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人類最強の敵=新型コロナウィルス(2)

 この同じテーマで、これから何回つづけることになるのか。とりあえず通番を付して対応したい。「人類最強の敵=新型コロナウィルス」の初回掲載は3月6日であった。そこでは102年前に世界を席巻した<スペインかぜ>に触れ、今回の新型コロナウィルスはその正体が不明であるだけに<人類最強の敵>と考えて、それをタイトルに掲げ、次のように結んだ。

 「…事態は刻々と変化しており、一日でまったく認識が変わることもある。そのわずかな一局面でも、同時代の<記録>として書き留める価値があると思い、いま本稿を書いている。……経済への大打撃もいっそう深刻さを増し、内外政治に及ぼす影響もさらに大きくなろう。国内の感染がピークアウトする一応の目安は3月16日(月曜)頃とされるが、予断を許さない。…」

 新型コロナウィルスの正体がすこしずつ分かってきた。9日、感染拡大防止専門会議の尾身茂副座長が会見し、慎重な言い回しで次のように述べた。
 ア)現時点までは<クラスター>(集団の感染)の発生を比較的早期に発見できた事例も出てきている。急激なペースで感染者が増加している諸外国と比べ、感染者の増加のスピードを抑えることにつながっている。
 イ)2月24日に公表した専門家会議の「見解」で、「今後1~2週間が瀬戸際」と述べたが、本日時点での日本の状況は、爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえているのではないか。
 ウ)しかしながら、感染者数は、当面、増加傾向が続くと予想される。また、すべての感染状況が見えているわけではないので、依然として警戒を緩めることはできない。北海道では2月28日に知事より「緊急事態宣言」が出されたが、その対策の効果についての専門家会議としての判断は、3月19日ごろに公表する予定。
 エ)そのうえで、<3つの条件の重なりを避けて>を公表した。①換気の悪い密閉空間、②多くの人の密集、③近距離での会話や発声、の3つである。

 これは、正確に言えば<3つの条件…>ではなく、<3つの悪条件…>であり、これらの悪条件(危険)を1つ1つ除去して<危険の最小化>を図るための、分かりやすい指針が必要となる。それを19日頃に発表する予定だという。正体不明の敵に対しては、危険を回避する地道な努力が不可欠である。

 3月11日(水曜)、「あれから9年」を掲載、「前稿<人類最強の敵=新型コロナウィルス>から数日間のうちにも刻々と事態は変化…」として、8日から11日の「センバツ高校野球の中止」まで、わずか4日間の対応変化を簡潔に記し、その末尾で次のように述べた。

 「…感染拡大防止のための休校措置・イベント等の自粛要請がもたらす実体経済への影響を見極めようとする報道・論調が並ぶ。感染防止と経済活動の萎縮阻止、それを両立させる難しい政治的判断が迫られている。…」

 同じ11日(日本時間、以下同じ)、ギリシャのアテネで東京五輪2020の採火式が行われたが、聖火リレーは2日で中止となった。いま感染拡大の中心は欧州である。感染者の急増もさることながら死者の急増が顕著である。トランプ大統領はテレビ演説で欧州(英国を除く)に過去14日間滞在した外国人の入国を30日間禁止すると発表、14日から適用する。

 同日、WHO(世界保健機構)のテドロス事務局長は、新型コロナウィルス感染が世界110カ国・地域に拡大、感染者は累計12万人を越えたとして<パンデミック>(世界的な大流行)を宣言、各国に対策の強化を促した。

 翌12日(木曜)、三溪園の見回りに出た。感染防止対策の一環としてボランティア活動を休止し、三溪記念館も合掌造りも休館としているが、広々とした園内をゆったり散策する姿がそこかしこにあった。暖かな陽の下、サクラが咲き始めた。

 同12日、米仏のディズニーランド閉鎖、米大リーグの開幕は最低2週間の延期を決める。こうした流れを受け、ニューヨーク株は2300ドル超の急落、翌13日の東京でも日経平均が1万7000円を割り込んだ。3日つづきで最安値を更新、この日の下げ幅はバブル経済末期以来30年ぶりであった。

 13日(金曜)、トランプ大統領は、東京オリンピックについての記者の質問に、個人的意見だと断りつつ、「…無観客の開催は考えられない。1年延期を…」と漏らした。同日午前、安倍首相とトランプ大統領の電話会談(50分)があり、日米が共同で有効な経済対策を打つことで合意、東京五輪の(延期)問題については格別な議論はしなかったと報じた。

 一方、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長はWHOの助言に従って決めると述べたが、それ以上の方針は表明していない。アテネで採火されたオリンピックの火は、20日、日本に到着する予定。

 新型コロナウィルスの感染者数を自治体単位で公表しており、それが現状と今後を予測する貴重なデータとなる。その<陽性>と<陰性>を判定する検査には、多く<PCR法>が使われる(ポリメラーゼ連鎖反応、polymerase chain reaction, PCR)。「DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素の働きを利用して特定のDNA断片を選択的に増殖させる遺伝子増幅技術」である。

 この方法では検査結果が出るまでに4~6時間かかり、機器の保有台数が少ないことが問題になっている。検査時間を約1時間に短縮した検査キットを島津製作所が開発し、3月中にも供給する予定と言う。

 9日、横浜市立大学の梁明秀教授の研究グループは、<ELISA法>と<イムノクロマト法>を用いて、新型コロナウイルス患者血清中に含まれる抗ウイルス抗体(IgG)の検出に成功、この検出法に次いで診断法の確立や試薬キットの開発・実用化を目指す、と発表した。

 また13日の日本経済新聞(朝刊)13面に、繊維メーカーのクラボウが12日、少量の血液から感染の有無を15分で判定できる検査キット<イムノクロマト法>(提携先の中国検査薬大手が開発)を16日に研究用に発売すると小さな記事が出た。血液中の抗体を95%の精度で検出できるという。

 翌14日(土曜)、日本は全国的に気温が急降下、南関東では午後に2℃前後まで下がり、雪やみぞれが降った。アメリカ時間では13日(金曜)であり、トランプ大統領が<国家非常事態宣言>を発動、検査・治療に5兆円を投下すると述べ、NYダウ平均は反発して過去最大の1985ドル高と値を戻した。

 14日夕方、安倍首相の記者発表。冒頭、13日成立した新型コロナウイルス対策特別措置法について、万が一のための備えをする法律であり、さまざまな私権を制限することとなる<緊急事態>の判断にあたっては、専門家の意見も参考に慎重な判断を行うと述べた。また人口1万人当たりの日本の感染者数は0.06人で、韓国や中国、イタリアなどと比べて抑えられており、「現時点で<緊急事態>を宣言する状況ではない」とした。

 ついで、これまで感染が確認された人の約8割は他に感染させていないとした一方、集団感染が確認されたのは、換気の悪い密閉空間で人が密集するなどの条件が重なった場合であるとした。こうした条件を避ける対策で感染リスクを下げることが可能であり、臨時休校に関しては、健康管理やストレス解消のためにも、安全な環境のもと、屋外に出て運動の機会をつくることや、卒業式等も安全面の工夫を行って実施することを呼びかけた。

 従来の一斉休校の要請を、一定条件をつけて大幅に緩和したことは歓迎したい。難しいが、①感染防止、②日常生活と健康の重視、③経済活動の正常化の3つの適切なバランスこそ最重要であろう。その根拠となったのが、上掲9日の専門家会議尾身副座長の報告である。

 安倍首相は「日本を含む世界中のマーケットが動揺しており、世界経済のさらなる落ち込みも懸念される。動向を注意深く見極めながら、今後も機動的に必要かつ十分な経済財政政策を、間髪を入れずに講じる」。また「現在は、感染拡大の防止が最優先だが、その後は、日本経済を再び確かな成長軌道に戻すため、一気呵成にこれまでにない発想で思い切った措置を講じていく。その具体的な方策を政府・与党の総力をあげて練り上げていく」。さらに「現在は対症療法を根気強く続けるほかなく、決定的な治療薬やワクチンが存在しないことが世界的な不安の最大の原因」と述べたうえで、アメリカやヨーロッパ、WHO=世界保健機関などと協力し、治療薬などの開発を加速させる考えを示した。そして「わが国だけの孤独な戦いではない。世界全体がいま、新型コロナウイルスという共通の敵に立ち向かっている。G7、G20の枠組みを活用し経済政策も含めた国際社会の結束した対応をリードしていく。…」と述べる。

 <総花的>との批判もあり、メディアの報道は比較的冷淡であるが、見方を変えると別の意義づけもできよう。地球規模に拡大した新型コロナウィルスという<敵>は、北半球の中国に起源し、韓国・日本へ拡がって<東アジア>という大クラスター(集団)ができ、それが北半球を一回りして北アメリカ、欧州に及び3大クラスターとなった。南半球の南アジア、アフリカ、大洋州、南米の状況は不明だが、今後、似たような大クラスターを形成すると考えられる。

 こうした地球規模の現況のなかで、(1)感染拡大の防止、(2)重症化の回避、(3)過度の自粛から健康な日常の回復、(4)委縮する経済への抜本対策、(5)分断された世界の新たな一体化策、(6)治療薬とワクチンの開発、という将来の方向と流れを示したとすれば大きな意義がある。

 日本が多くの失策を乗り越えて感染拡大を「一定程度、抑えている」とすれば、それは<強権>と<抑圧>の政治手法とは異なる<説明>と<納得>(<合意>)の民主的手法であり、人類の希望となる。重症患者への対応を中心に検査を行うことで医療崩壊を避ける、1つの模範的感染症対応策である。
 一方WHOは、韓国・中国のように完全に感染者数を洗い出す対応策を模範と推奨している。しかし検査の先の治療救済への道を示していない。米国もドライブスルーで検査できるように検査優先を求めるが、これで医療崩壊が起きないのは、少数の富裕層しか検査も治療も受けられないからである(国民皆保険制度がなく検査費用が高い)。
フランスは、いま<戦時下>にあるとして大幅な外出制限令を発令、17日から施行した。欧州各国で国境封鎖が進む。この欧州中心の感染は、これから米国に拡がる傾向にあり、米国政府は欧州からの入国禁止を発令、それでも米国の死者急増は避けられないであろう。
 明日19日(木曜)、上掲3つの<悪条件>(=危険)を回避しつつ、平穏な日常を取り戻すための具体策が発表される。重大な一歩を踏み出す契機としたい。
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あれから9年

 2011年3月11日の東日本大震災発生から9年が経つ。この大震災を機に始めた私のブログも9年。当時の重苦しい空気が、新型コロナウィルスの世界的拡大に重なる。

3月8日(日曜)、テレビでは幾つかの特集番組が放映され、雨の一日、時間の許す限り観た。その1つが午後2時からのNHKテレビの特集「死者ゼロを目ざせ フジテレビ・ヤフーと共同企画▽連携を探る」である。

 題名の示す通り、フジテレビと検索大手ヤフーとの三者共同企画で、宮古の地域FМや地域TⅤ等が参加した1時間番組である。刻々と迫る事態をメディア(広域から局所にわたる各種)は、いかに連携して伝えるか。

 そこでは、あの大震災発生時に各種メディアがどのように協力できたか、できなかったかを論じ、その教訓を今後いつ起こるか分からない(必ず起きる)大災害発生時にどう生かすかを考えていた。題名の「死者ゼロを目ざせ」が示すように、メディア間の競争より、被災者・被災想定者に焦点を絞る。

 発災からの対応を、(1)発災から3日間(72時間)は被災者の生命にかかわる限界時間、(2)1週間後からは身元確認、避難所、救援物資、(3)1ヶ月経過後は復旧に向けた企画・組織づくり、の3つに分けて考え、それぞれの段階で各種メディアの協力関係も位相を換えることを伝える。

 一方、災害情報を一刻も速く得たい・伝えたいとする利用者側のツールも、この9年間、スマホの普及(機器の防水機能をふくめて)や情報発信機能(および意欲)の向上により大幅に進化した。デマ情報等の混入する危険も増えるが、<発信地情報>を投稿の必須要件とすれば、かなり防げるという。

 9年前のあの日、私は都留文科大学の学長室にいた。学長に就任して初年度が終わろうとする時であった。

 「3月11日午後2時半すぎ、学長室が揺れ始め、次第に大きくなり、立っていられないほどになった。外では多数の教職員や学生たちが、揺れのつづく建物を不安げに見ている。高田副学長が小型のラジオを持ってきた。震源地は東北地方の太平洋沖、マグニチュード8(8・5と言ったか。のち9と修正)、巨大地震と聞こえる。構内では建物の倒壊などはなさそうだ。
 そこに相川総務課長が飛んできて、災対本部と臨時避難所を図書館に置きたいと言う。すぐに毛布や寝袋、懐中電灯や石油ストーブ、水や非常食など必要物資を各所から集めにかかった。春休みのため学生は多くなく、中期日程入試の採点に当たる教員をふくめ、最大時には約150人が図書館に集まり、第二避難所(体育館等を想定)を置く必要はなかった。
翌朝早く電気が復旧し、テレビをつける。巨大津波による廃墟の映像にただ息を飲む。日本列島地図の東海岸が割れるような映像…。原子力発電所は大丈夫かとの思いが脳裏をかすめる。まさに古今未曾有の大災害である。」

 これは『(都留文科大学)学長ブログ 2011~2014』の最初の投稿(2011年3月12日12:30)から再録したもので、発生翌日の12時30分に掲載した記事である。この『学長ブログ』は、冊子版を2014年3月に編集・刊行(A4版2段組、179ページ)、デジタル版は本ブログ(加藤祐三ブログ「月一古典」)の右欄のリンクに再掲した。

 <記憶>は消えやすく、内容も変わることが多い。したがって一刻も早く<記録>に残せと学生に呼びかけると同時に、私自身も可能なかぎり記録してきた。言うなれば「<記憶>から<記録>へ」の勧めである。

 002(第2報)「学生のみなさんへ(再録)」は2日後の3月14日16:50に掲載した。「本学理事会では、被災地出身の学生たちをどう支援するかを協議、さまざまな具体策を議論して実行に移す準備をすすめた。一方、3月14日付けで学生に向けた学長メッセージ「学生のみなさんへ」をHPに載せた」。以下はその一部である。

 「被災された学生のみなさん及びご家族の方々へ、心からお見舞いを申し上げます。安否不明、寒さと不安、物資の不足等、災難はまだつづくと予想されます。歯をくいしばって持ちこたえましょう。被災状況や安否確認もまだ緒についたばかりです。春休みで帰省している学生も多く、学生課が電話連絡で安否確認を開始しました。本学学生の約15%にあたる437名が北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、長野県の出身者で、このうち13日(日曜)までに無事を確認できたのは283名と全体の64.8%に過ぎません。大学からの安否確認が届いていない方は、学生課へ連絡してください。大学では、被災した学生の授業料免除等を検討しています。授業どころでないと、うちひしがれている人も いるでしょう。心中は察するに余りあります。大学が、今も、これからも、みなさん一人一人を気づかい、応援しつづけることを忘れないでください。今後の安否情報や大学行事の変更等については、逐次お伝えします。被災を免れたみなさんも、未曾有の事態に立ちすくむ思いでしょう。大変でしょうが、できれば、今後の震災復興に自分がどのように寄与できるかを考え始めてください。英知と気力を結集し、文大生のできることを模索してください。みなが絶望の淵に立っている現在、若いみなさんにしかできないことがあるはずです。」

『学長ブログ』は大震災の翌日に立ち上げることができたが、その冒頭に次のような経緯を記した。「今年に入って本学ホームページが大幅に改良された。扉ページの左下には大学blogの欄ができ、その1つに「学長ブログ」が開設されているが、「ただいま準備中です。しばらくお待ちください」とある。…原稿の準備をしているところに、未曾有の大震災が起きた。テーマも字数も未定、定期的な掲載かどうかも未定のまま、始めることとした…」(001「はじめに」)。

 003「卒業式の中止(再録)」は、3月23日16:45の掲載。「3月22日に予定していた卒業式は実施できるのか、それとも中止すべきか、たいへん迷った。15日付けのHPに、予定通り実施する旨を伝えたが、翌16日には、やむなく中止の通知に変更した。東京電力による計画停電により、会場(800席のホールと300席の小ホール)の安全な運営が可能か否か、交通手段の確保はどうかが最大の焦点であった。…」

 これ以降、004「学生の安否確認」、005「被災学生の支援」、006「書きとめておこう-記憶から記録へ」、007「新学期のキャンパス」とつづく。
学生の不安を少しでも軽くしようと語りかけ、課外活動(文化の<桂川祭>やスポーツ<鶴鷹祭>等)の現状を伝え、現役学生を支援する卒業生の活動を紹介した。また卒業生の案内で岩手県の被災地を訪れ、知り得たことも掲載した。

 時が経つにつれて、009「大学の役割」、015「大学図書館を楽しむ」、018「大学教員の4つの仕事」、022「岩手県訪問」、024「防災委員会」、031「宮城県被災地支援 クリスマスコンサート」等へつながる。

 そして3年後、121「学長退任にあたって」(2014年3月14日掲載)に次ぎ、122「黒船来航と洋学」(2014年3月17日掲載)で『学長ブログ』を閉じた。

 翌月6日、『加藤祐三ブログ 月一古典』を始めた。その第1号が「花と新緑の競演」。以来、本稿が234番目にあたり、『学長ブログ』から数えて355番目となる。

 現在最大の懸案事項は新型コロナウィルス、前稿「人類最強の敵=新型コロナウィルス」(3月6日掲載)から数日間のうちにも、刻々と事態は変化している。そのなかから幾つかを記しておきたい。
 
 3月8日(日曜)から始まった大相撲春場所(大阪)は、感染拡大防止のため無観客でテレビ放映。湧き上がる歓声も拍手もなく、座布団が飛ぶこともない。進行も心なしか速い気がする。

 同じ日の日本経済新聞(日曜版)のトップ記事は、「チャートは語る」の1つで、主見出しが「都心の人出 大幅減」、つづく副見出しは「オフィス街2割少なく」、「夜の銀座半分」、「新型コロナ 業務改革加速も」の3つ。欧州で感染拡大、アメリカではニューヨーク州等8州で非常事態宣言が出された。

 9日(月曜)には、アジア・欧州の株安を引きついだニューヨーク株式市場で一時2000ドル超安(過去最大)となり取引が一時停止、同時に為替は円が急騰し、日本の製造業の減益要因が強まる。「最悪のシナリオ具現化」の小見出しも。原油価格も急落した。この日、プロ野球とサッカーJリーグが20日の開催を延期すると決めた。

 10日(火曜)は東京大空襲75周年。関東大震災(1923年)から97年、<スペインかぜ>(1918~19年)のパンデミックから102年(本ブログの前回「人類最強の敵=新型コロナウィルス」)が経った。

 11日(水曜)、各種メディアは東日本大震災の特集を組み、復興の現状や震災から得た教訓等を報じている。そのなかに福島県飯舘村長沼地区に入り汚染土の埋立に尽力している田中俊一さん(原子力規制委員会元委員長、同村復興アドバイザー)の姿があった。

 新型コロナウィルスに関連して、センバツ高校野球の中止を決めた。感染拡大防止のための休校措置・イベント等の自粛要請がもたらす実体経済への影響を見極めようとする報道・論調が並ぶ。感染防止と経済活動の萎縮阻止、それを両立させる難しい政治的判断が迫られている。

人類最強の敵=新型コロナウィルス

  いまニュースの中心は、連日、新型コロナウィルス肺炎である。

 発症源は中国湖北省武漢、そこから中国全土へ、そして世界7大陸、55カ国へ拡がり、感染者も死者も増えつづけている。感染経路は依然として不明、自覚症状がないままに他人にうつす危険がある。

 正体不明の新型コロナウィルスは、いま人類にとって最強の敵と言うことができる。日常生活でも最大の関心事である。手洗い等は徹底しても、外出時、マスク着用だけで十分なのか。マスクやアルコールが店頭から消えた。トイレットペーパーがないというデマに人々が買いに走る。

 歴史のなかでは中世ヨーロッパのペスト等の伝染病による社会的混乱、また100年ほど前の第一次世界大戦末期の1918年以降に猛威を振るったインフルエンザ(<スペインかぜ>)、その感染拡大と正体不明の<外敵>の起源地への排斥主義がデマと混乱をもたらした等々、種々の史実がある。

 WHO(世界保健機関)はパンデミック(全世界的流行)という最悪の事態への危惧を表明した。すぐに思い出したのが、<スペインかぜ>である。当時の世界人口20億人弱のうち5億人が感染、じつに2500万人以上の死者を出し、日本でも38万人が死亡したと言われる(アルフレッド・W・クロスビー著/西村秀一訳『史上最悪のインフルエンザ』2009年、みすず書房)。

 著者クロスビーは世界情勢と流行拡大の関連等のマクロな事象から一兵卒の病床の様子まで、パンデミックの記録を丹念に掘り起こしている。このインフルエンザの真の恐ろしさは、罹患者数の多さによって少なからぬ死者数が覆い隠され、「みなが罹るが誰も死なない」病として軽んじられたことにあると警告する。社会心理に見られる<恐怖>と<黙殺>である。

 第一次世界大戦中、多くの国が情報統制を敷いた。感染拡大を公表したのは中立国スペインで、そのため不名誉にも<スペインかぜ>と名づけられたが、実際にはアメリカで1918年3月、デトロイト等で第一波が発生していた。アメリカは欧州戦線の膠着状況を打開するため、多くの感染者をふくむ兵士を輸送船で欧州に送りこむが、これによりウィルスを一挙に拡散させたと言う。「外洋に出る前、すでに医務室のベッドは埋まっており、9月30日の病人数は700人だったが、航海を終えるころには2000人に膨れ上がっていた」。

 加えて、パリ講和会議のさなかにウィルソン米大統領が感染発病、英仏等による敗戦国ドイツへの<懲罰的賠償>請求(多額の賠償金等)が承認される。その反発は後にナチスの台頭を許し、第二次世界大戦を誘引する。

 これを教訓として、第二次世界大戦の戦後講和では、<懲罰的賠償>を批判する国際世論が形成される。こうして日本やドイツは賠償金支払い等の<懲罰的賠償>を免れることができた。

 なお<スペインかぜ>による死者には、辰野金吾(建築家、東京駅丸の内駅舎等を設計)、島村抱月(劇作家)、マックス・ウェーバー(政治学者)、グスタフ・クリムト(画家)等が含まれる(順不同)。

 歴史における感染症(疫病、伝染病)の研究から学ぶべきことは多々ある。19世紀以降の近代東アジアにおける疫病の蔓延とその防疫体制の確立については、飯島渉(東洋史、医療社会史)の『ペストと近代中国―衛生の「制度化」と社会変容』(研文出版、2000年)、永島 剛・市川 智生・飯島 渉編著『衛生と近代:ペスト流行にみる東アジアの統治・医療・社会』(2017年)に、また世界規模の感染症を扱った石 弘之『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫、2018年)等に詳しい。

 今回の新型コロナウィルスのコロナとは『広辞苑』によれば「太陽大気の外層。皆既日食のさい太陽の縁から四方にぼやけて見える真珠色の淡光」を指し、形状が似ていることからコロナウィルスと命名された。

 コロナウィルスの歴史のなかで2つの先行例を思い出す。SARSコロナウィルスは2002年11月~2003年7月、中国南部に発生、広東省や香港を中心に8,096人が感染、37ヶ国で774人が死亡、致死率は9.6%。

 ついでMERSコロナウィルス(ヒトコブラクダが宿主)はラクダとの接触、またその未加熱肉や未殺菌乳の摂取を通じて感染拡大、中東地域をはじめ、2015年から韓国、中国に波及、2019年の世界の確定患者は2494人、死者858人。

 SARSとMERSという2種のコロナウィルスに対して、今回のウィルスは<新型コロナウィルス>と呼ばれる。テレビ等には国立感染症研究所等が提供する図像があるため、正体が分かっていると思われがちだが、<新型>とある通り、これまでとは異なり、治療薬も予防薬(ワクチン)もない。先発薬のいくつかが代用薬となる可能性が追究されている。

 湖北省武漢において新型コロナウィルスの症例が確認されたのは昨年12月1日であるが、公開は12月下旬に遅れ、世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を宣言したのは、約2か月後の2020年1月31日である。

 中国における危機的状況を受けて世界各国に防疫体制が敷かれたが、感染は世界各地に拡がり、2月2日、中国以外での初の死亡例がフィリピンで確認された。なお、武漢でいち早く新型肺炎の存在をSNSで警告した医師・李文亮氏も2月7日、感染により死去した。

 中国政府は1月23日、武漢市の鉄道、空港、公共交通の<封鎖>を開始、25日には感染状況の悪化により、27日から旅行会社を介した海外旅行の事実上禁止を決めた。さらに翌26日、移動を減らすため、春節の連休を3日遅らせることや各種学校の授業開始時期の先延ばしを通達した。

 武漢の発生を受けて、日本政府は民間会社に委託してチャーター機を出し、同市駐在の日本人の希望者を帰国させた。第1便は1月29日、最終の第5便は2月17日、総勢800人が羽田空港に帰着した。

 一方、2月3日、多数の感染者を擁する外航クルーズ客船ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に寄港した。ウィルス検査を開始したのは2日後の2月5日から。2週間の経過観察期間を終えた段階で、19日から陰性の乗客970人を順次下船させ、公共交通機関等の利用も許可、帰宅させた。

 このクルーズ船は、長崎県の三菱造船が製造、竣工は2004年、船籍は英国で運営会社はアメリカ、乗客定員2706人、乗組員数1100人、総重量115,875トン、デッキ18層、全長290メートル、幅37.5メートルの超大型である。

 SNSが普及したため、流言飛語を含め、大量の情報が錯綜する。この社会現象を、WHOは<パンデミック>に模して<インフォデミック>(<情報攪乱>とでも訳すべきか)という造語で表わした。混乱の最中、無視できない要因であることは確かであろう。

 なかなか先が見えない。このころから私は自身の講演をどうするかの判断に迫られた。講演会は2月29日(土曜)、会場は約200人収容のホール。この件に関して担当者にメールを出したのが2月18日である。

 「…24日(祝)の皇居一般参賀中止を受け、三溪園でもボランティアガイドを一時中止する措置を講じました。屋外ではありますが、2メートル以内に多数のお客様が密集する可能性があり、感染の危険を排除するためです。…集会や講演会等の多数が密集する催事について、何らかの措置を講じる、ないし講じようとする動きはないのでしょうか。…お客様に危険の及ぶ可能性を排除する講演中止は賢明な措置であると思います。」

 担当者から明確な返事がない。翌19日(水曜)、私は再度メールした。「…受付スタッフのマスク着用、アルコール消毒液の使用を徹底の2点だけでは予防対策にはならないでしょう。<過剰な反応はせず正しい備え>とはとても思えません。リスク管理の基本的前提に欠けるように思われます。皇居参賀の中止は不特定多数(約1万5000人?)が屋外で密集することによる感染を危惧したためです。マスク着用、アルコール消毒液とは次元が異なるものです。…」

 1日おいて21日(金曜)午後に返事が来た。「…主催者として、今回の講演会は中止と決めさせていただきました。コロナウイルスの感染拡大の中、参加者・関係者の健康と安全第一との観点から決定しました。…」 主催者側で中止を決め難い場合は出講をお断りすることまで考えていた私は、すぐ感謝のメールを送った。

 全国的に事態が急転するのは、2月25日以降である。ダイヤモンドプリンセス号の下船・帰宅者の陽性反応が栃木県、徳島県等で判明。翌26日、東京駅前の新丸ビルで開かれた石川県交流会参加者に陽性が判明、日本の感染者数は862名となった。26日、安倍首相が文化・スポーツイベントの自粛を要請、翌27日(木曜)には全国小中高校の臨時休校を要請した。

 三溪園ではすこし早くから対策に動き出していた。17日にボランティア活動の中止を公表、26日には三溪記念館内にある<望塔亭>抹茶席の当面営業停止をホームページにも掲載。ボランティアガイドはマイクを使わないため、人が1メート以内に近づくこともある。飛沫の飛ぶ距離は2メートル以上と言われるため、屋外であっても感染リスクが高いとの理由による。

 感染リスクの低減と来園のお客さまへのサービス提供とのバランスを図るのに苦慮した末の判断である。28日、三溪記念館を全面閉館とし、外苑にある古民家の合掌造も閉館とした。追いかけるように、3月4日には「観桜の夕べ」(3月27日~4月5日)の中止を発表した。

 ただし開園は従来通り堅持する。広々とした庭園の景観と自然を存分に楽しんでいただきたい。この散策が良い眠りを誘い、免疫力の強化につながれば嬉しい。

 26日、27日の安倍首相の要請を受け、全国の小中高の大半が臨時休校となり、子どもたちの声が消えた。各地の博物館・美術館・図書館の閉館も相次ぎ、公園で遊ぶのにも制約があるようで、行き場が失われた。

 鉄道・バス等の公共交通機関では、行先・到着時刻等を示す電子掲示板に「国土交通省・厚生労働省から新型コロナウィルス感染症政策と拡大リスクの軽減のお願いです」の字幕が流れる。アナウンスもあり、「…混雑による感染拡大のリスクを避けるため、テレワーク、時差通勤への積極的取組、手洗い、アルコール消毒、咳エチケットの取組をお願いします。」

 事態は刻々と変化しており、一日でまったく認識が変わることもある。そのわずかな一局面でも、同時代の<記録>として書き留める価値があると思い、いま本稿を書いている。

 この続編を書くのはいつになるか。経済への大打撃もいっそう深刻さを増し、内外政治に及ぼす影響もさらに大きくなろう。国内の感染がピークアウトする一応の目安は3月16日(月曜)ころとされるが、予断を許さない。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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