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横須賀開国史研究会の20年

 11月30日(土曜)、横須賀藝術劇場ベイサイド・ポケットにおいて、横須賀開国史研究会の創立20周年記念シンポジウムが開かれた。横須賀開国史研究会(以下、<開国史研>)とは、その会則第3条に「三浦半島と関わりのある開国及び日本近代化の歴史(以下「開国史」という)に光をあてるため、その掘りおこしと研究を行う」と謳う。事務局を横須賀市文化スポーツ観光部文化振興課に置く(第2条)。

 上記の目的を達成する事業として、会則第4条には、(1)開国史にまつわる資料及び情報の収集、(2)講演会、シンポジウム、史跡めぐり、市民交流会などの開催、(3)開国史にまつわる人物の顕彰、(4)機関誌の発行、(5)市内外諸関係団体との連携、(6)会員の研究に資する情報の交換、(7)文献の紹介、(8)その他必要な事項、の8項目が記されている。
 
 <開国史研>は歴史研究の学術団体であると同時に、地域文化振興の市民団体の性格も併せ持つ。その性格を存分に示すのが(2)講演会、シンポジウム、史跡めぐり、市民交流会などの開催で、それを広く伝える媒体が(4)機関誌『開国史研究』(年報、A5版2段組)の発行である。2019年からは、会報紙「よこすか開国史かわら版」の発行も始めた。

 <開国史研>は400名超の会員で発足(一般会員の年会費は1000円)。会則第6条には、会員の互選により幹事(若干名)と監事を選出し、幹事の互選により会長、副会長(2名以内)、事務局長、会計を決め、役員の任期は2年とし、再任を妨げない。

 また総会は会員をもって構成し、研究会の最高機関として会の意思と方針を決定する。年1回開催、必要に応じて臨時総会も可。議決は出席者の過半数の同意による(第9条 総会)、とある。会則は機関誌の毎号に掲げられている。

 <開国史研>は2000(平成12)年に設立総会を開き、以来、着実に歩みつづけて20年を迎えた。壮大なビジョンを描いて手堅い計画を立て、やり遂げてきたのが、会長の山本詔一さん、事務局長の小倉隆代さんたち幹事とそれを支える会員である。

 山本さんたちと初めてお会いしたのは1997年の秋、場所は横浜の関内ホール、宮崎壽子監訳『ペリー艦隊日本遠征記』(全4巻、1997年、栄光教育文化研究所)の刊行を祝う会合である。私も解説を書いた関係から話をした。

 終了後に名刺交換。「…横須賀で開国史の研究をしており、近く研究団体を立ち上げたい」と言われ、浦賀奉行所の地元だから面白くなるに違いないと直感したが、翌1998年度から横浜市大学長に就任、多忙のうちに忘れかけていた。

 学長室に来られたのは2年後の1999年であったか、「いよいよ横須賀開国史研究会を立ち上げるので、創立記念総会で記念講演をお願いしたい…」、山本さんの人なつっこい笑顔の内に、後には引かない熱さがあった。

 これが20年前、創立記念総会で「ペリー来航とその時代」と題する講演を引き受けることになった経緯である。創立20年と一言でいうが、簡単に達成できるものではない。ここまで道のりを示す「横須賀開国史研究会20年のあゆみ」が小倉事務局長から送られてきた。5月総会の記念講演と秋の講演会・シンポジウムの、過去19年分を一覧したものである。これがなによりも雄弁に実績を語る。

    ◎総会記念講演  ○秋の講演会・シンポジウム  ※その他
2000年◎加藤祐三氏(横浜市立大学長)「ペリー来航とその時代」
    ○「小栗上野介」パネリスト:沢田秀男氏・西堀昭氏・小寺弘之氏・
             エリザベット・ドゥ・トゥーシェ氏・山本詔一氏
    ※写真展「小栗上野介と横須賀製鉄所」(ショッパーズプラザ横須賀にて)
2001年◎安達裕之氏(東京大学教授)「幕末の海防政策と軍艦製造」
    ※古文書を読む会を開講      
2002年◎西川武臣氏(横浜開港資料館調査研究員)「東京湾内の台場建築と地域住民」
○1部:「黒船来航と音楽」ピアノ鈴木初音氏
     2部:岩下哲典氏(明海大学助教授)「ペリー来航、その予兆と現実」
2003年◎春名徹氏(作家) 「モリソン号事件とマンハッタン号事件」
    ○佐々木譲氏(作家)「中島三郎助」
2004年◎笠原潔氏(放送大学助教授)「黒船来航時に演奏された音楽」
    ○1部:「横須賀はじめて物語」 ピアノ鈴木初音氏
      2部:鈴木淳氏(東京大学教授)「技術者小野正作の自伝にみる明治初期の横須賀造船所」
2005年◎徳川恒孝氏(徳川記念財団理事長・徳川家十八代当主)「江戸二百六十年の天下泰平と開国」
    ○「ペリー来航と黒船かわら版」パネリスト:西澤美穂子氏・田中葉子氏・富澤達三氏
2006年◎三谷博氏(東京大学大学院教授)「長期危機への対応」
    ○「横須賀の発展~製鉄所・その後のあゆみを通じて~」 パネリスト:久保木実氏・富澤喜美枝氏・中里行雄氏
2007年◎青木美智男氏(元専修大学教授)「幕末外国人が見た庶民教育について~ペリー、シュリーマン、オールコックらの訪日日記から~」
    ○「幕末ペリー事情~太平の眠りを覚ます上喜撰~の歌はいつ詠まれたのか」
      パネリスト:加藤祐三氏・岩下哲典氏・田中葉子氏
2008年◎嶋村元宏氏(神奈川県立歴史博物館主任学芸員)「アジアの中の日本開国」
    ○「開国の歴史とうた」
    1部:「唱歌で綴る近代日本の歩み」 歌コール・グランド・マジ
    2部:「~太平の眠りを覚ます上喜撰~の歌はいつ詠まれたのか」続編
      パネリスト:岩下哲典氏・田中葉子氏・山本詔一氏
2009年◎荒野泰典氏(立教大学教授)
「『開国』とは何だったのか~いわゆる『鎖国』との関連で考える~」
   ○開国史研究会設立10周年記念シンポジウムー「明治時代の横須賀を語る~NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』放映にあわせて」
   パネリスト:藤澤浩一氏・平間洋一氏・保坂宗子氏・保坂義雄氏・山本詔一氏
    ※会報紙「よこすか開国史かわら版」の発行 
2010年◎植松三十里氏(作家)「知られざる幕府海軍総裁 矢田堀景蔵」
    ○「幕末・明治の沿岸防備の歴史~台場・砲台の機能と変遷」
      パネリスト:淺川道夫氏・鈴木淳氏・原剛氏・保谷徹氏
2011年◎吉田ゆり子氏(東京外国語大学教授)「湊町浦賀と人びとのくらし」
    ○齋藤純氏(当研究会特別研究員)
「『黒船』を見た人びと─ペリー艦隊浦賀来航を目撃した記録からわかってきたこと─」
2012年◎井上勝生氏(北海道大学名誉教授)「日本開国史を見なおすために―江戸湾を舞台に―」
   ○1部:山本詔一氏(当研究会会長)「ぺるり物語」
     2部:対談 山本詔一氏・齋藤純氏      
2013年◎田中葉子氏(東京都北区教育委員会文化財専門委員)「かわら版のなかのペルリたち」
    ○1部:野口信一氏「山国会津の侍、日本の海を守る―幕末会津藩海防史―」
     2部:対談 野口信一氏・山本詔一氏     
    ※ペリー来航160周年記念「ペリー艦隊の航路をめぐるクルーズ」
2014年◎高橋敏氏(国立歴史民俗博物館名誉教授)
「幕臣小栗上野介忠順の幕政改革構造と横須賀製鉄所」
    ○1部:岡野雅江氏(富岡製糸場総合研究センター学芸員)
「冨岡製糸場の設立に関わる横須賀製鉄所との関連性について」              
     2部:対談 岡野雅江氏・山本詔一氏       
2015年◎鈴木淳氏(東京大学教授)
「横須賀製鉄所再考―地方出身の就業に注目して―」
    ○横須賀製鉄所(造船所)創設150周年記念
     1部:村上泰賢氏(東善寺住職) 「幕府の運命、日本の運命―小栗上野介の日本改革と横須賀製鉄所―」    
     2部:対談 村上泰賢氏・山本詔一氏           
2016年◎植松三十里氏(作家) 「横須賀製鉄所の妹・富岡製糸場」
○「ペリー来航とその後の浦賀町」
      パネリスト:西川武臣氏・田中葉子氏・齋藤純氏・山本詔一氏
2017年◎山本一力氏(作家) 「生き方雑記帖―ジョン万次郎調査行―」
    ○1部:岩下哲典氏「黒船来航絵巻『金海奇観』とその時代~仙台藩儒者・砲術家大槻磐渓とペリー再来日」
     2部:対談 岩下哲典氏・山本詔一氏
2018年◎後藤敦史氏(京都橘大学准教授)「ペリーとハリスのあいだ~世界史のなかの日本開国~」
   ○1部:村上泰賢氏「小栗上野介と横須賀造船所」
   2部:シンポジウム パネリスト:村上泰賢氏・齋藤隆氏・山本詔一氏
   3部:海上自衛隊横須賀音楽隊演奏
2019年◎齋藤純氏「浦賀奉行所の明治維新―奉行・与力・同心たちのその後―」
 
 山本さんは企画から講演者の人選、交渉にいたる下準備にとどまらず、自ら対談やパネリストとして、ほぼ欠かさず参加している。

 ほかに「開国史基礎講座」、「開国史研究講座」、「開国史に関する古文書を読む会」(数回の連続もの)を開講。講師は主に山本さんと斎藤純さん。さらに四季ごとの<史跡巡り>で実際に現場を歩く。

 その成果の一つに、浦賀奉行所300年を記念して山本さんが連載中の「浦賀往来新聞」(神奈川新聞横須賀支社企画・制作、月刊)がある。最新号(2019年10月24日)は43代奉行・伊沢正義。いよいよ日米和親条約の調印である。

 たゆまぬ努力が、<開国史研>をここまで揺るぎない存在にしてきた。但し、これだけでは人はついてこない。「…一度会ったら友達だぁ」の山本さんの明るさや、多様な人を受け入れる器の大きさは見逃せない。
 
 山本さんは昭和24(1949)年、浦賀に生まれ育ち、専修大学で日本史を学び、浦賀で家業の書店を経営している。<開国史研>が歴史研究の学術団体であると同時に地域文化振興の市民団体の性格も併せ持つ、と述べたが、私が理想とする「セカイミスエ モチバデウゴカム」(世界を見据え 持ち場で動かむ)を地で行っている。

機関誌『開国史研究』各号の巻頭言にあたる「〇〇号の発刊にあたり」(見開き2ページ)に山本さんの真髄を垣間見ることができる。論文掲載の経緯と内容紹介が見事である。最新号は第19号で2019年3月刊。すでに全国の主要大学図書館にも入り、高い評価を得ている。

20年の歩みをなぞりながらの基調講演とシンポジウムの詳細は、来年1月発行予定の会報紙「よこすか開国史かわら版」(季刊)と機関誌『開国史研究』第20号(来年春予定)に掲載されるはずである。

第1部 基調講演「近世日本の国際関係と現代~<鎖国>と呼ばれた時代が私たちに問い掛けるもの~」 講師 荒野泰典さん(立教大学名誉教授)
 配布レジメには、Ⅰ.はじめに Ⅱ.前回のおさらい Ⅲ.<開国とは何だったのか-実態と言説との間、Ⅳ.終わりに、からなる。「Ⅱ.前回のおさらいと」とは2009年の同名の講演を指す。機関誌10号を参照。

第2部 シンポジウム「20年を振り返る」は、パネリストとして私、平尾信子さん(海事史学会理事)、斎藤純さん(元専修大学講師)の3人が年齢順に並び、山本さんの司会進行で進む。

 私は今にいたる20年の私自身を振り返り、<日米和親条約双六>(年表、地図、表等8点を拙著『幕末外交と開国』から抜粋したパワーポイント版A3×両面)を作って話した。双六の<振り出し>は1853年7月8日の、浦賀奉行所とペリー艦隊の最初の接触とし、奉行所が果たした役割へと進み、<上がり>を4か国語から成る条約文とした。

 平尾信子さんは、著書『黒船前夜の出会い-捕鯨船長クーパーの来航』(1994年、NHKブックス)を書くにあたり、NY駐在中に集めたアメリカ側史料だけではなく、日本側の史料とも照合させたいと、帰国後に渡辺正美『異国船来と三浦半島』を経由して、山本さん、小倉さんたちと知り合った経緯を述べる。

 また機関誌2号、4号、8号にアメリカ側史料の翻訳と解説を掲載し、2013年、『ペリー日本遠征命令公式複写集』として刊行。そして<史跡巡り>で会津、新見、松坂等から得た数々の経験を通して「…<開国史研>が私を育ててくれた」と結んだ。

 齊藤純さんは、山本会長が信頼する専修大学の2年先輩で、古文書講座を引き受けて15年になる。上掲の総会記念講演と秋の講演会・シンポジウムのほか、「開国史基礎講座」、「開国史研究講座」、「開国史に関する古文書を読む会」(それぞれ数回の連続もの)等の活動を重ねているが、「古文書を読む会」は齋藤さんの独擅場である。

 既存の古文書集があるわけではない。各地各所にある古文書を丹念に探し求めて解読する。その作業を通じて大きな発見があった。その代表例が有名な狂歌「泰平の眠りをさます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず」(上喜撰は煎茶の銘柄で蒸気船と音通、4隻のペリー艦隊とかけている)、これが明治時代になって作られたものか、あるいはペリー来航時に詠まれたものかの<論争>である。齋藤さんがペリー来航時の史料を発見し、決着をつけた。この論文を掲載した10号は200部を増刷したという。

 中身の濃い20年であった。この確かな探求の勢いを、まずは10年先まで維持してほしい。勝手に応援団長を自任する私の願いである。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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