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変わりつつある世界(4)

前稿(3)が取り上げたのが2013年4月11日午前までであった。
 その後、11日午後、日経続報メールは次のように報じた。

【ガス由来の水素も「環境適合」 IEAが指標、投資後押し】
 国際エネルギー機関(IEA)は、化石燃料からつくる水素でも一定の条件を満たせば「クリーン」とみなす指標をまとめた。これまで環境に配慮した水素製造の基準づくりが課題となっていた。世界共通の基準とし、企業が投資しやすい環境を整備する狙い。
 水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ない次世代エネルギーと位置づけられる。水素には、再生可能エネルギーの電力でつくる「グリーン水素」、天然ガスなど化石燃料からつくり、その際に出るCO2を回収する「ブルー水素」といった複数の分類がある。
それぞれの分類の定義はバラバラで、基準の曖昧さが水素市場の拡大を阻んでいるとの指摘があった。特にブルー水素は化石燃料からつくるため、どうすれば環境配慮とみなされるか共通の指標を求める声があった。
 日米欧など約30カ国からなるIEAは水素がクリーンかどうかを、水素製造時に出るCO2排出量の割合を示す「炭素集約度」を使って決める指標をまとめた。1キログラムの水素製造で出るCO2が7キロを下回ればクリーンとみなす。
 例えば化石燃料から水素を製造して7キロ以上のCO2が出ても、CO2を大気に放出しない回収技術などを用いて実質の排出量が7キロより少なくなれば許容する。
 IEAの指標の順守は義務ではないものの、基準を明示することで企業が投資しやすい環境を整える。日本は5月にも水素戦略を改定する方針で、当面は天然ガス由来のブルー水素を軸に普及を進める構えだ。
 脱炭素社会に向け、水素の利用は世界全体で増える見通しだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、世界が2050年に温暖化ガスの排出の実質ゼロを目指す場合、水素は最終エネルギー需要の12%を占めるという。
 世界の水素関連企業でつくる「水素協議会」と米マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめたリポートによると、50年の世界の水素・派生品の需要は6億6千万トンに達する。

【トヨタと「革新のジレンマ」 破壊的EVは生まれるか】
 同じ17日、日経ニュースメールは次のように次のように伝えた。
 エレクトロケミストリー(電気化学)と総称するらしい。電気自動車(EV)に使うリチウムイオン電池や燃料電池、水素燃料、合成燃料と、化学反応で電気を生んだり、電気によって化学反応を促したりする技術のことだ。
 7日に記者会見したトヨタ自動車の佐藤恒治社長はそれらを「マルチパスウェイ(全方位)」と呼んだ。エレケミすべてを網羅的に研究し、世界中でどんな脱炭素技術が求められても対応できるようにするという。
半導体のような飛躍は困難
 化石燃料のガソリンに代わる動力源の候補は多種多様で、共通するのは車が走るときに二酸化炭素(CO2)を出さない点だ。
 一方で、ガソリンと同様にどれを選んでも絶対に不可能だとされる点もある。半導体のように飛躍的な技術進歩を遂げることだ。
 比較しよう。半導体は「ムーアの法則」が提唱された1965年以降、トランジスタの素子が58年で85億8993万4592倍にも増えた計算になる(当初の「1年で倍増」から、75年に「2年で倍増」に修正されたのを考慮)。コンピューターは劇的に性能が向上し、価格も安くなった。
 だが、車はどうか。世界で最も売れた乗用車、トヨタの「カローラ」の場合、66年の誕生から燃料1リットルあたりの走行距離が20キロ前後(ガソリンエンジン仕様)で大きく変わっていない。
 環境や安全面の規制が強まり、装備品が増えて車体が重くなったのが一因だ。車体重量が2倍になったことを考えれば、カローラの進歩は尊敬に値する偉業ではあるが、それでも半導体の進化のペースには遠く及ばない。
EVでは米中勢を仰ぎみる位置
 物理と化学の違いといってもいい。エレケミで最も有望なのはリチウムイオン電池を使ったEVだが、その時代がきても電池の進化の速度はそう変わらない。ゴールドマン・サックス証券の湯沢康太・投資調査部マネージング・ディレクターの試算によると、電池から取り出せるエネルギー量(エネルギー密度)の進歩を2000年以降でたどると、年間3〜5%ほどだという。
 そうしたペースが関係したのかもしれない。日本ではムーアの法則が支配する電機産業が00年前後から衰退したのに対し、自動車産業は無縁でいられた。
 化石燃料とエレケミを融合したハイブリッド車を生み出したことも日本勢の存在感を高めた。だが、化石燃料を徹底的に嫌う風潮が広がったうえに、進歩が遅くても社会に受容される域に電池技術が到達したことで、EVの普及は加速する兆しが強まった。
 だからこそ、トヨタの会見は注目された。端的にいえば、同社は化石燃料とハイブリッドの技術に加え、EVを除くエレケミでは世界一だ。もちろんEVも技術水準は高いが、直近の販売実績をみれば、米テスラや比亜迪(BYD)など中国企業を仰ぎみる位置に甘んじている。
 世界シェアが1割もあるのにEVだけでは1%もない。競争は始まったばかりだが、思い出されるのはデジタルカメラに数年で追い詰められたフィルム業界の運命だ。トヨタの会見では26年に150万台という販売目標が示されたが、それ以外は戦略がみえにくい。
迫るゲームチェンジの現実
 同社の金城湯池といわれるタイをみてみよう。トヨタを筆頭に日本企業9社で自動車販売の9割を占める市場だが、くさびを打とうとするのが中国企業だ。特にBYDが予定するEV工場には、タイ政府が手厚い支援を表明した。
 手をこまぬくうちに海外勢が押し寄せてゲームチェンジを迫る。消費者がデジタル技術と相性のいいEVを欲しはじめている現実を日本のメーカーはどこまで把握し、動いているか。
 EVは25年ごろに、新車販売の15%を占めるあたりで技術発展の踊り場を迎える――。リチウムイオン電池でノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は数年前に自著で書いている。エレケミ特有の進化の限界を指摘したものだが、同時に「突破不能と思える壁を乗り越える存在も現れる」と予想した。
 EVは普及しっこないと考えれば失敗の始まりだ。特にタイ、インドのような新興国は安くて環境にいいEVに社会の発展を託し、技術のリープフロッグ(一足飛び)を生む可能性を秘める。
「第2の総合電機」になるな
 3年前に亡くなった「イノベーションのジレンマ」の著者、クレイトン・クリステンセン氏は生前「トヨタのような企業こそ、EVという新技術でアジアやアフリカの無購買層を購買層に変える『破壊的イノベーション』に挑むべきだ」と雑誌の取材に答えている。
 トヨタの過去がまさにそうだった。創業した1937年以降の生産・販売実績をみれば、成長の原動力が「新技術」と「購買層化」にあったことがわかる。
 総合電機という言葉がかつてあった。半導体から白物家電、発電機器まで事業を様々に持てば、景気の変動に左右されにくい経営ができあがる。だが一方で、時間軸も投資の仕方も異なる事業を複数抱えることで、専業企業の変化のスピードについていけなくなる。そんな教訓を帯びた言葉だ。
 優れた企業ほど、保守的で慎重になり、失敗する。そんなイノベーションのジレンマとともに、トヨタのマルチパスウェイという全方位経営が「第2の総合電機」に陥らないよう、注意が必要な局面を迎えている。

【G7外相、ウクライナへ支援継続 対中ロでインドと連携】
 同じ11日、日経ニュースメールは伝えた。
 主要7カ国(G7)の外相会合は17日、ウクライナ情勢を話し合った。G7としてロシアへの厳格な経済制裁とウクライナ支援を続ける方針で一致した。ロシアによるベラルーシへの核兵器の配備を非難した。
 G7外相は16日に長野県軽井沢町のホテルで開幕した。議長を担う林芳正外相のほか、ブリンケン米国務長官、クレバリー英外相、フランスのコロナ外相、ドイツのベーアボック外相らが参加している。
 林外相は17日の会合で「戦争が長期化するなかで、G7をはじめとする同志国の結束を維持すべきだ」と強調した。南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」に触れ「連携強化することが重要だ」と述べた。
 新興・途上国経由で軍事転用可能な半導体がロシアに流れたり、ロシアの戦費調達につながったりしているとの懸念が強まっている。G7として「第三国などからのロシアへの武器提供に対処」する方針で一致した。ロシア制裁への抜け穴を塞ぐ狙いがある。
 林外相は国際秩序を維持するために「インドとの連携」が不可欠とも指摘した。インドは9月に開く20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長国で、新興・途上国のなかでも発言権が大きい。
 インドは米中対立のはざまで等距離外交を進めていたが、係争地を巡る問題で中国とぎくしゃくした関係が続いている。中ロの対立軸が鮮明になる中でインドの動向がカギを握るとの認識を示した。
 G7外相間で「インド太平洋」を巡る議論を定例化することも決まった。日本政府には東アジア情勢への関心が薄れがちな米欧をひき付けておく狙いがある。
 G7外相会合は18日に閉幕する。共同声明で「台湾海峡の平和と安定」の重要性を確認する。中国の台湾への軍事的威嚇を批判する。両岸問題の平和的解決を求める内容も改めて盛り込む。

【米EVの税優遇、米3社11車種のみ 日欧韓すべて対象外に】
 18日早朝の日経ニュースメール【ニューヨーク=堀田隆文】によると米政府は17日、消費者が電気自動車(EV)を購入する際に、税優遇の対象となる車種の新たなリストを明らかにした。対象はテスラなど米国メーカーの11車種に限られ、日欧韓メーカーの車はすべて外れた。米政府はEVを巡って北米での生産・調達を最優先としており、対応が遅れる米国外メーカーは厳しい競争環境に置かれている。
 米政府は自国市場のEVについて、消費者が最大7500ドル(約100万円)の税額控除を得られる販売支援策を採っている。2022年8月成立の歳出・歳入法で支援対象を北米生産車に限るなど新たな要件を定め、段階的に適用してきた。4月18日から新たな要件を適用するのにあわせ、対象車種も更新した。
 18日から新たに①車載電池の部品の一定割合を北米でつくる②電池に使う希少金属など重要鉱物の一定割合を米国や米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国などから調達する、という2つの条件を適用する。新たな要件が加わるため、販売支援のハードルは高くなり、対象車種数もこれまでの14車種から11車種に減った。
 メーカー別では、最大手テスラの主力車種「モデルY」「モデル3」に加え、米ゼネラル・モーターズが6車種、同フォード・モーターが3車種という内容になった。対象車種すべてを米国メーカーが占めた。
 一方、歳出・歳入法の要件のもとでも、これまでは税優遇の対象になっていた日欧韓のEVはすべて対象から外れた。日産自動車のEV「リーフ」が外れたほか、韓国・現代自動車と独フォルクスワーゲン(VW)のEVも税優遇を受けられなくなった。いずれも、車載電池に関する条件をクリアできなかったためとみられる。
 米国では4万〜5万ドルがEVの売れ筋になっている。最大7500ドルの税控除は価格競争力を維持するうえで無視できない。米国外のメーカーは今後、税優遇を受けるために北米生産を加速したり、調達網を見直したり体制整備を急ぐことになりそうだ。
 電池を巡る要件の追加は、米国勢にとっても厳しいものになっている。新興企業リヴィアン・オートモーティブのEVは対象外となった。テスラについても、モデル3の一部グレードは支援額が7500ドルから半分の3750ドルに減額となった。
 それでも、リストはすでに北米に生産・調達基盤を持つ米国メーカーが優位な結果になっている。歳出・歳入法のもとでの米政府のEV販売支援策を「米メーカーへの過度な優遇措置」と批判してきた日欧韓の政府の反発が強まる可能性がある。

【中国の新車、23年は3台に1台がEVに 上海ショー開幕】
 同じ18日の日経ニュースメールは次のように伝えた。
【この記事のポイント】
・中国の新車の3台に1台がEVになり、普及期に入る
・値下げ合戦でEVメーカーの優勝劣敗が進む
・中国の強みは電池の世界シェアが7割に上る点にある
 世界最大級の自動車展示会「上海国際自動車ショー」が18日、中国・上海で開幕した。中国では電気自動車(EV)など環境対応車を巡る争奪が激しく、EVを中心とする新エネルギー車市場は2023年に前年比3割増の900万台まで伸びるとされる。新車の3台に1台がEVになり、普及期に入る。比亜迪(BYD)をはじめとした現地勢に加え、米テスラなど欧米勢も販売攻勢をかける中で日本勢の出遅れが鮮明になっている。
 中国は世界で最も大きなEV市場で、中国のEVメーカーは200社程度あるとされる。中国汽車工業協会によると、ガソリン車などを含めた23年の新車販売台数は22年比3%増の2760万台となる見込み。EVを中心とする新エネ車はこのうち900万台で3割を占めそうだが、「23年には新エネ車が1000万台近くまで伸び、35年には少なくとも2500万台と、新車販売の8割を占める」(清華大学の欧陽明高教授)との見通しもある。
 米国で22年に販売したEV(乗用車・小型トラック)は81万台でEVシェアは6%、欧州主要18カ国のEVの販売台数は153万台で全体に占める比率は15%だ。日本国内の22年度のEV販売台数(軽自動車含む)は前の年度比3.1倍の7万7238台に増えたが、乗用車全体の2.1%にとどまり、中国のEV市場の成長スピードが際立つ。
 その中国市場の足元で進むのは欧米勢による値下げ攻勢だ。中国シェア2位のテスラは23年1月から中国で販売するセダン「モデル3」や多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」の価格を引き下げた。前年比で最大14%安く、同社が欧米で販売するより5割近く安いケースもある。テスラの動きに米フォード・モーター、独フォルクスワーゲン(VW)なども追随し、現地勢で中国シェアトップのBYDもSUVの「宋プラス」について、トヨタ自動車もSUVの「bZ4X」について、値引きなどでそれぞれ価格を抑えた。
 中国のEV市場での競争は激しさを増しており、テスラが火を付けた値下げ合戦でEVメーカーの優勝劣敗が明確になる可能性もある。一方、消費者を囲い込もうとする競争の結果、価格や車種の裾野が急速に広がっている。従来は高級車と格安車で二極化していたが、普及期に入る中、その中間の車種も増えている。
 みずほ銀行ビジネスソリューション部の湯進主任研究員は中国のEV販売傾向を3つの価格帯に分けて分析する。23年1〜3月の販売をみると、低価格の100万円以下、中価格の200万〜300万円、高価格の400万〜600万円の3つの価格ゾーンが占める販売台数のシェアはそれぞれ15%を超えた。
 特に200万〜300万円を購入した層は21年に23%、22年に32%だったが、23年1〜3月には37%まで増えた。需要が100万〜400万円に集中し、ピークが1カ所のガソリン車とは傾向が異なる。中国EV市場の攻略には中間層の開拓が重要になりそうだ。
 マークラインズによると22年末時点で日本メーカーの中国の工場出荷台数ベースのEV販売シェアは1%に満たない。ガソリン車と売れ筋の価格構成が異なる中、EVで出遅れた日本メーカーは中国で新たな価格戦略を迫られる。
 トヨタの現地合弁会社、一汽トヨタは22年末、EVの新型セダン「bZ3」の予約販売を開始。価格は18.98万元(約370万円)からとし、中間層以上の需要を取り込む。
 一方、ホンダの中国の現地合弁会社は3月から値引き施策に踏み切った。現地合弁会社の広汽ホンダと東風ホンダが22年に投入したEV「e:N」シリーズの第1弾モデルは17.5万元(約340万円)から。4月末までに注文した顧客に3万元(約60万円)値引きするキャンペーンを始めた。
 みずほ銀行の湯氏は「現地メーカーとも価格競争が激化する中で、日本車メーカーはどのセグメントで優位性を発揮していくのかを明確にすることが、販売拡大のカギとなる」と指摘する。
 今後のEV戦略では電池の確保も重要になる。中国のEVメーカーの強みは中核部品の電池の中国の産業規模が既に世界シェアの7割にのぼる点にある。値下げしても供給網が現地にあるためコストを削りやすく、収益悪化を抑えられるとみられている。
 世界のEV販売でテスラに次ぐ2位のシェアを持つBYDは電池を祖業とし、車載電池メーカーとしても世界シェア上位に位置する。電池だけでなく、電池以外の基幹部品の駆動用モーターやパワー半導体なども自ら生産し、価格競争力を高めてきた。日本勢は新たなEVブランドの浸透だけでなく、材料など供給網構築で現地メーカーとの協力も欠かせない。
 アリックス・パートナーズの鈴木智之マネージングディレクターは「中国メーカーが電池や部品などのハードウエアやソフトウエアで競争力を持つようになった中で、日本車メーカーはいかに協業関係を作っていくかが重要になる」と語る。(上海=田辺静、東京=川上梓)
中国市場の売れ筋EV、コスパも日本超え
 中国市場で販売されるEVは激しい競争にさらされ、コストパフォーマンス(コスパ)で日本国内で流通する商品を上回っているようだ。コスパの目安として価格1万円当たりの航続距離が1キロメートルであることを示す直線を引くと、同じ車両を日本でも供給しているトヨタ自動車や日産自動車のEVを含め、中国市場での売れ筋商品はすべて直線の上に位置する。航続距離の算出方法が異なるため一律の比較は難しいが、決して「安かろう悪かろう」ではないことが見て取れる。
 日本国内でも日産が販売するリーフの「e+」など一部グレードでは1万円当たりの航続距離が1キロを上回る車もある。ただ、商品ラインアップは500万〜800万円の高価格帯に集中しており、庶民にとっては高根の花だ。1月から日本で乗用車カテゴリーとして発売したBYDのEV「ATTO3」(小型SUV)は440万円で航続距離は485キロ。消費者はコスパを見極めており、本格的なEVの国内普及には300万〜400万円で航続距離が300〜400キロ程度のEVが求められている。

【G7の懸念、中国に直接表明」 外相共同声明に明記 「力による一方的な試みに強く反対」】
 18日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 主要7カ国(G7)は18日、長野県軽井沢町で開いた外相会合で共同声明をまとめた。軍備増強する中国に関し「我々は中国に率直に関与し、懸念を直接説明することの重要性を認識する」と盛り込んだ。
 東アジアの安全保障に米欧も関与する方針を明示した。東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みに「深刻な懸念」を表し「強く反対」すると打ち出した。
 「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認」した上で「両岸問題の平和的解決を促す」と書き込んだ。
 中国に関しては「国際社会の責任ある一員として行動するよう改めて求める」と指摘し「対話を通じて建設的かつ安定的な関係を構築する」と表現した。「国連憲章の目的と原則を堅持し、威嚇、威圧、脅威、武力の行使を控える必要性を想起する」と唱えた。
 今回のG7外相会合で主要議題の一つだった「自由で開かれたインド太平洋」は「重要性を改めて表明する」と掲げた。北朝鮮の相次ぐミサイル発射を「強く非難」した。
 ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ「世界のいかなる場所でも力や威圧で、平穏に確立された領域の状況を変更しようとする一方的な試みに強く反対する」と明記した。
 厳しい対ロシア制裁と強力なウクライナ支援の継続方針を明確にした。「ロシア軍の即時かつ無条件の撤退」を要請し、ベラルーシへの核配備と威嚇は受け入れられないと主張した。中国などがロシアに武器支援する可能性を念頭に、第三国によるロシアへの迂回支援の停止を求めた。
 法の支配に基づく「自由で開かれた国際秩序を強化する決意」を示した。「グローバルな課題への対処」との表現で南半球を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が抱える課題にともに取り組む考えを打ち出した。
 食料やエネルギーのほか経済安全保障で重要な物資の調達などで協力拡大を見込む。共同声明に経済安保の項目を入れ「経済的威圧に対抗する必要な手段を備える」と表記した。
 核軍縮を巡っては中国に対応を促す文言を入れた。「核戦力の透明性向上」を要求した。日本が推進する「ヒロシマ・アクション・プラン」をもとに核兵器のない世界の実現へ努力する必要性を訴えた。
 「世界の核兵器数の全体的な減少を継続し、逆行させてはいけない」と確認した。世界の指導者に広島と長崎を訪問するよう促し、軍縮・不拡散教育の重要性を提起した。
 外相声明を採択し、G7外相会合は閉幕した。5月に広島で開く首脳会議(広島サミット)に成果を反映する。

【中国GDP4.5%増 1〜3月実質、ゼロコロナ終了で加速】
 18日昼の日経ニュースメール【北京=川手伊織】によれば、中国国家統計局が18日発表した2023年1〜3月の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質で前年同期比4.5%増えた。22年10〜12月の2.9%増から加速した。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わり、外食や旅行などサービス消費が持ち直した。不動産開発や自動車販売は成長の足を引っ張った。
 1〜3月の前年同期比増加率は、日本経済新聞社と日経QUICKニュースが調べた市場予想の平均(3.4%)を上回った。季節要因をならした前期比での伸び率は2.2%だった。22年10〜12月(0.6%)から拡大した。先進国のように前期比の伸び率を年率換算した成長率は9.1%程度となる。
 生活実感に近い名目GDPは前年同期から5.5%拡大した。22年10〜12月の増加率は3.5%だった。
 18日はGDPと同時に他の統計も公表した。
 百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売を合計した1〜3月の社会消費品小売総額(小売売上高)は5.8%増加した。全体の1割を占める飲食店収入が13.9%増と大きく伸びた。
 対照的に耐久消費財はさえなかった。自動車は2.3%、通信機器は5.1%それぞれ減少した。国内消費は明暗が分かれた。
 工場の建設などを示す固定資産投資は5.1%増だった。22年通年と同じ伸びだった。政府が景気下支え役として期待するインフラ投資が引き続き堅調だった。
 一方、地方経済が依存してきた不動産開発投資は5.8%減少した。新築住宅の販売面積が1.4%のプラスに転じたが、在庫の圧縮が進み新たなマンション開発が増えるまでには時間がかかりそうだ。
 外需は経済成長率を押し上げる要因となった。輸出から輸入を差し引いた1〜3月の貿易黒字は前年同期を3割超上回った。東南アジア諸国連合(ASEAN)向けが好調だった輸出が増加した一方、耐久消費財などの国内販売が振るわず輸入は減少した。
 1〜3月の生産は3.0%増で、22年通年の伸び(3.6%)には届かなかった。販売不振をうけ自動車やパソコンの生産量が落ち込んだ。
 4〜6月の実質経済成長率は1〜3月より拡大するとの見方が多い。前年同期からの反動増という要因が強い。上海市が22年春、新型コロナの感染拡大を封じ込めるためロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、中国経済全体が混乱した。
 企業や家計の先行き不安を拭い、投資や消費など内需の拡大で成長を加速させるには雇用や所得の改善が欠かせない。

【三井住友、AT1債を1400億円発行へ 金融正常化へ一歩】
 18日夕方の日経ニュースメールは次のように報じた。
 三井住友フィナンシャルグループ(FG)は1400億円規模のAT1債(永久劣後債)を発行する方針を固めた。予定通り発行されれば、クレディ・スイス・グループの救済で同社のAT1債が無価値になった3月中旬以降、世界の主要行で初となる見通しだ。日本のAT1債はクレディ・スイスと同様の事態が起きにくいほか、世界的に金融不安への警戒が和らぎつつあることが背景にある。金融システムの正常化に向けた一歩となりそうだ。
 19日に発行条件を決める。5年2カ月後に償還が可能になる債券を890億円、同じく10年2カ月の債券を510億円発行する。2本とも、信用度を示す国債に対する上乗せ金利(スプレッド)は1.71%を予定する。前回(2022年12月)発行した、5年6カ月後に償還ができる債券に比べ0.33%拡大した。
 3月中旬のUBSによるクレディ・スイスの救済が決まった際、同社のAT1債は政府支援を受けたとして全額が無価値となった。株式より安全性が高いとみなされてきた金融商品だっただけに、投資家の不安が拡大。QUICK・ファクトセットによると、クレディ・スイスの救済決定以降「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」によるAT1債の新規発行は止まっていた。
ただ、日本のAT1債はクレディ・スイスと仕組みが異なる。全国銀行協会によれば、邦銀が発行するAT1債は、公的支援を受け入れても元本が毀損することはないという。
 クレディ・スイスの救済以降、連鎖的な金融機関の破綻などは起きていないことも発行の追い風になったようだ。米インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出するAT1債の代表的な指数ではスプレッドが足元で5%台前半と、クレディ救済直後に比べ2%近く縮小する(債券価格は上昇する)など、投資家の警戒感は和らぎつつある。
AT1債は株式と債券の中間の性質を持つ商品で、調達した資金を自己資本に算入できる。

【大企業健保、赤字5600億円超で過去最大 23年度見込み】
 20日の日経ニュースメールは次にように報じた。
 健康保険組合連合会は20日、主に大企業の会社員らが入る健保組合の2023年度の予算集計を発表した。全国およそ1400組合を合算した経常収支は5623億円の赤字となる。赤字幅は過去最大で、2805億円だった22年度の2倍を見込む。
 医療費の伸びに加えて高齢者医療への拠出が膨らんでおり、現役世代にとって重荷となっている。
赤字を見込む健保組合は22年度から130組合増えて1093組合となった。その割合は全体の8割近くに達する。黒字組合は137組合減って287組合にとどまる。
 医療費の支払いに充てる保険給付費は22年度比5.5%増えて4兆7820億円となった。予算計上の土台となる22年度の医療費が新型コロナウイルス禍で膨らんでおり、同水準の支出が続くとみた。
日本の医療保険制度は現役世代が高齢者医療費の一部を賄う仕組みだ。拠出金は進む高齢化を反映して22年度比で7.3%増えて3兆7067億円となった。なかでも75歳以上の後期高齢者への支援金は10%程度増える想定とした。
 高齢者医療への拠出金は増え続ける公算が大きい。経常支出の4分の1ほどは後期高齢者向けの支援金が占める。65〜74歳の前期高齢者向けの納付金とあわせると、保険料のおよそ4割が高齢者医療の下支えに使われる計算だ。
 保険料率を引き上げる組合も増える。22年度から23年度にかけて135組合が引き上げ、平均保険料率は22年度から0.01ポイント上昇して9.27%となった。後期高齢者医療制度が発足した08年度と比べると2ポイント程度伸びた。
 赤字幅の拡大を反映し、収支の均衡に必要な実質保険料率は10.1%に上昇。初めて10%の大台を超える。これまで経常収支の赤字額が最も大きかったのはリーマン・ショックの影響を受けた09年度決算の5234億円だった。
 健保組合は従業員と勤務先が毎月払う保険料をもとに医療費の支払いなどの保険給付、健康診断などの保健事業を担う。主に大企業の従業員と家族ら 2800万人ほどが加入する。
 政府は少子化対策の拡充に充てる財源として社会保険料からの拠出を検討している。保険料が上乗せになれば現役世代の一段の負担増につながりかねない。高齢者も含めた幅広い負担のあり方や、社会保障制度全体の見直しによる歳出改革も欠かせない。
 給付費の抑制を巡っては、健保組合がジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用促進などで給付費を抑える取り組みを続ける。給付を抑える仕組みと合わせて負担の平準化に向けた検討も必要となる。

【3月訪日客181万人 インバウンド消費「コロナ前」視野】
 19日の日経速報メールは次のように報じた。
 新型コロナウイルス禍で低調だった訪日外国人(インバウンド)消費に弾みがついてきた。3月の訪日客数は181.7万人と、コロナ前の2019年3月の66%に戻った。米欧や中東からの大幅な増加が全体を押し上げた。1人当たりの単価が上がり、23年の訪日客消費の「コロナ前」水準の回復も視野に入ってきた。
 日本政府観光局(JNTO)が訪日客数を19日に発表した。単月で150万人を超えたのは20年1月以来となる。前月比では23%増、前年同月比では27.5倍だった。このまま順調にいけば年間2000万人超に届く。
 国・地域別では米国が20.3万人(19年比15%増)、ベトナムは5.3万人(12%増)、中東は1.2万人(5%増)で、コロナ前を上回った。
中国は前月の2倍の7.5万人となった。3月1日に中国からの渡航者に対する水際対策を緩和し、追い風となった。
 全日本空輸(ANA)は3月の中国路線の運航便数を前年同月比2.5倍に増やした。旅客数は4倍に増えた。日本航空(JAL)も3月の中国路線の旅客数は前月の2倍以上だった。
 中国政府は日本への団体旅行を許可しておらず「本格的な需要回復には至っていない」(JAL)。過去最多の訪日客数だった19年の3188万人には直近の単月ベースで7割弱と及ばない。
 単価の上昇により、消費額全体は回復している。観光庁は23年1〜3月期の訪日客の1人あたりの旅行支出が21万2000円(速報値)だったとの調査を公表した。19年通年実績(約15万8000円)から3割増えた。
富裕層ほど早く観光へと戻る傾向が影響するが、円安などを背景に単価は上がりつつある。中国以外ではオーストラリア(35万8000円)やフランス(30万円)が高額で、長期滞在などで単価が上がっているようだ。
 財務省・日銀の国際収支統計をもとにインバウンド消費の傾向をみると、22年12月、23年2月に3000億円を超え、16〜17年の水準まで回復した。23年通年ではコロナ前を超すとの見方が出ている。
 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「23年のインバウンド消費は5兆円を超え、コロナ前の4.8兆円を上回る可能性がある」と指摘する。
 百貨店などの見込みは強気だ。三越伊勢丹ホールディングスでは、22年度の伊勢丹新宿店の売上高が3000億円を超え、1991年を上回って過去最高を更新したようだ。好調な国内消費に加えて、インバウンドの回復も後押しした。単月ベースでは2、3月はいずれも19年比で2〜3割増だった。
 大丸松坂屋百貨店などを傘下にもつJ・フロントリテイリングは24年2月期の百貨店の免税売上高を前期比2.3倍の440億円と見込む。過去最高だった20年2月期(601億円)の7割強の水準だ。
 観光は政府の成長戦略の柱になっている。足元ではホテルなどでの人手不足の解消が重要になっている。富裕層の消費拡大や都市部への客足の偏在解消なども課題になる。(金子冴月、逸見純也、嶋田航斗)
■中国からの本格回復がカギに
 今後、いっそうの回復には中国人客の動向がカギを握る。Jフロントの若林勇人取締役は「中国本土を結ぶ直行便の増便といった伸びしろもある」と語る。
 中国からの訪日客はコロナ前は国・地域別で最多だった。「団体旅行が許可されたら、より多くの中国人が日本を訪れるだろう」。大連市の旅行会社の女性幹部はこう話す。
 中国研究機関の中国旅行研究院は、中国を出入国する旅行客が23年通年は延べ9000万人超になると予想する。22年比の約2倍で、コロナ禍前の約32%の水準だ。
中国旅行大手の携程旅行網(シートリップ)によると、4月29日〜5月3日の大型連休の海外旅行の予約数は前年同期の18倍以上に増えた。
 コロナ禍で落ち込んだ航空便数が回復し、平均価格が大きく下がったことが需要につながった。旅行先の上位はタイ、香港、日本、シンガポール、マレーシアという。
 中国政府が団体旅行を認める60カ国には東南アジアやアフリカ、南米などの新興国が多い。米国だけでなく同国と歩調をあわすことの多い英国、オーストラリア、日本、韓国は含まれていない。
 日中外交筋には「米国寄りの立場を取る日本と中国の関係は冷え込んだままだ。中国側は団体旅行解禁を政治的なカードとして温存している可能性がある」との見方もある。(上海=渡辺伸)

【近づく戦争への活用、AI競争力が覇権左右 問われる倫理】
 20日の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・人工知能を搭載した銃は15カ国超に配備されている
・AIにより軍隊や戦略も変わる可能性がある
・強権的な国家ほど有利に開発、人類の脅威に
 相手の兵士をロックオンすると、人工知能(AI)が400メートル先の群衆の中から自動で検知する。標的の動きや風速を計算して照準が追尾し、あとは引き金を引くだけ――。イスラエルのスマートシューター社が開発したAI銃。2月下旬にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた武器展示会では実際の追尾力を試すデモに参加者が殺到した。
 無人航空機(UAV)に取り付け、複数の武器をネットワークでつないで狙い続けることも可能だ。米国やインドなど15カ国超が導入しているという。
 国連は報告書でUAVなどの自律型致死兵器システム(LAWS)の危険性に触れ、リビアの内戦で使われた可能性を指摘する。ロシアのウクライナ侵攻でもAIを搭載した兵器が投入されているもようだ。
 AIは兵器のみならず戦略も変える。米軍は米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などと組み陸、海、空、宇宙の部隊の情報を統合してAIで戦略を立案する「全領域統合指揮統制(JADC2)」構想を進める。中国はAIなどの先端技術を人民解放軍に導入し今世紀半ばに米軍を追い抜く国家目標を掲げる。
 米AI国家安全保障委員会(NSCAI)の報告書ではAIの開発競争は半導体技術が左右すると指摘し、現状のままでは中国などに「主導権を握られる」と警告する。米国はAIの研究開発予算を年3兆5千億円確保する方針を掲げた。一方、中国も研究開発費を毎年7%以上増額する計画を掲げる。
 調査会社アライド・マーケット・リサーチの推計では自律型兵器の市場規模は2030年に301億ドル(約4兆円)にのぼり、10年で2.6倍に拡大する。
 法務情報サービスの米レクシスネクシスによると、AI関連の特許保有数は騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)の中国勢が19年ごろから米IBMや韓国サムスン電子、米マイクロソフトなどを急追。21年にツートップの座を確立した。民間で中国優位が進んでいる。
 米グーグルは18年にAIが音声で予約代行などを担うサービスを発表すると、詐欺への悪用懸念で批判を浴びた。米国防総省とドローンのAI制御で提携する試みが社内の反発で撤回した経緯もあり、倫理面の制約は多い。
 防衛省防衛研究所の小野圭司特別研究官は「中国の強権体制は大きな優位性だ」と話す。民主主義国が法規制や社会倫理に 縛られる中、開発が認められる場は技術者にとって研究も進みやすいためだ。
 「AIは軍隊を明確に変えている」。2月にオランダで開かれた初のAI兵器の規制会議「REAIM(リーム)」で、同国のフックストラ外相が米中など約50カ国の参加者にルールづくりの必要性を訴えた。米政府はAI兵器に関する説明責任などを盛り込んだ宣言を発表した。
 「人に従え、されど人を害するな」。SF小説家のアイザック・アシモフが1942年に示した「ロボット工学三原則」。80年前の空想世界からの課題に、人類は今まさに直面している。

【米スペースXの大型ロケット、初の打ち上げ試験で爆発】
 20日の日経速報メール【ヒューストン=花房良祐】によると、米起業家のイーロン・マスク氏が率いる米スペースXは20日、大型ロケット「スターシップ」の打ち上げ試験を初めて実施した。宇宙船からブースターの切り離しに失敗し、数分後に上空で爆発した。
 テキサス州南部の宇宙基地から打ち上げた。当初の計画では約3分後に「スーパーヘビー」と呼ぶブースターから宇宙船を切り離し、ブースターはメキシコ湾、宇宙船は1時間30分後に太平洋のハワイ沖にそれぞれ着水するはずだった。
 マスク氏は打ち上げ前、成功の可能性は半分だとの認識を示していた。
 スペースXは原因の究明を急ぎ、数カ月後に再度の打ち上げを目指す方針だ。マスク氏はツイッターで「数カ月後の次回の打ち上げに向け、多くのことを学んだ」と述べた。同社はこれまでも再利用が可能なロケットなど先端技術の開発に取り組んできたが、失敗を重ねながら設計や体制の見直しに生かしてきた経緯を持つ。
 スターシップを構成するブースターと宇宙船は、合計の高さが約120メートルで過去最大級だ。メタンを燃料とするエンジン33基を搭載していた。米航空宇宙局(NASA)が1960〜70年代の月面探査計画「アポロ計画」で使用したロケットよりも大きく、打ち上げの難度は高いとされる。
 NASAは2025年にも月面に宇宙飛行士を送り込む「アルテミス計画」を進めており、スペースXはスターシップをもとにNASA向けに月面への着陸機を開発する計画だ。このほか、ZOZO創業者の前沢友作氏がスターシップによる月の周回旅行も計画している。
 将来的にはブースターと宇宙船を再利用できるように開発し、打ち上げコストを削減する。予定する打ち上げ能力は150〜250トンで、スペースXの既存ロケット「ファルコンヘビー」(約64トン)を大幅に上回る。
 将来は複数のロケットを打ち上げ、燃料タンクを地球の周回軌道上に配置する。宇宙船は宇宙空間で燃料を補給し、月だけでなく火星まで有人探査船を送り込む計画もある。マスク氏はスターシップに100人が搭乗できるようになると言及し、人類が火星に入植する構想も抱いている。
 スペースXはテキサス州南部のメキシコとの国境近くに宇宙基地を建設した。宇宙船の打ち上げ試験を繰り返しており、高度約1万メートルに到達したこともある。宇宙船にブースターを搭載して打ち上げを試みたのは今回が初めてだった。

【「AIネーティブ」揺れる教育 人づくりの未来どう開く AI Impact(5)】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。 
 受け入れか、排除か。優れた対話能力をもつ人工知能(AI)「ChatGPT(チャットGPT)」などの扱いを巡り、学びの場が揺れている。
 「教育現場におけるAI活用のフェーズが変わった」。3月下旬、チャットGPTを含むAIの活用指針を公表した東京外国語大の青山亨理事は語る。従来のAI活用は機械翻訳のように「言語を学ぶ補助」の枠内にとどまっていた。
 自然な文章で高度な質問に答えるチャットGPTが教育現場で普及すれば、言語を学ぶ意義自体が問われかねない。それでも東京外大は「テクノロジーの進化は止められない」(青山理事)と、授業での活用ルールを教員と学生で定めるよう促した。
 東京大も4月、AIだけを使った論文作成は認めないが活用法の議論を始める方針を示した。上智大は教員が許可した場合を除き、リポートや論文を書く際に使うことを禁止した。
 世界でも対応は割れる。米ニューヨーク市は学校での使用を禁止した。一方でシンガポールのチャン・チュンシン教育相は「受け入れることを指導しなければならない」と容認する。
 これからは幼少期からAIが身近な「AIネーティブ」が社会を担う。「既に答えがある問題」はAIで対処できる。知識の暗記と再生のうまさを評価する教育は意味をなさなくなる。
 高校教諭出身でAIを使った教育に詳しい佐藤俊一・元山形大教授は「疑問を持つことは人間にしかできない。課題を見つけて問いを立て、定まった正解がない中で最適解を模索する『探究型』学習への転換が急務だ」と訴える。
 AIを使いこなすには人も能力を高め続けなければならない。世界ではチャットGPTを高度な作業に利用する技能「プロンプトエンジニアリング」を習得する動きが拡大し、国内のビジネス現場でも体制づくりが猛スピードで進む。
 生活関連サービスを手がけるくふうカンパニーもその一つで、4月に入社した社員約20人にまず教えたのはAIを使う際の基礎的素養や注意点だった。約1週間の準備期間を経てチャットGPTを活用した新事業案の発表会も開いた。
 同社の目標は今の世にない画期的なサービスの創出だ。そのためにはAIからアイデアを引き出し、新たな価値を生み出す社員を育てる必要がある。急速な環境変化に対応するため、カカクコムやクックパッドの経営に携わってきた穐田誉輝最高経営責任者(CEO)は新卒社員に「(AIの力を)自ら感じ、使いこなしてほしい」と呼びかける。
 AIによる研究が進む囲碁でも人間同士の勝敗を分けるのは思考力となる。
史上最年少の13歳11カ月でタイトルを獲得した仲邑菫女流棋聖は「AIが示す手だけ打っていても失敗する。自分の棋風に合った手を打つのが一番大切だ」と語り、国内第一人者の井山裕太王座も「AIをどう自分なりの手に落とし込むかが大事」と強調する。
AIが進化するなかで人が学ぶべきことは何か。答えを見いだしたとき、人づくりの未来が開く。=おわり

【東大がIBM量子計算機導入、国内で最高性能 23年秋稼働に】
 21日の日経速報メールは次のように報じた。
 東京大学は今秋にも、川崎市内の研究施設に米IBM製の最新鋭の量子コンピューターを設置する。性能の目安となる「量子ビット」の数は127で、国内に置かれるものとしては最高となる。バッテリー開発などへの応用が期待され、トヨタ自動車や三菱ケミカルグループなどが参加する産学協議会が利用する。実用化に向けた研究が国内で一段と進む。
 東大と日本IBMが21日、都内で記者会見を開き明らかにした。東大は2021年7月に国内初となる汎用型のIBM製量子コンピューターを川崎市内の施設に導入した。新たに最先端機種を設置し、今秋にも稼働を始める。
 計算の基本素子である量子ビットの数は127で、従来の27量子ビットから約5倍になる。理化学研究所が3月にクラウド上で利用可能にした国産初号機の64量子ビットを上回る。東大の相原博昭・副学長は記者会見で「宇宙や創薬、人工知能(AI)、金融などの重点分野の研究を進展させ、量子によるイノベーションをもたらすことを目指す」と述べた。
 量子コンピューターは複雑な問題をスーパーコンピューターの1億倍以上の速さで解く可能性を持ち、自動車や化学、創薬をはじめとする様々な産業の変革を後押しすると期待されている。IBMによると、今回導入する127量子ビットの計算機が北米以外で稼働するのは初めて。
 東大が使用権を専有し、協議会に参加するトヨタやなどの企業が利用する。高性能な計算機を頻繁に活用できる環境が国内で整備されれば、企業が関連する研究成果を創出しやすくなる。
 現状の量子コンピューターは動作が不安定で計算の際にエラーが生じるなど課題を抱える。どんな用途で力を発揮するか、世界でも手探りの段階だ。将来は幅広い産業の競争力に影響を及ぼす可能性があり、いち早く導入するための企業間の競争も活発になっている。

【米軍、太平洋に防衛線 中国抑止へ島しょ国に拠点分散】
 同じ21日の日経速報メール【ワシントン=中村亮、シドニー=今橋瑠璃華】によると、バイデン米政権がインド太平洋地域で米軍の作戦拠点を拡大している。太平洋島しょ国の3カ国と1兆円近くの経済支援をテコに軍事協力を深め、米領グアムやフィリピンにも部隊を分散させる。中国に対処するため太平洋で防衛線を張る。
 米インド太平洋軍のジョン・アキリーノ司令官は20日、上院軍事委員会の公聴会で中国を念頭に「インド太平洋で戦争は不可避ではない。差し迫ってもいない。しかしこの10年間はリスクが高まる」と証言した。抑止力強化に向けて「我々の挑戦者が持たない同盟国とパートナー国のネットワークを拡大する」と語った。
 米軍は太平洋島しょ国と協力を深める。パラオで高度なレーダーシステムの設置を計画し、遠方の状況把握能力を向上させる。2022年には統合演習「バリアント・シールド」の一環で戦闘機F35をパラオに展開した。有事に作戦拠点として使うシナリオを想定しているとみられる。
 ミクロネシア連邦は航空機や艦船の補給拠点としての役割を想定する。米国とミクロネシア連邦は21年、同国での軍事施設の設置に合意した。米軍はマーシャル諸島でミサイル実験場を運用し、66年まで使用が認められている。
 米国はマーシャル諸島、ミクロネシア連邦、パラオと自由連合協定を結んでいる。米国が経済支援し、3カ国は米国と軍事協力をしている。経済支援は23〜24年に期限切れを迎える。米国は更新交渉を急ぎ、軍事協力の拡大に布石を打つ。
 米国務省当局者は日本経済新聞の取材で更新交渉に関し「短期での合意を目指している」と語り、5月末までをメドに交渉に取り組むと話した。政権は3月公表の予算教書で3カ国向けの経済支援と郵便サービスに関し、20年間で計71億ドル(9500億円)を盛った。当局者は過去20年間と比較は難しいと説明しつつ「大きな増額だ」と強調した。
 米軍は戦力や部隊の分散先として3カ国に期待する。アキリーノ氏は18日の下院軍事委員会の公聴会で3カ国に関し「第2次世界大戦での我々の成功に極めて重要だった。いまも重要であり戦略的な場所に位置している」と指摘した。
 北東アジアや北米へのシーレーン(海上交通路)に位置し、パラオは日本の小笠原諸島からグアムを経由してパプアニューギニアに至る第2列島線に近い。台湾周辺や南シナ海での有事の際は前線部隊を後方から支援したり、戦闘任務に加わったりする拠点になりうる。

 グアムでは米海兵隊が1月、約70年ぶりに基地を新設した。地対艦ミサイルや地対空ミサイルを運用する「海兵沿岸連隊」を配置する公算が大きい。有事の際は即応部隊として前線への派遣が視野に入る。
 米軍が部隊の分散を進めるのは中国のミサイルの精密さや飛距離が向上するからだ。中距離弾道ミサイルDF26はグアムを射程に入れる。米軍は少数の基地に集中すると標的になりやすく、攻撃を受ければ戦力が一気に下がりかねない。
 日本の沖縄や台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線でも米軍は拠点を増やしている。フィリピンは4月上旬、米軍に巡回駐留を新たに認める4つの拠点を決めた。台湾に近いルソン島北部を含み、有事での使用や備蓄物資に関して協議を重ねる見通しだ。
 中国軍も遠方への展開を増やす。日本の防衛省統合幕僚監部によると、中国海軍の空母「山東」は16日、沖ノ鳥島から南南東に約710キロメートルへ位置した。第2列島線の近くで、艦載機の発着訓練を実施したとみられる。
 中国は22年4月、ソロモン諸島と安全保障協定を結んだ。中国軍が補給拠点を設ければ活動範囲を拡大できる。首都ホニアラが位置するガダルカナル島は太平洋戦争で日米が激戦を繰り広げた太平洋の要衝だ。

【マイクロソフト社長「生成AI、開発の手ゆるめず」】
 21日の日経ニュースメールは次のように報じた。
米IT(情報技術)大手マイクロソフトのブラッド・スミス社長は21日、日本経済新聞の取材に応じた。提携する米オープンAIが開発した「Chat(チャット)GPT」などの生成人工知能(AI)について、「開発を遅らせるのではなく、(安全確保のための)ガードレールをつくる仕事を急がなければならない」と事業展開を続ける姿勢を示した。
ルール整備や開発を透明に
 チャットGPTは2022年11月の公開後、異例の速さで普及。誤情報の拡散やプライバシー侵害といった懸念が浮上している。高度なAIの開発休止を求める声も高まるが、スミス氏は「新世代の法律や規制がいる」と各国政府の対応や官民でのルール整備が必要と主張した。
 マイクロソフトは2019年に10億ドルを投資して以降、オープンAIを資金、技術の両面から支えてきた。AI戦略の要に位置づけ、自社の検索サービスや業務ソフトにオープンAIの開発成果を組み込んでいる。
 AI開発の手を緩めない一方、企業の責任に関して「謙虚さが必要だ。AIがもたらす恩恵に興奮しつつも、あらゆるリスクを心配しないといけない」と述べた。具体的には開発の原則を明確にして、技術者の訓練や製品のテスト・監視などの継続が不可欠とした。
規制当局との対話を重視する方針も強調した。AI企業の役割は「AIがどう機能するのか、人々に情報を提供すること」とし、「理解が進めば、当局は正しい情報に基づく意思決定ができる」と語った。
 世界的に労働人口が減るなか、「生産性を高めるAIは経済成長の新しい原動力だ」とも訴えた。雇用を奪うと警戒する声には「いま各国の一番の懸念は労働力を確保できないことだ」とAI活用が打開策になるとの考えを示した。
勝者総どりにはならず
 洗練された文章や画像を生成する高度なAIは市場の拡大が見込まれ、2027年には世界で約16兆円に達するとの予測がある。マイクロソフトのほかグーグル、アマゾン・ドット・コム、メタなど米テクノロジー大手が研究開発に力を注ぐ。
 一握りの企業が市場で支配力を強める恐れがあるとの見方について、スミス氏は「各国でイノベーションが起こる」と否定。恩恵を受ける企業は多いとの見方を示した。「AIのエコシステム(生態系)はウィナー・テーク・オール(勝者総どり)にはならない」と明言した。
 高度なAIの開発では米国勢だけでなく「中国の北京智源人工智能研究院(BAAI)や百度(バイドゥ)、アリババ集団がいることを頭に入れておくべきだ」と述べた。中国勢に加え欧州やイスラエル企業も台頭していると訴えた。AIを使ったサービスの開発ではスタートアップ企業にも商機があるとし、日本では「5社のスタートアップに会った」と話した。
 スミス氏は「オープンAIがつくった最先端のAIは(マイクロソフトの)データセンターで学習した」と協業の成果を強調。「より多くの人が新技術を使えるようにすることが両社のミッションだ」と語った。一方でオープンAIを買収する可能性については「現在の提携はうまく機能しており、両社とも興味はない」と否定した。ChatGPTを開発したオープンAIとは提携関係を続けるとした
ゲーム大手買収は「楽観視」
 マイクロソフトの歴史を振り返れば、各国の規制当局との緊張関係を抜きには語れない。90年代末にはパソコン用基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ」をめぐり、米司法省が独禁法違反で同社を提訴。訴訟は長期化し、一時は「会社分割」の命令も出された。欧州委員会との争いもあった。
 その後は政府やライバル企業との対話を重視する経営にかじを切り、攻めの姿勢が目立つ他のテック大手と一線を画してきた。ただ、22年1月に発表したゲーム大手の米アクティビジョン・ブリザードの巨額買収に対しては米連邦取引委員会(FTC)が買収阻止を求めて提訴するなど、マイクロソフトの影響力の高まりを警戒するムードも漂う。
 アクティビジョン買収の実現についてスミス氏は「未来は見通せないが、楽観視している」と述べ、「より多くの人々にゲームを届けられる買収であり、競争を促す」と自信を示した。日本の公正取引委員会は3月に買収を承認している。
AIは人間の補助役に
 イタリアでチャットGPTが利用禁止になるなど、生成AIに対する逆風も吹く。17日の米議会公聴会では、FTCのリナ・カーン委員長が「AIはあらゆる機会と同時に、あらゆるリスクも提供する」と述べ、AIサービスも調査対象となりうることを強調した。
 生成AIを使えば詐欺メールなどを巧妙につくれ、サイバー攻撃などへの悪用が懸念される。スミス氏は「AIは人間よりも早く新たな攻撃手法を発見できる」と指摘。影響工作による偽情報の拡散も検知可能だとして、AIを駆使して攻撃に対抗する意向を示した。
マイクロソフトは「エクセル」や「ワード」などに使えるAIを副操縦士を意味する「コパイロット」と名付けている。AIはあくまでも人間の補助で、現時点では最終判断は人間の役割だと位置づける。ただ、将来、自動運転車のようにAIが自律的に判断する状況となれば「非常に慎重になるべきだ。規制が必要になる」と話した。

【米ベッド・バスが破産法申請 金融不安で行き詰まり】
 23日の日経速報メール【ニューヨーク=朝田賢治】によれば、米生活雑貨販売大手、ベッド・バス・アンド・ビヨンドは23日、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条(チャプター11)の適用をニュージャージー州にある連邦地方裁判所に申請したと発表した。電子商取引(EC)への対応の遅れによる業績悪化に、米国での金融不安による資金調達環境の悪化が重なり、経営が行き詰まった。

【関連記事】新陳代謝に失敗、金融不安がとどめ 米ベッド・バス破綻
 負債総額は52億ドル(約7000億円)。スー・ゴーブ最高経営責任者(CEO)は「従業員、顧客、取引先、地域社会に感謝する。すべてのステークホルダー(利害関係者)の利益を最大化するため、引き続き真摯に取り組む」と声明を出した。
 同社は2022年9〜11月期まで7四半期連続で赤字を計上し、23年1月には経営再建に向け「あらゆる戦略的選択肢を検討する」と表明していた。
 1月26日付の米証券取引委員会(SEC)への提出資料では、JPモルガン・チェースから債務不履行の通知を受けたと公表。そこにシリコンバレーバンクの破綻などで米国内の金融システム不安が拡大し、金融機関が貸し出し姿勢を引き締め、厳しい財務状況が続いていた。
 1971年に創業したベッド・バスはベッドリネンやバス用品から乳児・幼児向け商品、家具など幅広い商品を扱う。米国やカナダでチェーンストアを展開し、天井まで商品を高く積み上げる陳列方法で顧客の支持を集めた。2023年4月中旬時点で、家具点360点、ベビー用品店120店を運営し、約2000万人のロイヤルティー顧客を抱える。
 しかし、スウェーデンのイケアなど新しい業態の家具店との競合が激化。デジタル投資などでライバルの後じんを拝し、資金繰りの悪化による在庫減も顧客離れを招いた。
 近年は代表的な「ミーム株(はやりの株)」として個人投資家の関心を集め、22年8月には大株主の持ち株売却や経営再建策をめぐり、短期売買で株価が乱高下した。不採算店閉鎖や人員削減などのリストラ策も実施し、存続を模索していた。
 23年3月下旬には、借り入れではなく、株式市場からの直接の資金調達を試みた。新規の株式発行で3億ドル(約400億円)を確保しようとしたが、株価の下落により想定の資金が集まらず、破産を申請するに至った。

【衆参5補欠選で自民党4勝1敗 和歌山は維新、立民全敗 解散戦略に影響】

 24日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 衆参両院5つの補欠選挙が23日、投開票された。自民党は4勝1敗とし補選前から議席を増やした。衆院の千葉5区、山口2区と4区、参院大分選挙区でいずれも自民新人が当選を確実にした。衆院和歌山1区では日本維新の会新人が自民元職との事実上の一騎打ちを制した。
 2022年7月の参院選以来の国政選挙となった。5選挙区のうち3議席を自民が持っていた。立憲民主党は候補者を擁立した3選挙区で全敗した。
 岸田文雄首相の次期衆院選へ向けた解散戦略にも影響する。自民の茂木敏充幹事長は23日のNHK番組で「解散は首相の専権事項だ。結果の分析を含め首相が判断すると思う」と語った。
 千葉5区は「政治とカネ」の問題で自民党の薗浦健太郎氏が離党し、議員辞職したことに伴う。自民新人の英利アルフィヤ氏が立民新人の矢崎堅太郎氏らに競り勝った。野党は候補者を一本化できず、政権への批判票が分散した。
 山口2区は岸信夫前防衛相の辞職を受けた補選だった。岸氏の長男の信千世氏は世襲批判などをかわし、無所属元職の平岡秀夫氏を退けた。
 安倍晋三元首相の死去に伴う山口4区は自民新人の吉田真次氏が当選を決めた。吉田氏は元下関市議で、選挙戦を通じ安倍氏の後継候補だと強調した。安倍氏の妻の昭恵さんも支持を呼びかけた。与党支持層をまとめ立憲民主党新人の有田芳生氏を下した。
 参院大分は県知事選に出馬した安達澄氏の辞職に伴う。自民新人の白坂亜紀氏が立民元職の吉田忠智氏との接戦を制した。
 衆院の和歌山1区では維新新人の林佑美氏が自民元職の門博文氏を破った。同区は県知事に転出した岸本周平氏の辞職による。
 維新は統一地方選の前半戦で勢いをつけ、地盤である大阪の隣県に勢力を広げる戦略を描いてきた。林氏は与党支持層や無党派層も取り込んだ。
 選挙期間中の15日、首相の演説前に爆発物が投げ込まれる事件が起きた。首相は選挙戦最終日の22日にも和歌山市で街頭演説したものの、門氏は届かなかった。
 23日は統一地方選の後半戦も投開票が進んだ。政令市を除く一般市長・市議選と東京都の特別区長・区議選などが対象で、一部は翌日の24日に開票される。


【熟練外国人の長期就労、6月にも全分野で 関係省庁調整】
 同じ24日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 熟練した外国人材が日本で長く働く道が広がりそうだ。人手不足対策として2019年に創設した在留資格「特定技能」について、 長期就労が可能な業種を6月にも現在の3分野から全12分野に拡大する方向で関係省庁が調整に入った。実現すれば期間限定の受け入れだった飲食料品製造や外食などの分野で、技能を磨いた外国人労働者を企業が継続雇用できるようになる。
 24日の自民党の外国人労働者等特別委員会で、特定技能の長期就労分野の拡大を求める各省庁の要望を出入国在留管理庁が伝えた。政府・与党が検討して6月の閣議決定を目指す。省令改正などを進め、資格取得などの運用開始は24年5月ごろになる見通しだ。少子化で外国人労働者が不可欠となっており、受け入れ政策を見直す。
 外国人材の受け入れには主に2通りある。高い専門性や技術力を持つエンジニアなどの高度人材と、製造業や農業、建設業などの現場で働く技能実習や特定技能だ。
 技能実習は廃止し、人材の確保・育成が目的の新たな制度を創設する方向となっている。実習後に特定技能に移行する人は多く、両制度の改定が進めば非熟練の外国人材がスキルを向上させながら長期就労できる環境整備が進む。
 背景には人手不足の深刻化がある。国際協力機構(JICA)などは政府が目指す経済成長を40年に達成するには、外国人労働者は現在の4倍近い674万人必要と推計する。各国で少子化が進み、労働力の獲得で競争激化が見込まれる。
 この時期に見直すのは、特定技能の創設当初から働く人が24年5月以降に在留期限を迎え始めるためだ。現状では多くが帰国を迫られる。引き続き日本で働ける道を用意するかを早急に示す必要があった。
 具体的には特定技能「2号」の対象分野を拡大するよう調整する。技能などの試験に合格するか技能実習修了が条件の「1号」は最長5年だが、2号は資格更新回数に上限がなく配偶者や子どもも日本で暮らせる。これまで対象は建設など2分野のみだった。残る10分野のうち、別の資格で長期就労できる介護を除く9分野での追加を関係省庁が求めている。
 2号の取得では建設などと同様、各分野の技能を持つ熟練者に限る方針だ。2号取得者は10年以上滞在し、安定した生活を営む資産があるといった要件を満たせば永住権取得も可能になる。
 自民党の一部からは「事実上の移民受け入れにつながりかねない」との慎重論が出る可能性がある。18年に特定技能導入を決めた際は自民党の部会で2号の適用厳格化を求める意見が出た。
 特定技能は2月末時点で約14万6千人。外国人労働者(22年10月時点で約182万人)の約8%に当たる。国籍別ではベトナムが約6割を占め、インドネシア、フィリピンが1割超で続く。入国制限緩和で拡大している。
 賃金が上がらない日本で働くメリットは薄れてきたとの見方もある。台湾では非熟練者でも最長12年間(介護などは14年間)働ける。韓国は所得や語学力などが一定水準に達した外国人に永住権を与える。日本もさらに呼び込む手立てが必要となる。(外国人共生エディター 覧具雄人)

【スーダンの邦人ら45人、国外退避 岸田首相が発表】
 24日深夜の日経速報メールは次のように報じた。
 岸田文雄首相は24日夜、戦闘が続くアフリカ北東部のスーダンから航空自衛隊のC2輸送機で在留邦人とその配偶者の計45人を出国させたと明らかにした。「先ほどスーダン東部のポートスーダンを飛び立ち、ジブチにいま向かっている」と言明した。首相公邸で記者団に語った。
 このほかにフランスや国際赤十字の協力で邦人4人がすでにスーダンからジブチやエチオピアに退避したと説明した。
首相は「成功裏に邦人退避を遂行した大使館や自衛隊をはじめとする関係者の努力への敬意と感謝を申し上げたい」と述べた。韓国やアラブ首長国連邦(UAE)、国連などから協力を受けたとして謝意を表明した。
 首相は退避した邦人について「それぞれの希望に基づき、日本への帰国などを調整していく」と話した。スーダンに在留する退避希望の邦人は残り数人だと指摘し「引き続き関係各国とも緊密に連絡をしつつ、早期の退避に全力を挙げて対応していく」と強調した。
 フランス政府によると、24日朝までにスーダンからジブチに退避させた388人に日本人2人が含まれている。韓国大統領府は同日、韓国人28人が軍用機で退避したと発表した。その際に「日本人数人も安全に撤収させた」と明らかにした。
 多くの国が自国民の救出を本格化している。ドイツでは24日、101人の自国民らを乗せた最初の軍用機が経由地のヨルダンからベルリンに到着した。
 イタリアやスペインも自国民らを輸送機で脱出させ、カナダは外交官を退避させた。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は同日、1千人超のEU市民がスーダンから脱出したと述べた。
 トルコは陸路で隣国エチオピアへの退避を始めたが、集合場所付近で爆発が起きるなど一部で混乱があったもようだ。
世界保健機関(WHO)は23日、15日に始まった戦闘で死者が420人、負傷者は3700人に上ったと明らかにした。

【EU、ChatGPTに統一規制 「メード・ウィズAI」表示も】
 25日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・EU幹部が生成AIの規制法を年内にも決定と表明
・AI作成の文章などに「メード・ウィズAI」とつける案を提示
・提供企業にAIの判断理由や倫理基準の説明求める
【ブリュッセル=辻隆史】欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のベステアー上級副委員長が24日、日本経済新聞の単独インタ ビューに応じた。「Chat(チャット)GPT」などの生成AI(人工知能)をEU全体で規制する新法を「できる限り早く施行する」と明言。年内にも決定する見通しを示した。
 AIが作成した文章や画像に「メード・ウィズ AI(AIで作成)」といったラベルを表示させる案も提起したほか、生成AIの提供企業に説明義務を課すことも明らかにした。EUで統一することで、規制の効力を高める狙いがある。
 ベステアー氏はAIや競争政策を統括する。EUの上級幹部が規制の時期や内容などの具体案に踏み込むのは初めて。
 EUはかねてAI利用に関する新たな法案を準備してきた。チャットGPTのような高度な対話能力を備えた生成AIが登場したことを受け、ベステアー氏は法案を修正する方針を明示した。「2023年後半に(各国代表による欧州理事会と欧州議会による)政治合意に至り、その後に施行したい」と述べた。
 法案ではAIのリスクを4段階に分ける。EUが高いリスクがあると判断したAIについては、公開前に評価する仕組みをつくる。データ保護の枠組みなどEUの他の制度を総合的に活用し、生成AIの規制に取り組む。
ベステアー氏は適切な利用に向けた基準「ガードレール」が必要だと強調した。社会が生成AIに依存しすぎることで、子どもが考える力を養えなくなったり、ローンを借りる際にAIが生まれや経歴などで「偏見」を抱き、希望者を差別的に扱ったりするリスクを指摘した。
 生成AIはインターネット上のデータから学習し、高度な文章や精巧な画像などをつくることができる。ベステアー氏は新たな規制でそうした生成物に「メード・ウィズ AI」「これは本当の写真ではない」といったラベルをつけ、真偽が分かるようにする案を提示した。
 企業に対しては、一定の説明義務を課す考えも示した。「なぜAIがそうした判断をしたのか。どのような倫理的なガードレールを設けているのか」について開示すべきだと語った。
 ベステアー氏は「研究は、新法の対象ではない。企業はテストして技術革新を起こし、アイデアを追求できる」とも強調。AIの研究開発段階では規制対象にしない考えを示し、利用の段階でのルールづくりを重視する。
 生成AIを巡っては、米マイクロソフトが投資するオープンAIがチャットGPTを開発。米グーグルなども研究開発を進める。ベステアー氏は米巨大IT(情報技術)企業に厳しい姿勢で知られる。「まだ調査段階」としつつも、チャットGPTなどがEUの競争法の規制対象になる可能性にも言及した。
 「生成AIが競争を阻害するケースがあった場合は(自社優遇などを禁じる)EUの『デジタル市場法』も適用できる」と主張した。有害情報の流布を防ぐことを企業に義務付ける「デジタルサービス法」の活用も検討課題とした。
 EU内でも、AI人材の確保を急ぐ。新たにAI技術などに詳しい専門人材を雇い、助言や調査を行う組織を準備していることも明らかにした。
 主要7カ国(G7)での共通ルールづくりにも期待感を表明した。EUとして独自規制を設ける一方で、他の国・地域との協調にも前向きな姿勢をみせた。

【クアッド、サイバー攻撃の情報共有 インド含め安保協力 首脳会合で合意めざす 対中国・ロシア、迅速な防御可能に】
 同じ25日の日経速報メールは次のように報じた。
 日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国は重要インフラ施設を狙ったサイバー攻撃の情報を共有する調整に入った。割り出した攻撃元や手法に関するデータを使って各国が迅速に防御態勢を整えられるようにする。外交的中立を掲げるインドを安全保障分野の協力に引き込む。
 5月下旬に豪州で開く日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」首脳会合での合意をめざす。ロシアがウクライナ侵攻でサイバー攻撃と通常兵器を組み合わせた「ハイブリッド戦」を展開し、対中国・ロシアの抑止でサイバー防衛の強化は急務となった。
 4カ国は2022年にまとめた首脳共同声明でサイバー分野の協力を拡充すると打ち出した。情報共有はその第1弾の具体策となる。
現代戦ではサイバー攻撃で社会システムを混乱させた後にミサイルなどの物理的な攻撃を仕掛けることが多い。ロシアによるウクライナ侵攻でも発電所や通信施設がサイバー攻撃の標的となった。
 日米豪印は重要インフラでサイバー攻撃の兆候や被害があった場合、各政府のサイバー部門が通報し合う体制をつくる調整を進める。インフラを管理する民間企業も含めて即時に情報共有する仕組みにする。
 サイバー攻撃は大量のデータを送りつけてサーバーを止める「DDoS」攻撃など手口が巧妙になっている。4カ国のいずれかを狙った攻撃元や手法が分かれば他の3カ国は防御態勢をとりやすい。米国は攻撃を受けると官民でシステムを守るソフトをつくる組織を設けている。
 4カ国の政府機関が調達するソフトウエアの安全基準作りも始める。セキュリティー管理システムやデータを暗号化する仕組みなどに共通の監査体制を設ける案がある。
 政府が導入するシステムに脆弱性があれば国全体のデジタル機能に影響が及ぶ恐れがある。日本は防衛機密を扱うシステムの一部で米国と安全基準を統一することで攻撃への対応力を高めている。この取り組みを4カ国に広げることを目指す。
一定の安全性を満たすソフトウエアを調達するサプライチェーン(供給網)を4カ国でつくれば、有事の際に融通しやすくなるとも期待する。
 インターネットのセキュリティーサービスを提供する「Nord(ノード)VPN」の調査によると、06〜21年に政府機関などを狙った重大なサイバー攻撃を受けた国のトップは米国で計198回にのぼった。
 2位は58回の英国で、32回のインドはそれに次ぐ3番目だった。豪州は22回、日本は16回といずれも標的となっている。こうしたサイバー攻撃は中国、ロシア、北朝鮮が絡んでいるとの分析がある。
 日本は22年末に改定した国家安全保障戦略に基づき、不審なアクセスなどをした攻撃元を見つけて事前に対処する「能動的サイバー防御」を導入する。他国と取り組みを共有すればサイバー防衛能力の向上につながるとも見込む。


 この間、下記の録画を観ることができた。 (1)BS世界のドキュメンタリー「中国-アメリカ ”新たな冷戦“を読み解く」2003年4月11日。 (2)BS6報道1930「ウクライナ<春の大攻勢>いつ どこに」12日。 (3)NHKスペシャル「半導体 大競争時代 第2回 日本は生き残れるか?」15日。 (4)BS6報道1930「機密流出で米州兵逮捕」17日。 (5)BS8プライムニュース「岸田首相襲撃事件 核超大国・中国の脅威と抑止戦略」17日。 (6)BS6報道1930「人類を救うか滅ぼすか 対話型AIが導く未来 チャットGPTの将来」18日。 (7)BS6報道1930「ウクライナ反転攻勢のカギ「戦車部隊長」を独自取材」19日。 (8)BS8プライムニュース「ワグネルトップの停戦案 露軍敗北言及にプーチンは?」20日。 (9)BS6報道1930「ウ軍反攻作戦は4段階、非公表兵器初投入か 空軍部隊キーウの幽霊」20日。 (10)BS6報道1930「ミサイル開発資金稼ぐ北朝鮮のハッカー集団ラザルスは何者か」21日。 (11)BS5日曜スクープ「戦勝記念日目前に戦力増強のロシア 財政悪化の奇策も」23日。 (12)BS6報道1930「6月解散・総選挙も? 統一地方選から見えた岸総理<胸の内>は」24日。 (13)BS8プライムニュース「与野党幹部が徹底討論! 選挙結果から見る政局への影響」24日。

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変わりつつある世界(3)

【お知らせ】これまで文章を補う図像類(写真、グラフ、図形等)を多用してきたが、本ブログの使用限度に近いところまで使い切ったため、残念ながら図像類の使用を極力控えることとします。

 前回の「変わりつつある世界(2)」は、2023年3月27日(月曜)までを取り扱った。図像類(WBCの写真や各種の図表等)が多かったため、掲載に時間がかかり、4月2日の掲載となった。そのギャップを補うため、その間の補足から始めたい。

【23年度予算成立 過去最大114兆円、防衛費GDP比1%超】
 3月28日午後の日経速報メールは次のように報じた。
 与党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計総額は過去最大の114兆3812億円となった。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ防衛費は6兆7880億円と国内総生産(GDP)比で1%を超えた。新規国債で歳入不足を穴埋めする構図が続く。
 岸田文雄首相は成立に先立つ参院予算委員会の締めくくり質疑で防衛力の強化を巡り「日本を取り巻く環境は極めて厳しい状況にある。いかなる事態にも対応できるよう、万全の態勢を期していくことが重要だ」と強調した。
 当初予算が110兆円を超えたのは初めて。23年度は22年度から6兆7848億円増えた。
 防衛費は22年度当初予算と比べて26%増え、予算全体を押し上げた。政府は5年間で従来の1.5倍の43兆円程度を充てる計画を掲げる。初年度にあたる23年度は前年度から1兆4192億円増額した。近年の前年度からの伸び幅は500億〜600億円程度にとどまっていた。
 相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」に活用する長射程ミサイルや艦艇などの購入にあてる。弾薬や装備品の維持整備など「継戦能力」の強化にも費やす。
 防衛費の財源を確保するため、自衛隊の隊舎などに初めて建設国債を使う。過去には海上保安庁の巡視船の調達に使った例はあるものの、防衛費にはあてていなかった。
 社会保障費は一般会計の3割にあたる36兆8889億円に膨らんだ。高齢化による医療や介護費用が増えて前年度から6154億円増となった。国債の元利払いに充てる国債費は25兆 2503億円で9111億円上振れした。
 地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増えて16兆3992億円となった。新型コロナウイルス対策の予備費も計上した。コロナ・物価高対策で4兆円を盛り込んだ。ウクライナ危機対策として1兆円を充てた。
 税収は69兆4400億円で過去最高となる見通し。歳出が拡大するのに伴い35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。歳入総額に占める借金の割合は31.1%と高い水準が続く。
 00年代半ばまでは2割台だった。リーマン危機後の09年度に4割近くに拡大し、それ以降は3〜4割台と高止まりが続いている。

【EU、エンジン車容認で合意 合成燃料限定で35年以降も】
 28日晩の日経速報メールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・2035年以降、エンジン車を全く認めない方針を転換
・水素とCO2でつくる合成燃料に限り利用可能
・普及にはコストや技術に課題が残る
【ブリュッセル=辻隆史】欧州連合(EU)は28日のエネルギー相理事会で、2035年にゼロエミッション車以外の販売を原則禁じることで正式に合意した。内燃機関(エンジン)車の新車販売を全て認めない当初案を修正し、温暖化ガス排出をゼロとみなす合成燃料の利用に限り販売を認める。
 自動車業界の主張を受けたドイツ政府の意見を踏まえてエンジン車の部分容認に方針転換した。EUは今後、合成燃料の利用に向けた制度設計に乗り出すが、燃料の基準や利用条件などを巡って難航する可能性もある。一方でEUはバイオ燃料を利用した車については35年以降の販売を認めない方針だ。
 エンジン車の販売禁止は昨秋に欧州理事会と欧州議会、欧州委員会が合意に達した。その後、フォルクスワーゲン(VW)など自動車大手を抱えるドイツが合成燃料の容認を強く主張し、内容の修正を迫られた。
 EUは50年までに域内の温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる。電気自動車(EV)への移行を進めるための目玉政策に例外を設け、エンジン車が併存する形となった。最終合意の手前でこれまでの協議内容を覆したドイツへの他国の反発は強く、今後の他の政策でのあつれきにつながるおそれもある。
 EU関係者は28日「EVへの移行をめざすEUの基本方針は変わらない。多くの自動車メーカーはEVを選んでいる」と語り、合成燃料を利用した車の販売は将来も一部にとどまるとの見方を示した。
 別の関係者は「合成燃料のみで車を走らせる仕組みをつくるには技術的な挑戦がいる」と述べ、関連産業全体の技術革新が必要になると指摘した。
 合成燃料は二酸化炭素(CO2)と再生可能エネルギーによる電気分解で得た水素からつくる。ガソリンと成分は同じだが、現状では生産コストが高く、乗用車向けで商用化されるかは見通せない。
 自動車メーカーではVWグループ傘下のポルシェが昨年末、チリで合成燃料の生産工場を稼働させた。日本のトヨタ自動車やホンダなども研究に取り組むが、コスト面などの課題は多い。
 日本の経済産業省の試算では、再生可能エネルギーが安い海外で製造すると1リットルあたり約300円、国内だと約700円でガソリン価格の2〜5倍に相当する。
 独ポツダム気候影響研究所の調査では、35年までに世界で計画されている合成燃料の工場は60カ所にとどまる。航空や船舶など早期の電動化が難しい移動手段で優先的に使われ、乗用車向けの供給量は限られるとの分析もある。

【英国がTPP加盟へ、発足国以外で初めて 31日に閣僚会議】
 29日の日経速報メールは次のように報じた。
 環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は英国の加盟を認める方針を固めた。31日にオンラインで閣僚会議を開き合意する見通しだ。発足時の11カ国以外で加盟を認めるのは初めて。日本やオーストラリア、シンガポールなどインド太平洋地域が中心だったTPPが、欧州も含めた経済圏に発展する。
• 【関連記事】TPP英国加盟の効果は 経済圏、インド太平洋から欧州にTPPは2016年2月に米国を含めた12カ国で署名したが、米国のトランプ前政権が17年に離脱を表明した。18年に11カ国が参加する自由貿易協定(FTA)として発効した。英国が21年2月に加盟国以外で初めて参加を申請し、6月に加入交渉の開始を決めた。
 協定の細部などを詰め、閣僚級が参加するTPP委員会を23年7月に開いて協定への署名を目指す。その後、各国が自国の議会での承認手続きなどをとることで、英国の加盟が実現する。
 英政府によると同国の加盟により、世界全体の国内総生産(GDP)に占めるTPP加盟国の合計額は12%から15%に拡大する。英国にとってTPP加盟は、欧州連合(EU)離脱後の外交方針である「インド太平洋地域への関与強化」の目玉政策の一つだった。
英国の加盟が認められればTPPの拡大に弾みがつく。21年9月には中国と台湾が参加を申請した。エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも申請している。
 今後は中国と台湾の申請をどう扱うかが焦点になる。中国は不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制などの問題も指摘される。日本やオーストラリアなどは新たに加わる英国とともに、TPPの協定の水準を高いまま維持できるよう中国を厳格に審査する構えだ。
 英貿易統計によると、英国の総貿易額に占めるTPP加盟国とのモノ・サービスの貿易比率は7%(21年)で、EU(44%)や米国(17%)と比べると大きくない。英政府は今後のアジアの経済成長を取り込み、得意とする金融や法律サービスの輸出が増やせれば英経済の成長への貢献度が増すとみている。
 英ビジネス・通商省の報道官は29日、日本経済新聞の取材に「英国はTPP加盟に向けて大きく前進しており、早期の協議終了を目指している」とコメントした。

【給付型奨学金、年収600万円まで 多子世帯などの中間層】
 同じ29日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は高等教育における返済不要の「給付型奨学金」と授業料減免の対象を多子世帯や理工農系の中間層に拡大する。両親と子2人の世帯の場合で年収380万円未満に限っている要件を600万円に引き上げる方向だ。
月末にまとめる少子化対策のたたき台に盛り込む調整に入った。
 子育てには高等教育にかかる費用が重荷との指摘がある。高校生の大学進学希望率は子どもが多い世帯ほど低い傾向がある。高等教育の負担軽減を少子化対策の柱のひとつにする。
 対象となるのは大学や短期大学、高等専門学校に通う理工農系や多子世帯の学生。いまの要件は両親と子2人で自宅以外から私立大に通う場合で年収380万円未満を基準とし、年収に応じて3段階の支給水準を定めている。
 たたき台は育児中の自営業者やフリーランス向けの経済支援も盛り込む方向だ。産前・産後に国民年金の保険料を免除する期間を現行の4カ月間から延長する。
 国民年金は月々の保険料を納めるのが経済的に難しい場合、全額や一部を免除する仕組みがある。自営の女性が出産する際は産前産後の保険料を全額免除し、その期間も納付したものとみなして老後の受給額に反映する。
 自治体独自の子どもの医療費助成に関する財政負担を軽減する方針の明記も検討する。現在は子どもの医療費を助成する自治体には国民健康保険の国庫負担分を減らし、過度な受診に歯止めをかける仕組みがある。この措置をやめて子どもへの助成を促す方向へ転換する。

【TPP英加盟でどうなる 経済圏、インド太平洋から欧州に】
 30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は31日、閣僚級が出席する会合をオンライン形式で開き、英国の加盟を認めると発表した。発足11カ国以外で初の新規参加国となる。TPPには中国や台湾も加盟を申請している。TPPはどんな自由貿易の枠組みで、今後、どういった展開が見込まれるのか。3つのポイントにまとめた。
・英国加盟でどうかわる?
・中台も参加を申請、今後どうなる?
・IPEFやRCEP、他の経済連携との違いは?
(1)英国加盟でどうかわる?
 TPPは11カ国が参加する自由貿易協定(FTA)の一つだ。FTAはお互いの関税をなくしたり、投資のルールを透明にしたりすることで貿易や投資を活発にする国・地域間の取り決めを指す。TPP加盟国は31日のオンラインの閣僚会議で、英国の加入交渉の「実質的な妥結を歓迎した」と明記した閣僚声明をまとめた。7月に開く予定の閣僚級の会合で協定への署名を目指す。
 TPPは2016年2月に米国や日本、オーストラリア、シンガポールなど12カ国で署名した。自由貿易に後ろ向きな姿勢を示してきた米国のトランプ前政権は17年に離脱を表明した。18年に11カ国が参加する形で発効した。
 英国の参加は、これまでインド太平洋を囲むアジア中心の構成だったTPPが欧州の先進国も含めた枠組みになる点で意義がある。英国にも、欧州連合(EU)離脱後に国際社会で存在感を示すうえでアジアとの連携を深めたい考えがあった。「インド太平洋地域への関与強化」は離脱後の目玉政策の一つだった。
 英国の加盟の合意は、自由貿易の枠組みを広げたい今の加盟国と英国の利害がうまく一致したと言える。
 英国が入ることでTPP加盟国の国内総生産(GDP)の合計額は11.7兆ドル(約1550兆円)から14.8兆ドルに増える。世界全体のGDPに占める割合は12%から15%に拡大する。貿易総額は6.6兆ドルから7.8兆ドルに増え、総人口は5億1000万人から5億8000万人ほどになる。
 TPP加盟国は31日にオンラインの閣僚会合を開き、英国の加盟を確認した
(2)中台も参加を申請、今後どうなる?
 TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイが加盟を申請している。悩ましいのは中国と台湾をどう扱うかだ。
 台湾統一を目指す中国と台湾の共存は難しい。加盟交渉をどう進めるかについて、現状では加盟国での共通認識はない。中国が先に参加すれば台湾が加わるのは困難になる。一方で台湾が先になれば中国が激しく反発するのは間違いない。
 参加国からは中国の巨大市場にアクセスしやすくなることに期待する声もあるが、日本やオーストラリアなどは慎重だ。各国の意見の集約は難しく、ある交渉関係者は「参加に向けた協議開始をできるだけ遅らせた方がいい」と話す。
 仮に協議に入ったとしても道筋は険しい。中国がTPPが定める厳しい自由貿易の基準を満たすのは難しいという見方が多い。TPPは国有企業の優遇策の縮小・撤廃、環境への配慮や労働者の保護をうたっている。こうしたルールを中国が本当に守れるのか、疑問に思っている参加国は多い。
 中国に関しては、不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制などの問題も指摘されている。日本などは透明性があり、厳しいTPPのルールを維持していくよう中国などについて厳格に審査する構えだ。
 離脱してしまった米国はどうなるのか。「当面は戻ってくることはないだろう」というのが多くの交渉関係者の見方だ。離脱を表明したトランプ政権は代わったが、今のバイデン大統領が支持基盤として重視する労働組合がTPP参加に反対している。野党の共和党にも否定的な意見が根強い。
(3)IPEFやRCEP、他の経済連携との違いは?
 TPPに「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」や「東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)」。経済連携の枠組みは、アルファベットをつなげたものが多く、違いがわかりにくい。どこに差があるのか。
 RCEPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国を中心に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する広域の枠組みだ。「Regional Comprehensive Economic Partnership」の頭文字をとってRCEPと呼ぶ。
 RCEP参加国のGDPの総額は世界全体の3割と、TPPより大きい。世界第2位の経済大国、中国が参加しているからだ。RCEPは中国が参加している唯一の大型自由貿易協定だ。ただ関税の削減率など自由化の度合いはTPPの方が高い。RCEPは品目数ベースで輸出入の91%にかかっている関税を段階的に撤廃する内容で、TPPは99%だ。
 IPEFは米国が主導して22年5月に発足を表明した新しい枠組みだ。日本やシンガポール、ベトナムなど14カ国が参加している。TPPを離脱した米国が、中国に対抗する経済圏をつくろうとして立ち上げた。自由や民主主義など共通の価値観をもつ陣営が連携し、サプライチェーン(供給網)などを構築する狙いがある。
 TPPとRCEPには参加していないインドが入っているのも特徴だ。世界全体に占めるGDP比は4割と、2つの経済枠組みより大きい。その2つと決定的に違うのは、関税の引き下げや撤廃などを指す「市場アクセス」を含んでいない点だ。米国への輸出を拡大したいASEAN諸国などにとっては、利点を感じづらいとの指摘がある。市場アクセスに代わるメリットを示せるかが重要になる。

【新東名に自動運転レーン、物流人手不足対応 24年度にも】
 同じ30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は2024年度にも、新東名高速道路の一部に自動運転車用のレーンを設置する。主に夜のトラックで完全自動に近い「レベル4」の実用化を想定する。少子高齢化で物流の人手不足が深刻になるのをにらみ、省人化技術を活用できる環境を整える。近くまとめるデジタルインフラの整備計画の柱に位置づけ、民間の開発を後押しする。
 自動運転はレベル1(自動ブレーキなどの運転支援)から5(完全自動)に分ける国際的な基準がある。国内で実用化しているのは、システムが運転を担い、必要に応じて手動に切り替えるレベル3までだ。
 地域限定など一定の条件の下で運転手が不要になるレベル4は4月施行の改正道路交通法で解禁になる。従来は短い距離の無人バスなどの実証実験にとどまってきた。
 実際に走れるインフラの目玉となる新東名のレーンは駿河湾沼津と浜松の両サービスエリア間の100キロメートル超にする方針だ。3車線で直線に近い道が長く続くため、導入しやすいと判断したとみられる。自動運転の専用か優先かは今後詰める。
等間隔に置いたセンサーやカメラなどで路面や車両の状況をリアルタイムで把握し、地図や3次元空間のデータベースと組み合わせて安全に走れるようにする。例えば落下物や障害物があれば検知して後続車も含め安全に減速・回避させる。
国土交通省と経済産業省、中日本高速道路などが23年中にセンサーなど必要な機器の設置の仕方や走行ルールを固める。山間地でも安定した通信環境が必要なため、総務省も民間事業者と連携して高速通信規格5Gのネットワークを拡充する。
 自動運転に対応した高速道路は、米ミシガン州などで構想段階にある。一般車も利用する100キロメートルを超えるようなレーンは実現すれば世界初とみられる。
 法制度やハードの整備が進むと、民間の開発が活気づく期待がある。神戸製鋼所と実証実験に取り組んできたUDトラックス(埼玉県上尾市)のダグラス・ナカノ最高技術責任者は「物流事業者の人 手不足の解消につながる。レベル4の大型トラック開発を急ぎたい」とコメントした。
 独ダイムラートラックホールディング傘下の三菱ふそうトラック・バスは既にレベル2相当のトラックを発売済み。レベル3はスキップして、需要が大きいとみるレベル4の発売を目指す。三井物産も26年度からレベル4の大型トラックを使った物流事業を始める計画を既に明らかにしている。
 自動運転の普及は物流の「2024年問題」への対策の一つでもある。24年4月からトラック運転手は年960時間の時間外労働の上限規制ができ、連続運転も4時間以内になる。人手を確保できずに業界全体で輸送量が減れば、日本経済の足かせになりかねない。
 高速レーンで安全な自動運転が実現すれば運転手が走行中に休憩を取れるようになる。労働時間の規制を守りつつ、輸送効率を落とさずにすむようになる可能性がある。(デジタル政策エディター 八十島綾平、清水直茂)

【フィンランドのNATO加盟確定 トルコ議会が批准】
 31日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【ブリュッセル=辻隆史、イスタンブール=木寺もも子】フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟が確定した。トルコ議会が30日に加盟を承認し、全30の加盟国の批准手続きが完了した。フィンランドはロシアのウクライナ侵攻を受けて長年の中立政策を転換する。
 同時申請したスウェーデンに先行して欧米の集団防衛体制に加わることが決まった。事務手続きを経て31カ国目として正式加盟する。
 NATOは陸海空、サイバー、宇宙など多分野で作戦能力を持つ。軍事同盟としてのNATOのあり方を定める北大西洋条約の5条は「締約国への武力攻撃を全締約国への攻撃とみなす」と明記する。加盟後はフィンランドへの攻撃に対しNATOが集団的自衛権を発動する可能性がある。
 フィンランドは昨年5月、スウェーデンと共に加盟を申請した。旧ソ連との戦争の歴史などを踏まえて保ってきた軍事的中立を破棄することになる。フィンランドはロシアと約1300キロメートルの国境線を有し、単独ではロシアの脅威から自国を守り切れないと判断した。
 フィンランドの加盟でNATOの安全保障体制は大きく強化される。同国は徴兵制で、数万人規模の常備軍に加え非常時の動員制度もある。加盟後はサンクトペテルブルクなどロシアの主要都市や軍事基地を他の加盟国と取り囲む形になり、ロシアに対して大きな圧力となる。
 NATOは欧州東部の防衛力を強化するため、多国籍の数千人規模の「戦闘群」と呼ばれる事実上の常設部隊を倍増し、ルーマニアやブルガリアなどに設置することを決定済みだ。今後はNATOとしてフィンランドでの防衛体制をどれだけ強化するかが焦点になる。
 ロシアの反発は必至だ。ロシア外務省はフィンランドがNATOに加盟すれば「対抗措置をとる」と警告してきた。
 同時に申請したスウェーデンについてはトルコとハンガリーが批准していない。トルコは北欧に拠点を置くクルド系活動家らをテロリストとみなし取り締まり強化を求めている。フィンランドの対応を評価してNATO加盟を認める一方、スウェーデンに対しては活動家の引き渡しなどを条件に保留している。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年9月にNATOへの加盟申請を正式表明した。ロシアとの戦時下にある同国の加盟にはNATO内で慎重意見が多く、実現のめどは立っていない。

【トランプ氏をNY州大陪審が起訴 米大統領経験者で初】
 同じ31日の日経速報メールは【ワシントン=坂口幸裕】によると、米ニューヨーク州の大陪審は30日、トランプ前大統領を起訴すると決めた。米主要メディアが報じた。不倫関係にあった女性に支払った口止め料を不正に処理した疑いがある。米メディアによると、大統領経験者が起訴されるのは初めて。2024年の次期大統領選への出馬をめざす前大統領にとって打撃になる可能性がある。
前大統領が勝利した16年の米大統領選の直前に側近を通じて過去に不倫関係にあった女性に口止め料を支払い、不正な会計処理をした疑惑だ。同氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が肩代わりし、前大統領が弁済する際に「弁護士費用」と虚偽の記載をした州法違反の疑いがある。
 ニューヨーク検察は30日、前大統領の弁護士に出頭を要請したと明らかにした。米メディアは来週前半にも出頭する調整をしていると伝えた。捜査を指揮したアルビン・ブラッグ検事は21年に民主党候補として当選した。前大統領の関連団体に対する訴訟や捜査にかかわった。
 前大統領はかねて関与を否定してきた。25日には南部テキサス州ウェーコで演説し、州検察当局などの捜査を「権力の乱用だ」と非難。「魔女狩りだ」とも断じ、バイデン政権が司法を武器に政敵を攻撃していると決めつけた。
 米紙ワシントン・ポストによると、現職・元職を含む大統領経験者が起訴されるのは初めて。過去に第18代大統領のグラント氏が1872年に首都ワシントンで馬車のスピード違反をして逮捕されたケースはあるという。
 前大統領は22年11月、野党・共和党候補として24年の次期大統領選に出馬すると表明した。20年大統領選でバイデン大統領に敗れた雪辱を果たすため、年明けから再選をにらんで重要州を中心に選挙活動を本格化させた。
 18日には自ら立ち上げたSNS(交流サイト)「トゥルース・ソーシャル」で支持者に「抗議し、国家を取り戻せ」と呼びかけた。熱狂的な支持層に団結を促し、検察当局に圧力をかける狙いがあったとみられる。
 米連邦議会の共和は反発する。下院共和トップのマッカーシー議長はツイッターで「司法制度が政敵を狙うために悪用されるのは許されない」と非難した。ジョーダン下院議員らは20日にニューヨーク州マンハッタン地区検察に抗議の書簡を送った。起訴は「類のない公訴権の乱用だ」と主張し、担当検事に議会での証言を求めた。
 今回の起訴とは別に、米連邦捜査局(FBI)は前大統領が機密情報を隠蔽した疑惑などで捜査している。スパイ活動法違反や捜査妨害の疑いがあるとみる。
 米国の法曹界では前大統領が起訴されたり、有罪判決を受けたりしても次期大統領選への出馬は可能だとの見方が目立つ。起訴や有罪は出馬を制約すると明記していないためだ。
 前大統領起訴の報道が流れた直後の30日午後6時半ごろ(日本時間31日朝)、マンハッタン地区検察前にはメディアや近隣の住民が詰めかけた。トランプ氏支持の抗議活動や暴動はなく静かな様子で、「時は来た。トランプは有罪」と書いた幕を掲げる反トランプ派グループの姿もあった。
 近くに住む女性(20)は「起訴と聞いて走ってきた。権力のある人物なので、実際に起訴されることを知って驚いた」と話した。

【半導体装置23品目規制 中国への輸出、先端品難しく】
 同じ31日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は31日、先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えると発表した。中国向けの輸出が難しくなる。米国がスーパーコンピューターや人工知能(AI)に使う先端半導体の製造装置などで中国向けの輸出を厳しく制限しており、日本も足並みをそろえる。各国の産業競争力や安全保障を左右する半導体分野で世界の分断が深まってきた。
 日本は外為法に基づき、武器など軍事向けに転用できる民生品の輸出を管理している。政府は外為法の省令を改正し、23品目を輸出管理の対象に追加する。輸出に経済産業相の事前の許可が必要になる。
 省令改正に向けて31日にパブリックコメントの募集を始めた。改正は5月の公布、7月の施行を予定する。
 省令改正では中国など特定国・地域を規制対象として名指ししない。西村康稔経産相は同日の閣議後の記者会見で「特定の国を念頭に置いたものではない」と話した。ただ、追加される23品目は友好国など42カ国・地域向けを除いて個別許可が必要になり、中国などへの輸出は事実上難しくなる。
 23品目には極端紫外線(EUV)関連製品の製造装置や、記憶素子を立体的に積み上げるエッチング装置などが含まれる。演算用のロジック半導体の性能では、回路線幅10〜14ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の先端品の製造に必要な装置だ。
東京エレクトロンやSCREENホールディングス、ニコンなど10社程度が影響を受けるとみられる。西村氏は企業業績への打撃に関し「全体としての影響は限定的だ」と説明した。
 米国が2022年10月に導入した規制は14〜16ナノメートル以下のロジック半導体の製造などに必要な装置や技術を米商務省の許可制にした。事実上、輸出を禁じることになった。米国は半導体製造装置に強みをもつ日本とオランダにも同調するよう求めてきた。日本は「独自措置」(経産省幹部)としつつも足並みをそろえる。
 オランダのスフレイネマーヘル外国貿易・開発協力相は、半導体の輸出規制について「夏前にも輸出制限の対象を広げる」と話す。オランダは既にEUV露光装置の輸出を制限しており、最先端ではない深紫外線(DUV)露光装置の一部も輸出規制の対象に加える考えだ。
 世界の半導体製造装置市場は首位の米アプライドマテリアルズ、2位のオランダのASML、3位の東京エレクトロンなどが競り合う。日本とオランダが米国と協調することで、先端半導体分野で民主主義陣営と中国との分断が鮮明になる。
日本が新たな規制を導入すれば中国が対抗措置をとるリスクがある。中国は22年12月、世界貿易機構(WTO)に対し、米国の先端半導体を巡る対中出規制が不当だと提訴した。

【「影の金利」米国で2%弱、インフレ再加速を警告】
 4月2日の日経ニュースメールは次のように報じた。 
【この記事のポイント】
・量的緩和を勘案すると実際の政策金利を下回る
・景気抑える効果は限定的、インフレが再加速も
・金融不安への対応とバランスが問われる局面に
 米連邦準備理事会(FRB)による金融政策のかじ取りが難しさを増している。インフレ抑制のために利上げを続ければ金融不安を強めかねず、バランスが問われる局面に入ってきた。総合的な引き締め度合いを試算した「影の金利」は政策金利で2%弱と実際の4.75〜5%に比べて低く、インフレが再加速するリスクを警告している。
 金融不安がFRBの政策にもたらす影響について市場関係者の意見が割れている。
「信用供与は減少し、利上げ停止の圧力となる」(米調査会社ムーディーズ・アナリティクス)などと、銀行の融資減少が引き締め効果を生むとの観測が強まった一方、インフレ圧力の強さを重視し「景気後退に入ってもインフレとの戦いは終わらない」(米運用会社ブラックロック)とみる見解もなお有力だ。
 どちらが正解か。手掛かりとなるのが「影の金利」と呼ばれるものだ。政策金利の上げ下げだけでなく、国債などを購入して中長期の金利を抑える量的緩和も含めた緩和効果をみる。
 FRBは1年で4.75〜5%まで歴史的な速度で政策金利を引き上げてきた。対照的に、新型コロナウイルス禍への対応で米国債などを買い入れて約9兆ドル(約1200兆円)に膨らませた総資産の縮小はゆっくりとしたものだ。一時は8.3兆ドルまで減ったもののコロナ前の4兆ドルに比べ2倍以上の規模がある。国債を買って金利を抑える目的ではないが、3月には預金流出に苦しむ銀行への資金供給を増やし、総資産は8.7兆ドルに戻ってしまった。
 野村証券がバーナンキFRB元議長による分析手法を使い「影の金利」を算出したところ、1.7%程度と5%程度の政策金利を大きく下回ることがわかった。国内総生産(GDP)の10%に相当する米国債を買うと長期金利を0.82%押し下げるという相関を適用したうえで、15年以降の長期金利と政策金利の関係も加味して計算した。
 足元の金融不安の影響もしらべた。シカゴ連銀が算出するマネーの逼迫度合いを示す金融環境指数が悪化しており、3月の悪化幅からみると単純計算で0.6%程度の利上げに相当する。「影の金利」の1.7%程度に合計しても2.3%程度にとどまる。
 インフレ率やGDPギャップなどから適正な政策金利水準を導く「テイラー・ルール」が示唆する水準は7.8%だ。野村の小清水直和氏は「経済全体では実質的に緩和的な金融環境が続いているような状態で、現状の金利水準では景気を抑える効果が限られる」と指摘する。
 米国のインフレ圧力は強い。2月の米消費者物価指数(CPI)はエネルギーと食品を除くベースで前年同月比5.5%の上昇と、上昇率は5カ月連続で鈍化した。だがその中身をみると、ほとんどの項目で上昇が続く。
 みずほリサーチ&テクノロジーズがCPIを「自動車」「自動車以外のコア財」「家賃」「家賃以外のコアサービス」に分類したところ、前年比で下落に転じたのは自動車のみにとどまる。自動車以外の財は上昇が続き、サービスの上昇率は5.3%と4カ月連続で加速した。みずほリサーチの小野亮氏は「インフレ定着の可能性が色濃く残存している」と指摘する。
 米国の中堅・中小銀行からは預金が流出した。一見、マネーは収縮しているようにみえるが、大半は大手銀などに移っただけで「経済全体でみると潤沢」(大和証券の山本賢治氏)。政府がコロナ対策で配った給付金による家計貯蓄も残り、消費を支えている。FRBが引き締めの手を緩めればインフレの火を消せない危うさをはらむ。(犬嶋瑛、佐藤俊簡、グラフィックス 佐藤季司、映像 箕輪将人)

【人口首位インドを待つ「成長の罠」 人材投資で変わる未来 人口と世界 逆転の発想(1)】
 4月3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・インド3世紀ぶり首位、中国は61年ぶりに減少
・中国のように中所得国のまま停滞する可能性も
・大胆な規制緩和や人的資本の蓄積が成長のカギ
インドの人口が中国を超え、3世紀ぶりに世界首位となった。グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)の盟主を目指すインドだが、将来人口減少に直面し経済が停滞する成長の罠(わな)に陥る可能性もある。持続的な成長のカギを握るのは人材への投資だ。

インド3世紀ぶり首位、中国61年ぶりに減少
 「人類の4分の3が私たちの国々で暮らす。同等の発言権を持つべきだ」。1月、世界の3分の2の125カ国が参加した「グローバルサウスの声サミット」で、インドのモディ首相は野心をのぞかせた。
 サミットを欠席した中国は5日後、61年ぶりに人口が減ったと発表した。2022年末の人口(外国人除く)は14億1175万人と23年1月時点のインド(14億2203万人、国連推計)を下回った。中印の首位交代は3世紀ぶりだ。
 中国は少子化と並行して急成長を遂げた。「一人っ子政策」など人口抑制政策を1970〜80年代に打ち出し、6を超えていた合計特殊出生率は急落。2020年に1.28まで減った。働く世代の比率が高まって人口ボーナスが始まり、所得水準は1980年から30年間で13倍に高まった。
 だが中国は中所得国のまま足踏みしている。22年の1人あたり名目国民総所得は1万2608ドル(約170万円)で、世界銀行の高所得国の基準(1万3205ドル超)に達しなかった。
 人口減が始まった中国では働き手不足が加速する。ゴールドマン・サックスによると中国の潜在成長率は2010年代の7.7%から30年代には2.5%まで下がる。「鈍化の大部分は人口動態要因による」という。
 インドも中国の後を追わないとは限らない。インドの所得水準は依然、中国の6分の1にとどまる。国連によると出生率はすでに2.0まで低下し、60年代半ばに人口減に転じる。豊かになる前に高齢化し、中所得国のまま停滞する「中所得国の罠」に陥りかねない。
 大胆な規制緩和や人的資本の蓄積で再成長
 いかに罠から抜け出すか。かつて飢饉(ききん)や高い失業率で「欧州の病人」と呼ばれたアイルランド。国外への人材流出で人口は激減した。バイデン米大統領ら世界でアイルランド系が多いのはこのためだ。
 80年代の所得水準が米国の半分だったアイルランドだが、大胆な規制緩和と減税で外資誘致に踏み切った。「最大の力点は教育」(メアリー・ロビンソン元大統領)で、教育無償化で人的資本の蓄積に注力した。政府支出に占める教育や研究開発の割合は13%と日本の8%を大きく超える。この結果、IT(情報技術)大手が競って拠点を設け、対内直接投資は30年間で30倍以上に増えた。
「ケルトの虎」。病から脱して高成長したアイルランドはこう呼ばれるようになった。08年の金融危機も乗り越え、21年の1人当たり名目国内総生産(GDP)は10万ドルと日本(3.9万ドル)だけでなく米国(6.9万ドル)も超えた。国民の国外流出を移民流入が逆転し、1990年から30年間で人口は4割増えた。
 インドの大学進学率は31%で先進国との差は大きい。教育だけでなく、高度な人材が能力を生かせる職場も増やさなければ、頭脳の国外流出が進むだけだ。
 日本はどうか。高度成長後の持続的な発展モデルを見いだせていない。日本のGDPは世界3位だが、ドイツに肉薄され、国際通貨基金(IMF)によると27年にもインドに抜かれる。
 人口減少と停滞にどう立ち向かうか。先進国も成長を続ければ人は増えるというデータがある。
経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国では過去20年、成長率の高い国は人口が増える傾向があった。所得の上昇で生活が安定すれば出生率も上がり、移民も訪れる国になる。
 人材への投資で生産性向上や技術革新を促し、成長を生み出すことが人口減対策にもつながる。停滞を打破するには今までと異なる発想で課題を解決する必要がある。

【10兆円ファンド、東大は脱炭素を強化 東北大は量子技術】
 4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 文部科学省は4日、政府が創設した10兆円の「大学ファンド」の支援対象に10校が申請したと発表した。東京大は脱炭素、東北 大は量子技術などの研究に力を入れる計画だ。各大学は認定によって成長分野を強化し、国際競争力を高める狙いがある。
 永岡桂子文科相は4日の閣議後の記者会見で「多くの大学から申請があり、大学ファンドへの大きな期待を感じる。既存の取り組みの延長ではなく世界最高水準の研究大学の実現に向けた挑戦的な計画になっているか丁寧に審査する」と述べた。文科省幹部は「世界と肩を並べるハードルは高く、申請は5校程度と見込んでいた。競争が大学全体の改革に波及してほしい」と期待する。
 大学ファンドは公募で選んだ数校を「国際卓越研究大学」と認定し、株式や債券の運用益で助成する。運用益の目標は年3000億円で、仮に5校に分配すれば年間の支援額は1校あたり600億円になる。助成の期間は最長で25年間とした。
公募期限の3月末までに申請したのは国立が東京科学大(東京工業大と東京医科歯科大が2024年度中をめどに統合)、名古屋大、京都大、東大、筑波大、九州大、東北大、大阪大の8校、私立は早稲田大と東京理科大の2校だった。
 東大は21年度の収入が国からの運営費交付金や授業料などで2887億円だった。認定校になれば事業規模が大きく膨らむ。海外と比べて弱い事務スタッフの体制を充実させ、支援するスタートアップ企業の数を10年後をめどに10倍に増やすという。
 10年間で組織改革を進め、脱炭素やバイオの研究成果につなげる。太田邦史副学長は「情報や人工知能(AI)も頑張ってきた分野だが、日本全体の予算が伸び悩んでいる。東大の強みである物理や天文学とともにレベルを高めたい」と意気込む。
東北大は次世代放射光施設「ナノテラス」を拠点に半導体や量子、材料科学に力を入れる。東京科学大は統合する両大学の強みを生かした「医療工学」による高齢化社会の課題解決を掲げる。
 東京理科大は「未来都市」「未来生活」に関する2つの拠点を創設。分野横断型の研究を発展させる。データサイエンスを基盤とした都市防災や脱炭素、先端医療やヘルスケアなどを強化する。
 文科省も国際卓越研究大学が強化する分野の具体例としてAIやバイオ、量子技術などを示している。応募した各大学も経済成長につながる理系分野の強化を念頭に置いているとみられる。
 23年秋ごろに選ばれる最初の認定校は数校とされ、1〜2校にとどまるとの見方もある。文科省は「世界最高の研究大学になる変革の姿勢を重視する。審査のハードルは高い」と説明。同省がまとめた選考方針や他大学の動きを踏まえ、今回の申請を見送った大学もある。
 申請した国立大の幹部は「世界で生き残るためには海外大学に負けない投資が必要。厳しい選考だが手を挙げない選択肢はない」と語る。
 政策研究大学院大の隅蔵康一教授(科学技術政策)は10校が名乗りをあげたことについて「巨額支援を起爆剤に国際競争力を高めたいという危機感が表れている。2回目の公募を視野に初回からチャレンジした大学もあるだろう」とみる。
 日本の研究力低下は深刻さを増す。文科省科学技術・学術政策研究所によると、他の論文に引用される注目度の高い論文数は1998〜2000年は米国などに次ぐ世界4位だったが、18〜20年は中国、インド、韓国に抜かれ12位に落ちた。
 デジタルやAIなど成長分野での出遅れは大きい。政府は世界最高水準の研究環境整備を成長戦略の要に位置づけており、認定校を中心に挽回できるか問われる。認定校は法人トップの選任など重要事項を決める合議体を設ける。ガバナンス(統治)改革が実効性を伴うかどうかも課題となる。
 審査は文科省が設ける専門家組織が担う。同省は審査でこれまでの研究実績だけでなく「意欲的な財務戦略」を重視する。認定校は大学の支出額ベースで年平均3%程度の規模拡大が求められる。同省幹部は「どのように成長するかの戦略を見定めたい」と 強調する。
 戦略でポイントになりそうなのが外部資金の獲得方法だ。海外の有力大は独自基金の運用益を活用し、成長分野への投資につなげている。米ハーバード大は4.5兆円規模の基金があり、収入の4割を運用益が占める。
 日本の大学は外部資金を集める力が弱い。20年度の独自基金は比較的規模が大きい慶応大でも870億円だった。自由度の高い資金が豊富にないため、研究設備の投資やトップレベルの研究者の奪い合いで海外から出遅れがちだ。大学ファンドによる助成を成果につなげ、外部資金を呼び込む好循環を実現する必要がある。
 ファンドの運用には不透明感もある。大学ファンドは22年3月、5兆円規模で科学技術振興機構(JST)がグローバル債券などで運用を始めたが、22年4〜9月の運用収益率はマイナス3.67%だった。助成の原資を想定通りに確保できるか懸念する見方もある。

【メタが生成AIを年内商用化 CTO表明、広告画像に活用】
 5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 米メタ(旧フェイスブック)は5日、文章や画像などを自動的に作る生成人工知能(AI)を年内に商用化する方針を明らかにした。同社は2013年にAIの研究に本格的に着手し、論文の引用数などで米グーグルに次ぐ地位を占める。グーグルなども商用化の方針を示しており、米テクノロジー大手の相次ぐ参入で普及に弾みがつきそうだ。
 来日したメタのアンドリュー・ボズワース最高技術責任者(CTO)が日本経済新聞とテレビ東京の単独インタビューに応じ、生成AIを中心とするAI分野の戦略を説明した。同社は2月、生成AIの開発組織を新設すると発表したが、商用化の時期を示すのは今回が初めてとなる。
 商用化については「いくつかは年内に目に見える形になる」と言明した。具体的にはメタの収益の柱である広告事業で、「(生成)AIを活用して画像を作ることにより、(広告主は)時間や費用を大幅に節約できる」と話した。SNS(交流サイト)のフェイスブックや画像共有アプリのインスタグラムなど、すべての製品・サービスに応用する考えだ。
 注力している臨場感が高い仮想空間、メタバースにも活用する。ボズワース氏は「コンピューターグラフィックスの知識がなくても3次元空間を構築できるようになり、(メタバース上の)コンテンツ作成に多くの人がアクセスできるようになる」と述べた。
 メタは13年にこの分野の第一人者である米ニューヨーク大学のヤン・ルカン教授を招き、AIの研究所を設けた。オランダのAI関連企業、ゼタ・アルファが22年のAIに関連する主要な論文の引用数を調べたところ、米グーグルに次ぐ2位につけていた。
 ボズワース氏は同社のAI研究・開発体制について「研究部門だけで数百人が在籍している」と明かし、「世界でも有数の先進的な体制だ」と指摘した。米スタートアップのオープンAIが生成AIの商用化で先行したことについて、「(基盤となる)大規模言語モデルの開発に使う技術の相当数は当社が開発したものだ」と主張した。
 生成AIはオープンAIが22年11月にChatGPT(チャットGPT)の提供を始めたことで関心が高まり、同社の技術は米マイクロソフトが検索や企業向けのクラウドコンピューティングサービスなどに組み込んでいる。傘下に有力AI企業の英ディープマインドを持つグーグルも今年に入り、商用化の方針を示した。
 生成AIは業務効率化などへの期待が高い一方、「人類が文明を制御できなくなる」といった批判や警戒もある。バイデン米大統領は4日、ホワイトハウスで開いた会議で「企業は製品の安全性を確認してから一般公開する責任がある」と指摘した。
非営利団体の米フューチャー・オブ・ライフ・インスティチュートは3月22日、開発を少なくとも半年にわたって中断することを求める署名活動を始めた。米起業家のイーロン・マスク氏らが賛同している。
 ボズワース氏はこうした取り組みに対して「反対だ」と明言した。生成AIについて「責任ある開発が重要で、当社はそのようにしてきた」と述べるとともに、「技術はその進化を理解したうえで保護したり安全にしたりする必要があり、(開発の一時中断は)非現実的であり、効果的でもない」と指摘した。(シリコンバレー支局 奥平和行)

【米下院議長、台湾総統と会談 「絆は過去最高に強い」】
 6日の日経ニュースメールは次のように報じた。
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は5日、訪問中の米西部カリフォルニア州で共和党のマッカーシー下院議長と会談した。マッカーシー氏は「これほど我々の絆が強かったことはない」と語り、超党派で台湾を支援する方針を伝えた。中国側が反発し、米国との対立が一段と深まる恐れがある。
 両氏はロサンゼルス郊外の「レーガン大統領図書館」で会談した。会談後にマッカーシー氏と蔡氏は並んで声明を読み上げた。
マッカーシー氏は「台湾市民と米国民の友好は自由主義世界にとって極めて重要だ」と指摘。「それは経済的な自由、平和と地域の安定を維持するために不可欠だ」と言明した。「台湾は成功した民主主義で経済は繁栄し、ヘルスケアや科学では世界のリーダーだ」と持ち上げた。
 会談に関し「共和党と民主党が結束した超党派の会談だ」と言及し、長期的な支援を約束した。会談には下院中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党)やラジャ・クリシュナムルティ筆頭理事(民主党)らが参加した。
 蔡氏は中国を念頭に「我々が維持してきた平和や必死に築いてきた民主主義が前例のない挑戦に直面していることは自明だ」と述べた。レーガン元大統領が掲げた「力による平和」に触れて「私たちは協力するともっと強くなれる」と力説した。「台湾は孤立していない」と繰り返し、防衛や貿易、経済で米台協力の拡大を訴えた。
 レーガン政権は1982年、台湾への武器売却について中国と事前協議しないことなどを定めた「6つの保証」を台湾に伝え、米台の安保協力の柱とした。そのレーガン氏をたたえる地で会談し、米国による台湾支援の強化を印象づけた。
共和党のマッカーシー氏は対中強硬派として知られる。かねて台湾訪問に意欲を示してきたが、米中対立が深刻になるなか台湾 訪問そのものは先送りした。蔡氏は国交のある中米2カ国の歴訪から台湾に戻る「経由地」として米西海岸に立ち寄った。
 会談に先立って米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は5日、記者団に中国をめぐり「攻撃的なやり方で反応したり、過剰反応したりする理由はない」と重ねて強調した。
 一方、中国側の反発は強い。下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次ぐ2位。これほど高位の米政治家と台湾との接触は、中国本土と台湾は不可分の領土で台湾は中国の一部だという中国の主張「一つの中国」原則に反すると非難している。
2022年8月に当時のペロシ下院議長(民主党)が台湾を訪れて蔡氏と会談した際は、中国は対抗措置として台湾を取り囲むような大規模な軍事演習で威嚇した。日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルも撃ち込んだ。
 すでに中国の戦闘機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を頻繁に越えるようにもなっている。中国側が今回の会談に乗じ、現状を変更して「新常態」をつくりだす試みを加速する可能性がある。
 蔡氏は今回の中米歴訪の往路で「経由地」として米ニューヨークに立ち寄り、保守系シンクタンク、米ハドソン研究所からグローバル・リーダーシップ賞を授与された。

【ChatGPT、何が問題か 元グーグル社員「非常に無責任で無謀」】
 6日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
  「ChatGPT(チャットGPT)」など、高度な人工知能(AI)に対する懸念の声が強まっている。イーロン・マスク氏ら著名な起業家や学者が開発の停止を求めたり、プライバシーの面からイタリア政府が使用を一時的に禁止したりする動きも出てきた。何が問題の根底にあるのか。元グーグル社員でAIが社会に与える影響を研究し、警鐘を鳴らしてきたメレディス・ウィテカー元ニューヨーク大研究教授に聞いた。

監視によるデータ集中が生んだAI
 ――マイクロソフトが出資する米オープンAIの「チャットGPT」など、高度なAIの開発や、サービスの利用停止を求める動きが出てきています。何が問題なのでしょうか。
 「倫理的な面でたくさんの懸念があります。一番問題なのは、世界で数えるほどの企業だけが、これらのAIを開発し、提供するリソースを持っているということです。中立的でもなければ、民主的でもない。究極的には、彼らの利益につながるようにつくられています」
 「こうした企業は、膨大なデータとクラウド設備、そして(米グーグルの)Gメールや(米メタの)フェイスブックを通じてデータを抽出し続けるための巨大な消費者市場を持っています。いま話題のAIは、こうした資源と権限の集中の結果として生まれてきたもので、技術的な革新の成果ではありません。しかし、『魔法みたい』『人間より賢い』『いろんなことに使える』という誇大宣伝が、正確性も安全性もわからない実験的な技術を、正当化することに利用されています」
 ――なぜ、一握りの企業だけに集約されてしまったのでしょう。
 「インターネットのビジネスモデルを早い時期に確立したのが、これらの会社だったからです。要するに、監視ビジネスモデルです。例えばGメールやフェイスブック。ここから集められた大量のデータがデータセンターに集約された。その膨大なリソースが、2010年代の初期にこういう大企業のものになったことが、いまのAIにつながっています。つまり、AIというのは監視モデルの延長線上にある。技術的な飛躍というよりも、権限の集中の結果であるといえます」
 ――「人間より賢い」ようにみえるAIの登場によって、その権限集中はどう変わるでしょうか。
 「独占的な巨大IT企業が監視によって得たデータを、広告によって収益化する。その収益によって高いインフラの費用をまかない、データを集約してAIをトレーニングする。この構造はいままでと変わりません。一方で、このAI自体が、独自の監視機能を提供することができるようになります。従来のような、例えば私の位置情報とか、そういうものではなく、もっと内面的な、推論的な形で、私について明らかにすることができます。AIと監視モデルの関係は、さらに強まる恐れがあります」
「世界の全人口を実験台として利用」
 ――オープンAIはチャットGPTを一般公開し、出資するマイクロソフトは検索サービスなどにも利用を広げています。社会への影響が見えない段階で公開すべきではなかったのでしょうか。
 「非常に無責任な行動だと思います。無謀な行いです。検索に組み込むというのは、AIのためにデータを提供した情報源に対しても不誠実な行動だと思います。一部の大企業の決定によって生じる問題の後片付けをしなければならなくなるのは私たちの社会です」

【フランス、中国から航空機160機受注 首脳訪問中に合意】
 6日の日経ニュースメール【ジュネーブ=北松円香】によると、フランス大統領府は6日、航空機の160機の受注やフランス産の豚肉など農産品の輸出拡大で中国と合意したことを明らかにした。マクロン大統領の訪中には仏大手企業のトップら50人あまりが同行している。政府主導で自国産業の中国市場での事業拡大を後押しする。
 両国は6日、マクロン氏と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席の立ち会いの下で経済協力協定を結んだ。航空宇宙や原子力発電の分野で協力を深めるほか、温暖化ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの拠点を共同で建設する。
 フランス側の発表によると、仏航空機大手エアバスが中国航空器材集団から160機を受注する。仏電力公社EDFと中国国有の国家能源投資集団は海上風力発電の分野で協力する。
 マクロン氏は5日、中国の在留フランス人に向けた演説で「訪問中に重要な契約がいくつか締結される」と述べた。「中国が毎年生み出す富は欧州連合(EU)加盟国の合計よりも多い」と中国市場の大きさを強調した。
 訪中にはエアバスのギヨム・フォーリ最高経営責任者(CEO)、仏タイヤ大手ミシュランのフロラン・メネゴーCEOらが同行した。フランス側は農産物の輸出拡大も優先議題の一つと位置づける。
 フランスの国別の貿易収支は中国との赤字が最大だ。赤字額は年々膨らみ2022年は489億ユーロ(約7兆円)に達した。家電や携帯電話、衣類など消費財の多くを中国からの輸入に頼っており、輸出品の拡大が課題となっている。
 仏大統領府の関係者は「中国と分断するつもりはまったくない」と言い切る。自動車メーカーのルノーが中国の浙江吉利控股集団と合弁会社設立で合意するなど、仏企業も中国市場への傾斜を強める。
 19年3月に習氏がフランスを訪問した際はエアバス機300機を含む総額400億ユーロ相当のビジネス契約が結ばれた。同年11月のマクロン氏の訪中では、中国が鶏肉などフランスの農産品を大量に輸入することで合意した。

【トヨタ、26年までにEV年150万台販売 米国で生産も】
 7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は7日、2026年までに電気自動車(EV)を新たに10モデル投入し、世界販売を年間150万台にすると発表した。22年のEV販売実績は2万4千台で、そこから4年で60倍以上の規模になる。米国で25年から現地生産するとも明らかにした。
同日、都内で「新体制方針説明会」を開いた。1日に就任した佐藤恒治新社長に加え、中嶋裕樹氏、宮崎洋一氏の両副社長が登壇した。
 トヨタのEV戦略はこれまで「30年に販売350万台」と30車種の投入を掲げており、その途中経過を示した形だ。次世代EVの専門組織を新設し、開発コストを減らしていく方針も明かした。
地域別のEV戦略では米国で3列シートの多目的スポーツ車(SUV)を現地生産するとした。既に明らかにしているEVで中核となる電池の工場の新設でも、生産を増強していく方針を示した。
 中国では24年に現地開発モデルを2車種追加するとした。先進国では22年に初の量産EVとして発売した「bZ4X」をはじめとした「bZ」シリーズの性能強化やモデル数の拡大に務める。新興国ではピックアップトラックや小型車も出していく。
 佐藤氏は新体制のテーマについて「継承と進化」と話した。ハイブリッド車(HV)のほか、FCV(燃料電池車)や水素エンジン車も含めた「全方位戦略」を進める点は堅持する。一方でEV戦略も加速する。FCVでは商用車を中心に進めていく。
佐藤氏は新たに「トヨタモビリティコンセプト」も発表した。クルマ、モビリティー、社会システムの3点から「価値の拡張」などを訴えた。クルマの価値はEVの活用のほか、コネクテッド、「アリーン」と呼ぶ、次世代車の安全制御機能などを一括で動かす車載用の基盤ソフトについて触れた。
 モビリティーについては空飛ぶクルマや小型EVなどの普及を掲げた。社会システムでは静岡県裾野市で建設中のスマートシティ「ウーブン・シティ」内での実証実験について言及した。佐藤氏は「クルマの進化の先にモビリティーがある」と話した。

【維新、関西で勢力伸ばす 大阪ダブル選・奈良知事選制す】
 9日夜の日経速報メールは次のように報じた。
第20回統一地方選は9日、9道府県知事選や6政令市長選など前半戦が投開票された。地域政党の大阪維新の会は大阪府知事選と大阪市長選を制したほか、奈良県知事選も日本維新の会公認候補が当選。大阪以外で初めて維新公認知事が誕生する。保守勢力が分裂した徳島県知事選は後藤田正純氏が現職らを破り、初当選を決めた。
 大阪府知事選は大阪維新代表で現職の吉村洋文氏が、非維新勢力が推す新人の谷口真由美氏らをくだし、再選した。大阪市長選も大阪維新が擁立した新人で元府議の横山英幸氏が、非維新勢力が支援した北野妙子氏らを破り初当選。前回に続いて維新がダブル選に勝利した。
 奈良県知事選でも維新公認の新人で元同県生駒市長の山下真氏が、新人で元総務省課長の平木省氏、現職の荒井正吾氏といずれも自民党系勢力が支援した2候補を破った。
 維新は2011年から大阪府知事と大阪市長の両ポストを得てきた。9日投開票の大阪府議選では過半数を確保し、市議選でも確実にした。国政の議席では自民が他党を圧倒しているものの大阪を中心とする関西圏では様相が異なる。
維新の強さの背景にあるのが自民党が得意とする地方組織づくりだ。「地方議員・首長・国会議員」による政党の基盤を大阪で確立してきた。
 大阪府内で国会議員を増やし、府議会でもこれまで過半数の議席を確保していた。すでに全国で450人ほどの地方議員を抱える。維新はこの統一地方選で600人を目標とする。
 次期衆院選に向けた一定の基盤を確保したともいえる。今回、維新は「大阪都構想」を掲げていない。大阪に特化したこれまでの看板政策を掲げないことで関西圏や全国での勢力拡大に弾みを付けた。
 法政大の白鳥浩教授は「統一地方選は生活に身近な争点が問われる。新型コロナウイルス対策など維新が大阪で訴えた政策が、他の地域でも受け入れられている」と話す。
 奈良県と同様に保守系が分裂した徳島県知事選は後藤田氏が接戦を制した。後藤田氏らから多選との批判を受けた現職・飯泉嘉門氏の6選はならなかった。
 知事選で唯一、国政の与野党が全面的に対決する構図となった北海道は自民、公明両党が推薦する現職の鈴木直道氏が再選を決めた。立憲民主党などが推薦する新人で、元衆院議員の池田真紀氏との事実上の一騎打ちに勝利した。
 現職の退任に伴い新人同士の一騎打ちとなった大分県知事選は自公が支援した元大分市長の佐藤樹一郎氏が、共産党や社民党が支援する元参院議員の安達澄氏を破った。
 与野党相乗りの構図となった福井、神奈川、鳥取、島根の4県はいずれも現職が勝利した。鳥取の平井伸治氏は5選、神奈川の黒岩祐治氏は4選、島根の丸山達也氏と福井の杉本達治氏は再選となる。
 大阪市以外の5政令市長選のうち、札幌、相模原、広島の3市は現職が勝利した。いずれも新人同士が戦った静岡市と浜松市は それぞれ元副知事の難波喬司氏、元総務省課長の中野祐介氏が当選を決めた。
 9日は41道府県議選、17政令市議選も投開票された。道府県議選は自民党の公認候補が改選定数の過半数を確保した。
統一地方選の後半戦として4月23日に市区町村長・市区町村議選が予定されているほか、衆参5つの補欠選挙も同日投開票される。

【米テスラ、中国で蓄電池工場 規模は米国の工場に匹敵】
 9日晩の日経ニュースメール【上海=若杉朋子、ニューヨーク=堀田隆文】によれば、米電気自動車(EV)大手のテスラは中国・上海市に大型蓄電池の工場を新設する。9日に上海で開いた調印式典で、テスラの幹部と地元政府の幹部が契約書に署名した。米国内の大型蓄電池工場に匹敵する規模になるとしており、米中対立の中でも、中国市場を重視する姿勢を鮮明にする。
 中国の地元政府機関がSNS(交流サイト)に投稿した内容によると、新工場では大型蓄電池「メガパック」を生産する。メガパックは太陽光発電所などで採用が進んでおり、蓄電性能の高さが売り物。テスラはEVのほかに蓄電システムを主要事業と位置づけており、その主力だ。
 新工場は2023年7〜9月期に着工し、24年4〜6月期に生産を始める。中国国内だけでなく、海外への輸出拠点としても活用する。生産目標は年1万個としており、これは約40ギガ(ギガは10億)ワット時の電力を蓄電できる計算。米カリフォルニア州に持つメガパックの工場と同じ規模になる。
 テスラがメガパックの大規模工場を米国外につくるのは初めてとみられる。米中対立の影響で、米国企業の一部が中国への投資を再考するなかでも、テスラは中国市場を重視する姿勢を崩していない。
 主力のEVでは、19年に上海に完成車の組み立て工場「ギガファクトリー」を稼働させ、米国外の主要生産拠点と位置づけている。同工場は売れ筋の小型車「モデル3」や多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」を生産している。
 中国政府は脱炭素政策を進めている。30年までに二酸化炭素(CO2)の排出量をピークアウトさせ、60年より前に実質ゼロにする目標を掲げており、脱炭素化につながる蓄電池工場の決定に今回つながったもようだ。
 ロイター通信によると、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は中国を訪れ、李強(リー・チャン)首相との会談を検討しているという。中国政府との関係を強化する狙いがあるとの見方がある。

【技能実習「廃止」提言へ 政府会議、外国人材確保に転換】
 10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 外国人の日本での労働のあり方を検討する政府の有識者会議は10日、いまの技能実習制度の廃止を求める提言の試案をまとめた。途上国への技術移転という目的と実態が乖離(かいり)していると強調し、新制度の創設を訴えた。主要な受け入れ制度の一つが導入30年で転換する。
 各分野の代表者や地方自治体の首長らで構成し、国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長が座長を務める。月内にも中間報告、今秋に最終報告をまとめる予定だ。10日は中間報告の「たたき台」を決めた。
制度設計に向けた政府内の検討もこれに沿って進む見通しだ。法改正などを伴う可能性があり正式な変更は24年以降になる。
技能実習は1993年に始まった。耕種農業や機械加工など87の職種で外国人を雇用できる。2022年12月時点で32万5千人ほどが働き、日本への滞在を最長5年で認めている。
 たたき台は実習生の労働力としての貢献を認めつつ「国際貢献のみを掲げたままで受け入れを続けるのは望ましくない」と明記した。
 技能実習は廃止すべきだと踏み込み、人材確保と人材育成の双方を目的とした新しい制度に衣替えするよう提起した。
技能実習を巡っては企業による賃金不払いのほか実習生の就労先からの失踪といった問題も顕在化している。現行の技能実習では原則、転職ができず人権保護の観点で海外から批判を受けてきた経緯もある。
 有識者会議は新制度の基本的な考え方も示した。転職の制限が人材確保も目的に加える新制度の趣旨に合わないと考え「緩和する方向で検討すべきだ」と盛り込んだ。
 入国当初に定めた職種の範囲で勤め先の変更を認める方向だ。転職可能になる滞在年数や上限などは今後詰める。
一定の日本語能力や技術を持つ外国人向けには特定技能制度(19年創設)がある。現状で介護や農業など12分野で働くことができる。
 技能実習にかわる新制度は特定技能への移行を念頭に置いたうえで、職種の数がばらばらの状況を改め二制度で統一するよう求めた。いまの技能実習から絞り込み、外国人がより幅広い業務に従事できるようにする。
 働く上で必要な最低限の日本語を身につけるための改善点も指摘した。就労前に一定水準の日本語能力を担保し、来日後に上達するような仕組みを設けるべきだと提唱した。
受け入れ支援の管理・監督体制には不十分な点があると評した。監理団体が企業と癒着するケースがある。悪質な団体を排除しながら「独立性・中立性の確保や監理・保護・支援に関する要件を厳格化する」との方針を示した。

【「ChatGPT」CEO来日、個人データ保護「政府に協力」】
 10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 対話型の人工知能(AI)「ChatGPT(チャットGPT)」を開発した米新興オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が来日し、10日に岸田文雄首相らと面会した。欧米では個人データの扱いなどを巡ってチャットGPTの警戒論が高まっている。アルトマン氏は課題への対処で日本政府と連携する意向を示した。
 「首相と(チャットGPTなどの)技術の優れた面と、負の側面をどう軽減するかについて話すことができた」。10日午前、アルトマン氏は記者団の取材で岸田首相との面会をこう振り返った。岸田首相は「プライバシー、著作権といったリスクが指摘される状況や国際的なルールづくりの考え方について意見交換した」と述べた。
 アルトマン氏は同日午後には自民党の会合に出席し、同党議員らと意見交換した。会合の冒頭で「AIの開発は最も重要な技術革命になる」と強調。記者団の取材では「新しい技術が出てきた時には政府には市民を保護する役割がある」と語り、各国との協調に意欲を示した。
 自民党の塩崎彰久議員のツイッターへの投稿によると、アルトマン氏は日本との協力の具体策としてオープンAIによる政府の公開データの分析や一部機能の先行提供、先進技術のノウハウ共有などを提案した。重要データ保護の申し出も含まれる。
 チャットGPTは2022年11月にオープンAIが公開し、わずか2カ月で世界の利用者が1億人を超えたとされる。アルトマン氏が「時の人」となってから米国外を訪れ、政府首脳と顔を合わせたのは初めてだ。
 来日は自民党側の調整で実現したようだ。同党のプロジェクトチームは3月末に高度な文章を作成するチャットGPTなどの技術革新について「新たな経済成長の起爆剤となりうる」とする提言案をまとめたばかりだ。
 自民党の提言案では行政が国会答弁の下書きで使うなど「国による徹底した利活用」を求めた。アルトマン氏によると日本では毎日100万人超がチャットGPTを利用しており、ユーザー基盤も大きい。
 アルトマン氏は「日本で起きていることは技術的にも政策面でも非常に重要だ」と述べた。自ら日本に足を運ぶことで、オープンAIへの支持を広げる狙いがあったとみられる。言語を扱うAIで日本語対応の性能を高め、日本に拠点を設ける考えも示唆した。
世界に目を向けると、オープンAIへの逆風は強い。足元で浮上している課題の一つが個人データの扱いだ。18年に包括的なプライバシー保護ルールの一般データ保護規則(GDPR)を施行した欧州を中心に警戒論が台頭している。
 イタリア当局は23年3月末、チャットGPTの開発にあたってのデータ収集手法などを問題視して調査に乗り出し、同国でのサービス停止を命じた。カナダ当局もオープンAIに対する調査を始めるなど、同様の動きは世界で広がりつつある。
 チャットGPTは簡単な指示で文章を自動生成できるため、教育現場では学習への悪影響が懸念される。偽情報の生成や拡散への対処も大きな課題の一つだ。チャットGPTは投げかけた質問などに人間のように自然な文章で回答する一方で、誤った学習データに基づいて事実誤認を含む内容をもっともらしくつくり出すことがある。
 悪意を持って利用すれば偽情報の大量生産につながりかねず、社会が混乱する可能性も否定できない。自民党のAIに関する提言案にも人権侵害や民主主義を脅かすリスクに対応する法規制の検討を盛り込んだ。
 自民党の会合終了後、平井卓也元デジタル相はチャットGPTのような技術を活用する必要性を強調する一方「このまま使えばリスクがあることは間違いない」と指摘した。日本でもルールの整備を求める議論が本格化する可能性がある。(AI量子エディター 生川暁、竹内宏介、伴正春)

【ガス由来の水素も「環境適合」 IEAが指標、投資後押し】
 11日午後、日経続報メールは次のように報じた。
 国際エネルギー機関(IEA)は、化石燃料からつくる水素でも一定の条件を満たせば「クリーン」とみなす指標をまとめた。これまで環境に配慮した水素製造の基準づくりが課題となっていた。世界共通の基準とし、企業が投資しやすい環境を整備する狙い。
水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ない次世代エネルギーと位置づけられる。水素には、再生可能エネルギーの電力でつくる「グリーン水素」、天然ガスなど化石燃料からつくり、その際に出るCO2を回収する「ブルー水素」といった複数の分類がある。
それぞれの分類の定義はバラバラで、基準の曖昧さが水素市場の拡大を阻んでいるとの指摘があった。特にブルー水素は化石燃料からつくるため、どうすれば環境配慮とみなされるか共通の指標を求める声があった。
 日米欧など約30カ国からなるIEAは水素がクリーンかどうかを、水素製造時に出るCO2排出量の割合を示す「炭素集約度」を使って決める指標をまとめた。1キログラムの水素製造で出るCO2が7キロを下回ればクリーンとみなす。
 例えば化石燃料から水素を製造して7キロ以上のCO2が出ても、CO2を大気に放出しない回収技術などを用いて実質の排出量が7キロより少なくなれば許容する。
 IEAの指標の順守は義務ではないものの、基準を明示することで企業が投資しやすい環境を整える。日本は5月にも水素戦略を改定する方針で、当面は天然ガス由来のブルー水素を軸に普及を進める構えだ。
 脱炭素社会に向け、水素の利用は世界全体で増える見通しだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、世界が2050年に温暖化ガスの排出の実質ゼロを目指す場合、水素は最終エネルギー需要の12%を占めるという。
 世界の水素関連企業でつくる「水素協議会」と米マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめたリポートによると、50年の世界の水素・派生品の需要は6億6千万トンに達する。

【米防衛25社、4年ぶり台湾訪問団 無人機の共同生産】
 11日晩の日経続報メール【ワシントン=中村亮】によれば、20社を超える米防衛企業が5月に台湾訪問を計画していることが分かった。大規模な訪問団は4年ぶりで無人機や弾薬の共同生産を協議する。米政府は台湾への武器支援を欧州に奨励する。米国内の武器生産能力が限られるなか、官民で台湾の自衛力強化を急ぐ。
 米大手防衛企業が加盟する米国・台湾ビジネス評議会のルパート・ハモンド・チェンバース会長が日本経済新聞の取材で5月上旬に台湾への訪問団を計画していると明らかにした。防衛産業に対象を絞った訪問団は2019年以来、4年ぶりとなる。
 約25社の参加を見込み、米太平洋海兵隊司令官を務めたスティーブン・ラダー氏が訪問団を率いる。台湾防衛産業との対話に加え、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統との面会を調整している。
 チェンバース氏は台湾の防衛産業との協議テーマに関し、無人機や弾薬の共同生産をあげた。台湾側が空を飛ぶ無人機だけでなく、水上や海中の無人機にも関心を示しているという。米企業が台湾企業に技術供与したり、共同開発したりする機会を探る。高度な無人機技術を持つ複数の米企業が訪問団に参加する。
 情報収集や攻撃能力を持つ無人機は中国による台湾侵攻を阻止する重要な戦力の一つと位置づけられている。無人機は比較的安価で大量に配備しやすい利点がある。
 米企業が海外企業と武器を共同生産する場合、米政府の承認が必要になる公算が大きい。米政府高官は日経の取材で「とても広い視野でみて(台湾との)共同生産は理にかなっている。米企業の申請に応じて個別に審査していく」と話し、前向きな姿勢を示した。
 米国が共同生産に前向きなのは、米国内の生産能力が国内外の需要拡大に追いつかないからだ。米政府は台湾に売却を決めた武器のうち総額で約190億ドル(2兆5000億円)相当の引き渡しが滞る。ロシアによるウクライナ侵攻後に米防衛企業は生産能力増強にカジを切ったが実現に時間がかかる。
 米戦略国際問題研究所(CSIS)のセス・ジョーンズ上級副所長は1月のリポートで中国との有事をあげて「米国の防衛産業基盤は競争的な安全保障環境に適切な準備ができていない」と断じた。解決策の一つに海外との共同生産の拡大をあげた。
バイデン政権は台湾の武器調達先の多様化も後押しする。米政府高官は取材で「台湾は幅広い調達先から取得すべきだというのがバイデン政権の一般的な見解だ」と述べた。台湾は海外からの武器調達で最近は大半を米国に頼っている。
 高官は「我々は台湾にとって望ましい戦力を生産している同盟国やパートナー国を把握している。(支援を)働きかけている」と明言した。米台の防衛協力に携わる関係者3人は、米国が台湾への武器支援で主に接触しているのは欧州諸国だと話した。
候補の一つになりうるのがスウェーデンだ。米国とスウェーデンの防衛企業が共同開発した誘導砲弾エクスカリバーは精密攻撃が可能で、台湾の自衛力向上に貢献するとの見方が多い。米企業が他国と共同開発した武器を第3者へ売却する場合、相手国の承認が必要になる。
 同関係者3人によると、トランプ前政権のころにスウェーデンは中国の反発を懸念して台湾への売却は実現しなかった。そのうちの1人はバイデン政権も依然として売却の可能性を排除していないと話した。
 米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、中国の習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻能力の取得するよう中国人民解放軍に指示したと指摘している。中国は24年の台湾総統選を控え、台湾への圧力をやや緩めているとの見方があるが、米国では侵攻への懸念が根強い。
 マッカーシー米下院議長は5日、西部カリフォルニア州で蔡氏と会談し、台湾の安全保障に関与する方針を鮮明にした。会談後に読み上げた声明で米台協力に関し「経済的な自由や平和、地域の安定に不可欠だ」と唱えていた。
中国は会談に反発し、8日から台湾を取り囲む形で軍事演習を実施した。中国初の国産空母「山東」が参加した。

【スリランカ債務再編、日本主導で新枠組み 中国対応焦点】
 12日晩の日経続報メール【ワシントン=三島大地】によれば、2022年5月にデフォルト(債務不履行)状態に陥ったスリランカの債務再編を進めるため、日本が主導して債権国会議を立ち上げる。日本、インド、フランスなどが13日に表明する。2国間融資で最大の債権を握る中国にも参加を呼びかける。米欧の利上げで深刻度を増す中所得国の債務問題の解決に向けた先行事例となる可能性がある。
 スリランカは新型コロナの感染拡大以降、中所得国として初めてデフォルトに陥った。債務危機は低所得国以外にも広がっている。日本主導の枠組みで債務再編が円滑に進めば今後の債務再編のモデルにもなりうる。スリランカも債務の重みが減ることで、インフラ開発や気候変動対応といった新たな投資に踏み出しやすくなる。
発足イベントには鈴木俊一財務相のほか印仏の高官が参加する。スリランカのウィクラマシンハ大統領もオンラインで参加する見通しだ。
 国際通貨基金(IMF)や世界銀行など国際機関のほか、民間も加わり債務再編に向けた協議をする。第1回会合の開催時期を今後関係者で調整する。
 スリランカへの2国間融資で最大の債権国は、22年6月時点で全体の52%にあたる73億ドル分の債権を握る中国だ。日本が20%、インドが12%、フランスが3%で続く。中国が債務の減免に難色を示し、問題の解決に時間を要してきた。中国にも会合への参加を呼びかけると見られ、同国の判断が焦点になる。
 新興国の債務問題を巡っては、20カ国・地域(G20)が20年、「共通枠組み」と呼ばれる制度を導入した。IMFなどが主導して債務の一部免除を進めやすくする仕組みだが、対象が低所得国に限られている。
 新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に端を発した物価高で新興国を取り巻く環境は厳しさを増している。世界銀行によると、新興国の対外債務は21年末に9兆ドル(1200兆円)と、10年前の2倍以上に増えた。
 スリランカは主力の観光業収入が新型コロナウイルス禍で急減。中国などから借り入れたインフラ整備資金が返済できず、22年5月に事実上のデフォルトに陥った。

【途上国債務9.2兆ドル、G20で再編議論 世界経済の火種に】
 13日の日経速報メール【ワシントン=三島大地】によると、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が12日(日本時間13日)、ワシントンで開幕する。米利上げに伴うドル高で、負担が増す途上国の債務再編を議論する。途上国の債務残高は足元で9.2兆ドル(約1200兆円)と、リーマン危機後の3倍に膨らんでいる。米地銀破綻を契機とした金融不安が広がるなか、途上国債務の焦げ付きは危機の導火線になりかねない。
 「人類史における重要な転換点に立っている」――。財務省の神田真人財務官はG20の開幕に先立って米ワシントンで開いた講演で、こう強調した。
 そのG20が今回の会議で主要議題に据えるのが途上国債務の問題だ。ロシアのウクライナ侵攻以降、急速に進んだインフレに対応するため米連邦準備理事会(FRB)など先進国の中央銀行は急速に金融引き締めを進めてきた。ドルやユーロが相対的に上昇し、途上国の外貨建て債務が膨張した。
 新型コロナウイルス禍の20年に0.5%台まで落ち込んだ米長期金利も、一時4%まで上昇。足元も3.4%台で推移している。ドル高と米金利高がダブルパンチとなって途上国に重くのしかかっている。
 コロナ禍以降、エチオピアやガーナ、ザンビアなど低所得国が相次いでデフォルトに追い込まれた。世界銀行によると、1人あたり国民総所得(GNI)で約1000ドル以下の低所得国28カ国の債務残高は、21年に2500億ドルとリーマン危機後に3倍弱に拡大した。
危機は低所得国にとどまらない。コロナ禍で主力の観光業が打撃を受け、21年には中所得国に位置づけられるスリランカが事実上のデフォルト状態に陥った。ザンビア財務省のフェリックス・ンクルクサ財務官は「我々の希望は、(債務問題が)早急に解決することだ」と訴える。
 世銀の調査ではスリランカなど、1人当たりGNIで年1000ドルから 1万ドル程度とされる中所得国計108カ国の債務残高は足元で9兆457億ドルに達する。低所得国の債務再編でもたつき、中所得国にも債務問題が波及すれば新たな危機に発展する危うさをはらむ。
 スリランカへの2国間融資で最大の債権国は、22年6月末時点で全体の52%にあたる73億ドル分の債権を持つ中国だ。日本が20%、インドが12%、フランスが3%と続きG20としての結束も試される。
途上国の債務問題への対応はこれまで債務の繰り延べが中心だった。利上げの長期化に伴い、国際社会の視線は債務の繰り延べから債務減免に移りつつある。
 米ボストン大学は6日に公表した報告書で、すでに債務危機に陥っているか、陥る可能性が高い61カ国の債務減免が不可欠と指摘した。必要な減免額は5200億ドルに上る。
 主要7カ国(G7)議長国の日本は、デフォルト状態に陥ったスリランカの債務再編を進めるための債権国会議の発足を提言する。世界最大の債権国である中国の反発でスリランカは問題の解決に時間を要してきた。中国が枠組みに参画すればスリランカの債務問題が解決に向かう可能性がある。
 もっとも、多額の債務免除は貸し手の体力を奪い、民間債務に飛び火するリスクもはらむ。金融不安で銀行システムに負荷がかかっている現状では、世界の投資マネーが一斉に収縮しかねない。途上国の債務問題が新興国全体の債務問題に波及すれば、世界経済への下押し圧力は桁違いに大きくなる。
 金利先物市場の動向を反映するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の「Fedウオッチ」によると、市場は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも0.25%の利上げを織り込んでいる。利上げを続ければ新興国への逆風は一段と強くなる。
 イエレン米財務長官は「債務危機の影響が国境を越え、世界経済に連鎖的に影響することを私たちは知っている」と語る。
G20には、借り手の「モラルハザード(倫理の欠如)」を防ぎつつ、途上国の債務問題を次の危機の導火線にしないかじ取りが求められている。

【Amazon、生成AI参入 自社クラウド経由で提供】
 同じ13日の日経速報メール【シリコンバレー=山田遼太郎】によると、米アマゾン・ドット・コムは13日、ネットワーク経由で情報システム機能を使えるクラウドコンピューティングを通じ、文章などを自動でつくる生成人工知能(AI)を提供すると発表した。クラウドを通じた生成AIの提供は米マイクロソフトや米グーグルも準備する。業界最大手のアマゾンの参入で、生成AIの利用環境の整備が世界で進む。
• 【関連記事】クラウド3強、主戦場は生成AI 忍び寄る下克上の足音
 アマゾン傘下でクラウド事業を手掛けるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を通じて、自社でつくった生成AIや新興企業が開発した技術の基盤を提供する。
 自社の生成AIは数カ月以内に一般提供を始める。外部の生成AI技術も段階的に利用できるようにするとみられる。
 IT(情報技術)サービスの開発を手がける顧客企業は、文章の要約やデザインの自動作成といった機能を組み込みやすくなる。当初は電子メールやチャットサービスを提供する企業や利用者に文面を自動で作る機能を提供するといった用途を見込む。
顧客企業がIT投資を効率化できるクラウドの世界市場は高成長を続けてきたが、足元では景気減速などの影響で伸びが鈍る。こうしたなか、マイクロソフトやグーグルは相次いで、クラウドを通じた生成AIの提供を決めた。アマゾンは外部の新興勢も含めた幅広い生成AIを提供し、違いを出したい考えだ。
 生成AIを巡っては米新興企業のオープンAIが2022年11月、質問に自然な文章で回答する「Chat(チャット)GPT」を公開し、世界で利用者が急拡大している。人間の指示に応じて文章や画像、プログラムを作り出せるため、様々な作業の生産性を高められる期待がある。
 AWSのバイスプレジデント、バシー・フィロミン氏は日本経済新聞などの取材に応じ、「あらゆるITサービスが生成AIにより変化することになる」と述べた。
 具体的にはデザイナーの使うサービスに組み込んで入力した言葉に基づく画像を自動で作ったり、映画などの映像の一部を自動で制作したりといった活用事例を示した。
 技術が未成熟で競争の行方が見通しづらいことから、自社開発だけでなく外部の新興企業とも組むことで多様な顧客企業のニーズに応えるとしている。瞬時にイラストを作る英スタビリティーAIや、グーグルも出資する米アンソロピックなどが開発するAI基盤も使えるようにする。
 アマゾンは個人として活動する技術者を対象に、コード(プログラムを動かす文字列)を書く作業をAIで省力化するサービスを無償で提供する方針も発表した。利用時間などの制限は設けない。
初期費用や月額利用料を抑えて顧客を囲い込む「薄利多売」の戦略でクラウドの最大手になっており、生成AIでも同様の方針をとる。
 米調査会社シナジー・リサーチ・グループによると、22年10〜12月期の世界のクラウド市場におけるAWSのシェアは33%で首位だった。2位のマイクロソフト(23%)や3位のグーグル(11%)はシェアをじわじわと高めている。生成AI分野における取り組みが競争の行方を左右しそうだ。
 AI開発の中止を求める声が上がるなど技術の急速な発展には警戒論も上がっているが、フィロミン氏は「生成AIはこの数十年で最も革新的な技術の一つ。公平で正確なAIの提供に努める」と述べた。

【クラウド3強、主戦場は生成AI 忍び寄る下克上の足音】
 14日の日経ニュースメール【シリコンバレー=奥平和行】によると、IT(情報技術)市場をけん引してきたクラウドコンピューティングの分野で、文章や画像などを自動的に作る生成人工知能(AI)が新たな競争軸として浮上してきた。最大手の米アマゾン・ドット・コムが13日に参入を発表し、「3強」の戦略が出そろった。ただ、新興勢の伸長も目立ち、意外な企業が覇権を握る下克上の可能性もある。
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 「大規模言語モデルや生成AIは当社が今後何十年にもわたって『発明』を続けていくための中核をなす分野であり、重点的に投資していく」。アマゾンのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は13日に公開した株主に宛てた年次書簡でこう強調した。
同日には傘下の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が生成AIを利用したソフトを開発するための基盤サービス「アマゾン・ベッドロック」の提供を始めると発表した。AWSの法人顧客が自社のサービスに文章や画像の自動生成といった機能を組み込みやすくする。
ジャシー氏は長年にわたってAWSのトップを務め、2019年のインタビューで20年代をけん引する技術について尋ねると「事実上すべてのソフトが何らかの形でAIや機械学習の機能を内蔵するだろう」と語っていた。幅広い業種や規模の企業を対象としたベッドロックの提供により、有言実行を果たす格好になる。
 だが、外部環境の変化が背中を押した側面もある。生成AIは22年に米オープンAIが「Chat(チャット)GPT」を公開したことで注目が一気に高まった。クラウドでアマゾンを追い上げる米マイクロソフトが1月にオープンAIと資本・業務提携を強化することで合意。米グーグルも2月、独自開発した生成AIの外部提供を発表している。
 アマゾンの新サービスの発表によりクラウド3強の生成AIの領域における戦略がひとまずは出そろった格好だが、違いも浮かび上がっている。ひとつは各社が法人顧客に提供する生成AIの「中身」だ。
 先行したマイクロソフトが急成長するオープンAIを前面に押し出す傾向が強いのに対し、グーグルは現時点では自社開発した技術を優先する姿勢が目立つ。一方、AWSは「ひとつの技術では多様な顧客のニーズに応えきれない」(バイスプレジデントのバシー・フィロミン氏)として、自社開発と外部から供給を受ける技術を並走させる。
 具体的には自然言語処理に強みを持つイスラエルのAI21ラボや、簡単な言葉を入力するだけで画像を生み出すことができる「ステーブル・ディフュージョン」を22年に公開して注目を浴びた英スタビリティーAIと協力する。さらに米アンソロピックとも組んだ。
アンソロピックはグーグルやオープンAIで経験を積んだ技術者が21年に設立し、2月にはグーグルから出資を受けたことも明らかになっている。グーグルの出資先になったアンソロピックがAWSとも組んだことは、この分野がまだ流動的で、競争の行方が見通しづらいことを物語る。
 クラウドは現在、多くの企業が製品やサービスを提供するためのプラットフォーム(基盤)となっているが、ITの歴史を振り返ると、古いプラットフォームは定期的に大きな技術革新により無効化されてきた。グーグルの検索サービスや米メタのSNS(交流サイト)が様々な機器を通じて使えるのが好例だ。
 ブームの感もある生成AIに対してはクラウド大手の幹部から「過去最大級の技術革新」といった賛辞が相次ぐ。各社は新興勢への出資や提携を通じてその果実の取り込みを急ぐが、新興勢の側には大手の軍門にやすやすとくだる気はない。クラウド3強の生成AI戦略の背景からは次の覇権争いの芽が見え隠れする。

【大阪IR、モデルはシンガポール カジノ「依存」に懸念】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)が実現に向けて動き出した。政府は14日、2029年の開業を目指す大阪府と大阪市の整備計画を認定した。10年開業のシンガポールをモデルに観光消費や民間投資を取り込む。IRを巡る国際競争は激しく、ギャンブル依存症の問題が指摘されるカジノに収益の大半を依存するリスクもある。
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 政府は14日、IR推進本部(本部長・岸田文雄首相)を開き、大阪府・市が22年4月に提出した整備計画を了承した。「日本が観光立国を推進する上で重要な取り組みだ。我が国の成長に寄与する」。首相はこう強調した。
 IRは「Integrated Resort」の略で、カジノを中核に展示場や会議場、劇場、宿泊施設などを備えた大規模施設を指す。経済波及効果や地域の雇用増加が見込まれる。
 大阪では大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)に関連施設をつくり、29年秋〜冬の開業を目指す。カジノや国際会議場、高級ホテルなどを設ける。来訪者は年2000万人、年5200億円の売上高を見込む。
 運営は米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人やオリックスなどで構成する「大阪IR株式会社」が担う。パナソニックホールディングスやダイキン工業など20社が出資企業として名を連ねる。
 「2025年国際博覧会(大阪・関西万博)、IRで地盤沈下してきた関西がやっと上向く」。関西経済界の幹部はこう漏らす。関西圏に福井県を加えたエリアの経済効果は年1.1兆円、雇用創出は年9.3万人を想定する。
 大阪府・市には事業者からの納付金などが年1060億円入り、自治体の収入面でも大きい。大阪市の横山英幸市長は14日に「大阪の転換点になる」と述べた。
 大阪IRが目指すのは成功例とされるシンガポールだ。10年に開業した「マリーナベイ・サンズ」と「リゾート・ワールド・セントーサ」はテーマパークや水族館、劇場などを併設する。
 シンガポールの19年の外国人客は約1900万人と10年比で6割程度増えた。国土は広くないものの、IRを軸に国際観光都市の地位を確立した。
 大阪府・市も「世界中の人が訪れたくなる都市型リゾート」を目指す。和食や伝統工芸品の店舗をそろえたり、華道や茶道を体験できる施設を整備したりする。施設内には関西の観光資源を紹介する「関西ツーリズムセンター」も設ける。
 実現への課題は多い。1つは収益構造だ。IRは施設全体の収益の柱にカジノを据えるケースが一般的で、大阪も売上高の8割をカジノで稼ぐ想定にしている。
 政府はカジノができる区域の床面積についてIR全体の建物床面積の「3%以内」と定めている。収容人数は1万1500人になる。大阪府・市はカジノ施設への来場者数を年1610万人と予想する。単純計算で1日の来訪者は約4万4000人で、満員の客が毎日4回総入れ替えする計算になる。
 来場者も7割を日本人と見込んでいる。安田女子大学の大谷咲太准教授は「(来訪者目標を)達成するポテンシャルはあるが、施設の収容力が不足している」と話す。「カジノに依存した運営では成長を持続するのは困難だ」と指摘する。
 シンガポールも新型コロナウイルス流行前はカジノが収益の7割を占める構造だったが、脱・カジノ依存に取り組んでいる。28年までに総額9000億円規模を投じ、新たなアトラクションの導入や水族館の拡張、ホテル棟の建設を計画する。
 課題の2つ目はギャンブル依存症への対策だ。シンガポールでは国内客に1日150シンガポールドル(約1万5000円)の入場税を課す。国民が頻繁に来場し、ギャンブル中毒になるのを防ぐ狙いだ。国民のギャンブル中毒は大きな社会問題になっていない。
 日本のルールでは、国内客の入場回数は週3回、28日間で10回までに制限する。外国人は入場無料だが、日本人からは1回6000円を徴収し、入場時にはマイナンバーカードで本人確認する。入場時の負担はシンガポールよりも軽い。
 3つ目はIRを巡り国際競争が激しくなっていることだ。もともとカジノとしての知名度は米ラスベガスが高いが、アジアでもシンガポール、マカオ、韓国などが先行する。タイもIR施設の整備に向けカジノ合法化への検討に入った。
 コロナ禍で落ち込んだ時期に比べ観光客は回復傾向にある。各国はIRなどでの誘客に力を入れる。日本のIRの独自色が受け入れられ、競争力を持てるかは見通しにくい。
 日本では地域の理解も大切になる。政府が21年10月〜22年4月にIRの候補地を募集したところ、整備計画を提出したのは大阪と長崎県の2カ所にとどまった。横浜市や札幌市なども誘致を目指していたが、地域住民らの反対があり、断念した。 
 大阪ではIR推進を掲げる地域政党・大阪維新の会が9日投開票の大阪府知事・市長の「ダブル選」を制した。「ビジネスパーソンや研究者なども集まる。新産業を共創する仕組みの内包がIRのもう一つの価値だ」(関西経済同友会の角元敬治代表幹事)と、経済界も後押しする。
 今回、長崎県の計画は認定を見送り、審査を継続する。審査は長期化も予想されており、国内の「第2のIR」は見通せない。政府はIRについて当面は国内で最大3カ所を認める方針だが、2次募集については「現状ではまったくの未定」(観光庁担当者)だ。
 国交省幹部は「大阪で成功しないとIRそのものがダメだとなりかねない」と話す。政府は30年に訪日客数を過去最高の19年の約2倍の6000万人に増やす目標を掲げる。観光立国の中核に据えるIR政策を軌道に乗せられるかが重要になる。(金子冴月、掛川悠矢、中野貴司、河野祥平)

【首相演説会場で爆発音 逮捕の男「弁護士来てから話す」】
 15日の日経速報メールは次のように報じた。
 15日午前11時半前、岸田文雄首相が衆院補欠選挙の応援で訪れていた和歌山市の演説会場で、発煙筒のようなものが投げ込まれ、大きな爆発音がした。首相にけがはなく、会場を車で離れた。投げ込んだとみられる男は現場で取り押さえられた。和歌山県警によると、男は兵庫県川西市の職業不詳、木村隆二容疑者(24)で、威力業務妨害容疑で現行犯逮捕した。「弁護士が来てから話します」と供述している。
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県警によると、現場にいた警察官1人が軽傷を負った。首相は警護官(SP)に警護されて退避した。車でいったん和歌山県警本部へ移動した後、15日午後にJR和歌山駅前で街頭演説を再開した。首相は「ご心配とご迷惑をおかけした。おわび申し上げる」と述べた。
 現場はJR和歌山駅から南西約6キロにある雑賀崎漁港。首相は衆院和歌山1区の補欠選挙に出馬した候補の応援のために訪れた。自民党のウェブサイトによると、15日午前11時40分から演説を始める予定だった。
首相は午前11時20分前に漁港に到着。演説前に漁港を視察し、地元の漁港関係者から説明を聞き、海産物を試食するなどしていた。会場には数百人の聴衆や報道陣が集まっていた。
 目撃した市民らによると、逮捕された男はマスクをしており、何らかの物体を投げ込んだ直後に取り押さえられた。その後に「ドン」という大きな爆発音がして白い煙があがった。聴衆から悲鳴があがり、警備にあたっていた警察官が避難を指示した。会場には焦げたようなにおいが漂った。
 政治家の襲撃を巡っては、2022年7月に安倍晋三元首相が奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した。事件では山上徹也被告=殺人罪などで起訴=が安倍氏の背後へ接近し、手製銃で弾丸数発を2回発射した。
 警察庁は各都道府県警が主体となって行ってきた要人警護のあり方を22年8月に見直した。今年5月に広島市で開かれるG7サミット(主要7カ国首脳会議)にむけても警備を強化しているさなかだった。

【天然ガス段階廃止で合意 G7エネ環境相、共同声明を採択】
 16日の日経速報メールは次のように報じた。
 主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相は16日の札幌市での会合で、二酸化炭素(CO2)削減への対策を講じていない化石燃料の使用の廃止に向けた取り組みを強化することで合意した。新たに天然ガスを対象に加え、段階的な廃止に着手する。欧州とカナダが求めていた石炭火力発電所の廃止時期の明記は見送った。
 15日から2日間の日程で協議し、16日に共同声明を採択して閉幕した。温暖化ガスの排出削減に関して、2035年までに「19年比で60%減」とする目標数値も盛り込んだ。
 会合には日本から西村康稔経済産業相と西村明宏環境相が出席。米国のジョン・ケリー大統領特使やエネルギー省のグランホルム長官、カナダのウィルキンソン天然資源相、インドネシアのアリフィン・タスリフ・エネルギー鉱物資源相らも参加した。再生可能エネルギーの導入目標などを巡っても議論した。

【海中の機体、不明の陸自ヘリと確認 5人発見】
 同じ16日、日経速報メールは次のように報じた。
 沖縄県の宮古島付近で10人が搭乗した陸上自衛隊のヘリコプター「UH60JA」が行方不明になった事故で、防衛省は16日、現場周辺で隊員とみられる5人を発見したと発表した。海中で見つかった機体も不明の陸自ヘリの主要部分と確認した。不明となってから10日。事故機と確認されたことで原因究明が進む可能性がある。
 深い海での作業を可能とする特殊技術「飽和潜水」による海中の捜索を16日午前に再開していた。防衛省によると、陸自ヘリの主要部分が見つかったのは、宮古島西方にある伊良部島北約6キロの水深約106メートルの海底で、午前8時半ごろだったという。
 飽和潜水は水圧が高い深い海で作業するための技術。潜水士を乗せた装置を海中に投入する。水中に出た潜水士は酸素を送るホースでつながれており、活動はホースが届く範囲に制限される。
 海上自衛隊の潜水艦救難艦が14日午後に飽和潜水の作業に入ったが、機材にトラブルが生じて中断した。15日は天候不良などを理由に中止となっていた。
 不明のヘリは6日午後3時46分に宮古島分屯基地を離陸し、同56分に宮古島北西の洋上でレーダーから機影が消えた。偵察訓練中で、第8師団長の坂本雄一陸将を含む10人が乗っていた。13日夜に水中カメラなどで機体とみられる物体が見つかり、付近では14日にかけて複数の人影も確認されていた。



 この間、以下の録画を観ることができた。(1)BS6報道1930「プーチン氏の兵器、西資本主義に学んだ大抜擢エリート新世代」3月28日。 (2)BS6報道1930「中国“認知戦”の最前線 情報と刷り込みの実態」29日。 (3)BS6報道1930あ「日本が迎える多死社会、止まらない少子化が突きつける厳しい現実」30日。 (4)NHK総合「テレビはどう伝えた?!激動の世界」30日。 (5)BS6報道1930「台湾蔡英文総統「訪米」・「衝撃 ペロシショック再び? 反発必至の中国」31日。 (6)BS1スペシャル「プーチン 知られざるガス戦略~徹底検証 20年の攻防~」(再)」4月1日。 (7)NHKスペシャル「ジャパン・リバイバル “安い30年”脱却への道」2日。 (8)BS6報道1930「プーチン氏の愛国教育“死ぬのは怖くない” 洗脳強化を教師が証言」3日。 (9)BS6報道1930「欧州首脳続々「中国詣で」なぜ 欧州が米国と一線画すワケ」7日。 (10)BS朝日日曜スクープ「ウクライナ反撃準備か NATOに新加盟国…ロシアは」9日。 (11)BS1スペシャル「脱炭素へのロードマップ ビジネス界1.5℃目標への挑戦」9日。 (12)BS世界のドキュメンタリー「中国-アメリカ “新たな冷戦”を読み解く」11日。 (13)BS6報道1930「ウクライナ「春の大攻勢」いつどこに」12日。 (14)NHKスペシャル「半導体 大競争時代 第2回「日本は生き残れるか」15日。 (15)ETV特集「誰のための司法か~団藤重光最高裁・事件ノート」15日。 BS朝日日曜スクープ「綿井健陽が戦禍の街を取材」16日。

三溪園園長の退任にあたって

 2023年3月末をもって園長を86歳で退任した。2012年8月1日から10年8カ月間、勤めたことになる。
園長就任の要請は都留文科大学の学長の時に受けた。2012年6月頃、横浜市文化観光局の齋藤満部長から連絡があり、三溪園の公益財団法人移行にあわせ、園長は市役所職員や OB ではなく民間から採用したいとのことであった。
 とっさに思い出したのが庭師である。実家には折々に庭師が樹木の手入れに来ており、その軽やかな身のこなし、慣れた鋏づかいは少年時代、憧れの対象だった。
 ついで三溪園保勝会の定款等の関連資料の定款第3条に「この法人は、国民共有の文化遺産である重要文化財建造物等及び名勝庭園の保存・活用を通して、歴史及び文化の継承とその発展を図り、潤いある地域社会づくりに寄与するとともに、日本の文化を世界に発信することを目的とする」とある。
 法人の憲法にあたる定款の文言が、学長との兼任を躊躇していた私の胸に刺さった。
 歴史学者として回り道をしつつ、幕末日本の開国の形とその意義に焦点を絞ってきた頃である。戦争を回避し、話し合いを通じて開国・開港を達成できた。それが横浜発展の<原点>にほかならない。
 この横浜居留地に生糸売込商(生糸輸出商)として出店した埼玉県出身の原善三郎が、急増する人口に秩序を与え、1889年、横浜市が誕生すると市会議長に就任する。そして1892年、善三郎の孫娘屋寿と結婚したのが岐阜県出身の青木富太郎、のちの原三溪、すなわち三溪園の創始者である。
 偶然にも『幕末外交と開国』(ちくま新書 2004年が講談社学術文庫に入ることとなり(2012年9月刊行)、その補正作業に専念していところであり、それまでの『イギリスとアジア-近代史の原画』(岩波新書 1980年)、『黒船前後の世界』 (岩波書店 1985年)、東アジアの近代』(講談社 1985年)、『黒船異変-ペリーの挑戦』(岩波新書 1988年)、そしてみなとみらい事業の一環としての横浜博覧会に合わせ、編集長として横浜市立大学で刊行した”Yokohama Past and Present”(1989年)等の仕事から得た横浜像をもって三溪園に貢献できるかもしれないと思った。

【ブログを始める】
 2011年3月11日、東日本大震災が発生、すぐに『(都留文科大学)学長ブログ 2011~2014』を立ち上げた。春休みで帰省している学生も多く、友人たちの近況や大学の対応など、刻々と変わる状況を学生たちに伝えなければと思った。月に3~4回掲載、通番を付し、最後が退任記念講演の「122 黒船来航と洋学」である。本ブログは学長退任を機に書籍化された。
学長退任後は、表題を加藤祐三ブログ「月一古典(つきいち こてん)」 と改め、今に至っている。都留文科大学情報センターの大輪知穂さんが見つけてくれたfc2.com で、掲載等の作業をいまも助けていただいている。
 「月一古典」は、今年3月末で計354点を掲載した。それらを①歴史研究、②三溪園、③交友録、④大学問題、⑤我が歴史研究の歩み(連載)、⑥未分類の6つにカテゴリ分けしており、うち②三溪園は117点で約3割を占める。
 園長の業務は多岐にわたるが、組織としての意思決定や職員人事等々については書いていない。個人のブログに、公人として知ったことを書くべきではない。
 代わりに園内の行事や自然・景観の創り方等を外に知ってもらうこと、言い換えれば三溪園の<広報>に徹している。例えば、2022年10月24日の所蔵品展「秋、空を見上げて」、2022年8月8日の「望塔邸の呈茶」、2022年6月27日の「国際ヨガの日」、2021年12月10日の「紅葉の三溪園」、2021年11月19日の「日仏文化交流 CHAUMET 特別展に寄せて」、2021 年8 月18 日の「夏の古建築公開×「タゴールと夏の迷い鳥たち」展、2021年2月1日の「文化財防火デーの自主消火訓練」、2019 年7月18日の「三溪と天心 (その3)」、2018年11 月21日の「原三溪の生き方を考える」、2018年11月1日の「三溪園の大師会茶会」、2018年7月6日の「タケの開花(その6)」等々。

【本ブログ2回目の「花めぐり」】
 「花めぐり」は2014年4月14日の掲載、春の三溪園の紹介である。
 「前回の「桜と新緑の競演」を書いて数日、嬉しいことに三溪園には、まだ桜花が予想以上に残っている。
 真っ白な花びらに薄桃色のシベを持つソメイヨシノは、幕末に生まれた新品種だが明治中期から全国に広まり、いっせいに咲き、いっせいに散る。今年は散りきらぬうちに、赤味を帯びた芽が顔を出した。なにか違う品種のようにさえ感じる。
 正門の左手に広がる大池には幾つか島があり、毎年6月頃には紫の、追いかけるように白のハナショウブが群れ咲く。美しく咲かせるために今の時期にしっかりと手入れをする。根回りの雑草を抜き、水位が上がっても根浮きしないよう土を盛り、骨粉を入れ、腐葉土をかぶせる作業が昨日から始まっている。造園職員とともに10人ほどのボランティアの姿がある。
大池の向かいは古代蓮池と睡蓮池。古代蓮池には立ち枯れた茎がまだ残る。水辺にヤナギの若緑。エノキ、カツラも芽吹いている。睡蓮池には子どもの手の平ほどの幼葉が水面いっぱいに広がる。
 上り坂をたどり、鶴翔閣(1902年建造、戦後改修)に至る。三溪が出身地岐阜の棟梁を招いて建てた約300坪の合掌造り風の建物で、私邸であり、原合名会社の執務室でもあった。
 鶴翔閣の入り口前に1 本、睡蓮池の傍に2本のベニシダレザクラはたおやか。純白のオオシマザクラは、いまを盛りと魅了する。突きあたりにある珍種タカクワホシザクラ(高桑星桜)は岐阜市柳津町高桑地区で育成された品種で、花弁の先が星形に見える。
 三溪記念館の池のほとりのオオシマザクラは、クロマツの大木を背に、凛として白を放つ。臨春閣、聴秋閣、天授院等が近在するエリアは、イチョウの大木やカエデなど、新緑が眩しい。黄色いヤマブキ、名残りの白いユキヤナギ、小さなスミレも古建築に趣を添える。
 横浜市中区本牧にある三溪園は、明治39(1906)年、生糸貿易商で美術家・茶人・造園思想家の原富太郎(三溪は号)が開 園、起伏のある地形を活かした日本庭園は、総面積約17ヘクタール(5万坪超)ときわめて広い。
 蓮池、睡蓮池、鶴翔閣、臨春閣、聴秋閣等のある内苑と、大池から山上の三重塔、 燈明寺本堂、梅林、合掌造りの古民家等のある外苑に分かれており、浜辺に通じる外苑は、開園と同時に一般公開された。
 開園から108年を経た三溪園は、日本庭園と古建築(重要文化財10 棟)が調和する稀有の存在として、7年前に国指定名勝となり、2年前、これを所有・管理・運営する三溪園保勝会が公益財団法人として新たな活動に邁進している。 」

【本ブログ4回目の「月一古典」(つきいち こてん)について】
 冊子版の『(都留文科大学)学長ブログ 2011~2014』の裏表紙にもある「三訓」、すなわち「アシコシ ツカエ」、 「ツキイチ コテン」、「セカイヲミスエ モチバデウゴカム」の一つである。
  「…この数十年、折々に学生諸君にプレゼントしてきた三訓の一つで…」と述べ、「ここで敢えて第 2(の「ツキイチ コテン」)を選んだのは、多忙に紛れ、古典が疎かになる自省からである。月に一回は<自分の古典>に出会う感性と、ゆったりと味わう時間を大切にしたい」と結んだ。

【60回つづけた連載「人類最強の敵=新型コロナウィルス」】
 2020年3月6日に「人類最強の敵=新型コロナウィルス」を初めて掲載した。そのときは一度だけのつもりだったが、3月18日の掲載から「人類最強の敵=新型コロナウィルス(2)」と通番を付し、2023年2月28日で(60)に至る、約3年をかけた長期連載となった。
 新型コロナウィルスは世界に大きな打撃を与えた。三溪園も例外ではない。来園者が急減し、最適の対策を講じる苦労がつづいた。
 そして今年3月、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の名称を「コロナウイルス感染症 2019」とし、厳しい措置がとれる2類相当以上の扱いを5月から5類に引き下げ、マスクの着用は3月13 日から屋内外を問わず個人の判断に委ねた。
 これを機に連載「人類最強の敵=新型コロナウィルス」は(60)を区切りに終了し、題名「変わりつつある世界(1)」として2023年3月14日から新しく始めた。なにがどう変わりつつあのか。新しい時代はどのようになるのか。予断を許さない世界の様相を根気強く書きつづけていきたい。

【多くの応援を得て…】
  新型コロナウィルスが猛威を振るった3年間、三溪園は各方面から力強い応援を得てきた。多くの方々から募金を頂いたり、パーソナルディスタンスを保つのに工夫を重ねたガイドボランティアさんたちから勇気を頂いた。
 所管の横浜市文化観光局観光振興課とは、(1)斎藤信明課長、石井直哉担当係長、菅野理さん、観光コンベンション・ビューロ-出向の市職員、宮本裕子事業開発課課長の参加のもと、月に1回の合同会議を開き、(2)観光振興課の発案で係長級職員1名が経営改革担当室長として三溪園保勝会に派遣され(いまは山口智之さん)、人事交流を密にしている。(3)民間の経営戦略コンサルタントの CDI(コーポレイト・ディレクション)の占部伸一郎さんと芳賀正輝さんを中心に経営学の手法である KPI(Key Performance Indicator=組織の目標を達成するための重要な組織評価の指標)を使って実地訓練を施し、達成状況の定点観測を行ってきた。これが職員たちの強力なサポートとなっている。

【後任の園長へバトンタッチ】
 園長に海野晋哉さん(65歳)が就任される。なによりもまず園長の年齢の21歳若返りが、組織に活気を呼び込んでくれる。さらに中外製薬の副社長を務められた経営のプロである。数時間の歓談の機会を得たが、広く文化万般にわたる造詣の深さに感服した。
 同じく退任する副園長の村田和義さん(65歳)の後任には、公益社団法人・2027年国際園芸博覧会協会へ出向中の市職員、今冨雄一郎さん(57歳) が就任される。
時”は好転している。三溪園の来園者数も順調に上向き、経営環境は整いつつある。そこに“人”を得た。

【最終日】
 3月30日(木)、出勤すると、先週には艶やかに咲き誇っていたユキヤナギが、忽然と消えているのに驚かされた。最高気温は5月並みだが、朝晩は冷える<異常気象>のせいか。
 満開のソメイヨシノに惹かれた多数の来園者で賑わっている。眩しい陽光に心浮き立つ。
 午後の職員ミーティングで村田副園長とともに別れの挨拶をした。
  「一気に若返る園長・副園長とともに、三溪園の存続と発展に尽力してほしい。私も微力ながら三溪園のために尽くしたい」と述べた。

【職員のみなさんへ】
内苑に入って左手、<三溪記念館>と一体の建物の一角に管理事務所があり、ここに公益財団法人三溪園保勝会の事務局がある。園長、副園長、総務課、事業課が入り、みな熱心に忙しく働いている。時折、笑い声や、問い合わせに応える「お電話ありがとうございます」の声がひびく。
 総務課は、課長がいまは空席。以下、年齢順に敬称略で、渡邉栄子(人事・労務)、 滝田敦史(施設管理)、田代倫子(経理)、向井亜希子(事務補佐)。
 事業課は吉川利一課長(歴史)、羽田雄一郎課長補佐(庭園)、加藤美佳子課長補佐(広報・営業)、岩本美津子(広報・営業)、中村暢子(美術)、原未織(建築)。
 山口智之室長(経営機能強化)、川幡留司参事(非常勤)。
 別棟に入る公園班(技能職)は鈴木正、川島武、築地原真、菅沼笙。
 全16名の方々それぞれに思いが残る。うち7名が、私の在任中の新規採用である。
 最後に大きな花束を頂戴した。その後、三重塔と桜を背景に記念撮影となった。カメラはプロの石本幸一さん。桜は風にハラハラと舞うが、もうしばらくもちそうである。
 帰途、美しい花束は注目を集め、誇らしかった。
 みなさん、ありがとう!

変わりつつある世界(2)

3月13日、題名変更後最初の「変わりつつある世界(1)」を掲載した直後、訃報が入った。日経メールの伝える「大江健三郎さん死去 ノーベル文学賞作家、88歳」である。

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 反核や障害を抱えた息子との共生といった重いテーマを追究する小説を書き継ぎ、ノーベル文学賞を受賞した作家の大江健三郎(おおえ・けんざぶろう)さんが3日死去したと講談社が発表した。88歳だった。
 愛媛県出身。東大仏文科在学中にデビュー。戦時中、山村に迷い込んだ黒人兵士とのかかわりを経て成長する少年の姿を描いた「飼育」(1958年)によって、当時最年少の23歳で芥川賞に選ばれた。その後も性や政治を主題とした先鋭的な作品を相次ぎ発表、脚光を浴びた。
 63年、長男の光さんが知的障害を持って生まれたことが、ひとつの転機となる。翌年、自身の内面を掘り下げた長編「個人的な体験」を刊行。以降、光さんの存在は多くの作品に通底する大きなテーマとなる。
 67年刊行の代表作「万延元年のフットボール」(谷崎潤一郎賞)は60年安保闘争と100年前の四国の一揆を重ね、神話的なふくらみを持つ物語をつくり上げた。外国文学の影響のもとに築き上げた文体は難渋とも評されたが、故郷の谷間の森のイメージと共に大江作品の基調をなしていった。
 94年ノーベル賞受賞。翌年完結の「燃えあがる緑の木」3部作を「最後の小説」と位置付けていたが、親友の音楽家、武満徹の死を経て創作を再開。近年は父の死を取り上げた「水死」(2009年)、「晩年様式集」(13年)など自身の分身のような作家が登場する小説をレイトワーク(後期の仕事)として書き続けた。
 旧来の価値観が根本から覆された終戦時の衝撃から、「戦後民主主義」に根ざした思想をはぐくんだ。核問題などについても積極的に発言。「ヒロシマ・ノート」「沖縄ノート」など小説以外の著作でも話題を集めた。

【IHIが米防衛大手と提携 不審衛星を監視、政府に提案】
 13日晩の日経ニュースメールは次のように報じた。
 IHIはノースロップと提携し、衛星を監視する=ノースロップ・グラマン提供
 IHIは米防衛大手ノースロップ・グラマンと不審な人工衛星を監視するビジネスで提携する。IHIの解析技術を加えてノースロップ社の監視衛星を日本政府に共同で提案する。ロシアのウクライナ侵攻を経て国際秩序が一変、日本も防衛費を大幅に増やす。防衛ビジネスの拡大が見込まれるなか、宇宙安全保障の分野でも米企業と連携する企業の動きが出てきた。
 不審衛星は他の衛星をロボットアームで攻撃したり通信を妨害したりする。北朝鮮が打ち上げるミサイルを監視する米国の衛星もあり、同衛星が攻撃を受ければミサイルの発射状況の確認に遅れが生じるリスクをはらむ。日本の防衛白書によると、中国とロシアは衛星に近づき攻撃する衛星を開発中とみられているとする。日本政府も宇宙空間の安定的な利用は安全保障上の課題と位置づけ、対策を急いでいる。
 ノースロップは米国で静止軌道で使う監視衛星を提供している。静止軌道上で不審な衛星を監視する衛星として実際に運用されるのは中国・ロシア以外ではノースロップのもののみという。日本に売り込む監視衛星は同社の既存の衛星をベースに開発し、製造期間も短くしてコストを抑える。
 IHIはノースロップとはこれまで同社の商用衛星にエンジンを供給してきた関係がある。今回、新たに監視衛星に画像の解析技術などを提供する。赤道上空の高度約3万6000キロメートルの静止軌道上の不審な衛星の監視で、近づいて画像を撮影したり、地上に送って解析したりする際にIHIのノウハウが活用できると見込む。
 国内では防衛省が2026年度をめどに監視衛星を打ち上げる計画を進めている。監視衛星は不審な衛星に素早く近づいたり、攻撃を避けたりするため機動性が重要になる。IHIとノースロップの監視衛星は小型で機動性が優位にあるという。不審衛星の活動が活発になるなか、早期に配備できる利点も売り込む。
 IHIは10年以内に宇宙の安全保障分野で年数百億円の売り上げを見込む。これまで地上から宇宙ごみなどを監視するサービスを防衛省に提供してきたが、新規分野への参入で防衛事業の拡大につなげる。
 ノースロップはこれまで日本では早期警戒機や、戦闘機「F-35A」のレーダーなどを販売してきた。従来はモノの販売は手がけてきたが、監視衛星の事業は販売後でも運用や情報解析などサービスの要素が多くなる。日本で製品・サービスを展開する際にIHIが技術面で防衛省を支援できるとみて提携を決めた。
 日本で新たに監視衛星ビジネスを売り込む狙いもある。ノースロップのアジア太平洋地域での売上高は22年12月期に18億ドル(約2400億円)だった。全体の売上高の5%未満にとどまり、日本の開拓余地は大きい。
 英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)の報告書によると、世界最大の軍事大国である米国の軍事費は22年に7666億ドルで、世界全体の39%を占めた。2位は中国(2424億ドル)。27年度に防衛費を国内総生産(GDP)比2%に増やす日本は8位(481億ドル)で、今後5年間の防衛費を従来の1.5倍の43兆円程度とする方針を掲げる。防衛市場は拡大が見込まれ、協業や参入が活発になる可能性がある。

【テック・金融が負の共振 米、SVBなど2行の全預金保護】
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FRBは緊急融資枠の設立を決めた(写真=ロイター)
【この記事のポイント】
・SV銀破綻、危機防止へ預金全額保護と流動性供給
・金利高、テックの資金流出と債券運用の逆回転招く
・止まらぬ銀行株安 利上げ難局、見送り観測も浮上
13日晩、日経ニュースメール【ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太】によると、米金融当局が金融システム不安の未然防止に動いた。12日、シリコンバレーバンク(SVB)など破綻した米銀2行について預金を全額保護すると発表、預金流出の広がりを防ぐとともに、銀行への資金貸し出しも拡充する。金融緩和下のカネ余りで潤った米ベンチャーと銀行が負の共振に陥った。急速な金融引き締めが米経済の弱点をあぶり出している。
SVBと、ニューヨーク州金融監督当局が12日付で事業停止を公表したシグネチャー・バンクの預金を全額保護の対象とする。

【英オックスフォード大学発新興、量子計算機で日本に参入】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
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 オックスフォード・クァンタム・サーキッツは都内のデータセンターに量子コンピューターを設置
 次世代の高速計算機、量子コンピューターを開発する英オックスフォード大発の新興企業が日本市場に参入する。東京都内のデータセンターに設置し、2023年後半にクラウドを介して企業が利用できるサービスの提供を始める。化学や製薬、金融分野などで量子コンピューターを利用しやすくなり、幅広い日本企業での実用化を後押ししそうだ。
 オックスフォード大発の英オックスフォード・クァンタム・サーキッツ(OQC)は14日、自社開発の量子コンピューターを東京都内に設置しクラウドで利用できるようにすると表明した。日本は英国以外で初となる海外拠点で、アジアを中心に海外市場を開拓する足場と位置づける。
 OQCは極低温に冷やした超電導の回路を利用する量子コンピューターを開発している。日本には計算の基本単位で性能の目安となる「量子ビット」の数が32量子ビットの実機を設置した。21年に米IBMが川崎市に設置した同様の方式の量子コンピューターの27量子ビットを上回る。製薬分野での新たな化合物の探索など、より実践的な計算に利用できるようになる。
 IBMの量子コンピューターは東京大学を中心にトヨタ自動車やソニーグループなどで構成する協議会の加盟企業・大学に利用が限られている。OQCは米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドとも連携しており、遠隔地から接続しやすく幅広い企業が使いやすくなるのが特徴だ。
 理化学研究所が3月末に国産初となる量子コンピューターを整備し段階的に企業や大学に公開する計画だが、OQCのは23年後半のサービス開始時から多くの企業が利用できるようになる見通しだ。
 OQCは将来の高性能化が期待できる3次元構造の独自設計に強みをもつ。日本での導入にあたっては利用企業が手軽に接続できる仕組みとし、導入に向けた支援サービスなども提供する。低価格で利用できるようにして、多様な需要を取り込む。
量子コンピューターが実用化されるのは25年以降と言われている。OQCは量子コンピューターが35年までに7000億ドル、日本円で100兆円近い経済価値を生むと予測する。日本は先端素材の開発に強い企業が集積し、脱炭素の鍵を握る研究などで量子コンピューター活用のニーズが大きい。イラーナ・ウィスビー最高経営責任者(CEO)は「日本には多くのビジネス機会がある」と述べた。
 17年創業の同社には日本の東京大学エッジキャピタルパートナーズなどが投資する。データセンター大手の米エクイニクスと手を組み、日本をはじめ海外展開を加速する。
 量子コンピューターは従来のコンピューターとは計算の原理などが異なり、利用の際には新たなノウハウが必要となる。これまでは日本で稼働する実機が少なく利用機会は一部の大企業などに限られていたが、OQCの参入で利用の裾野が広がる可能性がある。
 グーグルが19年にスパコンで1万年かかる問題を約3分で解き「量子超越」と呼ぶ成果をあげたことをきっかけに、世界では量子コンピューターの開発競争が激しさを増す。大手IT企業に加えて新興企業の参入が相次ぎ、米イオンQや米リゲッティ・コンピューティングなど株式上場を果たす事例も出てきた。
 技術的な課題はなお多いが、多様な企業が開発に参加することで計算時に生じるエラーなどの課題克服も進みそうだ。

【中国、供給網分断でも知財を盾に 日米と特許出願240件】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
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 米中対立の激化などで世界のサプライチェーン(供給網)の分断が進む。日米欧では部品などの調達先から中国を外す動きが相次ぐが、盲点となっているのが特許やソフトウエアなどの知的財産だ。世界で技術開発が一体化しており、中国を切り離せば「知の供給網」も機能不全に陥る可能性がある。モノだけでなく知財も中国の盾になりかねない。
 日本経済新聞などの調査で、中国で日米の企業などが中国の大学や企業と共同出願した特許は2022年までの約3年間で240件あることがわかった。日本は115件、米国は125件あった。

軍事可能4割
日米企業などが中国内で出願した全特許のうちの1%弱だが、電気自動車(EV)やスマートフォンに欠かせない電池や通信、レアメタル(希少金属)などの先端分野が多い。このうち4割は「デュアルユース」と呼ばれる軍事にも転用できる技術の可能性がある。

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 中国の法律では共同出願した特許などで海外と協力していても、中国の人や組織が関わると中国の技術とみなされる。米国は中国への先端技術の輸出規制の範囲を広げている。中国も対抗措置として同様の規制を強めれば、共同特許などの技術を使った製品を中国外でも開発・生産できなくなる恐れがある。「人質」にされた格好だ。
 日本企業の共同出願はEV向けなどの新技術が目立つ。トヨタ自動車は最多の約30件あった。次世代車の中核技術を中心に幅広い分野にわたる。自動運転の制御や急速充電できる新型電池向けが多い。日立製作所も約10件あり自動運転やEVの充電システムなどが中心だ。両社とも清華大学などとの出願が多かった。

ファーウェイとも出願
 米政府が技術も含めた輸出の全面禁止を検討している華為技術(ファーウェイ)との共同出願もある。電子部品大手のアルプスアルパインは5件の共同出願のうち4件がファーウェイで、スマホ用とみられるカメラ部品の特許を出願していた。
 米紙によると、米政府にはファーウェイとの直接取引だけでなく技術や製品を供給する外国企業への輸出も禁じる案がある。あるコンサルティング会社は「共同出願が『技術の取引』とみなされれば米国からの輸出規制の対象に含まれる恐れもある」と指摘する。
 トヨタは「共同出願は世界で実施している。中国が特別多いわけではない。地域ごとに様々な可能性を想定して活動している」とし、日立は「各国の法規を順守しながら知財の活用戦略に基づき特許の精査・出願および適切な技術管理を行っている」とした。アルプスアルパインは「ファーウェイとの共同出願の事実はあるが、同社への対応については米国の指針を順守しており、方針は今後も変わらない」とコメントした。
 米中の先端技術を巡る覇権争いは激しさを増している。国家間競争の死命を制するとみて法律や輸出規制を駆使し互いを出し抜こうとしている。
 中国の存在感は知財でも高まっている。特許の出願は11年から世界最多だ。海外企業を相手取る特許訴訟も増え、21年は19年比2.5倍になった。モノに加え知財も他国への武器にしつつある。

アップルに火種
 火種を抱えるのが米アップルだ。「iPhone」などで使う音声補助機能「Siri(シリ)」が中国の人工知能(AI)企業の特許を侵害したとして12年に提訴され係争が続く。裁判所は中国社の特許の有効性を認めており不利な立場となった。
 仮に特許侵害と生産・販売の差し止め請求が認められれば、中国ではシリを搭載する製品を生産・販売できなくなる恐れもある。「中国企業はアップルが訴訟の長期化と敗訴のリスクを嫌って和解交渉に応じることを期待しているのではないか」(中国法務にくわしい鹿はせる弁護士)との見方がある。米中対立が一段と激化すればアップルなど米国企業が標的とされ、世界で一体化していた知の供給網が断たれる可能性がある。
 「特許はどうなる」。22年11月、仏ルノーが設立を発表した中国自動車大手の浙江吉利控股集団とのガソリン車の合弁会社。 ルノーと企業連合を組む日産自動車の幹部が懸念したのも知財だ。
 日産とルノーは多くの特許を共同で保有する。合弁会社を将来、吉利が子会社化すれば、所有権が吉利に移る可能性がある。その技術が中国の輸出規制に入れば、日産が世界で手掛けるエンジンなどの供給網に影響が出かねない。日産幹部は「将来のリスクを抑えるために共同特許の利用を制限した」と明かす。
 世界貿易機関(WTO)によると分断で世界の生産額の5%が失われる。5兆ドル(約670兆円)弱にあたる。経済損失に加えて知の分断は技術革新の速度も遅くする。新潟大学などによれば国をまたぐ共同研究による特許の質(論文の引用回数)は国内での共同研究よりも2割高い。冷戦の終結直後に比べ国際研究が加速した00年代の方が協業効果が高かったと分析する。知の分断は技術革新の速度を遅くしかねない。

【米国無人機、ロシア戦闘機と衝突し墜落 黒海上空で】
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米空軍の無人偵察機「MQ9」=ロイター
15日の日経速報メール【ワシントン=坂口幸裕】によれば、米側の説明によると、米軍は14日、黒海上空を飛行していた米空軍の無人偵察機「MQ9」が現地時間の朝にロシアの戦闘機がMQ9のプロペラに衝突した。接触前には複数回にわたってロシア軍機2機が燃料を浴びせたり、MQ9の進路を妨害したりした。米国防総省のライダー報道官は14日の記者会見でMQ9が制御不能になったため墜落させたと説明。衝突でロシア軍機も損傷したとの見解を示した。
【この記事のポイント】
・米無人機がロシア戦闘機と接触し墜落したと米軍が発表
・米側は国際空域での通常任務とし、ロシアの動きを非難
・ロシアは接触を否定し、戦闘機は無事に帰還したと主張
黒海はロシアが侵攻を続けるウクライナ南部に面している。米国はウクライナに武器供与を続ける一方、同盟国でないため派兵はしていない。米軍の無人偵察機が墜落した事態を受け、米ロの軍事緊張が高まるおそれがある。
ヘッカー氏は14日の声明で「MQ9が国際空域で通常任務を実施していたところ、ロシアの戦闘機に進路妨害されて衝突し、墜落した。ロシアの危険な行為で危うく米ロの機体が墜落するところだった」と説明。「米国と同盟国は国際空域での飛行を継続する。ロシアにプロフェッショナルで安全な行動をとるよう要求する」と記した。
一方、ロシア国防省は14日、同日朝に黒海上空でロシア国境に向けて飛行する米軍のMQ9を発見し、同機が設定された空域の境界を侵犯したと発表した。ロシアの戦闘機はMQ9と接触しておらず、無事に飛行場へ帰還したと主張。「無人機(MQ9)は、激しい操縦によって水面に墜落した」とした。ロシア通信などが伝えた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は14日の記者会見で「我々の懸念を表明するため、ロシア側と直接話す」と述べた。ロシア側の狙いについて「黒海の国際空域での飛行や運用を抑止したり思いとどまらせたりするためなら失敗するだろう」と話した。
バイデン米大統領が同日にホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)から事件の説明を受けたと明かした。カービー氏は「ロシア軍機が米軍機の進路を妨害するのは珍しくなく、ここ数週間でもあった」とも指摘した。

【パナHD満額「挑戦へ投資」 集中回答ドキュメント】
 同じ15日の日経速報メールは次のようじ報じた。
 
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 新しい賃金水準や働き方を決める2023年の春季労使交渉が15日、集中回答日を迎えた。歴史的な物価高と人材獲得競争を背景に、各労組が例年にない高い賃上げの要求を掲げている。経営側も前倒しで高い賃上げの意向を表明し、トヨタ自動車などで早期の満額回答や妥結が相次ぐなど異例の展開となっている。主要企業がどのような答えを出すのか、注目の1日を追った。
 午後7時ごろ KDDIは年収を5%以上引き上げ
 KDDIは午後7時ごろ、定期昇給や一時金(12万円)を合わせた年収ベースで5%以上の引き上げを回答し、労働組合と妥結したと明らかにした。年収ベースで5%の賃金改善は、2000年の会社合併以来過去最高となる。
 同社は22年4月に全社員に「ジョブ型」の人事制度を導入し、総合職は職務・役割の評価により変動する賃金制度となり、ベアによる賃金改善は行っていない。一時金の支給は「急激な物価高のなかでも会社貢献に尽力し続ける労に報いるため」(KDDI)などを理由にあげた。
 午後6時過ぎ NTTは月3300円で妥結
 NTTは午後6時過ぎ、ベアに相当する賃金改定について月3300円で妥結したと明らかにした。昨年より1100円上積みし、過去最高額となる。定期昇給分や一時金を含めて年収ベースの賃上げ率は3.3%。NTT労働組合は組合員の月例賃金の2%(定昇分を除いた月6400円相当)の引き上げと、物価高対策として年間10万円の「インフレ手当」を要求していた。同社はインフレ手当については「継続的に賃上げをしていくことが重要」(広報)として支給しないことを決めた。

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 UAゼンセンに加盟する小売業ではパート時給を大幅に引き上げる動きが相次ぐ(15日午後、東京都千代田区)
午後5時半過ぎ ウエルシア、パート時給8.77%引き上げ
 流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンの本部。午後5時半を過ぎても加盟組合から妥結の連絡が次々に届き、室内のホワイトボードに職員が内容を書き取っている。イオン系のウエルシアホールディングスは国内パート従業員の時給を平均8.77%(実額ベースで87.4円)引き上げると回答した。前年実績の3.11%を大幅に上回る。ニトリホールディングスもパート時給を53.6円(5.01%)引き上げる。
 ゲオホールディングスは正社員について、ベアを含む賃上げ額を1万7193円(6.64%増)とした。大卒初任給も2万2000円引き上げる。主要なスーパーなどでは交渉が続いており、夜にかけて会社側の回答が続く見通しだ。

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集中回答日に会見する電機連合の神保政史・中央執行委員長午後4時15分 

電機連合「統一闘争の良さ」、主要12労組で満額
 電機各社の労働組合で構成する電機連合の記者会見が午後4時15分に始まった。ベアにあたる賃金改善について、日立製作所など主要企業12社が月7000円で組合要求に満額で回答した。主要企業すべてが満額回答するのは初めてという。
電機連合は主要企業の労組が同じ額で賃金改善を求める「統一闘争」を実施する。神保政史中央執行委員長は「各社の労組や電機連合が連係することで満額回答を導き出せた。統一闘争の良さが出た」と評価した。

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記者会見する自動車総連の金子晃浩会長午後3時25分自動車総連「来年以降も賃上げ機運高める」

 自動車業界の労働組合が加盟する自動車総連の記者会見が午後3時25分に始まった。ベアにあたる賃金改善額については、完成車や自動車部品など大手12組合すべてで満額か組合要求を超える回答を得た。こうした妥結状況は初めてという。
自動車総連は19年以降、ベアの統一要求額を掲げずに絶対額を重視した取り組みを進めてきた。電動化や自動運転技術を巡る開発費用もかさむなか、金子晃浩会長は「物価上昇で労働者の生活が苦しくなっている点とどう折り合いをつけるのかが 重要だ」と指摘。「来年以降も賃上げの機運を高めていきたい」とも話した。
 金子会長は政府、経済界、労働団体の代表者が意見交換のために15日に開く「政労使会議」にも言及。「具体的な中身を持った話し合いがされることで、(賃上げの)流れが波及していくと思う」と期待感を示した。
 個別企業では、マツダがベアと定期昇給などの総額で月1万3000円の賃上げ、5.3カ月分の年間一時金を求める組合の要求に満額回答した。月1万3000円の賃上げは現在の人事制度になった03年以降で最も多い。インフレ対応で原則一律で支給する一時金の原資も含む。
 竹内都美子人事本部長は「今期の従業員の努力に応えること、足元の物価上昇の不安を払拭すること、当社の回答が地域経済に与える影響を考慮した。取引先などと一緒に成長していく思いを込めた」と語った。賃上げと一時金の合計では前年比5.1%相当の収入増になる。組合は夕方に会社回答の受け入れを機関決定し、交渉が妥結する見通しだ。
 ダイハツ工業も組合の要求に満額で回答した。ベアを含む賃上げ額は1万1200円、一時金は年間5.5カ月分とした。同社は「半導体不足など経営環境は必ずしも明るくないが、物価高など足元の社会環境を踏まえた」と説明した。
 いすゞ自動車はベアと定期昇給の総額で月1万2000円の賃上げ、6カ月分の年間一時金を求める組合の要求に満額回答した。賃金の満額回答は08年以来15年ぶりで、金額も過去最高だ。年収は平均6.3%増えるという。
 日野自動車も賃上げに満額回答した。ベアと定期昇給の総額で月7500円とし、昨年の4250円を上回った。賃上げ率は3%弱とみられる。組合はエンジン不正問題や業績悪化を踏まえて要求水準を業界他社よりも引き下げたものの、物価高対応や人材確保の観点から賃上げを求めていた。年間一時金は5カ月分の要求に対し、4.7カ月分で回答した。22年は5.3カ月分プラス10万円を要求し、回答は5カ月分プラス10万円だった。
 高水準の賃上げは幅広い産業に広がっている。協和キリンは15日までに、ベアに相当する賃金改善について月1万2000円とした労働組合の要求に満額回答した。管理職や契約社員を含む全従業員約4400人を対象にする。ベアは2年連続だが、全従業員を対象にした賃上げは初めて。引き上げ額は過去最大だ。定期昇給を含む賃上げ率は組合員平均5.5%となる。

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集中回答日に記者会見する金属労協の金子晃浩議長㊥午後3時過ぎ 金属労協「価格転嫁で中小の賃上げ後押し」

 自動車や電機など主要な産業別労働組合でつくる金属労協の記者会見が午後3時過ぎに終わった。午後1時30分時点で回答を得られた43組合のすべてでベアに相当する賃金改善の回答を得た。そのうち85%は満額回答だった。43組合の回答額は平均8407円と前年の4倍強となり、14年以降で最も多い。23年にベアを要求した51組合の平均要求額の8280円も上回った。
金属労協は23年の春季労使交渉で、ベアについて「月6000円以上」を統一要求として掲げていた。金子晃浩議長(自動車総連会長)は「極めていい流れができているので、これを全ての働く人に広げることが重要。今後も中堅中小の賃上げを後押しする ほか、賃上げに不可欠である価格転嫁も進めるべく、関係先に働きかけていく」と話した。
 スズキも組合が要求している月1万2200円の賃上げについて満額回答した。賃金改善分と定期昇給にあたる賃金制度維持分を合わせた額で、昨年の7100円から5100円引き上げた。年間一時金も要求通り5.8カ月分と回答した。

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春季交渉の結果について記者会見する日立製作所の田中憲一執行役常務(15日午後、東京都千代田区)
〜午後2時 日立が副業制度導入、社員の学び直し促す

 日立製作所は午後1時から東京都内の本社で記者会見を開いた。人事労務を担当する田中憲一執行役常務はベアに相当する賃金改善を7000円で満額回答したことについて、「成長と分配の好循環を特に意識した人への投資だ」と話した。
 記者会見では10月に副業制度を試験導入することも明らかにした。社内外で新しい知見やスキルを身につけてもらう機会を提供し、従業員のリスキリング(学び直し)を促す。田中氏は「賃金引き上げのモメンタム(推進力)を維持する。そのためには会社と従業員が成長し、労働生産性を向上させる必要がある」と述べた。
 製造業以外でも高水準の回答が広がっている。「すき家」などを展開するゼンショーホールディングスはベアに相当する賃金改善分について、正社員を対象に月平均2万6718円(7.72%増)で妥結した。ベアは11年連続で、引き上げ額は過去最高だ。同社は30年まで毎年ベアを実施する方針を21年から掲げており、今回も「国内外の優秀な人材を確保するため、大幅に給与を引き上げる」と説明する。定期昇給を含む賃上げ額は同3万2864円(9.5%増)で、大卒の初任給も2万8000円引き上げる。
午後1時 三菱電機「企業変革に向け人への投資継続」
 パナソニックホールディングス(HD)はベアに相当する賃金改善分について、組合が要求した月7000円に満額回答した。前年回答額(1500円)を大きく上回る水準で、賃金改善は10年連続。同社は「厳しい経営状況ではあるが、社員のモチベーションを高め、高い目標に挑戦するための投資として判断した」と説明した。
 三菱電機も賃金改善として月7000円を回答した。記録の残る1974年以降で初めて組合の要求に満額で回答した。賃金改善は10年連続で、単純比較はできないものの1997年(8965円)以来26年ぶりの高水準となる。査定による昇給を含む賃上げ率は平均5.0%。阿部恵成・上席執行役員は「(品質不正問題を受けた)改革を着実に実行し、企業の変革を遂げるべく、より一層の頑張り・努力に期待を込めた。人への投資を強化していく」とコメントした。
 電機では村田製作所やOKIも月7000円の組合要求に満額で回答した。シャープも組合の試算によると、賃金改善は月7000円で、組合要求通りの満額回答となる。パネル市況の悪化などが響き今期は営業損益は200億円の赤字の見通しだが、電機連合に所属する他社と同水準にそろえたもようだ。

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会見するトヨタ自動車の佐藤恒治次期社長(15日、愛知県豊田市)
〜正午 トヨタ佐藤次期社長「きょうがスタートの日」

 トヨタ自動車の佐藤恒治次期社長は午前11時30分からトヨタ本社で記者会見を開いた。中小企業を含めた波及について「前向きな話し合いが多く行われたと実感を持っている」と語り、早期決着に手応えを示した。電動化や自動運転といった「CASE」などに迅速に対応するため、24年4月に入社年次や学歴を評価要素から排除することなどを柱とした新人事制度を導入することも明らかにした。佐藤氏は「きょうが交渉の最終日ではなく、今後の具体的施策をスタートする日だ」と強調した。
 自動車や電機など主要製造業では労働組合のベア要求に満額で回答する企業が相次いでいる。
 日立製作所はベア相当の賃金改善額を月7000円とし、労働組合の要求に満額回答した。電機連合の妥結目標の「月5000円以上」や昨年の妥結額3000円を上回り、1998年に現在の要求方式になって以来、過去最高となった。ベアは10年連続で、賃金維持分を含む賃上げ率は3.9%となる。富士通も賃金改善分について月7000円とした組合の要求に満額回答した。昨年の1500円を大きく上回り、現在の交渉方式が始まった2007年以降でもっとも高い。
 日産自動車は組合が要求している月1万2000円の賃上げについて満額回答した。定期昇給と基本給を一律で底上げするベアに相当し、賃上げ率は3.4%。現行の人事制度になった04年以降で最高だ。満額回答は3年連続で、昨年から4000円引き上げた。収益は回復傾向で物価上昇などの影響も加味した。
 SUBARU(スバル)は、ベアと定期昇給を含む総額で月1万200円の賃上げと5.6カ月分の年間一時金を求める組合の要求に対し、それぞれ満額で回答した。ともに満額回答するのは13年以来10年ぶりとなる。賃上げ率は3.3%。賃上げ額は20年に要求方針を変えて以降では最高となり、22年の6400円を大きく上回る。

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JAMの安河内会長は「大手では次元の違う春闘になった」と手応えを述べた
午前11時 JAM会長「中小は大幅に上積み必要」

 中小製造業の労働組合を中心に構成するJAMが労使交渉の回答状況を午前11時に発表した。全体の賃上げの回答は定期昇給分を含めて9128円(賃上げ率3.3%)だった。前年を3363円上回った。安河内賢弘会長は「交渉が先行する大手企業では次元の違う春闘になった」と手応えを述べた。
 今後は中小企業に波及するかが焦点だ。組合員が300人未満の労組の回答は8512円(賃上げ率3.3%)で過去最高の水準だ。ただ、安河内会長は「1次回答の段階で500〜2000円の回答を示す企業もあり、前年までの春闘の状況を引きずっている。これから大幅な上積み交渉をする必要がある」と語った。

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労使交渉の回答状況をボードに書き込む金属労協の職員(15日午前、東京都中央区)
〜午前10時半 NECがベア7000円で満額回答

 NECはベアに相当する賃金改善を月5000円、福利厚生制度に使えるポイントを月2000円分で、労働組合が要求した7000円に満額で回答した。22年の月3000円を大きく上回る。賃金改善は10年連続で、累計の改善額は2万2000円となる。初任給は1万円増やし、大卒が23万7000円、修士修了が26万1000円とした。引き上げ幅は組合の求めていた5000円以上を上回る水準となった。
〜午前10時 川重がベア1万4000円で満額回答
 川崎重工業は労働組合が要求していたベアに相当する賃金改善について、満額の月1万4000円を回答した。物価の高騰などを踏まえた。重工大手では三菱重工業とIHIも14日までに満額となる1万4000円で回答する方針を固めている。
主要製造業の産別労働組合で構成する金属労協(東京・中央)では各社の回答状況をまとめている。新型コロナウイルス感染拡大前までは多くの報道陣がつめかけたが、昨年に続き入室が制限され、回答状況はホームページで随時公開する。
午前9時 トヨタが4回目の労使交渉開始

 トヨタ自動車は4回目の労使交渉を開始した。2月22日に開いた初回交渉で賃金・一時金について満額回答をしており、2年連続で初回交渉での決着となっている。佐藤恒治次期社長は早期の満額回答について「自動車産業全体への分配を促す先頭に立ちたい」としており、グループ会社や中小部品会社への裾野の広がりも注目される。

【サムスン、韓国に半導体新拠点 受託生産に計31兆円投資】
 同じ15日の日経速報メールは次のように報じた。

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平沢キャンパスでも活発な半導体投資が進む
 【ソウル=細川幸太郎】韓国サムスン電子がソウル市近郊に新たな半導体拠点を建設する。先端半導体の受託生産工場を計5棟建てる計画で、投資総額は300兆ウォン(約31兆円)規模になるという。米中対立の先鋭化で浮上した半導体を巡る地政学リスクを意識し、韓国政府の支援を受けながら自国内での巨額投資に踏み切る。
 韓国政府が15日午前に開いた経済会議で、サムスンの半導体部門トップの慶桂顕(キョン・ゲヒョン)社長が半導体拠点の新設計画を明らかにした。ソウル近郊の京畿道龍仁市に710万平方メートルの用地を確保し、半導体生産の工場棟を順次建設する。1棟目の生産開始は2029年ごろになる見通しで、42年までの総投資額は300兆ウォンを想定する。
 新拠点では受託生産を中心に一部メモリーも生産する。微細な電子回路を形成する半導体は年々量産の難易度が高まり、設備投資の金額も膨らむ傾向にある。生産工程を外部企業に委託するケースが増えており、サムスンは設計専業の半導体メーカーからの受託生産事業を成長の柱に位置付けている。
 龍仁市の新拠点は、サムスンにとって国内4カ所目の半導体製造拠点となる。3カ所目で広さ290万平方メートルの「平沢キャンパス」は工場6棟が稼働予定で、現在4棟目の建設が進む。まだ2棟分の増設余地があるものの、用地確保と整備に時間がかかるため新拠点建設を早期に表明した。
 自動車やIT(情報技術)など幅広い産業で技術革新のけん引役となる半導体は、米中対立の焦点になっている。米政府が中国の半導体産業を抑え込むため規制を打ち出すなか、同盟国の韓国サムスンは米政府の要請に応じて米国でも半導体工場の建設を進めている。最先端工場を自国で運営する一方、米国でも一定の量産規模を確保することで地政学リスクの低減を狙う。

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 半導体産業ではTSMCとサムスンが最先端技術を競い合っている。調査会社トレンドフォースによると、受託生産分野では台湾積体電路製造(TSMC)が世界シェアの56.6%を握り、サムスンは16.4%の2位。サムスンは生産規模の拡大とともに最先端半導体の研究開発にも注力し、TSMCに対抗する。
 サムスンが韓国内で長期的な投資姿勢を示すことで有力サプライヤーの韓国進出を促す効果もある。オランダのASMLや日本の東京エレクトロンといった製造装置の世界大手が韓国で拠点を拡充しており、今回の巨額投資で装置や素材メーカーの韓国進出が加速する可能性がある。

【北朝鮮、ICBM級ミサイル発射 北海道沖EEZ外に落下】
 16日朝、日経速報メールは次のように報じた。

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北朝鮮の弾道ミサイル発射について記者団に説明する浜田防衛相(16日、防衛省)
 防衛省は16日、北朝鮮が午前7時9分ごろ大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイル1発を東方向に発射したと発表した。北海道の渡島大島の西200キロメートル程度で日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落下したと推定した。
 飛距離は1000キロメートル程度、最高高度は6000キロメートルを超えたとみられる。午前8時19分ごろに落ち、およそ70分飛んだ。ICBM級の発射は可能性があるものや推定も含めると2月18日以来で12回目。
浜田靖一防衛相は当初記者団に北海道沖250キロメートルに落ちたとの情報を明かした。防衛省は落下地点を精査し、修正した。
 同省によると現時点で航空機や船舶などから被害の報告はない。日本政府は北朝鮮に「厳重な抗議と強い非難」を伝えた。
岸田文雄首相は首相官邸で記者団に「地域の平和と安定は関係国にとって大変重要な課題だ。同盟国、同志国との連携をより一層緊密なものにしていかなければならない」と強調した。国家安全保障会議(NSC)を開き、対応を協議した。
 松野博一官房長官は臨時の記者会見で、ミサイルは通常よりも高い高度で飛ぶ「ロフテッド軌道」だと推定されると説明した。
韓国軍合同参謀本部も16日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルを発射したと発表した。長距離級を1発、首都平壌の近郊から撃った。
 韓国大統領府は緊急の国家安全保障会議(NSC)の常任委員会を開いた。来日前の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が出席し、進行中の米韓合同軍事演習を徹底的に遂行するよう指示した。日米との安全保障協力のさらなる強化を呼びかけた。
尹氏は16日に来日し、午後に首相と会談する。
 北朝鮮による弾道ミサイル発射は2023年に入り6回目となる。14日にも短距離弾道ミサイルを発射した。韓国と米国が13日から大規模な合同軍事演習に入ったのを受け、対抗姿勢を鮮明にしている。
 首相は16日午前7時13分、関係省庁に①情報収集・分析に全力を挙げ国民に迅速・的確な情報提供、②航空機や船舶などの安全確認の徹底、③不測の事態に備え万全の態勢をとる――の3点を指示した。

【クレディ・スイス、中銀から最大7兆円調達へ】
 同じ16日午前、日経速報メールは次のように報じた。

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欧州株式市場ではクレディ・スイスの経営不安が広がっている=ロイター
 スイスの金融大手クレディ・スイス・グループは16日、スイス国立銀行(中央銀行)の資金供給策を使って最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を調達する用意があると発表した。「先制して流動性を強化するため断固たる行動を取る」と強調した。
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• ・クレディ・スイス株最安値 中銀「必要なら流動性供給」
15日の欧州株式市場では同社の経営不安が広がり、株価が一時前日比で約3割下落していた。スイス国立銀はスイス金融市場監督機構(FINMA)と連名で出した同日の声明で「システム上重要な銀行に対する資本や流動性の要件を満たしている」との見解を示し、必要があれば資金供給で支援すると表明していた。
クレディ・スイスは債券などを担保に資金を借りられる中銀の供給枠を活用し、手元流動性を厚くする。ウルリッヒ・ケルナー最高経営責任者(CEO)は「クレディ・スイスを強くするための断固とした行動を示すものだ」とコメントした。発表は現地時間未明で、投資家の動揺を抑えるため迅速な対応を迫られた。
世界各地で金融事業を展開するクレディ・スイスは「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」の指定を受け、国際的な銀行規制で自己資本などに厳しい要件が課されている。同社によると危機局面で対応できる手元資金の水準を示す「流動性カバレッジ比率(LCR)」は14日時点で約150%と、2022年末時点の144%から改善した。「金利リスクに保守的な持ち高をとっている」と説明して財務の健全性を強調した。
クレディ・スイスはリスク管理を巡る問題や経営管理上の不祥事が相次ぎ、最近は中核の富裕層向け事業で預かり資産の流出も続いて経営不安が広がっていた。15日には筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクの会長が追加出資をしないと述べたと伝わり、株安に拍車がかかった。
同会長は16日、米メディアのインタビューに応じ、追加出資をしない理由は出資比率を10%以上にしないルールであることを説明するとともに、クレディ・スイスの状況について「健全だ」と述べた。16日の欧州市場でクレディ・スイスの株価は急反発して始まった。
クレディ・スイスの発表を受けて外国為替市場では安全通貨の円が幅広い通貨に対して売られた。対ドルの円相場は発表前の1ドル=132円50銭近辺から一時133円台半ばと1円ほど円安・ドル高が進行した。スイス国立銀による支援で大きな混乱は避けられるとの期待感が広がった。

【韓国大統領12年ぶり単独来日 16日夕に首脳会談 経済交流活性化へ財閥トップも同行】
 同じ16日、日経速報メールによると、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が16日、日本に到着した。夕方に首相官邸で岸田文雄首相と会談する。複数の首脳が集まる国際会議ではなく、韓国大統領が単独で来日するのは12年ぶり。韓国の財閥トップも同行し、経済交流の活性化を促す。

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羽田空港に到着した韓国の尹大統領㊨(16日)
17日まで滞在する。日本で日韓首脳が会談をするのも5年ぶりとなる。2018年に日中韓3カ国の首脳会談の機会に当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と安倍晋三首相が会って以来だ。北朝鮮は16日午前に弾道ミサイルを発射した。首脳会談では北朝鮮の軍事活動の活発化を踏まえ、日米韓で抑止力を高める方策について協議する方向だ。

【日韓財界、経済分野で共同事業 基金創設で合意】
 同じ16日午後、日経速報メールは伝えた。

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 パートナーシップ基金について記者会見し、握手する経団連の十倉会長㊨と全経連の金秉準(キム・ビョンジュン)会長代行(16日、東京都千代田区)
 経団連は16日、韓国の全国経済人連合会(全経連)と日韓関係の改善に向けた「未来パートナーシップ基金」を創設することで合意したと発表した。各団体が基金を設けて1億円ずつ出し合う。資源・エネルギーや脱炭素といった経済分野を中心に共同事業を展開する。インターンシップなど若手人材の交流を促す取り組みにも充てる。
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韓国政府が元徴用工問題の解決策を示し、関係改善の機運が高まっていることを踏まえ、経済界も連携を強化する。経団連と全経連は夏ごろまでに基金をそれぞれ設立し共同事業の財源とする。具体的な事業を詰め、早ければ年内にも始める。
経済分野は経済安全保障のほか、環境対策やデジタル、少子高齢化など両国が抱える課題解決につながる事業を想定する。人材交流では韓国の若者を日本企業に招くインターンシップなどを検討する。
 岸田文雄首相は16日、基金について「歓迎する」と述べた。経団連の十倉雅和会長は同日の記者会見で「未来志向の日韓関係構築に向けた道筋を確固たるものにする」と強調した。全経連の金秉準(キム・ビョンジュン)会長代行は「韓日が進むべき未来像と協力のあり方について研究し、未来世代が互いに理解して協力できる環境づくりに力を入れる」と訴えた。
 元徴用工訴訟で被告企業となっている日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業を含めた個別企業は当面は参加しない見通しだ。経団連は事業が軌道に乗れば会員企業にも参加を呼び掛ける方針で、十倉氏は「企業に境界は設けていない」と述べた。
 韓国政府の解決策では、政府傘下の財団が被告企業の賠償を肩代わりする方式となっている。経団連によると、基金を賠償資金には充てないことで全経連と合意しているという。両者でつくる運用規定にも定める方向だ。17日には両団体で会合を開き、今後の経済協力の進め方について意見を交わす。
 経団連と全経連は相互訪問するなどして民間交流を続けてきた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で中断していたが、22年は十倉氏が訪韓。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とも面会し、日韓関係正常化のため早期の首脳会談の実現を求めた。

【韓国向け輸出管理を緩和、半導体部材など3品目 経産省】
 同じ16日午後、日経速報メールは伝えた。

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経済産業省は半導体部材3品目の輸出厳格化の解除を決めた(東京都千代田区)
 日本政府は2019年7月に導入した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化措置を解除する。経済産業省が16日、輸出時に個別の許可を求める厳格な措置を緩和すると発表した。輸出管理を巡る両政府の局長級対話を同日まで開き、韓国の輸出管理当局の体制や運用状況が改善されたと判断した。韓国政府は16日、厳格化措置を受けて進めてきた世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを取り下げると発表した。
 日本政府は軍事転用の恐れが低いとされる製品を自由に輸出できる「グループA(旧ホワイト国)」の対象からも韓国を除外していたが、この措置は現段階では継続する。対話を通じて韓国側の管理体制などを改めて確認したうえで解除を判断する。

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 政府は19年7月に半導体生産に不可欠な「フッ化水素」や「レジスト(感光剤)」、有機ELパネルの保護部材に使う「フッ化ポリイミド」の3品目で輸出案件ごとに個別審査を求める対象にしていた。企業が一度許可を取れば一定期間、個別審査なしで輸出できる「包括許可制度」を使うことができた。近く外為法の通達を改正し、個別の許可は不要にする。
 韓国は6日、日本による厳格化措置を受けて進めてきたWTOの紛争解決手続きを中断すると発表していた。経産省はこれを踏まえて「19年7月以前の状態に戻すべく、2国間の協議を速やかに行っていく」と説明していた。輸出管理を巡る政策対話は20年3月以来、3年ぶりとなる。

【日韓シャトル外交再開、経済安保対話を新設へ 首脳会談】
 同じ16日午後、日経速報メールは伝えた。
 岸田文雄首相は16日、首相官邸で韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。首脳間の相互訪問の枠組み「シャトル外交」の再開で一致した。首相は会談後の共同記者会見で韓国政府による元徴用工問題の解決策を評価した。
 首相は記者会見で「今後も両国で頻繁に連携し一つ一つ具体的な成果を出していきたい」と話した。尹氏は「韓国と日本の国益はゼロサムではなく、ウィンウィンにできる」と強調した。
首相「適切な時期に訪韓検討」
 韓国大統領が日本を訪問して首脳会談をするのは国際会議にあわせたものを除けば2011年以来、およそ12年ぶりだ。
 シャトル外交の再開を機に、日本政府は5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に尹氏を招待する方向で調整している。首相は「今後、適切な時期に訪韓を検討することになる」と語った。
 首相は韓国の財団が元徴用工問題で日本企業の賠償を肩代わりする解決策について「非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と言明した。
 尹氏は財団が賠償を肩代わりした後の求償権に関し「もし行使すればすべての問題を元に戻すものだ」と述べ、求償権の行使を想定していないと主張した。首相も「行使は想定していないと承知している」との認識を示した。

日韓共同宣言を継承
 両首脳は植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言を継承する立場を共有した。首相は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいると確認した」と説明した。
1 6日朝に大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のミサイルを発射した北朝鮮を巡っても協議した。首相は「日韓、日韓米の安保協力を力強く推進していく重要性を確認した」と語った。
 尹氏は「北朝鮮のミサイルの発射と航跡に関する情報を両国で共有し、対応できるようにしなければならない」と指摘し、探知情報の共有に意欲を示した。
 情報包括保護協定を正常化
 19年に韓国が一方的に破棄を通告し不安定な状態になった「日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」も議論した。尹氏は会談で「GSOMIAの完全な正常化」を宣言したと明らかにした。
 経済産業省は16日、日本が19年に導入した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化措置を解除すると発表した。韓 国政府も厳格化措置を受けて進めてきた世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを取り下げると決めた。
 尹氏は輸出管理の厳格化措置の解除に触れ「ホワイト国への早急な回復に向け、緊密な対話を続ける」と話した。

経済安全保障対話の新設合意
 政府間の意思疎通を活発にすると申し合わせた。首相は「まず長い期間中断していた日韓安全保障対話を早期に再開する」と表明した。半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)の強化に向け「経済 安全保障対話」の新設でも合意した。
首相は経団連と韓国の全国経済人連合会(全経連)が表明した「未来パートナーシップ基金」の創設を歓迎した。

【「台湾への武力行使認めず」 ショルツ独首相インタビュー】
 16日夕方の日経速報メールは伝えた。

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ベルリンの首相官邸で取材に応じるショルツ独首相=マーリス・マテス撮影

【欧州総局=赤川省吾】ドイツのショルツ首相が日本経済新聞の単独インタビューに応じた。「特定の国への一方的な依存を避け、新しい販売市場を開拓する」と述べ、ドイツ経済の中国依存度を引き下げる考えを示した。台湾有事については「現状変更のために武力を用いてはならない」と中国をけん制した。ドイツはメルケル政権時代の中国偏重のアジア政策から大きく転換する。
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日独政府は18日、両国の首相らが出席する新しい定期協議の枠組み「政府間協議」の初会合を都内で開く。ショルツ氏は訪日前にベルリンの首相官邸で取材に応じた。
ドイツはアジア政策で中国を最重視し、外交・通商とも中国一辺倒といえる状況が長く続いてきた。
しかし習近平(シー・ジンピン)体制の強権化で警戒感が高まり、距離を置きつつある。ロシアのウクライナ侵略でドイツはエネルギーの脱ロシアを強いられた。この教訓も特定の国に経済を依存することへの危うさを浮き彫りにした。
ショルツ氏は中国以外のアジア諸国に目配りすることで、中国偏重を是正していく考えだ。日本や韓国、インドなどを列挙し「ほかの国との関係を深め、供給網や販売市場で特定の国に依存しないようにする」と述べた。
米国のように中国との分断を志向しているわけではない。インタビューでは過度な中国批判は避け「デカップリング(分断)はしないし、(経済面での)協力も続ける」と語った。

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 それでも以前との温度差は明らかだ。「全ての卵を1つのカゴに入れてはいけない」。ドイツのことわざをショルツ氏は口にし、ドイツ企業は「多様化を進め、リスクを削減」するのが望ましいと明言した。
 こうした政府指針を盛り込んだ「新しい中国政策」を近く取りまとめ、閣議決定する見通し。今後は中国に代わってインドや東南アジアで官民一体となって通商拡大を図るとみられる。
現時点でドイツ経済と中国の結びつきは強い。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は世界で販売した乗用車のうち約4割を中国が占める。簡単には代替市場はみつからない。
 それでもアジア政策が大きく軌道修正されるのは間違いない。特に日本には追い風だ。ショルツ氏は昨年、アジアにおける初の外遊先に中国でなく、あえて日本を選んだ。対日関係を「新しいステージ」に引き上げるためだったという。
 盟主ドイツの方針転換で欧州全体のアジア政策が「中国離れ」にじわじわとシフトしそうだ。経済的な利益は引き続き追求するものの、先端技術の流出などは厳しい制限をかける。「中国における新しい大型投資はしにくい空気になってきた」との声が欧州の経済界からも漏れる。
 一方、ショルツ氏はウクライナ侵攻を続けるロシアについて「帝国主義的な道を選んだ」と強い調子で非難した。ウクライナを徹底的に支援する考えを明らかにした。焦点となっている脱原発政策については完遂する考えを表明した。

【侍ジャパンがWBC4強 9-3でイタリア下す】
 同じ16日晩、日経速報メールは次にように報じた。

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WBC準々決勝のイタリア戦に先発し、力投する大谷=共同
 野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は16日、東京ドームで準々決勝が行われ、3大会ぶり3度目の優勝を目指す日本(1次リーグB組1位)がイタリア(A組2位)を9-3で下し、5大会連続で4強入りした。準決勝は米マイアミで20日午後7時(日本時間21日午前8時)から、メキシコ(C組1位)―プエルトリコ(D組2位)の勝者と戦う。
 日本は三回、「3番・投手兼指名打者」の大谷翔平(エンゼルス)の投前バント安打に敵失が絡んだ1死一、三塁から吉田正尚(レッドソックス)の内野ゴロの間に1点先制。なおも好機で岡本和真(巨人)が3ランを放ち、この回4点を先行した。五回は村上宗隆(ヤクルト)の適時二塁打、岡本和の2点二塁打で3点を追加。七回は吉田のソロなどで加点した。岡本和は5打点の活躍。
 先発の大谷は直球が164キロをマークし、四回まで無失点。五回2死満塁から2点打を打たれたところで降板した。2番手の伊藤大海(日本ハム)がこの回のピンチをしのぎ、六回は今永昇太(DeNA)が三者凡退に仕留めた。10日の韓国戦で3回3失点(自責点2)だったダルビッシュ有(パドレス)が七回から登板し、2回1失点。九回は大勢(巨人)が無失点で締めた。
 1次リーグから打順を入れ替え、吉田が4番に座り、村上は5番。韓国戦で右手小指を骨折し、翌11日からの2試合を欠場した源田壮亮(西武)が「8番・遊撃」でスタメン出場、七回に適時打を放った。

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三回1死一塁、大谷がバント安打を決める=共同

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三回2死一、二塁、岡本和が左越えに3ランを放つ=共同

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七回から救援登板したダルビッシュ=ロイター

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七回、吉田が本塁打を放つ=共同

15日は1次リーグC、D組が米マイアミなどで行われ、D組は2大会連続準優勝のプエルトリコがドミニカ共和国を5-2で下し、3勝1敗の同組2位で準々決勝進出を決めた。2大会ぶりの優勝を目指したドミニカ共和国は2勝2敗で、1次リーグ敗退となった。
C組はメキシコがカナダに10-3で勝って同組1位、2連覇を目指す米国はコロンビアに3-2で競り勝って同組2位となり、準々決勝進出を決めた。ともに3勝1敗だが、直接対決で勝利したメキシコが同組の順位で米国を上回った。
D組ではほかにベネズエラが1次リーグ突破を決めており、マイアミで行われる準々決勝は17日(日本時間18日)にメキシコ―プエルトリコ、18日(同19日)にベネズエラ―米国の組み合わせとなった。
プエルトリコは三回、バスケス(ツインズ)のソロ本塁打やリンドア(メッツ)、ヘルナンデス(レッドソックス)の適時打などで4点を先行。五回はリンドアの中前打を相手の中堅手が後逸(記録は敵失)する間に、リンドアが一気に本塁生還を果たした。ドミニカ共和国はソト(パドレス)のソロなどによる2点にとどまった。

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ドミニカ共和国戦の三回、先制ソロを放つプエルトリコのバスケス(マイアミ)=ロイター

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プエルトリコに敗れ、肩を落とすドミニカ共和国のソト(左端)ら=ゲッティ共同

メキシコは一回、テレス(ブルワーズ)の2点打で先制。3-2の六回はアロザレーナ(レイズ)の3点二塁打と元オリックスのメネセス(ナショナルズ)の適時打で4点、七回にも2点を加えて突き放した。カナダは元オリックスのアルバースら投手陣が不調で、2勝2敗。

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カナダ戦の六回、3点二塁打を放ってポーズをとるメキシコのアロザレーナ(フェニックス)=AP
米国は三回、トラウト(エンゼルス)の適時打で1点先制。逆転された後の五回は再びトラウトが適時打を放って2人の走者をかえし、試合をひっくり返した。先発のケリー(ダイヤモンドバックス)は3回2失点だったが、後を受けた6投手で以後の6イニングを無失点にしのいだ。コロンビアは1勝3敗。

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コロンビア戦の五回に逆転の2点打を放つ米国のトラウト=USA TODAY

ベネズエラはイスラエルに5-1で快勝し、4戦全勝のD組1位で準々決勝に臨む。一回、アクーニャ(ブレーブス)とスアレス(マリナーズ)の適時打で3点先制。四回はEdu・エスコバル(メッツ)がソロ、六回にはスアレスにも本塁打が出て加点した。イスラエルは1勝3敗。

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イスラエル戦の四回、ベネズエラのEdu・エスコバルがソロ本塁打を放つ=USA TODAY

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【米大手11行、ファースト・リパブリック支援 4兆円預金】
 17日午前の日経速報メールは次のように報じた。

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預金流出が懸念されるファースト・リパブリック(15日、ニューヨーク市内の店舗)
【ニューヨーク=竹内弘文】JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)など大手銀行11行は16日、合同で中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクに対して合計300億ドル(約4兆円)を預金すると発表した。預金流出が加速する同行の資金繰りを支える。実質的な信用補完の側面もある。
【関連記事】
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 JPモルガンとバンカメ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの大手商銀4行は50億ドルずつ、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは25億ドルずつ預金する。USバンコープやPNCフィナンシャル・サービシズといった準大手行や、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンやステート・ストリートのような資産管理業務に強い銀行も支援策に加わった。
 米財務省と米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)、米通貨監督庁(OCC)は共同声明を出し、11行による支援策を「銀行システムの耐久力を示すものだ」と歓迎した。
 シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻を受けて、預金保険制度で保護されない預金を多く抱えるファースト・リパブリックの資金繰りに対する不安が高まった。ファースト・リパブリックの株価は2月末から3月15日までに75%下落した。大手格付け会社S&Pグローバル・レーティングは「預金流出リスクが高まっている」として同行の信用格付けを一気に「投機的等級」に引き下げた。
 株価は16日にも一時前日比36%まで下げていたが、経営支援策についての報道が伝わると上げに転じ、10%高で取引を終えた。銀行株の回復が相場全体をけん引し、ダウ工業株30種平均は前日比371ドル高の3万2246ドルとなった。

【習近平氏、3月20日からロシア訪問 プーチン氏と会談】
 17日午後の日経速報メールは次にように報じた。

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ウズベキスタン・サマルカンドで言葉を交わすロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=2022年9月(ロイター=共同)

 中国の習近平国家主席は3月20日から22日までの日程でロシアを訪問する。中国外務省が17日発表した。プーチン大統領の要請に応じて首脳会談をする。ロシアのウクライナ侵攻を巡って中国は独自の仲裁案を公表しており、習氏がプーチン氏に説明する見通しだ。
 ロシアのペスコフ大統領報道官によると、習氏は20日にモスクワに到着しプーチン氏との一対一の食事会に臨む。正式な首脳会談は21日の予定だ。
 中国外務省の汪文斌副報道局長は17日の記者会見で、中ロ首脳会談について「ともに関心を持っている重大な国際社会の問題について意見交換をする」と説明した。「中国はウクライナ危機問題で客観的で公正な立場を堅持しており、話し合いを促すために建設的な役割を発揮する」と強調した。
 ロシア大統領府は17日、首脳会談で中ロ間の包括的なパートナーシップ関係や戦略的協力の発展について議論すると発表した。複数の重要な2国間文書の署名も準備しているという。
 ロシアのウクライナ侵攻を巡って習指導部は批判を控え、米欧日の対ロ経済制裁にも反対する考えを示してきた。バイデン米政権と欧州は中国がロシアに殺傷力のある武器の売却に踏み切ることへの懸念を強めている。
 中国は2月24日にロシア、ウクライナの双方に停戦を促す仲裁案を公表した。習氏はこの案をもとにプーチン氏と協議するとみられる。習氏はプーチン氏と会談後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも協議するとの観測がでている。

【「男女で育休取得なら手取りの10割」 岸田首相表明 子育て支援・少子化対策について記者会見】
 17日夕方の日経速報メールは次のように伝えた。
「少子化反転のラストチャンス」 
 2022年の出生数が過去最少の79万9000人ほどだったことに触れ「30年代に入ると若年人口が現在の倍の速さで急速に減少する」と指摘した。
 「日本の経済社会は縮小し、社会保障や地域社会の維持が難しくなる」と危機感を示した。「30年代に入るまでの6〜7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と少子化対策に取り組む重要性を訴えた。
 「次元の異なる少子化対策」最重要課題に「この国難にあたって政策の内容、規模はもちろん社会全体の意識、構造を変えていく」と述べた。「次元の異なる少子化対策を岸田政権の最重要課題として実現する」と明言した。
「めざすのは若い世代が希望通り結婚し、希望する誰もが子供を持ち、ストレスを感じることなく子育てができる社会だ」と語った。
「若い世代の所得増やす」
 少子化対策について3つの基本理念を提示した。「第1に若い世代の所得を増やすこと、第2に社会全体の構造や意識を変えること、第3に全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること。この3つだ」と説明した。
多様な働き方を阻む「年収の壁」なくす
 一定の年収を超えると社会保障などの負担が増し、就労時間の抑制につながる「年収の壁」への対応についても言及した。「106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援を導入する」と語った。
 「男女ともに子育てにあたってキャリア形成との両立や多様な働き方を阻む壁をなくしていかなければならない」と強調した。
「職場の雰囲気、抜本的変化が必要」
 企業による取り組みも求めた。「出産育児の支援を投資と捉え、職場の雰囲気を抜本的に変えていくことが必要だ」と呼びかけた。「男女ともに希望通り気兼ねなく育休制度を使えるようにしなければならない」と指摘した。

 男性の育休取得率「30年度に85%」 目標引き上げ 
 男性の育休取得率に関して25年度に50%、30年度に85%とする目標を打ち出した。これまでは25年度までに30%と掲げてきた。国家公務員に関しては25年度に85%以上が1週間以上の育休を取得するための計画を策定すると言明した。
 育児休業制度の充実策も示した。完全に休職した際に対象となる育児休業給付に関し「時短勤務時にも給付されるよう見直す」と話した。「産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を手取りの10割に引き上げる」とも強調した。

育児による収入減、非正規・フリーランスへ新支援策
 育休の普及に向けて「最大のポイントは中小企業だ」と指摘した。職場の負担を気兼ねする声が多いことも踏まえ「応援手当など育休を促進する体制整備を進める企業への支援を検討する」と表明した。
 「非正規に加えフリーランス、自営業者の方々にも育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設する」と明らかにした。

給付型奨学金の対象、多子世帯の中間層へ拡大
 教育分野での支援策も示した。給付型奨学金などについて「24年度から多子世帯や理工農系の学生などの中間層へ対象を拡大する」と提唱した。「結婚や出産などのライフイベントに応じた柔軟な返済が可能となるよう減額返済制度も見直す」と話した。

子育て世帯支援に公営住宅など活用
 子育て世帯への住宅支援に関し「公営住宅や民間空き家の活用、住宅取得支援の充実、住まいの環境づくりに取り組みたい」と強調した。都市部の住宅価格高騰を踏まえ「デジタルインフラを整備し、企業立地やテレワークなどを通じて全国どこでも便利で快適に暮らせる社会を実現する」と説いた。

子ども関連予算の倍増「6月までに大枠示す」
 子育て世帯への経済支援として「児童手当の拡充や高等教育費の負担軽減、若い子育て世帯への住居支援など包括的な支援策を講じる」とも打ち出した。6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに子ども関連予算の倍増に向けて大枠を示すと表明した。
 財源を巡っては教育国債の発行について「安定財源の確保、財源の信認確保の観点から慎重に検討する必要がある」と発言した。

子連れ利用者に優先窓口、国立博物館など 
 「子どもファースト社会」の実現が社会全体の課題だと訴えた。国立博物館など国の施設で「子どもファスト・トラック」を設けると打ち出した。子連れの利用者が窓口に並ぶのに苦労しないようにするという。「子どもファースト社会の実現をあらゆる政策の共通の目標とする」と唱えた。

韓国大統領と「楽しい酒を飲んだ」
 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との16日の会談については「前向きな会談ができた」と振り返った。夕食会を巡っては「大変楽しい酒を飲んだ。信頼関係を深める意味で有意義な会話をさせていただいた」話した。
 日韓に「乗り越えなければならない課題がいくつもある」との認識を示しつつ、「こうしたトップ同士の信頼関係をもとに両国関係を前に進められることができれば」と期待を示した。

米銀破綻「金融システムへの影響注視」
 米シリコンバレーバンク(SVB)などの経営破綻を受けた金融システムの状況についても発言した。「足元の金融市場ではリスク回避的な動きがみられる」と指摘した。「流動性供給策など欧米の金融当局が信用不安の影響を拡大させないための迅速な対応を講じている」と評価した。
 「日本の金融機関は総じて充実した流動性、資本を維持しており、金融システムは総体として安定している」と語った。
 「日銀をはじめ各国の金融当局とも連携しつつ内外の経済、金融市場の動向、実体経済や金融システムの安定性に与える影響などについて強い警戒心を持って注視する」と話した。

広島サミット「グローバルサウスへ関与強化」
 5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)で発信したいことを問われると「気候変動など地球規模の課題への積極的な貢献と協力を通じ、グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)への関与を強化したい」と答えた。
 各国首脳と平和記念資料館(広島市)を訪れることを検討していると改めて紹介した。「被爆の実相を伝えることは核軍縮に向けたあらゆる取り組みの原点として重要だ」と強調した。

マスク外す生活「息苦しさ減った」
 新型コロナウイルス対策を巡りマスクを外した状態での生活についても語った。「息苦しさを感じる場面も少なくなったような気がする」と述べた。

【「住宅難民」東京から隣県へ 30・40代、転出超過2万人 チャートは語る】
 19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・住宅費高騰の東京都から周辺3県には転出者が超過
・転入者受け入れへ新築住宅が増えればだぶつく懸念
・シニアを既存住宅に誘致して地域活性化を果たす県も
新型コロナウイルスの影響が弱まり、再び人口の東京圏への一極集中が強まっている。ただ、中核の東京都をみると、高騰する住宅コストの影響で子育て世代を中心に周辺3県への転出超過が止まらない。周辺3県は住民誘致のために新築住宅を増やしており、空き家増加のリスクがある。高齢者や子育て世代な度多世代共生して住める街をつくり、人口を多層的に増やしていく知恵が問われている。
 総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の東京圏は2022年、転入者が転出者を上回る転入超過が9万9519人と前年より1万7820人拡大した。高度経済成長期やバブル期には勢いが鈍ったものの、息の長い転入超過が続く。地方圏はもちろん、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)や名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)も転出超過だ。

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 東京圏も全世代が集まるわけではない。都の人口移動を年代別にみると、15〜29歳が約9万人の転入超過の一方、他の年代はすべて転出超過で、合計で約5万2千人。特に30〜40代(約2万1千人)と0〜14歳(約1万1千人)の転出超過が大きく、子育て世代の「東京脱出」が鮮明だ。

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 なかでも都から周辺3県にはいずれも転出超過で、埼玉への1万2458人を筆頭に計約2万4800人に上る。都外への転出者数は周辺3県が56%を占め、残る43道府県の合計より多い。住宅政策に詳しい神戸大学の砂原庸介教授は「住宅費の高騰が続く都から周辺3県に人口がにじみ出る状況だ」と分析。過去20年ほどの推移をみても、マンション価格が騰勢を強めると転入超過が鈍る傾向がある。
 都の住宅コストを周辺3県と比べると、新築戸建ての価格は2〜5割高、マンション賃料は5割高から2倍、住宅地の地価は2〜5倍だ。砂原氏は「高い住宅コストは避けたいが、東京への通勤圏内から離れる選択肢はないという意識があるのでは。東京以外の地域で魅力的な仕事に就くのは依然として難しい」とみる。子育て世代をひき付ける周辺3県も「実態は都のベッドタウン化の拡大で、企業が従業員ごと移転してくるのとは違う」(砂原氏)。

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 周辺3県は新築住宅で転入者を受け入れる姿勢が目立つ。22年の新設住宅着工は前年比4〜6%増と全国平均(0.4%増)を大幅に上回る。短期的には人口増に沸いても「いずれ増やした住宅がだぶつく懸念はある。高度経済成長期に開発され、現在は人口減と空き家増に悩むニュータウン地域のような苦境に陥らない保証はない」(同)。
 地方はもちろん、東京圏でも住民誘致策の練り直しが必要だ。フィンウェル研究所(東京・新宿)の野尻哲史代表は「若い世代ばかり集めようとしても限界がある。60代前後のリタイア世代を受け入れてはどうか」と提案する。
 東京圏以外で転入超過の数少ない自治体の一角、長野県と茨城県。交通の利便性と割安な住宅費が魅力で、子育て世代に加えてシニア層の支持も広がる。両県とも60代の転入超過数は人口規模がより大きい東京周辺3県を上回った。「シニア層は人口集積部への関心が強い」(野尻氏)ため、地方の中核都市では既存住宅を活用できる余地がある。実際、長野県では既存住宅が一定の受け皿となった。
 資産の保有額が相対的に多いシニア世代を誘致すれば地方の消費を喚起し、仕事の創出につなげることができる。その仕事をテコに若い世代を呼び込む。人口減時代の住民誘致策は新築を増やすのではなく、既存住宅をどれだけ活用できるかにかかっている。(住宅問題エディター 堀大介、グラフィックス 佐藤綾香、映像 碓井寛明)

住宅コスト、持ち家中心に高騰目立つ
 持ち家であれば住宅価格、住宅ローンの利息や修繕費用、賃貸なら家賃や更新料などが該当する。不動産経済研究所(東京・新宿)によると、首都圏の住宅価格は新築マンションの平均価格が2021、22年と2年連続でバブル期もしのぐ過去最高を記録するなど高騰している。表面的には過去と同価格帯でも専有面積がより狭くなるなど実質的な値上げも目立つ。不動産コンサルタントのさくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長は「国内では高騰が目立つ東京なども海外の大都市と比べると上昇率はまだ小さい」と話す。都心の物件は今後、もう一段の高騰も考えられる。

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 従来、大規模な金融緩和を背景に住宅ローン金利は低下傾向で、全体的な負担感を抑制してきたが、22年末の日銀の実質的な利上げを機に一部ローン金利は上昇を始めている。総務省の消費者物価指数でみると、修繕費用も人手不足などを背景に上昇傾向が続いている。
 家賃は全体的な急上昇こそ目立たないが、住宅市場に詳しいコンドミニアム・アセットマネジメント(東京・千代田)の渕ノ上弘和代表は「立地や設備などで条件が整った優良物件の家賃は今後、ほかの品目のインフレに追随して上がっていく公算が大きい」と予測している。

【プーチン氏、マリウポリを電撃訪問 初の制圧地入りか】
 19日午後、日経ニュースメールは次のように報じた。

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 プーチン氏(右)は18日にはクリミア半島の港湾都市セバストポリを訪れて実効支配をアピールしていた=スプートニク・AP
タス通信などによると、プーチン氏はマリウポリをヘリコプターで訪問。市内の複数の地区を車で立ち寄り、現地住民と会話した。住宅建設の進捗状況や、海岸線の状況も視察したという。
 マリウポリはロシアが22年9月に一方的に併合を宣言した東部ドネツク州の要衝。ロシアは同年5月、ウクライナ軍との激戦の末に制圧下に置き、街のロシア化を進めてきた。ウクライナでの戦闘が膠着状態に陥った中の今回の訪問には、侵攻の成果をアピールする狙いがあるとみられる。
 ロシアはドネツク州やルガンスク州などウクライナ東・南部4州について、22年9月にロシアの統制下で「住民投票」を強行し、一方的に併合を宣言していた。
 プーチン氏は18日、14年3月に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島の港湾都市セバストポリを訪れ、実効支配を誇示していた。ロシア国営メディアはプーチン氏が同国南部のロストフナドヌーでウクライナ侵攻を指揮するロシア軍司令官と会談したとも伝えた。
 プーチン氏をめぐっては国際刑事裁判所(ICC)が17日、ウクライナからの子どもの拉致に関与した疑いがあるとして逮捕状を出した。ただ、タス通信によると、プーチン氏は翌18日のセバストポリの滞在中にあえて児童センターなど教育関連施設を訪問。子どもの人権侵害を問題視するICCの立場を真っ向から否定する姿勢をみせた。
 ウクライナ東部では同国軍との戦闘が泥沼化し、ロシア軍は目立った戦果をあげられない状態が続いている。ウクライナのゼレンスキー大統領は同国東部だけでなく、クリミア半島の奪還を目指す考えを示している。
 22年10月には同半島とロシアを結ぶクリミア橋で爆発が発生。ロシアはウクライナ側の仕業とみて同国のエネルギー、軍事、通信施設を標的に大規模な攻撃を実施した。
 今後の戦闘でクリミア半島や東部の支配地が奪還される事態になれば、多大な人的損失を出した侵攻の失敗が鮮明になり、プーチン政権に対する国民の不満が一気に高まる可能性がある。このため、ロシア軍は実効支配地域の守りを固めているとみられる。プーチン氏は17日、クリミア半島の社会経済発展に関する会議で「脅威を阻止するためにあらゆる手段を講じる」と強調した。

【史上最年少で六冠 藤井聡太竜王が語っていた「流動性知能のピーク」】
 19日の朝日速報メールは次のように報じた。
将棋の藤井聡太新棋王(20)=竜王・王位・叡王・王将・棋聖=が羽生善治九段(52)に続く史上2人目、20歳8カ月の史上最年少で六冠を達成した。19日、栃木県日光市で指された第48期棋王戦五番勝負(共同通信社主催)の第4局で渡辺明棋王(38)=名人と合わせ二冠=に勝ち、シリーズ3勝1敗でタイトルを奪取した。

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 昼食休憩後、渡辺明棋王(手前)との対局を再開した藤井聡太五冠=2023年3月19日午後1時、栃木県日光市、代表撮影
 棋界のタイトルは全八冠で、残るは名人と王座のみとなった。4月5日開幕の第81期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催)で渡辺名人に挑戦することが決まっている。王座戦はシードのため、挑戦者決定トーナメントにベスト16から登場する。4連勝して挑戦権を得れば、秋から永瀬拓矢王座(30)との五番勝負を戦うことになる。
 王座戦への過程には叡王、棋聖、王位の防衛戦も控えており、八冠に達するには三つのタイトルを守りながら二つのタイトルを奪わなくてはならない。

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藤井聡太新棋王と全8タイトル
 六冠の節目には、前局の教訓を生かした勝利で到達した。第3局では最終盤で相手玉に生じた詰みを逃して敗れる異例の結末を迎えたが、本局で披露したのはいつも以上に安定感のある指し回しだった。栄光や勝利におごらず、失敗や敗北から学ぶ姿勢を貫くからこそ成長を続けている。
 13度のタイトル戦で不敗のまま13期目(歴代7位タイ)を獲得。羽生九段は六冠を達成するまでに失冠も2度経験しており、藤井新棋王は棋史において例のない強さで疾走を続けていることになる。

【UBS、クレディ・スイスを買収 4200億円で合意】
 20日朝の日経ニュースメール【パリ=北松円香】によると、スイスの金融機関最大手UBSは同2位のクレディ・スイス・グループを買収する。スイス政府とUBS、クレディ・スイスが19日発表した。買収額が30億スイスフラン(約4260億円)相当となる株式交換で実施する。米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻で金融システム不安が高まって経営不振のクレディ・スイスの株価が急落し、預金や預かり資産の流出も加速していた。SVB破綻から始まった市場の動揺は、2000年代後半の金融危機以来となる世界的金融機関の再編に発展した。

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UBSはクレディ・スイスの買収を決めた
【関連記事】
• ・日米欧の6中銀、ドル供給強化で協調 金融不安に対応
• ・株価下落、国内金は最高値 クレディ買収でも不安強く
 スイスのベルセ大統領はこの日の記者会見で「UBSによるクレディ・スイスの買収は、スイスの金融センターに対する信頼を回復するための最良の解決策だ」と述べた。スイス国立銀行(中央銀行)のジョルダン総裁は「破綻はスイスの国際的な評価に深刻な影響をもたらしただろう」と指摘した。
 クレディ・スイスの株主に対し、クレディ株22.48株あたりUBS株1株を割り当てる。買収は可能であれば2023年末までに完了させるとしている。買収額の30億スイスフランは、17日のクレディ・スイス株の時価総額に対しおよそ4割に相当する。買収後の総資産の合計は単純合算で220兆円程度と、スイスの国内総生産(GDP)の2倍強だ。
 スイス中銀はUBSとクレディ・スイスに1000億スイスフランの流動性支援枠を設定する。スイス政府はUBSに対し、買収に伴い今後発生しうる損失に関して90億スイスフランの政府保証も与える。またスイス政府は買収手続きを迅速に進めるため、通常企業統合の際に必要な両行の株主投票の省略を認める。そのための緊急条令を定める。
 UBSのケレハー会長は「クレディ・スイスの投資銀行部門を縮小し、当行の保守的なリスク文化に合わせる」との方針を明らかにした。一方でスイス国内の商業銀行部門は維持するとした。人員削減については「言及するのはまだ早い」と述べるにとどめた。
 クレディ・スイスのレーマン会長は「クレディ・スイスと世界の金融市場にとってとても悲しい日だ」と語り、「米国銀行の問題が我々に不幸なタイミングで打撃を与えた」とした。
 買収交渉は市場の混乱に歯止めをかけるため、月曜日に取引が始まる前の合意を目指して進められた。主要市場で一番早く取引が始まる日本を含め、投資家の反応が次の焦点となる。
 クレディ・スイスは1856年創立のスイスの金融機関。商業銀行業務や富裕層向けビジネスに加え、近年では投資銀行部門を強化し世界的な金融機関に成長した。
 今回のUBSによるクレディ・スイス買収は、リーマン・ショック時以来の主要金融機関の大型再編になる。当時は米銀ウェルズ・ファーゴが同業のワコビアを、米バンク・オブ・アメリカが米メリルリンチを買収するなど金融業界が大きく動いた。
 リーマン・ショックを受け、世界の金融監督機関が「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」を指定し、クレディ・スイスはその30社の1つだった。一般の銀行よりも厚い自己資本を求められていたが、今回の買収劇は制度の限界も示す結果となった。

【中国財政赤字、最大の74兆円 不動産関連の歳入伸び悩み】
 19日晩の日経速報メール【北京=川手伊織】によると、中国政府は2023年に過去最大の財政赤字を計上する。少子高齢化で社会保障費の膨張が続き、赤字は3年ぶりに前年を上回る。地方財政は不動産関連の歳入が伸び悩むが、景気テコ入れへインフラ債の発行枠は過去最大に膨らむ。人口流出などで経済が停滞した地域では将来の破綻リスクが高まりかねない。

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住宅不況の長期化が地方財政を直撃している(1月、山西省太原市で建設工事が中断したままのマンション)

 財政赤字は、中央と地方政府の一般会計に当たる「一般公共予算」の歳入不足を示す。23年は前年比15%増の3兆8800億元(約74兆円)と見積もる。財政の持続性をみるうえで重要な国内総生産(GDP)と比べた比率は3.0%となる。前年より0.2ポイント高まり、21年(3.1%)以来の水準となる。

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 歳入のうち、税収は11%増える。22年に景気対策で実施した増値税(付加価値税)の還付が終了したため、反動増となった。22年の剰余金といった「特別収入」は前年から2割減る。これらを合わせた歳入総額は3.5%伸びる。
 一方で、歳出総額は5.0%拡大する。急速な少子高齢化や若年の就職難をうけて、社会保障・雇用分野が7.1%増える。5年前と比べると1.5倍近くに膨らみ、一般公共予算の歳出に占める割合は14.3%と、5年前と比べて約2ポイント上がる。

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 中央政府は地方の財政難を和らげるため、地方政府への移転支出を3.6%増やす。中央政府の歳入に占める比率は72.4%となる。22年(73.2%)をわずかに下回るが、長期的に上昇傾向にある。
 地方政府が財政難から抜け出せないのは、依存してきた住宅市場の停滞が長引きそうだからだ。22年に前年比2割落ち込んだ不動産取得税(契税)は0.4%しか増えないと見積もる。
 地方政府は徴税のほか、国有地の使用権を不動産開発企業に売却して土地収入を稼いできた。この収入が約9割を占める地方政府の特別会計に相当する「政府性基金」の歳入も0.4%の増加にとどまる。新築住宅の販売に回復の兆しが出てきても積み上がった在庫の圧縮に時間がかかると想定しているためだ。在庫が減らなければ、開発企業が新たな建設に向けて用地を確保する動きも鈍いままだ。
 習近平(シー・ジンピン)指導部は景気をテコ入れするため、地方政府によるインフラ投資を拡大させる。資金を調達するために発行する専項債と呼ぶ関連債券は新規の発行枠が3兆8000億元となった。毎年3月に決める枠としては最大だ。
この債券は地方の政府性基金で管理する。新型コロナウイルスが流行した20年以降、毎年の新規発行枠は3兆元台後半で高止まりしている。22年末時点で発行残高は20兆6722億元となり、新型コロナ前の19年末時点の2.2倍に膨らんだ。債務残高が増えれば、利払い費もかさむ可能性が高い。
 利払い費が増えると、予算が硬直化し社会保障や教育など市民に必要な経費を確保しにくくなる恐れがある。国務院(政府)は各地方政府の予算において、債券の利払い費が歳出の1割を超えた場合、財政再建計画を発動させるという基準を設けている。不動産経済の低迷で関連収入が伸びないなか、経済が疲弊した地方では財政破綻リスクが高まりかねない。
少子高齢化や地方財政難といった問題に対応するため、構造改革は不可欠だ。例えば、先進国は働き手の減少や年金不安を和らげるため法定退職年齢を引き上げてきた。李強(リー・チャン)首相は13日の記者会見で「真剣に検討し十分に論証を重ね、適時着実に実施する」と語ったが、具体策はなお見えない。土地や建物の所有に課税する不動産税(固定資産税)の議論も宙に浮いたままだ。

【岸田首相、インド太平洋計画表明へ モディ首相とも会談 インドに到着】
 20日未明、日経速報メールは次のように報じた。

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インド訪問に向け政府専用機で羽田空港を出発する岸田首相=19日夜

 岸田文雄首相は20日午後、インドで演説し「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の推進計画を表明する。グローバルサウスと呼ばれる途上国への政府開発援助(ODA)を増やし、質の高いインフラ投資を進めると訴える。演説前にモディ首相と会談し協力を確認する。
 同日午前、政府専用機でインドに到着した。出発前、首相公邸で記者団に「特別戦略的グローバル・パートナーシップの一層の深化を確認していきたい」と話した。
 20日にインド政府系シンクタンクのインド世界問題評議会(ICWA)主催の会合でスピーチする。東南アジアやアフリカ諸国による港湾などのインフラ整備を後押しするのが柱だ。
 インフラ整備は中国の支援を受けた国が多額の債務を抱え、中国が港湾などの使用権を得る「債務のワナ」が問題視される。首相は日本が提起してきた「質の高いインフラ投資」を訴える。
 海上の安全保障を巡り監視設備などを提供し、関連技術の習得や人材育成を支えると表明する。航行の自由の確保や法の支配に基づく国際秩序の強化を呼びかける。
 政府が2022年末に導入を決めた友好国の軍への安保上の無償支援を進めると提唱する。従来は非軍事に限定するODAが柱だった。途上国が抱える安保面のニーズをくみ取り、経済・安保両面で関係を深める。
 ロシアのウクライナ侵攻に触れ、分断や対立ではなく協調を導くFOIPが重要だと唱える。重視するのがインドだ。インドは23年の20カ国・地域(G20)の議長国。1月には125カ国が参加する「グローバルサウスの声サミット」に基づく国際秩序の維持や東アジア情勢についても意見交換する。
 脱炭素やエネルギー分野の2国間協力も議題となる見込み。日本が受注したインドでの高速鉄道整備の推進も申し合わせる。

【24年春の大卒採用21%増 コロナ後にらみ活発、日経調査】
 同じ20日の日経ニュースメールは次のように報じた。

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就職活動が本格的にスタート、企業の説明会に臨む学生ら(1日午前、東京都江東区)
【この記事のポイント】
・主要企業の24年春の大卒採用計画は2割増と高い伸び
・コロナ後にらむ求人活発、構造的人手不足が改めて顕在化
・初任給額の伸びも最高 世界景気後退や金融不安がリスク
日本経済新聞社が19日まとめた2024年春入社の新卒採用計画調査(1次集計)で、大卒の採用計画は23年春の実績見込みと比べて21.6%増となった。伸び率は2000年以降では景気拡大期だった06年(23.9%)に次いで高い。新型コロナウイルス禍からの経済再開に加え、構造的な人手不足が重なり、企業の採用意欲は強い。一方、世界景気の不透明感はリスク要因になる。
主要企業5097社に採用計画を聞き、2月24日までに未確定と回答した企業も含め1987社を集計した。大卒の採用計画数は21.6%増の10万6217人となる。増加幅は前年の18.7%からさらに広がる。

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 コロナ禍の収束が視野に入り、採用を抑えてきた非製造業を中心に求人が活発になる。これにより、ここ数年はコロナ禍で目立たなかった構造的な人手不足が改めて顕在化する形だ。
 総務省によると、生産年齢人口(15〜64歳)は23年2月で7400万人(概算値)。少子高齢化などでピークの1995年と比べて15%減った。50年には同39%減の5275万人まで縮小する見通しだ。
 新卒採用がまだ中心の日本企業では、減っていく若い働き手の獲得競争が一段と強まる。このほか、「(若手社員を中心に)離職者が増加していることも、企業が新卒採用を多めに設定する要因となる」(日本総合研究所の山田久副理事長)。
調査では、23年春の採用計画人数に対する内定者の割合(充足率)は全体で88.9%にとどまった。今後は人材を想定通りに確保できるかで企業間格差も生まれそうだ。
 企業も賃上げなどの対応を急ぐ。比較可能な1056社でみると、今春(23年春)の初任給額の前年比伸び率は1.7%で、遡れる09年以降で最高となる。足元の物価高なども受け、約7割の企業で増額となる。

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全日本空輸(ANA)は前年比2.1倍の125人の採用を計画する
 24年春の採用を業種別でみると、非製造業が23.5%増と伸びが大きい。空運では全日本空輸(ANA)が2.1倍の125人を採用する。「航空需要の回復を受けた再成長に向けて必要な人材を確保する」という。
外食では牛丼店「すき家」などを運営するゼンショーグループが86.5%増の358人の採用を計画する。出店の加速などが理由だ。
 製造業は16.9%増やす。機械が23.4%増、電機が16.2%増などと高い。富士フイルムホールディングスは17.5%増の820人を計画する。「経営・事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)などに向け、人材を強化する」(同社)

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富士フイルムホールディングスはDX人材などの獲得を急ぐ

 東芝は46.2%増の570人を見込む。電気自動車(EV)などに使う「パワー半導体などの注力領域に人材を投入する」という。
DXや脱炭素のカギを握る理工系人材の人気は引き続き高い。理工系の採用計画は26.1%増となり、文科系の19.2%増を大きく上回る。
 一方、今後のリスク要因としては、インフレなどによる世界景気の後退や欧米の金融システム不安などがある。構造的な人手不足で「多少の景気変動では企業の採用意欲の強さは変わらない」(日本総研の山田氏)との見方が多いものの、景気に敏感な業種で採用計画を見直す可能性は残る。

【UBSがクレディ買収 当局主導、危機封じへスピード救済】
 同じ20日の日経速報メール【パリ=北松円香】によると、スイスの金融最大手UBSは19日、同2位クレディ・スイス・グループを買収することで合意した。買収額は30億スイスフラン(約4200億円)。米国から欧州に金融不安が広がり、クレディ・スイスからの預金流出が進むなか、危機封じ込めのためにスイスの金融当局が主導した。ただ、AT1債と呼ばれる2.2兆円分の特殊な債券の価値はゼロとなる見込みで、金融市場の火種となる恐れがある。
「もう市場の信頼を回復できないことは明らかだった」。スイスのベルセ大統領は19日の記者会見で、クレディ・スイスからの資金流出の大きさと市場の動揺を目の当たりにして「迅速な安定化策が絶対的に必要」と判断したことを明かした。

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 10日の米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻は大西洋を越えて欧州に飛び火し、経営不安がささやかれていたクレディ・スイスを直撃した。ここ数年、不祥事や巨額損失問題が相次いでおり、顧客や市場に疑心暗鬼が広がった。
 スイス国立銀行(中銀)からの最大500億スイスフランの資金供給が決まっても信用不安に歯止めがかからなかった。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、1日あたり100億スイスフランの預金流出があったとされる。
 クレディ・スイスは金融安定理事会(FSB)が指定する「世界の金融システム上で重要な銀行(G-SIB)」の1つだ。金融市場全体への影響が大きく、破綻すれば新たな金融危機を引き起こしかねない。
 スイス政府はクレディ・スイスの自力再建が困難と判断。買収に伴う損失について90億スイスフランの政府保証をUBSに与えるなど破格の条件で、日曜夜までに買収に合意させた。スイスの株主の間では経営陣への訴訟を検討する動きもある。
 米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6中銀は19日の買収合意発表直後に、協調してドル供給を強化すると明らかにした。2008年のリーマン・ショック時のドル供給での協調をほうふつとさせる動きで、中銀が金融機関の連鎖的な流動性枯渇への警戒を強めていたことを示す。
 クレディ・スイスの財務指標は当局がG-SIBに求める厳しい水準を上回っている。金融危機を経て規制強化が進み、金融機関の経営は健全化したはずだったが、流動性が急速に失われて行き詰まった。みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストはクレディ・スイスの破綻回避を評価しつつ「弱い銀行を探す動きが続くリスクは残る」と指摘する。

【NY金、11カ月ぶり2000ドル超え 「安全資産」需要強く】
 同じ20日の日経速報メールは次のように報じた。金の国際価格(NY先物)は20日、節目の1トロイオンス2000ドルに到達した。2000ドル超えはウクライナ危機後の2022年4月以来約11カ月ぶり。米銀行破綻をきっかけに金融不安が高まり、投資マネーが「安全資産」とされる金に逃避する姿勢を強めている。

【袴田事件、再審開始へ 検察側が特別抗告断念】
 同じ20日の日経速報メールは次のように報じた。
1966年に静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」を巡り、死刑が確定した袴田巌さん(87)の裁判のやり直しを認めた13日の東京高裁決定について、東京高検は20日、最高裁に特別抗告しないことを発表した。事件発生から約57年、死刑確定から約42年を経て、再審の可否を巡る議論は決着した。
 今後、静岡地裁で刑事裁判がやり直され、無罪が言い渡される公算が大きい。
 死刑が確定した事件で再審が確定するのは戦後5例目。過去4例は再審公判を経て、83〜89年に無罪が言い渡された。
特別抗告は憲法違反や判例違反がある場合、申し立てられる。東京高検の山元裕史次席検事は20日、「承服しがたい点があるものの、特別抗告の申し立て事由があるとの判断に至らなかった」とのコメントを発表した。
 袴田事件の再審請求は異例の経過をたどってきた。2014年の静岡地裁決定は再審開始を認め、逮捕から48年ぶりに袴田さんを釈放。18年に東京高裁が結論を覆し、弁護側が特別抗告した。最高裁は「審理が尽くされていない」と差し戻し、東京高裁が今月13日、再審開始を認める決定を出した。
 13日の決定は、袴田さんの確定判決が「犯行時の着衣」とした衣類を巡り、弁護側の実験報告などを「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と認定した。衣類は発見場所の工場タンク内に捜査機関によって隠匿された可能性が高いとして、捜査機関による捏造(ねつぞう)の疑いに言及した。

【習近平氏がモスクワ到着 プーチン氏と首脳会談へ】
 同じ20日の日経速報メールは次のように報じた。

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20日、モスクワ郊外の空港に到着した中国の習近平国家主席=タス共同

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が20日午後1時(日本時間同日午後7時)ごろ、政府専用機でモスクワ郊外の空港に到着した。2022年2月のウクライナ軍事侵攻後、初めてロシアを訪問した。プーチン大統領と20、21の両日、ウクライナ危機などを巡って会談する。
 習氏は20日午後にプーチン氏と一対一で非公式に会談し、その後食事会に出席する。ウクライナ危機を巡っては、中国が2月に公表した仲裁案を説明し、ロシアとウクライナに和平協議の再開を呼びかける見通しだ。軍事協力の強化や台湾問題、米国との関係も協議する可能性がある。
 21日午前にミシュスチン首相と会談後、プーチン氏と正式な首脳会談に臨む。首脳会談はまず少人数で実施し、経済界の代表らも交えた拡大会合に移る。会談終了後、両首脳は包括的パートナー関係と戦略的協力の深化、30年までの中ロ経済協力計画などの合意文書を発表する予定だ。

【温暖化ガス、35年に19年比60%削減を IPCC報告書】
 同じ20日の日経速報メールは次のように伝えた。
国 連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、現状の評価と必要な対策をまとめた第6次統合報告書を公表した。産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える国際枠組み「パリ協定」の目標の達成には、温暖化ガス排出量を2035年に19年比で60%減らす必要があると提示した。各国の従来の削減目標は「極めて不十分」と警鐘を鳴らした。
IPCCは世界の専門家で組織する。おおむね5〜7年ごとの統合報告書は最先端の科学的知見に基づき、各国の政策や国際交渉に強い影響力を持つ。今回は新型コロナウイルス禍もあって9年ぶりの公表となった。

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 人間の活動が地球温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」と明記した。1850年以降の累積排出量の4割超は直近20年間分だ。11〜20年の世界の平均気温は1850〜1900年を既に1.1度上回る。
 気温上昇が1.5度を超えると異常気象のリスクが高まる。回避には温暖化ガスの累積排出量の増大を二酸化炭素(CO2)換算で5000億トンにとどめなければならない。今のペースでは10年以内に許容量に達する恐れがある。排出量を35年に19年比60%、40年に69%、50年に84%減らす必要があると分析した。
 先進国は今世紀半ばの実質排出ゼロに向けて30年に10年比45%の削減をめざしてきた。日本は30年度に13年度比46%減の目標だった。各国とも今回の報告書を踏まえ、35年の目標を25年までに国連に提出する。現状より上積みが必要になる。
国連のグテレス事務総長はビデオメッセージで「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感を示した。脱石炭によって先進国は35年、他の国は40年までに発電による排出を実質ゼロにするよう求めた。
 日本はエネルギー基本計画上、30年度も2割を石炭火力に依存する。炭素を値付けして排出に負担を求めるカーボンプライシングの本格導入も30年代と遅い。35年に温暖化ガスを19年比で60%減らすといった新たな目標水準に合わせるには大胆な政策転換が必要になる。

【気温上昇1.5度へ瀬戸際 世界の気象災害損失、年40兆円】
 21日早朝の日経メールは次のように報じた。
【この記事のポイント】
・気温上昇が2030年代にも抑制目標の1.5度に到達
・洪水や干ばつなど気象災害の損失は昨年40兆円に
・脱炭素投資を今の3〜6倍に増やすべきとの試算も
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した報告書は、各国の温暖化対策の遅れに危機感をにじませた。産業革命前に比べた世界の気温上昇は2030年代初めにも抑制目標の1.5度に達すると予測した。温暖化が進むほど水不足なども深刻になる。

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 世界は温暖化を1.5度以内に抑えられるかどうかの瀬戸際にある。15〜22年は観測史上最も暑い8年だった。欧州は12〜21年の陸地の平均気温が1.9度上がり、22年は熱波で原子力発電や水力発電が十分に稼働できない状況に陥った。日本も22年6月に想定外の気温上昇で電力需給が逼迫した。
 1.5度目標を危ぶむのはIPCCだけではない。国際共同研究団体グローバル・カーボン・プロジェクトも31年に50%の確率で気温上昇が1.5度を超えるとはじく。22年は1.2度上昇したという研究もある。

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 欧州では熱波や干ばつで水不足や死者が相次ぐようになった。写真は3月、スペイン、カタロニア地方の貯水池=ロイター
IPCCは1.5度を超える場合の被害の想定も示している。化石燃料への依存が続き、温暖化ガス排出量が多いままの4度上昇のシナリオだと、足元の世界人口の半分にあたる最大40億人が水不足に直面する。
 熱波も深刻だ。気温が2.7度上がる場合、世界の65%の都市で暑さ指数が40度以上という深刻な猛暑日が年1回以上発生する。
 既に「人為的な気候変動が自然や人々に広く悪影響と損失・損害を与えている」とも指摘した。英保険仲介大手のエーオンによると22年の台風や洪水などの気象災害の損失は2990億ドル(約40兆円)に上った。特に懸念されるのは発展途上国だ。10〜20年に洪水や干ばつ、暴風雨による死亡率は他の地域の15倍だった。
 IPCCは1.5度目標のためには現状の再生可能エネルギーなどへの投資は足りないとみている。30年までの脱炭素投資額は年平均で現在の3〜6倍に引き上げる必要があるという。
 脱炭素技術の普及に期待も示した。コストは10年からの10年間で太陽光発電とリチウムイオン蓄電池が各85%、風力発電で55%減った。価格低下によって導入量は太陽光が10倍、電気自動車が100倍に急増した。
 今回の報告書を踏まえ、各国・地域は気温上昇の加速に歯止めをかけられるか試される。ウクライナ危機でエネルギー安全保障の懸念も急浮上した。地政学リスクと向き合いながら温暖化対策にどう取り組むかは以前にも増して難しい問題になっている。
 11月にアラブ首長国連邦(UAE)で開く国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)。議長を務める予定のスルターン・アル・ジャーベル産業・先端技術相は「1.5度目標は揺るがない」と強調している。(気候変動エディター 塙和也)

【【朝日速報】WBC準決勝で日本がメキシコ下す。日本時間22日に世界一をかけて米国と対戦】
 21日の朝日速報は次のように報じた。【詳報】日本、米国との決勝へ 村上宗隆が劇的な逆転サヨナラ二塁打。
第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は20日(日本時間21日)、米マイアミのローンデポ・パークで準決勝の残り1試合があり、3大会ぶり3度目の世界一を目指す日本代表「侍ジャパン」は6―5でメキシコに逆転サヨナラ勝ちした。
 21日(同22日)の決勝で、2連覇をねらう米国と対戦する。日本の決勝進出は2連覇を成し遂げた2009年の第2回大会以来。
村上宗隆「悔しい思い、チームメートが助けてくれた」
 日本は0―3の七回に吉田正尚(レッドソックス)の3ランで同点に。八回に再び2点のリードを許したが、その裏、1点差に迫り、九回無死一、二塁で、村上宗隆(ヤクルト)の中越え適時二塁打でサヨナラ勝ちした。
 ここまで3三振を喫しながら、最後、勝負を決めた村上は「何度も三振をして何度も悔しい思いをして、その中でチームメートが助けてくれた。チーム一丸となった勝ち。その期待に応えられてよかった。最高の決勝戦にしたいです」と。
 この日は祝日(春分の日)で、テニスをやろうと考えていたが、テレビ実況(6チャネル)にくぎ付けになった。サヨナラ勝ちを決める寸前、テレビで「岸田総理がウクライナへ」の字幕が流れた。インド訪問が終わる時刻である。

【岸田首相、ゼレンスキー氏と会談 広島サミット参加表明 中国仲介外交に対抗、装備品へ40億円拠出】
 追いかけるように、21日の日経速報メールは次のように伝えた。
【この記事のポイント】
・岸田首相、キーウを初訪問しゼレンスキー大統領と会談
・ゼレンスキー氏、広島サミットにオンライン参加の意向
・ウクライナに殺傷能力のない装備品40億円分を支援
岸田文雄首相は21日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問しゼレンスキー大統領と会談した。主要7カ国(G7)の議長としてウクライナへの「揺るぎない連帯」を強調した。殺傷能力のない装備品の提供へ3千万ドル(40億円程度)を拠出する。ゼレンスキー氏は広島サミットへのオンライン参加を表明した。
首相のウクライナ訪問は2022年2月にロシアが侵攻を開始してから初めて。戦闘が続く国・地域を日本の首相が訪問するのは第2次世界大戦後初の事例となった。
東アジアでも中国の軍備増強や台湾有事への懸念が強まる。G7議長として法の支配の重要性を国際社会に訴えるべきだと判断した。中国とロシアによる首脳会談の最中のキーウ入りには、中国の仲介外交に対抗する狙いもある。
【関連記事】
• ・日ウクライナ首脳会談要旨 首相「日本ならではの支援」
• ・米国、岸田首相のウクライナ訪問を評価 関与は否定
首相は日本時間21日午後7時ごろ、キーウに到着した。ゼレンスキー氏との会談に先立って多くの民間人が殺害されたキーウ近郊のブチャを訪れた。教会で犠牲者を追悼して献花し「強い憤りを感じる」と述べた。

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ウクライナの首都キーウの鉄道駅に到着した岸田首相(手前右から2人目)=共同

 首脳会談後にそろって記者会見に臨んだ。ゼレンスキー氏は「岸田首相は真に強力な国際秩序の擁護者だ」と述べた。「日本の国際秩序をまもるためのリーダーシップに感謝している」と語った。
 首相はロシアの侵攻を非難し、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を伝えた。ロシアによる侵攻と力による一方的な現状変更を拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を確認した。
 ウクライナ支援と対ロシア制裁の継続を表明し、核の使用に反対すると確かめた。殺傷能力のない装備品は北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じて提供する。エネルギー分野で4.7億ドルを供与する。
 日本とウクライナの関係を「特別なグローバルパートナーシップ」に格上げすることで合意したと発表した。
 首相は日本時間21日未明、訪問先のインドからウクライナ隣国のポーランドへ民間チャーター機で向かった。空港があるジェシュフから車でポーランド南東部のプシェミシル駅に行き、列車でウクライナに入った。バイデン米大統領が2月に訪問したときと同じ経路だった。

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 米英など他のG7首脳はすでにキーウを訪問した。現地入りしていないのは首相だけだった。首相は1月にゼレンスキー氏と電話協議した際、訪問の要請を受けて「状況も踏まえて検討したい」と語った。
 首相は22日にポーランド首脳とも協議し、23日朝に帰国する。当初は21日に政府専用機で日本に向かう予定だった。

【日本がWBC優勝 米国破り3大会、14年ぶり、大谷翔平がMVP】
 22日午前の日経速報メールは次のように報じた。

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第5回WBCで優勝し喜ぶ日本ナイン。中央は大谷=共同
【マイアミ(米フロリダ州)=渡辺岳史】野球の国・地域別対抗戦、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は21日、米マイアミで決勝が行われ、日本が3-2で前回王者の米国を下し、3大会ぶり3度目の優勝を果たした。
日本は二回、先発の今永昇太(DeNA)がターナー(フィリーズ)に先制ソロを浴びたが、その裏に村上宗隆(ヤクルト)が右中間にソロを放って同点に追い付き、さらに好機でラーズ・ヌートバー(カージナルス)の内野ゴロの間に勝ち越し点を挙げた。四回は岡本和真(巨人)のソロで加点した。
今永は2回1失点。三回から戸郷翔征(巨人)、高橋宏斗(中日)、伊藤大海(日本ハム)、大勢(巨人)、ダルビッシュ有(パドレス)と継投し、九回は「3番・指名打者」でスタメン出場した大谷翔平がマウンドに上がり、2死無走者からエンゼルスで同僚のトラウトを三振に仕留めて無失点で締めた。大会の最優秀選手(MVP)には大谷が選ばれた。

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優勝を決め抱き合う大谷(左)と栗山監督=AP

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トロフィーを持つ大谷。大会MVPに選ばれた=USA TODAY

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セレモニーで喜ぶ日本ナイン=USA TODAY

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二回、村上が右中間に同点ソロを放つ=共同

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四回、岡本和が左中間に本塁打を放つ=共同

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四回、本塁打を放った岡本和(25)を迎える大谷(左隣)ら日本ナイン=共同

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決勝の米国戦に先発した今永=共同

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三回から登板した戸郷=共同

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五回、米国のトラウトを空振り三振に仕留め雄たけびを上げる高橋宏=共同

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六回に登板し、無失点の伊藤=共同

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七回に登板した大勢=共同
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八回に登板したダルビッシュ=共同
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九回に登板した大谷=共同
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【東芝、買収案受諾を決議 国内連合が1株4620円でTOB】
  23日の日経ニュースメールは伝えた。

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JIPなどの国内連合が東芝を買収する
【この記事のポイント】
・東芝の取締役会がJIP連合による買収提案受け入れ
・TOBに株主が応じれば非上場化されJIP下で改革
・混乱抜け出る契機になるか。振るわぬ本業、課題重く
東芝は23日、日本産業パートナーズ(JIP)などの連合による買収提案を受け入れることを取締役会で決議したと発表した。JIPが7月下旬をめどにTOB(株式公開買い付け)を実施する。TOB価格は1株4620円で、買収額は2兆円となる。TOBが成立すれば、東芝は株式非公開化で上場廃止となる。2021年春に最初の買収提案を受けてから分割案などの曲折を経て、東芝の再編は大きな節目を迎えた。
【関連記事】
・東芝TOBの応募焦点に 国内連合、業績悪化で提示額下げ
 買収目的会社にはJIPのファンドのほか、オリックスやローム、中部電力といった国内の事業会社17社、国内金融機関6社、海外事業会社や投資ファンドが普通株を出資する。そのほか国内事業会社や金融機関が優先株式や劣後債、融資の形で資金を拠出する。
 JIPは今後、米国や英国、ドイツなどで海外の競争法や投資規制法に関連する手続きを進める。手続きが終わり次第、7月下旬をめどにTOBを始める。TOBは66.7%の応募を成立条件としており、TOBが成立すれば東芝株は上場廃止となる。
 TOB価格は東芝株の23日の終値(4213円)を10%上回る。取締役会は価格について21年4月に最初の買収提案があった前の株価(3000円台)と比べると、他事例と比べて相応の上乗せ幅(プレミアム)があると判断した。
 ただ第三者機関が将来の収益予測を基にした株式価値はTOB価格より高い試算もあった。そのため取締役会は企業価値の向上につながるとしてTOBには賛同するが、株主に応募を推奨することは23日時点ではしなかった。TOB開始までに応募を推奨するか改めて特別委員会に諮る。
 東芝は15年に不正会計問題が表面化し、米原発子会社での巨額損失も加わって経営危機に陥った。2年連続の債務超過を回避するため、17年に約6000億円の増資をした。複数のアクティビスト(物言う株主)が株主となり、株主の意向で経営戦略が左右される状況が続いていた。
 買収が成立すれば株主がJIP連合だけとなる。JIPは意思決定を速め、経営改革に乗り出す。
 東芝は連結売上高の半分を発電機器やエレベーターといった産業インフラ関連が占め、パワー半導体などの電子部品が4分の1程度で続く。主力事業のハードディスクドライブ(HDD)などの不振で23年3月期は2度、業績予想を下方修正した。再び成長軌道に乗せるのは簡単ではない。
 22年6月にはデータやデジタル技術を軸にインフラなど既存事業の収益性を高める中長期の事業計画を打ち出している。JIPは現在の経営方針を維持しながら収益改善につなげる方針。子会社の再編や部門横断で構成した組織の機能強化によって経営の効率化につなげる。
買収後の役員体制については未定で、買収完了後に協議して決める。現在の取締役には非公開化後に辞任することを求めるが、再任する可能性もあるとしている。
 東芝は22年4月に株式非公開化を含む再編案の公募を始めた。入札を経て優先交渉権を得ていたJIPは同年11月に買収提案を出した。金融機関から融資の確約を得られたことを受け、23年2月に改めて最終提案を出していた。
【ゴードン・ムーア氏死去 インテル創業「ムーアの法則」】
 24日の日経速報メールは次のように報じた。

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【シリコンバレー=佐藤浩実】米インテルの共同創業者で「ムーアの法則」の提唱者として知られるゴードン・ムーア氏が24日、米ハワイ州の自宅で死去した。同氏の設立した財団とインテルが発表した。94歳だった。
 ムーア氏は長年の同僚だったロバート・ノイス氏とともに1968年にインテルを設立した。電子機器の「頭脳」にあたるマイクロプロセッサーを開発し、世界的な半導体メーカーに飛躍する礎を築いた。79〜87年まで会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、その後も97年まで会長、2006年まで名誉会長として、インテルの最盛期を支えた。
 1965年に業界誌への寄稿で半導体の飛躍的な進化を予測し、ムーアの法則と呼ばれるようになった。当初は「半導体の集積度は毎年2倍になる」といった内容で、75年に「2年ごとに倍増する」との見方に更新した。
 インテルによれば、ムーア氏の真意は「半導体の集積度を高めることで、すべての電子機器をより安くできるというメッセージを伝えることだった」という。ムーアの法則は長きにわたり、半導体やIT(情報技術)産業の技術革新における指針となった。
 ムーア氏は1929年に米西部サンフランシスコで生まれ、カリフォルニア大学バークレー校などで学んだ。トランジスタを開発したウィリアム・ショックレー氏の半導体研究所でノイス氏に出会い、同氏らと57年にフェアチャイルドセミコンダクターを設立。その後のインテルの発足につながった。

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若き日のムーア氏=インテル提供
 インテルのパット・ゲルシンガーCEOは「ムーア氏は洞察力と先見性によってテクノロジー産業を定義した。トランジスタの力を明らかにすることに貢献し、数十年にわたって技術者や起業家に着想を与えた」と声明を出した。米国半導体工業会(SIA)は「彼の死は一つの時代の終わりを意味するが、遺産は永遠に生き続ける」とつづった。
 ムーア氏の描いたビジョンは半導体業界を超えて、テクノロジーに関わる多くの人たちに影響を与えた。アップルのティム・クックCEOは「シリコンバレーを築いた父の一人であり、技術革命の道を開いた真のビジョナリーだった」とツイッターに投稿した。グーグルのスンダー・ピチャイCEOは「私も彼のビジョンに影響を受けた一人だ」とした。

【EU、35年以降もエンジン車販売容認 合成燃料利用で】
 同じ25日の日経速報メールは次のように報じた。

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欧州連合(EU)の欧州委員会とドイツ政府はガソリン車など内燃機関車の新車販売を条件付きで認めることで合意した=AP

 【フランクフルト=林英樹】欧州連合(EU)の欧州委員会とドイツ政府は25日、2035年以降も条件付きでガソリン車など内燃機関車の新車販売を認めることで合意したと明らかにした。温暖化ガスを排出しない合成燃料を使う場合に限り販売を認める。電気自動車(EV)化で先陣を切ったEUの政策方針が大きく転換する。
 欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は25日「自動車における合成燃料の将来的な使用について、ドイツとの合意を見いだした」とツイッターに投稿した。ウィッシング独運輸・デジタル相も同日「手ごろな価格の車の選択肢を持ち続けることで、気候変動対策への欧州の立場は守られる」と発信した。
 EUのエネルギー担当相理事会が28日にも開かれ、修正した法案で合意するとみられている。加盟国間で合意に達しても欧州議会が反対する可能性がある。
 EUは22年10月、35年に内燃機関車の新車販売を事実上禁止することで合意した。35年以降はEVや燃料電池車などに限って販売を認めることにしていたが、フォルクスワーゲン(VW)やメルセデス・ベンツグループなど自動車大手を抱えるドイツが合成燃料を使う内燃機関車を認めるよう求めていた。
 イタリアや東欧などでもドイツの意見に賛同する動きがあったが、フランスは合成燃料の利用に反対していた。
 自動車メーカーではVWグループ傘下のポルシェが昨年末、チリで合成燃料の生産工場を稼働させた。日本でもトヨタ自動車やマツダ、ホンダなどが研究に取り組むが、コストの高さなどが課題として残る。
▼合成燃料 二酸化炭素と水素から人工的につくった燃料で、欧州で「e-Fuel(イーフューエル)」と呼ばれる。生成過程で工場などから回収・貯蔵した二酸化炭素や、再生可能エネルギーによる電気で水を分解して生み出したグリーン水素を利用する。温暖化ガスの実質的排出はゼロとみなされている。

【内閣支持48%、5ポイント上昇 7カ月ぶり不支持を上回る
本社世論調査 ウクライナ訪問「評価」71%】
 26日の日経速報メールは次のように報じた。

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 日本経済新聞社とテレビ東京は24〜26日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は48%で2月の前回調査から5ポイント上がった。内閣を「支持しない」と答えた割合は44%で、7カ月ぶりに支持率が上回った。
 首相のウクライナ訪問や日韓首脳会談などが支持率を押し上げた。支持率は22年8月までは55%以上を維持していた。22年夏から年末にかけて自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係を巡る問題や閣僚の相次ぐ辞任などで低下した。
ウクライナ訪問を「評価する」との回答は71%で「評価しない」の20%と差がついた。主要7カ国(G7)首脳で最後だったものの、5月に広島で開く首脳会議(サミット)に向けて議長国として国際秩序を守る姿勢を示した。
 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との首脳会談に関しても「評価する」が63%で「評価しない」の21%より多かった。ロシアによるウクライナ侵攻や中国による台湾有事への懸念から日韓関係を改善する必要性が強まっていた。
 ウクライナ訪問と日韓首脳会談を「評価する」と答えた層の内閣支持率はともに58%で全体よりも高かった。
 内閣を支持する理由の首位は「自民党中心の内閣だから」(32%)、2位は「人柄が信頼できる」(25%)だった。3位の「国際感覚がある」は20%と前回から10ポイント上がった。
 支持しない理由のトップは「政策が悪い」(38%)で、「指導力がない」(35%)が続いた。
 政党支持率のトップは自民党の43%だった。2位は立憲民主党と日本維新の会がともに8%、支持政党がない「無党派層」は24%だった。2月はそれぞれ39%、9%、8%、27%だった。
 調査は日経リサーチが24〜26日に全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し927件の回答を得た。回答率は39.7%だった。

【人への投資、国開く礎に リカードの矛盾を超えて】
 27日の日経速報メールは次のように報じた。
分断が進みながら融合の奔流も止まらない今日の世界。その先を描くとき、民主主義や権威主義というイデオロギーを超えたフェアネス(公正さ)の思想が重みをもつ。世界を動かす国や企業の振る舞いを問い直し、明日の世界「Next World」を探す。
星条旗がはためく建物に「競売」の看板。米中西部オハイオ州ビュサイラス。希代の発明王エジソンに連なるゼネラル・エレクトリック(GE)の照明を世に送り出した工場の跡地はひっそりと静まり返っていた。
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閉鎖したGEライティングの工場(オハイオ州ビュサイラス)
割食った労働者
 「状況を変えられなかった」。祖父から3代働いてきたバーバラ・バソラさんはさみしそうだ。従業員が抱いた「メードインUSA」への誇りとは裏腹に採算は悪化をたどり、ついに生産ラインは中国へ移った。
 約80年の名門工場の歴史に幕を下ろしたのは2022年9月。残されたのは、およそ200人の失業者だ。
 各国が最も効率的な産業に特化すれば、どの国も利益を得られる――。英経済学者リカードが19世紀に唱えた「比較優位」説は自由貿易による富の増大を説き、近代グローバリゼーションを理論面から支えた。
 その恩恵を享受したのが20世紀の米国だ。豊かな自国市場を友好国に開放して求心力を高め、共産主義の封じ込めにつなげてきた。だが、21世紀のオハイオ州の風景はリカード理論が抱える2つの矛盾を映し出す。
 まずはグローバリゼーションに対する国内世論の不満だ。ある国や地域が不得意な産業から得意な産業へ移ろうとしても、そう簡単でない。割を食うのはオハイオ州の照明工場のような場所に残された失業者だ。
 米国の雇用に占める製造業の割合は21世紀に入ってから4ポイント下がって11%に。代わって製造業より賃金が低いサービス業が4ポイント上がって3割を超えた。人々の生活は苦しさを増してくる。
 「敗者を守ろうとしなかった」。英中央銀行イングランド銀行のマービン・キング元総裁は悔恨混じりに語る。
 米ピュー・リサーチ・センターの18年の調査で「貿易が雇用を生む」と肯定的に捉えた人の割合はわずか36%。民主主義の仕組みの下で、政治家が目先の選挙だけを考えればグローバリゼーションに背を向けるのが得という状況になる。
 そこで生じるのが2つ目の矛盾だ。失地を挽回するかのように、バイデン米大統領は補助金で工場を呼び戻す保護主義へと傾く。高関税で中国製品の排除に動いたトランプ前大統領と発想の本質は変わらない。

失われる7兆ドル
 国を閉じる保護主義の応酬は損失を膨らませ、自らへと跳ね返る。国際通貨基金(IMF)は1月、目下進む世界経済の分断による損失を国内総生産(GDP)の7%と試算した。7兆ドル(約900兆円)もの富が失われることになる。
世界を豊かにするはずのリカード理論が回り回ってグローバリゼーションを滞らせる。米国が直面する矛盾の連鎖はフェアネスを損ない、自国と世界を豊かにする道筋に不透明感が漂う。
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ハンス・フォグさんは17年間大工を続けた後に起業した
 解はどこにあるのか。北欧デンマークのコペンハーゲン。世界35カ国に自転車を売る会社のオーナーはハンス・フォグさん。  高校卒業後、建設作業員や電気工、大工と職を変え、15年前に会社を興した苦労人だ。
 転機になったのは勤め先を退職して始めた職業訓練所通いだった。3年半で新たなスキルを身につけ、起業の礎を築いた。デンマーク政府がリスキリングや失業給付に投じる額は労働力人口1人当たり年4500ドル。米国の4.5倍だ。

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 人への投資が盛んならば貿易も活気づく。そんな法則を数字が物語る。デンマークのほかスペインはリスキリングなどの労働者支援がGDPの3%を超えている。
 こうした国は貿易開放度(GDPに占める貿易比率)が21年までの10年間で9ポイント以上も伸びた。人への投資と国を開く度合いにははっきりとした相関が見える。デンマークの試みは世界へのヒントに満ちている。
 教訓は日本にも当てはまる。人への投資は国際的に見ても低位に沈み、産業構造の転換はなかなか進まない。今なお円相場の動向に一喜一憂するのは、国際競争力に対する自信の乏しさの裏返しだといえる。
 人や産業への投資で自らを鍛え、得られる恵みを世界と分かち合う。リカード理論の矛盾をほどきながらグローバリゼーションの次の幕を開く道筋だ。米国や日本が世界でフェアネスを認められるために避けて通れないプロセスでもある。
 上杉素直、星正道、鳳山太成、高橋元気、江口和利、加藤晶也、広井洋一郎、川手伊織、川上梓、八十島綾平、山下晃、小滝麻理子、佐藤浩実、西野杏菜、水口二季、佐藤遼太郎、五十嵐孝、綱嶋亨、藤生貴子、赤間建哉、花田亮輔、林英樹、近藤彰俊、横山龍太郎、古澤健、原田桂子、荒川恵美子、奈須知子、浦田晃之介、湯沢華織、金谷亮介、渡辺夏奈、杜師康佑、佐伯遼、池田将、佐藤史佳、川瀬智浄、奥山美希が担当します。

【理研、国産量子計算機を稼働 米中競争に日本も名乗り】
 27日の日経ニュースメールは報じた。

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稼働が始まった理化学研究所の量子コンピューター(27日午前、埼玉県和光市)

 理化学研究所は27日、次世代の高速計算機、量子コンピューターの国産初号機の稼働を始めインターネット上のクラウドサービスで公開した。企業や大学に利用を促し、将来の産業応用に向けた知見を蓄える。日本は米中が主導してきた量子コンピューターの開発競争で名乗りをあげ、巻き返しを図る。
 理研は埼玉県和光市の拠点に量子コンピューターを設置した。国内では2021年に川崎市に米IBM製の量子コンピューターを設置した事例があるものの、国産機の稼働は初めてとなる。計算の基本単位で性能の目安となる「量子ビット」は64で、IBM製の27量子ビットを上回る。
 開発した量子コンピューターは極低温に冷やし、電気抵抗をなくした超電導の回路で計算する技術方式を採用する。開発には理研のほか産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTTが参画し、政府も18年度以降に約25億円を投じたプロジェクトなどを通じ支援した。

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 国産初の量子コンピューターが稼働し、記者会見する理化学研究所の中村泰信量子コンピュータ研究センター長(27日午前、埼玉県和光市)
 27日からネットを介したクラウドで公開し、企業や大学は当面、理研と共同研究契約を結ぶことで利用できる。同日、理研は和光市内で会見を開いた。開発責任者の中村泰信量子コンピュータ研究センター長は「精度はかなり世界に近づいた。技術を高め知見を発信していきたい」と強調した。
 量子コンピューターは計算方法が現在のコンピューターとは異なり、利用する企業なども新たなノウハウが必要になる。中村氏は「研究者がアイデアを持ち寄って試すというのが実機の役割だ。どういう使い方ができるかを研究開発したい。人材育成のための基盤としても運用する」と述べた。
 量子コンピューターはスーパーコンピューターの1億倍以上の早さで複雑な問題を解き、脱炭素につながる素材や画期的な新薬の開発を実現する可能性を秘める。化学や製薬、自動車、金融など幅広い産業の競争力を左右する見通し。物質の電子の状態を精緻に予測して新機能の素材を開発したり、画期的な電池開発につなげたりする。

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 政府や理研は初号機の公開を通じ、実用化に向けた研究を後押しする。国内では英オックスフォード大発の新興企業も東京都内のデータセンターに量子コンピューターを設置し、23年後半にクラウドで公開する計画だ。相次ぐ実機稼働で日本企業の量子コンピューターの利用機会が広がる。
 世界の量子コンピューターの開発競争はこれまで米テック企業が主導してきた。グーグルは19年にスパコンで1万年かかる問題を約3分で解き「量子超越」と呼ぶ成果をあげ、IBMは量子ビット数の集積などで先頭を走る。近年はネット検索の百度(バイドゥ)など中国勢も開発を加速させている。
 現状では計算の際にエラーが生じるなど、米中勢も技術的な課題を多く抱える。理研から技術や知見の提供を受けて富士通も23年度中の試作機開発を予定しており、日本勢の巻き返しが本格化する。主導権争いは一段と激しさを増す。
 ▼量子コンピューター 原子レベル以下のミクロの世界で成り立つ物理法則「量子力学」を応用した次世代の計算機。従来のコンピューターが「0」と「1」の組み合わせで計算する仕組みなのに対して、量子コンピューターは「0であり、かつ1でもある」という状態(量子ビット)を利用する。膨大なデータをまとめて扱え、計算回数が大幅に減らせる。スーパーコンピューターで何万年もかかる計算を数分でこなす可能性を持つ。

【三井住友、ベトナム大手銀行に2000億円出資 アジア強化】
 27日の日経ニュースメールが伝えた。
三井住友フィナンシャルグループ(FG)は27日、ベトナムの民間銀行2位のVPバンクに35.9兆ドン(約2000億円)を出資し、持ち分法適用会社にすると発表した。経済の高成長やデジタル化を背景にアジアの金融サービスは急拡大している。3メガバンク合計の同地域での経常収益は過去10年で3倍となった。投資を積み増し、成長の果実を一段と取り込む。
VPバンクの第三者割当増資を、三井住友FG傘下の三井住友銀行が引き受ける。出資後の持ち分は15%で、事実上の筆頭株主となる。取締役などの人材も派遣する。

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 21年にVPバンク傘下のノンバンクに49%出資し、22年にはVPバンクと資本関係を伴わない業務提携を締結していた。出資で関係を深める。
 VPバンクの2022年12月期の純利益は前の期比55%増の約1000億円と、ベトナム民間銀行で2位の規模だ。総資産は3兆5000億円程度。貸出金の伸びが大きいほか、貸し出し利ざやも他の現地銀に比べて高い。ベトナムは国営銀行の存在感が大きいが、民間のVPバンクの事業の自由度の高さが提携先として魅力的だと判断した。
 VPバンクは地場の中堅・中小企業への融資や個人向けローンに強みがある。ベトナムに進出する海外企業など大企業向け融資を同国で展開する三井住友銀行と連携することで、幅広い顧客を取り込めるとみる。
 ベトナムに進出する三井住友銀の顧客企業をVPバンクに紹介して現地企業につなげるなど、同国での事業展開を支援する。企業が持つ特定の資産や事業の信用力を活用して資金調達するストラクチャードファイナンスや環境関連融資など、三井住友銀のノウハウをVPバンクに共有し、成長を促す。

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 アジアでは銀行口座を保有しない人にデジタルバンクなどで金融サービスを提供する金融包摂が進む。三井住友FGはインドネシアなどアジア各国でデジタル金融を手掛けており、個人向けデジタルサービスのノウハウがあるVPバンクとの相乗効果も見込む。
 日本のメガバンクはアジア事業を成長の柱と位置づけている。ベトナムでは三菱UFJFGやみずほFGが大手銀に出資済みだ。特に三菱UFJはここ10年ほどの間にインドネシアのバンクダナモンに6000億円超、タイのアユタヤ銀行に5000億円超を出資するなど海外のなかでもアジアに注力する。
 3メガバンクのアジア・オセアニア地域(日本除く)での経常収益の合計は22年3月期で約2.1兆円と、過去10年で3倍弱となった。連結全体に占める割合も15%と、2倍以上になった。個別では三菱UFJFGが1.2兆円と大きく比率も20%と高い。三井住友FGは14%、みずほFGは9%と続く。
 今回の三井住友FGによるアジア出資は、同社にとって21年のインドのノンバンク買収と同規模の大型投資となる。三井住友FGの太田純社長は「銀行は国内総生産(GDP)と相関の高いビジネス」と話す。アジアでは欧米銀に比べてもメガバンクの伸びが高く、邦銀同士での競争が激しくなっている。

【中国海賊版サイト、初の強制捜査 「B9GOOD」閉鎖】
 28日の日経ニュースメールが伝えた。

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日本のアニメやテレビ番組が掲載されていた海賊版サイト「B9GOOD」=一部画像処理しています

【この記事のポイント】
・日本の人気アニメやテレビドラマなどが違法に投稿
・直近約2年間で、アクセス数は計3億件超に
・高水準の被害が続く中、摘発で抑止効果を期待
 中国に拠点を置く日本アニメの大手海賊版サイトの運営者が、現地当局の強制捜査を受け、サイトを閉鎖したことが27日、関係者への取材で分かった。直近2年間のアクセス数が3億件に上り、日本の被害企業などが対処を求めていた。国内拠点のサイトは2018年閉鎖の「漫画村」以降、摘発や民事提訴で対策が続く。新型コロナウイルス禍以降も高水準の被害が続くなか、運営者特定が難しい中国サイトの強制捜査は初めてとみられる。
 27日に閉鎖したサイト名は「B9GOOD」。08年ごろから稼働し、人気アニメや放送直後のテレビドラマなどが違法に投稿されていた。米国の映像業界団体は18年の報告書で「日本の(作品を扱う)代表的な海賊版サイト」と名指しで非難。映像業界団体「コンテンツ海外流通促進機構」(CODA)によると、21年1月〜22年末の約2年間でアクセス数は計3億件を超え、映像系ではトップクラスだった。
 関係者によると、中国江蘇省の公安当局が2月にサイトを運営していた重慶市に住む無職の男(33)を同国の著作権法違反の疑いで拘束した。男は広告収入でこれまでに1億円超を得ていたとみられる。ほかに動画の投稿役として男女3人を摘発した。
 東宝やNHKなど映像大手6社とCODAなどが対応を求めていた。東宝は「今後も悪質な侵害行為に断固とした対応を行う」とコメントした。

海外サイト摘発、2つのハードル
 「海外の運営者を摘発するモデルケースとなる」。B9GOODの対応を中国当局に求めていたCODAの後藤健郎代表理事が強調する。CODAによると、日本側の要請で中国の海賊版サイトについて本格的な捜査がおこなわれたのは初めてとみられる。
海外拠点の海賊版摘発は大きく2つのハードルがある。
 まず運営者情報の特定だ。運営者は通常、海外のウェブサービスなどで身元を隠している。今回は「ホワイトハッカー」ら技術者の協力でサイトを解析し、情報入手に成功した。
 次に現地当局との直接交渉だ。海外当局に日本側が捜査を要請する方法としては「国際捜査共助」の手続きがあるが、複数の機関が関わり「多大な時間と手間を要する」(海賊版対策に詳しい中島博之弁護士)。今回はCODAの拠点が中国にあることから、現地当局に被害を直接訴え出ることができた。

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 海外拠点サイトを巡っては、CODAや集英社などが22年に、漫画分野では当時最大規模だった「漫画BANK」(21年閉鎖)を運営していた中国在住の男について現地の行政当局に連絡。行政処罰につながった。今回は刑事処分が見込めることから、さらなる抑止効果が期待されるという。B9GOODは日本語サイトだが中国の作品も一部含まれており、自国のコンテンツ市場が成長するなか、中国側も無視できなくなっている事情もあるもようだ。
 漫画やアニメなどの海賊版サイトの被害が目立ち始めたのは17年ごろだ。日本の警察当局が国内拠点のサイトの取り締まりに乗り出し、代表的な「漫画村」を18年に閉鎖して19年に代表者を逮捕した。同サイトの閉鎖後も後継サイトが次々登場し、いたちごっこが続いている。
 被害が近年、高水準となった背景にコロナ禍の「巣ごもり」需要もある。電気通信大発スタートアップのPSS(東京都調布市)によると、22年7月までの1年間の合計訪問数は月平均で約4億7千万回に上り、前年同期から1億回近く増えた。
海賊版サイトは広告を掲載することで運営費や収益を確保している。国内の広告業界団体は配信の自主規制を強めるが、海外の広告会社などが「穴」とされている。今後は各国の警察や業界団体と情報を共有し、国内外で摘発に向けた動きを進めるとともに、海賊版サイトに広告を出稿する企業に対して広告配信を止める取り組みも広げていく必要がある。(サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信)
 この間、以下の録画を観ることができた。(1)BS6報道1930「<天の目は見ている> 去り行く李克強氏の言葉…習近平氏への諫言か」2023年3月13日。 (2)BS6報道1930「プーチン氏と蜜月演出、トルコ大統領陥る窮地、強権に“退陣大合唱”」3月日。 (3)BS6報道1930「放送法は誰のものか? “公平規則”なくした米国で起きたことは?」15日。 (4)BS6報道1930「ウライナ大消耗戦の真実…反抗作戦に暗雲か? 戦場のスナイパー証言」16日。 (5)BS6報道1930「無人化する未来の戦争 ウクライナは”実験場“か」17日。 (6)ETV特集「ソフィア百年の記憶」18日。 (7)NHK週刊ワールドニュース(3月13日~17日)19日。 (8)BS6報道1930「老いるG7と日本外交 岸田総理インド訪問”真の狙い“」20日。 (9)BS6報道1930「習主席なぜ和平仲介か。中国が恐れる?ロシア弱体化のシナリオとは」21日。 (10)BS6報道1930「改革者か?暴君か? サウジ皇太子の野望とカネ…米中活用術のしたたか」23日。 (11)BS6報道1930「トランプ氏”逮捕“? 口止め料疑惑で捜査 大統領選出馬は可能か」24日。 (12)NHK週刊ワールドニュース(3月20~24日 最終回)26日。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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