「提督は高官だけの乗船を希望している」と伝えると、堀は中島を指し「この方が浦賀の副総督である」と答えた。
 こうして二人は旗艦サスケハナ号(蒸気軍艦 2450トン)の艦長室に招かれ、ペリーの副官コンティと話し合いに入った。
 ペリーは、この初めての接触で、高い地位の役人を引き出せたことに期待を膨らませた。当時の欧米諸国は、清朝中国から「対等な地位の役人」を引き出すことができず、その打破が最大の外交課題であった。したがって、最初の出会いで「副総督」という大物が出てきたことは、ペリーの予想をはるかに超える大成功であった。
 アメリカ側の記録はつづける。「提督は長官室にとじこもり、副官が応対するという形式を取った」が、これは「実際には提督との会談であった」。
 ペリー側通訳ポートマンを介して対話が進み、米大統領国書の受理を決める。

 スライド10が、1853年、ペリー軍楽隊の久里浜上陸の図。

 スライド11と12がポーハタン号の大きさを示す部分絵図。

 スライド13がペリーを派遣したフィルモア大統領、スライド14~17に老中首席・阿部正弘、ジョン万次郎などの肖像画、1854年のペリー艦隊の第2回来航の絵図等がつづく。

 スライド18がペリーと対話する第十一代林大学頭復斎(はやし だいがくのかみ ふくさい)の似顔絵。1607年、徳川家康は林羅山を登用し、幕藩体制のイデオロギー的支柱とした。羅山は仏教・キリスト教批判を行い、神道とはイデオロギー面で同盟関係を形成した。中国から導入した儒教が、この時点から神道との親近性という日本的な変容をとげた。
朱子学が「性理」を説き、「忠」より「孝」を重視するのにたいして、林は人間の感情を「心理」として強調し、親子間の「孝」より、組織への忠誠である「忠」を重視した。
 羅山についで代々家督を継承した林家の主な役割は、正統的イデオロギーの保持者から次第に脱皮し、朝鮮通信使の応対など対外関係の処理と、官吏養成が主務となった。1790年設置の「昌平坂学問所」(昌平黌)からである。その教育内容は実務的要素が強い。
 1853年のペリーの第1回来航時には第十代の林壮軒(健)であったが逝去、弟の林復斎(韑(あきら))が第十一代大学頭に就任し、ペリー応接にあたる。
 役職に応じて役高を決める足高制(1723年)によれば、町奉行は3000石であるが、林大学頭はその上の4000石である。

 スライド19とスライド20が、ペリー一行の横浜村上陸の絵(同行のハイネが描いた)がつづく。

 スライド21と22が横浜応接所の位置を示す。大さん橋の付け根にある開港広場、開港資料館、象の鼻公園、神奈川県庁舎のあたり一帯である。

 スライド23が日米全権らが対峙する様子。手前が林大学頭ら日本勢で、大刀は背後の部下が捧げ持っている。対面にペリーほかアメリカ勢がならぶ。

 スライド24はアメリカ側通訳ポートマンが描いた絵で、中央にいるのが幕府のオランダ通事・森山栄之助、通訳のみならず、日米双方の司会進行をつとめている様子。森山とポートマンの間にはオランダ語の能力にとどまらず条約や国際情勢に関する知識量に圧倒的な差があり、ポートマンは進んで身を引く形をとった。
 なおペリーは出国前から日本語通訳案を持ち、香港に着くやカントン駐在のS.W.ウィリアムズを訪問して要請するが断られ、日本語通訳案は挫折する。やむなく雇用したのがオランダ系アメリカ人のポートマンであった。

 スライド25にペリーの発言に対する林大学の反論を入れた。重要なので再掲する。
条約内容をめぐる論戦(1854年ず3月8日、横浜村の応接所にて)【概要】
○ペリー「我が国は以前から人命尊重を第一として政策を進めてきた。自国民はもとより国交のない国の漂流民でも救助し手厚く扱ってきた。しかしながら貴国は人命を尊重せず、日本近海の難破船も救助せず、海岸近くに寄ると発砲し、また日本へ漂着した外国人を罪人同様に扱い、投獄する。日本国人民を我が国人民が救助して送還しようにも受取らない。自国人民をも見捨てるようにみえる。いかにも道義に反する行為である。
我が国のカリフォルニアは太平洋をはさんで日本国と相対している。これから往来する船はいっそう増えるはずであり、貴国の国政が今のままでは困る。多くの人命にかかわることであり、放置できない。国政を改めないならば国力を尽くして戦争に及び、雌雄を決する準備がある。我が国は隣国のメキシコと戦争をし、国都まで攻め取った。事と次第によっては貴国も同じようなことになりかねない。」
○林大学頭「戦争もあり得るかもしれぬ。しかし、貴官の言うことは事実に反することが多い。伝聞の誤りにより、そう思いこんでおられるようである。我が国は外国との交渉がないため、外国側が我が国の政治に疎いのはやむをえないが、我が国の政治は決して反道義的なものではない。我が国の人命尊重は世界に誇るべきものがある。
この三百年にわたり太平の時代が続いたのも人命尊重のためである。第二に、大洋で外国船の救助ができなかったのは大船の建造を禁止してきたためである。第三に、他国の船が我が国の近辺で難破した場合には、必要な薪水食料の手当てをしてきた。他国の船を救助しないというのは事実に反し、漂着民を罪人同様に扱うというのも誤りである。漂着民は手厚く保護し、長崎に護送、オランダカピタンを通じて送還している。
貴国民の場合も、すでに措置を講じて送還ずみである。不善の者が国法を犯した場合はしばらく拘留し、送還後に本国で処置させるようにしている。貴官が我が国の現状を考えれば疑念も氷解する。積年の遺恨もなく、戦争に及ぶ理由はない。とくと考えられたい。」
 これに答えたペリーは「それなら結構である」として双方が合意した。
 なおペリー司令長官はフィルモア―大統領から次のような「発砲厳禁」の命令を背負っていたことは前述のとおり。アメリカ憲法では宣戦布告権を持つのは大統領ではなく、議会である。議会の多数派は民主党であった。副大統領から選挙を経ずに昇任したホイッグ党(共和党の前身)のフィルモア大統領がペリーに与えた「発砲厳禁」命令(US Congress(S)751-No.34)は重大な政治的意味を含んでいた。フィルモア大統領の「発砲厳禁命令」(国務長官より海軍長官あて)は、「大統領は宣戦布告の権限を有さない。使節は必然的に平和的な性格のものであることをペリー提督は留意し、貴下指揮下の艦船及び乗員を保護するための自衛及び提督自身もしくは乗員に加えられる暴力への報復以外は、軍事力に訴えてはならない」とある。
 ペリーにとって交戦は何としても避けるべき大前提であった。
 ついでペリーは持参の土産を横浜村に荷揚げしたいと要請する。スライド26の蒸気機関車の4分の1モデルやモールス通信機、幕府側からの返礼の米俵を軽々と担ぐ力士の絵(スライド28)。

 スライド29がポーハタン号上の招宴にくつろぐ武士の姿を描く。

 スライド30が、日本語、英語、オランダ語、漢文の4か国語で書かれた日米和親条約(1854年3月)のサインの箇所。4か国語の条約文が併存し、何語で書かれた条約文が正文(条約で条文解釈の根拠となる特定語の文)なのか不明のままである。これに配慮した幕府は、ペリー艦隊が避難港として開港した函館を訪れたのち下田に寄港する際に附属文書の交換を提案、実行に移した。すなわち日本語と英語を正文とし、オランダ語訳を付すと定めた。

 スライド31が「ペリーの日本観」
 国交のない国との関係を開くには、相手国の情報を的確に把握することが不可欠である。情報の収集・分析・政策化の3つがうまく連動しなければ、有効な対処はできない。情報には間接情報と直接情報の2種類がある。
 アメリカが得た日本情報のうち、ペリーが最重要視した間接情報はシーボルト『日本(Nippon)』(1832〜52年にかけて分冊形式で刊行、ドイツ語)であった。ペリーは503ドルで本書を購入し、貴重な情報源と位置づけ。本書は冒頭に次の文章を置いている。
「……日本は1543年、ポルトガル人により偶然に発見されたが、その時、すでに2203年の歴史を持ち、106代にわたる、ほとんど断絶のない家系の統治者のもとで、一大強国になっていた……」
 これはシーボルト自身の見解ではない。美馬順三のオランダ語論文『日本古代史考』(『日本書紀』の抄訳)から得たものである。シーボルトはこれを、そのまま自身の見解とした。諸外国では『日本』は最新の体験情報として、広く国際的な評価を得ていた。
 英語圏でも需要が高く、「Chinese Repository」誌にアメリカ人宣教師ブリッジマンの抄訳で掲載された。ブリッジマンはアメリカ=清朝間の望厦条約(1844年)の通訳であり、またペリーの通訳兼顧問となるS.W.ウィリアムズとも深い交流があった。その英文抄訳の解説のなかでブリッジマンは言う。
 「日本人は、原始時代いらい膨大な数の船舶を有し、中国人と同様に商人達は近隣諸国を往来・交易し、その足跡ははるかベンガルにまで及んでいた。ポルトガル人との接触時期に、すでに日本国は優れた文明を有しており、これはキリスト教の平和的・禁欲的な教えの影響を受けずに到達しうる最高位の文明段階と言える……」
 ペリーも出国前に『日本』を熱心に読んで日本像を組み立てた。そして自分の使命を次のように書いている。「この特異な民族が自らに張りめぐらせている障壁を打ちくだき、我々の望む商業国の仲間入りをさせる第一歩、その友好・通商条約を結ばせる任務が、もっとも若き国の民たる我々に残されている」
 最古の国の日本に、もっとも若い国のアメリカが挑戦する、と。

【日本の政体をペリーはどう見ていたか】
 では、日本の政体をペリーはどう考えたのか。つまり日本の統治者は誰かという問題である。『日本』では、「ほとんど断絶のない統治者の家系」106代を神武天皇から数え、鎌倉幕府からは将軍に継承させている。ペリーは、「日本は同時に2人の皇帝を有する奇異な体制を持っている。一人は世俗的な皇帝であり、もう一人は宗教的な皇帝である」と解釈した。
 これは、ヨーロッパにおける、国王とローマ法王との関係に似ている。条約締結にあたって誰と交渉するかは最重要の課題である。アメリカ大統領国書の宛先も、同時に添えたペリー書簡も宛先は「日本国皇帝」(Emperor of Japan)となっている。受理したのは幕府であった。ここで日本国皇帝=徳川将軍の関係が確立した。
 日本では、世俗的皇帝と宗教的皇帝とが、それぞれ権力と権威(宗教的権威より広範囲な権威)を別々に体現していた。1615年、幕府は朝廷の権威を弱めるため禁中並公家諸法度を定めたが、最後まで幕府が確保できなかったのが象徴的行為の確保である。具体的には、律令制いらいの官位・爵位の授与権を幕府は握ることができず、将軍・大名・幕閣は朝廷から官位を受けていた。
 通常、権威は隠れていて表面には出ない。しかし、幕末になって幕府と各藩の協調関係が崩れ、対立関係が表面化すると、隠れていた朝廷の権威が浮上する。「火山のマグマ」のようだといわれる幕府と朝廷の関係、つまり権威の保持者は誰かという問題が噴出した。大政奉還(徳川将軍が天皇に政権を返上すること)の政治変動期には、権威が権力の上位に立った。

 スライド32が「1857年 登城するハリスの図」
 ハリスの江戸出府要請を側面から支えたのが、それまでハリスとの交渉に当たっていた井上下田奉行や目付(めつけ)の岩瀬忠震(ただなり)である。条約交渉の先延ばしを主張する意見に対して、二人は早急に条約を結び、新しく国際社会との交渉を始めるべしと主張した。

 スライド33が「2つの条約(概要)」で、以下のようにある。
日米和親条約(1854年)
①国交樹立
②避難港として下田と箱館(函館)の開港
③漂流民救助費の相互負担
④米国に片務的最恵国待遇
⑤アメリカ領事の下田駐在
日米修好通商条約(1858年)
①箱館(函館)・新潟・神奈川・兵庫・長崎の開港
②江戸・大坂の「開市」
③開港場周辺の遊歩規定
④片務的領事裁判権
⑤協定関税とアヘン禁輸
⑥通貨は同種同量の交換
⑦米国から軍艦購入、学者・軍人の雇用は随意
 当時、イギリスとアメリカの政策で根本的に異なっていたのがアヘン政策である。イギリスのアヘン合法化(1858年の天津条約)に対して、アメリカはアヘン禁輸を一貫して主張した。

 スライド34が「<敗戦条約>と<交渉条約>の比較一覧」(拙稿「幕末開国考-とくに安政条約のアヘン禁輸条項を中心として」(『横浜開港資料館紀要』第1号 1982年)。本稿は石井孝『日本開国史』(1972年)が左に振った(1)から(4)を指摘するのに対して、私は(5)条約の根拠(敗戦か交渉か)、(6)賠償金支払い、(7)領土割譲、(8)居留地の外国人自治、(9)アヘン条項(日本で禁輸、中国で解禁)、(10)内地通商、(11)外資導入を追加した。なかでも(5)、(6)、(9)を強調した。

 スライド35は太平洋を行く咸臨丸(かんりんまる)。日米修好通商条約の批准書交換をワシントンDCで行うと決めたため、ポーハタン号の援助を借りて初めて太平洋を往復した。万延元年遣米使節とも言う。軍艦奉行木村摂津守喜毅や軍艦操練教授方頭取出役勝海舟、福沢諭吉、通訳のジョン万次郎(スライド15に肖像画あり)ほか96人が乗り組んだ。
 咸臨丸は幕府海軍が保有していた軍艦、木造でバーク式の3本マストを備えた蒸気コルベット。オランダ語の旧名は「Japan」(ヤッパン号)、「咸臨」とは『易経』より取られた言葉で、君臣が互いに親しみ合うことを意味する。

 これより、スライド36から39へと横浜村の形成に関わる絵図がつづく。

 スライド40は、歌川広重の浮世絵、「山手方面から見た横浜町の全景。運上所(のちの税関)等、賑わいを見せる風景」。これは横浜開港後の風景である。

 最後のスライド41は横浜開港地の全図。真ん中あたりを上下に伸びる日本大通りの右側が日本人町で、左側が外国人居留地、うち斜めに並ぶ一帯が中華街である。
 前面の海底(地図の下方)が深く切り込んでおり、大型船の来航に圧倒的な優位性を持つ。これこそが、その後の横浜の発展を支えた要因の一つである。
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変わりつつある世界(7)

 2023年6月1日昼に締めた「変わりつつある世界(6)」の後、朗報が入った。1日夕方の日経速報メールは、将棋の第81期名人戦七番勝負の第5局が5月31日、6月1日の両日、長野県高山村で指され、後手の挑戦者、藤井聡太六冠(20)が渡辺明名人(39)を破り、4勝1敗でタイトルを奪取したと報じた。

 竜王・王位・叡王・棋王・王将・棋聖に名人を加え、七冠を達成。七冠は1996年に当時25歳4カ月だった羽生善治九段(52)に続く2人目で、20歳10カ月での達成は最年少記録となる。

 谷川浩司十七世名人(61)が持つ21歳2カ月の最年少名人記録も約40年ぶりに更新した。藤井新名人は対局を終えた直後、「まだ実感はないが、非常にうれしく思う。とても重みのあるタイトルだと思うので、今後それにふさわしい将棋を指さなければという思い」と話した。

 将棋界には現在8つのタイトルがあり、残るタイトルは永瀬拓矢王座(30)が持つ。藤井七冠は王座戦挑戦者決定トーナメントで初戦を突破し、ベスト8に進出している。今後、王座戦でも勝ち進み、秋の五番勝負を制して史上初の全八冠制覇をなし遂げるかに注目が集まる。

 藤井七冠は愛知県瀬戸市の出身、2016年に史上最年少となる14歳2カ月でプロ入り。17年にはデビューから無敗で最多の29連勝を達成、20年には最年少で初タイトルの棋聖を獲得するなど、将棋界の記録を次々に塗り替えている。タイトル戦の番勝負で敗れたことがなく、今回の名人でタイトル獲得は通算15期となった。


【米債務上限、上院も可決 デフォルト回避へ】
 6月2日の日経速報メール【ワシントン=高見浩輔】によると、米連邦議会上院は1日夜(日本時間2日朝)、政府の債務上限の効力を停止する財政責任法案を可決した。近くバイデン米大統領の署名を経て成立する。米国は懸念された史上初の債務不履行(デフォルト)を回避できる。
 バイデン氏は可決後の声明で「できるだけ早く署名し、明日、米国民に直接語りかけることを楽しみにしている」と強調した。
 賛成は63票、反対は36票だった。採決は早くて2日とみられていたが、民主党の上院トップ、シューマー院内総務は与野党の合意が得られたとして早期採決に持ち込んだ。
 議員からの法案修正要請が11件あったがすべて否決された。修正案のうち10件は共和の議員が提出したものだった。野党・共和党も上院トップ、マコネル院内総務などが法案に賛成するよう議員に呼びかけてきた。
 下院では5月31日夜に可決した。賛成は314票、反対は117票だった。
 法案は今後2年間の歳出を削減することなどを条件に、債務上限の効力を2025年1月まで停止する内容だ。バイデン氏と共和のマッカーシー下院議長が27日に基本合意した。
 法案は与野党ともに譲歩を迫られた内容となっており双方に不満が強い。特に共和からは歳出削減の規模が小さすぎるとの批判があった。共和の要望でエネルギー開発の承認手続きを迅速化することが盛り込まれ、気候変動対策を重視する民主の急進左派からも非難する声が出ていた。
 もっともデフォルト回避のため残された時間は乏しかった。イエレン米財務長官は6月5日にも政府の資金繰りが行き詰まると警告していた。米政府債務は1月に現行の上限である31.4兆ドルに達し、米財務省が基金の運用変更などでしのいでいた。不満を持つ議員もデフォルト回避を最優先にせざるを得ないと認める声が多かった。
 議員の支持を取り付けるためバイデン氏らは連日議員に電話して妥協策への理解を呼びかけてきた。市場ではすでに法案成立への期待感が高まっていた。

【22年の出生率1.26で過去最低 出生数7年で2割減】
 同じ2日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 厚生労働省は2日、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2022年は1.26だったと発表した。05年に並んで過去最低となった。低下は7年連続で、新型コロナウイルス禍での婚姻数の低迷などが影響した。社会や経済の活力を維持できるかの瀬戸際にあり、出産や子育てなどへの若年層の経済不安を取り除くための対策が急務となる。

 日本人の出生数は77万747人と前年比で5%(4万875人)減った。外国人を除く出生数が80万人を下回るのは1899年の統計開始以来初めてだ。

 松野官房長官は2日の記者会見で「少子化の進行は危機的な状況で、日本の静かなる有事として認識すべきだ」と指摘した。少子化対策についても「日本の社会機能の維持にも関わる待ったなしの先送りできない課題だ」と述べた。

 政府が15年に数値目標に掲げた「希望出生率1.8」とは差がある。人口を維持するには2.06〜2.07が必要とされる。フランスの1.8(22年)や米国の1.66(21年)、ドイツの1.58(同)、英国の1.56(同)と比べても見劣りする。

 少子化のスピードは加速している。日本人の出生数は15年まで100万人を超えていたが、そこから7年で2割以上減ったことになる。子どもの数が多かった団塊ジュニア世代も出産適齢期を過ぎ、減少に歯止めがかからない。

 高齢化の進展や新型コロナによる死亡者数の増加に伴い、22年の人口の自然減の減少幅は過去最大の79万8214人となった。前年の減少幅より17万人ほど広がった。自然減は16年連続となる。

 婚姻数は3年ぶりに増加に転じて50万4878組となったものの、伸び率は0.7%にとどまった。60万組近かったコロナ禍前の19年との開きは依然大きい。コロナ禍で控えられていた結婚がこれから再び増加傾向に転じるかは見通せない。足元では23年1〜3月に13.5万組と前年同期比で14.2%減った。長引いたコロナ禍で経済の正常化が遅れ、将来不安を拭いきれない実態も映す。
 人口減少のスピードは想定を超える。国立社会保障・人口問題研究所が17年に示した将来推計人口では中位推計で22年の出生率を1.42、出生数を85.4万人と見積もっていた。現実はこれより8万人ほど少ない。
 現役世代の先細りは避けられず、社会保障制度や日本経済の成長シナリオの再構築が求められている。
 社会保障給付費は23年度の予算ベースで134兆円に増加し、この20年で1.6倍となった。
健康保険組合連合会が22年にまとめた推計では健保組合の加入者1人あたり保険料が40年度に45万円前後と、19年度のおよそ25万円から8割以上増える。高齢化や医療の高度化が背景にあり、給付と負担のバランスを改めなければ制度の持続性は高まらない。

 人口減を補うだけの生産性向上も必要となる。日本の就業者1人当たりの生産性は主要7カ国(G7)で20年以上最下位だ。現役世代が本格的に減少していく30年代に向け、高度経済成長期から続く長時間労働の是正や成長産業への労働移動といった改革は欠かせない。

 人口減が深刻な地方で先手を打つ動きはある。

 宮崎県都城市は未就学児の保育料を23年度から完全無料化した。国の施策は3歳以上が無料で、3歳未満は第3子以降が対象だが、市は独自に3歳未満も第1子から対象とした。財源はふるさと納税を活用する。

 中学生以下の医療費や妊産婦の健診費用の負担もなくした。都市部からの移住者支援も充実させて若い世代の呼び込みに熱心だ。池田宜永市長は「人口減は中途半端なことをやっていても止まらない」と話す。

 東京都でも足立区は23年度に6年間で最大3600万円を給付する返済不要の奨学金を導入した。成績基準を設けて定員は40人とした。財源は特別区競馬組合からの分配金や寄付金を充てる。近藤弥生区長は「先立つものがなければ夢も希望も持てない」と狙いを語る。


【株式購入権、付与期間の制約撤廃 新しい資本主義計画案】
 同じ2日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府が6月中に決める「新しい資本主義」の実行計画改定案が分かった。スタートアップによる一定規模のストックオプション(株式購入権)の発行に関し、株主総会の決議から1年以内とする従業員への付与期間の上限を撤廃する方針を明記した。

 従業員が株式として取得する際の価格などを決めやすくし、報酬としての魅力を高める。スタートアップなど創業間もない成長産業が人材を集めやすくなるよう、ストックオプションの使い勝手を良くする狙いがある。

 6日にも開く「新しい資本主義実現会議」で示す。有識者の議論を踏まえ、政府が月内に閣議決定する見通しだ。

 いまは発行枠を設定する場合、会社法上の制約で1年以内という有効期間がある。取締役会も従業員が取得する際の価格や権利を行使できる期間などを自由に決められなかった。

 改定案は取締役会が権利行使価格なども決められるよう「会社法制上の措置を講じる」と盛り込んだ。株主総会の決議から1年以内とする有効期間も「この制約を撤廃することを検討する」と言及した。

 米国や英国のスタートアップは資金調達ごとに株式の一定割合をためて従業員に購入権を計画的に付与する「ストックオプションプール」と呼ばれる仕組みを使う。企業にとっては現金を使わず報酬を提示できるため、人材獲得の武器となっている。
 融資の仕組みも改める。中小企業などの経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」について、個人の保証を解除できる新たな制度を2024年春までにつくる。信用保証料の上乗せや経営努力などを要件とすることを想定する。
中小企業が金融機関から融資を受ける場合、経営者保証を求められることが多い。将来的な負担を恐れて起業や事業拡大をためらう一因となっていた。

 政府は3月、創業5年未満の事業者の経営者保証を不要にする新たな信用保証制度を始めた。事業者が保証料を上乗せすれば3500万円まで全額保証、無担保で借りられる。こうした取り組みをさらに進め、人工知能(AI)など成長産業の育成につなげる。

 改定案はリスキリング(学び直し)や成長産業への転職を促す労働市場改革などを記した。自己都合の離職で失業給付を受け取る場合でも、会社都合の離職と同じ7日程度で受給できるようにするといった具体策を盛った。

 脱炭素やデジタルなど成長産業への投資も促す。労働市場の柔軟化や産業構造の新陳代謝を進めて潜在成長力の底上げを目指す。


【生成AIの進化が人間の仕事を奪うと思うか】
 3日の共同通信は次のように報じた。
  「チャットGPT」のように精巧な文章や画像を作る生成人工知能(AI)が進化すると、「人間の仕事を奪うと思う」と答えた人の割合が76.9%に上ったことが3日、民間企業の調査で分かった。現時点では仕事に役立つとの好意的な見方が大勢だが、若年層ほど将来的な脅威と捉える傾向がうかがえた。仕事を奪われるとの懸念は20代では81.7%に達した。

 転職などの相談サービスを手がけるライボ(東京)の調査機関Job総研がまとめた。調査結果から予測できる未来像を生成AIに回答させたところ、生成AIの普及は「社会に大きな変化をもたらすことは間違いない」と指摘した。



【習近平政権が軽んじる日本 「火の中」発言は本気か】
 4日の日経速報メールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・中国要人に日本を独立国扱いしないような発言相次ぐ
・底流には「日本は米国の言いなり」と属国視する考え
・米国との関係改善が進まず日中関係も「冬の時代」に
中国の習近平政権は日本との関係が悪くなってもかまわないと考えているのか。そう思わざるを得ない発言が相次いでいる。

「中国は1951年のサンフランシスコ講和条約を最初から認めていない」。5月26日の日経フォーラム「アジアの未来」で、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長が唐突に話し始めると、会場の聴衆はけむに巻かれたような表情をみせた。

「日本は米国の言いなり」
むりもない。第2次世界大戦に敗れて連合国の占領下にあった日本は、サンフランシスコ条約で主権国家としての地位を取り戻した。それを否定するなら、日本を独立国とみなしていないことになる。

 たしかに、中国はサンフランシスコ講和会議に招かれておらず、条約を「最初から認めていない」のは歴史的な事実だ。だとしても、いまなぜそれを改めて持ち出すのか。

 同じセッションに参加した九州大学の益尾知佐子教授が「発効から70年たったサンフランシスコ条約を認めないというのは、中国が現在の国際秩序を打破しようとしているように聞こえる」と指摘すると、楊氏は「古いから合理的だというのは間違いだ」と開き直った。口を滑らせたわけではない。周到に準備した発言だ。

 北京に駐在していたころ、中国の外交官から「日本は米国の属国みたいなものでしょ」と皮肉られたことがある。米中関係がかつてないほど険悪になるなか、中国側に日本を「米国の言いなりだから話してもしょうがない」と軽んじる空気があるのは確かだ。

 物議をかもした呉江浩・駐日中国大使の発言も、その延長線上にある。

 「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」。呉氏は着任して間もない4月末の日本記者クラブでの記者会見で、台湾問題に話題がおよぶといきなりこう言い放った。

 「中国分裂を企てる戦車」とは米国を指すのだろう。日本が米国にくっついて台湾問題に首を突っ込めば、ただでは済まない。そう言いたかったのだろうが、日本の国民に危害を加えるかのような言いぶりは脅しにしか聞こえない。対等な「独立国」に対して使うべき言葉ではなく、林芳正外相が正式に抗議したのは当然だ。

あすは我が身
「しばらく中国には行きたくない」。最近、中国とのつき合いが長い日本人のビジネスパーソンや研究者に会うと、そんな話題が必ず出る。いうまでもない。3月にアステラス製薬の中国法人に勤める50代の日本人男性がスパイの疑いで拘束されたからだ。

 男性はなぜ捕まったのか。中国側は理由をいっさい明かさない。7月に反スパイ法の改正が施行されれば「スパイ」の定義はこれまで以上にあいまいになる。「あすは我が身」と中国で仕事をする日本人は身構える。

 経産省は中国を念頭に、7月下旬から最先端の半導体製造装置など23品目の輸出規制を強化する。バイデン米政権の強い要請に応じた。習近平政権は「また米国の言いなりか」と不満を募らせる。

 中国は5月下旬、米マイクロン・テクノロジーの製品を重要な情報インフラの調達から外すと発表した。米国が発動した半導体の輸出規制に対抗した措置だ。日本企業にも同様の制裁を加えないか。楽観はできない。
「岸田文雄政権の(対中政策での)後退ぶりはあっけにとられる」。5月下旬、中国共産党系メディアの環球時報に、日本を厳しく批判する清華大学の劉江永教授の論文が載った。

 習近平政権は米国との関係改善に幻想を抱かなくなり、その同盟国である日本にももう気兼ねしなくていいと考えているのだろう。でなければ、日本の民衆を「火の中に」などという発言が飛び出すはずはない。

 日中関係は冬の時代に入ろうとしている。



【OPECプラス、協調減産を24年まで延長 原油価格下支え】
 5日の日経ニュースメール【ウィーン=久門武史】によると、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は4日、協調減産の枠組みを2024年末まで延長すると決めた。サウジアラビアは独自に日量100万バレルを7月に追加減産すると表明した。景気減速懸念から下落基調にある原油価格を下支えする姿勢を示した。

 サウジは100万バレルの減産について7月以降も続ける可能性があるとした。これとは別に、アラブ首長国連邦(UAE)などOPECの一部の国とともに5月から取り組んでいる自主減産を24年末まで延長すると表明し、UAEなども同調すると発表した。

 サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は4日、OPECプラスがウィーンで開いた閣僚級会合後の記者会見で「市場に安定をもたらすのに必要なことはすべて実行する」と強調した。次回の閣僚級会合は11月26日にウィーンで開く。

 OPECプラスは声明で、協調減産に加わる国々の24年の生産量を合計で日量4046万バレルに設定したと発表した。ロシアやナイジェリア、アンゴラの割り当てを減らす一方、生産余力のあるUAEは引き上げた。ナイジェリアなどは目標割れが続くが、UAEは生産能力を増強してきた事情がある。

 サウジなどOPECの一部は5月に計116万バレルの自主減産を始めたばかり。わずか1カ月で追加措置を打ち出したのは、弱含む原油相場への警戒感からだ。国際指標の北海ブレント原油先物は1バレル76ドル台と、世界景気減速への懸念から4月の高値より1割以上安い。サウジなどが自主減産を4月初めに発表した直後に急騰したが、短期間で帳消しになっていた。

 これまでもOPECプラスは相場下支えのために供給を絞っており、22年10月、合計で日量200万バレルの協調減産で合意した。ほかにウクライナ侵攻で西側の制裁を受けるロシアは23年2月、50万バレルの減産を表明していた。ロシアのノワク副首相は4日、この減産を24年末まで続けると同国メディアに明らかにし、サウジなどと足並みをそろえた。



【日経平均、一時3万2000円台 取引時間中で33年ぶり高値】
 5日の日経速報メールは次のように報じた。

 5日の東京株式市場で日経平均株価が大幅に続伸している。前日比での上げ幅は一時600円を超え、3万2000円台まで上昇する場面があった。日経平均株価は5月末に一度利益確定の売りに押される場面もあったが、約33年ぶりの高値を上回って推移している。米債務上限問題に対する懸念が後退したことを好感する買いが上昇を後押ししているとの声が多い。

 前週末の米株相場が上昇した流れを受け、日本株も朝方から上昇して始まった。米国では米連邦政府の債務上限を停止する法案が1日までに上下両院で可決されたことで安心感が広がり、ダウ工業株30種平均が前日比2%上昇するなど買いが広がっていた。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「日本株にとっても週内は上昇の材料になる」と話す。

 ソフトバンクグループ、ファーストリテイリングなどの大型株が指数を押し上げたほか、業種別ではINPEXなどの石油関連株の上昇も目立った。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」が4日、協調減産の枠組みを2024年末まで延長すると決めたことが材料視された。



【ロシア、兵器部品「買い戻し」 ミャンマー・インドから 旧型戦車・ミサイル改良の目的か】
 同じ5日の日経速報メールは次のように報じた。

 ロシアが軍事品をミャンマーやインドから逆輸入していることが日本経済新聞の調べでわかった。ウクライナ侵攻以降の通関データを分析したところ、過去に輸出した自国製の戦車・ミサイルの部品を改めて購入していた。ロシアは戦力を急速に消耗している。在庫の旧型兵器を改良して戦場に投入するため、軍事的に関係の深い国の協力を得ている可能性がある。

 米国、欧州、日本など西側諸国は2022年2月の侵攻後、ロシアの軍備拡大につながる物品の輸出を禁じている。
日経は米国の調査会社インポートジーニアス、インドのエクシムトレードデータなどからロシアの通関データを入手し、ミサイルや戦車などの部品の輸入記録を調べた。

 ロシア軍の戦車を生産するウラルワゴンザボードは22年12月9日、約2400万ドル(33億円)で軍事品を輸入した。取引相手はミャンマー陸軍で、ウラルワゴンザボード製と記載されていた。

 品目(HS)コードから輸入品は戦車に搭載する照準望遠鏡6775台とテレビカメラ200台と推定される。陸上自衛隊OBで戦車開発にも携わった赤谷信之氏は「標的までの距離を測定し照準を定めるための光学機器などだろう」とみる。
英シンクタンク、国際戦略研究所の報告書「ミリタリー・バランス23年版」によると、ロシアは侵攻後に主力戦車の半分近くを失った。一方で、戦車在庫は5千両あるとされる。シンクタンク・国際危機グループのロシア担当アナリスト、オレグ・イグナトフ氏は「光学機器の更新などで近代化すれば(在庫の)旧式戦車の運用も可能になる」と指摘する。

 過去の貿易データをみるとロシアの光学機器は西側の技術を活用しており、制裁で部品の調達が難しくなっていることが考えられる。日経はウラルワゴンザボード、ロシア政府、ミャンマー国防省に取引の詳細を問い合わせたが、設定した期日までに回答はなかった。

 通関データには「苦情申し立てに基づく輸入」との記載もあった。ウラルワゴンザボードは19年にミャンマー陸軍に軍事品を輸出しており、ミャンマー側が欠陥品を返品した可能性もある。

 ただ、防衛省で情報分析官を務めた軍事アナリストの西村金一氏は「輸入時に全部品を検査しており、問題があればすぐ交換するはず」と話す。オランダ拠点の軍事情報解析サイトOryxのヤクーブ・ヤノフスキー氏も「返品にしては数量が多すぎる」とみる。

 ミサイルを製造するロシア機械工学設計局(KBM)は22年8月と11月、インド国防省から地対空ミサイル用の暗視装置の部品を計6個、約15万ドルで輸入した。夜間や暗所でも視界を得るための装備でいずれもKBM製だ。同社は13年2月、インド国防省に同じ製品を輸出していた。KBM、インド国防省は日経の取材に応じなかった。

 ストックホルム国際平和研究所によるとロシアは世界3位の兵器輸出国だ。貿易量に生産コストや性能などを加味した同研究所の独自指標「TIV」の過去10年の累計値は、インド向けの輸出が35%と最も大きく、中国(15%)やアルジェリア(10%)が続く。輸出品を買い戻せば、休眠状態にある在庫の装備を更新して戦地に投入できる。

 5月に開かれた主要7カ国首脳会議はロシアへの軍事支援の停止を第三国にも要請した。軍備管理に詳しい秋山信将・一橋大教授は「ロシア製兵器に依存する国から協力を得るのは困難だ」と話す。ロシア向け取引の実態を公表するなどし、関連する企業や国へのけん制を強める必要もある。



【Apple、ゴーグル型の新端末を発表 「iPhone再来」狙う】
 6日のニュースメールは次のように報じた。

 【この記事のポイント】
・「Apple Vision Pro」、価格は49万円から
・ディズニーとも連携、経済圏の拡大狙う
・成熟したApple、革新的製品の再来渇望
【シリコンバレー=中藤玲】米アップルは5日、ゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Apple Vision Pro」を発表した。装着すると視界に巨大なスクリーンが現れ、現実空間に重ねて3次元の動画視聴やビデオ通話などができる。同社は2007年にスマートフォン「iPhone」を発売して人々の生活を一変させており、こうした製品で培ったアプリなどの経済圏を広げる。

 クック氏「空間コンピューティングを切り開く」
同日に開幕した年次開発者会議「WWDC」で発表した。基調講演が始まって1時間20分後、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は「ワン・モア・シング(まだあるよ)」とHMDについて切り出した。クック氏は「(パソコンの)Macがパーソナルコンピューティングを、iPhoneがモバイルコンピューティングを生んだように、Vision Proで空間コンピューティングを切り開く」と紹介した。

【「WWDC」でのほかの発表内容】

•Apple、15インチの新型MacBook Air 画面25%大きく
•Apple、iPhoneのOS刷新 連絡先を瞬時に交換
Vision Proは現実風景にCG(コンピューターグラフィックス)を重ねる拡張現実(AR)に対応したゴーグル型のHMD。価格は3499ドル(約49万円)からで、24年初めにまず米国の直営店「アップルストア」やオンラインで発売する。24年末までに他の国でも売り出す。

 
 Vision Proは1回の充電で2時間使用できる(5日、動画配信)
専用の基本ソフト(OS)「visionOS」上でゲームや映像配信などのアプリを提供し、iPhoneや多機能端末「iPad」のアプリとも互換性がある。装着すると視覚の中の巨大スクリーン上にメールやゲームなどのアプリが表示され、見つめるだけで選んで起動できる。付属のコントローラーやハード端末は不要で、目や手の動き、声だけで直感的に操作可能にした。

ARコンテンツでディズニーと連携
 搭載した12個のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクからの入力を、最新設計の半導体「R1」が処理することで、コンテンツを遅延なくリアルタイムに表示する。例えば装着した人同士がビデオ通話をしている最中に、空間上に3Dの心臓模型や自動車の設計図などを表示して、それを見ながら遠隔で議論ができる。電池は外付けで最大2時間使える。
コンテンツ面では、米ウォルト・ディズニーとの提携も発表した。Vision Proの発売当初から、ディズニーの動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」のコンテンツを視聴できる。基調講演にはディズニーのボブ・アイガーCEOも登場し、現実世界のテーブルの上からソファへとミッキーマウスがジャンプする映像を紹介しながら「Vision Proは私たちが目指す未来を実現するプラットフォームになる」と話した。

 現実世界に重ねていくつものモニター画面を表示することができる(5日、動画配信)
クック氏は11年に創業者、故スティーブ・ジョブズ氏の後を正式に継いだ。15年発売の腕時計型端末「アップルウオッチ」も販売は堅調で、足元の時価総額は3兆ドル(約420兆円)に迫る。一方、iPhoneのような革新的な製品を生み出せていないという指摘が常にあり、今回の新製品は市場関係者らの間で「iPhone以来の大型製品になる」との呼び声も高かった。

株価は下落、最高値更新ならず
 5日朝の発表前時点で株価は前週末比で約2%高い184ドル超となり、22年1月の上場来高値を上回った。しかし発表が進むにつれ株価は下がり、5日終値は前週末比約1%安の179ドルだった。

 クック氏は16年ごろからHMD関連の開発に本腰を入れ始めたとされる。ARを使ったゲーム「ポケモンGO」がヒットし、「ARは人々の生活を変える可能性がある」と度々発言してきた。5日の基調講演の冒頭でも「今回はWWDC史上最大級の発表をする」と挨拶。iPhoneで築いた1.1兆ドルにものぼるアプリなどの経済圏を、仮想の世界でも広げる狙いだ。

 ただ、ARや目の前の映像に没頭できる仮想現実(VR)は長らく「スマホの次」といわれながらも、市場はまだ立ち上がっていない。米調査会社IDCによるとVR・AR端末の22年の世界販売台数は約880万台と21年比で21%減少した。VRやメタバース(仮想世界)に社運をかける米メタも、約8割のシェアを握りながらも販売は苦戦している。

 HMDは価格が高く、重くて長時間の着用には向かないなどの課題がある。主な用途がゲームなどに限られているのも一般普及の足かせだ。創業以来デザイン性を重視し、アプリ配信サービス「アップストア」で豊富なコンテンツをそろえてきたアップルが市場をどう変えていくかに注目が集まる。



【Apple、4度目狙うUI革命の死角 ChatGPTが先行】
 7日の日経ニュースメールは次のように報じた。

 【この記事のポイント】
・人とコンピューターの接点を変革する挑戦は4度目
・オープンAIのチャットGPTがUI革命で先行
・量子計算機など技術進化する中、非連続な発想がいる
米アップルは5日、拡張現実(AR)に対応したゴーグル型端末を発表した。IT(情報技術)利用のあり方を変え、革新の先頭に立つことをねらう。いま世界は人とコンピューターの関係を一変させる生成AI(人工知能)、Chat(チャット)GPT旋風のただ中にある。アップルは再び熱狂の風を起こせるだろうか。

 「コンピューターの歴史にとって新時代の幕開けとなる」。年次開発者会議(WWDC)で「Apple Vision Pro(アップルビジョンプロ)」を発表したティム・クック最高経営責任者(CEO)は宣言した。端末をかぶった瞬間、その場が仕事や娯楽の空間と化す。目や手の動き、声で操る。ライフスタイルや働き方を変えうる。

 Vision Proは目線や手の動き、声でコンピューターを操るUIを実現するアップルの歩みを振り返れば、人とコンピューターの接点を変革する挑戦は4度目となる。共同創業者のスティーブ・ジョブズ前CEOが「革命的なユーザーインターフェース(UI)」と誇った発明は3つある。
1984年に登場したパソコンの初代Macは、直感的に扱えるマウスを備えていた。2001年発売の音楽プレーヤー、iPodは指でなぞり好みの一曲を選ぶクリックホイールが売りだ。07年にはiPhoneで、画面に触れ機能を呼び出すマルチタッチを生んだ。

 複雑なITを斬新なUIでシンプルにし、人々をコンピューター世界にいざなう。その能力こそアップルの成長エンジンだった。19年に東京で会ったクック氏もこう語っていた。「ARは次のコンピュータープラットフォーム。マルチタッチのように、ほぼすべての製品で使われる」――。

 ビジョンプロで次のUI革命をしかける準備が整う。無限のコンピューター空間で人の創造性を解き放てれば、社会や経済に与えるインパクトは過去3度の比ではない。

もう一つのUI革命
 ただ一足先に始まったUI革命がある。新興の米オープンAIが22年に公開したチャットGPT。様々な問いに流ちょうに答え、コードも書く。誤情報の拡散など深刻な問題を抱えるが、暮らしや職場の景色を塗り替える可能性を秘める。

 何と言っても、ふだんの言葉(自然言語)でコンピューターと対話する時代の到来を印象づけたのが大きい。IT史に残る成果といえる。
アップルもタネはまいていた。

 11年10月発表のiPhone4Sに搭載したデジタルアシスタントのSiri(シリ)だ。話しかけて指示すれば、メールの送信や予定管理などをこなす。自然言語、対話型、文脈の理解。チャットGPTと重なる特徴が盛り込まれていた。

 コンピューターとの対話に熱心だったジョブズ氏
シリに熱心なのはジョブズ氏だった。開発会社(10年にアップルが買収)の創業者を自宅に招き、UIの行方を議論した。初代マックのお披露目ではマックがしゃべる演出をしていた。「コンピューターとの対話」が悲願だったかもしれない。

 しかし4S発表の翌日、同氏は世を去る。存命ならどうシリを育てたか。自然言語の競争をリードしていたのでは……。想像せずにいられない。

歴史のページを次々とめくるように、ジョブズ時代のアップルは新ジャンルを打ち立てた。01~11年の売り上げ構成を見れば、パソコンから音楽、スマホの会社へと変身したのがわかる。

 クック時代となり、売上高も時価総額も膨らんだが、ずっとスマホが主役の座にある。まるでiPhoneのページに補足情報を書き加え続けているようだ。CEO就任後に製品化したアップルウオッチもヘルスケアの道具としてじっくり普及させる構えにみえる。
 アップルの感性、ゴーグル型端末が占う
そこに危うさもある。世の中の変化は速い。AI、ARはもちろん、量子コンピューターや暗号資産、3D印刷などの技術が同時並行で進化する。そこから製品やサービスを紡ぎ出すには非連続な発想、行動がいる。

 3499ドル(約49万円)というビジョンプロは高度な部品の固まりだ。「ARでここまでできる」と示したが、多くの人の手に届く価格の実現や、魅力あるキラーアプリの創出を早速、問われる。競争の最前線である生成AIの明確な戦略がWWDCで語られなかったのも気になる。

 急激なデジタル社会の進展には懸念や疑念の声もある。アップルはプライバシー重視などを訴えてきたが、人の心をとらえる感性は健在か。ゴーグル型端末の今後に如実に映し出されるはずだ。



【マイナ給付金、家族名義の口座登録13万件 デジタル相】
 同じ7日の日経速報メールは次のように報じた。

 河野太郎デジタル相は7日、マイナンバーと公的給付金の受取口座のひもづけで本人以外の家族名義の口座を登録する事例をおよそ13万件確認したと発表した。給付を担う地方自治体は本人と口座の名義の一致を確かめて振り込むことになるため、支給作業に遅れが出る可能性がある。

 オンラインの記者会見で明らかにした。他人の口座と誤って登録したと疑われる事案は748件に増えた。これまでは15の地方自治体で21件の誤登録が発覚していた。

 デジタル庁は5月下旬に口座の誤登録が明らかになったことを受け、5400万件程度の全ての登録口座で間違ったひもづけがないかを点検した。

 同一口座に複数のマイナンバーがひもづき家族名義の登録とみられる事例を集計したところ、銀行口座などを持たない子どものマイナンバーに親名義の口座を登録する例が判明した。デジタル庁は制度に関し「登録者本人と異なる名義の口座を受取口座として登録できない」と周知してきた。

 河野氏は「速やかに自身の口座への変更をお願いしたい」と呼びかけた。

 デジタル庁は年内をメドに口座のカタカナ氏名とマイナンバーの漢字氏名を照合するシステムを開発する。一致しない場合は登録できないようにする。

 2日に成立した改正戸籍法などによりマイナンバーを通じて氏名のふりがなを把握できるようになった。2025年6月までの法施行後にはカナ氏名同士で照合するシステムも導入する。

 他人による誤登録の可能性が高い748件への対応策も表明した。対象となる人は個人向けサイト「マイナポータル」から口座情報を閲覧できないようにする。給付を実施する行政機関にも情報提供を停止する。河野氏は「一両日中には実施したい」と語った。

 月内にも誤登録の可能性がある人へ口座情報の変更を求める通知を郵送する。

 デジタル庁は当初、誤登録の点検の過程で家族名義の登録も見つけたと説明していた。河野氏が6日、国税庁から2月にデジタル庁の担当者に報告があったと修正した。



【巨大ダム決壊で約4万2000人に洪水被害の危険。ウクライナ当局が発表】
 8日、英紙ガーディアンはウクライナ当局者の予測として、今回のダム決壊でドニプロ川の両岸で約4万2000人が洪水被害の危険にさらされており、洪水は7日にピークに達すると予想されていると報じた。国連緊急援助責任者のマーティン・グリフィス氏は「大惨事の規模は、今後数日で完全に認識されるようになるでしょう」と述べたという。

 現地メディア「キーウ・インディペンデント」によると、ウクライナ政府が任命したヘルソン州軍政当局トップ、オレクサンドル・プロクジン氏は6日午後7時半に、「この時点で、右岸(ウクライナ統治下にあるドニプロ川西岸)に約1335軒の家が水中にあることがわかっています」とSNSに投稿した。午後1時までに約3686人がこの地域から避難したという。
一方、ロシアの支配下にあるドニプロ川東岸地域でも被害が出ている。ロシア国営タス通信は、東岸のノバカホフカ市では水位が12メートル以上に上昇したほか、14の集落が浸水し、最大80の集落が浸水する危険があると報じた。「人々は近隣の集落から避難していますが、地方自治体によると、大規模な避難は必要ありません」と続けている。



【NTTが生成AI開発 金融や医療向け、米大手より低コスト】
 9日の日経ニュースメールは次のように報じた。

 NTTは2023年度中にも独自開発した生成人工知能(AI)を企業向けビジネスとして展開する。金融や医療など分野に応じた専門知識を学習させ、各業界の顧客ニーズにきめ細かく対応する。汎用的な生成AIを展開する米テック企業とは一線を画し、使い勝手と運用コスト低減を強みとする戦略で、「和製AI」が巨大テックに対抗するモデルケースになる可能性がある。

 NTTは近年、通信に加え、AIを含む法人向けのIT(情報技術)サービスに注力している。今後5年で全社で成長分野に約8兆円の投資を計画し、うちAIやロボット活用で企業や自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する事業に3兆円以上を振り向ける。研究開発の成果を事業化する機能も強化しており、言語分野のAIで国内トップ級の知見を生かす。

 NTTが独自開発するのは生成AIの基盤となる「大規模言語モデル」と呼ぶ技術だ。膨大な文書データを学習して文章の作成や要約、対話、校正など幅広い作業に応用できる。NTTは法人向けITサービス事業を手がけるNTTデータやNTTドコモなどを通じ、金融や医療、法律など業界・分野特化型として提供する。

 例えば、金融向けには市場調査の結果やアナリスト分析を学習させて投資の意思決定に役立てたり、医療向けは既往歴や病状から薬の最適な組み合わせを提案し、医師の判断をサポートしたりする活用法が想定される。将来は音声認識やカメラを使った画像認識を組み合わせ、使い勝手を高める。

「Chat(チャット)GPT」を手がける米新興オープンAIのほか、マイクロソフトやグーグルなど米テック勢が一般ユーザーから法人向けまで汎用的な生成AIに相次ぎ参入する中、NTTは法人顧客の使いやすさを追求する。

 NTTは独自開発する大規模言語モデルについて、性能の指標となる「パラメーター」の数を70億〜300億とする計画だ。オープンAIが20年に開発し、チャットGPTのベースになった「GPT-3」のパラメーター数は1750億で、NTTはその10分の1程度になる。
 パラメーター数の多いモデルは幅広い知識を身につけられるが、消費電力が膨大なのが課題だ。チャットGPTの運用費は1日あたり70万ドル(約1億円)にのぼるともいわれる。

 NTTは英語や日本語を扱う基本的なモデルを開発したうえで、金融や医療といった専門知識を学習させる。チャットGPTは社会問題から娯楽やスポーツまで広範な質問に対応するが、NTTは業務に必要な情報に絞って効率を高め、電力コストも大幅に抑える。

 生成AIはメールや会議資料、報告書の作成や議事録の要約を通じて生産性を高めると期待される。国内でも利用が進み始めているが、より中核的な業務に取り入れるには企業が社内に抱えるデータとの連携も必要だ。NTTはセキュリティーや企業内のデータの適切な扱いなどを前提に、開発したモデルを企業ごとにカスタマイズして提供することも視野に入れる。

 法人向け生成AIは米IBMやマイクロソフトなども提供を急ぐ。だが、使い勝手の良さと運用コスト低減を追求して法人ニーズを開拓する戦略は、先行する米テック勢に対抗する「和製AI」の活路の一つになりうる。NECも特定分野に特化した独自の生成AIの提供を23年中に始める計画。チャットGPTのような汎用的な使い方より、個々の用途に絞って活用する方が市場が大きいとの見方もあり、業務に使いやすい生成AIが今後広がる可能性がある。



【エーザイ認知症薬レカネマブ、正式承認勧告 FDA諮問委】
 10日朝のニュースメールは次のように報じた。

 米食品医薬品局(FDA)は9日、米バイオジェンとエーザイが開発するアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」に関する諮問委員会を開催し、正式承認を推奨すると勧告した。FDAは2023年7月6日までに可否を判断する予定だ。米国で正式承認されれば日本や欧州など世界で普及が進む可能性がある。

 レカネマブはアルツハイマー病患者の脳内に蓄積する「アミロイドベータ」というたんぱく質を除去するバイオ医薬品。これまでのアルツハイマー治療薬は認知機能の一時的な改善効果しかなかった。レカネマブは臨床試験(治験)で認知機能の悪化スピードを27%低下させる効果が示され、23年1月にFDAが迅速承認した。

 迅速承認制度は有効性が推定されれば、治験データが完全に集まる前でも使用を許可する「仮承認」の仕組み。すべての治験データが出そろい、解析が完全に終了したことから外部専門家による諮問委員会で正式承認を推奨するかどうか投票を実施し、委員会の参加メンバー6人が全会一致で賛成した。

 FDAが正式承認すれば民間保険だけでなく、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の適用対象になり、普及が本格化する。

 諮問委の評価を前に米ナスダック市場は9日、バイオジェン株の売買を停止した。東京株式市場でエーザイ株は前日比3%高で引けた。諮問委員会の勧告を受け、レカネマブの実用化への可能性が高まったことから、週明け以降に株価が大きく動きそうだ。

 FDAは新薬の有効性や評価について、承認審査前に申請者と外部の専門家らを集めた諮問委員会を開くことがある。諮問委員会の判断が承認の可否に大きく影響する。過去には諮問委員会が肯定的に評価したのにFDAが従わなかったケースもある。

 アルツハイマー病を中心とする認知症患者は先進国を中心に増加傾向にある。国際アルツハイマー病協会によると3秒に1人の割合で新たに認知症を発症する人がおり、現在5000万人とされる患者数は2050年には1億5000万人まで増えると予想している。

 認知症の治療薬としてはエーザイとバイオジェンが開発した「アデュカヌマブ」がある。2本の治験のうち1本は有効性はあったが事前に設定した評価項目に入っていなかったため「目標未達」という結果だった。FDAは迅速承認したが、欧州は承認しないよう勧告を出したほか、日本も「継続審議」として承認を見送っていた。



【全仏車いすテニス、17歳小田凱人が優勝 四大大会最年少】
 同じ10日、日経ニュースメール【パリ=共同】によると、」テニスの全仏オープン車いすの部は10日、パリのローランギャロスで行われ、シングルス決勝は男子で第2シードの17歳、小田凱人(おだ がいと 東海理化)が第1シードのアルフィー・ヒューエット(英国)に6-1、6-4でストレート勝ちし、同種目で四大大会史上、最年少制覇を決めた。

 主催者によると、大会後の世界ランキングでは現在の2位から史上最年少での1位に浮上することが確定した。

 女子は第2シードの上地結衣(三井住友銀行)が第1シードのディーデ・デフロート(オランダ)に2-6、0-6で敗れ、3年ぶり5度目の優勝を逃した。
上地はコタツォ・モンジャニ(南アフリカ)と組んだダブルス決勝ではデフロートとアルゼンチン選手のペアを6-2、6-3で破り、優勝した。



【ウクライナのゼレンスキー大統領、反転攻勢開始認める】
 11日の日経ニュースメール【フランクフルト=林英樹】によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ロシア軍に対する反転攻勢が始まっていると述べ、作戦開始を初めて認めた。「どの段階にあるか詳細は言わない」とした。ロイター通信が報じた。

 首都キーウ(キエフ)を訪れたカナダのトルドー首相との共同記者会見で明らかにした。

 ロシアのプーチン大統領は9日の国営テレビで「(反攻が)始まったと断言できる」と述べたうえで、「ウクライナ軍はどの方面でも目的を達成できなかった」と強調した。

 10日の記者会見でプーチン氏の発言について問われたゼレンスキー氏は、肩をすくめて、取り合わない態度を示した。軍の司令官たちは「皆自信を持っている。プーチンに伝えてほしい」と話したという。

 米シンクタンクの戦争研究所は9日、東部ドネツク州や南部ザポロジエ州など少なくとも4地域でウクライナ軍の反攻が続いていると指摘した。

 英国防省は10日「一部地域でウクライナ軍が順調に前進、ロシア軍の最初の防衛線を突破した可能性が高い。その他の地域では前進が遅れている」と分析した。

 一方、ウクライナ軍が反攻で投入したドイツの主力戦車「レオパルト2」3両をロシア軍との戦闘で失ったことがわかった。民間軍事情報サイトの「Oryx」が10日までに明らかにした。

 1月下旬にドイツ政府が供与を承認したレオパルト2の損失が明らかになるのは初めて。

 Oryxの10日時点のリストによると、レオパルト2、3両のほか米国製の歩兵戦闘車「ブラッドレー」11両、フランスが供与した装輪装甲車「AMX10RC」2両も失った。
南部オデッサ州では10日未明、ロシア軍によるドローン(無人機)やミサイル攻撃があった。地元当局によると、ウクライナ軍はすべてのドローンを迎撃したが、うち1機の破片が集合住宅に落下して火災が発生。少なくとも3人が死亡し、26人が負傷した。

 南部ヘルソン州の水力発電所ダムが決壊し、発生した大規模洪水を巡り、ゼレンスキー氏は9日、「40以上の地域で生活が崩壊し、数十万人の飲料水の確保に大きな支障が出ている」とツイッターに投稿した。


【テスラが変える自動車保険 安全スコア駆使、3割安も】
 12日のニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・インシュアテック(保険テック)が台頭し始めた
・テスラは車載センサーで得る安全スコアを活用する
・自動車保険のゲームチェンジャーになる可能性がある
デジタル技術で保険のあり方を変える「インシュアテック(保険テック)」が台頭し始めた。米テスラがデータを駆使して自動車保険の作り方を変え、割高な商品を売ってきた保険会社にくさびを打ち込む。保険テックがもたらす保険の未来を追う。

「2022年末に保険料収入が年3億ドル(約420億円)規模に達し、四半期の成長率は20%と自動車販売より高い」。テスラが1月に開いた決算説明会。ザック・カークホーン最高財務責任者(CFO)は同社が開発する通称「テスラ保険」の事業拡大に自信を見せた。

 米国では年齢や性別、事故・違反履歴によって決まる自動車保険料を支払うのが一般的だ。一方、テスラが同社の電気自動車(EV)の保有者に提供するテスラ保険は、こうした情報を利用しない。加入者は走行距離や保有車種・台数、居住地、必要とする保障水準の5項目を提供すればすむ。

 こうした基本的な情報に加えて、テスラ車が自動運転などのために搭載しているセンサー類を活用して導き出す「安全スコア」を活用する。テスラは80億マイル(約128億キロメートル)の走行データを分析し、スコアの算出式を構築した。これを利用して一人ひとりのドライバーの走行距離100万マイルあたりの事故発生確率を予測し、0から100の数字で示す。
 急ブレーキや衝突警告、先行車両との異常接近が増えるとスコアは下がり、深夜の運転などもスコアの低下につながる。日々のスコアはスマホのアプリで確認でき、月次平均を保険料に反映させる。スコアがよければ保険料が下がる仕組みで、「従来よりも20~30%安くなる」(同社)と説明している。

 イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「保険会社は運転者の情報を十分に入手できず、保険料に反映させられなかった」と語る。カリフォルニア州で始まったテスラ保険の展開地域は12州に拡大し、米国の人口の約4割をカバーする。

 こうした動きは他社にも広がる。自動車部品の米ルミナー・テクノロジーズは2月、同社の高性能センサーLiDAR(ライダー)を載せた車の保有者に、割安な保険を販売する計画を明らかにした。

 車に搭載した端末や部品で集めた運転データで事故リスクを分析し、保険料をはじく手法をテレマティクス保険と呼ぶ。調査会社グローバルインフォメーションなどによると、22年に推定52億ドルのテレマティクス保険の世界の市場規模は30年までに213億ドルに成長する見通し。

 自動車損保全体(22年で約7837億ドル)とまだ差はあるものの、テレマティクス保険の成長率は約2割と高い。自動運転の精度が高まれば、センサーや人工知能(AI)によってドライバーの過失も減り、従来の高い保険が不要になる。割安な保険を提供するテスラやルミナーが業界のゲームチェンジャーになる可能性がある。

 伝統的な損保会社にとっては脅威で、日本でもテレマティクス保険を育てる動きはある。あいおいニッセイ同和損害保険は通信車載器で取得した走行データから安全スコアを計算し、保険料を割り引く商品などを発売している。同社のテレマティクス保険の契約台数は180万台を超えた。あいおいニッセイの新納啓介社長は「伝統的な車保険が通用しない世界が確実にやってくる」と話す。
 法人車両の運行管理サービスをてがけるi-SMAS少額短期保険と、ドライブレコーダーから得られる運転情報を使って保険料が変動するリース車両向け商品を開発した。今後は大手損保と組み「本丸である個人向けの車保険を開発する」(スマドラの元垣内広毅取締役)。

 新勢力による割安な保険の普及をにらみ、コスト削減にも動く。損害保険ジャパンは米保険テックのプロトシュアと組み、約1年かかっていた保険商品の開発期間を数日から数週間に縮める。保険料計算式の開発、帳票の作成などをノーコード(プログラミング不要)で処理し、「コスト削減と営業効率の向上につなげる」(損保ジャパンDX推進部の栗山加奈子課長代理)

 モータリゼーションとともに損保は成長し、国内で保険料収入に占める自動車保険の割合は1960年代の1割強から今や約5割に達した。だが既存の保険会社だけでシェアを競う時代は転機を迎えつつある。データのさらなる活用やスタートアップなど異業種との連携の巧拙が生き残りのカギになる。


【FRBがおびえるUの悲劇 利上げの一時停止で様子見か】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。

【米連邦準備理事会(FRB)が「神秘の殿堂」と呼ばれていた頃である。1987年に就任したグリーンスパン議長は、曖昧な情報発信で言質を与えない。

 その金融政策をどう読むか。当時の市場関係者は、議長のかばんの厚みに目をつけた。吟味すべき情報が多ければ、持ち帰る資料は増える。だから利上げや利下げの決断も近いという理屈だ。

 成果のほどはわからない。「妻がランチを作ってくれるかどうか。それがかばんの厚さを決めていた」。2006年に退任したグリーンスパン氏の説明を聞き、苦笑せずにはいられなかった。

 どこか頼りないやり取り
 神秘の殿堂は明らかに進化した。フランス中央銀行のエコノミストたちによると、FRBが米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に発表する声明は、いまや15〜16歳程度の教育レベルで理解できる。欧州中央銀行(ECB)や英イングランド銀行(BOE)の20〜21歳程度より平易だ。

 対話型人工知能(AI)を活用すれば、声明のスタンスをかなり的確につかめるといわれる時代でもある。FRB議長の記者会見やFOMCの経済・金利見通しを含め、金融政策を読む材料や手段が広がったのは間違いない。

 それでも現職のパウエル議長は新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争などへの対応に悩み、市場との対話に苦労してきた。いまは22年3月に開始した利上げの到達点に確信を持てず、どこか頼りないやり取りを続ける。

 13〜14日に開く次回のFOMCでは利上げを一時停止し、物価の動向次第で再開する方針をにじませる公算が大きい。金融引き締めの累積的な効果を見極め、次の一手を熟慮する時間を得るための「スキップ」とみられる。

 米国のインフレ退治は道半ばだ。FRBが重視する個人消費支出物価指数や賃金指標の上昇率は、前年比で高止まりの状態にある。ならば現行5.00〜5.25%の政策金利を、もう少し引き上げるべきだという声は根強い。

 オーストラリアやカナダの中銀はひとまず様子見に転じてから、追加利上げに動いた。たとえFRBが次回会合で政策金利を据え置いても、その先の7月会合で0.25%引き上げるとの見方は消えない。サマーズ元米財務長官は「0.5%引き上げの余地も残しておいたほうがいい」と語る。

 さりとて一層の引き締めが、金融不安の再燃や景気後退の危険を招くのも怖い。「5月会合の利上げで結果的に打ち止めとし、早ければ年内に利下げに転じるのではないか」(グローバルマーケットエコノミストの鈴木敏之氏)との予想も一定の広がりを持つ。

 より緩やかにできた右半分
 振り返れば、ここ数年のパウエル氏はまさに失点続きだった。コロナ危機を乗り切るためのゼロ金利政策や量的金融緩和の復活はやむを得ない。だが前年比2%の目標を超える物価上昇率をしばし容認する枠組みまで導入し、巨額の財政出動を繰り返す米政府と一緒に、景気刺激のアクセルをあまりに長く踏み込みすぎた。

 需要拡大の結果でもあるインフレを、供給制約による一時的な症状と誤診し、金融政策の転換が遅れてしまった責任は免れない。これらの汚名を返上する高速の利上げが、今度は金融不安の広がりや景気後退のリスクを呼ぶ。

 スペイン中銀のエコノミストらは、過去150年間に先進国17カ国で起きた金融危機の特徴を探った。利下げ局面で経済や市場の過熱が危険水域に達するからこそ、その後に続く利上げ局面が銀行破綻や信用収縮を誘発する。大恐慌やリーマン・ショックも含めた70件余りに共通するのは、金利を「U字」のように急激に下げてから上げる金融政策の弊害だった。

 FRBが描いたU字のうち、左半分の急勾配を責めるわけにはいかない。しかし金融政策をもっと早く転換していれば、右半分の傾きをより緩やかにできたはずだ。パウエル氏も「Uの悲劇」を招きかねない危うさを自覚しているがゆえに、ここでいったん立ち止まりたいのではないか。

 利上げの完了や利下げへの移行を巡る市場の観測がなかなか収れんしないのは、そんなFRBに対する信認が揺らいでいる証拠だろう。失点をこれ以上重ねたくないパウエル氏も、経済指標の点検に慎重を期すあまり、政策運営の周知が遅れるという悪循環にはまりつつあるようにみえる。

「金融政策の枠組み再検討」
有力なエコノミストが中銀を舞台に演じる「知の競争」は、経済のニューノーマル(新常態)の解明と、金融政策のイノベーション(技術革新)に貢献してきた。FRBの理論や行動も、こうした遺産の延長線上にある。

 だがコロナ禍とウクライナ戦争がもたらした経済・物価・金融の混乱は、石油ショックともリーマン・ショックとも違う。過去の診断に縛られ、誤った処方を繰り返すわけにはいかない。

 「いまは金融不安や景気後退を避けながら、インフレを抑え込むのが先決だが、これまでの反省を踏まえて金融政策のフレームワーク(枠組み)を再検討する必要がある」。専修大学の田中隆之教授は経済情勢に応じたインフレ目標の柔軟な運用や、フォワードガイダンス(先行き指針)の設定の仕方にも知恵を絞るよう求める。

 FRBにはもう間違えてほしくない。まして14日のFOMC声明やパウエル議長の記者会見でつまずき、市場を混乱させるようではお話になるまい。



【LINE、証券業務から撤退 株式部門を野村証券に移管】
 12日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 LINEと野村ホールディングス(HD)が共同運営するネット証券会社のLINE証券(東京・品川)は12日、主力の株取引などのサービスを野村証券に移管すると発表した。LINE証券にはFX(外国為替証拠金)取引のみが残る。株式投資の初心者の取り込みを狙って2019年に参入したが、競争が激しく、事実上の撤退となる。

 LINE証券は150万口座(22年時点)あり、LINEの金融子会社が51%、野村HDが49%出資する。24年中に証券事業を会社分割の形式で野村証券に移管する。LINE証券はFXに特化する。株式サービスの顧客口座は野村証券に移して、引き続き取引できるようにする。LINE証券は取引手数料の低さで顧客を集めてきた。

 LINE証券の2022年3月期は最終損益が105億円の赤字だった。当初は最低投資額を抑えることで投資初心者などの運用ニーズを幅広く取り込み、収益化する計画だった。口座数は伸びてきたものの、少額の取引が多いため、手数料収入で運営コストを補えていない。

 LINE側にはグループで重複する事業を解消する狙いもあるようだ。LINEの親会社であるZホールディングスは2月、同じくZHD子会社のヤフーを含む3社が合併する方針を公表した。ZHDはグループでPayPay証券を抱えており、LINE証券は事業が重複していた。

 LINEは3月、みずほフィナンシャルグループと共同で開業を目指してきた新銀行「LINEバンク」の設立中止を発表した。スマホ専業銀行として若年層などを取り込む狙いだったが、システム開発が難航し、競争環境も変化したことから、撤退を決めた。

 LINEと野村HDは2023年春以降、水面下で他の証券会社などにLINE証券の売却を提案してきた。もっとも、赤字が続くことなどから、買い手が見つかっていなかった。

 これまで大手金融機関は、幅広い世代が利用する対話アプリのLINEと組むことで、若年層の取り込みやデジタル戦略の拡大を狙ってきた。当初想定していた以上に事業の収益性が低く、ZHDの事情もあって、戦略の見直しを迫られている。


【宇宙開発でJAXAが民間に投資 政府、参入後押し】
 同じ12日、日経ニュースメールは次のように報じた。

 政府は国立研究開発法人の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が民間ビジネスに投資できるための法改正に乗り出す。官民で小型衛星網などを整備し、商用に時間を要しリスクの高い宇宙開発に企業が参入しやすい環境をつくる。脅威が増す宇宙空間の安全保障環境をにらみ技術力を高める。

 米国では米航空宇宙局(NASA)や政府の支援で米スペースXを中心に新興企業が台頭した。日本も国やJAXAが資金や技術で全面的に関与して官民一体で事業を育てる方針に転じる。

 世界では民生、安全保障分野を横断した宇宙開発の競争が激しい。中国やロシアが宇宙への進出を急ぎ、米国や英国は軍事衛星や商業衛星への妨害行為を監視する仕組みを整える。

 JAXAは民間事業と距離を置いてきた。いまは業務として規定するのは学術研究や人工衛星などの開発、技術者養成など11項目に限る。ビジネスとの関わりは衛星打ち上げなどで「民間事業者の求めに応じて援助・助言」にとどまり、受け身で対応する立場だ。

 こうした姿勢を改めるため、政府はJAXA法に民間事業者を支援するための基金をつくる規定を設ける。秋の臨時国会への同法改正案の提出をめざす。
 宇宙開発のスタートアップなどへの大型投資が可能になる。科学技術分野の活性化を目指す法律が2021年4月に施行し、研究開発法人による事業会社への出資を認めている。
 JAXAは22年12月に人工衛星データ活用の新興企業、天地人(東京・港)へ初出資したが、額は特許収入などで捻出した数千万円規模にとどまった。23年4月には宇宙ロケットを開発するSPACE WALKER(東京・港)がJAXAから第三者割当増資で1000万円を調達した。
 スタートアップに出資し、事業が育って配当が得られれば、新たな国費を使わずに次の投資に生かせる。政府・与党内には民間事業に数年で1兆円規模を投資する構想がある。
 資金の運用判断が重要となり、政府は日本として強化すべき技術を定義する「宇宙技術ビジョン」を策定する。JAXAが商用化を進める分野を判断し、間接的に公費を投じることへの公平性や客観性を確保する。
 重視する事業の一つは多数の小型衛星を連携させて低軌道で一体的に運用する「衛星コンステレーション」だ。通信の遅延時間が短い中・低軌道を周回する非静止衛星を用いるため、世界全域でいつでもどこでも高速大容量通信が可能になる。
 日本企業による小型衛星網の構築は着手したばかりだ。新興企業が開発や運用に取り組んでおり数基のレベルにとどまる。
 宇宙ビジネスの市場規模は2040年代に100兆円を超すとの見方がある。一般社団法人SPACETIDE(東京・港)によると、国内に宇宙開発のスタートアップは85社あるという。
 多くは民間顧客からの収益が少なく、運転資金を増資で確保せざるを得ない。ispace(アイスペース)などに出資するベンチャーキャピタル(VC)、インキュベイトファンドの赤浦徹代表パートナーは「スタートアップが開発した商品や技術を政府が積極的に買い付ければ売上高が増え、成長が加速する」と指摘する。

【トヨタ、27年にも全固体電池EV投入 充電10分1200キロ】
 13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・投入する全固体電池を搭載したEVは航続距離が2.4倍
・実用化は、EV市場のゲームチェンジャーとなりうる
・全固体電池の市場規模は3兆8600億円、開発競争は激化
 トヨタ自動車は2027年にも次世代電池の本命とされる「全固体電池」を搭載した電気自動車(EV)を投入する。10分以下の充電で約1200キロメートルを走行でき、航続距離は現在のEVの2.4倍に伸びる。弱点だった電池の寿命を伸ばし、今後は量産化に向けた技術開発を急ぐ。実用化すれば、EV市場の勢力図を塗り替える可能性がある。
 トヨタがこのほど静岡県の研究拠点で開いた技術説明会で方針を明らかにした。全固体電池の耐久性の課題を克服したとし、具体的な実用化の時期として27〜28年をあげ、EVへの搭載を目指すとした。CTO(最高技術責任者)を務める中嶋裕樹副社長は「いい材料が見つかった。世の中に後れを取らず、必ず実用化する」と述べた。
 一般に全固体電池はEVで主流の液体リチウムイオン電池に対し、電解質が固体になり、充電時間が短く航続距離を伸ばせるのが特徴だ。固体の電解質と固体の電極を密着させ、離れないようにする必要がある。充放電によって電極が膨張と縮小を繰り返すと電解質と電極が離れてしまい使えなくなる。これまでは一般的に充放電が数十回〜数百回しかできず、実用化に必要な数千回以上が達成できていなかった。
 トヨタは全固体電池の研究開発で先行し、1000以上の関連特許を持っている。20年夏には世界で初めて全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行した。20年代前半のハイブリッド車(HV)での搭載を目指していた。トヨタは開発をさらに進め、将来は同じ10分以下の充電時間で航続距離を約1500キロまで伸ばすことも視野に入れている。
 EVの性能は電池に大きく左右される。現状は充電の長さや1度の充電で走れる距離でガソリン車やHVに見劣りする。トヨタの現行のEV「bZ4X」向けリチウムイオン電池の充電時間は約30分で、航続距離は約600キロだ。日産自動車の「アリア」は約45分の充電で380キロ、テスラの「モデルY」は約15分で最大260キロだ。
 全固体電池の普及にあたっては今後、量産工法の開発がカギとなる。製造コストを下げる技術開発が欠かせない。科学技術振興機構の試算では、全固体電池(硫化物系)の製造コストは1キロワット時当たり6万〜35万円で、既存のリチウムイオン電池(同1万4000円)に比べて4〜25倍高い。
 電池技術に詳しい産業技術総合研究所の小林弘典総括研究主幹は、自動車メーカーが実用化にこぎつけた初期段階では「高級車など一部の車種に限定した形で搭載する可能性が高い」との考えを示す。
 全固体電池はリチウムイオン電池の「次」として注目され、各社が研究開発を進めている。調査会社の富士経済(東京・中央)は、全固体電池の市場規模は40年には3兆8605億円にまで拡大するとみる。
 日産自動車は、28年度までに自社開発の全固体電池を搭載したEVを市場投入する計画を掲げる。24年度までに横浜工場(横浜市)に試作品の生産ラインを設け、材料や設計、製造プロセスについて検証する。独BMWは25年までに全固体電池を積んだ実証車両を公開し、30年までに量産する計画だ。
 電動車シフトは世界的に鮮明になっており、トヨタは全固体電池の実用化でEVの加速に弾みをつける。EV拡充を打ち出しており、22年の世界販売は約2万台にとどまるが、「26年までに年間150万台、30年までには350万台」を掲げる。
 トヨタは全固体電池とは別に既存の液化リチウムイオン電池の性能も高めていく。26年にも次世代品を投入する計画で、20分間の充電で現行のEV「bZ4X」の2倍に当たる約1000キロを走行できるようにする。27〜28年に全固体電池搭載のEVを投入できれば、30年までには様々な電池を搭載した車種を幅広く取りそろえられることになる。

【CCCと三井住友、Vポイントに統一 24年春サービス統合】
 同じ13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)は13日、両社のポイント事業「Tポイント」と「Vポイント」を2024年春に統合した後の名称を「Vポイント」に統一すると発表した。Tポイントの知名度と三井住友FGが持つ決済サービスを掛け合わせ、ポイント経済圏を広げてきた楽天グループなどに対抗する。

 ポイント事業の統合により約20年の歴史を持つTポイントの名前は消滅する。新しいロゴはTポイントと同様に青と黄色を基調にしたデザインにした。

 TポイントはCCC傘下のCCCMKホールディングス(HD)、Vポイントは三井住友FG傘下の三井住友カードが運営する。4月に三井住友がグループでCCCMKHDに4割出資した。残りの6割はCCCが保有する。

 会員数はTポイントが約7000万人、Vポイントは約2000万人だ。数え方が異なることから一概には比較できないが、統合した際の会員数は単純合算で約9000万人となり、1億人を超えるPonta(ポンタ)ポイントや楽天ポイントと同じ規模の勢力となる。

 Tポイントは決済・金融サービスとの連携に、Vポイントは知名度に課題があった。共通ポイントの草分けで消費者に広く浸透しているTポイントと、「三井住友カード」などと連動するVポイントが統合することで、互いの弱点を補い合う狙いがある。ポイントと決済に対応するアプリを開発する。

 Tポイントは03年に業界に先駆けて展開を始め、ファミリーマートやすかいらーくグループなど幅広い企業と契約を結んだ。加盟店はTポイントを集客に利用でき、CCCは手数料と購買データを受け取る「共栄共存」の関係を築き一大勢力に育った。

 ただ近年は有力な電子商取引(EC)や決済サービスと連携する楽天ポイントや、NTTドコモの「dポイント」などの攻勢で苦境に立たされていた。Tポイントの加盟店数は約15万店舗まで縮小しており、飲食店など600万カ所以上で使える楽天ポイントに水をあけられている。再び存在感を高めるには、三井住友FGとの資本業務提携の相乗効果をどこまで引き出せるかがカギとなる。


【日経平均、終値3万3000円台 トヨタ株急騰で変わる潮目】
 同じ13日の日経速報メールは次のように報じた。
 13日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に3日続伸し、前日比584円65銭(1.80%)高の3万3018円65銭で引けた。バブル崩壊後の高値を更新し、33年ぶりの高値となった。この日の相場で市場の注目を集めたのがトヨタ自動車株だ。一時上昇率が5.5%を超え、PBR(株価純資産倍率)が1倍を上回った。日本を代表する株式銘柄のPBR1倍乗せは、日本株の潮目が「割安だから買う」から「成長性があるので買う」に変化したことを示唆する。

 13日に業種別で上昇が目立ったのは「車」だ。4月以降の日本株高に対して出遅れていたが、6月に入り物色が広がっている。

 2027年にも電池寿命の長い「全固体電池」を搭載した電気自動車(EV)を投入するとの報道が、13日のトヨタ株の買い材料だ。株価は一時前日比114円(5.5%)高の2183円まで上昇し、22年8月17日以来およそ10カ月ぶりの高値をつけた。1株あたり純資産は2089円で、PBR1倍を上回る。EVなどを巡り市場の期待面でも米テスラなどに先行を許していたが、トヨタの自動車の総合力を背景にした見直し買いが集まっている。
 「今後、PBR水準の上方修正が起きる」。13日のトヨタの上昇を受け、東海東京調査センターの長田清英チーフストラテジストはこう話す。自動車業界では「EVなどの次世代自動車でどれだけプレミアムが乗るかが市場の評価につながっていた」(長田氏)。東京証券取引所によるPBR1倍割れ企業に対する是正要請が市場のテーマになるなか、終値で3万3000円に乗せた日経平均にも追い風だ。
 実際に、物色のすそ野はEV向けの半導体や燃料電池を手がける関連企業にも広がっている。EV向け半導体が主力のルネサスエレクトロニクス、ホンダとリチウムイオン電池で協業するジーエス・ユアサコーポレーションはいずれも一時5%超高と、ともに13日に年初来高値をつけた。大和証券の阿部健児チーフストラテジストは「日本企業の本業における成長性期待も出たことで、海外勢による日本株物色がさらに広がる可能性がある」と指摘する。
 4月以降、PBR1倍割れに対して自社株買いなどで対応する企業は多く、市場関係者からは「短期の資本施策ではなく持続的な成長ストーリーを示してほしい」(外資系運用会社)との声も目立っている。今回のトヨタのPBR1倍超えを機に、日本株高は株主還元だけでなく事業成長性の側面からもう一段加速する可能性がある。

【NATO、日韓豪NZと新協力計画 サイバー・宇宙で連携】
 同じ13日夕方、日経速報メールは次のように報じた。
 北大西洋条約機構(NATO)は日本と韓国、オーストラリア、ニュージーランド(NZ)の4カ国と新たな協力計画をつくる。サイバーセキュリティーや宇宙、偽情報対策など安全保障に関わる分野で連携を強化する。欧米の加盟31カ国とインド太平洋の4カ国が結束を深め、対中国で抑止力を高める。

 NATOと日本は今夏にも新たな協力計画を取りまとめる方針だ。インド太平洋の3カ国とも同時並行で個別に調整を進める。2024年に設置をめざすNATOの東京連絡事務所を、4カ国との協力を実行に移すハブ拠点と位置づける。
 テロ対策やサイバー安全保障などの分野での協力事項を整理した「国別パートナーシップ協力計画(IPCP)」を12年以降に4カ国と結んだ。これを「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」と呼ぶ新しい枠組みに格上げし、中長期にわたる協調策をとりまとめて対中国の課題に対処する。
 NATOは日韓豪とNZをインド太平洋における重要パートナーと位置づけ、首脳会議や外相会議にも代表者を招いている。07年に豪州と秘密情報の保護協定を締結。韓国ともハイレベルの定期協議を重ねてきた。4カ国を欧米の集団防衛体制に組み込むのではなく、情報共有やサイバー演習など幅広い分野で連携拡大を探る。
 NATOは22年にまとめた戦略概念で中国が「体制上の挑戦」を突きつけていると明記した。中国によるサイバー攻撃や偽情報の拡散といった新たな脅威が、防衛対象である北大西洋にも及ぶことに警戒を強めている。
 加盟国の在京大使は「パートナーの4カ国と連携を深めることが新たな脅威の本質を理解するのに不可欠だとの考えが、NATO内で広がりつつある」と語る。
 4月にNATOのサイバー防衛部門が主催した大規模演習に、日本は豪国防省との合同チームで参加した。世界のサイバー動向を共有し、サイバー攻撃への対処能力の向上を図る。NATO関係者は「内外の有志国が連携し、欧米とインド太平洋の共通課題であるサイバー分野で対応力を高めていく」と意義を強調する。
 偽情報対策の知見も交わす。安保上の脅威となっている「ディープフェイク」と呼ばれる画像や動画の技術や情報を共有し、有事の際に偽情報で戦況判断を誤ったり、SNSなどを通じて国民が混乱に陥ったりするリスクを防ぐ。
 気候変動が安保体制に与える影響についての協議も視野に入れる。海洋や大気の状態といった環境が変化すれば、部隊の配置や装備など作戦の練り直しを迫られかねないためだ。
 インド太平洋への関与を巡ってはNATOは一枚岩ではない。フランスのマクロン大統領は4カ国との協力強化に前向きだが、東京事務所の開設には反対している。中国を過度に刺激し、外交や貿易に悪影響が出るのを避けたいとの考えがある。
 NATOの意思決定は全加盟国の同意が原則で、フランスが賛同しなければ東京事務所は認められない。日本やNATO事務局は協力計画を円滑に進めるために日本に拠点が必要だとしてフランスの説得を試みている。

【ウクライナ、「南ドネツク戦線」で露軍占拠の7集落を奪還…反転攻勢開始から1週間】

 12日づけの読売新聞は次のように報じた。

 ウクライナ国防次官は12日、ロシア軍からの領土奪還に向けた大規模反転攻勢の開始から約1週間で、東部ドネツク州と南部ザポリージャ州の七つの集落を奪還したとSNSで明らかにした。制圧したのは、ドネツク州南西部ベリカノボシルカ南方の約90平方キロ・メートルに及ぶという。

 ウクライナ軍は4日以降、ドネツク州南西部とザポリージャ州東部に延びる「南ドネツク戦線」で攻勢に転じている。国防次官は発表済みの4集落に続き、州境界に位置するザポリージャ州ノボダリフカなど3集落も奪還し、軍部隊が6・5キロ・メートル進軍したと説明した。

 ウクライナ側は、ロシア本土と南部クリミアを結ぶ「陸の回廊」の遮断を狙っており、アゾフ海に面した港湾都市マリウポリやベルジャンシク進軍に向けた進展を強調した。攻防は、露軍が強固な防衛陣地を築く地域に移りつつある模様だ。
 ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日夜のビデオ演説で「悪天候が任務を一層困難にしているが、兵士の強靭さが結果をもたらしている。解放された集落にウクライナの国旗が戻っていることに感謝する」と語った。

 国防次官は、ウクライナ軍の進軍を防ぐため、露軍が南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムを爆破したと訴えた。ダム決壊後、露軍がドニプロ川東岸に駐留していた「最も戦闘準備が整った部隊」をザポリージャ、ドネツク両州に移動させているとも指摘した。



【東京都、生成AIを8月導入 ChatGPTでマニュアル要約】
 13日の日経速報メールは次のように報じた。

 東京都は生成AI(人工知能)を全ての部局の業務に8月から導入する。まずは米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」を業務マニュアルの要約やQ&Aの作成などで活用することを想定している。

 小池百合子知事が13日、開会中の都議会で「様々な行政分野で活用を進める」と答弁した。

 都は生成AIの活用について、情報漏洩や誤情報の可能性などの懸念を踏まえ、導入の検討を進めてきた。有効性の検証やガイドラインを策定したうえで導入する。

 関連法令の情報抽出や行政事例の収集、高度なプログラミング技術がなくても扱える「ローコード開発ツール」で使うコード生成などでの活用も検討する。



【ChatGPTを会議ツールに リアルタイムで要点整理】
 同じ13日、日経速報メールは次のように報じた。

 福岡市のスタートアップ、postalk(ポストーク)が、対話型人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」を活用して会議の発言を整理するツールを開発した。単なる文字起こしにとどまらず、AIが議論を話題ごとに要約して画面上にまとめる。議事録作成の手間を省きつつ、アイデアが見過ごされないよう手助けする。

「引き継ぎ資料づくりにチャットGPTを使えるかも」「想定問答のアイデアをゼロから出してほしい」。6月2日の昼過ぎ、起業支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」(福岡市中央区)の一角で開かれた生成AIに関する勉強会。福岡市が職員向けに開いたもので、参加者が使い道について議論していた。

 手元のパソコン画面をみると「引き継ぎ資料づくり」や「アイデアづくり」など話題がテーマごとに30〜50字でまとまり、自動で書き込まれていく。ある職員は食い入るように画面を見つめ、「ちゃんと要約されていてすごい」とつぶやいた。

 当日は約140人が参加。チャットGPTなどの新技術を業務効率化や市民サービス向上にどうつなげるか話し合った。
 会合で議論の整理に一役買ったのが、ポストークがチャットGPTを用いて4月に公開した新ツール「postalk with(ポストークウィズ)」だ。福岡市は勉強会を開くに当たり、FGNに入居する地場スタートアップである同社のサービスに白羽の矢を立てた。
 同社はパソコンやタブレットの画面をホワイトボードに見立て、そこに付箋を貼る感覚で情報やアイデアを整理するデジタルツールを年8980円ですでに提供。重要な付箋に色をつけたり並べ替えたりして、議論の流れをわかりやすく示すことができる。
 これまでは付箋をいちいち手動で作らなければならず、会話で出たアイデアを見落とすおそれがあった。そこでスマートフォンに会話をふき込むだけで、話題をチャットGPTが短文にまとめる新ツールを公開。単なる文字起こしや要約だけなら他にもあるが、既存のサービスと掛け合わせてアイデアの整理まで支援できるのが強みだ。
音声認識には、チャットGPTの開発元である米オープンAIの「Whisper(ウィスパー)」を採用。ポストークは両システムと、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)という仕組みで接続している。

 課題は精度の向上だ。福岡市の勉強会では、複数人の発言を混ぜて要約したような付箋がみられた。ポストークの川野洋平代表は「会議の参加者が同時に話した場合やうるさい場所では会話をうまく聞き取れず、要約の精度が落ちることがある」と説明する。

 音声認識機能がない既存版のサービスはベトナムや米国、台湾など64の国・地域の企業などで採用例がある。国内では九州大学をはじめとする大学の運営や、ゼミの現場でも導入例がある。postalk withについても改良を進めつつ、企業戦略やセールスを担う人物を採用し、拡販につなげていく考えだ。

 ポストークは2018年に福岡市で設立。福岡市が優れた製品やサービスの販路開拓を支援する「トライアル優良商品認定事業」に選ばれている。



【石棺は「弥生後期有力者の墓」 吉野ケ里、副葬品なし】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。

 佐賀県は14日、吉野ケ里遺跡の「謎のエリア」で見つかった石棺墓の発掘作業を終えた。被葬者の身分や時代の特定につながる人骨や副葬品は見つからなかったが、墓の立地状況などから、同遺跡では初となる弥生時代後期の有力者の墓と結論付けた。石棺内には全面的に赤色顔料が塗られていた可能性が高いことも判明した。

 同日記者会見した山口祥義知事は「まだ発掘していくので期待してほしい」と述べた。県は、約4千平方メートルの発掘対象地域のうち、未着手の約4割についても今年9月から調査する方針。

 県によると、石棺墓は10枚の石と4枚のふた石だけで構成され、底は地面のままだった。内寸は長さ約180センチ、幅約36センチ、深さ約27センチだった。ふたの裏や石棺の石6枚に加え、底の土にも赤色顔料が付着していた。被葬者の骨や衣服は土壌により分解されたとみられ、副葬品は有機物の場合は同様になったか、元々入れてなかった可能性がある。

 石棺墓は丘陵地の頂上部で見つかり、墓を入れるための穴が通常より大きかった。さらにふた石に「×」の記号のような線刻が多数確認されたことなどを踏まえ、県は「総合的に考えて、有力者の墓だと判断した」としている。

 吉野ケ里遺跡では、昨年5月からこれまで手つかずだった「謎のエリア」と呼ばれる日吉神社跡で県が発掘調査を開始、今年4月下旬に石棺が見つかった。〔共同〕



【革新的がん治療、日本が特許競争力で首位 米国抜く】
 同じ14日、ニュースメールは次のように報じた。

 世界で2020年代後半に普及する見通しの革新的ながん治療技術で日本の存在感が高まっている。特許の競争力を集計すると日本が首位で、長年優位を保った米国を21年に逆転した。足元では3位の中国が急速に有力特許を増やしつつある。

 がんは世界で毎年約2000万人が新たにかかり、毎年1000万人が亡くなる。がん向けの医療機器や医薬品の市場を巡って国際競争が激しくなっている。日本の各社は足元で優位に立つ技術力を武器に、海外への治療機器の輸出を急ぐ。
抗がん剤や免疫薬などに次ぐ治療の新たな選択肢として「重粒子線治療」「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」「光免疫療法」への期待が高まる。3種類の治療法は16〜20年に世界に先駆けて日本で国の保険の対象になった。

 炭素などのイオンを加速して照射する重粒子線治療は前立腺や膵臓(すいぞう)、肝臓や子宮頸(けい)がんで国の保険を使える。ホウ素剤と中性子を使ってがんを壊すBNCTと、レーザー光などを使う光免疫療法は頭頸部がんの治療に使える。
 いずれも従来技術に比べて体の正常な組織を傷めにくく、副作用を抑えて治療の効果を高めるとされる。

 日本経済新聞がパテント・リザルト(東京・文京)に依頼し、日米欧の主要3地域で出願された関連特許を集計した。00〜22年末までに公開された3148件について、国際出願の有無や競合他社からの注目度などから特許の競争力を点数(スコア)化した。

 日本は出願件数では米国に次いで2位だったが、スコアで首位だった。10年以降に重粒子線治療やBNCTで有力な特許を増やして21年に米国を抜いた。

 特に重粒子線治療のスコアは1446点と2位の米国の4倍に達した。組織別の10位以内に日立製作所や東芝など最多の8社・機関が入った。背景には1980年代に日本でがんが死亡原因の首位になり、社会的に大きな課題となったのを受けて、日本政府が治療技術の開発に力を入れたことがある。

 日立や東芝は国の支援を受けて、1990年代に重粒子線治療向けに世界初の専用装置を開発した。その後、保険の対象になり、市場ができたことで技術開発が進んだ。

 BNCTのスコアで日本は3位だが、先駆的な臨床研究を重ねた京都大学が企業と連携して装置と治療薬を開発した。日本は光免疫療法で首位でアステラス製薬など3社・機関がトップ10に入った。

 国別のスコアで2位は米国だった。特にBNCTが1381点と首位で、2位の中国や3位の日本の2倍に達した。米ノースカロライナ大学など研究機関の有力特許が医薬品をがん細胞に集める用途などで目立つ。米国は重粒子線治療と光免疫療法でも2位だった。

 スコアと出願数でともに3位の中国は10年に出願が2件だったが20年に約40倍の87件に増やした。中国政府は10年代から医療機器の企業を支援してきた。BNCTでは中国のスタートアップのニューボロン・メドテックが組織別で首位だった。中性子を正確にがんに当てる特許を持つ。同社の技術を使い、22年に患者を治療する医師主導の治験が始まった。

 日本企業は海外展開を急いでいる。重粒子線治療では東芝子会社の東芝エネルギーシステムズが23年4月に韓国で、日立が5月に台湾で施設を稼働させた。日立は米国や中国でも建設を進める。住友重機械工業も22年に中国へBNCTの医療機器を輸出する契約を結んだ。

 韓国の延世(ヨンセ)大学のセブランス病院(ソウル市)では6月12日、重粒子治療センターの開所式が開かれた。式典で東芝の村田大輔・新技術事業統括は「重粒子線治療装置は今後10年間で数千億円の市場となる。1年で2〜3件の受注契約を結んで重粒子線治療装置で年間数百億円の売上高を目指す」と述べた。

 調査会社ケネス・リサーチによると、重粒子線治療やBNCTを含む粒子線治療の世界市場は30年末までに約23億ドル(約3300億円)と22年比で2倍に増える見通しだ。光免疫療法も台湾や米国で臨床試験(治験)が進む。

 日本はかつて家電や太陽電池で世界をリードしたが、技術力を付けた中国企業に市場を奪われた。市場で優位に立ち続けるための戦略が求められる。

 がんは日本人の6割が一生の間に患い、毎年40万人弱が亡くなる死亡原因として首位の病気だ。従来、治療技術の主な選択肢は手術、放射線治療、抗がん剤の3つだった。10年代に第4の選択肢として体の免疫力を高める免疫薬が登場した。治療技術は進化しているが、診断から5年後の生存率は日本で約7割にとどまり、より効果的な治療法が必要だ。



 【中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難】
 同じ14日、日経速報メールは次のように報じた。

 【北京=川手伊織】中国の地方財政が厳しさを増している。地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。

 金融不安への飛び火を防ぐには債務圧縮が不可欠だ。ただ地方経済の発展モデルが崩れ、中国景気の重荷になるリスクも高まる。

 中国の中央政府(国務院)は「地方政府の合法的な資金調達ルートは地方債のみ」と定める。実際には融資平台が資金を調達し、公共事業などで経済を支えてきた。

 地方政府による「暗黙の保証」があると受け止められている融資平台の負債は、地方政府の隠れ債務とみなすのが一般的だ。

 この隠れ債務が急拡大している。米調査会社ロジウム・グループによると、22年末時点で59兆元(約1150兆円)に達した。コロナ下の3年で1.5倍に膨れた。景気を下支えするインフラ投資や地方政府の歳入不足を補うための土地購入を増やしたためだ。
 公式の地方債には一般債とインフラ建設などの資金を賄う専項債がある。財政省によると、22年末の発行残高は35兆元。融資平台の債務も合わせると100兆元近くになり、名目国内総生産(GDP)の8割近い計算になる。

 債務の累増で利払い費もかさむ。ロジウムは都市ごとに、地方政府や融資平台の歳入に対する地方債や隠れ債務の利払い費の比率を算出した。10%を上回ると、債務返済コストの管理が難しくなるという。

 中国の国務院も、利払い費が歳出の10%を超えた地方政府に財政再建を指示する仕組みを設けている。国務院のルールは融資平台の収支は含まない。利払い比率の10%という節目は、財政の厳しさを判断する一つの警戒基準とも言える。

 22年に警戒基準に達したのは、財政データが利用できる205都市の5割に達した。21年時点では3割超だった。多くの都市で利払い比率が上昇し、甘粛省蘭州と広西チワン族自治区桂林は100%を超えた。

 22年に利払い比率が高まったのは、債務が増えて利子負担が重くなったことが一因だ。「ゼロコロナ」政策に伴う景気停滞をうけて大規模な減税を実施した影響もある。

 ゼロコロナ政策が1月に終わり、税収も前年の反動で持ち直しつつある。気がかりなのは、不動産市場の低迷が長引き地方政府が依存してきた土地収入の減少が止まらないことだ。

 中国の土地は国有で、地方政府が入札を通じて不動産開発企業に土地の使用権を売る。売却収入は20年に初めて地方税収を上回り、21年に過去最多となった。ただ政府の不動産規制で22年から落ち込み、23年1〜4月の売却収入は21年同時期から45%減少した。

 この減収分は税収増などで補えていない。主要会計の1〜4月の歳入を合計すると、2年前から5450億元(8%)少ない。同じ期間に歳出は1兆3797億元(15%)増えた。歳出入の差は拡大傾向にある。
習近平指導部は格差是正を促す「共同富裕(共に豊かになる)」というスローガンを掲げる。都市内格差を広げる住宅価格の高騰を防ごうと、21年から不動産規制を強めた。

 この結果、不動産開発に依存した成長モデルが機能しにくくなった。地方政府が経済下支えのため、債務をさらに膨らませざるを得なくなった事情もある。

 公式に苦境を訴える地方政府も出てきた。

「やれる方策はほぼ尽くしており、今後の債務圧縮は大きな困難に直面する」。中国南西部の貴州省貴陽は5月半ば、こんな声明を出した。ロジウムの推計では22年の貴陽の利払い比率は41%だった。中国北部の内モンゴル自治区フフホトも「債務圧縮の余地はどんどん小さくなっている」と明らかにした。

 国営新華社によると、財政省幹部も「一部地域の債務返済圧力は大きい」と認める。債務不履行(デフォルト)への懸念が金融リスクに飛び火するのを防ぐには、過剰債務の抑制が避けられない。

 それでも、処置を急げば地方経済が依存してきた不動産やインフラの投資という発展モデルも転換を余儀なくされる。習指導部は債務問題の解決と経済成長という難しい両立を迫られている。


【陸自射撃場発砲事件 逮捕の候補生 連射ではなく1発ずつ4発発射】
 15日午前のNHKによると、14日、岐阜市にある陸上自衛隊の射撃場で実弾射撃訓練中に隊員が小銃で銃撃され3人が死傷した事件で、逮捕された自衛官候補生は、合わせて4発の弾を発射していたことが関係者への取材で分かりました。
弾は連射ではなく、1発ずつ発射したということで、陸上自衛隊と警察が当時の状況をさらに詳しく調べています。

 14日午前、岐阜市にある陸上自衛隊の日野基本射撃場で、実弾射撃訓練中に18歳の自衛官候補生が指導にあたっていた隊員3人に小銃を発砲し、2人が死亡、1人がけがをしました。
 陸上自衛隊によりますと、3人の階級はいずれも陸曹で、52歳の隊員が胸を、25歳の隊員が脇腹を撃たれて死亡し、けがをした別の25歳の隊員は左足の太ももを撃たれたということです。
 殺人未遂の疑いで逮捕された自衛官候補生は、射撃の順番を待っている際に合わせて4発の弾を発射していたことが関係者への取材で分かりました。
 最初に、25歳の隊員に1発撃ったあと52歳の隊員に向けて2発発射し、最後に別の25歳の隊員に1発発射したということです。
 このうち、最初と2番目に撃たれた隊員が死亡したということです。
 弾は連射ではなく、1発ずつ発射したということで、陸上自衛隊と警察が当時の状況をさらに詳しく調べています。
逮捕の候補生「52歳の教官が狙いだった」
警察の調べに対し、候補生は「52歳の教官が狙いだった」と供述しているということです。
 候補生は死亡した25歳の隊員への殺人未遂の疑いで逮捕されていますが、この隊員を銃で撃ったことは認める一方で「殺害するつもりはなかった」という趣旨の供述をして殺意を否認していることが、捜査関係者への取材でわかりました。
 25歳の隊員について「自分と教官の間にいて妨げになっていたので撃った」と説明しているということです。
 警察は15日午前、容疑を殺人に切り替えて身柄を検察庁に送りました。
 候補生を乗せた車両の後部座席はカーテンで仕切られ、中の様子をうかがうことはできませんでした。
 この候補生は、ことし4月に名古屋市の守山駐屯地に所属する第35普通科連隊に入隊していて、警察と自衛隊は事件に至るまでの教官との関係など動機について詳しく調べています。
自衛官らは防弾チョッキ着用せず
陸上自衛隊によりますと、今回の射撃訓練には自衛官候補生およそ70人のほか教官など指導にあたる自衛官およそ50人が参加していました。いずれも鉄製のヘルメットはつけていたものの、防弾チョッキは着用していなかったということです。陸上自衛隊は規則上、問題はなかったとしています。
《14日の詳報》陸自中部方面隊 元総監「再発防止の徹底が必要」
事件が起きた岐阜市の射撃場などを管轄する陸上自衛隊中部方面隊トップの総監を務めた千葉科学大学の山下裕貴客員教授は「1984年に山口県で小銃の発射事案が発生したが、それ以降はこのような重大事案はなかった。国民の皆さんに不安を与え、OBとして非常に申し訳ない」と話しています。
 自衛官候補生の教育については「3か月間で陸上自衛隊の基本、基礎を教育する非常に重要なものだ。今回のように小銃の操作と実弾射撃を行わせるというのは最低限の陸上自衛隊の基盤的な教育になる。調査委員会が原因を特定して、再発しないように徹底することが必要だ」と指摘しています。
事件の詳しい時系列も明らかに
防衛省関係者によりますと、射撃場では14日午前9時ごろから射撃訓練が始まったということです。陸上自衛隊がまとめた事件の時系列です。
=9:08ごろ=
18歳の自衛官候補生が実弾射撃訓練中に指導にあたっていた男性の自衛官3人に向け小銃を発砲。「3人のうち1人は50代でほかの2人は20代」。
=9:30ごろ=
岐阜県警が現場に到着。
=9:32ごろ=
自衛官候補生の身柄を岐阜県警に引き渡し。
=9:50ごろから9:53ごろにかけて=
撃たれた自衛官3人が病院に搬送。
=10:45ごろ=
50代の自衛官の死亡確認。
=11:23ごろ=
20代の自衛官の死亡も確認。別の20代の自衛官もけがをして病院で治療。
陸自「この日の訓練には約120人が参加」
陸上自衛隊によりますと、この日の訓練には名古屋市の守山駐屯地に所属する第35普通科連隊の自衛官候補生およそ70人と、教官など指導にあたる自衛官およそ50人のあわせておよそ120人が参加しました。午前中から準備作業が始まり、夕方まで訓練が行われる予定だったということです。
 日野基本射撃場は10個の的があり、射撃を行う場所からの距離は300メートルだということです。一般的に実弾の射撃訓練では、射撃の準備をして、安全教育を行ったあと、実際に射撃の動作に入るということです。
 また、射撃をする隊員の横には指導にあたる自衛官が立つということですが、当時、どのような位置関係にあったかや射撃までの流れなど、詳しい状況は確認中だとしています。
 小銃は個人に貸与されますが、使用しないときは鍵がかかった武器庫で管理され、弾は訓練の際に指導にあたる自衛官が渡すということです。
 自衛官候補生のおよそ3か月間の教育では、小銃について、取り扱い方の指導や安全教育などをしたあと、空砲での射撃を行ったうえで、実弾を使った射撃訓練を行うということです。実弾の射撃訓練は合わせて4回行われ、14日が最後の訓練だったということです。
陸自「撃ったのは“89式小銃”」
「89式小銃」は1989年度から陸上自衛隊で取得が開始され、全国の部隊で多く使用されています。陸上自衛隊やメーカーによりますと、全長は固定型がおよそ92センチ、折り曲げできるタイプがおよそ67センチあり、重さはおよそ3.5キロあります。使用する弾の直径は5.56ミリで、連射の速度は1分間当たり850発に相当するということです。
陸自「これまでのところ生活態度などに問題はなし」
陸上自衛隊によりますと殺人未遂の疑いで逮捕された自衛官候補生は18歳で、ことし4月に名古屋市にある守山駐屯地に所属する第35普通科連隊の新隊員教育隊に入隊したということです。これまでのところ生活態度などに問題はなかったとしています。この自衛官候補生は、今月末に新隊員教育隊での教育を終えたあと、自衛官に任官され、陸上自衛隊の部隊に配属される予定だったということです。
警察と自衛隊の捜査機関の警務隊が合同で捜査へ
陸上自衛隊は殺人未遂の疑いで逮捕された18歳の自衛官候補生について、隊員が身柄を拘束して警察に引き渡したとしています。陸上自衛隊によりますと、警察と警務隊との犯罪捜査に関する協定では、自衛隊の施設内で隊員が起こした事件については警務隊が捜査を行うことになっていることから、今回、合同で捜査することになったということです。
「新隊員教育」の実弾射撃訓練とは 元指導役が取材に応じる
このOBの男性は高校卒業後に第35普通科連隊教育隊に入隊し、20年以上所属して「新隊員教育」の実弾射撃訓練でもたびたび指導役を務めてきたということです。
 男性によりますと射撃訓練では新隊員一人一人に「射撃係」と呼ばれる指導役がつき、新隊員たちは横に並んで指揮官の合図で数百メートル離れた“的”に向けて射撃するということです。
第35普通科連隊のホームページより
射撃訓練には「安全係」と呼ばれる訓練全体の状況を確認して安全を管理する隊員も配置され、厳重な安全管理の下で行われるということです。新隊員は訓練の際、通常、射撃の位置に付いてから点検用の弾も含めて1人につき20数発の弾を渡され自分の手で弾倉に弾を込めるということです。
 また訓練は1人につき30分間ほどかけて行われ、男性が5、6年前に立ち会った基本射撃の訓練では射撃の精度をあげるために、指導者も含めて防弾チョッキは着ていなかったということです。
 事件について男性は「教育期間中は同期は助け合い、教官は生活全般を面倒みる兄貴のような密接な存在でありえないことがおきた。悲しいことだ。原因や経緯など真相を知りたい」と話しています。
自衛官候補生 基礎的な訓練など3か月間受け任期制自衛官に
 守山駐屯地にある第10師団司令部によりますと、自衛官候補生は、入隊後、教育隊が置かれている駐屯地で「新隊員教育」を受けることになっています。期間はおよそ6か月間で、3か月ずつで前期と後期に分かれています。
 「自衛官候補生」として受けるのは、前期の「自衛官候補生課程」と呼ばれる課程で、敬礼や「気をつけ」の姿勢など、部隊行動の基本動作を学んだあと実際に小銃を使用して戦闘訓練などを行うということです。この前期課程を終えると任期制の自衛官になります。後期は「新隊員特技課程」と呼ばれ、本人の希望や適性を踏まえて配置された部隊で、戦車の操作や武器の手入れなど、より専門的な教育を受けることになっています。
自衛官候補生“新隊員教育”の様子 ホームページにも掲載
第35普通科連隊のホームページには自衛官候補生が受ける新隊員教育の様子を撮影した写真が掲載されています。
このうち教習射撃の様子を紹介する写真では、迷彩服を着た候補生たちが屋内の施設で地面に伏せたり、かがんだりしながら銃を構える姿が映っています。また銃を抱えながら屋外で戦闘訓練を行う様子や列を作って行進訓練を行う様子、それに防護マスクを装着して効果を確認する様子なども紹介されています。
第35普通科連隊のホームページより(一部加工)
15:00ごろ 公明 佐藤国対委員長“信頼回復努めて”
公明党の佐藤国会対策委員長は、与党の会合で「徹底した原因究明と再発防止策、そして非常に国民全体を不安に陥れる事件でもあるので信頼回復にしっかり努めてほしい」と述べました。
花手向けに来た女性「こうした事件が起きて悲しい」
事件が起きた射撃場に花を手向けに来た岐阜市内に住む19歳の女性は「自衛隊の隊員たちは、これまで地震など大規模な災害が起きたときに救助に駆けつけてくれた姿をテレビで見てきたので、こうした事件が起きて悲しい。亡くなった隊員のご冥福をお祈りします」と涙ながらに話していました。
14:45 浜田防衛相「心からおわびを申し上げたい」
 浜田防衛大臣は「国民の皆様に大変ご心配をおかけしたことを心からおわびを申し上げたい。大変申し訳なかった」と陳謝しました。そのうえで「私から捜査への全面協力、原因究明、再発防止を指示した。死亡した2人の隊員のご冥福を心よりお祈りするとともに、ご家族の皆様にお悔やみを申し上げる。また負傷した隊員の一日も早い回復をお祈りする」と述べました。
14:00 陸自トップの森下陸幕長が会見 調査委設置を表明
 陸上自衛隊トップの森下泰臣陸上幕僚長は、午後2時から記者会見し「国民の皆様や自衛隊施設の周辺に住む皆様にご心配をおかけし申し訳ありません。このような事案は武器を扱う組織として決してあってはならない。二度と発生しないよう、陸上自衛隊として調査委員会を立ち上げ、原因の究明と再発防止を図る」と述べました。
 また陸上自衛隊は、逮捕された自衛官候補生について、ことし4月に名古屋市にある守山駐屯地に駐屯する第35普通科連隊に入隊したと明らかにしました。新隊員の教育の一環で射撃訓練を行っていたということで、小銃を発砲したあと、隊員が身柄を拘束し警察に引き渡したということです。
陸自師団司令部「隊員らが防弾チョッキ着用かは確認中」
射撃場を管轄する守山駐屯地にある第10師団司令部によりますと、発砲した自衛官候補生はことし4月に入隊し、第10師団の教育隊で前期教育課程と呼ばれる基礎的な訓練を受けていたということです。発砲を受けた3人はいずれも第10師団の部隊に所属する隊員だということです。また日野基本射撃場で使用している銃器は主に拳銃や小銃など「小火器」と呼ばれる比較的小型のものだということです。
 また、銃を使用する訓練の際には安全管理を担う隊員が銃の安全な取り扱い方を指導し、射撃訓練をする隊員らは基本的に防弾チョッキを着用するということです。ただ今回の訓練で隊員らが防弾チョッキを着用していたかは確認中だとしています。
 死亡の2人は25歳と52歳の男性隊員 岐阜県警
岐阜県警によりますと、死亡した2人はいずれも陸上自衛隊守山駐屯地所属の25歳と52歳の男性隊員だということです。また、けがをした1人は同じ駐屯地の所属の25歳の男性隊員だということです。
13:00前 岐阜中署に「警務」の腕章の自衛隊員2人到着
容疑者が取り調べを受けている岐阜市の岐阜中警察署では、午後1時前に自衛隊の車両とみられる1台が敷地内の駐車場に止まり「警務」の腕章を付けた自衛隊員2人が降りて署の中に入っていきました。
英BBCなど海外メディアも事件について報道
このうち、イギリスの公共放送BBCは、日本のニュースを引用しながら、銃規制が厳しい日本で銃による事件が起きることは異例だとして、自衛隊が関係している事件だと伝えています。
 また、フランスのAFP通信は「日本で凶悪犯罪が発生することは極めてまれだが、去年から要人をねらった事件が相次ぎ、波紋が広がっている」として、去年7月の安倍元総理大臣の銃撃事件や、ことし4月の岸田総理大臣の演説先で発生した爆発事件をあげています。
 13:00前 今後の捜査について警察と自衛隊が協議
警察によりますと、銃を撃った自衛官候補生はその場で周囲にいた自衛隊員に逮捕され、岐阜市にある岐阜中警察署で取り調べを受けているということです。警察と自衛隊は今後の捜査をどちらが行うかなどについて現在、協議しているということです。
12:00ごろ 自民 小野寺元防衛相「原因究明に取り組んで」
 自民党の安全保障調査会長を務める小野寺元防衛大臣は、党の会合で「事件についてしっかりと調査して、一体なぜこんなことが起きたのか原因究明に取り組んでほしい。隊員の募集を含めて今現場が大変苦労していることは重々理解しているが質をしっかりと維持することも重要だ」と述べました。
「隊員とみられる人たち抱き合い泣く姿」目撃の人も
 射撃場の付近に住んでいる男性は「きょう午前10時半ごろ、パトカーのサイレンや上空のヘリコプターの音で自宅の外に出てみると、射撃場の建物の外で自衛隊員とみられる人たちが抱き合って泣いている姿を見た。何十年もここで住んでいるが、このような事件が起きたのは初めてで、びっくりした」と話していました。また、射撃場の付近に住む別の女性は「小学生の子どもがいるので、学校から帰ってこられるか心配していましたが、容疑者が逮捕されてほっとしました。ふだんは静かなところなので驚いています」と話していました。
陸自 日野射撃訓練場 平成27年に屋内射撃場に
日野射撃訓練場は、明治40年に旧陸軍の射撃場として開設され、昭和35年から陸上自衛隊が使用し、現在は守山駐屯地が管理しています。

射撃訓練場(空撮)
 騒音など地域への影響から平成27年に屋内射撃場として新設工事が完了しました。射撃場の建物は延べ床面積1万173平米、全幅30メートル、全長340メートルの平屋建てで、長さ300メートルの射道を2本並列にとることができるということです。
 現場近くの男性「重大なことが起きたと思った」
 現場近くの会社を経営する40代の男性はNHKの電話取材に対し「きょうの午前9時半ごろに会社に来たときは、自衛隊の入り口に警察や消防の車両がたくさん集まっていた。その後は自衛隊の車両が、いつもは鳴らさないようなサイレンを鳴らしながら射撃場に入って行き、重大なことが起きたと思った。10年ぐらい前までは屋外で訓練をしていたので週に何度かは発砲音が聞こえていたが、屋内施設ができてからは全く音が聞こえなくなり、最近は別の場所で訓練をしているのかと思っていた。このようなことが起きて不安に思う」と話していました。
防衛省「隊員1人の死亡確認」
 防衛省によりますと、病院に搬送された陸上自衛隊の隊員3人のうち1人の死亡が確認されたということです。
殺人未遂疑いで逮捕されたのは18歳の「自衛官候補生」
岐阜県警は岐阜市の自衛隊施設で銃を発砲し、25歳の自衛官の男性を負傷させたとして18歳の男の「自衛官候補生」を殺人未遂の疑いで逮捕しました。
11:00すぎ 官房長官 “隊員はすでに身柄確保と報告”
 松野官房長官は、午前の記者会見で「本日9時ごろ、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で自衛隊員による射撃事案が発生し、自衛隊員3名が負傷した。小銃を発射した自衛隊員はすでに身柄を確保されていると報告を受けている。捜査中のため詳細は控える」と述べました。
 岐阜県総合医療センター「1人重体」
 岐阜市にある岐阜県総合医療センターによりますと、日野基本射撃場でのけが人のうち、1人が搬送されていて重体だということです。現在、病院で手当てを受けているということです。
捜査関係者「10代の隊員逮捕」
 捜査関係者によりますと、自動小銃を発射したのは10代の男の自衛官で、すでに逮捕されたということです。
10:30ごろ 「けが人は3人」の情報
 捜査関係者によりますと、3人が負傷しているということです。また岐阜市にある中消防署によりますと、けが人は50代の男性1人と、20代の男性2人のあわせて3人だということです。けがの程度はわからないということです。
防衛省関係者 「複数人が病院に」
 複数人が病院に搬送されたという情報があるということです。陸上自衛隊が詳しい状況を調べています。
射撃場は陸自第10師団が管轄
 陸上自衛隊守山駐屯地によりますと、日野基本射撃場は岐阜県岐阜市日野南にある陸上自衛隊の第10師団が管理する射撃訓練場だということです。
 訓練場は屋内の施設で、主に第10師団に所属する隊員が自動小銃や拳銃の訓練の際に使用するということです。陸上自衛隊守山駐屯地の広報は「詳細について確認中」としています。
射撃場の入り口にはパトカーが止まっていて、警察官が入り口を封鎖しています。
10:20 自衛隊 陸幕広報室「情報確認中」
陸上幕僚監部の広報室によりますと、午前10時20分現在、報道機関から問い合わせを受け情報を確認しているということです。
9:30すぎ「複数の消防車や救急車が基地へ」
射撃場の近くにある物流センターの男性社員は、NHKの電話取材に対し「午前9時半すぎくらいに複数の消防車や救急車が基地のほうに入っていくのが見えた。射撃場は基地の奥まったところにあり、特に物音なども聞こえなかった。なにが起きたか知りたい」と話していました。
 また、現場近くにいた人は「救急車や消防車が射撃場のほうに向かって行ったあと、自衛隊の隊員とみられる人が1人、私のところに来て『AEDがありませんか』と尋ねてきた。近くの公民館にAEDがあるのを知っていたので、それを取りに行って渡した」と話していました。


【5月の貿易赤字1兆3725億円 前年比42%縮小】
  15日の日経速報メールは次のように報じた。

  財務省が15日発表した5月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆3725億円の赤字だった。赤字は22カ月連続だが、赤字幅は前年同月に比べて42%縮小した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格の高騰などが落ち着き、輸入額が前年同月比9.9%減った。輸入額が前年同月を下回るのは2カ月連続だ。

輸入は8兆6651億円だった。原粗油は21.7%減の8357億円、液化天然ガス(LNG)は31.6%減の4127億円で輸入額を押し下げた。アラブ首長国連邦(UAE)やオーストラリアからの輸入が減った。

原粗油はドル建て価格が前年同月を19.9%下回った。為替レートは4.8%の円安になっているが、円建て価格も16.1%下がった。世界銀行によると23年5月のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の月平均価格は1バレル当たり71.5ドルで、前年同月(109.6ドル)から34.7%下がっている。

輸出は7兆2926億円で0.6%の微増だった。増加は27カ月連続だが、伸び率はこの間で最も低かった。半導体不足が和らいだ自動車が66.3%増の1兆1553億円だった。半導体等製造装置は20.2%減の2348億円にとどまった。

地域別では米国向けが1兆3737億円と9.4%増、アジア向けは3兆9269億円で8.1%減った。

季節調整値でみると、輸入は前月比で5.6%減の8兆7289億円、輸出は3.1%減の7兆9511億円だった。貿易収支は7778億円の赤字となった。



【“生成AIで夏休みの宿題” 学校に注意喚起促す通知 東京都教委】

 15日のNHKによれば、東京都教育委員会は、ChatGPTなど文章や画像を自動的に作り出す生成AIについて、児童や生徒が夏休みの宿題でAIの回答をコピーして、そのまま提出させないことなど注意喚起を促す通知を都立学校に出していたことが分かりました。

ChatGPTなど生成AIをめぐっては普及が急速に進む一方、情報漏えいやプライバシーの侵害などのリスクも懸念されています。こうした中、東京都教育委員会は、生成AIの取り扱いについて、都立学校あてに、13日付けで通知を出した。
 この中で学校教育では、児童や生徒がみずから考える力を育成することが重要だとし、
そのうえで、
▽夏休みの宿題を出す際には、生成AIの回答をコピーして、そのまま提出させないこと、
▽レポートを課題として出す際には生成AIに頼らず授業中に教員が説明した内容を踏まえて書くよう注意喚起することが必要だとしています。
 具体的に注意を促す例として、▽日記や読書感想文のほか、▽プログラミング、▽校内コンテスト用のポスターの作成などを挙げています。
 都教育委員会は今後、国から公表される予定のガイドラインなども踏まえて、新たな周知を出すことも検討しています。



【生成AI開発へ、国がスパコン増強支援 計算能力3倍に】
 同じ15日の日経速報メールは次のように報じた。

 経済産業省が国内での生成AI(人工知能)開発の基盤づくりに乗り出す。さくらインターネットが近く整備するスーパーコンピューターの経費の半額を補助する。AI開発向けで国内最高の計算能力をもち、国内の計算能力は現状の3倍に高まる。

 さくらインターネットはクラウドを通じて生成AIの開発を手がけるスタートアップなどにスパコンの計算能力を安価で提供するのを条件に、経産省から財政支援を受けた。2024年以降にサービスを開始し、生成AIを巡る日本の開発力の底上げにつなげる。

 生成AIを開発するには基盤となる大規模言語モデル(LLM)に膨大なデータを学習させる必要がある。どれだけ大量のデータを処理できるコンピューターを持つかが開発能力を左右する。日本では国内での計算能力不足が指摘されていた。

 さくらインターネットは大阪を拠点とするクラウドサービス国内大手で、クラウドを提供するほか、東京、大阪、北海道に計5カ所のデータセンターを持つ。北海道石狩市で100%再生可能エネルギーでまかなう大型拠点を運営する。

 今回は石狩市でのスパコン整備に135億円を投じる。そのうち68億円を経産省が拠出する。大規模言語モデル開発に必要な米エヌビディアのGPU(画像処理半導体)を2000基超搭載する。

 国内AI開発向けの計算用インフラ資源には産業技術総合研究所のスパコン「ABCI」がある。クラウドを通じ3000ほどの企業や研究者が活用しているが生成AI開発には計算能力が足りない。さくらインターネットのスパコンはABCIの2倍超の計算力を持つ。

 経産省は地政学リスクなどに備え、重要物資の国内の生産能力を高めるための予算を確保しており、これを活用する。

 生成AI開発は米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」など海外勢が先行する。国内での開発を促すことは海外依存を減らし、経済安全保障にもつながると判断した。
それでも計算能力はまだ足りない。さくらインターネットが導入するスパコンの能力を使えば、オープンAIが20年に公開した言語モデル「GPT-3」なら3日程度で開発できる。最新の「GPT-4」の開発には1年ほどかかるとの見方がある。

 海外では米グーグルなども高い計算能力を武器に生成AIの開発を進める。国内ではNTTやNECなどが参入を表明している。大企業と比べ、スタートアップは計算資源の確保が難しい。経産省は他の企業への導入支援も検討していく。



【トヨタのEV電池に1200億円補助 国内生産強化へ経産省】
 同じ15日の日経速報メールは次のように報じた。

 経済産業省はトヨタ自動車が日本で計画する電気自動車(EV)用リチウムイオン電池の投資に約1200億円を補助する。車載用電池の世界シェアは中国が5割を占め、日本は1割弱にとどまる。車載用電池はEVの競争力を左右する。EVシフトが進むなか、国内の製造力を高め、サプライチェーン(供給網)の分断リスクを下げる。

 経産省は車載用電池といった蓄電池を経済安全保障上の重要物資と定め、2022年度の第2次補正予算で蓄電池分野の供給や開発の支援に3300億円を確保している。設備投資の3分の1、技術開発の2分の1を補助する。今回助成対象となるトヨタの事業総額は3300億円に達する見込みだ。

 トヨタのほか、複数の電池素材や部材メーカーにも補助金を出す。経産省の補助金の総額は約1300億円になる。経産省は4月にはホンダとGSユアサのリチウムイオン電池の投資計画に約1600億円の補助金の支給を決めている。

 トヨタは経産省の支援を受け、国内車載用電池の年間生産能力を約25ギガワット時分増強する見通し。

 パナソニックホールディングス(HD)と共同出資する電池会社プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)の姫路工場(兵庫県姫路市)で生産能力を高める。同じくパナソニックHDと共同出資するプライムアースEVエナジー(PEVE)では新たにEV用電池を新居工場(静岡県湖西市)で製造する。PEVEはこれまでハイブリッド車(HV)向け電池のみを手掛けていた。

 豊田自動織機と協力する次世代のバイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の開発・量産投資にも補助金を充てる。同電池は安価で出力を高められる。現行のEV「bZ4X」に搭載するリチウムイオン電池に比べ、航続距離を2割延ばせ、コストは4割安くなる。比較的廉価なEVへの搭載を見込む。26〜27年の実用化を目指す。
全固体電池の研究開発も補助金を生かす。耐久性が高い全固体電池は27〜28年の実用化を計画する。

 トヨタは26年にEVの年間販売で150万台、30年に350万台を販売する目標を掲げる。30年までにEV関連に5兆円を投資する計画だ。

 車載用電池は中国や韓国企業の生産が日本を上回る。2015年に5割だった日本企業の車載用電池の世界シェアは22年に1割弱に下がった。素材から製品調達まで中国や韓国企業への依存度が高まっている。

 バイポーラ型LFP電池は、中国の車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)や中国EV最大手、比亜迪(BYD)が先行する車載用LFP電池に対抗する技術としても期待されている。 
国内の車載用電池の製造力を高めることは経済安保の観点で重要だ。米国では22年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)をきっかけに米国、欧州、韓国などの自動車メーカーを軸にEVや電池への投資が急拡大している。

 世界最大のEV生産国である中国はガソリン車などを含めた23年の新車販売台数が2760万台となる見込みだ。そのうち1000万台がEVを含む新エネルギー車で国内で生産されるEV電池が支える。日本も国内で車載用電池の製造基盤を固めることが、供給網の安定につながる。



【AIで人類破滅、4割予想 米経営者ら回答、報道】
 【ワシントン共同】によると、米CNNテレビは15日までに、急速に能力が向上する人工知能(AI)が今後5~10年で人類を破滅させると考える企業経営者が42%に上ると報じた。58%は「心配していない」と答えた。エール大の研究者がオンラインイベントで尋ね、119人が回答した。

 破滅は、8%が「5年以内」、34%が「10年以内」とみる。AIの恩恵は誇張されすぎているかと尋ねると「そう思う」と答えたのは13%にとどまり、期待の大きさもうかがわせた。影響が特に及ぶと思う業界は医療やメディアなどだった。

 AI開発企業や研究者の間では、兵器利用やシステムの暴走など巨大なリスクへの関心が高い。


【シリコンバレーが首位、新興の育成環境 東京は15位】
 16日の日経ニュースメール【シリコンバレー=山田遼太郎】によると、米調査会社によるスタートアップ企業が育ちやすい都市の世界ランキングで、米シリコンバレーは2012年から続く首位を維持した。米ニューヨーク、英ロンドンを含め上位3都市の顔ぶれは同じだが、資金の調達状況をみるとシリコンバレーのシェアは低下傾向だ。東京は前年の12位から15位に順位を下げた。

 米スタートアップ・ゲノムが15日に23年版の調査結果を発表した。世界の主要都市の起業環境について、成功したスタートアップの数や資金調達額など6項目を採点し総合順位をつけた。

 シリコンバレーは「シリーズA」と呼ぶ早期のスタートアップによる資金調達額が、23年2月にピークだった21年8月比で75%減った。シリコンバレーを除く世界平均は69%減だった。調達件数も73%減と世界平均に比べ減りが大きかった。
6項目全てで10点満点が続いていたが、特許数などで測る「知識」が9点に下がった。生活コストの高さや在宅勤務の普及などから人材流出が進み、過去2年間で9万1000人が同地域を離れたとの調査もある。

 ベンチャーキャピタル(VC)の集中や知見の蓄積といった強みは残る一方で、相対的にみれば地位が下がる可能性がある。3月には同地域の地銀シリコンバレーバンクが破綻した。スタートアップ・ゲノムは「シリコンバレーは今後も世界の新興企業をけん引できる」としつつ「世界や北米で起業の生態系が多様化した」と指摘した。
 
 同様の見方は多い。ボストンを本拠地に世界のスタートアップを支援する米ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)のティム・ロウ最高経営責任者(CEO)は「シリコンバレーからエンジニアが流出する一方、(南部フロリダ州)マイアミや(南部テキサス州)オースティンのスタートアップに活気がある。人材の分散は米国全体にとってはいいことだ」と話す。

 東京は2年連続で順位が下落した。スタートアップの企業価値評価額などで測る項目や、海外展開の進み具合などで算定する項目で点数を下げた。スタートアップ・ゲノムは「他都市がより速く成長したのが順位低下の主因」としている。

 アジアではシンガポールが前年の18位から8位に大きく順位を上げた。上場やM&A(合併・買収)などで投資家が資金回収する「イグジット」が好調だったという。

 中国の北京(7位)と上海(9位)は低調な資金調達環境を反映し、それぞれ前年から順位を下げた。一方でインドは7都市が順位を上げ、ベンガルールを含む地域が20位に入った。

 日本政府はユニコーン(企業価値10億ドル=約1400億円以上の未上場企業)100社の創出を目指すなどスタートアップ育成を掲げ、起業家の海外派遣などを拡充する。

 東京でも新興企業向けオフィスを運営するCICのロウ氏は日本の都市について「シリコンバレーを目指して総花的な政策をとると焦点がぼやける。生命科学やロボットなど強みを持つ分野に絞ってスタートアップ支援を強化するべきだ」と指摘する。

 この間、下記の録画を観ることができた。(1)BSプレミアム ダークサイド ミステリー「消えた1万人の子どもたち 隠された「児童移民」の闇」(1940年代~60年代 イギリスからオーストラリアへ)6月1日。 (2)BS1スペシャル デジタルアイ「ウクライナ OSINT(オープン・ソース・インテリジェンス)1日。 (3)NHK国際報道「武器輸出で揺れる永世中立国スイス」2日。 (4)BS1スペシャル「激戦地の子どもたち セーブ・ウクライナ 救出の記録」4日。 (5)BS6報道1930「ウクライナ反転攻勢のカギ握る「長射程兵器」」5日。 (6)BS世界のドキュメンタリー(選)「フォース・ウオーズ 宇宙空間 軍拡競争の現実」6日。 (7)BS6報道1930「ダム破壊の目的は何か ウクライナからの証言」8日。 (8)NHKスペシャル(選)「ヒューマン・エイジ 人間の時代 プロローグ さらなる繁栄か破壊か」10日 。 (9)NHKスペシャル 「失われた時をこえて~“認知症家族“の3年~」8日。 (10)NHKBS1「ロシア 衝突の源流」10日。 (11)映像の世紀バタフライエフェクト(選)「ベルリン 戦後ゼロ年」11日。 (12)NHKETVこころの時代アーカイブ「追弔 作家・青木新門 生死と生きる(作家・納棺師)11日。 (13)NHKスペシャル ヒューマンエイジ第1集 大新生 地球を飲み込む欲望」11日。 (14)BS6報道1930「プーチン氏の影武者説 声と動作 新たに検証 ”健康不安説“の真実」12日。 (15)BS6報道1930「ウ軍が狙う戦争の革新「ドローン軍団」計画とは 南部トクマク攻防戦」13日。 BS6報道1930「反転攻勢 4つの軸とは」14日。

変わりつつある世界(6)

【本稿には広島で開かれるG7サミット関連の記事が多く、誰が誰とどのような表情で話しているかを示すのに写真は欠かせない。ところが総容量に上限があるため、残念ながら今回もまた写真を収めることができなかった。】

【NTTとJERA、再エネのGPIを買収 3000億円規模】
 2023年5月18日朝の日経速報メールは次のように報じた。
 NTTはt国内火力発電最大手のJERAと組み、再生可能エネルギーを手掛けるグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)を共同買収する方針を固めた。投資額は3000億円規模となり、国内の再生エネ企業のM&A(合併・買収)では最大規模。脱炭素時代に向けて再生エネの大規模電源の適地が限られるなか、優良資産を囲い込む動きが本格化してきた。
 18日午後に発表する。NTTと東京電力ホールディングス(HD)・中部電力が折半出資するJERAが共同買収し、NTTが8割、JERAが2割を投じる。GPIが持つ再生エネ事業のうちNTTは陸上風力と太陽光を中心に、JERAが洋上風力を中心に電源を取得する方向で調整している。
 GPIは2004年に創業した国内有数の再生エネの発電会社。青森県つがる市や岩手県遠野市など4カ所で陸上風力、千葉県富津市など2カ所で太陽光発電所を展開しており、発電能力は計約33万キロワットに上る。陸上風力では豊田通商傘下で最大手のユーラスエナジーHDや2位のJパワーなどに次ぐ規模を持つ。
 今後本格化する洋上風力でも先頭集団にいる。23年中に北海道の石狩湾で出力11万2000キロワットの洋上風力が稼働する予定。商用の洋上風力では丸紅が主導する秋田港・能代港での開発規模に次ぐ。
国内では陸上風力や太陽光を大規模開発できる適地が少なくなっている。22年12月期の売上高は83億円、純利益は11億円と収益規模はまだ小さい。大規模電源を一気に獲得でき有望な洋上風力でもノウハウを持つ点をNTTとJERAは評価し、企業価値を大きく上回る買収金額を提示したとみられる。
通信事業は人口減少で大きな成長が難しく、NTTは非通信事業の育成を急いでいる。期待するのが再生エネ事業だ。19年に太陽光や風力などを手掛けるNTTアノードエナジー(東京・港)を設立。今後5年間で再生エネ関連に約1兆円もの巨額投資を計画している。セブン&アイ・ホールディングスなど他社への電力販売を強化しており、大規模電源を確保して成長の柱の一つに育てる。
 脱炭素に向けても、再生エネ事業の拡大が急務だ。NTTグループは日本の電気の1%以上を使っているともいわれている。今後はスマートフォンやあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及で通信量の急拡大が予想され、処理が高速になるほど消費電力がさらに膨れ上がる。
 40年度には温暖化ガスの排出量が860万トンと13年度比で約2倍になると見込む。そのうち45%を再生エネ電力の活用などで削減する。残りは消費電力を抑制する次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」で減らし、排出量を実質ゼロにする方針だ。再生エネの大規模電源の獲得は、NTTの成長に欠かせない。
 JERA、脱炭素で洋上風力を成長事業にJERAも洋上風力を火力発電に代わる成長事業に位置付ける。世界的な脱炭素の流れで、石炭火力だけでなく低炭素の液化天然ガス(LNG)火力も将来にわたって開発できるかは不透明だ。新たな電源開発が急務で、大規模開発できる洋上風力に懸けている。
 政府が21年12月に事業者を選定した大規模な洋上風力の公募の第1弾では、三菱商事の企業連合が計3海域を総取りした。JERAは国内で事業を拡大するために、商用化に向けた開発で先行するGPIのノウハウを活用する。
 世界では再生エネ電源の奪い合いが激しくなってきている。仏トタルエナジーズは現金16億ドルと株式交換で、風力発電に強い米国の再生エネ事業5位クリアウエー・エナジー・グループの株式を50%取得した。日本でもENEOSHDが22年に約1900億円を投じて再生エネを手掛けるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を買収した。
 大規模電源を確保できれば、電気も安く供給できるようになる。再生エネが主力電源となる脱炭素時代に向けて、いかに優良資産を囲い込めるかが重要となる。

【首相、半導体投資を要請 米台韓の大手7社幹部と会談】
 同じ18日、日経速報メールは次のように報じた。
 岸田文雄首相は18日、米国や欧州、韓国、台湾の半導体関連の7社の幹部らと首相官邸で面会した。世界の半導体大手の幹部が一堂に集まるのは異例だ。半導体の安定確保の重要性が高まっている。日本での事業展開について意見を交わし、首相自ら日本への投資を呼びかけた。
 出席したのは、台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音・董事長、米インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)、米マイクロン・テクノロジーのサンジェイ・メロートラCEOら7人だ。韓国サムスン電子や米IBMの幹部も参加した。
 首相は各社との面会で「政府を挙げて対日直接投資のさらなる拡大、半導体産業への支援に取り組んでいきたい」と述べた。
19日に始まる主要7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、「サプライチェーンの安定化という世界的な課題について議論をリードし、連携を強化していきたい」と語った。
 日本からは首相に加え、西村康稔経済産業相や木原誠二官房副長官が同席した。西村氏は会合後の記者会見で「多くの企業から日本での前向きな取り組み、投資拡大についての声があがった」と明らかにした。
マイクロンは日本国内に最大5000億円を投資し、広島工場に最先端品を製造するための設備を導入すると表明した。
サムスンが研究開発拠点の開設を説明したほか、TSMCは日本での投資拡大について言及した。インテルは日本の素材メーカーや半導体製造装置メーカーとの連携を強化する方針を示した。
 日本政府は2021年に「半導体・デジタル産業戦略」をまとめ、累計約2兆円の予算で巻き返しに出ている。国内のメーカーの支援に加え、海外勢も積極的に誘致。その結果、TSMCが熊本に工場を建設しているほか、米マイクロンも広島の拠点を拡充している。
 自動車や電子機器などで半導体の需要は今後も拡大する見込みだ。半導体は脱炭素やデジタル化に欠かせず、安定確保は経済安全保障を高める上で重要だ。政府は国内での半導体関連の売上高を30年に足元の3倍の15兆円にする目標を掲げている。
日本はかつて半導体産業で世界5割のシェアを誇ったが、現在は米国や韓国、台湾に後れを取っている。中国の台頭も目立っている。日本や欧州などは有力な半導体企業の誘致に力を入れている。

【マイクロンCEO「日本の先端半導体工場に5000億円」】
 米半導体メモリー大手、マイクロン・テクノロジーは広島県のDRAMを生産する工場など日本国内に今後数年で最大5000億円を投資する。日本政府から支援をうけ、広島県の工場に最先端の製造ラインを導入する。サンジェイ・メロートラ最高経営責任者(CEO)が日本経済新聞社のインタビューに応じ明らかにした。半導体の超微細な回路を形成するのに不可欠な先端の露光装置も導入し、次世代品のメモリーを生産する計画だ。
 18日には米国、韓国、台湾など半導体企業トップが来日した。メロートラCEOは18日午前には岸田文雄首相と面談していた。メロートラCEOは「国内初となる極端紫外線(EUV)の露光装置を導入し、2026年ごろから最先端品の生産を始める」と語った。25年までに最先端品の製造に欠かせないEUVを導入し体制を整える。政府の具体的な支援額については明らかにしなかった。
 
【G7広島サミット、韓国やインドも参加 注目の議題は?】
 すこし前の15日の日経ニュースメールは次のように報じたので、参考に掲げる。
 主要7カ国(G7)は19〜21日に広島で首脳会議(サミット)を開く。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、中国の威圧的行動が取りざたされる厳しい安全保障環境で各国リーダーが原子爆弾がかつて投下された街に集う。G7の枠組みや何を議論するのかなどポイントをまとめた。
・G7サミットとは?
・中ロの抑止策を示せるか?
・なぜ広島で開催?

(1)G7サミットとは?
G7サミットは日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの7カ国の首脳に欧州連合(EU)の大統領、欧州委員長を加えた計9人がメンバーだ。日本の首相はアジアから唯一参加する。
 7カ国であることから「Group of 7(グループ・オブ・セブン)」を略したG7と呼ぶ。サミットは山の頂の意味もある言葉で首脳を指す。
 7カ国が持ち回りで開き、開催国の首脳が議長として会議を取り仕切る。2023年は日本の番で岸田文雄首相が議長を務める。議長国はサミットに加え、前後に分野別の閣僚会合も設定する。これらの議論の成果はサミットとも連動する。
サミットの議論の結果は成果文書にまとめるのが通例。
 初のサミットは1975年11月、フランス・パリ郊外のランブイエ城で開いた。西側の主な先進国が第1次石油危機後の経済的混乱に協調して対処する目的があり、日本も協議に加わった。日本から三木首相が参加した。
 元来は経済が軸だったものの、東西冷戦下で政治問題も扱うようになる。冷戦が終わるとロシアが政治討議に加わり、98年にはロシアを加えた8カ国で「G8」と呼ぶようになった。
 ロシアが2014年3月にウクライナ南部クリミア半島の編入を宣言し、ほかの米欧諸国との亀裂が決定的になった。日米など7カ国はロシアの資格を停止し、参加国は再び7カ国に戻った。
21世紀に入ると中国やインドなど新興国の経済成長が注目された。08年には中国などが参加する20カ国・地域(G20)の首脳会議が始まった。
 サミットの準備はヒマラヤ登山の道案内をする人たちに由来する「シェルパ」の名を持つ各首脳の補佐役が担う。日本の場合、外務省の経済担当の外務審議官が務める。

(2)中ロの抑止策を示せるか?
 G7広島サミットは3日間の日程を予定する。テーマ別の討議のほか、夕食会などでも意見を交わす。期間中にはG7の枠組み外の国も交えた拡大会合も設ける。
主要議題の一つはウクライナ情勢への対応だ。ロシアが22年2月に侵攻し始めて1年以上がたち、各国の「支援疲れ」を指摘する声もある。
ウクライナは近く反転攻勢にでる構えをみせる。ゼレンスキー大統領はG7サミットのウクライナ関連の討議にオンラインなどで出席し、支援の継続を呼びかける見通しだ。
 G7は4月に長野県軽井沢町で開いた外相会合で出した共同声明で、ロシア軍の「即時かつ無条件の撤退」を求めた。中国などを念頭に経済制裁をすり抜けて武器がロシアに流れ込む事態を懸念し、対策を取る方針をすりあわせた。
ロシアへの制裁強化も明記した。サミットで具体策を打ち出せるかは注目点となる。
 軍備拡張を進め、東・南シナ海などで軍事的威嚇を続ける中国への対応策も話し合う。G7はサミットで「台湾海峡の平和と安定の重要性」を改めて確認する見通しだ。
 4月にフランスのマクロン大統領が台湾情勢を巡って米国と中国のどちらにも「追随」すべきでないと発言し、波紋を広げた。G7首脳で足並みをそろえて中国に現状変更の試みに反対するメッセージを伝えられるかもポイントとなる。
中ロはアフリカや中東、中南米などの新興・途上国に接近し、日米欧と対峙する構えをみせる。サミットでは「グローバルサウス」と呼ぶこれらの国々への食料やエネルギー支援も討議する。
 拡大会合には韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領やインドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相ら8カ国首脳を招いた。インド太平洋の「同志国」や中南米やアフリカの地域を代表する国など対中ロでの連携を意識した。

(3)なぜ広島で開催?
 広島での開催は地元選出の衆院議員である首相の思いが背景にある。被爆地・広島は首相がライフワークと位置付ける「核兵器のない世界」へのメッセージを発信する舞台になる。
 首相は期間中に各国の首脳らと広島平和記念資料館を訪れる。日本政府には「とくに核兵器を保有する米英仏の首脳には必ず足を運んでもらいたい」との狙いがある。
 広島県は岸田首相を含め歴代4人の首相を輩出した土地でもある。岸田首相が率いる派閥「宏池会」を立ち上げた池田勇人氏、その秘書官から政界入りした宮沢喜一氏の2人は首相の派閥の先輩でもある。
 広島はかつて日清戦争の際に大本営を置くなど「軍都」でもあった。いまでも周辺に自衛隊の拠点がある。
 瀬戸内海に面し、県内には原爆ドーム(広島市)と厳島神社(廿日市市)という世界遺産がある。サミットの行事は厳島(通称・宮島)でも開く見込みだ。
 サミットは「グランドプリンスホテル広島」が主な会場になる。JR広島駅の南方で港がある宇品地区の「宇品島」(広島市南区)にある。市街地側と島を結ぶのは道路橋1本で警備がしやすいという利点が決め手になった。
 サミット開催に合わせて島への出入りは厳しくなる。住民などを対象に車両通行証が発行される計画だ。安倍晋三元首相の銃撃事件なども踏まえ、厳戒態勢を敷く。大型連休ごろから各都道府県警に動員がかかっているという。(羽田野主)
 
【G7広島サミット、中国・ロシア抑止を議論 19日開幕へ G7広島サミット】
 18日、日経速報メールは次のように報じた。
 主要7カ国(G7)は19〜21日に広島で首脳会議(サミット)を開催します。18日は岸田文雄首相やバイデン米大統領が広島入りし、日米首脳会談を開く予定です。公共交通、生活への影響なども予想されます。サミット開幕前日の18日の動きをタイムラインで追います。

【午後4時ごろ】バイデン米大統領の搭乗機が米軍岩国基地に着陸
 バイデン米大統領が米軍岩国基地(山口県岩国市)に到着しました。自国の債務上限問題で一時来日を見送る可能性も取り沙汰されました。このあと広島市内へと向かう予定です。
【午後3時】スナク英首相が護衛艦「いずも」視察、防衛省発表
 防衛省は英国のスナク首相が海上自衛隊の護衛艦「いずも」を視察したと発表しました。井野俊郎防衛副大臣や海自トップの酒井良海上幕僚長が同行しました。いずもは事実上の空母へと改修中です。防衛省は「緊密かつ強固な日英関係を象徴するものだ」との見解を示しました。
【現地の様子】広島の図書館、利用者まばら あすから臨時休館
 広島市立中区図書館は19〜21日のサミット期間中に臨時休館します。休館前日の18日、図書館の主任を務める男性(57)は「今日はいつもより利用者が少ない」と話していました。図書館付近が通行規制の対象になっているためとみられます。
【午後1時】広島の小学校、給食にサミット参加国の料理
 広島県の廿日市市教育委員会はG7広島サミットにあわせて4月から参加国の料理を給食で提供しています。市立宮内小学校の18日の献立はフランスにちなんだ鶏肉のクリーム煮です。4年生の男子児童は「初めて食べる料理だけどお肉が柔らかいし、野菜がたくさん入ってて美味しい」と嬉しそうな表情をみせていました。
 G7参加国のフランスにちなみ白ワインで炒めた鶏肉をクリームで煮た「チキンフリカッセ」の給食を児童らは楽しんだ(18日午後、広島県廿日市市)

【午後0時10分ごろ】平和記念公園、立ち入り制限始まる
 広島市の平和記念公園は正午過ぎに市民らの立ち入りが制限されました。公園周辺の道路では警察官が金属製の柵で封鎖し、観光客らが続々と公園外に出ました。閉鎖期間はサミット関連行事が終了する21日までの予定です。
 封鎖に伴い平和記念公園から出る観光客ら(18日、広島市)
【正午】岸田首相が広島空港着 
 岸田首相が裕子夫人とともに政府専用機で広島空港(広島県三原市)に到着しました。広島県警のパトカーの誘導で広島市内へと向かいました。
 【午前11時50分】通行止めになった広島の都市高速
 G7広島サミットの警備に伴う交通規制が始まりました。18〜22日にかけて要人らの移動に合わせて一部の高速道路と一般道が通行止めになります。広島県警などは規制対象の道路や迂回路の交通量を半減させる方針を掲げています。
 【午前11時ごろ】開館した広島の「国際メディアセンター」に報道陣
 広島県立総合体育館(広島市)に設けられた「国際メディアセンター」が午前10時に開館しました。国内外の報道機関のG7サミットの取材拠点になり、共用作業スペースは650席ほどあります。入場は保安検査を受ける必要があり、場内には原爆の被害を伝える展示もあります。
 ドイツから訪れた男性記者は「サミットでどういう議論がされるのか注目している。できる限り周辺をまわって開催地広島について理解を深めたい」と話す。
【午前10時50分ごろ】岸田首相、政府専用機で広島へ出発
 岸田首相は首相官邸から羽田空港に向かい、その後政府専用機に乗り込んで広島へ出発しました。
【午前10時半ごろ】JR広島駅、警備強化 危険物探知犬も巡回
 JR広島駅では警備が一段と強化されています。警備員が危険物探知犬を連れて巡回しています。人工知能(AI)を搭載した防犯  カメラを構内に設置して警戒にあたるほか、22日までコインロッカーやゴミ箱の使用を停止しています。
【午前10時半ごろ】韓国人被爆者の慰霊碑前、支援者団体が説明
 G7広島サミットには韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も招待されます。岸田首相と尹氏が訪れる予定の韓国人被爆者の慰霊碑の前では支援団体が訪問客やメディアに説明していました。慰霊碑には広島の原子爆弾投下で2万人あまりの韓国人が犠牲になったと記されています。
【午前10時ごろ】淡路島から遠隔で通訳支援
 遠隔で海外からの広島訪問客を支える取り組みもあります。人材大手のパソナは委託を受け兵庫県の淡路島から通訳支援を始めています。広島のインフォメーションカウンターで意思疎通が難しいときに英語に堪能なパソナグループの社員が自身の分身であるアバターを介してサポートします。18日は3人が随時対応しています。
【午前10時ごろ】岸田首相「強い決意と覚悟で臨む」 広島へ出発前
 岸田文雄首相は広島への出発前、首相官邸で「国際社会をけん引する強い決意と覚悟を持って臨みたい」と記者団に意気込みました。首相の後ろにあるカウントボードは「あと1日」と表示している。1月5日の設置から残り日数を刻んできた。
【午前9時半ごろ】平和記念資料館、正午から休館へ ノートに平和への思い
 広島の平和記念資料館はあすからのG7広島サミットを前に正午から休館です。朝から大勢の外国人観光客らが訪れて、資料に見入っています。館内に用意された「対話ノート」には様々な言語で平和への思いが書き込まれています。
 様々な言語で被爆資料の感想が書き込まれる対話ノート。犠牲者の冥福を祈るメッセージが残されている(18日午前、広島市)
【午前9時ごろ】大阪のバスターミナル、広島行き高速バス運休
 都市間の高速バスにも影響は及びます。中国ジェイアールバス(広島市)は18〜22日、京都・大阪〜広島間で夜行便を除き1日あたり計6便を運休する。
 大阪駅JR高速バスターミナルでは広島行き便の運休が表示された(18日午前、大阪市)
大阪駅JR高速バスターミナル(大阪市)の出発案内の電光掲示板には午前9時20分の始発から赤い文字で「運休」という表示がありました。普段は1便あたり平均20人程度の利用客がいるそうです。
【午前8時半ごろ】広島空港行きバス乗り場「タクシーで向かうしかない」
 広島空港リムジンバスは18〜22日に全便運休します。JR広島駅前のバス停にはお知らせの掲示が張り出されています。沖縄へ出張に行くという男性は「午前中は運行していると思っていた。タクシーで向かうしかない」と乗り場に向かいました。付近では通行を規制する柵を持った警察官が行き交う姿も見られました。
 
【午前8時半すぎ】広島の路面電車、G7サミット仕様
 広島電鉄はG7広島サミットのラッピングを施した路面電車も運行しています。広島県内の高校生らがデザインに関わり「グリーンムーバーマックス」の車体で開催をお知らせしています。
 G7サミットの告知がデザインされた車両も運行している(18日午前、広島電鉄広島駅)

【午前8時すぎ】マツダの工場、5日間稼働停止
 マツダは18〜22日の5日間、交通量抑制に協力するため本社工場(広島市)と防府工場(山口県防府市)の稼働を停止します。普段は通勤の車やトラックで混雑する本社工場周辺も通行量が少なくなっています。マツダと取引のある部品会社の多くも同社に歩調をあわせます。
【午前8時】広島市内の小中学校で臨時休校
 広島市内の市立小中学校のおよそ4割にあたる83校が交通規制に備えるためサミット期間中や前後の臨時休校を決めています。
 市立袋町小学校の三吉和恵校長は「学校が平和記念公園に近く、時間帯によって通学路の陸橋までもが閉鎖されると聞いている。児童の安全面への配慮と、教職員も出勤できない可能性があるため臨時休校にした」と話しました。同校は臨時休校分の授業は夏休みを短くするなどして対応するようです。

【午前7時ごろ】広島電鉄の広島駅、路面電車の通勤客「サミット中は在宅」 
 通勤に路面電車を使う広島市に住む40代の運送業の男性は「きょうは出社だが管理部門なので在宅可能。期間中は家で仕事をする」と語りました。 サミットに伴う交通規制を踏まえて、県内企業には営業休止や出社人数を減らすなどの対応を取る動きもあります。
【午前6時ごろ】交通規制に備え、車でなく電車で通勤 JR広島駅
 JR広島駅は朝から通勤客や旅行客が行き交っています。広島市内の男性会社員(52)は「いつも車で通勤しているが、交通規制があると聞き、サミット期間中は電車を利用する」と話していました。
 【午前5時半ごろ】サミット前日の平和記念公園、正午から立ち入り制限
 G7サミットの開幕を翌日に控え、広島市の平和記念公園は18日正午から市民や観光客の立ち入りが制限されます。各国首脳らは平和記念資料館などを訪れる予定です。
 G7広島サミットに参加するイタリアのメローニ首相が専用機で広島空港に到着しました。G7首脳で広島入り一番乗りです。
【18日から】広島の一部の高速道路・一般道路で通行止めへ
 G7広島サミットの警備のため18〜22日に広島市周辺で道路の交通規制を予定しています。18日は広島空港付近から広島市中心部にかけての高速道路などが午前11時から通行止めになります。広島市内の一般道は正午から一部区間で車両の通行ができなくなります。
 G7広島サミットによる交通規制を予告する電光掲示板(17日、広島市南区)
【18日の見どころ】岸田首相やバイデン米大統領らが到着へ
 G7サミットが19日に開幕するのを前に岸田首相やバイデン氏ら各国首脳が広島入りする予定で、日米首脳会談なども開く見通しです。要人が到着するため主要な道路などで交通規制が始まります。警備も強化されます。
【17日ダイジェスト】お好み焼きや目隠しシート…昨日振り返り
 開幕まで2日に迫った17日は警備や交通規制の準備が進みました。広島の街では県外から応援に来た警察官の姿がみられ、要人が訪れる予定の広島平和記念資料館はガラスに目隠しのシートを貼る作業が進められました。道路規制や交通機関の運休のお知らせも目立ちました。
 広島の街を発信しようという動きも相次いでいます。広島の一般財団法人「お好み焼アカデミー」はG7各国をイメージしたお好み焼きのレシピを開発し、加盟店が販売しています。
 地元企業は旧広島市民球場跡地のイベント広場で展示会「プライドオブ広島」を企画し、報道陣に公開しました。被爆後の街で資材を運んだマツダの三輪トラック、お好み焼きの屋台から広島カープの財政難を救った樽(たる)募金の実物まで紹介しています。

【インテル・理研、量子計算機で提携 半導体共同開発】
 18日午後、日経速報メールは次のように報じた。
 米インテルが理化学研究所と提携し、量子コンピューター技術などの共同研究に乗り出す。パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が18日、都内で日本経済新聞とテレビ東京の単独取材に応じ、明らかにした。最先端の半導体を手掛けるインテルと連携することで、日本の量子コンピューターの研究開発が加速しそうだ。
 同日、共同研究の覚書を結んだ。ゲルシンガー氏は「日本のシステムやソフトウエアは非常に有益だ」と述べた。インテルと理研が開発した半導体は、インテルが半導体の製造受託で生産する。スーパーコンピューターや人工知能(AI)に関わるコンピューター技術、シリコンを使った量子コンピューター技術などを研究する。

【G7広島サミット、中国・ロシア抑止を議論 19日開幕へ】
 18日昼、日経速報メールは次のように報じた。
 日米英など主要7カ国(G7)は広島で19〜21日に首脳会議(サミット)を開く。ウクライナ侵攻を続けるロシアや覇権主義的な動きを強める中国への抑止策を協議する。核兵器の不使用や透明性の向上も訴える。
 G7サミットは7カ国が持ち回りで開き、今回は日本が議長国となる。対ロシア制裁の抜け穴を塞ぐ方策やウクライナ支援の拡大などを話し合う。「法による支配」に基づく秩序を維持すべきだと訴え、中ロが試みる「力による現状変更」へ反対する。
 中国が軍事的威嚇を強める台湾情勢に関しては「台湾海峡の平和と安定」の重要性を確認する見通しだ。中国による経済的威圧を批判し、重要物資の安定的な供給網づくりを進める。
 議長を務める岸田首相は19日、バイデン米大統領らG7首脳と一緒に広島平和記念資料館を訪れる。「核兵器のない世界」へのメッセージを発信し、核抑止と核軍縮の両立を探る。一連の合意事項は共同声明などの成果文書にまとめる。
 G7枠外からもインドのモディ首相やインドネシアのジョコ大統領、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領らを招待する。ウクライナ 侵攻に起因するエネルギー・食料不足への支援策を議論する。ウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインなどの形式で参加する予定だ。
 G7に国際秩序を主導するかつてほどの力はない。インドなど南半球を中心とした新興・途上国を指す「グローバルサウス」の国々からG7への賛同を取り付け、中ロに対抗する狙いがある。

【速報中】G7広島サミット前日 日英首脳、夕食交え協議】
 18日夕方、日経速報メールは次のように報じた。前に記載した経過の続編。

【午後7時55分】日英首脳の夕食会形式の会談開始
 岸田首相と英国のスナク首相の夕食会形式の会談が始まりました。安全保障や経済での協力などが議題になります。
【午後7時半】地元主催の歓迎レセプション始まる
 広島県や広島市、地元経済界でつくる「広島サミット県民会議」が主催する歓迎レセプションが同市内で始まりました。海外の政府関係者の姿は極めて少なく、対外発信という意味ではいささか物寂しいものとなりました。

【午後7時すぎ】広島のメディアセンターで日本の酒や食紹介
 国内外の報道陣の取材拠点「国際メディアセンター」で日本の食や酒を紹介するイベントが開かれています。午後7時からジンやウイスキー、8種類の焼酎がふるまわれました。英国から来た男性記者は「とてもおいしかった。他にも色々試してみたい」と笑顔で語りました。
【午後7時12分】日米首脳会談が終了
 岸田首相とバイデン米大統領は1時間あまり協議しました。
【午後6時台】英国のスナク首相が広島到着
 英国のスナク首相は東京経由で広島空港に到着しました。43歳でG7の首脳では最年少です。きょうは護衛艦「いずも」の視察や経済レセプションへの参加をこなしました。昼食は東京・渋谷のフードコートを楽しんだようです。夜には岸田首相との会談に臨みます。
【午後6時2分】日米首脳会談始まる
 岸田文雄首相とバイデン米大統領の会談が広島市内で始まりました。
【夕】ドイツのショルツ首相が広島入り
 ドイツのショルツ首相が専用機で広島空港に到着しました。首相としては2022年4月と23年3月に続いて3度目の来日です。日本経済新聞の3月のインタビューではウクライナに侵攻したロシアについて非難する姿が目立ちました。
【夕】カナダのトルドー首相の搭乗機が広島着
 カナダのトルドー首相が広島空港に到着しました。首相としての初来日は2016年ですが、子供のころにも父親の故ピエール・トルドー元首相と一緒に日本を訪れたことがあります。17日には韓国も訪れていました。
【午後5時すぎ】バイデン米大統領が広島市内に
 バイデン米大統領が米軍岩国基地からヘリコプターで移動し、広島市内に入りました。米ワシントンを出発してから丸1日に迫る長旅でした。このあと岸田首相との首脳会談に臨みます。
【午後4時17分】岸田首相とイタリアのメローニ首相が会談
 岸田文雄首相がイタリアのメローニ首相と会談しました。広島サミットに合わせた初の2国間の首脳会談です。岸田首相は「地元・広島にお迎えできて大変うれしく思う」と呼びかけました。会談時間はおよそ1時間でした。
【午後4時すぎ】J1広島の新スタジアム、景観配慮でクレーン折りたたみ
 広島市でサッカーJ1サンフレッチェ広島の新たなホームスタジアムを建設中の共同企業体(JV)はサミット期間中、工事を休止します。交通規制で資材搬入などが難しくなるためです。
 18日夕方までに平和記念公園から見える場所にある8本の大型クレーンは折りたたんだり、角度を変えたりしました。担当者は「各国首脳が訪問した際の景観に配慮した」と話します。
【午後4時ごろ】バイデン米大統領の搭乗機が米軍岩国基地に着陸
 バイデン米大統領が米軍岩国基地(山口県岩国市)に到着しました。自国の債務上限問題で一時来日を見送る可能性も取り沙汰されました。このあと広島市内へと向かう予定です。

 19日、日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・G7首脳が19日午前に広島平和記念資料館を訪れた
・岸田首相が案内役を務めた
・核軍縮・不拡散に関する成果文書のとりまとめをめざす
 日米など主要7カ国(G7)の首脳は19日、広島市の広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪れた。岸田文雄首相が案内役を務めて被爆の実相を伝えた。「核兵器のない世界」の実現に向けたメッセージを打ち出す。
 G7首脳がそろって資料館を視察するのは初めて。バイデン米大統領は2016年に当時の安倍晋三首相と共に訪れたオバマ氏に続き米大統領として2人目となる。広島市によると、核を持つ英国とフランスの現職首脳は初訪問だ。
 広島で19〜21日に開くG7首脳会議(サミット)は議長である首相が広島平和記念公園でG7首脳を出迎えて開幕した。資料館を案内して核兵器使用の惨禍を伝え、公園内にある原爆慰霊碑に献花した。
広島サミットは核軍縮・不拡散を議題の一つに据えた。19日夜のワーキングディナーで協議し、合意事項を成果文書「広島宣言」としてまとめることをめざす。
 ロシアが核使用をちらつかせてウクライナ侵攻を続ける状況を踏まえ、唯一の被爆国である日本開催のサミットで核不使用の継続を訴える。核戦力の増強を指摘される中国には保有弾頭数の情報開示など透明性の向上を求める。
 日本は核廃絶を目指す一方で、北朝鮮による核・ミサイル開発や中国の軍備拡大といった脅威への抑止力は米国が提供する「核の傘」に頼っている。核抑止と核軍縮の両立を追求すべきだと呼びかける。
 具体策となるのは首相が22年に提唱した行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」だ。核による威嚇・使用への反対や核兵器削減の継続といった核保有国でも取り組みやすい5項目からなる。首相は同プランを説明し、G7首脳からの賛同をめざす。
 サミット最終日の21日にはインドや韓国、インドネシアなどG7拡大会合に招待する8カ国の首脳とも資料館を訪れる。韓国の尹錫 悦(ユン・ソンニョル)大統領とは「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」へも行く。
政府高官は「米英仏印という核保有国の首脳が核兵器の被害を自らの目で見る意義は大きい」と語る。

【ウクライナ大統領来日、G7サミット対面参加へ 政府高官】
 19日昼、日経速報メールが次のようなビッグニュースを報じた。
 ウクライナ政府のダニロフ国家安全保障・国防会議書記は19日、ゼレンスキー大統領が広島市での主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に対面で参加すると明らかにした。ロシアに対する大規模反攻を前に、バイデン米大統領や各国首脳に軍事支援の拡大を求める。
 ウクライナメディアが報じた。日本政府は18日、ゼレンスキー氏が21日にオンラインでG7サミットに参加すると発表していた。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ゼレンスキー氏が日本を訪れるのは初めて。
 岸田首相は3月にウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー氏にサミットへのオンライン参加を要請した。同氏は大規模反攻で領土を奪回するにはさらに多くの兵器が必要とみており、サミットに直接参加して追加支援を訴える必要があると判断したもようだ。
 サミットやバイデン氏らとの会談では、米国製「F16」などの最新鋭戦闘機の供与を働きかけるとみられる。ゼレンスキー氏は戦況を好転させるために不可欠だとして長射程の攻撃能力を持つF16を求めているが、バイデン米政権は供与に慎重な姿勢を示してきた。

【丸紅や住友商事、英国で3兆円投資 スナク首相が表明 洋上風力発電など】
 18日の日経速報メールは次のように報じた。
 英国のスナク首相は18日、都内で開いた日英財界のイベントに登壇し、丸紅や住友商事など日本企業が英国で洋上風力発電などに計177億ポンド(約3兆円)を投資する計画だと明らかにした。スナク氏はクリーンエネルギー分野で日英が連携すれば「両国の経済成長につながる」と歓迎した。
 スナク氏は19日に始まる主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のため18日に来日した。同氏の来日は2022年10月の首相就任後で初めて。
 英政府によると、丸紅はパートナー企業と合わせて今後10年でクリーンエネルギーなどにおよそ100億ポンドを投資する覚書を交わす。住友商事はパートナーと共同で英東海岸地域の洋上風力発電に40億ポンドの投資を計画する。
 三菱地所と三井不動産は合わせて35億ポンドを投じ、ロンドンで住宅やオフィスビル、研究施設を開発する。
 英国は大西洋からの偏西風で安定した風量を得られ、洋上風力発電の導入で世界をリードしてきた。スナク氏は「日本企業にとって世界で最も刺激的な進出先の一つだ」と述べ、英国へのさらなる投資を呼びかけた。
 英国は2020年に欧州連合(EU)を離脱し、アジア地域を重視する中核戦略「インド太平洋への傾斜」を掲げる。3月には環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟が認められた。スナク氏は欧州で唯一の参加国として「自由貿易圏の発展に日本と協力していく」と話した。
 18日夜に広島市内で岸田首相との日英首脳会談に臨む予定だ。防衛や貿易、科学技術などの分野で日英の連携を強める「広島アコード」で合意する見通し。

【G7首脳、原爆資料館を訪問 広島サミットで惨禍を共有】
 19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・G7首脳が19日午前に広島平和記念資料館を訪れた
・岸田首相が案内役を務めた
・核軍縮・不拡散に関する成果文書のとりまとめをめざす
 日米など主要7カ国(G7)の首脳は19日、広島市の広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪れた。岸田首相が案内役を務めて被爆の実相を伝えた。「核兵器のない世界」の実現に向けたメッセージを打ち出す。
 G7首脳がそろって資料館を視察するのは初めて。バイデン米大統領は2016年に当時の安倍晋三首相と共に訪れたオバマ氏に続き米大統領として2人目となる。広島市によると、核を持つ英国とフランスの現職首脳は初訪問だ。
 広島で19〜21日に開くG7首脳会議(サミット)は議長である首相が広島平和記念公園でG7首脳を出迎えて開幕した。資料館を案内して核兵器使用の惨禍を伝え、公園内にある原爆慰霊碑に献花した。
 広島サミットは核軍縮・不拡散を議題の一つに据えた。19日夜のワーキングディナーで協議し、合意事項を成果文書「広島宣言」と してまとめることをめざす。
 ロシアが核使用をちらつかせてウクライナ侵攻を続ける状況を踏まえ、唯一の被爆国である日本開催のサミットで核不使用の継続を訴える。核戦力の増強を指摘される中国には保有弾頭数の情報開示など透明性の向上を求める。
 日本は核廃絶を目指す一方で、北朝鮮による核・ミサイル開発や中国の軍備拡大といった脅威への抑止力は米国が提供する「核の傘」に頼っている。核抑止と核軍縮の両立を追求すべきだと呼びかける。
 具体策となるのは、首相が22年に提唱した行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」だ。核による威嚇・使用への反対や核兵器削減の継続といった核保有国でも取り組みやすい5項目からなる。首相は同プランを説明し、G7首脳からの賛同をめざす。
サミット最終日の21日にはインドや韓国、インドネシアなどG7拡大会合に招待する8カ国の首脳とも資料館を訪れる。韓国の尹錫悦大統領とは「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」へも行く。
 政府高官は「米英仏印という核保有国の首脳が核兵器の被害を自らの目で見る意義は大きい」と語る。

【インドのモディ首相、G7・中ロ「両陣営と連携」 単独会見】
 19日晩、日経ニュースメール【ニューデリー=岩城聡】によると、ディ首相は18日、主要7カ国首脳会議(G7サミット)で訪日前に首都ニューデリーの首相官邸で日本経済新聞との単独会見に応じた。
 G 7で「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の代表として「その声と懸念を増幅させ、彼らの優先事項が議題に含まれるよう提唱する」と明言した。
 エネルギーやデジタル空間、世界のサプライチェーン(供給網)など、重要な転換期を迎えている世界の課題について議論したい」と述べ、インドこそが各国の「信頼できるパートナー」になりうると強調した。
 インドは今年、中国やロシアを含む20カ国・地域(G20)の議長国を務める。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」のメンバーで、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)にも加盟する。
 モディ氏は「両方のグループに参加することはインドにとって矛盾せず、互いに排他的なものでもない」と主張した。民主主義と権威主義の二極ではなく「グローバルサウスの一員として多様な声の架け橋となり、建設的で前向きな議論に貢献する」と述べた。
 「インドは安全保障上のパートナーシップや同盟に属したことはない。その代わり、国益に基づき世界中の幅広い友人や志を同じくするパートナーと関わりを持つ」とも語った。伝統的な外交方針である「戦略的自律性」を貫く考えを改めて示した。
 モディ氏は昨年9月にロシアのプーチン大統領と会談し「今は戦争の時ではない」と伝えた。この発言について「インドは平和の側に立っており、これからもそこにとどまる。私は『現代において戦争はあってはならない』と繰り返してきた」と真意を説明した。
 「ロシアとウクライナの双方と連絡を取り合っている。紛争ではなく『協力と協調』が我々の時代を定義する」とウクライナ和平の仲介役に意欲を示した。
 国連安全保障理事会の常任理事国入りにも執念をみせた。「世界最大の民主主義国であるインドやアフリカ、中南米からの常任理事国を拒み続けるなら、安保理の意思決定の信頼性は常に疑われる」と唱え、国連改革を訴えた。
 国境問題を抱える中国に対しては「インドは自国の主権と尊厳を守るための十分な準備とコミットメントを持つ」と拡張主義的な動きをけん制した。中国との関係の進展は「相互の尊重と利益に基づいてのみ可能だ」と指摘し、「両国関係の正常化はアジアと世界にとって有益だ」と説いた。
 カシミール地方の領有権を巡り対立するパキスタンには「テロや敵対行為のない環境をつくることが彼らに課せられた責務だ」として関係改善に向けた覚悟を迫った。
 ナレンドラ・モディ氏 1950年インド西部グジャラート州生まれ。貧しい家庭で育ち、幼少期からヒンズー至上主義団体「民族義勇団(RSS)」の活動に参加した。2001年から14年までグジャラート州首相としてインフラ整備や企業誘致に成果を上げた。RSSを支持母体とするインド人民党(BJP)の首相候補として臨んだ14年春の総選挙(下院選)で大勝し首相に就任した。現在2期目。ツイッターでの情報発信に熱心で約8800万人のフォロワーを抱える。72歳。

【ゼレンスキー氏、被爆地から発信する意義「G7のメッセージも強く」】
 19日の朝日新聞デジタルは次のように述べた。
 ゼレンスキー氏の訪日は、ウクライナへの侵攻を続けるロシアとの対決姿勢をG7と結束して打ち出す以上の意味がある。被爆地広島からの発信という意味合いも大きい。ロシアによる核の脅しや、使用に反対する姿勢を打ち出すことで、世界的かつ歴史的なインパクトもあるからだ。
 さらに、インドやインドネシア、ブラジルなど「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の代表格と言える国々の首脳も参加することから、サミットの場で直接働きかけができるという意義もある。
 ロシアに経済制裁を科すのは欧米、日本を中心とした40カ国ほどにとどまる。存在感を増すグローバルサウスの多くの国は、直接批判を避けてロシアとの関係を維持している。侵攻を止めるにはこうした国々を巻き込む必要があるため、ウクライナはグローバルサウスとの関係構築を外交の優先事項に位置づけている。

【ゼレンスキー氏が広島到着 G7出席、各国首脳とも会談へ】
 20日午後、日経速報メールは次のように報じた。
 ウクライナのゼレンスキー大統領が20日午後3時半ごろ、広島空港に到着した。主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に対面で出席する。21日のウクライナ情勢にかかわる討議に加わる。日本やインドなど各国首脳との会談にも臨む見通し。
 午後3時40分ごろ、フランス政府の専用機からタラップを降りた。ゼレンスキー氏はスーツ姿ではなく、ロシアのウクライナ侵攻後に公式行事などで着用しているカーキ色のパーカー姿だった。
 木原誠二官房副長官の出迎えを受けたあと、独BMWの自動車に乗り込み、移動した。ゼレンスキー氏はツイッターに「日本、そしてG7。ウクライナのパートナー、友人たちとの重要な会合。私たちの勝利のための安全保障と協力の拡大。きょう、平和が近づく」と書き込んだ。
 G7広島サミットに出席している各国首脳は到着時刻の目安が事前に報道関係者向けに公表されたが、ゼレンスキー氏は非公開だった。
 ゼレンスキー氏は21日、G7首脳とウクライナに関する協議に臨む。韓国やインドなど招待国首脳を加えた平和と安定に関する協議にも参加する。
 岸田文雄首相との2国間会談も実施する。ロイター通信によると、バイデン米大統領とも会談に臨む可能性が高い。インドネシアやブラジルとの首脳会談も検討している。
 インドのモディ首相とは20日午後に会談する。インド外務省が明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻後、インドとウクライナの首脳会談は初めて。
 ウクライナは雪解け水がひいて地面が固まるのにあわせ、近く大規模な反転攻勢に出るとみられている。
 成否のカギを握るのが周辺国や友好国の支援だ。ゼレンスキー氏は5月中旬にイタリア、フランス、英国、ドイツを歴訪した。19日にはサウジアラビア西部のジッダを訪れ、アラブ連盟首脳会議に出席。演説でアラブ諸国に支援を呼びかけた。
 ゼレンスキー氏の来日は岸田首相側から呼びかけた。日本政府によると、岸田首相が3月にウクライナを訪問した際、ゼレンスキー氏にG7広島サミットへのオンライン参加を要請した。
 当初は19日の会合にオンライン参加する予定だった。日本政府はサミット開幕前日の18日、オンライン参加が「ウクライナ側の事情により」サミット最終日の21日午前になると発表した。海外メディアが19日に相次ぎゼレンスキー氏の来日を報じると、その後ウクライナ政府高官も認めた。
 20日午前に日本政府も「ゼレンスキー大統領からサミットへの対面参加にかかわる強い希望が表明され、サミット全体の議題や日程を慎重に検討した結果、21日にゼレンスキー大統領が対面参加するセッションを開催することとした」と公式発表した。

【G7が重視「法の支配」とは? 最低限の国際秩序の基盤】
 21日朝、日経速報メールは次のように報じた。
 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は21日に閉幕する。G7が新興・途上国との協調に向けて重視したのが「法の支配」だ。法の支配に基づく国際秩序の形成とはどのような概念なのか。3つのポイントでまとめた。
・(1)「法の支配」の強化とは
・(2)「自由で開かれたインド太平洋」との関連は
・(3)グローバルサウスに響くか

(1)「法の支配」の強化とは
 「多様性や自由な経済活動などが保障されるためにも最低限必要なのが国連憲章をはじめとする法の支配だ」。岸田文雄首相は10日の日本経済新聞のインタビューでこう話した。
 外務省が4月に公表した2023年版外交青書は「法の支配」を「全ての権力に対する法の優越を認める考え方」と紹介した。「公正で公平な社会に不可欠な基礎で、友好的で平等な国家間関係からなる国際秩序の基盤となる」と記した。国家間で意思疎通する際のベースになる。
 対照的な言葉が「力による支配」だ。G7はウクライナに侵攻したロシアを巡って国際法違反だと非難し、即時かつ無条件の撤退を要求する。軍事力を背景に海洋進出の動きを強める中国にも「深刻な懸念」を表明する。
 法の支配を強化する具体的な施策は何か。外交青書はまず「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の重要性を各国と確認し合う外交を挙げる。広島サミットはその舞台となった。
 安全保障の側面では自衛隊と各国軍が共同訓練しやすくなる円滑化協定などの締結が該当する。日本はオーストラリアや英国と同協定を相次いで結んだ。防衛協力を深め、力による現状変更を起こさせない抑止力を高める。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の参加国を拡充するなど経済・社会の分野で共通のルールを形づくるのも法の支配の取り組みだ。国際刑事裁判所や国際海洋法裁判所には財政・人材などの面で貢献する。

(2)「自由で開かれたインド太平洋」との関連は
 岸田首相は3月に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たな推進計画を発表した。FOIPは首相が外相を務めていた16年に当時の安倍晋三首相が打ち出した概念だ。太平洋とインド洋を結びつけて地域の平和と繁栄を目指す。
 この考え方は米欧やアジアなどに根付いた。例えば米太平洋軍は米インド太平洋軍へと名称変更し、米欧各国がインド太平洋戦略を策定した。
 法の支配はFOIPの中核的な要素になる。岸田首相は「インド太平洋地域の連結性を高め、力や威圧とは無縁で自由と法の支配などを重んじる場として育て、豊かにしていく」と提唱する。
 新推進計画にも安保や経済などでの協力策が並ぶ。不透明・不公正な開発金融の防止はその一つだ。新興・途上国の中では中国から投資を受けた後に多額の債務を抱えてインフラ利権を奪われる「債務のわな」問題が生じている。
 日本は30年までに750億ドル以上のインフラ支援を掲げる。中国とは異なる選択肢の提示を意識する。

(3)グローバルサウスに響くか
 岸田首相が新推進計画を明らかにしたのはインドでの講演だった。インドは南半球を中心とする新興・途上国を指す「グローバルサウス」の盟主を自任する。モディ首相を広島サミットに招待し、20日には日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会議も開いた。
 広島サミットに招いたインドやブラジル、ベトナムはG7と中国・ロシアのいずれの陣営とも等距離を保つ外交姿勢で知られる。国際社会はG7のようにウクライナ支援と対ロシア制裁に踏み切る国ばかりではない。
 G7はこうしたグローバルサウスの国々とも法の支配の必要性では一致できるとみる。岸田首相は「色々な価値観や歴史的・文化的背景はあるが、国際法は弱い立場の国のためにこそあるものだ」と説明する。
 広島サミットで気候変動やエネルギー、国際保健などの地球規模のテーマも議論した。これらはG7だけでは解決できない。グローバルサウスとの連携が要る。

【「法の支配」維持へ結束強化 中ロに対抗、G7首脳宣言 「核なき世界」は現実的に推進】
 21日、日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・G7は討議の成果をまとめた首脳宣言を1日早く発表
・中国とロシアに対抗するため、結束を強化すると明記
・最終日はウクライナに関する協議が中心になる見通し
 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日、討議の成果をまとめた首脳宣言を発表した。中国やロシアに対抗し「法の支配」に基づく国際秩序を維持するため結束を強化すると明記した。「核兵器のない世界」を究極的な目標と位置づけ、現実的な方法で核軍縮を進めると強調した。
 首脳宣言はサミットの最終日に公表するのが通例だが、今回は1日前倒しした。21日はウクライナのゼレンスキー大統領が対面で討議に加わり、ウクライナ情勢に関する協議が中心となる。G7のみでの討議がおおむね終わったことを受けて発表した。
 首脳宣言はロシアによるウクライナ侵攻や中国の威圧的な行動へ対抗するメッセージに重点を置いた。前文で「G7は世界の課題に対応し、より良い未来への道筋をつけるため、これまで以上に結束する」と打ち出した。
 ウクライナ侵攻のような国際法を無視した覇権主義的な行動を止められず、法に基づく国際秩序が揺らいだことへの危機感が反映された。
 「ロシアの残忍な侵略戦争は国際社会の基本的な規範に反し、全世界への脅威だ」と批判した。ウクライナ支援を強化する必要があると記し、対ロ制裁強化の共同文書を出したことにも触れた。
 中国に関しては国際法に反する人工島建設や頻繁な領海侵入を仕掛ける東・南シナ海の状況へ「深刻な懸念」を表明した。「力や威圧によるいかなる一方的な現状変更にも強く反対」すると訴えた。
 「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」と書き込み「両岸問題の平和的解決」を促した。台湾を巡ってはフランスのマクロン大統領が「米中に追随しない」と発言したことが問題になった経緯がある。首脳宣言でG7としての立場を改めて確かめた。
 半導体やレアアース(希土類)といった重要物資の輸出入を制限する「経済的威圧」への対抗策も書き込んだ。中国など特定国への依存を下げ、G7と新興・途上国で供給網を強化する枠組みを新設する方針を示した。
 一方で、中国には懸念を直接伝え、対話を通じて建設的な関係を構築する用意があるとも盛った。国際的な課題で協力する必要性も強調し、ロシアがウクライナ侵攻を断念するように中国も圧力をかけるよう要求した。
 G7が国際秩序を主導する力が低下したことを踏まえ、国際的な「パートナー」との協力を深める意思も示した。
 南半球の国を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が念頭にあるが、グローバルサウスという表現は避けた。「上から目線の言葉」と受けとめる国があるためで、G7が掲げる国際秩序への理解と協力をめざすには使わない方が適切という判断があった。

【G7広島サミットを読み解く 対ロシアで結束、核軍縮発信】
 22日未明のニュースメールは次のように報じた。
 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が3日間の日程を終えて21日に閉幕した。ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、ロシアへの反転攻勢に向け支援を訴えた。後半日程の議題はウクライナ一色となった。
 G7がまとめた首脳宣言は国際秩序を守るために結束を強めると表明。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国と協力して中国やロシアの覇権主義に対抗する方針を打ち出した。被爆地・広島での開催を通じ「核兵器のない世界」をめざすと確認した。サミットで打ち出した成果をポイントごとにまとめた。
(1)ゼレンスキー大統領が来日、ウクライナ支援と対ロ制裁を強化
(2)被爆地・広島で開催、核なき世界へ「広島ビジョン」発表
(3)新興・途上国「グローバルサウス」への関係強化を確認
(4)中国にはロシアへの圧力を要求 「分断」ではなく「リスク軽減」へ
(5)生成AIのルールづくりで方向性 「経済的威圧」に対抗

 
 ゼレンスキー氏はサミット2日目の20日午後に来日した。21日のG7討議に対面で出席した。日本政府によると本人の強い意向で、オンラインの予定から変更になった。
 ゼレンスキー氏が戦時下に東アジアまで足を運んだのは国際世論を喚起し、各国に支援を訴える機会と捉えたためだ。G7首脳はゼレンスキー氏との会合で軍事、財政などで「必要とされる限りの支援」を続けると約束した。
 ロシアと近い関係を維持するインドのモディ首相らが加わったG7拡大会合でも「一方的な現状変更の試みを許してはならない」との認識を共有した。「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を巻き込み、「法の支配」に基づく国際秩序を維持・強化する意思を示した。
 G7首脳でまとめたウクライナに関する共同文書はロシアへの輸出制限を「侵略に重要な全ての品目」に広げると掲げた。制裁を強化し、ロシアの戦力をじわじわとそぐ作戦だ。中国などを念頭に第三者によるロシアへの武器供給の阻止も強調した。
 岸田文雄首相は21日にゼレンスキー氏を広島平和記念資料館(原爆資料館)へ案内した。核兵器の使用をちらつかせて侵攻を続けるロシアを抑止する狙いがあった。

(2)被爆地・広島で開催、核なき世界へ「広島ビジョン」発表
 核を保有する米英仏を含むG7首脳は19日、初めてそろって原爆資料館を訪問した。各首脳は訪問者が書き込む芳名録へ記帳した。
 バイデン米大統領は「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。(Together-let us continue to make progress toward the day when we can finally and forever rid the world of nuclear weapons.」としたためた。
 G7首脳は核軍縮に特に焦点を当てた初の共同文書「広島ビジョン」をまとめた。核のない世界を「究極の目標」と位置づけ「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与すると確認した。核による抑止力維持と核軍縮を両立させる道筋といえる。
 ウクライナへ侵攻するロシアを巡り「核兵器の使用の威嚇、いかなる使用も許されない」と強調し、核拡散防止条約(NPT)体制の堅持も唱えた。
 岸田首相は21日には核保有国であるインドを含む8招待国の首脳とも原爆資料館を訪れた。
(3)新興・途上国「グローバルサウス」への関係強化を確認
 サミットにG7枠外から招待した8カ国のうち6カ国は「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国だった。かつてG7は世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めた。足元では5割に満たない。
 中国やロシアに対抗してG7がめざす「法の支配」に基づく国際秩序を維持するには100カ国以上ある新興・途上国から理解を取り付けることが欠かせない。
 今回、G7は「民主主義」という価値観を従来ほど前面に出さず、代わりに「法の支配」やそれを象徴する「国連憲章」に重点を置いた。新興・途上国の政治体制は様々で「民主主義」に必ずしも前向きではないためだ。
 ウクライナ侵攻を巡っても中立を保つ国が多い。サミットではこうした国々も含めて「法に基づく秩序」の重要性を共有するところまではできた。中国依存を下げるために重要物資のサプライチェーン(供給網)づくりで協力するとも決めた。
 G7は上から目線との指摘がある「グローバルサウス」ではなく「パートナー」という表現を使った。各国のニーズに応じたきめ細かな支援をすることでも一致した。G7からの一方的な対応ではなく、同じ立場で関係を深めることに気を使ったサミットだった。

(4)中国にはロシアへの圧力を要求 「分断」ではなく「リスク軽減」へ
 サミットでは中国の覇権主義に対策をとりつつ、対話を通じた関係維持も強調した。中国が統一をめざす台湾を巡っては、台湾海峡の平和と安定は「国際社会の安全と繁栄に必要不可欠」と記した。22年のG7首脳宣言にはなかった言葉だ。
 東大の松田康博教授は「22年に日本政府がまとめた国家安全保障戦略で用いられた強い文言だ。首脳宣言の原案づくりを議長国の日本が主導したと考えられる」と分析する。
 一方で、国際的な課題では中国と協力し「対話を通じ建設的かつ安定的な関係を構築する」のが重要という認識で一致した。中国にはウクライナからの撤兵に向けてロシアに圧力をかけることを求めた。中国には共通の懸念を直接伝え責任ある行動を求めるとも申し合わせた。
 G7は「デカップリング(分断)や内向き志向にはならない」とうたい、「デリスキング」(リスク低減)を打ち出した。中国との経済関係を重視する独仏の意向が反映された可能性がある。
 (5)生成AIのルールづくりで方向性 「経済的威圧」に対抗
 サミットは進化の早い生成AI(人工知能)の国際ルール作りが議題の一つとなった。首脳宣言ではAIを含む新たなデジタル技術に関し「国際的なガバナンス(規律)が必ずしも追い付いていない」と認めた。
 「信頼できるAI」を目指し、民主主義の価値観に基づいた見直しが必要だと主張した。生成AIについてG7関係閣僚に協議の結果を年内に報告するよう求めた。
 今回のサミットは経済安全保障分野にも焦点を当てた。ここも中国が念頭にある。中国は新型コロナウイルスの発生源問題を巡り対立したオーストラリアの石炭に高関税を課したり、リトアニアとの間の輸出入を制限したりした。
 G7は特定の国が不当な経済的圧力を加えてきた場合、抑止策や対応策を話し合う協議体の創設で合意した。同志国も交えて定期的に協議する。必要な場合は共同で対抗する。
 G7は半導体などの重要物資やレアアース(希土類)をはじめとする重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化も打ち出した。(羽田野主)

【「ウクライナも広島のように復興したい」ゼレンスキー大統領が日本で語った平和への想い(スピーチ全文)】
 G7サミットにあわせて、5月20日に広島を電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。滞在中には平和記念資料館を視察したほか、原爆死者慰霊碑に献花した。
 そして、5月21日夜に開かれた記者会見では、平和記念資料館にある「人影の石」に言及して、平和を訴えた。
 1年以上戦争が続くウクライナから訪日したゼレンスキー氏は、80年近く前に原子爆弾が投下された広島で何を見て、何を語ったのか。
 ウクライナ大統領府広報室が23日に公表したスピーチ全文【ハフポスト日本版】
を、以下に紹介する。
 ご参列の皆さん。日本の皆さん。そして平和を尊重する世界中の皆さん。
 私は「人影の石」になりかねなかった国から来ました。
 しかし、勇敢なウクライナの人々が、戦争そのものが影となるよう歴史を変えました。
 私は世界には戦争の居場所はないと信じています。人類はその長い道のりの中で、血が流れる対立で多くの命を失いました。
 死は時に空から舞い降り、時に海からやってきました。放射線が死をもたらし、人々が互いを死に至らしめました。
 人類の歴史は、戦争なしには考えられないと言う人もいます。しかし私たちは、戦争こそ人類の歴史からなくなるべきものだと訴えています。
 ウクライナは、戦争破壊の中心に置かれています。侵略者は私たちの土地にやってきました。しかし彼らが征服したいと望んでいるのは、我々ウクライナ人だけではありません。ロシアはウクライナ人など存在しない、と世界に嘘をついています。
 ウクライナの人々がこれほど勇敢でなければ、ロシアによる虐殺は成功し、ウクライナの影、すべての国民の影だけが残されていたかもしれません。影だけです。
 しかし、ウクライナ人は限りなく勇敢で、限りなく自由を愛する人々であり、生き続けます!自由に生き続けるのです。
 ロシアが使用しているのは核兵器ではありませんが、爆弾や砲撃で焼け落ち、廃墟になったウクライナの都市は、平和記念資料館で目にした光景と似ています。
 平和記念資料館を訪れる機会を与えていただいたことに心より感謝します。歴史を通して皆さんが見てきたのは、普通に生活できたはずの何千もの命や家族ではなく、灰だけが残された風景です。街の代わりに焼けこげた荒地が広がり、家の代わりに瓦礫が残されました。
 そして今、広島は復興しました。私たちも、ロシアの攻撃で廃墟となったすべての都市や、無傷の家が一軒もない村を復興したいと夢見ています。
 私たちは領土を取り戻したいと夢見ています。占領されたウクライナ北部の領土を取り戻したように、東部と南部も取り戻さなければなりません。
 また、現在ロシアの捕虜となっている人々も取り戻したい。その中には、戦争捕虜や民間人、追放された大人や拉致された子どもたちが含まれます。
 私たちは勝利し、その後に平和が訪れることを夢見ています。
 しかし、その実現のためには、この侵略者だけでなく、戦争そのものに対する野心も敗北させなければなりません。これは世界中すべての人にとって重要なことであり、私は一致団結を呼びかけるウクライナの声が、ここから世界中に届くようにするために広島にいます。
 ロシアは文明的なもののすべてを踏みにじりました。彼らは私たちにとって、そしてヨーロッパにとっても最大の原子力発電所を1年以上も占拠しています。ロシアは世界で唯一、原子力発電所を戦車で砲撃したテロリスト国家です。
 原子力発電所を、兵器や弾薬の貯蔵庫として使用した例は他にありません。ロシアは原子力発電所を盾にして、ロケット弾を私たちの街に発射しているのです。
 もしこれまでのロシアの戦争犯罪を無視する人がいても、今も(続く)このような人道に対する罪は、間違いなく全ての人を行動に駆り立てるはずです。
 私たちは、1986年のチョルノービリ原発事故を生き延びなければならなかった立場からそう訴えています。私たちの土地の一部は、今でも閉鎖や立ち入り禁止区域になっています。想像してください、ロシアの軍隊は、この区域を通って進軍してきたのです。彼らはソ連時代に放射能汚染物質が埋められた森の中で、塹壕を掘っていました。
 もし、ロシアの不正で愚かな行動が何の結果も被ることなく放置されるのであれば、世界は荒廃を免れません。国の要職に就く他の犯罪者たちが、同様の戦争を始めようとするのは時間の問題です。
 もし占拠された領土のほんの少しでもロシアに与えられてしまうのであれば、国際法は二度と機能しなくなるでしょう。
 ウクライナは「平和のフォーミュラ(和平案)」を提案しています。これは公平で現実的な内容で、まず最初に放射能と核の安全を訴えています。
 ロシアは放射能と核を使って世界を脅迫することをやめ、占拠している原子力発電所をウクライナとIAEA(国際原子力機関)の完全な管理下に置かなければなりません。
 平和のフォーミュラは合計で10項目あり、それぞれが国連決議で採択されています。そしてこの10項目には、私たちの国に対するロシアの戦争を終わらせるために必要なすべてが含まれています。
 しかしそれだけではありません。平和のフォーミュラでロシアの攻撃的な野望を止めて侵害された安全を回復することで、もう一つ達成できることがあります。
 それは、侵略する可能性のある他の人たちを無力にさせることです。戦争を望む者たちは、世界が団結して平和を守ると決意するのを見ることで、戦いは無意味だと思えるようになるでしょう。
 これまで、侵略者を止められる平和のフォーミュラはありませんでしたが、ウクライナが提案しました。
 これは世界を戦争から救うための提案です。実現するために、私たちは団結し、ロシアを最後の侵略者にしなければなりません。ウクライナへの侵略に打ち勝った後に、平和だけが君臨するようにするためです。
 私たち人間の文化や視点、国旗は異なります。しかし、私たちは皆、同じように自分や子ども、孫たちの安全を望んでいます。万が一にもあってはならないことですが、戦争が起こった場合、私たちの命は同じように灰になってしまいます。
 戦争が歴史の石に影だけを残し、それが平和記念資料館のみで見られるようにするために、世界中の誰もが、可能な限りのことをしなければなりません。
 世界中の人々は、他の国々を尊重しなければなりません。
 国境を認めなければなりません。
 正義を守らなければなりません。
 命を大切にしなければなりません。
 平和を自らの責務として受け止めなければなりません。
 広島の皆さん、街に青と黄色の旗を掲げていただきありがとうございます。ウクライナの旗は、自由と命への信念で、私たちを信頼してくれている証しです。ありがとうございます!
 日本と岸田文雄総理大臣、すべての日本の皆様のありとあらゆる支援に感謝します!
 そして戦争の犠牲者すべてに永遠の追悼を捧げます。
 平和が訪れますように!
 ウクライナ万歳!

【ゼレンスキー大統領演説の背景にある歴史的事実】
 以上がゼレンスキー大統領演説の全文である。 
 当ブログの文末に視聴した録画を挙げたが、その(11)NHK ETV特集「市民と核兵器~ウクライナ 危機の中の対話」を視聴したことで知った事実3つに言及しておきたい。
(1)1991年のソ連崩壊とウクライナ独立の時点で、米ロ間で戦略兵器削減条約(第1次)が結ばれ、核兵器(核弾頭)保有国は米ロに次いで3位のウクライナが核弾頭1900発を放棄し、世界の核弾頭は減少に向かったこと。1993年の戦略兵器削減条約(第2次 米はブッシュ大統領(父)とロシアのエリチン)とつづき、1994年のブダペスト覚書に基づき、ウクライナ所有の核弾頭廃棄作業が始まり、ペリー国防長官(後述)がその監督に当たった。
(2)日本で14歳まで育ったウクライナ人ボグダンさんがウクライナで聴く「核兵器を放棄しなかったら今回のロシアの侵攻はなかったか」に関する取材について。ボグダンさんは、取材のなかで賛否拮抗する意見の狭間で、祖父(ウクライナ教育相)が「ウクライナが核を放棄したのは正しかった」と考えていたことを想起する。
(3)オバマ大統領を動かしたウィリアム・ジェームズ・ペリー(William James Perry、1927年~)に聴く「核なき世界」の取材について。彼は黒船を率いて日本に来航したマシュー・ペリー提督は5世代前の伯父にあたる。高校卒業後に学資稼ぎのため1947年に軍隊へ志願、占領地の日本へ派遣され、東京に約2ヶ月・沖縄県に約1年半滞在した。除隊後、スタンフォード大学にてPh.D.(数学)を取得。
 以下、すこし長いが、ネット検索を通じてW.J.ペリーの行動と成果を見たい。
防衛産業のシルベニア社系列のエレクトロニック・ディフェンス・ラホラトリーズ社(EDL、現在のGTE)に入社、上級数学研究員となる。弾道ミサイルのテレメトリ事業に従事し、4年後にEDLのトップ、6年後に自らエレクトロマグネティック・システムズ・ラボラトリーズ社(ESL)を創立した。
 ケネディ大統領の時代にキューバ危機の原因となったアメリカ合衆国とソビエト連邦のミサイルの戦力差すなわちミサイルギャップを解明する委員会に参加。アメリカの一般的な見解に相反して、アメリカのミサイル戦力がソ連に勝ることを明らかにした。あわや核による第三次世界大戦の一歩手前までいったキューバ危機を関係者の1人として間近に経験したことが「核無き世界」を目指す契機となった。
国防次官時代(ジミー・カーター政権)
 1977年にカーター大統領によって国防長官に指名されたハロルド・ブラウンに請われて研究・工学担当国防次官に就任。ブラウン長官提案のオフセット戦略(ソ連に数において劣るアメリカ軍の力を増強するためにハイテクを駆使する)を推進した。推進した技術には精密誘導爆弾・GPS(全地球測位システム)・DARPAネット(今日のインターネットの前身)がある。
 後に湾岸戦争で威力を発揮することになるステルス爆撃機のF-117航空機もペリー国防次官の下で開発された。ロッキードに開発を急がせ、通常であれば12年から15年かかる開発を短縮して4年で実戦配備した。
民間外交時代
 1981年1月20日にジミー・カーター政権の終わりと共にスタンフォード大学に復帰し、ソ連との民間外交に関与した。のちにロシア連邦の政権の高官となるアンドレイ・ココーシン・コズイレフの知遇を得る。
 1991年12月25日のソビエト連邦の崩壊当時、旧ソ連からの核拡散への対策が緊急の課題となった。民主党のサム・ナンと共和党のリチャード・ルーガーと共に旧ソ連の核関連施設を視察した。この視察をもとに協調的脅威削減計画(CTR、通称「ナン・ルーガー法」)が定められ、アメリカ主導の下に旧ソ連の核兵器の処分が進められた。
国防副長官・国防長官時代 (ビル・クリントン政権)
 1993年3月5日に第22代国防副長官に就任、ナン・ルーガー法に従ってロシア連邦に対して旧ソビエト連邦の核兵器廃棄事業を支援した。
 1994年1月のレス・アスピン国防長官の辞任時にビル・クリントン大統領より国防長官への就任を要請された。一度は辞退したが、アル・ゴア副大統領より説得されて翻意し、第19代アメリカ合衆国国防長官に就任した。
 旧ソ連圏の崩壊に伴い、東ヨーロッパの安定が課題となった。NATOは東ヨーロッパへ拡大しようとしていたが、NATO拡大に対して警戒感をもっていた新生ロシアの懸念を払拭することが必要だった。その時ペリー国防長官は、NATO加盟の前段階としての「平和のためのパートナーシップ(PFP)」を推進、その結果ロシアのPFPへの参加を引き出し、ソ連崩壊後の東ヨーロッパの安定化に成功した。
 1994年に北朝鮮が実験用黒鉛減速炉からプルトニウムを抽出するぞと得意の瀬戸際外交を演じた際には、ペリー国防長官は徹底して外交的解決を目指したが、軍事的な後ろ盾の必要も感じ、密かに北朝鮮の核疑惑施設への空爆いわゆるサージカル・ストライクも検討させていた。このとき空爆の対象として検討された施設は、寧辺にある核燃料再処理施設・5メガワットの実験炉・使用済み燃料保管プールなどである。カーター元大統領を特使として派遣し、北朝鮮が核開発を中止する代わりにアメリカ・日本・韓国が中心になって2基の軽水炉を建設するという「米朝枠組み合意」が最終的な交渉結果となった。
 1996年3月に台湾の民主化が進められ、1996年中華民国総統選挙が行われた。民主化を推進している李登輝が優勢との情報が伝えられると、中国人民解放軍は台湾沖に向けてミサイル演習を実施した。アメリカはインド洋から原子力空母ニミッツ、横須賀を母港とする空母インディペンデンスを急遽台湾周辺に派遣した。2隻の空母派遣表明が奏功し、空母が到着したときには大陸側のミサイル演習は終わっていた。この台湾海峡ミサイル危機へのアメリカの対応に当たって、ペリーは国家安全保障会議に対して代案無しで選択肢を1つしか提案しなかったと回想している。
 1996年4月にクリントン大統領が来日して橋本龍太郎首相と会談し、冷戦終結後の日本とアメリカの安保体制の重要性を再確認する「日米安保共同宣言」に署名した。普天間基地の返還もこの時に決定した。そこに至る2年以上の歳月をペリーはジョセフ・ナイ国防次官補と共に歩んだ日米双方の関係者の困難解決の過程を感慨をもって「私の履歴書」で振り返っている。
 1994年10月に1989年6月4日の天安門事件以後初めて国防長官として中華人民共和国を訪問した。その答礼として1996年にこれまた天安門事件以後初めてのアメリカ訪問となる中国の遅浩田国防部長をアメリカに迎え、アメリカ合衆国と中華人民共和国の軍事交流を進めた。
北朝鮮核問題への取り組み
 1998年に代替軽水炉建設に北朝鮮側が色々な注文を付けて建設が大幅に遅れ、1994年の「米朝枠組み合意」が崩壊一歩前の状態にいたっていた。また、1998年8月に北朝鮮は警告無しにテポドン1号の実験を実施した。このミサイルは日本列島を越えて太平洋に落下し、一気に緊張が高まった。これらの問題に対処するためアメリカのクリントン大統領は、すでに国防長官を譲っていたウィリアム・J・ペリーを同年11月に北朝鮮政策調整官に任命してこの任に当たらせた。ペリー調整官は、韓国(金大中政権)・日本(小渕政権)と意見を調整して、翌年の1999年5月に特使として北朝鮮を訪問した。北朝鮮側の反応は芳しくなく、金正日総書記にも面会できなかった為交渉は失敗したとも思われたが、その後ゆっくりと交渉が進展し、2000年10月に金総書記が特使をアメリカへ派遣するに至った。「この後クリントン大統領が訪朝すれば、「休戦状態」にある朝鮮戦争を終わらせることができたかもしれない。」とペリーは回想しているが、クリントン大統領は任期末にある上に中東問題も抱えていたため、クリントン大統領の北朝鮮訪問は実現しなかった。
核廃絶へ向けて
 あわや核による第三次世界大戦の一歩手前までいったキューバ危機を30代の若い頃に関係者の1人として間近に経験したことが、ペリーが「核無き世界」を目指すこととなった契機である。
2007年1月にウォール・ストリート・ジャーナル紙に「核無き世界を」と題した意見論文を発表。共同執筆者はレーガン政権(共和党)で国務長官を務めたジョージ・シュルツ、ニクソン政権(共和党)で国務長官などを務めたヘンリー・キッシンジャー、安全保障の専門家でソ連崩壊後の核問題を処理するために「ナン・ルーガー法」を立案・貢献したサム・ナン元上院議員(民主党)。
 この論文がオバマ大統領の「核のない世界」へとつなり、この4人はその意見を「核の転換点」という題のドキュメンタリーフィルムとして核廃絶を訴えた。
 2021年1月には核兵器禁止条約発効を受けて「アメリカは先駆者の国であることを誇りとしてきた。『核無き世界』という山頂に向けた新たな道を開拓する最初の核保有国になろう」と『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』に寄稿している。
ペリー元国防長官提案の核廃絶への道筋
• 第1段階
o 米ロ核軍縮条約合意(2012年まで)
o アメリカが包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准
o 核兵器用核分裂物質生産禁止条約(カットオフ条約)
• 第2段階
o アメリカ合衆国とロシア連邦の保有核弾頭を500発に圧縮(現状比約95パーセント)
o イギリス・フランス・中華人民共和国・インド・パキスタンの核戦力現状維持
• 第3段階
o 新たな政治環境・システムに応じた核削減努力(北朝鮮・イランなど)
叙勲
• 勲一等旭日大綬章(2002年)

【グローバルサウスにスタートアップの技 減災や治安対策】
 23日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本の研究開発型スタートアップが「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国での社会課題の解決に挑んでいる。日本の大学などで培ったデータベース技術や人工知能(AI)を生かして、自然災害による損失の軽減や犯罪の防止に貢献する。主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)ではグローバルサウスとの連携強化が宣言された。政府よりいち早く、途上国の成長と社会貢献に動き出したスタートアップの実態に迫った。
 東京大学発スタートアップのEukarya(ユーカリヤ、東京・渋谷)は2024年度にも、中南米で防災・復興のデータマネジメントサービスの提供を始める。3D(3次元)の地理空間データを使い、洪水被害の予測や避難所の状況をリアルタイムで把握できるウェブアプリを行政や住民に届ける。
 進出先として検討しているのはジャマイカ、エクアドル、トリニダード・トバゴといったカリブ海周辺の国だ。同地域は最大風速が毎秒約33メートル以上の熱帯低気圧「ハリケーン」が頻繁に発生する。下水処理設備は脆弱で洪水や暴風雨による被害は深刻だ。
 だが、資金やITに詳しい専門家が不足している。ハリケーンデータの防災対策への活用も先進国に比べて遅れている。ジャマイカなどは多くの言語が話される。特定の言語に依存せずに、画像などで直感的に避難経路を示す必要性が高まっていた。
 運用コスト安く ユーカリヤのアプリはそんな途上国に合っている。第1に無償公開のプログラム「オープンソース」を基盤に開発し、運用コストが安い。日本では1団体あたり年間60万円で提供し、国土交通省や全国120自治体で使われる。
 第2にプログラミング知識がなくても、直感的な操作でデータの登録や編集ができる。災害予測には、地図以外に都市計画図や航空測量による建物の情報、自然災害による被害や避難経路を示す「ハザードマップ」も蓄積する。データ量が膨らみやすい。
 発展途上国では自然災害が頻発(インドネシア・ジャワ島における土石流の被害)
 ユーカリヤでは「利用者が快適に使えるよう、データを自動変換する独自技術を開発した」(田村賢哉代表)。従来の地図情報システムはシステム同士の連携がしにくく、データ登録や設定変更にはエンジニアの手が必要だった。
 第3に地域のニーズに応じた拡張機能(プラグイン)を簡単に追加でき、ほかの人と共有できる。ジャマイカで浸水被害予測システムを開発して必要なデータを集められれば、エクアドルはゼロから開発するより低コストで導入でき、ジャマイカの開発者は一定の収入を得られる。
 ただプラグインの搭載は簡単なウェブ知識が必要だ。ユーカリヤは田村代表がトルコやレバノンなどに足を運び、シリア出身の難民5人をエンジニアとして採用した。
 ユーカリヤは本社が東京だが、業務委託を含めて約40人に上る従業員のうち、日本在住は20人ほど。残りはシリア周辺やコンゴ、ウクライナ、ベトナムなどでリモートで働く。現地のニーズを吸い上げて機能拡張の開発などを担う。
 中南米だけでなく、インドネシアやインド、アフリカのウガンダなどでも引き合いがある。「デジタルの知識を学ぶことで、難民などが収入を得られるようにしたい」。30年までに数万人の仕事を創出するのが目標だ。
「デジタル格差」を是正
 ユーカリヤなどディープテックスタートアップの途上国進出が相次ぐ背景には、世界でデジタル化が進展したことでもたらした「新しい南北問題」がある。ITがビジネスだけでなく、都市計画や治安維持といった社会の基盤を担う分野にも浸透してきた。デジタル格差に危機感を抱く国家や自治体が、最新のデジタル知識を持つ国内外のスタートアップと連携を強めようとしている。
 シンギュラーパータベーションズ(東京・千代田)はAIを用いた犯罪予測システムをブラジルやホンジュラスに展開する。犯罪実績、人口統計、夜間の光の量、衛星画像といった様々なデータをAIに学習させて、いつ、どの地域で犯罪が発生しそうかを予測できる。現地の警察が使いやすいスマホアプリを通じてデータ提供し、効率的なパトロール経路を提案する。
 ホンジュラスは犯罪が発生する一方、携帯電話の性能が低くて警察のパトロールへのデータ活用が進んでいない。そのため人海戦術に頼らざるを得ないとの課題があった。
 シンギュラーでは計算犯罪学、統計・機械学習の専門家、ソフトウエア技術者が連携して研究開発に取り組んでおり、一般的な予測システムより少ない計算量で高い精度の予測ができる。「途上国を中心に世界のあらゆる地域に展開することが可能だ」と西谷圭介最高技術責任者(CTO)は特徴を話す。
 ブラジル南東部にあるミナスジェライス州。街中に設置された電線や銅線ケーブルの盗難を防ぐため、州都ベロオリゾンテ市の市警団が頼っているのは、シンギュラーが手掛ける「CRIME NABI(クライムナビ)」だ。
盗難被害68%減
 市から人口統計や犯罪データ、土地利用、天気などのデータを提供してもらい、クライムナビが犯罪が発生する可能性が高い場所や時刻を予測する。全地球測位システム(GPS)を搭載したモバイルアプリを通じて、パトロールする距離を指定する。必ず通過する必要がある地点を選ぶだけで、最適なパトロール経路を自動で作成できる。
 22年8〜9月に実施した実証実験では盗難被害を68%減らす効果が出た。これを受けて23年はほかの地区の警察や州の軍警察に取り組みを広げていく考えだ。
 シンギュラーパータベーションズはホンジュラス国家警察と犯罪予測システムの検証を始めた。
 「世界の悲しい経験を減らす」。シンギュラーパータベーションズは東大大学院で理論物理学を研究した梶田真実代表が17年に設立した。滞在していたイタリアでスリ被害に遭った経験をきっかけに、犯罪予測の独自アルゴリズムを開発した。
 創業当時から海外展開を視野に入れていた。将来は警察に提供するだけでなく、民間向けサービスの提供も検討する。「旅行者に犯罪予測情報を提供して、危険な地域への訪問を避けることで観光産業の活性化につなげられないかという構想もある」(西谷CTO)と話す。
アフリカ生産の風車 世界的な脱炭素の流れも国境を超えたスタートアップの活動を後押ししている。
 風力発電開発のチャレナジー(東京・墨田)は道路インフラが整備されていない途上国でも導入しやすく、過酷な環境下でも壊れにくいマイクロ風車を開発した。23年中にフィリピンで試作品を開発し、将来はマダガスカルなどアフリカ地域への展開も視野に入れる。
 マダガスカルは送電網の普及が遅れ、国全体の電化率は25%、地方だと12%にとどまるとされる。地方の電化率をあげるために特定の地域に送電する分散型電源「ミニグリッド」を展開する必要があるが「大手企業は採算のよい大規模プロジェクトに力を入れており、途上国でのミニグリッド事業はスタートアップに商機がある」(チャレナジーの清水敦史代表)。
チャレナジーは災害に強い小型風車を販売する
 ただ、チャレナジーが22年11月に現地を訪れると想像以上の困難が待ち受けていた。マダガスカル北部のアンチララナ州はサイクロンの通り道で風況がよく、風力による発電量は太陽光を大きく上回る。しかし、未舗装の道路が多く、主力のマグナス式風車を運ぶための40フィートコンテナを搭載できる車両の通行は難しかった。目的地までの途中にある河川には橋が設置されていないことも多かった。
 そこで着目したのが現地生産できるマイクロ風車だ。もともと日本で防災用に開発しており、大きさはマグナス風車の10分の1にとどまる。東京都世田谷区や青森県の公園や公共施設などに風車を設置し、発電実証に取り組んでいる。マダガスカルを調査した際に見つけた風車が青森で実証中のマイクロ風車と構造が同じだったため、これを活用する方向に切り替えた。
 チャレナジーが開発したマイクロ風車は風速40メートルに耐えられるように設計しており、実験では「80メートルでも壊れなかった」(清水氏)。どこでも入手しやすいアルミ板の金属でつくれるため、万が一壊れても現地で修理しやすい。火力発電と違って二酸化炭素(CO2)を排出せず、脱炭素にも貢献できる。
 チャレナジーはフィリピンのマニラ周辺で現地生産できる準備を進めており、23年中にまずは1基を設置する予定だ。フィリピンだけでも数千台の需要を見込んでおり、その後、「マダガスカルやインドネシアといった世界の島国に同時多発的に展開する可能性がある」(清水氏)。日本では600万円程度かかるコストを100万〜数百万円に下げられるかどうかが課題になる。
文化・商慣習に課題  官民の事業支援も本格化している。国際協力機構(JICA)は米州開発銀行(IDB)グループやコンサルティング会社のドリームインキュベータ(DI)と連携し、国内スタートアップの中南米・カリブ海地域への事業展開を支援する「TSUBASA」プログラムを21年に始めた。
 すでに15社以上が採択されており、ユーカリヤやシンギュラーパータベーションズがJICAなどによる支援を受けている。IDBグループは中南米・カリブ海地域におけるスタートアップなど民間の革新的な技術の導入支援に積極的だ。資金援助や、現地の企業や政府機関のパートナー探しを手助けする。
 従来の途上国支援は政府機関やNPOが学校や道路などインフラ構築を手掛けるなど、「ハード面」に重点が置かれていた。TSUBASAプログラムは人工知能(AI)やデータ分析などソフトウエア企業が多いのが特徴だ。DIの細野恭平副社長は「ディープテックは言語の壁や国境を超えやすく、途上国における課題解決がビジネスになる時代になってきた」と指摘する。
 中南米やアフリカなど途上国は、ITスキルを持つ人材の育成や社会におけるデータ利活用が先進国に比べて遅れている。これによって大量のデータやIT人材を抱える先進国がデジタル分野で優位に立ち、それが途上国との貧富の格差を助長する「新たな南北問題」が生まれ、国連も警鐘を鳴らしている。日本のディープテックがこうした問題を解決できれば、世界で存在感を高める機会になる。
 グローバルサウスへの進出には課題もある。「文化や商慣習が違うなど、日本の常識が通用しないことが多くある」(中南米に進出したあるスタートアップ)。現地に信頼のできるパートナーを見つけることや、オンラインをうまく組み合わせてコストを抑える工夫が欠かせない。ものづくり企業の場合、現地での販売や保守体制を構築できるかどうかもカギとなる。(新興・中小企業エディター 鈴木健二朗)

【浮体式原発、英社に出資 今治造船・尾道造船など13社】
 23日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 海に浮かぶ浮体式原子力発電所の開発プロジェクトに日本企業が参画する。今治造船や尾道造船(神戸市)など13社が英新興企業に約8000万ドル(約100億円)を出資した。浮体式原発は地震の影響を受けにくく、陸上の原発に比べ建設費用も下げることができる。脱炭素で世界的に需要増が見込まれるなか、海外で同プロジェクトの実績を積んだうえで、日本での展開も検討する。
 浮体式原発は海上であればどこにでも設置でき、浮かんでいるために地震の影響を受けにくい。沖合に設置すれば津波にも耐えやすい。作り出した電気は陸上ヘ送るほか、水素やアンモニアなどの製造に使う。
 日本企業が出資するのは英新興のコアパワー社。2018年設立で海洋の規制に関するコンサルティングやエンジニアリングを手掛ける。今治や尾道といった造船会社や商社など13社がコアパワーの第三者割当増資を引き受けた。資本金は約1億ドルとなり、日本勢が過半出資することになる。
 コアパワーは、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資する米テラパワーや電力・ガス事業の米サザン・カンパニー、核燃料サイクルの仏オラノと共同で浮体式原発を開発している。
 4社の浮体式原発は小型モジュールの原子炉(SMR)の一種である溶融塩高速炉(MCFR)を使う。塩を400度以上加熱して液体にして、ウランを溶け込ませる。溶け込んだウランが核分裂して熱エネルギーを得てタービンを回す仕組み。固体燃料を使う従来型の原発で必要な加圧設備が不要となるため、小型化できる。炉心溶融や爆発といった事故を起こすリスクも少ない。4社のMCFRの出力は1基あたり30万キロワット、3〜4基で通常の原発(約100万キロワット)並みとなる。
 浮体式は地震や津波対策といった地形にあわせた特別な構造物が不要で、大部分を工場で大量生産できる。建設費用は陸上の場合の約半分、工期も7割短縮できるという。コアパワーは日本の大型船を造る技術などに着目しており、浮体式の設備部分の開発については日本企業に協力を求めている。
 26年にも実証船を投入し、30〜32年には商業化を計画する。海外で実績を積んだうえで、日本でも展開したい考えだ。実証船開発までに約500億円の費用が必要とみられ、コアパワーなど4社で費用を分担する。今回の日本企業の出資金も開発資金に充てる。
 日本は2月に閣議決定したGX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針で、次世代革新炉の開発・建設に取り組むとした。SMRや発電効率が高い高速炉などが革新炉の候補だ。世界的なエネルギー危機を背景に原子力発電の持続的利用にかじを切ったが、実際には立地する自治体の同意を得られずに既存原発の再稼働もままならない。
 地震や津波のリスクを軽減できる点では、浮体式原発は日本では陸上原発よりも優位な可能性がある。海上での原発設置に関する審査や規制など検討すべき課題もある。浮体式原発のための部品を大量生産するサプライチェーン(供給網)の構築なども必要になってくる。
 コアパワーへの約10億円の出資を決めた尾道造船の幹部は「世界の最新技術の潮流に出遅れないようにしたい」と話す。プロジェクトに参画することでノウハウを獲得したい狙いだ。水素やアンモニアの運搬船など関連需要も大きいだけに日本勢の巻き返しに注目が集まる。

【米戦闘艦、日本の造船所で定期補修 米基地外で初】
 24日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 米海軍が日本の民間造船施設で自国戦闘艦を補修する見通しとなった。日本に展開する20隻強が対象で、米側は将来は日米共同による日本での戦闘艦製造も期待する。日本の基地外で戦闘艦を恒常的に補修する枠組みは初めて。日本を含む同盟国の施設を活用し、東アジアで軍備を拡張する中国の動きに機動的に対応する。
 エマニュエル駐日米大使が中心となり、国防予算を握る米議会や日本の防衛省、外務省への打診を始めた。横浜、舞鶴(京都府)、呉(広島県)など、海上自衛隊の艦船を修繕する民間造船所が第一候補となる。
 在日米大使館はこうした造船所を運営する三菱重工業、川崎重工業など造船大手の幹部に非公式に打診した。三菱重工は「コメントできない」とし、川崎重工は「コメントする立場にない」とした。
 海軍の艦船は「MRO」と呼ばれる定期的な整備や補修、分解修理が定められている。日本で前方展開する米艦船は現在、簡易な整備などは横須賀(神奈川県)と佐世保(長崎県)の米軍基地内のドックで実施。本格的な補修や分解修理などは米本土に戻る必要がある。
 これまでミサイル発射などの戦闘能力を持たない補給艦を日本、インド、フィリピンで補修したことはある。今回対象とする20隻強は駆逐艦、巡洋艦、揚陸艦など攻撃を主任務とする。
 米当局者は将来、日本の造船所で日米が協力して米艦船を建造する可能性についても「排除しない」としている。日本の政府関係者は「日米の安全保障協力の流れに沿った動きだ」と指摘した。
 日本で整備などを検討する背景には中国海軍への危機感がある。中国人民解放軍海軍の艦船は米海軍を超えて世界最大の海軍だ。
 カルロス・デル・トロ米海軍長官は、中国が2030年に440隻体制に引き上げるとみている。最も野心的なシナリオでもピーク時(52年)に367隻にしか届かない米側との差は一段と開く。
 自国での補修作業の遅れにも危機感を募らせる。米会計検査院によると、米海軍の主要艦であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の補修は平均で26日間の遅延が生じている。
 近年は中国が南シナ海を中心に海洋進出を強めている。米海軍としては、ドック入りしている船、ドック入りを待つ船を減らさなければ中国への抑止が低下しかねない。
 日本で整備や修理ができれば、迅速な運用が可能になる。軌道に乗れば、米大陸を拠点とする艦船が日本に寄港した際の整備や補修も視野に入れる。
 同様の整備や補修を韓国、シンガポール、フィリピン、インドでも実施できないか検討している。実現すれば同盟国、パートナー国と連携しながら中国に対処していくバイデン政権の「統合抑止」を体現する動きとなる。
 日本の造船業界にとっては追い風となる。造船業界は日中韓で約9割のシェアを握るが、最近は中韓の安値受注を受けて競争力が低下している。相次ぐ海運不況も重なり、業界の苦境は続く。
 米海軍はMRO費用を24年度予算で約139億ドル(約1兆9240億円)計上している。日本の民間機造船施設で受け入れる場合、この予算から日本の受託企業への支払いに充当される。
 日本の主要造船企業17社が参画する業界団体の日本造船工業会によると、会員企業の21年度における船舶部門の売上高は前年度比11%減の1兆2861億円。このうち既存の船の修理が1263億円に上る。日本のピーク時は09年度で、2兆6608億円の売り上げがあった。
 米軍艦船を整備すれば、造船所の稼働率向上も見込める。海上自衛隊呉基地で艦船の修理を担う山陽興産の河合修孝最高経営責任者(CEO)は「地方の造船所は米軍の案件は喉から手が出るほどほしい案件。米軍艦船を受け入れるキャパシティーはある」と話す。
 これまで日本など海外の造船所を活用する案が本格的に広がらなかったのは、選挙区に造船所を持つ米議員が反対してきた背景がある。
 米造船業界は11万人の雇用を抱え、政治的な影響力も強い。造船所は地元の最大の雇用主であることが多く、仕事の海外移転には抵抗が強い。ただ、中国の艦船増強が現実問題として浮上し、従来にない危機感が広がっている。
 エマニュエル大使は3月、都内で開かれた米ミルケン研究所のイベントに登壇し「私がクリントン大統領のもとで政治の仕事を始めたころ、米国には10の海軍向け造船所があったが今は6つに減った。日本には大量の造船キャパシティーがあり、米国の造船所不足を解消する一つの解答になりうる」と語った。
 日本経済新聞の取材に対しても「日本はメンテナンスで大いに協力する余地がある」と話した。

【右派デサンティス氏「米国復活を主導」米大統領選に出馬】
 25日の日経ニュースメール【ワシントン=中村亮】によると、米南部フロリダ州のロン・デサンティス知事は24日、2024年11月の次期大統領選に野党・共和党から出馬すると表明した。党候補者の指名争いで、22年11月に立候補を表明したトランプ前大統領の有力な対抗馬になる。
 デサンティス氏は24日、ツイッターに動画を投稿した。不法移民対策の不備や都市部の治安悪化、物価上昇に言及し「(バイデン)大統領は四苦八苦している」と糾弾した。
 「我々は米国を活性化させられるし、そうしなければならない」と強調。「偉大な米国の復活を主導するために大統領選へ出馬する」と言明した。
 デサンティス氏は前大統領と政治姿勢が重なり、保守的な言動や政策で知名度を上げてきた。両氏が強硬な保守層の支持を得るために保守層へ肩入れした政策を打ち出すほど、米社会の分断に拍車がかかったり、内向きの外交政策を志向したりする可能性が出てくる。
 前大統領は24日、自ら立ち上げたSNS(交流サイト)でデサンティス氏に関し「大統領選に勝利できるはずがない(もしくは共和党の候補指名を得られるはずがない)」と書き込んだ。社会保障制度を破壊しようとしているなどと主張し、対抗心をむき出しにした。
デサンティス氏はフロリダ州出身で、現在44歳。米ハーバード大法科大学院を修了し、検事や下院議員などを経て18年知事選で初当選した。在学中に海軍に入り、イラクに駐留した経験がある。
 内政では4月、妊娠6週目ごろとされる胎児の心拍確認後の人工妊娠中絶を原則禁止する法律を成立させた。22年に性的少数者(LGBT)を巡る政策に反対した米ウォルト・ディズニーに対し、同州のテーマパーク「ディズニーワールド」への税優遇を廃止する法律に署名した。
 3月に対ロシア政策で共和の保守強硬派に同調する発言をして、穏健派らの不興を買った。ウクライナへの追加支援は米国の「重要な国益」ではないとの認識を示した。ロシアによるウクライナ侵攻は「領土争い」だとも主張した。
 4月には外交経験を積むため、日本、韓国、イスラエル、英国を歴訪した。岸田文雄首相との会談で「日本は何十年にもわたって米国の素晴らしい同盟国だ」と表明。日本経済新聞のインタビューで中国を米国の国家安全保障にとって「最大の脅威」と位置づけた。
 足元の世論調査では前大統領に出遅れる。米調査会社モーニング・コンサルトが5月上旬に実施した調査では、共和の予備選候補で前大統領の支持は60%にのぼり、デサンティス氏は19%だった。
 22年12月に調査を始めて以来、デサンティス氏の支持は最も低い水準になった。3月初めまではおおむね30%台を維持していた。
デサンティス氏は前大統領の岩盤支持層に切り込みつつ、どこまで穏健な保守派を引きつけられるかが共和党の指名争いを勝ち抜くカギになる。穏健派からの支持の度合いは、再選をめざす与党・民主党のバイデン大統領との戦いを占う試金石でもある。
 前大統領は共和支持層の一部から熱狂的な支持を受ける一方、22年11月の中間選挙で穏健派の期待が広がっていない現状が浮き彫りになった。
 24年大統領選を巡り共和からは前大統領やデサンティス氏のほか、ヘイリー元国連大使やティム・スコット上院議員、南部アーカンソー州のエイサ・ハチンソン元知事が立候補をめざしている。ペンス前副大統領の出馬も取り沙汰される。
 
【気がつけば、日本にBYD 「タイパ」が決めるEV覇者】
 26日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本に進出を考える中国の自動車メーカーが増えているという。商用車だけでなく、一般向けの市場も視野に入れており、時代の変化を感じさせる。
 筆者が自動車産業を初めて取材した1990年代は、中国に「三大三小二微」という国策があった。車の大きさ別に合計8つの国有企業を育成する政策で、それぞれに日本や欧米の大手メーカーを合弁相手としてつけた。だが、主要国に進出を果たせるほど力をつけた企業は現れなかった。
 現在、日本進出を考えているメーカーは、8社と無縁の新興勢力が多い。しかも電気自動車(EV)の時代がきて、急速に台頭した企業ばかりだ。
中国EV市場の変貌
 1月、先陣を切って日本に販売店を構えた比亜迪(BYD)。もとは電池メーカーで、95年に広東省深圳に誕生した。企業買収などで2003年に自動車に参入すると、積極的に投資を重ねてきた。日本の金型会社、オギハラの工場買収(10年)でも注目された。
 日本法人によれば、5月中旬までの受注台数は365台だ。販売車種がまだ1車種で、店舗も関東と関西に5カ所だけだが、年内に車種をあと2つ、店舗も25年までに100カ所に増やすという。
 米テスラや韓国メーカーのようにインターネット中心の販売方法はとらない。「店舗で見て、触って、乗ってもらい、中国製の品質の良さを知ってほしい」(同社)のだそうだ。
 だが、そうした一見、地味でささやかな取り組みからは想像を絶するのが、中国で増す同社や自動車産業の爆発的な勢いだろう。
 BYDは22年の販売台数が186万台と20年の4倍以上に増えた。内訳はEVが92万台、残りがプラグインハイブリッド車だ。23年は合計360万台の販売計画を立てている。
 EV市場も似たペースだ。最近まで年間100万台前後で推移したが、内燃機関車への政府の規制やEV振興策もあり、21年は290万台に。22年には540万台となり、新車販売の20%に達した。23年は800万台に増え、全体の3割に迫るとの見方もある。
 EV大国といえば、普及率が8割とされる北欧のノルウェーが有名だが、世界最大の自動車市場、中国も今までと異なる局面に入った可能性がある。

シェア16%の臨界点
 40年以上読み継がれる米経営学者、エベレット・ロジャーズの著書「イノベーションの普及」によれば、新しい技術が一気に広がる目安はシェアが「16%」を超えたあたりだという。
 いわゆる「物好き」といわれる革新的採用者(イノベーター)が2.5%、オタクというほどではないが、自分で調べていいと感じたものを積極的に買う初期採用者(アーリーアダプター)が13.5%おり、こうした層に受け入れられれば、普及に拍車がかかりやすい、との経験則だ。
 米国での分析結果だが、中国EVが20%に達したなら同書のいう「クリティカルマス(臨界点)」を超えた可能性がある。中国の内から外に向けて勢いが広がり始めた点からもそれは推測できる。
 中国汽車工業協会によれば、23年1〜3月に同国の自動車輸出は107万台で、長年世界一だった日本を上回った。22年は年間330万台で2位ドイツを抜いており、今年はいよいよ「世界一になる可能性が高い」と、中国に詳しいみずほ銀行の湯進主任研究員は指摘する。
 4月の上海モーターショーに出店した新興EV企業の上海蔚来汽車(NIO)

変化の大波とらえる感度を
 2つの点を感じざるをえない。1つは、新型車の普及や海外展開でガソリン時代の「数十年かけてじっくり実現」という時間軸は消滅し、「タイパ(タイムパフォーマンス)」の波が押し寄せ始めた。2つめは、中国企業が「臨界点超えの状況」を積極的に創り出そうと果敢に攻めている点だ。
 BYDでいえば、販売台数を2年で4倍以上、186万台にまで伸ばしたのは、工場を7棟以上も新規に建てるくらいの設備投資(一般に自動車工場は1棟20万台規模)をしたからだ。
 車載用電池の世界でも同じことがいえる。世界最大手メーカーになった中国・寧徳時代新能源科技(CATL)が注目されているが、同社も総投資額をみれば、21年までの3年間で2兆円近くにも達したもようで、日本のメーカーを圧倒した。
 この勢いで思い出すのが米アマゾン・ドット・コムだ。同社は94年の創業以降、稼いだキャッシュの大半を事業に再投資し、電子書店やサブスク、クラウド事業などで主導権を握った。一刻も早く臨界点に到達し、競争相手の追随を排除しようとの意図があった。
 デジタル化の加速を背景に、最近はモノやサービスの普及速度が全般に速まる傾向にある。米ツイッターは1億人のユーザーを獲得するのに65カ月かかったが、生成AI(人工知能)の「Chat(チャット)GPT」はわずか2カ月だった。画期的な技術革新とアニマルスピリッツがあれば、新市場の創造や攻守逆転が一段と容易になることを予感させる動きだ。
 EVに話を戻せば、日本は普及速度が主要市場で最も遅いとされている。EVを身近に見かけないのは困ったことかもしれない。エンジンを積んだ車が今も主流で、そこでシェアを握る日本企業が世界でなお圧倒的存在だと錯覚しやすい。中国や欧米で育つ変化のダイナミズムは、日本とずいぶん異なる。それを的確にとらえられる感度が、今こそ重要な時だろう。

【キヤノン、有機ELテレビに新素材 希少金属使わず脱中国】
 同じ26日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 キヤノンはレアメタル(希少金属)を使わない有機ELパネル素材を開発した。都市鉱山のリサイクル原料から調達しやすい鉛を使っており、2020年代半ばに量産技術を確立するとみられる。中国など一部の国に産出地が偏るレアメタルを使わないことで、地政学リスクに影響されずに安定生産が可能になる。
 新素材は「量子ドット(QD)」と呼ばれる直径ナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの小さな半導体微粒子。光を照射したり電流を注入したりすると、色鮮やかに発光し、すでに有機ELテレビの高級機種などで使われている。
 韓国のサムスン電子がこの素材を量産化しているが、希少金属の化合物であるリン化インジウムを使っている。インジウムは産出量が極めて少なく、産出地の過半が中国だ。独調査会社スタティスタによると、22年の世界のインジウム生産量のうち59%の530トンを中国が占める。世界各国が資源を囲い込み、レアメタルを多く使うデジタル機器や電気自動車(EV)の材料調達リスクが高まっている。
 ソニーは22年に初の量子ドット技術の有機ELテレビ「XRJ-65A95K」を発売した。キヤノンはインジウムの代替として化合物の一部に鉛を使う。代替素材を使った量子ドットはインジウムに比べて耐久性に難があったが、事務機事業のトナーやインクなどのノウハウを生かした配合の制御技術でインジウムと並ぶ耐久性を確保した。
 鉛は再利用しやすく、「リサイクルの優等生」と呼ばれる。国産の鉛の約7割が自動車の使用済みバッテリー(蓄電池)などリサイクル由来だ。レアメタルを使わないため材料費も安くなる。サムスンなどが量産する量子ドット材料より、材料コストを最大で100分の1程度に抑えられる見通しだ。
 赤、青、緑の3原色を表現するカラーフィルターを使う現在の一般的な有機ELテレビに対して、量子ドットをインク状にしてガラスに印刷した有機ELテレビは光を照射すると赤や緑を明るくむら無く発色する。消費電力は従来の3分の1程度に減る。
 量子ドットを使ったテレビはサムスンのほか、ソニーグループ、中国・家電大手のTCL科技集団やシャープなども手掛ける。量子ドット搭載の有機ELテレビはメーカー大手の国内想定価格が55型で47万円で、通常の有機ELより10万円、液晶テレビより30万円高い。割安な新素材が広がれば高級機種の価格を下げる効果も期待できる。
 調査会社のグローバルインフォメーションは、世界の量子ドットの市場規模が27年に21年比4.1倍の211億ドル(約2兆9500億円)に増えると見込んでいる。また、英調査会社オムディアによると、量子ドットを搭載したテレビは25年に2200万台と18年から8.1倍に増えてテレビ市場全体の約8%を占める見通し。
 キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)は医療や監視カメラ、産業機器に次ぐ新たな成長の柱として材料事業を立ち上げる方針を示していた。

【米IBMのクリシュナCEO「生成AI活用で雇用創出」】
 27日の日経速報メールは次のように報じた。
 5年後には単純な事務作業の30%が不要になる――。米IBMのアービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、文章や画像を生成する高度な人工知能(AI)の登場などで働き方が大きく変わるとの見通しを語った。効率的な働き方のためには「テクノロジーは選択肢ではなく、必要不可欠になる」と強調した。
事業拡大で雇用2000人増員
 米オープンAIが2022年11月に公開した対話型の生成AI「Chat(チャット)GPT」は人間のような巧みな受け答えで世界に衝撃を与えた。これまで主にホワイトカラーが担ってきた企画書の作成や議事録の要約なども得意とする。産業界では働き方や雇用への影響に関心が高まっている。
 IBMはバックオフィス(間接部門)で推計約2万6000人の社員を抱える。同部門では生成AIなどの活用によって「5年後には繰り返しの多い業務の30%が不要になる」と述べた。生産性の向上で生まれる余力は「ソフトウエア開発やコンサルティング、営業などより価値を生み出す役割に割り振る」という。
 従業員をAIに置き換える単純な人員削減は否定した。事業拡大に伴って2023年1〜3月は「不必要な業務を削減しても、2000人を増員した」という。AIの導入によって自社の競争力を高め、「正味で雇用創出につながると考えている」と強調した。
 5月には企業向けのAI「ワトソンX」を発表した。顧客が自社のデータを使って生成AIに学習させ、文書の草案作成や苦情の分類などに利用できる。クリシュナ氏はAIの応用分野は素材開発や広告制作、サイバーセキュリティーなどで広がるとの見通しも示した。
 クリシュナ氏は「(過去にも)仕事の性質は変わり続けてきた」と指摘する。具体例として1900年に4割を占めていた米国の農業従事者の割合が工業化によって足元では数パーセントまで下がったという例をあげた。多くの先進国で人手不足が進むなか、「人がより価値の高い仕事をするためにはテクノロジーが不可欠だ」と主張した。

開発への規制は「進歩止める」
 偽情報の拡散や差別の助長などに悪用される懸念から、生成AIの開発や利用に規制をかけようとする動きもある。クリシュナ氏は「ある技術を丸ごと規制するとイノベーションを遅らせ、進歩を止めてしまう」と指摘し、技術開発を制限する考えには否定的な立場を示した。
 一方で公共の場での顔認証など、利用シーンのリスクなどに応じた規制を検討する欧州連合(EU)の試みについては「完璧ではないが、良い枠組みだ」と一定の理解を示した。悪意を持った「使われ方」が問題になる恐れがあるとして、使用ケースに応じた「精密」な規制が必要だと述べた。
 IBMは米グーグルと並び、次世代の高速計算機である量子コンピューターの開発をけん引する。21日には米シカゴ大学と東京大学に10年で計1億ドル(約140億円)を拠出すると発表した。クリシュナ氏は「日本は数十年にわたり(量子コンピューター関連の)専門知識を蓄積してきた」と述べ、日本との連携を通じて開発を加速する考えを示した。
 量子コンピューターは将来、スーパーコンピューターでも困難な複雑な問題を高速に解くと期待されている。現時点ではまだ基礎研究の段階にとどまるが、クリシュナ氏は3〜5年後には一部でビジネスに活用できる性能に達すると予測した。
 IBMは日本で最先端半導体の量産を目指すラピダスと技術ライセンス契約を結び、米ニューヨーク州の研究施設に技術者を受け入れている。クリシュナ氏は日米間の人的交流によって「さらに多くのコラボレーションが進む」と期待を寄せた。

AIの恩恵、人材流動性が左右
 「医師や弁護士から経営者や営業マンに至るまで、何百万人ものナレッジワーカー(知識労働者)が数年以内に生産性の画期的な変化を経験する」。米ブルッキングス研究所は生成AIの登場で、2000年代以降は停滞していた生産性の改善が再び加速するとの見通しを示す。
 一方で高度なAIが人々の職を奪うのではないかという懸念は根強い。米ゴールドマン・サックスは世界で3億人分のフルタイムの仕事が生成AIによって自動化される可能性があると予測する。
 それでも米IBMのクリシュナCEOがAIの導入について「雇用創出につながる」と主張するのは、人的資源をより生産性の高い分野に充てられると見込むためだ。こうした好循環を生み出すには会社や業界を超えて人材が行き来する流動性と、異なる分野での活躍を後押しする教育投資が欠かせない。
 ホワイトハウスも22年末にまとめたAIの影響に関する報告書のなかで、労働市場の混乱を防ぐ手立てとして従業員に対する研修の充実や、転職を後押しするサービス・機関への投資が有効であると指摘した。
 流動性の低い労働市場と人的資本への投資の少なさは日本の産業界が構造的に抱えてきた問題でもある。課題を先送りしたままでは、生成AIによる生産性の向上や産業の成長という恩恵も十分に得られなくなる。(編集委員 小柳建彦、AI量子エディター 生川暁、江口良輔)

【米債務上限引き上げ基本合意 デフォルト回避へ31日採決】
 28日の日経速報メール【ワシントン=高見浩輔】によると、バイデン米大統領と米連邦議会のマッカーシー下院議長は27日、米政府債務の法定上限を引き上げることで基本合意。マッカーシー氏は31日に議会で採決すると表明した。承認されれば、市場で懸念されていた米国債の債務不履行(デフォルト)は回避される。
 バイデン氏は同日「景気後退や数百万人の雇用喪失につながる破滅的なデフォルトを防ぐ、米国民にとっての朗報だ」と声明を出した。マッカーシー氏は「まだやるべきことはたくさんあるが、これが米国民にふさわしい合意であると信じている」と述べた。
 政府の財政は新型コロナウイルス禍での支出拡大などを背景にして急速に悪化しており、債務残高は1月に法定の上限に達した。米財務省は基金の運用変更などで資金繰りをつないでおり、イエレン米財務長官はこうした措置が6月5日に行き詰まると警鐘を鳴らしていた。
 複数の米メディアによると、合意案は社会保障を除く「裁量的支出」について今後2年間の歳出を抑制するのと引き換えに、2025年までの時限措置として現行の上限である31.4兆ドルを上回る債務残高を認める。
 マッカーシー氏は「歴史的な支出の削減になる」と強調したものの記者団の質問には応じず、具体的な合意内容は明らかにしなかった。米ブルームバーグは合意に低所得層向けの食糧支援プログラムで支給要件を厳格にすることが盛り込まれたと報じている。民主党が抵抗していた低所得層向け公的医療保険「メディケイド」に新たな就業要件を課す案は合意に至らなかったという。
 日本の国税庁にあたる内国歳入庁(IRS)の予算増額も一部阻止したもようだ。IRSの増強はバイデン政権が22年8月に成立させたインフレ抑制法に10年間で800億ドルが盛り込まれていた。
 今後の焦点は議会での審議に移る。バイデン氏は声明で合意案を「妥協の産物だ」としつつ「私と民主党の優先事項や立法成果を守った」と強調した。民主内にはバイデン氏の譲歩を警戒する声があり、一部には交渉手法を批判する声も出ていた。
 下院で過半数を握る共和はわずかな票数で優位に立っているため、マッカーシー氏は法案を通す際に強硬派の主張も聞き入れざるを得ない。今回の基本合意の過程でマッカーシー氏が強硬派にどれだけ根回しできていたかがカギを握りそうだ。
 上限引き上げの時限措置を2年としたのは2024年11月の次期大統領選をまたぐためだ。債務上限問題は野党が政権を揺さぶる材料になりうるが、共和にとっても強引な交渉は批判を浴びる「もろ刃の剣」になる。
 今回の交渉はすでに市場や外交で混乱を招き、米国の統治機能に疑念を強める結果となった。大手格付け会社フィッチ・レーティングスは24日、米国格付けの見通しを「ネガティブ」に引き下げた。
 バイデン氏は主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に関連して予定していたオーストラリアやパプアニューギニアへの訪問を中止。サミットの最中も会議や夕食会を欠席・早退し、内向きな姿勢を印象づけた。

【内閣支持47%、5ポイント低下 首相長男の行動影響か 本社世論調査 広島サミット評価66%】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本経済新聞社とテレビ東京は26〜28日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は47%で4月の前回調査から5ポイント下がった。支持率の下落は2022年12月以来5カ月ぶり。内閣を「支持しない」と答えた割合は4ポイント上昇の44%だった。
 岸田文雄首相の長男で首相秘書官の翔太郎氏が首相公邸内で忘年会を開き、親族と記念写真を撮るなどした行動に与野党から批判が相次いだ。支持率を下げた要因とみられる。
 21日に閉幕した主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で首相は議長を務めたが、その評価を打ち消すかたちとなった。サミットでの首相の働きぶりを「評価する」との意見は66%に上った。21%が「評価しない」と回答した。
 当初はオンラインで参加する予定のウクライナのゼレンスキー大統領が広島を電撃訪問した。同氏は岸田首相を含むG7や「グローバルサウス」と呼ぶ新興・途上国の首脳と会談した。
 ゼレンスキー氏は首相と広島平和記念資料館(原爆資料館)を視察し、原爆死没者の慰霊碑で献花した。内閣を支持しない人も47%が首相の働きぶりを評価し「評価しない」を上回った。
 首相は7、8両日に韓国を訪問し日韓の首脳によるシャトル外交を再開した。日韓関係は「変わらない」が53%と半数を超えたが「良くなると思う」との声も40%と、一定の評価を得た。
 内閣を支持する理由は「国際感覚がある」(31%)が首位で、2位は「自民党中心の内閣だから」(26%)が続いた。「人柄が信頼できる」は8ポイント低下し20%になった。支持しない理由のトップは「政策が悪い」(36%)で、「自民党中心の内閣だから」(33%)が続いた。
 政党支持率のトップは自民党の37%で6ポイント下がった。2位は日本維新の会で13%、3位は立憲民主党で8%、支持政党がない「無党派層」は29%。4月はそれぞれ43%、13%、9%、21%だった。
 調査は日経リサーチが26〜28日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し928件の回答を得た。回答率は40.6%。

【トルコ大統領選、エルドアン氏当選 決選投票制す】
 29日の日経速報メール【イスタンブール=木寺もも子、アンカラ=久門武史】によると、トルコ大統領選の決選投票が28日投開票され、現職のエルドアン大統領(69)が当選した。選挙管理委員会が発表した。20年にわたりトルコを率いたエルドアン氏の政権がさらに5年間続くことになる。
 選管によると開票率99%時点でエルドアン氏の得票率が52%、野党6党の統一候補、クルチダルオール氏(74)が48%だった。アナトリア通信によると投票率は86%。
 エルドアン氏は29日未明、首都アンカラの大統領府で演説し、今年がトルコ共和国成立100年であることを念頭に「トルコの世紀をともにつくる」と団結を呼び掛けた。クルチダルオール氏は「この国に民主主義が来るまで戦いの最前線に居続ける」と述べた。
 トルコ大統領選で決選投票が行われたのは初めて。14日の1回目投票ではエルドアン氏の得票率が49.5%で、当選に必要な過半数に達しなかった。同日の議会選ではエルドアン氏の与党連合が過半数議席を獲得していた。
 選挙の争点は事実上、「エルドアン政権か否か」だった。エルドアン氏は特に政権の前半、高成長を実現した。首相に就く前の2002年に3600ドルだったトルコの1人あたり国内総生産(GDP)は13年までに3倍に伸びた。
 近年は成長重視の極端な金融緩和策の副作用で通貨リラが急落。インフレ率は足元で40%を超え、経済混乱への不満が強まっていた。強権的な政治手法への批判もあり、経済の正常化や民主主義の強化を訴えるクルチダルオール氏を相手に苦戦した。
 ただ、病院や道路などの社会インフラを整えたエルドアン氏の実績を評価する声は強く、最終的にはエルドアン氏が逆風の選挙を制した。政教分離の原則に基づき、かつて公共の場で禁じられていた女性のスカーフ着用を解禁したことなどで、多数派の敬虔(けいけん)なイスラム教徒の支持も得た。
 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領と緊密な関係を維持し、プーチン氏は28日、勝利宣言したエルドアン氏に祝意を伝えた。「主権を強化し独立した外交政策を追求する努力をトルコ国民が支持した証拠だ」とした。バイデン米大統領、スナク英首相や、サウジアラビア、イラン、エジプトなど中東諸国の指導者らも相次いで祝福した。

【生成AI、OECDが新指針 多国間でルールづくり後押し コーマン事務総長 単独インタビュー】
 同じ29日の日経速報メールは次のように報じた。
 経済協力開発機構(OECD)は生成AI(人工知能)に関する新たな指針を策定する。加盟国が国内でルールをつくる際に重視すべき原則を示す。生成AIを巡っては主要7カ国(G7)もルールづくりに動く。OECDはG7と連携しつつ、より幅広い国や地域が参加した形での指針をめざす。
 来日したOECDのコーマン事務総長が日本経済新聞の取材に応じ、2019年に策定したAIに関する国際的な指針「AI原則」を見直す考えを示した。対話型の生成AI「Chat(チャット)GPT」などの登場を受け「生成AIによって人々が悪い面にさらされないよう、正しい政策の枠組みを整備する」と述べた。
 6月にも新指針を検討する枠組みを立ち上げる。コーマン氏は「年内に具体的な成果を得たい」と表明した。加盟38カ国の政府関係者に加え、各国の専門家を交えて内容を詰める。
 OECDにはG7に加えて欧州のスペインやオランダ、中南米のメキシコやコロンビア、韓国やトルコなどが加盟する。中国やブラジル、インド、インドネシア、南アフリカを主要パートナー国と位置づける。
 G7より幅広い枠組みで指針を策定できれば「新興国を含めた世界規模でのルール形成に役立つ」(OECD関係者)との期待がある。一方で、関係国が多いため実効性のある内容を打ち出せるかが焦点となる。先進国の間でも、AIを巡る規制を重視する欧州連合(EU)と慎重な米国では対応が割れる。
 現在のOECDのAI原則は「人間中心の価値と公正」「透明性と説明可能性」「説明責任」といった5つの柱を掲げる。19年5月に策定し、同年6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)首脳宣言の付属文書として採択された。
 日本などの加盟国を含む42カ国が賛同し、各国が国内規制などを策定する際の基本指針として機能した。例えばAIの判断で不利益を被った際、どういったアルゴリズムで決定を下したのかといった情報を分かりやすく提供することなどを定めた。
 今後議論する新たな指針は、生成AIの出現で生じた問題に対処する。AIが高度な文章や画像を生成できるようになることに伴い、著作権の保護などが議題となる可能性がある。コーマン氏は「破壊的な技術革新には管理すべきリスクや課題がある」と話し、現行のAI原則では対応しきれない部分を見直す考えを示した。
 5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、G7がAI技術に絡む担当閣僚の枠組み「広島AIプロセス」を立ち上げ、生成AIに関する見解を年内にとりまとめることで合意した。OECDはAIのリスク評価や影響分析などでG7とも協力し、指針づくりに生かす。(田口翔一朗、ブリュッセル=辻隆史)

【ホンダ、ソフト人材1万人に倍増 トヨタは9000人再教育】
 29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ホンダはインドIT企業との提携などをてこに、ソフトウエア人材を2030年に現在の倍の1万人に引き上げる。トヨタ自動車も25年までに約9000人を再教育してソフト人材に転身させる。電動化などに伴い、ハードではなくソフトがクルマの競争力を決定づけつつある。業態転換に近い変化を迫られる中、各社は専門人材の確保を急ぐ。
 ホンダでは現在、社内外で計約5000人が車載ソフトの開発を担っている。インドの開発会社、KPITテクノロジーズと提携を強化し、30年までにホンダ向けの開発を担う人材を現在から1100人増やし2000人強とする。
 ヒューマンリソシアの22年度の調査によると、インドのITエンジニアの人数は226万人と世界で3位。日本の132万人を上回る。インドは工科大学が多いことに加え、初等教育でプログラミングを採り入れていたことが影響しているとされる。マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)や、アルファベットのスンダー・ピチャイCEOといったインド出身の米IT大手の経営者も多い。
 IT人材が豊富で集めやすいインドの企業と協力することで開発を加速する。KPITは自動車業界の電動化や自動化を支援するソフト開発に強みを持ち、仏ルノーや独部品大手のZFなどとも協業している。
 ホンダは採用などで自社人材も増やす。青山真二副社長は「(社内外の人材で構成する)ホンダの専属チームのようなものをつくりながら開発を進める」という。
 25年に独自開発したソフトを初めて搭載した電気自動車(EV)を北米で販売する計画で体制を整える。車の「走る」「止まる」「曲がる」といった基幹機能に関わる部分のソフト設計はホンダが自ら担い、プログラミング作業や実効性の検証などの単純業務は協業先と連携する。
 トヨタは25年までに9000人にリスキリング(学び直し)を促し、ソフト開発人材を増やす。学び直し講座を受講してもらったり、プログラミング言語を実際に打ち込んでソフトのノウハウを身につけたりといったことを想定しているとみられる。
 既存の新車製造や販売といった部門の社員を電動化や自動運転に関する新領域に転換させる。先端技術の子会社「ウーブン・バイ・トヨタ」などとも連携し、グループ全体で今後1万8000人規模の開発体制を整える。外部からの中途採用に占めるソフト開発人材の割合も50%に拡大している。
 ボストン・コンサルティング・グループは、車載ソフトが生み出す利益は21年の100億ドル(約1兆4000億円)から35年には260億ドルになると見込む。
 自動車1台に搭載する電子制御ユニット(ECU)は過去に数十個だったのが、現在では100個近くになった車種もある。「ソースコード」と呼ばれるコンピューターに指示を与える文字列はすでに1億行を超えた。ソフト開発は労働集約的な側面が強く、人員規模が品質などの競争力に影響する。
 世界の自動車関連企業もソフト人材の確保に知恵を絞る。
 米ゼネラル・モーターズ(GM)はGAFAなどのIT大手から流出した人材を取り込むため、技術部門の報酬体系をIT大手と同水準に引き上げた。独メルセデス・ベンツグループは成長市場と位置づける中国で、23年末までにソフトなどの研究・開発担当者を20年の約2倍となる2000人規模に増やす。
 ただ、独フォルクスワーゲン(VW)は複数の傘下企業から人材を集めたことで混乱をまねき、高級ブランド「ポルシェ」の多目的スポーツ車(SUV)タイプのEV「マカン」の販売時期が後ろ倒しとなった例もある。
 アーサー・ディ・リトル・ジャパン(東京・港)プリンシパルの岡田雅司氏は「日本の自動車メーカーは内部の人材だけでは追いつかず、今後、人材不足が開発の新たなボトルネックになる可能性がある」と話す。
 一方、人材を確保にとどまらず、ソフトを収益につなげる仕組み作りも重要だ。ソフトで先行する米テスラは機能の追加・更新を頻繁に提供するビジネスモデルを成功させ、トヨタに比べ約5倍の1台当たり純利益を上げた。IT業界で主流の短期間で検証や改善を繰り返す手法を採り入れたことが奏功したとされる。

【首相、長男の翔太郎秘書官を更迭 公邸「忘年会」に批判】
 同じ29日の日経速報メールは次のように報じた。
 岸田文雄首相は29日、長男で政務担当の首相秘書官を務める翔太郎氏を6月1日付で交代させると発表した。首相公邸内で忘年会を開き、親族と記念撮影をするなどした行動に批判が集まっており、事実上の更迭となる。後任には岸田事務所の山本高義氏が復帰する。
 首相公邸内で忘年会を開き、親族と記念撮影をするなどした行動に批判が集まっており、事実上の更迭となる。首相は官邸で記者団に「公邸の公的なスペースでの行動が政務秘書官として不適切であり、けじめをつけるため交代させる」と説明した。
 週刊文春の報道を受けて首相は翔太郎氏を厳重注意したが、野党からは更迭要求が出ていた。首相はタイミングについて「主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)後の地元との調整業務が一段落した」と述べた。
 自身について「任命責任は私自身にあり、重く受け止めている。先送りできない課題に答えを出すことで職責を果たしていきたい」と語った。翔太郎氏は22年10月に首相秘書官に就いた。
 翔太郎氏は辞職に伴う退職金を受け取らない意向を示している。夏のボーナスにあたる期末・勤勉手当は支給の対象外になる。
 日本経済新聞社が26〜28日に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は47%で4月の前回調査から5ポイント下がった。翔太郎氏への批判が首相が議長を務めたG7広島サミットでの評価を打ち消した。

【トヨタとダイムラー、商用車提携 日野自・三菱ふそう統合】
 30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 トヨタ自動車と独ダイムラートラックは30日、商用車分野で提携すると発表した。トヨタ傘下の日野自動車とダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスを統合し、電動化や自動運転など「CASE」技術を共同開発する。日野自はエンジン排ガス不正で国内出荷を停止し環境は厳しい。脱炭素の技術対応のハードルが上がるなか、商用車での提携が加速しそうだ。
 4社が基本合意した。トヨタとダイムラーが株式公開を目指す持ち株会社を2024年12月までに設立し、日野自と三菱ふそうが傘下に入る。トヨタとダイムラーの持ち株会社への出資比率は同じ割合とし、統合後に日野自はトヨタの連結子会社から外れる。
 S&Pグローバルモビリティの調査によると、2021年のダイムラーの中大型トラックの販売台数は約36万5000台で世界2位。日野自は小型トラックやバスを含めて15万台(22年3月期)で、中大型トラックの分野では世界最大手規模の連合になる。
 今回の統合で日本のトラックメーカーは日野自動車と三菱ふそう、いすゞ自動車とUDトラックスの2陣営に集約される。30日に記者会見したトヨタの佐藤恒治社長は「規模のメリットがある。いすゞ・UDとシェアが同等になる」と話した。ダイムラートラックのマーティン・ダウム最高経営責任者(CEO)は「真の国内トップ企業をつくることは、強固な製品ラインアップをつくることにつながる」と述べた。
 4社は商用車の開発や調達、生産分野で協業し、CASE技術の開発のほか、水素分野でも協力する。重量が大きい大型トラックは電動化が乗用車より難しい。ダウム氏は「自動車業界の変革で同時に複数の新技術への投資が必要。規模がカギを握る」と強調した。
 佐藤氏は「CASE時代を生き抜くには日本の商用車事業は世界と比べて規模が小さく、各社が単独で戦うことは難しい状況だ」と語り、「競争のみならず、みんなで力を合わせていくことが求められる」と話した。
 商用車業界では電動化を含む次世代技術「CASE」への対応で合従連衡が相次いでいる。19年にいすゞがUDの買収を発表し、21年にトヨタといすゞが資本提携した。
 トヨタと日野自、いすゞは商用車を開発するコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)を共同出資で設立。その後スズキとダイハツ工業が参加し、不正が発覚した日野自は除名された。

【Jアラート、沖縄へ一時発令 北朝鮮「衛星発射に失敗」】
 31日早朝、日経速報メールは次のように報じた。
 政府は31日午前6時半、北朝鮮がミサイルを発射したもようだと全国瞬時警報システム(Jアラート)を発令し、沖縄県に避難を呼びかけた。午前7時すぎに日本には飛来しないと発表し避難を解除した。北朝鮮メディアは軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したと伝えた。
 北朝鮮は31日〜6月11日に衛星を発射すると予告していた。朝鮮中央通信によると、国家宇宙開発局が午前6時27分ごろに打ち上げた衛星について「事故が発生し黄海上に墜落した」と報じた。
 ロケットの1段目を分離した後、2段目の異常により推進力を失ったと説明した。同局は「できるだけ早い期間内に2次打ち上げに踏み切る」と発表したという。
 韓国軍合同参謀本部は午前6時29分ごろ、北朝鮮が北西部の平安北道・東倉里(トンチャンリ)一帯から「北朝鮮が主張する宇宙発射体」を1発、南方向に打ち上げるのを捉えた。
 南北境界に近い韓国・白翎島の西側の上空を通過したと説明した。北朝鮮が衛星と主張する発射体を打ち上げるのは2016年以来、7年ぶりになる。
 浜田靖一防衛相は発射体について6時35分ごろ黄海上空で消失したと推定していると記者団に説明した。宇宙空間への何らかの物体の投入はされていないと分析しているとも語った。
 韓国の聯合ニュースは韓国軍の情報として、北朝鮮の発射体が落下予告地点に届かずレーダーから消えたと報じた。空中爆発や墜落の可能性を分析しているという。
 岸田首相は関係省庁に①情報収集・分析に全力を挙げ国民に迅速・的確な情報提供、②航空機や船舶などの安全確認の徹底、③不測の事態に備え万全の態勢をとる――の3点を指示した。
 松野博一官房長官は31日の記者会見で、北京の大使館ルートを通じて、北朝鮮に厳重に抗議し、強く非難したと明らかにした。「現時点で被害報告などの情報は確認されていない」と述べた。

【米中国防相会談見送り 中国が拒否、衝突リスク拭えず】
 30日のニュースメールは次のように報じた。
 オースティン米国防長官と中国の李尚福国務委員兼国防相は6月上旬にシンガポールで探ってきた会談を見送る。米国防総省が29日、中国が拒否したと明らかにした。米国が李氏に科す制裁をめぐり溝が埋まらなかったとみられる。台湾周辺や南シナ海で偶発的衝突のリスクが拭えない。
 オースティン氏と李氏は6月2日にシンガポールで始まるアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に出席する。例年通り、米中はこの合間に国防相会談を探ってきた。
 国防総省のライダー報道官は5月29日の声明で、中国から会談を拒否するとの通知を受けたと言明した。「競争を紛争に導かないために米中間で軍同士の開かれた対話ルートの維持が重要だと強く確信している」と指摘し、中国に方針を変えるよう促した。
国防総省高官によると中国は2021年以降、高官協議の開催を10回以上、定例の対話枠組みに基づく協議を数回、実務者レベルの協議を10回近く拒否したという。
 中国外務省の毛寧副報道局長は30日の記者会見で「米中国防当局の対話が困難な理由は米国側にとって明らかだ」と主張した。「米側は誠意を示し、対話と意思疎通に必要な雰囲気と条件を作るべきだ」と注文した。
 国防相会談が見送りになった理由は李氏に対する米国の制裁だ。複数の関係者によると、中国は国防相会談の条件として制裁解除を求めた。米国は李氏が制裁対象のままでも会談を開けるとの立場を伝えた。
 米国のトランプ前政権は18年、李氏がロシア製の戦闘機や地対空ミサイルシステムの調達に関わったとして制裁対象に指定した。
 米国では対中国強硬論が先鋭化する。バイデン米大統領が5月下旬に制裁解除の可能性に触れると、野党・共和党のジム・リッシュ上院議員はツイッターで「許しがたい」と直ちに反発した。国務省は解除を検討していないと、バイデン氏の発言を修正した。

【中国、20〜22年融資10兆円焦げ付き 一帯一路に転機】
 31日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【北京=川手伊織】中国の金融機関が海外に融資する債権の焦げ付きが膨らんでいる。2020〜22年に融資条件の再交渉などに応じた事実上の不良債権は768億ドル(約10兆7000億円)で、17〜19年の4.5倍となった。新型コロナウイルス禍やインフレが新興国経済を直撃したためだ。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を推進し新興国への影響力を高めてきた。問題債権を放置すれば、自国の金融リスクにも飛び火しかねない。
中国の習近平国家主席は13年に一帯一路を提唱した。インフラ資金への期待から中国と協定を結んだ国は150を超した。
 米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)によると、19年までの一帯一路向け投資は年1000億ドルに上った。コロナの流行で潮目が変わった。20年以降は年600億〜700億ドル台に減った。
新興国経済が落ち込み、融資の焦げ付きが目立ってきたからだ。借り手の要求に応じて、金利など融資条件の再交渉や債務の免除に応じる例が増えた。
 米調査会社ロジウム・グループの調べでは、こうした当初の約束通りに返済されない「問題債権」は20〜22年に計768億ドルに達した。感染拡大前の17〜19年は170億ドルだった。コロナ流行初期の20年が487億ドルと突出して多いが、22年も90億ドルと19年の2.8倍だった。
 問題債権の累増に伴って、外貨の融通など資金援助も増えている。世界銀行や米民間調査機関のエイドデータ研究所の分析では、中国はアルゼンチンやパキスタンなど20を超す新興国に対して、08〜21年に2400億ドル分の支援を行った。このうち3割は20年以降の2年間に実施した。
 資金支援の7割を占めたのが、互いに通貨を融通する通貨スワップ協定の利用だ。外貨の支払い能力が落ちた新興国に人民元を貸し出し、債務返済支援の一端を担った。
 対外債務が膨らみ債務不履行(デフォルト)に陥ったスリランカも一例だ。世銀などによると、通貨スワップ協定を活用したり中国の国有銀行から換金しやすい資金の支援を受けたりした。
 日本などが議長を務める債権国会合で、中国はオブザーバーとして参加している。今後は具体的な協議に応じるかが焦点となる。
 不良債権を放置すれば、中国の金融リスクを高める恐れもある。中国の外貨準備高は4月末時点で3兆2000億ドルを上回る。世界一の規模だが、途上国向け融資などすぐには動かせないお金も多い。焦げ付きが増えれば、中国の外貨不足懸念が高まる可能性は否定できない。
 企業や個人が中国の銀行口座を通じて実際に海外とやり取りしたお金は、23年1〜3月まで2四半期連続で流出が流入を上回った。輸出の停滞などで、海外から流れ込みにくくなっている。流出超過が続けば、海外融資に回すお金の余力も小さくなる。
さらに習指導部は米国に対抗するため、国内で半導体産業などの育成強化を急いでいる。産業政策へ優先的に資金を振り向ければ、一帯一路など海外投融資の推進にも影響しそうだ。
 23年は習氏が一帯一路を提唱してから10年の節目だ。年後半には、中国で4年ぶりに首脳会議を開く。融資の焦げ付きが膨らむなか、債務国との向き合い方や今後の投資姿勢をめぐり、中国側がどう情報発信するかに関心が集まる。
 伊藤忠総研の玉井芳野客員研究員は「中国は相手国の債務問題に配慮しつつ、新興国への影響力拡大や資源確保のため、今後も一帯一路を活用していく」とみる。そのうえで「投資額は緩やかな増加も見込まれるが、コロナ前のピーク水準に戻るとは考えにくい」と語る。
 中国側の姿勢によっては、一帯一路に参加する国の対応にも変化が出てくる可能性がある。
すでに主要7カ国(G7)で唯一の参加国であるイタリアは距離を置こうとしている。ロイター通信によると、同国政府高官は24年初めに期限を迎える一帯一路の協定を更新する可能性は非常に低いとの認識を示した。
 中国への輸出が輸入に比べて伸び悩み、自国の経済成長という観点から期待した効果が出ていないためだ。

【米国防長官、台湾安定へ「全ての措置」 日米即応力強化】
 同じ31日のニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・日米統合運用、即応力向上へ指揮統制を効率化
・台湾への武器支援、在庫引き渡しで時間を短縮
・中国が国防相会談拒んでも「何度でも対話追求」
【シンガポール=中村亮】オースティン米国防長官は中国や北朝鮮への対処を推進するため、米軍と自衛隊の即応力強化に取り組む意向を示した。台湾海峡の平和維持に向け、関係国と連携して「全ての措置」を講じると断言し、米国は台湾への武器売却をいっそう進める意向を示唆した。
 オースティン氏が5月31日に始まったインド太平洋地域への歴訪に合わせ、日本経済新聞の書面取材に答えた。6月1日に日本で浜田靖一防衛相と会談する。2日にはシンガポールで開幕するアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に出席し、その後にインドも訪れる。
 オースティン氏は「現在や21世紀の世界(の秩序)を形成していくうえでインド太平洋地域ほど重要な地域はない」との認識を示した。
 「我々が複数の地域で発生する可能性がある、あらゆる安全保障への脅威にも対処する能力を持つと強く確信している」と語った。ロシアによるウクライナ侵攻が続くなかでも、中国や北朝鮮などへの対処を緩めないと断言した形だ。
 日本との関係については「地域の平和と安定を維持するため緊密な連携を継続し、地域を不安定にする中国の行動に対抗する」と明言した。
 オースティン氏は日本の防衛費拡大などに関し「統合地域抑止力の強化に寄与し、自由で開かれたインド太平洋や、すべての者を安全にするルールに基づく国際秩序の維持につながる」と分析した。
 「どんな新しい戦力も、共通の脅威を抑止し、必要であれば対処するという共通の優先事項に沿ったものになるよう日本との協力を進める」と話した。米国が反撃能力の取得を支援していく考えを示す発言だ。
米軍と自衛隊の運用をめぐり「相互運用性や即応力を向上させるため、いっそう効率的な指揮統制を目指す」と言及した。
バイデン政権は台湾に新型の武器支援を近く実施する。米軍の在庫を直接引き渡し、提供にかかる時間を大幅に減らす。オースティン氏は新型支援に触れ「台湾関係法に基づく責務を果たすため懸命に取り組んでいく」と明言し、台湾の自衛力強化を進める意向を示した。
 中国には、国防トップ同士の対話を重ねて求めた。「意見が食い違うときでさえも、開かれた対話ルートを維持することが極めて重要だ」と強調した。「中国は何度も拒否しているが、米国はそれ(対話)を追求していくと約束する」と述べ、対話ルートの確立に向けて粘り強く取り組むとした。
 オースティン氏はシャングリラ会合の期間に、中国の李尚福国務委員兼国防相と会談を探っていた。ただ米国防総省は中国が拒否したと説明した。

【米債務上限停止法案、下院で可決 デフォルト回避に前進】
 6月1日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ワシントン=高見浩輔】米連邦議会下院は31日夜(日本時間1日午前)、米政府の債務上限を停止する法案を可決した。上院も 可決すればバイデン大統領が署名して成立する。債務不履行(デフォルト)の回避に向け、大きな前進となった。
法案の名称は「財政責任法案」。バイデン米大統領と共和のマッカーシー下院議長との合意により法案化された。今後2年間の歳出を削減することなどを条件に、債務上限の効力を2025年1月まで停止する。
バイデン氏は「史上初のデフォルトを防ぎ、米国が苦労して獲得した歴史的な経済回復をまもるために重要な一歩を踏み出した」と 声明を出した。マッカーシー氏は「我々は歴史を作った。この議会が決めた中で最大の歳出削減だ」と強調した。
 賛成は314票、反対は117票だった。下院(定数435議席)で多数派を握る共和からは222票のうち71票が反対に回り、2票が棄権となった。
 合意の過程で双方とも譲歩した政策があり、与野党ともに不満の声がある。ただイエレン米財務長官は6月5日にも政府の資金繰りが行き詰まると警告しており、残された時間は乏しかった。バイデン氏は連日議員に電話して妥協策への理解を呼びかけてきた。
 今後の審議は上院に移る。上院で過半数を握る民主のシューマー院内総務は31日、法案を「できるだけ早く議場に持ち込む」と採決を急ぐ考えを強調した。「無用な遅延や土壇場での駆け引きは、受け入れがたいリスクとなる」と述べ、法案の修正などを申請しないよう議員らをけん制した。
 上院での採決は早ければ6月2日になる公算だが、週明けの5日になるとの見方もある。上院ではほぼすべての民主の議員が賛成票を投じる見通し。ロイター通信によると、共和もミット・ロムニー上院議員などが記者団に対して支持を表明している。
米政府の債務は1月に現行の上限である31.4兆ドルに到達し、米財務省が基金の運用変更などで資金繰りをつないでいる。資金繰りが行き詰まる「Xデー」は6月5日と予測されており、米国が史上初めてデフォルトに陥る懸念がくすぶっていた。

【米EU、経済的威圧に「共同対抗」 中国念頭に連携強化】
 同じ6月1日の日経速報メール【ブリュッセル=辻隆史】によれば、米国と欧州連合(EU)は31日、スウェーデンで開催した閣僚級協議を終えた。共同声明で中国を念頭に、敵対的な国との貿易・投資を制限する「経済的威圧」に共同で対抗する方針を示した。先端技術の軍事転用を防ぐため、企業の対外投資規制の検討も進める。
 4回目となる「米EU貿易・技術評議会」は2日間の日程で開いた。米国からブリンケン国務長官やレモンド商務長官ら、EUからは通商政策担当のドムブロフスキス上級副委員長や人工知能(AI)規制を担うベステアー上級副委員長らが参加。
 中国とロシアの脅威を踏まえて連携強化を再確認した。経済安全保障を重視し、経済的威圧に対しては「それぞれのあらゆる政策を活用して応じる」と強調した。
 米連邦議会はバイデン政権と協力し、中国が経済的な圧力をかけた場合に対抗措置を導入する法案を検討している。中国は自国の経済力を利用し、新型コロナウイルス問題で関係が悪化したオーストラリアに関税を引き上げる措置をとった。
米EUで共同歩調をとると明示することで、中国を抑止する。米国やEU域内の企業の対外投資規制について、議論を進めることも確認した。AIや量子、バイオの新興技術が中国にわたり、軍事や市民の監視などに使われるのを防ぐ。
 ウクライナ侵攻を続けるロシアをめぐっては、制裁逃れに対処するために輸出管理を強めると表明した。第三国を経由して米国などの半導体がロシアに輸出されている。他国とも調整しながら新たな対策を詰める。
 レアアース(希土類)など重要物資のサプライチェーン(供給網)づくりを共同で進めていく方針も盛った。
 生成AIに関しては声明で、利用時のリスクを減らすためのルールづくりで協調するとした。EUは域内企業での統一規制をめざしており、AI開発企業を多く抱える米国とは立場に開きがある。ただ生成AIがもたらす人権や著作権の侵害といったリスクへの懸念は共有している。意思疎通を継続して対立を避ける。



 この間、以下の録画を視聴することができた。 (1)BS6報道1930「NG7で周回遅れの日本 難民認定・LGBT…問われる政権の本気度」5月17日。 (2)NHKスペシャル混迷の世紀(選)「”貿易立国“日本の苦闘…グローバリゼーションは」18日。18日。 (3)BS6報道1930「NATO”東京進出“ 中国抑止拡大戦略か 世界の安保大再編も?が」18日。 (4)NHK総合アナザーストーリーズ「オバマ大統領 広島の地へ-歴史的訪問の舞台裏」19日。 (5)NHKスペシャル(選)「中国共産党 一党支配の宿命」21日。 (6)BS6報道1930(再)「ロシアの頭脳が流出する~世界のIT産業は変わるのか~」22日。 (7)BS6報道1930「ゼレンスキー氏 G7来日舞台裏 原爆社会館「バフムトと似ている」」22日。 (8)BS6報道1930「荒れる黒海ルート ウクライナの”生命線“で何が」22日。 (9)BS6報道1930「EV化雪崩打つ世界で存在感失う日本の危機、自動車産業は沈むのか」23日。 (10)BS6報道1930「ロシア民間会社”乱立“なぜ? プーチン氏とワグネル 微妙な関係」24日。 (11)NHK ETV特集「市民と核兵器~ウクライナ 危機の中の対話」25日。⇒日本で14歳ま動かしたウィリアム・ジェームズ・ペリー(元国防長官)に聴く「く核なき世界」の取材を合わせたNHK制作・著作。 (12)BS世界のドキュメンタリー「ファーストインプレッション~表情と声の力」25日。 (13)BS6報道1930「震度5以上がなぜ頻発…次の巨大地震の前兆は 長距離パルスの脅威」26日。 (14)NHKスペシャル「響きあう歌-コロナ禍と再生の物語」28日。 (15)BS6報道1930「同じ皿の飯を食う仲-プーチン氏に軍事進攻を決意させた謎の男」29日。 (16)NHKBSスペシャル「密着 自衛隊” で育ったウクライナ人ボグダンさんがウクライナで聴く「核兵器を放棄しなかったらロシアの侵攻はなかったか」の問を集める取材の成果と、オバマ大統領をミサイル防衛のリアル」30日。 (17)BS世界のドキュメンタリー「チェルノブイリ衝撃の事実~口を開く証言者たち~」(2021年2月4日放映のもの)30日。 (18)BS6報道1930「反転攻勢の裏側を深読み、ウ軍“別動隊”か? ロシア人義勇軍の実態」31日。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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