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Yokohama Past and Present

 セルビアのサーニャから英字綴りの日本語メールが届いた。「あの”Yokohama Past and Present” はまだ残っておりますでしょうか?」 彼女は、もう20年以上も前、そのころユーゴスラビアと呼ばれた国から横浜市大大学院・国際文化研究科に来た留学生で、いまもクリスマス―ドや年賀状をくれる。
 彼女が市大大学院を目ざすきっかけになったのが本書である。ベオグラードの図書館で読んだという。
 ”Yokohama Past and Present” の残部は私の手元にはなく、現物を探そうにも、書架から溢れ出した本や書類が書斎を埋め尽くしている。
 言い訳がましいが、歴史研究には史料が不可欠である。史料には復刻版を含め書籍もあるが、コピーしたものがに意外に多い。こうしてテーマを追うごとに幾何級数的に増えてきた。

【1989年の横浜博覧会を記念して】
 ”Yokohama Past and Present” は298ページ、書類やファイル類と同じA4サイズ。本としては大型で書架に納まりきらないため、平積みの書籍の山からやっと掘り出した。
 本書は1989年の市政100周年・開港130周年を記念する「横浜博覧会 yes89」の関連行事として、横浜市立大学が企画・立案・制作したもの。編集委員長は加藤祐三、刊行は翌1990年3月、版元は横浜市立大学、定価は2000円。
 横浜博覧会とは<みなとみらい21>事業の一環である。
 横浜市西区みなとみらいの海辺に近い場所にパシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)が開業したのが1991年。ついで陸側に三菱地所が横浜ランドマークタワーを建てたのが、3年間の工期を経た1993年7月15日で、地上70階、高さ296メートル、まさに日本一の高層ビルであった。
 飛鳥田一雄市長(1963~1978年)が提唱した<みなとみらい21>事業は細郷道一市長(1978~1990年)から高秀秀信(たかひで ひでのぶ)市長に引き継がれ、高秀市長の第1期目(1990年から任期4年)に実際の姿を見せ始めた。

【高井学長のことば】
 高井修道学長による「序にかえて」は次にように言う。
 「…本書が横浜市立大学の教員を中心に編集・刊行されることになり、誠に意義あるものと思います。横浜の政治・経済・貿易を中心とした著書はすでにいくつか刊行されていますが、文化を中心として歴史と現在を通観したものは、ほどんど見当たりません。横浜は開港以来、欧米とアジアの文物・文化を積極的に取り入れたばかりでなく、ここに定着し、醸成され、独特の文化を持つ国際文化都市となりました。我が国が世界の最前列の一国となった現在、我が横浜の、日本の文化を世界に広く、正しく認識してもらうことの重要性が高まっております。本書は英文で刊行され、日本語補助版をつくりました。」

【本書の構成】
 本書は次の8部からなり、それぞれに多数の小項目(計134項目)がつく。日本語補助版から引用すると下記のとおり。

Ⅰ部 横浜への招待 12項目
Ⅱ部 幕末の横浜(1853-1867) 20項目
Ⅲ部 文明開化から都市化へ(1868-1899) 19項目
Ⅳ部 新たな都市形成へ(1900-1923) 11項目
Ⅴ部 多難な時代(1923-1945) 14項目
Ⅵ部 再建への道(1945-1960) 10項目
Ⅶ部 300万へ(1960- ) 21項目
Ⅷ部 横浜のいま 27項目

 1項目を見開きとし、図版やグラフを入れた。亡き友、阿部征寛さんが記述する「横浜村」には「開港前の横浜村」(1909年の開港50周年を記念して和田美作が描いた絵)が入り、また斎藤多喜夫さん執筆の「居留地建設」には貞秀「横浜土産」から2本の桟橋と後の英一番館あたりを描く浮世絵が入る等々。

 一方、巻末には「関連文献一覧」を付し、読者のさらなる探求の参考のため、日本語文献226点、英文を90点を一覧している。

 項目立て、筆者の選定、原稿の督促、関連文献一覧の作成等々の緻密な作業を辛抱強く支えてくれたのが、編集委員会の市川孝史さん(総務課調整担当係長)、伊藤泉美さん(お茶の水女子大学大学院)、総務課の大渕律子さんである。

【表紙のデザイン】
 高井学長以下の部局長8名からなる刊行委員会と18名の編集委員会、それに最適としてお願いした各項目の筆者計57名(市大教員に加えて横浜開港資料館等の職員)による134項目の原稿はすべて集まり、英訳を株式会社サイマル・インターナショナルに依頼した。
 装丁は、完成直後の新理科館1階の部屋に編集委員が集まり、岩波洋造名誉教授(生物学)のバイオアートの原画を数10点、机上に並べて選んだ。
 裏表紙を開くと岩波さんによる「表紙について」の解説がある。
 「植物や動物の体の中には、とても人間の頭では考え出せないような不思議な形がたくさん含まれている。これを私は”神のかくし絵”と呼んでいる。…ハッとするような形に出会ったとき、必ず電子顕微鏡で撮影してきた。…それにパステルやマジックで色をつけると、人間の力だけでつくってきた今までの絵やデザインとは一味ちがった作品ができることに気づいた。これがバイアートである。バイオアートの作品はすでに洋服やスカーフの模様、舞台装置などに使われている。この表紙の作品はウニの幼生(受精卵から成体になるまでの途中のもの)とカエルの筋肉の断面の写真を組み合わせたものである。」

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 右が英文版、左が日本語補助版の『横浜 いま/むかし』。背景は表紙と同じ原画をプリントしたスカーフ(色違い3点のうちの1点)。

【日本人以外の読者のために】
 タイトルページの裏には、アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター前所長(1987~89年)ウィリアム・J・タイラー(William.J.Tyler)さんによる「海外の読者へ」の一文がある。集まった原稿(大部分が日本語)と、ほぼ完成した英訳をお見せして書いていただいた。すこし長いが、以下に全文を再掲する。
 「出色の本である。これまで日本各地の都市は、外国語のパンフレットや豪華写真本によって海外に向けて自己紹介をしてきた。横浜市もその例外ではない。
 しかし、これは初めての本格的な市史であり、日本人以外の読者のために、これほど網羅的に自治体史を編んだ日本の都市を私は知らない。ありきたりの一般論を超え、より知的で充実した理解を培うことを目ざして、大きな一歩を踏み出したものである。
 横浜開港130周年、市制施行100周年を、さらには「みなとみらい」の幕開けを記念して出版された。横浜の都市景観は、ウオーターフロントの再活性化を目ざす「みなとみらい21」計画によって、国際主義の装いを整えようといま進行中である。沿岸の埋め立て1フィート進むごとに、日本と世界の接点が広がる。
 歴史編纂は容易ならざる作業である。19世紀半ばの日中米欧交流史の権威である加藤祐三氏が執筆者56人から134編の珠玉の論文を集められた。
 これまで海外読者が容易に入手できなかった豊富な資料を盛り、「情報社会」日本と今日のインテリジェントな世界の現実を反映し、執筆陣のもつ文化観をも示唆している。執筆者は個々の樹木に目をこらしながら森の全体像を描く。読者は具体的な叙述のなかに全体像を求めることができる。
 横浜市の基礎づくりに貢献した先人たちの名前や活動が掘り起こされる。酪農、家畜処理場、病院建設を支えた野菜畑、新聞、辞書などを扱った記述がある。清潔な上水道と安全な井戸づくりに尽くしたヘールツ博士を知ることができる本は他にあるだろうか。民間奉仕団体による身体障碍者救済活動の記録はどうか。
 ところどころ、読者が必要とする以上に細かい記述もある。そんなときは、この本の主要テーマをつらぬいているモチーフを考えてみるとよい。過去1世紀半にわたる日本と世界との接点の縮図が横浜である。その間、ずっと国際化の最先端に立ってきた。
 現実レベルでは、征服を志向する国家・経済と自治を志向する国家・経済の間にバランスを求める歴史のプロセス、もっと大きな規模では開放性と閉鎖性の間にバランスを求める人類の戦いという歴史のプロセスーーそれが国際化である。
 国際化がたどった運命についての見方は、やがて屈折し、執筆者の意見は微妙な揺れをみせる。「神奈川」ではなく横浜が幕府の応接場として世界への窓口になった経緯について、執筆者は運命のいたずら(幕府の決定)を楽しんでいるふしがある。その一方でいわゆる外圧、経済不況、市民に犠牲を出した自然の猛威について、他の執筆者は憤りを見せる。
 横浜と東京の相互依存関係、神戸との因縁の競争関係、港湾都市の力と脆弱性(いつの世にも港湾都市は国家経済のバロメーターである)について述べ、元町のファッション・ショップ、市民参加の「横浜方式」、都市計画など、横浜が先端を歩んでいる部分にもふれる。
 多くの意味で横浜は飛躍の地である。本書に結実した行動力について、海外の読者が十分に評価されるよう望みたい。そして自分の歴史と比べて重なりあう部分と異なる部分を発見していただきたい。」

【アヘン戦争から学んだ幕府】
 都市横浜の起源はペリー提督と結んだ日米和親条約(1854年3月)にあり、実際の横浜開港はその5年後の1859年7月1日(安政六年六月二日)である。

 日本近代の画期となった日米和親条約に関しては、無能無策の幕府にアメリカの強大な軍事力が加わり、結果として極端に不平等な条約を強いられたとする誤解が根強くあった。
 これに対して、前掲「関連文献」にある拙著『黒船異変-ペリーの挑戦』(岩波新書 1988年)は、副題「ペリーの挑戦」を付し、幕府の高い<交渉力>に「挑戦するペリー」の姿を描いた。
 インドにアヘン生産基地を持つ超大国イギリスとのアヘン戦争(1839~42年)に敗北した清朝中国は、多額の賠償金を支払い、領土を割譲(香港島)、五港開港と開港場における居留地の主権を奪われ、アヘン密輸を野放しにした。この南京条約のような条約を、私は<敗戦条約>と名づけた。
 幕府は、アヘン戦争の過程を懸命に追い、長崎出島のオランダ商館にオランダ特段風説書(とくだんふうせつがき)を、長崎の唐人屋敷に唐風説書(とうふうせつがき)を提出させ交戦国双方の情報を分析した結果、文政の無二念打払令(沿岸に発見した異国船を何が何でも打払う政策)を撤回し、発砲交戦を避け、薪水を供与する天保薪水令に切り替えた。南京条約締結の1日前、1842年8月28日である。

【ペリー来航】
 <避戦>の天保薪水令から11年後の1853年7月8日、ペリー艦隊が浦賀沖(現在の神奈川県横須賀市)に姿を現した。2隻の蒸気軍艦サスケハナ号(旗艦)とミシシッピー号、それに帆船2隻からなる計4隻の艦隊である。
 イギリスから独立(1776年)して80年に満たない新興国アメリカは、日本に向けてポーハタン号ほか世界最大最強の蒸気軍艦3隻と帆船を含め計10隻、乗組員約2000人の巨大な艦隊を編成した。この時は、その他の軍艦を中国海域に留めている。
 ペリー艦隊は2日前に蒸気走に切り替え、伊豆沖で全艦に臨戦態勢を敷いた。大砲、小銃、ピストル、短剣などあらゆる武器を動員。艦隊の有する大砲は10インチ砲2門、8インチ砲19門、32ポンド砲42門である。
 幕府側の砲台は、天保薪水令に従い沈黙していた。
 三崎沖の見張りが早馬の伝令で浦賀奉行所に黒船来航を伝える。 奉行所は前年のうちに来航の情報を得ており、与力の中島三郎助とオランダ通事の堀達之助を乗せた番船を出した。船は迷わず司令長官が乗る旗艦サスケハナ号に近づき、甲板の水兵にも分かるように英語で呼びかけた。”I can speak Dutch!”(当方はオランダ語が話せる)。この呼びかけも、誤解や小競り合いを避けるために考えてあった。

【初めが肝心】
 水兵の知らせで甲板に現れたオランダ語通訳ポートマンが「提督は高官だけの乗船を希望している」と応じると、通訳の堀は中島を指し、「この方は浦賀の<副総督>(Vice Governer)である」と名乗った。二人は艦長室に招き入れられ、ペリーの副官コンティとの話し合いが始まる。
 ペリーは最初の接触で高い地位の役人を容易に引き出せたことに驚いた。清朝中国では高い地位の役人を引き出せず、これが最大の外交課題であった。
 アメリカ側の記録は記す。「ペリー提督は長官室にとじこもり、副官が応対するという形式を取った」が、これは「実際には提督との会談であった」。
 副官コンティの「副総督ではなく総督は来ないのか?」の問いに、中島は「明日、連れてくる」と答え、翌朝、香山栄左衛門が<総督>と名乗って艦隊を訪れる。香山も総督ではなく、筆頭与力であった。

【日米双方の政策が<避戦>で一致】
 ペリー艦隊は、太平洋を横断して来たのではない。1852年11月24日、旗艦をミシシッピー号としてアメリカ東海岸ノーフォーク軍港を出発、大西洋を渡り、アフリカ南端をまわったモーリシャスで最後の石炭と食料の補給を受けとると、独自の補給線を持たないアメリカは、超大国イギリスの蒸気郵船P&O社の補給所から買うほかに手がなかった。
 セイロンでは他国の軍艦には1トンたりとも供給してはならないとの厳命が出ており、シンガポールでも状況は同じだったが、幸いにも香港の石炭が不足しており、香港での返却を条件に、ようやく石炭230トンを入手した。
 こうして中国海域に到着した。外交部派遣のマーシャル弁務官(駐華アメリカ公使)は上海へ行っており、ペリーの気持ちは収まらない。マーシャルは<中国重視>で艦隊の多くを中国海域に留めるよう主張、一方のペリーは訪日が使命であり、あくまで<日本重視>を主張した。
 様々な葛藤の末、ペリー艦隊は琉球を経て、浦賀沖に到着。ノーフォーク軍港を出発してから9カ月後、地球の4分の3という長い航路を経た末の訪日であった。
 またペリーは大統領から「発砲厳禁命令」を受けていた。国務長官より海軍
 長官あての「発砲厳禁命令」は言う。
 「大統領は宣戦布告の権限を有さない。使節は必然的に平和的な性格のものであることをペリー提督は留意し、貴下指揮下の艦船及び乗員を保護するための自衛及び提督自身もしくは乗員に加えられる暴力への報復以外は、軍事力に訴えてはならない」
 この命令に反して日米開戦となれば、イギリスが中立宣言を出すのは必至であり、ペリー艦隊は補給を断たれ、帰国さえできなくなる。
 双方が相手の事情を明確に知っていたわけではないが、「避戦」という日米の政策はすでに一致していた。

【久里浜でアメリカ大統領国書を受理】
 ペリーは、訪日を2度に分けて考えていた。一度目はアメリカ大統領国書を受理させること。これがわずか6日目の7月14日に実現する。授受の儀式のために香山や中島らがペリー一行を艦隊まで迎えに行き、久里浜に上陸させた。総勢300人ほどと記録にある。浦賀奉行は浦賀在勤の戸田伊豆守氏栄と、江戸詰めの井戸石見守弘道の2名おり、彼らがペリー一行を丁重に、急ごしらえの18畳敷きの会見所に迎え、フィルモア(M. Fillmore)大統領の国書を受理した。双方の打ち合わせ通り、言葉は交わさなかった。

【多様な派遣目的】
 幕府が受理した大統領の日本皇帝宛国書にあるペリー派遣の目的は、多様かつ曖昧であるが、主な内容は次の点である。
①日本諸島沿海において座礁・破損もしくは台風のためやむなく避泊する合衆国船舶乗員の生命・財産の保護に関し、日本国政府と永久的な取決めを行うこと。
②_合衆国船舶の薪水・食糧の補給、また海難時の航海継続に必要な修理のため、日本国内の1港または数港に入る許可を得ること。加えて日本国の一港、または少なくとも日本近海に散在する無人島の1つに貯炭所を設置する許可を得ること。
③合衆国船舶がその積荷を売却もしくは交換(バーター)する目的のために、日本国の1港もしくは数港に入る許可を得ること。
 国交のない国の大統領から国書を受けとること自体が、日本にとって大きな政治的決断であった。これは老中首座の阿部正弘(伊勢守)の決断にかかっている。戦力では、海軍を持たない幕府が、この巨大艦隊に対抗する方法は皆無といえる。阿部は軍事的対決を回避し、外交により対処する原則を立てていた。国書受理は熟慮の結果である。
 この出会いは、きわめて象徴的である。見えざる糸が「戦争」を回避させ、「交渉」へと導いた。やがて接触を重ねるうちに、双方ともに「交渉」を主軸に、それに伴う行動を優先させていく。
 想定より早い決着に安堵したペリーは、「再来日するまで考える時間を与える」と言い残し、わずか9日間の滞在で7月17日、日本を離れたが、_1ヵ月以上の食糧を持っておらず、バーモント号に積んだ贈り物も到着していない等の懸念から長く留まることができなかった。
 さらに<中国重視>のマーシャル弁務官に、自分の訪日が早期に成功したことを誇示したい気持ちもあった。

【ペリー艦隊、2度目の来航】
 ペリー艦隊の2度目の来航は、約7か月後の翌年1854年2月である。2月8日、先遣隊についで全10隻からなる堂々たる艦隊であった。
 まず応接をどこで行うかをめぐり応酬があり、前回が江戸湾の外の久里浜であったのに対して、今回は幕府が譲って、江戸湾の内海に入った横浜村に決まった。
 応接を浦賀奉行所に任せるか、あるいは新たに交渉陣を立てるか、人事をどうするか。すべてが、これからの課題であり、老中阿部の決断にかかっていた。

【阿部の決断】
 阿部は1843年、譜代の福山藩10万石の藩主から25歳で老中に抜擢された。2年後の1845年には老中首座となり、ペリー艦隊を迎えた時、34歳である。現代の感覚からすると、きわめて若い。彼の眼前に拡がる課題は、次の3点あった。
 ① 黒船という巨大技術の存在と、開国という新体制への政治的決断
 ② 戦争を回避し、外交で合意を得る方法
 ③ 外交と内政を連動させる展開
 なかでも②は最重要事項の一つである。

【林大学頭を起用】
 阿部は、林大学頭(はやし だいがくのかみ)の起用を決断した。
 徳川家康は1607年、林羅山を登用、幕藩体制のイデオロギー的支柱とした。羅山は仏教・キリスト教批判を行い、神道とはイデオロギー面で同盟関係を形成した。中国から導入した儒教が、ここから神道との親近性という日本的な変容をとげる。
 朱子学が「性理」を説き、「忠」より「孝」を重視するのにたいして、林は人間の感情を「心理」として強調、親子間の「孝」より、組織への忠誠である「忠」を重視した。
 林羅山の登用は、「封建教学の正統化」というより、政治上の事務にあたらせ、家康らの個人的教養にそなえたものと考えられている。羅山についで代々家督を継承した林家の主な役割は、正統的イデオロギーの保持者から次第に脱皮し、朝鮮通信使の応対など対外関係の処理と、官吏養成が主務となった。
 林家の官吏養成機能は、1790年設置の「昌平坂学問所」(昌平黌)からである。言い換えれば唯一の大学の学長職である。後に外国奉行等に就く官吏の多くが昌平黌で学んだ。
 教育内容は実務的要素が強い。ペリーの第1回来航時には第十代の林壮軒(健)だったが逝去、弟の林復斎(韑あきら)が第十一代大学頭に就任、ペリー応接にあたる。
 役職に応じて役高を決める足高制(1723年)によれば、町奉行は3000石で、大学頭はその上の4000石である。

【艦隊員の埋葬】
 いよいよ3月8日、横浜応接の日である。大学頭が口火を切った。
 「昨年夏の貴国大統領書簡で要望されたもののうち、薪水食料と石炭の供与は差し支えない。また漂流民救助の件も我が国法にあるとおりである。以上の二条は了承するが、交易(貿易)等の件は承諾しかねる」
 ペリーはこれに答えず、別件を切り出した。
「我がミシシッピー号の乗組員が一人、病死した。海軍の慣例では、その地で自由に埋葬するが、貴国には厳しい国法があるようなので伺いたい。地形などから考えて夏島〔加藤注 ペリーは国務長官の名を取りウェブスター島と命名していた〕をと思うが、ご承諾願いたい」
 応接掛は相談のため別室へ行き、やがて戻って来ると、林が言った。
 「はるばる来られたうえの病死、不憫に思う。軽輩とはいえ人命に軽重はない。日本では寺に葬るのが常であり、いずれの国の人であっても(夏島のような)無人の地に葬るのは不憫である。浦賀の灯明台の下はいかがか」
 ペリー「ここから浦賀に送るのは不都合で手間取る。今回の協議により、どこかの港にアメリカ人の滞在が可能となるはず、そのつど浦賀まで行くのは大変である」
 林「浦賀には外国船は入れないので、墓参が必要になれば、そのときに改葬されてはどうか」
 ペリー「ありがたいご配慮、都合により改葬するのも良い。なにとぞお願いする」

【林大学頭とペリーの応酬】
 ここでペリーは話題を変えた。
 「我が国は以前から人命尊重を第一として政策を進めてきた。自国民はもとより国交のない国の漂流民でも救助し手厚く扱ってきた。しかしながら貴国は人命を尊重せず、日本近海で難破船を救助せず、海岸近くに寄ると発砲し、また日本へ漂着した外国人を罪人同様に扱い、投獄する。日本国人民を我が国人民が救助して送還しようにも受け取らない。自国人民をも見捨てるようにみえる。いかにも道義に反する行為である。
 我が国のカリフォルニアは、太平洋をはさんで日本国と相対している。これから往来する船はいっそう増えるはずである。貴国の国政が今のままであっては困る。多くの人命にかかわることであり、放置できない。国政を改めないならば国力を尽くして戦争に及び、雌雄を決する準備を整えている。我が国は隣国のメキシコと戦争をし、国都まで攻め取った。事と次第によっては貴国も同じようなことになりかねない」

 今度は林が反論の口火を切った。
 「戦争もあり得るかもしれぬ。しかし、貴官の言うことは事実に反することが多い。伝聞の誤りにより、そのように思いこんでおられるようである。我が国は外国との交渉がないため、外国側で我が国の政治に疎いのはやむをえないが、我が国の政治は決して反道義的なものではない。我が国の人命尊重は世界に誇るべきものがある。
 この三百年にわたって太平の時代がつづいたのも、人命尊重のためである。第2に、大洋で外国船の救助ができなかったのは、大船の建造を禁止してきたためである。第3に、他国の船が我が国近辺で難破した場合、必要な薪水食料に十分の手当てをしてきた。他国の船を救助しないというのは事実に反し、漂着民を罪人同様に扱うというのも誤りである。漂着民は手厚く保護し長崎に護送、オランダカピタンを通じて送還している。
 貴国民の場合も、すでに措置を講じて送還している。不善の者が国法を犯した場合はしばらく拘留し、送還後にその国で処置するようにしている。貴官が我が国の現状を良く考えれば疑念も氷解する。積年の遺恨もなく、戦争に及ぶ理由はない。とくと考えられたい」
 しばらく考えてペリーが答えた。
 「薪水食料と他国船の救助をなされるとのこと、よく分かった。我が国の船が貴国海浜に至り、薪水を得られず困ったことがあったが、国政を現在のように改めたとのこと、今後も薪水食料石炭の供与と難破船救助を堅持されるならば結構である」
 ペリーは自説を取り下げた。林の冷静な応答により、ペリーの「戦争」の脅しは通用しなかった。
 なお、林大学頭(復斎)とペリーの論戦、基本合意を得た後の交流等についは、後の拙著『幕末外交と開国』(講談社学術文庫 2014年)をご覧いただきたい。
 こうして1854年3月31日、日米和親条約が結ばれた。私はこれを<交渉条約>と名づけた。

【関連書について】
 日米間の交流の様子を描いたアメリカ側の本2冊を取り上げたい。ペリー自身が米議会に提出したホークス編『ペリー提督 日本遠征記』は、いま宮崎寿子監訳により角川ソフィア文庫(2014年)に上下2冊で収まっている。また首席通訳官のS・W・ウィリムズ著、洞富雄訳『ペリー日本遠征随行記』も半世紀ぶりに講談社学術文庫入り(2022年)して入手しやすくなった。

【下田着任のT・ハリス総領事】
 日米間の国交樹立を定めた日米和親条約は、つづく日米修好通商条約(1858年締結)に向けてアメリカ総領事を置くとの定めに従い、1856年8月、T・ハリスが下田に着任した。折しも中国では、アロー号事件に端を発する第2次アヘン戦争(1856~1860年)が勃発している。
 下田に留め置かれ、外国奉行との交渉にあたっていたハリスは、下田着任から1年3カ月後の1857年11月23日、下田を発ち、江戸に上り、幕府(外国奉行)との交渉に入る。

【神奈川宿か横浜村か】
 前述のタイラーさんが、「神奈川」ではなく横浜が幕府の応接場として世界への窓口になった経緯について、「執筆者は運命のいたずら(幕府の決定)を楽しんでいるふしがある」と、いみじくも指摘するが、これについて少し触れたい。
 開港場についてハリスが条約上の「神奈川」を主張、これに対し幕府は日米和親条約調印の地である横浜村を主張した。
 理由はこれだけではない。高台の街道筋の神奈川宿と比べ、横浜村は数十倍の面積を誇り、多くの外国人を迎え入れることができる。来日する商社の予想数もハリスが50社ほどとしたのに対し、幕府はその10倍は固いと読んでいた。
 さらに遠浅の神奈川宿と異なり、横浜村に面する海は水深が深く、大型船の着岸に適している。横浜村を神奈川宿から遠望しただけのハリスには知りようのない事実であった。
 日本大通りを境に、桜木町側を日本人町とし、山手川を外国人居留地とする基本デザインのもと、幕府は巨額の経費を投じて横浜居留地を急造、同時に神奈川宿から「横浜道」(よこはまみち)を通し、中間に神奈川奉行所を置き、その出先機関として海岸に運上所(入管と関税を担当)を設け、条約が定めた期日を守り、1859年7月1日(安政六年六月二日)、開港した。

【横浜居留地の役割】
 「避戦」を柱とする天保薪水令から数えて実に17年後、幕府の一貫した「避戦」の選択により、戦闘を伴わず交渉により生まれた横浜居留地こそが都市横浜の始まりである。
 <交渉条約>には<懲罰>としての<賠償金>支払い義務もなく、領土割譲もない。代わりに誇り高き成功を導いた横浜居留地に世界中から人々が集まった。また折からの世界的な生糸需要に乗り、国内各地から優秀な人材が横浜をめざし、瞬く間に人口が増加、都市横浜へと発展する。
 1989年の市政100周年・開港130周年を記念する「横浜博覧会 yes89」の関連行事として作られた本書”Yokohama Past and Present”は、言い換えれば、1859年の横浜居留地の成立と、その発展形態としての1889年の市政施行を祝う事業の一環である。
 市政施行にあたって初代市会議長に就任したのが、神川町(埼玉県の北限)出身の生糸売込商、原善三郎(はら ぜんざぶろう)である。
 また横浜の名門「ホテル、ニューグランド」は、祝賀の意をこめて「横浜開港164周年」(今年)…と開港から何周年かを本館の入り口に掲げる。その新館タワー建設(1991年完成)にあたって、大宴会場を「ペリー来航の間」と名づけたのも、こうした流れによる。
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人類最強の敵=新型コロナウィルス(58)

 前稿(57)を掲載したのが2023年の仕事始めにあたる2023年1月4日であり、その末尾に4日の日経ニュースメールから採った【EV急速充電器の規制緩和 設置容易に、23年めど】を掲げた。
 
【原発等のインフラ防御に自衛隊を活用】
その4日晩の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は原子力発電所など重要インフラ防護に自衛隊を活用する。有事を中心とする対応に限定していた従来の運用方針を改め、立地する自治体で警察、海上保安庁と平時からミサイル迎撃などを訓練する。民間インフラが攻撃対象になる事態を想定し、即応態勢を整える。
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 ロシアによるウクライナ侵攻では原発や送電網がミサイル攻撃の標的となっている。全土が停電するなど国民生活や経済活動への影響が大きい。国際法であるジュネーブ条約が禁止する重要民間インフラへの攻撃が現実に起き、対策の必要性が高まった。
 政府は2022年12月に閣議決定した国家安全保障戦略に「重要な生活関連施設の安全確保対策は武力攻撃事態のほか、それには至らない様々な段階の危機にも切れ目なく対処する」との方針を明記した。
 原発や電力・通信施設などを維持するため「自衛隊、警察、海保で連携枠組みを確立する」とも盛り込んだ。自衛隊法を柔軟に運用して平時から有事まで滞りのない対応を可能にする。
 弾道ミサイルなどで重大な被害が生じる可能性がある場合、首相の承認を得て防衛相が発令する破壊措置命令に基づいて自衛隊が出動できる規定がある。北朝鮮のミサイル発射が続いた16年以降、この命令は「常時発令」している。
 まずはこの規定に基づいて自衛隊がインフラ立地の自治体で警察や海保などと平時から対処方針を擦り合わせる計画をつくる。インフラの近くで部隊が展開したり、訓練の経験があれば突然の攻撃にも迅速に対処しやすくなる。
 自衛隊がミサイル防衛を担い、警察と海保は陸海での警備や住民避難などにあたる態勢を想定する。各組織の役割分担や情報共有の仕組みを対処計画に定め、円滑に連携できるようにする。
 地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)を使った迎撃訓練を実施し練度を高める。海上に展開するイージス艦と地上に置くPAC3による二段構えの迎撃の精度向上をめざす。
 自衛隊によるインフラ防護はこれまで武力攻撃を受けた有事対応とテロリストなどに対処する治安出動の想定しかなかった。自衛隊を活用できるケースが法律上、限定されているためだ。
 平時でも首相命令で特定の施設を守るために動ける「警護出動」の防護対象は自衛隊と在日米軍の施設に限られる。従来、平時の防護は警察や電力会社などの事業者に委ねられていた。
 自衛隊は22年11月に関西電力大飯原発が立地する福井県おおい町でPAC3を展開する訓練を先行実施した事例がある。これを他の地域にも広げる。国内には33基の原発があり、各立地自治体などと近く調整を始める。
 自民党はかつて国会承認なしで自衛隊が動ける警護出動の対象に原子力関連施設を加える自衛隊法の改正を提唱した。政府は自衛隊法の改正を中長期の課題と位置づけ、時間をかける方針だ。法改正しないでも可能な方策から取り組む。

【秦剛・中国新外相の役割は「戦狼外交」か? 習氏が評価したある能力】
 4日の朝日新聞デジタルは次のように報じた。
 中国外交の「顔」が10年ぶりに交代した。外相を長年務めた王毅(ワンイー)氏の後を受けた新任の秦剛(チンカン)氏は、8年半にわたり外務省報道官を務めるなど発信力に定評があり、「戦狼(せんろう)外交の継承」に注目が集まる。だが中国政府関係者らによると、習近平国家主席が秦氏を登用した大きなねらいは、ほかにあるようだ。
 昨年12月30日に外相に就任した秦氏は、直近まで駐米大使だった。3日、秦氏はツイッターに「500日余りの任期で22州を訪れ、多くの友人ができた。勤勉で情熱的、友好的な米国民に感銘を受けた」と投稿。さらに米国立公文書館入り口にあるシェークスピアの言葉「過去は序章である」を引用し、「これまで通り中米関係の発展に関心を持ち、両国民の幸福と世界平和のためにできる限り努力していきたい」と続けた。
 秦氏は1949年の中華人民共和国建国後、12人目の外相だ。56歳9カ月での就任は、首相を兼務した初代の周恩来(51歳6カ月で就任)に次ぐ若さとなる。駐米大使任期が1年半に満たない秦氏の外相起用が抜擢(ばってき)であることは間違いない。
 欧米や日本のメディアでは、人事のねらいについて「戦狼外交の継続」との見方が広がる。
 戦狼外交とは、2017年公開の映画に由来する好戦的な外交姿勢であり、端的に言えば「言い負かされない」外交だ。12年から現在まで外務省報道官を務める華春瑩次官補は、19年に発表した論文の中で問題意識を鮮明にしている。
 「現在の国際世論は西側諸国が強く、中国など発展途上国は構造的に弱い。中国の経済はすでに世界第2位なのに、発言権が実力と釣り合っていない。発言権を得るために主体的な行動が必要だ」
 秦氏は、先駆け的な存在とも言える。05~10年、11~14年の2度にわたって外務省報道官を務め、当時から会見での譲歩しない姿勢を強く打ち出す受け答えが持ち味だった。
 例えば14年、アジアを歴訪したオバマ米大統領が中国に寄らないことを問われると「来ようと来まいと、中国はここにある」と一蹴。国防費の増加に対する日本の懸念には「中国軍はボーイスカウトではない。軍が小さければ国家や地域の平和が保たれるのか?」などと反論した。
 秦氏は昨年10月の中国共産党大会で上位205人の中央委員に昇格しており、党幹部の中で唯一のツイッター利用者ともなった。今後も利用を継続するかは不明だが、いずれにせよ発信力に対する一定の期待があることは確かだ。
 ただし、中国外交筋は「習氏が秦氏に求めているのは、その部分ではない」と言い切る。

【ソフトウエアに安全基準 日米、サイバー防衛で覚書へ 政府調達でインフラなどの対策強化】
 5日夕方の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日米両政府はサイバーセキュリティーの強化で覚書を結ぶ調整に入った。政府調達のソフトウエアについて両国で同レベルの安全基準をつくり、重要インフラなどのシステムの守りを固めるのが柱。社会経済活動の混乱や機密情報の漏洩といったリスクを軽減する。
 西村康稔経済産業相が6日にワシントンでマヨルカス国土安全保障長官と会談して合意する見通しだ。
 日米はそれぞれ2022年に国家安全保障戦略を改定し、サイバー対策の拡充を盛り込んだ。今回の覚書は日米が戦略改定に基づいてサイバー防衛で連携する第1弾の具体策となる。
 米国は調達先の企業から安全性に関する情報提供を求める仕組みづくりを進めている。ソフトウエアを構成するプログラムを記載したSBOM(エスボム)と呼ぶリストなどを使って確認する。
 米国の取り組みを踏まえて日本もこれに準拠した制度を設けるための協力を覚書に盛り込む。日本は24年にも導入する方向だ。
 対象として想定するのは省庁で使うことがあるファイル管理ソフトやテレワークで活用する遠隔作業ソフトなど。例えばソフトウエアの設計が攻撃されにくい手法を採用しているか確かめる。
 調達先となる企業の開発工程について安全管理体制も検証する。出荷前に弱点に関する分析作業を課し、問題があった場合は原因を特定するなど継続的な対策を要請する。一連の安全対策のチェックリストを作成し、購入者が確認できるようにする。
 日本の政府調達でソフトウエアの安全基準はこれまでなかった。政府が導入すれば企業同士の民間取引にも広がると期待する。一方で企業側の管理コストが増えるため、安全基準の適用分野を絞り込むなどの配慮も検討する。
 日米の取り組みはオーストラリアとインドを加えた日米豪印4カ国の枠組みである「Quad(クアッド)」にも拡大するよう働きかける。インド太平洋地域の同盟国や友好国全体でサイバー対策の能力向上を目指す。
 ソフトウエアは多くの開発者が関与しており、どこに脆弱性があるのか把握しにくい。ウイルス感染したソフトウエアが媒介となって幅広いシステムが打撃を受ける恐れがある。
 米企業の調査によると弱点となるプログラムを狙ったり修正ソフトを改ざんしたりする「ソフトウエアサプライチェーン攻撃」はこの1年で7倍以上に増えた。
 特に誰でも無償で使えるオープンソースソフトウエアの利用が普及するにつれて攻撃も増加しており政府と民間の双方で対策が急務となっている。

【プーチン大統領、一時的な停戦指示 ウクライナは否定的】
 6日未明の日経速報メール【ドバイ=福冨隼太郎】によると、ロシアによるウクライナ侵攻に関しロシアのプーチン大統領は5日、ショイグ国防相にロシア正教のクリスマスに合わせた一時的な停戦を命じた。ロシア大統領府が発表した。現地の6日正午から8日午前0時までの36時間、ウクライナへの攻撃を控えるという。ウクライナ側にも同調を呼びかけた。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は5日夜公開したビデオ演説で、「ロシアは我々の兵士のドンバスにおける前進を食い止め、武器や戦力を我々の拠点に近づけるためにクリスマスを利用しようとしている」と述べ、停戦に否定的な姿勢を示した。
 一方、米国防総省のライダー報道官は5日の記者会見で、「ロシアの長年にわたる偽情報の拡散や、ウクライナの都市や市民への無慈悲な攻撃を踏まえると、米国や世界には多くの懐疑的な見方があると思う」と述べた。ロシアが停戦を守る可能性は低いとの見方を示す発言だ。
 ロシア正教では7日がクリスマスにあたる。ロシア正教会のキリル総主教はこれに先立ち、クリスマスの停戦をロシアとウクライナの双方に呼びかけていた。プーチン氏は命令の中で「総主教の呼びかけを考慮して、国防相に停戦を指示した」と強調。「ウクライナ側にも促してクリスマス・イブとクリスマス当日に信徒が礼拝に参加できるよう求める」とした。
 キリル総主教はプーチン氏に近く、ウクライナ侵攻を支持する立場を示しているとされる。ウクライナの正教会は5月に総主教の姿勢に反発して関係断絶を発表している。
 ウクライナ側が一時停戦を受け入れるかは不透明だ。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、ロシアが占領地から出ていくことが一時停戦の条件となるとの見方を示した。
 トルコのエルドアン大統領は5日、プーチン氏、ウクライナのゼレンスキー大統領とそれぞれ電話協議した。エルドアン氏はプーチン氏にウクライナへの侵攻について一方的に停戦を宣言するよう要請した。
 トルコ大統領府によると、エルドアン氏はトルコの仲介で2022年夏に成立したウクライナ穀物輸出合意などを「前向きな成果」と評価した。
 エルドアン氏はウクライナ情勢を巡り、プーチン氏と電話や対面による協議を繰り返している。プーチン氏はエルドアン氏に、22年9月に併合を宣言したウクライナのドネツク州など東・南部4州がロシア領になったことを認めることが和平の前提だとの考えを示唆した。

【米当局、エーザイのアルツハイマー薬承認 病気の進行抑制】
 7日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 米食品医薬品局(FDA)は6日、エーザイと米バイオジェンが共同開発するアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を承認したと発表した。レカネマブは認知機能に障害が出始めた早期のアルツハイマー病患者に対し、症状の悪化スピードをゆるやかにする効果を臨床試験(治験)で証明した。
 今回は「迅速承認」と呼ばれる特例措置で、エーザイとバイオジェンは早い段階で完全承認も取り付けて公的保険の適用をめざす。同治療薬への注目度は高く、米国メディアも承認を一斉に報じた。
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 米国では「レケンビ」の商品名で販売を始める
 米国では「レケンビ」の商品名で23日の週までに販売を始める予定だ。年間薬剤費を2万6500ドル(約350万円)で設定。高齢者向け公的医療保険「メディケア」の適用対象になれば、加入者の自己負担額は1日あたり14.5ドルになると推定している。
 FDAの神経科学部長のビリー・ダン氏は承認について「この治療薬はアルツハイマー病の症状だけでなく、病気の進行の根本的な部分に対応するものだ」と説明した。
 エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は声明で「アルツハイマー病は医学的な問題や介護負担だけでなく、生産性の低下、社会的コストや不安の増大など、社会全体に影響を及ぼす問題だ」と述べた。レカネマブの今後の展開については、幅広い患者に利用してもらうため「速やかな完全承認に向けて全力で取り組む」と強調した。同社は3月までに完全承認に向けた申請を提出する見通し。
 認知機能の低下を長期的に抑制する機能を持つ治療薬としては、同じエーザイとバイオジェンが2021年に開発した「アデュカヌマブ(製品名アデュヘルム)」に続く2例目となる。だがアデュカヌマブは設定した薬価が高額だったため、アルツハイマー病の患者や支援団体などから批判が噴出。さらにメディケアは治験データが不十分で有効性の証明ができていないとして、保険適用を治験参加者に限った。この結果、アデュカヌマブは事実上、普及に失敗している。
 レカネマブは最終段階の治験で、アルツハイマー病患者の症状の悪化スピードを27%抑制する効果があるとの結果を、22年11月の国際学会で発表している。病気の進行を抑える有効性が治験で証明されたことから、今後は各国の規制当局も承認に動く可能性が高い。エーザイとバイオジェンは米国に続き日本や欧州でも承認申請することを検討している。
 一方で、治験に参加した患者が深刻な脳内出血を起こして死亡したケースも報じられた。だが、エーザイは患者が注意が必要な抗凝固剤を使用していたことから「脳内出血のリスクは結論づけられていない」と指摘している。

【米下院議長、15回目投票で選出 共和マッカーシー氏】
 7日午後の日経ニュースメール【ワシントン=坂口幸裕】によると、米連邦議会下院は7日、新しい議長に野党・共和党のマッカーシー院内総務を選出した。6日まで造反していた共和議員が賛成に回り、15回目の投票で当選に必要な過半数の票を獲得した。下院議長人事を巡る混迷は2024年の次期大統領選で政権奪還をめざす共和に火種を残した。
 マッカーシー氏は西部カリフォルニア州出身で現在57歳。同州議会議員を経て、06年の連邦議会下院選で初当選。現在9期目で、19年から下院トップの院内総務を務めてきた。トランプ前大統領に近く、対中強硬派として知られる。新議会で中国問題を集中的に扱う「中国特別委員会」を創設すると打ち出した。
 共和内でマッカーシー氏の議長就任に反対してきたのは保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」に所属する議員が多い。議長人事をテコに、議会運営で影響力を確保できるよう規則の変更を迫ってきた。
 米メディアによると、マッカーシー氏は保守強硬派の主張を受け入れる新たな譲歩案を示した。議長の解任動議を提出しやすくしたり議員の任期制限を設けたりする案を含み、マッカーシー氏の議長就任に反対していた議員が賛成に回った。
 下院の構成は22年11月の中間選挙で多数派を奪還した共和党が222、民主党が212、空席が1。最終投票の結果は有効投票428票のうち、マッカーシー氏が当選に必要な半数を超える216票、民主党のジェフリーズ院内総務が212票だった。6人がどの候補を支持するか明らかにしなかった。
 1回の投票で下院議長を選出できなかったのは100年ぶり。下院によると、投票を10回以上繰り返したのは1859年に44回実施して以来、164年ぶりになる。
 トランプ氏は中間選挙後からマッカーシー氏の議長就任へ共和議員が結束するよう促してきたが、効果は乏しかった。4日にSNS(交流サイト)に「共和党下院議員全員がケビン(・マッカーシー)に投票し、勝利する時が来た」と投稿しても翻意させられなかった。

【中国「開国」手探り 入国時の隔離撤廃、航空便は9割減】
 8日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 中国が8日、新型コロナウイルスの感染防止のため、外国から中国本土に入る際に義務づけている隔離措置をなくす。海外と往来しやすくなり、中国人の海外旅行の予約は増えたものの、航空便数はコロナ禍前の9割減にとどまる。日本企業も出張再開に様子見姿勢を取る。手探りの「開国」となりそうだ。
 「隔離せずに中国に戻れる。すごくうれしい」。バンコクに駐在する中国人男性(27)は9日、約1年ぶりに中国に一時帰国する。中国政府が2022年12月に入国時の隔離撤廃を発表した後、すぐに航空券を予約した。遼寧省大連市の実家に滞在し「家族とお酒を飲みたい」と話す。
 中国は20年以降、海外からの入国者に14~28日間ほどの隔離を要求。段階的に縮めたが、原則8日間の隔離が必要だった。8日からは出発前48時間以内のPCR検査で陰性ならば入国できる。
 旅行大手の携程旅行網(シートリップ)によると、春節(旧正月)の大型連休(1月21~27日)の海外旅行の予約数は22年春節の6.4倍だが、コロナ禍前の水準には遠く及ばない。
 航空便数がカベになる。英航空情報会社シリウムによると、中国発・外国行きの航空便は23年1~3月に1万2517便の見通し。22年1~3月の2.2倍に増えるが、コロナ禍前の19年と比べると89%少ない。外国発・中国行きの航空便も19年比89%減にとどまる。全日本空輸は「中国路線の便数はコロナ禍前の1割に届かず、1月の予約数は19年1月比で1割ほど」とする。
 大連市の旅行会社幹部によると、23年春節の中国発の海外往復航空券をコロナ禍前と比べると、ソウルや東京は料金が約2倍、シドニーやバンコクは約3倍。「増便による値下がりを待つ中国人が多いのではないか」
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 ビジネス往来も手探りだ。日立製作所は外務省の感染症危険情報を重視し、日本政府の対応が変わらなければ慎重姿勢を続ける。三菱電機も「オンラインでの会議や商談を増やしており、今回の緩和は往来に影響しない」と話す。感染状況や医療体制が改善すれば通常運用に戻す方針だ。電子部品大手の村田製作所も感染が落ち着くまで、やむを得ない案件を除いて中国出張は延期・中止する。
 ニトリホールディングスは現地の店舗や工場の視察再開を検討する。現在は工場の品質管理などを全てリモートで実施する。白井俊之社長は「リモートだけでは厳しい。実際に訪れることで得られる情報を商品や店舗開発に生かしていきたい」と話す。
 「ゼロコロナ政策」で往来が難しかったため、日本企業では長期にわたって中国にとどまる駐在員が少なくない。ホンダの三部敏宏社長は今回の緩和などを受けて「戻れる状況になればすぐに1回帰国させる」と話す。
 中国の新型コロナ感染を巡っては当局の情報公開の不透明さが指摘されており、各国は中国からの渡航者にPCR検査などを義務づける。
 日本は昨年12月30日、中国からの渡航者の入国時検査を始め、陽性の場合は原則5~7日間の隔離措置をとる。8日から対策を強め、より精度の高い抗原定量検査やPCR検査に切り替える。出国前72時間以内の陰性証明の提出も求める。
 厚生労働省によると、22年12月30日から23年1月5日に検査を受けた中国からの渡航者4895人のうち約8%にあたる408人が陽性だった。
 中国人留学生を受け入れる大学は日本政府の水際対策の動向に注目する。立命館大はオンライン受講者を含めて22年5月時点で800人超の中国人留学生が在籍する。今後の入学者について「3月まで対策が継続されれば、入学手続きが遅れかねない」と懸念する。東京外国語大は約150人の中国人留学生がいるが、コロナ禍で半減した。陰性証明書提出などの手続きを適切にとれば入学に影響はないとする。
 観光地からは中国人観光客の回復に期待の声があがる。「城山ホテル鹿児島」を運営する城山観光(鹿児島市)の東清三郎社長は「中国からの予約がちらほら入り始めた。コロナ禍が本格的に収束し、多くの人に来てもらいたい」と話す。富士急行の堀内光一郎社長は日本の水際対策について「従業員の感染拡大防止などの面からやむを得ない。今後、徐々に緩和されることを期待したい」と述べた。

【米国、宇宙も対日防衛義務 衛星への攻撃抑止想定】
 9日未明の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日米両政府は宇宙空間を米国の対日防衛義務の対象と確認する最終調整に入った。米国は日米安全保障条約5条に基づき日本が運用する人工衛星などを防護する。衛星は相手国の軍事活動監視の「目」として重要性を増している。中国やロシアの開発動向を踏まえ日米の抑止力向上を急ぐ。
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 米側が対日防衛義務の適用を調整すると日本側に伝達した。11日にワシントンで開く外務・防衛担当閣僚協議(日米2プラス2)で発表する共同文書に盛り込むことをめざす。13日の首脳会談でまとめる安保に関する共同文書にも反映する方向だ。
 日米安保条約5条は日本の施政下で武力攻撃があったとき、米国が対日防衛にあたると規定する。宇宙には国境の概念がないものの、日本が持つ衛星は施政下にあると定義する。
 他国から攻撃を受ければ日米が武力を用いて対抗する姿勢を明確にし、抑止力につなげる。具体的な対応方法はこれから詰める。
 2019年には従来の陸海空に加え、新たな戦闘領域の一つであるサイバー空間にも適用すると確かめた。今回の2プラス2で宇宙も対象にすると明示する見通しだ。
 宇宙空間を重視する背景には各国が軍事利用の動きを活発にしている事情がある。中国とロシアは宇宙での軍事的優位性を確保するため、他国の宇宙利用を妨げる能力を高めている。
 衛星と地上の通信を妨害したり、衛星を破壊するミサイルやレーザー兵器を開発したりしているとの見方がある。他国の衛星に接近して攻撃する「キラー衛星」の保有計画も進める。
 ロシアによるウクライナ侵攻でも宇宙の軍事利用の重要性が再認識された。ミサイル発射や無人機の利用は宇宙からの通信が必須だ。米欧によるロシア軍の位置情報の提供などが戦況を優位に動かしたとの分析がある。
 台湾有事をにらんだ日本の防衛力強化も衛星が不可欠となる。
 22年12月に決めた国家防衛戦略で長射程ミサイルや電磁波・無人機を用いた防衛を重視すると明記した。衛星による情報が必要だ。攻撃を受ければ自衛隊の活動に幅広い影響が及ぶのは避けられない。
 日米は近年、宇宙の防衛協力を強化してきた。衛星で得られる情報を共有して不審船探知につなげる「海洋状況把握」の推進などで連携する。
 多数の小型衛星を連動する観測網「衛星コンステレーション」でも日米協力を見込む。中国やロシア、北朝鮮が開発する極超音速兵器の探知・追尾に活用する計画だ。
 米国は19年に宇宙軍を発足させ防衛体制を拡充した。日本も「宇宙作戦隊」を新設し、宇宙ごみや衛星への電波妨害を監視している。
 国家安保戦略などの安保関連3文書では航空自衛隊を改組して「航空宇宙自衛隊」を設置する方針を掲げた。
 日米2プラス2では宇宙分野のほか、日本が保有を決めた相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」に関する協力や南西方面の基地、公共インフラの共同使用を拡大する方針を打ち出す。

【ブラジル議会襲撃 前大統領支持者、選挙結果に抗議】
 9日朝の日経速報メール【ブラジリア=宮本英威】によると、ブラジルの首都ブラジリアで8日、ボルソナロ前大統領の支持者が議会と大統領府、最高裁判所を襲撃した。地元メディアによると、襲撃には4000人程度が加わり、建物を一時占拠して破壊した。ボルソナロ氏が掲げたポピュリズム(大衆迎合主義)による政治の分断が事件の引き金となった。米連邦議会襲撃事件に続き、民主主義を揺るがす事態は世界へ広がる。
 ルラ大統領は同日、「わが国の歴史に前例がない。このような行為を行った人は罰せられなければならない」と述べた。議会などがあるブラジリア連邦区について、国が直接治安を管理する政令を出した。
 地元メディアに掲載された映像では、支持者は施設内に入り、窓ガラスや家具、絵画を破壊する様子が映し出されている。建物の占拠は約4時間に及んだ。警察は侵入者に対して催涙弾や放水車で制圧を試み、襲撃された施設から侵入者を排除。約400人を拘束した。負傷者数など詳細は明らかになっていない。
 今回の暴動の直接的なきっかけは、2022年10月の大統領選挙だ。決選投票ではルラ氏は得票率で50.9%となり、49.1%のボルソナロ氏に僅差で勝利した。
 ボルソナロ氏は現在も明確に敗北宣言をしていない。ボルソナロ氏の所属政党は11月下旬、開票結果に対する異議申し立てを行った。ただ裁判所は証拠が不十分だとして、異議申し立てを却下した。司法手続きでの道が絶たれた結果、支持者の一部が暴徒化した。
 ボルソナロ氏は8日、ツイッターに「本日起きたような略奪や公共の建物への侵入は法律から逸脱している」と投稿した。
 トランプ前米大統領への親近感を示すボルソナロ氏は、奔放な言動が共通しており「南米のトランプ」とも呼ばれる。狂信的な支持者も多いことや、政治的な分断を自身の支持拡大につなげる手法も似通っている。米国では21年1月にトランプ氏の支持者による襲撃事件が起きている。
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大統領府の外に集結したボルソナロ前大統領の支持者

(8日、ブラジリア)=ロイター

 その2年後に民主主義を脅かす事件が再び起き、世界に波紋を広げた。バイデン米大統領は記者団に「とんでもないことだ」と述べた。国連のグテレス事務総長はSNS(交流サイト)に「ブラジルは偉大な民主主義国家であり、そうなると確信している」と訴えた。

【バフムトの戦況】
 10日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ウクライナ東部、ドネツク州ドネツクの北70キロメートルに位置する要衝バフムトの南方にある泥だらけの丘陵地帯では、生と死の境はほとんどない。
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ドンバス地方で戦死したワグネル幹部の葬儀に出席する同社創設者のプリゴジン氏(手前右)。同氏の影響力が増大していることにロシア政府内でも懸念が高まっている=AP

 ウクライナの避難を担当する部隊に所属するヤロスラフ・ヘルボルスキーさんにとっても生と死は常に隣り合わせだ。彼は2カ月半も、もはや生きているか死んだか分からない仲間の兵士を砲撃が続く中を泥まみれになって探し出そうと必死だ。その仕事は息をつくこともままならない。
 昨年12月中旬ごろ、ウクライナ軍はロシア軍部隊を町の境界から約1キロメートル離れた地点まで押し返した。それでもウクライナ軍は毎日、何十人もの犠牲者を出し続けており、彼の仕事はほとんど楽にはなっていない。
 今、ロシア軍は再び攻撃を仕掛けてきており、遺体がどんどん積み上がっていく。「この気持ちをどう表せばいいのか。40人もの死体が積み重なっている。ディーゼルと血と腐っていく肉体――。何というありさまか。自分もいつこうなるかわからない」とヘルボルスキーさんは話す。
(なぜバフムトが最大の激戦地なのか)
 この小さな町バフムト付近は現在、ウクライナで最も激しい戦闘の前線になっている。ロシア側を含め毎日、数百人という兵士が命を落とす。町は水の供給や陸送の拠点である以外に戦略的価値は限られているだけに、これほど多くの兵士が犠牲になるべき正当な理由はほぼ見当たらない。
 バフムトがなぜかくも要衝になっているかという理由は遠く離れたモスクワにある。プーチン大統領に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏と、彼が創設した怪しげな民間軍事会社「ワグネル・グループ」が、その存在意義をロシア政府に証明する重要な活動の場となっているからだ。
 プリゴジン氏は囚人を対象に兵を募り、動員兵も集めてバフムトでの戦闘の指揮を執ることで、いかに残酷になろうとも自らのビジョンを実現させようとしている。だがロシア政府の誰もがそんな彼を歓迎しているわけではない。特にプリゴジン氏が公然と批判するようになった軍や政治指導者らはそうだ。
 ワグネルとロシア軍がどれほどの協力関係にあるかは長くはっきりしていなかった。だがワグネルは昨秋、ロシア軍と協力する道をみつけた。
 ウクライナ東部司令部の報道官セルヒィ・チェレバティ氏によると、それはロシアが強硬派として知られるセルゲイ・スロビキン大将を対ウクライナ戦の総司令官に指名した(編集注、10月8日)のと同じ時期だった。プリゴジン氏はスロビキン氏の指名を働きかけていた。
(ロシア軍と対立するワグネル)
 チェレバティ氏によると、ワグネルはロシア軍の兵たん部隊から支援を受け始めたほか、正規軍の精鋭部隊と共に攻撃隊に加わるようにさえなった。だが最近はバフムト付近からの退却や兵たんに関する問題で、両者の関係は再びこじれているという。
 昨年12月下旬、ワグネルは自分たちの戦闘員2人がロシア軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長を強烈に批判しているビデオを公開した。バフムト付近で戦っているようにみえるこの2人は、身元を隠すためスカーフで顔を覆いながら、ゲラシモフ氏が軍需物資の提供を渋っていると批判した。
 「我々はウクライナ軍全体と戦っているのにお前は一体どこにいるんだ。お前に当てはまる言葉は一つしかない。(この後、侮辱的表現)」。ロシア軍に忠誠心の高い人々はこの暴言を非難したが、プリゴジン氏はその後、自分の部下であるこの兵士2人を公然と支持した。
 今年1月1日にバフムトから60キロメートル離れたマケエフカにあるロシアの仮設兵舎がウクライナにミサイル攻撃されたことで、ロシア軍指導部への右派による批判は一段と強まっている。西側に供与された高機動ロケット砲「ハイマース」による1日早朝の少なくとも4発の攻撃では、多数のロシア兵が死亡した。その大半は新たに動員されたばかりの兵士だった。ロシア側は89人が死亡したと発表したが、ウクライナは少なくとも400人が死亡したとしている。
 ドンバス地方で2014年に勃発した戦争に関与したロシア連邦保安局(FSB)の元大佐イーゴリ・ストレルコフ(別名ギルキン)氏は、兵舎がハイマースの攻撃を受ける可能性を将校らに警告していたと明らかにした。
 そのうえで「彼ら(将校たち)はどう指導しようとしても無理なんだ」と語気を強めた(編集注、同氏は14年のマレーシア航空機撃墜事件の刑事責任を追及するオランダなど5カ国の合同捜査チームに容疑者と特定されている)。
 ロシア国内では、ウクライナが兵舎を特定できたのは兵士らが命令に反して携帯電話を使用していたからだと推測し、責任を新兵に押し付けようとする動きも出ている。
(プリゴジン氏にはショイグ国防相も懸念)
 ギルキン氏はロシア右派の間で確固たる支持を得ているが、ロシア政府高官らはプリゴジン氏の力が高まることの方をはるかに懸念している。
 モスクワの政治アナリスト、タチアナ・スタノバヤ氏は、その懸念は昨年10月から11月にかけて強まったと指摘する。当時、大統領府の関係者らの目には、元受刑者でもあるプリゴジン氏がプーチン氏と直接話せる関係を確立したと映った。スタノバヤ氏は「プリゴジン氏は革命でも起こそうかというような勢いで様々な政府機関への批判を強めており、多くの政府関係者が恐れをなしている」と語る。
 ワグネルの常に批判の対象となっているショイグ国防相もプリゴジン氏の批判やその台頭ぶりに懸念を抱いているようで、自らの雇い兵部隊「パトリオット」をドンバス地方に投入している。
 ウクライナ軍報道官チェレバティ氏は、パトリオット部隊の具体的な役割は不明確だとしながらも「ワグネルに対抗するため送り込まれたようだ」と指摘する。
 プーチン氏は最近の演説で、正規の軍司令部こそがトップの立場にあると強調したが、プリゴジン氏の妥協を許さないやり方の危険性を気にしているようにはみえないとスタノバヤ氏は言う。「プーチン氏はプリゴジン氏を国民を鼓舞できる人物だが、一部の変わった市民社会の代表としかみなしていない」
(がんの噂絶えないプーチン氏、権力闘争発生のリスクも)
 今のところプリゴジン氏はプーチン氏のしっかりした影響下にある。ただかつて強健で無敵とされたプーチン氏だが、がんを患っているとの噂が絶えないうえ軍事上の判断に疑問が浮上していることを考えれば、いつまでも無敵とは言い切れない。戦況が著しく悪化すれば権力闘争が発生する可能性も否定できない。
 しかし、ロシアは深刻で深まる一方の軍事上の問題に対しては、当面は新たな動員で対処する方向のようだ。
 ウクライナは、それが数日以内に始まるとみている。同国のレズニコフ国防相は12月30日、それに伴い戒厳令も発令される可能性があるという認識を示した。
 バフムトにはこれまでの数カ月と同様に、新たに動員される兵士が大量に送り込まれることになるだろうと冒頭のヘルボルスキーさんは言う。
 「ロシア軍は混乱に陥ったかと思うと、翌日には兵士が補充される。いつもそうだ。我々は必死に戦い続けているが、ロシア軍はバフムトに際限なく兵士と武器を投入できるようだ」

【ダイヤのパワー半導体、電力損失5万分の1 人工衛星に Next Tech 2050】
 10日午前の日経ニュースメールは次のように報じた。
 「究極のパワー半導体」といわれるダイヤモンドを使った電力制御用半導体の開発が進んでいる。次世代パワー半導体の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べても高電圧への耐久性などに優れ、電力損失はシリコン製の5万分の1に減るとされる。熱や放射線にも強く、2050年ごろには人工衛星などに欠かせない部材となっている可能性がある。

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 ダイヤモンド製の半導体は高電圧への耐久性や耐熱性に優れる
 ダイヤモンドの魅力は際だった潜在能力の高さにある。シリコン製のパワー半導体の約30倍の高電圧でも破壊されずに動き、熱を逃がす性能は10倍以上だ。理論上は電力効率がシリコン製の5万倍良いパワー半導体を実現できる。
 ただし電子材料としての扱いにくさが難点だ。ダイヤモンドはあらゆる素材の中で最も硬い。自らよりも硬い材料で加工できないため、基板の表面を原子レベルで平らにするといった精密加工が難しい。リンやホウ素を混ぜ合わせて半導体の性質を持たせる、ドーピングと呼ぶ技術も確立できていない。
 これらの課題に挑むのが佐賀大学の嘉数(かすう)誠教授だ。22年に精密部品メーカーのオーブレー(東京・足立)とダイヤモンド製パワー半導体を開発し、1センチ角あたり875メガ(メガは100万)ワットの電力で動作させた。ダイヤモンド半導体では世界最高、半導体全体でもGaNの約2090メガワットに次ぐ出力値だ。
 半導体の性質を持たせるために、ダイヤモンド基板に二酸化窒素のガスを吹き付ける手法をとった。これを酸化アルミニウムの膜で保護することで高性能な半導体デバイスを実現した。基板表面を特殊な研磨方法で平らにし、電気抵抗を減らす工夫もした。
 開発には高額の人工ダイヤを使ったが、「ダイヤを作るのにかかるコストは技術が進化すれば劇的に安くなる可能性がある」と嘉数教授は話す。高価な印象を持ちがちだが、構成元素は石炭や黒鉛と同じ炭素で、地球上に豊富に存在する。製造工程にも高価なガスなどは使っていない。
 ダイヤモンド製半導体の用途として期待が大きいのが人工衛星向けの通信機器だ。既存の半導体は放射線によってソフトエラーと呼ばれる誤動作が起きたり劣化したりしやすいため、衛星の通信機器には真空管が使われている。
 放射線に強いダイヤモンド製半導体で置き換えられれば、宇宙では供給が限られる電力を効率的に使える。イーロン・マスク氏率いる米スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」や宇宙にデータセンターを配備する宇宙データセンターなど、衛星の通信需要は拡大する見通しだ。地上でも次世代通信規格「6G」や量子計算機を支える技術となる可能性がある。

【中国、日韓に新規ビザ発給停止 コロナ水際対策に対抗】
 10日朝の日経ニュースメール【北京=羽田野主】によると、中国政府は10日、中国に行く日本人と韓国人に対するビザ(査証)の新規の発給業務をとりやめた。日韓は中国からの渡航者への新型コロナウイルスの水際対策を強化している。中国外務省の報道官は「中国への差別的な入国制限措置に断固反対する」と表明し、対抗措置だと明らかにした。
 在日本の中国大使館は10日「日本国民への一般ビザの発行を一時停止する」と発表した。再開については改めて知らせるという。在韓国中国大使館も同日、ビジネスや観光目的などのビザの新規発給を一時停止したと発表した。
 中国外務省の汪文斌副報道局長は10日の記者会見で、日韓を念頭に「少数の国は政治的な操作をすべきではなく、差別的な取り扱いをやめるべきだ」と批判した。米国や欧州各国も水際対策を強化したが、中国政府は日韓以外への対抗措置は明らかにしていない。
 日本の外務省は10日、在日中国大使館に抗議しビザ発給停止の撤回を求めた。政府高官は「日本は中国からの渡航を止めていない。全く釣り合っていない措置だ」と中国の対応を批判した。
 日本の旅行会社によると、人道目的以外の、商用ビザなどの申請ができなくなった。ビザ手続きの停止が長びけば日本から中国に出張できなくなり、日中間のビジネスに支障が出る懸念がある。
 日本政府は8日、中国からの渡航者を対象に水際対策を強化した。入国時の検査義務をより精度の高いPCR検査などに切り替えたが、ビザの発給は止めていない。
 中国は8日に新型コロナの感染拡大を防ぐために外国などから中国本土に入る際に義務づけていた隔離措置を撤廃した。本土と香港間も隔離なしの往来を可能にし、感染を抑え込む「ゼロコロナ」政策を事実上終了させた。
 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「中国での感染が非常に多くなる一方、包括的データが出てこないため、各国が自国民を守るのに必要と信じる措置をとるのは理解できる」と発言した。

【ファストリ、国内人件費15%増へ 年収最大4割上げ】
 11日早朝の日経ニュースメールは次のように報じた。
 「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げる。パートやアルバイトの時給の引き上げも既に実施しており、国内の人件費は約15%増える見込み。ファストリは現在、欧米を中心に海外従業員のほうが年収が高い。国内で大幅に賃金を見直すことで、グローバルな水準に近づける狙いがある。国際的な人材獲得競争で劣後する日本企業の賃金制度に影響を与えそうだ。
 ファストリ本社やユニクロなどで働く国内約8400人を対象に、年収を数%から約40%引き上げる。新入社員の初任給は月25万5千円から30万円に、入社1~2年目で就任することが多い新人店長は29万円から39万円になる。
 同社は2022年9月に国内でパートやアルバイトの時給を平均2割引き上げた。従業員では20年に一部の職種の初任給を引き上げていたが、2000年前後に現在の制度を導入して以降では全面的な賃金の引き上げは初めてとなる。
 ファストリは能力や実績、成長意欲などに応じて約20段階のグレード(等級)に分けて基本給を決めている。3月に国内外でグレードごとの基本給と賞与に報酬を一本化する。従来、国内従業員については基本給とは別に、部長などの役職や勤務地に応じて手当を支給していたが、廃止する。
 世界3位のアパレル企業であるファストリはグローバル企業として本社のある日本での人材育成を重視している。従業員の賃金制度を国内外でそろえることで、日本で採用し育てた人材を海外へ異動しやすくする狙いがある。海外採用の従業員も日本に赴任しやすくなる可能性もある。
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 東京商工リサーチによると、上場企業3213社の21年度の平均年間給与は605万円で、そのうち900万円以上は110社にとどまる。ファストリの国内で働く従業員平均給与は959万円と国内小売業でも最高水準にある。ただ、国内の総合商社や外資系企業などに比べ見劣りは否めない。海外企業の賃金と比較しても低水準にある。
 日本企業の賃金は国際的に低い。人材コンサルティングの米マーサーによると、マネジャー級の年収は22年7~9月期の平均レートの1ドル=135円で算出した場合、日本は22年12月時点で9万6374ドルで前年比10%減った。米国(21万9976ドル)に比べ約半分の水準で、中国に比べても低い。
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 ファストリは22年8月期の連結売上高の半分を海外ユニクロ事業が占め、連結営業利益では国内ユニクロ事業を上回る。年収でも欧米などの海外従業員は既に国内を上回っているという。今回の国内従業員の年収の引き上げで世界の水準に近づける狙いもあるという。
 岸田首相は23年春季労使交渉でインフレ率を超える賃上げの実現を経済界に要請し、連合も5%程度の賃上げ実現を目指している。国際的な競争力を意識している企業では、優秀な人材確保へ向け大幅な賃上げに取り組む可能性もある。

【地域のデジタル街づくり、「実験ありき」で7割成果なし】
 11日夕方の日経ニュースメールは次のように報じた。
 国主導のICT(情報通信技術)を使う「デジタル街づくり」の試みがつまずいている。日本経済新聞の調べによると、先駆けとなった10年前の地域実証実験・調査の7割弱で成果が残っていなかった。地域ニーズを見極めず実験ありきで進めた結果だ。自治体の安易な企業依存も目立つ。政府はデジタル田園都市国家構想を掲げるが、検証なき国費投入は新たな無駄を招く。
 離島全域に無線通信網を整え、地元野菜を携帯端末で売買する――。沖縄県久米島町で2013年度にこんな実験が始まった。農家が余った農作物の情報を入力し、島内ホテルに売る仕組み。国が7200万円を出した。だが電波が山林に阻まれ、島の半分で使えなかった。高齢者が多く利用も進まず18年度に停止。当時の職員は「利便性の議論が乏しく見切り発車だった」と反省する。
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 総務省は12~14年度に、スマートシティー事業の原型となる「ICT街づくり推進事業」で、同町含む全国42件に委託費計35億円を投入した。日経は委託先に実験や調査が新たな行政サービスにつながったかを聞き取り、回答内容を分類した。「ほぼ計画通り実用化」が14%、「一部計画を実用化」が19%。「一部実用化したが終了」が7%、「ほぼ実用化せず終了」が60%だった。
 奈良県葛城市は高齢者の活動量計データをみて健康指導する実験に臨んだが、ニーズが少なく16年度で打ち切り。沖縄県名護市は港の潮位計データを避難判断に役立てようとしたもののシステム設計ミスで頓挫した。
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 自治体は国の資金を獲得することが目的となり、デジタル人材が乏しいこともあって安易に運営全般を企業に依存する例は多い。名護市の実験はNTTデータが仕切った。当時の担当職員は「言われるがまま動いた。実用化に向けた取り決めはなかった」と振り返る。NECと組んだ久米島町も「実験後の運営や失敗時の責任について契約を結ぶ発想はなかった」(当時の担当職員)。NEC製端末は町役場で眠っている。
 ICT街づくり推進事業42件のうちほぼ半分で地元に本社を置かない大手企業が参加していた。日本政策投資銀行の子会社、価値総合研究所の山崎清執行役員は「実験場として使われるなど企業の『草刈り場』となりかねない」と指摘する。
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 沖縄県久米島町には使われなくなったタブレット端末が眠っている(2022年10月)。
 国は自ら審査して資金を投じた案件であるのに、成果を生まない原因を詳細に検証していない。総務省によると、有識者の指摘を受けて進捗を調べたのは1回だけで、調査結果を公表していない。地域通信振興課は「政府の政策立案の参考になったと理解している」と説明する。
 政府はその後も省庁縦割りで、類似のスマートシティー事業を乱立させた。21~22年度に内閣、国土交通など4府省で延べ113件を支援。これとは別にデジタル田園都市関連の交付金計600億円を予算計上した。
 この分野に詳しい日本総合研究所の船田学プリンシパルは「第三者機関を作り事業の成功と失敗を分析すべきだ」と訴え、総務省の事業と同じつまずきを繰り返しかねない現状に警鐘を鳴らす。(島本雄太、藤井将太)
(デジタル人材欠く自治体、企業に依存)
国が支援する自治体の「デジタル街づくり」が成果を生まない背景には、運営全般を企業に依存する安易な姿勢もあった。その運営実態をさらに詳しく追った。
 「本市の役割は実証フィールドの提供です」。2013年度の実証実験に臨んだ沖縄県名護市に取り組み内容をメールで問うと企画政策課から返信があった。事業概要を記した総務省の資料に代表提案団体は「名護市」とあるが、具体的な取り組みは不明でNTTデータが中心になって実験内容を固めたという。
 当時、防災分野を担当した市職員の1人が市内で取材に応じた。海抜の低い漁港に潮位計を設置し、気候による潮位変化のデータを蓄積。これを基に市が台風などの発生時に効果的に避難判断を出す実験だった。
 潮位計データは正しく把握できたが、自然の潮の満ち引き(天文潮位)を加味しておらず判断材料にならなかった。実験に使った検査機械などは市内の大学が引き取って大学生らの研究用に。職員は「自治体にノウハウが乏しく、企業の仕組みに頼らざるを得ない。使うのは税金なので見極めが必要という反省はある」と強調した。
 総務省の資料には名護市での一連の実験を経て、台風被害が深刻なベトナムなどに海外展開すると記載されている。NTTデータは取材に「詳しい経緯は不明だが、海外展開にはつながらなかった」と答えた。
 「市の協力がないと補助金が出ないという話だったようだ」。東日本大震災を受けて防災力強化を掲げた宮城県大崎市は、実証実験の経緯をこう振り返る。
 アルプス電気(現アルプスアルパイン)の依頼を受け、13年度に電力が止まっても24時間以上無線で通信できる街路灯の開発を目指した。市内に複数設置する予定だったが、国の資金で設けたのは1基のみで性能を確認して終了した。
 市の政策課は「追加設置分の費用は捻出できなかった」。実験用街路灯も処分されたという。他の実験を含めて委託企業2社に計7500万円が国から支払われたが、すべて実現せずに終わった。
 実用化には産官の緊密な連携が要る。千葉県柏市は健康データの見える化や共通IDを使う住民向けサイトを計画通り実現した。国の公募の数年前から企業と構想を練り「同じベクトルで進められた」(経営戦略課)。
 実証実験には企業の知見が欠かせないが、それをうのみにせず対等に議論できる体制を自治体は整えなければならない。総務省によると、21年時点で外部のデジタル人材を登用するのは全市区町村の9%。優秀なデジタル人材を確保・育成する取り組みが必要になる。

【最前線ユニクロ、国内正社員の年収を最大4割アップ 初任給は30万円に】
 11日晩の朝日デジタルは次のように報じた。
 衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは11日、3月から国内の正社員約8400人の賃金を上げると発表した。ボーナスも含む年収の引き上げ幅は数%~40%ほどになる見込み。同社は欧米の正社員の年収が日本に比べて高い傾向があり、差を縮めるのがねらいだという。

 平均の賃上げ幅は明らかにしていない。新入社員の初任給は月25万5千円から30万円に、入社1~2年目で就任する店長の収入は月29万円から39万円になるという。国内の人手不足が続くなかで優秀な人材を確保するため、好待遇をアピールするねらいもある。

 同社は、能力や実績などに基づく約20の等級(グレード)に応じて基本給を決めている。この基本給の水準を引き上げる。約20年前に現制度を導入して以降、全面的な賃上げは初めて。役職手当は廃止するが、ボーナスも含めた年収は上がる見込みだという。年間の人件費は15%ほど増やすとしている。

 特定の地域で働く「地域正社員」は今回は対象外だが、今後実施する予定。国内のパート従業員とアルバイト約4万1千人については、昨秋に時給を平均で2割ほど上げたという。

 同社の2022年8月期決算は、売上高が前年比7・9%増の2兆3011億円で、最終的なもうけを示す純利益は前年の約1・6倍の2733億円だった。2年連続で最高益を更新し、好業績が目立っている。

 歯止めがきかない物価上昇を補うため、国内の大手企業でも賃上げの表明が相次いでいる。だが、ファーストリテイリングの目的は給与を海外水準に引き上げることで、優秀な人材確保につなげ、グローバル企業としての競争力と成長力を高めることにある。国際的な人材獲得競争で出遅れている日本企業の給与体系に影響を与えそうだ。(益田暢子)

【日英の軍事協力「決定的な一歩」 スナク英首相寄稿】
 12日朝の日経ニュースメールは、スナク英首相が安全保障や経済における日英関係の重要性について、日本経済新聞に寄稿したとして、次のように報じた。
 英国と日本との関係は、これまでになく緊密になっている。私たちは歴史ある島国であり、誇り高き近代民主主義国家として、多くの共通点を持つ。貿易、技術、防衛の分野における両国の関係はさらに強くなっている。
 英国にとって日本はアジアにおける最も親密な安全保障上のパートナーであり、日本にとっても英国は欧州で最も親密なパートナーだ。これは地球の反対側まで届く、断ち切れない絆だ。
 2023年に日本が主要7カ国(G7)の議長国を務め、国連安全保障理事会で共に任務を果たすとき、私たちの関係は新たな国際的意義を持つようになった。昨日、私が友人の岸田文雄首相をロンドンに迎えたのも、こうした精神に基づく。
 私たちの前には多くの課題があるが、共にそれに立ち向かっていく。昨年、私たちはロシアの違法かつ残忍な侵略に対抗し、ウクライナを支援するために協調した。今年は決意がさらに強くなるだろう。ウクライナの自由のため、世界のエネルギーと食糧の安全のため、法の支配のため、そして中国が国家権力のあらゆる手段を使い国際的影響力を競う中で経済的な安全を守るため、共に立ち向かっていく。
 これらのすべての分野において、英国と日本は重要な役割を担っている。岸田首相の新しい国家安全保障戦略で示された大志と日本のリーダーシップを私は歓迎する。英国はこの取り組みで揺るぎないパートナーだ。私たちはインド太平洋地域の安全保障と安定に関与しており、共通の繁栄を守るために協力し合う。私たちが今春に国家安全保障戦略の更新を発表する際にも、強い連携を持たせることができるだろう。
 岸田首相と私は今週、軍事協力での画期的な協定に調印し、決定的な一歩を踏み出した。私たちが署名した「円滑化協定(RAA)」は、英軍と日本の自衛隊が共に働き演習し、活動できることを意味する。私たちは安全保障は共有されるもので、不可分であることを知っているため、これは極めて重要だ。
 この上で成り立つのが次期戦闘機開発での日本やイタリアとのパートナーシップだ。私たちの専門知識を結集して未来の戦闘機を開発することで、世界をリードする産業と技術を今後何年にもわたって結びつけ、何千人もの雇用を創出することができる。
 世界経済のトップ5にある国として、私たちは共に偉大なことを成し遂げられる。日本企業はすでに風力発電から高速鉄道など、英国の技術革新やインフラに関する分野に何十億ポンドもの投資をしている。英国企業はサイバーやデジタル、ライフサイエンスなどの分野で最先端の製品とサービスを日本に提供している。
 そして、さらに大きな潜在力を秘めている。だからこそ私たちは日本と経済連携協定(EPA)を締結した。また科学や技術、研究開発の分野で関係を深めている。そして、日本と協力し環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟に向けて動いている。
 私たちは未来を見ているが、日英関係には深いルーツもある。ロンドン塔で私は岸田首相に、400年前に当時の将軍の徳川秀忠からジェームズ1世に贈られ、英国の通商使節が持ち帰った鎧兜(よろいかぶと)を見せた。この鎧は貿易のシンボルでもあり、新しい時代の日英関係の中核をなす安全保障と繁栄を象徴している。この関係は、私が5月のG7首脳会議で広島市を訪れる時に、さらに強くなることを期待している。
 英国と日本との関係は、これまでになく緊密になっている。私たちは歴史ある島国であり、誇り高き近代民主主義国家として、多くの共通点を持つ。貿易、技術、防衛の分野における両国の関係はさらに強くなっている。
 英国にとって日本はアジアにおける最も親密な安全保障上のパートナーであり、日本にとっても英国は欧州で最も親密なパートナーだ。これは地球の反対側まで届く、断ち切れない絆だ。

【「反撃能力」日米共同で 2プラス2、宇宙で対日防衛義務】
 12日朝の日経速報メール【ワシントン=三木理恵子】によると、日米両政府は11日(日本時間12日午前)、ワシントンで外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」に関し日米が共同で対処すると確認した。宇宙空間を米国の対日防衛義務の対象とする方針でも一致した。
日本から林芳正外相と浜田靖一防衛相、米はブリンケン国務長官とオースティン国防長官が出席した。外務・防衛の2プラス2の開催はオンラインで協議した2022年1月以来となった。
 オースティン氏は共同記者会見で反撃能力の保有を「強く支持する」と明言した。「日米同盟はインド太平洋戦略の礎で、自由で開かれた地域秩序を維持するために不可欠だ」と訴えた。
林氏は日米の防衛協力の指針(ガイドライン)改定について「直ちに見直しが必要とは考えていない」と語った。
共同文書を公表した。軍事活動を含む中国の動向を「最大の戦略的挑戦」と位置付けた。
日本側は「自国の防衛を主体的に実施し、地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大する決意」を示した。米側は「日本を含むインド太平洋での戦力態勢を最適化する決意」を提起した。
反撃能力について「日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力を深化させる」と記した。「緊急事態に関する共同計画作業や実践的な訓練と演習の着実な進展を歓迎する」とも書き込んだ。
反撃能力を行使する際は自衛隊と米軍が敵の軍事目標の位置情報を共有する。米が持つ衛星情報の提供などの協力を想定する。日米でミサイル探知から反撃まで連携する共同対処計画の策定を始める。
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 宇宙で日米安全保障条約5条を適用し、日本の人工衛星が攻撃されれば日米が武力を用いて対抗すると申し合わせた。共同文書で「宇宙への攻撃は同盟の安全に対する明確な挑戦だ」と言明した。
 安保条約5条は日本の施政下で武力攻撃があったとき、米国が対日防衛義務にあたると規定する。宇宙には国境がないが、日本が持つ人工衛星は施政下と定義する。発動要件は個別具体的に判断する。
 19年に5条の適用を確認したサイバー空間に続く措置となる。
 サイバー分野では日本は安保3文書でサイバー攻撃の兆候段階でも相手を監視、侵入などで対処する「能動的サイバー防御」の導入を決めた。米は2プラス2で歓迎し、日米のサイバー防衛の協調をうたった。
 台湾に近い南西諸島の防衛力強化の方策を擦り合わせた。基地に加えて港湾・空港といった公共インフラ施設の共同使用を増やす。
 自衛隊や米軍の艦船、航空機などの発着拠点としての活用を見込む。共同文書に「平時における共同の取り組みの決定的な重要性」と記した。日本側は自衛隊が沖縄県嘉手納基地に隣接する米の弾薬庫地区を共同利用する。
 米国は沖縄県に駐留する米海兵隊を改編し、25年までに離島有事に即応する「海兵沿岸連隊(MLR)」を創設する。ミサイル部隊を拡充して中国の海洋進出に備える。
 日本は陸海空の3自衛隊の部隊運用を一元的に担う「常設統合司令部」を創設する。米軍との調整の窓口になる。2プラス2では司令部を柱にして日米の相互運用性と即応性を高めることで合意した。

【米国高官、日本の反撃能力に「あらゆる支援」】
 13日の日経速報メールは【ワシントン=中村亮】によると、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は12日、日本が保有を決めた相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」について、獲得や運用へ「あらゆる支援」を実行する考えを明らかにした。「2国間の軍事演習などを通じて同盟や協力を深める」として、米軍と自衛隊の統合運用強化などに意欲を示した。
 13日のワシントンでの日米首脳会談を前に、日本経済新聞のインタビューに応じた。カービー氏は元軍人で、オバマ政権やバイデン政権で国務省や国防総省の報道官を歴任、2022年に現職に就いた。米国の安保政策に深く関与し、その情報発信の強化を担う。
カービー氏は日本の安保関連3文書に触れて「日本の自衛隊が地域の安全保障により深く関与する強固な枠組みを提供している」と指摘した。「バイデン大統領は岸田文雄首相との会談でこの戦略を高く評価していると明確に伝えると思う」と断言した。
日本の反撃能力について「日本から能力を向上させる支援の要請があれば、間違いなく提供するために取り組む」と言及した。具体策は国防総省に委ねるとしつつ、日本の反撃能力の獲得や運用に協力する姿勢を鮮明にした。
日本は反撃能力をめぐり、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得を目指す。相手のミサイルの発射拠点を迅速に特定するには、米軍が人工衛星やセンサーで得た情報を共有してもらう必要がある。
日米は11日に開いた外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で、米国による対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の対象に宇宙空間を加えた。カービー氏は「同盟を近代化するものだ」と訴えて「同盟が脅威と挑戦に後れをとらないようにする機会を探っている」と語った。
バイデン政権は国防戦略で同盟国や有志国の能力を総動員して相手に攻撃を思いとどまらせる「統合抑止」と呼ばれる概念を重視している。カービー氏は「統合抑止はキャッチフレーズではない」と指摘。「インド太平洋の同盟国は強力な防衛戦力を保有しており、うまく調整された抑止の枠組みに入れていく必要がある」と唱えた。
台湾をめぐっては「米国は台湾海峡をめぐる一方的な現状変更の行動に反対する」と重ねて言明した。「台湾の緊張が紛争に発展する理由はないと信じている」とも話し、中国と対話ルートを確保して軍事衝突の回避を目指す姿勢を見せた。

【日米、台湾念頭に対処力向上 「日本防衛に全面関与」 日米首脳会談】
 14日朝の日経ニュースメール【ワシントン=秋山裕之】によると、岸田首相は13日(日本時間14日未明)、ホワイトハウスでバイデン米大統領と会談した。国家安全保障戦略など安保関連3文書を決定したと説明、バイデン氏は日本の防衛力強化を支持した。台湾有事を念頭に自衛隊と米軍の抑止力や対処力を向上させる。
 首相が就任後にワシントンを訪れるのは初めて。会談はおよそ2時間で通訳だけを交えた1対1の話し合いは15分間だった。両首脳は共同声明を発表し、日米両政府はこの後安保の領域を含めた宇宙分野の協定に署名した。
 バイデン氏は会談で「米国は日米同盟と日本の防衛に完全に、全面的に関与している」と言明した。「日本の歴史的な防衛費増額と新たな国家安全保障戦略に基づき、軍事同盟を現代化している」と強調した。
 首相は「日米両国はかつてないほど厳しく複雑な安全保障環境にある」と指摘した。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有など防衛力の強化を伝え、バイデン氏は米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入を歓迎した。首相は「日米同盟の抑止力・対処力を強めることにもつながる」と訴えた。
 共同声明は「安全保障同盟はかつてなく強固なものになっている」と掲げた。バイデン氏は核を含むあらゆる能力を用いて日本の防衛に関与すると表明した。そのうえで沖縄県・尖閣諸島が日米安全保障条約5条に基づく対日防衛義務の適用対象だと再確認した。
 サイバー・宇宙の領域をはじめ新たな脅威への対処に向けては声明に「共同の戦力態勢・抑止力の方向性を擦り合わせてきた」と記した。日本の反撃能力や効果的な運用について協力を強化するよう両首脳が閣僚に指示したと明かした。
 中国や北朝鮮、ロシアの動向に触れ「世界のいかなる場所においても力・威圧による一方的な現状変更に反対する」と明記した。
 インド太平洋の現状は「中国によるルールに基づく国際秩序と整合しない行動から北朝鮮による挑発行為に至るまで、増大する挑戦」に直面していると分析した。台湾海峡の平和と安定を維持する重要性を確認し、平和的解決を促した。
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 ロシアによるウクライナ侵攻は反対した。核で威嚇するプーチン大統領を念頭に「いかなる核兵器の使用も人類に対する敵対行為であり、正当化されない」と非難した。ロシアへの制裁を続け、ウクライナに支援を提供する。
 半導体などの経済安全保障、宇宙、原子力エネルギーといった分野で日米両国の優位性を確保する点でも一致した。5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)について「優先事項を議論し、成功に向けて引き続き緊密に連携していく」と訴えた。
 中国に新型コロナウイルスの感染拡大に関する十分かつ透明性の高い疫学的データの報告を求めた。
 バイデン氏は会談後、ツイッターに「日米同盟への投資は国家安全保障から経済まで高い配当を得ている。何年も続く」と書き込んだ。
 首相は会談後、記者団に「個人的な信頼関係を一層深めることができた。日米同盟についても一層連携を強く確認できた」と振り返った。
 日米は署名した宇宙分野での協力に基づき月探査計画や宇宙の民生利用を進める。中国、ロシアが軍事開発する宇宙で安全確保のための連携を深める。

【SDGs先進度調査、1位さいたま市 大都市優位が鮮明 日経調査】
 15日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 国連の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みについて日本経済新聞社が全国815市区を対象に調査したところ、総合評価でさいたま市が1位だった。3位福岡市、4位の京都市など上位10市区に政令指定都市が7市入った。SDGs推進には幅広い施策展開が求められ、大都市優位の傾向が鮮明になっている。(「日経グローカル」451号、452号に詳報)
 全国市区のSDGs先進度調査は2018、20年度に次いで3回目。脱炭素やリサイクルの推進、持続可能な街づくり、ジェンダー平等などSDGsを意識した自治体の取り組みは年々広がっている。
 さいたま市は20年度の前回調査でもトップだった。調査対象の「経済」「社会」「環境」の3分野で幅広く施策を展開し、得点を重ねた。経済ではスタートアップ企業支援、社会ではSDGsに取り組む若者への支援や企業の認証制度など新しい施策も充実させている。
 SDGs推進の原動力が市長ら幹部職員が出席し、3カ月に1度開く「業績マネジメント報告」と呼ばれる会議だ。SDGs施策の進捗状況を全庁的に点検し、課題を議論するなどPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを徹底している。
 清水勇人市長は「企業に比べると、行政はPDCAサイクルの回し方が遅い」と指摘する。「各年度の結果がまとまる決算まで待っていると、次の予算案にも反映できず施策を遂行できなくなる」とスピード感を重視する。
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 7位の大阪市は前回調査の49位から大きく順位を上げた。この2年間でSDGsに関するアクションプログラムの作成、KPI(成果指標)の設定といった推進体制を整えたのが奏功した。
 SDGs推進に力を入れるきっかけの一つが25年の国際博覧会(大阪・関西万博)だ。大阪市は「万博のレガシーとしてSDGs先進都市を実現し、30年のSDGsの達成に貢献する」と宣言し、関連施策を加速する。
 東京都豊島区も前回の18位から9位に順位を上げた。14年に日本創生会議から「東京23区で唯一、消滅可能性都市になる」と指摘された直後に「消滅可能性都市緊急対策本部」を設置。文化や芸術をテーマにした地域活性化や待機児童対策、街づくりに女性が参加する機会の創出などに取り組んできた。
 22年にスタートした区の基本計画では、すべての施策をSDGsの17の目標にひも付けた。22年7月には脱炭素への道筋を示す「2050としまゼロカーボン戦略」も策定するなど、SDGs推進を加速している。
 SDGsの推進は多岐にわたり、財源や人材の厚い大都市が先行する例が目立つ。一般的に中小自治体の取り組みが遅れがちだが、人口9万人余りの愛知県大府市は12位と前回に続きトップ20に入った。人口5万人未満の自治体でトッ プの兵庫県西脇市も72位と上位圏内に食い込んだ。
 両市は規模が小さいものの「推進体制が強固」「ステークホルダーとの連携に積極的」という共通点がある。いずれもSDGs推進で自治体全体を統括する部署があり、市長自らが取り組みを外部に発信。市の施策・事業をSDGsの17目標す べてにひも付けし、KPIも設定している。
 地域の金融機関などと連携し、SDGsに取り組む事業者やNPOを評価し支援する仕組みづくりも進めている。規模の小さい自治体がSDGsを推進するには、ほかの自治体や地域金融機関などとの連携がカギを握りそうだ。
 調査の概要 「全国市区・SDGs先進度調査」は日経リサーチを通じて全国815市区を対象にインターネット上で実施。2022年9月9日から11月8日に709市区から回答を得た。回答率は87.0%。調査の回答に国の公表データを加えて、経済(満点16点)、社会(同57.5点、うち推進体制が12点)、環境(同26.5点)の3側面から各指標を得点化してランキングした。

【トヨタ、23年の世界生産最大1060万台 目安示す】
 16日の日経速報メールは次のように報じた。 
トヨタ自動車は16日、2023年に自動車の世界生産を最大で1060万台とする方針を発表した。半導体不足や新型コロナウイルスの感染拡大による影響が不透明なことから、「1060万台は現時点での上限」とする目安と位置づけ、1割程度下振れするリスクにも触れた。前年の同時期に部品メーカーに伝えた22年度(23年3月期)の当初計画値(1100万台)を下回るペースだ。生産を増やし受注残の削減を目指す。
 国内外合わせて単純計算で毎月の生産台数は80万台超となる。直近でデータのある22年11月は83万台を生産しており、23年には大幅な減産は見込んでいないもようだ。
 トヨタは新型コロナの感染拡大や半導体不足、自然災害などによる直近の生産混乱から、23年生産方針を厳密な計画値ではなく、生産計画を立てる目安としての基準を示したようだ。部品各社はこの数字に基づき部品生産数などの経営計画を策定する。
 トヨタは22年度に約1100万台を生産すると部品メーカーに通知したが、半導体不足や自然災害の影響で22年5月には計画を970万台に引き下げた。11月にはさらに50万台分下方修正した。23年は2月に約80万台、3月に約100万台と過去最高水準の生産を想定しているようだ。この計画通りに生産が進めば22年度は920万台前後の生産となり、過去最高を更新する。
 トヨタは20年度に818万台、21年度には856万台を世界で生産している。これまでの過去最高は16年度の907万台だ。
米S&Pグローバルモビリティによると、23年1~12月の世界新車(乗用車系)販売台数は前年比6%増の約8360万台になると予測している。半導体不足などの影響が22年と比べると緩和するという。
 22年は計画通りの生産ができず、受注したのに納車されない「受注残」が積み上がった。人気の多目的スポーツ車(SUV)では納車まで1年半近くかかるケースが常態化した。今回示した生産が計画通り実現すれば納期の正常化につながる。
 トヨタは納期遅れに対応しようと、22年8月に発売した新型「シエンタ」から納車時期が比較的早い装備構成の「推奨仕様車」を打ち出した。需要を推奨仕様車に誘導し、効率的に生産するのがねらいだ。遠隔で車の施錠などができる「スマートキー」も一部車種で納車時に従来の2つから1つに減らして渡している。

【エーザイ認知症新薬「レカネマブ」、日本でも承認申請】
 16日の日経ニュースメールは次のように報じた。
エーザイは16日、米バイオジェンと共同開発するアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」について、厚生労働省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認を申請したと発表した。米国、欧州に続く申請となる。エーザイは2023年中の承認を目指している。
 エーザイは6日、米食品医薬品局(FDA)からレカネマブの迅速承認を取得し、米国でもフル承認の申請を実施した。11日には欧州医薬品庁(EMA)へ販売承認を申請し、欧州でも手続きを進めていた。
 レカネマブは早期アルツハイマー病患者を対象とし、症状の悪化を27%抑制するとされる。病気の原因物質の一つとされるたんぱく質「アミロイドベータ」を脳内から除去する効果があるという。
 エーザイは2021年6月に、アルツハイマー病新薬候補の「アデュカヌマブ」でFDAから迅速承認を得ていたが、有効性などの問題から日本や欧州では承認の判断が見送られていた。それだけに、レカネマブの承認の行方、収益貢献への期待に注目が集まっている。

【中国総人口、22年末61年ぶり減少 止まらぬ出生減】
 17日昼の日経ニュースメール【北京=川手伊織】によると、中国国家統計局が17日発表した2022年末の総人口は14億1175万人で、21年末から85万人減った。61年ぶりに減少した。22年の出生数は106万人減の956万人となり、2年連続で1949年の建国以来の最少を記録した。政府は産児制限を事実上廃止したが少子化に歯止めがかからない。
 総人口は香港やマカオを除く中国大陸が対象で、外国人は含まない。死亡者数は1041万人で、前年から27万人増えた。死亡者数が出生数を上回ったため、2022年末の総人口は減少に転じた。
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 国連は22年7月に公表した推計で、同年7月1日時点の中国の総人口が前年比で減少したとしていた。今回、中国政府の統計でも人口減少が確認された。出生数は6年連続で前年を下回り、1000万人の大台も割った。直近のピークである16年から5割減った。
 急速な少子化は長年の産児制限の影響が大きい。中国では1980年ごろから続けた「一人っ子政策」の影響で「子は1人で十分」と考える家庭も多い。政府は2021年、全ての夫婦に3人目の出産を認めて産児制限を事実上撤廃したが、養育費の高さから出産をためらう夫婦も少なくない。
 出生数を総人口で割った「普通出生率」は0.677%と、建国以来の最低を更新した。今後は出産適齢期の若い女性が減るため、少子化はさらに加速しそうだ。
 長寿化もあって高齢化は進んでいる。22年末時点で人口全体に占める65歳以上の比率は14.9%と、前年末から0.7ポイント上がった。男性の法定退職年齢である60歳以上の比率は19.8%で0.9ポイント上がった。働き手の減少は中長期の経済成長の足かせになりかねない。

【コロナ5類移行時、屋内マスク不要に 週内に閣僚協議】
 18日早朝の日経ニュースメールは次のように伝えた。 
 政府は新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」へ変更した場合、屋内でのマスク着用について症状のある人らを除き原則不要とする方針だ。岸田首相は週内に関係閣僚と協議し、感染状況を見極めて分類変更の時期を判断する。
 新型コロナは現在、感染者らの入院勧告や外出自粛要請などを伴う「新型インフルエンザ等感染症」に分類している。結核などの2類以上に相当する。5類は季節性インフルエンザ並みの扱いだ。
 政府は屋内では距離が確保でき会話をほとんどしない場合を除きマスク着用を推奨している。5類に移行した場合は着用対象を発熱などの症状があって他人にうつすリスクがある人のほか、高齢や基礎疾患で感染防止が必要な人らに限る。
満員電車などの特に感染リスクが高い場所での扱いは調整する。屋外については既に近距離で会話をしなければ原則マスク不要としている。
 5類になれば現在は感染者に原則7日間、濃厚接触者に原則5日間求めている待機も不要になる。診察を受けられる場所は特別な感染防止策を講じる発熱外来に限らず、一般の診療所や病院でも可能とする。
 厚生労働省は分類変更に向けて自治体や医療機関などに受け入れ体制の早期移行を求める方向だ。
 治療や入院にかかる医療費などの公費負担や発熱患者を受け入れた医療機関に対する診療報酬の加算は段階的に縮小する見通しだ。感染者数の把握方法もさらに簡素化する。緊急事態宣言などは感染が拡大しても発令できなくなる。

【Microsoft、1万人削減を発表 テックの人員整理続く】
 18日晩の日経ニュースメール【シリコンバレー=佐藤浩実】によると、米マイクロソフトは18日、3月までに世界で従業員1万人を削減すると発表した。景気後退への懸念が強まり収益の伸びが鈍るなか、人件費の抑制に動く。米アマゾン・ドット・コムなども大規模な雇用調整を進めており、IT(情報技術)企業の間で低成長に備える動きが広がっている。
 マイクロソフトの従業員数は2022年6月時点で22万1000人にのぼり、半数近くは日本など米国外で働いている。解雇の対象は全体の5%弱にあたる。サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は従業員向けの手紙で「コスト構造を収益と顧客の需要に見合うよう調整する」とし、人員整理への理解を求めた。
 同社は22年にもパソコンやゲーム部門でリストラを実施した。ここにきて大規模な人員削減を打ち出したのは、業績の停滞が目立ってきたためだ。ナデラ氏は「景気後退への懸念から、あらゆる業界・地域の企業が(投資に)慎重になっている」と指摘した。
 24日に公表予定の22年10~12月期決算は、売上高の伸び率が約6年ぶりに1桁にとどまるとみられる。顧客企業がIT投資を見直し、クラウドサービスの利用量を抑える動きも広がっている。マイクロソフトは同四半期にリストラ費用として12億ドル(約1500億円)を計上する。
 一方で、ナデラ氏は「長期的なチャンスに投資をしながら、継続的に結果を出す努力をしなければならない」とも強調した。人工知能(AI)など戦略分野での投資や人材の採用は続ける。
 マイクロソフトの従業員は19年から22年にかけて5割強増えた。株式市場ではテクノロジー企業に対して人件費の削減を求め る圧力が強まっており、新型コロナウイルス下の急成長の反動が目立ち始めた22年以降、雇用を調整する動きが相次いでいる。
 アマゾンは1月、22年秋に着手した人員削減の規模が1万8000人を超えると明らかにした。22年11月にはメタが従業員の13%にあたる1万1000人の削減を発表した。
 米調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、米テクノロジー企業の人員削減数は22年に約9万7000人だった。各社が人材獲得にしのぎを削っていた前年と比べて7.5倍に急増し、過去20年で最多の水準に達している。

【ソニー、全商品で障害者・高齢者配慮 開発時のルールに】
 19日の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 ソニーグループ傘下のソニーは2025年度までに、原則全ての商品やサービスを障害者や高齢者に配慮した仕様にする。開発過程で障害者らに必ず意見を聞き、リモコンのボタンを減らして形状を工夫するなど使いやすくする。障害者の意見を取り入れることを開発に関する社内規則に定める。日本企業では先進的な取り組みとなる。
 商品企画・開発段階で障害者らに参加してもらい、意見を取り入れる「インクルーシブデザイン」を22年度中に社内規則化する。障害者・高齢者配慮の推進責任者を全社で3人から9人に増員し、テレビやカメラといった主要部門に加え、医療やネットサービス、新規事業にも配置した。
 障害者や高齢者に配慮して商品を使いやすくする考え方は「アクセシビリティー」と呼ばれる。米国ではマイクロソフトなどが 「チーフ・アクセシビリティー・オフィサー(CAO)」といった役職を置く動きがある。
 ソニーは各商品の品質基準に「色の識別が難しい人のためリモコンの4色ボタンには文字を併記すること」といった障害者・高齢者配慮の項目を設けた。25年度までにテレビや音響、カメラやスマートフォンを含むほぼ全ての主要商品で対応する。小型付属品を除く数百品目になる見込みだ。
 すでに携帯オーディオプレーヤー「ウォークマン」の一部では、音量ボタンの形状にあえて凸を付けて触るだけで分かりやすくした。テレビでは音声で字幕を読み上げる機能がある。イヤホンでは地図データを音声で伝えるなど、目が見えない人の意見 も参考にした。こうした先行例をあらゆる商品に広げる。
 インクルーシブデザインは障害のある人に必ず意見を聞き、一般の人には極端にも感じるニーズにも気を配る点で、障害の有無にかかわらず製品を使いやすくする「ユニバーサルデザイン」とは異なる。
 国連によると世界人口の15%に相当する10億人は何らかの障害を抱えているとされる。「障害者のニーズに対応できれば大きな未開拓市場のチャンスがある」(米マッキンゼー)。多様性に配慮することで、企業のブランド力を底上げする効果もありそうだ。

【コロナ、今春にも「5類」移行 岸田首相が指示】
 20日の日経ニュースメールによると、岸田首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを巡り季節性インフルエンザと同じ「5類」へ今春に移すよう指示した。首相官邸で加藤勝信厚生労働相や後藤茂之経済財政・再生相と協議し伝えた。
首相は協議後、官邸で記者団に「原則として春に5類とする方向で専門家に議論してもらいたいと確認した」と述べた。医療費 の公費負担などに関し「平時の日本を取り戻していくために様々な政策措置を段階的に移行する」と話した。
 変更後は緊急事態宣言などの措置がなくなり、感染者や濃厚接触者の待機は不要になる。推奨してきた屋内でのマスク着用も原則不要とする方針だ。首相は「一般的なマスク着用の考え方など感染対策のあり方も見直していく」と言明した。
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 ワクチン接種を巡っては「類型の見直しにかかわらず予防接種法に基づいて実施する」と語った。足元の感染状況に触れ「感染対策や医療体制の確保に努める。第8波を乗り越えるべく全力で取り組む」と強調した。
 首相の指示を受けて厚労省が月内にも厚労相の諮問機関である厚生科学審議会に5類への見直しを諮る。政府内には移行時期を4~5月にする案がある。
 直近で新型コロナの新規感染者数は減少傾向にある。それでも感染力は依然強いとされ、死者数は過去最多の水準が続く。政府は感染状況や医療の提供体制も見極めながら最終判断する。
 感染症法は新型コロナを「新型インフルエンザ等感染症」に分類しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)や結核と同様の2類以上に相当する。
 現状では新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象だ。特措法は飲食店の営業や個人の移動を制限する緊急事態宣言の発令、まん延防止等重点措置の適用の根拠になっている。
 感染症法に基づきいまは感染者らに入院を勧告したり外出自粛を要請したりすることもできる。感染者に原則7日間、濃厚接触者には原則5日間の待機を求めてきた。
 5類は風疹やはしかと同じ扱いだ。移行した後は感染が拡大しても緊急事態宣言などは出せない。入院勧告や外出自粛、待機といった行動制限も課さない。
 医療も通常に近い体制に戻る。診察を受けられる場所は特別な感染防止策を講じる発熱外来に限らず、一般の診療所や病院でも可能になる。
 政府は治療や入院にかかる医療費などの公費負担、患者を受け入れた医療機関への診療報酬の加算は段階的に減らしていく。感染者数を把握する方法はさらに簡素に変えることをめざす。
 屋内でのマスク着用は発熱などの症状や基礎疾患のある人らを除いて原則不要とする見通しだ。満員電車など感染リスクが特に高い場所での扱いは検討する。

【ファストリ賃上げ、柳井氏「人材集め内向き組織変える」】
 21日の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は20日、日本経済新聞の取材に応じ、国内従業員の年収を最大約40%引き上げると決めた理由として「新型コロナウイルス下で組織が内向きになっていた危機感がある」と述べた。「GAFA」と呼ばれる米テクノロジー企業の社員を含めて優秀な人材を獲得し、現状維持にとどまろうとする社員の意識や組織風土を変える考えだ。
 ファストリは、本社やユニクロなどで働く国内約8400人を対象に年収を数%から約40%引き上げると11日に発表した。新型コロナ下で世界各国の事業を統括する日本の本社で働く社員が国内のことばかり考えるようになったと指摘。売上高が2兆円を超え、組織も大きくなったことで「上司に忖度(そんたく)する社員が増えた」ことへの危機感も示した。
 すでに世界共通の人事評価制度を設けていたが、日本事業では役職や勤務地に応じた手当などの制度が残っていた。こうした仕組みについて柳井氏は「過去の延長線上であり、すべてを廃止する」と語った。「25歳をすぎれば人間は一緒だ」として、仕事ができる従業員に対して年齢に関係なく報いるなど、実力主義の人事制度を徹底する考えを示した。
 ファストリは「情報製造小売業」を掲げ、商品企画や生産、物流、店舗をデジタル技術で効率化する取り組みを進めており、デジタル人材の確保が重要となっている。アマゾン・ドット・コムやアルファベットなどGAFAと呼ばれる米テック企業などから「優秀な人材を採用したい」と語った。
 賃上げにより、国内外から優秀な人材や若くて成長意欲のある人材を採用して組織に刺激を与える考えを示した。「良い人材が集まれば、もっと良い商品ができるようになる」と語り、アマゾンや「ZARA」など世界の小売りとの競争に勝ち抜く考えを示した。
 労働集約的な要素が強い小売業にとって、人材確保は容易ではない。アパレル業界では給与が高水準とされるファストリにとっても長年の課題である。過去には若手社員の離職率の高さなど働く環境の課題が指摘された経緯がある。働きがいや職場環境の改善に努めてきたなか、今回の賃金改定で人材を集められるかなど課題はある。
 昨年秋にはパート・アルバイトの時給を平均2割引き上げており、今回の給与改定と合わせて国内の人件費は約15%増える見込み。日本の給与水準は海外に比べてまだ低いとして、さらなる賃上げは「あり得るかもしれない」と語った。
 人件費の増加は収益を圧迫しかねない。2022年9~11月期の連結売上高が前年同期比14%増える一方、人件費は23%増えている。さらに賃金水準を引き上げるためには、生産性の向上が不可欠だ。
 ファストリは、商品にRFID(無線自動識別)タグをつけることで在庫管理の手間を省くとともに、無人決済レジで対応できるようにして売り場の効率化につなげている。テック人材の獲得による生産性向上という好循環を生み出せるかが問われている。
 日本は「終身雇用で社員や会社が成長していないケースが多い」とした上で、「経営者は従業員に成長を促していく必要がある」と語った。政府が企業にインフレ率を超える賃上げを求めていることについては「賃金は仕事に対する対価」として、従業員の賃金を一律に引き上げるのではなく、一人ひとりの成果などを評価した賃上げの重要性を指摘した。(花田幸典)

【社員の声、聞こえてますか 物言えぬ組織は成長止める】
 22日午後の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 あなたの職場は熱気に満ちているだろうか。それとも閉塞感に覆われているだろうか。事業環境が激変する今、硬直した上意下達の組織は成長できない。やりがいを持って課題に挑む、社員一人ひとりの「個の力」がかつてなく重要になっている。社員の目覚めを促し、知恵を束ね、社会に資する価値を共に生み出す。その道の先にカイシャの未来がある。
 社員の力を引き出す「最高の職場」とは何か。答えを聞きに米カリフォルニア州を訪ねた。ウェブサイト構築を手掛ける約120人の会社、クライアントブーストは米国の最高の職場ランキング2022年版で中小部門1位に輝いた。約230万社を掲載する求人サイト「グラスドア」が社員口コミから導いた評価だ。
 創業者、ジョナサン・デインさんの原点は半導体メーカーなどに勤めていた母の嘆きだ。「職場のおかしな点を上司に伝えているのに何にも聞いてくれない」。すぐに実行できそうな改善案すら採用されず、現場の活気は失われていった。
 数々の「最低の職場」を反面教師にデインさんが誓ったのは「役職の上下に関係なく意見を奨励すること」。同様に部下に「自由な意見」を求めて空振りに終わる日本企業は多いだろう。不安なく率直に発言できる「心理的安全性」の実現は簡単ではないとデインさんは言う。「社員には『解雇や報復をされるのでは』という恐怖がある。声を上げてくれた勇敢さをたたえ、会社のカイゼンにつながっていると行動で示し続けたのです」
(新規提案10倍速にトライ)
 例えば「契約しかけた顧客の取りこぼしを減らさないと」「納期をもっと短くすべきだ」といった訴えが複数の社員から届いた。重く見たデインさんは「7日間チーム」の創設案を投げかけた。3カ月かかる新規顧客向け施策を、10倍速の1週間でそろえるプランだ。
 「3カ月を1週間に! 燃え尽きちゃわない?」「しっかりした工程表が要りますね」。社員たちは再び率直な意見を寄せ、共に改善策を探る。自分の声が生かされる実感が責任感を生む。提案は今や月に50〜100件。年間経常収益は2年で2倍の2200万ドル(約30億円)に膨らんだ。
 「いい職場」「悪い職場」の違いは何か。就職・転職者向けサイトを運営し、約1400万件の社員口コミなどを集めるオープンワークの協力を得て分析した。約3400社の上場企業のうち、投稿者がつけた評点で上位5%と下位5%を抽出。19〜21年の口コミから頻出ワードを可視化した。
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 上位5%で最も多いのは「共感」だ。「フラット」「自由闊達」と共に壁のない職場を想起させる。下位5%は「ワンマン」「イエスマン」など閉塞感が漂う。成長力の差は鮮明だ。上位と下位、それぞれの21年度の純利益合計額を3期前と比べると、前者は7.7%増え、後者はマイナス2.4%に沈む。
 産業革命以来、会社は工場労働に適した上意下達型が主流だった。経営学者フレデリック・テイラー氏の「科学的管理法」のように、生産性向上のため労働者を機械のごとく扱うこともあった。ただ、先の見通せない時代には企業価値の源泉が人の創造力に移る。
 (現場のアイデア聞き切る)
 「『俺に黙ってついてこい』という人はマネジメントスタイルを変えてほしい」。18年に就任した積水ハウスの仲井嘉浩社長は管理職に意識変革を迫り、受け入れられない人は専門職に移すことまでした。住宅業界は長らくノルマ重視の「体育会系」。ただ、求められるものは量から質に変化し、画一性は成長を妨げる。「重要なのは第一線にいる社員のアイデア」。何をなし遂げたいか語り合う面談を年に5回以上実施し「部下の話を聞き切る」風土をつくった。
 事業案を投稿し仲間を集める社内アプリも用意。6月に最終審査を予定するコンペには、前年比8割増の1496件の提案が集まった。23年1月期の純利益は過去最高の見込みで「生産性は上がっている」と確信する。
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 積水ハウスは社員のアイデアを集めて優秀なものを表彰する制度をつくった(2022年3月に開かれた前回の最終審査でプレゼンする社員)
 「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」。21〜22年にシステム障害や品質不正が発覚したみずほフィナンシャルグループ、三菱電機、日野自動車の実態調査には酷似した表現が並んだ。断絶は会社を危機にすら陥らせる。
 東京海上日動火災保険の広瀬伸一社長は22年11〜12月、北は秋田、南は長崎まで5支店を行脚した。真面目なことを気楽に話し合う「マジきら会」に参加するためだ。東京海上ホールディングスが各階層で開くこの会は、役員が参加するものだけで年50回を数える。
 職場の問題や不満に近いものまで様々な意見が出るが「勇気を振り絞ってくれているだろうし、キラリと光るアイデアもある」(広瀬社長)。自社のパーパス(存在意義)は何か、自分はなぜ働くのか。4万人超の従業員が「思いを同じくするための出発点」と位置づける。
 もの言う自由で全てが解決するわけではない。ただそれは、会社と社員が自らの価値を問い続ける原動力となる。

【ブラジルとアルゼンチン、共通通貨創設を協議へ】
 23日の日経ニュースメール【ブエノスアイレス=宮本英威】によると、南米ブラジルのルラ大統領とアルゼンチンのフェルナンデス大統領は、共通通貨の創設に向けて協議する方針を示した。両氏がアルゼンチンメディア「ペルフィル」に寄稿して明らかにした。23日にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで実施する首脳会談で合意する予定だ。
 寄稿では「我々は取引の障害を克服し、規則の簡素化や近代化を進め、現地通貨の使用を促したい」として「金融と貿易の双方に用いることが可能な南米共通通貨の議論を進めることを決めた」と指摘している。
 両氏は、ウルグアイとパラグアイの4カ国で構成するメルコスル(南米南部共同市場)の強化も主張した。「メルコスルが世界との効果的な統合のためのプラットフォームになることを望んでいる」と言及した。
 南米共通通貨の名称としてスペイン語で南を意味する「スル」が検討されている。ブラジルとアルゼンチンはともに左派政権で、低所得者層を支持基盤とする共通点がある。
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 国際通貨基金(IMF)によると、両国の人口合計は2億6000万人、国内総生産(GDP)は2兆5200億ドル(約330兆円)の経済圏となる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、共通通貨がすべての中南米諸国に導入された場合、経済圏は世界のGDPの5%を占める。ユーロ圏は同14%だ。
 ブラジルとアルゼンチンは2019年にも両国の共通通貨「レアル・ペソ」の構想が浮上した。当時のブラジルのボルソナロ大統領、アルゼンチンのマクリ大統領が合意した。メルコスルの4カ国でも共通通貨の創設に向けた協議を進めていくことで一致していたが、ブラジル中央銀行が慎重姿勢をみせたことで大きな進展はみられなかった。

【ロシア海域向け保険、8割値上げへ LNG輸送に影響も】
 同23日午後の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 国内の損害保険各社は25日から、ロシア領海を運航する液化天然ガス(LNG)船向けの保険料を約8割引き上げる。地政学 リスクの高まりを受け、保険金支払いの一部を肩代わりする海外の再保険会社が再保険料を引き上げたためだ。日本企業が参加する石油・天然ガス事業「サハリン2」からのLNG輸入の運搬コストに影響する。
 東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の各社は、戦争による船体の損害を補償する船舶戦争保険の保険料を引き上げる。大型LNG船の船体価格は200億円規模とされる。保険料はこれまで1200万円程度だったが、今後は2000万円超に高まる見通し。
 損保各社は2022年末に、ロシア領海向けの保険提供を23年1月1日から停止すると通知した経緯がある。英国の再保険会社が引き受けを停止したためだ。損保各社が英再保険会社との交渉を進め、1月からも保険提供ができることになった。英再保険会社は1月1日時点では再保険料を据え置いたが、足元で引き上げた。
 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で再保険引き受けの潜在的なリスクが高まっていることを考慮したとみられる。再保険料の引き上げは世界的な動きで、日本やノルウェーなど海運国を中心に影響が広がる。
 ロシア海域における日本向けの船舶戦争保険の提供継続を巡っては、4月に更改を迎える。損保業界は情勢に大きな変化がなければ保険を提供できるとみているが、最終的には再保険市場の動向が大きく影響する。

【東京電力、家庭料金6月から29%値上げ 経産省に申請】
 同23日午後、日経ニュースメールは次のように伝えた。 
 東京電力ホールディングスは23日、家庭向け規制料金の引き上げを経済産業省に申請した。申請した値上げ幅は平均29%で、6月からの新料金適用を目指す。実際の値上げ幅や時期は今後、経産省の審議会での議論を経て決まるが、東電は電力需要が増える今夏に間に合わせたい考え。
 規制料金は2022年11月以降、東北電力などの電力大手5社が3〜4割前後の値上げを申請している。
(23年3月期は赤字転落見通し)
 東電が規制料金の値上げを申請するのは東日本大震災後の12年以来、11年ぶり。ウクライナ危機の燃料高と円安進行を受け、発電に使う石炭や液化天然ガス(LNG)の調達価格は高水準で推移しているが、販売価格にコスト高を反映し切れておらず、業績が急速に悪化。同日発表した2023年3月期の連結最終損益見通しは3170億円の赤字(前期は56億円の黒字)を見込む。
 電気料金は燃料コストを自動で反映する仕組みがある。規制料金では昨年9月以降、料金に転嫁できる上限に達しており、足元では過去最高水準に張り付いている。2月以降は電気料金を2割程度抑える政府の負担軽減策が始まるが、東電の値上げが申請通り認められれば、負担軽減策の効果を上回り、家計負担は一層高まることになる。

【ソフトバンクG370億円申告漏れ M&A税務巡り見解相違】
 24日の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 ソフトバンクグループ(SBG)が東京国税局の税務調査を受け、2021年3月期までの2年間で約370億円の申告漏れを指摘されていたことが24日、関係者への取材で分かった。傘下の米携帯通信スプリントの合併に絡む取引の費用が過大に計上されていたとみられる。グローバルなM&A(合併・買収)案件が増えるなか、関連支出を巡る国税当局と企業側の見解の相違が目立ってきた。ルールを巡る議論にも一石を投じそうだ。
 調査対象の2期間とも税務申告は赤字で、追徴課税は発生しなかったもようだ。SBGは日本経済新聞の取材に対し「法人所得で約370億円の修正申告を行いました。経費計上タイミングなどの見解の相違によるもので、仮装、隠蔽に課せられる重加算税の対象となる修正はありません」とコメントした。
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 関係者によると、焦点となったのはM&Aの関連支出が「費用」か「資産」かという税務処理を巡る判断だ。SBGは20年4月に傘下だったスプリントとTモバイルUSの合併に伴ってスプリント株を手放し、新会社の株式を取得した取引に絡み、デューデリジェンス(資産査定)費用や弁護士費用などを雑損失として計上した。雑損失は税務上の費用として損金算入され、税負担の減少につながる場合がある。スプリントの企業価値は18年4月時点で約590億米ドル(当時のレートで約6.4兆円)だった。
 これに対し、東京国税局は費用ではなく株式の取得価格として資産計上すべきだと指摘したもようだ。取得価格に含まれると、株式を売却するまでは税務上、損金にならない。
 M&Aの関連支出を巡り、企業と国税当局間で意見が食い違うケースは少なくないとされる。背景にあるのが国内企業によるM&Aの増加だ。M&A助言のレコフによると、13年の約1900件が22年に約4000件と倍増した。税法に詳しい弁護士は「M&Aの関連支出の扱いに関する規定には曖昧さがあり、企業側は慎重な対応が必要だ」と指摘する。
 このほかに、傘下の「ビジョン・ファンド」の一部の管理費用に関する申告漏れも含まれているという。
 SBGで数百億円以上の申告漏れが明らかになるのは、18年にタックスヘイブン(租税回避地)の子会社などに関し約900億円の申告漏れが発覚して以降4度目。19年には約4200億円の申告漏れが判明し、子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた節税策を封じる税制改正につながった。

【コロナワクチン、4月以降も当面無料に 厚労省調整】
 24日の日経速報メールは次のように伝えた。
 厚生労働省は新型コロナウイルスワクチンの無料接種を4月以降も続ける方向で調整に入った。現在は予防接種法上の「特例臨時接種」に位置付け、3月末を期限として公費で負担している。延長期間は自己負担の導入といった新たな制度に向けた自治体の準備状況や新型コロナの感染動向をふまえて判断する。
 政府はコロナを今春に感染症法上の「5類」に移行させる。移行は5月の大型連休前後とする案が有力で、週内にも移行時期を決定する。治療や入院にかかる医療費の公費負担は当面継続し、段階的に縮小する方向だ。ワクチンの無料接種を打ち切る時期も5類への移行とは必ずしも連動しない。
 同省が26日に開く厚生科学審議会(厚労相の諮問機関)の部会で専門家らの意見を聞く。オミクロン型対応ワクチンの2回目の必要性や想定される対象者、接種間隔なども論点となる。
 オミクロン型対応ワクチンの接種は2022年9月に始まった。米ファイザー製か米モデルナ製を用いる。対象者は従来ワクチンの2回目を済ませた12歳以上で、前回接種から3カ月の間隔をあけて1回打てる。従来ワクチンの接種も実施しており、小児や乳幼児向けにはファイザー製を使う。
 将来はコロナワクチンを予防接種法上の「定期接種」に移行する案がある。例えばインフルエンザワクチンは重症化しやすい65歳以上の人などを定期接種の対象とする。実費を一部払えば接種を受けられる。無料で提供する自治体もある。

【米司法省、Googleを提訴 広告事業の一部分離を要求】
 25日の日経ニュースメール【シリコンバレー=奥平和行、ワシントン=飛田臨太郎】によると、米司法省は24日、米グーグルのインターネット広告事業が反トラスト法(独占禁止法)に抵触しているとして、一部の分離などを求める訴えを起こした。司法省は2019年からグーグルの調査を進めてきた。バイデン政権下で司法省がグーグルを訴えるのは初めてとなる。
 バージニア州東部地区連邦地裁に提訴した。バージニアやカリフォルニアなど計8州も原告団に加わった。グーグルは企業が広告を出すために使うシステムとメディア企業が広告枠の販売に利用するサービスの双方を手掛け、広告の取引市場も運営している。
 ガーランド司法長官は記者会見で「グーグルは過去15年にわたり、競合技術の台頭を阻止した。オークションの仕組みを操作して広告主などに自社のツールを使用させるという非競争的行為を続けてきた」と指摘した。主要なサイト上の広告スペースで使用する技術を独占していることなども例示した。
 司法省はグーグルが相次ぐ企業買収でネット広告事業で過度に優越的な地位を占めたと問題視している。広告事業の一部を分割し、反競争的慣行をやめるよう求めた。
 ガーランド氏は「独占は技術革新を阻害し、生産者と労働者を傷つけ、消費者のコストを増大させる」と訴えた。「消費者を守り、競争を保護し、すべての人に経済的公正と機会を確保するために努力する」と強調した。
 バイデン米大統領は今月11日、米メディアに寄稿し巨大IT(情報技術)企業が市場競争を阻害しているとして、超党派での法案検討を議会に呼びかけた。今回の訴えも巨大ITに批判の矛先を向けるバイデン政権の政策の一環にある。
 司法省は20年10月にグーグルの検索サービスが反トラスト法に違反しているとして同社を提訴している。同年12月には一部の州の司法長官がグーグルの広告事業に焦点を当てた今回と同様の訴えを起こしたが、司法省は原告団に加わっていなかった。
 グーグルの広報担当者は24日、日本経済新聞の問い合わせに対して「今日の提訴は競争の激しい広告テクノロジーの分野で勝者と敗者を決めようとするものだ。司法省はイノベーションを遅らせ、広告料金を引き上げ、何千もの中小企業やメディア企業の成長を難しくしようとしている」と反論した。

【理研、若手研究者の給与2割増 研究リーダーも公募】
 25日の日経速報メールは次のように伝えた。
 国立研究機関、理化学研究所(本部・埼玉県和光市)は所属する若手研究者の給与を4月から最大で約2割引き上げる方針を固めた。国内の大学や研究機関では高水準となる。優秀な人材を呼び込んで国際競争力を高める狙いがあり、大学などにも給与引き上げが波及する可能性がある。
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 26日にも公表する若手研究者の支援策に盛り込む。給与引き上げは、大学院博士後期課程に所属して理研で研究に従事する学生(現在132人)と、博士号取得から5年以内の基礎科学特別研究員(ポスドク研究員、同142人)を対象にする。
 現状の月額給与は大学院生が16万4千円、ポスドク研究員は48万7千円で、それぞれ20万円、55万円にする。大学院生には研究費を支給していないが、国際学会に参加する経費として年間50万円を上限に援助する。
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所が国内の大学・公的研究機関など1176機関を対象に調査したところ、2018年度に延べ約1万5千人のポスドクがいた。
 同省などによると、ポスドクの平均月収は30万〜40万円という。給与の低さが研究の継続や博士課程進学を断念する一因になっており、日本全体の研究力の低下を招いていると指摘されてきた。
 理研は研究チームをまとめるリーダーを採用する枠も新たに設ける。課長級ポストで年齢は30歳前後を想定する。年間研究費1千万円のほか、研究室を立ち上げる費用として1千万円を出す。4月から公募し、2024年度から男女2人ずつ年間4人の採用をめざす。
 現在ある部長級ポストにも研究室の立ち上げ費用を1千万円支給する。両ポストとも採用時は任期付きだが、研究内容や成果次第で無期雇用への転換も可能とする。
 理研は1917年に創設された自然科学の総合研究所で、物理学や工学、数理・情報科学、生物学、医科学など幅広い分野を扱う。スーパーコンピューター「富岳」を用いた研究などを通じ、企業との連携も進めている。2022年度の収入予算は国からの運営費交付金約541億円を含め計約992億円。22年4月1日時点で2893人の研究者が在籍する。

【ドイツが主力戦車を供与決定 米国も提供、欧州安保強化】
 同じ25日晩、日経速報メール【ベルリン=南毅郎、ワシントン=坂口幸裕】によると、ドイツ政府は25日、ウクライナに独製主力戦車「レオパルト2」を供与することを決めた。ショルツ首相はこれまで供与に慎重だったが、欧州安全保障の強化に向けて方針を転換した。ポーランドなどが保有する戦車の提供も承認する。米国も同日、主力戦車「エイブラムス」の供与を決定した。
 ドイツ政府は自国が保有する14両の提供を決定するとともに、他国が保有する同戦車の供与も承認する方針を表明した。各国と協力して2個大隊を編成させたい方針で、これには88両程度が必要とされる。
 独国内でウクライナ兵の訓練を速やかに実施し、弾薬などの提供も進める。ショルツ氏は声明で「国際的に緊密に調整し、協調して行動する」と説明した。独政府は追加の戦車供与も視野に入れている。
 レオパルト2は欧州内に計2000両ほどあるとみられる。ポーランドやフィンランドはウクライナへの供与を表明しているが、供与には製造国であるドイツ政府の承認が必要で、焦点になっていた。ロイター通信によると、スペインも25日、供与の用意があると明らかにした。
 米ABCニュースはウクライナ高官の話として、ドイツが承認すれば12カ国がおよそ100両を供与することになっていると報じた。
 米政府は「エイブラムス」を31両供与すると決めた。バイデン米大統領は25日、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、英国のスナク首相と電話協議し、ウクライナ支援を巡って協議する。
 ウクライナでは融雪を終える春にかけ、ロシアが大規模な攻撃を仕掛けるとの懸念が高まる。国土の奪還に向けて地上戦で有利に運ぶには高精度かつ高機動の西側諸国の戦車がカギを握る。今後は、欧米による主力戦車の受け渡し時期やその規模などが焦点になる。

【横浜銀行、神奈川銀行を買収 「1県1行」首都圏でも】
 26日早朝の日経速報メールは次のように伝えた。
 コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の横浜銀行は、同じ神奈川県内を地盤とする神奈川銀行を完全子会社化する方針を固めた。2月初旬にもTOB(株式公開買い付け)を通じた買収を発表する。神奈川銀の主要株主も応じる見込み。同一県内の地銀同士の再編で、神奈川県は関東で初めて「一県一行」体制となる。
 コンコルディアFGは26日、「当社の発表に基づくものではない」とのコメントを発表した。ただ、「神奈川銀行への完全子会社化に向けた株式公開買い付けを検討していることは事実」としている。
 買収金額は数十億円規模とみられる。横浜銀と神奈川銀の両行は合併せず、神奈川銀のブランドは残す方向だ。
 横浜銀は神奈川銀に7.76%(2022年3月末)を出資する大株主で、神奈川銀とは連携を進めてきた。14年に横浜銀の証券子会社、浜銀TT証券(横浜市)と金融商品の仲介に関して提携。ATMの手数料優遇をはじめ、22年12月には中小企業向けのSDGs(持続可能な開発目標)関連の融資商品について商品設計など横浜銀行のノウハウを提供した。
 人材の派遣も進めており、現在の三村智之会長は横浜銀出身。横浜銀子会社の浜銀ファイナンス社長を経て、14年に神奈川銀頭取に就任した。
 神奈川銀は横浜市内に本店を置き、神奈川県内に30店超の支店を構える。22年3月末時点の預金残高は約4800億円と地銀最大手の横浜銀の約3%の水準で、中期経営計画の目標に「地域プレゼンス(地域における存在感)の向上」を掲げていた。神奈川銀は「検討していることは事実だが、現時点でコメントすることはない」と話した。
 地銀はふくおかフィナンシャルグループが同じ県内の福岡中央銀行を子会社にすると発表し、長野県の八十二銀行も長野銀 行と経営統合することで最終合意している。超低金利や少子高齢化で収益環境が厳しくなるなか、同じ県を地盤とする地銀同士の再編が増えている。

【トヨタ自動車社長に佐藤恒治氏 豊田章男氏は会長に】
 26日午後の日経ニュースメールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は26日、4月1日付で佐藤恒治執行役員(53)が社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格すると発表した。豊田章男社長(66)は代表権のある会長に就く。14年ぶりの社長交代となる。豊田氏はリーマン・ショック後の赤字から経営を立て直し、マツダやスズキとの資本提携も相次ぎ決めた。佐藤氏のもとで電気自動車(EV)などへの移行を急ぐ。
 豊田氏はリーマン危機直後の2009年6月に創業家出身として14年ぶりに社長に就任した。09年に781万台だった販売台数を19年には過去最高の1074万台まで増やした。ハイブリッド車(HV)の販売を日米で増やしたほか、水素を燃料にする燃料電池車(FCV)も商品化した。
 開発や生産を効率化するため国内自動車大手との提携も決めた。マツダやスズキに資本参加したほか、SUBARU(スバル)を持ち分法適用会社にし、ダイハツ工業も完全子会社にした。
 豊田氏は26日に開いたオンライン記者会見で「トヨタの変革をさらに進めるには私が新社長をサポートする体制が一番良いと考えた」と述べた。新型コロナウイルス禍による販売減なども最悪期を脱したとみて社長職を譲る。内山田竹志会長(76)は退任する。
 社長に就く佐藤氏は部品開発などの技術者出身で、現在は高級車「レクサス」部門のトップを務める。会見で「車の本質的な価値を守り、新しいモビリティーのかたちを提案したい。新たな時代に向けて挑戦する」と語った。豊田氏は「佐藤氏なら商品を軸にした経営を前に進めてくれる」と話した。
 佐藤 恒治氏(さとう・こうじ) 1992年(平4年)早大理工卒、トヨタ自動車入社。20年執行役員。53歳。

【新型コロナ「5類」、5月8日に移行 政府決定】
 27日の日経速報メールは次にように報じた。
 政府は27日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類を大型連休明けの5月8日に「5類」に引き下げると決めた。季節性インフルエンザと同等になり、感染者や濃厚接触者の法的な待機期間はなくなる。医療体制や医療費の自己負担については段階的に5類基準に移し、具体的な方針を3月上旬メドに示す。
 政府の新型コロナ対策本部は27日、首相官邸で会合を開き特段の事情がない限り、5月8日に5類移行すると決定した。岸田文雄首相は「医療体制の万全な移行や自治体などによる準備に3ヶ月程度要するとの専門家の意見を踏まえた」と語った。
 医療費の自己負担については「急激な負担増が生じないように一定の公費支援について期限を区切って継続する。今後具体的な内容を検討していく」と述べた。医療体制に関しては「幅広い医療機関で新型コロナ患者が受診できるように必要となる感染対策を講じつつ、段階的に移行していく」と話した。
 マスク着用をめぐっては「屋内屋外を問わず、個人の判断に委ねることを基本とする。政府は着用が効果的な場面を周知する方向で検討し、時期も含めて早期に検討の結果を示す」と言明した。ワクチンは「専門家による検討を行っているが、必要な接種は引き続き自己負担なく受けられるようにする」と説明した。
 これに先立ち厚生科学審議会(厚生労働相の諮問機関)の感染症部会は「3カ月程度の準備期間を置いた上で行うべきだ」とする案を了承した。委員からは「感染力が強く、後遺症のリスクがあり、1年に何度も流行を繰り返す点が他の5類感染症とは異なる」との指摘があった。
 新型コロナへの感染が疑われる患者の診療は現在、主に発熱外来が担っている。5類移行後は対応する医療機関を段階を踏んで広げていく。
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 医療費の自己負担を公費でまかなっている施策は5類に移行すると法的な根拠がなくなる。患者の負担を和らげるため、公費による負担の縮小は段階的に進める方針だ。
 ワクチンの公費負担については3月末で期限を迎える。政府は4月以降も無料接種を当面継続する。延長期間は2月にも決める。
 マスクの着用ルールも変わる見通しだ。感染症法の分類とは直結していないものの、政府は屋内での着用を原則不要とする考え方を示すことを検討している。

【先端半導体の対中輸出規制へ 政府が導入調整、日米協調】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は先端半導体の対中輸出規制を導入する調整に入る。バイデン米政権は2022年10月にスーパーコンピューターや人工知能(AI)向け半導体の先端技術、製造装置を中国向けに開発・輸出する条件を厳しくする規制を導入し、日本やオランダにも同調を求めていた。先端半導体は軍事品の性能を左右する。安全保障の観点から製品や技術の流出を防ぐ。中国が反発する可能性がある。
 日米とオランダの3カ国高官が27日にワシントンで協議した。米ブルームバーグ通信などは同日の協議で日米蘭が合意に達したと報じた。米政府が始めた対中輸出規制の一部を日本とオランダも取り入れるとしている。公表の予定はなく、実施まで数カ月かかる可能性にも言及した。
 西村康稔経済産業相は28日、茨城県つくば市内で記者団に「輸出管理は国際的な協調のもとで厳格に実施している」と指摘。「各国の規制動向を踏まえながら適切に対応していきたい」と語った。3カ国の協議を巡っては「外交上のやりとりなので答えるのは控えたい」と述べるにとどめた。
 米国はスパコンに必要な先端半導体に関し、技術・製造装置などの中国への輸出時や、人材を送る場合、商務省の許可制とした。事実上、輸出を禁じる措置だ。スパコンに限らず高度な半導体製造に使われるものも対象になる。外国企業でも米国の技術を使っていれば中国への輸出を認めない。
 世界の半導体製造装置市場は首位の米アプライドマテリアルズ、2位のオランダ・ASML、3位の東京エレクトロンなどが競り合う。日本とオランダのメーカーには米技術に頼らない製品があり、米企業だけでは大きな効果がみえにくい。
 米国の半導体規制の目的は安全保障にある。先端半導体の優劣はミサイルなどの最新の軍事品の開発にかかわる。中国への脅威を共有する有志国が足並みをそろえることで輸出規制の実効性を高めたいとの思惑がある。
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 日本政府は水面下で取り得る措置を検討してきた。国内企業への影響も考慮しながら実際に導入する具体的な規制の内容を詰める。米国などとも引き続き調整する。
 日本の輸出管理は外為法に基づく。武器や軍事転用できる民生品の輸出を管理している。対象に指定した物品や技術の輸出には経産相の許可が要る。対象品目を追加する場合は政省令を改正する。新たな規制が現行法で対応できなければ同法の改正も視野に検討する。法改正する場合は最低でも数カ月かかる。
 日本半導体製造装置協会によると21年度の日本製の製造装置の海外向け売上高は前年度比51%増の2兆9705億円。中国向けが最も多く、全体の33%の9924億円(57%増)だった。規制の導入で影響がでる可能性がある。東エレクの22年3月期の連結売上高約2兆円のうち中国向けは26%。半導体ウエハーに特殊な薬剤を塗って回路を焼き付ける機器は9割のシェアを持つ。
 日本が新たな規制を導入すれば中国が対抗措置を取るリスクがある。米国の措置に対しては、世界貿易機関(WTO)に米国の先端半導体を巡る対中輸出規制が不当だと提訴している。

【中国、日本人へのビザ発給再開 ビジネス交流活性化狙う】
 29日の日経速報メール【北京=多部田俊輔】によると、在日本の中国大使館は29日、日本人向けの渡航ビザ(査証)の発給手続きを同日から再開すると発表した。春節(旧正月)の大型連休が終わり、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で減速した国内経済を早期にテコ入れするため、日中間のビジネス交流の活性化を狙ったとみられる。
 日本政府が中国からの渡航者への水際対策を強化したことを受けて、中国政府は10日からビザの発給業務を停止した。具体的には、公務や一部の商用ビザなどの例外を除き、発給手続きが止まっていた。
 中国の国家移民管理局も同日、第三国への乗り継ぎに際し、一定期間のビザなし滞在を許可する制度を再開すると発表した。同制度は11日から停止していた。
 今回の発給再開について、中国政府関係者は「中国経済の回復にとって、日本企業の投資などは欠かせない。中国の企業活動が本格的に再開する旧正月明けからの発給再開は視野に入っていた」と指摘する。
 別の中国政府関係者は「日本政府がコロナの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ『5類』に引き下げることも、中国からの渡航者への水際対策の緩和を期待できるサインと受け止めたのではないか」との見方を示す。
 中国に駐在する日本の商社幹部は「中国では旧正月明けからビジネスが本格的に再開するので、その時期にあわせた再開に安心している。日本企業と中国企業の協力関係を後押ししたい中国政府の思惑が透けて見える」と話す。
 中国共産党系メディアの環球時報(電子版)は発給再開を速報し、関心の高さを示した。半導体など中国政府が支援する工場は日本の製造設備が欠かせず、中国企業にとって朗報だ。中国メーカー幹部は「新工場の建設で日本からの出張者は必要だったため、発給再開で工場を予定通り稼働できるようになった」と胸をなで下ろす。
 
 日本経済新聞社とテレビ東京は27〜29日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は39%で2022年12月調査(35%)から4ポイント上昇した。新型コロナウイルスの感染症法上の分類を「5類」に引き下げる政府方針には「賛成だ」が64%で「反対だ」の30%を上回った。
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 内閣支持率が上がるのは22年5月以来8カ月ぶり。内閣を「支持しない」と答えた割合は54%で前回調査の57%から3ポイント低下した。
 政府の新型コロナへの対応は「評価する」が68%と前回から4ポイント高くなった。新型コロナ禍への危機対応に出口が見え始めたことが支持率の回復に寄与したとみられる。
 新型コロナの現在の分類は「新型インフルエンザ等感染症」で結核などの2類以上に相当する。5類になると入院勧告や外出自粛の要請といった対策はなくなる。
 5類移行について世代別に分析すると60歳以上の「賛成だ」は56%、40〜50歳代は68%、18〜39歳は77%だった。年齢が若い人ほど肯定的な傾向があった。
 支持政党別にみると「賛成だ」は与党支持層で68%、野党支持層でも62%だった。政府は大型連休後の5月8日に新型コロナを5類に変更する方針だ。
 首相に優先的に処理してほしい政策課題の1位は「景気回復」(43%)で、2位は「年金・医療・介護」(41%)だった。首相が施政方針演説で最重要政策に位置づけた「子育て・少子化対策」は40%で9ポイント上昇した。
 政党支持率は自民党が42%で、立憲民主党は8%、日本維新の会は6%、支持政党がない無党派は27%だった。前回調査はそれぞれ40%、7%、9%、29%だった。
 調査は日経リサーチが全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し940件の回答を得た。回答率は41.7%だった。

【日米欧防衛費2ケタ増 ウクライナ侵攻後、中ロ脅威に備え】
 同じ30日朝の日経ニュースメールは次のように報じた。
 世界各国が防衛費を相次ぎ増額する。ロシアのウクライナ侵攻による自国の安全保障への不安が欧州だけでなく東アジアなどにも波及し、予算増に拍車がかかる。中国の脅威も大きい。国内総生産(GDP)比が2%水準に満たなかった日本やドイツは年間で2割前後の大幅増額に踏み切り、戦後の安保体制の転換点にさしかかっている。
 主要国が2022年のウクライナ侵攻後に編成した予算で防衛費をどの程度積み増したかを調べた。北大西洋条約機構(NATO)中核の米英仏独、東アジアの日中韓台の8カ国・地域はすべて防衛費を増額した。
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 米国は23会計年度(22年10月〜23年9月)の国防予算を前年度比10%増の8580億ドル(約110兆円)とした。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによると米国の国防費は11年をピークに減少し、16年以降再び増加に転じた。中国との戦略的競争が始まった時期と重なる。
 それでも前年比の増加率は1〜8%と1桁にとどまっており、23会計年度の増加率は突出する。東アジアと欧州の2正面対応を強いられ、安保コストが高まっている状況を表す。
 欧州勢も国防予算の増額に取り組む。なかでもドイツは1%台だったGDP比を2%まで増やす計画を掲げ、23年の国防費は基金からの支出も含めると17%の大幅増額となる。フランスも過去最高の規模を計上する。
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 欧州勢の多くは金融危機を受けた財政再建で10年代前半に国防費の増額を抑えた。英仏独合計の16年の国防費はドルベースでみると08年比で2割減った。冷戦終結後の欧州では国防への支出の優先度は下がりがちだったが、ロシアとの緊張で再び増額に拍車がかかる。
 冷戦後に一貫して緊張が高まり続けているのが東アジアだ。中国は22年予算の国防費を7%増やした。経済成長に比例する形で国防費を増やし続け、20年間で10倍になった。金額は米国に次ぐ世界2位だ。
 東アジアはこれまで米国の圧倒的な軍事力で衝突を抑止してきた。中国の国防費が米国の2〜3割の水準まで迫り、軍事バランスが崩れた。中国の軍事侵攻の脅威にさらされる台湾も23年に国防費を14%増やすが、中国の10分の1にすぎない。
 米国が2正面対応で東アジアに割ける力が制限されるなか、米国は東アジアの均衡を保つ役割を日本に期待する。戦後、敗戦国の日本は防衛費の増額を自制し、GDP比1%程度に抑えてきた。2%以上を充てる米欧からみれば、日本は防衛費をまだ増やす余地があると映る。
 日本は22年末に策定した防衛力整備計画で23〜27年度の防衛費を43兆円にすると決めた。19〜23年度の計画と比べると6割増となり、最終年度にはGDP比2%をめざす。
 国防費の増額は防衛技術の高度化がもたらしている面もある。戦闘機は敵のレーダーに探知しにくくするステルス機能付きが一般的になり、価格は上昇傾向だ。変則軌道のミサイルに対処するには偵察衛星を飛ばしたり高機能の迎撃弾を開発したりといった取り組みも必要になる。
 多様化する攻撃手段にも対応しなければいけない。従来の艦艇や戦闘機に加えて無人機の利用も広がっている。サイバー攻撃のような兵器を要しない手法も台頭する。コストをかけた防御態勢には際限がなく、コストを抑えた防衛をどう構築するかという視点も重要になる。


 この間、以下の録画を視聴することができた。(1)BS6報道1930「プーチン戦争の筋書き2023を読む 露軍の実態」1月5日。 (2)報道1930「対立の火種と行方 習近平氏“新年の挨拶に変化”」6日。 (3)BS1スペシャル「市民が見たロシア・ウクライナ侵攻 10~12月」9日。 (4)報道1930「岸田外交 問われる真価 米絶賛の安保3文書で背負う重荷」10日。 (5)報道1930「深化する“日英同盟”」11日。 (6)報道1930「狙いは“地下都市”? 激戦地バフムト制圧にロシアがこだわるワケ」12日。 (7)報道1930「台湾侵攻しても失敗か、日本に多大な被害も? 米研究所分析の衝撃」13日。 (8)週刊ワールドニュース(9~13日)14日。 (9)ETV特集「弔いの瞬間(とき)」14日。 (10)NHKスペシャル「混迷の世紀 第6回”情報戦”ロシアvsウクライナ知られざる攻防」15日。 (11)NHK映像の世紀バタフライエフェクト「危機の中の勇気」16日。 (12)報道1930「中国コロナ感染9億人。反撃能力運用で習氏は」17日。 (13)報道1930「賃上げの時代は来るか。最大4割アップの衝撃」18日。 (14)報道1930「ハイマース運用部隊にロシア人? 反プーチン志願兵、独戦車供与は」19日。 (15)報道1930「なぜ死者が過去最多」20日。 (16)週刊ワールドニュース(16~20日)21日。 (17)NHK日曜討論「徹底分析 2023 暮らしは経済は」22日。 (18)NHKスペシャル「半導体 大競争時代 国家の命運をかけた闘い」22日。 (19)報道1930「国会開会で本格論戦へ 防衛費・少子化・原発政策大転換の説明は?」23日。 (20)報道1930「国会“財源論戦”開始」25日。 (21)報道1930「どうなる大規模戦車戦 独製レオパルド2の実力…ロシアに勝てるか」24日。 (22)報道1930「放送1000回 独レオパルド2決断」26日。 (23)報道1930「半導体覇権争いの行方 米規制で打撃の中国、日本を脅か戦略とは」27日。 (24)NHK映像の世紀「20世紀の幕開け~カメラは歴史の断片をとらえ始めた」28日。なお「映像の世紀」とは、NHKが制作・放送されたドキュメンタリー番組。1995年3月から1996年2月にかけて、毎月第3土曜日(第1集を除く)にNHK総合テレビの「NHKスペシャル」にて放映された。全11集。初回放送から20年以上経っても「NHKスペシャル」の中で人気のある作品の一つ。 (25)週刊ワールドニュース(23~27日)28日。

所蔵品展「新しい年に」

会期 2023.1/1(日)~2/1(水)

 所蔵品展「新しい年に」の会期は短い。私は思わぬケガで約1カ月間の自宅療養を強いられ、今年初めて正月の三溪園を知らずに過ごした。初出勤が1月19日、会期の3分の2を過ぎようとしている。急いで展示を観てまわった。
展示担当は中村暢子学芸員、今年度着任して7回目の企画であり、今回もまた彼女の解説に乗ってご案内したい。なお図像類は著作権等の制約に触れない限り収録したが、あくまで展示したものが主であり、収録した図像は参考程度と考えていただきたい。

第1展示室
冒頭の挨拶文に言う。
「新年がスタートしました。今年はどんなリズムで過ごしましょうか。書初めをする気持ちで、抱負を考えたくなるタイミングです。今回の展示は、三溪園の創設者・原三溪が描いた、兎の絵がトップバッターを務め、新春の寿ぎを感じられるような作品が続いて登場します。
ピンとくる作品が一つでもあれば、幸先のよい合図かもしれません。
良い年になりますように。」

三溪自筆の書画
原三溪(1868-1939)は、実業家として活躍するかたわら、優れた古美術の蒐集や、画家への支援を行い、自らも書画をたしなみました。幼くして、南画、漢籍、詩文の教養を身につけた三溪。母方の祖父が南画家・高橋友吉(号 杏村)という環境もあり、絵については、10歳の頃から、叔父の高橋鎌吉(杏村の長男 / 号 抗水)に学びました。
江戸時代の文人が、本職ではなく余技としてたしなんだ南画の伝統を引き継ぎ、三溪も事業を手掛けるかたわら、伸び伸びとした筆致で和やかな絵を描いています。

原 三溪「白兎」
大待宵草(おおまつよいぐさ)が咲く前の芝生で真っ白な兎がうずくまっています。待宵草は7月頃に咲く花で、兎は俳句では冬の季語です。本年は十干十二支でいうと「癸(みずのと)卯(う)」の年。兎のように、温厚で穏やかな一年になることを願いつつ、ご覧ください。

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原 三溪 「雲晴天地明(くもはれててんちあかるし)」
雲が晴れて天地が明るく照らされたというこの言葉は、太陽か月かどちらのことでしょうか。いずれにせよ、未来を明るく照らす希望に満ちた言葉です。この書は原商店時代から引き続き原合名会社でも大番頭を務めた大河原与三郎氏に大正15年(1926)に贈られました。
 
原三溪「黎明」
夜明けの富士山の姿です。富士の頂きは白い帽子を被(かぶ)り、朝日に照らされているようです。一年の、また、一日の始まりが希望を感じさせてくれます。
三溪は富士山を画中に描くことがたびたびあります。天気の良い日には、三溪園の松風閣からも、富士の姿が美しく見えます。登り道も楽しみながら、ぜひ、ご覧になってみてください。
 
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原三溪「鳥追ひ」
「鳥追い」は、江戸時代、年始に行なわれた農村の行事。一方で、町中で家々を唄いながら回った門付(かどづ)けの女太夫のことも指します。本図は後者を表し、新しい着物に編笠を被り、三味線を手にしています。この姿で新年に豊作を祈る鳥追歌を唄いました。三溪画のなかでは珍しく、艶っぽく描かれた女性です。

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原三溪「馬」
春先の草原で二頭の馬がおいしそうに若草を食(は)んでいる愛らしい姿です。三溪は、農耕の様子や、日常の村の風景などを描くことが多く、当時の暮らしに欠かせない馬がよく登場します。
画賛は、三溪自作の「藤沢口吟」という、春の情景を詠んだ漢詩です。

搖鞭遙望玉芙蓉     鞭を搖って 遙かに望む玉芙蓉
取路田間訪老農     路取りて 田間に老農訪ぬ
曉雨桃花紅七郡     曉雨の桃花紅七郡に
行春太守馬如龍     行春の太守馬龍の如し
【口語訳】
太守が鞭を高く上げながら馬を走らせて、遠くに冠雪した富士山が見えてくる 馬を下りて路を進み田の奥に分け入って年配の農民を訪ねる
明け方の雨に濡れた桃の花は鮮やかで、紅色が周りの七郡まで染めようとする 春の中を行く太守の馬は、飛ぶように、またほかの農家を訪ねに去っていく

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赤松 雲嶺「高士観瀑図」
「観瀑図」は勢いよく流れ落ちる滝を高士が仰ぎ見る様子を描いたもので、中国山水画や室町水墨画の画題としてよく描かれています。本図も、童子が茶の支度をしながら高士と談笑し、そのはるか上方から滝が神秘的に描かれています。 山口八十八コレクション。
*山口八十八コレクション
山口八十八(1874-1963)は、横浜で活躍した商人で、近代の錦絵や西南戦争資料などを蒐集した人物です。昭和12(1937)年、八十八が63歳のとき、横浜出身の日本画家・牛田雞村と知り合ったことから、雞村を介し、院展作家をはじめ、近代日本画を多く所有するところとなりました。
雞村は、かつて原三溪が支援した画家であり、八十八コレクションは、牛田雞村が目利きをした作品が多くあります。

赤松 雲嶺(あかまつ うんれい)
【生没年】明治25(1892)年-昭和33(1958)年 〔享年66歳〕
【出  身】大阪市
明治32 (1899)年、幼くして、大阪の小山雲泉に入門し南画を学ぶ。雲泉没後、明治45(1912)年からは姫島竹外に師事。
大正4(1915)年、23歳のとき、第9回文展に「渓山清趣」(二曲一双)が初入選。その後、官展を中心に出品。大正12(1923)年、日本南画院同人となる。昭和5(1930)年第11回帝展からは無鑑査待遇となった(38歳)。
画塾の墨雲社を主宰。写実味の強い水墨山水を得意とした。
戦後は、日展の出品依嘱者として、昭和25(1950)年第6回日展に「香落湊」を出品するなどした。
【主要作品】
・ 南画院出品「惜春」(二曲一双)
・ 帝展出品「金風万籟」「木曾川」
・ 大阪府から東久迩宮へ献上「金剛山の図」、秩父宮献上「高槻名所の図」


パトロン・原 三溪
三溪は、明治の終わりごろから、日本美術院を中心とした画家の支援を始め、物心両面から支えました。横浜出身で日本美術院創設者・岡倉天心を通じて多くの画家を見出し、若手の育成を支援したのです。勉強のための奨励金を出したり、作品を買い上げるほか、制作の場を提供したり、蒐集品の鑑賞会を行ったりと、支援のかたちは多岐にわたりました。
三溪が住まいとした鶴翔閣は、画家たちが集い、滞在して絵を制作するなど、文化サロンとしての役割も果たした場所です。古美術を中心とした三溪の収蔵品は若手作家へ供覧され、彼らの創作活動に重要なヒントを与えました。

牛田 雞村「老松図」
不老長寿を象徴する老松が見事に根をはり、金の太陽との組み合わせで、とてもおめでたい画題になっています。松の葉は太陽の光を受け金色に輝いています。院展を脱退後、舞台美術で活躍した雞村らしく、大舞台を思わせる松の堂々とした姿です。
牛田 雞村(うしだ けいそん)
明治23(1890)年-昭和51(1976)年。日本画家。
三溪の長男・善一郎と小学校の同窓であったことが縁で支援を受けることになりました。
今村紫紅らとともに赤曜会を結成。戦後、日本美術院を脱退した後は、舞台芸術で活躍しました。三溪園には晩年まで訪れ、よくスケッチをしたことで知られています。

美術蒐集家・原三溪  ―書簡にみる三溪の美意識―
三溪は30代の頃(明治30年頃)から古美術の蒐集に力を入れました。優れた美術品を蒐集するには情報が重要です。当時の数寄者たちは古美術商を通して数々の美術品を集めていました。
三溪が交流をもっていた骨董商の一人に今村甚吉(~1907)がいます。三溪が今村に宛てた書簡は、三溪の古美術・古建築の蒐集、庭園造成の過程や思いなどを知ることができる貴重な資料です。
三溪園が所蔵する31通の書簡から、明治36(1903)年7月1日付けの書簡をご紹介します。

原三溪 今村甚吉宛書簡 明治37(1904)年1月2日
正月早々の手紙です。お歳暮か新年のご挨拶に贈られたマナガツオのお礼から始まり、古美術品の売買の依頼が書かれています。屏風はたくさん所有しているから、余程の名品でなくては買わない、絵巻を所有していないので気にかけておいてほしいと、名品を蒐集しようという意気込みがうかがえます。

第2展示室
中島清之「鶴図」
紀州徳川家の別荘であった臨春閣には、狩野派を中心とした江戸時代の障壁画が附属しています。現在、保存のため、現地には複製を嵌め、原本は収蔵庫に収めて順番に記念館で展示しています。
三溪園では、昭和50年代に、日本画家・中島清之(1899-1989)に依頼し、臨春閣の替え襖を制作しました。清之の没後には、三男の中島千波(1945-)があとを引き継ぎました。
今回は、その替え襖の中から、一番初めに制作された中島清之の「鶴図」を展示します。鶴が連なって飛翔する姿が、銀地の襖に見事に配置されています。
 (加藤注)第2展示室の右側ショーケースから始まり、正面ショーケースへとつづく「壮大な鶴の舞」は部屋の雰囲気を一変させた。図像は著作権の関係から収録できない。ぜひとも現物をご覧ください。

黒漆蓬莱蒔絵広蓋(くろうるしほうらいまきえひろぶた)
広蓋は衣を納める大きなお盆です。もとは平安時代に唐櫃などの蓋の部分を使用していましたが、次第に蓋のみ独立して公家の調度となり、江戸時代には大名調度の一つにもなりました。蓬莱文は古くから吉祥文様として調度の意匠などに用いられました。

黒漆桧扇唐草蒔絵火鉢
数十年前は、寒くなると火鉢で暖をとっていました。江戸時代には、大名道具として豪華な蒔絵の火鉢が婚礼調度として揃えられました。本品に施された桧扇は、武将の家紋や工芸品の文様としてよく用いられています。

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波に千鳥蒔絵刀立
鞘(さや)に収めてある刀を、柄(つか)を下にして置くようにできています。千鳥は古くから工芸品の意匠として表されてきた文様です。『古今(こきん)和歌集(わかしゅう)』(10世紀)の「塩の山さしでの磯にすむ千鳥君が御世をば八千代とぞ鳴く」という歌から文様化され、人々に好まれました。

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黒漆七弦琴
中国では「古琴」と呼ばれる楽器で、弦が7本あります。現在、日本で普及している「こと」は「筝(そう)」といい、13弦が基本で、「琴柱(ことじ)」という音階を調節する部品がついており、「琴(きん)」とは別のものです。「七弦琴」は日本に奈良時代 に渡来し、江戸時代に文人の間で流行しました。これは江戸時代末期のものです。

第3展示室
第3展示室では、公益財団法人三溪園保勝会主催、神奈川県カメラ写真商組合協賛の「2022年度 第32回 三溪園フォトコンテスト入賞作品展」を開催中です。会期は1月1日~3月13日(月)。審査員は大河原雅彦(元神奈川新聞社カメラマン)、森日出夫(日本写真家協会)、信次(日本写真作家協会)の3氏。
2021年11月から2022年10月までの間に474点の応募があり、うち46点が入賞。内訳は推奨(一等賞)が渥美滋「影」、特選(二等賞)が2点、入選(三等賞)が3点、佳作が10点、努力賞が30点。
写真の上手い下手は別にして、私なりの<三溪園らしさ>を基準にすると、次の5点が強く印象に残った。
特選のうち中山泰雄「国際YOGAの日」(6月21日)。
佳作のうち、①平井正友「晩秋の頃」(干し柿をつるす風景)、②峯岸誠一「蓮の華シャワー 楽しいね」(7月23日、5~6歳の兄妹がシャワーを浴びて“歓喜の姿”)。
努力賞のうち、①石川元章「重文を護る」(1月16日の防火デーに中央広場から三重塔へ向けて放水)、②小林正雄「雪の古民家」(1月6日。手前に積まれた薪、斜めに降る大粒の雪)。

人類最強の敵=新型コロナウィルス(57)

 前号の「人類最強の敵=新型コロナウィルス(56)」を掲載したのは2022年11月28日、【再エネ、危機下で急浸透 「自国産」で安保価値向上】の題名で28日早朝の日経ニュースメールから、再生可能エネルギーの価値が急浸透していることを報じた、と書いた。その後、これに類する記事はあまり見られない。
 11月28日夕方の日経速報メールは「岸田首相「防衛費GDP2%、27年度に」 財源は年内決着」として次のように伝えた。
 岸田首相は28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示した。科学技術費などの国防に有益な費用を合算し、省庁横断の防衛費と位置づける。装備品を含む向こう5年間の予算規模と財源確保を年内に同時決着させ、戦後の安全保障政策の転換に道筋をつける。
 首相が防衛費の具体的な水準を明言するのは初めて。自民党内には安倍派を中心に防衛費を賄うための増税に慎重な意見もある。長期にわたる防衛費増を可能にするための安定財源確保にメドをつけられるかが問われる。
 首相が28日、首相官邸に浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相を呼び防衛費増額に関する方針を指示した。GDP比で2%との基準を示したうえで、年末に①23~27年度の中期防衛力整備計画(中期防)の規模、②27年度に向けての歳出・歳入両面での財源確保――を一体的に決定すると伝えた。浜田氏が面会後に記者団に明らかにした。
日本の防衛費は1976年の三木武夫内閣以来、おおむね1%以内を目安としてきた。ウクライナ侵攻を踏まえ北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が相次ぎ国防費を2%にすると表明し、自民党が2%への増額論を唱えていた。
 防衛省の予算は2022年度当初で5兆4000億円ほどだ。GDPで2%とするのは防衛省の予算を増額した上で、防衛に有益な他の経費を含める。公共インフラや科学技術研究、サイバー、海上保安庁といった他省庁予算も加える。防衛省だけの縦割り体質から脱却し、安全保障を政府全体で担う体制に移行する。現在のGDPを前提とすると新たな防衛費はおよそ11兆円に達する。
 柱となるのは相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有だ。ミサイルの長射程化や米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入する。不足している弾薬の購入量を増やすなどして継戦能力も強化する。
 財源に関する年内決着も指示した。「まずは歳出改革」と指摘したうえで、歳入面で「安定的に支えるためのしっかりした財源措置は不可欠だ」と伝達した。政府の防衛費増額に関する有識者会議は財源を「幅広い税目による国民負担が必要」とする提言をまとめていた。政府内では法人税に加えて所得税、たばこ税などの増税で賄うべきだとの意見がある。
 一方で政府関係者によると26年度までは財源確保のための一時的な赤字国債発行を容認するという。自民党側の意見に配慮した措置とみられる。首相は両閣僚に歳出改革なども含め財源捻出を工夫するよう求めた。28日の衆院予算委員会では防衛費の財源に関して余った新型コロナウイルス対策予算の活用を検討すると明らかにした。

【10日間で「白紙革命」を鎮圧せよ 習近平氏が恐れる悪夢】
 30日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 何も書いていないA4の白紙を皆が手に持って高く掲げる「白紙革命」「白紙運動」が、中国共産党大会の最高指導部人事で完勝したばかりの極権・習近平(党総書記・国家主席、69)を直撃している。
 新型コロナウイルスを徹底して封じ込める「ゼロコロナ」政策の撤廃要求が主眼だ。だが、上海や北京では「独裁者を罷免せよ」「続投に反対する」と習近平辞任を求めるスローガンまで公然と叫ばれている。2012年の習指導部の発足以来、最大の危機であるのは間違いない。
 習の母校である北京の名門、清華大学でも抗議する学生集会が開かれたのは注目に値する。15年まで清華大校長だった陳吉寧(58)は今回、党政治局入りした。さらに次期首相として有力な李強(63)の後任として、上海トップに抜てきされた。清華大での抗議は、肩で風切る「清華閥」のメンツに関わる事態だ。
 事態の深刻さを意識した当局は、清華大など北京市内にある大学宿舎に住む学生らが自分の故郷に帰るためのバスを手配し始めた。学内で発生したコロナへの対策が理由だが、事実上、学生が学内や北京の街頭での抗議活動に参加するのを阻止する措置であるのは間違いない。当面、対面での授業ができない可能性もある。大ごとだ。
 これは、1989年6月4日、民主化を求める学生運動の武力弾圧で多数が犠牲になった天安門事件の頃、当局がとった北京の学生を田舎に強制的に帰す対応に似ている。33年ぶりとなるデモ対策としての大々的な措置からは、習政権が学生の動きに神経をとがらせている様子が手に取るようにわかる。
 反ゼロコロナ運動はたった数日間であっという間に各地に広がった。中国当局がよく宣伝に使う「外国勢力の介入」などありえない。学生らは、後に責任を問われないように、様々な創意工夫を凝らす。暗闇で白紙を掲げ、それで顔を隠す。習への辞任要求は声だけで、個人を特定されないよう細心の注意を払っている。
 レベルの高い理系学生の一部は、白紙の代わりに、自らが学ぶ標準ビッグバンモデルの宇宙膨張に関する「フリードマンの方程式」を書いた紙を掲げた。英語表記が、フリーダム(自由)に近いからだという。「上に政策あれば、下に対策あり」。まさに共産党の独裁政権下での学生運動を象徴するエピソードである。
 清華大での抗議活動のように男子学生よりも、女子学生がより積極的に正論を吐く様子からは、中国社会の大きな変化も感じられる。3期目入りした習指導部の24人の政治局委員から女性が消滅した時代錯誤の人事とは対照的だ。
 「『白紙革命』は、あと10日間で断固、阻止する。(共産党上層部は)世界人権デー(中国語表記は世界人権日)の12月10日に向けて最大級の警戒態勢を敷いている。上層部内に異なる意見はないし、今後も割れない。それが、あの大きな事件との違いだ」
 内情を知る立場にある人物によれば、党上層部は白紙革命の「鎮圧」に自信を示しているという。これとは別の共産党上層部の周辺からは「党の末端での執政能力、危機コントロール能力をみくびらないほうがよい」という声も聞こえてくる。
 「鎮圧」の手法は、力任せの拘束など暴力的なものだけではない。得意のビッグデータを駆使した危険人物の特定、追跡、制御といった危機管理も含まれる。これは19年の香港デモ後の運動家弾圧にも用いられた。
 今回の全国的な抗議活動の伏線は、党大会直前の10月13日、たった1人の勇気ある人物の行動だ。学生も多い北京・四通橋に「ゼロコロナは要らない、飯をくわせろ」「領袖は要らない、選挙が必要だ」「奴隷にはならない、公民になる」などと書いた横断幕が掲げられた。極権に至った習体制下の政治問題全てを突いたのが特徴だ。
 このうち感染者が出た地域を丸ごと封鎖する人権無視、非人間的な政策は既に限界にきていた。党大会の戒厳状態が緩んだ後、人々の怒りが爆発するのに時間はかからなかった。
 不満はまず中国経済を支えてきた外資の工場で爆発した。河南省鄭州にある台湾企業の世界最大級のiPhone(アイフォーン)組み立て工場で、ゼロコロナも絡む待遇問題から抗議活動が起きた。
 続いて11月24日、新疆ウイグル自治区ウルムチで10人が死亡したとされる火災が発生。交流サイト(SNS)で「都市封鎖の影響から消火活動が遅れた」との情報が拡散し、抗議活動が勃発する。
 デモは形を変えながら燎原(りょうげん)の火のごとく広がり、上海や北京に波及する。落書き、小規模なもみ合いを含めれば、抗議活動がない大都市を探すのが困難なくらいだ。
 当局が警戒する世界人権デーに関わる大事件とは、1989年の天安門事件そのものではない。その3年前、86年12月の世界人権デー前後に盛り上がった学生運動を巡る政治的な闘いである。
 安徽省の中国科学技術大学の副学長だった物理学者、方励之による民主化提唱がきっかけになった学生運動は、内陸部の安徽省から上海、北京にまで極めて短期間で波及した。今回、新疆での事件が上海、北京に伝播(でんぱ)した流れに似ている。
 86年民主化運動では「対処の甘さ」を問われた当時の党総書記、胡耀邦が87年1月に解任された。大事件の裏には、新旧交代を主導した胡耀邦を陥れようとする長老らと、胡耀邦を重用してきた当時の最高実力者、鄧小平が絡む複雑な権力闘争があった。
 86~87年の政治劇には、くしくも習の父で、長老の1人だった習仲勲も大きな役割を果たした。鄧小平が最終決断を下した胡耀邦の解任に、習仲勲が体を張って抵抗したのである。
 党内闘争は89年の天安門事件で一層、深刻化する。胡耀邦の解任後、鄧小平によって総書記に抜てきされた趙紫陽が学生運動に同情する姿勢を示し、党内分裂の様相を呈する。
 48年12月10日、国連総会での世界人権宣言採択を記念する世界人権デーに関しては、中国で後にもう一つ、事件が加わった。2008年の人権宣言採択60周年に合わせて、劉暁波や人権活動家らが用意した「08憲章」の発表日として選ばれたのだ。
 2年後、劉暁波は、栄えあるノーベル平和賞を受賞する。だが、獄中にあり、授賞式には出席できなかった。式典での空席の椅子は、中国の人権状況の深刻さの象徴として歴史に刻まれた。劉暁波は拘束されたまま「獄死」した。
 今回の反ゼロコロナ運動は、突然の封鎖措置で身動きがとれなくなる基本的人権の問題のほか、民生、経済も関係が深いだけに、学生ばかりではなく、多くの一般人も加わった。対処は極めて難しい。問題は1989年以降の33年間、当局が、場所を問わず中国各地で起きる本格的な大規模デモに直面した経験がないことだ。例えば2012年9月、今回と同じ北京市朝陽区で行われた大規模反日デモは、基本的に当局シナリオに沿った「官製デモ」にすぎなかった。

【中国の江沢民元国家主席が死去、96歳】
 30日、日経速報メール【北京=羽田野主】によると、中国の江沢民元国家主席が30日、上海で死去した。96歳。死因は白血病と多臓器不全の合併症だった。中国国営の新華社通信が伝えた。
 江氏は1926年8月、江蘇省生まれ。上海交通大を卒業後、旧ソ連や長春などの工場でエンジニアとして勤務した。
 85年に上海市長に、87年に上海市トップの市共産党委員会書記に就いた。89年の民主化を求める運動への強硬な対応が当時の最高指導者、鄧小平に評価された。天安門事件で失脚した趙紫陽に代わって党トップの総書記に就いた。
 経済成長と軍の近代化を進め、97年の香港返還も平穏に乗り切った。外交面では米国など国際社会との安定した関係の構築に努めた。
 日本との関係では98年の訪日時に歴史問題に固執し、日本国内の対中感情を悪化させた。中国国内で反日的な愛国教育を推し進めた。
 総書記を胡錦濤に引き継いだ2002年の党大会では、自らが提唱した「三つの代表」思想を指導理念として党規約に盛り込んだ。かつて労働者と農民の党だった共産党に、多くの民間企業家が参加する道を開いた。
 総書記引退後も、党の中央軍事委員会主席には04年9月までとどまり、強い影響力を維持し続けた。胡錦濤政権下では、引退してなお、胡氏に次ぐ事実上の党内序列2位の扱いを受けた。
 江氏は、上海時代の人脈で築いた「上海閥」を権力基盤とした。同じ上海閥の曽慶紅・元国家副主席とともに、党老幹部の子弟ら「太子党」の後見役となり、習近平や失脚した元重慶市トップの薄熙来らを抜てきした。
 習氏が党トップに就任後は江氏に連なる党幹部や軍人を反腐敗運動で次々と摘発し、江氏の影響力はそがれた。最後に公に姿が確認されたのは19年10月の建国70年の式典。天安門に立ち軍事パレードを眺めた。

【都心10億円マンション、現金一括で 海外の個人投資拡大】
 12月1日の日経速報メールは次のように報じた。
 海外のファンドだけでなく、富裕層も日本の不動産購入に動いている。日本の住宅用物件などを扱う仲介会社には台湾や香港、シンガポールなどアジアに住む個人からの問い合わせが急増。海外通貨に比べて円の割安感が続いていることもあり、個人の資金が流れ込んでいる。
 米不動産サービス大手ジョーンズラングラサール(JLL)によると、2022年4~9月の海外勢投資家による日本の不動産への投資額は5000億円強と前年同期比8割増加した。日本への不動産投資全体に占める海外勢の比率は7~9月に49%とほぼ半分にのぼる。これまでファンドなどによる日本の不動産の購入が目立っていたが、円安を受けて個人の存在感も増してきている。
 「六本木あたりに物件ありませんか?」。不動産仲介「INVASE」を運営するMFS(東京・千代田)には今春以降、海外個人客からの問い合わせが増えている。担当者は「ローンを組まずに現金ですぐに買いたいというアジアの客からの問い合わせが多い」と話す。
 台湾不動産仲介大手の日本法人、信義房屋不動産(東京・渋谷)では台湾や香港、シンガポールなどの個人からの日本の物件の照会が急増。1~9月の成約件数は前年比56%増加した。7~9月だけでみると9割増で、足元でも引き合いが強い。金額ベースでは22年前半に200億円を超え、過去最高になったという。
 何偉宏社長は「円安が一番大きな要因だ。投資用やセカンドハウスなどに加え、台湾と中国との緊張が強まったことで資産を逃がすための需要も増えた」と話す。
 中華圏などの個人向けに日本の物件を紹介するボーンマーク(東京・中央)の桂小川社長も「円安がほぼ唯一の増加要因だ」と語る。同社では円相場の急落が始まった3月以降、中国などからの物件の問い合わせが急増。海外勢への案内件数は過去最高水準だという。同社が扱う物件で中国人から人気があるのは港区など一等地のタワーマンションの一室だ。
 不動産仲介会社によれば、中国人は日本でローンを組む手段が限られることもあり、十数億円の物件の現金一括払いも珍しくないという。ある国内銀行は「投資用不動産向けの融資ニーズはアジアなどの外国人から強い。ただ中国人は、中国本土の法制度の問題から返済が滞ったときに強制執行できるか不透明で、実際に融資するのは難しいのではないか」と明かす。
 円安だけでなく、取引のしやすさも魅力という。「日本は取引の透明性と安全性が高い」(信義房屋不動産)ほか、「流動性が高く、売りたい時に売りやすい」(ボーンマーク)のも投資が増えている理由のようだ。
 国土交通省が公表する全国のマンション価格の指数は22年7月に前年同月比1割伸びた。一方、円相場は同期間に2割近く下落している。
 海外機関投資家の関心も高い。JLLの内藤康二リサーチディレクターは「海外で利上げが進む中、日本は金利が据え置かれているため、借り入れコストが低い」と話す。利上げが続く韓国など「これまで対日投資をしてこなかった国の投資家も日本に関心を持ち始めている」という。
 もっとも、海外の金利低下などで急激に円高に振れた場合、海外個人による日本の不動産買いは鈍る可能性がある。ボーンマークの桂社長は「日本の不動産そのものは安くなく、安いのは円だけ。円高になればブームが去るのは早いだろう」と話している。

【日本、スペイン破り16強 逆転勝利で再び世界驚かす】
 2日の日経速報メール【ドーハ=岸名章友】によると、サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会第12日は1日、1次リーグE組最終戦が行われ、日本がスペインを2-1で破り、同組1位で16チームで争う決勝トーナメント進出を果たした。
 2大会連続の16強入りは初めて。5日午後6時(日本時間6日午前0時)からの決勝トーナメント1回戦で初の8強入りを懸け、F組2位で前回準優勝のクロアチアと当たる。
 日本は前半に1点を先制されたが、後半の立ち上がりに堂安律(フライブルク)、田中碧(デュッセルドルフ)が立て続けにゴールを決めて2-1とひっくり返した。苦戦が見込まれたE組で勝ち点を6とし、2002年日韓大会以来となる首位通過を果たした。
 試合後、日本の森保一監督は「アジアにとっても、ドイツ、スペインという世界最高峰の国に勝てたことは大きな自信につながる。まだ学ばなければいけないことはあるが、アジア、日本のサッカーは世界に勝てると、自信を持って喜びを分かち合いたい」と語った。

【出生急減、22年80万人割れへ 人口1億人未満早まる恐れ】
 2日の日経ニュースメールは日本の出生数が急減している、として次にように報じた。2022年の出生数は初めて80万人を下回る公算が大きい。少子化が進むと年金や医療など現役世代が支える社会保障制度が揺らぐ。労働投入も減り経済の成長力が下がる。子どもを産み育てやすい環境整備が急務だ。
 出生数は21年に過去最少の81.1万人となった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で結婚や妊娠が減った。22年もコロナ禍が続き、出生減に歯止めがかからない。
 厚生労働省の人口動態統計によると、過去1年の出生数(日本人のみ)は10月公表の5月時点(21年6月~22年5月)が79万8561人と、遡れる範囲で初めて80万人を割った。
 22年1~6月の出生数は36万7232人と前年同期比で5.0%減った。外国人を含む速報値でみても、1~9月の累計は59.9万人と前年同期を4.9%下回った。過去10年の平均減少率は年2.5%ほどで、ペースは2倍に加速している。

【中国、ゼロコロナ「出口」に苦慮 浮かぶ段階的緩和】
 2日晩の日経速報メールは次のように伝えた。
 中国政府が新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策の「出口」を模索している。習近平指導部の威信を傷つけぬよう、段階的な緩和に動くシナリオが浮かぶが、全面解除なら感染爆発で200万人以上が死亡するとの試算もあり、道のりは容易ではない。
 「ようやく営業を再開できた」。広東省広州市で飲食店を営む女性は喜ぶ。大半の地域で11月後半から店内飲食が禁じられていたが、市政府が緩和を決め1日から中心部で多くの飲食店が営業を再開した。車の交通量も目立って増えた。
 中心部では多くの建物でそれまで求めていたPCR検査の陰性証明も不要になり、大半の検査所が撤去された。北京市でも1日、大型商業施設が相次ぎ営業再開を表明した。重慶市でも2日、高リスク地区以外の住民の外出を認め陰性証明なしでスーパーで買い物ができるようになった。
 コロナ対応を担う孫春蘭副首相は1日、衛生当局での座談会で「(変異型ウイルス)オミクロン型の病原性の弱まりなどから、予防・抑制措置のさらなる適正化の条件が整った」と述べた。ゼロコロナ政策には一切言及しなかった。
 衛生当局は11月11日に「20条措置」と呼ばれる緩和策を発表したばかりだが、現場レベルでの実行が遅れていた。26日以降には都市封鎖(ロックダウン)などへの不満を示す抗議活動が全国に広がり、一部は習近平国家主席の退陣や政治的自由の拡大まで求めた。
 欧州連合(EU)高官によると、習氏は1日のミシェルEU大統領との会談で、抗議活動の理由を3年に及ぶコロナ禍で大学生らがストレスをためているためとの見解を示したという。習氏から政策見直しを直接意味する発言はなかったが、緩和の方向に向かうとの印象を得たという。
 抗議活動が政権の安定を揺るがしかねず、習指導部はゼロコロナの軌道修正を探らざるを得ない状況にある。
 ゼロコロナの全面解除には国産ワクチンの有効性と接種率の低さという壁が立ちはだかる。中国は国産ワクチンにこだわり、米欧製を調達していない。
 世界保健機関(WHO)の専門家らは7月、有効性を比較した論文を発表。2回接種した香港の60歳以上の患者で重症・死亡を防ぐのに、米ファイザー・独ビオンテック製の有効性は約89%、中国のシノバック製は約70%と約20ポイントの差が出た。
 高齢者のワクチン接種率も低い。中国国家衛生健康委員会によると、2回接種した人は60歳以上で約86%、80歳以上で約66%にとどまり、日米よりも低水準だ。
 英医療調査会社エアフィニティは11月28日の報告書で「中国がゼロコロナを解除すると130万~210万人が死亡するリスクがある」との推計を示した。中国政府も4月、ゼロコロナを緩和した場合に「200万人の死者が出る」との試算値を公表した。
 習指導部がゼロコロナに固執してきたのは徹底的な隔離で感染や死亡を抑え込み、プラス成長を維持した初期の成功体験があったためだ。目算が狂ったのは感染力の強いオミクロン型の流行だ。

【大学10兆円ファンド争奪戦に 44校応募検討、選定は数校】
 3日朝の日経ニュースメールは次のように報じた。
政府が創設した10兆円の「大学ファンド」による支援獲得を巡る競争が激しくなりそうだ。日本経済新聞の調査に回答した157大学の3割に当たる44大学が申請を検討していると答えた。近く始まる公募で数校が選ばれる。国内大学は海外と比べ資金力で劣り国際競争力は低下している。ファンドの支援で教育・研究基盤の抜本強化を図る。
 政府が創設した大学ファンドは「国際卓越研究大学」に選んだ数校を運用益で支援する。運用益の目標は年3000億円で、仮に5校に分配すれば年間支援額は1校で600億円になる。12月中に文部科学省が公募を始め、2023年秋ごろに最初の認定校が決まる。
 日経新聞が9~11月、調査対象の大学の学長へのアンケートで卓越大への申請の意向を尋ねたところ、東北大、東洋大、名古屋大、早稲田大など9大学が「意向がある」と回答した。
 また大阪大、慶応大、東京大、24年度中をめどに統合する東京工業大と東京医科歯科大など35大学が「申請を検討中」とした。国内の大学総数は約780校で、申請を検討する大学はさらに多い可能性がある。
 助成の使途は優秀な研究者を招く人件費やスーパーコンピューターといった最新機器への投資、大学発スタートアップ支援などが想定される。申請を検討する国立大学の学長は「世界トップクラスの人材が集まる研究拠点を新たに整備したい」と語る。
 対象校に認定された場合に期待される効果については「研究環境の改善」(40大学)、「国際競争力強化」(32大学)を挙げる大学が多かった。「国際的評価の向上で、より優秀な学生や教員を集められる」(早稲田大)といった声もあった。

【OPECプラス、原油減産維持を決定 日量200万バレル】
 4日晩の日経ニュースメール【カイロ=久門武史】によれば、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は4日、現行の協調減産を維持すると再確認した。中国など世界の景気減速による原油需要の鈍化を警戒し、11月に始めた日量200万バレルの減産を今後も継続する。
 5日にロシア産原油の輸入価格に上限を設ける主要7カ国(G7)の制裁が発動する。ロシア産の流通が滞る可能性があるが、今回OPECは増産で補う姿勢をとらなかった。対ロ制裁の効果を疑う見方もあり、供給や原油相場への影響を見極める構えだ。G7と欧州連合(EU)、オーストラリアは2日、1バレル60ドルの価格設定で合意している。
 OPECプラスはオンラインで開いた閣僚協議後の声明で「必要があれば市場安定のため直ちに追加措置をとる」と強調した。次回の閣僚級会合を来年6月4日に開くとした。
 OPECを主導するサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は11月21日「現行の日量200万バレルの減産は2023年末まで続く」と改めて表明していた。そのうえで「需給均衡のため減産のさらなる措置が必要な場合、常に準備はできている」と含みを持たせている。
 国際エネルギー機関(IEA)は11月15日、G7のロシア産原油への価格上限設定について「多くの不確実性と物流上の課題」に懸念を表明した。OPECも11月の月報で「ロシアの生産に相当な不確実性が残る」としたが、かねて西側の対ロ制裁の帳尻合わせはしない立場をとってきた。
 市場への影響力を高めるためOPECがロシアと協調する姿勢は鮮明で、サウジはバイデン米政権の増産要請にも応じてこなかった。ロシア大統領府によるとプーチン大統領は11月24日、OPEC主要国イラクのスダニ首相との電話で、ロシア産原油への価格上限について「市場の原理と矛盾し、エネルギー市場に深刻な結果をもたらす」と強調した。
 今OPECが警戒を強めるのは、世界の原油需要の減速だ。OPECは11月、22年と23年の需要見通しを日量10万バレルずつ引き下げ、中国のゼロコロナ政策や欧州経済への逆風を理由に挙げた。
 国際指標の北海ブレント原油先物は1バレル85ドル前後と3月の高値より4割安く、11カ月ぶり安値圏にある。最大の原油輸入国、中国で新型コロナ規制のため経済活動が再び停滞し、エネルギー消費が冷え込むとの見方が強まった。世界景気の減速による需要減への警戒もくすぶる。
 市場は供給過剰に神経をとがらせている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが11月21日にサウジが増産を検討していると報じると、相場が急落し10カ月ぶり安値をつける場面があった。サウジは直後にこの報道を明確に否定した。
 OPECプラスは10月の前回会合で、11月以降の原油生産を日量200万バレル減らすと決めた。世界需要の2%に当たる。大幅減産で世界景気減速への懸念から弱含む原油相場の下支えを狙ったが、インフレを警戒しロシアの戦費調達を阻みたい米国が強く反発した経緯がある。

【NHK会長に日銀元理事・稲葉延雄氏】
 5日昼の日経速報メールは次にように報じた。
 NHKの経営委員会は5日、2023年1月に任期満了となる前田晃伸会長(77)の後任に、日銀元理事の稲葉延雄氏(72)を選出した。同日午後に発表する見通し。前田氏は懸案だった受信料の引き下げに取り組んだものの、NHKはなお肥大化の懸念がある組織のスリム化や、受信料収入の減少への対応などの課題を抱える。稲葉氏は前田氏が進めたNHK改革を引き継ぐことになる。
 稲葉氏は日銀のシステム情報局長などを経て04年に理事に就いた。08年に退任後、リコー特別顧問に転じ、同社の取締役会議長を経て現在はリコー経済社会研究所参与を務めている。
 前田会長は23年1月24日の任期満了をもって退任する。NHK会長は経済界からの登用が続き、稲葉氏で外部出身の会長が08年以来6代続くことになる。
 経営委員会(森下俊三委員長)は外部の有識者12人で構成する。経営委は7月に次期会長の指名部会を立ち上げ、選任基準や後任候補について協議を進めてきた。放送法は会長の選任には経営委員12人中9人以上の合意が必要と定めている。
 前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)社長としてメガバンクの経営を担った経験が評価され、20年からNHK会長に就任した。総務省から求められていた既存業務の効率化と受信料引き下げ、ガバナンスの三位一体の改革に取り組んだ。人事制度にメスを入れ、女性や若手管理職の登用を推進した。
 稲葉延雄氏(いなば・のぶお) 1974年(昭和49年)東大経卒、日銀入行。2004年理事。08年リコー特別顧問。17年取締役会議長。現在はリコー経済社会研究所参与。静岡県出身。72歳。

【防衛費「5年で43兆円」、岸田首相指示 23年度から。年内に財源確保策、税制措置含め与党と調整へ】
 5日午後の日経速報メールは次のように報じた。
 岸田文雄首相は5日、2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とするよう指示した。首相官邸で浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相に伝えた。現行の中期防衛力整備計画の5年総額27兆4700億円から5割以上増える。相手のミサイル発射拠点をたたく反撃能力の整備などにあてる。
 「(防衛力の)抜本的な強化を進めるための必要な内容をしっかり確保するため与党とも協議しつつ積み上げで43兆円程度とする」と表明した。浜田氏が会談後に記者団に明らかにした。
 首相は増額の財源を年内に確保することも求めた。歳出改革や剰余金・税外収入の活用、税制措置など歳出・歳入両面の具体的措置を年末に一体的に決めるよう要請した。
 財源に関して首相は23~27年度だけでなく、その後も防衛力を安定的に維持するために必要だと説いた。鈴木氏は増税を検討する具体的な税目を記者団に問われると「ご指摘の内容も含めて与党と相談しながら年末に決定すべく調整を進めたい」と答えた。
 法人税や所得税などが候補に挙がる。政府の有識者会議は11月22日に公表した報告書で「幅広い税目による負担」を指摘した。自民、公明両党はそれぞれの党税制調査会を中心に議論する。
 浜田氏は5年で43兆円の規模について「防衛力の抜本的強化が達成でき、防衛省・自衛隊として役割をしっかり果たすことができる水準だ」と話した。
 政府は月内に策定する「防衛力整備計画」に防衛費の総額を明記する。防衛省は当初「5年で48兆円ほど」を主張し、財務省などとの調整を経て43兆円を要求していた。

【サッカー日本、W杯8強逃す PK戦でクロアチアに敗れる】
 6日の日経速報メール【アルワクラ=武智幸徳】によると、サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会第16日は5日、ドーハ近郊アルワクラのアルジャヌーブ競技場などで決勝トーナメント1回戦が行われ、世界ランキング24位の日本は目標に掲げた初の8強入りを逃して敗退した。同12位で前回準優勝のクロアチアに、延長を終えて1-1からのPK戦で1-3で屈した。
 日本は43分に前田大然(セルティック)が先制点を奪って前半を1-0で折り返したが、55分に追い付かれた。その後は両チームともに得点できないまま、延長戦でも決着しなかった。迎えたPK戦では1人目で失敗した南野拓実(モナコ)ら3人が相手GKに止められた。
 日本は7大会連続7度目のW杯出場で、16強による決勝トーナメント1回戦で敗退するのは2002年、10年、18年大会に続いて4度目。
 試合後、森保一監督は「(8強の壁は)今回も乗り越えられなかったが、選手は新時代を見せてくれた。これから先、日本のサッカーが最高の景色を願い続ければ、乗り越えられると強く思います」と語った。

【東芝の非公開化、国内連合が2.2兆円軸に買収提案】
 7日夜の日経速報メールは次のように報じた。
 東芝の再編案を巡り、優先交渉権を得ている国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が正式な買収提案を出したことが7日、分かった。日本企業十数社が出資し、足元の株価をもとにした2兆2000億円程度で全株を買い取って非公開化することが軸となる。東芝は再編案を検討する特別委員会で提案を受け入れるかを決める。
 JIPは10月に優先交渉権を得て、詳細な資産査定をしながら提案の詳細を詰めていた。買収額は現状の時価総額(2兆2000億円)を軸とすることが盛り込まれているもようだ。
 株式を買い取るTOB(株式公開買い付け)は、株価にある程度価格を上乗せして応募を促すことが多い。ただ東芝の株価は再編を織り込む形で、すでに高値で推移している。稼ぐ力という実力面でも半導体事業の先行きに不透明感がでており、足元の株価をわずかに上回る程度の提案になったとみられる。
 円安下ではドル建ての価値は目減りする。上乗せがわずかなTOBに海外ファンドなどの株主が応募するかといった懸念はある。一方でこの価格を上回り、規制面で有利な日本勢中心の別の提案が短期間で出てくるかは不透明だ。JIP案以外に大株主の売却機会があるかなど、様々な要素を考慮しながらの検討となる。
 買収資金については1兆円程度を日本企業から出資してもらう。中部電力やオリックスのほか、JIPも自ら1000億円を拠出する。十数社から出資する意向を取り付けた。複数の外資系ファンドは投資効果が低いとして参画を見送ったようだ。
 残りは議決権を持たない形での出資や、金融機関からの融資で賄う。金融機関から融資を確約する「コミットメントレター」は7日時点で得られていないようだ。ただ今回の条件での非公開化を東芝が受け入れれば、月内に融資の手続きを完了できるように詰めの交渉をしている。
 東芝は4月に設立した再編案を検討する特別委員会でJIPの正式提案を受け入れるか協議する。特別委員会は7人の社外取締役で構成されている。大株主であるアクティビスト(物言う株主)の幹部2人も含まれており、株主に推奨できる提案かを議論する。
 非公開化によって企業価値向上につながるかだけでなく、財務や法務上の要件を満たしているか、改正外為法や各国の競争法といった規制に絡む実現可能性などが評価の基準となるとみられる。
 東芝の株価は2021年春にCVCキャピタル・パートナーズが非公開化の初期提案をして以降、再編期待から高値で推移している。アクティビストが大株主となった、東芝の17年の第三者割当増資の発行価格は1株あたり2628円だ。
 QUICK・ファクトセットによると大株主の米ファラロン・キャピタル・マネジメントの平均取得価格は約27ドル(約4100円)。3Dインベストメント・パートナーズは約32ドルで、簿価が変わっていないとすると現状の株価(7日終値で5118円)でも取得価格は上回る。
 東芝は4月に株式非公開化を含む再編案の公募を始めた。JIPは官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)との連合で7月、2次入札に進んでいた。JICとはその後、連合を解消し、個別で応札していた。JICは7日時点での正式な提案は見送り、検討を継続する。

【日本電産・永守会長「価格と技術で中国勢に負けない」 世界経営者会議】
 8日の日経速報メールは次のように報じた。
 第24回日経フォーラム「世界経営者会議」(主催=日本経済新聞社、スイスのビジネススクールIMD、米ハーバード・ビジネス・スクール)が8日、東京都内の帝国ホテル東京で開幕した。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は今後新規参入で競争が激しくなる電気自動車(EV)などの分野について「価格と技術で中国勢には負けない」と話した。
 日本電産はモーターを中核に積極的なM&A(合併・買収)を進めており、特にEV向け駆動モーターシステムの開発に力を入れる。永守氏は「EVは価格は下がり、家電のように広がっていく。2025年が大きな分岐点となる」との見方を示した。
 ホンダとEV事業を進めるソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長は「モビリティーの概念が変化する中、車載センサーなどIT(情報技術)やエンターテインメントで貢献したい」と述べ、EVを成長の柱と位置付ける方針を明確にした。
 新型コロナウイルス禍からの回復途上にあるが、各企業は地政学リスクやサプライチェーン(供給網)の混乱、原料高や急激な為替変動、二酸化炭素(CO2)の削減など経営課題が山積している。
 星野佳路・星野リゾート代表は「訪日外国人(インバウンド)に頼るだけではなく、日本人観光客にも目を向ける必要がある」と述べ、国内市場にはビジネスチャンスが眠っているとの意見を述べた。今後、「スモールマスマーケティング」と呼ばれる、若年層など一定の消費者がいる区分に異なる施策を打ち出していく考えを示した。
 旭化成の工藤幸四郎社長は地球温暖化の原因であるCO2を活用する事業に取り組んでおり、「CO2を原料として活用する技術を磨き、サプライチェーン全体の温暖化ガスの削減に貢献したい」と話した。

【米中間選挙開票始まる 上院接戦、下院は共和優勢】
 9日の日経速報メール【ワシントン=坂口幸裕】によれば、米中間選挙は8日夜(日本時間9日午前)、開票が各州で順次始まった。連邦議会下院は野党・共和党が4年ぶりに多数派を奪還する公算が大きく、上院は激戦になっている。与党・民主党が議会で多数派を失えば、任期が残り2年あるバイデン大統領は厳しい政権運営を迫られる。
 中間選挙は4年に1度ある大統領選の2年後に実施される。任期2年の下院435議席すべてと、任期6年の上院100議席のうちおよそ3分の1にあたる35議席が改選対象だ。現在は上下両院で民主が多数派を握る。全米50州のうち36州で知事選も実施した。
 AP通信の出口調査によると、東部時間8日午後10時半(日本時間9日午後12時半)時点で、下院の当選確実は民主55、共和95になっている。現時点で過半数の218には届いていないが、共和が優位に進めているもようだ。下院は現在、民主が220議席、共和が212議席を持つ。
 上院の当選確実は民主が6、共和が12で、非改選議席を含めると民主が42議席、共和が41議席を確保した。米政治サイト、リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の分析では、与野党が激しく競る東部ペンシルベニアや南部ジョージア、西部のアリゾナ、ネバダなど8州の勝敗が多数派の行方を左右する見通しだ。
 現在の上院の構成は与野党が50対50で、上院議長を兼ねるハリス副大統領が1票を投じることができるため、かろうじて多数派を維持している状況。
 選挙結果は2021年1月に就任したバイデン氏への事実上の審判の位置づけになる。24年の次期大統領選への再出馬に意欲を示すバイデン氏が率いる民主が上下両院で多数派を失えば、党内で遠心力が働く可能性がある。バイデン氏は8日、自身のツイッターで「あなたの声を届けよう。投票しよう」と呼びかけた。
 経済に対する有権者の関心が高く、40年ぶりの歴史的な高インフレのさなかの選挙戦はバイデン氏が率いる民主に逆風となった。7日時点の政党支持率は民主が45.5%、共和が48.0%。9月下旬に共和が民主を逆転して以降は差が次第に広がった。
 AP通信が6~8日に実施した出口調査によると、投票した有権者に米国が直面する最も重要な問題を聞いたところ、経済・雇用が47%と最多。次いで人工妊娠中絶、移民、気候変動がそれぞれ9%だった。
 民主が議会の多数派を失えば政権運営は「より難しくなる」(バイデン氏)。予算や政策にかかわる法案成立に共和の協力が欠かせなくなり、大統領選をにらむ与野党の対立が一段と激しくなると想定されるため政策が滞るリスクが高まる。
 共和からはロシアが侵攻するウクライナへの支援縮小論が出た。物価高などで生活が厳しくなった米有権者から多額の予算が同国に向かう現状への不満がくすぶるためだ。中間選挙に多数の推薦候補を送ったトランプ前大統領が掲げる「米国第一」とも共振し、バイデン政権が議会から対ロシア政策の再考を迫られるおそれがある。
 郵便投票を含む期日前投票の利用者が過去最高を更新する見通しだ。米調査会社ターゲットスマートの調べでは、集計した8日午後時点で4300万人を超え、前回18年選挙の同時期より8%増えた。郵便投票などの集計に時間がかかり、大勢判明までに時間を要する事態も想定される。

【セブン、米ファンド・ヨドバシ連合にそごう・西武売却へ】
 9日晩の日経速報メールは次のように報じた。
 セブン&アイ・ホールディングスは百貨店子会社のそごう・西武を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却する最終調整に入った。売却額は2000億円を超えるもよう。家電量販店大手のヨドバシホールディングスはフォートレスと連携し、東京・池袋や千葉にある百貨店内に出店するとともに、店舗不動産の取得などを通じて資金拠出する方向だ。セブン&アイは日米を軸にしたコンビニエンスストア事業に経営資源を集中する。
 近く決定する見通し。セブン&アイはそごう・西武の全株式をフォートレスに売却する一方、そごう・西武子会社の生活雑貨店、ロフトはグループ内にとどめる。
 関係者によると、フォートレスは西武池袋本店(東京・豊島)やそごう千葉店(千葉市)などの主要店舗にヨドバシを誘致する。ヨドバシは店舗不動産の一部を取得して営業するもようだ。
 セブン&アイは年初からそごう・西武の売却手続きを進め、2次入札を経て優先交渉権を与えたフォートレスと条件を詰めてきた。フォートレスはソフトバンクグループ傘下の投資ファンドで、不動産会社のレオパレス21や国内ゴルフ場最大手のアコーディア・ゴルフ・グループへの投資実績がある。
 セブン&アイは2006年に2000億円超でミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を子会社化した。専門店や電子商取引(EC)企業に顧客を奪われ、そごう・西武の店舗数は07年2月期の28店舗から10店舗に減った。22年2月期まで3期連続の最終赤字と業績低迷が続いている。豊富な品ぞろえで集客力のあるヨドバシを誘致することで、都心にある主要店のテコ入れにつなげたい考えだ。
 ただ、西武池袋本店は現経営体制で改装計画が進んでいる。ヨドバシの出店に向けて、テナントの入れ替えや改装に伴う費用が発生する可能性がある。フォートレス・ヨドバシ連合によるそごう・西武再建は関係者との調整が今後も続く見通しだ。
 セブン&アイは06年以降、ニッセンホールディングスやバーニーズジャパンを買収するなど総合小売り路線を進めてきた。ただ、最近はアクティビスト(物言う株主)がそごう・西武の株式売却を求めるなど、総合小売り路線の修正が課題となっていた。セブン&アイは懸案だったそごう・西武売却にめどを付け、今後は主力のコンビニ事業への投資を一層集中させる。
 すでに21年5月には約2兆円を投じて米ガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」を買収しており、23年2月期決算では米コンビニの好調を受けて日本の小売業で初めて売上高が10兆円を超える見込みだ。

【ロシア国防相、ヘルソン州西岸からの撤退を命令】
 10日昼の日経速報メールは次のように報じた。
 ロシアのショイグ国防相は9日、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川西岸からの軍の撤退を命じた。西岸地域にはロシアが2月の侵攻開始以来、唯一占領した州都であるヘルソンがあるが、攻勢を強めていたウクライナ軍に奪還される。ロシアは軍事的にも政治的にも大きな打撃を受ける。
 タス通信によると、ショイグ氏は9日、軍事侵攻を指揮するスロビキン司令官に対し「軍撤退に着手し、兵員や武器などを安全に川の向こう(東岸)に移動させるようすべての措置を講じるよう」命じた。
 これに対して、スロビキン司令官はショイグ氏に、できるだけ早く撤退を完了すると答えたうえで、ドニエプル川東岸で守備体制を固めると述べた。
 欧米の支援を受けるウクライナ軍は10月下旬、ヘルソン州で多数の集落を奪還したと発表するなど、軍事攻勢を強めていた。9月中旬には東部ハリコフ州で占領されていた地域の奪還に成功しており、ドニエプル川西岸も奪還すれば、大きな戦果となる。

【旧統一教会の被害者救済新法成立 不当な寄付勧誘に罰則】
 10日夕方の日経速報メールは次のように報じた。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者の救済に向けた新法や改正消費者契約法などが10日の参院本会議で可決、成立した。与党や立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などが賛成した。
 宗教団体などの法人を対象に不当な寄付の勧誘を禁止し、違反を繰り返せば1年以下の懲役や100万円以下の罰金といった刑事罰を科す。
 岸田文雄首相は10日、臨時国会の閉幕を受けた記者会見で「被害者が制度を利用しやすい環境を早急に整備する」と述べた。
 与党が野党の修正要求の一部を受け入れ、10日の会期末までの成立にこぎ着けた。参院事務局によると本会議を土曜に開くのは前日から日付をまたいで審議した例を除き細川護熙政権の1994年1月以来。
 新法は宗教法人などの団体が勧誘する際に「個人の自由な意思を抑圧しない」といった3つの「配慮義務」を定めた。配慮義務を怠った宗教法人などには行政機関が勧告し、従わなければ法人名を公表できる。
 不当な勧誘による寄付に関し、最長10年間は取り消しを認める規定を設けた。子どもや配偶者が本人に代わって取り戻しやすくする。過去の被害額のほか子どもや配偶者が将来受けるべき生活費や養育費などを請求できる。
 首相は国会答弁でマインドコントロール下にある人による寄付は「取り消し対象になる」と明言した。
 同時に成立した霊感商法の被害を救済するための改正消費者契約法では霊感商法による契約を取り消せる期間を延長した。契約締結から5年、被害に気づいてから1年という規定をそれぞれ10年、3年に延ばした。
 改正前の規定に基づく時効が成立していない契約は取り消し期間の延長を遡及して適用する。取り消せる霊感商法の範囲はこれまでの「不安をあおる」場合だけでなく「不安を抱いている」ことに乗じた手法に広げた。

【サイバー防衛で法整備、平時から攻撃元監視 防衛3文書】
 11日早朝の日経速報メールは次のように報じた。
 政府はサイバー攻撃を未然に防ぐための法整備に乗り出す。有事にならなければ対応できない現行法を改め、兆候段階でも攻撃元に監視、侵入などで対処する「能動的サイバー防御」を実現する。海外では平時から不審なアクセスをしてくるシステムの内部に侵入し必要ならデータを破壊している。経済活動への影響が大きくなっているのを踏まえ日本も対策を急ぐ。
 憲法9条の専守防衛や21条の通信の秘密に沿って限定的だった日本のサイバー政策の転換点となる。電力や金融といった民間インフラの防御にも国が関与できる体制づくりを進める。
 政府が10日に与党に示した国家安全保障戦略など防衛3文書の概要で明記した。3文書は月内に改定を閣議決定する。
 新たな法整備は有事になる前に相手側のシステムの監視、侵入を可能にすることを念頭に置く。反撃して攻撃を無力化するといった行為に道を開く可能性がある。
 2023年初めから与党で関連法改正や新法の議論を始める。国家安保戦略の骨子に「新たな取り組み実現のために法制度の整備、運用の強化を図る」と盛り込んだ。サイバー安保の対応力を「米欧主要国並みに強化」するとも言及した。
 いまは日本が武力攻撃を受け自衛隊に防衛出動などが発令されない限り、攻撃の兆候だけを理由に相手のシステムを監視や侵入、反撃するのは難しい。
 不正アクセス禁止法は攻撃元の組織のシステムに侵入してデータを消去したり取り返したりすることを違法とする。他人のIDやパスワードを入手し、本来は利用権限がない情報機器を動かすことなども禁じる。
 ウイルスなどの作成を制限する刑法の規定に抵触する恐れがある。
 ロシアによるウクライナ侵攻では政府機関や民間インフラを狙ったサイバー攻撃が相次いだ。日本の現体制では防げないとの見方が多い。
 米欧のサイバー防衛は攻撃を未然に防ぐ「アクティブディフェンス(積極的防御)」を標準戦術とする。相手のネットワークやシステムへの侵入やデータやファイルの破壊を禁止していない。 
 骨子には「武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラなどに対する安全保障上の懸念を生じさせる攻撃の恐れがある場合」を想定し、被害が発生する前に悪意のあるソフトウエアを停止させることを含む「能動的サイバー防御」の導入を記した。
 サイバー防御を指揮する司令塔機能を担う組織の新設に向け、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を発展的に改組する。
 現在、事業者に委ねているインフラ施設の防護については「サイバー攻撃を受けた場合、政府から民間事業者への対処調整・支援の取り組みを強化する」と盛った。国際法に違反しないよう監視や反撃などで政府が動ける範囲を慎重に見極める。 
 国家安保戦略は台湾有事の可能性などを踏まえ、日本が自立した防衛体制をとれるよう13年12月の策定以来、初めて改定する。
 政府は23~27年度の防衛費の総額を43兆円まで増やす。27年度には公共インフラや科学技術研究費なども含め現在の国内総生産(GDP)比で2%を達成する目標を持つ。
 相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有し、行使には米軍と協力する。米国に打撃力の役割を任せてきた戦後の安保政策を転換する。専守防衛を堅持し「必要最小限度の自衛措置」と位置づける。
 反撃能力の手段として相手のミサイル基地へ届く長射程のミサイルを保持する。5年間で5兆円の予算を確保する。あらゆる空からの脅威に反撃も含めて対処する「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」への転換も掲げる。  
 中国の情勢認識は国家安保戦略で「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけ、中国の軍事行動を「深刻な懸念事項」とする案がある。自民党は自衛隊の作戦基盤となる「国家防衛戦略」に「脅威」と書き込むよう求めており与党で調整を続ける。
 政府は国家安保戦略を実現するための「防衛力整備計画」に陸海空3自衛隊の部隊を一元的に指揮する「常設統合司令部」を創設する方針を書き込む。有事に指揮に専念する組織を設け、備えを万全にする狙いがある。統合司令部のトップになる司令官は米軍との調整役を担う。日米の一体運用を進める。

【防衛増税の財源に「復興所得税」案 政府・与党、法人・たばこ税も】
 12日の朝日新聞夜ニュースレターは次のように報じた。
 防衛費増額の財源について、政府は27年度には増税で年1兆1千億~1兆2千億円を確保する方針だ。増税の開始時期は24年度以降とし、27年度に向けて段階的に増税する。

 特に議論を呼びそうなのが所得税だ。復興財源として税額に2・1%を上乗せしている「復興特別所得税」の仕組みを転用する方針。13~37年の25年間で約7・5兆円を確保する予定だ。この期間を延長した上で復興にあてる税率を引き下げ、その分を防衛財源として使えるようにする案が出ている。

 岸田首相は「現下の家計を取り巻く状況に配慮し、個人の所得税の負担が増加するような措置は行わない」と明言し、追加の負担は生じないと説明する。ただ、実際は増税にほかならない。また、復興にあてる財源は期間延長によって減らさないとはいえ、被災地支援のために負担していた税の一部が実質的に防衛費増額に使われることに対しての反発もある。

 大部分の負担を求める法人税の21年度の税収は約13兆円。仮に6%の上乗せを課すと単純計算で約8千億円になる。与党内は、中小企業の負担を減らす措置を求める声がある。ただ、6割の企業は欠損金(赤字)が生じており、もともと法人税を納めていない。

 たばこ税は国税と地方税の2区分があり、国税分の税収は約1兆円。紙巻きたばこより割安となっている加熱式たばこの税額を引き上げる案がある。

 防衛の財源をめぐって岸田首相は10日の記者会見で「5年後も安定した財源が不可欠。この点まで国債(借金)でというのは、未来の世代に対する責任として取りえない」と語った。

 防衛のために国債を発行しないともとれるが、自民党の萩生田光一政調会長は「(今後の)5年間、財源はあらゆる選択肢を排除しない」と述べ、国債も視野にあることを強調した。

【ローカル線利用者「値上げやむなし」8割超 1万人調査】
 13日の日経ニュースメール(地域再生エディター 桜井佑介)は次のように伝えた。
 赤字路線「維持」87%、「廃止」12% 路線維持に理解
 利用路線の赤字経営が続いている場合の存廃について聞いたところ、「(どちらかと言えば)維持すべきだ」は計87.7%に達した。一方、「(どちらかと言えば)廃止すべきだ」は計12.3%で、理由(複数回答)は「赤字が膨らめば公費負担を増やす懸念がある」(45.6%)が最多。「他の交通手段(マイカー含む)で間に合う」(42.9%)が続いた。
 2022年はローカル線の存廃問題が大きく動いた。JR西日本、JR東日本が夏までに個別区間の赤字額を初めて公表し、JR東海を除く旅客5社が足並みをそろえた。国土交通省の有識者検討会は「輸送密度(1キロメートルあたりの1日平均利用者数)1000人未満」などの目安を示し、利用の少ない路線は存廃の協議に入るよう求めた。
 今回の調査対象とした95社の多くが、JRなら存廃協議入りの目安とされた水準を下回る区間を抱えるとみられる。人口減の定着に新型コロナウイルス禍で拡大した在宅勤務も追い打ちをかけ、多くのローカル線は利用拡大に展望を開けていない。大多数の利用者による存続の支持が明らかになり、値上げを含めて経営の選択肢も増える。
「値上げなら廃線」2%どまり 経営難が広く浸透 
 利用するローカル線の運賃値上げに賛否を聞いたところ、計85.5%が「やむを得ない」と答えた。「初乗り50円未満の値上げなら」(35.3%)を筆頭に、「混雑時など特定の時間帯なら」(23.3%)が続き、初乗り50円以上の値上げ容認も計26%に達した。「値上げするなら利用をやめる、または利用頻度を減らす」は11.2%、「値上げをするくらいなら廃線にすべきだ」は2.0%にとどまった。
 2022年は遠州鉄道(静岡県)などが運賃を引き上げ、23年以降の計画表明も相次ぐ。1987年の国鉄民営化後はJRが5回、私鉄大手が16回(消費増税分含む)にとどまっている値上げの環境は一変している。ローカル線経営の悪化が広く浸透し、値上げへの拒否反応が薄れた背景もある。
 国交省の有識者委員会は、鉄道各社が柔軟な運賃体系を導入できる制度の検討も提言した。赤字が続く鉄道会社には経営改善のための自助努力を求める一方、人口減の現実を正面から受け止めて国が経営支援に本腰を入れる機運は小さい。ローカル線への国の政策については「非常に不満」「不満」が計4割を超え、最多の「どちらとも言えない・わからない」(47.3%)に迫った。

【核融合でエネルギー純増 米政府が「画期的成果」発表】
 14日未明の日経ニュースメールは次のように報じた。
 次世代のエネルギー技術として2040年代以降の実用化が期待される核融合の研究で飛躍的な進歩があった。米エネルギー省が13日、実験で核融合を起こすために投入した分を上回るエネルギーを取り出せたと発表した。脱炭素につながる夢の技術の重要な一歩になる。 
 核融合は太陽と同じ反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。水素の仲間同士の原子核が融合する際に発生する大きなエネルギーを熱として発電などに有効利用する。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーが出る。脱炭素の切り札になると期待の声が高い。
 水素燃料の粒子をレーザーで照射する実験で、発生したエネルギーが投入量を上回る「純増」を初めて達成した。2.05メガジュールのエネルギーを供給したところ、1.5倍の3.15 メガジュールの出力が得られたという。21年夏時点では、得られたエネルギーは70%止まりだった。研究が加速している。
 米エネルギー省のグランホルム長官は記者会見で「歴史に残る画期的な成果だ」と強調した。研究を重ねてきたローレンス・リバモア国立研究所のブディル所長は「核融合の実現の追求は最も重要な科学的課題のひとつだった。これは科学や工学、人類の勝利だ」と述べた。
 まだ基礎的な実験の成功にとどまり、商用化がなお遠いことは変わらない。一時的な「点火」に成功しても、発電や熱利用には核融合反応を継続する必要がある。商用化には数十年かかるとみられている。グランホルム氏は「商用化を目指す野心的な10年戦略を立案する」と述べた。
 核融合は大きく二つの方式がある。これまで日欧を中心に進めてきたのは、核融合に必要なプラズマ状態を磁場コイルでつくる「トカマク型」の研究開発だ。日米欧のほか中国やインドも参加する国際熱核融合実験炉(ITER)でも採用している。核融合の燃料になる水素の一種「トリチウム」を使ってエネルギーを取り出すには至っていない。
 米国が発表したのはレーザー技術という別の方式だ。大阪大学でレーザー核融合を研究する重森啓介教授は「ITERのような国際プロジェクトはないが、個々の研究機関やスタートアップ企業との連携が盛ん。今回の成果で投資が集まり実用化が早まることもあり得る」と話す。 
 日本が原子力政策に盛り込んでいる核融合の実用化はITERの技術を前提にしている。米主導でレーザー型が先行すれば戦略の見直しを迫られる可能性もある。
 核融合も放射性廃棄物が出る点は通常の原発と変わらない。世界では東京電力福島第1原子力発電所事故の後、原子力技術へ懐疑的な見方が強まった。電力源としての安全性や経済合理性は、再生可能エネルギーや蓄電池の技術とも競争になる。核融合の商用化へ乗り越えるべき課題はなお多い。

【NISA投資枠が年360万円に拡大、貯蓄からシフト加速】
 13日未明の日経ニュースメールは次のように報じた。
 少額投資非課税制度(NISA)の投資枠が2024年から合計360万円に広がる。政府・与党はつみたて型の年間枠を現行の3倍の120万円、一般型は2倍の240万円に拡大する。制度の恒久化と非課税期間の無期限化とあわせ、貯蓄から投資の流れを加速する。
  政府はつみたてNISAと一般NISAの投資額を今後5年で合計56兆円に倍増させる目標を掲げた。口座数も2倍の3400万をめざす。制度の恒久化に加え、配当金などに税金がかからずに投資できる期間の無期限化、投資枠の拡大で後押しする。
 つみたてNISAの現行の年間枠は40万円で、毎月の上限額は3万3333円だ。インターネット証券会社などからは「より多く投資したいという顧客ニーズに応えられていない」という声が出ていた。
 一般NISAを衣替えする「成長投資枠(仮称)」の年間枠も現在の120万円から240万円に引き上げる。退職金などまとまったお金を投資に回しやすいようにする。
 一般型は23年末に廃止し、つみたて投資した人だけが個別株に投資できる「2階建て」制度に移行する予定だった。複雑な制度が普及を阻みかねないため、この計画を撤回する。成長投資枠とつみたて型に同時に投資でき、使い勝手は良くなる。
自民党税制調査会には一般NISAの拡充に否定的な意見もあった。損失リスクの高い株式への投資に使われているとの指摘のほか、販売手数料目当ての証券会社による顧客の勧誘を問題視する声があった。リスクが高い監理銘柄や整理銘柄、償還までの期間が短い投資信託は対象から除外する。
 非課税の生涯投資枠は1800万円とし、このうち成長投資枠は1200万円までとする方向で調整している。成長投資枠に300万円投資した人の場合、つみたて型は1500万円が上限となる。
 株の配当金や投信の分配金などから得る資産所得は米欧に見劣りする。ニッセイ基礎研究所によると、日本の1人あたりの資産所得(19年)は1800ドル(約25万円)と7900ドルの米国の4分の1にとどまり、ユーロ圏の2600ドルも下回った。
投資を促す税制優遇の違いが大きい。米国や英国は家計金融資産のうち税制優遇制度を通して保有する資産が約2割あるが、日本は2%だ。
NISAが手本とした英国のISA制度は年間投資枠を2万ポンド(約330万円)としており、日本が上回る。

【見えてきたTSMC熊本新工場 主要4棟、投資1兆円】
 13日午前、日経速報メールは次のように伝えた。
 半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の日本への工場進出が決まってから1年あまり。熊本県菊陽町ではおよそ1兆円を投じる工場の建設が2024年12月の出荷開始に向け、急ピッチで進んでいる。巨大工場の全容が徐々に見え始めてきた中、地域の経済や雇用の底上げへの期待も膨らんでいる。
 「工場の建設工事は非常に順調に進んでいる」。TSMC子会社で新工場を運営するJASM(熊本市)の堀田祐一社長は10月、建設現場を訪れた西村康稔経済産業相にこう説明した。通常なら3年くらいかかるような作業などを、1年半程度で済ませるとしている。
 2022年春に着工したTSMCの新工場は敷地面積が約21.3ヘクタールと、東京ドーム4.5個分に相当する広さがある。このほど明らかになった工場の完成イメージによると、広大な敷地には4つの棟とガスヤード、従業員らが使用する駐車場などの施設ができる。
 まずはJASMの本社機能などが入る「オフィス棟」がある。同社は現在、熊本市内に本社を置いているが、工場完成後は同棟に移る計画だ。「FAB棟」は工場を意味し、広大な敷地内でも最大規模の施設となる。クリーンルームをはじめ半導体製造を担うさままざな設備が入る生産現場となる。

【思わぬ転倒事故】
 14日(水曜)の6時ころだったか、夕方の散歩の帰り、自宅マンション入口の小さな段差に足をとられて前のめりに転び、顔面を打った。若い頃に習った柔道のおかげで咄嗟に受け身を取ったものの、床に顔面を痛打した。
 幸運が重なり、たまたま通りかかった世田谷区管内の救急車で近所の日本医科大学付属病院へ救急搬送され、治療と検査に4時間ほどかかり、右目の上と口内を3か所縫合して、釈放された。抜糸は1週間後、念のためとホルター式心電図の装着と検査を行い、2週間後の12月29日(木)に総合結果を聞きに行った。
 これで平常の生活に戻れるかと思い尋ねると、「1ヵ月はかかるでしょう。……お年を考えてください」と宣告され、ハッと我が身に帰った。以降、ブログ記事に乱れや欠落等があるのは、このためである。

【トヨタ、愛知の工場で風力発電 自家消費型で国内最大級】
 14日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 トヨタ自動車は2023年に愛知県の工場で風力発電の設備を稼働させる。高級車「レクサス」を生産する田原工場(愛知県田原市)に出力21.5メガワットの設備を整備する。工場内の電力消費に特化した「自家消費型」の風力発電としては国内最大級となる。トヨタが目指す35年までに世界にある全工場のカーボンニュートラル(温暖化ガスの実質排出ゼロ)を達成するための足がかりにする。
 直径120メートル、高さで最高145メートルの風車を5基設置する。これらの設備を通じ、工場で消費する電力の15%以上をまかなう。年換算した発電量はおよそ43ギガワット時と、一般家庭約1万世帯分の電力使用量に相当する。
 トヨタは15年ごろから計画の構想を始め、工場周辺の住民や鳥類に配慮する環境影響の評価を経つつ、仕様を固めてきた。当初は21年ごろの稼働を目指していたが、新型コロナウイルスの影響により工事が遅れていた。
 田原工場の発電設備は国内の陸上風力発電所と比べても中規模のレベルとなる。「国内では、外部への売電を目的とせず、自前の工場向けに風力発電をする時点で珍しい。同様の事例では最大級の規模」(日本風力発電協会)という。

【ウクライナ攻撃ドローン部品に「メイド・イン・ジャパン」 なぜ転用】
 15日の朝日新聞朝ニュースレターは次にように報じた。
 ウクライナを攻撃するのに使われたドローン(無人航空機)の実物があるという。特別に取材できないか。ウクライナ軍から、取材に応じると連絡があったのは11月下旬だった。
 ドローンは、首都キーウ中心部から離れた軍情報局の施設に保管されていた。ウクライナを攻撃するのに使われたドローン(無人航空機)の実物があるという。特別に取材できないか。ウクライナ軍から、取材に応じると連絡があったのは11月下旬だった。
 ドローンは、首都キーウ中心部から離れた軍情報局の施設に保管されていた。
 施設内の木の床に、大人の背丈ほどの白いドローンが転がっている。ある機体は先端が破壊され、ぱっくりと欠けていた。
 別の機体は、エンジン部分に直径5センチほどの穴が開いていた。
 目出し帽をかぶった軍情報局員が説明した。「ドローンはイラン製だ」とも付け加えた。目出し帽の男性は同局のドローン専門家という。
 ロシアによるウクライナ侵攻で使われたドローンのうち、ウクライナ軍は、撃ち落とすなどして原形をとどめたものを保管し分析を進めている。
 施設内の木の床に、大人の背丈ほどの白いドローンが転がっている。ある機体は先端が破壊され、ぱっくりと欠けていた。
 別の機体は、エンジン部分に直径5センチほどの穴が開いていた。
 目出し帽をかぶった軍情報局員が説明した。「ドローンはイラン製だ」とも付け加えた。目出し帽の男性は同局のドローン専門家という。
 ロシアによるウクライナ侵攻で使われたドローンのうち、ウクライナ軍は、撃ち落とすなどして原形をとどめたものを保管し分析を進めている。

【ソニー、熊本に半導体新工場 数千億円投資】
 15日晩の日経速報メールは次のように報じた。
 ソニーグループは熊本県内に半導体の新工場を建設する検討を始めた。数千億円を投じてスマートフォン向けの画像センサー工場を建設し2025年度以降に稼働させる。世界的に画像センサーの需要が高まっているため、半導体の自国生産を強化する。ソニーは熊本に進出する台湾積体電路製造(TSMC)からセンサーに使う半導体を供給してもらう計画。近隣に工場を新設することで、センサー生産の一貫体制を構築する。
 複数のサプライヤーや地元関係者に新工場建設の意向を伝えた。半導体事業会社のソニーセミコンダクタソリューションズの熊本工場(熊本県菊陽町)の近くで同県合志市が計画する新しい工業団地内を候補地として検討する。
 早ければ24年に着工し25年度以降の稼働を想定する。世界的な景気後退への懸念から、ソニーは建設時期や投資の規模を慎重に見極める方針だ。
 熊本の既存工場の近くでは半導体受託生産の世界最大手TSMCの製造子会社でソニーとデンソーも出資するJASM(熊本市)が新工場を建設中だ。同工場は24年末に稼働し、画像センサーに必要なデータを演算処理するロジック半導体を生産する。ソニーは25年から本格的にTSMCの新工場からロジック半導体の供給を受ける体制が整うことを踏まえて自社の新工場を設ける。
 ソニーの熊本工場は画像センサーの主力拠点の一つでスマホや車載、産業向けのあらゆるセンサーをつくる。22年4月時点の従業員数は約3300人でソニーの半導体工場で最大規模だ。13日には米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が来訪するなど技術面での国際的な関心が高い。
 ソニーはスマホのカメラや自動車の車載センサーなどに使われるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)画像センサーの世界首位。
 英オムディアによれば21年の金額ベースの世界シェアは44%と韓国サムスン電子(18%)を上回る。
 スマホの出荷台数は成長が頭打ちながら高級機種向けではセンサーが大型になり搭載数も増える。人物やその動きを3次元(3D)データ化して自由な視点から見る新技術「ボリュメトリック映像」のほか、車向けの自動運転や省人化のニーズで工場など産業向けでも画像センサーの需要は増える。米ICインサイツは26年のCMOS画像センサーの世界市場が21年比3割増の269億ドル(約3兆6千億円)になると予測する。

【反撃能力保有を閣議決定 防衛3文書、戦後安保を転換】
 16日午後の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は16日、国家安全保障戦略など新たな防衛3文書を閣議決定した。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有し、防衛費を国内総生産(GDP)比で2%に倍増する方針を打ち出した。国際情勢はウクライナ侵攻や台湾有事のリスクで急変した。戦後の安保政策を転換し自立した防衛体制を構築する。米国との統合抑止で東アジアの脅威への対処力を高める。
 外交・防衛の基本方針となる安保戦略を2013年の策定以来初めて改定した。新たな国家防衛戦略と防衛力整備計画も決定した。岸田文雄首相は16日の記者会見で「現在の自衛隊の能力で日本に対する脅威を抑止し国を守り抜けるのか。十分ではない」と語った。
 安保戦略は日本の環境を「戦後最も厳しい」と位置づけた。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮や中国の軍事的な脅威にさらされており「最悪の事態も見据えた備えを盤石にする」と明記した。
 米国は国際秩序を乱す動きに同盟国と一丸で対処する「統合抑止」を掲げる。自衛隊は今まで以上に米軍との一体運用が求められ、安保戦略で実現の道筋を示した。
 反撃能力の保有は3文書改定の柱だ。「敵基地への攻撃手段を保持しない」と説明してきた政府方針を転換した。首相は16日「抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる」と訴えた。
 反撃能力の行使は「必要最小限度の自衛措置」と定め、対象はミサイル基地など「軍事目標」に限定する。国産ミサイルの射程をのばすほか、米国製巡航ミサイル「トマホーク」も購入する。
 日米同盟のもと日本は「盾」、米国は「矛」の役割分担で反撃能力を米軍に頼ってきた。自衛隊のこれからの戦略は、迎撃中心のミサイル防衛体制から米軍と協力し反撃も可能な「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」に移行する。
 サイバー防衛は兆候段階でも攻撃元に監視・侵入などで対処する「能動的サイバー防御」に言及し、法整備の必要性に触れた。日本のサイバー防衛は攻撃を受けた後の対応に重点を置く。米欧のような反撃の仕組みも整っていない。
 3文書は陸海空の自衛隊と米軍との調整を担う「常設統合司令部」の創設を初めて盛り込んだ。中国を意識し自衛隊の「継戦能力」の強化も提起した。防衛装備品の部品や弾薬などの調達費を現行予算から2倍に増やす。
 自衛隊の組織は沖縄方面の旅団を格上げする。台湾有事で重要となる空と海の自衛隊員を増やすため、陸上自衛隊から人員を2000人振り替える。宇宙防衛を強化する目的で航空自衛隊は「航空宇宙自衛隊」に組織改編する。
 中国の現状認識を巡っては安保戦略に「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入などを踏まえ、現行戦略の「国際社会の懸念」から書きぶりを強めた。米欧の戦略と表現をそろえた。
 防衛費は23~27年度の5年間の総額で43兆円に増やす。現行計画の1.5倍に相当する。27年度には公共インフラや科学技術研究費など国防に資する予算を含めて現在のGDP比で2%に近づける。
 日本の防衛費は1976年に当時の三木武夫政権で国民総生産(GNP)比で1%の上限を設けた。それ以降はほとんど1%を超えてこなかった。米欧と同水準まで規模を広げて防衛力強化を対外的に示す。
 日本政府は冷戦期の緊張緩和(デタント)を背景に76年に初めて「防衛計画の大綱」をつくった。当時掲げた均衡の取れた最小限の防衛力整備をめざす「基盤的防衛力構想」からの脱却をはかる。
 首相は2023年1月に米国訪問を調整している。バイデン米大統領との会談で日本の防衛力強化の内容を直接伝える見通し。

【岸田首相「防衛力強化が外交の説得力に」 記者会見】
 16日晩の日経ニュースメールは次のように報じた。
 岸田文雄首相は16日、首相官邸で記者会見した。閣議決定した国家安全保障戦略など防衛3文書について説明した。「防衛3文書とそれに基づく安全保障政策は戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と述べた。
 「日米同盟を基軸とし、積極的な外交をさらに強化する」と訴えた。「日本に好ましい国際環境を実現するにはまず外交力だ。外交での説得力にもつながると考えて防衛力を整備している」と説いた。 
 「近年、国と国の対立、むき出しの国益の競争が顕著になった」と指摘し「グローバル化の中での分断が激しくなっている。分断が最も激しく表れたのがロシアによるウクライナ侵略という暴挙だ」と語った。
 3文書は相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有や、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やす方針を盛り込んだ。
 「27年度には抜本的に強化された防衛力と、それを補完する取り組みをあわせてGDPの2%の予算を確保する。そのための安定した財源を確保する」と話した。
 財源に関して「今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきと考えた」と言及した。「戦闘機やミサイルの購入を借金でまかなうのが本当に良いのか、自問自答を重ねた。やはり安定的な財源を確保すべきと考えた」と、増税への理解を求めた。
 「将来、国民に負担をいただくのが明らかであるのにもかかわらず、それを今年示さないのは説明責任を果たしたことにならない」とも説明した。
 増税には法人、所得、たばこの3税を充てる方針を示した。法人税は本来の税率を変えず、納税額に特例分を足す「付加税」方式をとると説き「税率に換算すると1%程度だ」と強調した。中小企業に配慮し、対象は全法人の6%弱にとどまると触れた。法人税の増税は「余力のあるところにはできるだけ協力いただきたい」と呼びかけた。
 同時に「来年から実施するわけではない。複数年にかけて段階的に実施し、開始時期などの詳細はさら 与党で議論を続け、来年決定する」と述べた。
 東日本大震災の復興特別所得税については税率を1%下げて期間を延長する方針を示し「復興財源の総額は確実に確保する」と約束した。「息の長い支援を続けなければならない」と主張した。
 GDP比2%の水準を巡っては「数字ありきの議論をしてきたことはない。総合的な防衛体制を強化するための経費を積み上げた。積み上げの考え方が大前提だ」と訴えた。
一方で「北大西洋条約機構(NATO)をはじめ、各国は安保環境を維持するために経済力に相応の国防費を支出する姿勢だ。国際社会の平和と安定を守る上で、国際社会の協力が重要だ」とも語った。
 東日本大震災の復興特別所得税については税率を1%下げて期間を延長する方針を示し「復興財源の総額は確実に確保する」と約束した。「息の長い支援を続けなければならない」と主張した。
 GDP比2%の水準を巡っては「数字ありきの議論をしてきたことはない。総合的な防衛体制を強化するための経費を積み上げた。積み上げの考え方が大前提だ」と訴えた。
一方で「北大西洋条約機構(NATO)をはじめ、各国は安保環境を維持するために経済力に相応の国防費を支出する姿勢だ。国際社会の平和と安定を守る上で、国際社会の協力が重要だ」とも語った。
 防衛戦略の転換を憲法の範囲内で進める意向も示した。「非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と明言した。
 「我々一人一人が主体的に国を守るという意識を持つことの大切さはウクライナの粘り強さがよく示している」と強調した。「未来の世代に責任を果たすために国民の皆様のご協力をお願いする」と協力を求めた。
 政府・与党の決定過程に関しては「3文書、防衛力の抜本強化は1年以上にわたる丁寧なプロセスがあり、問題があったとは思っていない」と振り返った。「財源は考え方を示した上で、自民、公明両党の税制調査会に結論を出してもらった。それに基づいて閣議決定した」と説いた。
 日米ガイドラインの変更を巡っては「現時点で何ら決まっていることはない。日米間のあらゆるレベルで緊密な協議を進める」と述べるにとどめた。
 首相は自衛隊の能力について「率直に言って現状は十分ではない」「防衛体制が質・量ともに十分なのかという点が議論の背景にあった」と紹介した。「脅威が現実となったときに、現在の自衛隊の能力でこの国を守り抜けるのか。極めて現実的なシミュレーションをした」と言及した。
 北朝鮮による相次ぐミサイル発射などを挙げ「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は不可欠となる能力だ」と力説した。「歴史の転換期を前にしても国家、国民を守り抜くとの首相としての使命を断固として果たしていく」と訴えた。
 反撃能力の行使に関して「相手からのミサイル攻撃を受けた場合という定義付けか」との質問が挙がった。首相は「安全保障の機微に触れる」と回答しなかった。
 政府は今後5年間の防衛費を現行計画のおよそ1.5倍の43兆円程度に増やす。首相は防衛力の強化で「武力攻撃そのものの可能性を低下させることができる」と明言した。
 南西諸島を守る自衛隊の部隊を倍増し、輸送機や船舶を増強すると表明した。「有事の際の国民保護の観点から重要だ」と説明した。海上保安能力の向上などで「総合的な国力を活用し、日本を全方位でシームレスに守っていく」と唱えた。
 中国の軍事動向について「国際秩序を強化する上での挑戦と認識している」と指摘した。日中が安定的で建設的な関係を構築することが「国際社会の平和と安定に不可欠だ」と話した。
 防衛装備品の輸出促進も訴えた。「重要な政策ツールだ。防衛産業の基盤の維持・強化にも効果的だ。移転三原則、運用指針をはじめとする制度の見直しは与党と調整して結論を出さなければならない」と主張した。
 防衛力強化の意義を「円滑な経済活動に直接資する」とも表現した。シーレーンの確保やサプライチェーン(供給網)の維持のほか、抑止力の強化で市場のかく乱リスクが減ると例示した。
 防衛装備品の輸出促進も訴えた。「重要な政策ツールだ。防衛産業の基盤の維持・強化にも効果的だ。移転三原則、運用指針をはじめとする制度の見直しは与党と調整して結論を出さなければならない」と主張した。
 防衛力強化の意義を「円滑な経済活動に直接資する」とも表現した。シーレーンの確保やサプライチェーン(供給網)の維持のほか、抑止力の強化で市場のかく乱リスクが減ると例示した。
 自民党が防衛増税を巡る首相発言を修正したことについて、実際には「今を生きるわれわれが未来の世代に責任を果たすためにご協力をお願いしたい」と発言していたと主張した。
 党は当初「今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」との発言を紹介していた。
 首相秘書官が訂正を要請した経緯を巡っては「事務的なミスが原因だ」と語った。発言の趣旨については「私たちの世代が責任を果たしていくことの大切さを訴えた」と説明した。
 経済政策に関して国内への民間投資を増やす策を問われると「22年度第2次補正予算で7兆円規模の戦略的な投資支援を盛り込んだ」と紹介した。経済安保やサプライチェーンの安定性などの面で「投資先としての日本の魅力は高まっている」との認識を示した。
 「今議論しているのは、国民の命、暮らし、事業を守るために日本の防衛能力を抜本強化する、こうした話だ」と語った。「賃上げや設備投資は岸田政権の経済政策の最重要課題だ」と、経済界に理解を求めた。

【安保政策転換、問われる優先度 防衛3文書に映る課題】
 17日午後の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 政府は防衛3文書に新装備の導入や自衛隊の体制拡充を盛り込んだ。サイバー防衛の具体策を詰めるのは2023年以降で、反撃能力の手段である長射程ミサイルの配備は最短で26年度になる。北朝鮮など現実的な危機が迫るなかで、政策の優先度と実行力が問われる。
 岸田文雄首相は16日の記者会見で3文書改定の重要項目として反撃能力やサイバーなど新領域への対応を挙げた。「日本の能力を量・質両面で強化する」と説明した。
 3文書はサイバー空間で攻撃兆候の探知や発信元の特定をして事前対処する「能動的サイバー防御」に初めて触れ、導入を明記した。
 政府はこれから①攻撃を受けた民間企業による政府への情報共有②通信事業者が持つ情報の活用③相手システムに侵入する権限の付与――の3点を検討する。
 実現には憲法21条の「通信の秘密」との整理や法改正が不可欠だ。  
 事業者が保有する通信網の情報を使えば攻撃元が探知しやすくなる。相手システムへの攻撃も可能になれば重大な被害を未然に防げる。
 米欧の主要国はサイバー防衛で先行する。重要インフラの停止など脅威度が増すサイバー攻撃への対応は優先度が高いと考えるためだ。
 政府は23年にも内閣官房にサイバー防衛の司令塔を新設し、どこまで情報の活用が可能か議論に入る。慶大の神保謙教授は「能動的サイバー防御の導入方針は画期的だが、法整備に数年はかかるだろう」と語った。
 人員の確保も課題だ。自衛隊は27年度までに専門人材を現在の4倍以上の4000人規模に増員する。民間からの登用には情報の保秘体制や報酬の面で壁がある。優秀な人材は民間企業との奪い合いになる。

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 新防衛3文書が「最優先課題」に掲げたのは戦闘機や艦艇の修理などに使う部品と弾薬の備蓄拡大だ。自衛隊は部品不足が常態化し、装備の稼働率は5割強しかない。
 他の機体向けに部品を流用する「共食い」整備は航空自衛隊だけで年3400件もある。防衛省は23~27年度に投じる単体予算43兆円のうち9兆円をかけて5年以内にこうした状況を解消する。
 弾薬は中長期の戦闘に十分な量に足りていない。備蓄の7割は北海道に偏在し、台湾有事で影響が避けられない南西諸島の防衛に不安が残る。
 「有事になれば戦えずに負ける」との声さえあがる状況の是正が急務だが、火薬庫を新設するための地元自治体との調整は難航しがちだ。
 能力強化を巡っても課題は山積する。代表例は相手の脅威圏外から撃つ長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」。相手のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力の手段にもなる。
 中国やロシア、北朝鮮が力を入れる極超音速ミサイルを遠方で迎え撃つ技術は現時点でない。
 地上に落下する局面では最新鋭の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)や迎撃ミサイル「SM6」などで撃ち落とせるが、防御範囲は限られている。
 大気圏外を放物線を描いて飛ぶ弾道ミサイルと異なり、高度100キロメートル以下を方向を変えながら飛ぶ極超音速弾に対処する迎撃弾がなければ、抑止力は十分といえない。
 通常の弾道ミサイルも同時に多数を撃ち込まれればすべてを撃ち落とすのは難しい。迎撃一辺倒では守り切れなくなった現実を踏まえ、日本へ撃てば反撃を受けると認識させて攻撃をためらわせる抑止力を早期に備える必要がある。
反撃能力、配備は2026年度
 反撃能力の保有は「時間との戦い」ともいわれる。戦闘で使われた実績がある米国製巡航ミサイル「トマホーク」を購入しても護衛艦への配備は早くて26年度だ。しばらくは抑止力に穴がある状態が続く。台湾有事のリスクが高まるとされる24年の台湾総統選後には間に合わない。
 中長期の抑止力は極超音速ミサイルの開発が左右する。米国も未開発の段階で、日本が国産の「極超音速誘導弾」を完成させるのは30年代になる想定だ。
 ロシアはすでに極超音速滑空兵器(HGV)を配備し、中国もHGV搭載可能な弾道ミサイル「東風(DF)17」の運用を始めたとされる。
 北朝鮮も極超音速ミサイルと称し発射を繰り返す。新型ミサイルに限れば東アジアの軍事バランスはすでに崩れた。
 限られた予算の中で抑止力強化に効果的な装備や分野を厳選する「賢い支出」という視点は欠かせない。
 防衛力に完全はなく、体制拡充を求めればキリがない。現実の脅威に対処する方策を見定めつつ、費用対効果を同時に検証する作業が求められている。

【ゼロコロナ転換の中国、感染急拡大 息を潜める北京】
 18日午後の日経ニュースメールは次のように伝えた。
 新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和した中国では、首都北京などが感染爆発の様相を呈している。オフィスの出勤者や繁華街の人出は激減し、まだ感染していない市民は外出を控えている。専門家は「来年1~2月に感染のピークを迎える」と予測、医療資源の不足もあり混乱は当面続きそうだ。
 「家にこもり、在宅勤務をする生活が3週間も続いている」。北京の女性会社員、李さん(34)は嘆く。「多くの知人がすでに感染したが、自分はまだ。外出するのがとにかく怖い」と不安を語った。
 普段は観光客や買い物客でごった返す北京の代表的な繁華街「王府井大街」は17日、通行人はまばらで、商業施設は閑散としていた。「北京オフィスの従業員のうち半分以上がコロナに感染しているか、感染の疑いがある」(日系製造業幹部)。出社する従業員は全体の2割以下という。
 中国政府は7日にゼロコロナの大幅な緩和策を発表し、流行地域での全住民を対象としたPCR検査を停止、集合住宅などの封鎖も大幅に減らした。14日には、無症状感染者の人数公表を取りやめた。
 共産党系メディア環球時報の元編集長、胡錫進氏は15日「非公式の推定値では、北京は10日間ほどで数百万人が感染した」とSNS(交流サイト)に投稿した。北京の総人口は約2200万人で、少なくとも1割以上が感染した計算だ。 
 中国政府の公式統計では12月4日以降、コロナ関連の死者はゼロだが、水面下で高齢者を中心に増えている可能性がある。北京のある葬儀場は16日、日本経済新聞の取材に「以前よりも葬儀の件数が増え、順番待ちの状態だ。早くとも26日になる」と答えた。
 広州にある葬儀場の関係者も「ゼロコロナの緩和前、搬送される遺体は多くても1日50人だったが、最近は毎日100人を超える」と話した。取材に訪れると、約30あるホールのほぼすべてが利用中か準備中だった。遺族とみられる人たちや、青い防護服を着た係員の姿が目立った。
 ロイター通信によると、世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するライアン氏は14日、中国では7日の政策転換前から感染の急拡大が進んでいたとの見方を示した。
 最大の経済都市、上海の市当局は19日から小中学校と高校で大半の授業をオンラインとすることを決めた。幼稚園や保育所も同日から受け入れを停止する。
 河南省鄭州市にある、米アップルのスマートフォン「iPhone」の生産を請け負う台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の鄭州工場。報道によると、感染増加の影響などから同工場で働く従業員数はフル生産時の40~50%程度にとどまる。
 複数の関係者によると、主な日系企業では武漢の拠点で従業員の3~4割が、大連でも従業員の2~3割が感染した。
 重慶では病院の発熱者向け診療窓口に行列ができている。解熱剤や体温計、自宅で使用する検査キットなどを薬局やネット通販で購入する人が各都市で急増し、品不足の状態が続いている。
 ゴールドマン・サックスのエコノミスト、フイ・シャン氏らは16日のリポートで感染状況は「12月下旬から1月上旬に感染のピークを迎え、1日の感染者数は500万人~1300万人に達する」と推計した。環球時報によると、武漢でコロナ対策にあたった天津中医薬大学の張伯礼名誉校長も16日「来年1~2月に感染のピークを迎える」と述べた。
 人口14億人の中国では、人口当たりの医師数や病床数の不足、米欧に比べて低いワクチンの有効性や接種率がかねて不安視されてきた。当局は高齢者を中心にワクチン接種を急いでいる。
 香港大の専門家らが14日に発表した論文によると、ワクチン接種が進み治療体制が改善した場合、中国のコロナ死者数は約63万~約70万人、対策が現状維持にとどまる場合は約96万人が死亡すると推計される。
 英医療調査会社エアフィニティも11月28日の報告書で「ゼロコロナを解除すると130万~210万人が死亡するリスクがある」との推計を示していた。
 国際医療福祉大の松本哲哉教授(感染症学)は「これまでに感染して免疫をもった人が少ない状況で対策を緩めたため、一気に広がるのは仕方がない。医療機関の受け入れ態勢が整っておらず、高齢者の重症化率や死亡率が高くなることが懸念される」と話す。
 「自主的に接触機会を減らす取り組みは有用だが、行動制限はこれ以上長続きしないだろう。国外のワクチンを受け入れることも検討すべきだ」とも指摘した。

【マスク氏は「トップ退くべき」 Twitter投票で過半に】
 19日の日経速報メール【シリコンバレー=白石武志】によると、米ツイッターを買収した起業家のイーロン・マスク氏が同社のSNS(交流サイト)上で実施していた自らの進退に関するアンケートの結果が19日、まとまった。ツイッターの「トップを退くべき」との回答が全体の過半数となった。マスク氏は投票結果に従う意向を示しており、退任すればガバナンス(企業統治)の不透明さが増すことになる。
 マスク氏は「ツイッターのトップから退くべきか? 投票結果に従う」と投稿し、「はい」か「いいえ」の二択で回答するよう促すアンケートを実施した。締め切り時間の米西部時間19日午前3時すぎまでに1700万件を超える回答があり「はい」と答えたのが全体の57.5%、「いいえ」は42.5%だった。
 大企業のトップが自らの進退をSNSの利用者らの投票によって決めるのは異例だ。マスク氏がツイッターのほぼすべての株式を保有する状況には変わりなく、同氏が最高経営責任者(CEO)を退任することになれば経営の混乱に拍車がかかる可能性もある。
 マスク氏は2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件を機に永久凍結したトランプ前米大統領のアカウント復活を判断するにあたってもツイッター上でアンケートを実施していた。マスク氏はアンケートによる多数決が「万能」であるかのように語るが、米メディアではSNS上の偏った意見が反映されるなどの課題が指摘されている。
 マスク氏は10月27日に総額440億ドル(約6兆円)でツイッターの買収取引を完了し、同社のCEOに就いた。人員削減などで大なたを振るう一方、性急な経営判断を繰り返して混乱を招いていた。
 先週には他人の位置情報の共有に関連する規約を変更し、米大手メディアを含む一部のジャーナリストらのアカウントを一時凍結した。マスク氏は「自らの居場所をさらして家族に危険をもたらした」と主張したが、報道の自由を脅かしかねない行為には各国・地域の規制当局からも批判があがっていた。
 マスク氏は自らの進退に関するアンケートの実施に先立ち、「今後は大きな指針の変更に際しては投票を実施する」と投稿していた。

【戦争「武力以外が8割」 サイバー防衛、日本は法整備脆弱】
 20日朝の日経ニュースメールは次のように報じた。
 銃弾やミサイルが飛び交うウクライナ侵攻の裏で、世界はサイバー戦争の脅威に震撼(しんかん)した。日本政府は16日に防衛3文書を改定し、ようやくサイバー防衛を強化する方針を示した。実際に国民を守るには法制度や人材、装備を急いで用意しなければならない。
 2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻はその40日ほど前に「開戦」していた。3波に及ぶ大規模なサイバー攻撃だ。まず1月13~14日。「最悪の事態を覚悟せよ」とウクライナの70の政府機関でサイトが書き換えられた。
 2月15日は国防省や民間銀行が標的になる。大量のデータを送りつけてサーバーを止める「DDoS攻撃」だった。第3波は侵攻前日の2月23日。政府機関や軍、金融や航空、防衛、通信など官民のインフラ全般が攻撃を受けた。

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 ロシアには成功体験がある。2014年のクリミア併合だ。侵攻前にウクライナへのサイバー攻撃で通信網を遮断し、官民の重要機関も軍の指揮系統も機能不全にした。ウクライナ軍は実際の侵攻時に対抗できず、短期間でクリミア半島の占拠を許した。
 「非軍事的手段と軍事的手段の割合は4対1だ」。いまもロシア軍を指揮するゲラシモフ参謀総長はクリミア併合前の13年に予告した。現代戦はサイバーや外交、経済などの非軍事面が8割を占めるという意味だ。
 14年の例を踏まえれば今回もすぐに首都キーウ(キエフ)が陥落しかねなかった。国防費は10倍、陸軍兵力も倍以上とリアルの戦力も大差がある。にもかかわらず泥沼は10カ月も続く。
 米欧の武器支援は大きいが、主に春以降だ。序盤にウクライナが持ちこたえたのはゲラシモフ論の「5分の4」に入るサイバーの力が大きい。
 ロシアは14年以降もサイバー攻撃を続けていた。15、16年は電力インフラを攻撃し大規模停電を引き起こした。17年は強力なマルウエア「NotPetya」の攻撃がウクライナを通じて米欧にも被害を与えた。
 もともとウクライナの通信機器はロシア製が多く「バックドア」と呼ばれる侵入路があった。侵入路から米国に打撃が及ぶと、米政府や米マイクロソフトがウクライナの支援に乗り出した。
 防衛策をとる過程でロシア製機器は排除し、米国の盾を獲得した。世界最先端ともいわれたロシアの攻撃に対処し続けた結果、防衛の経験と技術も向上した。今回の3波攻撃が致命傷にならず、ウクライナ軍も機能したのはそのためだ。
 「発覚から3時間以内で対処した」。米マイクロソフトは2月末、今回のロシアによるサイバー攻撃について発表した。攻撃前からロシア内の動向を監視しなければ無理な対応といわれる。
 同社はロシアが侵攻後に日本を含む40カ国以上のネットワークに侵入を試みた、と6月に公表した。「まず検出能力を養うことだ」と強調した。
 日本に力はない。「日米同盟の最大の弱点はサイバー防衛。日本の実力はマイナーリーグ、その中で最低の1Aだ」。デニス・ブレア元米国家情報長官は提唱する。元海将の吉田正紀氏は「サイバーは日米で最も格差がある。日本も能力を急速に上げるべきだ」と語る。
 9月には日本政府の「e-Gov」や東京地下鉄(東京メトロ)、JCBなどがDDoS攻撃を受けた。親ロシアのハッカー集団「キルネット」が犯行声明を出した。
 折しもロシアは極東で中国などと大規模軍事演習をしていた。仮想敵「東方」から土地を奪還する想定で、サイバーとリアルを連動させたと映る。
 中曽根康弘世界平和研究所の大沢淳主任研究員は「日本政府は『ロシアの軍事演習の一環』と分析していなかった」と指摘する。「日本は攻撃者や背景を特定できない」とも話す。サイバーも「専守防衛」で攻撃を感知してから対処する。サイバー防衛は「国の責務」とも規定していない。
 世界的には異例だ。各国は海外からの通信を監視して攻撃者を特定し対抗措置をとる。「アクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)」という。
 12月16日に日本政府が決めた国家安全保障戦略には「能動的サイバー防御」が記されたが具体化は23年以降になる。憲法21条は「通信の秘密」を規定する。外国との通信を監視するなら電気通信事業法の改正が要る。
 攻撃元の特定には経由したサーバーをさかのぼる「逆侵入」や「探知」が必要だが、不正アクセス禁止法や刑法の改正が前提になる。いまウクライナのような攻撃を受けても盾はない。無防備で国民の安全は守れない。

【送電網、10年で1000万kW増 北海道―本州に海底線新設】
 19日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は今後10年間で原子力発電所10基の容量にあたる約1000万キロワット分の広域送電網を整備する。過去10年の8倍以上のペースに高める。太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電気を無駄にせず、地域間で効率よく融通する体制を整える。脱炭素社会の重要インフラとなるため、事業主体の電力会社の資金調達を支援する法整備も急ぐ。
 岸田文雄首相が近くGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で整備計画を表明する。
 日本は大手電力会社が地域ブロックごとに事業をほぼ独占し、競争原理が働きにくい状態が続いてきた。2011年の東日本大震災では広域で電力をやりとりする送電網の脆弱さがあらわになった。

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大都市圏が夏冬の電力不足に直面する一方、九州では春に太陽光発電の出力を抑えるといった事態が続いている。50年の脱炭素には再生エネの発電に適した北海道や九州の電気を、東京や大阪に送って消費する体制が欠かせない。ウクライナ危機でエネルギーの供給不安も高まった。地域間の連系線の抜本的な強化を急ぐ。
 新たに日本海ルートで北海道と本州を結ぶ200万キロワットの海底送電線を設ける。30年度の利用開始をめざす。30年度の発電量のうち、再生エネの割合を36~38%にする政府目標の達成に必要とみている。九州―本州間の送電容量は278万キロワット増やして、556万キロワットにする。
 27年度までに東日本と西日本を結ぶ東西連系線は90万キロワット増の300万キロワットに、北海道―東北間は30万キロワット増の120万キロワットに、東北―東京エリア間は455万キロワット増の1028万キロワットに拡大する。
 東西連系線については28年度以降、さらに増強する案もある。
 過去10年の整備量は東西連系線と北海道―東北間であわせて120万キロワットにとどまっていた。今後10年間は8倍以上に加速させる。
 巨額の費用の捻出は課題となる。北海道―本州間の海底送電線は1兆円規模の巨大プロジェクトで、九州―本州間の連系線は約4200億円を要するとみている。
 電力会社を後押しするため、資金調達を支援する枠組みを整える。いまの制度では送電線の整備費用を電気料金から回収できるのは、完成して利用が始まってからとなる。
 それまでは持ち出しが続くため、投資に及び腰になりかねなかった。必要に応じて着工時点から回収できるように改める。23年の通常国会への関連法案の提出をめざす。
 例えば、海底送電線の建設期間中に計数百億円規模の収入を想定する。初期費用の借り入れが少なくて済み、総事業費の圧縮にもつながると期待する。
 50年までの長期整備計画「マスタープラン」も22年度内にまとめる。原案では北海道―本州間の海底送電線を3兆円前後で計800万キロワットに、東西連系線は4000億円規模で570万キロワットに増強する。50年までの全国の整備費用はトータルで6兆~7兆円に上ると見込む。

【日銀が緩和縮小、長期金利の上限0.5%に 事実上の利上げ】
 20日昼の日経速報メールは次のように報じた。
 日銀は19~20日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和を修正する方針を決めた。従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する。20日から適用する。長期金利は足元で変動幅の上限近くで推移しており、事実上の利上げとなる。変動幅の拡大は21年3月に0.2%から0.25%に引き上げて以来となる。
 黒田東彦総裁が20日午後に記者会見を開き、決定内容を説明する。
 歴史的なインフレで海外の中央銀行が利上げに動くなか、日本の国債金利にも上昇圧力が強まっていた。日銀は金融政策で長期金利を人為的に押さえつけていたが、市場機能の低下が懸念されてきた。
 日銀は「こうした状況が続けば企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす」として、従来、0%からプラスマイナス0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%程度に拡大することを決めた。マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)の買い入れ方針、政策金利のフォワードガイダンス(先行き指針)は据え置いた。
 日銀は同日、長期国債の購入額を従来の月7.3兆円から月9兆円程度に増額すると発表した。購入予定の金額についてもレンジで示す形式に変更、より弾力的に購入額を決められるようにする。10年物国債を0.25%の利回りで無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りも0.5%に引き上げる。
 日銀は黒田総裁就任直後の13年に「2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現する」ことを目的に大規模緩和を始めた。日銀が世の中に供給するお金を2倍に増やすことを目的に、国債やETFの保有額を2年間で2倍に拡大する方針を掲げた。
 ただ消費増税やエネルギー価格の下落などを要因に、物価安定目標の未達が続いてきた。16年には総括的検証で政策目標をマネタリーベースから金利へと切り替えた。このとき、短期金利をマイナス0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を導入した。
 金融緩和をより長く続けるため、政策目標を量の拡大から金利へ戻す狙いがあった。その後、日銀は長期金利の変動許容幅を0.1%から0.25%に段階的に拡大してきた。
 インフレを抑制するために欧米が利上げに動くと日本の長期金利にも上昇圧力がかかったが、許容幅の引き上げは「事実上利上げとなり、日本経済にとって好ましくない」として、市場で金利を押さえつけてきた。もっとも、日米の金融政策の方向性の違いを背景に10月には一時、1ドル=151円台まで円安が加速した。
 当初、日銀は円安は日本経済にプラスとの立場を示していたが、為替相場の急激な変動が企業活動に及ぼす負の影響も無視できなくなっている。足元の消費者物価の上昇率は3%台半ばに達している。政府・日銀が定める2%の物価安定目標を上回って推移していた。
 円安が資源高に拍車をかけ、電力料金や生鮮品など幅広い品目で値上げが進む構図が鮮明になっている。事実上の利上げに踏み切ることで海外との金利差が縮小し、為替相場の急激な変動を抑える効果も期待できる。

【長期金利の上限0.5%に、黒田総裁「利上げではない」】
 同じ20日午後の日経ニュースメールは黒田総裁の記者発表を受け、次のように報じた。
 日銀は19~20日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和を修正する方針を決めた。従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する。20日から適用する。黒田東彦総裁は記者会見で「市場機能の改善をはかる」と修正理由を説明した。
 事実上の利上げとなる決定で、市場では長期金利が急上昇した。外国為替市場では円高が進んだ。
 歴史的なインフレで海外の中央銀行が利上げに動くなか、日本の国債金利にも上昇圧力が強まっていた。日銀は金融政策で長期金利を人為的に押さえつけていたが「市場機能が大きく損なわれる状況が出てきた」(黒田総裁)と説明した。
 日銀は企業の社債発行など金融環境に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、従来0%からプラスマイナス0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%程度に拡大することにした。賃金上昇を伴った物価上昇は実現できていないとして、マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)の買い入れ方針、政策金利のフォワードガイダンス(先行き指針)は据え置いた。
 市場は今回の決定を事実上の利上げと受け止めている。黒田総裁は「金融緩和の効果をより円滑にするためのもので、利上げではない。金融引き締めではまったくない」と強調。経済の成長や雇用改善、賃上げがより行いやすくなるとして「経済への波及がよりスムーズ・安定的に起こり、景気にはプラスではないか」(黒田総裁)との見解を示した。
 大規模緩和の点検や検証する考えがあるかを問われ「出口戦略の一歩ということではない。具体的に論じるのは時期尚早だ」とも述べた。約10年にわたる大規模緩和は「効果が副作用を上回っている」との分析を示し「量的・質的緩和を見直すことは当面考えられない」と重ねて説明した。
 今回見直した長期金利の変動許容幅について「さらなる変動幅の拡大は必要ないし、今のところ考えていない」と話した。ウクライナ情勢や欧米の金利引き上げによる経済や金融資本市場への影響が不確実なことを理由として挙げた。
 日銀は同日、長期国債の購入額を従来の月7.3兆円から月9兆円程度に増額すると発表した。購入予定の金額についてもレンジで示す形式に変更、より弾力的に購入額を決められるようにする。10年物国債を0.25%の利回りで無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りも0.5%に引き上げる。
 日銀は黒田総裁就任直後の13年に「2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現する」ことを目的に大規模緩和を始めた。日銀が世の中に供給するお金を2倍に増やすことを目的に、国債やETFの保有額を2年間で2倍に拡大する方針を掲げた。
 ただ消費増税やエネルギー価格の下落などを要因に、物価安定目標の未達が続いてきた。16年には総括的検証で政策目標をマネタリーベースから金利へと切り替えた。このとき、短期金利をマイナス0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を導入した。
 足元の消費者物価の上昇率は3%台半ばに達している。政府・日銀が定める2%の物価安定目標を上回って推移していた。円安が資源高に拍車をかけ、電力料金や生鮮品など幅広い品目で値上げが進んでいる。

【ゼレンスキー大統領の米議会での演説要旨】
 22日朝の日経ニュースメールは次のように報じた。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、米上下両院合同会議で演説した。主な内容は以下の通り。
 あらゆる見込みや悲観的なシナリオに反し、ウクライナは陥落しなかった。ウクライナは生きている。戦いは続いており、我々は戦場でこの問題を打ち負かさなければならない。この戦いはウクライナ人の生命、自由、安全のためだけでなく、我々の子供や孫がどんな世界に住むかを規定する。
 ウクライナを助けるための米国の努力に感謝する。何も恐れることはない。これは全世界に勇気を与えることだ。米国は自由と国際法を守るため、国際社会を団結させることに成功した。ロシアの暴君は、我々に対する支配力を失っている。
 もう一つ重要なことは、ロシア人は心の中でクレムリン(大統領府)を打ち負かしたときにのみ、自由になる機会を得ることができるということだ。
 戦いは続いている。これは欧州や同盟国の一部の領土のためだけでなく、ウクライナや米国の民主主義のための戦いでもある。世界のどの国も、守られていると期待して戦争を無視してはならない。世界の結びつきはあまりにも強い。
 私はワシントンに来る前の日、ウクライナ東部バフムトの前線にいた。ロシアの軍隊は5月からバフムトに攻撃を仕掛けてきたが、持ちこたえてきた。昨年はバフムトに7万人が住んでいたが、いまは数人の市民しかいない。
 ロシアはあらゆる手段を使って我々の美しい町を攻撃しようとしてくる。ロシア軍は我々よりも多くのミサイルや航空機を持っている。それでも我々は持ちこたえてきた。
 ロシアの戦略はずさんだ。視界に入った全てを焼き尽くし、破壊してきた。勇敢な米国の軍隊が1944年のクリスマス、ヒトラーの軍隊と戦ったように、ウクライナ人は今年のクリスマスに戦っている。
 ウクライナは持ちこたえており、決して投降しない。あなた方の支援は不可欠だ。戦いに耐えるだけでなく、勝利へのターニングポイントにするためだ。
 これまでの金融支援にも感謝したい。米国の資金は慈善事業でなく、私たちが最も責任ある方法で使う世界の安全と民主主義への投資なのだ。
 ロシアは、その気になれば、侵略を取りやめることができた。国際的な法的秩序が我々の共通の課題だ。私がバイデン米大統領と話し合って設けた(平和構築に向けた)10項目の内容は、これから数十年間、我々の共同安全保障のために実施されるべきだ。
 2日後にはクリスマスを祝うが、(ウクライナに)電気はない。ロシアがミサイルでエネルギーインフラを攻撃したためだ。だが我々は文句を言わない。だれの方が楽な生活をしているというような比較はしない。 
 あなたが幸福でいられるのは、あなたの国の安全保障のおかげだ。独立のための闘争と、多くの勝利の結果だ。我々ウクライナ人もまた、尊厳と成功をもって、独立と自由のための戦いをやり遂げるだろう。
 我々は強いウクライナをつくる準備ができている。我々には強い国民、強い軍隊、強い制度がある。ウクライナ、欧州全体、世界のために強靱(きょうじん)な安全保障を作り上げる。これは欧州と世界の民主主義を守る基礎になる。
 米国民の皆さんに感謝を申し上げたい。バイデン大統領、上下両院は貴重な援助を与えてくれた。ウクライナ人を受け入れてくれたことに感謝する。
 ここに立ったいま、この瞬間にぴったりなフランクリン・ルーズベルト元米大統領の言葉を思い出す。
 ウクライナ国民は絶対に勝利するだろう。ウクライナ軍は多くの部分において、世界に頼っている。
 バフムトでの演説中、人々が旗を渡してくれた。ウクライナ、欧州、そして世界を命がけで守る人たちの旗だ。
 我々は立ち上がり、戦い、そして勝つのだ。ウクライナ、米国、そして自由な世界全体が一つになっているのだから。
 軍隊と市民に、神のご加護がありますように。米国を永遠に祝福してくれますように。メリークリスマス。そして勝利の新年を。

【バイデン・ゼレンスキー氏が会談 パトリオット供与伝達】
 22日午後の日経ニュースメール【ワシントン=坂口幸裕】によると、バイデン米大統領は21日午後(日本時間22日未明)、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。長距離の地対空ミサイル「パトリオット」を含む追加の軍事支援を伝えた。ゼレンスキー氏は「戦争は終わっていない」と語り、支援の継続を要請した。
 バイデン氏は首脳会談後の共同記者会見で「プーチン(ロシア大統領)がこの残酷な戦争をやめるつもりがないとわかっている」と表明。「米国は勇敢なウクライナ国民がロシアの侵略から自国を守り続けられるように可能な限りの支援を約束する。必要なだけあなた方とともにいる」と述べた。
 ゼレンスキー氏は「米国は我々の価値と独立を守るために支援してくれるだろう」と強調。米連邦議会で野党・共和党が下院で過半数を奪還したことを念頭に「議会が変化しても超党派で上下両院の支援を得られると信じている」と訴えた。
 ゼレンスキー氏の発言は2023年1月に始まる新議会の下院で主導権を握る共和を意識したとみられる。党内には「ウクライナは重要だが白紙の小切手は切らない」(下院共和トップのマッカーシー院内総務)などと巨額予算の見直しを求める声があるためだ。
 ゼレンスキー氏は21日昼、米国に到着した。ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日以降、ゼレンスキー氏が外国を訪れるのは初めて。バイデン氏との会談後、米連邦議会の上下両院合同会議で演説した。米国による軍事・経済支援などに謝意を示すとともに、これからも超党派による手厚い支援を継続するよう呼びかけた。
 米政府は21日、ウクライナに総額18億5000万ドル(2400億円)規模の追加の軍事支援を発表した。長距離の地対空ミサイル「パトリオット」1基を初めて供与する。発電所などの重要インフラを標的にするロシアのミサイル攻撃に対抗できるように防空体制を強化する。追加の軍事支援では高機動ロケット砲システム「ハイマース」や155ミリりゅう弾砲の弾薬なども拡充する。
 ブリンケン米国務長官は21日の声明で「バイデン大統領はロシアによる残忍な攻撃からウクライナを守るため、重要な軍事能力を新たに提供する。防空能力と精密打撃能力を拡充する」と強調。将来的なロシアとの停戦協議を念頭に「時が来れば交渉で最も強い立場に立てるよう必要な限り支援を続ける」と記した。
 パトリオットの提供はウクライナがかねて求めてきた。米軍の主力防空システムで、「これまで提供されてきた防空システムよりもはるかに高い高度で巡航ミサイル、短距離弾道ミサイル、航空機を迎撃できる」(ブリンケン氏)。超低高度から高高度の複数目標に同時で対処可能になる。1991年に湾岸戦争で使用された。
 ロシアによる侵攻から10カ月が経過し、ウクライナは米欧などで指摘される「支援疲れ」に危機感を強める。ゼレンスキー氏はまず最大の後ろ盾である米国に足を運び、米世論に支援継続を訴える狙いがにじむ。
 一方、ロシアのプーチン大統領は21日、国防省の幹部会議で米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)による脅威に言及し、戦略核の強化を進める方針を示した。複数の核弾頭を搭載でき米本土なども攻撃可能な次世代の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」が「近い将来に初めて実戦配備される」と述べ、米国をけん制した。

【23年度予算案、過去最大114兆3812億円 政府決定】
 23日夕方の日経速報メールは次のように報じた。
 政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決定した。22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で過去最大を更新した。110兆円超えは初めて。高齢化による社会保障費の膨張に加え、1兆4192億円の大幅増で6兆7880億円を計上する防衛費が総額を押し上げた。
 税収は69兆4400億円と過去最高を見込む。堅調な企業業績や雇用者数の伸びが背景にある。歳出の拡大に追いつかず、35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。全体の31.1%を借金に頼る。

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 政府は今後5年間の防衛費を従来の1.5倍の43兆円程度とする方針。初年度の23年度は前年度から1兆4192億円増やした。伸びは近年の500億~600億円程度から一気に拡大した。
 一般会計の3割を占める社会保障費は36兆8889億円計上した。高齢化による医療や介護の費用の自然増で、前年度から6154億円上振れした。地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増え16兆3992億円とした。国債の元利払いに充てる国債費は、25兆2503億円と9111億円膨らんだ。

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 新型コロナウイルス禍で始まった巨額の予備費も引き続き計上した。コロナ・物価高対策で4兆円、ウクライナ危機対応で1兆円を盛った。予備費は政府が閣議決定で具体的な使い道を決められる。国会の監視が及びにくいとの批判がある。

【国内損保、ロシア全域で船舶保険停止 LNG輸入に影響か】
 24日の日経速報メールは次のように報じた。
 国内損害保険各社は2023年1月1日から、ロシアやウクライナの全海域で戦争による船舶の沈没などの被害を補償する保険の提供を停止する。ロシアのウクライナ侵攻から約10カ月が経過するが、戦争が収束するめどはいっこうに立っていない。海外の再保険会社がロシア関連のリスクの引き受けを拒否したことが、今回の判断の背景にある。
 東京海上日動火災保険と損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の3社が23日から船主への通知を始めた。日本企業が参加する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの液化天然ガス(LNG)の輸入などに影響する可能性がある。
 船舶保険はほぼ全ての船舶が加入している。被害を補償する保険がなければ、航行は極めて難しくなる。今回の措置の対象には、ウクライナに近い黒海やアゾフ海だけでなく、ロシア東部や北極海航路などの全海域が含まれる。
 これまでウクライナやロシアの海域を航行する場合、軍事行動に伴う被害でも補償を受けるには、主契約とは別に「船舶戦争保険」に加入する必要があった。航行する際には事前に保険会社に通知して補償条件や保険料を確認し、割増保険料を払うことで補償を受けることができた。今後は保険に加入することができなくなる。
 世界最大の保険市場を運営するロイズ保険組合を中心とした英国の委員会は22年2月、ウクライナ周辺を「リスクの高い地域」に指定し、4月には対象をロシア全域に広げた。損保各社は危険海域の拡大にあわせ、沈没リスクなどを補償する船舶保険で高めの保険料を設定する地域を広げてきた。
 無保険の状況が続けば、ロシアから日本への資源輸入に影響を与える公算が大きい。損保各社は保険サービスの提供を再開することが可能か、再保険会社との交渉をクリスマス休暇明けから始める見通しだ。だが、再保険会社が再び引き受けに転じるかは不透明な情勢だ。

【岸田内閣、支持率最低35% 「反撃能力」保有は賛成60%】
 25日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 日本経済新聞社とテレビ東京は23~25日に世論調査をした。岸田文雄内閣の支持率は35%で11月調査(37%)から2ポイント低下した。相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有決定は賛成60%、反対31%だった。

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 内閣支持率は66%だった5月をピークに7カ月連続の低下で、2021年10月に政権が発足してからの最低を更新した。

【中国、1月8日から入国時の強制隔離撤廃 コロナ規制緩和】
 27日の日経ニュースメール【北京=羽田野主】によると、中国政府は26日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため海外から中国本土に入る際に義務付けているホテルでの強制隔離を2023年1月8日から撤廃すると発表した。感染症の危険度判断の引き下げも決めた。
 現在は海外などからの入国者には、5日間の強制隔離と3日間の自宅隔離が義務付けられている。入国後のPCR検査と強制隔離を取りやめる。
 中国では感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和したことで、感染が急拡大しており、隔離措置は事実上意味を失っていた。海外との往来正常化を進め、低迷する経済のてこ入れを図る。
 感染症を危険度順に分けた「甲類」「乙類」「丙類」の3つのカテゴリーのうち、中国当局は、コロナについてはコレラやペストの際に実施する「甲類並みの管理」を求めてきた。
 これを1段階引き下げ、エイズや重症急性呼吸器症候群(SARS)と同じ「乙類乙管理」としての扱いを徹底するように求める。地方当局が患者を強制的に施設で隔離したり、地域を封鎖したりするのは難しくなる。ゼロコロナの法的な根拠が事実上なくなる。
 中国政府はゼロコロナへの抗議デモが広がった11月下旬以降、市中でのPCR検査や行動履歴の追跡アプリをなくした。

【世界景気「悪化」4割に迫る 社長100人アンケート】
 28日の日経速報メールは次のように報じた。
 「社長100人アンケート」で世界景気について「悪化」との回答が9月調査に続いて増え、4割に迫った。景況感を示す指標(DI)は新型コロナウイルス禍の初期以来の低さに下落している。コロナ政策で混乱する中国、中央銀行のインフレ抑制策が景気を冷やす米欧と、主要国がそれぞれ難題に直面する状況に経営者は警戒を強めている。
 アンケートは国内主要企業の社長(会長などを含む)を対象にほぼ3カ月に1回実施。今回は12月2~16日に行い、145社から回答を得た。
 世界景気の現状認識は「悪化」「緩やかに悪化」の合計が36.5%と9月の前回調査(31.1%)から約5ポイント増えた。一方「拡大」「緩やかに拡大」の合計は11.7%で同約4ポイント減った。

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 「拡大」から「悪化」を引いて指標化したDIはマイナス15と前回調査から6ポイント下落した。コロナ禍初期の2020年6月調査(マイナス71)以来、2年半ぶりの低水準となった。
 悪化と答えた経営者に要因(複数回答)を聞くと「資源や原材料価格の上昇・高止まり」が69.8%で最多となった。「中国経済の減速」が66%で続いた。中国は感染を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ政策」が経済活動を停滞させていた。足元では同政策を大幅に緩和したが、今度は感染の急拡大で混乱している。
 インフレ抑制を狙う米欧中央銀行の金融引き締めによる景気減速懸念も強い。サントリーホールディングスの新浪剛史社長は「23年もエネルギー高・資源高は収まらず、二大経済大国の米国、中国の減速が目立ち、世界同時不況に陥る可能性もある」と警戒する。
 一方で、国内景気は「拡大」「緩やかに拡大」の合計が55.2%を占め、前回(55.8%)並みを維持した。要因(複数回答)は「個人消費の回復」が98.8%で最多だった。行動制限の緩和で小売りや外食が好調なことが大きい。「訪日外国人消費の拡大」も35%で前回比約30ポイントも増えた。
 すかいらーくホールディングスの谷真社長は「一時的な全国旅行支援の好影響もある」としつつ「インフレによる個人消費の生活防衛意識は今後さらに高まる」と物価高騰の影響を懸念する。
来春賃上げ「3%台」最多
 23年春季労使交渉での方針を聞いたところ、賃上げ率を「3%台」とする企業が34%で最多で、「2%台」が26%で続いた。物価高騰を受けて連合は「5%程度」の要求を掲げているが、「5%台」以上の回答は合計16%だった。経団連の集計では、22年の大手企業の賃上げ率は2.27%。多くの企業は来春の方針は未定で、賃上げの勢いが高まるか注目される。
定期昇給と基本給を底上げするベースアップ(ベア)を合わせた賃上げについて現時点での想定水準を尋ね、50社が回答した。賃上げするとした46社のうちベアを「実施する」は20.9%で「検討中」が67.5%。実施の理由(複数回答)は「物価高に対応」「社員のやる気向上」がともに92.1%で最多だった。
 「中長期の方針として消費者物価の上昇を上回る賃上げを実施する意向があるか」を聞くと、「ある」は11.1%で、「わからない」が78.6%を占めた。物価上昇分をカバーできなければ個人消費を冷やす。
 塩野義製薬の手代木功社長は「値上げを容認できる空気感を醸成し、値上げから賃上げへと正のスパイラルを構築し、循環させていくことが必要」と指摘する。

【食品の特売、97%で減少 主要150品目の11月調査】
 29日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 食品メーカーの相次ぐ値上げを受けてスーパーの特売が減っている。日経POS(販売時点情報管理)情報で主な食品約150品目を調査したところ、11月は97%の品目で販売数量に占める特売の割合が前年同月を下回った。原材料高が長引き、メーカーや小売りが特売原資を費用負担することが難しくなっている。販売価格が高止まりし、個人の節約志向が一段と強まる可能性がある。
 全国の約470店の販売データを集める日経POSでは店舗ごとに通常より安い価格で販売された場合の販売個数を「特売」として集計している。売れ行きの多い主要156品目で特売割合の推移を調べたところ、11月時点では97%にあたる152品目で前年同月よりも特売が減っていた。
 11月に特売の割合が大きく低下した品目には、ビールや発泡酒など大手メーカーが10月に一斉に値上げした酒類が並んだ。特売の割合が前年同月よりも10ポイント以上低下した品目は51品目と全体の約3割に上った。

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 特売の減少はスーパーのチラシからもみてとれる。全国の小売業のチラシ価格を調べているチラシレポート(東京・中央)によると、11月にアサヒビールの「スーパードライ」を特売商品として掲載したのは累計の調査対象店舗の約18%にとどまり、2021年11月の21%から3ポイント減った。日清オイリオグループの「日清キャノーラ油」も4%と21年11月の8%に比べて減った。
 日経POSによると今年1月時点で特売が前年同月より減ったのは106品目で、年間を通じて徐々に特売が減少している。特売の値引き原資はメーカー・卸からの販売奨励金などのほか、小売り側が負担する場合もある。
 メーカーは原材料の高騰を商品価格に転嫁して対応しようとしているが、コスト高が長引き販売促進のための費用も圧縮せざるを得なくなっている。首都圏の大手食品スーパーも「電気代や物流費の高騰が重荷になっており、過剰な安売りをしていると経営が回らない」と話す。
 10月の家計調査で食料支出は実質で3カ月ぶりに減少に転じた。スーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会は「値上げラッシュで消費者の節約志向が高まり、買い控えが続いている」と話す。帝国データバンクによると、円安や原料高などを受けて、23年1~4月に食品メーカー上場105社が値上げする食品はすでに7000品目を超え、前年同期より5割多い。特売を減らす動きは今後も続く可能性がある。

【グローバル化は止まらない 世界つなぐ「フェアネス」
Next World 分断の先に 1】
 2023年元日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 米国と中国の対立、ロシアのウクライナ侵攻。分断の嵐が世界を襲い、グローバリゼーションは停滞する。それでも、外とのつながりに豊かさを求める人々の営みは途切れない。試練の先の「Next World(ネクスト・ワールド)」。世界をつなぐのはイデオロギー対立を超えたフェアネス(公正さ)だ。

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 メキシコのヌエボレオン州から米テキサス州に向かう国境には「TESLA」レーンがある(2022年11月)
 不思議な標識だった。メキシコ北部のヌエボレオン州。米国との国境検問所に掲げられるのは「TESLA」。世界の電気自動車(EV)市場をリードするテスラの米工場に向かうトラック専用レーンの目印だ。
 トランプ前米大統領は2020年の北米自由貿易協定(NAFTA)見直しでメキシコ産自動車部品に2.5%の関税をかけやすくした。それでも安くて優れたメキシコ部品はEV製造に欠かせない。22年春にできたテスラレーンは両国の相互依存を象徴する。
 米国とメキシコの21年の貿易は6600億ドル(約86兆円)と過去最高。来年には米南部テキサス州ラレドの国境に新しい鉄道橋が架かる計画だ。トランプ氏が7年前に公約した「壁」は有名無実と化している。 
 豊かさを求める願いは国境を越え、人間がつくる壁は続かない。永遠と言われたベルリンの壁も崩壊から33年たち、跡地の一角は駐車スペースになっていた。止まらない融合の奔流と、強まる分断の嵐。私たちは今、どこにいるのだろう。

【円上昇、一時7カ月ぶり129円台 日銀の緩和修正観測で】
 3日午前の日経速報メールは次にように報じた。
 3日の外国為替市場で円が対ドルで上昇し、一時1ドル=129円台半ばと2022年6月上旬以来7カ月ぶりの円高・ドル安水準を付けた。国内のインフレ圧力が想定以上に高まり、日銀が長期金利の変動許容幅の上限の引き上げなど、金融緩和のさらなる修正に迫られるとの見方が台頭。円を買う動きが広がった。
 円は22年末に同131円ほどで取引を終えた。そこから1円強、円高・ドル安が進んだ。日銀が事実上の利上げを決めた22年12月20日の130円58銭前後を上回る円高水準となった。ユーロなど幅広い通貨に対しても一時上昇した。
 背景にあるのは、日銀の追加政策修正への思惑だ。日銀は22年12月に金融緩和を修正したものの、10年債の利回りが他の年限よりも低く抑えられている状態は変わっていない。不自然な「ゆがみ」が投資家の国債売りを招き、潜在的な金利上昇圧力になっている。
 日銀は22年度以降の物価見通しを上方修正する方向で検討している。こうした要因から、日銀が金融緩和の一段の縮小に踏み切るとみる投資家が増えている。
 日銀が緩和を縮小すると、日本の長期金利などは上昇する可能性が高い。利上げペースを減速させるとみられている米国との金利差が縮まりやすくなり、円買いにつながった。日本が年始の休み中で取引参加者はまだ少ない。相場が一方向に振れやすくなっている面もある。

【理研、量子計算機をスパコン富岳と連携 25年めど実用化】
 3日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 理化学研究所は量子コンピューターの早期実用化に向け、富士通と共同開発したスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」を連携させる。量子コンピューターはスパコンの1億倍超の速さで計算する可能性を持つが課題も多い。スパコンと組み合わせてより高度な計算を実現する「ハイブリッド型」で従来より前倒しして2025年をめどに実用化する。創薬や新素材開発などで日本企業の技術革新を後押しする。
 神戸市にある富岳と量子コンピューターを通信でつなぎ、双方で計算の連携や役割を分担する。量子はスパコンでも難しい原子や電子レベルの精緻なシミュレーション(模擬実験)などで力を発揮すると見込まれており、中核の計算のみを量子に担わせるようにする。
 現状の量子コンピューターは動作が不安定で計算エラーが生じやすい。このため計算が断片的になる。スパコンで量子による数多くの断片的な計算結果を整理補強して正しい解に近付ける。
 量子コンピューターは19年に米グーグルの試作機がスパコンで1万年かかる計算を3分で実行するなど世界で開発競争が激しい。日本でも理研が国産初号機となる試作機を開発中で22年度内に埼玉県和光市に設置する。
 グーグルは問題を克服した「完成形」を29年に実現し本格利用につなげる目標を掲げる。理研は発展途上の量子コンピューターをスパコンとして世界2位の計算速度を誇る富岳と組み合わせて、グーグルに先行する25年ごろの実用化を目指す。

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 理研はトヨタ自動車や日立製作所、ソニーグループなどで構成する協議会を通じて量子コンピューターとスパコンを融合した計算基盤の活用を企業にも呼びかける。23年度に専門部隊を設けて計算手法などを研究し、量子とスパコン間のデータのやりとりが円滑にできる技術も開発する計画だ。
 量子コンピューターは製薬やエネルギー、自動車、金融など幅広い産業の競争力を左右する見通しだ。物質の電子の状態を精緻に予測して新機能の素材を開発したり画期的な電池開発につなげたりする。人工光合成では光を当てたときの変化などを正確に模擬実験でき実用化に向けて前進する。気候変動の問題にも解決をもたらす可能性を秘める。
 半導体材料の開発や膨大なデータを扱う人工知能(AI)などの分野でも活用が見込まれる。スパコンや量子コンピューターは経済安全保障上も重要で、自前で技術を保有する必要性が高まっている。国内では米IBM製の量子コンピューターを川崎市に設置した事例があるものの、海外勢に比べ日本としての開発は遅れていた。国内企業では富士通が初めて、23年度に試作機を整備する。
 量子コンピューターの早期利用に向け、スパコンと組み合わせる「ハイブリッド型」は世界の潮流となりつつある。欧州連合(EU)は22年10月、独仏伊など域内6カ所に拠点を設け、スパコンと量子を統合した計算基盤を築くと発表した。
 仮想空間上に「デジタルツイン」として人体を再現し新薬開発の迅速化に役立てたり、物流網を最適化して燃料費削減につなげたりする利用法を想定する。米国でもアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や半導体大手のエヌビディアが量子と従来コンピューターの連携サービスを通じて実用化を目指す。
 ボストン・コンサルティング・グループは量子コンピューターが40年ごろに最大8500億ドル(約110兆円)の経済的価値を生むと予測する。活用が前倒しで進めば市場拡大のペースも速まる可能性がある。

【EV急速充電器の規制緩和 設置容易に、23年めど】
 4日の日経ニュースメールは次のように報じた。
 政府は小型の電気自動車(EV)を数分で充電できる高出力充電器の普及に乗り出す。出力が高い機器の設置や取り扱いに関して適用している規制を2023年をめどに大きく緩め、低い出力と同じ扱いにして利用しやすくする。日本は充電インフラの乏しさがEV導入の壁となっている。自動車産業の競争力を高めるためにも、国内の環境整備を進める。

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 日本は世界的に見て「EV途上国」の状況にある。調査会社マークラインズによると、11月の新車販売に占めるEVの比率は日本では2%にとどまる。中国は25%、ドイツは20%、韓国は9%と日本よりはるかに高い。
 日本でもEVは他のエコカーより税優遇が手厚く、購入補助もある。それでも消費者が購入をためらう大きな理由の一つが、街角の充電設備が少ないことだ。
 国際エネルギー機関(IEA)によると、日本の公共のEV充電器は21年で約2万9000基。日本より狭い韓国には10万7000基ある。IEAが高速と定義する22キロワット超で見ると日本は8000基で、1万5000基の韓国や47万基の中国に及ばない。家庭用では完全に充電するまでに数時間から10時間超かかってしまう。
 素早く充電できるインフラの整備を進めるため、政府は23年にも規制を緩和する。ポイントは出力が200キロワット超の充電器も一定の安全性は確保できると判断し、扱いを50キロワット超と同じにすることだ。
 日本では現在、20キロワット以下には特段の規制はなく、20キロワット超になると安全のための絶縁性の確保など一定の要件を満たす必要がある。50キロワット超はさらに建築物からの距離などで制約がかかる。 
 200キロワット超の充電器は「変電設備」となり、高電圧の電流を変圧する設備との想定で厳しい規制がかかる。屋内に設ける場合は壁や天井を不燃材料で区画する必要があり、設備の形式によっては運営者など特定の人しか扱えない。
規制を所管する消防庁が23年中の関係省令の改正を目指す。改正後は200キロワット超の充電器も急速充電設備となり、出力50キロワット超~200キロワットの充電器と同等の扱いで設置しやすくなる。
 代表的なEVメーカーであるテスラの「モデル3」は、同社が整備を進める出力250キロワットの急速充電器を使うと5分の充電で120キロの走行が可能だ。高出力の機器は小型車であれば数分でかなりの充電をできる。大型の電池を積むEVトラックやEVバスの普及にも欠かせない。
 現状の規制で200キロワット級の充電器を設置するには、数千万円の設置費や年数百万円の運営費がかかるとみられる。国内で急速充電器を整備する東京電力ホールディングス系のイーモビリティパワーは「規制緩和で設置や運営のコストが下がれば、普及しやすくなる」と歓迎する。日本政府は30年までにEV充電器を15万基とし、このうち3万基を急速充電とする目標を持つ。
 充電インフラは自動車の開発も左右する。現状のEVは電池やモーターが400ボルトの電圧に対応しているが、200キロワット超に対応するには800ボルトに応じた設計に変更する必要があるとされる。短時間で充電が終わる車種の開発は、商品の魅力向上につながる。
 各国は補助や減税による支援に加え、規制の強化を通じてEVを普及しようとしている。欧州や米国の一部の州では、30~40年にハイブリッド車(HV)を含むガソリン車の販売を禁止とする動きがある。
 EVは再生可能エネルギーを使えば温暖化ガスの排出を抑制する効果が高い。50年までの温暖化ガス実質ゼロを実現するためにも、再生エネの拡大と両輪で移動手段の脱炭素化が迫られている。



 この間、以下の番組を視聴することができた。(1)報道1930「【台湾統一地方選のゆくえ】蔡英文氏率い与党が苦戦」11月28日。 (2)NHKスペシャル「”紅い思想教育“習近4総書記 三選の礎」11月29日。 (3)報道1930「地面凍結で戦闘変化も 米国が新兵器供与でロシア苦戦は必至か」30日。 (4)【ウクライナ国営軍事企業の実力】電撃攻勢? 実相は?」。 (5)週刊ワールドニュース(11月28日~12月2日)12月2日。 (6)報道1930「東部要衝へ露軍が進撃、ウ軍最前線”」4日。 (7)報道1930「プーチン氏の急所「原油価格上限規制」の実効性は」6日。 (8)報道1930「防衛費“増” 何に使う…自衛隊 知られざる実態と“静かな有事の深刻”」8日。 (9)報道「台湾有事とウクライナ侵攻の相関関係」9日。 (10)週刊ワールドニュース(12月5日~8日)9日。 (11)報道1930「【ウクライナ国営軍事企業の実力】ロシア空軍基地を電撃攻撃? 実相は」12日。 (12)報道1930「中国に弱みを握られる…脱ロシア再エネ戦略が突きつける新たな困難」15日。 (しゅ13)報道1930「【ロシア軍キーウ再追撃計画か?】新年休戦を否定…プーチン氏の真意は?」19日。 (14)報道1930「消えた戦車300台の謎、英米がシナリオを描くウ軍反撃計画とは」21日。 (15)報道1930「日本の安保“大転換”を問う…防衛力強化の裏で外交は置き去りか」24日。 (15)NHKスペシャル混迷の世紀第5回「核兵器“恐怖の均衡”が崩れるとき」21日。 (16)報道1930「習政権を襲う緊急事態、中国感染再爆発の真実 危機の連鎖は世界にも」22日。 (17)報道1930「正恩氏が娘公表の狙い」23日。 (18)週刊ワールドニュース(12月19日~23日)25日。 (19)報道1930「知られざる御所懇談会 上皇上皇后陛下との6度の懇談…胸のうちは」26日。 (20)報道1930「【安倍氏3代と旧統一教会】教団最古参が語る因縁」28日。 (21)NHK「耳をすませば~逆境に負けず自分を貫いて~稲盛和夫 原田泰治~」2023年1月1日。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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