fc2ブログ

人類最強の敵=新型コロナウイルス(26)

 11月19日(木曜)、昨日までの新規感染者の急増を引きつぐかのように、全国で2388人、東京都が534人、大阪府で338人と、いずれも過去最多となった。検査件数が増えたこともあるが、明らかな感染拡大傾向にあり、中高年の感染が重症化を招来して病院の逼迫という負の連鎖が危惧される。

 19日午前、菅首相は官邸で記者団の質問に対して、飲食の際も会話時はマスクを着用する「静かなマスク会食」を実践するよう呼びかけた。「私もきょうから徹底したい」と述べた。

【国内のコロナ対策と経済活性化】
 新型コロナウィルス感染症の新規感染者が急拡大している。そのなかで重傷者が増え、病床が逼迫、重症患者の対応には10倍もの医療スタッフが必要となるため、大幅に不足してきた。感染防止と経済活動の両立を模索するなか、政府は科学者の意見を尊重し、ようやく感染防止の短期集中策に傾注する方向へ動き出した。

 その過程を追うため、まず感染者と重症者の推移を確認したい。新規感染者数は検査数に比例するので曜日等の検査体制の影響を受けるが、重症者数はまぎれもなく病床逼迫を示す先行指標である。全国も東京都も重症者数の急増が恐ろしい。他の道府県の数字は出していないが、のちに病床使用率の一部を掲載する。

前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
 19日(木曜)  2388人(280人)と534人(38人)
 20日(金曜)  2421人(291人)と522人(40人)
 21日(土曜)  2591人(313人)と539人(40人)
 22日(日曜)  2165人(323人)と391人(40人)
 23日(祝日)  1518人(331人)と314人(41人)
 24日(火曜)  1228人(345人)と186人(51人)
 25日(水曜)  1946人(376人)と401人(54人)
 26日(木曜)  2504人(410人)と481人(60人)
  なお27日(金曜)午後、東京で新たに570人が感染、過去最多との速報あり。

 19日(木曜)の都内の新規感染者534人のうち、およそ40%にあたる216人はこれまでに感染が確認された人の濃厚接触者で、残りのおよそ60%の318人は、これまでのところ感染経路がわかっていない。濃厚接触者の内訳は、<家庭内>が87人で最多、次いで<職場内>が60人、<施設内>が28人、<会食>が10人等で、このうち<家庭内>では、10歳未満から80代までの幅広い年代で感染が確認され、人数はこれまでで最多となった。

 小池都知事は会食で感染した人が家庭に持ち込む事例が多いとして<5つの注意>を示した。とくに21日(土曜)から23日(月曜、勤労感謝の日)にかけての3連休に向けて事は急を要する。

 19日夕方、東京都は新型コロナウイルスの都内の状況を話し合うモニタリング会議を開き、4段階で示す感染状況の警戒レベルを最高の<感染が拡大している>に引き上げた。都内では同日、新規感染者が534人確認され、初めて500人を超えた。2日連続で過去最多も更新、感染の急速な広がりが鮮明になっている。

 都が警戒レベルを最も高くするのは7月15日~9月10日以来。新規感染者数と感染経路不明者数が急増していることを踏まえ、強く警戒を呼び掛けることが必要と判断した。医療提供体制の警戒レベルは重症者数が大きく増えていないことなどから、4段階で上から2番目の<体制強化が必要>を維持した。

 都によると、直近7日間を平均した1日あたりの感染者数は、今月4日時点で165・4人だったが、18日時点は325・7人にほぼ倍増。感染経路不明者は5割を超える状況が続き、全ての年代で感染が広がっている。感染が疑われる人の検査体制を拡充し、1日あたりの検査件数が8000件を超えるなど、以前より増えたことも感染確認が増える要因とみられる。

 小池知事は19日の臨時記者会見で、1日あたり1000人の新規感染者が出ることを想定して準備を進めていると明らかにし、「都民、事業者、行政が一体となって、気を緩めないで、感染防止対策を徹底してほしい」と述べたが、営業時間の短縮や外出自粛は求めなかった。また小池知事は記者会見で「重症者数は増えてない」と説明。ただ、高齢者の新規感染者数が増加している状況を踏まえ「高齢者や基礎疾患がある人、同居する家族はできるだけ会食への参加を控えてほしい」と呼び掛け、会食時の感染リスクを減らすため、「小人数」「小一時間」「小声」「小皿」「小まめ(な手洗いなど)」の「5つの小」の実践を訴えた。

 同じ19日(木曜)、専門家組織の会合後、座長の脇田隆字国立感染症研究所長は会見で、「今後、重症化する人が増加する。救急医療の受け入れや手術を抑制しないといけない状況になると想定される」と述べ、今の感染状況に危機感を示した。感染拡大の要因には、①基本的な感染予防対策が不徹底、②人の移動の増加、③気温の低下、の3つを挙げた。

 メンバーの尾身氏も「何かしら対応が必要なのは間違いない」と話し、20日開催の政府の分科会で対策を提言する考えを明らかにした。以前の9日、専門家組織のメンバーが多く参加する政府の分科会は、対策強化を求める緊急提言を出している。尾身会長は「急激な感染拡大に至る可能性が十分ある」と強調したが、19日の会合の評価では、改善はまだ見られない。むしろ「2週間で2倍を超える伸び」など厳しい言葉が並ぶ。

 メンバーの一人は会合後、「今の状況がかなり厳しいということが伝わっていない」と焦りを見せた。保健所の負荷が増し、医療現場の逼迫(ひっぱく)感は病床使用率という数字で見るよりはるかに強いと指摘する。

 ソフトバンクの子会社「アグープ」のデータで、緊急提言が出た9日と1週間後の人出を比べると、東京駅で4・4%減、札幌駅で2・7%減、大阪駅で1・2%減にとどまった。名古屋市の栄駅はほぼ横ばい、福岡市の天神駅は逆に4%増えた。4月の緊急事態宣言では、大阪駅で53%減、東京駅で42%減などと大きく減っていた。

 広井悠東大准教授(都市防災)が指摘するのは、「警報慣れ」という現象だ。「何度も警報が出て自分が無事だと、『次も大丈夫だろう』と事態を過小評価しがちだ。…夏の第2波は死者は大きく増えずに収まったが、現在の第3波は亡くなる恐れが高い高齢者も増えている。適切なリスク意識を持ってもらうことが重要だ」。症状がなくて気づかず、人に感染させるリスクもある。「若い世代には、『高齢者のために行動を変えよう』と説明することも有効」と話す。

 19日に感染者数が過去最多となったのは北海道、東京都、静岡県をふくめて8都道府県にわたるが、それぞれに状況は異なる。急拡大した静岡県の病院は「病床フル稼働は難しいとする。感染症指定医療機関の一つで、重症者を受け入れできる静岡市立静岡病院(静岡市)は、19日午後3時時点で感染者用の17病床に5人が入院しており、残りは12床あるものの、対応する職員数に限界がある。

 例えば、複数の患者で症状が重ければ多くの職員がかかり切りになるため、必ずしも全病床をフル活用できないという。関係者は「重症者が増え続ければ、病床が実質的に逼迫(ひっぱく)する可能性は高い」と話した。

 メンバーの一人は会合後、「今の状況がかなり厳しいということが伝わっていない」と焦りを見せた。保健所の負荷が増し、医療現場の逼迫(ひっぱく)感は病床使用率という数字で見るよりはるかに強いと指摘する。

 静岡県伊豆半島の海沿いにある老舗ホテルは政府の観光支援事業「Go To トラベル」で満室が続いていた。第3波が鮮明になった後の2、3日前から、少人数団体のキャンセルが相次ぐものの、週末の3連休は現状で満室のままだという。女性従業員は「客足が戻ったのはうれしいが、感染から客も従業員も守らないといけない」と心境を吐露。宿泊客の人数制限などの対策を検討しているという。

 20日(金曜)、神奈川県の黒岩知事は県内のGo To イートの発売を今月25日から一時中止することを決めた。

 同じ20日、東京足立区のバス会社の日帰りバス旅行に参加した12人の女性の感染が確認された。区は、バス旅行で感染者の集団=クラスターが発生したとみて調べている。今月8日、区内にあるバス会社がバス2台で日帰りの果物狩りに群馬県へ行く旅行を実施したところ、16日になって60代の女性が感染していることが確認された。同行の参加者と従業員合わせておよそ70人が各自で検査を受けたところ、いずれも40代から80代までの女性参加者11人の感染が確認された。このバス会社は、参加者の検温や車内の消毒、窓開けなどの感染防止対策を徹底していたという。

 同じ20日、全国の1日当たりの新規感染者数が過去最多を連日更新し、感染症の専門家らでつくる分科会が見直しを求める提言をまとめ、政府に提出した。尾身会長は「感染拡大は色々な要素で影響を受けるが、その一つが間違いな
く人の動き」とも指摘した。
 
 また会食時のマスク着用や人との距離の確保といった様々な感染対策を求めている中で「<Go To キャンペーン>で人が動くということを続けて
しまうと、メッセージの一貫性がなくなる」と訴えた。背景にあったのは医療崩壊への危機感である。

 ある分科会メンバーは、「ここで感染拡大を抑え込まねば、来夏の東京五輪・パラリンピックの開催にも影響が出かねない。経済への打撃も深刻になるだろう」と、首相が最重視する東京大会への悪影響を伝えたという。

 その夜の記者会見で、西村大臣は新型コロナウイルスの感染の急拡大に伴う消費喚起策<Go To キャンペーン>の運用見直しについて、翌21日に開催する政府対策本部で方向性を出せるよう関係省庁で検討を急ぐ考えを示した。政府の分科会が、一部の都道府県で感染が急増していることを踏まえ、<Go To>の運用見直しを盛り込んだ提言を決めたことを受けたもの。

 西村大臣は「提言を踏まえ、それぞれの項目について早急に対応したい。そのうえで、明日の政府対策本部で方向性を出せるよう検討を急ぎたい」と語った。<Go To トラベル>については「観光庁で早急に検討されると考えている」と述べ、飲食店支援<Go To イート>については、「都道府県知事の判断で食事券の新規発行の一時停止なども行われている」と指摘。「農林水産省からできるだけ早急にそれぞれの知事に検討を要請することになると思う」とした。

 21日(土曜)夕方、新型コロナウイルス感染症対策本部を開催、ここで菅首相は初めて「感染拡大が一定レベルに達した地域ではその状況を考慮し、都道府県知事と連携し、より強い措置を講じる。<Go To トラベル>事業については感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を導入する」と述べ、飲食店支援の<Go To イート>も、プレミアム付き食事券の新規発行の一時停止やポイント利用を控えるよう各知事に検討を求める考えを示した。

 22日(日曜)と23日(月・祝)の連休中、好天に恵まれ、各地の行楽地への人出は、想定以上に多く、新幹線や幹線道路の込み具合も異常と思われた。感染拡大や病床逼迫の懸念が広く届いていない印象を受けた。

 24日(火曜)、連休明けに開かれた厚労省に助言する専門家の会合では「特に北海道や首都圏、関西圏、中部圏を中心に顕著な増加が見られる」と評価、このままの状況が続けば、入院患者や重症患者が増加し、医療現場が逼迫して、通常では助けられる命も助けられなくなるとして、強い危機感を示した。

 25日(水曜)午後6時から、専門家会合を受けて、政府の分科会が開かれた。その冒頭で、西村大臣は「新規陽性者の増加傾向が強まり、最大限の警戒感をもって対応している。特に感染者の数が増加している地域では、医療のひっ迫が懸念されており、国民の命を守るため、何としても回避しなければならない」と述べた。そのうえで、当面、2021年2月末まで継続としているイベントの開催制限について、地域の感染状況に応じ、都道府県知事の判断で、より厳しい制限を課すことも可能と、改めて都道府県に通知する考えを示した。

 田村厚労大臣は「『通常の医療を提供しづらくなっている』という、悲鳴のような声も聞いている。医療が崩壊すれば、国民の命を守れないし、大変な局面に入りつつあるので、より緊張感をもって取り組みたい。国民には、ぜひ、マスクの着用をはじめとする予防策を徹底してほしい」と述べた。

 分科会の提案は、都道府県に対し、感染が急速に拡大している「ステージ3」にあたる地域を早期に判断し、3週間程度の短期間に集中して対策を行ってほしいとしている。そして、感染が急速に拡大している地域との間の往来の自粛を求めているほか、「ステージ3」にあたる地域では、酒を提供する飲食店への営業時間短縮の要請などを、速やかに検討するよう求めた。

 26日(木曜)は、折しも緊急事態宣言が全国で解除されて半年になる日である。全国で、PCR検査や入院患者の受け入れ態勢の整備が進む一方、病床も逼迫しつつある。厚労省によると、全国で対応可能なPCR検査の数は、半年前の5月下旬の時点で約2万4500件であったが、8万5500件と3倍以上に増加した。

 入院患者のために確保された病床も、およそ1万8300床から1.5倍の2万7000床と増加するも、感染拡大による入院患者の増加で病床は逼迫している。全国平均で7.5%だった病床使用率は11月18日の時点で3倍近い22%に上昇した。病床使用率がとくに高い都道府県は、兵庫=44%、大阪=41%、北海道=38%、埼玉=37%、沖縄=35%、東京と愛知=33%である。

 26日現在、営業時間の短縮や往来の自粛を求める要請が大都市を中心に広がった。以下に具体例を掲げる。

 ▽東京都は23区と多摩地域にある酒を提供する飲食店やカラオケ店に対して、11月28日から12月17日までの20日間、営業時間を午後10時までに短縮するよう要請、全面的に応じた事業者には一律40万円の協力金を支給する。

 ▽大阪府は大阪市北区と中央区にある、酒を提供する飲食店やカラオケ店などを対象に、11月27日から、12月11日までの15日間、営業時間を午後9時までに短縮するよう要請した。応じた店舗には50万円の協力金を支給、業種別ガイドラインを順守していない店については休業を要請する。

 ▽北海道は、11月7日から、札幌市の繁華街ススキノに、バーなどは営業時間を、カラオケ店や居酒屋などは酒を提供する時間を、それぞれ午後10時までに短縮するよう求めてきた(当初、11月27日までとした)が、12月11日までに延長、さらに札幌市内全域の接待を伴う飲食店については12月11日まで休業するよう要請した。札幌市は、休業要請に応じた接待を伴う飲食店には60万円を支給。ススキノと狸小路商店街には営業時間を午後10時までと要請、応じたカラオケ店や居酒屋などに30万円の協力支援金を支給するとした。

 ▽愛知県は名古屋市中区の一部地域にある酒類を提供する飲食店やカラオケ店などに対し、11月29日から12月18日まで、県の感染防止ガイドラインを守っている場合は営業時間を午前5時から午後9時までとし、最大で40万円の「協力金」を支給する。またガイドラインを守っていない飲食店には休業を要請する。

【新型コロナ対策 外国の動き】
 アメリカの感染拡大がつづき、感染による死者が増加、第2波を超え、各地で外出制限等の規制導入を急いでいるが、詳しく述べる紙幅がない。BS1「週間ワールドニュース「新型コロナに揺れる世界(11月16日~20日)」22日を参照。

【続6 米大統領選】⇒<続報>~<続報3>は前々号(23)に、<続4>は前々号(24)に、<続5>は前号(25)にあり。
 本ブログの前号(25)で、ジャーナリスト木村太郎氏の「接戦を制し、勝利が確実に見えるバイデン氏だが、実はトランプ氏が合法的に逆転可能なシナリオがある」の発言を引き、その根拠が約130年前の1887年に制定された<選挙人算定法>の承認領域条項の一文にあると述べた。これに関連する続報が出てきた。

 19日(木曜)、CNNは、大統領選で不正があったとしてトランプ陣営が起こしていた訴訟がアリゾナ州、ペンシルバニア州の裁判所で、またジョージア州の連邦裁判所で相次いで退けられたと、トランプ陣営のジュリアーニ顧問弁護士が語ったと伝えた。

 同じ日、米ワシントンポスト紙はトランプ陣営の法廷闘争の狙いは、選挙結果の正式な確定を遅らせることにあると伝えた。大統領選の次のプロセスは、各州の州議会が選挙結果に基づいて選挙人を選び、その選挙人が12月14日に各州で投票して結果を正式に確定する。

 また米ニューヨークタイムズ紙は、トランプ陣営のジュリアーニ顧問弁護士が州議会の共和党員議員に働きかけ、選挙結果を無視してトランプ支持の選挙人を選ぶことを狙っているものの、激戦区だったミシガン州(選挙人16人)やペンシルベニア州(同20人)の共和党議員はこれに否定的で、バイデン勝利の選挙結果が覆る可能性はないと伝えた。

 両州の選挙人の合計は36人、トランプ氏の選挙人獲得数の232人を足すと268人と過半数の270に迫る。どこか他の1州が反旗をひるがえせばトランプ勝利の計算になる。その可能性を否定する、メディアの政治的発言の色彩がまったくないとは言えない。

 21日(土曜)の朝日新聞デジタルは、「米大統領選で支持の強さと厚みを見せつけたトランプ大統領。政権の座から退いても、影響力は衰えそうにない。米国でトランピズム(トランプ主義)は消えないのか」として各界の見解をインタビュー形式で掲載した。

 その一つが宗教学者の中村圭志氏のインタビューで、「怨念から生まれた救世主」と題する記事。「トランプ現象は宗教に似ている。人々に救済を約束するのが宗教だとすれば、トランプ氏は、支持者たちにとって救世主に近い期待を集める存在なのだと思う。…新型コロナにかかっても「復活」したトランプ氏に、救世主神話のようなものを読み取ることは、米国社会では荒唐無稽な話ではない」と語る。
 
 また「トランプ氏には、世界各地の神話に見られるトリックスター的な性格もあります。うそをついたり、人をだましたりするけれど、結果的に人々に恩恵をもたらす。虚偽のツイートを連発しても支持者が離れないのは、トリックスターとして期待しているからかもしれません。」とも言う。

 さらにアメリカの歴史をさかのぼり語る。「宗教としてのトランプ現象は、突然出てきたわけではありません。米国は開拓によってゼロからつくられた国です。人々をまとめてきたのが教会で、宗教による団結が正統性を持っている。さらに、アメリカンドリームという自己実現の英雄神話を求めるところが強くあります。一方で、自己実現できなかった人たちは、成功した人たちへの怨念を抱かざるをえない。それをすくい上げた「救世主」がトランプ氏です。トランプ現象は、米国の怨念と分断の歴史から生まれたものです。」

 また次のようにつづける。先進国では珍しく宗教の影響力が強い米国社会には、「信じやすい」風土があります。さらに競争社会で、宣伝やイメージ戦略の手段が極度に発達しています。陰謀論を非常に効果的に流すことができるんです。…社会学者ロバート・ベラーは、米国社会には<市民宗教>があると唱えました。米国に国教はありませんが、民主主義の制度の中に宗教性が込められていると考えたのです。大統領が就任式で、聖書に手をあてて誓うのはその表れともいえます。

 市民宗教はナショナリズムと結びつけられやすいのですが、ベラーはナショナリズムを乗り越えるものと捉えていました。その意味では、内向きでナショナリズム的なトランプ氏よりも、外向きのバイデン氏のほうが米国の市民宗教の伝統を受け継いでいるとも言えます。

 宗教としてのトランプ現象を支えているのは、米国の社会構造が生む怨念です。これを解決するのは極めて難しく、トランプ現象はまだ続くかもしれません。しかし、私は楽観的に見ています。米国でさえ、若い世代の宗教離れは進み、無神論者が増えています。彼らには、トランプ氏の宗教的なメッセージは響かない。トランプ現象は、衰退していく宗教の最後のあだ花のようなものになると思います。

 以上、いささか長くなったが、中村圭志さんの<語り>を引用した。アメリカ社会の深部にある感情と思想の一端が示されており、米大統領選と、そのこれからを知る参考になった。

 トランプ大統領が次期大統領選の一般選挙の結果を認めず、<敗北宣言>を行わず、不正等を理由に法廷闘争に持ち込んでいるため、<政権移行>が大幅に遅れ、超大国アメリカに政治の空白が生まれている。

 そこに24日(火曜)、バイデン次期大統領の陣営は第一次の閣僚を公表した。国務長官にアントニー・ブリンケン(オバマ政権で国務副長官、58歳)と大統領特使(気候変動問題担当)にジョン・ケリー(オバマ政権で国務長官、76歳)。また財務長官にジャネット・イエレン前FRB議長(74歳)の起用説が流れている。

 バイデン演説を受けて、閣僚の発表に当たったのは新政権の要となる大統領首席補佐官ロン・クレイン、今月11日にバイデンが起用すると発表していた。クレインはオバマ政権時代にバイデン副大統領みずからの首席補佐官だった人物である。

 同じ24日、トランプ大統領はバイデン次期大統領への<政権移行チーム>を容認、政治空白の懸念は回避される方向に歩みだした。次期大統領への政権移行の開始に関する権限を持つ米連邦政府一般調達局(General Services Administration、GSA)のエミリー・マーフィー局長が23日、引き継ぎ作業を容認するとバイデン氏に書簡で伝達した。ついでトランプ大統領がツイッターで「国益のために必要な措置を取るよう(一般調達局に)薦めた」と表明した。

 <政権移行チーム>は国務省・国防総省・中央情報局(CIA)などから最新の機密情報を手に入れ、かつ各省高官と公式に接触することができるようになった。大統領の交代にともない数千人規模の官僚が入れ替わるアメリカの制度では、政権移行の具体化には相当の時間を要する。

 同日、政権移行を好感したニューヨーク株式市場は3万ドルを突破した。トランプ政権下の4年で株価が5割上昇した巨大IT企業がけん引、そこに金融緩和でだぶついた金が流れ込んだ。噂されるイエレン前FRB議長の財務長官起用説への期待もあると言われる。

【国際環境と日本外交】
 本ブログの前号(24)で述べたRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、略称:RCEP、アールセップ、東アジア地域包括的経済連携)について、19日(木曜)、中国の習近平国家主席が積極的に参加すると前向きな表明があった。

 18日(水曜)の日経新聞(朝刊)は、トップで「Co2の地下貯留で連携 日米豪とASEAN」と報じた。火力発電所、製油所等多くの工業施設から排出されるガスから二酸化炭素(Co2)を分離して回収し、地下深くのCo2を通さない地層のさらに下の層に貯留する技術がCCS(carbon dioxide capture and storage)と呼ばれ、さらに有効利用(utilization)を加えたものをCCUSと呼ぶ。いま世界で約20件が稼働中、約60件のプロジェクトが進行中。

 菅首相は、就任早々、2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする<カーボンニュートラル>を実現すると表明したが、その具体化の方法の一つが<Co2の地下貯留>である。温暖化ガスの<排出量>と<回収量>を同じにすればゼロになる。再生可能エネルギーの拡大、水素の活用を進めても、鉄鋼や化学等の産業からの排出がつづくため、アジアで排出されるCo2を現地で貯留する事業で協力し、その分を日本での排出分と相殺できる排出権取引の国際ルールに沿った方法。

 まず2021年からCo2を貯留できる候補地の一覧を作る。油田やガス田の多いアジアは地下貯留の候補地も多いとされる。貯留量、コスト、環境への影響等を調査し、2030年から商業利用の開始をめざす。日本は国際石油開発帝石が豪州で検討を始めている。

 21日(土曜)昼、TBSが「APEC、3年ぶり首脳宣言を採択」と報じた。APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議は、「新型コロナウイルスからの経済回復のため、自由で開かれた貿易環境の重要性を認識する」と明記した首脳宣言である。

 APEC首脳会議は、日本やアメリカ、中国など21の国と地域が参加し、20日、オンライン形式で開かれた。3年ぶりに採択された首脳宣言では、各国が直面している新型コロナによる経済への影響について、参加国の間の連携・協力の重要性を認識した、としている。
 また、中国国営の新華社通信によると、首脳会議では習主席がTPP=環太平洋パートナーシップ協定参加について「積極的に検討する」と表明した。中国は、自由貿易に開放的な姿勢を打ち出すことで2017年にTPPから離脱したアメリカに対抗する狙いがあるとみられる。

 トランプ大統領にとっては大統領選挙で民主党のバイデン氏の勝利が確実になってから初めての国際会議となり、ホワイトハウスは、インド太平洋地域の平和と繁栄の促進に向けてアメリカの関与を再確認したとの声明を発表した。
24日(火曜)と25日(水曜)、中国の王毅外相が来日、菅政権下で初の中国要人の来日である。茂木外相と王外相はビジネス往来の再開で合意した。日本国内の新型コロナウイルス感染再拡大で、中国側は難色を示していたが、「交渉で勝ち取った」(日本外務省関係者)と言われる。共同記者発表で茂木外相は、会談の成果に柔和な表情を浮かべた。なお習主席の国賓訪日について公式の言及はなかった。

 ところが共同記者発表の最後に、王外相が「正体不明の日本漁船が頻繁に釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な海域に入っている」と主張し、共同発表はそこで終了した。翌26日の自民党会合は荒れた。「すぐ反論すべきだった」「黙認しているようだった」。出席者らは、王氏に尖閣諸島一方的な主張を許したとして、政府の対応を問題視した。

 中国に対する日本国内の世論は厳しくなっている。NPOなどが今秋、日中共同で行った世論調査でも、日本人の対中意識は4年ぶりに悪化し、中国に抱く印象が「良くない」と答えた人は9割近くに上っている。

 一方の中国は、菅政権が発足した9月の段階では習主席訪日の早期実現に意欲的であった。米大統領選挙後も対米関係の大幅改善は困難と読み、日本との連携を強める狙いがあった。

 中国共産党関係者は「習主席自身が前向きで、外交当局に指示が下りていた」と明かす。9月25日に習主席が菅首相と電話協議した4日後、孔鉉佑駐日大使が「中国は対日関係の発展を一貫して重視している」とのメッセージを発表したのも、その一環とみられる。

 だが、今回訪日した王外相は、「具体的な協議には入らない。双方が適切な条件と環境を醸成する必要がある」(朝日新聞の取材)と語った。習主席訪日に向けた中国側の機運は、ここに来て急速にしぼんでいる。最大の理由は、日本国内の対中感情の改善に菅政権が積極的ではないと判断したことである。

 尖閣諸島の接続水域内で中国公船の航行が続く問題について、中国海警局元幹部は「我々からすれば、漁以外の政治的な意図を持った日本の漁船が釣魚島(尖閣諸島の中国名)に繰り返し入ってくる構図だ。一部の政治団体が対立をあおるのを、日本政府は止めなくなった」と憤る。香港問題などへの日本政府の対応にも、中国外交筋は「中国の内政問題に手を突っ込んでいる」と不満を募らせる。

 さらに日本で新型コロナの「第3波」が広がり、「習氏が訪問できる状況ではなくなった」(外交筋)。中国が模索していた来春までの習主席訪日は、ほぼ振り出しに戻った状況である。日本側には、日中国交正常化50周年を迎える2022年への先送りを主張する声もある。

 また来夏から2022年にかけては、共産党結党100周年(2021年)や北京冬季五輪、共産党大会(2022年)等の重要イベントが目白押で、中国にとっても習主席訪日の判断は困難を極めそうである。

 同じ25日、菅首相が王外相と約20分会談、菅首相は中国公船が尖閣諸島で頻繁に領海侵犯があると懸念を表明した。会談後、王外相は「中日関係の発展に影響しないよう取り組んでいきたい」と記者団に語った。

 国際環境が複雑化するなかで日本外交の舵取りは容易ではない。日本のみならず世界中の外交も模索を重ねている。そんな折、日経新聞の26日朝刊オピニオン欄に掲載された秋田浩之「菅外交、強さともろさ」は一つのヒントになる。

【国際スポーツ大会の動向】
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が来日し、15日~18日の4日間にわたり関係者との会談や五輪・パラリンピック施設の視察などの日程をこなした。

 菅首相は「人類がウイルスに打ち勝った証し」として予定どおり来夏に大会を開催すると述べ、会長も「決意を共有する」と語ったが、時も時、全国に感染が急拡大し始めている。

 国内の競技大会も、多くは観客を入れないなど厳格な条件の下で少しずつ経験を積んでいる段階であり、プロ野球の観客数の制限撤廃は来年2月まで延期された。そのことと200を超す国・地域から選手らが集まり、多種多様な競技を、分散した会場で、短期間に集中的に実施する五輪・パラリンピックとを同列に論じるわけにはいかない。課題はあまりにも大きい。
スポンサーサイト



企画展「臨春閣―建築の美と保存の技―」

 三溪園内の三溪記念館において、企画展「臨春閣―建築の美と保存の技―」が開かれている(10月15日~12月20日)。三溪園(公益財団法人三溪園保勝会)主催、後援は横浜市、横浜市教育委員会、協力は株式会社児島工務店、株式会社小西美術工藝社、栄建具工芸、中商株式会社、日本木工株式会社、公益財団法人文化財建造物保存技術協会、株式会社便利堂、そして本牧まちづくり会議が協賛。図録「臨春閣―建築の美と保存の技―」を制作・販売している。

 三溪園のホームページを開くと、紅葉と黄葉の競演、その美しい映像のなかに次の一文がある。「横浜に秋を聴く。この秋だから楽しめる三溪園がここにある」。以下、少し長くなるが転載する。

 横浜のイメージとは一線を画す、正統の“日本“に出会える三溪園。とくに秋は、その情趣をひときわ感じさせてくれる季節です。葉の色は日々移ろい、わたしたちの目に映る景色は刻々と変化していきます。日本の四季がもたらす自然の美しさを強く感じられる瞬間がここにあります。

 この秋は、重要文化財3棟に注目した企画をご用意しました。『紅葉の古建築公開』では、重要文化財「聴秋閣」・「春草廬」と紅葉とが織りなす景色をご覧いただけます。企画展『臨春閣―建築の美と保存の技―』では、現在修理中の「臨春閣」に施された装飾の数々を間近でご鑑賞いただけます。

 つづく本企画展の案内から以下の2つを引用する。

 (1)原三溪が魅せられた秀吉ゆかりの建築―臨春閣
古建築は、ときに厳しくもある自然と寄り添いながら、長い歴史の中で修理を重ね、三溪園の魅力をいまに伝えています。およそ30年周期で訪れる大規模な古建築の修理工事は、日本庭園が自然とともに歩む宿命でもあります。

 三溪園では、昨年から内苑の中心的な建造物「臨春閣」の保存修理を行っています。この建物はかつて豊臣秀吉が京都に建てた聚楽第の遺構とされ、三溪が11年をかけて念入りに移築した建物です。3つの棟の組み換えや瓦から檜皮・こけら葺き屋根への変更など、外観は大きく改められた一方で、内部の間取りや意匠は移築前の姿が保存されています。

 大正6(1917)年の移築完了まもなく、ここでは三溪の長男・善一郎と團琢磨男爵の四女・寿枝子との婚儀が執り行われました。日本髪を結い手燭をもった女性たちが、建物の奥・上段の間に座る新郎新婦のもとに来客をいざなう一夜の光景は、まさに桃山時代の昔をよみがえらせたひとときでした。

 (2)修理中の今だからこそ実現した企画展『臨春閣―建築の美と保存の技―』
第2次世界大戦により、この秀麗な建物も被害に遭いましたが、昭和28(1953)年からおよそ5年の歳月をかけて修理を行いました。自然素材により造られた伝統的な檜皮葺きやこけら葺きはおよそ30年周期で修理が必要で、現在は、戦後3回目となる大規模修繕を行っています。

 『臨春閣―建築の美と保存の技―』と題したこの企画展は、耐震対策をともなう現在の修理工事中だからこそ実現できたもの。臨春閣内部にちりばめられた数寄屋の装飾は、工事前にいったん取り外され、修理の完成を待っています。これらの装飾を元の位置に戻す前に、園内の三溪記念館に移し鑑賞していただこうという趣向で企画されました。

 展示会場には波や菊、桐が彫りだされた欄間やそれに附属する和歌の色紙、中国明朝・清朝期の頃に作られた黒漆に螺鈿で文様を施した扉を転用した地袋戸、壁に埋め込まれていた「板絵十二支図額」など、実に様々な趣向を凝らした数々が並びます。照明を受け、ディテールまでもがはっきりと確認できるそれぞれの作品は、臨春閣のほの暗い中で見るものとは違う美しさを放ちます。

 この展覧会は三溪すらもできなかった鑑賞体験ができる二度とない機会です。

 三溪園を創設した原三溪は、当時、豊臣秀吉が建てた聚楽第の遺構とされていた臨春閣を「桃山御殿」と呼び、秀吉ゆかりの美術工芸品で室内を装飾して日々の生活を楽しみました。実際にここでは、長男・善一郎の婚礼や三溪自身の葬儀が行われ、園内にある建物の中でも特別であったことがわかります。

 この臨春閣では現在、約30年ぶりとなる屋根葺替工事を中心とした重要文化財建造物保存修理工事を行っています。

 また今回の工事では併せて耐震補強を行っています。これに伴い、屋内の欄間やそれに附属する色紙などを取外し、状況の芳しくない一部は修理を行いました。特に、壁に埋め込まれていた「板絵十二支図額」は類例がなく貴重な作品で、詳細な調査が行われました。本展ではこれらの美術工芸品の数々を、臨春閣内に戻す前に三溪記念館で特別に公開します。このほか、30年前に高度な技術を要するコロタイプ印刷をもって複製に置き換えられた障壁画も、今回初めて原本と並べて展示します。

 文化財建造物を守り伝える保存修理の技術もまた、貴重な美術工芸品とともにこの度の工事では不可欠な要素です。本展では、修理工事の過程とともに、それらの技術も作品や資料を通してご覧いただけます。

 この企画展の開催期間に合わせて「菊花展」(10月26日~11月23日)が行われ、ついで「紅葉の古建築公開―重要文化財 聴秋閣・春草廬、遊歩道の公開」(11月21日~12月6日)が行われている。「紅葉の古建築公開」は以下の2棟。こちらも三溪園のホームページから引用したい。

 (1)110年前に創られた山水画のような世界―聴秋閣
原三溪が自らの理想を追い求めて創り上げた内苑。なかでも聴秋閣とその奥に広がる渓谷は、大正11(1922)年に、庭造りの最後に造成されました。言うなれば、この場所をもって、三溪園は完成したのです。

 奈良から運び込んだ大岩を流れの各所に配した一帯は深山幽谷の趣そのもの。近代に造られた三溪園の写実表現の特徴がみられます。そして渓谷の中腹よりかえりみれば、そこには紅葉に囲まれた聴秋閣と遠く丘上にそびえる三重塔が、一幅の山水画を見るがごとき眺めを造りだしています。まさに南画家であった祖父の血を受け継いだ、三溪の画才がみごとに活かされた絶景です。

 『紅葉の古建築公開(重要文化財 聴秋閣・春草廬)』では、聴秋閣とあわせて遊歩道を期間限定で公開します。三溪が描いた絶景を眺められる特別な機会です。

 (2)古寺の風情を写した三溪の粋―春草廬
 聴秋閣の華やかな紅葉の風情とは一転。もう一つの特別公開建物「春草廬」付近は古寺のものさびた雰囲気が漂います。石棺や東大寺旧蔵と伝えられる伽藍石(礎石)などが露地周りに添えられ、かつて目の前の高台には吉野・金峯山寺から移築された鐘楼もありました。

 付近にそびえる2本のイチョウの大木が、金色の葉を落とす晩秋になると、三溪はここでしばしば茶会を催したとされます。散り敷いた落葉は当日まで誰にも踏ませず、客が帰る際には鐘楼の鐘で見送るなど、三溪の催す茶会には、茶室の外の景色までも取り込んだ独特のスタイルがありました。三溪が近代三茶人のひとりに数えられる所以です。

 以上、三溪園のホームページから引用した企画展ならびに庭園と古建築公開に関する催しの案内である。それを頭に入れ、秋晴れの園内をゆっくり散策してから、三溪記念館内の企画展「臨春閣~建築の美と保存の技」を観る。これが5回目だが、観るたびに新たな印象を受ける。

 展示にあたっての<ごあいさつ>には、企画展の趣旨が次のように描かれている(担当は原未織建築担当主事・北泉剛史学芸員)。

 「日本が世界に誇る文化遺産である建造物の数々。長く守り続けられてきたこれらの遺産のほとんどは木造建造物で、屋根は桧皮葺・杮葺・茅葺などの自然素材が用いられているものが多く見られます。高温多湿な日本ではこういった建造物の劣化は早く進んでしまいますが、定期的な修繕を繰り返すことで健全な保存を行うことが可能となり、古くから日本の建造物はそのように守り継がれてきました。さらにこういった定期的な修繕を行うことで、修繕のために必要な技能や技術・素材の継承を行うことにもつながっていき、ソフト・ハードの両面から日本の伝統的な建築は支え続けられてきたのです。」(中略)

 「三溪園内の古建築は、室町~江戸時代につくられた建物を、明治~大正にかけて原三溪の手により守り継がれ、昭和の戦災被害を乗り越え復興し、そして平成・令和の時代の私たちが過去からの思いを引き継いで、次の世代へと受け継ぐため日々邁進しております。これら工事は、今では建物同様貴重となった伝統技術や技能、加えて最先端の研究や技術によって支えられ成り立っております。伝統と最新の技術を持った「現代の匠たち」が一堂に会し腕を揮ったこの修理工事の一端をご覧いただき、伝統建造物修理の世界の奥深さを楽しみながら、三溪園の魅力をより一層ご堪能いただければ幸いです。」

 第1展示室を入ると、「春日出新田建築図」の詳細な図面が8面も並ぶ。これが三溪園に移築され、いま臨春閣(りんしゅんかく)と呼ばれるようになる直前の原型を示す。大阪の春日出新田(現、大阪市此花区)にあった八州軒という建物は、摂津・河内・和泉・紀伊・淡路・播磨・山城・大和の八州を一望できたことに由来する。

 解説によれば、①現在の臨春閣は第三屋の位置が手前から奥に変わっていること、②第二屋と同じく池に面した部屋があること、③障壁画や欄間も今に伝わるものが当時から備わっていたことなどがわかり、とても興味深い。

 ついで「今村甚吉宛の書簡から」と題して、購入にかかわる三溪の書簡3通を展示する。その毛筆の筆致は、この古建築に寄せる三溪の熱情のようなものを感じさせる。ほかに「臨春閣についての諸説」、「移築前の臨春閣」、「桃山史料」、「臨春閣購入の交渉」の解説も必見。

 第2展示室に進んで右側に伝狩野永徳筆「芦雁図」襖絵がある。解説によれば、臨春閣の障壁画は、保存管理のため、平成2~5年度(1990~93)にコロタイプ印刷による複製に置き換えられ、原本は収蔵庫で保管されている。この伝狩野永徳「芦雁図」は、臨春閣第二屋「浪華の間」のもので、初めての試みとして原本とコロタイプ印刷の両方を並べている。手前が原本で、奥がコロタイプ印刷。

  「コロタイプ印刷」について解説は述べる。「一般的な印刷のような色の掛け合わせではなく、原本に忠実な色調のインキを用いて色を重ねています。色を乗せる版は一色に一枚が必要になり、ガラス板にゼラチンを塗布して色の濃淡に応じた凹凸を写真製版によって作り出します。これにより高精細な表現が可能となり、文化財の複製に貢献しています。さらに臨春閣障壁画の複製では、金泥を加筆して、より実物に近い表現になっています。」

 「臨春閣の数寄屋装飾」は、「臨春閣内部は、障子や戸袋までも豊かな数寄屋装飾の意匠が凝らされています。そのほとんどは、第一展示室で紹介している「春日出新田建築図」のなかにも見られ、八州軒だった頃からの装飾を臨春閣に継承していることがわかります。」

 臨春閣の様式は「数寄屋風書院」といわれます。「書院」としての格式を持ちながら、「数寄」、すなわち意匠や素材に遊び心を盛り込んでいる建築様式です。曲線を取り入れた障子や、蓮の茎・竹の皮が用いられた戸、天袋・地袋の引手の飾り金具などにより、品がありながら洒落た空間が形成されています。」

 それの代表例といえるものが、「黒漆螺鈿楼閣人物図扉(地袋戸)」、「花鳥人物彫扉」、「立涌文欄間障子」、「地袋(第三屋天楽の間)であり、第2展示室でゆっくり鑑賞できる。

 「修復された美術工芸品」は、「現在の臨春閣保存修理工事は、およそ30年周期で行う必要がある屋根の葺き替えに始まり、建造物そのものの安全性を調査・診断したところ、耐震補強を行うことになったという経緯があります。この工事に伴い、臨春閣内の障壁画や欄間、障子、襖などを取り外して工事完了まで別途保管することになり、あわせて、状態が芳しくなかった美術工芸品の修理を行いました。…臨春閣は、内部の特別公開が行われることもありますが、通常は非公開で、外から内部をご覧いただくだけになります。ここでは今回の工事を機に修理された美術工芸品の数々を修理後初公開いたします。間近でご覧いただく機会のない臨春閣の建築装飾の美とそれを守り伝える技術の高さをどうぞご覧ください。」

 「欄間の修理」は、「臨春閣の第一屋・第二屋には、波・菊・桐文様が彫刻された欄間があります。今回の臨春閣保存修理工事では耐震壁を入れる工程があり、作品保護のため、欄間を取り外すことになりました。戦後の修理工事が行われた昭和30~32年度(1955~1957)から60年以上もの間、設置されたままであったため、特に細かい彫刻の部材が組み合わされる菊と桐文様の欄間は、割れや欠けが生じている箇所が多く見られる状態でした。そのため、工事終了後に再び元に戻すことが困難と判断され、修理することになりました。…欄間が色紙の額の役割を持つ形状は他に類例がなく、とても珍しい作品です。また、修理によって新たに補われた部分には古色が施されて、見分けがつきにくくなっています。」

 第2展示室から第3展示室へつづく通路の右手にイラストによる解説パネル7枚が貼ってある。その最初が「工事現場から特別出張」の<企画展特別 ver.>。制作は原未織(建築担当主事)。イラスト入りの動的で巧みな解説。小学生にも配慮して漢字にふりがなが振ってあるのが嬉しい。初めての大人にも檜皮葺(ひわだぶき)等、正確に読むことができる(臨春閣の屋根面積は694㎡)。

 この数年にわたる三溪園の古建築補修工事について、私も幾度か本ブログで取り上げており、いま進行中の臨春閣改修工事には強い関心がある。5年前の「白雲邸」(2015年11月23日掲載)では、横浜市重要文化財の白雲邸の倉の改修工事の様子と、その時に見た檜皮葺の本屋の劣化状況に触れ、今回につながる重要文化財(国指定)11棟の大規模改修工事を予告している。

 ついで1年半前の「臨春閣の屋根葺き替え工事」(2019年3月15日掲載)では、当該年度から約15年を要する三溪園の重要文化財古建築の<大規模改修工事>の予定を掲げる。そのうえで上掲「白雲邸」本屋の檜皮葺の続報として、建築素材の檜皮採取にあたる職人の減少(すなわち素材の減少)等に触れ、白雲邸で職人が一列に並び竹釘を口にふくみ、息を合わせて檜皮を固定する作業に感動したことを記録している。また「10連休中の三溪園」(2019年5月8日掲載)も参照いただければと思う。

 次のパネルが「臨春閣の耐震補強計画」に付した「臨春閣の履歴」は、明治39(1906)年ころに購入、解体して当地へ運び、大正6(1917)年の移築工事完了、大正12(1923)年の関東大震災から平成23(2011)年の東日本大震災へとつづけ、次の地震にも耐えられる耐震補強計画を述べる。

 第3展示室は「修理された美術工芸品」が左側から順に並ぶ。「蓮の茎の戸」、「竹の皮の戸」、「欄間(波)」、正面に「板絵十二支図額」(6枚)、右へ「欄間(菊)」、「欄間(桐)」。これら臨春閣の内部にある装飾類を間近に見ることができる、またとない機会である。

 蓮の茎や竹の皮を配した戸には味わい深い趣がある。明るい照明の下に観ると、薄暗い屋内にあるときには気づかないものに気づかされる。これほど巧みに天然素材を使うことができるのか。SDGs(持続可能な開発目標)に向けて、石油原料に替わる微生物・石灰岩起源の繊維開発が進められているが、芸術作品を前にして技術革新のヒントを得られることも多い企業家や技術者の方々にも観覧に来ていただきたい。

 正面に並ぶ「板絵十二支図額」は、修理のため壁から取り外された本図と、制作された鮮やかな色見取り図を見比べることができる。子・丑・寅・卯…と十二支から1枚に2つがペアで描かれ、その順番も面白い。なお色見取り図を基に絵葉書(2つのペアでなく十二支それぞれを独立に12枚)を制作・販売している。

 第3展示室を出ると、右側の壁面にパネルがつづいて並ぶ。なかに見覚えのある【重要文化財 保存修理事業 臨春閣】のパネルがあり、「檜皮葺(ひわだぶき)とは?」の特集である。記憶をたどると、素屋根(工事用の仮設屋根)をかけた臨春閣を正面に臨む場所に立ててあった解説板の第1号である。イラストの妙をお伝えするため、記念すべき第1号解説板を掲載したい。


企画展展示パネル


 ついで「工事の現場より」のつづき、昨年の5月3週目から今年の9月1週目までを時系列に並べて、工事の進展ぶりを、あたかも<パネル動画>のように伝える。

 廊下の壁面に張られたこれらのイラスト「工事の現場より」は、改修工事の進捗状況や臨春閣内部の雰囲気をそのまま展示室に運び込んだ印象を与える。企画展「臨春閣―建築の美と保存の技―」の意図を表現する大切な工夫である。

 美術品の展示を主とする展示室に大改修工事の建築現場が合体したような、思わぬ<新世界>を現出させてくれた。

 なお北泉剛史学芸員または原未織建築担当主事によるギャラリートークが5回、用意されている。11月21日(土曜)、11月27日(金曜)、12月5日(土曜)、12月11日(金曜)、12月19日(土曜)。抱いた謎を問うこともできる。

人類最強の敵=新型コロナウイルス(25)

 11月9日(月曜)の早朝、本ブログ前号(24)を載せた後、TBSデジタルがアメリカCNNテレビの報道を引き、トランプ大統領夫人メラニアさんや娘婿のクシュナー大統領上級顧問がトランプに対し「敗北を受け入れる時が来た」と助言したと報じた。

 同じ日、政府分科会は、11月に入って北海道など各地で感染者が増加していることを受け、適切な対策を取らなければ急速な感染拡大に至る可能性が高いという認識を示す緊急提言を出した。感染者の集団=クラスターの報告が相次ぐ、接待を伴う飲食店や外国人のコミュニティーに対する対策や、水際対策の強化などを求めた。

 米大統領選の今後の行方と新型コロナの<第3波>への対応、この2つの大きな課題を追うには、両者を分けて時系列にたどるのが良いと思う。それに加えて、来年の東京五輪・パラリンピック等にむけての【国際スポーツ大会の動向】や【国際環境と日本外交】についても新たな項目を立てた。

 【続5 米大統領選】⇒<続報>~<続報3>は前々号(23)に、<続4>は前号(24)にあり。
ミラニア夫人に関するCNNの報道は「事実ではない」とトランプ大統領報道官が否定、激戦州などで再集計を求めた訴訟を続ける意向を示した。またトランプの長男と次男は、徹底抗戦を続けるべきだとして、共和党や支持者らにも同調するよう求めているという。

 与党・共和党内でもブッシュ元大統領が声明を通じて「米国民は 今回の選挙が根本的に公正で、結果ははっきりしていると確信している」とし「どんな方式であっても、その票は集計された」と語ったうえで、バイデンに祝意を表す電話をした。

 ほかに複数の上院議員から「不正投票の証拠を見たことはない」「選挙結果は変わらなさそうだ」といった声があがるなど、バイデン勝利を認める動きが出ている。「不正があった」と主張しながらも明確な証拠が示されないなか、トランプは少しずつ外堀を埋められてきている。

 一方、7日(土曜)と日曜はゴルフに興じていたトランプは、週明けから本格的な法廷闘争に入るとツイッターで表明した。アメリカ東部時間と日本時間とは時差が10時間あるため、トランプ陣営が本格的な法廷闘争に入るのは、日本時間の9日午後10時ころからと予想される。今晩から明日にかけての動きを待ちたい。

 9日午前、菅首相はバイデンが当選確実となったことを受け、「日米同盟をさらに強固にするため、そしてインド・太平洋地域の平和と繁栄を確保していくために、米国とともに取り組んでいきたい」と述べ、「日米は自由、民主主義、この普遍的価値観を共有する同盟国だ」と強調した。またバイデンとの電話協議や、自らが訪米して会談する予定については、「現時点では
何も決まっていないが、今後タイミングをみて調整していきたい」とした。

 アメリカ大統領選挙と同時に3日に行われた連邦議会上下両院の選挙結果は、下院については民主党が多数派となるのが確実となったが、上院100議席のうち、補選を含む35議席が改選され、一部の州では開票作業が続いている。

 ABCテレビによると、これまで非改選議席と合わせて、与党・共和党が48議席、野党・民主党も民主党会派の無所属2人を含め、48議席を確保する見通しとなっている。残る4議席のうち、南部ジョージア州の2議席は、いずれも過半数を獲得する候補がなく、州の規定に基づいて上位2人の候補による決選投票が来年1月5日までずれこむ見通しとなった。議会上院は、条約の批准や政府高官の人事の承認などを行う大きな権限があり、どちらの政党が多数派を占めるかは、政権運営にも影響を与える。
同じ9日のMr.サンデーのテレビ番組(8チャンネル)でジャーナリスト木村太郎の発言を聞き、のちに確認のためデジタル版を読んだ。「接戦を制し、勝利が確実に見えるバイデン氏。だが、実はトランプ氏が合法的に逆転可能なシナリオがある」と木村氏は語る。その根拠が約130年前の1887年に制定された<選挙人算定法>の承認領域条項の一文であるとする。
すなわち「選挙人集会のすくなくとも6日前までに開票作業の懸案が解決し、当選者を決定できるならば、その州議会の決定は当該州の勝者決定の最終決定とみなす」とある。これを逆に言えば、「当選者の決定が間に合わない場合、州議会が定める方法で選挙人を選ぶ…」ことになり、「この日に間に合わなかったら、一般投票の選挙人選出はパーになりますと。後は州議会で決めなさいという法律」。

 木村氏はつづける。「トランプは裁判に持ち込むぞと言っているが、裁判に勝たなくてもいい。長引かせて、揉めてこの日(12月8日)まで決着がつかないと、こちらの過程に移っていく。…仮にトランプ氏がこの作戦に成功した場合、今度は州議会の投票が行われる。…激戦のペンシルベニア州やウィスコンシン州、ミシガン州、ジョージア州では、共和党の議席が民主党より多く、共和党有利の状況になる。…州議会の決定次第では、トランプ氏の大逆転という可能性が残っている。」と。

 10日(火曜)、トランプ大統領がエスパー国防長官を解任したとツイッターで述べた。7月ころ、各地で暴動化が心配されるとして連邦軍の出動を考えるトランプ大統領と出動は時期尚早とするエスパー国防長官の意見対立が背景にある。また国防総省はアンダーソン国防次官代行(政策担当)ら高官3人が辞任したと発表。

 11日(水曜)、ポンペイオ米国務長官が記者会見の場で、トランプ政権の2期目に向けて準備に入ったと述べた。前日、バイデンが政権に向けた準備に入ったと述べたことへの反論であろう。13日からは中東と欧州を歴訪する予定。

 同じ日、米大統領選で勝利を各自にしたバイデンが英独仏の首脳と電話協議を行い、安全保障や脱炭素社会に向けた国際協調外交の第一歩を踏み出した。

 同じ日、ロイター通信が7日から10日に実施した世論調査(1353人のオンライン調査)で、全国民の79%がバイデンの当選と答えたと発表した。共和党支持者の約6割と民主党支持者のほぼ全員である。米国民の約8割のバイデン当選説が今後にどう影響するか。

 12日(木曜)朝、菅首相がバイデン次期大統領(予定)と電話会談を行った。インド太平洋地域及び世界の平和,自由及び繁栄を確保する政策の確認とともに、尖閣列島が日米安保条約の適用範囲内にあることを両者間で再確認した。

 13日(金曜)午後、時事通信、米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデンが、結果が出ていなかった西部アリゾナ州(選挙人11人)を制したと、米各メディアが12日に伝えたと報じた。南部ノースカロライナ(同15人)とジョージア(同16人)両州を残し、バイデンの獲得選挙人は290人。共和党のトランプは217人。アリゾナは2016年大統領選でトランプ氏が3ポイント余りの差をつけて制したが、今回は激戦となり、一部メディア以外は勝者の判定を見送っていた。バイデン氏が今回奪還した州は、東部ペンシルベニア、中西部ミシガン、ウィスコンシンに続き4州目。 

 14日(土曜)午前、複数の米メディアは大統領選で勝敗が明らかになっていなかった南部ジョージア州でバイデンが、ノースカロライナ州でトランプがそれぞれ勝利を確実にしたと報じた。これにより、全50州と首都ワシントンの勝者が判明した。バイデンが306人、トランプが232人となる。なおジョージア州では得票率の差が0・3ポイントと小差のため、20日までに再集計することが決まっている。

 同じ日、米大統領選を巡る調査をしていた米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー専門機関(CISA)がウェブサイトで声明を公表、そのなかで「根拠のない主張や誤った主張がたくさん出ている」と指摘。「票が取り除かれたり、紛失されたり、改ざんされたり、不正アクセスを受けたりした証拠は一切ない」と結論づけ、得票数が僅差だった州では「紙の記録が残っており、数え直すことも可能だ」と説明、11月3日の選挙は「米国の歴史上最も厳重に行われた」と強調した。

 米メディアによると、トランプの主張に反する声明を出したため、CISAでは高官が相次ぎ辞任を迫られる可能性がある。12日には副長官が辞任しており、長官も近く解任される恐れがあるという。

 同じ日の午後、トランプは、7日のバイデン当確後初めて公の場に姿を見せ、「どちらの政権になるのか誰が分かるだろうか。時がたてば分かるだろう。この政権では(新型コロナを理由に」ロックダウン(都市閉鎖)はしないということは言える」と述べ、敗北を引き続き認めなかった。

 同じ日、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは、トランプの警護にあたるシークレットサービスの間で新型コロナウイルスの感染が広がり、陽性の結果が出たり、感染者と濃厚接触したため、130人以上に隔離措置の指示が出されたと伝えた。その数は、シークレットサービスで警護を担う要員のおよそ1割にあたり、他のメンバーが休日を返上するなどして、対応にあたっているという。

 17日(火曜)朝、FNNプライムオンラインは、オブライエン大統領補佐官が「現時点でバイデン氏が明らかに勝利したようにみえるとしたうえで、「政権移行の専門的な手続きを実施する。疑いの余地はない」と述べたと伝えた。

【続6 日本学術会議】←<続報>、<続報2>、<続報3>、<続報4>は前号(23)に、<続報5)は(24)にあり。
 11日(水曜)午前の衆院内閣委員会で、立憲民主党の今井雅人委員の質問に対して、日本学術会議事務局幹部は任命拒否された6について再び政府に推薦することは排除されないとの認識を示した。一方、加藤官房長官は再推薦された場合の対応に関して回答を避けた。

【国内のコロナ対策と経済活性化】
 9日の政府分科会にいて尾身会長は、採るべき対策として5つを挙げた。①「今までよりも踏み込んだクラスター対応」、②「対話のある情報発信」、③「店舗や職場などでの感染防止策の確実な実践」、④「国際的な人の往来の再開に伴う取り組みの強化」、⑤「感染対策検証のための遺伝子解析の推進」。

 このうち、「クラスター対応」については、外国人のコミュニティーや症状の軽い人が多い大学生など早期に見つけにくいクラスターが多くなってきているとして、各国の大使館や支援団体とも協力して、やさしい日本語や多くの言語で感染を防ぐための情報を出し、体調が悪いときの相談体制を作ることや、自治体が大学の健康管理センターなどと協力して、啓発や情報の共有を進めるなどとしている。

 感染者の集団=クラスターの発生が多様化する中、政府分科会は、緊急提言の中で特徴を分析し(1)「早期検知しにくい」クラスターと(2)感染の連鎖を収束させるのが難しい「閉じにくい」クラスターに分け、それぞれに応じた効果的で効率的な対策を取るよう求めている。
 同日9日夜、西村大臣は記者会見で、北海道の鈴木知事と感染状況をめぐって意見交換したとした上で、「重点的なPCR検査と繁華街の人出を減らすことで減少に転じさせられると思っており、国と、北海道、札幌市で連携したい」と述べた。また、観光需要の喚起策「GoToトラベル」について「北海道は、総合的に判断すると『ステージ3』に、あたるわけではないので、現時点で対象から除外することは考えていない。このことは、鈴木知事とも一致した」と述べた。
 また政府分科会が緊急提言をまとめたことについては、西村大臣は「専門家も、東京は爆発的に増えている感じではないが、北海道や、埼玉、神奈川、愛知とその周辺等で増えている。提言をしっかりと受け止めて対応したい」と述べた。

 10日(火曜)、首相官邸で開いた新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、菅首相は「今までよりも踏み込んだクラスター対策を実施し、情報発信の強化と、感染防止策の確実な実践を進めていく」と強調した。そのうえで「この冬に備え、これまでの対応で得られた科学的な知見を生かしつつ、引き続き感染拡大の防止と、社会経済活動の両立に向け、全力で当たってほしい」と各閣僚に指示した。

 11(水曜)、東京都の新規感染者が317人と発表、300人超えは8月20日以来、83日ぶり。全国の新規感染者も1545人に急増した。政府は大規模スポーツイベントの人数制限撤廃を断念し、来年2月まで人数制限を継続すると発表した。

 本ブログ前号(24)に掲げた以降、新型コロナウィルス感染症の新規感染者が急増している。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
9日(月曜)   781人(204人)と157人(35人)
10日(火曜) 1285人(208人)と293人(33人)
11日(水曜) 1545人(204人)と317人(38人)
12日(木曜) 1661人(226人)と393人(39人)
13日(金曜) 1705人(231人)と374人(39人)
14日(土曜) 1739人(234人)と352人(41人)
15日(日曜) 1440人(243人)と255人(38人)
16日(月曜)  950人(251人)と180人(40人)
17日(火曜) 1699人(272人)と298人(42人)
18日(水曜) 2201人(278人)と493人(39人)
 
 全国の新規感染者は、15日まで6日連続で過去最多となっていたが、18日に2000人台を超えた。地域別では北海道(とくに札幌)の新規感染者が急増、病院の逼迫が著しい。これ以上のクラスター発生を抑制するため、厚労省から専門家の派遣を進めている。また18日の東京都の493人は、8月1日の472人を超えて過去最多である。新しい段階へ突入しつつある。

 12日(木曜)の時点で、政府分科会で混雑が予想される年始の初詣での感染対策について議論が行われ、尾身会長は記者会見で、分散して参拝することや、参拝の前後に飲食する際にも感染対策を行うよう呼びかけ、「屋外で静かに参拝する際には大きな感染リスクがあるわけではない。むしろ、参拝の前後に親しい人たちと集まって、会話や食事、飲酒をする場面にリスクがあることを十分意識して、感染対策を取ってもらいたい。また、混雑を分散させるために、可能な人には初詣を1月4日以降にしていただくなど、協力をお願いしたい」と述べた。

 17日(火曜)、北海道は新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないことを受け、札幌市の警戒ステージを「4」相当へ引き上げ(北海道全体では「3」)、同市で不要不急の外出自粛や、道内他地域との往来を自粛することを求めると正式決定した。27日まで実施する。具体的には「5人以上、2時間超の飲食会合は避ける」である。

 同じ日、アメリカの大手IT企業、グーグルはAI=人工知能を使って予測したこの先およそ1か月間の日本の新型コロナウイルスの感染者数や死者数などの予測データの公開をこの日から日本向けに始めた。これまでグーグルは、ハーバード大学と共同でAIを活用して新型コロナウイルスの感染者数などを予測する技術を開発し、アメリカで今年8月から予測情報をウェブサイトで公開している。

 18日(水曜)、政府分科会の尾身会長は、衆議院厚生労働委員会で「クラスターが多様化していたり、PCR検査の陽性率が少しずつ増加したりしている。このまま行くと、国民の努力だけではコントロールするのが難しく、さらに強い対応をしないといけない事態になる可能性がある。そうならないために、感染リスクが高まる場面を避け、先の分科会の緊急提言を踏まえた対応を早急に実施することが求められていて、今がもう一度、ふんどしを締め直す時期だ」と述べた。

 また日本医師会の中川会長は、この週末からの3連休を「我慢の3連休としてほしい」と述べ、感染が拡大している地域への移動を自粛するよう呼びかけた。東京など各地で感染が拡大していることについて「若年者が主体ではなく、中高年者の感染割合が増えてきていることがいちばん心配だ。社会経済活動の自粛などを再び強いることがないよう、国民一人一人が感染防止に向けて取り組むことが極めて重要だ」と述べた。

 これらの発言等を受けて西村大臣は、会食を通じた新型コロナウイルスのクラスターの発生が相次いでおり、忘年会など会食の機会が増える年末年始を控え、対策を徹底するため、飲食店でのガイドラインを見直す考えを示した。

 東京都は19日(木曜)に開く専門家を交えたモニタリング会議で警戒レベルを4段階のうち最も深刻な<レベル4>に引き上げる方向で調整している。東京都の感染症医療体制協議会委員を務め、病床の調整などを担う山口芳裕・杏林大病院高度救命救急センター長は「若者が多かった第2波と中年以上の比率が高い現在では、医療の負担は大きく異なる」と強調。

 一人ひとりの行動規範である<3密>回避、食事中の会話の控え、マスク着用、手指消毒等々の果たす役割は重要だが、それと同時に種々の開発品への期待も大きい。例えば広島大とウシオ電機(東京都)などの研究チームが9月に発表したものは、一部の波長の紫外線が新型コロナウイルスの感染力を失わせる効果を確認したとするもの。

 徳島大も10月、紫外線の中でもエネルギー量の大きい「深紫外(しんしがい)線」を出すLEDで、新型コロナウイルスの感染力を失わせる効果や、どの程度の時間やパワーによって効果が異なるかを確認したと発表した。宮崎大も医療機器メーカーと共同で、深紫外線LEDの光をあてると新型コロナウィルスが感染力を失うことを確認したと、5月に発表している。

 また自分が陽性か陰性かを知り、その客観的な証明を得たいとする気持ちは広く存在する。検査はどこで受けられるのか。「コロナ検査可能な医療機関 33都道府県が非公表」の見出しの調査結果が出た(日経新聞 12日朝刊)。種々の理由があるものの、非公表のままでは実際に検査を受けに行くことができない。

【国際スポーツ大会の動向】
 11日(日本時間12日)、国際オリンピック委員会(IOC)はトーマス・バッハ会長が15~18日の日程で訪日すると正式に発表した。新型コロナウイルスの影響で来夏に延期された東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの準備状況確認が目的で、菅首相との会談や、選手村、国立競技場を視察する予定。バッハ会長は「来夏の大会開催に自信を持っている。…菅首相との話し合いでは中止は議論しない」と訪日の意義を強調した。事前にスイスで自主待機期間を設け、追加検査も受けると明かした。

 また海外選手も参加して東京で開催された8日の体操の国際大会(参加は4ヵ国)を「10点満点」と高く評価し、「この状況でも安全に日本で大会を開催できることを示した。五輪開催に対する人々の考え方が変わる一助になってほしい」と期待を示した。

 12日(木曜)、IOCバッハ会長の15日の来日を控え、首相官邸で行われた政府、東京都、大会組織委員会による調整会議で、杉田和博官房副長官は「外国人を含めた観客の対応については、国内外の感染状況を踏まえ、万全の感染防止策を整える必要がある」と述べた。

 具体的には、入国前の複数回の検査や入国後のマスク着用などを条件に、チケット所有者の入国を容認。入国後の2週間待機を免除し、公共交通機関の使用を認める。防疫措置として、専用アプリを通じて毎日体温などの報告を求め、怠れば観戦させない案も検討する。

 入国後に行動管理・健康管理を求める仕組み、感染やその恐れがある場合に医療面の対応をとる体制を検討する。また観客数の上限は、国内の上限規制に準じることを基本とする。これらの最終決定は、国内外の感染状況などを踏まえ、来春までに行う。

 16日(月曜)、来日したバッハ会長は、官邸で菅首相と、都庁で小池都知事と会談、午後には晴海で開かれた大会組織委員会会合で森会長とあいついで会談し、「来年、必ずや妥当な数の観客をスタジアムに入れることができると思っている」と語った。翌日からはオリパラの施設見学を精力的にこなした。

【新型コロナ対策 外国の動き】
  15日(日曜)、米ファイザー社が開発中のワクチンについて90%以上の効果が判明したと発表したが、このワクチンの保管には零下20℃の容器が必要とあり、この種の保冷器を持つ病院は日本でもごく限られるという。

 16日(月曜)、米製薬の新興企業モデルナは、新型コロナウィルスのワクチンの最終治験で94.5%の有効性が初期データから得られたと発表、数週間以内に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請するとした。一般または医療用冷蔵庫の温度で対応できることをアピール。2~8℃で30日間の保管ができるほか、零下20℃では最大6ヵ月保管できるという。

 米ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによると、新型コロナウイルスの感染が確認された人は、日本時間15日午前3時現在、世界全体で5366万1954人となり、亡くなった人は130万7068人に上っている。

 感染者の多い国は、(1)アメリカ1079万4102人、(2)インド877万3479人、(3)ブラジル581万 652人、(4)フランス191万5713人、(5)ロシア188万7836人である。死者の多い国は(1)アメリカが24万4671人、(2)ブラジルが16万4737人、(3)インドが12万9188人、(4)メキシコが9万7624人、
(5)イギリスが5万1858人である。
 
【国際環境と日本外交】
 上掲5つの特集的な見出しでは括れない大きなものとして、この【国際環境と日本外交】を新たに立てた。アメリカ大統領選挙の結果があいまいなままで、国際政治にある種の<空白>が生じており、その間の日本外交が試されている。

 15日(日曜)、8年越しのRCEPの批准に向けて菅首相がオンライン形式の会合で署名に踏み切った。15ヵ国が参加、世界貿易額の3割を占める世界最大の大型の協定である。品目ベースで輸出入にかかる関税の91%を段階的に撤廃する。

 いささか複雑な多国間の自由貿易協定(FTA)なので、その枠組みから見よう。日本が参加するものに、TPPとRCEPの2つがある。

 TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement)は環太平洋パートナーシップ協定の省略形で、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、米国の12ヵ国間で2016年2月4日に署名された(2017年1月、アメリカ合衆国が離脱)。

 RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、略称:RCEP、アールセップ)とは東アジア地域包括的経済連携で、自由貿易協定(FTA)の1つ。東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国で構成する構想。

 今回のRCEPの原点になったのは、中国の提案により2005年に研究・検討が始まった東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)と日・中・韓による東アジア自由貿易地域(EAFTA)と、日本の提案により07年に研究・検討が始まったアセアン自由貿易地域(AFTA)の構想にインド、オーストラリア、ニュージーランドをも加えた東アジア包括的経済連携(CEPIA)だった。

 日中両国は2011年8月に、EAFTAとCEPIAの構想を統合した形の経済圏の樹立をASEANに共同提案した。この提案により、RCEPに向けた協議が本格化し、9年を経て本日の合意・署名に至った。世界貿易の3割を占める巨大経済圏が成立した。なおインドは加盟しなかった。関税の91%を段階的に撤廃する。中国が加盟する初の協定である。

 TPPとRCEPの双方に加盟している国が、日本のほかベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、豪州、ニュージーランドの7ヵ国である。なかでも今後の日本が果たすべき役割はきわめて大きい。

 15日、署名を終えた梶山経産相は 「日本の工業製品や農水産品のアジア圏への輸出拡大に大きく寄与するものと考えている」とRCEPの意義を強調した。

 これについてドイツ国営放送のドイチェ・ベレは15日、「中国が『友達の輪』を拡大 世界最大の自由貿易区が誕生」と題する記事を報じ、RCEPの発足は「中国にとっての大成功」を意味すると強調、その末尾でRCEPが成立してもメンバー国の間の各種の摩擦が解決したわけではなく、各国が日増しに増加する中国の影響力に対する懸念を払拭したわけでもないと指摘。日本が中国に頼ってきたサプライチェーンを転換させようと考慮していることや、豪州と中国との政府関係が緊張し続けていることを挙げた。

 16日(月曜)、茂木外相が記者会見し、バイデン次期大統領の米中関係について「対立がすぐ解消する状況にはない」としたうえで、「通商や技術分野等で競争がつづく」とし、さらに「人権、香港問題、新疆ウィグル自治区の問題ではトランプ政権以上に強い立場を取る可能性がある」と述べた。

 また「世界のGDPの16%を占める隣国・中国は、中国スタイルではない国際スタンダードで(自身の役割を)果たすよう促すのが日本の役割」と語った。そして「東シナ海、南シナ海における中国の力による一方的な現状変更の試みは断固として阻止しなければならない」とし、「いかに米国のコミットメントを継続させられるかが日本外交の大きな課題となる」と指摘した。

 17日(火曜)朝、豪州のモリソン首相が来日し、菅首相と会談、日米豪印の4ヵ国の枠組みで「インド太平洋構想」を固め、アメリカの政権交代の間、これを日豪が先導することで合意した。

 この間、次の録画を観た。(1)NHKスペシャル「新型コロナ 全論文解読~AIで迫る いま知りたいこと~」8日。(2)NHK時事公論「新型コロナウィルス 感染の拡大を防げ」11日。(3)NHKEテレTⅤシンポジウム「中小企業どう守る~コロナ禍をこえて」14日。(4)ETⅤ特集「サピエンスとパンデミック~ユヴァル・ノア・ハラリ特別授業」14日。(5)BS1週刊ワールドニュース「新型コロナに揺れる世界(11月9~13」15日。(6)NHK日曜討論「バイデン氏に政権移行へ アメリカは? 国際社会は?」15日。(7)BS1スペシャル「コロナ時代の人情酒場 横浜・野毛の1ヵ月」15日。

人類最強の敵=新型コロナウイルス(24)

  11月2日(月曜)、成田空港に日本初のPCRセンター(日本医科大学運営)が営業を開始した。出入国制限の緩和措置により、出国者の増加が見込まれ、<陰性証明書>の提出を求める国もあることに対応する。費用は検査と<陰性証明書>発行を合わせて4万円弱、所要時間は約6時間、12月以降は最短2時間程度とする予定。なお成田への入国・帰国者を対象とする検査はひきつづき厚労省の検疫所が担う。

 同じ日、日本最大のクルーズ客船・飛鳥II(あすかツー、総トン数5万トン)が、母港横浜港で「30周年オープニングクルーズ」の運航を再開した。Go Toトラベルキャンペーン対象の新コース(国内周遊)の最初である。

 同船は旅客定員872人、乗組員が490人。「外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(国土交通省監修)」を基に策定し、(一財)日本海事協会の認定を取得した「飛鳥Ⅱ 新型コロナウイルス感染症対策プラン」に則り運航する。しかし寄港地の受け入れについては、神戸は歓迎するが、博多や長崎は難色を示している。

 本年2月3日、新型コロナウィルス感染者を乗せて横浜港に来た大型クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号(イギリス船籍、総トン数10万584トン、旅客定員2706人、乗組員1100人)は記憶に新しい。感染者712人、死者13人に及ぶ惨事となった。本船の日本発着便の再就航は来年2021年7月以降を予定している。

 3日(火曜、文化の日)、日経新聞(朝刊)トップ記事は、「中国・アジア 増益に転換 世界景気回復けん引」の見出しで、7~9月の四半期の企業約1万2000社の業績を伝えた。とくに中国企業は増益(前年同期比19%増)にとどまらず増収(8%増)を記録した。これに対してアメリカは5%減益で、日欧は実に30%の減益である。

【続4 米大統領選】⇒<続報>~<続報3>は前号(23)にあり。
 アメリカ東部時間で3日が大統領選の投票日、10時間の時差を計算すると、アメリカ東部時間の3日は日本時間の3日午後2時に始まる。以下はすべて日本時間で記す。日本でもテレビでは米大統領選に関するニュース・解説がトップ、それほど世界的な関心が強い。

 4日(水曜)の朝8時から開票が始まり、どの州でどちらが選挙人(総数は540人)を獲得したかの速報が出始めた(AP通信社(Associated Press)を基にしたヤフーや朝日新聞デジタル等)。外出中の私が初めてスマホで見たのが朝9時40分現在のもの、バイデン16:トランプ13とあった。

 ついでパソコンを通じて州ごとの開票数と議会選挙の開票を合わせて見る。バイデン85:トランプ55、85:61と進み、11時9分現在、119:92。11時18分にコロンビア特別区をバイデンが取り、122:92となる。

 ついで131:92と出た。だが、依然として30人ほどの僅差である。得票数ではバイデンが390万余人でトランプが410万余人。激戦区のフロリダ州(選挙人は29人と全米で3番目に多く、かつ開票が速い)が最初の山場で、ここを誰が取るかで勝敗が分かれると言われる。昼前には判明すると言われていたが、12時半を回っても出てこない。

 私が時々刻々と変わる得票数をこのように記録するのは初めてで、不思議な感覚である。日本の国政選挙でも記録してこなかった。外は静かな秋晴れで、散策を楽しむ人の姿が見える。12時半の発表では、ミズーリ州をトランプが取り、131:108となったとの速報である。午後1時過ぎにはカリフォルニア州(最多の選挙人55人)等が開いて209:118となったが、ここまでは想定通りである。

 フロリダ大学のマイケル・マクドナルド教授の集計によると、全米で約1億117万人が期日前投票を行った。2016年大統領選の投票総数の約73%にあたる。同教授はまた今回の大統領選では約1億6千万人が投票し、投票率は67%と過去100年で最も高くなると予測している。

 その間、各種の調査会社が約8割の集計ではフロリダ州(選挙人29人)とオハイオ州(18人)でトランプが僅差のリードに対して、ノースカロライナ州(15人)とアリゾナ州(11人)はバイデンが僅差のリードと予想している。残るペンシルベニア州(20人)とジョージア州(16人)には言及がない。

 激戦区のうち最初に開票結果が判明するとされたフロリダ州はトランプが勝利し、2時半の段階で223:174に更新された。過半数は270人であるから、バイデンはあと47人、トランプはあと96人が必要となる。

 未確定州は次の7州。すなわちペンシルベニア州(20人)、ノースカロライナ州(15人)、ジョージア州(16人)、ミシガン州(16人)、ウィスコンシン州(10人)、テキサス州(38人で全米2番目に多い)、ネバダ州(6人)で合計の選挙人数は121人。

 3時過ぎ、大票田のテキサス州(38人)等をトランプが取り、224:213とわずか11票差となった。残る選挙人数は6州の101人、これを誰が取るか。8割強の開票を基に、選挙人数の多い5州でトランプがリードとの中間集計が出ている。最後までもつれそうである。 

 5時ころ帰宅途上の車中で見た開票速報では、バイデンが共和党の牙城アリゾナ州で勝ち、236:213として、また差がわずかに開いた。この数字は晩のニュースでも変わらない(データはAPに依拠)。一方、アリゾナ州では決着がついていないとする報道もある(主にCNN(Cable News Network)に依拠)。

 残る上掲の6州には、とくにラストベルト(rust belt、錆びついた州)と呼ばれる中西部から北東部に位置する、鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業が衰退した工業地帯のミシガン州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州が含まれる。

 当日投票を優先する共和党の票が最初に集計されため、共和党のシンボルカラーの赤を採ってレッドミラージュ(red mirage赤い蜃気楼)と呼び、遅れて郵便投票等の事前投票が集計されるにつれて民主党のシンボルカラーの青に変わっていく(ブルーシフト)と言われる。いかにも民主党支持のインテリが共和党を揶揄した言いぶりである。確かに青は後から現れるが、青が赤を凌駕するとは限らない。

 晩の9時のニュースでトランプが支持者の前で演説を行い、とくに上掲のペンシルベニア州(20人)、ミシガン州(16人)、ウィスコンシン州(10人)の3州を念頭に郵便投票に疑問を呈し、法廷闘争に入ると述べたと伝える。バイデンはこれに反論、「勝利まで辛抱強く待とう」と支持者に訴えた。

 ほかに大票田のノースカロライナ州(15人)とジョージア州(16人)の票の行方も全体に影響するにちがいない。夕方までの開票ではトランプが有利に進めている。これが<赤い蜃気楼>で終わるか、あるいはブルーシフトするか。

 ニューヨーク、マンハッタンの目抜き通りは、一部を通行止めして厳重警戒、店舗はウィンドーを板張りして暴徒の襲撃に備える始末。同じことが全米各地で起きている。私は他の用事を中断して、時々刻々と変わる情勢の変化を追った。

 5日(木曜)朝、APの速報値が変わった。昨晩以来、236:213で長くつづいたが、ラストベルトのうち2州をバイデンが大接戦のすえ抑え、264:214となった。

 バイデンは過半数の270まであと6票を得れば良い。結果が出ていない州は、ペンシルベニア州(20人)、ノースカロライナ州(15人)、ジョージア州(16人)の3つの激戦区と西部のネバタ州(6人)を加えて計4州となる。数字を再確認すれば分かるように、ネバタ州(同6人)を取ればバイデンの勝利となる。

 なお日本ではテレビ局により、上述の通り、264:214とするものと、253:214とするものの違いがある。アリゾナ州(11人)を入れるか否かの相違で、もし後者であれば、ネバタ州(6人)を取ればバイデンの勝利というシナリオは通じない。

 この日、トランプは郵便投票の開票作業に問題があったとして集計の中止を主張し、法廷闘争に持ち込む意思を表明した。民主党が郵便投票を積極的に呼びかけてきたのに対して共和党は否定的であった。その延長上に採用されたトランプの戦術である。

 それを州の最高裁に出すのか、連邦最高裁に直接出すのか等々、実情はまだ分からない。この日の午後、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州、アリゾナ州の4州で不正行為があったとして訴訟を起こした。

 今回の米大統領選を遠くから報道を通じて追いかけるうちに見えてきたのは、まずはトランプとバイデンという二人の強烈な個性の違いである。自我意識まるだしで、ときに<子供>のように<ミーファースト>(自分第一)で振る舞い、年齢以上のエネルギーを発するトランプ大統領、かたや理性的、冷静で頼りになる<大人>を印象づけるもカリスマ性に欠けるとまで言われるバイデン。

 この二人のどちらを大統領に選ぶか。対立と分断、憎悪と暴力が進み、あげく銃放任の社会である。暴動や略奪がいつ起きるかと懸念される。一方、その分だけ協調と団結、安全と安心、愛情と和解が追い求められる。対立と分断は根深く、家庭内、地域内でも起きている。

 同じ5日の午後3時過ぎ、仮にバイデンがジョージア州(16人)かネバダ州(6人)のどちらかで勝利すれば、獲得選挙人数は過半数の270人に達すると伝えた。すなわち6日到着の郵便投票も有効とするペンシルベニア州(20人)の開票結果を待たずに当確が出る。

 これに対してトランプが270を得るにはあと56人が必要で、上掲2州に加えてノースカロライナ州(15人)とペンシルベニア州(20人)を含め、4州すべてで勝たなければならない。

 5日の夕方4時、「バイデン氏が王手 ジョージア州の開票大詰め」と題する記事が出た。CNNによれば激戦の南部ジョージア州のフルトン郡の選管担当者は1時間あたり3千票を数えており、約1万4千の郵送投票が残っていると語った。これまでに約12万8千票を集計したという。同郡には州都アトランタがあり、ジョージア州で最も人口が多い。CNNの選挙データによると同郡はバイデンが73%、トランプが26%となっている。
 
 明けて6日(金曜)朝4時、NHKウェブがアリゾナ州の開票について、州内の最も人口が集中する地区の選挙管理委員会は27万票の不在者投票の開票作業が週末まで続く可能性がある、と伝えた。各州の勝利確実を伝えてきたメディアも開票状況を慎重に見極めているとみられる。そうなるとAPの報道に依拠した264:214ではなく、主にCNNに依拠する253:214が、6日朝の現状と理解する方が良さそうである。

 同じ6日、ミシガン州やジョージア州で集計停止を求めたトランプの訴訟は棄却された。開票を止めたいトランプの訴訟は、うまくいっていない。新型コロナの感染予防の一環として郵便投票を認めて出発した今回の選挙である。投票権を現職大統領が奪うとする集計停止の訴訟を、州の最高裁が認めるはずがない。

 それも自分に都合の良い場合だけ集計停止を主張し、トランプがじりじりとバイデンを追い上げているアリゾナ州では「すべての票を数えろ!」と訴えている。連邦最高裁へ出しても、この良識に反する主張は認められまい。

 同じ6日、バイデンは地元のデラウェア州ウィルミントンで声明を出し、トランプの集計中止の要求を念頭に、「投票は神聖なものであり、国民が自らの意思を表現する方法だ。そして他でもなく、投票こそが米国の大統領を決める」と指摘。「集計は完了が近い。我々は間もなく知ることになるだろう」と述べ、市民に「冷静な対応」を呼びかけた。

 6日午後、急ピッチで進むペンシルベニア州(20人)の開票結果が夕方にも出るかもしれないとのニュースが入った。目が離せない。しかし僅差であるため慎重な集計作業になり、遅れるとも言われる。

 7日(土曜)朝のテレビでも両者の選挙人獲得数は変わらず、253:214のままである。日本の7日朝7時は、米国東部時刻で6日の夕方5時である。今日中の作業で結果が出るとは思えない。

 同じ7日の午後、バイデンの演説が届いた。短い演説で、「まだ勝利宣言はしない。しかし、数字ははっきりと示している。…24時間前にジョージア州でもペンシルベニア州でもリードを許していたが、今は先行している。ネバダ州でもアリゾナ州でも勝っている」との認識を示し、当選に必要な選挙人数の270人を超え、「300人を超えようとしている」とも語った。

 またバイデンは、新型コロナウイルスへの対応や気候変動、人種差別などの問題をあげ、「人々は分断されるのではなく、一つにまとまることを望んでいる。同じままでいるより、変革を選んだ」と語り、米国民を結束させると
約束した。一方、共和党のトランプ大統領が「郵便投票の不正」などを主張し、票の集計停止を求めたことをめぐっては「民主主義は機能している。あなたの票は数えられる」と強調した。

 8日(日曜)朝、開票が始まって4日目である。未明までに米主要メディアは相次いでバイデンの<当確>を報じた。バイデンと副大統領候補のカマラ・ハリスは勝利を宣言して演説を行い、接戦が演じられた大統領選は、ひとまず大勢が決する形となった。
菅首相は8日朝の6時半ころ、以上の情報を得る前に自身のツイッターで「ジョー・バイデン氏及びカマラ・ハリス氏に心よりお祝い申し上げます。日米同盟をさらに強固なものとするために、また、インド太平洋地域及び世界の平和,自由及び繁栄を確保するために、ともに取り組んでいくことを楽しみにしております」と祝意を表明した。これには「まだ決まっていない」との反応も多く寄せられた。

 7時過ぎ、両候補の選挙人獲得数を伝えるAP通信社の図が一挙に変わり、264:214から290:213となり、バイデンが過半数の270人以上を確保した。前述の通り、CNN等の集計結果と異なる点を残しつつ、ペンシルベニア州(選挙人は20人)等を加算したからである。残る選挙人はジョージア州(16人)、ノースカロライナ州(15人)、アラスカ州(3人)の3州の34人だが、そこがどうなろうとすでに過半数は確保したことになる。

 ついで9時ころ、CNN等の各メディアは、279:214とし、こちらもバイデンが過半数の270以上を確保したとして<当確>を出した。

 一方、各テレビの解説はトランプの法廷闘争の行き先を伝える。いささか複雑だが、以下の通り。

 問題の焦点の一つが激戦州6州の下院議員の大半が共和党になりそう(当確)な点である。1ヶ月後の12月8日が選挙人を確定して連邦議会へ届ける最終日であるが、もし激戦州の議会が係争中を理由に選挙人の確定を行わなければ、12月14日の選挙人による投票が成り立たない。その場合、大統領選の舞台はまったく変わり、連邦議会の下院に移る。

 これは法律上の可能性の問題であり、そうなるかは誰にも分からない。1ヶ月間に事態が大きく動く可能性はある。その一つが激戦州における共和党内の意見対立(反トランプ)であり、もう一つが民主党内の閣僚候補者の発表である。

 同じ8日の10時過ぎ、現地時間は夜8時過ぎ、バイデンが勝利演説を行い、「我々国民が勝利した。私は分断ではなく、統合を追求する大統領になることを誓う」と述べ、トランプ政権下の4年間で深まった対立の解消を訴えた。「国の骨格である中産階級を再建する。米国を世界から再び尊敬される国にする」とも語った。

 トランプの支持者に対しては、「がっかりしたと思う」と語りかけ、その上で、「厳しい言葉は脇に置く時だ。私たちは敵ではなく、米国人だ」と強調した。バイデン支持者の激しい対立を念頭に、和解を呼びかけた。

 英米仏等の西欧諸国は、いちはやく祝意を表した。他の国々も似た状況である。しかし、トランプが提訴するとして敗北を認めない段階では、バイデンは<当確>状態のままである。最終決着まで長期化する可能性は消えていない。

【続5 日本学術会議】←<続報>、<続報2>、<続報3>、<続報4>は、前号(23)にあり。
 日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を首相が任命拒否した件をめぐり、国会で質疑がなされた。

 2日の衆院予算委員会では、加藤官房長官が「当時の事務局長が文書の内容を(山極氏に)口頭で報告したと聞いている」と述べた。山際氏とは日本学術会議の山際寿一前会長を指す。

 4日の衆議院予算委員会で菅首相は、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題に関し、自身が決裁する前に6人を除外する方針を把握していたと述べた上で、杉田和博官房副長官から報告を受けたと明らかにした。野党は杉田氏の国会招致要求を強めたが、実現していない。

 5日の参議院予算委員会の質疑で首相は新たに次のように答えた。「以前は学術会議が正式の推薦名簿を提出する前に、様々な意見交換の中で、内閣府の事務局などと学術会議会長との間で一定の調整が行われていた…」が、今回は「推薦前の調整が働かず、結果として任命に至らなかった者が生じた」と。

 任命には政府の事前調整が必要との認識を示したとも受け取られ、野党は学術会議の独立性を侵害するとして国会での追及を強める構えと報じられた。政府は6人の任命を拒否した理由にも答えていない。

 首相発言について、日本学術会議の山際前会長は、3日、内閣府の学術会議事務局が2018年11月中旬に作った文書は「(首相に)推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」とし、また「(首相が)任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め、その中から任命するということも否定されない」などとしている文書について、「見せられたことはないし、存在も知らなかった」と明かした。

 山極氏はまた、2日の衆院予算委員会で加藤官房長官が「当時の事務局長が文書の内容を(山極氏に)口頭で報告したと聞いている」と述べたことについて、「説明を受けた覚えはない」とし、会長への報告なしに文書が作られたことを「ありえないこと」と強く批判した。

 上掲の2018年文書を根拠にする首相見解は、「推薦通りに必ず任命しなければならないわけではなく、それは内閣法制局の了解を得た、政府の一貫した考え方」であると強調する。この時の内閣法制局長官は第66代の横畠裕介である。

 この文書に関連した2日の衆議院予算委員会での質疑で、野党側が「安全保障法制に反対したから、共謀罪(法)に反対したからとの理由で(任命を)拒否できるのか」と質問すると、近藤正春内閣法制局長官(第67代)は「恣意(しい)的に、政府がその自由な裁量権を発揮したような形でのものは認められない」と述べた。

 朝日新聞の7日の社説は言う。「こんな説明をいくら繰り返されても、説得力はない。学術会議のあり方について、今後議論したいというなら、信頼関係を壊したまま進めることもできまい。まずは首相が潔く過ちを認め、6人の任命を認めるところから再出発するしかない。」

 これまで書いてきたように、任命拒否の理由を明らかにするのが大前提で、それを通じて両者の信頼関係を築き、日本学術会議の改革を進め、日本の科学を育てる、これが私の考えである。

【国内のコロナ対策と経済活性化】
 11月2日(月曜)からの新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
 2日(月曜)  488人(163人)と 87人(32人)
 3日(火曜)  866人(163人)と209人(32人)
 4日(水曜)  624人(165人)と122人(35人)
 5日(木曜) 1048人(183人)と269人(38人)
 6日(金曜) 1145人(189人)と242人(37人)
 7日(土曜) 1331人(194人)と294人(36人)
 8日(日曜)  954人(196人)と189人(36人)

 全国の新規感染者が確実に急増している(日曜は検査数が少ない)。これまで全国と東京都の2つの事例のみを掲げてきたが、ここで注視すべきは北海道の感染者急増である。10月28日の52人を初めとして連日50人を超える。11月2日は96人となり、東京の87人を超えた。5日が119人、6日も115人と2日連続で100人を超え、7日は過去最多の180人で、8日は153人。

 要因として寒さと乾燥が指摘されている。新型コロナウィルスは低温・乾燥の環境下で活発になる。また冬場は換気を怠りがちとなり、<3密>の可能性が高まる。この傾向は今後、全国にも拡がると、注意喚起されている。

 一方、北海道独自の問題として、札幌の繁華街ススキノでクラスターが多発している。4日(水曜)、鈴木直道知事と札幌市の秋元克広市長が会談、知事は利用中の病床数は231と、警戒ステージ3の基準(250床)に迫っており、直近7日の新規報告数(514人)はステージ3基準の133人を大きく上回わり、感染拡大の「第3波」ともいえる状況と述べた。

 また鈴木知事はさらに感染が拡大した場合には「北海道全体に強い措置を検討していかなければならない」と繰り返し、7日(土曜)、開く対策本部会議で、北海道独自に定める全5段階の「警戒ステージ」を「レベル2」から「レベル3」に引き上げ、札幌市の繁華街、ススキノで接待を伴う飲食店などに営業時間などの短縮を要請することを決めた。

 寒さと乾燥という自然的背景以外の社会的背景、人の移動の増加や各種イベントの制限緩和(8日から大相撲が再開)、あるいは<気の緩み>等々があるのか。対策はどうすべきか。

【新型コロナ対策 外国の動き】
 7日(土曜)、AP通信などが米国東部時間の6日に報じたところによれば、トランプ政権のメドウズ大統領首席補佐官が、新型コロナウイルスに感染したことがわかった。メドウズ補佐官は投票日の前に、トランプ大統領に随行して各地をまわり、4日にトランプが一方的に「勝利した」と発言した際にも、マスクを着けずに公の場に出ていた。

 米大統領選の過熱以上に、アメリカの感染者は急増している。大統領選の前日に第3波が訪れたとされる。選挙戦の熱気がソーシアルディスタンスを忘れさせ、<3密>に反する行動を加速する。あたかも<地獄絵>のようである。この同時進行を誰が予見したか、予見できたか。

 次の録画を観た。(1)BS1スペシャル「ザ・リアル・ボイス ダイナーからアメリカの本音が聞こえる」11月1日。(2)NHKスペシャル「揺れるアメリカ 分断の行方」1日。(3)クローズアップ現代「アメリカ運命の一日 分断社会の行く先は? 激戦州にカメラが」4日。(4)NHKスペシャル「混迷 アメリカ大統領選挙」7日。(5)NHK日曜討論「異例の大統領選 アメリカはどこへ」8日。(6)NHK週刊ワールドニュース「新型コロナに揺れる世界(11月2日~6日)」8日。

人類最強の敵=新型コロナウイルス(23)

 10月26日(月曜)、臨時国会召集日の日経新聞(朝刊)は、一面トップに経済紙らしからぬ「民主主義 少数派に」の見出しを掲げ、小見出しを「描けぬ豊かさ、危機増幅」とし、世界的な民主主義の後退と非民主主義の伸長のグラフを載せた。

“DEMOCRACY REPORT 2020 V-Dem(Varieties of Democracy): Global Standards, Local Knowledge”に基づく。「一部の加盟国で司法の独立に深刻な懸念が生じている」とした欧州連合(EU)欧州委員会の報告書「法の支配」を引き、とりわけハンガリーに厳しい視線を向け、2010年就任のオルバン首相が議会の3分の2を握る政権与党が憲法等の改正を重ね、政権よりの裁判官を増やして権力を牽制する司法の役割を封じた、とする。

 <独裁>(autocracy)が<民主>(democracy)の対立概念である。グラフは、2018年を境に<民主>と<独裁>が交差し、世界人口の54%が<独裁>政権下に入ったとする。三権分立(立法・司法・行政の三権の分立)の否定を<独裁>と定義している。なおV-Dem Instituteは、2014年にスウェーデンで設立された調査機関。

【首相所信表明と質疑応答】
 この日、菅首相が就任後40日目に所信表明演説を行い、つづいて3日間にわたり衆参両院の代表質問が行われる。首相の所信表明は次の8項目(全文は日経新聞に掲載)。(1)新型コロナウイルス対策と経済の両立、(2)デジタル社会の実現、サプライチェーン、(3)グリーン社会の実現、(4)活力ある地方を創る、(5)新たな人の流れをつくる、(6)安心の社会保障、(7)東日本大震災からの復興、災害対策、(8)外交・安全保障。

 「国民のために働く内閣」を旗印とし、「一つ一つの仕事に真面目にこつこつ取り組む姿勢を示すことが重要だ」とした。内政・外交で実現を目指す政策テーマを漏れなく盛り込むことにこだわり、<仕事師>としての実務色を前面に出した。そのなかには、就任直後から表明してきたデジタル庁の創設や携帯電話料金の引き下げ等が含まれている。アベノミクスなどの「安倍路線」継承を強調しつつ、演説手法では独自な実務色を出した形と言えよう。

 首相演説を巡っては、自民党内から「長期的な戦略や国家観が欠けている」(閣僚経験者)との見解や、個別の政策の積み上げを重視し、目指すべき社会像が見えにくいとの指摘もある。総裁選で敗退した石破茂氏は、菅首相が「それぞれのパーツの積み重ねが国家像になっていくとお考えなのでは」と推測した。

 あえて首相の政治理念というべきものを探せば、<おわりに>で述べた次の一文ではなかろうか。「私が目指す社会像は、<自助・共助・公助>そして<絆>です。自分でできることは、まず自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティーネット(安全網)でお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します。」

 よく考えてみると、これは<目指す社会像>そのものではなく、<目指す社会>への<菅首相流の方法論>に過ぎないようである。いかようにも解釈できる方法論であり、人事権の行使等により<強権的>に進めることも可能となる。<目指す社会像>そのものを明白に示すのが所信表明の本来の役割であろう。

 その一端が示されているのは、(8)外交・安全保障のなかにある幾つかの部分である。例えば、(1)新型コロナウイルスにより人間の安全保障が脅かされており、国際連携の強化が必要。保健分野など途上国を支援するとともに、多国間主義を推進していく、(2)世界経済が低迷し、内向き志向も見られる中、率先して自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化していく等々。

 言い換えれば<多国間主義>と<多角的自由貿易体制>の2つに絞られるが、これらは必ずしも理想や理念ではなく、前述と同じ<菅首相流の方法論>であろう。曖昧であるため、いかようにも行使できる可能性がある。

【中共5中全会】
 同じ26日、中国共産党の第19期中央委員会第5回全体会議(中共5中全会)が開かれた(~29日まで)。新型コロナウィルスからの回復が順調に進み、経済もGDPは実質前年比で世界唯一、4.9%成長(7~9月分)した(日経新聞10月19日朝刊)。インフラ投資や輸出がけん引、生産を押し上げるが、内需は伸び悩む。

 5中全会では、2021~25年の経済政策の運営方針を定める<第14次5カ年計画>や2035年までの長期目標を示す。29日(木曜)の最終日、15年後の2035年までの長期目標として「一人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」との目標を掲げた。

 中国の一人当たりGDPは約100万円であり、目標に掲げる<中等先進国>は約300万円のイタリア・スペインが念頭にあると思われる。個人消費の対GDP比は、日米独の50~70%に対して、中国は40%に満たず、4億人とされる中間所得層を拡大するとした。

 29日(木曜)に発表されたコミュニケには、注目された党指導部の人事について発表がなく、習近平総書記(国家主席)が2022年の党大会以降も続投して3期目(8年前に総書記就任、1期5年)をつとめる意思の表れとの受け止めが拡がる。事実、2年前に憲法を改正して国家主席の任期を撤廃している。トップの長期政権を決めたことが、これからの中国の発展にプラスとなるかマイナスとなるか。

【続3 米大統領選】⇒<続報>、<続報2>は前号(22)にあり。
 26日(日本時間27日)には、米上院本会議はトランプ大統領が連邦最高裁判所判事に指名した保守派のエイミー・バレット氏(48)の人事案を賛成多数で承認し、バレット氏の就任が決まった。最高裁判事団計9人の構成は保守派6人、リベラル派3人となり、保守派の優位が決定的となった。

 今後の最高裁の判断を通じ、中絶や移民政策など、米社会のあり方に大きな影響が及ぶ可能性がある。直近の大統領選との関連では、議会で通過した法案に(民主党の)大統領が署名しても共和党が気に入らなければ、憲法違反として最高裁に訴えることで、全て反故にできる。日本にはない<三権分立>の姿である。

 大統領選の予測が難しい理由の一つが<隠れトランプ>と呼ばれる人たちである。22日(木曜)、文春オンラインは『隠れトランプのアメリカ 』(扶桑社、10月20日刊)の横江公美氏(東洋大学教授)の緊急寄稿を掲載した。主な論点を要約する。

 彼らが表に出てこないのは、「トランプを支持する」と口に出すのをためらわれる空気があるからだ。トランプの言動、人となりが“アメリカの大統領の資質ではない”というのは、アメリカ人の共通認識だ。それでもトランプを支持しているのが<隠れトランプ>支持者。彼らの動向が、今回の大統領選挙の勝敗を決める大きな要素だという。

 そのうえで(1)「<隠れトランプ>は4年前より増えている?」、(2)「<隠れトランプ>とは誰なのか?」の2点について具体例を挙げて述べる。
 まず(1)「<隠れトランプ>は4年前より増えている?」については、前回の大統領選挙より今回の方が<隠れトランプ>は多いのではないかと思われている。それは、トランプのこの4年間の政策実行力によるものだ。…トランプの人種差別的な物言いが注目されるが、政策を一つ一つ検証していくと、…トランプは「自分の支持者のため」の政策をブルドーザーのように実行している。

 具体的には、①レーガン大統領以上の減税パッケージを実現、②1995年までに議会で可決されながらこれまでの大統領が手を付けられなかった在イスラエルのアメリカ大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を実現、③公約通りTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からもパリ協定からも離脱、④自動車関税の撤廃基準を厳しくした新NAFTA(北米自由貿易協定)も実現、⑤中国に対して「アメリカの先端技術を盗んでGDP世界一になるのは許せない」と言わんばかりに関税をかけ、⑥中国の「デカップリング(切り離し)」を進め、⑦対中国包囲網を作るべく米日印豪で「インド洋=太平洋」を守る枠組みを形成し、⑧台湾への支援の手も差し伸べる。⑨シェールガス規制も緩和、今やアメリカは世界一の産油国。ガスも石油の価格もアメリカがリーダーシップを握っている。

 さらにトランプ大統領が誕生してから⑩株価は堅調。新型コロナウィルスの感染拡大でパンデミックになっても、アメリカの株価は底堅、⑪失業率も改善の一途、⑫ギャラップ社の世論調査でも2020年9月時点で、55%のアメリカ人が「4年前よりも暮らし向きが良くなった」と回答、しかも54%の人がトランプの経済政策に賛成している。合計すると相当の<成果>である。

 支持者に向けた公約を果たせば果たすほど、その“陽”の部分だけに注目してトランプ支持者は熱狂する。一方で、多数派の「反トランプ」陣営は“陰”の部分への批判を強める――という構図を繰り返してきた。トランプが実現したことを紐解いていくと、再選を見据えてトランプが打ってきた冷静な手立ては怖いほどである。この冷徹な目を持っていなければ、ビジネスマンからテレビ番組を持ち、そのカリスマ性で共和党の大統領に当選することはできなかっただろう。トランプを一般人の物差しでは測ることはできない。トランプの言葉遣いは下品であるが、そこに引っ張られてしまうと、アメリカを見誤ることになる。

 ついで(2)「<隠れトランプ>とは誰なのか?」について見たい。今回も大統領選の鍵を握る<隠れトランプ>とは具体的には、<ミレニアル世代>の時代に、その流れからこぼれ落ちた人々だとみている。トランプは、そこに目をつけている。

 <ミレニアル世代>とは、2000年以降に成人した人々のこと。物心ついた時からパソコンやスマホなどデジタル機器に囲まれ、情報収集はインターネットというよりSNS。コミュニティを大事にし、多様化や個人の自由を重んじ、人々と協力して問題解決に当たることを求める世代。その理想のリーダー像はオバマ前大統領。

 この<ミレニアル世代>の作った社会の流れに乗れないことに自分自身で気がついた人たちが<隠れトランプ>で、…大別して次の3つのタイプに代表される。

(ア)「古き良きアメリカを愛する人々」。その保守思想の中心にあるのが「キリスト教的価値」と「銃」で、ここに共和党の集票マシーンである「コア・トランピアン」が存在する。その中でも、トランプの「外交安保政策」「規制緩和」に賛成している声高に主張しない保守思想を大事にしている人々。

(イ)「BLM運動に不安を持つ人々」 「Black Lives Matter(BLM、黒人の命は大事)」の運動が全米のみならず、世界に広がっている。今年5月にミネアポリスで警官に暴行されたジョージ・フロイトの死は痛ましい。全く罪のない黒人、殺されるほどの罪のない黒人が警察に殺される事件が続いている。あってはならないことだが、自分が住んでいる地域でBLM運動が暴徒化すると、治安上の不安を抱える。トランプはそんな心理を突いて警察と治安の重要性を訴え、<隠れトランプ>を獲得している。

(ウ)「差別主義者と呼ばれたくない人々」 トランプの「物の言い方」が原因で<隠れトランプ>になってしまった人々もいる。<Qアノン>という陰謀史観の集団、人種差別の集団を非難しないトランプの態度は受け入れられない、というアメリカ人は当然ながら多い。一方で、トランピアンは<Qアノン>のシンボル付きのTシャツを平気で着る人もいるし、<Qアノン>を信奉する共和党候補者もいる。バイデンへの激しい攻撃も尋常ではない。戦争で負傷した人を「ルーザー」と言うなど、人間として受け入れられない部分が少なくない。そんな影響から「トランプ支持者だと人種差別主義者だと思われる」と心配する人々が<隠れトランプ>になる。

 トランプは5日で回復すると、2週間目には症状も消え、自己隔離から出てくるまでに回復した。元気さをアピールし、「コロナを恐れるな。俺も治った。治療薬を無料にする」と声高に主張した。コロナの怖さについて身をもって知ったトランプは、むしろ吹っ切れたようにコロナに対して強気になった。治療のために投与されたステロイドの影響でハイになっているのではないかと言われているほどだ。アメリカの報道は一様に、このトランプのコロナ政策が致命傷になりそうだと報じ、実際にトランプは接戦州での支持率をさらに下げている。

 それでも「マッチョなコロナ政策」を選び続けるトランプの狙いは、凡人には計り知れない。感染者が増えることが前提のトランプの政策に、声高に賛成とは言えないが、口では「バイデンの方が安心」と言っても経済最優先と考える人はいる。ここにも<隠れトランプ>が生まれる土壌ができ、選挙情勢を複雑にしている。郵便投票の不正の可能性を理由に最高裁の判決に大統領選挙の結果を委ねることもあり得るかもしれない。
 すこし長くなったが、以上が横江公美氏(東洋大学教授)の<隠れトランプ>に関する緊急寄稿の要約である。世論調査には表れない現況を教えてくれる。
29日(木曜)、アメリカ大統領選挙まであと6日となるなか、民主党のバイデン候補が28日、妻のジル夫人とともに、地元デラウェア州ウィルミントンの投票所を訪れて期日前投票をし、その際の画像をツイッターに投稿した。トランプ大統領も24日に期日前投票をしている。投票の公表は、有権者に投票をうながす狙い。

 フロリダ大学の調査によると、全米で期日前投票を済ませた有権者の数は郵便投票を含めて7500万人に迫る、記録的な数となっており、アメリカメディアは最終的な投票者数は1億5000万人に達し過去最多になると予想している。<隠れトランプ>ならぬ<隠れバイデン>の行方も結果を大きく左右するであろう。集計には時間がかかり、トラブルも多くなる可能性が高い。

【続4 日本学術会議】←<続報>、<続報2>、<続報3>は前号(22)にあり。
 26日(月曜)、菅首相は所信表明演説をした日の晩、NHKのニュースウオッチ9』に出演し、「民間の人も若い人、地方大学を満遍に選んでほしい」などと言い出したとき、有馬嘉男アナが国民への説明が必要と突っ込んだのに対して、首相は答えた。「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」

 相当の剣幕である。有馬アナが「6名の任命を拒否した理由」を国民に説明してほしいと言ったのに対して、首相は「政府がいま追認しろと言われている」とすり替えた上で、それについて「説明できることとできないこと」があると反論した。この論理のすり替えと視聴者(国民)に対する不誠実な態度に唖然とした。

 日本学術会議の活動や役割に関して、意図的か無知によるのか、誤解・曲解が意外に広く流布している。その一つが専門的な立場から意見を表明する方法の区分である。次の7種がある。<「答申>、<回答>、<勧告>、<要望>、<声明>、<提言>、<報告>。<答申>は、読んで字の如く<諮問>があればそれに答えるもので、政府が諮問しなければ<答申>は出てくるはずがない。

 <勧告>は政府に強く実現を求めるもので、余程のことがなければ発せられるものでない。これだけを問題とする一部政治家の発言意図はなにか。

 <報告>は政府や省庁から「審議依頼」を受けてまとめるもので、2007年以降に10件ある。主なものに「生殖補助医療をめぐる諸問題に関する審議依頼について(08年)」、「高レベル放射性廃棄物の処分について(12年)」、「人口縮小社会における野生生物管理のあり方(19年)」、「科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及のあり方(20年)」。

 また<提言>についてはBuzzFeedNews10月9日によると2008年以降、学術会議から321出ている。今年だけで9月末までに「性的マイノリティの権利保障をめざして」、「大学入試における英語試験のあり方について」、「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」等83本の<提言>が出された。

 これとの関連で、日本の学術を支える科学者集団の現況について、『ニューズウィーク』誌の2020年10月20日号は特集「科学後退国ニッポン」を組み、このままでは、ノーベル賞受賞者はおろか、科学者自体が日本から消えてしまいそうな状況であると指摘する。

 「論文撤回数ランキング上位10人の半数が日本人──科学への投資を怠ったツケで不正が蔓延し、研究現場が疲弊している」と日本の学術界の闇を指摘、撤回論文の上位1、3、4、6位を日本人研究者が占めていると実名を挙げて指摘、その背景を指摘する(筆者は岩本宣明)。

 日本の研究現場に困窮と疲弊があることは疑いない。日本の研究現場は瀕死の状態にある。その原因は一にも二にも、資金不足である。日本の政府は…未来への投資である科学技術の研究に回すカネがない。その結果、研究者は「競争的資金」の獲得競争に時間を奪われ、大学や研究機関の人員削減で若手研究者は慢性的な就職難に苦しみ、魅力を失った大学院博士課程は空洞化し、日本の大学の世界的評価は下がり続けるという悪循環が起きている。…

 日本学術会議が審議の末に推薦した会員候補105人のうち6人を任命しなかった問題については、「名簿を見ていなかった」と述べた首相が、28日(水曜)の衆院の代表質問には会員の構成に注文をつけ、「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られることも踏まえて、<多様性>を念頭に私が任命権者として判断した」と答える一方、「個別の人事にかんしては言えない」として6人の任命拒否の理由を明かさなかった。逃げ口上の答弁である。

 29日(木曜)、井上科技相が日本学術会議を初めて訪れ、正副会長や部会長と会談、梶田会長が6人の任命拒否の理由を明らかにするよう求めたが、井上科技相は首相が任命権者であり、自分にはその権能がないと繰り返した。こちらも逃げ口上である。

 任命拒否の理由を明らかにしたうえで、日本学術会議のあり方を議して新たな方向を示すことはきわめて大切である。「出身大学や地域、年齢に偏り」があり、<多様性>が必要であれば、これらを正すことも大切である。

 それ以上に大切なのは、科学者自体が日本から消えてしまいそうな状況を直視し、10年後、20年後の日本の学術に対する政府の基本的方針を示すことではないか。この基本方針を示すのが首相の役割であり、各論の議論は学術会議と井上科技相に任せるのが筋である。引き続き各方面の見解表明と世論の監視が要る。

【新型コロナ対策 外国の動き】
 29日(木曜)朝のニュースによれば、フランスのマクロン大統領は28日夜、国民向けにテレビ演説し、10月30日(金曜)から一部の海外領土を除くフランス全土で原則外出を禁止するロックダウンを行うと発表、期間は12月1日(火曜)までの約5週間である。感染第1波の3月中旬に実施されて以来2回目。外出は、自宅から1キロ以内の生活必需品の買い出しなど必要最低限に限られ、飲食店も閉鎖されるが、春のロックダウンとは違い学校(大学を除く)には通学できるとしている。

 ドイツもメルケル首相が飲食店や娯楽施設等の営業を11月2日から禁止、劇場や映画館も閉鎖すると発表した。イタリアも全土で飲食店の夜間営業を制限、また一部地域では夜間の外出を禁止した。スペインは再び非常事態を宣言(来年5月までか)、夜間の外出を禁止した。いずれも医療体制が逼迫、集中治療室(ICU)の患者数が夏に比べて5~10倍に急増している。

 アメリカでは30日、1日当たり新規感染者数が9万9000と過去最多となり、1ヵ月前の2.1倍に増えた。とくに中西部のウィスコンシン州やペンシルベニア州など大統領選の激戦区で拡がり、州など各自治体が市民の経済活動を制限する独自の措置を相次いで導入している。人々の接触リスクを減らすため人数制限を強化、バーやレストランでの屋内飲食を禁止、集会人数も25人以下とする州がある。また外出禁止令(午後10時~朝5時)を出す厳しい州もある。

 31日、英国のジョンソン首相が、11月5日から12月2日まで、イングランドをロックダウンすると宣言した。またオーストリア、ポルトガルも類似の措置を講じた。

【国内のコロナ対策と経済活性化】
 10月26日からの新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
 26日(月曜)  410(162)と102人(29人)
 27日(火曜)  648人(165人)と158人(33人)
 28日(水曜)  731人(166人)と171人(30人)
 29日(木曜)  809人(161人)と221人(29人)
 30日(金曜)  776人(156人)と204人(31人)
 31日(土曜)  877人(161人)と215人(33人)
 11月1日(日曜) 614人(160人)と116人(34人)

 28日(水曜)、厚労省は新型コロナウイルスの特徴や治療などに関する最新の情報をまとめ、近く「10の知識」として公表する方針で、案を取りまとめた。注目すべき点は、重症化したり、死亡したりする割合は以前より低くなっていること、1月~4月と、6月~8月を比べると、重症化した人は9.8%から1.62%に、死亡した人は5.62%から0.96%に低下している。

 29日(木曜)、政府分科会の尾身会長は、会議後の記者会見で海外からの入国制限の緩和について、「水際対策では、海外各国の感染状況の把握が極めて重要で相手国の公表している情報をうのみにするのではなく、大使館などを通じて現地の詳しい情報を収集することが必要だ。また、海外の人が入国する際には日本の感染対策について伝えると同時に入国してからも万が一体調が悪い場合などに相談できるよう専用の窓口やコールセンターをつくるなど、水際と国内での対応を同時に進めていくべきではないか」と述べた。政府はどこまで対処できるか。

 30日(金曜)、政府は、海外出張する日本人などについて、11月から帰国後の2週間待機を免除することを決めた。また中韓など11カ国・地域を対象に、渡航中止勧告と入国拒否の初解除にも踏み切った。一方、欧州などで感染が再拡大するなか、水面下で検討していた新たな緩和の仕組みは見送られた。日本の出入国緩和策は早くも壁にぶつかっている。

 同じ日、茂木外相は、中国(香港、マカオを含む)、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、台湾の9ヵ国・地域への渡航禁止勧告を解除すると発表した。なお受け入れの可否や条件はそれぞれの国・地域の裁量で決めるため、日本人がすぐに海外旅行に行けるわけではない。

 同じ30日、高感度カメラを使い、横浜スタジアムでイベントの人数制限を緩和するための実証実験が始まった。DeNA対阪神の3連戦で、観客の上限を初日は80%、2日目は90%、3日目に100%とし、混雑状況を把握して、感染防止と人数制限の緩和を確かめ、その結果を見て実施に踏み切るか否かを決める。来年の五輪・パラリンピックを見据えた措置でもある。

 11月1日(日曜)の日経新聞(朝刊)に「重症化リスク <目印>で予測」の記事があった。国立国際医療研究センターは重症化のリスクを知る手掛かりとなる5つのタンパク質、CCL17やIL-6等を見つけた。これらの<目印>(マーカー)を使い、先回りして治療すれば回復が早まる可能性があり、また病床の有効活用も期待できるという。

 新型コロナウィルス等に関する番組を録画で視聴した。(1)NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界(4) 問い直される“あなたの仕事”」19月25日。(2)BSスペシャル「Z世代×コロナ」25日。(3)情熱大陸「大坪誠/感染防止! 空中ディスプレイ…非接触の未来を呼ぶ男」25日。(4)NHK総合「夢の本屋をめぐる冒険(2)『中国編 紀行とドラマ』」27日。(5)NHKスペシャル「BS世界のドキュメンタリー「トランプ対バイデン 2020年アメリカの選択」前編が28日、後編が29日。(6)国際報道「2020米大統領選①ミシガン・フロリダ激戦州を行く」29日。(7)BS1スペシャル「シリーズ コロナ危機~アメリカ バーチャル経済の光と影」31日。(8)BS1ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間」(10月26日~30日)11月1日。

 同じ11月1日、<大阪都構想>(大阪市を廃止し、四つの特別区に再編)の賛否を問う2回目(5年前に次ぐ)の住民投票が行われ、1万7000票の僅差で否決された。大阪維新の会(代表は松井大阪市長)は、新型コロナ対策で評価の高い吉村知事を前面に出し、公明党の支持も得たが、住民の理解は得られなかった。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
カテゴリ
QRコード
QR