fc2ブログ

人類最強の敵=新型コロナウィルス(7)

 4月22日(水曜)、緊急事態宣言発出から2週間、掲載(6)の末尾で「この間の感染抑制策を点検し、今後の対策を立てるため、夕方から政府対策会議が開かれる」と述べた。

 政府対策会議とは「新型コロナウィルス感染症対策本部」(1月30日閣議決定)の会議(本部長は内閣総理大臣)で、その直前に開かれた政府専門家会議(2月14日対策本部決定、座長は脇田隆字・国立感染症研究所長、副座長が尾身茂・独立行政法人地域医療機能推進機構理事長)の提言を基に判断する。

 専門家会議は、特別措置法に基づく4月7日の緊急事態宣言から2週間を経た時点で、これまでの状況を分析、東京都の主要駅の人口が69~87%減少するなど、人の移動が大きく減ったとする一方、データからは8割削減は達成されているとはいえないと指摘。そして帰省や飲み会をオンラインで行うなど人と人との接触を8割減らす「10のポイント」をまとめた。

 絵入りの「10のポイント」は、今さらこんなものをという声もあるが、<3密>が浸透してくるにつれて、もう少し詳細に知りたいという要望に応えたとも見られる。例えば、3「ジョギングは少人数で、公園は空いた時間、場所を選ぶ」はより具体的であり、5「飲み会はオンラインで」は今後、流行りそうである。

 専門家会議は「現状と課題」につづけて、以下の「提言」を行った(要約)。
 (1)日本ではこれまで、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするとともに、「医療崩壊防止」並びに「重症化防止」による死亡者数の最小化を図るため、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「② 患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「③市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。

 (2)緊急事態宣言が発出された状況下、「③市民の行動変容」については、都市部を中心に感染のリスクが拡大している中、「3密」に代表されるハイリスクの環境を徹底して回避する行動制限に加え、接触の8割削減により蔓延区域の拡大を収束させることが求められる。

 (3)「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」については、医療機関の役割分担の促進、PCR等検査の実施体制の強化、保健所体制の強化及び業務の効率化等に関し、都道府県知事等による更なるリーダーシップが求められる。

 (4)対策のフェーズが変わる中、ひきつづき蔓延を食い止め、「医療崩壊防止」並びに「重症化防止」を進めて死亡者数の最小化に力点を置きつつ、今後の対策を提言する。

 さらに5月6日(振替休日)を緊急事態宣言の終期を延長するか否かの判断基準を明らかにした。重視する主な基準は(1)国内の新規感染者数の増減、(2)人と人の接触8割削減の達成度、(3)医療体制の逼迫状況、の3つであり、政府は5月早々に、これらを分析した上で、47都道府県に発令した宣言を一部地域で解除できるか見極める。

 以上の専門家会議の資料と<提言>計30ページ(A4)を基に、同日夕方、政策会議が官邸で開かれ、その結果を安倍首相が記者発表した。とくに上掲(2)の「接触の8割を削減するという市民の行動変容をいかに徹底するか」では、来たる大型連休(GW)中の遠距離旅行自粛に触れ、<8割減>への協力を強く要請した。

 23日(木曜)朝、女優の岡江久美子さん(63歳)が、新型コロナウイルス肺炎により亡くなったニュース。3日に微熱があり、自宅療養に努めていたが、6日に容態が急変、緊急入院後はICU(集中治療室)で治療を続けていた。

 この日、小池都知事はさらに強く<ステイ・ホーム>を強調、25日(土曜)から5月6日(振替休日で、緊急事態宣言の最終日)の12日間、みなで心を一つにして<8割減>を達成したい、「買い物は3日に1度に!」と呼びかけ、外出自粛という今の我慢・忍耐が感染抑止の鍵になる、と繰り返し要請した。

 都知事の呼びかけに、スーパーの経営者たちから、それぞれの工夫や反応が出てきた。商店街も動き始めた。12日間のGW中、感染拡大をいかに抑止するか、この方向に向けて多様な対応が生まれるであろう。

 経済界からも「この2週間の行動こそ最大の経済支援」との声があがり、各企業で社員にたいし、進んで連休を取得するよう呼びかけるという。

 24日(金曜)、安倍首相は月内にも医療機関にマスクやガウン等の医療防護具(サージカルマスク1500万枚等)を優先的に届けるとした上で、不足状況を把握できるネットシステムを整え、5月中の稼働をめざすと対策本部で表明した。これまで個別の医療機関がメーカーに発注してきたものを、国が一元的に管理し、空病床、医療用防護具等を把握できるよう、補正予算に盛りこむ。

 この日、政府が1世帯当たり2枚のマスクを配る政策(アベノマスクと揶揄された)が始まったが、郵送されたマスクに汚れや異物の混入がある等のクレームが続出した。郵送費を含めて466億円が費やされたもの。

 マスクは国内の民間企業が90億円で請負い、中国やベトナム等で生産された。厚労省は21日、納入会社は興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーションと公表したが、残り1社は27日になって菅官房長官が福島市にあるユースビオ社と明らかにした。24日、納入2社が未配布分を回収、配布は中止されている。

 この日は、たまった録画の一部を観る時間があった。その1つが2008年の鳥インフルエンザ(H5N1)肺炎の経験を基にした「調査報告 新型インフルエンザの恐怖」(NHKスペシャルの再放送)である。12年前、インドネシアで発生したニワトリ起源のウィルスがトリからヒトに感染し、それが変異してヒトからヒトへと拡大していった新型インフルエンザの正体を究明し、抑え込んだ事例の報告である。

 WHO(世界保健機構)から派遣されて現地に入り、鳥インフルエンザウィルスの正体を突き止めた進藤奈邦子医師の姿があった。1990年、東京慈恵会医科大学卒、国立感染症研究所主任研究官を経て2002年からWHOへ、いまWHOシニアアドバイザーを務める。

 ちょうど連載「コロナと世界」(日本経済新聞)の22日号に掲載された進藤医師のインタビュー「科学信じ <新常態>に備え」を読んだばかりであった。ちなみに<新常態>(ニューノーマル)とは、変化のテンポが過去にない速さで進む現在、新型コロナは決して異常事態ではなく新しい常態だという意味である。進藤医師は「対策の根本は科学を信じること」と断言する。

 もう一つの番組は、NHKBS1スペシャルの「シリーズ コロナ危機」の1つ、「地域経済 逆境を乗り越える」(50分)。各地から10人ほどをネットで結び、直面している困難やその解決へのヒントを語りあう番組である。そこでは<非接触>をキーワードに種々の工夫が示された。

 また予約キャンセルの続く旅館経営者に対して、欧米で使われ始めた造語<ワーケーション>(work+vacation=worcation)の多様な実態から、旅館の部屋を臨時の仕事場として貸し出す方法もあるのではとの意見も出た。なお、このシリーズの姉妹編に「グローバル経済 複雑さへの挑戦」がある。

 大型連休中は仕事で外出する人は減る。経団連は12日間の連続休暇を取るよう提案した。しかしレジャー等で外出する人々をどう抑制するか、8割減をいかに実現するか。

 都知事は「この12日間をGWならぬ<いのちを守るステイホーム週間>として欲しい」と呼びかけ、各地の知事も声を合わせる。「…今こそ<正念場>です。人と人の接触を8割減らしていただきたい」。そして心を鬼にして「今年の帰省は控えて」と呼びかける。

 世界で15億人余のこどもたちが休校措置のなかで在宅の日々を余儀なくされているという。世界人口は76億余人(刻々と増加する世界人口を示す動く表示板がある)、その約2割に当たる。パンデミック(感染の世界的爆発)が生み出した深刻な現象の一つである。

 テレビ朝日「報道ステーション」からも5人目の感染者が出た。メインキャスターの富川悠太アナウンサー(43歳)が12日に感染を公表、数日間、発熱があったが平熱に下がったとして、6日~9日の番組に通常通り出演したことで議論を呼んだ。富川アナは2度のPCR検査で陰性となり、21日に退院。

 25日(土曜)、事実上の大型連休(GW)が始まる。首相や知事たちの懸命の呼びかけが奏功したか、快晴にもかかわらず人出は一挙に減少。昼間の新幹線の自由席乗車率はわずか10%以下、湘南海岸も人がまばらになった。

 一方、身近な生活圏のスーパー、ホームセンター、公園等への減少率は20%止まりだったという。スポット別の減少率だけで<8割減>の成果を計ることは難しいが、今後の対策の指針にはなる。ちなみにパリ市では自宅から1キロ以内の散歩やジョギングを認めてきたが、感染拡大傾向が変わらないとして、4月8日から日中の屋外運動も禁止した。

 この日、全国に約300万社ある中小企業が休業要請に応じ、前年の賃金の100%水準の休業手当を支払う場合、国は雇用調整助成金で全額補助するとした。失業者を増やさないための重要な政策である。

 午後のニュース。このウイルスに感染した内閣官房職員が、発熱する2日前に西村経済再生担当大臣の視察に同行していたことが明らかになり、新型コロナ対策担当大臣も兼任する西村大臣は自宅待機を決めたとのこと。晩のテレビには自宅から遠隔出演していた。

 政府は25日、感染拡大の防止策として、押印や対面など行政手続きの慣例や法規制を見直す方針を固めた。役所の窓口申請や、申請を目的とした出社による感染を防ぐよう、27日の経済財政諮問会議で首相が関係省庁に指示した。緊急経済対策の助成金や給付金の手続きに反映させたい考えである。

 26日(日曜)、2日つづけて人出が急減した。一人一人が<かからない>と<うつさない>の両面を持つことを自覚し始めた証拠かもしれない。

 8月に開催予定の高校総体(インターハイ)の中止を全国高等学校体育連盟理事会が決定。「競技中だけでなく移動や宿泊時の感染リスクも大きい。…臨時休校により十分な練習時間の確保が難しく怪我や事故の発生も危惧される」として「選手の安全確保が困難」を理由とした措置である。1963年の発足以来、初の中止である。

 PCR検査を広く行う方針を打ち出したものの、なかなか進まない。その作業に歯科医師も時限的に参加できるよう、厚労省がやっと制度を変更したが、研修等になお時間を要する模様である。

 テレビの各局では、経済面の被害に対抗する現場の取組が紹介されている。いくつか順不同で並べる。①食堂休業や学校給食の中断で行き場を失った野菜類(フードロス)を活かすドライブスルー八百屋の試み。②千葉県柏市による<あすチケ柏>の試みは、感染収束後に使える食事券を事前に販売し、休業業者の資金援助に回そうというもの、既に2000万円が集まった。③タクシー会社による買い物代行は、重い日用品の入手に助かると高齢者から大歓迎。④東村山市の観光バス会社が運休で空いた50人乗りの車両を使い、都心への通勤者を1台24人の定員で新宿駅と東京駅まで運ぶサービス(無料)を開始、会社が存続する限り感染収束までやりたいと社長。⑤演奏会の中止という逆境に<在宅オーケストラ>や<テレワーク演奏会>の試み。

 「新型コロナウィルス」等のキーワードでネット検索すると多くの記事が出て来る。その1つに星 暁雄「新型コロナ後の世界、そしてブロックチェーンと人権」(2020年3月31日)があった。「…目の前にある技術によって、私たち全員の長期的な課題を支援できる可能性についての話…パブリックブロックチェーンと匿名化技術は、インターネットの上で信頼できる形で個人のエンパワーメントと国際的な連帯を実現するツールとなるはず…」と述べる。

 その第1の対立軸は歴史家ハラリのいう「… スマートフォンや街頭や屋内の至る所に設置された顔認証カメラを駆使して個人を監視する全体主義的な監視社会か、市民のエンパワーメント(支援)か…」であり 第2の対立軸が「国家主義的な孤立か、世界的な連帯か」である。興味ある方はお読みいただきたい。

 27日(月曜)、緊急事態宣言(7日)から3週間目である。種々の指標から見て、その効果は表れているのか。連休明けの朝の出勤時には主要駅で人が溢れたが、例年よりは少ない。

 東京都の感染者数は、前々日25日分が103人、前日26日分が72人、夕方に発表された27日分が39人と減ってはきたものの、「…月曜は数字が小さく出るため、直ちに減少と判断することはできない。」と都知事。この場に同席した西浦教授(北海道大学)は、「…明確に減少し始めているが、思ったほどの速度ではない…」とし、みなさんの努力と辛抱の成果なので、ひきつづき<8割減>に努めていただきたいと応じた。2週間前すなわち緊急事態宣言から1週間後の実態を示す数字として、一定の効果は出てきたように思う。

 この日の午後、山中伸弥教授(京都大学)は自身の公式サイト「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」で「非常に多くの陽性者を見逃している可能性が高いと推定される」と指摘した。陽性率とは、PCR検査をした人数に対して、どれだけ陽性者が出たかを示す割合である。東京は検査数9827人(1月15日~4月25日)に対し陽性者数3850人で、陽性率は約40%と異常に高い。ちなみにアメリカは20%程度、ドイツが7%。検体数の多い韓国は3%である。
 この日から衆参両院で補正予算の審議が始まり、30日(木曜)には成立の見込み。なかでも注目を集めるのが一人当たり10万 円の<特別定額給付金>であり、27日現在の居住者(国籍・年齢等を問わない)が受給資格を持つ。法案成立は30日の予定だが、各自治体の動きは速く、地元金融機関の協力で30日から実施の自治体もある。

 日銀は、経済の悪化を食い止めるため「できることは何でもやる」として、国債の買い入れ無制限で金利上昇圧力を抑え、社債等の買い入れ枠3倍で企業の資金繰り支援を決めた。米欧の中央銀行は早くから実施しているが、これを日銀の出遅れと見るか、日本経済の余裕と見るか。

 英国のジョンソン首相が感染後1カ月ぶりの26日、官邸に復帰したとのニュース。一時は集中治療室に入り、12日に退院、その後は首相の公式別荘で静養していた。

 欧米各国が経済活動再開へと動き出した。米ニューヨーク州は一定条件(新規入院者が14日連続で減少等)が満たされれば、第1段階として建設・製造業の再開を認めると表明。イタリアは5月4日から州内の人の移動を許可、製造業・建設業の再開を認めるほか、レストランもテイクアウトのみ認める。いずれの場合も、感染が拡がれば緩和策を見直す。

 安倍首相は規制改革推進会議を招集し、<8割減>達成を阻む一因とされる行政手続きの<対面・押印・書面の3原則>を解除する方針を示した。例えば休業手当の費用を賄う雇用調整助成金の手続きに適用されれば、窓口に一斉に駆け込む<3密>が防げる。

 週明けの月曜からテレビやラジオのトーク番組の大きな話題は、5月6日で宣言を解除するか、延長するか、延長ならいつまでか…に移ってきた。もとより一斉解除はあり得ない。どの業種・業態から段階的に解除するか。そもそも上掲(2)<8割減>の成果が分かるのは2週間後であり、5月6日に14日を加えた20日ころまではデータが揃わず判断が難しいとの意見。

 休校措置の解除を、いつ、どの地域から、どの学年から始めるか。大括りには47都道府県知事の判断であるが、市区町村の教育委員会が決定の権限・義務を持つ。都道府県で異なる状況下にあり、各知事が実情に応じて判断すべきとの一般論を前提にして、地域差も都道府県単位のほか、例えば東京都の感染者のいない離島では、水際対策を前提に進めても良いとする判断もある。また小学校から中学へ、中学から高校へと移る学年に早く慣れるため、小学6年生と中学3年生から先に始めては等の意見も出た。

 こうした有識者の自由な意見には傾聴すべき妙案が多々含まれる。これを政策決定者がいかに活かすか。<上意下達>の独裁主義とは異なる民主主義の、国家と国民の関係、地方自治の原則、自由な情報の流通とその信頼度を高める相互批判の精神等々はきわめて大切で、これこそが民主主義の誇るべき特性の一つである。

 むしろいま問題なのは、この緊急事態において、政府、政治家、行政に対する国民の<信頼>が万全とは言えないことである。一人あたり10万円の給付が決まるまでの経過とそれに要した長い時間、PCR検査を増やすべしとの提言に対応が遅い厚労省について等、もやもやした不満や不安が根強くある。

 さらには本稿の冒頭で述べた22日開催の政府対策会議(首相が本部長)と科学者で構成する専門家会議との関係についても、すっきりしないとする意見がある。互いに判断を依存しあっている、判断の根拠となる議事録の開示がない(議題と資料は開示されている)等々。

 28日(火曜)、昼までの段階では目立った動きは見られないが、一部の知事から学校の9月入学制度の提案が出た。またPCRの検体採取を綿棒行うのではなく、唾液を使った簡便で安全な方法を米シカゴ大学が開発したとするニュースが入った。

スポンサーサイト



人類最強の敵=新型コロナウィルス(6)

 前回の本ブログ「人類最強の敵=新型コロナウィルス(5)」(2020年4月15日掲載)では、前日の14日までの状況を述べるに留めたが、15日(水曜)は朝から次々と新しいニュースが入った。事態の進展がさらに加速している。

 15日(水曜)午前、厚労省クラスター対策班の西浦博教授(北海道大学大学院医学研究院社会医学分野衛生学教室)が記者発表し、「何も対策を取らない場合、国内の重症者が累計で約85万人に上り、その半数が亡くなる恐れがある」と試算を示した上で、「人と人との接触を8割減とすれば2週間で効果が出る」と改めて強調した。なお教授は「少なくとも7割」とは言っていないとも付言した。

 「…半数が亡くなる恐れがある」とすれば、実際には約42万人の死者が日本で発生するという計算になる。現段階で世界の死者数が約15万人であり、その約3倍という計算上の恐ろしさが迫ってくる。そのうえで西浦教授は「人と人との接触を8割減とすれば2週間で効果が出る」と、改めて<8割減>の意義を強調する。その根拠が<再生産数>(1人の感染者が感染させる人数)であり、これが1を下回れば減少に向かう。
 クラスター対策班を率いるのは押谷仁教授(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野)である。「瀬戸際の攻防」(NHKBS1 4月11日)の再放送を18日に改めて視聴、以下に整理した。押谷教授は1999年〜2006年、世界保健機関 (WHO) 西太平洋地域事務局感染症対策アドバイザーをつとめ、2002.年に始まるSARSコロナウィルスの感染症防止等に貢献した。
押谷研究室のホームページの「分野の紹介」欄では、以下の4つの教育研究理念を強調(抄録)、多くの有益な人材を育成してきた。(1)感染症のコントロールに役立つ研究、(2)フィールドでの研究、(3)広い視点からの研究、(4)グローバルな視点からの研究。

 クラスター対策班における押谷教授の新型コロナウィルス(COVID-19)に対する基本戦略は、私の理解する限り、(1)ウィルスの正体を解明し、最適の感染防止策を講じること、(2)現状の医療資源(検査条件の脆弱さ、人口に対して少ない人工呼吸器・集中治療室等)を踏まえて、ウィルスの弱点を突く方策を見つけだすこと、(3)社会経済の後退と感染抑止のバランスを考えて最適の方針を提言すること、この3点に集約されよう。

 武漢における感染拡大のデータを基に、このウィルスはこれまでにない特性を持っていることを突き止めた。(1)強力な感染力を持つが、重症化するのは約2割であること、(2)約8割の感染者は無症状・無自覚ないし軽症で終わるため、多くの人に知らぬ間に感染させる可能性が高いこと。

 ついで日本国内での感染拡大に伴う保健所等から集まるデータの分析を通じて、(3)感染経路不明の<孤発例>から、<密閉>、<密集>、<密接>という<環境>を避ける対処法を提言する(のち<3密>として行動規範の一つとなる)。

 典型的な<3密>の場所の代表として、夜間のバーやナイトクラブ等があることを突き止めたのを受けて3月30日、小池都知事が記者発表で「感染経路を追いきれない約3割の感染者は夜間のカラオケ店・ライブハウス、バーやナイトクラブを媒介としている可能性が高いため、そこへの出入りを控えて欲しい」と要請した(本ブログ4月1日掲載の(3)を参照)。都内の感染者が13名の日である。

 それでも感染者が増大する。4月2日、クラスター対策班の今村剛朗助教(東北大学大学院の押谷研究室)が都庁を訪れ、吉田道彦部長(福祉健康局感染症危機管理担当部)にデータを示して協議を進めた。都は次の手を打った。

総勢50人からなる厚労省クラスター対策班(2月25日に発足)は、押谷教授の戦略と西浦教授の数理モデルの活用により分析を進めると同時に、それを熟知したメンバーが各地で起きているクラスター(集団感染)に対する具体的対策を伝えるために派遣される。戦略・戦術の立案とその伝達を不眠不休で担って約45日、自宅へ一度も帰っていない人もいる。

この大役を50名ほどで、長期にわたって担いきれるのか。各地の<医療崩壊>も危惧されるが、クラスター対策班という<司令部の崩壊>がいっそう危惧される。代替要員がいない分野である。

 15日午前の上掲の西浦教授による「手をこまねいていれば死者40万人超も起こりうる」の発言を受け、安倍首相も小池都知事も「人と人の接触を8割減とする」要請をくり返すと同時に、行動自粛の具体的方策を表明した。

 前回の本ブログ(5)で述べた4つの手段、すなわち①手洗い励行、②マスク着用による飛沫・咳エチケット、③<3密>を避ける行動とその典型的な場所のバーやナイトクラブ等の営業自粛要請、④「人と人との接触の8割減」のための外出自粛に加え、新たに⑤大型連休を控えて人の移動の自粛。ホモルーデンス(遊ぶ動物)とも言われるヒトの特性をしばらく我慢して自粛を!

 15日に観た録画「クローズアップ現代」は、宮田裕章教授(慶応義塾大学大学院医療政策・管理学教室)の取材をもとに、感染者数の調査では補いきれない要素、すなわち発熱している人の調査や人の流れ等を、ビッグデータを活用して進めることの意義を語る。

 宮田教授のブログ論考「緊急事態宣言下で今、検討すべきこと」(4月12日付け)は述べる。厚労省と協定を結び、LINEを通じて全国8300万人にプッシュ通知を出し、発熱などの症状の有無と職業や住所などの属性を聞くと、第1回(3月31日~4月1日)は約2453万人から応答があり、4日以上発熱していると答えた人が全体の0.11%(約2万7000人)に上ったという。この数は、14日午後現在の感染者7645人の約3倍半に当たる。

 PCR検査(検査時の陰性か陽性かを判定する)の陽性者では把握しきれない<外側の状況>を把握すれば、各都道府県に発生する医療需要を予測、事前準備に役立つ。これを契機として感染者を軽症・中等症・重症に分ける方法が生まれ、全員を病院に収容する現行方式を改め、病床不足による医療崩壊を回避する方式に切り替えることができる。

 同じ調査から次のことも分かってきた。すなわち3月の日本の交通量は減っているが、飲食を含む娯楽施設への外出はあまり減っていない。休日の活動量は全体的に下がっているが、平日の活動はそれほど減少しておらず、とくに娯楽施設の利用は、木・金曜にかけて増加している。

 16日(木曜)の日本経済新聞は、一面トップで「ICU、43都道府県で不足恐れ コロナ重症者ピーク時推計」を掲げた。新型コロナウィルスの重症者(急激に悪化する可能性の患者を含む)をいかに早く発見し治療にあたるか、これを基本として少ないPCR検査を有効に使う態勢をこれまで採って来た。ところが最後の砦となる重症者を治療する集中治療室(ICU、全国で5700床)が不足する恐れがある、と。

 人口10万人あたりのICU病床数を見ると、最大の死者を出しているアメリカが35床、ドイツが30、フランス・イタリア・スペインが約10床、これに対して日本は5床であり、医療人材も足りない。ICUを必要とする重症者をいかに減らすか、そのために軽症・中等症の感染者をどう振り分けるか。

 16日(木曜)の晩、安倍首相が非常事態宣言の対象を全国に拡げる(5月6日まで)と表明した。とくに大型連休中の移動(不要不急の帰省や旅行)を最小化してほしいと強調する。なかでも北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県は、東京等7都府県と同程度に蔓延しているとし、合わせて13都道府県を<特定警戒都道府県>に指定した。国をあげて感染防止にとりくむ姿勢を示すものとして大きな意義がある。

 同じ日、政府は減収世帯に30万円を支給する従来の案を撤回し、国民一人当たり一律10万円を給付するとした。所得制限を設けないため財源は12兆円。自民党内にも従来の案に異論があり、そこに与党・公明党の強い要請が加わった結果である。これを補正予算に取り込み、4月中の成立をもくろむ。

 17日(金曜)、東京都の感染者は201人で過去最多を記録し、全国では感染者が9645人で1万人に迫る。死者は196人となった。

 緊急事態宣言が全国47都道府県を対象に拡大されたのに伴い、開校した学校をふたたび休校とする県が対応に追われる。特定業種に休業要請を行う県がある一方、予定はないとする県もある。感染者ゼロであった岩手県は、県外からの客を想定し休業する居酒屋も現れた。

 危険な作業に従事する医療者へのアビガン(200万錠の政府備蓄を目ざす)の配布を強調する学者もいる。ウィルス増殖(複製)を阻止する薬の早期投与こそ決め手、これが医療崩壊を防ぐ一助となると述べる。ところが増産に時間がかかり、また治療にはインフルエンザの3倍量が必要と分かり数値目標の見直しに迫られた。

 この日、外出抑制のため大手ゼネコンの大林組が7都府県で、また鹿島は全国で手掛ける工事を中断するため、発注者と協議に入ると発表した。現場社員や下請け業者等、建設現場で働く作業員は全国で331万人(2018年)、地方では二次、三次の下請け業者も多い。在宅勤務ができない作業員の感染防止と安全を最優先する決断である。

 外出自粛や学校の休校により、これまでの日常生活が大きく変わった。それに起因する異常事態や障害が多方面で起きている。児童・生徒たちは運動不足になるほか、生活時間を律することが難しくなり、スマホを使う時間が増えたとする回答者が中高生で7割以上、大学生も6割以上とする調査が出た。
 
 家庭内暴力(DV=ドメスティック・バイオレンス)の増加や深刻化が懸念される。先行する英仏では都市封鎖の中、ストレス増加による家庭内暴力が2~3割も増加したという。17日、橋本女性活躍担当大臣は相談体制を拡充し、24時間対応の新たな電話窓口を設けると発表した。

 里帰り出産も、感染拡大を伴いかねないとして自粛の対象となり、戸惑う妊婦も少なくない。日本産婦人科会が相談窓口を開き、対応できる病院・クリニックの連絡先等をいちはやく公表した。

 想像以上にテレビ依存率が高く、チャンネル権争いも増えている。スポーツの試合中止でスポーツ番組が無くなった。視聴者に元気を送ろうと歌手たちがネット・リレーで歌う。新番組の制作が難しくなったテレビは再放送や<総集編>の工夫を始めた。

 新型コロナウィルスの蔓延阻止と落ち込んだ経済活動の再開。感染防止と経済活動という相矛盾する関係をいかに調整するか。ウィルスにより世界はどう変わるのか。経済にとどまらず、政治、社会、文化や人間観・価値観等の変化をめぐり、識者が発言を始めた。いずれも重要な課題である。

 パンデミックの実態を歴史のなかに探ろうとする記事も出始めている。日本経済新聞は「忘れられたパンデミック スペインインフルエンザ」を15日~17日にかけて上中下で連載。各回の見出しを挙げると、(上)が「出征軍から世界拡大 100年前 死者最大1億人」、(中)が「2度の襲来 一村全滅 日本人の4割感染」、(下)が「第2波への備えを 過去を知ることが教訓」。

 このころ、先行して感染抑止の措置を講じたドイツで新しい動きが出てきた。7年前の2013年に連邦議会(下院)がまとめた報告書(A4×30ページ)に従い、ただちに在宅隔離に踏み切ったという(「日本経済新聞」15日朝刊)。おかげで感染者数の増加は早期に横ばいに転じた。

 その成果を踏まえ、メルケル首相は15日、記者会見で、週明けの20日から広さ800平米以下の小売店(自動車販売、書店等)の再開を認め、5月4日からは学校の一部授業を再開するが、外出制限は5月3日まで延長すると述べた。それでも日本よりはるかに厳しい内容である。

 アメリカでも17日(金曜)、トランプ大統領が感染者数はピークを過ぎた(14日間減少傾向にある)として、3段階で外出制限を緩和する指針を示した。店舗、職場、学校、その他に分け、第1段階から徐々に規制を緩め、第3段階で全面的に解除するという。あくまで<指針>であり、どのように実施するかは各州の知事によるとした。ドイツと比べアメリカの感染者急増は激しく、早期の解禁は次の流行を招きかねないとの慎重論・反対論が根強くある。

 近隣諸国の動きを幾つか見ておきたい。韓国では、いちはやく多数のPCR検査を行い、感染拡大の抑止に成功した功績を背景に、15日に行われた議会総選挙で文在寅(ムンジェイン)大統領の与党<共に民主党>が圧勝した。輸出中心の韓国経済は史上類を見ない危機に直面しているとして、韓国経済界には議会に期待する一方、政府による規制強化を憂慮する声がある。

 台湾では独自の工夫により感染拡大を防いでいる。「台湾、新型コロナ初動迅速 拡大食い止め一定の成果 原点は19年暮」(日本経済新聞19日)によれば、防疫の司令塔機関「中央感染症指揮センター」が昨年暮に武漢で発生した原因不明の肺炎に注目、年明け元日に各医療機関に警告メッセージを送る一方、大晦日から武漢発の直行便の検疫に着手、感染者増大を食い止めた。

 18日(土曜)、日本国内の感染者が累計で1万人を超えた。9日間で倍増の計算で、オーバーシュートの直前で踏みとどまっている。都内の感染者は181人。感染経路不明が増えており、このウィルスの特性が不明な現在、大きな不安要素となっている。

 この日、ドイツから報告が届いた。開発まで時間がかかるワクチンに代えて、完治患者からの献血を使い、その血漿を投与(接種)する方法が有効ではないか、というものである。免疫をもったと考えられる完治者が、つづく感染者に献血を通じて貢献できるかもしれない。医学的検証を急いでほしい。

 19日(日曜)、「新型コロナに揺れたこの一週間」(BS1)を観た。世界の放送局をつなぎ、4月13日(月曜)から17日(金曜)までの世界の動きを伝え、ふだんのニュースから漏れがちなものを多く収録していた。印象に残ったものを3つ。
 (1)サウジアラビアがエチオピアからの数千人の労働者をPRC検査なしに送還すると表明、医療施設の乏しいエチオピアは急きょ準備を進める。(2)50万人を擁するシリアの難民キャンプでは医療施設がなく、飲み水はおろか手洗いの水もなく、感染が起きればひとたまりもない。(3)南米コロンビアでは買い物等のための外出許可日を男性が奇数日、女性が偶数日とし、開始以来2週間で違反した8万人に罰金刑が課せられた。

 市中感染もさることながら、全国の病院で院内感染が増えている。それに伴い医療従事者が自宅待機等により医療現場から撤退、救急も新規入院も断らざるを得なくなりつつある。

 また少ない員数でギリギリの保健所は、感染経路の調査が十分にできず、クラスター(集団感染)の発生実態を把握しきれない。そのために、情報を基に分析する厚労省クラスター対策本部(上掲の押谷教授たち約50人)が次の一手を打つためのデータが足りない。

 この頃から感染者が抗体を持ったか否かを調べる<抗体検査>の必要性が各方面から出始めた。PCR検査が検査時の陽性か陰性かを示すのに対し、抗体検査は過去の感染歴と新たに獲得した抗体の有無を調べるのに有効である。

 この方法で、無症状または陽性から陰性となった感染者が抗体を持っているか否かが分かる。これが他人に感染させないことを意味するのであれば、安心して社会復帰できる。医療現場の限られた分野には戻ることができる。

 アメリカのロサンゼルス郡では、無作為抽出の800余人の抗体検査を実施、PCR検査で判明した感染者数の数10倍の抗体保持者(感染した上で抗体を持つ者)がいた計算になると発表があった。

 最多の感染者・死者を出したニューヨーク州では、クオモ知事がデータなしに規制解除はできないとして、無作為抽出で1日に2000人の抗体検査を始め、1週間に1万4000人を行うと表明した。

 抗体検査について欧州では、オランダは積極的、フランスは消極的と意見が分かれている。また韓国では陰性から再陽性に逆転した事例が多数あり、原因を鋭意調査中という。新型コロナウィルスの場合、抗体形成までの時間や抗体の持続期間についてデータが少なく、集団抗体が形成される割合も不明である。まだまだ未知への闘いがつづく。

 日本赤十字社は献血量の急減にSOSを発した。献血車が入れる大学等の入構禁止のためであり、代わりに全国の日赤支社に献血を…と呼びかけるよう要請している。病院では新鮮な血液を求めている。

 市中感染、院内感染・施設内感染についで、家庭内感染が新たに問題になってきた。とくに乳幼児を持つ家庭内では保育が不可能となり、一家離散に至る恐れがある。

 20日(月曜)、緊急事態宣言を全国に拡大(17日)して初めての月曜日、朝(出勤時)の人出は地方で減り方が鈍く、とくに現業の多い中小企業の集積地(大田区の一部や東大阪の一部等)では一部で逆に増えている。ドコモ・インサイトマーケティングが提供する500メートル四方ごとの滞在人口を1月20日の同時刻と比較したもの。しばらく推移を見守りたい。

 この日、東京大学では4000を超える講義の遠隔授業が始まったとするニュース。「対面と遜色ないない内容になった」という。同様に慶応義塾大学が4月30日、早稲田大学が5月11日の開始を予定。一方、サーバーの負荷の増大が懸念材料である。また学生の技術習熟の支援や必要な機器購入費の支援等も求められる。

 国立感染症研究所が、この日のホームページで新しい「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年4月20日暫定版)」を公開した。クラスター(集団感染)の可能性を示す<濃厚接触者>の定義を厳格にし、従来の「患者の発症日以降」を「発症2日前から」に変更、「マスクなしに1メートル以内で15分以上会話し、相手が2日後に発症すれば」濃厚接触者とした。今後これが保健所等の追跡調査の基準となる。

 安倍首相を先頭に、各知事が声をそろえて強調する。4月29日(昭和の日)から5月6日(こどもの日の振替休日)の大型連休中の人出をなんとか抑えたい、家族連れの遠出も控えてほしいと、と。

 21日(火曜)、警察庁や警視庁によれば、今月中旬までの1か月間に自宅や路上で倒れて死亡したあとウイルスに感染していたことが判明するケースが5都県で11人に上ったことが分かった。

 この日、駅の自動改札等の制御機器メーカーで有名なオムロン名誉顧問・立石義雄さん(80歳)が新型コロナウィルスで逝去。1987年に立石電機の3代目社長に就任、<世界に先駆ける>を念頭にアジア各国に海外展開する一方、地元京都のため「京都ビジョン2040」を策定し、強く個性的なベンチャー企業育成を狙い、<京都知恵産業創造の森>を立ち上げた。

 22日(水曜)、緊急事態宣言発出から2週間目である。この間の感染抑制策を点検し、今後の対策を立てるため、夕方から政府対策会議が開かれる。




人類最強の敵=新型コロナウィルス(5)

 4月9日(木曜)未明、緊急事態宣言が発効した。期間は5月6日までの1か月、指定対象地域は7都府県(東京都、大阪府、神奈川県、埼玉県、千葉県、兵庫県、福岡県)である。

 10日(金曜)、指定外の愛知県は県独自に緊急事態宣言を出すと同時に、国に対し対象地域に加えるよう要請した。京都府も同様に国へ要請した。

 緊急事態宣言の発出に伴い、「人と人の接触機会を8割、最低でも7割減らしてほしい」と安倍首相が訴える。その根拠は専門家からなる諮問委員会の提言である(後述)。正体がわからない人類最強の敵=新型コロナウィルス、この敵の正体をいかに把握し、対抗策を打ち出すことができるか、これは感染症専門家の努力と力量とともに、政治家の的確かつ迅速な判断にかかっている。

 東京の感染者は8日の144人から、9日は181人(翌日178人と訂正)、10日の189人(合計1705人)と確実に増えている。また全国的にも増加、10日午後9時現在、感染者数5915人(+476人)、死者117人、退院者697人である。感染者なしは岩手県のみとなった。

 9日と10日(金曜)の平日でも人出は5割~7割程度減ったが、十分とは言えない。11日(土曜)と12日(日曜)の人出をどう減らすかが鍵になる。

 これまで7都府県の間では異なる対応が目立った。地方自治を憲法(第八章)の原則の一つとする法治国家の日本では、都道府県がそれぞれ独自の動きをするのは当然であり、それは決して悪いことではない。ただし、本気で感染防止を進めるなら、各自治体は早期に詰めておき、宣言発出と同時に措置する(実行に移す)べきではなかったか、と各方面から苛立ちにも似た声が挙がる。

 ウィルスは都道府県に留まらず世界各国に広く蔓延している、迅速に手を打つべき緊急事態に、国と都道府県あるいは都道府県間で意思統一ができないとは何たることか、とも言われる。

 いずれももっともではある。しかし、それぞれの事情を勘案しつつ実施すべき自治体レベルの問題と、国として統一的に行うべきものの2つがあろう。

休業要請はどの業種に対して行うかの<緊急事態措置>をめぐって、見解の相違は2つあった。第1が東京都と国の間の見解の相違、第2が7都府県間の見解の相違である。ほかにも政府内の府省間の違い、さらに政治・行政(府省)・産業界の間の相違がある。これらのうち第1を巡り10日(金曜)、大きな展開があった。

 第1の東京都と国の間の相違は、7日(火曜)に都知事が示した休業要請を行う業種の一覧(2020年4月8日掲載のブログ「人類最強の敵=新型コロナウィルス(4)」)に対して、西村経済再生担当大臣(新型コロナウイルス対策特別措置法担当)を代表とする政府(国)は、ア)広範囲すぎる、イ)実施が早すぎるとして1週間ほど様子を見るとした。両者で鋭意調整を進めた結果、10日(金曜)午後、小池都知事が結果について記者発表した。

 両者が合意した休業要請を出す業種については、百貨店、ホームセンター等が対象から外れる一方、繁華街でのクラスター発生を危惧し、パチンコ店、麻雀店、ネットカフェ等を新たに対象に入れた。また居酒屋等については、営業時間を夜8時までに短縮、酒類の提供を午後7時までとすることで決着した。

 さらに東京都は、独自に休業要請に応じた中小の事業者に対して、<感染拡大防止協力金>を1店舗あたり50万円支払うと表明した。総額で数1000億円近くになるとみられる。これが少しでも休業要請の実現に効果を発揮し、感染防止に役立てば良い。

 第2の見解の相違は、7都府県知事の間のものである。都知事を除く6知事は、休業要請は行わないと表明。実際には6府県が負担するだけの財源を持たず、空手形は切れないという事情があったが、もともと損失補償は国の責任で行うべきとの考えでもある。

 10日(金曜)、上掲の、国と都の見解が一致した直後、神奈川県知事が一転して東京都と同じ休業要請を11日(土曜)から行う、損失補償については検討すると表明した。埼玉県は13日(月曜)から休業要請を行い、<協力金>の代わりに県の中小企業支援策を強化すると表明。大阪府や福岡県は13日に休業要請について方針を決めるとし、千葉県も同じく休業要請を行うと表明した。

 休業要請と損失補償はセットで国が負担すべきとする知事たちの主張に国は否定的な一方で、西村大臣は11日の記者会見で1兆円の<地方創生交付金>を活用して中小企業の支援の名目であれば容認すると答える。
 緊急事態宣言の発出は、政府が新型コロナウィルス対策本部(以下、政府対策本部)を設置(3月26日)、29日の会合で全般的な方針などを盛り込んだ「基本的対処方針」を決定、これに沿って進められた。発令後も政府対策本部が主導、その理論的根拠は諮問会議(尾身茂会長)の提言による。
 また新型コロナウイルスの対策について話し合う政府の専門家会議(脇田隆字座長)は、早くも4月1日に新たな提言を出している。主な内容は、①3密を積極的に避けること、②医療環境の逼迫に備えること、③最近のクラスター(集団感染)の傾向が「病院内感染」「高齢者・福祉施設内の感染」「海外への卒業旅行」「夜の会合の場」「合唱」「ダンスサークル」などにあり、とくに注意すること等である。

 11日(土曜)は緊急事態宣言後の初の週末である。人出は東京都心の繁華街ではさすがに減ったが、徒歩圏内の地元商店街に多数の買い物客が集まり、ランチタイムを延長する等により、思わぬ人出と密集状態が起きたという。

 「人と人との接触を8割減らして」と安倍首相も知事たちも強く訴える。首相は11日の対策本部で「通勤者の減少が十分でない。どうしても必要な場合でも、7都道府県での出勤者を7割減らす!」と述べた。

 その理論的根拠はどこにあるのか。11日(土曜)のNHK特集番組は、厚労省の健康局 結核感染症課内に置かれた「新型コロナウイルス クラスター対策班」(2月25日に設置)の奮闘ぶりを追う。

 国立感染症研究所、国立保健医療研究所、国立国際医療研究センター、北海道大学、東北大学、新潟大学、国際医療福祉大学等から成る総勢約30名の精鋭たちである。感染抑制のための理論づけを担当するのが西浦博教授(北海道大学大学院医学研究院社会医学分野衛生学、宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)出身、43歳)で、専門は理論疫学、感染症の数理モデルを国家の医療政策に活用するトップランナーで、<8割おじさん>の愛称がある。

 急増する感染者数の右肩上がりの曲線がピークを迎えて右肩下がりに下降し始めるピークアウトを一刻も早く実現するにはどうするか。人と人の接触を8割減にできれば15日程度で抑制できるが、7割減であれば倍の34日程度かかり、これに潜伏期間を考慮すると8割減で約1カ月、7割減なら約2ヶ月を要すると試算した。

 これが政府対策本部諮問会議の見解としてまとまり、政府の非常事態宣言の指標となった。これまでの①手洗い励行に加え、②マスク着用による咳エチケット(ちなみにアメリカのCDCがマスク着用推奨へ方針転換したのは4月3日)、そして③徐々に浸透してきた<3密>を避ける行動、それに加えて今回の④「人と人との接触の8割減」である。個人の取るべき行動指針が段階的に進み、方向が明らかになった。

 それでは<8割減>を実現するためには、(1)居酒屋等の3密になりやすい場をどう減らすか、(2)在宅勤務を増やし通勤をどう減らすか、そして(3)学校への登下校を減らすための休校措置…総じて人出を減らすことである。

 人が動かなければ物も金も動かず、一般に経済活動は低下するが、例外の業種はある。食料品等の宅配やデリバリーは増える。テイクアウトの食品も需要が伸びる。

 “Stay Home”と促されて、やむなく在宅の人が将来への不安やストレスから家庭内暴力に至る事例も報告されている。その一方で、室内で手軽にできる体操をする、込み合わない公道へ散歩やジョギングに出る、電話やメールで絆を保つ、DIYを始める等、それぞれに工夫をこらす。

 12日(日曜)、TBSの「情熱大陸」ではウィルス学の河岡義裕教授(東京大学医科学研究所、65歳、北海道大学獣医学部出身)の仕事を紹介していた。2005年、アフリカで発生したエボラ出血熱ウィルスをコウモリから採取、そのウィルスの人工合成に世界で初めて成功した学者である。いま政府の基本的対処方針諮問委員会等のメンバーも務める。

 番組は今年3月24日から4月11日にわたる取材を主に構成している。新型コロナウィルスの解明に使う実験動物を絞り込み、臓器ごとの感染状況を数値化する。その結果、鼻と肺に数値が集中するハムスターがヒトの感染状況にもっとも近いことを突き止めた。

 これをもとに4月6日、ウィルス遺伝子の構造を立体構築することに成功する。カメラはこの記念すべき成果と次を見据える河岡教授を追う。今後の特効薬やワクチンの創出に大きく寄与するに違いない。

 13日(月曜)、7都府県がともに休業要請を出すと表明。発令の時期、内容等の詳細はそれぞれに異なるが、「人と人の接触の8割減」を進めたいとする。人の移動が避けられない以上、全国の大都市が足並みをそろえる方向へ進む。

 また東京都医師会が<PCRセンター>を23区内に6カ所設け、医師の判断で迅速にPCR検査を実施する方針を表明した。重症化の危険がある患者を優先的に検査する従来のやり方を変更し、検査数を大幅に増やし、無自覚・無症状の感染者を見つける方向に一歩踏み込んだ。

 仕事は休めない。在宅勤務(テレワーク)ができない業種も少なくなく、従業員50人以下の企業では13%しか実施していない(あるいはできない)とする調査がある。そこで企業は<出勤7割減>に知恵を絞る。都心部にある本社機能を郊外の小規模拠点に移し、社員の通勤環境を改善する等も。

 この日、ワクチンに関するニュースが飛び込んできた。11日付の英タイムズによれば、英オックスフォード大学の研究チームが新型コロナウイルスへの感染を抑えるワクチンを早ければ9月にも実用化すると明らかにした。候補となるワクチンは4月中に臨床試験を始める予定。研究チームを率いるサラ・ギルバート教授は「8割の確率で新型コロナに効く」と語った。世界保健機関(WHO)は2月時点で、ワクチン準備までに最大18カ月程度かかるとの見通しを示していた。
 ギルバート教授らのワクチンが早期に実用化できれば、世界中に拡がる新型コロナの感染を食い止める期待が持てる。各国の厳しい外出制限で停止状態にある経済活動も、平常時への復帰が大幅に早まる可能性がある。新型コロナのワクチンを巡っては研究機関や製薬会社が開発を競っている。米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は2021年の早い時期に供給する見通しを示す。日米の主要7カ国(G7)には、ワクチン開発を共同支援する合意がある。
 14日(火曜)、緊急事態宣言から1週間である。この日、7都府県がすべて休業要請の実施に踏み切った。個々の内容は異なるが、足並みはそろった。

 人々が大都市から地方へ移る動きが出始めた。医療環境が乏しい地方は、「…ぎりぎりでやっている。これ以上は来ないで…」と悲鳴をあげる。

 北海道は独自の緊急事態宣言を行い、3月16日に解除したが、ここ数日で感染者が増加。改めて独自の緊急事態宣言を発令した。

 14日午後8時現在の感染者は、東京が前日の88人から161人に増えて2319人。全国46都道府県(岩手県を除く)では428人増えて7978人、死者は157人となった。日々の新聞の「国内の新型コロナウィルス感染者」が冷酷にも事態の悪化を伝える。

 今週に入り、テレビのワイドショー等の複数人が参加する番組に、広く遠隔参加(テレワーク)が導入された。在宅でテレビ視聴時間が増えた人々に、外出自粛、<8割削減>を視角面から伝える効果もあろう。

人類最強の敵=新型コロナウィルス(4)

 前回の「人類最強の敵=新型コロナウィルス(3)」(2020年4月1日掲載)では、3月19日の専門家会議から31日までの事態の推移を述べた後、「30日(月曜)、全面的な再検討を行うため新たに専門家会議を招集することとしたが、31日段階でまだ開かれていない。都立高校は5月の大型連休明けの授業再開を検討中と言われる」と結んだ。

 この専門家会議が開かれたのは4月1日(水曜)の年度始め、感染者の増加がつづく東京都と大阪府を<感染拡大警戒地域>に当たるとしたうえで「学校の一斉休校も選択肢として検討すべし」とした。今回のブログ(4)では、4月1日から8日昼までの、わずか1週間の推移について記しておきたい。

 これまで首相の記者発表でも閣議でもマスク姿は見られなかったが、1日の参院決算委員会からは一斉にマスク着用となり、閣僚の席の間隔も拡げ、3人席に2人が座るように変えた。閣議も一斉にマスク。ただ記者発表等の手話通訳者は口元の動きが分かるようマスクはつけられない。

 4月1日、テニスのウィンブルドン選手権(6月29日~7月12日予定)は、テニス4大大会のうち唯一の芝のコートであるため、延期はむずかしく中止となった。1877(明治9)年の開始以来、143年の歴史のなかで、戦争以外の理由で中止となったのは初めてである。

 前年度末の3月31日(アメリカ時間30日)、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソン社(米J&J社)が新型コロナウィルスの予防ワクチン提供を来年始めにも行うと発表した。同社は本年1月に着手、臨床試験(治験)を9月末までに開始、実用化したワクチンは低価格で供給、生産能力は年間10億本(世界人口の約7分の1)まで引き上げることが可能という。製薬会社間の先陣争いが始まった。

 2日(木曜)、都内の感染者数は前日の66人から97人に跳ね上がった。うち50歳代以下が7割を占めており、病院における<院内感染>と感染経路を追いきれない<市中感染>の2つが懸念される。言うまでもなく<院内感染>は医療従事者の減少と医療崩壊を招きかねず、<市中感染>は今後の感染拡大の一大要因である。

 3日(金曜)、軽症者、中等者、重症者の3つの区分を導入したものの、いまだ実現に至っておらず、受け入れ可能な病院のベッド数の上限が近づいてきた。知事たちは悲鳴に近い焦りを表明する。東京都は感染者が682となるも受け入れ可能な病院の病床数は700、それを750に増やしたばかりである。

 厚生労働省(以下、厚労省)がやっと「重い腰を上げた」と言われる。それまで厚労省は「感染症法」(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)の規定に基づき、軽症や無症状であっても<原則入院>させるとしてきた。

ところが東京、大阪等の大都市においてベッド数に限界が見えてきたことを受け、第133条にある「この法律の施行に伴い必要な経過措置は、政令で定める」を適用し、感染者の<全員入院>策を変更し、軽症者はホテルや閉鎖病棟における<療養>に代えると、3日(金曜)、ようやくゴーサインを出した。

 外出自粛の要請を受け、テレワークや休校中のウェブ講義・オンライン授業が推奨されるのにつれてデータ通信量が急増、2月に比べて3月には4割増加、今後も増える傾向にある。小中高大生は日本に1500万人、これに伴い通信ネットワークが停滞する懸念が高まりそうである。3日、国内携帯3社が学生の通信費を一部無料にする方針を発表した。

 小池都知事による度重なる外出自粛要請を受け、4月4日(土曜)は暖かい晴天下、満開のサクラにもかかわらず、人出は急減した模様である。<外出自粛>の要請はきわめて大切である。<不要不急>の外出は除くとされるが、受け取り方に誤解も少なくない。その一つは何がなんでも外出を控えよと誤解する点であろう。辞書の<不要不急>には「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」とあり、この見出し語のない辞書さえある。

 外出自粛の例外として買い物や通勤、必要な通院等と後から説明があり、その最後に散歩やジョギングは構わないと付け加えている。専門家が懸命に説明をくり返すのは、サンミツ(三密)のリスクを避けることであり、これはやっと浸透してきた。

 ただ長期戦の心構えで、積極的に散歩やジョギング等を取り入れ、体力の維持、深い睡眠の促進、免疫力の向上、そしてストレスの解消を図ることは、短期終息の一助にもなるのではないか。

 東京大学では3月26日(木曜)から構内のスポーツ施設の使用禁止が始まり、正門や赤門等には「新型コロナウィルスの感染予防の観点から、関係者以外の入構を禁止」の案内板が出たが、従来通り出入り自由で、犬を連れた姿も見られたものの、4日(土曜)からは警備員による規制が始まり、西片門等の通用門は閉鎖された。だが公道は一生をかけても歩き尽くせないほどある。

 以前(3月18日)に公表した五神真学長のメッセージでは「4月からの新学期授業は学事暦通りに行う」「対面での講義は最小限とし、オンライン化を奨励し推進する」「新学期の開始時に、教員および学生に対してのオンライン授業のガイダンスと試行を行う」としたが、…4月2日の学長メッセージでは「その後、春休み期間中に海外渡航をした教員・学生が相当数に上るという実態が把握され、キャンパスでの研究教育活動が、感染拡大の場となることが大変危惧され、…4月以降に開講する授業は、当面の間、インターネットを活用した授業(オンライン授業等)のみで開講する…」と変更された(東京大学HP)。

 4月3日(金曜)の発表「新型コロナウイルス感染拡大防止に係るこれまでの東京大学の対応と今後の方針」では、学生の課外活動の全面禁止とある。この2週間の事態の急変ぶりが分かる。

 東大学長メッセージはつづけて「…感染の拡大に伴い社会全体でテレワーク等が進むことで、ネットワークが混雑し通信状態が悪化することも予想されます。学生側の接続環境の違いによっても、さまざまな影響が生じることがあり得ます。さらに重要なことは、こうした緊急時には、有限の通信インフラが公共財であることを意識し、他者を思いやり、情報量を減らし、互いに譲り合うことが大切です。…」と述べている。これは東大に限らず、小中高大生のすべてにかかわることであろう。

 都内の感染者は増える一方である。2日(木曜)が97人、3日(金曜)が89人、4日(土曜)が118人、5日(日曜)が143人と急増、累計1033人となった。うち年代別では20~40代が多く、また6割強にあたる92人が感染経路不明である。なお全国の新型コロナウィルスの感染者は3728人、死者は計90人となった。これを受けて都の動画配信を通じ都知事は5日、「7日から軽症者はホテル等の宿泊施設に移動してもらう」と表明した。

 政府は医療崩壊を防ぐため、全国にある約8000病院(20病床以上の病院を対象)の医療体制(病床、医療機器、医師・看護師の状況等)の状況を一元的に集め、厚労省のデータベースに毎日登録し、各自治体に提供するシステムをつくる案を7日の緊急経済対策に盛り込む。月内に試行を始め、5月から本格稼働させるという。遅きに失したとはいえ、有効な政策である。

 世界的な感染拡大に伴い、現存する唯一の期待の星とされる㈱会社富士フィルム富山化学の抗インフルエンザ薬<アビガン>の需要が急増している(前回の2020年4月1日掲載「人類最強の敵=新型コロナウィルス(3)を参照」)。2日、ドイツ政府が数百万錠単位で購入すると発表。翌3日、菅官房長官は約30カ国から外交ルートを通じてアビガンの提供要請が来ており、無償提供で臨床試験の推進を検討中と述べた。4日には政府が現在の3倍に当る200万人分の備蓄を検討と報じられた。また政府は3月31日から治験を開始、今夏の承認も視野に入れているという。

 6日(月曜)、緊急事態宣言が明日にも発動されるのではと朝からニュースが流れた。午後、東京都医師会の尾崎治夫会長が記者発表を行い、<医療的緊急事態宣言>の内容を説明した。「一番大事なことは、感染者増加のスピードを抑えること」と強調。ウイルスの潜伏期間を踏まえ、都民が6週間、不要不急の外出自粛を徹底すれば感染を抑制することができる、との見方を示し、早急な国の緊急事態宣言と、東京都の即座執行を要望した。
 
 6日は東京都内の公立小学校で入学式が行われたが、休校措置は5月の大型連休明けまで延長された。サンミツを避けるため、保護者の参加も人数を制限して校庭で挙行、国歌・校歌の斉唱、集合写真の撮影もなく、わずか10分で終了した小学校もある。

 6日夕刻、安倍首相が記者発表し、政府の新型コロナウィルス感染症対策本部の会合で、対策本部の<基本的対処方針等諮問委員会>(尾身茂会長)の提言を受け、明日夕刻にも緊急事態宣言を発令すると表明した。

 そこで強調した点は、(1)人と人との接触を極力減らし、医療提供体制を整えるための措置。(2)都市封鎖はせず、公共交通機関、スーパー、コンビニの営業も平常通り。(3)対象区域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。(4)期間は約1ヶ月。(5)GDPの2割に当たる事業規模108兆円の経済対策を実施。(6)6兆円規模の現金給付。(7)納税、社会保険料の納付猶予。

 6日(月曜)の都内の感染者は83人、前日の143人より減ったものの、感染経路の不明者が9割を占めた。忙殺される保健所の追跡調査が追いつかないという事情も含まれるが、感染経路不明者が増える現実に対処するには検査態勢の強化、そのための最初のアクセスポイントとなる発熱外来をひろく設置することが不可欠となる。

 都知事は緊急事態宣言の対象地に指定されることを想定して、「さまざまな準備に入っている。…娯楽施設に特に強く休止を要請する」など具体的な案を提示した。

 翌7日(火曜)、東京都は重症者の病床確保に、入院中の軽度感染者10人を都内の病院から中央区にあるホテル(東横イン 東京駅新大橋前)へ移した。都知事の前日の自衛隊災害派遣要請により、陸上自衛隊員約10名が生活支援等でホテルに派遣された。看護師2名が24時間常駐、医師1名が昼間は滞在するが、医療行為は行わない。都内の26の救急病院が<救急>を中止と表明。

 同日昼から、緊急事態宣言の発令を慎重に行うため、衆議院議運委が開かれ、安倍首相と西村経済再生相(特措法も担当)が与野党の質問に答えた。ここでいう特措法とは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウィルスを加える改正法(3月13日、参院を通過、翌14日から施行、改正特措法と呼ぶ)を指す。加藤厚労相に代わり西村経済再生相の登場機会が増えた。

 7日の夕方、安倍首相が緊急事態宣言を発令、明日午前0時から5月6日(水曜)までの1か月間とした。この宣言を受けて、東京都は<緊急事態措置>を出し、都として休業を要請するものと、社会生活維持のため休業を要請しないものの案を示した。

 休業を要請するものには、大学、各種学校、自動車教習所、学習塾、体育館等のスポーツ施設、劇場、映画館、演芸場、ライブハウス等の文化施設、百貨店、理髪店、ナイトクラブ、ダンスホール、カラオケ店、パチンコ屋等、広範囲に及ぶ。これが実施されると、日常生活に大きな変化が現れるであろう。

 上掲の施設の使用制限要請の具体的対象については、国と調整のうえ10日(金曜)までに決定し、11日(土曜)から実施する方針、と都知事は述べた。理髪店等の扱いでは国と都の間に意見の相違がある。これで施設使用制限の具体的要請が3日遅れた。なお他の6府県知事は施設使用制限を行わないと表明。

 安倍首相、西村経済再生大臣、各知事たちは、テレビ出演をはじめ可能なかぎり説明の場に顔を見せ、緊急事態宣言の意味を伝えようとしている。安倍首相は「人との接触を8割減らしていただきたい」と強調する。まさにこれからが正念場である。

 緊急事態宣言を受けて、8日(水曜)、各方面で慌ただしい動きがつづく。国指定名勝三溪園(横浜市中区)は室内施設を除き開園をつづけてきたが、ついに休園とした(5月6日まで)。

 日本の緊急事態宣言の発令は遅すぎた、内容が緩すぎる、との諸外国の評価が少なからずある。また新型コロナウィルスの発源地である武漢市が、2カ月半ぶりに都市封鎖を解除したとのニュースが入った。

人類最強の敵=新型コロナウィルス(3)

 前稿「人類最強の敵=新型コロナウィルス(2)」の末尾で「…3つの<悪条件>(=危険)を回避しつつ、平穏な日常を取り戻すための具体策が(明日19日に)発表される」と述べた(2020年3月18日)。

 新型コロナウィルスの感染防止法として、<接触感染>を避けるための手洗いやアルコール消毒は広く徹底してきたが、もう1つの<飛沫感染>は回避する方法が図示されたのはこれが初めてである。

 一人一人が注意して<飛沫感染>を回避すべき3つの<条件>(=危険)、すなわち①換気の悪い密閉空間、②多くの人の密集、③近距離での会話や発声、これは意外に分かりにくいため、みなに伝え、各人が肝に銘じるようにする手はないかと考えていた。私が前回書いたように<3つの条件>を<3つの悪条件>(=危険)と言い換えても分かりにくさは変わらない。

 そこにテレビで、①密閉、②密集、③密接、の<3つの密>、あるいは<三密>(サンミツ)という表現を使い始めた。日本語の短縮形名詞は、マスコミ、パソコン、テレクラ等々、4音で構成するものが多いため、<サンミツ>は定着するかもしれない。

 電車やバスでは、①密閉を避けるため窓を開け、乗客にも協力を求めるアナウンスを始めた。幸い極寒期でないため耐えられる。ラッシュ時の②密集は避けにくいが、時差通勤が推奨される。③密接(会話)は意識すれば避けられる。

【新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言】
<専門家会議>が開かれた3月19日(木曜)は、2月28日の鈴木直道北海道知事による<緊急事態宣言>(北海道庁のホームページ)から3週間が経過、その効果を検証することを合わせて、今後の方針を立てる意図があった。

  感染者数が多い北海道では、知事の主導により1月28日、「感染症危機管理対策本部」の第1回本部会議を開き、2月25日に「新型コロナウィルス感染症対策本部」を設け、厚労省からの専門家派遣を受け、28日に上掲の<緊急事態宣言>を発出、週末の外出自粛要請、大規模イベントの開催自粛、学校の休校要請を行った。

 政府の<専門家会議>とは、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うために設置された(令和2年2月14日 新型コロナウイルス感染症対策本部決定)。

 この<専門家会議>による3月19日付けの「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」は、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班が分析した内容等に基づき検討した結果をまとめたものである。いささか分かりにくいので、主な論点を以下にまとめたい(表現の一部を改めた)。

 1) 新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、わずか数か月ほどの間にパンデミックと言われる世界的な流行となった。この感染症については、まだ不明の点も多い一方、多くのことが明らかになってきた。例えば、この感染症に罹患しても約80%の人は軽症で済むこと、5%程の方は重篤化し亡くなる方もおり、高齢者や基礎疾患を持つ方は特に重症化しやすい。
 2) …十分な注意と対策が必要な感染症である。特に気付かないうちに感染が市中に拡がり、あるとき突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート(爆発的患者急増))すると、医療提供体制に過剰な負荷がかかり、それまで行われていた適切な医療が提供できなくなると懸念される。こうした事態が発生すると、既にいくつもの先進国・地域で見られるように、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)に追い込まれることになる。
 3) …我が国がこのような事態を回避し、できるだけ被害を小さくするために本提案を取りまとめた。政府や国民の皆様には内容を理解いただき、我が国の被害を少しでも減らすための政策や行動につなげていただきたい。
 4) …現時点では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするという、これまでの方針を続けていく必要がある。そのため、①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応、②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保、③市民の行動変容という3本柱の基本戦略は維持し、必要に応じて強化して、速やかに実施しなければならない。
 5) …これまで報告の少なかった欧州や米国などの諸外国で新規感染者数が急増しており、中東、東南アジア、アフリカなどでも大規模感染が拡がっていることが推定されることから、感染者ゼロを目指す国内での封じ込めは困難な状況である。このため、こうした国々から我が国に持ち込まれる新型コロナウイルスへの対応や、国内においても、後述する、クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が追えない事例が散発的に発生していること等への対策は依然として必須であり、クラスターの早期把握とともに、地域ごとの状況に応じた「市民の行動変容」や「強い行動自粛の呼びかけ」をお願いし、…小規模な感染の連鎖に留め、それぞれの地域において適切な制御をした上で収束を図っていけるかが重要になる。
 6) …北海道においては、感染者、濃厚接触者、地方公共団体、保健所の皆様の協力と努力により、クラスター(患者集団)を十分に把握できたことで、この感染症の爆発的な増加を避けることができた北海道では一定程度、新規感染者の増加を抑えられていると判断しているが、依然として流行は明確に収束に向かっておらず憂慮すべき状態が続いている。…ただし、緊急事態宣言、大規模イベントの自粛要請等のうち、どのような対策や行動変容が最も効果を上げたかについては定かではない。また、決してこの先について楽観視できる状況になったわけではなく、最近、患者数が増加傾向にある札幌などを含め、引き続き、これまで集団感染が確認された場に共通する3つの条件を避けるための取組を行っていく必要がある。
 7) …現在の国内の感染状況と対策の効果について。北海道以外の新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、都市部を中心に漸増しており、3月10日以降、新規感染者数の報告が50例を超える日も続いており、高齢者福祉施設で集団感染が発生する事例が出ている。現時点では、こうした感染経路が明らかでない患者が増加している地域は局地的かつ小規模に留まっているものの、今後、こうした地域が全国に拡大し、さらに、クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が分からない感染者が増加していくと、いつか、どこかでオーバーシュート(爆発的患者急増)が生じ、ひいては重症者の増加を起こしかねない。

 北海道庁の「感染症危機管理対策本部」は、24日に第12回本部会議を開き、上掲の<専門家会議>と文部科学省「学校再開に向けての準備」に伴う北海道庁としての見解を表明した。学校再開については「感染予防対策に万全を期し、新学期から通常どおりの学校再開を目指す」とし、「入学式については卒業式と同様の取扱いだが、小学校については十分な感染防止策と実施方式の工夫を講じた上で、保護者が参加することを前提とした参考例を示す」とした。

 12日、吉村大阪府知事は専門家会議の開催後、医師をトップとする<入院フォローアップセンター>を13日に立ち上げることを明らかにした。同センターが病床数を見極めた上で、重症度により患者を腑分けするトリアージ方式(症状別の治療優先順位)を導入し、病院の破綻を回避しようとするもの。

 19日、大阪府知事は声明を出し、翌日に始まる3連休の間、新たなクラスター(集団感染)の発生を防止するため、兵庫県との往来を自粛してほしいと述べた。政府の専門家会議からの(非公開の)提言を受けてなされたと言われる。23日、これからのことは状況を見て判断すると述べた。

 地球規模に蔓延した新型コロナウィルスのパンデミック(世界的感染爆発)の中心は、東アジアから欧州へ移り、さらに予想通り北米に移りつつある。そして24日、インドで爆発的感染拡大があり、モディ首相が21日間(3週間)にわたり全土を封鎖すると宣言、4時間後の25日から実施した。

【オリンピック・パラリンピック2020の延期】
 こうした世界的な感染拡大により、今年7月に開催予定のオリンピック・パラリンピック2020(以下、東京五輪と略称)をどうすべきか、緊急の判断が求められた。すでに予選競技会を中止した種目もある。世界陸連が早くも予選中止と東京五輪の延期を表明した。

 東京五輪について最初につぶやいたのがトランプ米大統領で、3月12日、個人的な考えと断ったうえで「1年間延期すべし」と述べた。

 23日(月曜)未明(ジュネーブ時間で22日夜)、IOCのバッハ会長が、初めて東京五輪の中止・延期を含めて検討に入ると発言した。中止の可能性は否定したうえで、大会組織委員会等と協議し、4週間以内に結論を出すとした。これに対して、より緊急性を要するのではとの批判が噴出した。

 バッハ発言を受けて安倍首相は、23日の衆議院予算委員会の質問に答え、それまで「完全なかたちで実施する」として時期については言及しなかったが、ここで初めて「東京五輪の延期もありうる」と答えた。

 24日(火曜)、小池都知事は記者発表で、若い人たちに自覚を求めて、「東京は学生が多く、全国から集まる。若い人たちは新型コロナウィルスに感染しても無発症・無自覚のまま行動し、他の人たちに感染させ、高齢者や持病のある人を危険にさらす可能性が高い」として「自覚をもって行動してほしい」、「さもないとロックダウン(都市の封鎖)もあり得る」と述べた。

 この24日晩、安倍首相とIOCバッハ会長と電話協議が行われ(森会長や小池都知事が同席)、東京五輪に関して次の合意がなされた。(1)東京五輪の中止はないことを確認、(2)安倍首相が「世界のアスリートが最高のコンディションでプレーでき、観客が安全で安心な大会とするために、おおむね1年程度延期することを軸として検討いただけないか」と述べ、バッハ会長は「100%同意する」と答えた。IOC理事会はこれを承認する。

 この決定は、<あざやか>というか<お見事>というか<あっけない>というか、諸説あろう。つづけて安倍首相はトランプ米大統領と電話協議を行い、「たいへん賢明ですばらしい決定」との返事を得た。ついでロシア・中国をふくむG20の首脳とも電話協議を行った。東京五輪の1年延期に伴い、2日後の26日に福島を出発する予定の聖火リレーは取りやめとなった。この日、ニューヨークの株式市場のダウ平均は2112ドル高と過去最大の上げ幅を記録、25日の東京市場の日経平均は1454円高の1万9546円で取引を終えた。

【各地の感染者急増】
 懸案の東京五輪の延期が決まったのを待つかのように、25日(水曜)、東京都で新型コロナウィルスの感染者が一挙に41名に増大と発表があった。23日が16名、24日は17名であり、41名は異常な増大である。これを受けて小池都知事は夕刻に緊急記者発表を行い、「感染爆発 重大局面」のパネルを示して、今週末の在宅を強く要請するとともに、「今後3週間、大型イベントへの参加を控えるよう」要請した。

 26日(木曜)、感染者数は47名に増えた。感染経路が不明のケースが約半数なのが心配である。首都圏の知事が共同で今週末の在宅を強く要請した。

 同日、改正新型コロナウイルス特措法(13日に成立)第15条に基づく、政府対策本部が設置され、初会合が開かれた。これに伴い、各都道府県知事も対策本部を設置することが可能となり、47都道府県に対策本部が置かれた。これにより政府は「緊急事態宣言」ができる。

 安倍首相は「都道府県と連携を密に一体となって対策を進めていく」と強調し、特措法に基づく「基本的対処方針」を策定するよう関係閣僚に指示した。その後に菅官房長官が、東京都での患者急増で爆発的拡大の恐れもあるものの「現時点で(緊急事態)宣言を行う状況ではない」と述べる。

 また、安倍首相は水際対策の強化のため、フランス、ドイツなどヨーロッパ21カ国とイラン全土を、27日午前0時から新たに入国拒否の対象に加える方針を表明、これらの国から帰国した日本人には、空港でPCR検査を行う。さらに、東南アジア、中東、アフリカからの入国者に対し、28日午前0時から、14日間の待機要請を行う方針も発表された。

 27日(金曜)、来年度予算が成立、次の補正予算に早急に取り組む姿勢が表明された。新型コロナウィルスのもたらす経済的打撃への対策は、内容・規模はもとより、間髪をおかず迅速に行い、早ければ早いほど効果が大きい。

 同日、プロ野球・阪神は藤浪晋太郎投手など合わせて3人の選手が新型コロナウイルスに感染していたことを発表。3人は今月21日以降、「コーヒーを飲んでもにおいを感じない」、「みそ汁の味がしない」など、嗅覚や味覚に違和感を訴えていた。検査を受けた結果、26日夜遅くになって陽性が確認された。

 嗅覚・味覚の違和感が初期症状である可能性が高いから敢えて公表に踏み切ったと球団はいう。37.5℃の高熱が4日つづいたら検査を受けよと言われてきたが、それとは別の新たな指標として貴重である。

 懸念される東京都の感染者が増えつづける。28日(土曜)は50名以上と発表があり、後に60名以上と追加発表、夕方には63名と確定した。29日(日曜)は68名である。これには台東区の総合病院での集団(院内)感染が含まれる。千葉県の福祉施設内の集団感染と同様に、新たな対応が求められる。

 いずれも2週間ほど前に感染した結果(潜伏期間は1~2週間とされる)がいま明らかになったもの。20日(金曜、春分の日)から23日までの3連休に陽気に浮かれて多数の人出があり、回避すべき<サンミツ>が各所に現われた結果と思われる。
同日、神奈川県と県内主要首長及び関係機関は、「新型コロナウイルス感染症拡大による医療崩壊を防ぐための会議」を開催し、新型コロナウイルス感染症の拡大を見据えた医療体制<神奈川モデル>を今後、一致団結して取り組むことで合意、また県民の皆様へのお願いを採択した。
 主な内容は、軽症者と重症者の間に<中症者>の概念を導入し、医療施設ではなく隔離施設に収容して感染拡大の防止の手立てとし、医療施設の崩壊回避を目的とする。
 28日(土曜)と29日(日曜)は、小池知事による外出自粛(とくに夜間の外出自粛)要請を受けて、繁華街の人出は少なかったという。28日は夏日の25℃寸前まで気温が上がったが、翌29日にかけて最低気温が1℃まで急降下し、昼夜の温度差が24℃と新記録。昼から雪になり、満開のサクラに雪。都心や横浜で1センチの積雪があった。この天候不順が幸いしたのか、在宅で縮こまり、外出を控えた人が多い。首都圏の鉄道利用は7割減となった。

 東京の感染者急増の可能性は否定できない。軽症・重症を問わず病院に入院させる現在の東京方式は見直しを迫られている。大阪府の<入院フォローアップセンター>や<神奈川モデル>に似た新たな対応を取る準備が必要となろう。そのための軽症者向け隔離施設として東京五輪の選手村(中央区晴海、3850部屋、1万8000ベッド)が最適との指摘がすでにメディアでは出ている。

 自分や家族が感染したか否か、どの程度の症状なのかを知りたいが、そのための相談センターが混雑して通じない、こうした苦情に対して埼玉県は、30日、LINEアプリを通じてAI診断する簡便な方法を発表した。貴重な提案である。1カ所に集中してパンクするのは、売店や病院ばかりではなく、情報・通信分野でも避けられない。9年前の東日本大震災のさい経験した通りである。

 30日(月曜)の都内の感染者は13名、これまで増大しつづけ前日の68と比べれば良い数字だが、休日のため検査件数そのものが少なく、(翌31日には73名)。小池知事は、その記者発表で、感染経路を追いきれない約3割の感染者は夜間のカラオケ店・ライブハウス、バーやナイトクラブを媒介としている可能性が高いとして、そこへの出入りを控えて欲しいと要請した。

 同日、東京五輪の約1年延期を決めてからわずか6日後にあたるが、IOC・東京都・大会組織委員会は、2021年7月23日(金曜)の開幕を決めたと発表した。今年の予定日と1日違いで、同じ金曜日の開幕である。

【医療機器と治療薬】
 重症化した患者には人工呼吸器による酸素供給が不可欠であるが、人工呼吸器が決定的に不足している。その増産と供給には時間を要する。そしてEⅭMO(エクモ、人工心肺装置)の数はさらに限られ、それを扱う医療従事者も決定的に足りない。感染爆発を少しでも遅らせ、その間に各種の医療資源を効率的に供給・再配置する計画を立て、実施していかなければならない。さもないと全面的な医療崩壊が起きかねない。

 いま世界がもっとも待望するのが新型コロナウィルスの治療薬と予防薬(ワクチン)である。うち感染者に緊急に求められるのが治療薬であり、まずは既存の薬で安全かつ効果があれば率先して使うことになる。ついで新薬の開発と実用化が、そして予防薬(ワクチン)の開発がつづく。

 3月18日の日本経済新聞の朝刊3面に「富士フィルム系の薬<効果>、新型コロナ、中国が確認」の見出しの小さな記事が出た。富士フィルムホールディングスのグループ会社富士フィルム富山化学が開発したインフルエンザ薬<ファビビビラ>(一般名<アビガン>)について「安全性が高く、治療の効果は明らか」と中国政府(科学技術省)が発表。同薬は浙江海正薬業(浙江省)が2016年に<アビガン>特許ライセンス契約を富士フィルムと結んでいる。

 翌19日の日本経済新聞朝刊は、一面トップで「コロナ治療薬 実用化急ぐ」、「米社製 来月にも治験結果」の見出しで、上掲の<アビガン>、エボラ出血熱の<レムデジビル>(米ギリアド社、4月に治験の結果がでる予定)、HIⅤの<カレトラ>(米アツヴィ社)の3種の治療薬の実用化が早期に実現する可能性を伝えた。

 28日の記者会見で、安倍首相は<アビガン>を「新型コロナウィルスの治療薬として正式に承認するにあたって必要となるプロセスを開始、…また増産に着手する」と述べた。また膵炎(すいえん)の治療薬<フサン>について「観察研究として事前に同意を得た患者への投与を始める」とも述べた。

 30日(月曜)、昨晩遅くコメディアンの志村けんさん(70歳)が新型コロナウィルス肺炎で死去したとのニュースがあった。17日に倦怠感を感じ、20日に入院、23日に検査で陽性が判明、わずか2週間後(陽性判明からは6日後)の死去である。容態の急変が恐ろしい。笑いの提供者を失ったとする弔意も聞かれ、新型コロナウィルス防止対策の重要性を喚起したとも言える。

【新学期の学校再開】
 24日、文部科学省は4月からの新学期を平常通り行うとし、26日に55項目の注意事項を発表、各市町村教育委員会での対策の参考に供した。ここに来て30日(月曜)、全面的な再検討を行うため新たに専門家会議を招集することとしたが、31日段階でまだ開かれていない。都立高校は5月の大型連休明けの授業再開を検討中と言われる。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
前園長(2012年8月~2023年3月)

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
カテゴリ
QRコード
QR