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三溪記念館 所蔵品展 「春の風」

会期:2023.2/15(水)~3/22(祝・火)

 三溪記念館の所蔵品展「春の風」が始まった。ふらりと入ると雰囲気が違うのに驚かされる。
展示の仕方のせいか、あるいは展示品のせいか。
掛軸の合間に、平置きの陶芸品(下線を引いた)が多いので、つい目が下方を向く。
今回の担当も学芸員の中村さんで、彼女の着任後第8回目の企画・展示である。
「春の風をふわりと感じていただければ幸い」と狙いを明かしているとおりに出来上がっている。観覧の手助けとし、以下に紹介したい。

第1展示室
「東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな」(菅原道真)
あらゆる花の先頭を切って咲き、春の到来を告げることから「春告草(はるつげくさ)」の異名をもつ梅。古くから歌に詠まれ、かの菅原道真も、大宰府へ遷るに際し、邸内の梅の木に向けて詠んだ話は「飛梅」のエピソードとともに有名です。
三溪園の創設者、原三溪もまた、梅を愛でた一人。古木にこだわり、江戸時代から名の知られた東京の蒲田、川崎の御幸、横浜の杉田(磯子)の梅林から移植した梅が、現在も園内の各所で春の訪れを告げています。
立春を過ぎ、春一番も待たれるこの季節。画中や陶芸品に表された季節の花や鳥など、所蔵品を楽しみながら、春の風をふわりと感じていただければ幸いです。

松本 姿水 「紅梅ひよどり」
花弁の中心がほんのり紅く、淡い中にも鮮やかな印象を感じさせる紅梅です。ひよどりは、花の蜜や果実が大好物。かつては10月に渡来し、4月に渡り去る冬鳥でしたが、いまでは留鳥として1年中棲むようになりました。江戸時代の俳人・蕪村も「ひよどりの こぼし去りぬる 実の赤き」と詠んでいます。

松本 姿水(まつもと しすい / 1887-1972)
栃木県宇都宮生まれ。
洋画に一時期転向し、後再び日本画にもどり、戦後は日展で活躍しました。

梅花文菓子鉢
初代・宮川香山(みやかわ こうざん)の娘婿である宮川恒助は真葛焼の会社で事務を担当していました。箱の中には恒助と二代・香山から三溪の親友である実業家の中村房次郎に宛てた手紙が入っており、香山から房次郎へ、お中元の品として、吉祥文の梅をあしらって制作されたものだとわかります。

下村 観山「荘子」
紀元前の中国の思想家・荘子が著した「胡蝶の夢」を描いています。夢で蝶となった荘子は目覚めて、蝶の夢か、荘子の夢か、と考えます。荘子が蝶に変わる様子が動画のコマ送りのように描かれた極めて珍しい構成で、観山が多様な手法を模索していたことがわかります。 

原 三溪「梅花五絶」
梅と月は、俳句では「付合語」といって双方連想させる語の組み合わせです。香りがいっそう際立つとされる夜の梅を詠んだものです。
梅花江上寺(梅花江上の寺)
吟趁月明行(吟じて月明を趁うて行く)
疎影鐘声古(影疎らにして鐘声古く) 
寒香仏膽清(香は寒くして仏膽清し)
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歌川広重「富士三十六景 武蔵本牧のはな」 
「はな」は突き出たものを指す言葉で、本図では右側にある垂直に切り立った崖が「はな」、すなわち岬です。対岸には富士山、手前には磯子の浜。淡紅色・白い帯状の部分は江戸時代からその名を知られた杉田梅林と思われます。
三溪園は原三溪の先代・善三郎がこの地に別荘・松風閣を構えたことに始まりますが、善三郎にこの地の購入を決めさせたのが本作品といわれています。松風閣の跡地に建てられた展望台からは今でも往時と同じ眺めが楽しめます。

楽焼 角皿
大正の初め、三溪園に新進気鋭の若手作家たちが集った頃、三溪と作家たちが手遊びで楽焼を焼いたと言われています。そのときに作られた角皿が現在いくつか存在しています。

底面裏に銘がある「光山」については詳細不明ですが、大中小三つの各皿を成形した人物で、三溪たちはその角皿に絵付けを施したと考えられます。

燕のような小鳥と黄色の花が描かれた角皿は、今村紫紅による絵付け。紫紅らしい明るい色使いとおおらかな線が特徴です。鶏と桔梗が表されたものは三溪が手掛けたものとされています。絵柄とともに楽しそうにつくる雰囲気も伝わってきます。

牛田雞村「梅鶯」
梅に鶯という画題は多くの人に好まれ、よく描かれます。
春先の固いつぼみと開いた梅の花はうっすらと紅く、枝にとまった鶯の、春を告げる鳴き声が聞こえてくるようです。

美術蒐集家・原三溪  ―書簡にみる三溪の美意識―
三溪は30代の頃(明治30年頃)から古美術の蒐集に力を入れました。優れた美術品を蒐集するには情報が重要です。当時の数寄者たちは古美術商を通して数々の美術品を集めていました。
三溪が交流をもっていた骨董商の一人に今村甚吉(~1907)がいます。三溪が今村に宛てた書簡は、三溪の古美術・古建築の蒐集、庭園造成の過程や思いなどを知ることができる貴重な資料です。
三溪園が所蔵する31通の書簡から、明治38(1905)年2月27日付けの書簡をご紹介します。

今村甚吉宛書簡 明治38(1905)年2月27日
「豊公御堂」は旧天瑞寺寿塔覆堂のこと。明治36年(1903)に入手しましたが、翌年の日露戦争で園内への建築は未着手でした。この38年(1905)の書簡では「ランマ可成草々出来之事ニ御願申し度候」とあり、早く建築を進めてほしいと依頼していることがわかります。


第2展示室
下村観山「雪の朝帰り」
浪花節(なにわぶし)の一節「雪折れ笹にむら雀」という一節を表しています。観山の風俗画は多くはありませんが、趣味として時代物の櫛や衣裳を集めていたということで、そのような趣味が反映された作品です。
明治44年(1911)に三溪が購入したことが記録に残っています。

野口小蘋「林下奏楽図」
野口小蘋(のぐち しょうひん)(1847~1917)は大阪生まれの女性の描き手。梅の木の下で、煎茶をたしなむ女性二人。横笛と月琴(げっきん)と思われる楽器を奏で、机の上には香や書物、足元には花の鉢など、煎茶のしつらえがされています。梅林と煎茶という中国趣味があらわされています。
*山口八十八コレクション

小室翠雲「武陵桃源図」
「武陵桃源」は中国の詩人・陶淵明(とうえんめい)が記した『桃花源記(とうかげんき)』にある理想郷のことで、桃源郷とも言われます。小室翠雲(1874~1945)は群馬生まれの南画家で、 桃の花が咲く理想郷の様子を、鮮やかな彩色で明るく描き出しています。穏やかな空気に包まれた一幅です。
*山口八十八コレクション

臨春閣障壁画
狩野探幽「四季花鳥図」
三溪が大正6年(1917)に、大阪から三溪園の内苑に移築してきた臨春閣は、もと紀州徳川家の別荘といわれています。各部屋の障壁画は、狩野派などによる江戸時代の漢画が中心です。
今回は、第一屋〈花鳥の間〉にある、「四季花鳥図」のうち、梅、松と竹が表された面をご紹介します。季節の樹木の合間にいる鶯や鶏など、優雅に描かれた鳥の姿も探してみてください。
*現在、臨春閣にとりつけている障壁画はすべて複製です。

今村 興宗「醍醐花見」
慶長3年(1598)3月15日、京都南郊の醍醐寺へ家族を連れて花見を楽しむ秀吉。左幅は「護花鈴(ごかれい)」として知られる場面で、赤い紐に鈴をつけ、鳥から花を守った様子が描かれています。右幅には秀吉が愛息の秀頼(ひでより)を楽しませようと、肩を抱いて橋の下を眺めています。
*山口八十八コレクション

今村 興宗(1873-1918)
今村紫紅の兄。横浜生まれの日本画家で、今村菊池容斎の弟子・中島亨斎に師事しますが、亨斎の没後は紫紅の師・松本楓湖の安雅堂画塾に入門。人物画に優れ、文展や内国勧業博覧会で入選する。
2023031502.jpg(右幅)


太閤角箱
四方と天板に大胆に大きな桐紋が配されています。桃山時代を代表する高台寺蒔絵です。高台寺蒔絵とは、秀吉と妻・ねねが祀られている高台寺の霊廟(れいびょう)に施されたような菊桐紋を配し、その左右で蒔き方を変えるなどの繊細な技巧を凝らしたものを指します。
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第3展示室
  第3展示室は3月18日(土)から第47回目となる「三溪園俳句展」が開かれます。
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変わりつつある世界(1)

 2月27(月)、「人類最強の敵=新型コロナウィルス(60)」を掲載するころから、本連載の題名をこのままで良いかと考えてつづけていた。同テーマ(59)に、下記16日午後の日経速報メール報道を引いたからである。

【「新型コロナ」改め「コロナ2019」 5類移行で名称変更】
 厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の名称を「コロナウイルス感染症2019」とする検討に入った。感染症法上、入院勧告や就業制限などの厳しい措置がとれる2類相当以上の扱いを5月から5類に引き下げるのに伴い、呼び方を変える。「新型」という表現はやめ、医療などで平時の体制への移行を進める。…
 省令を改正して5月8日に位置づけを5類に変えるタイミングで名称も見直す方向だ。5類になると新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象ではなくなり、緊急事態宣言などの行動制限はできなくなる。日常の感染対策の柱としてきたマスクの着用は3月13日から屋内外を問わず個人の判断に委ねる。…(以下略)

【連載名の変更について】
人類最強の敵=新型コロナウィルス(60)を区切りとしてひとまず終了し、(61)回からは新しい名称とすべしと考えていたが、なかなか妙案は浮かばない。
この60回分までのテーマは大きく3つあった。
第1が「人類最強の敵」と目された新型コロナウィルスとそれがもたらす社会的・経済的・政治的な影響である。これまでの1類「人類最強の敵」ではなくなり、5類とされ、その時期が目前に迫っている。その第一歩が「マスクの着用は3月13日(月)から屋内外を問わず個人の判断に委ねる」とした措置である。
第2が、昨年2022年2月24日に始まるロシアのウクライナ侵攻と世界規模の構造変化である。侵攻から1年が経過し、いまだ「終わり」が見えない。これに伴い、中東など世界各地で政治外交的な変化が起きている。
第3が、上掲の第1と第2が複合的にからみあう「文明史的課題」ともいうべきものである。これについては、拙著『地球文明の場へ』(『日本文明史』第7巻 角川書店 1992年)を参照されたい。
そこで仮に「変わりつつある世界」と題名を変更して連載をつづけたいと思う。
なにがどう変わりつつあるのか。単なる先祖返りか、それとも過去にはなかった全く新しい時代の現出なのかは、予断を許さない。
それらを明らかにするために、根気強く書きつづけていきたい。

日経ニュースメールは次のようなショッキングな事実を伝えた。
【トルコ・シリア地震は阪神の20倍 横ずれ型、日本でも】
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 死者が5万人を超えたトルコ南部の大地震は、断層が水平方向にずれる「横ずれ断層型」で、1995年の阪神大震災の約20倍のエネルギーだったことが専門家の分析で分かった。横ずれ断層型の内陸直下地震は日本でも過去に甚大な被害をもたらしており、大地震のリスクが比較的高いとされる活断層は全国で約30カ所に上る。地震発生から27日で3週間。耐震化の進む日本でも防災対策の再点検が求められる。
 今回のトルコ・シリア地震では、同国南部の異なる断層でマグニチュード(M)7以上の内陸直下型地震が2回発生し、同国と隣国シリアで建物の倒壊などの被害が相次いだ。国土地理院が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星データを解析したところ、活断層に沿った地表の動きが認められ、横ずれ断層型と判断した。
 地震には大きく分けて、陸側のプレート内部で発生する「断層型」と、海側と陸側のプレートの境界で起きる「海溝型」がある。2011年の東日本大震災は海溝型で、揺れよりも大津波による犠牲者が大半だった。
 一方、トルコ・シリア地震の横ずれ断層型は「建物の倒壊が起こりやすい」(地震メカニズムに詳しい筑波大の八木勇治教授)という。震源から断層に沿って強い揺れが広範に伝わるためで、断層が上下にずれた場合よりも被害が大きくなる傾向があるという。
 6434人が犠牲になった阪神大震災も横ずれ断層型だ。淡路島北部から神戸に向かって「右横ずれ」が起こり、最大震度7の揺れが襲った。震源の右側に位置する神戸周辺では高速道路が根元から倒れ、多くの建物が崩れた。16年に起こった最大震度7の熊本地震も横ずれ地震だ。
 国土地理院によると、地表の横ずれ幅は阪神大震災が1メートル、熊本地震が2メートル。断層の長さや深さなどの条件があり、単純比較できないがトルコ・シリア地震では横ずれ幅が5メートルに達した。
 震度はある場所での揺れの強さ、マグニチュードは地震そのものの大きさを表す。さらに断層のずれに伴う運動の規模を示す地震エネルギーについても、八木教授が横ずれ幅や動いた断層の距離から計算したところ、トルコ・シリア地震のエネルギーは阪神大震災の約20倍だったという。
 日本では今後も横ずれ断層型の大地震が起きる可能性がある。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)によると、将来も活動すると予想される活断層は日本に大小あわせて約2000。114ある主要な活断層帯のうち、「30年以内に3%」という地震発生確率が高い活断層帯は31カ所ある。
 横ずれ型の活断層は西日本に多い。西日本の下に潜り込むフィリピン海プレートが北西方向に進む影響で、ひずみが解き放たれた時に断層が東にずれることが原因とされる。四国地方を東西に横切る「中央構造線断層帯」や山口県にかかる「菊川断層帯」などが挙げられる。
 全長400キロを超える中央構造線断層帯が愛媛県を通る区間では、30年以内に大規模な地震が起こる可能性は最大12%。同本部の担当者は「愛媛周辺の断層がトルコのように複数連動すれば、M8を超える地震が日本でも起こりうる」と警鐘を鳴らす。
 西日本以外も警戒は必要だ。30年以内にM7程度の地震が起きる確率が70%とされる首都直下地震は国の13年想定で死者最大約2万3000人、揺れによる全壊は約17万5000棟に上るとされた。トルコと同じ地震大国の日本は備えの強化が欠かせない。
 愛知工業大地域防災研究センターの横田崇教授は「各家庭での対策が最も重要」と強調し、高い場所に荷物を置かず、家具を固定するなどの基本的な防災対策の重要性を指摘する。火災を防ぐため、地震を感知すると自動で電気が止まる「感震ブレーカー」の普及を進めることも必要だという。

【日米同盟、危急の現代化 中国・北朝鮮・ロシアの複合危機 防衛・大転換 激動の世界①】
 28日の日経速報メールは次のように伝えた。

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首脳会談を前にバイデン米大統領(右)と握手する岸田首相(1月13日、ワシントンのホワイトハウス)=共同

【この記事のポイント】
・日米が緊密に動く同盟の現代化。サイバー・宇宙でも
・機密情報の暗号化や武器・弾薬の統一など対処課題
・中朝ロが近づく複合・同時多発的な危機の懸念に備え
 ロシアのウクライナ侵攻から1年が過ぎ、国際秩序は一変した。日本は核兵器を持つ中国、北朝鮮、ロシアに囲まれ、複合的な危機の懸念もある。日本は昨年末、国家安全保障戦略を改定して防衛費の大幅増に踏み出した。日米同盟を「現代化」して備える。
 東京都の米軍横田基地。昨秋から自衛隊と米軍の30人ほどの合同チームが稼働する。「領空侵入の恐れがあるデータです」。無人偵察機・MQ9の情報が届く。
 MQ9は米軍の機体だが、鹿児島県にある海上自衛隊の基地に発着する。日米が基地や装備、人員を混然一体に使い、情報の取得や分析、対処まで連携する。
 1月13日、バイデン米大統領はホワイトハウスでの日米首脳会談で宣言した。「日本の歴史的な防衛費の増額と新国家安保戦略を踏まえ、日米の軍事同盟を現代化(modernizing)していく」。横田はモデルケースだ。
 現代化は主に2つ意味がある。まずサイバーや宇宙といった新領域の現代戦への対処。もう一つは格段に防衛力を高め、緊密に連携することだ。
 日米同盟は「米国が矛(ほこ)、日本が盾」だった。攻撃力に限らず「米国が守ってくれる」関係といえた。いまは中国の軍事力が強大になった。日本の貢献を大幅に高め、米国と一体的に動く同盟に刷新しなければ対処できない。
 「米軍と機密情報の連絡はできない」。自衛隊幹部は明かす。自衛隊と在日米軍は異なる無線機を使い、暗号化の対応は不十分だ。緊急時に共同作戦の遂行は難しい。
 米国は1月、地対艦ミサイルを持つ海兵沿岸連隊(MLR)を2025年までに沖縄に置くと発表した。この最新鋭部隊も陸上自衛隊と暗号通信ができない恐れがある。
 弾薬の問題もある。ウクライナには米欧が武器・弾薬を供与する。30カ国が参加する北大西洋条約機構(NATO)で兵器の統一規格があるため、融通しやすい。日米にはない。口径が同じ弾でも火薬の成分や性能が変わる。弾不足で助け合う準備は遅れている。

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 日米はオバマ政権時も現代化に言及したが、10年近く動かなかった。今回、日米は「中国との戦略的競争」と記す文書をつくった。そこで同盟の①現代化②態勢の最適化(Optimizing Posture)③協力関係の拡大(Expanding Partnerships)――を挙げた。
 「態勢の最適化」は部隊の重点配置を指す。現代化と表裏一体だ。台湾有事に備え、南西方面に戦力を集中する。米軍は沖縄にMLRを置き、フィリピンの軍事基地も増強する。
 米国が「世界の警察官」と呼ばれたのは過去の話だ。全世界に戦力を分散させる余裕は乏しい。中東は縮小し、アフガニスタンは撤退した。限られた戦力を現代化した上で、集中して配置しなければ抑止は効かない。
 中国とロシア、北朝鮮が連動する懸念もある。
 「中国がロシアに武器を供給しないと信じたい」。2月24日、ウクライナのゼレンスキー大統領は強調した。中国がロシアに無人機を売却した疑念が浮上し、米国は事実なら対中制裁に臨む姿勢も示す。
 中ロは昨年、共同で戦闘機や爆撃機を日本海で飛行させた。韓国軍OBの趙顕珪氏は「台湾問題で米中の緊張が高まれば、中国は北朝鮮の積極的な軍事行動を容認する可能性が高い」と説く。
 日本の防衛省も台湾有事で中朝ロが連携するシナリオを議論したことがある。複合的・同時多発的な危機になれば対応は難しい。
 米軍は昨年、沖縄の在日米軍嘉手納基地で老朽化した54機のF15戦闘機を2年で退役させると決めた。既に昨秋から海外の基地のF16などを交代で配備するやり方に変えた。常備ではない。米安保当局者は「抑止力が落ちる」と心配する。
 米国も多くの戦力を割く余裕は乏しい。だが単に米国の判断を受け入れるのではなく、日本が率先して問題提起して抑止力を高める別の道を探すことはできる。
日米は同盟を刷新する一方、防衛協力の指針(ガイドライン)は変えない。細部を詰めて文書にする時間すら惜しい、との声もあった。実質的な防衛力の増強がまずは課題だからだ。
 岸田文雄首相は1月の施政方針演説で「今回の決断は日本の安全保障政策の大転換だ」と表明した。事態は切迫する。危急の大転換が日本と東アジアの平和を決める。

【インド2022年6.7%成長、中国上回る GDP英国抜き5位】
 28日の日経速報メール【ニューデリー=花田亮輔】によると、インドの2022年の実質国内総生産(GDP)は6.7%の成長となり、中国の伸び率を上回った。ドルベースの22年の名目GDPは約3兆3800億ドル(約460兆円)と英国を抜き、日本の8割に迫った。中国が22年に人口減に転じたのに対し、インドの人口は60年代まで増加が続くと予測される。内需拡大を背景に高成長が続く見通しだ。
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 インドの人口は2060年代まで増加が続くと予測される(ニューデリー)=ロイター
 インド政府が28日発表した22年10~12月のGDP統計の値をもとに、通年の成長率を算出した。実質成長率は2年連続のプラスで、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で減速した中国の3.0%を大きく上回った。
 22年通年の名目GDPは旧宗主国の英国を超えて世界5位となり、日本の8割、中国のおよそ6分の1の水準だ。国際通貨基金(IMF)はインドは23年度以降も6%台の成長が続き、27年に日印のGDPが逆転するとみる。

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 インドの人口はすでに中国を上回り世界一になったもようだ。国連の「世界人口推計」によると、21年にピークに達した中国に対し、インドの人口は60年代まで伸び続け17億人に近づく。GDPの6割を占める個人消費の膨張が長期的な経済成長を支える。
 インドは20年に新型コロナウイルス対策で厳格なロックダウン(都市封鎖)に踏み切った結果、経済活動が停滞しマイナス成長に陥った。21年も変異ウイルスの急拡大に見舞われたが、段階的な経済再開によって成長ペースが戻った。
 インド準備銀行(中央銀行)が2カ月に1度調査する消費者信頼感指数は景況感の改善が続く。シタラマン財務相は2月の政府予算案の演説で「インド経済は正しい軌道に乗っている」と述べた。
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 足元の懸念は高インフレだ。インド中銀は消費者物価指数(CPI)上昇率の中期目標を4%と定め、許容範囲を「2〜6%」とする。22年は上限の6%を上回る月が目立ち、23年1月も6.5%上昇した。
 インド中銀は物価抑制のために22年5月から6会合連続で利上げを実施しており、自動車ローン金利などの上昇が個人消費にとって逆風となっている。22年10~12月の実質GDP成長率は前年同期比4.4%と7~9月の6.3%から鈍化した。
 産業構造にも課題が残る。インドはGDPに占める製造業の比率が15%程度と中国(約28%)と比べて低く、成長力は内需拡大に頼る面が大きい。失業率も7%程度と依然として高水準にある。
 第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「内需が経済成長をけん引する一方で、輸入拡大による経常赤字が進んでいる」と指摘する。モディ政権はGDPに占める製造業比率を25%に引き上げ、人口増に依存しない成長路線をめざしている。

【コロナ5類後、検査・外来は自己負担に 入院費は軽減】
 3月1日の日経速報メールは次のように伝えた。
【この記事のポイント】
・新型コロナ5類移行後、検査や陽性判明後の外来医療費は自己負担
・入院医療費が高額になる場合は9月末まで月2万円程度を支援
・病床を確保するため医療機関に支払う病床確保料は当面継続する
 新型コロナウイルスの感染症法上の分類の「5類」への移行に伴い、政府が検討している医療体制の見直し案の全容が判明した。現在は無料の検査や陽性判明後の外来医療費は、5月8日の5類移行後は自己負担を求める。高額治療薬は当面、無料を続ける。入院医療も一定の負担軽減措置をとる。患者の急激な負担増を避けつつ、通常医療への円滑な移行を図る。
 関係者と調整し、10日にも方針を示す。外来医療費の政府試算では、70歳未満の3割負担の場合で自己負担額は現在の2590円から最大4170円に増える。4450円のインフルエンザとほぼ同じになる。既存のコロナ薬は1回の治療あたりの薬価が9万〜25万円程度と高額で、政府は9月末まで全額公費での補助を続ける。
 入院医療費は自己負担を求めるが、高額になる場合は9月末まで月2万円程度を支援する。例えば住民税非課税の75歳以上の患者が新型コロナの中程度の症状で10日間入院した場合、自己負担は4600円に抑えられると見込む。
 病床を確保するために医療機関に支払う病床確保料は段階的に縮小する。現在、自治体が担っている入院調整は5類への引き下げ後は医療機関が担当する方向だ。医療現場からは自治体の協力を引き続き求める声があった。
 発熱外来は将来的に季節性インフルエンザと同程度の約6万4000カ所に広げる方針だ。入院を受け入れる医療機関も全ての病院8000カ所余りに拡大する。政府は、入院医療機関の拡大に向け、都道府県に移行計画の策定を求める。
 診療報酬の特例措置も縮小し、将来は廃止を目指す。一方でコロナ患者の受け入れが長期間に及ぶ場合を考慮し、新たな加算措置も検討する。

【米国、ロシアに新START復帰要求 外相が侵攻後初の対面】
 3月2日夜の日経速報メール【ワシントン=坂口幸裕】によると、ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相は2日、訪問先のインドで10分ほど話した。
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ブリンケン氏㊨とラブロフ氏はG20外相会合に合わせて接触した=AP
 2022年2月24日にロシアがウクライナを侵攻した後に対面で会うのは初めて。ブリンケン氏はロシアが決めた新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を撤回するよう要求した。
インドの首都ニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)外相会合に合わせて会話をした。両外相が接触するのは22年7月に電話協議して以来。その時はブリンケン氏がロシアで拘束されている米国人の解放を求めた。
ブリンケン氏は2日の記者会見で、新STARTの履行停止を巡りラブロフ氏に「無責任な決定を撤回し、復帰するよう促した」と述べた。条約の順守が「両国の利益になり、世界中が期待していることだ。米国は戦略的軍備管理に関与し、行動する用意があると伝えた」と語った。
同氏はロシアによる侵攻が続く限りウクライナ支援を継続すると伝達。「米国は戦争終結のための外交を通じてウクライナを支援する用意がある」と話した。現在拘束中の米国人を解放すべきだと改めて迫った。「米国は真剣な提案をした。ロシアは受け入れるべきだ」と訴えた。
タス通信によると、両者は話をしたが、ロシア外務省のザハロワ情報局長は「会談などではない」と説明した。
ロシアと米国の新STARTを巡っては、ロシアのプーチン大統領が2月21日の年次教書演説で履行停止を表明し、同28日に停止を定めた法律に署名した。ロシア外務省は米国が長年にわたり条約に実質的に違反してきたと主張。米国が誠実に条約を順守する政治的意思を示すことで「停止するという決定は覆すことができる」と言及した。
新STARTは米ロ両国で唯一の核軍備管理条約。21年に5年間の延長で合意し、その間に新たな枠組みの条約を模索することになっていた。

【出生数激減、自国民にも選ばれぬ日本】
 同じ2日の晩、日経速報メールは次のように伝えた。
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若い世代が結婚・出産という選択をしなくなってきている
 
 このぶんだと今年2023年の日本人の出生数が70万人台前半にまで落ち込むのは避けられまい。「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」(岸田文雄首相)どころか、国の存立さえもが危うくなる。日本が外国人だけでなく日本人にも選ばれなくなりつつあるという見方も成り立とう。
 【関連記事】22年の出生数、初の80万人割れ 想定より11年早く
 1月4日、年頭の記者会見で首相は「異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思ってもらえる構造を実現する」と述べたが、いまだに本気度は伝わってこない。少子化を止め、出生数を反転増加に導くには、子供を産んで育てたいと切に望む若い世代を政権と各自治体の首長、また経済界が総力で支えねばならない。
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岸田首相は若い世代に政府が本気になったと思ってもらえるようにすると宣言したが…(1月4日、伊勢神宮の参拝を終え、年頭記者会見する様子、三重県伊勢市)=共同

婚姻件数の減少が顕著に
 外国人を含む22年の出生数は79万9728人。前年より4万3千人あまり、率にして5.1%も減ったのは、言うまでもなく新型コロナウイルス禍が大きく寄与している。感染拡大の当初、人どうしの接触機会を減らすのが何にも増して優先され、若者らは出会いの場を奪われた。日本人の20年の婚姻件数は52万5千件あまり。前年より一気に約7万3千件減り、21年はさらに約2万4千件減った。
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 両親が結婚生活を始めてから第1子が生まれるまでの平均期間は2年半程度なので、22年の出生数80万人割れにはコロナによる婚姻激減の影響が色濃く出ている。このマイナスの影響は今年もつづく。日本人の出生数が70万人台前半に落ち込むと予測する根拠の一つである。
 コロナ禍を出生数減少の特殊要因とすれば、構造要因として2点を指摘できる。第1は、団塊ジュニア世代の多くが50代に差しかかり、出産適齢の女性が少なくなってしまったことだ。残念ながら今となっては手の打ちようがなかろう。

非正規にも正社員にも悩み
 第2は、若者の結婚・出産に対する意欲の低下がここにきて顕著になっている点だ。むろん結婚や出産は各人の選択である。その価値観に国が口を挟むべきではないのは当然だ。一方、就労や収入をめぐる厳しい状況が結婚して子供をもちたいという若者の希望をくじいている例は少なからずある。異次元の対策は、我慢を強いられているこれらの若者を徹底して支えることに比重を移す必要がある。
 とくに出産後に「何とかなりそうだ」と感じられない女性が増えているのを重くみるべきだ。非正規で働く人は収入が増えにくいという問題を抱えている。正社員は新卒で一括採用されてキャリアの蓄積を期待されるが、その大切な時期が20〜30代に重なりがちだ。出産か仕事かの二者択一を迫られる状況の解消が急務である。
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 両親とも育児に積極的な家庭は増えているが、女性の就労環境には課題が多い

 児童手当の所得制限をなくすかどうかなどという薄っぺらい議論は打ち止めにし、費用対効果を吟味しつつ、かぎられた国・自治体の予算をいかに有効に使うか、与野党がともに知恵を出し合うべきだ。ヒントは政府の全世代型社会保障構築会議が昨年12月に出した報告書にある。

結婚微増の機運を見逃すな
 報告書は育児休業だけでなく、希望する人が子育て期に時短勤務を選べるようにするための給付金、アプリで短期・単発の仕事を請け負うギグワーカーなどに対する給付金の創設を例示した。政府は精緻な制度設計を急ぎ、早急に実現に移してほしい。また企業経営者には従業員の残業を減らし、時短勤務を根づかせる責務がある。
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働きながら子育てする環境づくりは道半ばだ(コマツの関連施設を視察する岸田首相㊧、2月4日、石川県小松市)=共同

 岸田政権は新型コロナの感染症法上の類型を5月に季節性インフルエンザと同じ扱いに緩和する。名実ともにアフターコロナの時代だ。経済活動を平時に戻し、物価上昇に負けぬよう若者らの収入を上向かせる。若い世代にとって将来の社会保障・税負担が過重にならぬよう、年金や高齢者医療、介護保険の給付費膨張に歯止めをかける。そうして捻出した財源を再び若い世代に回す。不可欠なのは、中期・長期の時間軸をにらんだ対策の立案・実行である。
 僅かとはいえ、22年の婚姻件数が3年ぶりに増加に転じたのはひと筋の光明だ。アフターコロナの日本を日本人にも選ばれない国にしないために、V字回復は難しくとも出生数を反転上昇に導く機運を逃してはならない。
 出生数80万人割れは2月28日、厚生労働省が23年度政府予算案の衆院通過を待っていたかのように公表した。よもやとは思うが、この衝撃的な数字が予算委員会の審議に影響するのを避けようとする圧力が働いたとすれば、統計行政の公正性に疑念が生じると付言しておきたい。

【H3ロケット、6日に再打ち上げへ JAXA】
 3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3日午後に記者会見を開き、国の新型主力ロケット「H3」初号機の打ち上げを6日に再設定すると発表した。2月17日に発射寸前で補助ロケットへの着火が自動停止した原因の究明と対策を進めていた。
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大型ロケット「H3」初号機(2月17日、種子島宇宙センター)

 H3はJAXAと三菱重工業が共同開発する国の新たな大型ロケットだ。2014年から開発を進めており、1回あたりの打ち上げ費用を現行の大型機「H2A」の約100億円から50億円ほどに低減する目標を掲げる。当初の打ち上げ目標は20年度だったが、主エンジン「LE-9」の試験中のトラブルで2度延期し、22年度中を目標にしていた。
 種子島宇宙センター(鹿児島県)で2月17日に打ち上げを試みた。発射に向けたカウントダウンを進め、主エンジンを立ち上げて補助ロケットの着火直前に異常を検出して自動停止し、打ち上げられなかった。
 JAXAはこれまでの調査で電気系統に問題があったとみており、期間中の打ち上げに向けてロケットの点検などを進めてきた。

【アステラス製薬や旭化成、AIで研究革新 新素材開発など】
 3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
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エーザイはAIと全自動装置、ロボットを組み合わせ新薬の有望な候補となる化合物作製など研究開発を加速させる
 
 人工知能(AI)の導入により製造業の研究開発のステージが変わってきた。アステラス製薬は実験に必要な作業の期間を従来の1カ月から1時間半に短縮し、旭化成は新素材研究をAIが自律的に担う「スマートラボ」を4月に稼働させる。AI活用は企業の競争力の源泉である研究開発力を左右する。米国などに後れを取った日本は巻き返しを急ぐ。
 AIやロボットを駆使した研究の自動化は「ラボラトリーオートメーション」とも呼ばれ、人手に頼ってきた研究開発の姿を一変する可能性を秘める。
 アステラスは画像解析技術やロボットを使った独自システム「Mahol-A-Ba(まほらば)」を開発した。創薬の実験に必要な細胞の数の計算などをAIが担い、人手で1カ月程度かかっていた期間を1時間半に短縮する。まず、つくば研究センター(茨城県つくば市)に導入する。
 エーザイも筑波研究所(同)でAI導入を急ぐ。過去の研究データなどを生かしてコンピューター上で化学構造を導き出し、新薬の有望な候補となる化合物を迅速に絞り込む。実際に化合物を作製する全自動装置も3年後の実用化を目指しており、人手に比べ10倍の量を作り出せるようになる見通しだ。
 一般的に、一つの新薬を生み出すまでには数百億円から1千億円レベルの投資と10年以上の期間を必要とし、成功確率は約2万分の1とされる。開発は膨大な試行錯誤の繰り返しで、労働集約的な作業も多かった。
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 AIは業務効率化にとどまらず、革新的な製品を生み出すための中核技術になりつつある。
 米モルガン・スタンレーはAIを応用した創薬が今後10年間で数十の新薬と500億ドル(約6.8兆円)の市場を生む可能性があると予測する。活用で遅れれば、製薬会社の競争力にも影響を及ぼす。
 AIを活用した研究開発の自動化は化学や鉄鋼、食品など幅広い製造業に広がっている。
 旭化成が4月に稼働させるスマートラボでは温度や混ぜる速度、乾燥など多様な条件をAIが自律的に組み合わせて実験する。蓄電池材料など脱炭素に寄与する素材が対象候補とみられる。同社は効率の高い独自の探索手法を開発済みだ。新素材は開発に10年の期間を要する例もあるが、将来2〜3カ月程度への短縮を目指す。
 現在のAIブームは膨大なデータを活用した深層学習と呼ぶ技術の革新を機に2010年代前半に始まった。AIは人間の勘や経験に頼ってきた研究開発の姿を変えている。サッポロホールディングス(HD)は缶チューハイの開発に、ライオンは歯磨き粉の開発にAIを活用する。味わいや風味の選定など商品開発にかかる時間を短縮できる。身近な分野でAIの活用が進みはじめている。
 海外企業の取り組みは早い。米製薬大手イーライ・リリーは20年に米サンディエゴに研究自動化の拠点を設けるなど積極的だ。米IBMは半導体製造に使うフォトレジスト用の材料開発で、初期の設計工程を約100倍高速化する成果などをあげている。最先端のAI技術を取り入れ、幅広い領域の新材料発見を加速させる。
 PwCジャパングループによるとAIを導入する日本企業(売上高500億円以上)は22年の調査で53%にのぼった。20年の27%から増え米企業(同5億ドル以上)の22年の導入割合(55%)とほぼ肩を並べた。
 ただ、導入企業の多くは一部業務での活用にとどまり、全社的に導入している日本企業は13%と、米企業の26%に見劣りする。研究開発の自動化で研究者はアイデア創出や研究開発戦略の立案などに注力しやすくなる。日本企業も追い上げが必須となる。(AI量子エディター生川暁、沖永翔也、大西綾、篠原英樹)

【北方謙三、直木賞を語る(上)】
 4日の朝日新聞[朝ニュースレター]によると、作家の北方謙三さんが直木賞の選考委員を退任しました。第123回(2000年上半期)から今年1月の第168回まで、23年46回に及んだ選考のなかから、印象に残った受賞作や、名だたる選考委員たちとの思い出などを、2時間にわたって語ってもらいました。
きたかた・けんぞう 1947年、佐賀・唐津生まれ。中央大卒。81年の単行本デビュー作「弔鐘はるかなり」でハードボイルド小説の旗手に。歴史小説「破軍の星」で柴田錬三郎賞など文学賞多数。17年にわたって書き続けた大河小説「大水滸伝」シリーズ(全51巻+読本)の累計発行部数は1千万部を超えている。「小説すばる」誌に「チンギス紀」を連載中。
 
退任の理由は
――選考委員おつかれさまでした。ずいぶん突然の発表だった印象です。
 退任を発表してから、いろんな人から「どこか悪いんですか?」と聞かれまして。ぜんぜん悪くないです。4年前に膀胱(ぼうこう)がんが見つかりましたが、内視鏡で取って、転移もなくて、健康面は問題ありません。たばこも、その時にすっぱりやめました。
――ではなぜ、このタイミングだったのでしょう。
 10年くらい前から直木賞の選考委員であることに違和感を抱いていまして。私、一番多いときには14の文学賞の選考をしてました。いまも吉川英治文学賞と二つの新人賞をやってます。他の賞はね、人に言ってもどうってことないですよ。「ああ、そうですか」みたいなもので。ところが直木賞と言うと「ほう、そうですか」と反応が違う。賞そのものに社会的な波及性があるんです。みんな注目しているし、直木賞で食べていける作家がいっぱいいる。ただ選考委員はね、選考しているだけでチョコッと社会的な権威をくっつけられるんです。ことあるごとにプロフィルに書かれたり。
 作家は社会的権威と相反するところにいなければという思いと、でも社会的な賞は誰かがきちんと選ばなきゃいけないといった思いがずっと交錯してました。で、75歳になったんでもういいかなと思って。あえていえば、私の年齢のタイミングですよ。

【先細る日本の「ノーベル賞人材」 30年代に受賞者急減も】
 5日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 【この記事のポイント】
・世界で高い評価を受ける日本人研究者は14年と比べ半減した
・注目される論文数も2000年代前半の世界4位から12位に後退
・日本人のノーベル賞受賞が2030年代に急減する可能性がある

 日本で将来のノーベル賞候補となる先端研究人材が減っている。世界で注目される論文数はピークから2割近く減り国別順位で12位と2000年代前半の4位から後退した。優れた成果を出す研究者も14年から半減し、躍進する中国との差が広がった。日本発の革新が生まれにくくなっており、科学技術振興策や人材育成の見直しが急務だ。
 「先端科学研究の国際ネットワークから日本が無視され始めている」。東京大学の相田卓三卓越教授は危機感を示す。米科学誌サイエンスの論文を一次選考する委員で日本の研究機関からは相田氏のみ。10年代の5〜6人から減り続け中国や韓国を下回る。
 化学や材料など日本の得意分野でも存在感が薄れている。科学技術振興機構(JST)によると、材料科学分野で著名な国際会議「MRS」では1996年に招待講演者の1割が日本の研究者だったが、19年に4%弱に減った。
 英調査会社クラリベイトによれば、物理や化学などの21分野で他の研究者から引用された回数が上位1%の論文を過去10年に複数執筆した研究者(高被引用研究者=HCR)は、日本が22年に54人。14年から半減した。主要国で大きく減らしたのは日本のみで、中国が4倍、オーストラリアが3倍、韓国が2倍に増えたのと対照的だ。
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 論文数でも日本の地位低下が進む。被引用回数が上位10%の注目論文数で日本は80年代前半〜90年代初めに米英に次ぐ世界3位だった。90年代にドイツ、06年に中国に抜かれ、19年には12位に下がった。注目論文数は約3800本とピークから2割弱減った。
 一般に研究成果を上げてからノーベル賞を受賞するまでに20〜25年かかる。日本は21世紀に入り米国に次ぐ19人が受賞したが、ほとんどは80〜90年代の業績が評価された。10年代以降に日本の研究成果が低迷しているのを踏まえるると、30年代以降に受賞が大幅に減る恐れがある。
 優れた研究成果が出にくくなっているのはなぜか。鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長の分析によると、政府支出の大学研究資金が増える国はHCRも増える傾向にある。日本は04年の国立大学法人化で政府が大学に配る運営費交付金を毎年1%減額したうえで大学の裁量を増やし競争を促したが、研究力は低下した。
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 若手研究者の待遇や研究環境も悪化した。大学の正規教員に占める25〜39歳の割合は19年度に22%と90年代の3割超から減った。安定したポストが少なく将来不安から博士課程への進学が敬遠されている。研究者の卵である博士号取得者は19年度に1万5100人と人口が半分以下の韓国(1万5300人)に抜かれた。博士号取得者は各国が育成し、米国や中国も約20年間で2倍以上に増えている。
 カリフォルニア大学アーバイン校の五十嵐啓准教授は「米国などと比べて日本は若手研究者が独立して研究できるポストと予算が格段に少ない」と指摘する。
 博士人材の活用も課題だ。米国などでは官民が博士人材を高度な専門性を持った即戦力人材として学部卒などより厚待遇で採用しており、博士号取得はキャリアアップの重要な手段だ。一方、日本は博士人材の待遇が低く、学部卒に比べて非正規で働く人の割合が高い。
 政府は巻き返しに向け、10兆円の「大学ファンド」を創設した。年3000億円と見込む運用益を使い、選抜した数校を支援する。 若手支援や国際連携も強化する。ファンド運用を担うJSTの橋本和仁理事長は「日本の研究力の再興に向けた最後のチャンス」と話す。先端研究は国力を左右する。底上げを急ぐ必要がある。
(福岡幸太郎、グラフィックス 天野由衣、映像 高橋丈三郎)

高被引用研究者(HCR)
 他の研究者の論文に多数引用される論文を執筆した研究者。科学研究は先人の研究成果の上に新しく得られた知を積み重ねるため、研究者は学術論文の中で参考にした先行研究の論文を引用する。重要な研究成果ほど応用される裾野が広く高頻度で引用され、評価が高いことを示す。
 英調査会社クラリベイトは引用される回数が多い上位1%の論文を過去10年に複数出した研究者を「高被引用研究者(Highly Cited Researchers=HCR)」として、2014年から物理、化学、臨床医学、免疫学など21分野で公表している。22年は世界で3981人が選出された。首位は米国の1568人、2位は中国の523人で、英国、ドイツ、オーストラリアが続く。日本は14年に5位だったが、22年には11位に後退した。
 複数の分野にまたがり学際的に活躍する研究者の重要性も増しており、クラリベイトはこのHCRを「クロスフィールド」として18年から別枠で集計している。日本はクロスフィールドを含む人数でも15位にとどまる。HCRを多く輩出した世界上位10機関のうち米国が6機関、中国が2機関、英と独が1機関ずつだった。
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【中国、成長目標「5%前後」に下げ 全人代開幕】
 5日の日経速報メール【北京=川手伊織】によると、中国の第14期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第1回会議が5日午前、北京の人民大会堂で開幕した。李克強首相は、2023年の経済成長率目標を「5%前後」とし、22年の「5.5%前後」から下げた。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で痛んだ経済の正常化へ財政支出を拡充する。
【関連記事】
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 全人代は13日に閉幕する。閉幕日には国家主席として3期目入りする中国共産党の習近平総書記が演説する見通し。また李克強に変わり新たに首相に就任する李強氏の記者会見もある。 
 会期は前年より2日長い。任期5年の国家主席など主要人事を決めるためだ。ただ18年の会期は約2週間だった。「ゼロコロナ」政策は今年1月に終わったが、全人代の短期開催は続く。
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中国の全国人民代表大会が5日に開幕した(北京の人民大会堂)=比奈田悠佑撮影

 経済成長率の目標を引き下げるのは2年連続だ。22年の中国経済は「ゼロコロナ」政策などで3%成長にとどまり、同年の政府目標「5.5%前後」を大幅に下回った。李氏は所信表明にあたる政府活動報告で、消費の回復・拡大を優先課題とし内需拡大に注力する方針を示した。
 政府活動報告で李克強氏は積極的な財政政策は「いっそう強化して効率を高める」と強調した。国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率は3.0%に設定し、昨年目標の2.8%から引き上げた。地方政府のインフラ投資を促すため、専項債と呼ぶ関連債券の発行額は3兆8000億元(約75兆円)とし、22年から1500億元増やした。
 消費回復のカギを握る雇用の目標をめぐり、失業率は5.5%前後とする。22年の「5.5%以下」からわずかに目標を緩めた。都市部の新規雇用は1200万人前後とし、前年の1100万人以上から引き上げた。

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全人代が開かれる人民大会堂(5日、北京)=比奈田悠佑撮影

 産業政策では、習指導部の下で企業や研究機関が総力を挙げて半導体産業などを育成する「新型挙国体制」を整えると強調した。「重要な核心技術を巡る難関を乗り越えるうえで政府主導を徹底する」とした。米国の先端半導体をめぐる対中輸出規制への危機感がみてとれる。
 全人代では国務院(政府)の体制を正式に決定する。李強氏のほか、マクロ経済政策の司令塔を務めた劉鶴副首相の後任に、国家発展改革委員会の何立峰主任が就くとみられる。
 政府活動報告では台湾についても触れた。「新時代の党の台湾問題解決の基本方策を貫徹し、『独立』反対・祖国統一促進を貫き、祖国の平和的統一への道を歩む」と明記した。2024年の台湾総統選を念頭に、統一へ圧力を強める姿勢を示したとみられる。

【徴用工問題 首相「歴代内閣の歴史認識引き継ぐ」】
 6日午前、日経速報メールは次のように伝えた。
岸田文雄首相は6日、日韓間の元徴用工問題を巡り「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく」と述べた。参院予算委員会で自民党の佐藤正久氏に答弁した。
 佐藤氏は過去の政権が表明した「反省とおわび」を「日韓関係の文脈で、今この時点で読み上げるのは絶対にしてはいけない」と指摘した。首相は「両国の外交当局で調整が進んでいる。具体的に申し上げるのは適切ではない」と語った。
 林芳正外相は日韓関係に関し「健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づいて韓国と緊密に意思疎通していく考えに変わりはない」と発言した。
首相は5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を招待するか問われた。「招待国や招待機関については検討中であり、現在何ら決まっていない」と述べるにとどめた。

【韓国、元徴用工解決策を発表 韓国の財団が賠償肩代わり】
 同じ6日、日経速報メール【ソウル=甲原潤之介】は次のように伝えた。韓国の朴振(パク・ジン)外相は6日、元徴用工問題の解決策を正式に発表した。韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金の支払いを韓国の財団が肩代わりする。国交正常化以降、最悪といわれる状況まで悪化した日韓関係の立て直しを急ぐ。
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尹錫悦大統領は日本との外交対立を避けながら補償を進める解決策づくりに取り組んだ=1日、ソウル(共同)

 韓国政府傘下の公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」が原告に判決金相当の金額を支払う。新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業を相手取った3件の訴訟で判決が確定している。韓国外務省によると賠償対象となる元徴用工は故人を含め15人いる。
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 韓国の聯合ニュースによると15人分の判決金と利子の総額は40億ウォン(約4億円)規模になる。遺族を含む原告に支給する。係争中の訴訟についても勝訴が確定した場合は財団が判決金の支払いを肩代わりする方針も示した。
 肩代わりの財源は民間の自発的な寄付などでまかなうとした。
 朴氏は6日午前の記者会見で「膠着した日韓関係をこれ以上放置せず、国益のレベルで悪循環の輪を断ち切る」と話した。「これが最後のチャンスだと思う」と強調した。小渕恵三首相と金大中大統領による1998年の日韓共同宣言を「発展的に継承する」と言及した。
 日本側には「日本政府の包括的な謝罪、日本企業の自発的な寄与で呼応することを期待する」と求めた。
 経団連と韓国の全国経済人連合会(全経連)による共同事業を念頭に「両国の経済界の自発的な寄与を検討中と聞いている。日本政府も反対しないという立場と理解している」と明らかにした。
 元徴用工に対し「苦痛に深く共感し、傷が早く治るよう最大限努力する」と語った。
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 韓国最高裁は2018年、元徴用工の損害賠償請求を認める判決を初めて確定させた。原告は日本企業の資産を現金化し、賠償資金とする司法手続きを進めている。
 日本政府は賠償問題について1965年の日韓請求権協定で解決済みだと説明してきた。判決は同協定に反するとして両社とも支払いに応じていない。日本の外交上の立場と韓国司法の判断が相反し、関係悪化の要因となっている。
 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前政権は日本との交渉に動かず、現金化に向けた司法手続きが進んだ。日本側は現金化されれば国交正常化の前提が崩れ、関係修復が困難になると警鐘を鳴らしてきた。
 尹錫悦(ユン・ソンニョル)現政権は22年5月の発足後、日本との外交対立を避けながら補償を進める解決策づくりに取り組んだ。同年11月に岸田文雄首相と正式な首脳会談を3年ぶりに開き、早期解決で一致した。
 韓国外務省は23年1月、公開討論会で今回の解決策を有力案として示した。原告の説得を続けている。一部の原告はなお反発している。
 韓国側は原告の納得を広げるため、一連の交渉の過程で日本に「誠意ある呼応」を求めた。過去の植民地支配や侵略に対する「反省とおわび」の表明や、日本企業による自発的な寄付を求めて交渉してきた。
 日本政府は1998年の日韓共同宣言などの継承を表明する方向だ。経団連と韓国の全経連が資金を出し合い、未来志向の共同事業を立ち上げる取り組みも検討している。
 両国は元徴用工問題の解決を契機に、19年に始まった日本による対韓輸出管理の厳格化措置など複数の懸案の包括的な解決もめざす。韓国は日本に尹氏の早期訪日を要請している。

【岸田首相「歴史認識の立場継承」 98年日韓共同宣言含め】
 同じ6日晩、日経速報メールは次のように伝えた。
 岸田文雄首相は6日、日韓関係を巡り「1998年10月に発表された日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と語った。98年宣言は過去の植民地支配に関し「痛切な反省と心からのおわび」を表明している。
 首相官邸で記者団の質問に答えた。韓国政府が発表した元徴用工問題の解決策について「日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と述べた。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と「緊密に意思疎通を図っていきたい」と訴えた。
 韓国が政権交代などで再び立場を変える可能性に関する質問には「仮定に基づいた質問には答えない」と述べるにとどめた。
 2019年に日本が半導体素材などの輸出管理を厳格化したことについては「労働者(元徴用工)問題とは別の議論だ」と強調した。そのうえで「19年7月以前の状態に戻すべく、2国間協議を速やかに行っていく」と説明した。
 日韓両国は「国際社会における様々な課題に向き合う上で重要な隣国関係である」と指摘した。「現下の国際情勢や戦略環境を考えた際に日韓や日米韓の連携は重要である」と強調した。
 「自由で開かれたインド太平洋の取り組みを進めていく上でも韓国と連携していくことが重要である」と話した。

【日韓首脳会談、3月中で調整 尹大統領が来日へ】
 同じ6日晩、日経速報メールは次のように伝えた。
 日韓両政府は3月中に岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の首脳会談を日本で開く調整に入った。韓国政府が元徴用工問題の解決策を発表したのを踏まえ、両国の関係改善を進める。
 日本での首脳会談が実現すれば2018年5月に当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が来日して以来、およそ5年ぶりとなる。日韓首脳が毎年相互に訪問する「シャトル外交」の再開に向けた機運を高める機会となる。
 日本側は韓国が発表した解決策への日韓両国の世論の動向などを見極め、実現の可否や日程を最終的に決める。首相は6日の自民党役員会で「この機を逃さず首脳をはじめハイレベルな日韓関係強化を力強く推進していきたい」と強調した。
 「麻生太郎副総裁はじめ皆さんに細心の地ならしをしていただいたことが結実した」とも語った。麻生氏は22年11月に韓国を訪問して尹氏と会談した。

6日晩の朝日速報ニユースレターは次のように報じた。
本日のナビゲーター
田村剛 ゼネラルエディター補佐
 ユーラシア大陸の東端に位置する二つの国。世界地図で眺めると、そのあまりの近さに、まさに「隣人」という言葉がしっくりきます。日本と韓国――。互いにそんな位置にありながら、ここ数年「戦後最悪」とさえ言われてきた両国の関係が、きょう大きく歩み寄りました。最大の懸案だった徴用工問題をめぐって、韓国政府が「解決策」を発表し、日本側もそれを受け止めたことによるものです。北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、ロシアによるウクライナ侵攻で世界の緊張が高まるなか、自由や民主主義の理念を共有する日韓両国がいがみ合っても何の意味もありません。支え合う隣人として、未来に向けて進んでほしいと思います。

インサイド
徴用工、尹大統領が描いた「解決」の道 背景に慰安婦合意の苦い経験
ソウルで2023年3月6日、徴用工訴訟の問題をめぐる「解決策」を発表する韓国の朴振外相=AP
 韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工への賠償を命じてから4年余り。日韓両政府が「解決」への歩みを進めた。「戦後最悪」とも言われた関係をどう立て直そうとしたのか。

 日韓関係の最大の懸案となっていた徴用工問題で、韓国政府が6日に「解決策」を発表した。見えなかった「解決」への道筋を探し始め、決断を下したのは昨年5月に就任した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領だった。

 尹氏は2大政治勢力が対立する韓国で、進歩(革新)系から保守系への政権交代を果たした。歴史認識をめぐって日本に厳しい態度を貫き、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に融和的だった文在寅(ムンジェイン)前政権の方針を転換。同盟国と関係を深めて中国に向き合いたい米国の意向や、軍事行動を止めない北朝鮮を牽制(けんせい)する必要性から、日本との協力の強化を唱え、徴用工問題にも当初から取り組んだ。

 発足の約2カ月後には「解決策」を導き出すための「官民合同協議会」を設置。日本の植民地支配からの解放を記念する8月15日の「光復節」の演説では、「両国の未来と時代的な使命に向かって進む時、歴史問題も解決できる」とのメッセージを発信した。

 ただ、1965年の日韓請求権協定で賠償問題は解決済みとする日本側と、大法院判決に基づく「被告の日本企業からの賠償と謝罪」を求める原告の考えは相いれない。双方が受け入れられる策が必要だった。

 韓国政府関係者によると、「謝罪」については早い段階から日本側に、歴代内閣が示した植民地支配と侵略への「反省とおわび」の継承を表明してもらえればいいとの意向を伝えた。

朴外相がみせた自信 13人の遺族と面会

 課題は「賠償」だった。

 官民協議会での有識者らの意見などを踏まえ、韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が企業からの寄付で賠償を肩代わりする案も、早くから考えられた。この方法であれば被告企業が寄付に参加しても「賠償ではない」と解釈でき、原告には賠償額と同額が支払われることになる。

 しかし、「日本企業による賠償」を求める一部の原告や支援団体からは、水面下で案として検討されている段階から、日本側に譲歩した「屈辱外交」との声があがった。1月に韓国政府が仕組みを公表した際もあくまで「有力案」とするにとどめ、日本側に「誠意ある呼応」を呼びかけるなど原告への配慮を前面に出した。

 背景には、日本側との水面下の交渉で「最終的かつ不可逆的な解決」としてまとめた2015年の日韓慰安婦合意が、有名無実化した苦い経験があった。

 この時は、日本が拠出した10億円を財源に元慰安婦らに支援金が支給される仕組みがとられ、合意当時に存命だった元慰安婦47人のうち35人が1人あたり1億ウォン(約900万円)を受け取った。しかし、元慰安婦の一部や支援団体が猛烈に反発。韓国国内の世論が呼応し、進歩系の文政権の誕生後に合意は空文化した。

 このため、徴用工問題では案を公表してから、支給対象と想定する原告37人に時間をかけて説明する方針をとった。一方、日本側の寄付などの表明があれば一気に理解が広がると考え、外交協議で被告企業の拠出を求めた。

 韓国政府関係者によると、外交協議で日本の「呼応」の道筋が得られ次第、「有力案」を「正式な解決策」として発表し、尹氏は早期に訪日し、4月に訪米、5月の広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)にも出席して同盟強化と日韓関係の改善を強くアピールする――。そんな行程が描かれた。

 ただ、日本側からは被告企業による拠出が「極めて難しい」との反応が続いた。2月中旬のドイツでの日韓外相会談で、韓国の朴振(パクチン)外相は林芳正外相に改めて2社の拠出を強く要請。ただ、日本側もまた、賠償責任を認めたと解釈される懸念から、応じられないとの立場を改めて伝えた。

 韓国国内では前政権を支えた最大野党が尹政権の対日姿勢への「弱腰外交」などとの批判を強めるようになり、期待が大きくない日本側の譲歩を待ち続けて時間が経てば、むしろ「世論の反発が強まることが予想された」(尹氏周辺)。来春に総選挙を控え、政権には、世論が敏感に反応する歴史問題をなるべく早く決着させたい思いもあった。

 日本側から、経済界が青少年向けの協力事業などを検討することを打診され、尹氏は「政治決断」に至った。

 「多くの遺族が理解を示してくれた」。6日の「解決策」を発表した記者会見で朴外相は、原告側の受け入れに自信をみせた。大法院判決で賠償が認められた15人のうち、13人の遺族らと面会した結果という。(ソウル=鈴木拓也)




【H3ロケット初号機失敗 打ち上げ後に指令破壊】
 7日午前、日経速報メールは次のように伝えた。

 宙航空研究開発機構(JAXA)は7日、大型ロケット「H3」初号機の打ち上げに失敗した。地上からは飛び立ったが、2段目のエンジンの点火を確認できず、機体を破壊する指令を出した。国産ロケットは2022年10月に小型機「イプシロン」も打ち上げに失敗しており、日本の宇宙開発は信頼を落とした。H3は米国主導の有人月面探査や火星圏の探査などにも活用予定だったが、 宇宙開発戦略の見直しを迫られる。
 H3は7日午前10時37分、地上を観測する人工衛星「だいち3号」を搭載して種子島宇宙センター(鹿児島県)から定刻通りに打ち上げられた。H3には第1段と第2段のエンジンがある。1段目の主エンジンは順調に燃焼し、1段目と2段目の分離までは進んだが、約5分後に予定していた2段目のエンジンの点火を確認できず、人工衛星を予定の軌道に投入できないと判断し、JAXAは10時52分ごろに機体を破壊する指令を送ったという。
JAXA広報は報道陣に対し「ミッションの達成が見込めない。失敗となる」とコメントした。JAXAを所管する文部科学省は7日に対策本部を設置し、JAXAと原因究明を進める。ロケットのエンジンに詳しい東京理科大学の米本浩一教授は「エンジン本体の問題か制御する電気系統の問題だろう」と指摘する。

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地上から飛び立った後、指令破壊となった次世代大型ロケット「H3」(7日、種子島宇宙センター)

 H3は現行の大型ロケット「H2A」の後継機で三菱重工業との共同で14年に開発が始まった。開発費用は約2000億円。打ち上げ費用をH2Aの1回あたり約100億円から同50億円にするとともに、注文を受けてから発射までの期間も約1年と従来の約2年から半減する目標を掲げる。日本で実績の乏しい商業用人工衛星の打ち上げビジネスへの活用が期待されていた。
失敗原因の究明や対策を実施するまで、次のロケットの打ち上げは困難になる。22年10月に打ち上げに失敗したイプシロン6号機はその後5カ月たった今も原因を調査中だ。日本は大小2つのロケットを使い分けている。どちらも失敗したことで今後の打ち上げ計画の見通しが立たない。
H3は米国主導の有人月探査「アルテミス計画」や、日本主導で火星の衛星から試料(サンプル)を地球に持ち帰る計画「MMX」にも使う計画を掲げる。24年度に打ち上げを予定するMMXは探査機「はやぶさ2」などの知見を生かして火星圏から世界で初めて土壌を採取し、地球に帰還させる役割が期待されている。H3が使えず計画が大きく遅れれば、米国などの火星探査の計画に先行される可能性が高い。
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 当初は20年度の初飛行を計画していたが主エンジンの試験中にトラブルがあい次ぎ、大きく2回延期した。改良にメドが付き、22年11月の最終試験を終えた。JAXAは2月17日に打ち上げを試みたが、主エンジンを立ち上げた後、補助ロケットの着火直前に異常を検出して自動停止し、打ち上げられなかった。調査の結果、機体第1段の制御装置の誤作動が原因とわかり、JAXAは対策を検討して試験で検証し、打ち上げ日を再設定して7日を迎えていた。
 搭載しただいち3号は地上を光学センサーで観測する衛星で開発費は約280億円。白黒画像ならば地上を約80センチメートルの細かさで識別することができ、地震や水害の被害状況の把握などに利用が期待されていた。

【H3ロケット失敗、山川JAXA理事長「原因究明に尽力」 JAXA会見詳報】 
 7日午後、日経ニュースメールは次のように報じた。
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記者会見するJAXAの山川理事長(7日)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は新しい大型ロケット「H3」初号機の打ち上げが失敗したことを受けて、7日午後に記者会見を開いた。H3の主エンジンは燃焼したが2段目のエンジンの点火が確認できておらず、何らかのトラブルが起きたとみられる。日経電子版では会見の模様をタイムライン形式でまとめた。
 会見にはJAXAの山川宏理事長や布野泰広理事、打ち上げ執行責任者の岡田匡史プロジェクトマネージャ、川上道生・鹿児島宇宙センター所長、文部科学省の原克彦・大臣官房審議官が出席した。
【午後5時23分】岡田氏と川上氏が起立して一礼し、会見が終わった。
【午後5時16分】岡田氏「(JAXAは)下からの声が上によく伝わる組織」
打ち上げ前の懸念点やリスクを潰すための仕組みがあるか問われ、岡田氏は「下からの声が上によく伝わる組織だと思っている」と述べ、出てきた意見を議論しやすい雰囲気だとの印象を語った。
【午後5時10分】だいち3号プロジェクトマネージャもショック
岡田氏は打ち上げ失敗後、搭載していた衛星だいち3号のプロジェクトマネージャと交わしたやりとりを振り返った。総合指令棟(RCC)で、「3つ離れた席にだいち3号のプロジェクトマネージャが座っていた。H3ロケットの飛行中断後、すぐには近寄れなかったが申し訳なかったと伝えた。相当ショックを受けていたようで、『仕方ない』という返事が返ってきた」(岡田氏)。
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地上から飛び立った後、指令破壊となった次世代大型ロケット「H3」(7日、種子島宇宙センター)

【午後4時58分】岡田氏「(気持ちの変化)急転直下だった」
打ち上げからの気持ちの変化を問われ、岡田氏は「ロケットは人工衛星を軌道に投入するまでが一つのミッションなので途中途中で喜びが完結するものではないが、相当苦労したエンジンが300秒燃えてくれたことはうれしかった。2段の分離までは記憶があるが、いよいよエンジンが立ち上がらないと認識してその先は急転直下だった」と心境を振り返った。
【午後4時57分】川上氏「地上設備は期待通りの機能を発揮」
打ち上げ安全監理責任者の川上氏は地上設備の動作について「期待通りの機能を発揮してロケットを追尾するなどできていた。詳細なデータを評価して次につなげたい」と説明した。
【午後4時45分】岡田氏「原因究明は着火しなかった点」
エンジンや電気系統など失敗の原因について様々な観点を問われた岡田氏は「(現時点は)着火しなかったという事実がある。そこから逆にたどって原因が何かを探ることになる」と述べた。
【午後4時34分】岡田氏「一緒に大きな壁を乗り越えていきましょう」
岡田氏は「開発の中心になっているエンジニアはJAXAも三菱重工業の方も一緒になって必死になってやってもらっていると思う」と話した。かけたい言葉を問われ、「一緒に大きな壁を乗り越えていきましょう」と答えた。
【午後4時25分】岡田氏「安かろう悪かろうを目指すわけではない」
原因究明に時間がかかればコストが増え設計の見直しが必要になるかとの指摘に対して、岡田氏は「不具合の部分を手厚くしてコストがバランスを崩した形で膨らむことはやってはいけない。安かろう悪かろうを目指すわけではないので、新しい知恵と技術でコストダウンをはかる」と話した。
【午後4時20分】岡田氏「打ち上げ失敗は一番あってはならない」
岡田氏は「打ち上げ失敗は、開発の結果としては一番あってはならない。乗り越えられない壁ではないと思うので力を振り絞ってみんなで乗り切りたい」と話した。
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次世代大型ロケット「H3」の打ち上げ状況について話すJAXAの広報担当者(7日、種子島宇宙センター)

【午後4時17分】岡田氏「地上から何もできない」
第2段目のエンジンが点火しなかった際について、岡田氏は「(再び立ち上がるとの期待は)ゼロではなかったが。最初のうちは何とか立ち上がってくれと思った。地上からは何もできない」と悔しがった。
【午後4時4分】岡田氏「いつまでにと申し上げるものではない」
2号機の打ち上げ時期について問われ、岡田氏は「いつまでにと(私から)申し上げるものではない。検討と対応はできるだけ早くお示ししたい」と語った。
【午後3時50分】岡田氏「自動車部品は信頼性高い」
自動車部品を採用した影響について問われ、岡田氏は「自動車用部品はものすごく信頼性が高い。今回起きたことと関連を持つのか否かは急ピッチで検討したい。自動車用とロケット用の部品は、耐放射線性で違いがあり使える部品を仕分けている。振動や温度による影響は開発試験で確認している」。
【午後3時48分】岡田氏「(打ち上げ中止対策の影響)直感的にはない」
2月の打ち上げ中止を受けた対策で、電気信号を遮断するタイミングを今回変更した。タイミング変更の影響を問われ、岡田氏は「直感的には影響を受けていない。念のため確認の対象にはしたいと思っている」と回答した。
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地上から飛び立った後、指令破壊となった次世代大型ロケット「H3」(7日、種子島宇宙センター)

【午後3時46分】岡田氏「エンジン寿命は管理されている」
岡田氏はエンジンの寿命について「ときどき心配するが、(打ち上げに)影響が出ることはないと思う。寿命の管理は適切にコントロールされている。途中で点検もする。ただ、決めつけずに考えたい」と話した。
【午後3時44分】岡田氏「ぼうぜんとした」
飛行中断を決めた際の管制内の様子について、岡田氏は「思い出せないくらいだ。ちょっといま。ぼうぜんとしていたような気がする。私自身は」と振り返った。
【午後3時40分】期限内の打ち上げプレッシャーは否定
H3ロケットは2月に打ち上げ中止になり、予備期間は3月10日までと定められていた。期限までに打ち上げないといけないプレッシャーがあったかを問われた岡田氏は「原因調査と対策が中途半端で打ち上げができるとは思っていない。できなければ無理に打ち上げることはなかった」と述べた。
【午後3時33分】岡田氏「(第一印象では)電気系統に不具合があるかもしれない」
不具合の箇所はエンジンや機体全体を制御する電気系統と見ているかと尋ねられた岡田氏は「第一印象ではその範囲だが、朝の打ち上げなのでもう少し広い網をかけていきたい」と述べた。
【午後3時31分】岡田氏「(原因に)まだ見当がつかない」
岡田氏は原因究明の状況について「ロケット機体本体の電子搭載機器からエンジンまでのあたりを調べる対象と考えている。現在、発射管制棟(LCC)の中でエンジニアがホワイトボードを3枚くらい使って議論をしている。まだ(原因に)見当がつかない」と説明した。
【午後3時26分】岡田氏「飛び立つ姿を見てもらいたい」
打ち上げ執行責任者の岡田氏は学生らからの期待も大きかった点を問われ「今は考える余裕がない。失敗の原因を究明してH3の飛び立つ姿を見てもらいたい」と沈痛な表情で述べた。時折言葉に詰まりながら声を振り絞った。岡田氏は2月の打ち上げ中止の際の会見で涙を浮かべながら悔しさをにじませていた。
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記者会見するJAXAの岡田匡史H3ロケットプロジェクトマネージャ(7日)

【午後3時24分】登壇者3人への質問が終わり、打ち上げ執行責任者の岡田氏、鹿児島宇宙センター所長の川上氏への質問に移った。
【午後3時18分】H2Aの利用延長、「絶対にあり得ない選択肢ということはない」
数機程度のH2Aの利用を延長する可能性があるかとの質問に対して、布野氏は「H2Aは50号機までということで準備している。絶対にあり得ない選択肢ということはないと思うが、開発してから長い機体のため、部品の検討なども必要になる」と話した。
【午後3時14分】布野氏「LE-9(エンジン)はよくやった」
布野氏は「2年間(開発に)苦しんだLE-9は想定した性能を発揮してくれた。『LE-9はよくやった』と岡田(プロジェクトマネージャ)と叫んだくらい、そこまでのフライトは完璧だった」と振り返った。
【午後3時13分】山川氏「信頼性をないがしろにしたことはない」
国際競争力を確保するためにコスト削減した影響について、山川氏は「最も重要なものはコストだけでなく信頼性なので、信頼性をないがしろにしたことは一度もない。両立をするために非常に工夫をしたのがH3ロケットの最大のポイントだ」と話した。
【午後3時3分】山川氏「だいち3号の軌道投入失敗は大きな影響」
現在運用中で設計寿命を迎えているだいち2号の後継機(だいち3号)の投入に失敗したことについて、山川氏は「だいち2号は当初の予定を超えて運用している。今回のだいち3号の軌道投入の失敗は大きな影響があり、どうやって挽回していくかはこれから検討する必要がある」と話した。
【午後2時56分】山川氏「失敗の対応に集中したい」
山川氏は各国が基幹ロケットの開発で競争している現状について、「様々な国がロケットを開発し、我々も注視している。世界も我々に注目しているので今後、失敗の対応に集中したい」と話した。
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地上から飛び立った後、指令破壊となった次世代大型ロケット「H3」(7日、種子島宇宙センター)

【午後2時45分】布野氏「今回の失敗、イプシロンと共通ではない」
2022年10月の小型ロケット「イプシロン」の打ち上げ失敗と今回の失敗について、布野氏は「共通であるかというと現時点でそれはない。過去の教訓などから失敗をしない取り組みをしてきたが、失敗が続くことは極めて重いことだ」と述べた。
【午後2時41分】山川氏「総合的に競争力のあるロケットを目指す」
H3の国際競争力について問われた山川氏は「失敗を受け、原因究明や対策には時間やコストがかかるだろうが、信頼性やお客様の観点から見て使いやすいロケットを目指している。総合的な観点で競争力を確保することが今後の目標だ」と話した。
【午後2時36分】布野氏「計画立て直す」
布野氏は「年間6機の打ち上げを計画している。まずは今回の原因究明を早急に行いH3の計画を立て直す」と話した。
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記者会見するJAXAの布野理事(7日)

【午後2時半】布野氏「ロケット回収は考えていない」
ロケットが破壊しフィリピン沖に落下したが、布野氏は「深い海ということもあり、現時点で回収は考えていない」と述べた。
【午後2時25分】山川氏「信頼性の回復が責務」
山川氏は「打ち上げ実施機関の長として、原因究明に尽力し、改めてロケットの信頼性を回復するのが責務だ」と述べた。
【午後2時24分】原氏「結果は残念で申し訳ない」
原氏は「H3ロケット打ち上げがこのような結果に終わったのは誠に残念で申し訳ない。今後徹底的な原因究明と再発防止に努める」と述べた。
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記者会見する文部科学省の原審議官(7日)

【午後2時18分】山川氏「深くおわび申し上げる」
山川氏は会見の冒頭に「このたびは搭載された衛星に関係された方々、地元含め関係の皆様、多くの国民の期待に応えられず深くおわび申し上げる」と述べた。
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記者会見でおわびするJAXAの山川理事長㊨ら(7日)=YouTubeから

【午後2時17分】会見が始まった
BSテレ東「日経ニュース プラス9」でこのニュースを解説

【文系もデジタル人材に?  「やらされてる」感に専門家が抱く危機感】
 10日の朝日新聞ウィークリーは次のように報じた。
 文系でもデジタル嫌いでも関係なく、働き手にデジタル対応を求める動きが、国や職場を挙げて進んでいます。だれでもデジタル人材になれるのか、なるべきなのか。「文系AI人材になる」という著書があるAI(人工知能)活用の専門家、野口竜司さんに聞きました。
 ――「文系AI人材になる」という本を書かれています。これまでデジタルに強くなかった人も、学べばそれなりの仕事ができる「文系デジタル人材」になれるのでしょうか。
 「私の専門はAIの活用ですが、自分ではプログラミングはやりません。3年前に『文系AI人材になる』を書いた時、今後はデジタルで何かを『作る』だけでなく、どう『使う』かが課題だと位置づけました。みずから技術的革新を作り出すだけでなく、そうした技術をうまく使ってビジネスを大きくすることも、イノベーションの一種だからです。それが今、現実になった感覚があります」

【決勝みすえた大谷翔平とダルビッシュの起用法 WBC優勝への鍵とは】
 9日晩の朝日新聞ニュースレターは次のように報じた。
 日本代表「侍ジャパン」が2009年以来3大会ぶりの世界一に輝くための最大のポイントは、現役大リーガーの大谷翔平(エンゼルス)とダルビッシュ有(パドレス)をどの試合で投げさせるか、だ。
 5チーム総当たり方式の1次ラウンド(R)で、日本が入るB組の最大の難敵は韓国。近年の国際大会では勝ちあぐねている印象だが、08年北京五輪、15年プレミア12で優勝した実績がある。今大会はキム・ハソン(パドレス)、トミー・エドマン(カージナルス)といった大リーガーが名を連ねた。
 日本にとって最初の山場となるこの試合で、先発が有力視されているのがダルビッシュだ。
 侍ジャパン最年長の36歳右腕は、宮崎で行われた強化合宿初日からチームに合流した。時差ボケも早くに解消し、実戦形式の投球練習を経てじっくりと状態を上げてきた。間近で調整を見守ってきた栗山英樹監督の信頼が厚く、大一番のマウンドを託されそうだ。韓国に勝てば1次Rの通過がぐっと近づき、準々決勝を見越した選手起用も可能になるだろう。
 前回大会は1次Rの後に、総当たり戦の2次Rを経て、準決勝が行われた。今大会は方式が変更され、1次Rの直後にトーナメント形式になる。日本が勝ち上がれば、オランダやキューバ、台湾との対戦が予想される。負ければ即敗退の一発勝負。日本が最重要視しているのもこの一戦で、エース級の投手をつぎ込むことも視野に入れているようだ。準々決勝で「夢」のリレーも。
 大会規定で、1次Rで1人の投手が1試合に投げられるのは65球まで。50球以上投げた場合は中4日空けなければ登板できない。
 大谷は9日の中国戦に先発することが決まった。中6日を空けて万全の状態で準々決勝に先発することが可能だ。ダルビッシュも10日の韓国戦での登板となれば、準々決勝に中5日で臨め、大谷―ダルビッシュという「夢」のリレーが期待できる。
 11日のチェコ共和国戦は佐々木朗希(千葉ロッテマリーンズ)、12日の豪州戦は山本由伸(オリックス・バファローズ)が先発する見通し。このローテーションであれば、大会規定の投球数制限や登板間隔をクリアしつつ、2人には準決勝と決勝のマウンドも託すことができる。
 この先発4人が4~5回で降板すると想定すると、今永昇太(横浜DeNAベイスターズ)や宮城大弥(オリックス・バファローズ)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(東京ヤクルトスワローズ)ら「第2先発」候補の働きも重要になる。
 大会前の壮行試合で湿りがちだった打線は、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)と大リーグ勢が加わり厚みが増した。大会では山川穂高(埼玉西武ライオンズ)や村上宗隆(ヤクルト)ら日本球界が誇る強打者の活躍ももちろん不可欠になってくる。
 準決勝からは米国に舞台を移し、大リーガーがそろう米国やプエルトリコ、ベネズエラと対戦する可能性がある。球速、打球の飛距離ともにレベルが一段階上がる相手だろう。大リーグの打者の特徴を把握しているダルビッシュや大谷を、決勝の抑えで起用するプランがあってもいい。
 力で対抗して打ち合うのではなく、自慢の投手陣でロースコアに持ち込む。そうすれば、侍ジャパンの頂点が見えてくる。(室田賢)

【日銀総裁に植田和男氏、国会が承認 初の経済学者出身】
 10日の日経速報メールは次にように報じた 
 国会は10日午前、次期日銀総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する政府の人事案を承認した。参院が同日の本会議で与党などの賛成多数で可決した。副総裁に氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事を充てる案にも同意した。
• 【関連記事】日銀総裁に植田和男氏 現実派、市場・政治との対話試練

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衆院はすでに9日の本会議で人事案を可決した。植田氏は初の経済学者出身の総裁となる。
 内閣の任命をへて正式に就く。任期は正副総裁いずれも5年間となる。植田氏は4月9日、氷見野氏と内田氏は3月20日に就任する。黒田東彦総裁は4月8日、副総裁の雨宮正佳氏と若田部昌澄氏は3月19日に任期満了を迎える。
 日銀の正副総裁の人事は国会の同意が必要になる。黒田氏は2013年に総裁になった。18年に再任され、総裁をおよそ10年間務めてきた。
 黒田氏が主導した異次元の金融緩和を巡り植田氏は衆参両院の所信聴取で緩和の検証を「必要に応じて検討したい」と言及した。金融緩和は当面続ける姿勢を強調した。氷見野氏と内田氏も緩和を継続する意向を示した。
 植田氏は政府・日銀の共同声明を「ただちに見直す必要があるとは今のところ考えていない」と明言した。
 岸田文雄首相は植田氏を起用する理由について「国際的にも著名な経済学者であり、理論、実務両面で金融分野に高い見識を有する」と述べた。
 共同声明に関する植田氏の発言には「政府として特段違和感のある内容はなかった」と語った。

【日銀、大規模緩和を維持 黒田総裁最後の決定会合】
 10日の日経速報メールは
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金融政策決定会合に出席するため、日銀本店に入る黒田総裁(10日午前)=代表撮影

 日銀は9〜10日に開いた金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の維持を決めた。長期金利の許容上限は0.5%程度のままとし、マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)の買い入れといった措置も維持した。足元の物価高は一時的とみて、経済の下支えに向けて緩和的な金融環境を維持する。
• 【関連記事】長期金利、日銀緩和維持で急低下 円安も一時進行
 
 黒田東彦総裁にとっては任期中最後の定例会合となった。10日午後に記者会見し、決定内容を説明する。
 日銀は2022年12月の会合で「市場機能の改善」を理由に長期金利の上限を引き上げた。市場には日銀が再び修正に踏み切るとの観測が浮上していた。12月の政策修正の効果の見極めにさらに時間をかけるとみられる。
 日銀は公表文で国内景気について「資源高の影響などを受けつつも、持ち直している」との見方を示した。輸出や鉱工業生産は海外経済の減速の影響を受けつつも「供給制約の影響の緩和に支えられて横ばい圏内の動き」という。雇用・所得環境は緩やかに改善し、個人消費も緩やかに増加しているという。
 1月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)は前年同月比で4.2%上昇した。上昇率は1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの水準となる。厚生労働省が発表した1月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比4.1%減った。物価高に賃金上昇が追いついていない。
 日銀は今後の物価について、政府の経済対策による電気・ガス料金の押し下げ効果や価格転嫁の動きの鈍化で「23年度半ばにかけてプラス幅を縮小していく」とみる。「経済を巡る不確実性は極めて高い」とも指摘した。
 国会は10日午前、次期総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏、副総裁に氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事を起用する人事案を承認した。黒田総裁が会合後の記者会見で、植田氏ら新体制にどう言及するかも注目点となる。

【習近平氏、中国国家主席に3選 全人代】
 10日の日経特報メールは【北京=羽田野主】によると、中国で開幕中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は10日、中国共産党の習近平総書記を国家主席として満票で選出した。習氏は「社会主義現代化強国の建設のため努力、奮闘する」と宣誓した。
 2022年10月の共産党大会で異例の続投をした習氏は国家主席としても3期目に入った。米国との対立長期化をにらみ、権力集中をさらに進める見通しだ。
 中国は18年3月に開いた全人代で国家主席と副主席の任期を2期10年までと定めた憲法を改正し、任期制限をなくした。習氏の3期目入りが可能となった。
 習氏は党のトップである党総書記、国家元首に相当する国家主席、軍トップの中央軍事委員会主席の3つのポストを兼務する。いずれも任期の定めがなく、長期政権を見据える。
 国家副主席には前最高指導部メンバーで習氏を支えた韓正氏を満票で選出した。
 10日の全人代は国務院(政府)の組織改革案も可決した。科学技術省の一部機能を切り離し、応用基礎研究の推進などに特化した組織とする。共産党が新設する「中央科学技術委員会」の実働組織の役割を担う。
 デジタルデータの管理・統制強化に向け「国家データ局」を新設する。中国で活動する企業による国外へのデータ持ち出しなどを厳しく管理する狙いがある。全人代閉幕後に党と国務院の一体的な組織改革案を示す見通しだ。
 11日には習氏側近の李強氏を首相に選出する。新たな副首相や閣僚も正式に決める。習氏の3期目体制が本格的に始まる。
 習氏とかつて「盟友」といわれた王岐山氏は完全に引退する。17年に年齢制限で共産党の最高指導部である政治局常務委員を退き、国家副主席に就いた。
 最近は王氏の元秘書らが相次ぎ拘束されるなど習氏と距離があると指摘されていた。国家副主席の任期も撤廃されているが、続投はしなかった。
 習氏は全人代閉幕日の13日に演説する予定だ。

【米シリコンバレー銀行が経営破綻 リーマン危機後で最大】
 11日の日経ニュースメール【ニューヨーク=大島有美子】によると、米連邦預金保険公社(FDIC)は10日、テック関連のスタートアップへの融資で知られる銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し事業を停止したと発表した。米連邦準備理事会(FRB)による利上げで含み損を抱えた保有債券の売却や、取引先の新興テック企業の資金繰り悪化に備えた資本増強策を8日に発表したが、信用不安を招き株価が急落していた。
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シリコンバレーバンク本店は顧客やメディア関係者が詰めかけ騒然とした雰囲気に(10日午前、米カリフォルニア州サンタクララ市)

【この記事のポイント】
・テック企業への融資で著名なシリコンバレーバンクが破綻
・米連邦預金保険公社(FDIC)が管財人になり預金保護を発動
・FRBの利上げで金利が上昇。保有債券の含み損が膨らんだ
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シリコンバレーバンクは急激な預金流出に直面していた=ロイター

 連邦規制当局の監督下にある銀行で破綻は2020年にカンザス州の地銀以来となる。FRBによると、22年末時点でのSVBの総資産は約2090億ドル(約28兆円)で、資産規模は全米で16位。米銀の破綻では、2008年9月の金融危機で破綻した米貯蓄金融機関(S&L=地方銀行に相当)最大手のワシントン・ミューチュアルに続く2番目の規模となる。

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 SVBが本社を置くカリフォルニア州の金融当局は10日、同社が流動性不足に陥り、債務超過状態にあると認定した。FDICが破綻管財人となり、預金保護を発動する。FDICが保護する預金額の上限は1口座あたり25万ドルで、13日には預金者がアクセスでき支店も営業するとしている。「保険限度額を超える預金額は未確定」(FDIC)で、取引先への影響は不透明だ。銀行や顧客からの情報収集を進める。
 SVBファイナンシャルは8日に保有債券の売却に伴う損失計上や増資計画を発表。信用不安を招き、10日には身売りを模索する動きが報じられた。あるベンチャーキャピタル(VC)関係者は「9日夜から投資先が一斉に預金を引き出している」と明かす。信用不安が増幅し、資金繰りが一気に行き詰まったとみられる。米メディアによると、増資計画の断念後は身売りを検討していたが、株価急落や経営の混乱で買い手が現れなかった。
 SVBは金融緩和下でVCなどから資金を活発に調達したベンチャー企業の預金を集めていた。22年3月末の預金残高は1980億ドルと3年間で3.8倍に膨張した。急拡大した預金で満期までの期間が長い米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を中心に運用していたが、FRBによる急ピッチの利上げで金利が上昇(債券価格は下落)し、含み損が膨らんでいた。
 米銀では暗号資産(仮想通貨)関連企業からの預金を集めてきたシルバーゲート・キャピタルが傘下銀行を自主的に清算すると8日に発表した。

【イランとサウジアラビア、外交正常化で合意 中国が仲介】
 10日晩の日経速報メール
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イランの最高指導者ハメネイ師㊧とサウジアラビアのサルマン国王=ロイター

 10日晩の日経速報メール【ドバイ=福冨隼太郎】によると、イランとサウジアラビアの国営メディアは10日、両国政府が2カ月以内に外交を正常化し、双方の大使館を再開することで合意したと伝えた。中国が両国を仲介した。中東の緊張緩和につながると期待される。中国主導による中東の大国の和解実現は米国の指導力低下を印象づけ、長期的には世界秩序を揺さぶるリスクとなりかねない。

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 イラン国営通信によると、両国は中国の仲介のもとで北京で協議を開いた。イラン側からは外交や国防を統括する最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長らが交渉にあたった。イラン、サウジ、中国の3カ国が出した共同声明のなかで「主権の尊重と互いの内政への不干渉を強調する」と表明したと伝えた。
 サウジ国営通信も同日、両国が国交を正常化すると伝えた。サウジのファイサル外相とイランのアブドラヒアン外相が近く会談する見通しだ。
 両国の対立はイエメンやシリアなどの内戦に影を落とし、イラク復興の足かせともなってきた。2019年にはイランによるとされるサウジ国営石油会社サウジアラムコの石油施設への攻撃もあり、世界のエネルギー市場を揺さぶった。
 イスラム教スンニ派が主流のサウジとシーア派大国のイランは中東の覇権を巡り対立を続けてきた。16年にサウジがシーア派指導者を処刑したことにイランが反発。テヘランのサウジ大使館襲撃をきっかけに両国は断交した。
 米国は両国の外交正常化をひとまず歓迎する姿勢をみせている。だが24年の次期大統領選への出馬を模索するバイデン大統領にとっては大きな痛手だ。
 トランプ前大統領は政権末期にイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)など一部アラブ国との国交正常化を演出し、中東外交で大きな成果を残した。インフレ対策で産油国の協力を必要としたバイデン氏はサウジの説得を試みたが、空振りに終わった。
両国は21年から関係改善に向けた協議を事務レベルで続けてきた。22年12月にはファイサル氏とアブドラヒアン氏がヨルダンで会談。アブドラヒアン氏は会談後、ツイッターに「ファイサル氏はイランとの対話を継続する意思があると明らかにした」などと投稿していた。
 中東への優先度が低下している米国に対するサウジの不信感は根深い。それが中国主導の和解案に乗った背景となった。サウジとの和解を模索していた伝統的な親米国のイスラエルも、拡大する中国の影響力を前に戦略転換を迫られる可能性がある。
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 イランは米国の離脱で機能不全に陥っている核合意を再建し、欧米の経済制裁解除を目指している。ただ再建をめぐる米国との交渉は停滞しており、欧米は核開発を進めるイランへの警戒を強めている。9日にはオースティン米国防長官がイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相らと対イラン協力強化で一致していた。
 石油生産が増えた米国は中東への関与を近年減らした。中国やロシアが米国の「空白」を突いて影響力の拡大に動いた。

【中国首相に李強氏、全人代選出 習氏側近の前上海トップ】
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新首相に選ばれ、習近平国家主席㊨と握手する李強氏(11日、北京の人民大会堂)=比奈田悠佑撮影

 11日の日経速報メール【北京=川手伊織】によると、中国で国会に相当する全国人民代表大会(全人代)は11日、北京の人民大会堂で全体会議を開き、李克強(リー・クォーチャン)氏(67)に代わる新しい首相に李強(リー・チャン)氏(63)を選出した。3期目に入った習近平(シー・ジンピン)国家主席(69)の側近で、上海市の前トップだ。
 景気回復だけでなく、急速な少子高齢化や地方の金融リスクといった難題にも取り組む。
 李強氏への投票結果は賛成票が2936票で、有効投票の99.63%を占めた。反対が3票、棄権が8票だった。13年に李克強氏が首相に選ばれた際は、賛成票が有効投票の99.69%だった。首相を2期10年務めた李克強氏は、11日の会議で引退が確定した。
 李強氏は、習氏が浙江省トップの党委員会書記として赴任した時代、党委員会の秘書長として支えた。習氏が党最高位の総書記に就いてからは江蘇省や上海市のトップを歴任した。
 新型コロナウイルスの感染抑制を目指した2022年春の上海市のロックダウン(都市封鎖)による混乱では、当時のトップだった李強氏も責任を問われた。だが、習氏の信任は厚く、22年10月に最高指導部である政治局常務委員のメンバーに選ばれた。
 党内序列2位の首相として、経済政策全般の司令塔の役割を担う。新型コロナを封じ込める「ゼロコロナ」政策が3年続き、中国経済は停滞が長引いた。23年は冷え込んだ消費者心理の改善などを通じ、景気回復に注力する。
 経済成長を阻むリスクへの対応も不可欠だ。米国との対立が激しさを増す先端半導体では国内産業の育成を急ぐ。不動産市場の低迷などで疲弊する地方財政や金融の立て直しも急務だ。人口減少社会に入り、年金をはじめ社会保障への不安も高まっている。
 李強氏は中央政府での勤務経験がない。首相を経験した李克強氏や温家宝氏(80)は副首相から昇格した。だが、李強氏は副首相を経ず首相に選ばれた。危機管理や構造改革の手腕は未知数で、不安視する関係者もいる。
 一方、李強氏の決定権限が歴代の首相と比べ限定的になるとの見方もある。従来は国家主席が政治と外交、首相が経済というように役割を分担してきた。だが、習氏は16年ごろから経済政策への関与を強めてきた。
 新たな機構改革では、科学技術政策や金融監督において共産党の指導力を高める。李強氏が仕切る国務院(政府)は、党が決めた政策の執行部としての色彩が濃くなる可能性がある。
 12日には新たな副首相や閣僚も正式に決め、習氏の3期目体制が本格的に始まる。李強氏は13日の全人代閉幕後、首相として初めての記者会見に臨む見通しだ。

 11日の朝日新聞ワールドインサイドは次のように報じた。
WORLD INSIGHT

一般教書演説の夜に見た80歳の背中 バイデン大統領が挑んだ相手は 望月洋嗣

2度目のワシントン赴任。おいしい店が増え、体重も増加の一途

 慈善活動に熱心な人気ロックバンド「U2」のボノ氏が現れた。米国の連邦議会議事堂で議場を四方から見下ろす形に設けられた傍聴席。米国が支援するウクライナの駐米大使、銃乱射事件で事態収拾にあたった男性、サンフランシスコの自宅で暴漢に襲われて大けがを負ったペロシ前下院議長の夫ポールさん。招待されたゲストの中にはそんな人々の姿があった。
 米国の大統領が、その年の政策目標を国民に示す「一般教書演説」は、米政界の年に1度のお祭りのようだ。衆院議員を兼ねる首相が国会に頻繁に出席する日本と違い、行政トップで国家元首の大統領が連邦議会に足を運ぶのは毎年この時だけというのが影響しているのかもしれない。
 1月の最後の火曜日の夜に行われることが多いが、今年は1週間遅い2月7日の夜9時に始まった。例年通りテレビの三大ネットワークやニュース専門局などでも生中継されたバイデン大統領の演説を、私は議事堂の記者席で取材した。「毎年、家族そろってテレビの生中継を見ていたんですよ」。隣に座った米地方紙の若い記者は興奮気味に話し、議場に目を凝らしていた。
 議場には上下両院議員、バイデン政権閣僚、最高裁判事という立法、行政、司法の代表する顔ぶれが勢ぞろいした。傍聴席には大統領の妻ジル・バイデン氏、ハリス副大統領の夫ダグ・エムホフ氏もいた。マスクを着用する人はほとんどおらず、ハグや顔を近づけての会話が盛んに行われる様子は、「コロナ後」を強く印象づけた。
 米議会は昨年11月の中間選挙の結果、上院をバイデン氏と同じ民主党、下院を共和党が握るねじれ状態にある。そこに初めて乗り込むバイデン氏が議員たちにどんなメッセージをぶつけ、与野党の議員たちはどう応じるのか。トランプ前大統領がすでに立候補を表明した来年の大統領選に向けて、80歳のバイデン氏は再選への意気込みをどんな形でのぞかせるのか。注目しながら見守った。

拍手、スタンディングオベーション、ブーイング、ヤジ…
 記者席は大統領が立つ演台の後方にあるので、議員たちの反応がよく見える。拍手、スタンディングオベーション、ブーイングによる小休止は、数えただけで110回近く。バイデン氏が「共和党の友人のみなさん、以前の連邦議会で協力できたのだから、今議会で私たちが協力できない理由はありません」などと結束を呼びかけたときは、共和党側からも拍手が起きた。しかし、大半は立ち上がらず、拍手もしない。
 バイデン氏が共和党への批判をしたときは、大声のヤジも飛んだ。「共和党は経済を人質に取っている」「富裕層に相応の負担をさせる代わりに、医療保険や社会保障を犠牲にしようとする共和党議員もいる」と非難したときは、特に激しかった。共和党内でもトランプ派として知られるテイラー・グリーン下院議員は立ち上がり、親指を下に向け敵意をむき出しにした。
 インフレ対策やウクライナ対応、対中政策での実績を訴えつつ、米国の難局に超党派で立ち向かおうと訴えるバイデン氏と、それを称賛する民主党議員たち、さまざまなやり方で非難や反発を示す共和党議員たちのエネルギーがぶつかり合うような激しさのなかで、演説の73分間はあっという間に過ぎた。
 主要メディアがウェブサイトや翌日の紙面で大々的に報じるのも恒例だ。ニューヨーク・タイムズは「バイデン氏は共和党に経済再建で協力を要請」、ワシントン・ポストは「バイデン氏、超党派の精神と対抗心をない交ぜに」と、それぞれ1面で報じた。
 だが、米調査会社ニールセンによると、今年の一般教書演説をテレビなどで視聴した人は推計2730万人。米国民の12人に1人以下で、比較可能な1993年以降の大統領演説で2番目に低い数字だった。ちなみに、視聴者が最も少なかったのも、バイデン氏による2021年の施政方針演説だった。
 一般教書演説の視聴者数はクリントン大統領当時の93年に最多の6690万人を記録して以来、低下傾向が続いてはいる。しかし、トランプ氏による計4回の平均試聴者数は約4430万人。今回の数字は、政治離れという時代のトレンドに加えて、バイデン氏の政治家としての人気も影響していると考えざるを得ない。
 上院議員や副大統領として、半世紀にわたってワシントン政治の最前線に立つバイデン氏の演説が歴代の大統領に大きく劣るとは思わない。
 しかし、それはあくまで内容についてだ。政治集会などでほかの政治家とともに演説する場面では、アピール力の弱さが浮き彫りになる。昨年秋の米中間選挙で、激戦のペンシルベニア州で民主党の集会を取材したときは、演説の順番が、バイデン氏、同州の知事、上院議員候補、オバマ元大統領だった。
 こうした集会では現職大統領がトリを務めるのが一般的だ。最後に演説したオバマ氏は61歳になったとはいえ、大統領時代を思い起こさせる軽快な身のこなしと、若々しい声が健在だった。会場の盛り上がりは、バイデン氏の数倍に感じられた。
アピールした健在ぶり
 今回の一般教書演説でのバイデン氏は、共和党からのブーイングにひるむ様子もなく、大統領らしい強さを示したように見えた。CNNによると、テレビで演説を見た人の72%はバイデン氏に好評価を示した。ただ、「とても評価する」とした人は34%で、CNNの調査では98年以来の低さだった。
 かつての側近の一人は、バイデン氏について「実務家なので、現実離れした理想を語ることが苦手なのだと思う。若いころは、話し方にもっと切れがあったが、その点では衰えた」と私に語った。
 ウクライナの首都キーウへの列車での訪問で、エネルギッシュさを世界に印象づけたバイデン氏。一般教書演説で「仕事を終わらせよう」と連呼したのは、来年再選を果たし、着手した数々の政策を完遂したいという意思の表れだ、と指摘したメディアもある。
 それでも、バイデン氏の健康への不安は尽きない。「どうやって引退してもらうべきかが最大の課題」と私に語った民主党関係者もいる。
 長時間の一般教書演説を終えたバイデン氏は、集まった民主党議員らと握手しながら談笑して、かなりの時間を議場で過ごし、健在ぶりをアピールした。再選を果たした場合に次の任期が終わる時、バイデン氏は86歳。今回の演説でも、挑んだ相手はライバルの共和党ではなく、自分自身の「老い」だったのかもしれない。紺色のスーツに包まれたシャンとしたその背中を遠くに見ながら、そんなことを思った。


【若田光一さん、5カ月ぶり地球帰還 宇宙に通算500日超】
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11日、米フロリダ州沖の船上で宇宙船クルードラゴンを出る若田光一さん=NASA提供・共同

 12日の日経速報メール【ワシントン=共同】によると、国際宇宙ステーション(ISS)滞在を終えた若田光一飛行士(59)が11日夜(日本時間12日午前)、米国とロシアの飛行士計3人とともにスペースXの宇宙船クルードラゴンで米フロリダ州沖に着水し、帰還した。5カ月余りの滞在で地球を2512周し、飛行距離は1億キロを超えた。
 若田さんらは11日未明にISSを出発した。宇宙船は大気圏に突入するとパラシュートを展開、午後9時過ぎ、しぶきを上げて着水した。海上で待機していた回収チームは宇宙船を船に引き揚げ、4人を搬出。若田さんは笑顔でスタッフとグータッチを交わした。
 宇宙滞在は日本人最多の5回目で、通算500日を超えた。ISSでは新型太陽電池パネルの設置準備のため2回の船外活動を実施したほか、月面探査車の開発を見据えた科学実験もこなした。次は、古川聡飛行士(58)が年内に2回目のISS長期滞在に臨む予定。若田さんは「バトンを渡し、支援していきたい」と出発前に語っていた。

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米フロリダ州沖に着水した宇宙船クルードラゴン= NASA提供 ・AP

【インフレが問う貯金神話 実質目減り、48年ぶり規模 チャートは語る】
 12日朝の日経ニュースメールは次のように報じた。

 【この記事のポイント】
・インフレが家計の資産の目減りにつながり始めた
・2022年の預金の購買力低下度合いは48年ぶり規模に
・デフレ時代の預貯金偏重に転機。投資機会探る動きも

 インフレが家計の資産を静かにむしばんでいる。2022年には、預貯金の購買力の低下度合いが48年ぶりの大きさとなった。物価が下がるデフレ環境では成功だった預貯金偏重が問われている。
 「個人が肌感覚でインフレを実感し始めたのが大きな転機になった」。独立系金融アドバイザー(IFA)のファイナンシャルスタンダード(東京・千代田)の福田猛代表は顧客の変化を実感する。
 ここ数カ月、インフレを考慮した運用の相談が急増した。2月の相談件数は前年同月比3割増えた。2%のインフレ率を前提に、30〜50代には世界株式、60代以降のシニア世代には債券や高配当株などを薦めているという。
 生鮮食品を含む消費者物価指数(20年=100)は21年末の100前後から今年1月に104.7まで上昇した。電気代補助金などで抑制されるものの、今後2年で106〜107程度まで上がるとみられている。定期預金金利(1年物で0.02%程度)では焼け石に水だ。

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 預金金利から物価上昇率を引いた預金の購買力低下は22年はマイナス4%近かった。石油危機で物価が高騰した1974年以来の低さだ。家計金融資産に占める現預金の割合は日本は54%と、欧州の35%や米国の14%に比べ高くインフレの影響を受けやすい。
 なぜ、預貯金に偏ったのか。東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏は「預貯金が成功体験になっている」と指摘する。80年代まで1年物の定期預金金利は5%前後あり、70年代の石油危機による物価高騰時を除き「インフレに勝てる資産だった」(平山氏)。90年代半ば以降は預金金利がほぼゼロになる一方、デフレ入りして物価は下がり預貯金の購買力はむしろ強まった。株価は89年のバブル高値から長期停滞し、預貯金が資産管理の正解だった。

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 ただ、物価上昇率がプラス圏に浮上し、日本株が上昇に転じても預貯金偏重が変わっていない。日本人の金融資産が生み出す稼ぎは欧米に比べても小さくなっている。
 ニッセイ基礎研究所の高山武士氏によると、日本の可処分所得は2万3200ドルとドル建てでは米国(5万4700ドル)の半分だ。給与など労働所得の差が1.7万ドルあるうえ、利子や配当といった資本所得が1.2万ドル違う。ユーロ圏とは労働所得に差はないものの資本所得で0.3万ドル劣る。「個人が国内株に資金を投じ、企業の成長に伴い労働所得も資本所得も増える好循環が成り立っていない」(ニッセイ基礎研の高山氏)
 機会損失は大きい。龍谷大の竹中正治教授の算出方法に基づき01年度末の家計の株式・投信が実際より20ポイント高い28.7%だった場合の資産の伸びを試算した。21年度末の家計金融資産は約3200兆円と実際の約2000兆円に比べ約1200兆円多い。仮に、株・投信の期待利回りが実際の年7%に比べ低く年2〜3%であっても180兆〜300兆円の機会損失の計算だ。
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 米国も70〜80年代には株・投信の比率は15%程度と現在の日本と同じだった。「個人退職勘定(IRA)や企業型確定拠出年金(401kなど)の整備が投資を後押しした」(龍谷大の竹中教授)。米企業は多角化経営の見直しやサービス産業へのシフトで収益力を高め、株式投資が米国人の成功体験となった。
 22年は米銀の社債などに投資する元本確保型の投信が銀行窓販を中心に相次ぎ1000億円強の資金を集めた。インフレで預貯金もじわり動き出している。日本政府は資産所得の倍増を目指し少額投資非課税制度(NISA)の拡充を決めた。「貯蓄から投資」がもたらす好循環実現には企業の力も必須のピースとなる。 (松本裕子、グラフィックス 佐藤綾香、映像 大須賀亮)

【藤井聡太王将が初防衛 羽生善治九段との天才対決制す 難解局面多く「将棋の奥深さを感じた」
12日のデイリースポーツ によると、藤井聡太王将が初防衛 羽生善治九段との天才対決制す 難解局面多く「将棋の奥深さを感じた」

 将棋の藤井聡太王将(20=竜王、王位、叡王、棋聖との五冠)が羽生善治九段(52)の挑戦を受ける第72期王将戦七番勝負第6局2日目が12日、佐賀県上峰町の「大幸園」で指され、88手で藤井王将が勝利。4勝2敗で初防衛に成功した。五冠の若き天才と、通算タイトル100期を目指すレジェンドがぶつかった世紀の一戦は、藤井王将に軍配が上がった。
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羽生九段に勝利し、王将位の防衛を果たした藤井聡太王将(日本将棋連盟提供)© (C)デイリースポーツ

 スター棋士・羽生と初めてのタイトル戦には、「8時間という長い持ち時間で6局指すことができて、自分の課題をより感じたところはありました。戦型もさまざまな展開になって、序盤から一手ごとに考えながらの将棋が多かったので、その点では今までのタイトル戦と比べても充実感があったと思いますし、中盤以降でも気付いていない手を指される場面が多かったと感じています」と話した。
 将棋の藤井聡太王将(20=竜王、王位、叡王、棋聖との五冠)が羽生善治九段(52)の挑戦を受ける第72期王将戦七番勝負第6局2日目が12日、佐賀県上峰町の「大幸園」で指され、88手で藤井王将が勝利。4勝2敗で初防衛に成功した。五冠の若き天才と、通算タイトル100期を目指すレジェンドがぶつかった世紀の一戦は、藤井王将に軍配が上がった。

【習氏の統制、新興製造業まで 挙国体制が招く外国人売り】
 13日の日経ニュースメールは次のように報じた。
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【この記事のポイント】
・狙いはハイテクの「自立自強」
・国家関与は技術革新の抑制リスク
・外国人の中国株離れの一因に?

 中国の習近平(シー・ジンピン)指導部の統制が巨大IT(情報技術)企業のみならず、次世代の経済の柱となる新興製造業にまで広がりつつある。習氏は米国との対立を念頭に科学技術における挙国体制を宣言した。だが国家による関与を強めるほど、企業の生産性向上の逆風となる。外国人投資家は売り越しに転換している。
 全国人民代表大会(全人代、国会に相当)期間中の6日午後。習氏は北京市内のホテル、北京友誼賓館で全国政治協商会議(政協、国政助言機関)委員との懇談にのぞんでいた。
 「喜ばしい半面、心配でもある」。国営新華社通信によると、習氏が珍しく心情を吐露したのは、寧徳時代新能源科技(CATL)の曽毓群董事長が「動力バッテリーで6年連続で世界一となった」と説明したときだ。習氏は「心配なのは最後には(こうした企業が)いっぺんに消えてしまうことだ」としたうえで、「新興産業をしっかり統制していかなければならない」と手綱を締める考えを明らかにした。
 ある中国専門家は6日の習氏の発言について「米国の対中政策がますます厳しくなるなか、民営の有力企業も含めて一致団結しなければ、米国に負けるという危機感から出た言葉ではないか」と解説する。
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 アリババ集団などに対する統制は、共産党・政府に比肩するほど強い存在となった巨大IT企業をたたくことが目的だった。一方、ハイテク新興製造業に対する統制は、米中対立が激しさを増すなかで、中国の「自立自強」を何としても実現することが目的だ。
 同時に、習氏が鄧小平の権威を超え、毛沢東並みの権力集中を目指す野心の表れでもある。中国では治安維持や金融監督も含め、鄧小平が提唱した「党務と政府の分離」が逆回転している。
 米国が対中制裁を連発するなか、習氏は「外国に首根っこを押さえられている問題を解決しなければならない」とする。この危機感は誇張ではないだろうが、「自立自強に向けて科学技術政策の新型挙国体制を確立する」(全人代政府活動報告)との宣言にもつなげた。全人代が10日可決した国務院(政府)の組織改革案では、党中央が科学技術政策を集中統一指導するために「中央科学技術委員会」を新設し、科学技術省も改組する。
 党の力を強める一連の組織改革を、本土の市場参加者は「上場企業にとって中長期的に有利となる」(中国銀河証券)と礼賛する。一方、外国人は不安を強める。国家の過度な関与はかえってイノベーション(技術革新)を抑圧し、人口減少下に残された数少ない成長原資である生産性の改善を犠牲にするからだ。
 日銀の18年のワーキングペーパーによると、中国の国有企業は民間企業に対して(技術革新などを反映する)全要素生産性(TFP)水準が平均的に17%低いという。同ペーパーは「国有企業の存在が、中国の経済全体でみた資源配分の効率性を悪化させていた」と指摘する。
 実際、国有企業の収益力は民営企業を下回る。中国の調査会社Windの定義に基づき、上場企業を国有企業と民営企業に分類し、収益力を調べた。国有企業は、高速道路や港、資源など独占的な権益で守られた企業が多い。にもかかわらず、営業利益率が2割以上の割合は国有が17%と民営(23%)より少ない。営業損益が赤字の企業の割合も国有の方が16%と民営(14%)よりも多い。
 株価指数でも差は鮮明だ。中国の民営企業で形成する中証民営企業総合指数の2019年からの上昇率は国有企業を上回る。
 中国株式市場では、「ゼロコロナ」政策終了後の経済再開(リオープン)をはやす買いが一巡した。1月に1413億元(約2兆7600億円)と月間で過去最大を記録した香港経由の外国人の買越額は、3月は10日時点で約7億6000万元の売り越しに転じた。UBSの孟磊ストラテジストは「外国人は明確に中国株をアンダーウエート(弱気)にしている」と分析する。
 1月にはアリババのグループ企業の1社に中国政府系企業が1%出資したことが明らかになった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、通常の議決権より強い権限を持つ「黄金株」に似るという。CATLは株式時価総額がアリババの7割近くに迫る有力企業に成長した。新興製造業にまでアリババ同様の足かせをはめれば、投資家の失望は避けられない。(上海=土居倫之)

【侍・由伸 次は準決頼む! 大谷、ダル、朗希から先発のバトン 最強4本柱の大トリ4回8K零封】
 13日早朝のスポーツ日本は次のように報じた。
 WBC1次ラウンドB組 日本7-1オーストラリア ( 2023年3月12日 東京D )
09年の第2回大会決勝戦。イチローの決勝打を、当時10歳だった山本少年はテレビで食い入るように見つめていた。あれから14年。侍のユニホームに袖を通した右腕が、マウンドに仁王立ちした。

【WBC侍ジャパン山本由伸・高橋奎二・大勢の初登板ピッチャーが快投リレー…満を持して登場】
 13日の読売新聞は次のように報じた。
 野球の国・地域別対抗戦「カーネクスト2023ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)東京プール」が12日、東京ドームで行われ、日本代表「侍ジャパン」が7-1で4連勝を飾り、1次ラウンドB組の1位通過を決めた。この日はこれまで出場がなかった4選手のうち3選手が、満を持して登場した。
侍ジャパン栗山監督「まずはここを抜けることしか考えていなかった」…4戦全勝に安堵
 3人はいずれも投手で、2年連続沢村賞の先発・山本由伸(オリックス)がまず4回1安打無失点、8奪三振の快投を見せた。五回からは2番手で高橋奎二(ヤクルト)が登板。捕手が中村悠平、三塁が村上宗隆、二塁が山田哲人でチームのヤクルト勢すべてが同時出場した。そんな中、昨季自己最多の8勝を記録するなど飛躍を遂げた25歳は生き生きと投げ込み、2回1安打無失点の好投を披露した。3番手は昨季、新人最多タイの37セーブを記録した大勢(巨人)だ。1安打は許したものの逆に集中力を研ぎ澄まし、併殺と見逃し三振で七回を締めた。
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オーストラリアとの試合後、記念撮影に臨む選手たち(12日、東京ドームで)=横山就平撮影

 この間、下記の録画を見ることができ、文字情報のみでは分からないことを理解することができた。(1)BS6報道1930「超低金利時代終わるか?」2月28日。 (2)BS6報道1930「中国版ジャベリンも? 中国からロシアへの武器供与の“兆候”」3月1日。 (3)BS6報道1930「汚染大国ウクライナを変貌させた外交官集団 戦争の裏で進む西側化」1日。 (4)BS6報道1930「「倍増」連発で窮地か…岸田総理を追い詰める目玉政策「財源問題」」3日。 (5)NHK週刊ワールドニュース(?  2月27日~3月3日)4日。 (6)BS6報道1930「ロシアは干上がるか? 誰も取引できなくなる「究極の制裁」とは」6日。 (7)BS6報道1930「第2のウクライナか 欧州最貧国ゴルドバをプーチン氏が狙うヤケ」7日。 (8)BS6報道1930「ウクライナ戦争1年で“漁夫の利”のインド 全方位外交「真の狙い」」8日。 (9)BS6報道1930「日韓の最大懸案「徴用工」問題は終わらない? 割れる韓国」9日。 (10)「12年前に逆戻りか? 新たな安全神話のわな、最悪シナリオと責任は」10日。 

東京大空襲から70年、東日本大震災から12年

 3月10日と3月11日、わずか1日違いで大災害が並んでいるとは、本日までまったく実感がなかった。これを機に整理してみたい。

【東京大空襲】
 1945(昭和20)年3月10日は東京大空襲の日である。それから70年となる。私は国民学校(小学校)2年生だった。その日の思い出が20年前に記されている。すなわち横浜市立大学を定年退職した折、『横浜市立大学論叢』(第54巻 人文科学系列 第1・2・3合併号 2003年 加藤祐三教授 退官記念号)に、私の略歴、著作目録と論考「史観と体験をめぐって」が掲載されていて、そこに次のようにある。

(1)集団疎開と戦後の食糧難
 3人兄弟の末っ子として私は東京都練馬区に生まれた。駅から徒歩5分ほどの所にある家は、昭和初年の新興住宅地の南限に位置しており、その先には農家の茅葺の家がまばらに建っているだけの環境にあった。すぐ南の農家では、巨大な樽を幾つも置いて福神漬けを作っていた。仕込みには梯子を使って材料を運び上げる。遠くには味噌屋の煙突が見えた。私はこの茫洋とした広い空間の一角で、小動物や各種の草花を友にして育った。
 幼稚園は家の北、道をはさんですぐ向かいにあり、あまりの近さが不満で、友達を誘い、町内を一回りしてから登園した。国民学校(小学校)には電車で通った。
 昭和20年春の東京大空襲、東の方角にある都心部が赤々と燃えている情景を、9歳の私は「綺麗だな」と思った。パラパラと屋根を跳ねる薬莢(弾丸の包み)を怖いとは感じす、敵機が去ったあとに防空壕から飛び出して、拾い集めるのに熱中した。
 国民学校3年生になってすぐ、東京大空襲後の集団疎開に行った。疎開先は群馬県勢多郡新里村祥雲寺学寮である。6年生と同宿して、寝るのも勉強も遊びもすべて一緒だった。この年齢における3歳の年齢差は、知恵でも体力でも決定的に大きい。何事においても思いが通らず、苦い思いと、闘争心の喚起が、日常生活のすべてを支配していたように思う。
 疎開とは戦災を避けるための、都会から農村への移動である。学童疎開には縁故疎開と集団疎開があった。全国規模では、集団疎開へ行った生徒は少数派である。都会から来た少年たちは、疎開先では、よそ者である。疎外感を味わい、食糧難を耐えた。たまに農家の手伝いに行って蒸かし芋をご馳走になり、夢のように感激した。
 いつも空腹だった。食事は薄い粥にサイコロ大のサツマイモが浮かんだものだった。空腹を満たすには外で食料を確保しなければならない。とは言え9歳の都会から来た子供に知恵はない。畑の作物を取って口にしたことはともかく、桑の実を食べて、口のなかを紫色に染めて戻り、先生にひどく叱られたのが不思議でならなかった。
 そのうち取って食べても叱られないものがあることに気づいた。田んぼの畦にはえるノビルである。小型のラッキョウのような奴で、せせらぎで泥を落としてから口にすると、ヒリヒリする辛さだった。後になって分かったことだが、田んぼの畦道は誰でもが通れる公道である。田んぼに私有権があるのに対して、畦道には私有権がない。したがってノビルには所有権がない。食べても叱られなかったのは、そのためであった。

【直接の被害は受けていないが…】
 上掲下線部が東京の西にある練馬区で体験した東京大空襲のすべてである。
 空襲による直接の被害は受けていない。ただ東の空が赤々と燃えている情景を9歳の私は「綺麗だな」と思ったと記しているのみである。
 ただし、この記憶とそれに続く種々の体験が私の人格形成に深くかかわっているのは確かである。
 同じエッセーのつづきで次にように記している。
 「8月15日の玉音放送を寺の大広間で聞いた。ラジオを囲んで生徒が座った。ラジオは雑音が入り聞き取れなかった。突然、男性教師がワーっと大声をあげて突っ伏した。あっけにとられた思い、その声の記憶だけが強烈に残った。これは「軍国少年」にも年齢が届かない生徒の実感である。
 私たちはガリガリに痩せていた。9月になって、無蓋貨物車で疎開から戻った。私の姿を見た家族は、「まるでガンディーのよう」と驚いた。単純に痩せていたことの表現だが、子どもなりにインドの反英運動の指導者ガンディーを指していることは分かった。
 元の学校へ戻ると、進駐軍の大型ブルド―ザが道路舗装工事をしていた。その作業に目を見張り、飽かず眺めた。この巨大な機械を何としても運転したいと熱望した。
 病気がちだった母が、やがて入院・手術となった。モノのない時代である。都会での食糧難は戦後しばらくのほうが厳しかった。母に栄養のあるものを食べさせるため、山羊や鶏を飼った。山羊を連れ、4キロほど歩いて、種付けに行ったことがある。不思議な光景であった。大きな籠を背負って山羊の草を集めたが、ときには山羊を散歩させつつ好きな草を食ませた。ヒトが食べられる野草や木の実については十数種類を判別できた。
 にわか農民の父の手伝いをしながら、農家から借りた5反歩の畑で、陸稲、小麦、豆、馬鈴薯やさつま芋などを育て、その畝間にナス、キュウリ、トマトなどの野菜を作った。このあたりは水稲ができない。ウナギを仕掛ける川もなく、畑で作る作物だけが頼りだった。
 畑は家から歩いて10分ほど南の八幡様の近くにあった。運搬には大八車を使ったように思う。木製の大きな車輪の外側に鉄板を貼り付けた造りで、固く重い素材のため、子供が動かすのは大変だった。
 穀類や豆・芋類は秋が収穫期で、その収穫前の6~8月は果菜類が多く、空腹を満たすものが少ない。地上を勢いよく這うさつま芋のツルや葉を炒めて食べた。美味いとは思わなかったが、一時の空腹は満たしてくれた。陸稲、小麦、豆類の殻や藁は山羊の餌になった。モミを選別した残りは鶏の餌になる。最後に残るものは堆肥にし、また風呂釜にくべた。捨てる部分がまったくといってなかった。稲につくイナゴは貴重な蛋白源だった。
 本当の都心部では、買出し以外に食料を入手する方法がなかった。借りるだけの農地がないからである。練馬区のように、都心部と農村部の中間地帯ないし周辺地帯だったからこそ、狭いながらも農地を借りて作物を作り、山羊や鶏を飼うことができた。その意味でも、私は少数派の体験を重ねたことになる。この少年時代の経験から、私は食物獲得の基本的な技術を知り、農業生産に必要な技術や、家畜飼育技術の基礎能力をかなり身につけることができた。…」

【東日本大震災から12年】
  本ブログの2021年3月12日掲載の「あれから10年」に次のようにある。
 「3月11日(木曜)、東日本大震災から10年を迎えた。地震発生時、私は都留文科大学の学長室にいた。眠れぬ一夜を明かし、翌朝に電気が復旧、テレビの東北の惨状に息を飲む。大学は春休みで東北地方にも多くの学生が帰省していた。東北各地で働いている同窓生も少なくない。被災地の人たちはどうしているだろう、学生たちは無事か。突き動かされるように、その日から<都留文科大学 学長ブログ>の掲載を始めた。ブログの掲載作業は情報センターの大輪知穂さんにお願いし、その後もつづいて世話になっている。また学長退任時にこれを冊子に編集してくれたのは総務課企画担当(当時)の近藤秀明さんである。この場を借りて厚くお礼申し上げたい。
 直後から教職員が懸命の安否確認に動いた。同窓会組織のツテにも頼り、一人残さず追った。4日後の14日、緊急の理事会を開き、被災地出身の学生たちの支援を決め、その日に「学生のみなさんへ」の学長メッセージをホームページに掲載した。 被害が甚大と判断した東北3県の出身学生は60人。内訳は岩手県の宮古市、山田町、大槌町、陸前高田市、大船渡市、釜石市等の26人、宮城県は仙台市、名取市、石巻市、亘理市の30人、福島県は相馬市、富岡町、楢葉町の4人である。消息を確認できた人数は日を追って増え、地震発生から1週間後の18日(金曜)には2人を残して無事を把握した。後に不明の学生1人の死を知らされる。
 この重大事を忘れないよう「書きとめておこう-記憶から記録へ」と呼びかけた掲載は4月10日。そして「あの日から半年」(2011年9月14日掲載)。岩手県、宮城県の同窓会の尽力で被災地を慰問、その視察の記録が「岩手県訪問」(2011年9月29日)である。また「東日本大震災の記録」(2012年2月6日)、「大震災から2年」(2012年3月11日)、「宮古市の震災復興」(2013年10月20日掲載)、「大震災3年後の原発政策」(2014年3月11日掲載)とつづく。
 学長退任とともに<学長ブログ>を終え、後継版として本ブログ(<加藤祐三ブログ 月一古典>)を翌月の2014年4月6日から開始、今に至る。うち東日本大震災関連の記事は、「東日本大震災から4年」(2015年3月11日掲載)、「東日本大震災から5年」(2016年3月11日掲載)、「あれから9年」(2020年3月12日掲載)である。…」

【これからも絶えることなく…】
 「東日本大震災から12年」は書いていない。当事者としての立場がもはやないため、テレビ等で取り上げるのを見ては思い出す。とびとびとは言え、東京大空襲からxx年、東日本大震災からxx年を書いてきた。
次の機会はいつになるか? これからも絶えることなく…。すくなくとも忘れないように、<記憶>から<記録>への変換を絶えず試みつづけていきたい。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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