横浜中華街160年の軌跡
横浜ユーラシア文化館で企画展「横浜中華街160年の軌跡~この街がふるさとだから。」が始まった(7月4日(日曜)まで)。検温と手指消毒を済ませ、企画展会場の3階へ行く。最初のパネル「はじめに」の次の一文が目に留まる。
「横浜は巨大な移民都市です。幕末から現在までの約160年の間に、小さな村から人口370万余を要する大都市に急成長しました。それは、国内外の様々な土地から人びとが移り住み、多様な文化を育んできた過程と言えます。この横浜の歴史的特徴が如実に現れているのが、横浜中華街ではないでしょうか。…」
改めて整理すると、①<巨大な移民都市>、②<約160年間の急成長>、③<各地からの移住、多様な文化の醸成>と、都市横浜の3つの特性を掲げたうえで、「この横浜の歴史的特徴が如実に現れているのが横浜中華街」と結ぶ。今回の展示の趣旨の明快さに共感を覚えた。逆にたどると、横浜中華街を通して都市横浜の特性が分かるとも言える。
本展示は次の3部構成である(展示図録より再掲)
プロローグ 地図にみる横浜中華街
第1部 横浜中華街の軌跡
1 誕生と発展の時代
2 苦難の歳月
3 飛躍の時代
第2部 暮らしを支える職業
1 安楽園-中華料理店
2 大徳堂-漢方薬局
3 トムサン・テーラー-洋裁店
4 華僑のピアノ製造
5 中華街の日本人
第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる
エピローグ 変動の時代を迎えて コロナと闘う横浜中華街
主な参考文献 関連年表
横浜ユーラシア文化館所蔵と横浜開港資料館所蔵をふくむ、展示物のあふれんばかりの豊富さに驚く。どのような人が、どのような思いを込めて寄贈してくれたのか。
図録の「編集後記」(筆者は副館長の伊藤泉美さん)には、横浜中華街の歴史に関する最初の企画展が横浜開港資料館企画展「横浜中華街~開港から震災まで」(1994年)であり、これを機に横浜華僑の有志から口述歴史記録調査を始めた、とある。
そして以下3つの企画展がつづく。横浜歴史博物館企画展「製造元祖 横浜風琴洋琴ものがたり」(2004年)をきっかけに全国各地で周ピアノ、李ピアノが発見され、何台かの横浜里帰りが実現した。次が開港150年記念企画展「横浜中華街150年-落地生根の歳月」(2009年)、そして横浜ユーラシア文化館企画展「装いの横浜チャイナタウン-華僑女性の服飾史」(2019年)。そのたびに「横浜中華街の方々の自ら歴史に対する関心の高まりを感じた」と記す。
約30年間にわたる計4回の企画展を通じて、横浜華僑の有志からの寄贈があり、その間に築いた信頼関係があってこそ、今回の5回目に当たる企画展も実現できたにちがいない。この継続的な努力を進めてきたのが横浜市の公的機関である横浜ユーラシア文化館や横浜開港資料館等であり、とりわけ伊藤泉美さんの果たした役割は大きい。
伊藤さんは「編集後記」を次のように結ぶ。「…横浜中華街の方々のご理解・ご支援がなければ何度も企画展を行うことはかなわなかった。歴史資料の発掘と保存に心を砕いてくださった方々に、心より感謝申し上げる」と。
展示物(モノ)が自ら歩いて来るわけではない。モノが集まるのはヒトとヒトとの信頼という絆がある故であり、「第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる」には、このヒトとヒトの関係が描かれている。その導入部には、以下のようにある。
「横浜中華街は、日本と中国の様々なルーツを持つ人びとが暮らす多様性に富んだ街です。またこの街をふるさととして愛する人びとが生活する場所でもあります。ここでは、現在の横浜中華街で生活を営む6人の、これまでの人生と中華街への思いを紹介します。人は時代の中で生きています。6人の人生にも、日本と中国、そして横浜の近現代の歴史が投影されています。」
6人の方々へのインタビュー記事はとても味わい深く、かつ横浜中華街を理解するのに有益である。掲載順に、お名前と仕事、そして伊藤さんが付したタイトルを挙げる。それぞれに苦悩と奮闘の歴史を背負い、「横浜中華街160年の軌跡」を受け継ぎ形づくる人たちの物語を、ぜひともご一読ねがいたい。
1 竹本理華さん (有)萬来行代表取締役社長 「中華人民共和国内蒙古自治区包頭市生まれ、横浜育ち。日中の心をあわせ持つ、ビジネス・ウーマン」
2 曽徳深さん SAIKOH GROUP会長、横浜山手中華学園理事長、横濱華僑総会顧問、横濱関帝廟理事、横濱媽祖廟理事 「横浜生まれ横浜育ち、家族と中華街を背負って半世紀。」
3 陳天璽さん 早稲田大学国際教養学部教授、NPО法人無国籍ネットワーク代表、国際政治経済学博士 「無国籍という逆境を学問で跳ね返した、横浜中華街生まれの研究者。」
4 高橋伸昌さん (株)江戸清会長、横浜中華街発展会協同組合理事長 「コロナ禍の街を率いる、中華街に生まれ育った日本人実業家。」
5 余凱さん (株)アート代表取締役社長、横浜中華街発展会協同組合副理事長、横濱華僑総会副会長 「新華僑と老華僑をつなぐ、多彩な実業家。」
6 高橋治子さん 一石屋酒店のお母さん 「中華街で暮らしつづけて82年、酒屋に嫁いで半世紀。」
「第1部 横浜中華街の軌跡」と第2部「暮らしを支える職業」を飛ばして、先に「第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる」を観たのは正解だった。「展示品(モノ)が集まるのはヒトとヒトとの信頼関係がある故」と前に記したが、それが証明されていたと思う。
モノにはヒトと違う魅力があり、ヒトが作ったものであってもモノ独自の物語がある。浮世絵・錦絵や古写真等は観て楽しいばかりか、様々な想像力をかきたてる。地図にも個性がある。
会期は7月4日(日曜)まで。次は第2部から第1部へと、じっくり観ていきたい。
「横浜は巨大な移民都市です。幕末から現在までの約160年の間に、小さな村から人口370万余を要する大都市に急成長しました。それは、国内外の様々な土地から人びとが移り住み、多様な文化を育んできた過程と言えます。この横浜の歴史的特徴が如実に現れているのが、横浜中華街ではないでしょうか。…」
改めて整理すると、①<巨大な移民都市>、②<約160年間の急成長>、③<各地からの移住、多様な文化の醸成>と、都市横浜の3つの特性を掲げたうえで、「この横浜の歴史的特徴が如実に現れているのが横浜中華街」と結ぶ。今回の展示の趣旨の明快さに共感を覚えた。逆にたどると、横浜中華街を通して都市横浜の特性が分かるとも言える。
本展示は次の3部構成である(展示図録より再掲)
プロローグ 地図にみる横浜中華街
第1部 横浜中華街の軌跡
1 誕生と発展の時代
2 苦難の歳月
3 飛躍の時代
第2部 暮らしを支える職業
1 安楽園-中華料理店
2 大徳堂-漢方薬局
3 トムサン・テーラー-洋裁店
4 華僑のピアノ製造
5 中華街の日本人
第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる
エピローグ 変動の時代を迎えて コロナと闘う横浜中華街
主な参考文献 関連年表
横浜ユーラシア文化館所蔵と横浜開港資料館所蔵をふくむ、展示物のあふれんばかりの豊富さに驚く。どのような人が、どのような思いを込めて寄贈してくれたのか。
図録の「編集後記」(筆者は副館長の伊藤泉美さん)には、横浜中華街の歴史に関する最初の企画展が横浜開港資料館企画展「横浜中華街~開港から震災まで」(1994年)であり、これを機に横浜華僑の有志から口述歴史記録調査を始めた、とある。
そして以下3つの企画展がつづく。横浜歴史博物館企画展「製造元祖 横浜風琴洋琴ものがたり」(2004年)をきっかけに全国各地で周ピアノ、李ピアノが発見され、何台かの横浜里帰りが実現した。次が開港150年記念企画展「横浜中華街150年-落地生根の歳月」(2009年)、そして横浜ユーラシア文化館企画展「装いの横浜チャイナタウン-華僑女性の服飾史」(2019年)。そのたびに「横浜中華街の方々の自ら歴史に対する関心の高まりを感じた」と記す。
約30年間にわたる計4回の企画展を通じて、横浜華僑の有志からの寄贈があり、その間に築いた信頼関係があってこそ、今回の5回目に当たる企画展も実現できたにちがいない。この継続的な努力を進めてきたのが横浜市の公的機関である横浜ユーラシア文化館や横浜開港資料館等であり、とりわけ伊藤泉美さんの果たした役割は大きい。
伊藤さんは「編集後記」を次のように結ぶ。「…横浜中華街の方々のご理解・ご支援がなければ何度も企画展を行うことはかなわなかった。歴史資料の発掘と保存に心を砕いてくださった方々に、心より感謝申し上げる」と。
展示物(モノ)が自ら歩いて来るわけではない。モノが集まるのはヒトとヒトとの信頼という絆がある故であり、「第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる」には、このヒトとヒトの関係が描かれている。その導入部には、以下のようにある。
「横浜中華街は、日本と中国の様々なルーツを持つ人びとが暮らす多様性に富んだ街です。またこの街をふるさととして愛する人びとが生活する場所でもあります。ここでは、現在の横浜中華街で生活を営む6人の、これまでの人生と中華街への思いを紹介します。人は時代の中で生きています。6人の人生にも、日本と中国、そして横浜の近現代の歴史が投影されています。」
6人の方々へのインタビュー記事はとても味わい深く、かつ横浜中華街を理解するのに有益である。掲載順に、お名前と仕事、そして伊藤さんが付したタイトルを挙げる。それぞれに苦悩と奮闘の歴史を背負い、「横浜中華街160年の軌跡」を受け継ぎ形づくる人たちの物語を、ぜひともご一読ねがいたい。
1 竹本理華さん (有)萬来行代表取締役社長 「中華人民共和国内蒙古自治区包頭市生まれ、横浜育ち。日中の心をあわせ持つ、ビジネス・ウーマン」
2 曽徳深さん SAIKOH GROUP会長、横浜山手中華学園理事長、横濱華僑総会顧問、横濱関帝廟理事、横濱媽祖廟理事 「横浜生まれ横浜育ち、家族と中華街を背負って半世紀。」
3 陳天璽さん 早稲田大学国際教養学部教授、NPО法人無国籍ネットワーク代表、国際政治経済学博士 「無国籍という逆境を学問で跳ね返した、横浜中華街生まれの研究者。」
4 高橋伸昌さん (株)江戸清会長、横浜中華街発展会協同組合理事長 「コロナ禍の街を率いる、中華街に生まれ育った日本人実業家。」
5 余凱さん (株)アート代表取締役社長、横浜中華街発展会協同組合副理事長、横濱華僑総会副会長 「新華僑と老華僑をつなぐ、多彩な実業家。」
6 高橋治子さん 一石屋酒店のお母さん 「中華街で暮らしつづけて82年、酒屋に嫁いで半世紀。」
「第1部 横浜中華街の軌跡」と第2部「暮らしを支える職業」を飛ばして、先に「第3部 ふるさと、横浜中華街に生きる」を観たのは正解だった。「展示品(モノ)が集まるのはヒトとヒトとの信頼関係がある故」と前に記したが、それが証明されていたと思う。
モノにはヒトと違う魅力があり、ヒトが作ったものであってもモノ独自の物語がある。浮世絵・錦絵や古写真等は観て楽しいばかりか、様々な想像力をかきたてる。地図にも個性がある。
会期は7月4日(日曜)まで。次は第2部から第1部へと、じっくり観ていきたい。
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