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清談会(2019冬)

 清談会とは、横浜市立大学教員OBの団体で、夏と冬の2回、議論と懇親の会を開いている。最初が2005年12月、永年幹事の小島謙一(敬称略、以下同じ)が作成した「清談会の開催日時」によれば、毎年夏と冬に会合を持ち、今回の2019年12月29日開催が29回目になる。

 そのつど事前に話題提供者を決め、食事と酒の合間に耳を肥やし、やがて侃々諤々、時に脱線の議論がつづく。現在のメンバーは6名、年齢順に以下の通りである。

 穂坂正彦 医学・泌尿器科専門医、元医学部長、退職後に船医を10年つとめた。昭和11年東京生まれ。
 加藤祐三 歴史学・アジア史、元国際文化学部長、元学長、前都留文科大学長、現国指定名勝三溪園園長、昭和11年東京生まれ。
 丸山英氣 民法・区分所有法、千葉大学へ移籍、同大で学部長、のち中央大学法科大学院教授、2004年より弁護士、昭和13年長野県生まれ。
 小島謙一 物理学、元理学部長、現横浜創英大学学長、昭和16年群馬県生まれ。
 山本勇夫 医学・脳外科、元市民総合医療センター病院長、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター院長を経て、現木病院長(名古屋)、昭和18年静岡県生まれ。
 浅島誠 生物学・発生学、1993年に東京大学教養学部へ移籍、同大で学部長・副学長、東京理科大学副学長を経て、帝京大学学術顧問・特任教授。昭和19年新潟県生まれ。

 全員が専門を異にする。共通するのは(1)専門分野にとどまらず広い知的関心を持っていること、(2)大学という学問の府をいかに自由闊達な知の展開の場にするかに情熱を持ちつづけ、(3)地域・国・人類と地球の未来に思いを馳せること、あたりであろうか。

 第25回からは新しいテーマ「各専門分野の10年後を予測する」を定めたので、これ以降は本ブログで欠かさず記録を掲載してきた(本ブログの2018年1月5日掲載「清談会の定例会」)。これからも<主観的議事録>をなるべく客観的に綴っていきたい。

 第25回の報告は、言い出しっぺの小島「自然界の4つの力」と穂坂「AI(Artificial Intelligence人工知能)と医療、その10年後」である。これ以来、第26回が「生命科学の行方」(2018年8月17日掲載、浅島報告)、第27回が「10年後の歴史学」(2019年1月7日掲載、加藤報告)、第28回が「医療の近未来」(2019年7月29日掲載、山本報告)とつづいた。

 今回が丸山英氣「マンション問題の現在と課題」である(明示的に書かれたテーマ名ではないが、内容から判断して私が命名した)。参考として資料(1)丸山英氣「マンションは生き残れるか!?-マンション問題を斬る-」(『Evaluation』誌No.70)、資料(2)神戸における丸山の講演レジメ「マンション法の現段階」の2点が配られた。

 資料(1)は、最近のマスコミ報道で都市、不動産、マンションの将来に関する不安の声を取り上げる。例えば日本経済新聞社編『限界都市-あなたの街が蝕まれる』(日本経済新聞社、2019年)、朝日新聞社取材班『負動産-マイナス価格となる家と土地』(朝日新聞社、2019年)等。

 都市住宅の代表であるマンションについて、いちはやく問題提起したのが米山秀俊『限界マンション-次に来る空き家問題』(日本経済新聞社、2015年)で、進む建物の老朽化、住民の高齢化、その放置によるスラム化を挙げる。

 具体的には二つの<老い>、すなわち①建物の老い、そこから生じる賃貸化、空室化と、②区分所有者の老い、そこから生じる管理の困難を指摘し、その先にはマンションにも空き家が増大し、<限界マンション>の状況に達し、建替えはできず、このまま放置すると区分所有という制度は崩壊すると述べる。

 さらに山岡淳一郎『生きのびるマンション-二つの老いを越えて』(岩波新書、2019年)を紹介し、所有者の所在不明、連絡先不通(空き家)、そして団塊の世代が75歳の後期高齢者となる<2025年問題>を取り上げる。ほかに浅見泰司・齊藤広子編『マンションの終活を考える』(プログレス、2019年)等を掲げる。

 こうした最近の<悲観論>的な論調に対して、丸山は言う。「マンションという仕組みは不合理で悲観につながるか、…マンションに代わる仕組みはあるのか、…マンションの将来は悲観に満ちているのか?」

 本稿「マンションは生き残れるか!?」は、上記の「1 問題の所在」についで、「2 マンションの誕生と生成、「3 建物の老い」、「4 区分所有者の老い」、「5 空き家の増加、「6 借地権マンション」、「7 小規模マンション」とつづく。

 このなかから重要と思われる点をいくつか取り出して掲げたい。
 (1) 我が国でマンション(集合分譲住宅)が出現した昭和25(1950)年ころ首都圏の人口は約1000万人であったが、その65年後の平成27(2015)年には3800万人と4倍近くに増えた(「土地はだれのものか」研究会編『土地はだれのものか-人口減少時代に問う』(白揚社、2019年)。その受け皿がマンションであり、1950年に住宅公団が設立され、当初は賃貸が主であったが、1960年からは分譲マンションが主体となった。
 (2) 1962年に区分所有法が制定され、1970年には住宅金融公庫による公的融資が利用できるようになる。ディベロッパー(民間分譲業者)も成長し、都市銀行等も住宅ローンに参加するようになる。2017年現在、マンションは644万戸、その居住人口は1500万人余。マンション居住者は全国民の約10%、首都圏では22%、東京では27%にあたる。
 (3) 区分所有という制度の核心は、建物の一部に所有権を附与し、そこに抵当権等の担保権をつけることができ、そこから金融を得られるということであり、公団の設立は、この視点から評価すべきとする。戦前までの借家制度に代わり、若い人たちの地方から都市への移住の受け皿となったのがマンションである。(ここから外国との比較が述べられるが、ここでは省略する)
 (4) 戦後に誕生したマンションの生成のなかで、問題の発生は次の4段階を踏んだ。①日照問題、②瑕疵問題、③管理問題、④建替え問題(敷地売却問題)。なかでも最近のマンション戸数644万戸のうち旧耐震基準に基づくものが104万戸、そして築40年超が73万戸で、20年後には約5倍になる。それにもかかわらず、今まで立替を実現したマンションはなんとわずか237件(戸数は不明)に過ぎない。
 (5) それには容積率の不足(既存不適格)、相続等による所有者の確定が困難、建替え議決(5分の4以上)の難しさが伴うからである。そこで建替えに代わって敷地売却制度があるが、特定行政庁による売却の必要性の確定(建替え円滑法の101条第1項)を受けなければならず、そのハードルは徐々に低くなるとはいえ、困難にはちがいない。

 だんだんに法律の専門性の方向へ入りこむ。法学者であり弁護士としては当然であろう。しかし素人にはかなり難しい。そこに医者の山本が一般には聞き慣れない<ジェントリフィケーション>という単語を使った。アメリカでよく見られる貧民街の高級住宅化(gentrification)を意味する。これは個々のマンションの建替えとは異なり、都市再開発の一形態で、貧しい人を追い出すことから大きな社会問題となっている。

 議論が迷路に入りこみそうになったと思い、私は単刀直入に尋ねた。標題が示す「マンションは生き残れるか!?」の結論は端的にイエスなのかノーなのか、と。丸山は答えた。「イエス、生き残れる。そのための手法を開発するよう知恵を働かせなければならない」。

 マンションが生き残るための具体策の一つとして丸山が提案するのは、マンション管理の仕方である。管理組合が管理するのが一般的な仕組みであるが、理事等の役員の高齢化により、なり手がなくなれば管理は危機に瀕する。それに総会出席率は平均で10%ほどときわめて低い。

 そこで丸山は提案する。「管理を専門家にまかせ、区分所有者はその監視をするということに切り替えたらどうであろうか。このことにより、管理は長期的視野に立ち、厳格に行うことができる」と。

 この提案は思いつきではなく、種々の法的根拠を挙げる。とくに丸山の講演レジメである「資料(2)マンション法の現段階」がそのために用意されたものだが、マンション法の変遷を整理し、①昭和37年区分所有法にはじまり、②昭和58年区分所有法、③昭和58年中高層共同住宅標準管理規約、④平成12年管理適正法、⑤平成14年区分所有法、⑥平成14年建替え円滑法、⑦平成27年建替え円滑法のそれぞれの特徴を掲げる。

 さらに<被災区分所有法>と<損害賠償請求>とつなげ、「5 管理組合による管理の反省」のなかで<第三者管理の導入>を提案する。いっそう深く法の森に迷い込みそうである。

 議論は「マンション問題の現在と課題」にとどまらず、第2部ともいうべき課題に入って行き、久しぶりに3時間を超え、9時過ぎに解散した。

 第2部の課題は大別して、(1)従前からの継続である「AIの進化とその暴走をいかに阻止するか」であり、(2)「日本の人口減少をどう考えるか」である。

 第1の「AIの進化とその暴走をいかに阻止するか」は、一筋縄では対処できない。清談会のメンバーだけでは限界があり、外から専門家を呼ぶ必要も出てくるかもしれない。あるいは従来のままの親睦会の性格を継承するか。

 第2の「日本の人口減少をどう考えるか」については、生命科学の浅島が日本の人口減少を嘆くばかりでなく、現在の総人口1億2615万人から、今後の目標値を8000万あたりに置くとする見解を示した。時間が足りず、その根拠を聞くことができなかったが、次回に期待しよう。

 私は浅島の発言から、石橋湛山(1884~1973年)の「小日本主義」(増田弘編『石橋湛山外交論集』草思社、1984年5月所収)を想起した。石橋は、戦前『東洋経済新報』により、一貫して日本の植民地政策を批判して台湾・朝鮮・満州の放棄とそれに代わる加工貿易立国論を唱え、大正デモクラシーを先導した。戦後直後に論説「更正日本の進路〜前途は実に洋々たり」において科学立国で再建を目指せば日本の将来は明るいとする先見的な見解を述べている。その後も「日中米ソ平和同盟」を主張して政界で活躍した。1956(昭和31)年、保守合同後初めて本格的に実施された自民党総裁選挙を制して第55代総理大臣となった。

 ともあれ、<闘う法学者弁護士>の丸山。80歳を越えて意気天を衝くである。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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