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人類最強の敵=新型コロナウイルス(22)

 10月19日(月曜)、菅義偉首相とベトナムのフック首相との約1時間半に及ぶ会談で、菅首相が「自由で開かれたインド太平洋」構想で協力を求めると、フック首相は「地域の平和と発展のために日本と力を合わせて頑張りたい」と応じた。具体的にはビジネスの短期出張者の往来と旅客便の再開で一致し、医療備品のサプライチェーンの協力強化、また防衛装備品の輸出についても合意した。

 同じ日、大相撲11月場所の観客数を2倍の5000人に増やすことを決めた。スポーツ等のイベントの規模拡大(以前の規模への復帰)に向けての一歩となろう。

 20日(火曜)、ベトナムに次いでインドネシアを訪問した菅首相はジョコ大統領と会談。インドネシアは人口が2億7000万人で東南アジア諸国連合(ASEAN)内の首位に立ち、名目GDPも首位で域内の4割を占め、新型コロナウィルスの1日あたり感染者も首位である。

 こうした現状を踏まえて、菅首相が500億円の円借款を供与することを表明した。また鉄道・港湾の建設・運営などインフラ協力を進め、中断している看護師や介護福祉士候補者の往来再開を確認した。注目されるのは安全保障政策、インドネシアは東南アジアでただ一つ日本と2プラス2(外務・防衛担当閣僚会議)を実施しているが、その次回の早期実施で合意した。

 なお今回の菅首相の2か国訪問では、出国・帰国時に首相自身がPCR検査や抗原検査を受けた。同行者の人数も最低限に絞り、20日のジョコ大統領との会談の写真を見ると、両首脳がマスクを着け、インドネシアの他の列席者はマスクの上にフェースシールドを着用、二重に飛沫対策を徹底した。また同行記者団も感染拡大防止のため行動等が制限された。

 この日、菅首相が野党時代の2012年3月に刊行した単行本「政治家の覚悟」(文芸春秋社)を改訂した新書版が、20日に発売された。そのなかで「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と公文書管理の重要性を訴える記述があった章などが削除されたことで波紋を広げている。

 2012年に出版された単行本では、旧民主党政権が東日本大震災時、十全な議事録を残していなかったことを痛烈に批判。「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」と述べていた。

 「議事録という最も基本的な資料」の保存の重要性を訴えた箇所の削除は、はたして何を意味するのか。旧著と新著の後継性はもっぱら筆者の判断によるが、一人の政治家として野党時代の考えを首相就任後にがらりと変えるとすれば、説明が必要となる。それがなければ「国民への背信行為」と見なされるであろう。

 21日(水曜)、菅首相が小泉環境大臣と会談し、26日に召集される臨時国会での就任後初の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を「2050年に実質ゼロにする目標を掲げる方針」を表明する方向で調整中との報道。

 政府は、これまで「50年までに80%削減」や「50年にできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるよう努力」といった目標は掲げていたが、いつ<実質ゼロ>を実現するのか、具体的な年限を示していなかった。温暖化対策の国際ルール<「パリ協定>には、産業革命以前からの気温上昇を1・5度以内に抑える目標があり、実現するには50年までに世界全体の温室効果ガス排出を、森林吸収分などを差し引いて実質ゼロにする必要がある。

 すでに欧州連合(EU)が<2050年実質ゼロ>を掲げており、足並みをそろえることで地球温暖化対策に取り組む姿勢をアピールする狙いと見られる。ほかに最大排出国の中国が今年9月、2060年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げたほか、米大統領選では民主党のバイデン候補も2050年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げ、<パリ協定>への復帰を掲げている。

 【続報3 日本学術会議問題】←<続報>と<続報2>は前号(21)にあり。
10月17、18両日に実施された全国世論調査では、どの媒体の調査でも、菅内閣の支持率が10ポイント前後も大幅に下落した。まだ国会も開催されていない就任1カ月で、10ポイント前後も下落するのは異例である。

 今回の内閣支持率の大幅下落は、日本学術会議に対する菅首相の任命拒否問題も一因と考えられる。この調査では、任命拒否問題に関する菅首相の説明について「十分だ」の回答が10%台で、「不十分だ」の回答は70%を超えた。

 21日(水曜)、「自民党の日本学術会議のあり方に関するプロジェクトチーム(略称は自民党PT、塩谷立座長)が党本部で開かれ、日本学術会議の元会長を務めた吉川弘之、黒川清、大西隆(いずれも東京大学名誉教授)の3人が出席し、予定の1時間半を大幅に超えて2時間半に及んだ。議論は双方の見解を述べあうことに終始した模様だが、6名の任命拒否の事案は議論にならなかった。

 平行して進められている学術会議の梶田隆章会長と井上信治・科学技術担当相(科技相)との会合(後述)が本来の場であろう。これと十分な連携を取った上の元会長の行動なのか。自民党PTは、その意図といい開催場所といい、いかにも自民党ペースである。

  日本学術会議の2015年版資料を参考に、米英仏独のアカデミーについて、政府との関係がどのようになっているかを見ると、(1)全米科学アカデミー(会員約2,200人)は独立した非営利組織で、2億ドルといわれる年間運営経費の80%が連邦政府との契約で賄われ、その他、民間からの資金提供も受ける。
 
 ついで(2)英国王立協会(1,430人)は独立した慈善団体で、収入の70%近くが議会からの助成金。その他は出版物収入や寄付など。(3)フランス科学アカデミー(267人)は独立機関だが、運営費の60%は政府が負担、残りは寄付などで賄う。(4)ドイツ科学アカデミーレオポルディーナ(1,500人)は900万ユーロとされる運営費のすべてが公的資金から拠出されている。しかし、独立した非営利組織であり、政府の干渉を全く受けない。

 すべて公費で運営されているという点ではドイツがいちばん日本に近いが、いずれの国もかなりの割合で公的資金が投入されている。それでも、独立性、中立性をしっかり保持している。

 23日(金曜)、梶田会長が井上科技相と内閣府で会談(副会長3人が同席)、時事通信によれば、同会議の在り方の見直しに向けた検討状況を年内に報告するよう求めた。この後、記者会見した梶田会長は「いろいろ意見交換しながら私の方からも、物を申す形で年末までに結論を出したい」と述べた。

 両氏の会談は初めて。梶田氏は、会議が推薦した会員候補6人を菅首相が任命しなかった問題の解決を重視する考えを伝えた。井上氏は任命見送りの理由について「任命権者ではない」として説明しなかった。菅首相が井上大臣に権限を委ね、その大臣が最初の会談で自身を「任命権者ではない」と<逃げ口上>を述べた。政府が<手の内>を見せたも同然である。

 井上大臣は「未来志向で今後の会議の在り方をお互いに考えていきたい」と呼び掛け、学術会議に関し「国の予算を投じる機関として本来発揮すべき役割をより適切に果たし、国民に理解される存在であるべきだ」と強調、学術会議を行政改革の対象としていることも述べた。

 これに対し、梶田氏は「広く国民との対話を通じて役割をより発揮できるよう取り組みを強化したい」と伝え、「提言機能、情報発信力、国際活動などで検討すべき課題がある。まずは学術会議で検討を進め、年末をめどに状況を報告したい」と述べた。

 学術会議は政府に対し、任命を見送った理由の説明と、6名の任命を求めている。梶田氏は会談で「今後の大臣との率直な対話のためにもこの問題の解決が大変重要だ」と伝えた。この重要な点を粘り強く進めてほしい。それには国民の世論をいかに喚起するかにかかっている。

 【続報2 米大統領選】←<続報>は前号(21)にあり。
 22日(木曜)晩8時からのゴールデンアワー(日本時間の23日午前10時から)に、第59期大統領を決める二人の候補者、トランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会がテネシー州ナッシュビルで開かれ、世界に実況放送された(日本ではNHK総合)。投開票日の11月3日まで2週間を切った最終盤である。

 イギリスから独立して最初の大統領がジョージ・ワシントン、就任は231年前の1789年4月30日である。以来、2期8年を務めた大統領を含めて、第58期に第45代大統領に就任したのがドナルド・トランプ氏である。また投票日を「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と定めたのは150年以上前の1845年制定の連邦法。

 先月29日の第1回討論会に次ぐ10月15日開催予定の第2回は中止となり、両氏が同じ時刻に別々のテレビ番組で意見を述べた。今回は実質的には第2回で最後のテレビ討論会である。

 このテレビ討論会では、①「新型コロナ」、②「家族」、③「人種差別」、④「気候変動」、⑤「国家安全保障」⑥「リーダーシップ」の6テーマに各15分が割り当てられ、各テーマの冒頭、各候補が他の候補のマイクのスイッチが切られた状態で2分間ずつ発言し、その後は双方のマイクのスイッチが入った状態での自由議論とする新ルールが適用された。

 テレビ討論会は、CPD(「大統領候補討論会委員会(The Commission on Presidential Debates)」という団体(1987年に設立)が取り仕切り、共和党、民主党両党の担当者と、メディア関係者と話し合いで司会者を決定した。第1回の司会はFOXニュースのベテランアンカーのクリス・ウォレス氏であった。

 今回の司会はNBCニュースアンカーのクリステン・ウェルカー氏。朝のニュース番組を担当して「朝の顔」とも言える若手の女性で、アメリカ先住民の父と黒人の母を持つ気鋭のジャーナリスト。第1回が言い合いと混乱に終わったことを教訓として、両候補が横道に逸れる発言をすると、すかさずテーマの本筋に戻るよう要請、また配分時間が過ぎれば発言途中であっても次のテーマに話題を切り替えた。

 大荒れとなって「史上最悪」と言われた前回から一転、今回は両候補が初めて本格的に政策議論を闘わせる場となった。なかでも司会の役割が大きく評価されている。なおCNNの世論調査では討論会でバイデン氏が勝ったと答えた人が53%でトランプ氏の39%を上回った。

 形式的な手続き面では、主催者と司会の勝利、言い換えればCPDに結集するマスコミ(テレビ)が本来の役割を取り戻したと言えよう。一方、発言内容には両候補とも格別新しいものは見られなかったが、この討論会が投票時の選択と投票率の向上にどう影響するか、事前の予測は難しい。

 投票手続きをめぐり異例の混乱がつづいている(日経新聞21日朝刊)。①各地の期日前投票には行列ができ11時間待ちも出ており、②投票所数の削減や身分証確認を厳格化して貧困層の投票を妨害、③共和党が「非公式」投票箱を設置したため州政府が撤去命令(カリフォルニア州)、④ミシガン州では民主党知事の拉致を企てた容疑で民兵組織が訴追され、⑤郵便投票に関する訴訟が乱発、すでに287件に及ぶ等々である。

 期日前投票を済ませた有権者が21日までに4300万人を超え、全有権者(18歳以上で<有権者登録>を済ませた者、約2億3000万人)のうち投票率を50%とすれば、投票数の約3分の1に達したことになり、2016年の4倍に当たる。このため集計時間が長引くと予測されている。選挙人538人による投票は12月14日。

 11月3日の投開票から2か月余の来年1月6日の集計期限までに結果が確定しない可能性が出てきた。その場合は、2世紀ぶりに(1824年以来初)下院が大統領を選ぶ可能性もあるという。両候補のいずれもが選挙人538人の過半数を取れず引き分けとなった場合、2021年1月3日に召集される新議会に委ねられ、下院が速やかに選挙を実施する(合衆国憲法修正12条による)。

 50州の代表が1票ずつ投じ、過半数の26票を取った候補が勝つ。現有議席のままなら共和党が26票でトランプ氏を選べる可能性があるが、票を投じるのは大統領選と同時に11月3日に行われる改選後の下院である。

 ここから先は2つの可能性がある。トランプ大統領の任期は2021年1月20日正午まで、この時までに下院が次期大統領を選べなければ、上院が選ぶ次期副大統領が大統領を代行する。大統領選に参加しなかった<第3の人物>がホワイトハウスに入るシナリオもある。

 第2の可能性として、上院が副大統領も選ぶことができなければ、下院議長が大統領代行を務める(1947年の大統領継承法の規定による)。現状では野党民主党のペロシ氏が下院議長である。

 これらの場合、1月20日以降に下院が大統領を選出して就任となる。起こりえる可能性はきわめて低いとはいえ、理論的にあり得ないわけではなく、そのための可能性を考え、危機に対処する議論が進んでいる。

 両候補の選挙資金について9月末時点の報告が出た(日経新聞22日)。トランプ陣営は、フェイスブックなどSNS(交流サイト)向けの広告を増やし、支出が膨らんでいる。英紙フィナンシャル・タイムズによると、9月の支出は1億3920万ドルとなり、収入(8130万ドル)を大きく上回った。ちなみにアメリカでは政治献金の上限が撤廃されて青天井であり、大口献金者ほど影響力を持つ構図で民主主義の根幹(一人一票の理念)が揺らいでいる。

 一方、バイデン陣営は、9月末の手元資金が2%減の1億7730万ドルと、トランプ陣営の3倍近い水準となった。バイデン陣営への資金提供は、8月以降に急増している。民主党陣営と合わせて2カ月間で7億4700万ドル以上を調達しており、トランプ氏と共和党の陣営の合計に比べて6割超高い水準だった。金融・不動産に加え、イデオロギー団体や小口の資金提供が増えている。

【世界規模のコロナ感染拡大】
 22日(木曜)、アメリカで感染が拡大、1日あたりの感染者はインドを抜き、再び世界最多となった。とくに中西部のミシガン州やウィスコンシン州で著しい。ニューヨークではブロック別に具体的な対策を講じて対応する。この日、FDA(米食品医薬品局)がレムデシビル(エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウィルス薬)を新型コロナ治療薬として初めて承認した。

 同じ日の共同通信【パリ共同】によれば、欧州で新型コロナウイルス感染の第2波が拡大し、米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、感染者の合計が22日時点で560万人を超えた。米国とインドに次ぐ規模で、世界で3番目に多いブラジルを上回る深刻さである。

 スペインとフランスでは同日までに、欧州で初めて感染者数が100万人を超えた。各国政府は移動制限や都市封鎖など、再規制を強めている。両国に次いで感染者数が多い英国とイタリア、ドイツのほか、オーストリアやクロアチアなどでも1日当たりの新規感染者が過去最多を記録した。(参考)BS1 ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間(19日~23日)」25日。

【国内のコロナ対策と経済活性化】
 23日(金曜)、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)は、都内で会合を開き、先に政府に対して年末年始の「小規模分散型旅行」を国民に呼び掛けるよう提言したことを受けて、初詣など年末年始に大人数が密集する状況を避けるため、休暇取得の分散化を提言した。

 これを受け、政府は今年の年末から成人の日の来年1月11日(月曜)までの期間、柔軟に休みを取れるよう、各省庁や企業などに要請することとした。政府は来週にも各省庁や自治体のほか、経済団体を通じて民間企業にも要請する。

 西村康稔経済再生担当相は分科会後の記者会見で、「1月11日まで休みとすることを含め、分散して休暇を取ってもらいたいということだ」と説明。「三が日の『密』を避け、感染リスクを下げる対応を呼び掛けたい」と述べた。

 また、分科会は今月末のハロウィーンに合わせたイベントに関し、感染防止策が取られていないパーティーへの参加や街頭での飲酒を自粛するよう要請することで一致。オンラインイベントなどの検討も求めた。

 感染防止と経済回復の両輪をいかに進めるか。24日(土曜)、東京都が都民の都内旅行に対し独自の補助事業を始め、都内を巡るバスツアーはにぎわいを見せた。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた観光業の回復に向けて、都民の都内旅行に対し、1人当たり1泊5000円、日帰りでは2500円を独自に補助する。「はとバス」の東京駅前の乗り場は、予約客でにぎわった。

 このツアーは中央区の浜離宮恩賜庭園を訪れ、クルーズ船での昼食後、渋谷の高層ビルの展望台を巡るプランで、通常1万1800円のところ、「Go Toトラベル」併用でおよそ半額の5170円になる。

 来春の大卒内定者(10月1日現在)が11%も減少との厳しい予測を、日経新聞の調査結果を発表した(日経新聞19日)。2桁の減少はリーマンショック以来11年ぶりとなる。とくに産業の裾野が広い自動車や電機の分野が厳しい。

 前稿(21)で掲載した以降の新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
 19日(月曜)  316人(144人)と78人(24人)
 20日(火曜)  481人(143人)と139人(24人)
 21日(水曜)  621人(150人)と150人(24人)
 22日(木曜)  617人(150人)と185人(24人)
 23日(金曜)  748人(151人)と185人(23人)
 24日(土曜)  730人(155人)と203人(25人)
 25日(日曜)  495人(159人)と124人(28人)

 全国の感染者は<微増傾向>にある。冬のインフルエンザと新型コロナのダブルの襲来に備えて、重症者とその可能性の高い高齢者を受け入れる<専門病院>を開設する動きが、愛知県、大阪府、東京都等で加速している。救急現場でも特定の医療機関にコロナ対応を集約する動きがある。ここが最後の砦である。

 朗報が届いた。24日(土曜)、核兵器禁止条約(2017年7月、国連で採択)を中米のホンジュラスが批准、これで批准国が50か国に達したため、90日後の2021年1月22日に発効する。実効性に欠ける面も残るが、核兵器を非人道的兵器とする国際規範ができることで、<核なき世界>へ向けた新たな一歩となる。唯一の被爆国である日本の果たす役割が試される。
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人類最強の敵=新型コロナウイルス(21)

 10月8日(木曜)、新型コロナウイルスへの日本の対応を検証した民間の「新型コロナ対応・民間臨時調査会」が記者会見し、政策決定に関わった政治家や官僚など83人にヒアリングを行って作成した報告書を発表した。報告書は「政府と違う立場で記録」すると強調する。現段階で民間の立場から整理・点検する重要性は十分に認めるが、今後に活かす方法については問題が残る。以下に要点を掲げる。

【「新型コロナ対応・民間臨時調査会」の報告書】
 危機管理や国際政治などが専門の弁護士や大学教授などで作る同調査会は、政府の規制改革推進会議の議長で三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長が委員長を務め、ことし7月に発足、委員会のもとでヒアリング調査を担当したワーキンググループの19人の一部は、8年前に東京電力福島第一原発の事故の民間事故調査委員会のメンバーも務めている。共同主査の一人は塩崎彰久弁護士。

 今回対象とした期間は、日本で最初の感染者が確認された1月15日からおおむね半年間で、安倍前総理大臣や西村経済再生担当大臣、萩生田文部科学大臣などの政治家や政府の分科会の尾身茂会長などは実名で証言し、官僚や多くの専門家は匿名を条件に調査に応じている。

 報告書は、感染を徹底して押さえ込みたい専門家と経済的なダメージを懸念する政府との間ですれ違いや緊張感があったと指摘し、政府が一連の経緯を検証するよう提言している。

 大きな政治判断が求められた緊急事態宣言を検証の大きなポイントにしており、緊急事態宣言を出す時には政府と専門家が危機感を共有し、同じ方向を目指していたものの、緊急事態宣言を解除する段階では「両者の間にすれ違いや緊張感が生じることが増えた」と指摘している。

 緊急事態宣言を解除する基準をめぐっては、新しい感染者の数がどの程度であれば解除できるか、政府と専門家の考えに隔たりがあった。専門家側が当初、当時の感染状況では解除できるレベルにない厳しい基準を示したが、最終的には政府の主張に沿って緩やかな基準が採用された詳しいいきさつを明らかにしている。

 すなわち専門家会議は5月上旬、「直近2週間の10万人当たりの累積の新規感染者数が0.5人未満程度」という案を最初に示した。東京都で言えば2週間の合計が70人、1日当たり5人が目安となるもので、これに対して政府側からは「1桁違うのではないか」など厳しすぎるという声が出された。

 これを受けて専門家会議は、5月14日、当時の感染者のうちほぼ半数は感染経路がわかっていたため、期間を「2週間」から半分の「1週間」に緩和したうえで、「10万人当たりの累積の新規感染者数が0.5人未満程度」という提言を行った。東京都での新規感染者の目安は1週間で70人、1日当たり10人となる。しかし、5月14日に最終的に政府が示した基準には、東京都では1日当たり20人にあたる「10万人当たり1人程度以下」という数字も、条件付きで加えられ、判断に幅を持たせられる内容になったとしている。

 また2月発表の教育現場に大きな影響が出た一斉休校や、4月以降の国内での感染拡大につながったとされるヨーロッパに対する水際対策についても検証を行い、各部署の見解の相違が混乱を招いたとする。

 3月のヨーロッパへの水際対策については、専門家の間では、3月前半のデータの分析から危機感が強まり、3月17日に専門家会議は政府に要望を行ったが、「抜本的な対策をとろうとしない政府に、しびれをきらした」と表現している。これを受けて政府は、渡航中止の勧告などを行ったあと、10日後の3月27日、ヨーロッパ21か国からの入国を拒否する対応をとった。「ヨーロッパなどに対する水際対策がもう少し早く実施できていれば、4月以降の国内での感染拡大を一定程度抑えられた可能性があった」と指摘している。

 報告書は、日本政府の第1波の対応について一定の評価をする一方、その取り組みは試行錯誤の連続で、多くの課題や失敗が含まれているとし、今後の危機に備える提言を行っている。

 すなわち(1)政府と専門家との関係の再構築。(2)第1波では患者の発生届は手書きでFAXで送る体制だったため、リアルタイムでの感染状況の把握が困難だった。政府のデジタル化の推進を求める。(3)経済の下支えのための財政措置は、一律での資金の給付ではなく、将来の成長につながるデジタル化や脱炭素化に関連することを条件にする。(4)パンデミックなどに備える予算は、各省庁の予算とは別枠で確保する。(5)保健所などが人員不足に直面したことを受けて、大学の研究者や医師、看護師のOBなどに対応を依頼できる「予備役制度」を創設。(6)日本が行った強制力のない自粛要請や休業要請などの対応が今後もうまくいく保証はないため、罰則と経済的な補償をセットとした法改正。

 11日の日経新聞(夕刊)は「紫外線でコロナ抑制 五輪会場で利用めざす」の記事を載せた。理化学研究所(理研)が紫外線の照射で新型コロナウィルスを不活性化する技術の実用化に向け、電機や自動車等の大手企業と共同事業を始める。紫外線を特定の波長や強度で照射することによりコロナウィルスを99.9%不活性化する効果があるとして、理研は特許を申請した。

【続報 日本学術会議問題】
 10月11日の日刊ゲンダイDIGITALは、日本学術会議の新会員候補6人除外問題について「菅政権の論点ずらしは過熱の一途」と伝える。9日は、河野行革相が学術会議を“ムダ撲滅”の対象にロックオン。「予算や機構、定員について聖域なく見ていく」と意欲を燃やす。<問題のすり替え>と<事実誤認>が目立つ。

 自民党の下村政調会長も、学術会議の在り方を検討するプロジェクトチームを設ける方針を発表。「10年以上、(政府に)答申を出していない」と攻撃するが、2007年を最後に政府が諮問していないのだから、答申が出ないのは当たり前。「活動が見えない」との批判も言いがかりだ。

 学術会議は08年以降、321本の提言と10本の報告を政府に提出。今年も教育のデジタル化やプラごみ対策など83本の提言・報告を公表している。年間10億円強の予算のうち運営費を除く5億円は、見解をまとめる会議出席の際の日当や国内外の旅費に充て、「秋ごろになるとお金がなくなって『後は自腹でお願いします』と言われた」(元会員で法大教授の杉田敦氏)。この実情を文教族の下村氏が知らないなら、単なる勉強不足だ。

 日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人が任命されなかった問題について、9日のインタビューで菅首相は会議側が提出した105人の推薦リストを「見ていない」と発言、99人のリストを見ただけだとして6人の排除に具体的に関与しなかったかのような説明をしていた。

 ところが12日夕方の時事通信によれば、首相はこの6人の名前と選考から漏れた事実を事前に把握していたこと、ならびに除外の判断に杉田和博官房副長官が関与していたことが判明した。首相には丁寧な説明責任が求められる。

【続報 米大統領選】
 10月12日(日本時間13日)、7日前に退院してホワイトハウスで治療していたトランプ大統領が、激戦州のフロリダ州で選挙集会を開いた。サンフォード空港内に設けられた屋外の特設会場、大統領は聴衆にマスクを投げてプレゼントし、一方、多くの支持者はマスクを着けていない。

 大統領は「アメリカをかつてなく偉大にする!」と再選への支持を呼びかけ、自分に感染について「私には免疫ができいている」と順調な回復ぶりを示した。未承認のモノクロータル抗体を投与したことにも触れ、みなに行きわたるようにするとも述べた。10月中のワクチン承認が怪しくなってきたことの代わりかもしれない。

 同じ12日(日本時間13日)、バイデン氏はこれまで控え気味だった対面式の選挙活動を活発にしている。中西部オハイオ州の集会では駐車場に支持者がそのまま車を乗り入れる<ドライブイン方式>を採用、密接が目立つトランプ氏の集会とは対照的であった。

 なお投開票日まで3週間に迫るなか、各種の世論調査の全米支持率は12日現在、バイデン氏が10.3ポイントもリードしている。9月末の第1回テレビ討論会やトランプ氏の感染を受けて、両者の差は選挙戦始まって以来の水準に広がる。それでも4年前の選挙におけるオクトーバー・サプライズで逆転させた経緯を知る人たちは、自信を持ってバイデン優位を打ち出せない。

 ところが米世論の調査(ギャラップ社)では、コロナへの関心は25%と高いのに比べて<経済重視>は下がって現在は9%となっている(日経新聞17日朝刊)。バイデン候補がトランプ政権の対コロナ対策の初動の遅れを指摘しているのが奏功、これに対するトランプ候補の経済対策(失業保険給付金や現金給付、それに株価の安定等)には高い評価が集まらないのかもしれない。

 あるいは世界最多の感染者と死者を出し<分断>の進む超大国の次の指導者を選ぶ基準として、コロナへの関心が高いのは当然と見るか。そうであれば人を選ぶより時代の方向を選ぼうとするアメリカ世論の健全な姿と見て良かろう。

 12日(月曜)は、昨年の台風19号から1年に当たる。15号につづく19号は記録的大雨で、各地の河川が氾濫し、いまなお7000人超が避難生活を強いられている。河川の決壊や越水等の情報の収集・発信がうまく作動せず、課題を残した。その反省に立ち、各地で河川監視を強化し、迅速な避難行動へつなげる分析と訓練が行われた。今年はコロナが加わり、<3密>を避ける避難行動が不可欠となる。

 13日(火曜)、日経新聞に小さいが貴重な記事「コロナ重症化を判別 東医大 血液中のたんぱく質で」があった。血液中にエクソノーム(COPB2)という蛋白質を持つ人は軽症のままですむ(重症化しない)という。検査技術も開発中で数時間での判別を見こんでいる。これにより重症化しやすい人の治療に専念でき、免疫機能を持つ治療薬の開発にも役立ちそうだという。ワクチン開発が足踏みしているなかで、この種の地道な研究に期待したい。

 14日(水曜)、梶山弘志経済産業相が将来のエネルギーについて、再生エネルギー(太陽光や風力)を上位の<主力電源>としていくと表明した。2018年度現在、日本の総発電量の8割程度を火力、6%を原子力でまかなっていたが、二酸化炭素の排出量が多く、環境負荷の高いことが国際的に問題視されてきた。再生エネルギーは日照時間や風量で発電量が左右されるため出力が不安定という弱点がある。今後の技術開発やコスト削減が不可欠である。

 同じ14日(水曜)、金融機関の行政手続きを来年度に完全電子化すると金融庁が発表した。金融機関から金融庁への申請や届け出は約1800種類あるが、このうち紙ベースのみの受付が約9割を占め、オンラインで可能なものは約1割弱に過ぎない(日経新聞 15日)。監督官庁たる金融庁の遅れた実態に驚く。完全電子化(オンライン化)の目標は半年ほど前倒ししてほしい。

 この日、IMF(国際通貨基金)はその報告書で、2020年の世界全体の政府債務がコロナの影響で世界の国内総生産(GDP、約90兆ドル)にほぼ匹敵すると発表した。過去の長期データを見ると、1933年の世界恐慌時が80%、戦後の1945年が124%、2009年の金融危機直後が89%であり、これらを大幅に上回る、これまでにない最悪の状況となる。なかでも日本は、2019年のGDP比238%から2020年が266%、2021年が264%と突出している。経済再生のための各種の財政支出を行うとき、絶えず<財政健全化>を視野に入れる必要がある。

 15日(木曜)、来年度の大学入学共通テストについて、政府の新型コロナウィルス感染症対策分科会は、「試験会場の感染リスクは低い」として、一定の条件を満たせば濃厚接触者の受験を認める方針を了承した。受験機会を可能な限り拡げるための処置である。

 同じ日、厚労省が一律制限してきた介護施設における家族等の面会を、感染防止策を徹底するなどの条件つきで緩和し、各施設の判断に任せることとして、都道府県や介護施設団体へ通知した。
 
 同日また、大規模イベントの実証実験を横浜スタジアムにて10月30日(金)~11月1日(日)に行うと神奈川県や株式会社横浜DeNAベイスターズ、日本電気株式会社等が発表した。十分な感染症対策を講じた上で、観客数の上限を緩和し、80%を一つの目安にして試合を開催、コロナ対策に関する技術実証である。

 今回の技術実証を通し、コロナ禍における大規模イベントの開催ガイドライン策定に寄与するとともに、感染拡大防止を推進し皆さまに安心して各種イベントを楽しんでいただける環境を構築するとしている。

【続報2 日本学術会議問題】
 16日午後、菅首相は、日本学術会議の梶田隆章会長と首相官邸で会談した。会長の梶田隆章氏(かじた たかあき 1959年 3月9日生)は、物理学者、天文学者。 東京大学 卓越教授 ノーベル物理学賞受賞(2015年)である。

 梶田氏によると学術会議の推薦した会員候補6人の任命を首相が拒否したことに対する要望書を渡し、学術会議のあり方などについて意見交換した。梶田氏が「学術会議の役割は昔に比べてはるかに重要になっている」などと話し、それに対して首相は「しっかりやって下さい」と応じたという。要望書では、6人を改めて任命することや任命拒否の理由を説明するよう求めている(以上は読売新聞)。

 報道各社でニュアンスは異なるが、学術会議の要望書にある「6人を改めて任命することや任命拒否の理由を説明するよう求めている」点については、この場では確認しなかった模様である。なお加藤官房長官は、「すでに任命は終わっている」と明言、改めて任命する考えはないとしている。

 任命拒否の理由を明らかにしないまま今後の日本学術会議のあり方を検討するのは筋違いである。新たに自民党政調会長の発議で始まった議論でも両者を峻別しなければならない。任命拒否の理由が明かされない限り、学術会議が推薦した6名を政府が拒否したこととなる。言い換えれば、政府が<学問の自由>を侵したと指弾されるであろう。

 前稿(20)で掲載した以降、10月9日からの新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
 9日(金曜)   603人(141人)と203人(21人)
 10日(土曜)  680人(147人)と249人(24人)
 11日(日曜)  436人(145人)と146人(24人)
 12日(月曜)  278人(146人)と78人(25人)
 13日(火曜)  500人(148人)と166人(27人)
 14日(水曜)  551人(150人)と177人(25人)
 15日(木曜)  708人(146人)と248人(25人)
 16日(金曜)  642人(148人)と184人(25人)
 17日(土曜)  624人(148人)と235人(23人)
 18日(日曜)  431人(145人)と132人(24人)
15日行われた政府の分科会では、感染状況についての専門家の分析に基いて、政府に対する提言をまとめた。現在の感染状況は感染の増加要因と減少要因がきっ抗していて、大幅な増加が見られない一方で、急激な減少も見られない状況が続いているとしている。
 増加と減少の要因がきっ抗している状態はいつ崩れてもおかしくなく、実際に増加傾向を示す地域もあり、クラスターの連鎖が起きた場合には、感染が拡大するリスクがあるとする。その上で、分科会では、政府に対し、どのような具体的な行動がリスクが高いか詳細な分析に基づいて示すとともに、クラスターからの感染拡大を防ぐ対応を早期に行うよう求めた。

 また16日のNHK総合「ニュースきょう一日」は治療の中核を担う国立国際医療研究センターの忽那賢志医師に近況を聞いたところ、「今月に入り新型コロナウィルスの重症者は全国で徐々に増えつつあり、重要な局面を迎えている。感染がこれ以上拡大しないよう対策の徹底を呼びかけた」。なお上掲の前の10月1日から8日までは本ブログの前稿(20)に掲載してある。

 同じ16日、富士フィルムHDが新型インフルエンザ薬のアビガン(1814年に承認)を新型コロナウィルス薬として販売承認を厚労省に申請した。今年3月に政府の要請を受けて治験を開始、5月に安倍前首相が「5月承認をめざす」とされたものであるが、半年遅れの申請である。内情は分からない。

 同じ日、今回トランプ大統領も使ったレムデシビル(エボラ出血の治療薬として米製薬大手が開発した抗ウィルス薬)について、コロナ患者の死亡率低下に「ほとんどあるいはまったく効果がない」とWHОが発表した。また抗マラリア剤や抗エイズウィルス剤についても同様に「ほとんどあるいはまったく効果がない」とした。

 日本の大学教育の現状はどうか。文部科学省が国公私立の大学、短大、高専を対象に後期授業の形式を調査した。回答のあった1060校(全体の約9割)のうち対面を実施する頻度が3割以下とした大学と「検討中」「全面的に遠隔」と回答した計376校に対して再調査を行い、11月上旬にも大学名を公表すると、16日、萩生田大臣が明らかにした。残念ながらコロナ禍の大学改革は必ずしも活発とは言えない。この措置も一つの刺激策になるかもしれない。

 17日(土曜)、タイの首都バンコクで14日からつづく学生らの反体制デモが、この日、地方の17都市にも波及した。一方、バンコクでは16日の集会が放水等により強制排除されたため一時解散し、18日の再集合を呼びかけた。ここでも別の意味で政治活動がコロナ対策を上回っている。

 18日(日曜)、日ごとの寒暖差の激しいなか、北関東では栃木県の男体山、群馬県の浅間山と武尊山の初冠雪の便りが届いた。関東で「初冠雪」が観測されるのは、今季初めてで冬到来の予感。インフルエンザと新型コロナの同時襲来が恐ろしい。

 この日、菅首相がベトナムを訪問した。就任後初の海外訪問、「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けた連携を確認すると同時に、コロナで中断しているビジネス目的の短期出張者らの往来再開を調整する。つづけてインドネシアを訪問する予定。

 新型コロナウィルスに関する以下の報道を録画で視聴した。(1)BS1 ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間」(10月5日~9日)10月11日。(2)NHKスペシャル 令和未来会議「新型コロナの不安とどう向き合う?」11日。(3) 情熱大陸 「忽那賢志(くつな ひとし)「回復者血漿療法」~新型コロナ治療の臨床研究最前線~」11日 TBS。(4)BS世界のドキュメンタリー選「新型コロナ抑止の最前線 韓国テグからの報告」12日。(5)BS世界のドキュメンタリー「コロナ医療崩壊の現場で医師フランチェスカの闘い」13日。(6)BSスペシャル「東京リトルネロ」11日。(7)BS1 ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間」(12日~16日)18日。

人類最強の敵=新型コロナウイルス(20)

 9月23日(水曜)掲載の前稿(19)の末尾に記した台風12号は、東海上に逸れて東日本直撃は避けられたが、この影響で西日本や東北・北海道にかけての広範囲が集中豪雨に見舞われ、1時間あたりの雨量が120ミリに達した所もあった。

 また欧州の感染再拡大を受けてロンドン株式市場が急落し、それがニューヨークに移り、東京市場にも反映されかねないと懸念されたが、この日の日経平均は258円安で通常の変動内にとどまり、<粘る日本株>、<日米株価の逆転>と表現された。

 政府の観光支援事業<Go To トラベル>で4連休(19日~22日)の人出は、各地で凄まじい勢いだったとニュースは伝える。連休最終日の高速道路上り(東京方面行)は久しぶりの渋滞を記録した。各地の行楽地・繁華街の人出は、感染拡大前(1月18日~2月14日)に比べて、京都の清水寺で38%増、金沢駅で4%増、東京都心も9割まで回復したと伝えられる。

 これに東京発着が10月1日(木曜)から加われば、都内を訪れる人が増える可能性が高い。東京都はこの事業を加速させるため、都独自の追加金を加算する。

 政府の観光支援事業<Go To>は、他に<Go To 商店街>、<Go To イート>、<Go To イベント>があり、4種を組み合わせることも可能である。

 24日(木曜)、来年に延期された東京五輪・パラリンピック2020に向け、大会準備状況を監督する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会と大会組織委員会の会議がリモートで開かれ、バッハIOC会長が「やり遂げられると確信している。必ず実現できる」と語り、政府と東京都が感染防止策の検討状況を説明した。

 また政府、東京都、大会組織委員会はコロナ対策会議の第2回会合を官邸で開催、杉田官房副長官が挨拶、①出入国管理、②検査体制、③国内移動のルールをめぐり、コロナ下の五輪へ着々と準備が進む。
 
 同じ24日、ソフトバンクグループ株式会社の子会社である新型コロナウイルス検査センター株式会社が、国立研究開発法人 国立国際医療研究センター国府台病院(千葉県市川市)内に新設した唾液PCR検査を行う専用施設「東京PCR検査センター」を本格稼働させ、民間の検査機関として、希望する自治体や法人などに実費負担だけで唾液PCR検査を提供開始すると公表した。1回の検査あたりの価格は、2,000円(税抜・配送料、梱包費などを除く)で、今秋中に1日1万件の唾液PCR検査を行う体制を整える。

 同社はこれまで暫定的に国立国際医療研究センター(新宿区)にある研究施設内で、ソフトバンクグループ従業員ならびに関係者、福岡ソフトバンクホークスの選手などを対象に唾液PCR検査を試験的に実施してきたほか、東京都の竹芝客船ターミナルと小笠原諸島の父島を結ぶ旅客船「おがさわら丸」の乗船者を対象に、東京都などと連携して唾液PCR検査を試験的に運用してきた。

 この日の午前、菅総理が韓国の文在寅大統領の要請に応えて初の電話会談を行い、元徴用工問題等の懸案に触れ、「非常に厳しい状況にある両国関係をこのまま放置してはいけない。…」と述べた。また北朝鮮による日本人拉致問題の解決や、新型コロナ対策での協力を要請し、文氏の支持を得た。

 この日に発表された政府の9月月例報告で、国内の景気について「依然として厳しい状況にあるが、持ち直しの動きがみられる」と総括した。内訳では個人消費と設備投資が足踏み状態にあり、輸出や生産が持ち直している。

 25日(金曜)、台風12号の余波と思われる<記録的短時間大雨情報>が西日本に出された。1時間あたり80ミリ以上の降雨が<猛烈な雨>で、下水がマンホールの蓋を押しあげ噴き出す。気象予報用語には<やや強い雨>(10ミリ~20ミリ未満)、<強い雨>(20ミリ~30ミリ未満)、<激しい雨>(30ミリ~50ミリ未満)、<非常に激しい雨>(50ミリ~80ミリ未満)、<猛烈な雨>(80ミリ以上)の5段階があり、<記録的短時間大雨情報>は<猛烈な雨>の時に出される。

 これからは<猛烈な雨>の上を幾つかに分類して、<Ⅹな雨>(80ミリ~110ミリ未満)や<Yな雨>(110ミリ以上)等の用語が必要になろう。三溪園のように多数の古建築を持つ施設では、新たな防水策が急務となる。

 この日、菅内閣が発足して初めてとなる政府分科会が開かれ、<Go Toイベント>と<Go To商店街>を来月中旬以降に開始する政府の方針が、専門家が提言する感染対策を徹底することを前提に了解された。また<Go Toトラベル>の対象に来月1日から東京発着の旅行を加えることも確認された。

 同日晩、菅総理が呼びかけ習近平主席と電話会談が行われた。激化する米中対立や米国の台湾への急接近に苛立ちを見せる習政権にとって、菅総理との初会談は重要な意味を持つ。菅政権には二階幹事長という親中派と岸防衛大臣の親台派がおり、習政権は岸大臣に対する警戒心を隠さない。

 こうしたなかでの初会談で菅首相は「日中の安定は2国間にとどまらず、地域、国際社会のために極めて大事で、共に責任を果たしていきたい」と伝えると、習主席は「日本との関係を引きつづき発展させていきたい」と返したという。延期された懸案の習主席来日については言及がなかった。

 同じ日、国連総会に向けた菅首相の一般討論演説で1年延期された東京オリンピック・パラリンピック2020の開催について「人類が疫病に打ち勝った証として開催する決意であり、安心安全な大会にお迎えするため全力で取り組む」と表明するとともに、日本人拉致問題の解決に向けて北朝鮮の金正恩委員長との会談に意欲を示した。創設75年となる国連は安保理の議決が減るなど、その機能が低下していると言われる。

 26日(土曜)、トランプ大統領は、最高裁判所の後任判事にエイミー・バレット氏(48歳)を指名した。彼女は中西部各州の控訴裁の判事をつとめ、人工妊娠中絶に否定的なことで知られ、低所得者の医療保険加入を促す医療保険制度改革法(オバマケア)にも反対、個人の銃保有に肯定的で、共和党の価値観を反映している。

新判事は議会(上院、定数100)で過半数を得れば実現する。野党民主党は11月の大統領選挙後に新しい大統領が任命するべきと主張。もしこのまま上院の承認に進めば9名のうち6名が保守派となる。

 27日(日曜)、米紙ニューヨークタイムズは、トランプ大統領が当選前の15年のうち10年分の所得税を連邦政府に納めておらず、また大統領となった2016年と17年の納税額はそれぞれ750ドル(約8万円)だったと報じた。トランプ氏はこの報道は<フェイク>と否定したものの、歴代大統領が応じてきた納税記録の開示を依然として拒否している。

 28日(月曜)、世界の新型コロナウイルス感染による死者は100万人となった。この日、中国の国有医薬会社の中国医薬集団(シノファーム)が開発中のワクチンを臨床試験(治験)段階で投与(接種)、7月22日からの「緊急投与はすでに35万人に達した」。安全性への懸念が拡がる。<一帯一路>沿線国へ派遣される国有企業駐在員、外交官、医療従事者等が多く受け、費用(2回の接種で約1万5000円)は会社持ち、留学生は無料である。

 29日(火曜)、NTTはドコモを完全子会社化するため、4兆円規模のTOB(株式公開買い付け)を行うことを取締役会で決定。グループ一体で次世代通信規格<5G>やIoTへ投資し、世界における成長につなげるとともに、政権の掲げる携帯料金値下げも見据え、経営を効率化する。

 1985年に日本電信電話公社を民営化してNTTが発足、ついでNTTデータを分社化(88年)、NTTドコモを分社化(92年)し、99年までにNTTは持ち株会社となり、それ以来の再統合である。NTTデータがシステム開発、NTTコムウェアがソフトウェア開発、NTTドコモが無線技術、NTTコミュニケーションズがクラウド、データセンターをそれぞれ分担する。

 ここで9月23日朝掲載の前稿(19)以降の新型コロナウイルス感染状況を一覧する。前者が全国で(カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)である。
 23日(水曜)  219人(165人)と59人(28人)
 24日(木曜)  485人(166人)と195人(29人)
 25日(金曜)  575人(163人)と195人(30人)
 26日(土曜)  643人(156人)と270人(29人)
 27日(日曜)  485人(160人)と133人(29人)
 28日(月曜)  302人(159人)と78人(26人)
 29日(火曜)  528人(161人)と212人(23人)
 30日(水曜)  577人(151人)と194人(21人)

 30日(水曜)、9月30日(日本時間の午前10時)、米大統領選の第1回公開討論会が開かれ、トランプ候補(共和党)とバイデン候補(民主党)が90分にわたり意見を述べた。「米分断映す混沌の討論」の見出しで報じた日経新聞は「前例のない非難合戦に終始した。疫病と経済、社会の危機に瀕する国難をよそに、互いの非をあげつらい支持層へのアピールに没頭する両候補。混沌の討論会は超大国の極まる分断を象徴する」と記している。

 10月1日(木曜)、月が替わった初日、東京証券取引所の相場情報システム障害により、終日売買が停止され、3兆円にのぼる取引機会を失った。1999年に取引がシステム化されて以降、初の事故である。予備装置への切り替えがうまく作動しなかったとも言われる。サイバー攻撃の結果でないのが幸いであったが、世界市場からの信頼を失いかねない大失態である。金融庁が事故原因の調査に入った。

 同じ午前の記者会見で、日本学術会議の新たな会員105人の候補者推薦について、加藤官房長官は、会議側が推薦した候補の一部6名の任命を、菅総理大臣が見送ったことを明らかにし、これまでと同様に法律に基づいて手続きを行ったと説明した。同会議は210人の会員で構成され、任期は6年、うち半数の105人が3年ごとに更新される。会員は特別職の公務員。

 任命を拒否された6名は、政府の法案に批判的な意見を述べた学者が多いと言われる。任命権者が首相であることと、特定の6名の任命を拒否したこととは別問題で、与党のなかにも「丁寧に説明する必要がある」との意見が少なくない。学術会議側は、推薦した人物が任命されなかった例はないとして、その理由を明らかにするよう求め、拒否の撤回を求める要請書を内閣府に送致した。

 2日(金曜)、トランプ大統領がツイッターで、大統領自身とメラニア夫人が新型コロナウイルスに感染したと驚きの内容を伝えた。感染経路は分かっていないが、ホワイトハウス内で他の感染者が複数おり、クラスターが発生したとみられる。

 米疾病対策センター(CDC)は、発熱の症状がある場合は自主隔離したうえで、①発症から10日経過し、②熱が下がってから24時間経過の条件を満たすまで他人と接触しないよう求めている。また感染者と接触した場合には2週間の自主隔離を求めており、ステピエン選挙対策部長をはじめ側近たちの職務に影響が出る。

 3日(土曜)、新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領は、ヘリコプターでワシントン郊外のウォルター・リード陸軍医療センターに入院、そこで執務を継続する。大統領の容体をめぐって主治医が記者会見し、「快方に向かっている。慎重ながらも楽観している」と語った。

 しかし、米メディアによると、メドウズ大統領首席補佐官は3日朝、過去24時間の状態は「とても懸念された」もので、「今後48時間が治療に重要な意味をもつ。完全回復に向けた明確な道筋はまだ見えていない」と語ったことが明らかになった。政権高官の話として、2日にはホワイトハウス内で酸素吸入を行ったとも報じられ、容体が懸念されている。

 4日(日曜)朝、朝日新聞デジタル版は、入院中のトランプ大統領が自身のツイッターに「私はすぐに戻る。気分は良くなってきている」と語る映像を投稿し、自ら語りかける映像を公開することで、自身に対する国民の不安を払拭することが狙いと伝えた。

 映像は病院内の執務室で撮影されたとみられ、大統領はノーネクタイのスーツ姿、両手をテーブルの上に組み、約4分間にわたって発言。「(病院に着いたとき)あまり気分は良くなかったが、今はだいぶ良くなった」、「(この数日間で)本当に試されることになる。とても良い結果を得られると思う」と語った。声は時折かすれ気味であった。

 5日(月曜)、日本学術会議の推薦する新しい委員105人のうち6人の委員の任命を拒否した件について菅首相が記者発表し、学術会議に年間およそ10億円の予算を充て、会員が国家公務員(特別職)であること等を指摘した上で、「総合的、ふかん的な活動を確保する観点から判断した」と述べ、6名を任命しなかった理由を問われると「個別の人事に関することについてコメントは控えたい」とした。

 「行政の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義を打破して、規制改革を進める」と宣言した菅首相の基本方針のうち、<悪しき前例主義>の打破の一つが学術会議推薦の新委員のうち6名の拒否であったとすれば、熟慮に欠けた判断と言わざるを得ない。

 記者が「任命の見送りは学問の自由の侵害ではないか」と指摘したのに対して、「学問の自由とは全く関係がない。それはどう考えてもそうではないか」と述べたが、特定の6名を任命しなかった理由を説明しない限り、6人の学問の価値を首相が否定したこととなる。これでは政治の学問への介入で、憲法第23条に定める<学問の自由>に違反すると糾弾されかねない。

 6日(火曜)、トランプ大統領が退院、まだ陰性の判断が出ていないうちに選挙運動を開始すると述べた。しかし完全に回復したわけではなく治療は継続、上掲のCⅮCの感染症対策基準(自主隔離等)にも反する。回復したと自慢するより、周囲の人たちに感染させない行動が優先すべきと思うが、<強い男>を誇示することが有権者の支持を得るのか。ホワイトハウスでは23人の感染者が発生している。

 この日、日本とアメリカ、オーストラリア、インドの4か国の外相は東京で会合を開き、中国を念頭に、法の支配などに基づく自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて4か国の結束を確認するとともに、会合の定例化で合意、さらにインド太平洋に関する構想や外交指針を持つASEAN=東南アジア諸国連合やヨーロッパなどの取り組みを評価し、連携をより多くの国に広げていく方針を確認した。

 一方、会合では、アメリカのポンペイオ国務長官が、「中国共産党の搾取や腐敗から人々を守る」と強い口調で述べるなど、新型コロナウイルスや海洋進出をめぐる中国の動きに対する懸念が相次いで示されたが、これについて日本政府関係者は、「中国は必ず反発するだろう」と指摘している。

 同じ日、ポンペイオ国務長官はNHKのインタビューで次のように語った。
「中国共産党は香港において50年続くと約束していた<一国二制度>をなきものにした。わたしたちは台湾で何が起きるのか、注視している。…これはアメリカ対中国という問題ではない。自由と専制政治のどちらを選ぶかの問題だ。軍や威圧的な力を使って弱い者をいじめる国に世界を支配させてよいのか。…次の世紀がルールにのっとった国際的な秩序による支配になるのか、それとも中国のような威圧的な全体主義国家による支配になるのか、という話だ」。

 「(東シナ海や南シナ海における中国の挑発的な軍事行動について)弱さを見せれば、つけこまれる。譲歩することは、威圧的で軍事的な手段を用いて問題を解決しようとする国を利することになる。例えば、インドとの国境地帯や東シナ海や南シナ海、香港、カンボジア、台湾、新疆ウイグル自治地区、内モンゴル自治区の問題がある。中国に対抗するためにはこちらも力を持つこと、そして日米のように価値観を共有する国々で連携していくことだ」とも語った。

 菅総理大臣は、日米同盟を外交の基軸とし、普遍的な価値を共有する国々との連携を強化する一方、経済の回復に向けて中国との関係も安定させたと考えている。今回の会合の成果を踏まえ、中国とどのように向き合っていくのか、そしてアメリカ等にどう伝え、説得するか、これが今後の大きな課題となる。

 7日(水曜)、ニューヨーク市のデプラシオ市長は市南部ブルックリンと東部クィーンズ内の9地区(住民は約50万人)で学校閉鎖や企業の営業停止など事実上の都市封鎖(ロックダウン)措置を取ると4日に表明、クオモ州知事の承認を得て、この日から実施に踏み切った。

 パリでも第2波と呼ばれる感染拡大が始まり、バーの営業が2週間停止となった。作家の辻仁成のパリ最新情報「バーの経営者ら新しい規制にため息を漏らす」によれば、7日から新しいコロナ規制が始まり、…営業できなくなったのは純粋なバーやクラブ(過去の売り上げの料理の比率が49%以下をバーと呼ぶ)だと伝える。

 この日(日本時間)、日本でデジタル庁設置が政策課題に上る中、米下院は巨大IT企業(GAFAと略称される)に対する反トラスト法(独占禁止法)調査の報告書をまとめ、事業分割を含む規制強化にも言及した。転換点になりそうである。

 10月に入ってからの新型コロナウイルス感染状況を一覧する。前掲と同じで、前者が全国(カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)である。
 1日(木曜)  634人(151人)と235人(22人)
 2日(金曜)  542人(145人)と196人(22人
 3日(土曜)  577人(137人)と207人(25人)
 4日(日曜)  401人(133人)と108人(26人)
 5日(月曜)  281人(131人)と66人(25人)
 6日(火曜)  502人(140人)と177人(25人)
 7日(水曜)  509人(141人)と177人(24人)
 8日(木曜)  619人(143人)と248人(22人)

 8日(木曜)午前(日本時間)、来月3日投票の米大統領選に向け、共和党ペンス副大統領(61)と民主党ハリス上院議員(55)による副大統領候補討論会が、西部ユタ州ソルトレークシティーで休憩を挟まず90分間行われた。トランプ大統領(74)もバイデン大統領候補(77歳)も高齢であり、万一の場合、副大統領が後継の大統領となる憲法の規定があり、両者の資質が問われる討論会として注目された。

 ハリス氏は冒頭、コロナ感染で米国の死者が20万人を超えたとして「米国民は史上どの大統領と比べても最大の失敗を目撃した」と批判。さらにトランプ政権が「1月の時点で判明していたコロナの危険性を告げなかった」と追及した。

 これに対しペンス氏は、コロナ対応でトランプ政権の責任者でもあり、早い段階で中国からの渡航を禁止した決断を自賛し、「数十万人の命が救われた」と反論。ワクチン開発に尽力していると説明した。世論調査はハリス支持が6割と伝える。

 この日、日本政府は出入国制限の緩和を段階的に進める具体的検討に入り、まず海外出張から帰国・再入国した日本人や在留資格を持つ外国人を対象に、一定の条件を付して帰国後2週間の待機措置を免除、民間企業社員が海外出張しやすい環境を整え、経済活動の再開を後押しする。しかし日系企業の集中する中国や東南アジア諸国との往来再開についての行方はまだ見通せていない。

所蔵品展「月づくし」と観月会

 新型コロナウイルス感染防止のため閉園していた三溪園は、6月1日に再開した。来園者は近隣の方々を中心に徐々に増えている。とくに恒例の<早朝観蓮会>(7月18日から8月2日までの土日祝日)には多くの来園者があった。

 その後の長い猛暑を経て、9月下旬に秋を感じられるようになったが、台風12号の影響で激しい温度差が直撃する。そしていよいよ10月1日(木)が<中秋の名月>(旧暦の8月15日の夜に見える十五夜の月)、翌2日(金曜)が満月である。

 これにあわせて9月30日(水)から10月4日(日)までの5日間、<秋の観月会>を開催。開園を夜の9時(受付は8時半)まで延長、歴史的建造物のライトアップと外苑の(旧)燈明寺本堂において日替わりの演奏会を行う(後述)。

 園内の三溪記念館では、観月会に合わせて「月づくし」を開催(企画担当は北泉剛史学芸員)、三溪園所蔵品の中から月を詠む漢詩と月を描いた絵を選び出した展示である。会期は観月会の5日間を含む9月3日(木曜)から10月13日(火曜)まで。北泉学芸員の解説(です、ます調の記述)を参照・抜粋しつつ、一緒に展示を見て回りたい。

 第1展示室は「三溪の書-月を詠む-」として、三溪の漢詩から月を詠んだ書を紹介します。力強く大らかな三溪の書風をご覧ください。

 ① 「古寺秋風」と題する2点。古寺に秋風が吹いて雲が晴れ、月が落ちる頃に寺の鐘音が聞こえてくる様子(「一聲鐘」)を詠んでいます。「古寺秋風」や「一聲鐘」は三溪が好んだ言葉で、よく漢詩に使われています。

 ここで私はふと、三溪の執事を長く務めた村田徳治の絵<三溪園画巻 戦災前の三溪園>を思い出した。この絵は8枚組の絵葉書として記念館の売店で販売している。現在の古建築の配置で言えば、内苑の春草廬から下り、蓮華院に至る道のほぼ中間の右手の高みに<鐘楼>があった。奈良県の金峰山寺(きんぷせんじ)から移築したものだが、惜しくも戦災で焼失している。鐘は三溪が造らせ、両親の長命を祈願して<延命の鐘>と名づけたという(川幡留司参事による)。

 ②「偶感」は、大正12(1923)年の関東大震災に際して詠んだものです。遠い昔から天に浮かぶ月が変わらず辺りを照らしている様子を、三溪が原家に入り、難事を乗り越えて生糸事業を成し得たことと重ねているようです。

 ③「金港新涼」 「征帆影」とは、貿易船が遠くに霞む様子でしょうか。汽笛が鳴り、初秋の涼しい夕暮れから夜に時が移って月が満ち、かつての江戸城を浮かびあがらせる情景を詠っているようです。<金港>とは、明治時代に富をもたらした横浜港のことです。

 ついで第1展示室正面に「ゆかりの画家 下村観山」として、①「倫敦夜色(下図)」(明治36(1903)年頃)と②「ロンドン夜景」(明治36(1903)年)の2点。

 明治41(1908)年、三溪は下村観山の「大原御幸」(東京国立近代美術館)を見て感心し、岡倉天心を通じて明治44年から支援を始めました。それまで古美術の蒐集が中心であった三溪に、近代日本画(当時の現代日本画)へ関心を向けさせたのが観山でした。…三溪は観山を最も厚く支援し、観山もまたその期待に応えていました。

「倫敦夜色(下図)」
 観山は、当時、洋画の先端と考えられていたイギリスの水彩画を研究するため、明治36(1903)年から2年間、文部省派遣のイギリス留学の機会を得ました。これはその頃の下図で、三日月を背景にロンドンの有名な時計塔を持つウェストミンスター宮殿の夜景を水彩絵具で描いています。

「ロンドン夜景」
 観山はイギリス留学中に多くの西洋画を日本画材のみで模写しており、西洋画法の日本画への応用を研究していました。人体の解剖学的な筋肉表現や水墨の濃淡による陰影表現、金銀泥と胡粉で光を表す作品を描いています。水面の光のゆらぎまで金泥で表されます。

 ついで第2展示室へ足を運ぶ。「臨春閣の障壁画 狩野探幽《四季花鳥図》」と「観月会にちなんで-工芸-」の2つで構成される。臨春閣は、大正6(1917)年、大阪春日出新田から三溪園の内苑に移築した、もと紀州徳川家の別荘で、3屋から成る(重要文化財)。各部屋の障壁画は、狩野派など江戸時代の水墨画である。

 第2展示室の右手には臨春閣第一屋〈花鳥の間〉の《四季花鳥図》(江戸時代初期の絵師・狩野探幽)が拡がる。

 画面右から梅、松、竹、蓮、柳と続いて雪景色に移り変わり、その合間に鶏、燕、鶴などが描かれています。紙の状態や落款の位置から、もと屏風であった作品を襖に改装したことが分かります。右側3面はほかの絵師による作品を組み合わせたものと考えられます。

 臨春閣第三屋の二階〈村雨の間〉からは月と三重塔の美しい景色を眺めることができます。臨春閣はかつて「桃山御殿」と呼ばれて豊臣秀吉ゆかりの建築であると信じられていました。そこで三溪は、秀吉ゆかりの美術工芸品を集め、臨春閣内を飾っていました。

 ここでは三溪が愛蔵した工芸品を紹介します。当時、三溪が畳に座って脇息)にもたれかかり、一服しながら月を愛でていたかもしれません。そのような姿を想像していただけましたら幸いです。

 「四弦琵琶」は奈良時代に雅楽とともに伝来し、のちに棹の上部が後ろへ曲がった曲頚琵琶が主流となりました。この琵琶は秀吉の側室・淀君使用の伝来があり、臨春閣に三溪が飾っていた写真ものこされています。

「黒漆七弦琴」、弘化4(1848)年製
 中国では<古琴>と呼ばれる楽器で、弦が7本あります。現在、日本で普及している<こと>は<箏>といい、13弦が基本で、<琴柱>という音階を調節する部品がついており、<琴>とは別のものです。<七弦琴>は日本に奈良時代に伝来し、江戸時代に文人の間で流行したものです。

「蟹に笹蒔絵鼓」(江戸時代後期)
 鼓(つづみ)は能で用いられる打楽器です。鼓胴(こどう)に描かれる笹と蟹の輪郭に金蒔絵、さらに蟹の体には銀蒔絵が施されて存在感を出しています。古い時代の作品では、皮が失われて鼓胴のみが遺る例が多く、実用の鼓には装飾のないものもありますが、室町時代以降、鑑賞用としても制作されるようになりました。

「刷毛目盃 銘幾齢」
 本品は大正9(1920)年に購入した記録があり、茶会の展観用もしくは酒盃として使用されたものと思われます。製陶の際に化粧泥を刷毛で塗った刷毛目が流動感を出し、口縁を金で埋められた部分が上弦の月のようにも見え、味わい深い景色を生み出しています。光沢があり、品の良さを感じます。

「太閤脇息」 脇息は片肘をついて休息するための道具です。三溪が記した「臨春閣桃山史料目録」という資料に「菊桐紋蒔絵肱掛」という記載があり、本品が該当すると考えられます。秀吉が正室の北政所を祀るために建立した高台寺に見られる、菊や桐の文様の蒔絵の様式を高台寺蒔絵と呼びます。

 第2展示室を出て渡り廊下の先が第3展示室。ここには「観月会にちなんで-美術-」と題し、月を描く作品の競演が待っている。まさに「月づくし」。感染防止のため間隔を拡げ、10点を展示する。

 ① 山村耕花「観月」、大正5年(1916)
 空に浮かぶ月を老人が穏やかに見上げています。月は銀泥(銀粉を膠で溶いた絵具)で描かれ、老人の着物には月光の反射を表すように胡粉(貝などを粉末にした白い絵具)が施されています。ほかは墨一色で描かれており、夜の闇のなか、輝く月の明るさが際立たされています。

 ② 原三溪「月下双鳧」、大正8年(1919)
 鳧(カモ)は鴨の異体字。大きな月が遠くへ沈むように描かれ、その月を背に2羽のカモが水面をゆったりと漂っています。後ろの1羽は首をいっぱいに伸ばし、見上げる月に照らされて明るく透き通るようです。対照的に、手前の1羽は黒さが引き立てられ、水墨の豊かな表現力が感じられます。

 ③ 横山大観「赤壁」、明治42年(1909)頃
 中国の詩人・蘇軾が著した『赤壁賦』の「前赤壁」に取材したものです。旧暦七月の満月に三国志の戦場として有名な赤壁に思いを馳せながら、客と酒を酌み交わして舟遊びをする夜の光景を描いています。

 ④ 今村紫紅「後赤壁」
 本図は『赤壁賦』の「後赤壁」に取材したものです。「前赤壁」の三ヶ月後、旧暦十月に月見酒を楽しむ場面が著されています。詩中に、月見に向かう途次、蘇軾が二人の客人と坂道を過ぎると、霜が降りて木の葉が散っているという描写があり、紫紅はその寒々とした景色を描いています。

 ⑤ 下村観山「漁夫図」、明治
 舟の上で漁夫が片足を水につけて思索しており、爪先には波紋が広がっています。水面には胡粉で白く光のゆらめきが表現され、見上げると蝙蝠が飛び交っているため、夜の月明かりが想像できます。淡くまとめられる背景のなか、漁夫のみに彩色が施されて浮かび上がるような演出効果があります。

 ⑥ 下村観山「夕月」
 馬を洗う屈強な男性が見つめる先には、盲目の琵琶奏者の親子が手探りで川を渡っています。空は淡い墨でもやがかり、うっすらと三日月が見えています。また、川面がさざなみ、草がなびいて風の強さが伝わります。観山はイギリス留学時に筋肉表現を取材しており、その成果が窺える作品です。

 ⑦ 原三溪「石山秋月」
 中国で水墨画題に好まれた「瀟湘八景」に倣い、日本で考えられた「近江八景」の一場面です。火灯窓が特徴的な石山寺本堂の奥に多宝塔が描かれ、うっすらと月が見えます。この本堂には紫式部が『源氏物語』を構想したとされる「源氏の間」があり、火灯窓を源氏窓と呼ぶ語源になっています。

 ⑧ 原三溪「宮城野所見」
 箱根の宮城野温泉を描いています。強羅と芦之湯には三溪の別荘があり、周囲にもよく出かけていたようです。満月が明るい夜に、橋のたもとの旅館には「みやぎの」と書かれた看板があり、二階で夫婦が寛いでいます。道端には旅芸人が琵琶と笛を奏でていて、三溪園の観月会とイメージが重なります。

 ⑨ 原三溪「山中温泉」、昭和3年(1928)
 石川県にある山中温泉は、奈良時代の名僧・行基が諸国行脚の途中、薬師如来のお告げで発見したとされています。万病に効く霊泉という由緒があり、古くから文人墨客に愛された場所です。遠く山の向こうに月が浮かび、山間の温泉宿の二階では、座敷に踊る人影が見えます。

 ⑩ 原三溪「秋晴一日帖」、大正3年(1914)
 巻頭に「秋晴一日」と記してある画帖で、近くの屏風浦、磯子、杉田、金沢、逗子、三浦、三崎などを巡り、各地の眺めを描いています。展示部分は、その最後の場面で、「薄暮帰家眉月古塔青」と書いてあります。三溪園に帰り、三重塔越しに見える夕月で締めくくるところに三溪園への愛情が感じられます。

 宇宙の同じ月が、さまざまに姿を変えて、私の記憶を呼び覚ました。隅田川の花見の朧月、ススキが原の雲隠れの月、旅の途上で出会ったパキスタンとアフガニスタンを結ぶカイバル峠の三日月、ヨークシャー渓谷の残月…。

 展示の最後は三溪<秋晴一日帖>(全19ページ、30.4×21.2センチ)の最終ページにある一幅。明治政府の廃仏毀釈政策のあおりで廃寺となった京都燈明寺の三重塔を、<古社寺保存法>(岡倉天心の尽力により1897=明治30年制定、我が国初の文化財保護法)の賛同者でもあった三溪が、1914=大正3年、三溪園に移築した。

 私は数年前、三溪の母の郷里、岐阜県神戸町(ごうどちょう)の日吉神社を訪れ、その三重塔が三溪園の三重塔と酷似していることに胸を突かれた(本ブログ2014年10月22日掲載「原三溪の故郷」、2016年10月3日掲載「三溪と横浜-その活躍の舞台」を参照)。

 岐阜の青木家の長男に生まれた富太郎は、東京専門学校(現早稲田大学)に学び、横浜の生糸売込商・原善三郎の孫娘との婚姻(婿入り)により原家の人となり、三溪を号とする。横浜の本牧三之谷に居を構え、生糸貿易と製糸工場の経営に邁進、世界を相手に新生日本の外貨獲得に貢献し、日本の近代化の礎を築いた。

 三重塔は、青木家を故郷を後にした三溪にとって、文化財であること以上に、万感の想い籠る特別な存在であったに違いない。


三溪秋晴一日帖

 いよいよ9月30日(水曜)から観月会が始まる。今年が第37回目。そのチラシには三重塔に満月の写真と「横浜で見る、日本の月」の表題。裏面には詳細な記載と「横浜で、和の情緒たっぷりのお月見をどうぞ!」とある。

 観月会の会場は正門を入って左折、外苑の三溪園天満宮を経て、大きな瓦屋根の燈明寺本堂である。これまで長く内苑の臨春閣が会場であったが、屋根葺き替え工事のため、昨年から会場を移した。ライトアップされた三重塔は京都府の燈明寺から1914年に移築、本堂の移築は戦後の1987年。73年の歳月を経て、二つはようやく巡り会った。

 本堂を舞台に、5日間にわたり日替わりで演奏会が開かれる。新型コロナウイルス感染防止のため<三密>を避ける工夫の一つが音響である。太陽倶楽部レコーディングスの協力により、本堂から遠くにいても園内で音楽を楽しめる。

9月30日(水曜) サックスとピアノで奏でる日本の唄 世界の唄
 シャンティ ドラゴン  金剛督(サックス)、林あけみ(ピアノ)
10月1日(木曜) 琵琶
 薩摩琵琶錦心流中谷派襄水会
10月2日(金曜) タゴール・ソング&シタール
 奥田由香(歌) 辰野基康(シタール)
10月3日(土曜) 2本の古典フルートと弦楽器で味わう「バロック~古典の音楽」
 アンサンブル山手バロッコ(清野由紀子 曽禰寛純 小川有沙 加藤久志)
10月4日(日曜) 和楽器アンサンブル
 アトリエ筝こだま

 初日の9月30日(水曜)、明るいうちから中央広場に「ことことワゴン」と書かれた車が停まっていた。京都の香老舗松栄堂東京支店の移動販売車で、「香りのある、豊かな暮らし」を売る。三溪記念館の売店でも同社の香袋等を扱っている。

 30日の日の入は17:27(横浜地方気象台)。足元灯が灯り、虫の声が一段と大きくなる。月の出は17:02だが、三溪園では東の丘に遮られて、まだ月を見ることはできない。18時半、演奏会が始まる頃、靄がかった満月が顔を覗かせた。

 シャンティ ドラゴンの金剛督(こんごう すすむ)さんと林あけみさんは、息の合ったトークを入れつつ、フルートも入れて「小さい秋見つけた」「ブルームーン」「うさぎ」「見上げてごらん」「ドビッシー月光」などを演奏。誰もが、どこかで耳にした曲の数々で心をなごませた。

 薄闇でばったり市役所観光振興課の廣瀬知理さんに出くわす。「盛況で良かったですね」の一言。ありがたい応援団の一人である。

 プログラムのうち、初めての登場が10月2日(金曜)の「タゴール・ソング&シタール」。三溪園の新人職員(経理担当)田代倫子さんが映画「タゴール・ソングス」を観に行き、新進気鋭の佐々木美佳監督(26歳)が語る「昔タゴールが三溪園にしばらく滞在していたと聞いたことはあるけれど、まだ訪ねたことがありません…」を耳にとめた。

 そして田代さんが声をかけ、今回の企画につながった。若い人たちの<人の輪>の拡がりが頼もしい。映画のチラシは「国境や民族を越え普遍性を持つ歌のちから-日本人の風土や郷愁にも通じる、タゴール・ソングの魅力」と謳う。

 ラビンドラナート・タゴール(1861~1941年)は、アジア人初のノーベル文学賞受賞者(1913年)。作詞・作曲はゆうに2600篇を越える。彼の三溪園滞在記についてはいずれ書きたい。

 【写真について】休園中から始めたインスタグラムで三溪園の模様を伝えている。フェイスブックでは村田和義副園長の自在な投稿が面白い。ぜひご覧ください。

 【次回展示の予告】10月15日(木曜)から三溪記念館で「企画展 臨春閣 建築の美と保存の技」が開催される(12月20日まで)。臨春閣は30年ぶりの大規模改修工事と耐震補強が進行中(来春に完了予定)で、その工事の過程と保存技術を伝え、さらに取り外した貴重な装飾品を展示する。彫刻欄間(波、菊、桐)、浪華十詠和歌色紙、板絵十二支図額、花鳥人物彫扉ほか。工事中だけの、間近に観ることのできる稀有な機会である。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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