人類最強の敵=新型コロナウイルス(22)
10月19日(月曜)、菅義偉首相とベトナムのフック首相との約1時間半に及ぶ会談で、菅首相が「自由で開かれたインド太平洋」構想で協力を求めると、フック首相は「地域の平和と発展のために日本と力を合わせて頑張りたい」と応じた。具体的にはビジネスの短期出張者の往来と旅客便の再開で一致し、医療備品のサプライチェーンの協力強化、また防衛装備品の輸出についても合意した。
同じ日、大相撲11月場所の観客数を2倍の5000人に増やすことを決めた。スポーツ等のイベントの規模拡大(以前の規模への復帰)に向けての一歩となろう。
20日(火曜)、ベトナムに次いでインドネシアを訪問した菅首相はジョコ大統領と会談。インドネシアは人口が2億7000万人で東南アジア諸国連合(ASEAN)内の首位に立ち、名目GDPも首位で域内の4割を占め、新型コロナウィルスの1日あたり感染者も首位である。
こうした現状を踏まえて、菅首相が500億円の円借款を供与することを表明した。また鉄道・港湾の建設・運営などインフラ協力を進め、中断している看護師や介護福祉士候補者の往来再開を確認した。注目されるのは安全保障政策、インドネシアは東南アジアでただ一つ日本と2プラス2(外務・防衛担当閣僚会議)を実施しているが、その次回の早期実施で合意した。
なお今回の菅首相の2か国訪問では、出国・帰国時に首相自身がPCR検査や抗原検査を受けた。同行者の人数も最低限に絞り、20日のジョコ大統領との会談の写真を見ると、両首脳がマスクを着け、インドネシアの他の列席者はマスクの上にフェースシールドを着用、二重に飛沫対策を徹底した。また同行記者団も感染拡大防止のため行動等が制限された。
この日、菅首相が野党時代の2012年3月に刊行した単行本「政治家の覚悟」(文芸春秋社)を改訂した新書版が、20日に発売された。そのなかで「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と公文書管理の重要性を訴える記述があった章などが削除されたことで波紋を広げている。
2012年に出版された単行本では、旧民主党政権が東日本大震災時、十全な議事録を残していなかったことを痛烈に批判。「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」と述べていた。
「議事録という最も基本的な資料」の保存の重要性を訴えた箇所の削除は、はたして何を意味するのか。旧著と新著の後継性はもっぱら筆者の判断によるが、一人の政治家として野党時代の考えを首相就任後にがらりと変えるとすれば、説明が必要となる。それがなければ「国民への背信行為」と見なされるであろう。
21日(水曜)、菅首相が小泉環境大臣と会談し、26日に召集される臨時国会での就任後初の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を「2050年に実質ゼロにする目標を掲げる方針」を表明する方向で調整中との報道。
政府は、これまで「50年までに80%削減」や「50年にできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるよう努力」といった目標は掲げていたが、いつ<実質ゼロ>を実現するのか、具体的な年限を示していなかった。温暖化対策の国際ルール<「パリ協定>には、産業革命以前からの気温上昇を1・5度以内に抑える目標があり、実現するには50年までに世界全体の温室効果ガス排出を、森林吸収分などを差し引いて実質ゼロにする必要がある。
すでに欧州連合(EU)が<2050年実質ゼロ>を掲げており、足並みをそろえることで地球温暖化対策に取り組む姿勢をアピールする狙いと見られる。ほかに最大排出国の中国が今年9月、2060年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げたほか、米大統領選では民主党のバイデン候補も2050年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げ、<パリ協定>への復帰を掲げている。
【続報3 日本学術会議問題】←<続報>と<続報2>は前号(21)にあり。
10月17、18両日に実施された全国世論調査では、どの媒体の調査でも、菅内閣の支持率が10ポイント前後も大幅に下落した。まだ国会も開催されていない就任1カ月で、10ポイント前後も下落するのは異例である。
今回の内閣支持率の大幅下落は、日本学術会議に対する菅首相の任命拒否問題も一因と考えられる。この調査では、任命拒否問題に関する菅首相の説明について「十分だ」の回答が10%台で、「不十分だ」の回答は70%を超えた。
21日(水曜)、「自民党の日本学術会議のあり方に関するプロジェクトチーム(略称は自民党PT、塩谷立座長)が党本部で開かれ、日本学術会議の元会長を務めた吉川弘之、黒川清、大西隆(いずれも東京大学名誉教授)の3人が出席し、予定の1時間半を大幅に超えて2時間半に及んだ。議論は双方の見解を述べあうことに終始した模様だが、6名の任命拒否の事案は議論にならなかった。
平行して進められている学術会議の梶田隆章会長と井上信治・科学技術担当相(科技相)との会合(後述)が本来の場であろう。これと十分な連携を取った上の元会長の行動なのか。自民党PTは、その意図といい開催場所といい、いかにも自民党ペースである。
日本学術会議の2015年版資料を参考に、米英仏独のアカデミーについて、政府との関係がどのようになっているかを見ると、(1)全米科学アカデミー(会員約2,200人)は独立した非営利組織で、2億ドルといわれる年間運営経費の80%が連邦政府との契約で賄われ、その他、民間からの資金提供も受ける。
ついで(2)英国王立協会(1,430人)は独立した慈善団体で、収入の70%近くが議会からの助成金。その他は出版物収入や寄付など。(3)フランス科学アカデミー(267人)は独立機関だが、運営費の60%は政府が負担、残りは寄付などで賄う。(4)ドイツ科学アカデミーレオポルディーナ(1,500人)は900万ユーロとされる運営費のすべてが公的資金から拠出されている。しかし、独立した非営利組織であり、政府の干渉を全く受けない。
すべて公費で運営されているという点ではドイツがいちばん日本に近いが、いずれの国もかなりの割合で公的資金が投入されている。それでも、独立性、中立性をしっかり保持している。
23日(金曜)、梶田会長が井上科技相と内閣府で会談(副会長3人が同席)、時事通信によれば、同会議の在り方の見直しに向けた検討状況を年内に報告するよう求めた。この後、記者会見した梶田会長は「いろいろ意見交換しながら私の方からも、物を申す形で年末までに結論を出したい」と述べた。
両氏の会談は初めて。梶田氏は、会議が推薦した会員候補6人を菅首相が任命しなかった問題の解決を重視する考えを伝えた。井上氏は任命見送りの理由について「任命権者ではない」として説明しなかった。菅首相が井上大臣に権限を委ね、その大臣が最初の会談で自身を「任命権者ではない」と<逃げ口上>を述べた。政府が<手の内>を見せたも同然である。
井上大臣は「未来志向で今後の会議の在り方をお互いに考えていきたい」と呼び掛け、学術会議に関し「国の予算を投じる機関として本来発揮すべき役割をより適切に果たし、国民に理解される存在であるべきだ」と強調、学術会議を行政改革の対象としていることも述べた。
これに対し、梶田氏は「広く国民との対話を通じて役割をより発揮できるよう取り組みを強化したい」と伝え、「提言機能、情報発信力、国際活動などで検討すべき課題がある。まずは学術会議で検討を進め、年末をめどに状況を報告したい」と述べた。
学術会議は政府に対し、任命を見送った理由の説明と、6名の任命を求めている。梶田氏は会談で「今後の大臣との率直な対話のためにもこの問題の解決が大変重要だ」と伝えた。この重要な点を粘り強く進めてほしい。それには国民の世論をいかに喚起するかにかかっている。
【続報2 米大統領選】←<続報>は前号(21)にあり。
22日(木曜)晩8時からのゴールデンアワー(日本時間の23日午前10時から)に、第59期大統領を決める二人の候補者、トランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会がテネシー州ナッシュビルで開かれ、世界に実況放送された(日本ではNHK総合)。投開票日の11月3日まで2週間を切った最終盤である。
イギリスから独立して最初の大統領がジョージ・ワシントン、就任は231年前の1789年4月30日である。以来、2期8年を務めた大統領を含めて、第58期に第45代大統領に就任したのがドナルド・トランプ氏である。また投票日を「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と定めたのは150年以上前の1845年制定の連邦法。
先月29日の第1回討論会に次ぐ10月15日開催予定の第2回は中止となり、両氏が同じ時刻に別々のテレビ番組で意見を述べた。今回は実質的には第2回で最後のテレビ討論会である。
このテレビ討論会では、①「新型コロナ」、②「家族」、③「人種差別」、④「気候変動」、⑤「国家安全保障」⑥「リーダーシップ」の6テーマに各15分が割り当てられ、各テーマの冒頭、各候補が他の候補のマイクのスイッチが切られた状態で2分間ずつ発言し、その後は双方のマイクのスイッチが入った状態での自由議論とする新ルールが適用された。
テレビ討論会は、CPD(「大統領候補討論会委員会(The Commission on Presidential Debates)」という団体(1987年に設立)が取り仕切り、共和党、民主党両党の担当者と、メディア関係者と話し合いで司会者を決定した。第1回の司会はFOXニュースのベテランアンカーのクリス・ウォレス氏であった。
今回の司会はNBCニュースアンカーのクリステン・ウェルカー氏。朝のニュース番組を担当して「朝の顔」とも言える若手の女性で、アメリカ先住民の父と黒人の母を持つ気鋭のジャーナリスト。第1回が言い合いと混乱に終わったことを教訓として、両候補が横道に逸れる発言をすると、すかさずテーマの本筋に戻るよう要請、また配分時間が過ぎれば発言途中であっても次のテーマに話題を切り替えた。
大荒れとなって「史上最悪」と言われた前回から一転、今回は両候補が初めて本格的に政策議論を闘わせる場となった。なかでも司会の役割が大きく評価されている。なおCNNの世論調査では討論会でバイデン氏が勝ったと答えた人が53%でトランプ氏の39%を上回った。
形式的な手続き面では、主催者と司会の勝利、言い換えればCPDに結集するマスコミ(テレビ)が本来の役割を取り戻したと言えよう。一方、発言内容には両候補とも格別新しいものは見られなかったが、この討論会が投票時の選択と投票率の向上にどう影響するか、事前の予測は難しい。
投票手続きをめぐり異例の混乱がつづいている(日経新聞21日朝刊)。①各地の期日前投票には行列ができ11時間待ちも出ており、②投票所数の削減や身分証確認を厳格化して貧困層の投票を妨害、③共和党が「非公式」投票箱を設置したため州政府が撤去命令(カリフォルニア州)、④ミシガン州では民主党知事の拉致を企てた容疑で民兵組織が訴追され、⑤郵便投票に関する訴訟が乱発、すでに287件に及ぶ等々である。
期日前投票を済ませた有権者が21日までに4300万人を超え、全有権者(18歳以上で<有権者登録>を済ませた者、約2億3000万人)のうち投票率を50%とすれば、投票数の約3分の1に達したことになり、2016年の4倍に当たる。このため集計時間が長引くと予測されている。選挙人538人による投票は12月14日。
11月3日の投開票から2か月余の来年1月6日の集計期限までに結果が確定しない可能性が出てきた。その場合は、2世紀ぶりに(1824年以来初)下院が大統領を選ぶ可能性もあるという。両候補のいずれもが選挙人538人の過半数を取れず引き分けとなった場合、2021年1月3日に召集される新議会に委ねられ、下院が速やかに選挙を実施する(合衆国憲法修正12条による)。
50州の代表が1票ずつ投じ、過半数の26票を取った候補が勝つ。現有議席のままなら共和党が26票でトランプ氏を選べる可能性があるが、票を投じるのは大統領選と同時に11月3日に行われる改選後の下院である。
ここから先は2つの可能性がある。トランプ大統領の任期は2021年1月20日正午まで、この時までに下院が次期大統領を選べなければ、上院が選ぶ次期副大統領が大統領を代行する。大統領選に参加しなかった<第3の人物>がホワイトハウスに入るシナリオもある。
第2の可能性として、上院が副大統領も選ぶことができなければ、下院議長が大統領代行を務める(1947年の大統領継承法の規定による)。現状では野党民主党のペロシ氏が下院議長である。
これらの場合、1月20日以降に下院が大統領を選出して就任となる。起こりえる可能性はきわめて低いとはいえ、理論的にあり得ないわけではなく、そのための可能性を考え、危機に対処する議論が進んでいる。
両候補の選挙資金について9月末時点の報告が出た(日経新聞22日)。トランプ陣営は、フェイスブックなどSNS(交流サイト)向けの広告を増やし、支出が膨らんでいる。英紙フィナンシャル・タイムズによると、9月の支出は1億3920万ドルとなり、収入(8130万ドル)を大きく上回った。ちなみにアメリカでは政治献金の上限が撤廃されて青天井であり、大口献金者ほど影響力を持つ構図で民主主義の根幹(一人一票の理念)が揺らいでいる。
一方、バイデン陣営は、9月末の手元資金が2%減の1億7730万ドルと、トランプ陣営の3倍近い水準となった。バイデン陣営への資金提供は、8月以降に急増している。民主党陣営と合わせて2カ月間で7億4700万ドル以上を調達しており、トランプ氏と共和党の陣営の合計に比べて6割超高い水準だった。金融・不動産に加え、イデオロギー団体や小口の資金提供が増えている。
【世界規模のコロナ感染拡大】
22日(木曜)、アメリカで感染が拡大、1日あたりの感染者はインドを抜き、再び世界最多となった。とくに中西部のミシガン州やウィスコンシン州で著しい。ニューヨークではブロック別に具体的な対策を講じて対応する。この日、FDA(米食品医薬品局)がレムデシビル(エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウィルス薬)を新型コロナ治療薬として初めて承認した。
同じ日の共同通信【パリ共同】によれば、欧州で新型コロナウイルス感染の第2波が拡大し、米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、感染者の合計が22日時点で560万人を超えた。米国とインドに次ぐ規模で、世界で3番目に多いブラジルを上回る深刻さである。
スペインとフランスでは同日までに、欧州で初めて感染者数が100万人を超えた。各国政府は移動制限や都市封鎖など、再規制を強めている。両国に次いで感染者数が多い英国とイタリア、ドイツのほか、オーストリアやクロアチアなどでも1日当たりの新規感染者が過去最多を記録した。(参考)BS1 ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間(19日~23日)」25日。
【国内のコロナ対策と経済活性化】
23日(金曜)、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)は、都内で会合を開き、先に政府に対して年末年始の「小規模分散型旅行」を国民に呼び掛けるよう提言したことを受けて、初詣など年末年始に大人数が密集する状況を避けるため、休暇取得の分散化を提言した。
これを受け、政府は今年の年末から成人の日の来年1月11日(月曜)までの期間、柔軟に休みを取れるよう、各省庁や企業などに要請することとした。政府は来週にも各省庁や自治体のほか、経済団体を通じて民間企業にも要請する。
西村康稔経済再生担当相は分科会後の記者会見で、「1月11日まで休みとすることを含め、分散して休暇を取ってもらいたいということだ」と説明。「三が日の『密』を避け、感染リスクを下げる対応を呼び掛けたい」と述べた。
また、分科会は今月末のハロウィーンに合わせたイベントに関し、感染防止策が取られていないパーティーへの参加や街頭での飲酒を自粛するよう要請することで一致。オンラインイベントなどの検討も求めた。
感染防止と経済回復の両輪をいかに進めるか。24日(土曜)、東京都が都民の都内旅行に対し独自の補助事業を始め、都内を巡るバスツアーはにぎわいを見せた。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた観光業の回復に向けて、都民の都内旅行に対し、1人当たり1泊5000円、日帰りでは2500円を独自に補助する。「はとバス」の東京駅前の乗り場は、予約客でにぎわった。
このツアーは中央区の浜離宮恩賜庭園を訪れ、クルーズ船での昼食後、渋谷の高層ビルの展望台を巡るプランで、通常1万1800円のところ、「Go Toトラベル」併用でおよそ半額の5170円になる。
来春の大卒内定者(10月1日現在)が11%も減少との厳しい予測を、日経新聞の調査結果を発表した(日経新聞19日)。2桁の減少はリーマンショック以来11年ぶりとなる。とくに産業の裾野が広い自動車や電機の分野が厳しい。
前稿(21)で掲載した以降の新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
19日(月曜) 316人(144人)と78人(24人)
20日(火曜) 481人(143人)と139人(24人)
21日(水曜) 621人(150人)と150人(24人)
22日(木曜) 617人(150人)と185人(24人)
23日(金曜) 748人(151人)と185人(23人)
24日(土曜) 730人(155人)と203人(25人)
25日(日曜) 495人(159人)と124人(28人)
全国の感染者は<微増傾向>にある。冬のインフルエンザと新型コロナのダブルの襲来に備えて、重症者とその可能性の高い高齢者を受け入れる<専門病院>を開設する動きが、愛知県、大阪府、東京都等で加速している。救急現場でも特定の医療機関にコロナ対応を集約する動きがある。ここが最後の砦である。
朗報が届いた。24日(土曜)、核兵器禁止条約(2017年7月、国連で採択)を中米のホンジュラスが批准、これで批准国が50か国に達したため、90日後の2021年1月22日に発効する。実効性に欠ける面も残るが、核兵器を非人道的兵器とする国際規範ができることで、<核なき世界>へ向けた新たな一歩となる。唯一の被爆国である日本の果たす役割が試される。
同じ日、大相撲11月場所の観客数を2倍の5000人に増やすことを決めた。スポーツ等のイベントの規模拡大(以前の規模への復帰)に向けての一歩となろう。
20日(火曜)、ベトナムに次いでインドネシアを訪問した菅首相はジョコ大統領と会談。インドネシアは人口が2億7000万人で東南アジア諸国連合(ASEAN)内の首位に立ち、名目GDPも首位で域内の4割を占め、新型コロナウィルスの1日あたり感染者も首位である。
こうした現状を踏まえて、菅首相が500億円の円借款を供与することを表明した。また鉄道・港湾の建設・運営などインフラ協力を進め、中断している看護師や介護福祉士候補者の往来再開を確認した。注目されるのは安全保障政策、インドネシアは東南アジアでただ一つ日本と2プラス2(外務・防衛担当閣僚会議)を実施しているが、その次回の早期実施で合意した。
なお今回の菅首相の2か国訪問では、出国・帰国時に首相自身がPCR検査や抗原検査を受けた。同行者の人数も最低限に絞り、20日のジョコ大統領との会談の写真を見ると、両首脳がマスクを着け、インドネシアの他の列席者はマスクの上にフェースシールドを着用、二重に飛沫対策を徹底した。また同行記者団も感染拡大防止のため行動等が制限された。
この日、菅首相が野党時代の2012年3月に刊行した単行本「政治家の覚悟」(文芸春秋社)を改訂した新書版が、20日に発売された。そのなかで「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と公文書管理の重要性を訴える記述があった章などが削除されたことで波紋を広げている。
2012年に出版された単行本では、旧民主党政権が東日本大震災時、十全な議事録を残していなかったことを痛烈に批判。「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」と述べていた。
「議事録という最も基本的な資料」の保存の重要性を訴えた箇所の削除は、はたして何を意味するのか。旧著と新著の後継性はもっぱら筆者の判断によるが、一人の政治家として野党時代の考えを首相就任後にがらりと変えるとすれば、説明が必要となる。それがなければ「国民への背信行為」と見なされるであろう。
21日(水曜)、菅首相が小泉環境大臣と会談し、26日に召集される臨時国会での就任後初の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を「2050年に実質ゼロにする目標を掲げる方針」を表明する方向で調整中との報道。
政府は、これまで「50年までに80%削減」や「50年にできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるよう努力」といった目標は掲げていたが、いつ<実質ゼロ>を実現するのか、具体的な年限を示していなかった。温暖化対策の国際ルール<「パリ協定>には、産業革命以前からの気温上昇を1・5度以内に抑える目標があり、実現するには50年までに世界全体の温室効果ガス排出を、森林吸収分などを差し引いて実質ゼロにする必要がある。
すでに欧州連合(EU)が<2050年実質ゼロ>を掲げており、足並みをそろえることで地球温暖化対策に取り組む姿勢をアピールする狙いと見られる。ほかに最大排出国の中国が今年9月、2060年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げたほか、米大統領選では民主党のバイデン候補も2050年までに<実質ゼロ>とする目標を掲げ、<パリ協定>への復帰を掲げている。
【続報3 日本学術会議問題】←<続報>と<続報2>は前号(21)にあり。
10月17、18両日に実施された全国世論調査では、どの媒体の調査でも、菅内閣の支持率が10ポイント前後も大幅に下落した。まだ国会も開催されていない就任1カ月で、10ポイント前後も下落するのは異例である。
今回の内閣支持率の大幅下落は、日本学術会議に対する菅首相の任命拒否問題も一因と考えられる。この調査では、任命拒否問題に関する菅首相の説明について「十分だ」の回答が10%台で、「不十分だ」の回答は70%を超えた。
21日(水曜)、「自民党の日本学術会議のあり方に関するプロジェクトチーム(略称は自民党PT、塩谷立座長)が党本部で開かれ、日本学術会議の元会長を務めた吉川弘之、黒川清、大西隆(いずれも東京大学名誉教授)の3人が出席し、予定の1時間半を大幅に超えて2時間半に及んだ。議論は双方の見解を述べあうことに終始した模様だが、6名の任命拒否の事案は議論にならなかった。
平行して進められている学術会議の梶田隆章会長と井上信治・科学技術担当相(科技相)との会合(後述)が本来の場であろう。これと十分な連携を取った上の元会長の行動なのか。自民党PTは、その意図といい開催場所といい、いかにも自民党ペースである。
日本学術会議の2015年版資料を参考に、米英仏独のアカデミーについて、政府との関係がどのようになっているかを見ると、(1)全米科学アカデミー(会員約2,200人)は独立した非営利組織で、2億ドルといわれる年間運営経費の80%が連邦政府との契約で賄われ、その他、民間からの資金提供も受ける。
ついで(2)英国王立協会(1,430人)は独立した慈善団体で、収入の70%近くが議会からの助成金。その他は出版物収入や寄付など。(3)フランス科学アカデミー(267人)は独立機関だが、運営費の60%は政府が負担、残りは寄付などで賄う。(4)ドイツ科学アカデミーレオポルディーナ(1,500人)は900万ユーロとされる運営費のすべてが公的資金から拠出されている。しかし、独立した非営利組織であり、政府の干渉を全く受けない。
すべて公費で運営されているという点ではドイツがいちばん日本に近いが、いずれの国もかなりの割合で公的資金が投入されている。それでも、独立性、中立性をしっかり保持している。
23日(金曜)、梶田会長が井上科技相と内閣府で会談(副会長3人が同席)、時事通信によれば、同会議の在り方の見直しに向けた検討状況を年内に報告するよう求めた。この後、記者会見した梶田会長は「いろいろ意見交換しながら私の方からも、物を申す形で年末までに結論を出したい」と述べた。
両氏の会談は初めて。梶田氏は、会議が推薦した会員候補6人を菅首相が任命しなかった問題の解決を重視する考えを伝えた。井上氏は任命見送りの理由について「任命権者ではない」として説明しなかった。菅首相が井上大臣に権限を委ね、その大臣が最初の会談で自身を「任命権者ではない」と<逃げ口上>を述べた。政府が<手の内>を見せたも同然である。
井上大臣は「未来志向で今後の会議の在り方をお互いに考えていきたい」と呼び掛け、学術会議に関し「国の予算を投じる機関として本来発揮すべき役割をより適切に果たし、国民に理解される存在であるべきだ」と強調、学術会議を行政改革の対象としていることも述べた。
これに対し、梶田氏は「広く国民との対話を通じて役割をより発揮できるよう取り組みを強化したい」と伝え、「提言機能、情報発信力、国際活動などで検討すべき課題がある。まずは学術会議で検討を進め、年末をめどに状況を報告したい」と述べた。
学術会議は政府に対し、任命を見送った理由の説明と、6名の任命を求めている。梶田氏は会談で「今後の大臣との率直な対話のためにもこの問題の解決が大変重要だ」と伝えた。この重要な点を粘り強く進めてほしい。それには国民の世論をいかに喚起するかにかかっている。
【続報2 米大統領選】←<続報>は前号(21)にあり。
22日(木曜)晩8時からのゴールデンアワー(日本時間の23日午前10時から)に、第59期大統領を決める二人の候補者、トランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会がテネシー州ナッシュビルで開かれ、世界に実況放送された(日本ではNHK総合)。投開票日の11月3日まで2週間を切った最終盤である。
イギリスから独立して最初の大統領がジョージ・ワシントン、就任は231年前の1789年4月30日である。以来、2期8年を務めた大統領を含めて、第58期に第45代大統領に就任したのがドナルド・トランプ氏である。また投票日を「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と定めたのは150年以上前の1845年制定の連邦法。
先月29日の第1回討論会に次ぐ10月15日開催予定の第2回は中止となり、両氏が同じ時刻に別々のテレビ番組で意見を述べた。今回は実質的には第2回で最後のテレビ討論会である。
このテレビ討論会では、①「新型コロナ」、②「家族」、③「人種差別」、④「気候変動」、⑤「国家安全保障」⑥「リーダーシップ」の6テーマに各15分が割り当てられ、各テーマの冒頭、各候補が他の候補のマイクのスイッチが切られた状態で2分間ずつ発言し、その後は双方のマイクのスイッチが入った状態での自由議論とする新ルールが適用された。
テレビ討論会は、CPD(「大統領候補討論会委員会(The Commission on Presidential Debates)」という団体(1987年に設立)が取り仕切り、共和党、民主党両党の担当者と、メディア関係者と話し合いで司会者を決定した。第1回の司会はFOXニュースのベテランアンカーのクリス・ウォレス氏であった。
今回の司会はNBCニュースアンカーのクリステン・ウェルカー氏。朝のニュース番組を担当して「朝の顔」とも言える若手の女性で、アメリカ先住民の父と黒人の母を持つ気鋭のジャーナリスト。第1回が言い合いと混乱に終わったことを教訓として、両候補が横道に逸れる発言をすると、すかさずテーマの本筋に戻るよう要請、また配分時間が過ぎれば発言途中であっても次のテーマに話題を切り替えた。
大荒れとなって「史上最悪」と言われた前回から一転、今回は両候補が初めて本格的に政策議論を闘わせる場となった。なかでも司会の役割が大きく評価されている。なおCNNの世論調査では討論会でバイデン氏が勝ったと答えた人が53%でトランプ氏の39%を上回った。
形式的な手続き面では、主催者と司会の勝利、言い換えればCPDに結集するマスコミ(テレビ)が本来の役割を取り戻したと言えよう。一方、発言内容には両候補とも格別新しいものは見られなかったが、この討論会が投票時の選択と投票率の向上にどう影響するか、事前の予測は難しい。
投票手続きをめぐり異例の混乱がつづいている(日経新聞21日朝刊)。①各地の期日前投票には行列ができ11時間待ちも出ており、②投票所数の削減や身分証確認を厳格化して貧困層の投票を妨害、③共和党が「非公式」投票箱を設置したため州政府が撤去命令(カリフォルニア州)、④ミシガン州では民主党知事の拉致を企てた容疑で民兵組織が訴追され、⑤郵便投票に関する訴訟が乱発、すでに287件に及ぶ等々である。
期日前投票を済ませた有権者が21日までに4300万人を超え、全有権者(18歳以上で<有権者登録>を済ませた者、約2億3000万人)のうち投票率を50%とすれば、投票数の約3分の1に達したことになり、2016年の4倍に当たる。このため集計時間が長引くと予測されている。選挙人538人による投票は12月14日。
11月3日の投開票から2か月余の来年1月6日の集計期限までに結果が確定しない可能性が出てきた。その場合は、2世紀ぶりに(1824年以来初)下院が大統領を選ぶ可能性もあるという。両候補のいずれもが選挙人538人の過半数を取れず引き分けとなった場合、2021年1月3日に召集される新議会に委ねられ、下院が速やかに選挙を実施する(合衆国憲法修正12条による)。
50州の代表が1票ずつ投じ、過半数の26票を取った候補が勝つ。現有議席のままなら共和党が26票でトランプ氏を選べる可能性があるが、票を投じるのは大統領選と同時に11月3日に行われる改選後の下院である。
ここから先は2つの可能性がある。トランプ大統領の任期は2021年1月20日正午まで、この時までに下院が次期大統領を選べなければ、上院が選ぶ次期副大統領が大統領を代行する。大統領選に参加しなかった<第3の人物>がホワイトハウスに入るシナリオもある。
第2の可能性として、上院が副大統領も選ぶことができなければ、下院議長が大統領代行を務める(1947年の大統領継承法の規定による)。現状では野党民主党のペロシ氏が下院議長である。
これらの場合、1月20日以降に下院が大統領を選出して就任となる。起こりえる可能性はきわめて低いとはいえ、理論的にあり得ないわけではなく、そのための可能性を考え、危機に対処する議論が進んでいる。
両候補の選挙資金について9月末時点の報告が出た(日経新聞22日)。トランプ陣営は、フェイスブックなどSNS(交流サイト)向けの広告を増やし、支出が膨らんでいる。英紙フィナンシャル・タイムズによると、9月の支出は1億3920万ドルとなり、収入(8130万ドル)を大きく上回った。ちなみにアメリカでは政治献金の上限が撤廃されて青天井であり、大口献金者ほど影響力を持つ構図で民主主義の根幹(一人一票の理念)が揺らいでいる。
一方、バイデン陣営は、9月末の手元資金が2%減の1億7730万ドルと、トランプ陣営の3倍近い水準となった。バイデン陣営への資金提供は、8月以降に急増している。民主党陣営と合わせて2カ月間で7億4700万ドル以上を調達しており、トランプ氏と共和党の陣営の合計に比べて6割超高い水準だった。金融・不動産に加え、イデオロギー団体や小口の資金提供が増えている。
【世界規模のコロナ感染拡大】
22日(木曜)、アメリカで感染が拡大、1日あたりの感染者はインドを抜き、再び世界最多となった。とくに中西部のミシガン州やウィスコンシン州で著しい。ニューヨークではブロック別に具体的な対策を講じて対応する。この日、FDA(米食品医薬品局)がレムデシビル(エボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウィルス薬)を新型コロナ治療薬として初めて承認した。
同じ日の共同通信【パリ共同】によれば、欧州で新型コロナウイルス感染の第2波が拡大し、米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、感染者の合計が22日時点で560万人を超えた。米国とインドに次ぐ規模で、世界で3番目に多いブラジルを上回る深刻さである。
スペインとフランスでは同日までに、欧州で初めて感染者数が100万人を超えた。各国政府は移動制限や都市封鎖など、再規制を強めている。両国に次いで感染者数が多い英国とイタリア、ドイツのほか、オーストリアやクロアチアなどでも1日当たりの新規感染者が過去最多を記録した。(参考)BS1 ワールドニュース特集「新型コロナウィルスに揺れた1週間(19日~23日)」25日。
【国内のコロナ対策と経済活性化】
23日(金曜)、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)は、都内で会合を開き、先に政府に対して年末年始の「小規模分散型旅行」を国民に呼び掛けるよう提言したことを受けて、初詣など年末年始に大人数が密集する状況を避けるため、休暇取得の分散化を提言した。
これを受け、政府は今年の年末から成人の日の来年1月11日(月曜)までの期間、柔軟に休みを取れるよう、各省庁や企業などに要請することとした。政府は来週にも各省庁や自治体のほか、経済団体を通じて民間企業にも要請する。
西村康稔経済再生担当相は分科会後の記者会見で、「1月11日まで休みとすることを含め、分散して休暇を取ってもらいたいということだ」と説明。「三が日の『密』を避け、感染リスクを下げる対応を呼び掛けたい」と述べた。
また、分科会は今月末のハロウィーンに合わせたイベントに関し、感染防止策が取られていないパーティーへの参加や街頭での飲酒を自粛するよう要請することで一致。オンラインイベントなどの検討も求めた。
感染防止と経済回復の両輪をいかに進めるか。24日(土曜)、東京都が都民の都内旅行に対し独自の補助事業を始め、都内を巡るバスツアーはにぎわいを見せた。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた観光業の回復に向けて、都民の都内旅行に対し、1人当たり1泊5000円、日帰りでは2500円を独自に補助する。「はとバス」の東京駅前の乗り場は、予約客でにぎわった。
このツアーは中央区の浜離宮恩賜庭園を訪れ、クルーズ船での昼食後、渋谷の高層ビルの展望台を巡るプランで、通常1万1800円のところ、「Go Toトラベル」併用でおよそ半額の5170円になる。
来春の大卒内定者(10月1日現在)が11%も減少との厳しい予測を、日経新聞の調査結果を発表した(日経新聞19日)。2桁の減少はリーマンショック以来11年ぶりとなる。とくに産業の裾野が広い自動車や電機の分野が厳しい。
前稿(21)で掲載した以降の新型コロナウィルスの感染状況を一覧する。前者が全国の感染者(陽性者、カッコ内は重症者)、後者が東京(同左)。
19日(月曜) 316人(144人)と78人(24人)
20日(火曜) 481人(143人)と139人(24人)
21日(水曜) 621人(150人)と150人(24人)
22日(木曜) 617人(150人)と185人(24人)
23日(金曜) 748人(151人)と185人(23人)
24日(土曜) 730人(155人)と203人(25人)
25日(日曜) 495人(159人)と124人(28人)
全国の感染者は<微増傾向>にある。冬のインフルエンザと新型コロナのダブルの襲来に備えて、重症者とその可能性の高い高齢者を受け入れる<専門病院>を開設する動きが、愛知県、大阪府、東京都等で加速している。救急現場でも特定の医療機関にコロナ対応を集約する動きがある。ここが最後の砦である。
朗報が届いた。24日(土曜)、核兵器禁止条約(2017年7月、国連で採択)を中米のホンジュラスが批准、これで批准国が50か国に達したため、90日後の2021年1月22日に発効する。実効性に欠ける面も残るが、核兵器を非人道的兵器とする国際規範ができることで、<核なき世界>へ向けた新たな一歩となる。唯一の被爆国である日本の果たす役割が試される。
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