人類最強の敵=新型コロナウイルス(29)
12月18日(金曜)に前稿(28)を掲載して以降、全国の感染拡大に歯止めがかからない。この日の午後3時、東京都の新規感染者が過去3番目(金曜日では過去最多)との速報が入り、晩には全国で2837人(うち重症者609人、死者48人)と発表された。
新規感染者数は曜日ごとに増減があるため、<曜日最多>という表現が使われるようになり、23日(水曜)現在、9日連続で<曜日最多>となった。ところが翌24日(木曜)、全国で3740人、東京都が888人、神奈川県が495人、埼玉県が251人、千葉県が234人といずれも過去最多(あわせて9都道府県)となった。すさまじい増加であり、医療機関が年末年始を乗り切れるか危ぶまれている。
【感染拡大と抑止対策】
これまで【国内のコロナ対策と経済活性化】として分析してきたが、14日(月曜)夕方、菅首相が<Go To トラベル>を突如として変更し、今月28日から年明けの1月11日までの間、全国一斉に一時停止すると発表した。それ以来、「コロナ対策と経済活性化」を両立させるという政策は一挙に後退し、感染拡大をいかに抑止するかが最大の課題となったため、節のタイトルを【感染拡大と抑止対策】に変更した。
まず感染拡大がつづく状況を、新型コロナウィルスの新規感染者等の数として確認しよう。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者と死者)、後者が東京(カッコ内は重症者)。
18日(金曜) 2837人(609人、48人)と664人(66人)
19日(土曜) 2991人(598人、40人)と736人(62人)
20日(日曜) 2492人(593人、36人)と556人(66人)
21日(月曜) 1806人(603人、48人)と392人(63人)
22日(火曜) 2688人(620人、48人)と563人(64人)
23日(水曜) 3269人(619人、56人)と748人(69人)
24日(木曜) 3740人(644人、54人)と888人(73人)
25日(金曜) 3831人(644人、63人)と884人(81人)
26日(土曜) 3881人(654人、47人) と949人(81人)
27日(日曜) 2948人(654人、47人)と708人(82人)
28日(月曜)の午後3時、ふだんなら東京都の感染者の速報が入る時間であるが、もう年末年始の休日モードになったのか、テレビも新聞社のデジタルニュースも入らない。やむなく本稿も年末モードに入る。来年も連載<人類最強の敵=新型コロナウイルス>を止めるわけには行かない。
12月21日(月曜)、感染力が強いとされる新型コロナ変異株の感染がイギリスで広がっていることを受けて、ヨーロッパをはじめ世界各国でイギリスからの旅客機の受け入れを停止するなど、影響がさらに広がっている。国立感染症研究所によると、日本国内ではこれまでのところ確認されていないというが、専門家は「いずれ国内に入ってくる前提で対策を考える必要がある」と話す。
21日(月曜)、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会の四師会と四病院団体協議会、東京都医師会は新型コロナウイルス感染症の拡大で医療提供体制が逼迫していることを受け、<医療緊急事態宣言>を発して感染防止に全力を尽くすよう、政府をはじめ各方面に呼びかけた。
22日(火曜)、厚労省に助言する専門家の会合が開かれ、全国の感染状況について北海道以外では明らかな減少が見られず、新たな地域での感染拡大も止まず、全国的に蔓延していると分析した。東京での感染の継続や大都市圏での拡大が周辺や地方での感染発生にも影響しているとして、大都市を抑えなければ、地方を抑えることも困難になると警告した。
同じ日、東京都医師の尾崎治夫会長が記者会見を行い、感染者急増により医療崩壊の直前にあるとして<医療緊急事態宣言>を伝えた。21日の合同会見といい、医療を預かる現場責任者の悲痛な声に耳を傾けたい。ただし、本来なら政治の責任者である首相が先頭に立って国民に訴えるほど重大な問題である。にも拘わらず、その姿が見えない。これで暮れ正月を乗り越えられるのか。
22日の記者会見で西村大臣は、新宿御苑や迎賓館等の国営の公園の休業期間を、今月26日(土曜)から来年1月11日(成人の日)まで延長すると述べた。
23日(水曜)午後、加藤官房長官は、イギリスで感染力が強いとされる変異した新型コロナウイルスが広がっていることを受けて、24日以降、イギリスからの新規の入国を拒否するなど、入国制限を強化する新たな措置を実施すると明らかにした。イギリスからの新規の入国を拒否するほか、日本在住の日本人や外国人がイギリスに7日間以内の短期出張をした場合の帰国・入国の際、一定の条件のもとで免除している14日間の待機を改めて要請するとし、今月27日から、日本人の帰国者についても、出国前の72時間以内の検査の証明を求めるとした。
同じ日、政府分科会(尾身会長)は東京都に対し、午後10時までの時短要請をさらに短縮するよう意見をまとめた。また感染拡大がつづく地域での大規模イベントの開催制限を強化する案が政府から示され、了承された。
同じ23日、ワクチンについて、厚労省は①2021年2月下旬をめどに医療従事者、②3月下旬をめどに高齢者への接種を始める体制を確保し、その後③<基礎疾患>のある人などに優先して接種を行う方針をまとめた。
この③<基礎疾患>を、ア)慢性の心臓病や腎臓病など、イ)呼吸器の疾患、ウ)がんなどの免疫機能が低下する病気、エ)睡眠時無呼吸症候群などで通院や入院をしていることを条件とする場合と、オ)肥満も含める方針で、対象は820万人にのぼる見通しである。
同じ23日、小池都知事が自民党三役を訪問、現行の特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法、名称に注意)と感染症法の早期改正や水際対策の強化を要請、二階幹事長は「しっかり取り組んでいく」と応じた。法律改正については、緊急を要するもの、後手に回ることなく中長期を見通したもの、これら両面が求められる。参考になる一つが、25日(金曜)の朝日新聞デジタルの連載「新型コロナ1年 揺れる世界」の第3回「<まずは感染抑止>貫いた台湾 判断委ねる日本との差は」である。
台湾では、過去の失策の経験(2003年のSARSに伴う混乱)を活かし、今回の防疫成功の理由を「初期段階で域内にウイルスを入れなかったことだ」と、当局に助言する専門家チームを率いる張上淳・台湾大副学長(感染症学)は話す。 この反省から2004年に伝染病予防法が改められ、緊急時に行政部門を横断する対策本部を設置できるようになった。
対策本部には民間の不動産や医療関連物資を徴用できる権限もある。昨年12月31日、中国・武漢で原因不明の肺炎患者が出ているとの情報に、台湾当局は素早く武漢からの直行便の乗客への検疫を強化。2日後、当局から依頼された張氏は専門家らと必要な検査・隔離体制などを献策、すべて採り入れられたという。
今年1月21日、台湾では初の感染に緊張が一気に高まり、薬局にはマスクを求めて人々が殺到、品不足で値段も高騰した。混乱の中で民間が動く。台南市のプログラマー呉展瑋さん(35)は2月1日、マスクを入手できない人が不満を訴えるネットの投稿を見て、徹夜でグーグルマップを使ったマスク供給地図を作った。マスクの在庫状況をサイトに入力すれば、閲覧者は購入可能な店を見つけられる仕組み。翌日、無料公開すると、閲覧数は半日で54万回に達した。
この取り組みを知った唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当相は当局のマスク供給計画を公開し、それを生かして地図を改良するようネット上で依頼。プログラマーたちが大挙して応じ、数日後には無料で使える地図が30種類以上ネット上に現れた。呉さんは「民間には危機の際に手を貸そうとする気持ちや、必要な能力を持つ人材がいる。行政が情報を開示し、民間に協力を求めたことで、人々も行政を信頼した」と言う。
人口2350万の台湾の累計感染者は12月18日時点で759人(死者7人)に止まる。4月以降、感染者はいないが、外国人観光客の入境禁止を続ける。公共交通機関などではマスクの着用を義務化し違反者には罰金も科した。市民に不自由を強いる対策だが、10月の世論調査で蔡英文政権のコロナ対応への評価は100点満点で平均78・32点の高さである。
中国のように強権的な検査・隔離態勢で感染に臨む国がある一方、日本はハンセン病の患者を強制隔離し深刻な差別を生んだ歴史もあり、強制策に慎重である。現状では濃厚接触者の調査協力や外出制限を強制できる法律はない。政府が4月に出した緊急事態宣言は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいているが、同法では国民の自由と権利への制限は「必要最小限のものでなければならない」と定めている。
対策への協力要請に応じるかが市民の判断に委ねられる手法について、東京大の広井悠准教授(都市防災)は、日本の防災対策とも共通点があると指摘する。例えば、台風被害が予見される地域住民への避難勧告・指示は強制ではない。「モラル依存の手法は防災目的の移動制限などでも使われる。リスクを認識、それを避ける行動が一人ひとりに求められる」という。
こうした施策で春の「第1波」は収まり、当時の安倍晋三首相は、「日本モデルの力を示した」と誇った。市民が市民を監視する「自粛警察」や、過度な同調圧力もあった。都市封鎖に比べれば、個人の自由への制約が少なく、経済ダメージも少なく済んだとされる。
しかし、現在の<第3波>では十分な効果は出ていない。政府の対策分科会の尾身会長は11日の会見で「多くの人々は行動自粛を求められることにへきえきしている」と焦りを見せた。政府の<Go To>事業で、感染対策のメッセージが伝わりにくくなったとの指摘もある。
政府の対策分科会は、<Go Toトラベル>事業の見直しなどを繰り返し求めてきたが、政府は「感染拡大のエビデンス(証拠)はない」などと主張、対応は後手に回った。そしていま医療機関へ過大な負荷がかかり、病床数と医療従事者の両面で逼迫している。
24日(木曜)、東京都のモニタリング会議の分析によると、23日までの1週間の都内の新規感染者は1日あたり616人で、前週の513人から大幅に増えた。このうち感染経路が特定できない感染者は1日あたり363人で、過去最多を更新、現在のペースがつづけば来年1月初旬には1日で558人の経路不明な感染者が出るとの試算が示された。
小池知事は「年末年始はきわめて重要な時期。外出や忘年会、新年会への参加はぜひとも控えて」と呼びかけ、専門家は「年末年始にはさらに逼迫する。医療機関の深刻な機能不全や、保健所業務の大きな支障の発生が予想される」と指摘した。これは東京だけの問題ではなく、日本全体の問題であるにも関わらず、菅首相からメッセージが発せられない。
25日(金曜)の閣議で政府は重い腰をあげ、感染者の入院受け入れ医療機関への緊急支援として、2020年度予備費2693億円を活用し、病床が逼迫している都道府県などでは、重症者病床1床につき1500万円を支援すると決定した。
同じ25日午後9時すぎから田村厚労大臣が記者会見し、イギリスから帰国した男女5人から変異したウイルスへの感染が確認されたと発表した。変異ウイルスへの感染者が国内で確認されたのは初めてである。
26日(土曜)、都内に住む30代の男性と家族の20代の女性が変異種に感染していることが新たに確認された。空港の検疫所での検査以外で感染が確認されたのは、これが初めてである。男性は今月16日にイギリスから帰国したが、航空機のパイロットだったため検疫の対象ではなく、空港での検査は行われていなかった。家族の女性も変異したウイルスへの感染が確認され、いずれも都内の医療機関に入院している。
同じ26日の朝日新聞デジタルの「変異種はどのくらい心配? 注目される二つの理由と対策」は、ウイルスのゲノム解析に詳しい東海大学の中川草(そう)講師のインタビューを掲載した。以下に主な論点を挙げる。
「変異はウイルスが増えるとき、一定の割合でいつも起きているもので、多くの変異はウイルスにとって感染を広げるのに不利、もしくは有利でも不利でもない「中間的」なもので、変異そのものをそこまで心配する必要はない。今回は、英国政府がいち早く警戒を呼びかけたことで、変異したウイルスが他の国に拡散する前に気づくことができている。もし重症化に関係しないとしても、感染者が増えれば医療提供体制へのインパクトが大きいので、ここで食い止める必要がある。現状では、国内での感染例も数件で、封じ込められる可能性はある。」
「新型コロナの遺伝子はRNAと呼ばれる物質でできており、4種類の塩基という化学物質が一列に並んだ構造をしていて、新型コロナのRNAは、全部で約3万個の塩基が並んでいる。ウイルスが増えるときにRNAもコピーされるが、その際、いくつかの塩基が別の種類に変わったり、抜け落ちたりする。コピーを間違えること、それが<変異>である。…今回の新型コロナのパンデミックでは、解析されたウイルスのゲノム(全遺伝情報)の報告が、世界中から、かつてないスピードで集まった。GISAIDというウイルスのゲノム情報を登録して共有する国際的なプラットフォームには、この1年で29万個を超える新型コロナのゲノム情報が登録されており、イギリスは多くのゲノム情報を提供する最大の貢献者でした。それらの情報を元に様々な研究がなされ、その中から、今回の警戒すべき変異が予想されていた。」
同じ26日、都営地下鉄大江戸線の運転士21人が新型コロナに感染し(濃厚接触者を含む)自宅待機となったため、27日(日曜)から来月11日まで、運航本数を通常の7割程度まで減らすと発表した。なお都営地下鉄全線で大晦日から元旦にかけての終夜運行を取りやめることを18日に発表している。
27日(日曜)の日経新聞朝刊のトップ見出しは「新規入国 全世界から停止 変異種対応 あすから来月末」で、政府の26日の発表を伝える。これまでイギリスと南アからの新規入国を止めており、それを世界すべての国・地域に拡大するもの。
この日、都内で新たに708人(重症者は82人)の新規感染者(陽性者)を確認したと発表。1日の感染の確認が700人を超えるのは5日連続で、検査数の少ない日曜日の発表人数としては最多である。
PCRの検査数が増えているため、感染者数の増加だけでは分からないことが多い。そこで都は、前日までの1週間に陽性と判明した人の平均を、前日までの1週間に検査した人の平均で割った数字を<陽性率>として公表している。26日公表された25日時点の陽性率は8.2%で、今年5月25日に緊急事態宣言が解除されて以降、最も高くなった。9月から10月にかけては3%台で推移、11月中旬に6%まで上昇、12月18日に7.0%と上昇していた。
最近1週間の平均PCR検査人数は7681人であり、東京の昼間人口(1600万人弱)のうちの、ごくわずかにすぎない。この限られた検査人数から実際の感染者数の推移を推計するのに<陽性率>は重要なキーである。東邦大学の舘一博教授(日本感染症学会理事長)は、陽性率が上がっていることから、「…感染は市中のあらゆる場所に広がっているのではないか。陽性になっている人以外にも、感染している人が多くいる可能性も考えておかなければいけない」と話す。
28日(月曜)、旅行代金の割り引きなどが受けられる<Go To トラベル>が、いよいよ今日から来年1月11日まで全国一斉に運用が停止される。日経新聞の世論調査では、停止を<妥当>とするものが67%、<不十分>が22%とあった。遅きに失した感があるが、感染拡大を抑えるのに役立つことを願っている。
年末年始、今年はふだんと様相が違う、いや違わなければならない。さもないと感染を抑え込めず、医療機関が崩壊しかねない。それを直観した企業の約94%が忘年会や新年会の中止を決めているという。内閣府の調査で個人の7割以上が忘新年会を控えると回答した。
その一方、政治家の忘年会の報道が相次ぐ。「…いや、忘年会ではない、重要な打ち合わせ…」と言い訳、あるいは擁護する発言があり、なかでも自民党重鎮の姿がなんとも情けない。折しも26日の日経新聞朝刊に「内閣支持率42%に急落、不支持が逆転」の記事があった。
【アメリカの政権移行】
米大統領選の選挙人投票(12月14日)でバイデン氏が過半数(270人)を上回る選挙人306人を獲得(トランプ氏支持の選挙人は232人)し、大統領選の勝利が事実上確定した。次のプロセスは来年1月6日、上下両院合同会議の選挙人による各州の投票結果である。これにより次期大統領が正式に決まる。
21日(月曜)、選挙人投票の結果を受けて、連邦議会では与野党(共和党と民主党)指導部が、追加のコロナ対策9000億ドル(約93兆円)を発動することで合意した。これは中小企業の雇用対策、家計支援、ワクチン普及に向けた資金を供給するもので、今年3月に発動したコロナ対策の期限切れを回避し、継続させるもの。
こうして雇用維持策が失効する<財政の崖>をぎりぎりの土壇場で回避することができそうである。もし決まらなければ、年明けの1月にも500万世帯が住居を失うリスクがある。民主党のペロン下院議長は記者会見で、「今回の経済対策は第一歩。バイデン次期政権で追加対策を講じるだろう」と述べた。
2日後の23日(水曜)、トランプ大統領はツイッターで、議会の与野党協同のコロナ対策法案に対して突然、修正を求め、一人当たりの現金給付額を最大600ドルとする原案に対して2000ドルに引き上げるよう議会に求めるとし、もし原行案のままなら署名を拒否すると表明した。
この追加のコロナ対策は、議会の下院で359対53、上院で92対6の、いずれも3分の2以上の賛成多数で可決され、ムニューシン財務長官は22日に「超党派の可決を歓迎する」と述べていた。そこにトランプ大統領による突然の法案修正は議会にとって<寝耳に水>であり、事態は混沌としてきた。修正案の成立が来年にずれこめば、政府機関の一部閉鎖も余儀なくされる。
【世界的な感染拡大と抑止対策】
イギリスで発見された新型コロナ変異種(株)により、国際的な人の移動に伴う措置が不可欠となった。
19日(土曜)、イギリスのジョンソン首相は、急きょ記者会見を開き、「急拡大は変異したウイルスによって起きているとみられる。多くの不確定要素はあるが、従来よりも最大70%感染しやすいようだ」と述べ、ロンドンを含む南東部では、正当な理由がない限り外出を控えるよう求めること、生活必需品を販売する店を除いて、小売店は一部のサービスを除いて営業を行わないことなど、11月と同様の厳しい措置を12月20日から再び導入することを明らかにした。一方で、変異種のウイルスによって症状がより重くなる、あるいはワクチンが効きにくくなることを示す証拠はないとしている。
イングランドでは、12月23日から5日間規制を緩和して、3世帯までであれば集まってクリスマスを過ごすことを認める予定だったが、南東部では規制緩和が見送られ、ほかの地域でもクリスマスの1日のみに限定するとした。首相は「誰もが失望することはわかっている。首相としてほかに道はない」と述べ、理解を求めた。野党などからは遅すぎるという声もあがっている。
20日(日曜)、イギリス政府はウイルスの遺伝情報を調べた結果を明らかにした。変異種は9月に出現し、11月半ばまでは市中での広がりは少なかった。11月後半にロックダウン(都市封鎖)を導入したにもかかわらず、ロンドン南東のケント州で感染率が下がらなかったことから保健当局が調査。変異種による感染例が増えていたことが明らかになった。その後、この変異種がロンドンや周辺地域で広がっていることを突き止めたという。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、変異種がすでに英国以外にも広がっている可能性があるとしている。
20日(日曜)、欧州では、ドイツ、イタリア、オランダなど各国がイギリスからの旅客機の受け入れを停止する措置を決めたほか、フランスやベルギーは鉄道やフェリーの受け入れも停止するとしている。欧州以外でもイランがイギリスへの国際線を2週間停止するとしたほか、ロイター通信によると、南米のアルゼンチンとチリも、イギリスとの間の国際線を停止すると発表した。
香港は、12月22日から当面、14日以内にイギリスに2時間以上、滞在したことのある人を対象に香港に入ることを禁止した。インド政府も12月21日、イギリスとの間を結ぶ国際線の運航を12月22日から12月31日まで停止すると発表した。
同じ20日、イタリア保健省は数日前に英国から航空便でローマに到着した乗客から変異種が見つかったため、隔離したと発表した。世界保健機関(WHO)によると、英国と同じ変異種がデンマークで9件、オランダ、豪州で1件ずつ確認されたという。従来より重症化しやすいという証拠は見つかっていないという。
【ワクチン開発と接種】
NHK特設サイト<新型コロナウィルス>の12月18日号に次の3本の記事がある。(1)「米ファイザーコロナワクチン 日本での<特例承認>求める」、(2)「ファイザーコロナワクチン 日本で承認申請 早ければ2月に結論」、(3)「新型コロナワクチン 2月下旬の接種開始の準備指示 厚労省」。
12月18日(金曜)、ファイザー社は日本国内での使用に向け、厚労省に承認の申請を行った。国内で新型コロナウイルスのワクチンの承認申請が行われるのは初めて、審査手続きを大幅に簡略化する<特例承認>の適用を目指している。
<特例承認>とは、通常、1年程度かかる医薬品の審査手続きを大幅に簡略化して早期に承認する制度である。2009年に新型インフルエンザが流行した際に初めて適用され、2種類のワクチンが申請から約3か月で承認、また今年5月には新型コロナウイルス治療薬レムデシビルに適用、申請から3日で承認された。
<特例承認>を適用するには、①病気の蔓延を防ぐために緊急に使用する必要があること、②代わりの医薬品がないこと、③アメリカやイギリスなど日本と同じ水準の承認制度がある国で承認されていること等すべて満たすのが条件になる。
ファイザーの日本法人は、「このたびの申請は科学的に厳格で高い倫理に基づく研究開発から得られたデータに基づいており、承認が得られた際は速やかに日本の皆様にもワクチンをお届けし、社会生活正常化の一助として貢献してまいります」とコメント。
田村厚生労働大臣は、記者会見で「有効性や安全性をしっかりと審査した上で判断していく。アメリカでは緊急使用許可が出たという話もある中、わが国としてどうするかは、しっかりとデータを見た上でとなる。最優先の課題なので、最優先で審査をしていく」と述べた。
一方で副反応が懸念されていることについて、「接種が始まっている海外の情報をしっかり収集し、審査の中の1つのデータとして分析していきたい。ワクチン全般において、すごくまれにアレルギー反応はあるわけなので、そういうことも踏まえて、しっかり審査をしていく」と述べる。
ファイザーは、日本国内でも160人を対象に免疫の働きや安全性を確認する初期段階の臨床試験を進めているが、今回の承認申請は、国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構と相談した上で、海外での大規模な臨床試験の結果をもとに行ったという。PMDAは2020年9月、新型コロナウイルスのワクチンを審査する際の考え方を公表した。
それによると、有効性を評価するために、(1)ウイルスを攻撃する抗体ができることを確認するだけでなく、ウイルスを排除する免疫の細胞の働きについても解析することを求め、(2)その上で、臨床試験でワクチンを投与するグループとワクチンに似せた偽の薬(<偽薬>)を投与するグループに分けて比較することで、発症予防効果を確認する必要があるとしている。
また、安全性については、(1)臨床試験でワクチンを投与してから少なくとも7日目までと28日目までに体に異常が出ないか確認すること、(2)投与後少なくとも1年間は健康状態の確認を続けることなどが必要だとしている。一方で、海外で大規模な臨床試験が行われ、予防効果が確認されているワクチンについては、国内での臨床試験は免疫の働きの解析や安全性を確認するのみで十分な場合があるという。
アメリカの製薬大手ファイザーが、国内で、新型コロナウイルスワクチンの承認を申請したことについて、ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は、日本人に接種して本当に大丈夫なのかは今後の議論だが、審査機関は急がば回れの考え方で、しっかり審査してほしい」と指摘した。「ワクチンはすぐに手に入るのかなどと期待する声がある一方で、開発のスピードが早すぎて危ないから打つのを待った方がいいという声も出ている。ワクチンで得られる利益とリスクについて、知っておくことが大切だ」と述べた。
ファイザーが承認を申請したワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれるこれまでになかった全く新しいタイプのワクチンで、ウイルスの遺伝情報を伝達する物質である。mRNAを人工的に作って注射で投与(接種)する。投与すると体の中で<スパイクたんぱく質>と呼ばれるウイルスの表面にある突起の部分が作られる。スパイクたんぱく質を目印に、免疫の働きによって新型コロナウイルスに対応する抗体が作られ、ウイルスが体内に侵入した際、抗体が攻撃して感染を防ぐ仕組みである。
mRNAを医薬品に活用するアイデアはアメリカのウィスコンシン大学のグループが1990年に発表した論文で示され、当初は遺伝子治療の一環として研究されていたが、この数年、mRNAを生成する技術や安定させる技術などが進んだことで医薬品としての実用化に向けて注目が高まっていた。
また、mRNAを使ったワクチンは、カギとなるmRNAを変えることでほかのウイルスにも応用することができるとみられ、ワクチンの考え方を大きく変える可能性があるとされる。
一方で、mRNAワクチンをはじめ、新型コロナウイルスで開発が進む遺伝情報を使ったワクチンは、これまで実用化されたことのない全く新しい技術となることから、実際に多くの人に使用した場合の効果や副反応については慎重に判断する必要があるという指摘も出ている。
アメリカの製薬大手ファイザーは、ドイツの企業ビオンテックとともに、mRNAを使った新型コロナウイルスのワクチン開発を進めてきた。なおトランプ政権が進めた新型コロナウイルスワクチンを早く供給するための開発計画、<ワープ・スピード作戦>からは一定の距離を置いて開発を進めてきたとされる。
ファイザーは、感染者が多いアメリカやブラジルなどで臨床試験を行い、11月には4万人を超える人を対象にした大規模な臨床試験で「90%を超える予防効果がある」とする暫定的な結果を発表した。この後に発表された詳しい結果を記した論文によると、(1)ワクチンを接種した2万人あまりのうち、接種後7日目以降に新型コロナウイルスに感染したのは8人であったが、(2)<偽薬>と呼ばれるワクチンに似せた偽の薬の接種を受けた2万人あまりでは162人が感染ということで、ワクチンによる予防効果は95%だとしている。
こうした結果を受けて、12月2日に世界で初めてイギリスでワクチンが承認され、12月8日に接種が始まったほか、アメリカでも12月11日に緊急使用の許可が出され14日に接種が始まった。一方、副反応の報告も出ていて、(1)イギリスでは、2人が激しいアレルギー反応、「アナフィラキシー」のような症状を示したほか、(2)アメリカでもアラスカ州の医療従事者が「アナフィラキシー」のような症状を示したという。イギリスの2人は過去にアレルギー反応が出たことがあった一方、アメリカの医療従事者は過去にアレルギー反応が出たことがなかったという。
イギリスの規制当局は、過去に同じような症状が出たことのある人は接種しないよう、予防的な措置としての勧告を出した。またアメリカCDC=疾病対策センターはワクチンに含まれる成分にアレルギー反応を示した経験がある人は、接種しないことなどを指示している。
各国の保健当局によれば、米製薬大手ファイザーと独企業ビオンテックが開発したワクチンは、イギリス、バーレーン、カナダ、サウジアラビア、メキシコ、アメリカ、シンガポール、チリの少なくとも8ヵ国で承認、または緊急使用が許可された。
このワクチンを開発した独企業ビオンテックについて、「世界が驚くワクチンのスピード開発 舞台裏に研究者夫妻」(19日の朝日新聞デジタル)は次のように伝えた。中国のチームが新型コロナウイルスのゲノム配列を発表したのが
1月。そこから1年足らずで、複数のワクチンの実用化にこぎつけた。過去、実用化まで最速だったワクチンは<おたふく風邪>とされるが、それでも4年を要しており、今回のスピードに世界が驚いている。
国をあげた開発支援もあったが、ワクチン開発の技術革新の影響が大きい。米ファイザーと米モデルナは<RNA>と呼ばれるウイルスの遺伝物質を使ってワクチンをつくった。ウイルスの遺伝子配列さえわかれば、短期間で開発を進められる利点がある。
注目を集めているのが、今回ファイザーと共同開発したドイツ地方都市マインツの企業ビオンテックである。12年前、トルコ出身の両親をもつ研究者
夫妻ウール・シャヒンさん(55)、エズレム・テュレジさん(53)が中心となっ
て創業した。医学部を卒業し、大学病院で出会った2人はいま、それぞれ最高経営責任者(CEO)、最高医療責任者に就く。
当初の狙いはがん治療への応用だった。英紙フィナンシャル・タイムズなどによると1月、シャヒンさんは新型コロナの記事を読んですぐに大流行を予
測、ワクチン開発を決めた。ウイルスのゲノム配列が発表された2週間後には自宅のコンピューターで10種類のワクチン候補の設計を終了。インフルワクチンの開発で協力関係にあったファイザーに声をかけ、大規模治験や大量生産に道を開いた。
RNAは壊れやすい物質で、高品質を安定して生産できるようになったのは最近のことという。「コロナの流行が3年早く起きていたら、開発ははるかに困難だっただろう」と、テュレジさんは同紙に語った。
ワクチン開発での日本勢の動向を見ると、国産ワクチンはこれまでに2社が、実際に人に投与して安全性などを確認する臨床試験を始めている。このうち、大阪にあるバイオベンチャー企業のアンジェスは、国産ワクチンとしては最も早い6月に臨床試験を始め、12月には対象者を500人に増やして臨床試験を続けている。これは、ウイルスそのものではなく、遺伝子を使ったワクチンの一種、<DNAワクチン>で、投与して体内に抗体を作る仕組みである。
また、大阪に本社がある製薬大手、塩野義製薬は12月16日、214人を対象に臨床試験を始めた。開発しているのは、<組み換えたんぱく質ワクチン>というタイプで、遺伝子組み換え技術を使ってウイルスのたんぱく質の一部だけを人工的に作って投与し、体の中で抗体を作り出す。
ただ、日本で臨床試験を進める上では課題もある。日本は、欧米や南米等と比べて感染者数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しいとされる。また今後、海外メーカーのワクチンが国内で広く接種されるようになると、感染者の数がさらに減少し、多くの人が免疫を持ついわゆる<集団免疫>の状態に近づくなど、臨床試験で予防効果を確認する難しさが増すとの指摘もある。このため、国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構は、少人数を対象に行う初期段階の臨床試験の後、海外で大規模な臨床試験を行うことも選択肢だとしている。
このほか、臨床試験には至っていないものの国内でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められている。(1)ワクチンメーカーKMバイオロジクスによる新型コロナウイルスを無毒化して投与する<不活化ワクチン>、(2)製薬大手の第一三共による、ファイザーなどと同様の仕組みのmRNAワクチン、(3)バイオベンチャー企業IDファーマによる、ウイルスの遺伝子の一部を別の無害なウイルスに組み込んで投与する<ウイルスベクターワクチン>等である。なお日本の得意分野とされる治療薬の開発についても、いずれ取り上げたい。
この間、次の録画を観ることができた。(1)NHKクローズアップ現代「家庭内感染急増 想定外リスク次々と 後遺症にも違いが」18日。(2)BS1スペシャル シリーズ コロナ危機「テレワークが変える<新しい経済>」19日。(3)NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人たち 高橋一生×中村拓志」19日。(4)BS1 週刊ワールドニュース「新型コロナに揺れる世界(12月14日~18日)」20日。(5)BS1スペシャル「市民が見た世界のコロナショック 11月~12月編」20日。(6)NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界6 “科学立国”再生への道」20日。(7)BSスペシャル「ヒューマニエンス 思春期 リスクテイクの人類戦略」21日。(8)NHK総合「2020挑戦 コロナ禍のRADIO 大学生のリアルを届けて」22日。(9)NHK総合「ファミリーヒストリー アンコール(元は2017年8月 オノ・ヨーコ&ジョン・レノン)23日。(10)BSプレミアム「ヒューマニエンス“目” 物も心も見抜くセンサー」24日。
新規感染者数は曜日ごとに増減があるため、<曜日最多>という表現が使われるようになり、23日(水曜)現在、9日連続で<曜日最多>となった。ところが翌24日(木曜)、全国で3740人、東京都が888人、神奈川県が495人、埼玉県が251人、千葉県が234人といずれも過去最多(あわせて9都道府県)となった。すさまじい増加であり、医療機関が年末年始を乗り切れるか危ぶまれている。
【感染拡大と抑止対策】
これまで【国内のコロナ対策と経済活性化】として分析してきたが、14日(月曜)夕方、菅首相が<Go To トラベル>を突如として変更し、今月28日から年明けの1月11日までの間、全国一斉に一時停止すると発表した。それ以来、「コロナ対策と経済活性化」を両立させるという政策は一挙に後退し、感染拡大をいかに抑止するかが最大の課題となったため、節のタイトルを【感染拡大と抑止対策】に変更した。
まず感染拡大がつづく状況を、新型コロナウィルスの新規感染者等の数として確認しよう。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者と死者)、後者が東京(カッコ内は重症者)。
18日(金曜) 2837人(609人、48人)と664人(66人)
19日(土曜) 2991人(598人、40人)と736人(62人)
20日(日曜) 2492人(593人、36人)と556人(66人)
21日(月曜) 1806人(603人、48人)と392人(63人)
22日(火曜) 2688人(620人、48人)と563人(64人)
23日(水曜) 3269人(619人、56人)と748人(69人)
24日(木曜) 3740人(644人、54人)と888人(73人)
25日(金曜) 3831人(644人、63人)と884人(81人)
26日(土曜) 3881人(654人、47人) と949人(81人)
27日(日曜) 2948人(654人、47人)と708人(82人)
28日(月曜)の午後3時、ふだんなら東京都の感染者の速報が入る時間であるが、もう年末年始の休日モードになったのか、テレビも新聞社のデジタルニュースも入らない。やむなく本稿も年末モードに入る。来年も連載<人類最強の敵=新型コロナウイルス>を止めるわけには行かない。
12月21日(月曜)、感染力が強いとされる新型コロナ変異株の感染がイギリスで広がっていることを受けて、ヨーロッパをはじめ世界各国でイギリスからの旅客機の受け入れを停止するなど、影響がさらに広がっている。国立感染症研究所によると、日本国内ではこれまでのところ確認されていないというが、専門家は「いずれ国内に入ってくる前提で対策を考える必要がある」と話す。
21日(月曜)、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会の四師会と四病院団体協議会、東京都医師会は新型コロナウイルス感染症の拡大で医療提供体制が逼迫していることを受け、<医療緊急事態宣言>を発して感染防止に全力を尽くすよう、政府をはじめ各方面に呼びかけた。
22日(火曜)、厚労省に助言する専門家の会合が開かれ、全国の感染状況について北海道以外では明らかな減少が見られず、新たな地域での感染拡大も止まず、全国的に蔓延していると分析した。東京での感染の継続や大都市圏での拡大が周辺や地方での感染発生にも影響しているとして、大都市を抑えなければ、地方を抑えることも困難になると警告した。
同じ日、東京都医師の尾崎治夫会長が記者会見を行い、感染者急増により医療崩壊の直前にあるとして<医療緊急事態宣言>を伝えた。21日の合同会見といい、医療を預かる現場責任者の悲痛な声に耳を傾けたい。ただし、本来なら政治の責任者である首相が先頭に立って国民に訴えるほど重大な問題である。にも拘わらず、その姿が見えない。これで暮れ正月を乗り越えられるのか。
22日の記者会見で西村大臣は、新宿御苑や迎賓館等の国営の公園の休業期間を、今月26日(土曜)から来年1月11日(成人の日)まで延長すると述べた。
23日(水曜)午後、加藤官房長官は、イギリスで感染力が強いとされる変異した新型コロナウイルスが広がっていることを受けて、24日以降、イギリスからの新規の入国を拒否するなど、入国制限を強化する新たな措置を実施すると明らかにした。イギリスからの新規の入国を拒否するほか、日本在住の日本人や外国人がイギリスに7日間以内の短期出張をした場合の帰国・入国の際、一定の条件のもとで免除している14日間の待機を改めて要請するとし、今月27日から、日本人の帰国者についても、出国前の72時間以内の検査の証明を求めるとした。
同じ日、政府分科会(尾身会長)は東京都に対し、午後10時までの時短要請をさらに短縮するよう意見をまとめた。また感染拡大がつづく地域での大規模イベントの開催制限を強化する案が政府から示され、了承された。
同じ23日、ワクチンについて、厚労省は①2021年2月下旬をめどに医療従事者、②3月下旬をめどに高齢者への接種を始める体制を確保し、その後③<基礎疾患>のある人などに優先して接種を行う方針をまとめた。
この③<基礎疾患>を、ア)慢性の心臓病や腎臓病など、イ)呼吸器の疾患、ウ)がんなどの免疫機能が低下する病気、エ)睡眠時無呼吸症候群などで通院や入院をしていることを条件とする場合と、オ)肥満も含める方針で、対象は820万人にのぼる見通しである。
同じ23日、小池都知事が自民党三役を訪問、現行の特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法、名称に注意)と感染症法の早期改正や水際対策の強化を要請、二階幹事長は「しっかり取り組んでいく」と応じた。法律改正については、緊急を要するもの、後手に回ることなく中長期を見通したもの、これら両面が求められる。参考になる一つが、25日(金曜)の朝日新聞デジタルの連載「新型コロナ1年 揺れる世界」の第3回「<まずは感染抑止>貫いた台湾 判断委ねる日本との差は」である。
台湾では、過去の失策の経験(2003年のSARSに伴う混乱)を活かし、今回の防疫成功の理由を「初期段階で域内にウイルスを入れなかったことだ」と、当局に助言する専門家チームを率いる張上淳・台湾大副学長(感染症学)は話す。 この反省から2004年に伝染病予防法が改められ、緊急時に行政部門を横断する対策本部を設置できるようになった。
対策本部には民間の不動産や医療関連物資を徴用できる権限もある。昨年12月31日、中国・武漢で原因不明の肺炎患者が出ているとの情報に、台湾当局は素早く武漢からの直行便の乗客への検疫を強化。2日後、当局から依頼された張氏は専門家らと必要な検査・隔離体制などを献策、すべて採り入れられたという。
今年1月21日、台湾では初の感染に緊張が一気に高まり、薬局にはマスクを求めて人々が殺到、品不足で値段も高騰した。混乱の中で民間が動く。台南市のプログラマー呉展瑋さん(35)は2月1日、マスクを入手できない人が不満を訴えるネットの投稿を見て、徹夜でグーグルマップを使ったマスク供給地図を作った。マスクの在庫状況をサイトに入力すれば、閲覧者は購入可能な店を見つけられる仕組み。翌日、無料公開すると、閲覧数は半日で54万回に達した。
この取り組みを知った唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当相は当局のマスク供給計画を公開し、それを生かして地図を改良するようネット上で依頼。プログラマーたちが大挙して応じ、数日後には無料で使える地図が30種類以上ネット上に現れた。呉さんは「民間には危機の際に手を貸そうとする気持ちや、必要な能力を持つ人材がいる。行政が情報を開示し、民間に協力を求めたことで、人々も行政を信頼した」と言う。
人口2350万の台湾の累計感染者は12月18日時点で759人(死者7人)に止まる。4月以降、感染者はいないが、外国人観光客の入境禁止を続ける。公共交通機関などではマスクの着用を義務化し違反者には罰金も科した。市民に不自由を強いる対策だが、10月の世論調査で蔡英文政権のコロナ対応への評価は100点満点で平均78・32点の高さである。
中国のように強権的な検査・隔離態勢で感染に臨む国がある一方、日本はハンセン病の患者を強制隔離し深刻な差別を生んだ歴史もあり、強制策に慎重である。現状では濃厚接触者の調査協力や外出制限を強制できる法律はない。政府が4月に出した緊急事態宣言は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいているが、同法では国民の自由と権利への制限は「必要最小限のものでなければならない」と定めている。
対策への協力要請に応じるかが市民の判断に委ねられる手法について、東京大の広井悠准教授(都市防災)は、日本の防災対策とも共通点があると指摘する。例えば、台風被害が予見される地域住民への避難勧告・指示は強制ではない。「モラル依存の手法は防災目的の移動制限などでも使われる。リスクを認識、それを避ける行動が一人ひとりに求められる」という。
こうした施策で春の「第1波」は収まり、当時の安倍晋三首相は、「日本モデルの力を示した」と誇った。市民が市民を監視する「自粛警察」や、過度な同調圧力もあった。都市封鎖に比べれば、個人の自由への制約が少なく、経済ダメージも少なく済んだとされる。
しかし、現在の<第3波>では十分な効果は出ていない。政府の対策分科会の尾身会長は11日の会見で「多くの人々は行動自粛を求められることにへきえきしている」と焦りを見せた。政府の<Go To>事業で、感染対策のメッセージが伝わりにくくなったとの指摘もある。
政府の対策分科会は、<Go Toトラベル>事業の見直しなどを繰り返し求めてきたが、政府は「感染拡大のエビデンス(証拠)はない」などと主張、対応は後手に回った。そしていま医療機関へ過大な負荷がかかり、病床数と医療従事者の両面で逼迫している。
24日(木曜)、東京都のモニタリング会議の分析によると、23日までの1週間の都内の新規感染者は1日あたり616人で、前週の513人から大幅に増えた。このうち感染経路が特定できない感染者は1日あたり363人で、過去最多を更新、現在のペースがつづけば来年1月初旬には1日で558人の経路不明な感染者が出るとの試算が示された。
小池知事は「年末年始はきわめて重要な時期。外出や忘年会、新年会への参加はぜひとも控えて」と呼びかけ、専門家は「年末年始にはさらに逼迫する。医療機関の深刻な機能不全や、保健所業務の大きな支障の発生が予想される」と指摘した。これは東京だけの問題ではなく、日本全体の問題であるにも関わらず、菅首相からメッセージが発せられない。
25日(金曜)の閣議で政府は重い腰をあげ、感染者の入院受け入れ医療機関への緊急支援として、2020年度予備費2693億円を活用し、病床が逼迫している都道府県などでは、重症者病床1床につき1500万円を支援すると決定した。
同じ25日午後9時すぎから田村厚労大臣が記者会見し、イギリスから帰国した男女5人から変異したウイルスへの感染が確認されたと発表した。変異ウイルスへの感染者が国内で確認されたのは初めてである。
26日(土曜)、都内に住む30代の男性と家族の20代の女性が変異種に感染していることが新たに確認された。空港の検疫所での検査以外で感染が確認されたのは、これが初めてである。男性は今月16日にイギリスから帰国したが、航空機のパイロットだったため検疫の対象ではなく、空港での検査は行われていなかった。家族の女性も変異したウイルスへの感染が確認され、いずれも都内の医療機関に入院している。
同じ26日の朝日新聞デジタルの「変異種はどのくらい心配? 注目される二つの理由と対策」は、ウイルスのゲノム解析に詳しい東海大学の中川草(そう)講師のインタビューを掲載した。以下に主な論点を挙げる。
「変異はウイルスが増えるとき、一定の割合でいつも起きているもので、多くの変異はウイルスにとって感染を広げるのに不利、もしくは有利でも不利でもない「中間的」なもので、変異そのものをそこまで心配する必要はない。今回は、英国政府がいち早く警戒を呼びかけたことで、変異したウイルスが他の国に拡散する前に気づくことができている。もし重症化に関係しないとしても、感染者が増えれば医療提供体制へのインパクトが大きいので、ここで食い止める必要がある。現状では、国内での感染例も数件で、封じ込められる可能性はある。」
「新型コロナの遺伝子はRNAと呼ばれる物質でできており、4種類の塩基という化学物質が一列に並んだ構造をしていて、新型コロナのRNAは、全部で約3万個の塩基が並んでいる。ウイルスが増えるときにRNAもコピーされるが、その際、いくつかの塩基が別の種類に変わったり、抜け落ちたりする。コピーを間違えること、それが<変異>である。…今回の新型コロナのパンデミックでは、解析されたウイルスのゲノム(全遺伝情報)の報告が、世界中から、かつてないスピードで集まった。GISAIDというウイルスのゲノム情報を登録して共有する国際的なプラットフォームには、この1年で29万個を超える新型コロナのゲノム情報が登録されており、イギリスは多くのゲノム情報を提供する最大の貢献者でした。それらの情報を元に様々な研究がなされ、その中から、今回の警戒すべき変異が予想されていた。」
同じ26日、都営地下鉄大江戸線の運転士21人が新型コロナに感染し(濃厚接触者を含む)自宅待機となったため、27日(日曜)から来月11日まで、運航本数を通常の7割程度まで減らすと発表した。なお都営地下鉄全線で大晦日から元旦にかけての終夜運行を取りやめることを18日に発表している。
27日(日曜)の日経新聞朝刊のトップ見出しは「新規入国 全世界から停止 変異種対応 あすから来月末」で、政府の26日の発表を伝える。これまでイギリスと南アからの新規入国を止めており、それを世界すべての国・地域に拡大するもの。
この日、都内で新たに708人(重症者は82人)の新規感染者(陽性者)を確認したと発表。1日の感染の確認が700人を超えるのは5日連続で、検査数の少ない日曜日の発表人数としては最多である。
PCRの検査数が増えているため、感染者数の増加だけでは分からないことが多い。そこで都は、前日までの1週間に陽性と判明した人の平均を、前日までの1週間に検査した人の平均で割った数字を<陽性率>として公表している。26日公表された25日時点の陽性率は8.2%で、今年5月25日に緊急事態宣言が解除されて以降、最も高くなった。9月から10月にかけては3%台で推移、11月中旬に6%まで上昇、12月18日に7.0%と上昇していた。
最近1週間の平均PCR検査人数は7681人であり、東京の昼間人口(1600万人弱)のうちの、ごくわずかにすぎない。この限られた検査人数から実際の感染者数の推移を推計するのに<陽性率>は重要なキーである。東邦大学の舘一博教授(日本感染症学会理事長)は、陽性率が上がっていることから、「…感染は市中のあらゆる場所に広がっているのではないか。陽性になっている人以外にも、感染している人が多くいる可能性も考えておかなければいけない」と話す。
28日(月曜)、旅行代金の割り引きなどが受けられる<Go To トラベル>が、いよいよ今日から来年1月11日まで全国一斉に運用が停止される。日経新聞の世論調査では、停止を<妥当>とするものが67%、<不十分>が22%とあった。遅きに失した感があるが、感染拡大を抑えるのに役立つことを願っている。
年末年始、今年はふだんと様相が違う、いや違わなければならない。さもないと感染を抑え込めず、医療機関が崩壊しかねない。それを直観した企業の約94%が忘年会や新年会の中止を決めているという。内閣府の調査で個人の7割以上が忘新年会を控えると回答した。
その一方、政治家の忘年会の報道が相次ぐ。「…いや、忘年会ではない、重要な打ち合わせ…」と言い訳、あるいは擁護する発言があり、なかでも自民党重鎮の姿がなんとも情けない。折しも26日の日経新聞朝刊に「内閣支持率42%に急落、不支持が逆転」の記事があった。
【アメリカの政権移行】
米大統領選の選挙人投票(12月14日)でバイデン氏が過半数(270人)を上回る選挙人306人を獲得(トランプ氏支持の選挙人は232人)し、大統領選の勝利が事実上確定した。次のプロセスは来年1月6日、上下両院合同会議の選挙人による各州の投票結果である。これにより次期大統領が正式に決まる。
21日(月曜)、選挙人投票の結果を受けて、連邦議会では与野党(共和党と民主党)指導部が、追加のコロナ対策9000億ドル(約93兆円)を発動することで合意した。これは中小企業の雇用対策、家計支援、ワクチン普及に向けた資金を供給するもので、今年3月に発動したコロナ対策の期限切れを回避し、継続させるもの。
こうして雇用維持策が失効する<財政の崖>をぎりぎりの土壇場で回避することができそうである。もし決まらなければ、年明けの1月にも500万世帯が住居を失うリスクがある。民主党のペロン下院議長は記者会見で、「今回の経済対策は第一歩。バイデン次期政権で追加対策を講じるだろう」と述べた。
2日後の23日(水曜)、トランプ大統領はツイッターで、議会の与野党協同のコロナ対策法案に対して突然、修正を求め、一人当たりの現金給付額を最大600ドルとする原案に対して2000ドルに引き上げるよう議会に求めるとし、もし原行案のままなら署名を拒否すると表明した。
この追加のコロナ対策は、議会の下院で359対53、上院で92対6の、いずれも3分の2以上の賛成多数で可決され、ムニューシン財務長官は22日に「超党派の可決を歓迎する」と述べていた。そこにトランプ大統領による突然の法案修正は議会にとって<寝耳に水>であり、事態は混沌としてきた。修正案の成立が来年にずれこめば、政府機関の一部閉鎖も余儀なくされる。
【世界的な感染拡大と抑止対策】
イギリスで発見された新型コロナ変異種(株)により、国際的な人の移動に伴う措置が不可欠となった。
19日(土曜)、イギリスのジョンソン首相は、急きょ記者会見を開き、「急拡大は変異したウイルスによって起きているとみられる。多くの不確定要素はあるが、従来よりも最大70%感染しやすいようだ」と述べ、ロンドンを含む南東部では、正当な理由がない限り外出を控えるよう求めること、生活必需品を販売する店を除いて、小売店は一部のサービスを除いて営業を行わないことなど、11月と同様の厳しい措置を12月20日から再び導入することを明らかにした。一方で、変異種のウイルスによって症状がより重くなる、あるいはワクチンが効きにくくなることを示す証拠はないとしている。
イングランドでは、12月23日から5日間規制を緩和して、3世帯までであれば集まってクリスマスを過ごすことを認める予定だったが、南東部では規制緩和が見送られ、ほかの地域でもクリスマスの1日のみに限定するとした。首相は「誰もが失望することはわかっている。首相としてほかに道はない」と述べ、理解を求めた。野党などからは遅すぎるという声もあがっている。
20日(日曜)、イギリス政府はウイルスの遺伝情報を調べた結果を明らかにした。変異種は9月に出現し、11月半ばまでは市中での広がりは少なかった。11月後半にロックダウン(都市封鎖)を導入したにもかかわらず、ロンドン南東のケント州で感染率が下がらなかったことから保健当局が調査。変異種による感染例が増えていたことが明らかになった。その後、この変異種がロンドンや周辺地域で広がっていることを突き止めたという。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、変異種がすでに英国以外にも広がっている可能性があるとしている。
20日(日曜)、欧州では、ドイツ、イタリア、オランダなど各国がイギリスからの旅客機の受け入れを停止する措置を決めたほか、フランスやベルギーは鉄道やフェリーの受け入れも停止するとしている。欧州以外でもイランがイギリスへの国際線を2週間停止するとしたほか、ロイター通信によると、南米のアルゼンチンとチリも、イギリスとの間の国際線を停止すると発表した。
香港は、12月22日から当面、14日以内にイギリスに2時間以上、滞在したことのある人を対象に香港に入ることを禁止した。インド政府も12月21日、イギリスとの間を結ぶ国際線の運航を12月22日から12月31日まで停止すると発表した。
同じ20日、イタリア保健省は数日前に英国から航空便でローマに到着した乗客から変異種が見つかったため、隔離したと発表した。世界保健機関(WHO)によると、英国と同じ変異種がデンマークで9件、オランダ、豪州で1件ずつ確認されたという。従来より重症化しやすいという証拠は見つかっていないという。
【ワクチン開発と接種】
NHK特設サイト<新型コロナウィルス>の12月18日号に次の3本の記事がある。(1)「米ファイザーコロナワクチン 日本での<特例承認>求める」、(2)「ファイザーコロナワクチン 日本で承認申請 早ければ2月に結論」、(3)「新型コロナワクチン 2月下旬の接種開始の準備指示 厚労省」。
12月18日(金曜)、ファイザー社は日本国内での使用に向け、厚労省に承認の申請を行った。国内で新型コロナウイルスのワクチンの承認申請が行われるのは初めて、審査手続きを大幅に簡略化する<特例承認>の適用を目指している。
<特例承認>とは、通常、1年程度かかる医薬品の審査手続きを大幅に簡略化して早期に承認する制度である。2009年に新型インフルエンザが流行した際に初めて適用され、2種類のワクチンが申請から約3か月で承認、また今年5月には新型コロナウイルス治療薬レムデシビルに適用、申請から3日で承認された。
<特例承認>を適用するには、①病気の蔓延を防ぐために緊急に使用する必要があること、②代わりの医薬品がないこと、③アメリカやイギリスなど日本と同じ水準の承認制度がある国で承認されていること等すべて満たすのが条件になる。
ファイザーの日本法人は、「このたびの申請は科学的に厳格で高い倫理に基づく研究開発から得られたデータに基づいており、承認が得られた際は速やかに日本の皆様にもワクチンをお届けし、社会生活正常化の一助として貢献してまいります」とコメント。
田村厚生労働大臣は、記者会見で「有効性や安全性をしっかりと審査した上で判断していく。アメリカでは緊急使用許可が出たという話もある中、わが国としてどうするかは、しっかりとデータを見た上でとなる。最優先の課題なので、最優先で審査をしていく」と述べた。
一方で副反応が懸念されていることについて、「接種が始まっている海外の情報をしっかり収集し、審査の中の1つのデータとして分析していきたい。ワクチン全般において、すごくまれにアレルギー反応はあるわけなので、そういうことも踏まえて、しっかり審査をしていく」と述べる。
ファイザーは、日本国内でも160人を対象に免疫の働きや安全性を確認する初期段階の臨床試験を進めているが、今回の承認申請は、国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構と相談した上で、海外での大規模な臨床試験の結果をもとに行ったという。PMDAは2020年9月、新型コロナウイルスのワクチンを審査する際の考え方を公表した。
それによると、有効性を評価するために、(1)ウイルスを攻撃する抗体ができることを確認するだけでなく、ウイルスを排除する免疫の細胞の働きについても解析することを求め、(2)その上で、臨床試験でワクチンを投与するグループとワクチンに似せた偽の薬(<偽薬>)を投与するグループに分けて比較することで、発症予防効果を確認する必要があるとしている。
また、安全性については、(1)臨床試験でワクチンを投与してから少なくとも7日目までと28日目までに体に異常が出ないか確認すること、(2)投与後少なくとも1年間は健康状態の確認を続けることなどが必要だとしている。一方で、海外で大規模な臨床試験が行われ、予防効果が確認されているワクチンについては、国内での臨床試験は免疫の働きの解析や安全性を確認するのみで十分な場合があるという。
アメリカの製薬大手ファイザーが、国内で、新型コロナウイルスワクチンの承認を申請したことについて、ワクチン開発に詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授は、日本人に接種して本当に大丈夫なのかは今後の議論だが、審査機関は急がば回れの考え方で、しっかり審査してほしい」と指摘した。「ワクチンはすぐに手に入るのかなどと期待する声がある一方で、開発のスピードが早すぎて危ないから打つのを待った方がいいという声も出ている。ワクチンで得られる利益とリスクについて、知っておくことが大切だ」と述べた。
ファイザーが承認を申請したワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれるこれまでになかった全く新しいタイプのワクチンで、ウイルスの遺伝情報を伝達する物質である。mRNAを人工的に作って注射で投与(接種)する。投与すると体の中で<スパイクたんぱく質>と呼ばれるウイルスの表面にある突起の部分が作られる。スパイクたんぱく質を目印に、免疫の働きによって新型コロナウイルスに対応する抗体が作られ、ウイルスが体内に侵入した際、抗体が攻撃して感染を防ぐ仕組みである。
mRNAを医薬品に活用するアイデアはアメリカのウィスコンシン大学のグループが1990年に発表した論文で示され、当初は遺伝子治療の一環として研究されていたが、この数年、mRNAを生成する技術や安定させる技術などが進んだことで医薬品としての実用化に向けて注目が高まっていた。
また、mRNAを使ったワクチンは、カギとなるmRNAを変えることでほかのウイルスにも応用することができるとみられ、ワクチンの考え方を大きく変える可能性があるとされる。
一方で、mRNAワクチンをはじめ、新型コロナウイルスで開発が進む遺伝情報を使ったワクチンは、これまで実用化されたことのない全く新しい技術となることから、実際に多くの人に使用した場合の効果や副反応については慎重に判断する必要があるという指摘も出ている。
アメリカの製薬大手ファイザーは、ドイツの企業ビオンテックとともに、mRNAを使った新型コロナウイルスのワクチン開発を進めてきた。なおトランプ政権が進めた新型コロナウイルスワクチンを早く供給するための開発計画、<ワープ・スピード作戦>からは一定の距離を置いて開発を進めてきたとされる。
ファイザーは、感染者が多いアメリカやブラジルなどで臨床試験を行い、11月には4万人を超える人を対象にした大規模な臨床試験で「90%を超える予防効果がある」とする暫定的な結果を発表した。この後に発表された詳しい結果を記した論文によると、(1)ワクチンを接種した2万人あまりのうち、接種後7日目以降に新型コロナウイルスに感染したのは8人であったが、(2)<偽薬>と呼ばれるワクチンに似せた偽の薬の接種を受けた2万人あまりでは162人が感染ということで、ワクチンによる予防効果は95%だとしている。
こうした結果を受けて、12月2日に世界で初めてイギリスでワクチンが承認され、12月8日に接種が始まったほか、アメリカでも12月11日に緊急使用の許可が出され14日に接種が始まった。一方、副反応の報告も出ていて、(1)イギリスでは、2人が激しいアレルギー反応、「アナフィラキシー」のような症状を示したほか、(2)アメリカでもアラスカ州の医療従事者が「アナフィラキシー」のような症状を示したという。イギリスの2人は過去にアレルギー反応が出たことがあった一方、アメリカの医療従事者は過去にアレルギー反応が出たことがなかったという。
イギリスの規制当局は、過去に同じような症状が出たことのある人は接種しないよう、予防的な措置としての勧告を出した。またアメリカCDC=疾病対策センターはワクチンに含まれる成分にアレルギー反応を示した経験がある人は、接種しないことなどを指示している。
各国の保健当局によれば、米製薬大手ファイザーと独企業ビオンテックが開発したワクチンは、イギリス、バーレーン、カナダ、サウジアラビア、メキシコ、アメリカ、シンガポール、チリの少なくとも8ヵ国で承認、または緊急使用が許可された。
このワクチンを開発した独企業ビオンテックについて、「世界が驚くワクチンのスピード開発 舞台裏に研究者夫妻」(19日の朝日新聞デジタル)は次のように伝えた。中国のチームが新型コロナウイルスのゲノム配列を発表したのが
1月。そこから1年足らずで、複数のワクチンの実用化にこぎつけた。過去、実用化まで最速だったワクチンは<おたふく風邪>とされるが、それでも4年を要しており、今回のスピードに世界が驚いている。
国をあげた開発支援もあったが、ワクチン開発の技術革新の影響が大きい。米ファイザーと米モデルナは<RNA>と呼ばれるウイルスの遺伝物質を使ってワクチンをつくった。ウイルスの遺伝子配列さえわかれば、短期間で開発を進められる利点がある。
注目を集めているのが、今回ファイザーと共同開発したドイツ地方都市マインツの企業ビオンテックである。12年前、トルコ出身の両親をもつ研究者
夫妻ウール・シャヒンさん(55)、エズレム・テュレジさん(53)が中心となっ
て創業した。医学部を卒業し、大学病院で出会った2人はいま、それぞれ最高経営責任者(CEO)、最高医療責任者に就く。
当初の狙いはがん治療への応用だった。英紙フィナンシャル・タイムズなどによると1月、シャヒンさんは新型コロナの記事を読んですぐに大流行を予
測、ワクチン開発を決めた。ウイルスのゲノム配列が発表された2週間後には自宅のコンピューターで10種類のワクチン候補の設計を終了。インフルワクチンの開発で協力関係にあったファイザーに声をかけ、大規模治験や大量生産に道を開いた。
RNAは壊れやすい物質で、高品質を安定して生産できるようになったのは最近のことという。「コロナの流行が3年早く起きていたら、開発ははるかに困難だっただろう」と、テュレジさんは同紙に語った。
ワクチン開発での日本勢の動向を見ると、国産ワクチンはこれまでに2社が、実際に人に投与して安全性などを確認する臨床試験を始めている。このうち、大阪にあるバイオベンチャー企業のアンジェスは、国産ワクチンとしては最も早い6月に臨床試験を始め、12月には対象者を500人に増やして臨床試験を続けている。これは、ウイルスそのものではなく、遺伝子を使ったワクチンの一種、<DNAワクチン>で、投与して体内に抗体を作る仕組みである。
また、大阪に本社がある製薬大手、塩野義製薬は12月16日、214人を対象に臨床試験を始めた。開発しているのは、<組み換えたんぱく質ワクチン>というタイプで、遺伝子組み換え技術を使ってウイルスのたんぱく質の一部だけを人工的に作って投与し、体の中で抗体を作り出す。
ただ、日本で臨床試験を進める上では課題もある。日本は、欧米や南米等と比べて感染者数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しいとされる。また今後、海外メーカーのワクチンが国内で広く接種されるようになると、感染者の数がさらに減少し、多くの人が免疫を持ついわゆる<集団免疫>の状態に近づくなど、臨床試験で予防効果を確認する難しさが増すとの指摘もある。このため、国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構は、少人数を対象に行う初期段階の臨床試験の後、海外で大規模な臨床試験を行うことも選択肢だとしている。
このほか、臨床試験には至っていないものの国内でもさまざまなタイプのワクチンの開発が進められている。(1)ワクチンメーカーKMバイオロジクスによる新型コロナウイルスを無毒化して投与する<不活化ワクチン>、(2)製薬大手の第一三共による、ファイザーなどと同様の仕組みのmRNAワクチン、(3)バイオベンチャー企業IDファーマによる、ウイルスの遺伝子の一部を別の無害なウイルスに組み込んで投与する<ウイルスベクターワクチン>等である。なお日本の得意分野とされる治療薬の開発についても、いずれ取り上げたい。
この間、次の録画を観ることができた。(1)NHKクローズアップ現代「家庭内感染急増 想定外リスク次々と 後遺症にも違いが」18日。(2)BS1スペシャル シリーズ コロナ危機「テレワークが変える<新しい経済>」19日。(3)NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人たち 高橋一生×中村拓志」19日。(4)BS1 週刊ワールドニュース「新型コロナに揺れる世界(12月14日~18日)」20日。(5)BS1スペシャル「市民が見た世界のコロナショック 11月~12月編」20日。(6)NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界6 “科学立国”再生への道」20日。(7)BSスペシャル「ヒューマニエンス 思春期 リスクテイクの人類戦略」21日。(8)NHK総合「2020挑戦 コロナ禍のRADIO 大学生のリアルを届けて」22日。(9)NHK総合「ファミリーヒストリー アンコール(元は2017年8月 オノ・ヨーコ&ジョン・レノン)23日。(10)BSプレミアム「ヒューマニエンス“目” 物も心も見抜くセンサー」24日。
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