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人類最強の敵(46)

【来年の国会予定】
 2021年12月17日(金曜)午後、政府・与党は通常国会を2022年1月17日に召集する方針であることを、自民党幹部が12月17日に野党側に伝達した。会期は6月15日までの150日間。会期延長がなければ22年夏の参院選は公職選挙法の規定などに基づき、7月10日が投票日となる見込み。
 通常国会で政府・与党は22年度予算案の早期成立を目指す。新型コロナウイルス対策や経済政策が主な論点となる。岸田首相は訪米の日程をさぐる。国会開会中は委員会への出席などのため、開会日の1月17日より前で調整する。
 22年に改選する参院議員は7月25日に任期満了となる。公選法は参院選の投票日を国会閉会日から24日以後30日以内と定める。通常国会を延長しない限り、通例で投票日となる日曜日は7月10日にあたる。
【こども家庭庁?】
 読売新聞によれば、政府は、子ども政策を一元的に担う行政の新組織名を当初予定していた<こども庁>から<こども家庭庁>に変更する方向で調整に入った。支援対象が子どもだけでなく、保護者にも及ぶため、名称変更を求める声が出ていた。名称や所管業務などの基本方針案を15日、自民、公明両党に提示した。その創設時期は、「2023年度のできる限り早い時期」とした。政府は、来年の通常国会に関連法案を提出する方針である。
 18日(土曜)の日経新聞は、<データで読む 地域再生>の1つとして、「子育て支援、人口増に直結 千葉・松戸がランキング首位」の見出しで次のように伝えた。
 子育て支援の重心が、保育の拡充から支援の「質」向上へと移り始めた。日本経済新聞社と日経BPの情報サイト「日経xwoman」が主要都市をサービスの手厚さなどで分析・採点したところ、新型コロナウイルス禍で親子の孤立防止対策などに力を入れた千葉県松戸市が首位となった。トップ3自治体は人口も増加。子育て世代に選ばれる街づくりを進めることが活力につながっている。
調査は9~10月に実施。首都圏などの主要市区や政令指定都市、県庁所在地市、人口20万人以上の180市区を対象に、160市区から回答を得た。0歳児の認可保育所の入りやすさやコロナ禍での精神的サポートなど43項目をもとに、共働きで子育てしやすい街ランキングを作成した。
 松戸市の場合、20年国勢調査で人口が増加(15年比)。総人口は3.1%増の50万人。0~5歳児も3%増の2万2000人であった。

【経済安全保障推進法案の概要】
 23日(木曜)の日経新聞によれば、シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」は経済安全保障に関するアンケートを実施し、主要企業100社へ11~12月に質問、トヨタ自動車やソフトバンク、三菱UFJフィナンシャル・グループなど国内の主要企業100社が回答した。
 経済安保の取り組みに着手していると答えた企業は86.9%にのぼる。政府に期待することを尋ねると「政策の方向性の明示」との回答が47.4%と最も多く、「企業利益確保を念頭においた政策決定」が18.6%、「補助金による国内生産回帰の支援」が9.3%で続いた。船橋洋一理事長は「企業は経済安保の推進に前向きなものの、経済安保がどの領域まで含むか判然とせず困惑している」と指摘。
 26日(日曜)、政府が2022年の国会に提出予定の経済安全保障推進法案の骨格がわかった。軍事転用の恐れのある特許の公開を制限し、代わりに出願者や企業に金銭補償する。情報通信や電力など基幹インフラを担う大企業を対象に安保上問題になる機器を導入しないよう政府が審査する制度も設ける。
 同法案は岸田政権が重視する経済安保政策の柱になる。政府は22年1月にも骨格を公表、2月に閣議決定する段取りを描く。23年度の運用開始をめざす。
 サプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化、基幹インフラの安全性・信頼性の確保、先端的な重要技術の官民協力、特許出願の非公開制度が4本柱になる。他国による技術の悪用や経済・生活基盤を脅かすリスクを軽減する。
 特許の公開制限は企業や研究者が発明や技術を出願する際、海外で軍事転用される可能性があるか国が審査する。安保に関わる技術と判断すれば出願内容を非公開にする。海外で特許を得るのも認めない。日本の特許制度は公開が原則で出願から18カ月たてば内容が一般に公開される。外国政府や企業だけでなくテロリストなども閲覧が可能である。
【金で外貨準備資産】
 26日の日経新聞によれば、世界の中央銀行や公的機関が外貨準備資産として金の保有量を積み増している。2021年の総保有量は1990年以来31年ぶりの高水準に膨らんだ。大規模な金融緩和などでドルの供給量は膨らみ続け、金に対する価値は大幅に切り下がった。米連邦準備理事会(FRB)は金融引き締めに動くものの、各国中銀のドルに対する疑心暗鬼は拭えず、ドルから金への流れが続く。
 従来、金を大量に買う中央銀行は米国と政治的に対立してドル依存からの脱却を図るロシアなどに限られていた。最近は自国通貨安に見舞われやすい新興国や、経済規模が大きくない東欧の中銀による買い入れが目立つ。自国通貨の下落が続くカザフスタンは外貨準備に占める金の比率を大きく高めた。
 ポーランド国立銀行(中銀)のグラピンスキ総裁は9月、地元メディアに金買いの理由を「金はどの国の経済にも直結せず、世界の金融市場の混乱に耐える」と話した。19年に100トン程度を購入し、足元でも買い増している。
 金は米国債などのドル建て資産と比べ金利がつかないデメリットがある。それでも21年春に金準備を3倍の90トン超まで増やしたのがハンガリーの中銀。「金には信用リスクやカウンターパーティーリスク(取引相手の破綻リスク)がない」(同中銀)からである。

【オミクロン株の急増】
 南アフリカがオミクロン株を最初に発表したのは11月25日。まだ1カ月もたっていないが、市中感染が広がった国では、猛烈な勢いで感染者が増えている。WHOの資料によると、そのペースは1・5~3日ごとに倍増である。
 米国では、18日までに新規感染者の7割がオミクロン株になったとみられている。直近の新規感染者は1日約15万人(7日間平均)。1週間で2割超増えた。感染者が連日9万人前後の英国も、オミクロン株が優勢で、ロンドンでは9割近いと推定されている。
 「デルタ株よりかなり速く広がっているという一貫した証拠がある」。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は20日の会見でこう強調し、クリスマスや年末年始に向けて強い危機感を示した。

【国内のオミクロン株】
 20日(月曜)、都はアフリカ東部から帰国した都内在住の40代男性がオミクロン型に感染したのを確認したと発表した。都内での感染確認は4例目。同行者1人もコロナ陽性を確認しており、都はオミクロン型かどうか調べる。
 同じ日、東京都は都内に在住・滞在している濃厚接触者は19日時点で1002人となった。うち408人は宿泊療養施設に入所、または今後入所予定だという。そのほかの濃厚接触者は自宅待機、宿泊施設への入所調整中などとしている。
 22日(水曜)、大阪府でオミクロン株が、国内に入り込んでいることが判明した。海外への渡航歴がない家族3人がオミクロン株に感染したと発表、感染経路はわかっておらず、市中感染がどこまで広がっているのかは不明。22日午後、吉村洋文知事は記者会見で「時間の問題だと思っていたが、その時が来た、という印象だ」と語った。
 23日(木曜)、東京都で新たに37人が感染、7日平均で前週の140.3%増。
 24日(金曜)、東京都の小池知事はオミクロン株の市中感染が都内で確認されたと発表した。同日、新型コロナ感染者4人がオミクロン株と判明、うち1人は海外渡航歴がなく感染経路も不明という都内のクリニックに勤める医師で、都内の病院に入院している。
【介護の生産性向上へ】
 20日(月曜)づけの日経新聞【イブニングスクープ】は、「1人で4人介護可能に 政府、生産性向上へ規制緩和検討」の見出しを掲げて次のように述べた。
▽政府は介護の人員規制の緩和を検討する。介護施設の入所者3人につき、少なくとも1人の職員を配置する現行の基準を見直し、1人で4人に対応できるようにする案を軸に調整する。センサーなどのIT(情報技術)活用で介護現場の生産性を高める。財政を圧迫する社会保障費の膨張を抑えつつ、介護・医療分野の人材不足を緩和するには思い切った規制改革が必要となっている。
▽介護や医療の現場ではセンサーで患者らの状況を確認したり、ロボットで作業負荷を抑えたりする技術開発が進んでいる。現行の配置基準があるため、ITで効率化が可能でも投資するインセンティブが弱かった。20日の規制改革推進会議で内閣府が改革を提起し、2022年初めから厚生労働省などと本格的な検討に着手する。介護は少子高齢化で需要が高まる一方、担い手の不足が指摘される。厚労省の将来推計では介護人材は23年度に22万人、40年度には69万人が足りなくなる。政府は早急に対応する必要があると判断した。
▽政府はまず有料老人ホームを対象に規制緩和を検討する。現場で働く人の負担が増したり、「手抜き介護」が増えて介護の質が落ちたりしないよう制度設計する。緩和の条件として、業務の効率化と質の維持を両立させる計画を介護事業者が政府に示す案がある。外部機関による監査で安全性などを確保することも求める。
▽生産性向上のカギを握るのはITの活用。例えば介護大手のSOMPOホールディングスはベッドにセンサーを取り付け、遠隔で見守りながら身体情報を計測するといった試みを始めている。眠っているかを確認できれば巡回を減らし、別の仕事に時間を使える。政府は介護現場で得られたビッグデータを人工知能(AI)などを使って分析することで、介護の質を高められるとみる。先進的な取り組みをモデル事業として認め、効果があれば他の事業者に広げる手法でIT活用を促す。

【一般会計総額を107.6兆円程度とする2022年度予算案】
 22日(水曜)の日経新聞によれば、政府は2022年度予算案の一般会計総額を107.6兆円程度とする方向で最終調整に入った。21年度の当初予算より1兆円程度増え、10年連続で過去最大を更新する。新規国債発行額は36.9兆円とし、うち30.6兆円を赤字国債で賄う。赤字国債が30兆円を超えるのは2年連続。
 新型コロナウイルス対応の5兆円の予備費のほか、高齢化に伴う社会保障費の自然増で歳出が膨らむ。社会保障費は初めて36兆円を突破。コロナ対応の過去の国債発行の積み上げで、国債の償還や利払いにかかる国債費は24.3兆円となり、2年連続で過去最大を更新する。21年度当初比で2%ほど増える。
 コロナ禍で抑制された経済活動の本格再開で企業業績が上向くとみて、税収は過去最高の65.2兆円と見積もる。21年度当初の新規国債発行額は43.5兆円で7年ぶりに40兆円を超えた。22年度は税収増に伴い2年ぶりに新規発行額を減らす。それでも社会保障費や安全保障環境の変化に伴う防衛費などの増加で、歳入は赤字国債の発行に頼らざるをえない。
 うち焦点となっていた診療報酬改定について、報酬本体の改定率を0.43%増とする方針を固めた。国費ベースで500億円前後とみられる。政府方針に沿って病院看護の処遇が改善される。

【岸田首相の<人への投資>】
 23日(木曜)、岸田首相は都内のホテルで日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングス、日本経済研究センターが主催する「2021特別講演会」に出席し、あいさつした。経済成長に向けて<人への投資>を重視すると表明した。
 首相は、①人への投資、②子育て世代や若者世代、③デジタル社会への変革、④グリーン社会への変革の4つを重点政策にあげて経済成長をめざす方針を示した。人への投資を巡っては「日本には高度成長に最適化したシステムが多く残っている」と指摘した。
 メンバーシップ型雇用、職場内訓練(OJT)に偏重したリスキリング(学び直し)、縦割り産業組織を例示して見直す考えを述べた。「役所が職業訓練コースを支援するといった前近代的なやり方は通用しない。政策企画段階から民間の知恵を入れたデジタル時代にあった仕組みを工夫する」と語り、経済界にも協力を求めた。
 これに関連し、経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)は講演で脱炭素社会に対応するグリーントランスフォーメーション(GX)に言及。「官民一体で推進し、日本の意識の遅れを取り戻す必要がある」と訴えた。
 首相は「新しい資本主義」を掲げており「日本が世界をリードしていきたい、…貧困や格差の拡大、気候変動問題を挙げて、弊害も顕著になってきた」と述べた。
 バイデン米大統領の新型コロナウイルス禍からの再建策「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」に言及し「私の考え方も軌を一にする」と強調、新型コロナ対策を巡っては「克服のめどをしっかりつけてから経済のV字回復を目指す。…コロナと経済の二兎(にと)を追う手法もあるが、私の政権では集中治療・早期回復型のアプローチをとる」と語った。
 新たな変異型「オミクロン型」には慎重に対処し、「水際対策で得られた時間的余裕によって予防、検査、早期治療という一連の流れを強いものにしていくという取り組みを加速してきた」とも唱える。
 大型の経済対策に関しては「日経新聞、エコノミストの皆さま方からも色々厳しい評価をいただいている。…厳しいコメントこそ<聞く力>を発揮してうかがいながら対応、実施していきたい」と力説した。

【コロナの飲み薬承認】
 24日(金曜)、厚労省は米メルク製の新型コロナウイルス治療薬「モルヌピラビル」を承認。軽症・中等症向けで、外来や自宅療養で使いやすい初の飲み薬となる。臨床試験(治験)で発症まもない患者の重症化を抑える効果があったことから、正式承認後、週末から配送を始め、週明けにも医療現場で使えるようになる見通し。
 メルクの日本法人MSDが3日に製造販売承認を申請していた。米国が既に緊急使用許可を出しており、今回は海外の当局が先に認めた薬を迅速に審査する<特例承認>の扱いとなる。
 発症早期から5日間、1日に2回ずつ服用する。治験では、高齢などで重症化する恐れの大きい患者の入院や死亡のリスクを約30%抑えられた。メルクは新たな変異ウイルス「オミクロン型」にも有効である可能性が高いと説明。
 政府は160万回分の供給契約を結んでおり、週末から20万回分の配送を始め、週明けにも現場で活用できるようにする。自宅療養の患者らが入手しやすい体制を整えるため、医療機関や薬局などの連携も必要になる。発症早期に服用する必要があり、検査の拡充が求められる。

【岸田内閣の支持率上がる】
 日本経済新聞社とテレビ東京は24~26日に世論調査を実施した。岸田内閣の支持率は65%で11月の前回調査から4ポイント上がった。「支持しない」と答えた割合は26%でほぼ横ばいだった。
 新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の前倒し対象について「範囲を広げるべきだ」との回答は43%で、「適切だ」の41%と拮抗した。政府は医療従事者や65歳以上の高齢者ら3100万人程度について、2回目から原則8カ月後以上としていた3回目の接種を1~2カ月早めた。感染が再拡大すれば一段の前倒しを求める世論が強まる可能性がある。
 外国人の新規入国を原則停止する措置には「妥当だ」が88%だった。政府の新型コロナ対応を「評価する」は61%で、質問を始めた2020年2月以降で最も高かった。

【演繹法か帰納法か】
 27日(月曜)の日経新聞本社コメンテーター 中山淳史「トヨタがモデルナになれば 日本に問われる破壊的革新」は、概要次のように述べる。
▽イノベーション(技術革新)のあり方を考えさせる1年だった。脚光を浴びたのは、米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)と新興の米医薬品メーカー、モデルナである。
前者は電気自動車(EV)で世界一になり、太陽光発電を広め、宇宙開発でも成果をあげた。後者は2010年設立の若い企業だが、新型コロナウイルスへの感染や重症化の防止にワクチンで貢献した。「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれる物質を使って、がん治療や再生医療でも革新を起こそうとしている。
▽共通項は、あるべき未来や境地に想像を巡らせての「演繹(えんえき)法的な発想と実践」と言うべきか。例えば、mRNAは、従来のワクチンのように病原性を弱めたウイルスではなく、細胞の中でタンパク質を組み立てる「設計図」のようなものだ。接種すれば、コロナ特有のタンパク質に対する抗体が作られ、ウイルスが細胞の中に入れなくなる。
▽当時の報道によれば、モデルナがワクチン候補を設計し終えたのは中国の科学者がウイルスの遺伝子情報をネット上で公開してわずか数日後。米当局に治験用に現物を提出したのも約40日後であった。なぜそれが可能だったかといえば、開発したmRNAは特定の感染症だけに効く物質ではなく、様々なケースに対応可能な「プラットフォーム型の遺伝物質」だったからだ。新薬開発には膨大な時間と労力がかかるが、それを発想の転換で機動的にできないか。そうして生まれたのが<設計図の注入>であった。
▽あるべき境地といえば、物理空間とネット空間の融合技術として注目される<メタバース>(Metaverse)にも共通項がありそうである。癒やしの空間も仕事の空間も、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービスであり、そこに没入できるメタバースはいわば「なりたい自分を実現できる」技術。人間の自由への欲求に演繹法的にこたえる世界だと言ってもいい。
▽そうした体験型ビジネスの未来を予想した本に、米国の経営コンサルタントのB・J・パイン2世とJ・H・ギルモアの2氏が書いた『経験経済』がある。核心部分はそれが農産品、工業製品、サービスに次ぐ第4の経済価値であり、価格低下の圧力を受けにくい<経験産業>という第4次産業の出現を意味するという点である。メタバースでいえば個人情報の扱いなど課題はあるが、それを克服しつつ定着する方向に動きそうなのは、経験産業を支持する顧客が膨大だからであろう。
▽日本は<あるべき型>の革新で戦えているか。幸せや豊かさを社是に掲げる企業は多いが提案や発信力が弱い可能性がある。

【安価な有機半導体デバイス】
 27日(月曜)の日経新聞は、安価に高性能なデバイスが製造できる有機半導体に注目が集まっているとし、東京大学などが高性能・大面積化が難しかった有機半導体の限界を打ち破る材料を開発したと述べた。すなわち無線自動識別(RFID)タグのような通信できる高性能なデバイスを印刷で製造可能な有機半導体で作ることにより、1個1円といった超低価格も実現できる。2050年ごろには現在の電子機器の多くが有機半導体で作られるようになる可能性もあるという。

【厳しい寒波の波状攻撃】
 強い冬型の気圧配置で日本海側を中心に大雪への警戒が続いている。27日(月曜)現在、滋賀県彦根市などで、大雪の影響で車が立ち往生しているとの情報。万一、立ち往生した場合は、①車の周りに雪が積もり、マフラーの排気口が塞がれてしまうと、排気ガスが流入し、一酸化炭素が車内に充満してしまう恐れがあるため、排気ガスの逃げ道だけでも除雪すること、②ガス欠にも注意し、寒さに耐えられる状況であれば、適宜エンジンを停止する、の2点を注意喚起している。
 30日(木曜)には南関東で最高気温15℃のポカポカ陽気となったが、大晦日から元日にかけて、ふたたび厳寒となった。

【社長アンケートで景況感が大幅改善】
 30日(木曜)の日経新聞(有料会員限定)は、<社長100人アンケート>で国内景気の現状について7割強が<拡大>と答え、3割だった9月調査から急増、企業経営者の景況感が大幅に改善していると報じた。新型コロナウイルス禍に伴う経済活動制限が緩和されたことが寄与した。一方で、オミクロン株の事業への影響が見通せないことに警戒の声も上がる。
 アンケートは国内主要企業の社長(会長などを含む)を対象にほぼ3カ月に1回実施。今回は12月9~24日に行い、140社から回答を得た。
 国内景気の評価は、前回ゼロだった<拡大している>が5.0%、<緩やかに拡大している>は38ポイント増の67.2%に達した。要因(複数回答)は<コロナ禍による経済活動制限の緩和>が92.1%、<個人消費の回復>が89.1%であった。10月1日に緊急事態宣言が解除されたことが大きい。
 <拡大>から<悪化>を差し引いて景況感を指数化するDIは、プラス39となり、18年9月のプラス41以来、3年3カ月ぶりの高さである。半年後の景況感予測はプラス48とさらに上昇する。東レの日覚昭広社長は「活動制限の緩和を受けて消費活動がほぼ正常化し、景気回復ペースが巡航速度に戻る」とみる。
 これに関連して、上場企業の増資が活発、2021年のエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)額は前年比3倍の3兆7000億円超となる見通し、金融危機後の10年以来11年ぶりの高水準となる。新型コロナウイルス禍で傷んだ財務の改善に加え、成長資金を確保する動きもあった。

【大納会で32年ぶりの高値水準】
 30日(木曜)、2021年の大納会を迎えた東京株式市場で日経平均株価は続落し、前日比115円(0.4%)安の2万8791円で終えたが、年末終値としては史上最高値を付けた1989年(3万8915円)以来、32年ぶりの高値水準となった。新型コロナウイルス禍からの経済再開への期待が高まった。各国の財政出動や金融緩和による低金利も株高を支えた。
 年間ベースでは1347円(4.9%)高と3年連続で上昇し、東証1部の時価総額は年末ベースで初めて700兆円の大台を上回った。日経平均の年間値幅(高値と安値の差)は3656円と2012年以来9年ぶりの小ささで、比較的に落ち着いた値動きとなった。
 新型コロナウイルスのデルタ型による感染拡大の懸念から8月に年初来安値の2万7013円を付けたが、ワクチン接種の進展が支えとなって下落は限定的だった。9月に菅義偉前首相が自民党総裁選への不出馬を表明したことをきっかけに日経平均は急騰し、31年ぶりの高値となる3万0670円まで上昇した。
 欧米株は年間で2割を超える上昇が目立ち、日経平均の上昇率は見劣りした。経済活動の再開が遅れ、景気の回復が鈍いことが重荷となった。

【政府基幹統計の7割が手書き集計】
 29日の日経新聞によれば、政府の基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいないことが分かった。アナログな紙の調査は非効率なだけでなく、書き換えなど統計不正の温床にもなる。経済政策の基盤となるデータの収集・公開が不透明なままではデジタル社会の成長競争に取り残されかねない。
 各省庁が2020年末時点で総務省に報告した内容を日本経済新聞が洗い出した。53の基幹統計のもとになる50調査を対象に調べた。オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占め、うち8調査は10%未満であった。1.3%の農業経営統計など農林水産省所管分が目立ち、「高齢化が進んでパソコン操作に不慣れな人が多い」という。
 今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす。
 役所ごとにシステムがバラバラで、入力の手順が煩雑なことも普及が進まない要因とみられる。中堅建設会社は「自社の受注管理システムのデータを国交省の様式にあわせて打ち替えるのは手間がかかる」と活用しない理由を説明する。
 大和証券の岩下真理氏は「海外は企業側もデジタル化が進み、オンライン回答にも対応できる」と日本のデジタル化の遅れを指摘する。
 公的統計をオープンデータとして国民が使いやすくする仕組みも整っていない。会計検査院は9月、政府のポータルサイトで検索やデータ抽出機能が使えない統計が8割に上ると指摘した。政府や企業がデータを知の源泉として駆使するデジタル社会の競争の土俵に日本は上がれていない。
 米国や英国などの統計データは、第三者がコンピュータープログラムなどで自動収集しやすい様式で公開されているものが多い。日本の統計はファイル形式が不ぞろいであったり、人手の作業が必要であったり、使い勝手が悪い問題が残る。

【2022年元日の新聞】
 2022年元日の日経新聞1面トップは、成長の未来図①「資本主義、創り直す 解は<フレキシキュリティー>に」であり、いささか分かりにくい<フレキシキュリティー>の語彙を使い、小見出しの「競争⇒再挑戦⇒成長の好循環」により、かろうじて意味を補っている。
▽ <フレキシキュリティー>とは、「柔軟性(フレキシビリティー)」と「安全性(セキュリティー)」を組み合わせた政策を指し、解雇規制が緩やかで人員削減がしやすい一方、学びなおし(リスキリング)や再就職の支援など保障を手厚くする。1990年代にデンマークが導入し2000年代後半から欧州各国に広がった。
▽ 北欧の失業率は5~8%で推移し2~3%の日本より高いが、次に働く機会が見通しやすいため不安は小さい。いま貧しくても豊かになれるチャンスも多い。所得下位20%の家庭に生まれた人の最終的な所得水準をみると、生まれたときより上位に上がれる人の割合はスウェーデンで73%と、米国(67%)より高いといった研究もある。
▽ 2000年から19年の実質国内総生産(GDP)の年平均成長率をみると、スウェーデンは2.2%、フィンランドは1.4%、デンマークは1.3%伸びた。一方、所得格差の大きさを示すジニ係数(最大は1)は直近で0.26~0.28にとどまる。「個人主義と共助がよいバランスにある」(京都大学の内田由紀子教授)。競争を促しつつ再挑戦を容易にすることで格差を抑えながら成長する好循環である。
▽ 世界の資本主義は歴史的に何度も危機に見舞われた。初めは1929年の米株価暴落を引き金とする大恐慌である。英経済学者ケインズの理論に沿って「大きな政府」が需要を作り出し、景気を刺激する方法で乗り切った。
▽ 米国とソ連の対立を軸とする冷戦期に「第2の危機」に襲われる。財政膨張や過度な規制など「大きくなりすぎた政府」が経済の活力を奪い、ベトナム戦争など共産主義勢力に対抗するコストが資本主義の疲弊に拍車をかけた。新自由主義が登場し、レーガノミクスやサッチャリズムの「小さな政府」が民間の競争を促して成長力を取り戻すと、ソ連は崩壊し民主主義に勝利をもたらした。
▽ いま直面するのが「第3の危機」である。過度な市場原理主義が富の偏在のひずみを生み、格差が広がる。格差は人々の不満を高め、それが民主主義の危機ともいわれる状況を生み出した。資本主義と民主主義の両輪がうまく回らなくなり、世界では中国を筆頭とする権威主義が台頭する。
▽ 混沌とする世界で日本は生き残れるのか。現状は心もとない。GDP成長率は年平均0.7%と北欧を下回るのに、ジニ係数は0.33と北欧より高く、幸福度は低い。
▽ 「何度も聞かれてバカバカしい」、「私は好奇心にフタをしています」。将来の夢を聞くと、こう答える若者が多い。ときに「ドリハラ(ドリーム・ハラスメント)だ」と不快感を示す。中高生を調査する多摩大学勤務の高部大問氏は「多くの若者は人生を窮屈に生きている」と話す。
▽ バブル崩壊から30年、日本経済は低空飛行が続く。雇用の安全を重視しすぎた結果、挑戦の機会を奪われた働き手はやる気を失う。行き過ぎた平等主義が成長の芽を摘み、30年間も実質賃金が増えない「国民総貧困化」という危機的状況を生み出した。
▽ それなのに民間企業を縛る多くの規制が温存され、社会保障改革の遅れで財政膨張にも歯止めをかけられない。日本は世界から周回遅れで「第2の危機」にはまり込んだままだ。北欧のフレキシキュリティーと比べれば、安全性はあっても柔軟性が決定的に欠ける。この弱点の改革にこれから進むべき道がある。
▽ 資本主義の苦悩を横目に中国は急成長を遂げてきた。GDP成長率は日米欧をはるかにしのぐ年平均9.0%に達する。だが成長の裏で格差が広がり、幸福度は日米欧を下回っている。習近平指導部は文化大革命をほうふつとさせる「金持ちたたき」に動き、最新のデジタル技術も総動員した「統制」で資本主義と一線を画そうとし始めた。
▽ 一人ひとりの個人が自由に富と幸福を追求することで社会全体の発展を支えてきた資本主義は21世紀の新たな挑戦に打ち勝てるか。世界は大きな岐路に立っている。
【激増するオミクロン株】
 6日の朝日新聞デジタル版によれば、6日に国内で確認された新型コロナウイルスの感染者は、全国で4千人を超える見通し。4千人を超えるのは、昨年9月18日以来。日本医師会会長は会見で「第6波に突入した」との見方を示した。
 沖縄県の報告によると、昨年12月末の時点で県内の感染者に占めるオミクロン株の割合は9割超に達し、デルタ株からの置き換わりが急速に進んでいる。新規感染者は1月2日が51人、3日が130人、4日が225人、5日が623人と例のない勢いで増え、6日は981人に達した。
 この6日、都心でも10センチの積雪があった。
【起業失敗でも失業手当でも3年間の失業手当】
 同じ6日、日経新聞は「起業失敗でも失業手当 受給権利、3年間保留可能に」の見出しで、次のように伝えた。厚労省は会社を辞めて起業した場合、失業手当を受給する権利を最大3年間保留できるようにする。現在の受給可能期間は離職後1年間だけで、その間に起業すると全額を受け取れない課題があった。終身雇用の慣行に沿った制度を一部見直すことで安全網を広げて起業などの多様な働き方を後押しする。経済を活性化するスタートアップが生まれやすい環境を整える。
【まん延防止等重点措置を沖縄、山口、広島の3県に適用】
 7日(金曜)、政府は新型コロナウイルス対策本部で沖縄、山口、広島の3県に「まん延防止等重点措置」を適用すると決めた。期間は9日から31日まで。各知事の判断で認証を受けた飲食店でも酒類提供の停止を要請できるようにした。ワクチンの接種証明などによる行動制限の緩和を巡り、検査で全員の陰性を確かめる方法も使えるようにした。
【コロナの水際対策は2月末まで】
 11日(火曜)、岸田首相は外国人の新規入国の原則停止を柱とする新型コロナウイルスの水際対策は「2月末まで現在の骨格を維持する。…外国人の入国を念頭に「人道上、国益上の観点から必要な対応をする」と述べた。ワクチンの3回目接種も加速し、一般への接種を早める。
 また変異型オミクロン株の重症化率が低い可能性を踏まえ「マスク着用など冷静な対応をお願いする。高齢者などで急速に感染が広がると重症者が発生する割合が高くなるおそれがある」と語った。
 ワクチンの3回目接種について「自衛隊による大規模接種会場の再設置などを通じて自治体の取り組みを後押しする。…高齢者接種に関し「900万回分の未使用ワクチンを活用してさらに前倒しする」と述べた。
【大学入学共通テスト】
 14日(金曜)の日経新聞は、15、16日に全国各地で行われる大学入学共通テストについて、新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威を振るい、厳格な感染対策がとられるなかでの受験となるとして、次のように伝えた。
▽大学入試センター試験の後継で、今年が2回目の実施となる。今年は約53万人が出願し、全国677会場で実施される。国公私立大など864校が利用し、合否判定や2次試験に進むための判定に使われる重要な試験で、綿密な感染対策が欠かせない。
▽初日に地理歴史と公民、国語、外国語、2日目に理科と数学が行われる。共通テストを運営する大学入試センターは、会場となる各大学向けにガイドラインを作成。試験会場の座席の配置について、1メートル程度の間隔を確保することや、試験前日の机や椅子の消毒、会場や教室ごとに消毒用のアルコールを設置することなどを求めた。
▽(1)受験時の対策⇒受験生にはマスクの常時着用や手指の消毒を求める。1科目終了ごとに全ての窓を10分以上開放することが望ましいとしており、感染対策と合わせて防寒対策も必要となりそうだ。
▽(2)濃厚接触者となった場合、無症状であれば▽PCR検査で陰性▽受験当日も無症状▽原則、公共交通機関を利用しない▽別室で受験すること――を満たせば、当日、受験ができる。発熱やせきなどの症状が出た場合は、受験を取りやめ、追試験に回る。
▽文部科学省は当初、受験生を自家用車で送迎するよう求めていた。準備できない家庭もあることから、換気の徹底や仕切り板が設置されていることなど、一定の感染対策を行うタクシーやハイヤーに限り利用を認めるよう方針を転換。離島などに住む受験生向けに海上タクシーも認める。オミクロン型の濃厚接触者についても、同様に取り扱う。タクシーなどが自力で見つけられない場合には、文科省の相談窓口に連絡すれば、地方運輸局が依頼先を手配する。文科省のホームページに掲載されている連絡先から、電話やメールで相談できる。
▽ (3)感染した場合⇒受験時に発熱などの症状があったり、感染が判明したりした受験生は、本試験の2週間後、1月29、30日に行われる追試験に回る。昨年の場合、コロナが理由で追試に回ったのは、受験生約48万人のうち224人にとどまった。ただ、少数ながらもコロナの関係で本試験、追試験の両方を受けられない学生も予想されることから、文科省は11日、各大学に対し共通テストを受けられなかった受験生について、個別試験の成績のみで合否を判定するよう救済策を要請した。
▽ほとんどの大学は個別試験でも追試験や振り替え受験などの対応を用意している。それでも受験できない場合に備え、文科省は面接や小論文などで判定する「総合型選抜」などの実施を検討するよう要請している。
▽オミクロン型の急拡大を受けた措置で、末松信介文科相は11日、「最大限のセーフティーネットを張ることができた」と強調。各大学は要請に基づき、選抜方法の検討を進めるが、「受験者と非受験者との間でどう公平性を保つのか」(大学関係者)などと戸惑いの声も広がっている。文科省は救済策について今回限りとし、医療機関からの診断書などがなければ適用されないとしたうえで「各大学が厳格に規定するので、(受験しなくても)有利にならない」とする見解を公表している。
【トンガ諸島の海底噴火と津波】
 15日午後、南太平洋のトンガ沖で起きた大規模な海底噴火の影響で、日本列島の太平洋沿岸では同日夜から16日にかけて各地で津波が観測された。気象庁によると、奄美大島小湊で15日午後11時55分に1.2メートル、16日未明には岩手県久慈港で午前2時26分に1.1メートル、和歌山県御坊市でも午前0時31分に90センチを観測した。
 気象庁は当初、日本への影響について若干の海面変動にとどまるとしていたが、16日未明に鹿児島県の奄美群島とトカラ列島、岩手県に津波警報を出した。警報は同日午前にいずれも解除され、同日午後2時、北海道から沖縄にかけての太平洋沿岸部全域や長崎県西方、鹿児島県西部などに出していた津波注意報をすべて解除した。総務省消防庁によると、岩手や宮城、千葉、鹿児島など8県で約22万9千人が一時、避難指示の対象になった。
 16日の朝日新聞デジタルによれば、噴火の規模は、記録的な冷夏の原因にもなった1991年のフィリピン・ピナトゥボ山の噴火にも迫るとの見方もある。世界的な気候への影響も懸念される。
 米海洋大気局(NOAA)や日本の気象衛星「ひまわり8号」の衛星画像などから、噴煙の高さは上空約20キロと成層圏にまで達し、半径260キロにわたって広がったとみられる。

【大学入学共通テストへの影響】
 大学入試センターは16日、津波警報などの影響で大学入学共通テスト2日目を受けられなかった受験生は30日に実施する再試験や追試験の対象にすると発表した。津波注意報などの影響で交通機関が運休し、仙台市と千葉県東金市の2会場で受験生計約1300人が開始時間繰り下げの対象になった。
 岩手県宮古市の岩手県立大宮古短期大学部の会場は中止となった。同大学によると、周辺の公共交通機関が運休し、多くの受験生が来場できないことも考慮。午前9時にホームページで中止を発表した時点で約20人が会場に到着しており、安全を確認して順次帰宅させた。
 また15日(土曜)朝、大学入学共通テストの東京大学会場への入り口前で受験生3人と72歳の男性が包丁で刺される事件が起きた。犯人はその場で逮捕された。名古屋在住の高2男子生徒で、医学部志望で勉強してきたが成績が振るわず死のうと思ったと供述しているという。
【オミクロン株感染者の急増と今後】
 日本におけるコロナ感染者は、17日(月曜)現在、4日連続で約2万人を記録、その大半がオミクロン株と見られる。濃厚接触者の待期期間14日をつづけると病院等が機能不全に陥りかねないため、これを10日に短縮した。イギリスでは待機期間を全面解除した。
 またオミクロン株が最初に発生した南アフリカでは昨年12月下旬に感染がピークを越えた(ピークアウトした)とする複数の報道があった。
 例えば12月23日の毎日新聞は「南アは11月下旬にオミクロン株の感染を初めて公表。12月以降は感染者のほぼすべてをオミクロン株が占めているとみられる。従来のベータ株、デルタ株の流行と比べて急激に感染者数が増えているが、重症化する人の割合は低い。病床にも余裕がある」とし、「1日当たりの新規感染者数が減少傾向に転じている。15日に過去最多の2万6976人を記録したものの、22日は2万1099人だった。南ア国立感染症研究所は、最大都市ヨハネスブルクがあるハウテン州などで感染のピークを越えた可能性があると見ている」と伝えた。
 今年に入り1月8日、金融テクノロジー会社Bloombergは「オミクロン変異株の流行、パンデミックの終わりを示唆-南ア研」の見出しで次のように伝えた。
▽南アフリカでは、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が「前例のない速さ」で進んだものの、その症状は従来株に比べはるかに軽症で済んでいる。同国の大規模病院の患者を対象に行った調査で明らかになった。
▽首都プレトリアのスティーブ・ビコ学術病院の患者データを分析した研究者らは、パンデミック(世界的大流行)が終わりに向かっていることを示唆するかもしれないとの見解を示した。南アはオミクロン変異株の大規模な流行が初めて記録された国で、今後の世界の感染動向を占う上で注目されている。
▽ 南アフリカ医療研究評議会のウェブサイトに掲載された調査結果によると、オミクロン株流行期での死亡は全入院患者の4.5%にすぎず、これまでの21%を大きく下回る。集中治療室(ICU)への入院も少なく、入院期間も「大幅に短い」という。
▽ 「このパターンが続き、世界でも繰り返されるなら、感染率と死亡率の完全なデカップリングが起こる公算が大きい」と研究者らは指摘。これは「新型コロナが世界的な流行期を終え、エンデミック(地域的流行)段階に入る先触れ」の役目をオミクロンが果たす可能性を意味すると続けた。
【東海2県が<まん延防止等重点措置>の適用要請】
 17日(月曜)の朝日新聞デジタルによれば、愛知県の大村知事は17日午後、東海3県の知事が出席したテレビ会議で、新型コロナウイルス対応の<まん延防止等重点措置>の適用を国に求める方針を明らかにした。18日、国に要請する。岐阜や三重の両県も要請する方針である。愛知県は16日まで、4日連続で感染者が1千人を超え、同日時点の入院者数は215人(病床使用率18・2%)、重症者数は1人(同0・7%)となっていた。
 同じ17日の夕方、東京など首都圏4都県も、国への<まん延防止等重点措置>の適用要請を決めた。政府は適用対象拡大について19日に専門家に諮問する調整に入った。変異型オミクロン株の感染拡大に対応し、行動制限を強化する。
感染の急拡大で東京の病床使用率は16日時点で19.3%まで上昇。重点措置要請を検討する目安とした20%超えが確実になっていた。大阪府の吉村洋文知事も重点措置の要請について京都府、兵庫県の両知事と近く会議を開くと明らかにした。
 政府は自治体側の要請を踏まえ、具体的な対象地域を詰める。18日に関係閣僚と協議し、専門家でつくる基本的対処方針分科会へ19日に諮る。了承されれば、衆参両院の議院運営委員会で説明したうえで、政府の新型コロナ対策本部で正式に決める。
 18日(火曜)、9日から適用の沖縄、山口、広島3県に次いで、東京など首都圏4都県と愛知を含む中部3県、合わせて1都10県について、政府は<まん延防止等重点措置>の適用対象の拡大について19日に専門家に諮問する調整に入った。大都市圏全体で行動制限を強め感染抑制を急ぐ。
 行動制限がかかるのは2021年9月末に緊急事態宣言が解除されて以来、およそ3カ月半ぶり。オミクロン型の感染状況次第で対象地域がさらに広がる可能性はある。期間は2月11~13日の3連休ごろまでの3週間程度を念頭に置く。岸田文雄首相は18日に関係閣僚と協議する見通しだ。
 感染力の強いオミクロン型株に対応するため、前回のデルタ株対応とは異なる具体的措置が必要と考えられる。行動制限の各論では、例えば酒を提供する場合の人数や時間、ワクチン証明の提出義務等に関して、各都県で詰めている最中であり、それぞれの知事の判断が問われる。


 この間、以下のテレビ番組を視聴することができた。 (1)NHKスペシャル 中国新世紀(5)”多民族国家“の葛藤」12月19日。 (2)週刊ワールドニュース(12月13日~17日)19日。 (3)新・映像の世紀(1)「百年の悲劇はここから始まった~第一次世界大戦~」20日。 (4)新・映像の世紀(2)「グレートファミリー 新たな支配者、超大国の出現」21日。 (5)Eテレ 地球ドラマチック「地球“冷却化”作戦!」20日。 (6)週刊ワールドニュース(12月20日~24日)25日。 (7)NHKスペシャル「台湾海峡で何が~米中“新冷戦”と日本」27日。 (7)BS1スペシャル「市民が見た世界のコロナショック(11~12月)」27日。 (8)ETV特集「草の根から世界を変える~マグサイサイ受賞者と民主主義~」30日。 (9)BSテレ東4K「オミクロン株に挑む 尾身茂氏密着ドキュメント “決断”の背景にあるものは」31日。 (10)週刊ワールドニュース(12月27日~31日)31日。 (11)NHKスペシャル「ウィズコロナの新仕事術」2022年1月3日。 (12)BS世界のドキュメンタリー「ポストコロナ働き方の未来(1)新たな産業革命の幕開け」4日。 (13)BS世界のドキュメンタリー「ポストコロナ 働き方の未来(2)アメリカンドリーム喪失」5日。 (14)BS世界のドキュメンタリー「地球温暖化はウソ? 世論動かすプロの暗躍」6日。 (15)NHKスペシャル「検証 コロナ予算77兆円」7日。 (16)週刊ワールドニュース(1月3日~7日)8日。 (17)NHK総合「落合陽一と考える コロナで変わる日本のものづくり」10日。 (18)NHK総合「バタフライイフェクト あの日があるから今がある」11日。 (19)「落合陽一、オードリータンにうたたび会う」14日。 (20)NHKイーテレ「ドキュメントへようこそ メルケルが残したもの」14日。 (21)週刊ワールドニュース(10~14日)15日。 (22)NHK総合 日曜美術館「フランスで新発見 幕末ニッポンの秘宝<将軍からの贈り物」15日。 (23)Eテレ「ニュー試「世界の入試で世界が見える」15日。 (24)NHK総合「ストーリーズ ノーナレ 変換夫婦 ▽コンピュータ史上に残る伝説の夫婦の物語」15日。 (24)NHKスペシャル「証言ドキュメント 永田町 権力の興亡 コロナ禍の首相交代劇」16日。 (25)BSプレミアム「歴史発掘ミステリー 京都千年蔵 幕末奇譚 知を武器にかく闘えり」16日。
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新春の所蔵品展(2022年)

2022(令和4)年の三溪園新春の所蔵品展が元日から始まった。担当は吉川利一学芸員(事業課長)、期間は2月9日(水曜)まで。

第1展示室 所蔵品展 四季のうつろい―初春 寿ぎのかたち
第2展示室 所蔵品展 四季のうつろい―初春 寿ぎのかたち
臨春閣の障壁画 中島清之「鶴図」 (鶴の間替襖)

第3展示室はフォトコンテスト入賞作品展(3月8日まで)、つづいて3月10日から6月1日までは俳句展が開かれる。

【年頭の挨拶】
2022年1月6日(木曜)午後、本年最初の職員ミーティング(第62回)があり、私が年頭の挨拶をした。あまりないことであるが、コロナ禍の逆境を乗り越えつつある現在、覚悟を改めて確認するためであった。以下に再掲する。
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

(1)昨今、文化庁や自治体の文化施設への補助の考え方が大きく変化してきており、各施設の自主財源確保がますます求められるなか、三溪園は他の施設に先駆ける形で改革に乗り出しました。こうした改革に取り組んだことは、苦しみも伴いますが、非常に誇らしいことと思います。文化観光局観光振興課が三溪園の経営強化のためコンサルタントを公募してシーディーアイ社CDI(Corporate Directions, Inc.)を選定するとともに経営強化担当室長を派遣、その3年計画の2年目最終段階に入ろうとしています。

(2) 改革着手直後の一昨年2020年初頭から、新型コロナ感染症という逆風が日本国内でも吹き荒れ、インバウンドは皆無、近在の方々の来園も急減、外部環境が一変してしまい、保勝会の経営状況は逼迫しています。その間、①三溪園の存在価値と横浜市の発展のなかで果たす役割についての認識をいっそう深めるとともに、②大胆な経営改革を行ってきました。それだからこそ、柔軟に戦略を変える体制があったことも幸いし、この苦難になんとか耐えられ、ご存じの通り、昨年11月と12月の紅葉期の巻き返しは目を見張るものがありました。

(3) 柔軟な体制は、職員ひとりひとりの自主的行動と協力・貢献のうえに成り立っています。運営手法の変更や組織文化の変化が、働き手にとって大きな負担になるかについては理解しているつもりです。職員の皆さんには、今年も大変なご不便やご苦労をおかけしますが、この改革の出口には必ず明るい未来が待っています。保勝会始まって以来の困難な局面を、組織一丸となり、乗り越えていきたい。経営改革をいっそう推し進めていきたい。引き続き、よろしくお願いします。

【吉川さんのギャラリートーク】
 職員ミーティング後に三溪記念館に移動し、本企画・実施を担当する吉川学芸員(事業課長)のギャラリートークを聞くことができた。この約2年間、三溪園保勝会は前述のとおり一丸となって経営改革に乗り出し、新型コロナウィルス感染症の猛威に耐え、プレミアム・ツアーや各種の催事に取り組んできた。その先頭に立つのが吉川課長の先導する事業課である。
 こうした超多忙な日々の中で、吉川さんが一学芸員として取り組んだのが「新春の所蔵品展(2022年)」にほかならない。そのことを知っているからこそ、吉川さんの静かな口調から展示に関わる苦労が伝わってくる。彼の解説文を活かして、紹介に代えたい。

第1展示室
第1展示室

所蔵品展  四季のうつろい―初春 寿ぎのかたち
古来年初には、一年の安全・無事や豊作などを祈り、あらかじめ祝う“予祝“の行事や儀礼が行われてきました。日本でもお正月に祝いの言葉の中に“新春“や“初春”を使うのも、暖かな春の到来を願う、この予祝の表れといえます。
本展ではこうしたイメージが感じられる作品を紹介します。
2022年は大正11(1922)年に三溪園全園が完成してからちょうど100年目にあたる節目の年となります。ぜひ平穏無事に過ごせる年となってほしいものです。

横山大観「日月霊峰 じつげつれいほう」
もとは日月の対幅として制作されたものに、あとから富士の絵を加えて三幅セットとしたといわれています。富士といえば横山大観が得意とした画題。本図では富士の頂が雲海の中から現れている表現で、正月のめでたさを感じさせてくれる作品です。

横山大観「あけぼの」
舟の浮かぶ海を間に手前には松原を、そして対岸の霞(かすみ)に覆われた山の麓(ふもと)には人家の屋根が見えます。ほのぼのとした、まさに春の夜明けを感じさせる画面です。

原三溪「朝陽清唳 ちょうようせいれい」
唳とは鶴や雁が鳴く声を意味します。朝日に清らかな声で鳴く鶴を組み合わせたおめでたい絵柄です。

原三溪「海不揚波 うみなみをあげず」
海の波が穏やかなさま、つまり天下泰平(てんかたいへい)の世の中を意味します。

原三溪が生きた時代は、第一次世界大戦や関東大震災など決して穏やかな時代ではありませんでした。自らの会社経営に加え、業界全体の救済や社会貢献活動にも奔走した三溪は穏やかな世の中を望んでいたのでしょう。

絵はがき
明治33(1900)年に私製はがきの発行が認められると、日本各地で続々と様々な絵はがきが作られるようになりました。
ここ三溪園の周辺でも土産物店などで販売されたようで、現在でも園内各所をとらえた絵葉書が多数みられます。
ここでは、雪景を写した絵葉書を紹介します。

絵葉書

大池後方の丘上に三重塔があることから、同塔が移築された大正3(1914)年以降の園内であることがわかります。
内苑は造成中とみえ、右端にある建物は資材置き場のようです。

絵葉書2

雪が降り積もった鶴翔閣を写したもの。
原三溪が住まいとしていた当時は、現在のように手前の生垣がなかったため、建物の壮観が眺められました。

第2展示室
第2展示室


原三溪「四君子 しくんし」
梅・蘭・竹・菊は、高潔な人物を意味する君子を思わせるたたずまいと風格を持つことから四君子と呼ばれます。中国・宋から元の時代(10~14世紀)に画題として流行し、日本では江戸時代半ば以降によく描かれるようになりました。着物の柄などにもおめでたいしるし、吉祥文様としても使われています。

下村観山「老松 ろうしょう」
大画面に松とコウモリを墨だけで描いた作品です。松は常に青々としていることから不老長寿を、コウモリは「蝙蝠」と書き中国ではその音から福が来ることを表します。
墨の濃淡のみで一気に表現された本画からは、下村観山の技量の高さが伝わります。

鶴図



臨春閣の障壁画 中島清之「鶴図」 
三溪園にある歴史的建造物の中で、三重塔と並ぶ代表的な建物が臨春閣です。江戸時代初期、紀州徳川家の別荘として築造されたといわれるこの建物の内部には、三溪園への移築前から狩野派を中心とした障壁画が付属していましたが、三溪園では昭和50年代に日本画家・中島清之に依頼し、これとは別に替え襖を制作しました。本図は、このうちの第一屋・鶴の間のために描かれたものです。変化をつけた銀地の背景に連なって飛翔する鶴が見事な配置で大胆に描かれています。

※鶴の間には、もと狩野周信「鶴図」がはめ込まれていましたが、現在は保存のため当館内で収蔵・展示を行い、建物内にはその複製を置いています。

第3展示室
フォトコンテスト入賞作品展(3月8日まで)。

今年のテーマは「みんなの三溪園」。応募数は410点、その中から選ばれた入賞作品46点を展示している。内訳は、推薦(一等賞)=1点、特選(二等賞)=2点、入選(三等賞)=3点、佳作=10点、努力賞=30点。
審査員は、大河原 雅彦氏(元神奈川新聞社カメラマン)、山田 信次氏(日本写真作家協会会員)、森 日出夫氏((公社)日本写真家協会会員)。1月8日(土曜日)に鶴翔閣において表彰式が行われた。

推薦(一等賞)は平井正友さん「春の父子」
春の父子

お詫び: 拙宅のパソコンがダウンしたため掲載が大幅に遅れました。

この年末年始(2021~2022年)

 いつもやってくる年末年始だが、今回の年末年始はすこし意味が異なる気がする。気持ちの上では、前回掲載した「年の瀬に想う人々」の延長上にあるが、やはり2年前から世界を襲った新型コロナウイルス感染症が最大の要因である。
 中国の武漢で新型コロナウイルスが発生したのは2年前の2019年12月、WHOはこれをCOVID-19と名づけた。翌年1月16日、日本国内で初の新型コロナウイルス感染者として中国武漢への渡航歴のある神奈川県在住の30代の中国籍の男性が報告された。以来、瞬く間に世界的な流行をみせ、日本では第5波が2021年10月に収束、12月から、デルタ株からオミクロン株に急速に置き換わろうとしており、正月に入ると感染者が激増している。3度目の越年である。
 「人類最強の敵=新型コロナウイルス感染症」と名づけて本ブログで2020年3月6日に掲載して以来、通番を付して連載、その(45)を掲載したのが12月17日であり、なお継続する予定である。
 刻々と変わる新型コロナウイルス感染症の拡大とそれに対する防止策並びに打撃を受けた経済社会の復興策について、この連載においてもそのつど述べてきたものの、必ずしも焦点が絞られているとは言い難い。
 言い換えれば<新型コロナウイルス感染症>がいまなお<人類最強の敵>であり、その正体を把握し対策を講じ得たとは言えない。しかし、本稿「この年末年始(2021~2022年)」で、なんらかの<中間総括>をしたいという気持ちもある。これは私だけではあるまい。だが、なかなか難物である。

【コロナと世界指針を聞く】
 そう思っていたところに、日経新聞が12月27日(月曜)から連載「コロナと世界指針を聞く」を始めた。この2年間の<中間総括>を各方面にインタビューする企画である。それぞれの見解を転載(一部割愛)することから始めたい。
 第1回は、27日(月曜)掲載の、米CDC前所長 ロバート・レッドフィールド氏に聞く「ウイルス共存へ最低3年」。
 第2回は、28日(火曜)掲載の、世界銀行総裁 デービッド・マルパス氏に聞く「膨らむ債務、国際協調試す」。
 第3回は、29日(水曜)掲載の、三菱商事社長 垣内威彦氏に聞く「出遅れ日本に成長余地」。
 第4回は、30日(木曜)掲載の、シナモンCEO 平野未来氏に聞く「DX、目指す社会像を語れ」。
 第5回は、31日(金曜)掲載の、東大学長 藤井輝夫氏に聞く「社会と共に考える大学に」。

【第1回 ウイルス共存へ最低3年】
 急速に広がるオミクロン型への対応で最も重要なのは依然としてワクチンの接種である。ワクチンは時間の経過とともに効果が下がる。持続性の高い次世代ワクチンが開発されるまで、これから何度も打ち続けるのだろう。
 いま開発を急ぐべきなのは信頼性の高い「免疫検査」だ。私と妻は同時に接種を受けたが、抗体の量を調べたら結果が大きく違った。追加接種を時期で判断するのは無意味だ。各個人が免疫の有無を年3~4回調べて、いつ次を打つか判断できるのが望ましい。
 それには定期的な感染の検査が不可欠だ。無症状の陽性者をあぶりだし、感染の連鎖を止める必要がある。例えば学校で週2回の検査をして、陽性者は家に居てもらうといった具合だ。
 安全で責任ある形で経済を回し、学校を開き続ける手段はある。飲食店であれば立食はなくし、席の間隔を空ける。唾が飛ぶような大声で話さずに済むよう音楽の音量を下げる。単純に店を閉めるのは間違いだ。
 「集団免疫」は当初から新型コロナには通用しないと考えていた。感染したり、ワクチン接種を受けたりしても予防効果が長続きしないからだ。感染しにくい集団と感染しやすい集団が常に存在することになる。
 このウイルスは人類が地球にいる限り、存在し続けるだろう。消えることはない。うまく共存する方法を学ぶことが大切だ。ワクチン、感染や免疫に関する知識、抗ウイルス薬など、我々は共存するなかで対抗策を見つけていくべきだ。
 失望する必要はない。このウイルスは変化している。既にオミクロン型は発病の方法が大きく変わり、従来の肺ではなく気管上部で複製しているようだ。最終的に喉や鼻で複製するようになれば、普通の風邪と同じようになる可能性がある。
 新型コロナと共存する手段をすべて手に入れるには3~5年かかるだろう。抗ウイルス薬の開発や検査能力が拡大すれば2022年はより平穏な年になる。ただ今後2~3年は「新型コロナからどう自分を守るか」を考え続けることになる。
 新型コロナは「大パンデミック(感染症の大流行)」ではない。いまできる最も重要なことは大パンデミックへの準備だ。より深刻な呼吸器系のパンデミックに直面する高いリスクがあり、それは鳥インフルエンザの可能性が高い。
 幸い我々はメッセンジャーRNAの技術を獲得し、ワクチンを数年単位ではなく数週間で開発できるようになった。次のパンデミックに向けてワクチン、検査、抗ウイルス薬の生産能力を高めなければいけない。

【第2回 膨らむ債務、国際協調試す】
 第2回は世界銀行総裁 デービッド・マルパス氏から聞く「膨らむ債務、国際協調試す」。世界経済は新型コロナウイルス禍で膨らんだ過大債務とインフレに直面している。広がるワクチン格差は各国の足並みに影を落とす。世界経済の再生をどう描くか。国際協調の立て直しは可能なのか。
 2021年の世界全体の経済成長率は5%程度と予測を少し下方修正した。先進国が持ち直す一方で途上国は弱いままだ。例えば1人当たり国内総生産(GDP)でみると、先進国の伸び率は5%あるが、途上国は0.5%と極めて憂慮すべき状況にある。
 先行きのリスクはインフレだ。低所得者は(実質賃金の低下などで)インフレから身を守れず取り残される。金利上昇は途上国への新規投資を減速させて厳しい試練となるだろう。5年ほど前の米利上げ時も途上国には試練をもたらした。
 コロナ禍で膨らんだ過大債務は世界経済の重荷となる。とりわけ低所得国は対外債務が20年に前年比12%増えて8600億ドル(約98兆円)と過去最大になった。返済負担の重さだけでなく、重債務国には資金を拠出する投資家もいなくなり、景気回復を妨げる要因になる。世銀は主要国に呼びかけて低所得国の返済を猶予するプログラムを導入したが、進展が遅い。例えばチャドとザンビアの債務を免除する件であるが、チャドは負債額の確定だけで1年間もかかっている。
 問題は途上国の債務の額がはっきりしないことだ。世銀の分析では、途上国債務は公表額よりも実際にはGDP比で30%も大きい場合がある。例えば14年以降の中国による途上国融資には、秘密保持のため契約に多くの非開示条項がある。途上国に融資しようとしても、ほかの借入先や負債総額が分からなければ、返済の確率すら分からなくなる。22年は途上国債務の透明性を一段と高め、減免などの再編も進めなければならない。
 もう一つの世界の先行きリスクは引き続き新型コロナだ。アフリカなど貧困国は景気回復が大きく遅れており、ワクチン接種率の差が経済回復の格差につながっている。貧困国や途上国のワクチン接種の遅れはコロナ禍を長引かせ、オミクロン株のように世界経済全体への大きな重荷となる。
 ワクチン普及のため世銀は60カ国以上に資金を提供しているが、それはワクチン購入だけでなくその配送にも充てている。重要なのはワクチンを確保するだけでなく、迅速に効率よく確実に届けることだ。国際通貨基金(IMF)などとワクチンの普及に向けた定期会合を開き、何が障壁となっているか特定を急いでいる。
 国際社会にとっては気候変動対策も重要な課題だ。世銀は同対策への最大の資金提供者であり、今後5年間の目標でみても融資全体の35%を占めている。世銀は石炭火力開発への融資から脱却した最初の金融機関の一つでもあり、中国やインド、ロシアといった主要排出国に対しては、脱炭素に向けた長期資金の供給を協議している。

【第3回 出遅れ日本に成長余地】
 第3回は、三菱商事社長 垣内威彦氏に聞く「出遅れ日本に成長余地」。日本は新型コロナウイルス禍からの経済再開が欧米より遅れた。はんこ文化や煩雑な承認プロセスが生産性の向上を妨げている実態も浮き彫りになった。厳しい環境下でいかに成長を確保するか。
 新型コロナは人類が抱える課題や矛盾を映し出す鏡のようなものだ。課題の一つがデジタル化。特に(あらゆるモノがネットにつながる)IoT、人工知能(AI)の活用だ。
 日本は30年間、国内総生産(GDP)も1人当たりの年収も伸びていない。生産性が上がっていないからだ。人類が見つけた素晴らしいテクノロジーをどれほど取り込んでいけるか。欧米や中国は開発と同時にいとも簡単にやってしまう。
 日本は全然取り込めていない。そろばんはできるのに電卓を使いこなせていない状況だ。生産と物流、販売が全然つながっていない。AIでつなげば最適解を出せるのに、てんでバラバラなことをやっている。一事が万事で(1人一律10万円給付のような)国策もスムーズに実施できない。
 裏返せば、遅れていた分を急速にキャッチアップすることで日本はまだまだ成長できる。国も地方自治体も企業も(コロナ禍を契機に)やるべきことを全部やろうという決意ができた。
 脱炭素への取り組みも重要な課題。三菱商事は温暖化ガス排出量を2030年度に20年度比で半分、50年に実質ゼロとする目標を公表した。これは1社だけでやっても、パートナーがついてきてくれないと空振りしてしまう。大きな投資をするときは分担を考えつつ、みなで支え合っていく考え方でないとなかなかうまくいかない。
 再生可能エネルギーの太陽光や風力、水力のほか、次世代エネルギーとして水素やアンモニアが有力候補に浮上している。大事なのは、化石燃料から転換する期間に電力を途絶えさせてはいけないということだ。安定供給と再生可能エネルギーへの移行をどう両立させるか。どう技術革新を起こすのか。
 液化天然ガス(LNG)への投資は当面は必要だと考える。三菱商事は10月にまとめた30年度までの脱炭素投資計画で、LNGにも投資すると明記した。けっこう勇気が要る決断だった。日本は(エネルギーを自給できる)欧米とは違う。LNGへの投資をせずに放置すれば一時的に不足したり、価格が暴騰したりしかねない。
 脱炭素への取り組みでは先進国と途上国との間で時間差が出てくるのは理解すべきだ。先を走っている国に追いつけと(途上国に)いうのは酷な話だし、追いつくのは当面、難しい。
 これから日本が挑戦する脱炭素の計画をアジアの国々に提供すれば、5年、10年遅れになるかもしれないが、国情に応じた計画作りで協力できる。モデルケースを日本で確立し、アジアがキャッチアップしていくやり方だ。友好関係も強化でき、それが日本企業のビジネスにつながればいい。

【第4回 DX、目指す社会像を語れ】
 第4回は、シナモンCEO 平野未来氏から聞く「DX、目指す社会像を語れ」。新型コロナウイルス禍は日本のデジタル化の遅れを鮮明にした。デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する上で政府や企業に欠けている視点は何か。人工知能(AI)開発スタートアップ、改革へのヒントを聞いた。
 新型コロナの感染拡大後、デジタル技術を使わないと立ちゆかないと多くの人が認識した。政府や企業がDXを掲げていても、よく見ると単なる事業のデジタル化にとどまっている事例が頻発している。コスト削減の一環と捉えているのではないか。
 デジタル技術を使って社会を変革するには、どういう世界を作りたいかという明確な目標が必要だ。自分たちが持つ技術やデータを活用して何ができるかと発想するのではなく、目指すべき世界観の議論が不可欠だ。海外のIT(情報技術)企業に後れを取り、国内のシェアを奪われる事態が繰り返されかねない。
 日本は起業が少ないとの指摘もあるが、私が最初に起業した2000年代前半に比べると雰囲気は変わってきた。若い世代で成功者が出て、目指すべきロールモデルが身近にある。問題だと感じるのはスタートアップへの投資額が少ない点だ。すぐに利益が出なくても長期的な視点で成長を見守る姿勢が重要になる。
 日本だけでなく世界で資本主義のあり方を見直す動きが盛んになっている。短期的な利益を追求し、地球温暖化など周囲に悪影響をもたらす「外部不経済」の問題を見過ごしてきた面がある。経済資本のみならず自然資本、人的資本をあわせた3つの資本を考える必要があるのではないか。
 株主だけでなく従業員や取引先などステークホルダーを重視する考え方がより重要になる。1つの法人でできることは限られる。かつては小規模な企業が大企業と会議を持つことも難しいなど関係は対等でなかった。
 特にデジタル分野はデータ活用が不可欠だ。1社が持つデータは限られるが協力することで新たなビジネスにつながる。
日本が人材への投資を怠ってきた点も見過ごせない。30年近く賃金が上昇しにくい状況が続く。本来ならば従業員に還元すべき利益や、研究開発や設備投資に回る利益が配当に向かう。結果として人材も成長できず、設備も不十分で生産性の向上につながらない。
 AI関連の人材はどこの企業も不足している。教育を通じて成長分野への人の配置転換が必要だ。女性を含めて多様な働き方を認めなければならない。企業で働く社員のエンゲージメント(愛着)が低迷する一因になっている。
 人口が減る日本は新興国の才能を使って社会課題を解決しないといけない。ITや金融など高度な知識を持つ人材を積極的に取り込むべきだ。
 日本の給与水準が低迷し、他国に優秀な才能が流れる危機的な状況になりつつある。言語の壁を取り払うだけでなく、日本独特の企業文化なども解消し、外国人を含めて働きやすい環境をつくらないといけない。

【第5回 社会と共に考える大学に】
 第5回は、31日(金曜)掲載。東大学長 藤井輝夫氏に聞く「社会と共に考える大学に」。長引く新型コロナウイルス禍で日本の活力が失われつつある中、人材育成と研究を担う大学は日本再興の鍵を握る。デジタル化が進み、価値観が大きく変容する時代に大学が果たすべき役割は何か。
 コロナ禍の2年で教育の形は大きく変わった。オンライン対応を迫られたことで、多くの教育者がデジタルの利点を認識した。時間と空間の束縛がなくなり、世界各地のオピニオンリーダーが一堂に会し、学生や一般の人を交えて議論することも可能になった。対面授業は今後も重要だが、動画コンテンツなどを活用しながら、学びの可能性を広げたい。
 研究を取り巻く環境も変容している。コロナという人類共通の脅威に直面したことで、多様な背景を持つ専門家が一つの問題にともに取り組む現象が生まれている。分野の違う人々が異なる視点で関わる<総合知>の重要性は一層高まる。大学は<知を生み出す拠点>として社会と共に考えることを求められている。
 将来を担う若い世代への支援の強化も喫緊の課題の一つだ。社会課題に取り組むためスタートアップやNPOで活動する若者は増えている。大学は彼らの志を達成する手段や場を提供できるかが問われている。
 東大にはスタートアップへ投資する子会社「東京大学協創プラットフォーム開発」(東大IPC)などがある。昨年12月時点で東大関連スタートアップは約400社あるが2030年までに700社に増やす目標だ。大学が企業などと一緒に若者を支援し、生み出された利益で次の世代を後押しする。資金の循環を起こすことが大事だ。
 各地の経済界と若者を橋渡しすることも大学の役目だ。目標が見つかった時、大学にアクセスすれば手立てが見つかり、仲間と出会えるシステムの構築が日本の活力を取り戻すことにつながる。
 コロナ禍では真偽不明なものも含め、あらゆる情報が瞬時に世界に拡散するようになった。誰もが発信者になれる今、アカデミアは今まで以上に専門家としての信頼を確立しなければならない。大学に閉じこもるのではなく学外に出て対話を重ね、信頼を勝ち取る必要がある。例えばコロナワクチンの作用や効能などは専門家である我々が責任を持って情報発信していくべきだ。
 大学をランキング化する動きの中で、日本の大学の順位の低さが指摘されているが、世界の大学と競争して順位だけ上がればいいということではない。海外の大学と信頼関係を築き、コロナや気候変動など地球規模の新たな課題に取り組み、深い議論を重ねていけばランキングはおのずと上がっていくだろう。
 日本の研究者は研究成果を論文として完成させてから発表する傾向がある。世界では成果の公表前から知をオープンにし、見方の異なる人たちが一つの問いに向き合っている。手の内を明かすのを嫌がる研究者も多いが、今後はグローバルな対話を重ね知を生み出すプロセスが重要になる。
 以上が年末に日経新聞が5回連載した「コロナと世界指針を聞く」の転載である。
それぞれの分野の専門家が述べており、当然ながら異論があるにしても、新型コロナウイルス感染症が世界規模で拡大した2年間の現在と今後の<世界指針>を大筋で語っていることに間違いはない。

【江戸最古の谷中七福神を巡る】
 年が明けて2022年元日、全国的に寒波が襲い大雪となったが、南関東だけは、この日も晴天、気温はかなり冷たく北風が吹いていた。江戸東京を知る一つの方法として、江戸最古と言われる<谷中七福神>を巡ることにした。思い起こせば、10年ほど昔、テニスの大先輩で医師のⅩさんが<谷中七福神>を巡ってきたと話していたが、そのときⅩさんは85歳であったと思う。私はあまり関心を抱かなかったが、85歳になって<谷中七福神>巡りをする気になったのが不思議である。
 <谷中七福神>は江戸最古に違いないとしても、いちばん古い寺で室町時代あたりまで遡るに過ぎない。奈良や京都に比べれば、時間の幅が大違いである。私は<都市年齢>が都市の個性と今後の都市文化政策に大きく関係してくるとますます痛感するようになった。とくに勤務先の三溪園(横浜)との関連で日本や世界の過去・現在・未来を考えている。
 この<都市年齢>を簡単に説明しよう。本ブログのリンクにある連載「横浜の夜明け-開港150周年にむけて」の第1回(『横濱』誌 2007年)に、次のように書いた。平安京遷都が約1200年前、これを人間の年齢で80歳とすれば、武家政権を確立した鎌倉幕府は約800年前で53歳、ついで江戸幕府が誕生したのが約400年前で27歳、そして日米和親条約(1854年)調印に端を発した都市横浜はわずか10歳である。
 江戸最古と言われる<谷中七福神>も、80歳の京都や88歳の奈良に比べれば、いな53歳の鎌倉と比べて、江戸東京の27歳は年季の入り方が違う。国宝や重要文化財に指定される古建築や仏像等の数は、奈良・京都・鎌倉の足元にも及ばない。
 もちろん<都市年齢>が高いからすべて良いという訳でもなく、将来に向けての重い足かせになることもあろう。一方、若い都市はそれぞれ独自の工夫が必要になる。<谷中七福神>は全国から人が集まる新興都市として、現世利益を中心に巡回という手を使い、出身地を超えた新しい江戸っ子の形成に役立てたのではなかろうか。
もっと若い10歳の横浜では、「三代住んで江戸っ子」と言われたのに対して、「三日すめば浜っこ」を都市文化の特徴的スローガンに掲げて、成長を牽引してきた。その過程の一端は、神奈川新聞連載の拙稿「挿絵が語る開港横浜」(2008年4月3日~2009年8月6日まで計70回)にゆずる。

【福禄寿から弁財天まで】
 <谷中七福神>の概要を見たい。JR田端駅近くにある東覚寺の福禄寿(ふくろくじゅ、ご利益は人望)から全行程は距離にしてわずか6キロ弱、所要時間は約2時間、アップダウンあり、変わる風景、行き交う人の笑顔が良い。
 山手線と京浜東北線を左下に見て、高台を歩むルートに並ぶ。町名で言うと北区田端に1寺、荒川区西日暮里に2寺、台東区谷中に2寺、台東区上野公園に2寺であり、谷中にあるのは7寺のうちの2寺に過ぎないが、谷中七福神と呼び、江戸最古の七福神と言われる。谷中にある寺の数は約70、そのなかでわずか2寺が選ばれた理由は不明である。
 ほかに山の手七福神、向島七福神、浅草七福神などがある。
 以下、順に、谷中七福神の福の名称と(ご利益)に所在寺名を掲げる。なお以下の順番は、私が最初に訪れた①東覚寺で配る地図によるもので、⑥東叡山 護国院で配るものは順番が逆になっている。
 ① 福禄寿(人望)のある東覚寺、②恵比寿(正直)のある青雲寺、③布袋尊(大量
=度量が広いこと)のある修性院、④毘沙門天(威光)のある天王寺、⑤寿老人(長寿)のある長安寺、⑥大黒天(富財)のある護国院、⑦弁財天(愛敬)のある不忍池弁天堂。
 これらを出自(出身地)で分けると、日本生まれの②恵比寿(正直)、インド生まれが④毘沙門天(威光)、⑥大黒天(富財)、⑦弁財天(愛敬、唯一の女神)、そして中国生まれの①福禄寿(人望)、③布袋尊(大量)、⑤寿老人(長寿)となる。
 谷中七福神の由来については諸説あるが、その一つが上野東叡山の開祖・慈眼大師天海僧正が徳川家康に「公のご生涯は全く長寿・富財・人望・正直・愛敬・威光・大量の七徳を備えたもうにより、…天下統一を完成され…」と述べたとする説である(⑥東叡山 護国院で配布の「七福神のお話」による)。
 七福神のもたらずご利益は、人望、正直、大量、威光、長寿、富財、愛敬の7つ。人それぞれに願うものは違うはず。回った印象では、⑤の長寿の長安寺がサイクリスト達で混みあっていた。境内が狭いことにも関係があるかもしれない。ここには七福神を描いた狩野芳崖(1828~88年、近代日本画の父)の墓がある。
 また①東覚寺の本堂の裏にある庭園の素晴らしさは一番か。時節柄、⑥大黒天(富財)のある護国院にも多くの人が集まり、お賽銭を投げていた。大黒天は室町時代に我が国の大国主命(おおくにぬしのみこと)と習合して以来、多くの信仰を集めたと言われる。

【正月恒例のテレビ観戦】
 翌2日(日曜)、恒例の大学ラグビー全国選手権の準決勝戦を観る。明治と帝京が勝ち、9日に決勝戦が行われる。ハーフタイムを挟んで80分の長丁場なので、私は初めと最後を観るキセル方式を採っているが、それでも十分に胸躍る。

 箱根駅伝(第98回東京箱根間大学駅伝競走)は、2日(日曜)が往路、3日(月曜)が復路。こちらはもっと長丁場のため、パソコンに向かいつつ片耳で聞いて、時折、テレビを観る方式を採る。青山学院大学が圧勝、去年の4位から王座奪還、6回目の総合優勝を果たした。

【コロナ後の世界、4つの未来予想図】
 クリエ誌の特集「コロナ後の世界を描く「4つの未来予想図」の第1回は「パンデミック対処には“反戦時経済”が必要」 、コロナの先の経済学であり、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界経済は大恐慌以来の難局を迎えている。人命を最優先しつつ、経済活動をどう維持していくか、各国が頭を悩ませている。だが、その両者は「二者択一」なのか? イギリスの若手経済学者が、そもそも「経済」とは何かを問い直すレポート。
 第2回が「パンデミックでも気候変動でも誰もが生き残れる未来を コロナ後の世界「4つの未来予想図」、どれを選ぶべき?であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界中でさまざまな「問い直し」が起こっている。国家の役割とは何か、「不可欠な仕事」とは何か、社会のなかで最も優先されるべき「価値」とは何か……。その答えがそのまま私たちの未来を形作っていく。環境経済学の研究者が、こうした問いをもとに4つの「未来予想図」を描き、考えるための枠組みを示す。
 かなり専門的な論考なので、以上の課題の重要性についてのみ要約し、その課題展開の複雑さは省略する。関心をお持ちの方は直接ご覧いただきたい。

 このパンデミックへのさまざまな対処法は、ほかの社会的・環境的危機下でも働く力学をただ増幅させたものだ。その力学とはすなわち、ある価値型式をほかより優先するという力学だ。それが世界中のコロナウイルス対処法でも、大きな役割を果たしている。この対処法が進むにつれ、私たちの経済的な未来はどう展開していくのだろうか?
 経済的観点では、4つの未来がありえる。「野蛮」への転落、頑強な「国家資本主義」、ラディカルな「国家社会主義」、「相互扶助」に基づくひとつの大きな社会への変容だ。これらのさまざまなバージョンの未来は、どれも充分ありうるものだ。ただし、どれも等しく望ましいかどうかは別である。関連記事: ユヴァル・ノア・ハラリ「年末までに我々は新しい世界を生きることになる」

 第2回は、「コロナ危機で露呈した「交換価値」の脆さ」。
「何のための経済か」──新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へのさまざまな対処を理解するための鍵となる問いだ。
 いまのところ世界経済の主目的は、お金の交換を促進することだ。これを経済学者たちは「交換価値」と呼ぶ。私たちの生きるこの現行システムでは、交換価値は使用価値と同じという発想が支配的だ。
 基本的に、人々は欲しいもの、必要なものにお金を払うだろう。そしてこのお金を払うという行為は、その「使用」に人々がどれだけ価値をつけているかを物語る。市場が社会を回す最良の方法と見られるのはそのためだ。市場では、順応性がよしとされる。市場には、生産力を使用価値に合致させるだけの柔軟性がある。
 だが、私たちの市場についての信念がいかに誤っているかを、コロナウイルスは鮮明に浮き彫りにした。いま世界中の政府は、サプライチェーン、社会保障、そして何より医療という基幹システムに混乱が起きる、あるいは加重負担がかかることを恐れている。
 これには多くの要因があるが、2つだけ見てみよう。第1に、不可欠な社会的サービスの大半で、利益を出すことはそうとう難しい。それは、利益の大きな要因が、労働生産性の向上だからでもある。つまり、少ない人数でもっとやれば、もうけが出るのだ。ところが、とくに医療など対人サービスが主となる業種では、人間が大きなコスト要因だ。結果的に、医療分野の生産性向上は、それ以外の経済活動より低くなる傾向がある。したがって、そのコストは平均より速く上昇するのだ。…
 いちばんの高給とりの大半は、交換を促進し、金を稼ぐためだけに存在する。もっと幅広い社会の目標に仕えることもない。人類学者デヴィッド・グレーバーが「クソみたいな仕事(bullshit jobs)」と呼ぶものだ。だが、彼らが大もうけするがゆえに、コンサルタントが大勢いて、巨大な広告産業があり、巨大な金融部門があるのだ。他方で、医療・社会ケアの分野は危機にある。人々がやりがいを感じている有益な仕事から退かざるをえないことがよくあるが、それはこうした仕事では食べていけないからなのだ。
 人はなぜ無駄な仕事をせざるをえないのか。あまりに多くの人々が無駄な仕事をしている──この事実は、なぜこれほど私たちがコロナウイルスに対処する備えができていないかを部分的に説明するものだ。…このパンデミックによって浮き彫りになったのは、多くの仕事は不要不急だが、一方で事態が悪化したときに対処する主要な働き手が充分いないということだ。
 人々は無駄な仕事をせざるをえないのだ。それは、交換価値が経済指針の社会では、生活必需品もたいてい市場を通して入手することになっているからだ。つまり、必需品は、買うしかない。買うためには、収入が必要だ。その収入を得るのは、仕事からだ。別の見方をすれば、最もラディカルな(そして効果的な)パンデミックへの対処法は、市場と交換価値の優位性を疑うものになる。
いまや世界中の政府は、3ヵ月前だったら不可能だっただろう対策をとっている。スペインでは、私立病院が国営化された。イギリスでは、さまざまな交通手段の国営化の見込みが濃厚になった。フランスでは大企業の国営化に向けて備えていることが発表された。
 同様に、労働市場の崩壊も起こりはじめている。デンマークやイギリスなどの国々は、国民を仕事に行かせないように収入を付与している。関連記事: ドイツの芸術家「申請からわずか3日で、私の銀行口座には60万円が振り込まれた」
 これはロックダウン成功に欠かせないものだ。これらの方策には、もちろん欠点もある。それでもこれは、人は収入を得るために働かねばならないという原理からの転換だ。そして人はたとえ働けなくても生きられる価値があるという発想への移行でもある。
 なぜ「コロナ危機」まで待たねばならなかったのか。これは過去40年間、支配的だった傾向を覆すものだ。この間、市場と交換価値こそが経済を回す最良のやり方だと見られてきた。
 この結果、公共システムは市場化の圧力、つまり、まるで利益を出さねばならない企業のように運営されるべきだという圧力にますますさらされるようになった。 関連記事: ノーベル賞経済学者が説く「GDPの最大化は、先進国が考えた的外れなゴール」
同様に、労働者たちも市場の論理にますますさらされるようになった。長期・安定雇用がこれまで提供してきた、市場の変動から身を守る「防護服」が、「ゼロ時間契約」やギグエコノミーによってはぎ取られてしまったのだ。
 コロナウイルスによって、この傾向が覆されつつあるようだ。医療と労働力商品が市場から取り出され、国家の手に預けられようとしているのだ。国家が生産するのにも多くの理由がある。良い理由もあれば悪い理由もある。だが市場と違って、国家は交換価値だけのために生産する必要がない。
 こうした変化は、筆者に希望を与えてくれる。多くの命を救う機会を私たちに与えてくれる。私たちをより幸せにし、気候変動への取り組みにも有益な、長期的な変化の可能性を示唆すらしている。
 関連記事: マリアナ・マッツカート「政府は“最初の投資家”として革新をリードすべきです」。 だがここまで来るのになぜそんなにかかってしまったのか? なぜ多くの国々で生産スローダウンに向けた備えがこれほど不足しているのか? 答えは、最近の世界保健機関(WHO)の報告書にある。正しい「観念」がなかったのだ。

【新たな経済を想像する力】
 この40年間、ひとつの大まかな経済的総意があった。そのせいで、政治家とそのアドバイザーたちがシステムの欠陥に気づく能力、あるいは別のあり方を想像する能力は制限されてきた。 この観念の原動力は、以下の2つの関連する信念だ。
 (1)市場は、良質の人生を実現させてくれるものだ。したがって保護されねばならない。(2)市場は、短期間の危機のあと、常に通常復帰するだろう。
 こうした見方は、多くの西洋諸国ではおなじみのものだ。しかし、そのなかでも最も強くその信念に突き動かされているのが、イギリスとアメリカだ。そして、両国ともコロナウイルスへの対処が非常にお粗末なようだ。イギリスでは首相の主任補佐官が私的懇談会でコロナウイルス対策について、「集団免疫と経済保護、それで年金暮らしの老人が数人死ぬなら、おあいにくさま」と言ったと報じられた。
 政府はこれを否定しているが、本当だとしても驚きはない。今回のパンデミックが始まって間もない頃、政府主催のイベントで、ある高級官僚は筆者にこう言った。「経済を中断するほどのことかね? ひとりの命の財務評価額を見れば、たぶんそれほどのことじゃない」
…このコロナ危機にできることのひとつは、経済的想像力を広げることだ。関連記事: ハーバード大学教授スティーブン・ピンカー「今回の深刻な危機を人類は確実に乗り越えられる」。 諸政府も市民も3ヵ月前には不可能と思われた対策をとっているいま、世の中の仕組みに対する私たちの考えも急速に変わりうる。この「再び想像すること」が私たちをどこへ連れて行ってくれるのか。
4つの未来予想図
 「未来探訪」の助けとして、未来学の分野のテクニックを使うことにする。その未来へと至るのに重要だと思う要因を2つ選び、その要因をさまざまに組み合わせたら何が起こるか想像するというものだ。筆者が選びたい要因は、価値と集中化だ。価値とは、私たちの経済指針となるもの全般のこと。資源を使って交換とお金を最大限に高めるのか、あるいは生活を最大限に高めるのか?
集中化とは、ものごとの組織のされ方のことで、たくさんの小さな集団によるものか、ひとつの大きな指揮権力によるものかのいずれかだ。これらの要因をグリッド図に配置し、それぞれありうるシナリオで埋めてみよう。…

【2022年元日の新聞】
 2022年元日の日経新聞1面トップは、成長の未来図①「資本主義、創り直す 解は「フレキシキュリティー」に」であり、いささか分かりにくい<フレキシキュリティー>の語彙を使い、辛うじて小見出しの「競争⇒再挑戦⇒成長の好循環」で意味を補っている。
 <フレキシキュリティー>とは、「柔軟性(フレキシビリティー)」と「安全性(セキュリティー)」を組み合わせた政策を指し、解雇規制が緩やかで人員削減がしやすい一方、学びなおし(リスキリング)や再就職の支援など保障を手厚くする。1990年代にデンマークが導入し2000年代後半から欧州各国に広がった。
 北欧の失業率は5~8%で推移し2~3%の日本より高いが、次に働く機会の見通しが立てやすいため不安は小さい。いま貧しくても豊かになれるチャンスも多い。所得下位20%の家庭に生まれた人の最終的な所得水準をみると、生まれたときより上位に上がれる人の割合はスウェーデンで73%と、米国(67%)より高いといった研究もある。
 2000年から19年の実質国内総生産(GDP)の年平均成長率をみると、スウェーデンは2.2%、フィンランドは1.4%、デンマークは1.3%伸びた。一方、所得格差の大きさを示すジニ係数(最大は1)は直近で0.26~0.28にとどまる。「個人主義と共助がよいバランスにある」(京都大学の内田由紀子教授)。競争を促しつつ再挑戦を容易にすることで格差を抑えながら成長する好循環である。
 世界の資本主義は歴史的に何度も危機に見舞われた。初めは1929年の米株価暴落を引き金とする大恐慌だ。英経済学者ケインズの理論に沿って「大きな政府」が需要を作り出し、景気を刺激する方法で乗り切った。
 米国とソ連の対立を軸とする冷戦期に「第2の危機」に襲われる。財政膨張や過度な規制など「大きくなりすぎた政府」が経済の活力を奪い、ベトナム戦争など共産主義勢力に対抗するコストが資本主義の疲弊に拍車をかけた。新自由主義が登場し、レーガノミクスやサッチャリズムの「小さな政府」が民間の競争を促して成長力を取り戻すと、ソ連は崩壊し民主主義に勝利をもたらした。
 いま直面するのが「第3の危機」だ。過度な市場原理主義が富の偏在のひずみを生み、格差が広がる。格差は人々の不満を高め、それが民主主義の危機ともいわれる状況を生み出した。資本主義と民主主義の両輪がうまく回らなくなり、世界では中国を筆頭とする権威主義が台頭する。
 混沌とする世界で日本は生き残れるのか。現状は心もとない。GDP成長率は年平均0.7%と北欧を下回るのに、ジニ係数は0.33と北欧より高く、幸福度は低い。
 「何度も聞かれてバカバカしい」、「私は好奇心にフタをしています」。将来の夢を聞くと、こう答える若者が多い。ときに「ドリハラ(ドリーム・ハラスメント)だ」と不快感を示す。中高生を調査する多摩大学勤務の高部大問氏は「多くの若者は人生を窮屈に生きている」と話す。
 バブル崩壊から30年、日本経済は低空飛行が続く。雇用の安全を重視しすぎた結果、挑戦の機会を奪われた働き手はやる気を失う。行き過ぎた平等主義が成長の芽を摘み、30年間も実質賃金が増えない「国民総貧困化」という危機的状況を生み出した。
それなのに民間企業を縛る多くの規制が温存され、社会保障改革の遅れで財政膨張にも歯止めをかけられない。日本は世界から周回遅れで「第2の危機」にはまり込んだままだ。北欧のフレキシキュリティーと比べれば、安全性はあっても柔軟性が決定的に欠ける。この弱点の改革にこれから進むべき道がある。
 資本主義の苦悩を横目に中国は急成長を遂げてきた。GDP成長率は日米欧をはるかにしのぐ年平均9.0%に達する。だが成長の裏で格差が広がり、幸福度は日米欧を下回っている。習近平指導部は文化大革命をほうふつとさせる「金持ちたたき」に動き、最新のデジタル技術も総動員した「統制」で資本主義と一線を画そうとし始めた。
 一人ひとりの個人が自由に富と幸福を追求することで社会全体の発展を支えてきた資本主義は21世紀の新たな挑戦に打ち勝てるか。世界は大きな岐路に立っている。
 以上が元日の日経新聞1面トップ、成長の未来図①「資本主義、創り直す 解は「フレキシキュリティー」に」の主な論点である。
ここで指摘される課題を抱えたまま、「この年末年始(2021~2022年)」を終える。年末年始のヒトの移動に伴い、コロナ感染者が急増(いな激増)し、第6波到来が懸念される中、次の課題へと歩を進めたい。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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