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人文知による情報と知の体系化

 人間文化研究機構と情報・システム研究機構の合同シンポジウム「人文知による情報と知の体系化-異分野融合で何をつくるか」が2008年2月26日(月曜)午後1時半から、一橋大学一橋講堂(学術総合センター内)で開かれた。難しそうなテーマだが、前々からきわめて重要なテーマだと思っていた。

 主催団体の人間文化研究機構(6つの研究所・博物館等を持つ)と情報・システム研究機構(4つの研究所と1つの基盤施設を持つ)とは、国立大学法人法の設置する大学共同利用機関法人に属し、国公私立の大学が利用できる。全部で4つの機構から成り、上掲の2つに加え、自然科学研究機構(国立天文台と4つの研究所)、高エネルギー加速器研究機構(2つの研究所)がある。

 大学は教育・研究・社会貢献の3つの役割を持つ(本ブログのリンク「都留文科大学学長ブログ」の009「大学の役割」2011年5月9日を参照、以下の引用では「学長ブログ」と略称)。これに対して、これら4つの機構は、名前が示すように研究を本務とし、データベース等を作成して公開する社会貢献を行うと定義して良かろう。教育は総合研究大学院大学(博士課程のみ)であり、若い学部生と日常的に接する機会は少なく、ゼミ学生もいない。

 今回の案内には、「二つの機構による共同研究に基づき、本年度は連携・協力推進にかんする協定を締結、さらに新たな知の創造、異分野融合の促進、新領域の創出を推進していく」とあり、このシンポジウムの開催趣旨を「…文と理にまたがる多様な分野で、興味深い、先進的な研究に取り組んでいることを実感していただきたい」と述べる。

 最初が立本成文(人間文化研究機構機構長)の基調講演「人文知から見た文理融合」である。この3月に退任される立本さん(1940年~)の「最終講義」とも言える。わずか40分間のなかにエッセンスを込め、聴き手に分かるよう、最初に「三大話」と言いつつ、3章9節の目次をスクリーンに映し出して話を進めた。私のメモに基づき一覧したのが下記、ここに主張の強調点が見られる。

 1章「文と理」は、(1)「文理とサイエンス」、(2)「文理は分離できない、百学連環」、(3)「二つの文化論と二元論的発想」

 2章「人文知-二項対立から融合へ」は、(1)「客観的知識と主観的知識」、(2)「科学革命(19世紀後半)で失われたもの、いのち(からだ・こころ・ことばのはたらき)、(3)「総合性の復権」。

 3章「文理融合の方法」は、(1)「総合的に捉まえる最近の考え方(ITによるビッグデータの統合等)」、(2)人間文化研究機構のビジョン、(3)「実事求是(事実判断と価値判断)と科学者の道義的責任、人間らしさの復権」。

 いくつも共感できる点があるが、なかでも1章(2)の西周の「百学連環」と2章(2)の「科学革命で失われた、いのち(からだ・こころ・ことばのはたらき)」が心に残る。まとめの段階で、ゲージ理論の草分け、数学・物理・哲学等に通暁、深い思索を展開したH・ワイル(1885~1955年)「プリンストン大学創立200周年記念講演(1946年)」(岡村浩訳『精神と自然』(1946年、ちくま学芸文庫、2014年所収)を引き、科学における人間らしさの復権を結びとした。

 立本さんとは、6年前に山梨県富士吉田市で開かれたセミナー「第2 回の地球研地域連携セミナー「分かち合う豊かさ 地域のなかのコモンズ」で初めてお会いした(「学長ブログ」067「2つの研究セミナー」2012年10月19日号)。当時、立本さんは総合地球環境学研究所(略称が地球研)所長であり、私は都留文科大学長として地域の縁から出席、その後もお会いする機会を得た。

 立本さんは京都大学文学部哲学科を卒業、大学院で社会学を専攻、京都大学東南アジア研究センターで長らく研究に携わった。『東南アジアの組織原理』(勁草書房、1989年、旧姓の前田成文)、『共生のシステムを求めて』(弘文堂、2001年)等の名著で知られる。
 研究者にとどまらず、1998~2002年、京都大学東南アジア研究センター所長、2007年より総合地球環境学研究所所長、2014年から人間文化研究機構長として、人文知の推進・発展のための組織的牽引役を果たした。その一つが3章(2)、組織の将来ビジョンを描いたものである。

 つづいて3つの事例紹介があった。
 事例紹介1 斎藤成也(国立遺伝学研究所教授)「ヒトゲノム情報の革命がもたらした日本列島人史研究の新展開」。『ゲノム進化学入門』(共立出版 2007年)等のほか、一般書・啓蒙書も多い。『DNAから見た日本人』(ちくま新書 2005年)、『日本列島人の歴史』(岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ) 2015年)等に見られるように、ゲノム分析と日本列島人の歴史を結合し、新しい世界を切り開く。

 事例紹介2 木部暢子(国立国語学研究所教授)「言語調査における連携・協力~八丈島・岡崎市・鶴岡市などの調査から~」。『そうだったんだ日本語 じゃっで方言なおもしとか』(岩波書店 2013年)、『方言学入門』(共著 三省堂 2013年)に見られるように、日本語の方言研究、なかでもアクセントや音韻に特色のある九州西南部の方言を中心に研究しており、統計数理研究所との共同研究は不可欠と言う。

 事例紹介3 片岡龍峰(国立極地研究所准教授)「オーロラと人間社会の過去・現在・未来」。『オーロラ!』 (岩波科学ライブラリー、2015年)、『宇宙災害-太陽と共に生きるということ』 (DOJIN選書 2016年) 等を基盤として、オーロラ研究と古記録、『明月記』等の文学を結合して研究を進めている。100年~1000年単位で起きる大規模オーロラと磁気嵐を調べる楽しさはもとより、今後のオーロラ災害(誘導電流による停電等)への対処にも役立つ、と結ぶ。

 パネルディスカッションは、藤井良一(情報・システム研究機構機構長)と上掲3名の事例報告者の計4名、司会は佐藤洋一郎(人間文化研究機構理事)。司会の巧みな誘導で、パネラーの幼少期の経験がどう現在の問題発展につながったかも聞けた。異分野の共同研究に関心を持つ人はまだ少ないと若手が発言すると、藤井機構長が未来志向のプログラムを提案してほしいと述べる。

 5時過ぎまで「知の弾丸を楽しく浴び」、豊かな気持ちで会場を後にした。基調講演、3つの事例報告、パネルディスカッションと、すべてが定刻に始まり定刻に終わった。組織的に動く登壇者と裏方に驚かされる。なお各位の報告に関する主要項目や図、関係文献等、短いペーパーがあれば、さらに有難い。

 このシンポジウムの次の企画と新人の登場を心より期待したい。
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公立大学協会総会(平成28年度)

 2016(平成28)年5月24日(火曜)、東京の学士会館で公立大学協会(以下、公大協)の定時総会が開かれた。公大協は戦後1949年に発足した大学団体で、現在、すべての公立大学学長を会員とする一般社団法人である。会員数は、今年度2校増えて88大学(長)となり、国立大学(法人)の86校を凌駕した。

 清原正義会長(兵庫県立大学長)は開会挨拶の冒頭で熊本地震の犠牲者への追悼を表し、5年前の東日本大震災以来、学生と協働する公大協の復興支援を進めるとした上で、「公立大学の質をいっそう高めることにより、国立・公立・私立からなる日本の高等教育及び世界の高等教育に貢献したい」と述べた。
 
 ついで常盤豊文部科学省高等教育局長、澤田史朗総務省自治財政局財務調査課長、黒岩祐治全国公立大学設置団体協議会会長(神奈川県知事、代読)から挨拶があり、昨年度の活動成果等を紹介、また国会の議論で高等教育に関する質問が多く出たのは知的基盤社会に向けての期待が大きいためとした。
 
 休憩後、2つの講演があった。
 
 塩見みづ枝文部科学省高等教育局大学振興課長「公立大学を巡る高等教育政策について」は、その冒頭でAI(人工知能)の発達により将来の職業(雇用)の形が大幅に変わる(多くの職業がなくなっていく)とする諸分析を引用し、大学教育の重点をどこに置くべきか、文科省の設置する諸委員会の答申と審議事項等を紹介した。主な3点を抄録する。

 第1が大学で身に着けるべき「学力の3要素」である。①既存の知識・技能の習得にとどまらず(その多くはAIで代替される)、②それを活用して課題を発見、解決に向けて探求し、その成果を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力、③主体性を持って多様な人々と協働する学習態度とされる。これは理想型であり、その実現に教職員と学生には時間が必要であろう。

 第2に、この大学教育の大転換を段階的に進めるため、各大学において3つのポリシーを策定し学生に明示することを義務づけたこと。カタカナ表記が気になるが、①アドミッション・ポリシー(入学者受入方針)、②カリキュラム・ポリシー(カリキュラムの編成・実施の方針)、③ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)である。これは学校教育法施行規則165条に追加され、一 卒業の認定に関する方針、二 教育課程の編成及び実施に関する方針、三 入学者の受入れに関する方針、とある(順番は逆)が、これの方が分かりやすい。

 第3が高大接続システム改革。新しい知的基盤社会を担う若者の教育は初等中等教育の段階から始める必要があるとし、高大接続(高校と大学の接続)が審議されている。具体的方策として、高等学校教育改革、大学教育改革、大学入学者選抜改革(入試制度改革)の3つ、その推進本部を率いるのが安西祐一郎さんで、当ブログ「ありがたき耳学問」(2016年5月24日)で触れた。

 講演の2つ目は、3年前に公大協に設置された「公立大学政策・評価研究センター」に関する浅田尚紀センター長による事業総括と提案である。事業総括は(1)公立大学の質保証をめぐる諸課題について外部評価の枠組みで行う大学評価ワークショップを計5大学で実施、(2)「先導的大学改革推進委託事業(文科省)」による調査研究の実施、(3)公立大学の質保証を担う教職員の「連携研究員」制度を創設、58大学の参加を得たとした上で、本年度から「政策」を委員会事項として切り離し、「改革支援」と「評価研究」の2つを行う「公立大学改革支援・評価研究センター」に改める提案を行った(のち事業計画として承認)。
 
 休憩をはさみ、新任学長13名と新任事務局長35名の紹介があった。学長任期は最長で6年、88大学長のうち13名が新任というのは平均値である。一方、事務局長は任期が短いため、新任が35名となるが、これも例年通りと言える。
 
 定時総会のため審議事項があり、重要なものとして次の5つが挙げられた。第1号:新会員入会、第2号:平成27年度事業報告及び決算、第3号:定款の改正、第4号:平成28年度事業計画及び収支予算、第5号:理事の選任。

 第1号の今年度新会員は、福知山公立大学(井口和起学長)と公立大学法人 山陽小野田市立 山口東京理科大学(森田廣学長)の2大学、拍手で迎えられた。これで公立大学は88校となった。
 第2号の「平成27年度 事業報告書」はA4×102ページにのぼる精緻かつ明快な編集で、(1)重点事業報告(8項目)、(2)実施事業一覧(日付順)、(3)実施事業等の結果(10項目)、(4)意見表明・要望活動等、(5)名簿等の事業報告と財務諸表による会計報告からなる。

 公大協活動を示す(1)と(3)、公大協の対外的活動を示す(4)、それらの活動を担う公立大学一覧、公大協の役員構成、第1~第3委員会等の構成が有機的に組み合わされており、事務局の努力の成果を示す。これにより次年度へ向けての事業計画(第4号)はいっそう明確になる。

 8項目の重点事業報告のうち、次の3つを特記したい。(1)「公立大学の力を活かした地域活性化研究会」(総務省、文部科学省、全国公立大学設置団体協議会、公大協)が2カ年にわたり行われ、平成28年1月に報告書がまとめられたこと、(2)東日本大震災の翌年に発足した学生ネットワークはLINKtoposとして発展、公大協として継続して支援にあたったこと、(3)平成23年度から始まった公大協主催「高等教育改革フォーラム」の今年のテーマ「公立大学の教育改革~先進的事例の報告」が好評を得たこと。

 本年度に入り、4月に熊本地震に対応する連絡チーム(近藤副会長が主査)を設置したこと、また5月に国公立大学振興議員連盟(河村建夫会長)が発足し、近藤倫明副会長が説明を行ったことの報告があった。

 審議事項の第3号:定款の改正は、一般社団法人公立大学協会の定款のうち①第10条を改正して理事数を13名から15名に増やし、②第11条を改正しての学長以外の理事を置くことを可能とし、③第41条を改正して業務執行理事を運営会議に加えることの3点である。主に下記「事業計画」の(1)に当たる。

 審議事項第4号「事業計画」では、次の3つを基本方針として掲げた。(1)公立大学政策の確立を目指して関係府省等に対し積極的に働きかける。(2)「公立大学改革支援・評価研究センター」により会員校の改革、質保証等を支援する。(3)公立大学協会の組織強化を図る。

 これら審議事項の5点がすべて承認された後、(定款上の規定に従い)総会を中断して理事会を開催、新たに業務執行に当たる専務理事に奥野武俊さん(前公大協会長、前大阪府立大学長)を選定、再開した総会で紹介された。

公大協学長会議(平成27年度第2回)

 2016(平成28)年1月28日(木曜)、1時半~5時、公立大学学長会議(平成27年度第2回)が東京神田錦町の学士会館で開催された。会員校86のうち参加した学長は67名、ほかに理事長、副学長、事務局長等、さらに来賓、公大協の相談役・事務局員を含めて総勢で117名である。
 前回の学長会議は、昨年秋に名古屋市立大学を会場として開かれ、学長らによる貴重な報告と会費改定等を含む議題の審議・採択がなされた(本ブログ2015年10月15日号の「学長会議(平成27年度第1回)」)が、今回の第2回は公立大学に関する行政説明が総務省と文部科学省から計6本、いずれもホットなニュースであり、両省の公大協に寄せる期待の大きさを示した。ついで2本の公大協会務報告、すなわち(ア)公立大学の力を活かした地域活性化研究会及び(イ)公立大学協会の組織及び事業の在り方検討会の報告がなされた。
 まず6本の行政説明のうち、(1)澤田史朗(総務省財務調査課長)「地方大学を活用した雇用創出・若者定着等について」と(2)徳田正一(文科省大臣官房審議官)「<女性の職業生活における活躍の推進に関する法律>に基づく<事業主行動計画>の策定に向けて」の2つを取り上げたい。
 (1)の澤田報告は、標題の課題について①人口減少克服に向けて解決すべき現状の課題、②自律的・積極的な社会創生に向けて地方が取り組むべき対策の方向性、③地方公共団体と大学等との連携による雇用創出・若者定着に向けた取組の促進を述べ、ついで地方独立行政法人法の改正案(現通常国会へ提案)と後述の公大協会務報告にもある「公立大学の力を活かした地域活性化研究会」(座長は辻琢也一橋大学教授)について報告した。
 2003年、「地方独立行政法人法」のなかの第7章「公立大学法人に関する特例」に大学としての特性をどのように盛り込むかを巡って、文科省、総務省、公立大学設置団体協議会(公設協)、公立大学協会(公大協)の四者で真剣な議論が交わされ、現行の法律が制定された(『地域とともにつくる公立大学-公立大学協会創立60周年記念誌』 2010年)。その経験から、公大協にとって大切なのは、これら四者間の絶えざる協議を進めることに他ならないとの教訓を得た。
 公立大学は地方自治体が設置する大学であり、2003年7月に「地方独立行政法人法」(総務省主管)が施行されてからは、その第7章「公立大学法人に関する特例」に基づき公立大学法人への移行が可能となったが、それは各設置自治体の判断によるため、移行時期はまちまちである。
 また公立大学に対する国費は総務省所管の地方交付税交付金(単位費用は学部等により異なる)として支出される。これは設置自治体に対して支出され、そのうち何%がその自治体の公立大学へ来るかは自治体ごとに異なる。
 総務省により現通常国会へ提出された地方独立行政法人法の改正案は、国立大学法人のスキームに即したもので、①公立大学法人による出資、②公立大学法人が行う長期借入、③公立大学法人の余裕金の運用、④公立学校による附属学校の設置の4つである。ここでも四者協議とその連携が生きている。
 (2)徳田正一報告は喫緊の課題であるにもかかわらず大学では意外に関心が深くなかったものである。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の制定に基づき、大学を含む各事業主がその<行動計画>を策定する問題である。女性活躍推進法が昨年夏に成立、11月に策定指針が制定され、各事業主の行動計画策定の期限が本年度末まで、つまりあと2か月しか残されていない。各公立大学がそれぞれ事業主として急ぎ行動計画を策定するよう督促された。
 さて文科省・総務省・公設協・公大協の四者協議はしばらく開催の機会がなかったが、政府の地域活性化政策の一環として、2年前に「公立大学の力を活かした地域活性化研究会」が発足、その平成27年度(最終年)の報告書ができあがった(本編35ページ、資料編81ページ)。
 委員は総勢9名(途中交代を含む)で、公大協から清原正義会長と近藤倫明副会長、総務省から前掲の澤田史朗課長(同職の原邦彰の後任)、文科省から塩見みづ枝大学振興課長、設置団体から川治勝彦北海道総務部法人局大学法人室長)、山口県総務部長である。また君塚剛(文科省大学振興課課長補佐)、末永正則(山口県総務部学事文書課主査)、中田晃(公大協事務局長)、仁井田興史(総務省財務調査課課長補佐)の4名からなるワーキング・グループを設置。
 平成26年度の中間とりまとめでは、公立大学を活かした地域活性化の取組のなかに地域課題の解決に資するものがあるものの、定量的な効果は十分に示されていないとし、平成27年度は①公立大学法人の評価のあり方及び②職員育成の2点に焦点を当て、一定の成果を得たと報告書にある。
 四者協議の意義について、公大協委員の近藤副会長が包括的な報告を行い、今後の公大協活動においてもいっそう重要となるので、何らかの形で継続したいと総括した。
 2つ目の会務報告(イ)公立大学協会の組織及び事業の在り方検討会は、2回の委員会で次の3点を協議した。昨年秋の学長会議における臨時総会で採択された会費改定を、制度面で補強するための一連の措置である。
① <役員体制の整備>すなわち「公立大学協会に、必要に応じて学長以外の役員を置き、業務執行理事とすることができるよう定款変更を行う」。
② <事務局体制の強化>のため、当面は「平成27年度末までに1名の採用を目途に募集を開始する。募集方法として会員校や関係者から推薦公募方式をとり、能力だけでなく公立大学改革に情熱のある人材の獲得を目指す」。
③ <公立大学政策・評価研究センターの今後の活用>では、平成25年に設立したセンターの3年間の実績・評価を行い、これを踏まえ、政策研究の推進、大学改革・質保証支援の展開の2点を掲げ、平成28年度は「ピア支援プログラム」(仮称)に着手する。
 うち①の定款変更は、来たる平成28年度5月総会において審議・承認を予定していると清原会長が締めくくり、第2回学長会議は定刻通り終了した。 

学長会議(平成27年度第1回)

 今年度の公立大学協会(以下、公大協)の(第1回)学長会議が、2015(平成27)年10月12日(体育の日)、開学65周年を迎える名古屋市立大学の桜山キャンパスで開かれた。地下鉄桜通線の桜山駅下車、すぐ市大病院へつづく道に出ると、立ち並ぶ「開学65周年」の臙脂色(えんじいろ)の幟旗が目に入る。
 公立・国立・私立の大学が抱えている課題には、教育・研究・地域(社会)貢献という大学の共通面(教育基本法)と同時に、設置形態・設置目的・財政問題等で多くの相違がある。また公立・国立・私立の大学は、それぞれ学長を中心とした大学団体を持つが、その活動にもそれぞれ個性がある。
 今年の公大協学長会議は、まず11:00~13:30、「学長・学生合同セッション」で幕を開けた。進行役の森本速男兵庫県立大学教授(公大協第1委員会の「公立大学の学生交流に関するワーキンググループ主査」)のもと、①3日間にわたって開かれた学生大会(LINK topos)の開催報告(兵庫県立大学工学部4年の井上幹太委員長)、②3例の成果報告(13アクションプランから)、③学生ネットワーク実績報告が行われた。
 井上委員長は、学生大会(LINK topos)の特性を、きわめて簡潔に、ア)心の変化、すなわち交流することで生まれる「気づき」、イ)出会い、新しい仲間づくり、と紹介。今年の参加学生は94名である。
 ②成果報告は「未来ガエル」、「ネイチャー」、「地域……創造」の3例で、復興支援から各地の地域防災、人口減に対応する「地域間の交換留学」、「地域の<明るい未来>を創造する」等へと拡がっていることが実感できた。
 ついで学長と学生が同じテーブルにつくランチ交流会。隣席の背の高い学生(静岡県立大学1年の齋田祐作君)は、「6年間バスケをしましたが、今は何もしていません」と言う。私が「部活でスポーツをやった者こそ、退部してからも運動をつづけ、生涯スポーツの範となることが大切」と伝えると、「今日から始めます」と頼もしい返事。
 ホールの各所では壁面ポスターをめぐって制作した学生と話が弾んだ。
 この「学長と学生の合同セッション」は、4年半前の東日本大震災とその復興支援活動(岩手銀河ネットに公立大学から学生ボランティアを派遣)を受けて学長会議の場で始まり、今回で4回目となる。大学を構成する大多数は学生(大学院生を含む)である。学生の活動と意志を正しく汲み取りたいとする、他の大学団体にはない、公大協の特色の1つである。
 ついで13:30~16:00の全体会議。清原正義公大協会長(兵庫県立大学長)の挨拶、新開輝夫名古屋市副市長の開催自治体挨拶、及び郡健二郎副会長(名古屋市立大学長)の開催校挨拶につづいて、パネルディスカッション「新たな大学改革の展開と公立大学のビジョン」が行われ、大学改革の実践や最新の政策動向を共有しつつ、公立大学のビジョンについて議論を行った。
 パネリストは、お招きした山本健慈国立大学協会専務理事(前和歌山大学長)と塩見みづ枝文部科学省大学振興課長、公大協から鈴木典比古国際教養大学長(中央教育審議会大学教育部会長)と郡健二郎名古屋市立大学長の計4名が、近藤倫明公大協副会長(北九州市立大学長)の司会のもと、プレゼンテーションを行った。うち公立大学長による2つの報告を取り上げたい。
 鈴木典比古「大学政策と公立大学の教育改革-高大接続システム改革をめぐって-」は、中央教育審議会高大接続システム改革会議の「中間まとめ」の内容を紹介、この改革の目的を「新たな時代に向けてその時代を生きる子供たちに<学力の3要素>を着実に身につけさせる」とし、(1)十分な知識・技能、(2)答えのない問題に自ら解を見出していく思考力、判断力、表現力、(3)主体性をもって多様な人々と協働する能力、の3つを挙げる。
 この<学力の3要素>は、知識受信型とは異なり、アクティブ・ラーニングの真骨頂を示している。これまでの教育方針と大きく違うため、受験制度等の各論の具体化に合意を得るには相当の時間を要する。教職員・学生をふくめて各大学において、多方面からの議論を進め、大学教育に生かすことが先決ではないか。
 郡健二郎「公立大学には4人の母がいる~本学のささやかな改革紹介と提言~」は、まず総論である「1 母からの愛に飢えている公立大学」で文科省、設置団体(自治体)、総務省、厚労省を4人の母に譬え、①心の支え、②信頼関係、③金銭的支援、④投資の各方面の諸課題を提出し、本論の「2 名古屋市立大学の現状と課題」、「3 名古屋市立大学のささやかな改革」、「4 母を愛し、もっと愛されるために」と展開する。
 鋭い現状分析で鮮明に課題を抽出し、改革へ結びつける。例えば4キャンパスに分散する「学部あって大学なし」(6学部・7研究科)の現状、法人化から9年の閉塞感(予算削減、教職員定員削減等)の析出等を述べたのち、3の「ささやかな改革」の項で、学長主導により大学の「大学憲章」・未来プランと名古屋市(設立団体)の基本構想・総合計画をすり合わせ、運営費交付金の増額、市からの長期借入金と病院自己収入による医師・看護師の増員、大型研究費獲得、全学による教養教育の確立等と進め、今年の開学65周年に結実させた。
 「ラッキーだった」「ささやかな改革」と言うが、どれをとっても画期的な改革であり、その発想と実践に感銘を受けた。それにとどまらず、この実績を踏まえ、3人の母(文科省・総務省・厚労省)との新たな連携をも提案している。
 休憩後、16:15~17:00、臨時総会が開かれ(議長は規程により会長)、執行部提案「公立大学協会の組織強化について」が圧倒的多数で承認された。重要事項の3分の2、最重要事項の4分の3を超える87%の賛成である。
 最後に「学長声明 公立大学は地域の未来を創造します」(案)を承認した。公大協が対外的にこの種の見解を表明するのは久しぶりであり(『地域とともにつくる公立大学-公立大学協会60周年記念誌』2010年刊の201ページ~「公立大学協会見解」を参照)、これがルネサンスの烽火となることを期待したい。

大学評価の現在

 3月6日(金曜)の午後、公立大学協会(以下、公大協)主催の高等教育改革フォーラム「地域に根差した大学を活かす公立大学法人評価の多様な取組み」が開かれ、110余名が参加、基調講演と報告があり、それを受けたパネルディスカッションでも活発な意見交換がなされた。
 今年度、公大協は文部科学省の先導的大学改革推進委託事業「公立大学法人評価に関する調査研究」を受託、協会内に同名の有識者会議を設置した。これにより公立大学法人を設立する56の自治体(設立団体)、法人評価委員会、公立大学法人の3者に対してアンケート調査を実施、うち8団体には訪問調査を行った(なお法人化していない公立大学が18校ある)。その中間報告を踏まえたフォーラムである。
 公立大学協会の木苗直秀会長、文部科学省の塩見みづ枝大学振興課長の挨拶についで、北原和夫教授(東京理科大学大学院科学教育研究科)の基調講演「評価の多元性が育む大学の未来」があった。北原さんは、日本学術会議「大学教育の分野別質保証の在り方」委員長(2008~2010年度)、文科省先導的大学改革推進委託事業「大学における教育研究活動の評価に関する調査研究」研究代表(2011~2012年度)を歴任、その経験と成果を踏まえた講演である。
 「大学評価」という言葉の持つ意味は、大きく3つに分けられよう。①公立大学法人評価(地方独立法人法第79条に基づく)、②認証評価(学校教育法第109条2項に基づく)、③研究論文数や規模等の特定指標に基づく大学ランキング(我が国では法的根拠なし)。このうち①が当フォーラムの主な主題である。
 経営学の1手法を大学評価に導入したPDCA(Plan, Do, Check and Action)は、計画・実施・評価・改善を意味するが、このPDCAを意識的に行い、大学の質を高めるのが評価の狙いである。すなわち大学が自己点検評価(P+D+c)を行い、それを学外の法人評価委員会が評価(C)、結果を大学にフィードバックして次の改善に結びつける(A)というサイクルを動かす。
 北原さんは、大学の「教育研究活動の評価」を中心として、次の点を強調した。(1)大学の自律的な質保証には、分野別教育課程を編成する「参照基準」が要るとして日本学術会議で審議を行い(2008年~現在)、経営学に始まり心理学まで18分野の策定を終え、あと数分野を残す段階まできたこと。(2)ここで見えてきたことは、各分野の学びには「芯」と「骨組み」があり、それぞれアイデンティティーがあること。(3)大学は①知識の継承(=教育)、②知識の創出(=研究)、③知識の公共化という3つの普遍的使命をもち、パブリックマネジメントとの関連で言えば、大学評価は目標設定型の管理手法(経営の効率化)にはなじまないこと、また大学は社会のあり方に規定される存在であるが、同時に新しい社会を創出する知的源泉でもあること。
 つづいて佐々木民夫(有識者会議主査、岩手県立大学高等教育センター長)「公立大学法人評価に関する調査研究について(中間報告)」。主な論点は、(1)公立大学法人評価については、各設立団体の評価委員会が、不断の改革とステークホルダーに対する説明責任を果たすべく取り組んできた、(2)今年度の文部科学省委託調査(上掲)を通じ、56法人評価委員会の様々な方式や工夫の実態が初めて明らかになった、(3)その収集・分析を、各設立団体及び公立大学法人にフィードバックし、今後の法人評価の効率化、実質化に反映させたい、と述べる。
 休憩後、以下の3つの報告があり、つづけて佐々木民夫さんの司会の下、北原さんを含めた4氏のパネルディスカッションがあった。
 近藤倫明(公立大学法人北九州市立大学長)「情報管理システム構築等による評価実質化の試み」は、法人評価(C)をいかに活かすか(A)、そのICT化によるデータベース作成の実際を述べた。
 江里健輔(公立大学法人山口県立大学理事長)「公立大学法人山口県立大学における法人評価の取組」は、理事長・学長別置型の理事長として法人評価を受ける立場から発言。進まないのが「教員の人事評価」と語る。
 吉武博通(東京都地方独立行政法人評価委員会公立大学分科会長)「公立大学法人評価の実質化に向けて」は、①法人評価の目的・意義を3者(設立団体、法人評価委員会、公立大学法人)で共有し、②施策の羅列から構造化へと進め、③PDCA の成果(=改善に向かっているか=内部質保証)を明らかにする評価方法の工夫について述べた。
 これらの詳細は公大協ホームページに掲載されている。
 その後のパネルディスカッションを含め、有意義な意見を聴きつつ、国立大学法人の動向を伝える「国立大学長に自由予算枠 交付金配分に成果主義」(日本経済新聞3月1日)が念頭を離れなかった。
 来年度(2015年度)、国立大学長が自由に使える予算枠を新設、学長のリーダーシップを強化する。2016年度からは(文部科学省が)国立大学法人を①「世界最高水準の教育研究」、②「特定の分野で世界的な教育研究」、③「地域活性化の中核」の3グループに分け、グループごとに異なる評価手法を用いて成果を判断するというが、グループ分けの基準も、グループごとに異なる評価手法についても示されていない。さらに2018年度からは交付金の配分に成果主義を導入するという。
 文部科学省が約3年前の2012(平成24)年7月にまとめた「大学改革実行プラン」について、「(052)官製大学改革実行プラン(速報)」(『都留文科大学学長ブログ』2012年6月18日号)で、予算締付けを主因とする官製改革では大学の自律性が危惧されると述べた。それが来年度から、いよいよ現実となる。公立大学も大きな影響を受けかねない。大学という知的基盤社会の源泉を枯渇させてはならない。
プロフィール

Author:加藤 祐三
日本の歴史学者

横浜 市立大学名誉教授

国指定名勝・三渓園(横浜)
園長

・前都留文科大学長
(2010~2014)

・元横浜市立大学長
(1998~2002)

主な著書
「イギリスとアジア」
         (1980年)
「黒船前後の世界」(1985年)
「東アジアの近代」(1985年)
「地球文明の場へ」(1992年)
「幕末外交と開国」(2012年)
蒋豊訳「黒船異変」(2014年)
蒋豊訳「東亜近代史」
         (2015年)

 など

専門
・近代アジア史
・文明史

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