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清談会の定例会

 我らが「清談会」は2005年に発足、毎年7月と12月に都内のレストランで開催、今回が25回目になる。12月28日、場所は中華料理の古稀殿。メンバーは横浜市立大学で活躍した面々で現在は6名、途中で他大学へ移った者を含むが、市大時代に共有した志をいまも引き継いでいる。

 「清談会」(せいだんかい)の発起人かつ命名者で幹事は、物理学者の小島謙一さん(後述)である。清談とは、世俗を離れた清らかな談話という意味。儒教思想全盛の漢代から魏の時代になり、儒教道徳を超えて主に老荘思想を題材とする幽玄な哲学的議論を交わした「竹林の七賢」の清談が代表例である。
 この故事にちなんで命名したが、現代日本では清談会と聞いてピンと来る人は多くない。長く使ったレストランが工事で閉鎖し、古稀殿に電話予約を入れたとき、政治団体か右翼団体かと訝られた。

 メンバーは以下の通り(年齢順、敬称略)。
穂坂正彦(医学・泌尿器科専門医、元医学部長、退職後に船医を10年つとめた。昭和11年東京生まれ)。船医時代の奮闘ぶりを、本ブログの2017年1月6日掲載の「船医、この10年」に書いた。
加藤祐三(歴史学・アジア史、元国際文化学部長、元学長、のち都留文科大学長、昭和11年東京生まれ)
丸山英氣(民法・区分所有法、途中で千葉大学へ移籍、同大で学部長、さらに中央大学法科大学院教授、現弁護士、昭和13年長野県生まれ)
小島謙一(物理学、元理学部長、現横浜創英大学学長、昭和16年群馬県生まれ)山本勇夫(医学・脳外科、元市民総合医療センター病院長、のち横浜市立脳卒
中・神経脊椎センター院長、現並木病院長(名古屋)、昭和18年静岡県生ま
れ、今回は欠席)
浅島誠(生物学・発生学、途中で東京大学教養学部へ移籍、同大で学部長・副学長、現東京理科大学副学長、昭和19年新潟県生まれ)

 全員が専門を異にする。共通するのは(1)専門分野にとどまらず広い知的関心を持っていること、(2)大学という学問の府をいかに自由闊達な知の展開の場にするかに情熱を持ち、(3)人類と地球の未来に思いを馳せることか。

 今回は、丸山が瑞宝中受章、浅島が瑞宝重光章(2001年の紫綬褒章等に加えて)の叙勲のお祝いに、小島が準備した銀杯(「清談会、平成29年霜月」の銘入り)を贈呈した。なお穂坂は臨床医のため教職歴が短いとして受章とならず、加藤は2014年秋に瑞宝中受章を受けた。

 清談会では、話題提供者を決め、食事と酒の合間に耳を肥やし、やがて侃々諤々、時に脱線の議論がつづく。今回からの新しいテーマは、「各専門分野の10年後を予測する」である。

 一番バッターは言い出しっぺの小島である。テーマは「自然界の4つの力」、パワーポイント(のプリント版)を使って話す。その延長上に10年後の予測テーマが「室温(氷点以上)超電導が実現するか」である。超電導が室温で実現すれば、電気エネルギーが大幅に削減できる。2030年には観測可能となるが、その実用化は2040年以降と予測した。

 穂坂のテーマは「AI(Artificial Intelligence人工知能)と医療、その10年後」、配布レジメはA4×11ページ。1950年代に始まる第1次AIブーム(推論・検索)、1980年代からの第2次ブーム(知識表現)、2012年以来の第3次ブーム(ディープラーニング、機械の自律的成長)と展開した後さらに急展開し、IoT(Internet of Things、部品・原料等モノをインターネットで結ぶ)を中心とする第4次産業革命に突入する経緯を説明する。
 医療の(画像)診断・治療の領域では、全診療科にわたる高度な診断・支援が可能となった。ゲノム(遺伝子情報)医療も急速に進み、2020年までに個々人のゲノム解析をAIが行い、日常の診療に活用されるようになるとする。最後に<AIの限界>を語って終わった。

 すかさず浅島が言う。「…AIはもっと先に進んでおり、自身で考え、人間社会を支配することが将来は起こるのではないか…」。生物学が遺伝子情報を操作することの怖さを熟知しているからであろう。穂坂が答える。「レジメの末尾の<AIの限界>で言おうとしたのは、その問題。AIの能力の限界ではなく機能の限界…チェックと制御が必要…AIは生命を扱ってはいけない…」。

 私も、かつて本ブログに書いた関連記事を思い出し、極端な事例として「AIが核兵器のボタンを押すことの危険性」について警鐘を鳴らす発言をした。それはたんなる素人の思いつきではなく、藤原洋さんから教えられたところが大きい。本ブログの「地球環境とサイエンス」(2014年10月1日掲載)や「ありがたき耳学問」(2016年5月24日掲載)で、AIやIoTに言及した。

 藤原さんは京都大学理学部宇宙物理学科を卒業、株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEOである。IoTの概念を初めて提示した『第4の産業革命』(朝日新聞社 2010年)の著者でもある。
 藤原さんと初めてお会いしたのは、2014年4月、『人民日報海外版 日本月刊』誌主催の「日清戦争120周年座談会」。藤原さんは同誌の理事長、編集長は蒋豊さん。不思議な縁で、蒋さんは20年以上も前に私の所へ来た留学生であった。本ブログのリンク「都留文科大学長ブログ」の077「20年ぶりの再会」(2013年1月21日に登場)。

 AIの能力とそのもたらす便利さへの期待、その反対にAIに仕事を代替され失業する不安や、AIが暴走することへの恐怖とその抑止具体策(への疑問)…科学技術の未来を考えると、悲観論に陥らざるを得ない時がある。
 
 だが知的営為は止められない。…<陰極まりて陽転ず>という名言を古代中国人が残している。日々の営為が悲観の極みに達すると楽観に転じる。その逆の<陽極まりて陰転ず>もある。今後さらに議論を深めたい。
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プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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