大学評価の現在
3月6日(金曜)の午後、公立大学協会(以下、公大協)主催の高等教育改革フォーラム「地域に根差した大学を活かす公立大学法人評価の多様な取組み」が開かれ、110余名が参加、基調講演と報告があり、それを受けたパネルディスカッションでも活発な意見交換がなされた。
今年度、公大協は文部科学省の先導的大学改革推進委託事業「公立大学法人評価に関する調査研究」を受託、協会内に同名の有識者会議を設置した。これにより公立大学法人を設立する56の自治体(設立団体)、法人評価委員会、公立大学法人の3者に対してアンケート調査を実施、うち8団体には訪問調査を行った(なお法人化していない公立大学が18校ある)。その中間報告を踏まえたフォーラムである。
公立大学協会の木苗直秀会長、文部科学省の塩見みづ枝大学振興課長の挨拶についで、北原和夫教授(東京理科大学大学院科学教育研究科)の基調講演「評価の多元性が育む大学の未来」があった。北原さんは、日本学術会議「大学教育の分野別質保証の在り方」委員長(2008~2010年度)、文科省先導的大学改革推進委託事業「大学における教育研究活動の評価に関する調査研究」研究代表(2011~2012年度)を歴任、その経験と成果を踏まえた講演である。
「大学評価」という言葉の持つ意味は、大きく3つに分けられよう。①公立大学法人評価(地方独立法人法第79条に基づく)、②認証評価(学校教育法第109条2項に基づく)、③研究論文数や規模等の特定指標に基づく大学ランキング(我が国では法的根拠なし)。このうち①が当フォーラムの主な主題である。
経営学の1手法を大学評価に導入したPDCA(Plan, Do, Check and Action)は、計画・実施・評価・改善を意味するが、このPDCAを意識的に行い、大学の質を高めるのが評価の狙いである。すなわち大学が自己点検評価(P+D+c)を行い、それを学外の法人評価委員会が評価(C)、結果を大学にフィードバックして次の改善に結びつける(A)というサイクルを動かす。
北原さんは、大学の「教育研究活動の評価」を中心として、次の点を強調した。(1)大学の自律的な質保証には、分野別教育課程を編成する「参照基準」が要るとして日本学術会議で審議を行い(2008年~現在)、経営学に始まり心理学まで18分野の策定を終え、あと数分野を残す段階まできたこと。(2)ここで見えてきたことは、各分野の学びには「芯」と「骨組み」があり、それぞれアイデンティティーがあること。(3)大学は①知識の継承(=教育)、②知識の創出(=研究)、③知識の公共化という3つの普遍的使命をもち、パブリックマネジメントとの関連で言えば、大学評価は目標設定型の管理手法(経営の効率化)にはなじまないこと、また大学は社会のあり方に規定される存在であるが、同時に新しい社会を創出する知的源泉でもあること。
つづいて佐々木民夫(有識者会議主査、岩手県立大学高等教育センター長)「公立大学法人評価に関する調査研究について(中間報告)」。主な論点は、(1)公立大学法人評価については、各設立団体の評価委員会が、不断の改革とステークホルダーに対する説明責任を果たすべく取り組んできた、(2)今年度の文部科学省委託調査(上掲)を通じ、56法人評価委員会の様々な方式や工夫の実態が初めて明らかになった、(3)その収集・分析を、各設立団体及び公立大学法人にフィードバックし、今後の法人評価の効率化、実質化に反映させたい、と述べる。
休憩後、以下の3つの報告があり、つづけて佐々木民夫さんの司会の下、北原さんを含めた4氏のパネルディスカッションがあった。
近藤倫明(公立大学法人北九州市立大学長)「情報管理システム構築等による評価実質化の試み」は、法人評価(C)をいかに活かすか(A)、そのICT化によるデータベース作成の実際を述べた。
江里健輔(公立大学法人山口県立大学理事長)「公立大学法人山口県立大学における法人評価の取組」は、理事長・学長別置型の理事長として法人評価を受ける立場から発言。進まないのが「教員の人事評価」と語る。
吉武博通(東京都地方独立行政法人評価委員会公立大学分科会長)「公立大学法人評価の実質化に向けて」は、①法人評価の目的・意義を3者(設立団体、法人評価委員会、公立大学法人)で共有し、②施策の羅列から構造化へと進め、③PDCA の成果(=改善に向かっているか=内部質保証)を明らかにする評価方法の工夫について述べた。
これらの詳細は公大協ホームページに掲載されている。
その後のパネルディスカッションを含め、有意義な意見を聴きつつ、国立大学法人の動向を伝える「国立大学長に自由予算枠 交付金配分に成果主義」(日本経済新聞3月1日)が念頭を離れなかった。
来年度(2015年度)、国立大学長が自由に使える予算枠を新設、学長のリーダーシップを強化する。2016年度からは(文部科学省が)国立大学法人を①「世界最高水準の教育研究」、②「特定の分野で世界的な教育研究」、③「地域活性化の中核」の3グループに分け、グループごとに異なる評価手法を用いて成果を判断するというが、グループ分けの基準も、グループごとに異なる評価手法についても示されていない。さらに2018年度からは交付金の配分に成果主義を導入するという。
文部科学省が約3年前の2012(平成24)年7月にまとめた「大学改革実行プラン」について、「(052)官製大学改革実行プラン(速報)」(『都留文科大学学長ブログ』2012年6月18日号)で、予算締付けを主因とする官製改革では大学の自律性が危惧されると述べた。それが来年度から、いよいよ現実となる。公立大学も大きな影響を受けかねない。大学という知的基盤社会の源泉を枯渇させてはならない。
今年度、公大協は文部科学省の先導的大学改革推進委託事業「公立大学法人評価に関する調査研究」を受託、協会内に同名の有識者会議を設置した。これにより公立大学法人を設立する56の自治体(設立団体)、法人評価委員会、公立大学法人の3者に対してアンケート調査を実施、うち8団体には訪問調査を行った(なお法人化していない公立大学が18校ある)。その中間報告を踏まえたフォーラムである。
公立大学協会の木苗直秀会長、文部科学省の塩見みづ枝大学振興課長の挨拶についで、北原和夫教授(東京理科大学大学院科学教育研究科)の基調講演「評価の多元性が育む大学の未来」があった。北原さんは、日本学術会議「大学教育の分野別質保証の在り方」委員長(2008~2010年度)、文科省先導的大学改革推進委託事業「大学における教育研究活動の評価に関する調査研究」研究代表(2011~2012年度)を歴任、その経験と成果を踏まえた講演である。
「大学評価」という言葉の持つ意味は、大きく3つに分けられよう。①公立大学法人評価(地方独立法人法第79条に基づく)、②認証評価(学校教育法第109条2項に基づく)、③研究論文数や規模等の特定指標に基づく大学ランキング(我が国では法的根拠なし)。このうち①が当フォーラムの主な主題である。
経営学の1手法を大学評価に導入したPDCA(Plan, Do, Check and Action)は、計画・実施・評価・改善を意味するが、このPDCAを意識的に行い、大学の質を高めるのが評価の狙いである。すなわち大学が自己点検評価(P+D+c)を行い、それを学外の法人評価委員会が評価(C)、結果を大学にフィードバックして次の改善に結びつける(A)というサイクルを動かす。
北原さんは、大学の「教育研究活動の評価」を中心として、次の点を強調した。(1)大学の自律的な質保証には、分野別教育課程を編成する「参照基準」が要るとして日本学術会議で審議を行い(2008年~現在)、経営学に始まり心理学まで18分野の策定を終え、あと数分野を残す段階まできたこと。(2)ここで見えてきたことは、各分野の学びには「芯」と「骨組み」があり、それぞれアイデンティティーがあること。(3)大学は①知識の継承(=教育)、②知識の創出(=研究)、③知識の公共化という3つの普遍的使命をもち、パブリックマネジメントとの関連で言えば、大学評価は目標設定型の管理手法(経営の効率化)にはなじまないこと、また大学は社会のあり方に規定される存在であるが、同時に新しい社会を創出する知的源泉でもあること。
つづいて佐々木民夫(有識者会議主査、岩手県立大学高等教育センター長)「公立大学法人評価に関する調査研究について(中間報告)」。主な論点は、(1)公立大学法人評価については、各設立団体の評価委員会が、不断の改革とステークホルダーに対する説明責任を果たすべく取り組んできた、(2)今年度の文部科学省委託調査(上掲)を通じ、56法人評価委員会の様々な方式や工夫の実態が初めて明らかになった、(3)その収集・分析を、各設立団体及び公立大学法人にフィードバックし、今後の法人評価の効率化、実質化に反映させたい、と述べる。
休憩後、以下の3つの報告があり、つづけて佐々木民夫さんの司会の下、北原さんを含めた4氏のパネルディスカッションがあった。
近藤倫明(公立大学法人北九州市立大学長)「情報管理システム構築等による評価実質化の試み」は、法人評価(C)をいかに活かすか(A)、そのICT化によるデータベース作成の実際を述べた。
江里健輔(公立大学法人山口県立大学理事長)「公立大学法人山口県立大学における法人評価の取組」は、理事長・学長別置型の理事長として法人評価を受ける立場から発言。進まないのが「教員の人事評価」と語る。
吉武博通(東京都地方独立行政法人評価委員会公立大学分科会長)「公立大学法人評価の実質化に向けて」は、①法人評価の目的・意義を3者(設立団体、法人評価委員会、公立大学法人)で共有し、②施策の羅列から構造化へと進め、③PDCA の成果(=改善に向かっているか=内部質保証)を明らかにする評価方法の工夫について述べた。
これらの詳細は公大協ホームページに掲載されている。
その後のパネルディスカッションを含め、有意義な意見を聴きつつ、国立大学法人の動向を伝える「国立大学長に自由予算枠 交付金配分に成果主義」(日本経済新聞3月1日)が念頭を離れなかった。
来年度(2015年度)、国立大学長が自由に使える予算枠を新設、学長のリーダーシップを強化する。2016年度からは(文部科学省が)国立大学法人を①「世界最高水準の教育研究」、②「特定の分野で世界的な教育研究」、③「地域活性化の中核」の3グループに分け、グループごとに異なる評価手法を用いて成果を判断するというが、グループ分けの基準も、グループごとに異なる評価手法についても示されていない。さらに2018年度からは交付金の配分に成果主義を導入するという。
文部科学省が約3年前の2012(平成24)年7月にまとめた「大学改革実行プラン」について、「(052)官製大学改革実行プラン(速報)」(『都留文科大学学長ブログ』2012年6月18日号)で、予算締付けを主因とする官製改革では大学の自律性が危惧されると述べた。それが来年度から、いよいよ現実となる。公立大学も大きな影響を受けかねない。大学という知的基盤社会の源泉を枯渇させてはならない。
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